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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】制御装置および制御システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20241106BHJP
   G05B 11/32 20060101ALI20241106BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G05B11/36 505A
G05B11/32 F
G05B23/02 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021006569
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110870
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 穂
(72)【発明者】
【氏名】森重 智年
(72)【発明者】
【氏名】矢野 康英
(72)【発明者】
【氏名】足立 智彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 聖也
(72)【発明者】
【氏名】脇谷 伸
(72)【発明者】
【氏名】和田 信敬
(72)【発明者】
【氏名】山本 透
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-259505(JP,A)
【文献】特開2015-48975(JP,A)
【文献】特開2011-210215(JP,A)
【文献】特開平4-313195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 11/36
G05B 11/32
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のユニットを備えるプラントを制御するための制御装置であって、
前記複数のユニットの各々に対応して設定されるモデルに基づいて、各ユニットが実現すべき特性の目標値を生成するモデル制御部と、
前記複数のユニットのうち、ユニット固有の性能に変化が生じたユニットを特定するユニット特定部と、
前記ユニット特定部によって特定されたユニットについて、前記目標値を補正する目標値補正部と、を備え
前記目標値補正部は、前記ユニット特定部によって特定されたユニットに対応した前記モデルを修正することで、前記目標値を補正し、
前記複数のユニットの各々に対応した複数のフィードバック部をさらに備え、
前記複数のフィードバック部は、各フィードバック部に対応したユニットからの出力信号に基づいて、該ユニットが実際に実現した特性と前記目標値との差分を補償するように前記モデル制御部の出力信号を補正するフィードバック信号を生成し、
前記フィードバック部は、前記ユニットからの出力信号に基づいて、前記フィードバック信号と、該フィードバック信号の増減に寄与する係数を示すFBパラメータと、のうちのいずれか一方を示すFB特徴量を調整することで前記出力信号を補正する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された制御装置において、
前記複数のユニットの各々に対応して設けられ、各ユニットが実現する特性を推定する複数の特性推定部と、
前記複数の特性推定部の各々によって推定された特性に基づいて、前記プラントのプラント出力を推定するプラント挙動推定部と、を備え、
前記目標値補正部は、前記プラント出力が所望のプラント出力を実現するように前記目標値を補正する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された制御装置において、
前記複数のユニットは、所定のプラント出力の増減に寄与する第1ユニットと、該第1ユニットと共通のプラント出力の増減に寄与する第2ユニットと、を含み、
前記モデル制御部は、前記第1および第2ユニットのうち一方の性能が変化したことが前記ユニット特定部によって判定された場合、その変化分を補償するように、前記第1および第2ユニットのうちの他方に係る前記目標値を増減させる
ことを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項に記載された制御装置において、
前記フィードバック部は、それぞれ、前記FB特徴量を前記ユニット特定部に入力し、
前記ユニット特定部は、各ユニットにおける前記FB特徴量の変化に基づいて、前記ユニット固有の性能の変化を判定し、
前記目標値補正部は、各ユニットにおける前記FB特徴量の変化に基づいて、前記モデルを修正する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項5】
請求項に記載された制御装置において、
前記目標値補正部は、
前記FB特徴量の移動平均が所定閾値未満の場合には、該FB特徴量の調整を介して前記目標値を修正し、
前記FB特徴量の移動平均が前記所定値以上の場合には、前記モデルの修正を介して前記目標値を修正する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項6】
請求項またはに記載された制御装置において、
前記プラントの運用環境を示す計測信号を検出する計測部を備え、
前記ユニット特定部は、前記計測部の計測信号と、前記FB特徴量と、に基づいて、前記ユニット固有の性能の変化を判定する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項7】
請求項に記載された制御装置において、
前記プラントの運用環境と、前記FB特徴量と、前記モデルを特徴付けるパラメータであるFFパラメータと、を対応付けて記憶するマップ生成部と、を備え、
前記目標値補正部は、前記計測部の検出信号と、前記FB特徴量と、に基づいて、該FB特徴量に対応した前記FFパラメータを照合する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項8】
請求項に記載された制御装置において、
前記マップ生成部は、前記プラントの運用環境と、前記FB特徴量と、前記FFパラメータと、の関係を前記プラントの運転中にリアルタイムで更新する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項に記載された制御装置において、
前記ユニット特定部によって特定されたユニットが複数にわたる場合、前記目標値の補正が反映されるタイミングは、各ユニット間で略同じタイミングになるように調整される
ことを特徴とする制御装置。
【請求項10】
請求項1からのいずれか1項に記載された制御装置において、
前記プラントは自動車であり、
前記複数のユニットには、前記自動車を駆動するためのトルクを出力するエンジンおよびモータ、前記自動車を制動するためのブレーキユニット、並びに、前記自動車を操舵するためのステアリングシステムのうちの1つ以上が含まれる
ことを特徴とする制御装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載された制御装置によって制御される複数のプラントからなる制御システムであって、
前記複数のプラントは、それぞれ、前記複数のユニットを備え、
前記複数のプラントのうち、いずれか1つのプラントにおける前記ユニット特定部の特定結果を、他のプラントの間で共有する
ことを特徴とする制御システム。
【請求項12】
請求項11に記載された制御システムにおいて、
前記制御装置は、その少なくとも一部が外部サーバに実装され、
前記複数のプラントは、それぞれ、前記外部サーバを介して相互に通信する
ことを特徴とする制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のユニットを備えるプラントを制御するための制御装置、および、複数のプラントからなる制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば非特許文献1には、いわゆるモデルベース開発(MBD:Model Based Development)にデータベース駆動型(DD:Database-Driven)制御系設計法を組み合わせた開発手法が開示されている。具体的に、前記非特許文献1には、システムが所望の性能を達成するための設計手法の一例として、モデル化されたシステムの可調整パラメータをデータベース機構によって調整するような手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】山本透:「制御工学的観点に基づくスマートMBD(S-MBD)手法-新しい開発プラットフォームの提案-」、電気学会論文誌C、電子・情報・システム部門 制御研究会、2019年6月29日、CT19099、pp.25-26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、前記非特許文献1に記載されているようなモデルに基づいた設計手法をシステム制御一般に適用し、自動車のハイブリッドシステム、ステアリングシステム等、複数のユニット(例えばエンジンおよびモータ)を備えるシステムを制御対象(プラント)として運用することを考えた。
【0005】
こうしたプラントは、長期にわたって運用していくにしたがって、経年劣化等に起因してその性能が変化していくものと考えられる。本願発明者らは、プラントの性能を一定に保つべく、そのプラントに対応したモデルの構成、または、そのモデルの出力値を適宜修正することで、変化した性能を自発的に補償させるような仕組みを模索した。その際、本願発明者らは、各プラントが複数のユニットを備えることに着目し、本開示を想到するに至った。
【0006】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数のユニットを備えるプラントを制御するための制御装置において、プラントの性能を一定に保つことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
具体的に、本開示の第1の態様は、複数のユニットを備えるプラントを制御するための制御装置に係る。この制御装置は、前記複数のユニットの各々に対応して設定されるモデルに基づいて、各ユニットが実現すべき特性の目標値を生成するモデル制御部と、前記複数のユニットのうち、ユニット固有の性能に変化が生じたユニットを特定するユニット特定部と、前記ユニット特定部によって特定されたユニットについて、前記目標値を補正する目標値補正部と、を備える。
【0008】
また、前記第1の態様によれば、前記目標値補正部は、前記ユニット特定部によって特定されたユニットに対応した前記モデルを修正することで、前記目標値を補正する。
【0009】
また、前記第1の態様によれば、前記制御装置は、前記複数のユニットの各々に対応した複数のフィードバック部を備え、前記複数のフィードバック部は、各フィードバック部に対応したユニットからの出力信号に基づいて、該ユニットが実際に実現した特性と前記目標値との差分を補償するように前記モデル制御部の出力信号を補正するフィードバック信号を生成し、前記フィードバック部は、前記ユニットからの出力信号に基づいて、前記フィードバック信号と、該フィードバック信号の増減に寄与する係数を示すFBパラメータと、のうちのいずれか一方を示すFB特徴量を調整することで前記出力信号を補正する。
【0010】
前記第1の態様によれば、目標値補正部は、複数のユニットのうち、ユニット特定部が特定したユニット、つまり、ユニット固有の性能に変化が生じたと判定されたユニットについて、目標値の補正を実行する。これにより、プラントの性能が自発的に補償され、これを一定に保つことができる。また、プラント単位での補償を行うのではなく、ユニット単位での補償を行うことで、他のユニットに係る制御態様の変更を可能な限り抑制しつつ、性能の補償を実現することができる。
【0011】
さらに、前記第1の態様によると、性能が変化したユニットに対応したモデルを修正することで、ユニットの性能変化を補償し、ひいてはプラントの性能を一定に保つ上で有利になる。
【0012】
さらに、前記第1の態様によると、モデルに基づいたフィードフォーワード制御と、フィードバック制御と、が組み合わされることになる。これにより、プラントの性能を一定に保つ上で有利になる。
【0013】
また、本開示の第2の態様によれば、前記制御装置は、前記複数のユニットの各々に対応して設けられ、各ユニットが実現する特性を推定する複数の特性推定部と、前記複数の特性推定部の各々によって推定された特性に基づいて、前記プラントのプラント出力を推定するプラント挙動推定部と、を備え、前記目標値補正部は、前記プラント出力が所望のプラント出力を実現するように前記目標値を補正する、としてもよい。
【0014】
ここで、「プラント出力」の語は、プラントとして自動車を用いた場合における車速等、プラントのアウトプット一般を指す。
【0015】
前記第2の態様によれば、目標値補正部は、ユニットが実現すべき特性の目標値を補正することで、この目標値を介して所望のプラント出力を実現する。このように、ユニット単位での補償を介してプラント出力を調整することで、他のユニットに係る制御態様の変更を抑制しつつ、プラント出力の調整を実現することができる。
【0016】
また、本開示の第3の態様によれば、前記複数のユニットは、所定のプラント出力の増減に寄与する第1ユニットと、該第1ユニットと共通のプラント出力の増減に寄与する第2ユニットと、を含み、前記モデル制御部は、前記第1および第2ユニットのうち一方の性能が変化したことが前記ユニット特定部によって判定された場合、その変化分を補償するように、前記第1および第2ユニットのうちの他方に係る前記目標値を増減させる、としてもよい。
【0017】
前記第3の態様によれば、例えば、第1ユニットの性能が不可逆的に大きく変化した場合において、他の第2ユニットに係る目標値も増減させることで、所望のプラント出力が実現可能となる。このように他のユニットが性能の変化を自発的にリカバリーすることで、プラントの性能を一定に保つ上で有利になる。
【0018】
また、本開示の第の態様によれば、前記フィードバック部は、それぞれ、前記FB特徴量を前記ユニット特定部に入力し、前記ユニット特定部は、各ユニットにおける前記FB特徴量の変化に基づいて、前記ユニット固有の性能の変化を判定し、前記目標値補正部は、各ユニットにおける前記FB特徴量の変化に基づいて、前記モデルを修正する、としてもよい。
【0019】
前記第の態様によれば、FB特徴量の変化に基づいて、モデルの修正が実行される。これにより、プラントの性能を一定に保つ上で有利になる。
【0020】
また、本開示の第の態様によれば、前記目標値補正部は、前記FB特徴量の移動平均が所定閾値未満の場合には、該FB特徴量の調整を介して前記目標値を修正し、前記FB特徴量の移動平均が前記所定値以上の場合には、前記モデルの修正を介して前記目標値を修正する、としてもよい。
【0021】
前記第の態様によれば、一時的な性能変化、または、不可逆的な性能変化のうち、その変化量が比較的小さいものについては、フィードバック制御によって目標値が修正される一方、不可逆的な性能変化のうち、その変化量が比較的大きいものについては、モデルの修正を介して目標値が修正される。このように、2通りの修正方法を使い分けることで、より柔軟な制御を実現し、ひいては、プラントの性能を一定に保つ上で有利になる。
【0022】
また、本開示の第の態様によれば、前記制御装置は、前記プラントの運用環境を示す計測信号を検出する計測部を備え、前記ユニット特定部は、前記計測部の計測信号と、前記FB特徴量と、に基づいて、前記ユニット固有の性能の変化を判定する、としてもよい。
【0023】
前記第の態様によれば、ユニットの性能変化と、プラントの運用環境とを関連付けた制御を実現することが可能となる。これにより、各ユニットの性能をより適切に補償することが可能となる。
【0024】
また、本開示の第の態様によれば、前記制御装置は、前記プラントの運用環境と、前記FB特徴量と、前記モデルを特徴付けるパラメータであるFFパラメータと、を対応付けて記憶するマップ生成部と、を備え、前記目標値補正部は、前記計測部の検出信号と、前記FB特徴量と、に基づいて、該FB特徴量に対応した前記FFパラメータを照合する、としてもよい。
【0025】
前記第の態様によれば、ユニットの性能変化と、プラントの運用環境と、モデルの修正に係る情報と、を関連付けた制御を実現することが可能となる。これにより、各ユニットの性能をより適切に補償することが可能となる。
【0026】
また、本開示の第の態様によれば、前記マップ生成部は、前記プラントの運用環境と、前記FB特徴量と、前記FFパラメータと、の関係を前記プラントの運転中にリアルタイムで更新する、としてもよい。
【0027】
前記第の態様によれば、ユニットの性能変化と、プラントの運用環境と、モデルの修正に係る情報と、を関連付けた知見が得られるようになる。このことは、プラントの自発的なアップデートに資する。
【0028】
また、本開示の第の態様によれば、前記ユニット特定部によって特定されたユニットが複数にわたる場合、前記目標値の補正が反映されるタイミングは、各ユニット間で略同じタイミングになるように調整される、としてもよい。
【0029】
前記第の態様によれば、目標値の補正を行うタイミングを可能な限り同時にすることで、意図しないプラント出力の発生を抑制し、ひいては、プラントの性能を一定に保つ上で有利になる。
【0030】
また、本開示の第10の態様によれば、前記プラントは自動車であり、前記複数のユニットには、前記自動車を駆動するためのトルクを出力するエンジンおよびモータ、前記自動車を制動するためのブレーキユニット、並びに、前記自動車を操舵するためのステアリングシステムのうちの1つ以上が含まれる、としてもよい。
【0031】
また、本開示の第11の態様は、前記制御装置によって制御される複数のプラントからなる制御システムに係る。この制御システムにおいて、前記複数のプラントは、それぞれ、前記複数のユニットを備え、前記複数のプラントのうち、いずれか1つのプラントにおける前記ユニット特定部の特定結果を、他のプラントの間で共有する、としてもよい。
【0032】
前記第11の態様によれば、ユニットの性能変化に係る情報を、プラント間で共有することが可能となる。このように、ユニット特定部によって得られた知見をプラント間で共有させることで、より自発的な制御を実現することが可能となる。
【0033】
また、本開示の第12の態様によれば、前記制御装置は、その少なくとも一部が外部サーバに実装され、前記複数のプラントは、それぞれ、前記外部サーバを介して相互に通信する、としてもよい。
【0034】
前記第12の態様によれば、ユニットの性能変化に係る情報を、外部サーバを介してプラント間で送受することが可能となる。このように、ユニット特定部によって得られた知見をプラント間で共有させることで、より自発的な制御を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように、本開示によれば、複数のユニットを備えるプラントを制御するための制御装置において、プラントの性能を一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、制御システムの全体構成を例示する図である。
図2図2は、制御システムにおける各プラントの構成を例示する図である。
図3図3は、各プラントの制御装置の構成を例示する図である。
図4図4は、制御装置によるプラントの制御について説明するための図である。
図5図5は、特性推定部によるユニット特性の推定について説明するための図である。
図6図6は、フィードバック部によるユニット特性のフィードバック制御について説明するための図である。
図7図7は、制御装置による制御の要部を例示するフローチャートである。
図8図8は、目標値の修正手順の要部を例示するフローチャートである。
図9図9は、プラントの制御に際して行われる機能分配について説明するための図である。
図10図10は、ユニット性能の経時変化について説明する図である。
図11図11は、外部サーバとの連携について説明するための図である。
図12図12は、制御システムにおけるプラント間の連携について説明するための図である。
図13図13は、プラントと工場との連携について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明は例示である。
【0038】
すなわち、本明細書では、複数のユニットを備えるプラントの一例として、エンジン、モータ等を備える自動車について説明するが、ここに開示する技術は、自動車への適用には限定されない。本開示は、複数のユニットを備える機械系システム一般に適用することができる。
【0039】
特に、本明細書では、プラントが備えるユニットとして、自動車を運転するためのエンジン、モータ、ブレーキおよびステアリングユニットを例に挙げて説明するが、本開示に係るユニットには、プラントの運用に関連したユニット一般が含まれる。自動車のドライバー等、機械的なユニット以外の要素をユニットとみなすこともできる。
【0040】
また、本明細書においては、プラントの制御装置の一例として、自動車に搭載されるPCMについて説明するが、本開示に係る制御装置は、プラントに搭載されるモジュールには限定されない。本開示に係る制御装置には、外部サーバ等、プラントと有線または無線で接続可能な機器一般が含まれる。後述の変形例のように、制御装置の一部をPCMによって実現し、制御装置の他部を外部サーバによって実現することもできる。
【0041】
<全体構成>
図1は、制御システムSの全体構成を例示する図である。また、図2は、その制御システムSにおける各プラント(自動車C)の構成を例示する図である。図1に示すように、本実施形態に係る制御システムSは、複数(図例ではn台)の自動車C~Cからなる。複数の自動車C~Cは、それぞれ、本実施形態における「プラント」を例示している。以下、特定の自動車に限定しない場合は、単に「自動車C」とも記載する。
【0042】
複数の自動車C~Cは、外部サーバCsによって相互に接続されている。一自動車Cは、外部サーバCsを介して他の自動車Cとの間で電気通信を送受する。なお、外部サーバCsは必須ではない。外部サーバCsを介さずに自動車C間で通信させるように構成してもよい。
【0043】
図2に示すように、各自動車Cは、複数(図例ではN個)のユニット20~20を備えている。具体的に、各自動車Cは、エンジンからなる第1ユニット20と、モータからなる第2ユニット20と、ブレーキユニットからなる第3ユニット20と、ステアリングシステムからなる第Nユニット20と、その他、N-4個のユニット20-20N-1と、を備えている。エンジンからなる第1ユニット20と、モータからなる第2ユニット20は、それぞれ、自動車Cを駆動するためのトルクを出力する。ブレーキユニットからなる第3ユニット20は、自動車Cを制動する。ステアリングシステムからなる第Nユニット20は、自動車Cを操舵する。第1ユニット20~第Nユニット20は、それぞれ、本実施形態における「ユニット」を例示している。以下、特定のユニットに限定しない場合は、単に「ユニット20」とも記載する。これらのユニット20は、自動車Cのハード系を構成している。
【0044】
各ユニット20は、自動車Cの挙動を制御可能な要素から選ばれるようになっている。なお、ここでいう自動車Cの挙動には、自動車Cの動的挙動に関連した任意の指標が含まれる。
【0045】
一般的に、「プラントの挙動」は、PCM100によって制御される出力値、すなわちプラント出力全般を指す。後述のように、PCM100によってモデル予測制御が行われる場合、プラントの挙動は、所定の設定値軌道に追従するように制御されるプラント出力に相当する。以下、「プラントの挙動」および「自動車Cの挙動」を「プラント出力」ともいう。
【0046】
例えば、本実施形態における自動車Cの挙動には、自動車Cの前後速度、左右速度、前後加速度、左右加速度、ヨーレート等、自動車Cの動きを特徴付ける任意の物理量のうち、本開示に係るユニットに関連した物理量が含まれる。なお、本明細書における「前後」とは、自動車Cの推進方向および逆走方向に等しい。同様に、本明細書における「左右」とは、自動車Cの左右旋回方向に等しい。
【0047】
より詳細には、前述のように、自動車Cのエンジン、モータおよびブレーキユニットをユニットとみなした場合、自動車Cの挙動には、前後速度、前後加速度等、自動車Cの推進に関連した物理量が含めることができる。一方、ステアリングシステムをユニットに含めた場合、自動車Cの挙動には、ヨーレート等、自動車Cの操舵に関連した物理量を含めることができる。
【0048】
また、各ユニット20は、複数のサブユニットを有し得る。ここでいうサブユニットは、対応するユニット20の挙動を制御可能な要素から選ばれるようになっている。図2に示す例では、第1ユニット20は、エンジンの運転に関連するデバイスをサブユニットとして有している。具体的に、第1ユニット20は、サブユニットとして、スロットルバルブ201aと、EGRバルブ201bと、を有している。図示は省略するが、第2ユニット20は、モータの駆動に関連したデバイスとして、インバータ、DC/DCコンバータ等をサブユニットとして有し得る。本開示によれば、ユニット20の制御を介して、そのユニット20が有するサブユニットを間接的に制御することもできる。
【0049】
プラントとしての自動車Cを制御するための要素として、各自動車Cには、制御装置としてのPCM100が搭載されている。PCM100は、種々の演算を実行するためのCPU100aと、CPU100aが行う演算に必要なデータを少なくとも一時的に記憶するメモリ100bと、データを送受するための経路をなす入出力バス100cと、を備えている。PCM100は、前述した外部サーバCsと電気信号を送受可能に接続されている。言い換えると、自動車Cは、これを制御するためのPCM100を介して外部サーバCsと接続されるようになっている。
【0050】
また、制御装置としてのPCM100には、自動車Cの運転環境(運用環境)に関連した計測信号を検出するためのセンサが無線で接続されている。より詳細には、本実施形態に係るPCM100には、各ユニット20とは物理的に非接続とされたセンサが接続されるようになっている。つまり、本実施形態に係るセンサとしては、例えばクランク角センサおよび筒内圧センサのように、エンジン等のユニット20に対して物理的に直付けされるセンサに加えて、例えばGPSセンサのように、ユニット20の外部に取付可能なセンサ(いわゆる、外部センサ)を選択することができる。
【0051】
そうした外部センサは、自動車Cの速度および加速度のように、自動車Cの動的挙動に関連した情報というよりはむしろ、気圧、温度、標高等、自動車Cが配置された環境を特徴付ける情報(運転条件)に関連した計測信号を検出するようになっている。
【0052】
具体的に、本実施形態に係るPCM100には、プラントの運用環境を示す計測信号を検出する外部センサ(計測部)としての外気温センサSW1と、非外部センサとしての車速センサSW2と、が接続されている。これらのセンサSW1~SW2は、PCM100とともに自動車Cの制御系を構成している。
【0053】
PCM100にはまた、各種情報を表示するための表示装置30が有線または無線で接続されている。この表示装置30は、液晶ディスプレイ、有機EL等を用いて構成することができる。
【0054】
図3は、各プラント(自動車C)の制御装置(PCM100)の構成を例示する図である。また、図4は、制御装置(PCM100)によるプラント(自動車C)の制御について説明するための図である。図4は、図3に例示した各機能ブロック間の接続関係と、プラントおよびユニットの動的挙動(ダイナミクス)との関係を示している。以下、図3図4を参照しつつ、PCM100に実装された各機能について概略的に説明する。
【0055】
図3に示すように、本実施形態に係るPCM100は、第1特性推定部10~第N特性推定部10と、プラント挙動推定部11と、プラント挙動目標生成部12と、モデル制御部13と、第1フィードバック部14~第Nフィードバック部14と、を備えている。これらの機能ブロックは、所定のプログラム(例えば、事前にコーディングされたプログラム、または、インタプリタとして機能するように入力されたプログラム)によって実現されており、必要に応じてメモリ100bに読み出されるようになっている。このうち、第1特性推定部10~第N特性推定部10と、第1フィードバック部14~第Nフィードバック部14は、双方とも、ユニット20の数と同数になるように実装される。各機能ブロックに対応するプログラムは、プラント(自動車C)の運用開始後に自動または手動でアップデートしてもよい。
【0056】
以下、各機能ブロックによって実現される処理の基本概念について説明する。
【0057】
<基本概念>
前述した機能ブロックのうち、第1特性推定部10~第N特性推定部10は、各ユニット20固有の性能(以下、これを「ユニット性能」という)を判定するとともに、判定されたユニット性能に基づいて、第1ユニット20~第Nユニット20それぞれの特性(以下、これを「ユニット特性」という)を特徴付けるモデルを設定する。以下、「第1特性推定部10~第N特性推定部10」を「特性推定部10」と総称する場合がある。
【0058】
そして、第1特性推定部10~第N特性推定部10は、設定されたモデルに基づいて、各特性推定部に対応するユニット20が実現すべきユニット特性を推定する。第1特性推定部10~第N特性推定部10は、それぞれの推定結果をプラント挙動推定部11に入力する。以下、推定されたユニット特性を「推定特性」ともいう。
【0059】
具体的に、特性推定部10によって設定されるモデルは、ユニット性能に応じてユニット特性を出力するように構成される。ここでいう「ユニット特性」は、プラント出力の増減に寄与するような物理量を指す。言い換えると、本開示に係るユニット特性には、プラント出力の増減に寄与する特性一般が含まれる。
【0060】
例えば、ユニット20としてエンジン、モータおよびブレーキユニットを用いるとともに、プラント出力として自動車Cの前後加速度または前後速度を用いた場合、これらの設定に対応するユニット特性としては、例えば、エンジントルク、モータトルクおよびブレーキトルクを用いることができる。
【0061】
同様に、ユニット20としてステアリングユニットおよびブレーキユニットを用いるとともに、プラント出力として自動車Cのヨーレートを用いた場合、これらの設定に対応するユニット特性としては、例えば、ステアリングユニットにおけるステアリングラックのラック位置、およびブレーキトルクを用いることができる。
【0062】
本実施形態に係るプラントは、複数のユニット20を有するものである。そうした複数のユニット20には、所定のプラント出力の増減に寄与する第1ユニット20と、該第1ユニット20と共通のプラント出力の増減に寄与する第2ユニット20と、を含めることができる。前述の例でいえば、プラント出力を自動車Cの前後加速度または前後速度に設定した場合、第1および第2ユニット20,20は、それぞれ、エンジン、モータおよびブレーキユニットのうちの任意の組合わせに相当する。同様に、プラント出力を自動車Cのヨーレートに設定した場合、第1および第2ユニット20,20は、それぞれ、ステアリングユニットおよびブレーキユニットに相当する。
【0063】
そして、特性推定部10が判定するユニット性能とは、エンジントルクをはじめとするユニット特性の増減に寄与する性能、ひいてはそうした性能をパラメータ化してなる係数一般が含まれる。
【0064】
例えば、ユニット特性としてエンジントルクを用いた場合、そのユニット特性に対応するユニット性能としては、例えば、タイヤ半径、ギヤ比、車体重量、空気抵抗、勾配抵抗、ブレーキパッド抵抗(ブレーキパッドの摩擦抵抗)、ハブ抵抗(ハブの摩擦抵抗)、タイヤの慣性モーメントを用いることができる。特性推定部10は、これらのユニット性能をパラメータとし、エンジンの加速度を入力とし、エンジントルクを出力とするモデルを設定する。
【0065】
特性推定部10は、前述の如きユニット性能の変化を判定する。特性推定部10は、ユニット性能の変化の判定結果に基づいて、その変化を補うように、モデル(以下、これを「ユニットモデル」ともいう)を修正することができる。
【0066】
特性推定部10は、ユニット性能の判定とモデルの修正をそれぞれ実現するための機能ブロックとして、性能変化判定部(ユニット特定部)10aと、FF更新部(目標値補正部)10bと、を有している。FF更新部10bは、例えば、対応するフィードバック部14から入力される後述のFB特徴量に基づいて、複数のユニット20のうち、ユニット性能に変化が生じたユニット20を特定する。FF更新部10bは、例えば、性能変化判定部10aによって特定されたユニット20に対応したユニットモデルを修正することで、モデル制御部13が出力する後述の目標値(目標特性)を補正する。これらの機能ブロックの詳細は後述する。
【0067】
プラント挙動推定部11は、第1特性推定部10~第N特性推定部10から出力された推定特性に基づいて、プラント(自動車C)が実現する挙動を推定する。プラント挙動推定部11は、その推定結果をモデル制御部13に入力する。
【0068】
前述したように、プラント出力は、各ユニット20のユニット特性と密接に関係している。プラント出力は、複数のユニット20それぞれのユニット特性を入力とした関数としてモデル化することができる。プラント出力をモデル化してなる関数(以下、これを「プラントモデル」ともいう)は、プラント挙動推定部11と、モデル制御部13とによって、適宜、メモリ100b等から読み出されて使用されるようになっている。
【0069】
例えば、ユニット特性として、エンジントルクおよびモータトルクを用いた場合、これに対応するプラント出力としては、前述のように自動車Cの前後加速度または前後速度を用いることができる。この場合、プラント出力は、エンジンとモータからなるパワートレインからタイヤ(特に駆動輪)へと至る連結構造を定式化した上で、エンジントルクとモータトルクとの加算値を入力としたモデルによって記述することができる。
【0070】
つまり、特性推定部10およびプラント挙動推定部11は、ユニット特性とプラント出力との関係をモデル化したものとみなすことができる。この関係を逆に辿ることで、所望のプラント出力に対応したユニット特性(各ユニットが実現すべき特性の目標値)、ひいては、そのユニット特性を実現するためのモデル設定を自律的に修正することができるようになっている。
【0071】
プラント挙動目標生成部12は、プラントとしての自動車Cが実現すべき挙動の目標値を生成する。後述のように、モデル制御部13がモデル予測制御を行う場合、この目標値は、いわゆる設定値軌道に相当する。プラント出力として自動車Cの前後加速度を用いた場合、プラント挙動目標生成部12は、前後加速度の目標値(具体的には、将来的に実現されるべき前後加速度)を生成することになる。こうした目標値の生成は、自動車Cのアクセル開度等、自動車Cを運転するためのインターフェースに関連した計測信号に基づいて行うことができる。例えば、プラント出力として自動車Cのヨーレートを用いる場合、それに関連した目標値の生成は、ステアリングホイールの回転角度等に基づいて行うことができる。
【0072】
モデル制御部13は、複数のユニット20の各々に対応して設定されるモデル(ユニットモデル)に基づいて、各ユニット20が実現すべき特性(ユニット特性)の目標値を生成する。具体的に、モデル制御部13は、プラント挙動推定部11によって推定されたプラント出力(推定挙動)と、特性推定部10によって推定されたユニット特性(推定特性)と、同じく特性推定部10によって修正されたモデルと、に基づいて、各ユニット20の指令値を算出する。なお、複数のユニット20にサブユニットを有するユニット20が含まれる場合、そのサブユニットに対応した指令値を算出するように構成することもできる。モデル制御部13は、少なくともユニット20と同数の指令値を算出する。モデル制御部13によって算出された指令値は、第1フィードバック部14~第Nフィードバック部14は、各ユニット20に対応したいずれか1つに入力される。
【0073】
モデル制御部13によって算出される指令値は、各ユニット20のユニット特性の目標値に相当する。つまり、推定挙動として自動車Cの前後加速度を用いる場合、モデル制御部13は、エンジントルクの目標値、モータトルクの目標値等を算出することになる。こうした算出は、プラントモデルおよびユニットモデルに基づいて、実現されるべきプラント出力に対応したユニット特性を逆算することで実現される。
【0074】
特に、本実施形態に係るモデル制御部13は、モデル予測制御を実行することができる。そのように構成した場合、モデル制御部13への入力は、多水準系となるように離散化されることになる。具体的に、モデル制御部13は、現在時刻から1ステップ先のタイミングで推定または修正されたユニット特性、プラント挙動およびモデルと、現在時刻から2ステップ先のタイミングで推定または修正されたユニット特性、プラント挙動およびモデルと、を入力とし、プラント挙動目標生成部12によって生成された目標値を設定値軌道として各ユニット20のユニット特性の目標値を修正する。
【0075】
ここで、前述のように、複数のユニット20に、所定のプラント出力の増減に寄与する第1ユニット20と、該第1ユニット20と共通のプラント出力の増減に寄与する第2ユニット20と、が含まれている場合、プラント挙動としてのプラント出力は、各ユニット特性の加算値に応じて増減することになる。例えば、ユニット特性として、エンジントルクおよびモータトルクを用いた場合、これに対応するプラント出力は、前述のように、エンジントルクとモータトルクとの加算値を入力としたモデルによって記述され得る。この場合、モデル制御部13は、エンジントルクとモータトルクとの加算値の目標値を出力し得る。
【0076】
そのため、エンジントルクの目標値と、モータトルクの目標値とをそれぞれ演算するためには、前記加算値の目標値を各ユニット20に適切に分配する必要がある。そこで、本実施形態に係るモデル制御部13は、各特性推定部10によって判定されたユニット性能に応じて、プラント出力の配分を変更する。具体的に、モデル制御部13は、第1および第2ユニット20,20のうち一方の性能が変化したことが特性推定部10によって判定された場合、その変化分を補償するように、第1および第2ユニット20,20のうちの他方に係る目標値を増減させる。例えば、第1ユニット20としてのエンジンの性能が経時的に変化した結果、ユニット特性の目標値が修正される場合、所望のエンジントルクよりも低めのエンジントルクが出力されるものと想定し、第2ユニット20としてのモータにおけるモータトルクの目標値を高めに設定する。
【0077】
図9は、プラント、特に自動車Cの制御に際して行われる機能分配について説明するための図である。図9に示すように、PCM100は、プラント出力の配分について規定されたマップを読み込む。図9において、直線Lt上では、エンジントルク(ENGトルク)とモータトルク(MGトルク)との和が一定となる。直線Ltは、自動車Cの運転状態に応じてシフトする。図9に示す例では、一点鎖線に示すように、自動車Cが加速したり、自動車Cが高速で走行したりする場合、直線Ltは上方にシフトする。ここで、当初の時点では、プロットP2に示すようにモータトルクとエンジントルクとが分配されていたものとする。ここで、前述したように、エンジンの経年劣化が判定された場合、モデル制御部13は、プロットP2からプロットP1へとトルクの分配を変更する。これにより、エンジントルクが低めに設定される一方で、モータトルクは高めに設定されることになる。また、例えば自動車Cの運転環境(運転条件)と関連付けた状態で、現在の配分について規定されたマップを記憶してもよい。この場合、PCM100は、自動車Cが始動される度に、現在の運転環境に適したマップを読み込んで、それをプラント出力の配分に用いることができる。
【0078】
第1フィードバック部14~第Nフィードバック部14は、複数のユニット20の各々に対応するように設けられており、ユニット20毎に算出されたユニット特性の目標値を補正する。以下、「第1フィードバック部14~第Nフィードバック部14」を「フィードバック部14」と総称する場合がある。
【0079】
詳細には、第1フィードバック部14~第Nフィードバック部14は、各フィードバック部14に対応したユニット20からの出力信号に基づいて、該ユニット20が実際に実現したユニット特性(以下、「実特性」ともいう)と、モデル制御部13から入力された目標値(以下、「目標特性」ともいう)との差分を縮小するようにモデル制御部13の出力信号を補正する。この補正を行うべく、第1フィードバック部14~第Nフィードバック部14は、各ユニット20に対応したフィードバック信号(図5のFB特徴量に相当)を生成する。
【0080】
フィードバック信号としては、実特性と目標特性との差分または比率に基づいた信号を用いることができる。例えば、実特性と目標特性との差分に基づいたPID制御を行う場合、フィードバック信号は、前記差分と比例ゲインとの積(比例項)と、該差分の積分値と積分ゲインとの積(積分項)と、該差分の微分値と微分ゲインとの積(微分項)とを加算した信号となる。実特性と目標特性との差分を用いた場合、フィードバック部14は、そうして算出されたフィードバック信号と、目標特性に対応した電気信号と、を加算することで、この目標特性を補正する。フィードバック部14は、ユニット20毎に設けられている。そのため、この補正は、ユニット20単位で実行されることになる。
【0081】
また、フィードバック部14は、対応するユニット20からの出力信号に基づいて、フィードバック信号と、該フィードバック信号の増減に寄与する係数を示すFBパラメータと、のうちのいずれか一方を示すFB特徴量を変化させる。
【0082】
例えばPIDタイプのフィードバック制御を行う場合、FBパラメータは、比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインに相当する。フィードバック部14は、FB特徴量を調整することで、目標特性の修正を実行し、ユニット性能の変化を補償する。例えば、対応するユニット20の実特性が相対的に大きく変化した場合には、相対的に小さく変化した場合に比して、FB特徴量を大きく調整する。これにより、ユニット性能の変化に追従するようなフィードバック制御を実現することができる。
【0083】
より詳細には、本実施形態に係るフィードバック部14は、データ駆動型制御によって、FB特徴量を調整する。この場合、各フィードバック部14には、適応フィードバック制御のように、対応するユニット20が実現したユニット特性が直接的に入力されたり、いわゆるデータベース型のデータ駆動型制御のように、データベースを介してユニット特性が間接的に入力されたりするようになっている。フィードバック部14は、双方とも実施することができる。
【0084】
また、フィードバック部14は、それぞれ、FB特徴量を対応する性能変化判定部10aに入力する。性能変化判定部10aは、各ユニット20におけるFB特徴量の変化に基づいて、ユニット性能の変化を判定する。例えば、FB特徴量が大きく変化している場合には、それが小さく変化している場合と比較して、ユニット性能が変化している可能性が高いと判定することができる。また、FB特徴量の変化が一時的ではなく、継続的に発生している場合には、ユニット性能が不可逆的に変化している可能性が高いと判定することができる。そこで、性能変化判定部10aは、FB特徴量の移動平均が所定閾値を超えるか否かを判定するとともに、該移動平均が所定閾値を超えた回数をカウントする。性能変化判定部10aは、そうしてカウントされた回数が所定期間内に所定回数を超えたか否かを判定し、この判定がNOの場合(あるいは、前記移動平均が所定閾値未満の場合)には例えばデータ駆動型制御によってFB特徴量を調整し、目標特性の修正を実行してユニット性能の変化を補償する。
【0085】
一方、この判定がYESの場合(あるいは、前記移動平均が所定閾値以上の場合)には、性能変化判定部10aは、前述のように、FF更新部10bを介してユニットモデルを修正することで、目標特性の修正、ひいてはユニット性能の変化の補償を実行する。ここで、FF更新部10bは、ユニットモデルを特徴付けるパラメータを増減させることでモデルの更新を実行する。なお、FF更新部10bは、モデルの更新を実行したことと、更新後のパラメータを示す信号をモデル制御部13に入力する。モデル制御部13は、そうして入力された信号に基づいて、プラント出力の配分の変更を実行することができる。
【0086】
フィードバック部14によって修正された目標特性は、対応するユニット20に対応した指令値として、対応するユニット20に入力される。
【0087】
本実施形態の場合、第1フィードバック部(第1FB部)14による補正を受けた指令値は、第1ユニット(エンジン)20に入力される。第1ユニット20は、指令値が入力された時点におけるユニット性能に対応したダイナミクスDに基づいて、エンジンの実特性としてのエンジントルクを出力する。エンジントルクを示す信号は、第1フィードバック部(第1FB部)14に入力されて、第1フィードバック部14は、FB特徴量に基づいたフィードバック制御、エンジンのユニットモデルの修正等を実行する。
【0088】
同様に、第2フィードバック部(第1FB部)14による補正を受けた指令値は、第2ユニット(モータ)20に入力される。第2ユニット20は、指令値が入力された時点におけるユニット性能に対応したダイナミクスDに基づいて、モータの実特性として、実際に実現されたモータトルクを出力する。エンジントルクを示す信号は、第2フィードバック部(第2FB部)14に入力されて、第2フィードバック部14は、FB特徴量に基づいたフィードバック制御、モータのユニットモデルの修正等を実行する。
【0089】
また、プラントとしての自動車Cは、第1ユニット20としてのエンジンが出力したエンジントルクと、第2ユニットとしてのモータが出力したモータトルクと、エンジントルクおよびモータトルクが入力された時点における第1および第2ユニット20,20の性能に対応したダイナミクスDに基づいて、プラント出力としての前後速度、前後加速度等を出力する。
【0090】
つまり、第1特性推定部10が推定するユニット特性、第2特性推定部10が推定するユニット特性、およびプラント挙動推定部11が推定するプラント出力(推定挙動)は、それぞれ、第1ユニット20が実現するユニット特性、第2ユニット20が実現するユニット特性、自動車が実現するプラント出力(実挙動)に対応する。
【0091】
各ユニット20の固有性能が一定に保たれていて、かつモデル制御部13によるモデル予測制御が精度よく行われている場合、各ユニット特性およびプラント出力は、互いに略一致することになる。また、前述したユニットモデルは、対応するユニット20のダイナミクスD,Dをモデル化したものに相当し、プラントモデルは、プラント全体のダイナミクスDをモデル化したものに相当する。そのため、いずれかのユニット20に経年劣化等の性能変化が生じた場合、プラントモデル、ひいては全ユニット20のユニットモデルを変更せずとも、性能変化が生じたユニット20に対応するモデルを修正するだけで、性能変化を補償することが可能になる。
【0092】
以下、各機能ブロックのさらなる詳細について、順番に説明する。
【0093】
<詳細構成>
-特性推定部10-
図5は、特性推定部10によるユニット特性の推定について説明するための図である。図5に示すように、特性推定部10は、前述した性能変化判定部10aおよびFF更新部10bに加え、ユニット特性推定部10cと、マップ生成部10dと、モデル生成部10eと、を有する。図例では、第1特性推定部10のみを例示しているが、第2特性推定部10の構成も同様である。
【0094】
このうち、性能変化判定部10aは、前述したように、多水準化された指令値とFB特徴量に基づいて、対応するユニット性能の変化を判定する。ここで、性能変化判定部10aには、外部センサとしての外気温センサSW1の計測信号も入力される。つまり、例えば、空気抵抗は、空気密度、ひいては外気温に応じて変化し得る。前述したように、空気抵抗は、ユニット性能、ひいてはユニットモデルの最適化を図る上で影響を及ぼしうるものの、そうした影響は、一時的な影響と考えられるため。空気抵抗をはじめ、自動車Cの運転環境(外部環境)に起因した影響を、ユニット性能の経年変化とみなすのは適切ではない。
【0095】
そこで、性能変化判定部10aは、外気温センサSW1等の外部センサによって検出された自動車Cの運転環境(プラントの運用環境)と、FB特徴量と、に基づいて、ユニット性能の変化を判定する。例えば、PCM100、または、PCM100に接続された2次記憶装置には、FB特徴量および運転環境と、ユニット性能の変化を判定するための指標と、を関連付けたデータベース、マップ、モデル等が記憶されている。性能変化判定部10aは、フィードバック部14から入力されたFB特徴量と、現在の運転環境とをそのデータベース等に入力することで、入力されたFB特徴量が、ユニット性能の一時的な変化を示しているのか、あるいは、ユニット性能の継続的な変化(不可逆的な変化)を示しているかを判定する。
【0096】
なお、運転環境に係る情報としては、自動車Cが走行している地点の標高、気圧等を用いることができる。こうした情報は、例えば、外部センサとしてのGPSセンサによって計測可能である。PCM100は、外気温の代わりに、または、外気温に加えて、標高、気圧等を使用してユニット性能の変化を判定することができる。また、外部センサによる計測信号の代わりに、または、外部センサによる計測信号に加えて、自動車Cの走行距離(より一般的なプラントの場合、プラントの運用期間)を記録して、その記録内容を参照してユニット性能の変化を判定してもよい。
【0097】
ユニット特性推定部10cは、特性推定部10の概略構成の説明に際して記載したように、ユニット20毎に設定された複数のユニット性能のうち、どのユニット性能がどれだけ変化したかを推定する。この推定は、FB特徴量の変化量(特に、FB特徴量の移動平均と、前記所定閾値との差分)と、自動車Cの運転環境または運転状態と、に基づいて行うことができる。
【0098】
例えば、第1ユニット20としてのエンジンの場合、ユニット特性推定部10cは、同エンジンを構成するサブユニットとしてのスロットルバルブ201aの開度変化と、エンジントルクに直接的にまたは間接的に寄与するFB特徴量の変化量と、を関連付けることで、エンジンの性能変化を推定することができる。より詳細には、ユニット特性推定部10cは、各ユニット20を構成するサブユニットの制御目標と、FB特徴量の時間変化と、を関連付けることで、性能変化を詳細に推定することができる。なお、この例でいうところの「FB特徴量」とは、スロットルバルブ201aの開度に寄与するFB特徴量(より詳細には、スロットルバルブ201aに作用するトルクのFB特徴量)を指す。スロットルバルブ201aの開度に応じて、エンジンの吸入空気量、ひいてはエンジントルクが定まることから、このFB特徴量は、エンジントルクに間接的に寄与するFB特徴量とみなすことができる。
【0099】
例えば、スロットルバルブ201aの開度とは無関係にFB特徴量が一律に増大していれば、スロットルバルブ201aの弁体に作用する反力に変化が生じたものと判定することができる。この場合、スロットルバルブ201aを構成するリターンスプリングの性能に変化が生じた(例えば、リターンスプリングにへたりが生じた)ものと判断することができる。同様に、例えば、スロットルバルブ201aの開弁速度が一定の際にはFB特徴量も一定となる一方、開弁速度が増減する際にはFB特徴量が増減する場合には、スロットルバルブ201aの慣性モーメントに変化が生じたものと判定することができる。この場合、前記弁体に異物が付着したり、その形状に変化が生じたりしたものと判断することができる。反力の変化と、慣性モーメントの変化と、を組み合わせて判定することで、各変化がどれだけ進行しているかを判断することもできる。
【0100】
なお、ユニット特性推定部10cによる判定結果は、自動車Cの表示装置30上に表示することができる。これにより、ドライバーは、自動車Cの現在の性能を把握することができる。また、後述のように、ユニット特性推定部10cによる判定結果は、自動車Cによって得られた知見として、外部サーバCsを介して他の自動車Cと共有化したり、工場等に送信したりすることもできる。
【0101】
マップ生成部10dは、自動車Cの運転環境(プラントの運用環境)と、FB特徴量と、モデルを特徴付けるパラメータであるFFパラメータと、を対応付けたマップを記憶する。FFパラメータは、タイヤ半径、ギヤ比等、ユニットモデルの定式化に際して用いられるパラメータを指す。マップの代わりに、よりシンプルなデータベースを使用してもよい。マップ生成部10dは、自動車Cの運転中に、該自動車Cの運転環境と、FB特徴量と、FFパラメータと、の関係をリアルタイムで更新することができる。
【0102】
例えば、FFパラメータは、ユニット性能が変化するにしたがって、前述のように、リアルタイムで更新されていくことになる。これにより、エンジンのユニットモデルが修正される。なお、エンジンのユニットモデルが修正されると、前述のように、PCM100は、そのユニットモデルに対応したユニット特性と、プラント出力とに基づいて、プラント出力の配分を変更することもできる。例えば、エンジンのインジェクタに詰まりが生じた結果、ユニット特性としてのエンジントルクの最大値が減少したケースを想定する。こうしたケースの場合、目標トルクの設定次第では、所望のプラント出力が実現されない可能性がある。こうした可能性は、特に、プラント出力の最大化、または、プラントのエネルギー効率最大化が要求された場合に、特に顕著となる。この場合、図9を用いて説明したように、PCM100は、モータトルクによってエンジントルクの最大値の変化分を補償することで、所望のプラント出力を実現する。その一方で、例えば、目標トルクがさほど大きくなく、かつ、エネルギー効率の最大化も要求されていない場合には、モータトルクによる補償は不要となるため前述した配分の変更は不要となる。このように、PCM100は、プラント出力の目標設定に応じて、該プラント出力の配分を変更するように構成されている。
【0103】
マップ生成部10dを用いることで、対応するユニット20とは別のユニット20で生じたユニット性能の変化等、さまざま要因をモデル制御に反映させることができるようになる。対応するユニット20“単独”の性能変化をモデル制御に反映させることで、開発者の意図に沿ったプラント性能をより確実に発揮させることが可能となる。各ユニット20の劣化、性能のバラツキに関連した各ユニット特性の知見を積み上げることで、モデルベース制御をより確実に機能させることが可能となる。
【0104】
モデル生成部10eは、マップ生成部10dが生成したマップに回帰処理を施すことで、マップに対応したモデルを生成する。モデル生成部10eによって生成されるモデルは、自動車Cの運転環境(プラントの運用環境)と、FB特徴量と、各ユニット性能に対応したFFパラメータと、を対応付けたモデルとなる。なお、マップ生成部10dおよびモデル生成部10eは、双方とも必須ではない。
【0105】
FF更新部10bは、マップ、モデル等を照合することで新たに得られたFFパラメータをユニットモデルに反映させて、このユニットモデルの更新を実行する。ユニットモデルを特徴付けるFFパラメータが、プラントモデルの態様にも影響を与える場合、FF更新部10bは、更新されたFFパラメータをプラント挙動推定部11と、モデル制御部13とに出力する。この出力によって、ユニットモデルとプラントモデルがそれぞれ更新されることになる。
【0106】
-フィードバック部14-
図6は、フィードバック部14によるユニット特性のフィードバック制御について説明するための図である。図6に示すように、フィードバック部14としての第1フィードバック部14は、FB更新部14aと、FB指令値生成部14bと、目標特性修正部14cと、タイミング調整部14dと、を有する。同図に示すように、第2フィードバック部14は、第1フィードバック部14と同様に構成されている。以下、フィードバック部14同士の連携に係る構成を除き、第1フィードバック部14の構成についてのみ説明する。
【0107】
FB更新部14aは、モデル制御部13から出力された目標特性と、第1ユニット20における実特性との差分または比率に基づいて、FB特徴量を増減させるためのFBパラメータを更新する。前述のように、例えばPIDタイプのフィードバック制御を行う場合、FBパラメータは、比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインに相当する。FBパラメータの更新方法は、データ駆動型制御に含まれる手法一般を用いることができる。例えば、一般的な適応制御によってFBパラメータを更新してもよいし、データベース、マップ、モデル等を参照することでFBパラメータを更新してもよい。
【0108】
また、図示は省略したが、本実施形態に係るFB更新部14aは、特性推定部10におけるマップ生成部10dおよびモデル生成部10eと同様に、自動車Cの運転環境と、目標特性と、実特性とのうちの1つ以上を入力とし、FBパラメータを出力とするように関連付けたマップおよびモデルをリアルタイムで更新することができる。FB更新部14aは、事前に設定されたモデルの形態とは無関係に、自動車Cの運転環境と、目標特性と、実特性とのうちの1つ以上を入力とし、FBパラメータを出力とするような関係式を機械学習によって導出することもできる。この場合、FB更新部14aは、回帰学習器としても機能することになる。
【0109】
FB更新部14aは、更新されたFBパラメータをFB指令値生成部14bに入力する。また、FBパラメータをFB特徴量として用いる場合、FB更新部14aによって更新されたFBパラメータは、FB更新部14aとFB指令値生成部14bとの間から分岐して、このフィードバック部14と共通のユニット20に関連した特性推定部(具体的には、第1特性推定部10)10に入力される。FBパラメータを直に入力するかわりに、FBパラメータの変化量を特性推定部10に入力してもよい。
【0110】
FB指令値生成部14bは、FB更新部14aによって更新されたFBパラメータと、目標特性および実特性の差分とに基づいて、目標特性の修正値(FB値)を示すフィードバック信号を生成する。
【0111】
既に説明したように、PIDタイプのフィードバック制御を行う場合、FB値は、前記差分を引数とした比例項と、積分項と、微分項との和となるが、本実施形態に係るフィードバック部14は、そうした値には限定されない。例えば、目標特性と実特性との比率に基づいて、FB値を示す信号を生成することもできる。
【0112】
FB値をFB特徴量として用いる場合、FB指令値生成部14bによって算出されたFB値は、FB指令値生成部14bと目標特性修正部14cとの間から分岐して、このフィードバック部14と共通のユニット20に関連した特性推定部(具体的には、第1特性推定部10)10に入力される。
【0113】
目標特性修正部14cは、モデル制御部13から出力される目標特性(FF値)と、FB指令値生成部14bによって生成された修正値(FB値)と、に基づいて、目標特性の修正を実行する。
【0114】
ここで、フィードバック部14において、目標特性と実特性との差分に基づいたPID制御を行う場合、目標特性修正部14cは、FF値とFB値との和に対応した電気信号を出力する加算器として機能することになる。一方、目標特性と実特性との比率に基づいたフィードバック制御を行う場合、目標特性修正部14cは、FF値とFB値との積に対応した電気信号を出力する乗算器として機能することになる。図例では、前者の構成のみ開示されているが、本開示は、後者の構成も含む。
【0115】
タイミング調整部14dは、ユニット特定部によって特定されたユニット、つまり、複数のユニット20のうち、性能変化判定部10aによって性能が変化したと判定されたユニット20が1つ以上存在する場合、目標特性の補正が反映されるタイミングを、各ユニット20間で略同じタイミングに設定する。さらに詳細には、タイミング調整部14dは、複数のユニット20のうち、互いに共通のプラント出力の増減に寄与するようなユニット20について、前述したタイミングの設定を実行する。そうしたユニット20の組み合わせには、図例のようなモータとエンジンとブレーキユニットの組み合わせに加え、ステアリングユニットとブレーキユニットとの組み合わせ等を含む。
【0116】
前記目標値補正部は、前記ユニット特定部によって特定されたユニットが複数にわたる場合、前記目標値の補正が反映されるタイミングを、各ユニット間で略同じタイミングに設定する。
【0117】
<制御例>
以下、前述の如く構成された制御装置によって実現される制御の要部を説明する。以下に示す例では、制御装置は、プラントとしての自動車Cに搭載されたPCM100に相当し、そのPCM100によって制御されるユニット20は、前述のように、エンジンによって構成される第1ユニット20と、モータによって構成される第2ユニット20とに相当する。
【0118】
図7は、制御装置(PCM100)による制御の要部を例示するフローチャートである。また図8は、目標特性の修正手順の要部を例示するフローチャートである。図7および図8に示すフローは、自動車Cが運転している最中、繰り返し実行される。
【0119】
まず、図7のステップS1に示すように、特性推定部10がユニット特性を推定する。ユニット特性の推定は、ユニット20毎に行われる。次いで、ステップS2において、プラント挙動推定部11が、推定されたユニット特性に基づいてプラント挙動(プラント出力)を推定する。なお、モデル制御部13がモデル予測制御を行う場合、ユニット特性の推定と、プラント挙動の推定は、多水準化された各時間について行われることになる。
【0120】
そして、ステップS3において、推定されたユニット特性とプラント挙動に基づいて、モデル制御部13が、例えばモデル予測制御による目標値(目標特性)を生成する。目標値の生成は、ユニット20毎に行われる。
【0121】
ステップS4では、ステップS3における目標値の生成と前後して、または、目標値の生成と並行して、特性推定部10における性能変化判定部10aが、実際のユニット特性(実特性)に基づいて、プラントとしての自動車Cを構成するユニット20のうち、性能が変化したユニット20を特定する。なお、図7における各ステップの順番は、一例に過ぎない。例えば、ステップS1に先だってステップS4を実行するように構成してもよい。
【0122】
ステップS5では、特性推定部10におけるFF更新部10bが、ステップS4で特定されたユニットに係るモデルを修正する。FF更新部10bによるモデルの修正を介して、目標特性が補正される。
【0123】
ステップS6では、図9を用いて説明したように、ユニット20間の機能配分を変更する。具体的に、モデル制御部13は、自動車Cが実現すべき挙動(プラント出力)が一定となるように、第1ユニット20としてのエンジンの目標特性と、第2ユニット20としてのモータの目標特性との比率を調整する。この処理は、車速センサSW2の計測信号等、自動車Cの運転状態を特徴付けるパラメータに基づいて行うことができる。
【0124】
ステップS7では、補正後の目標特性がユニット20に入力される。各ユニット20は、ステップS1で推定されたユニット特性に対し、目標特性の補正結果を反映させた特性を実現し、そうして補正された特性を受けて、自動車Cは、ステップS2で推定されたプラント挙動と同様のプラント挙動(実挙動)を実現する。
【0125】
ここで、目標特性の具体的な調整手順は、図8に示す通りである。まず、ステップS11に示すように、特性推定部10は、現在の運転環境等に基づいて、ユニット20の規範特性を設定する。次いで、ステップS12に示すように、特性推定部10は、フィードバック部14によって算出されたFB特徴量を読み込む。
【0126】
そして、続くステップS13において特性推定部10は、現在のFB特徴量に基づいて推定されるユニット20の特性に基づいて、特性推定部10によって推定された特性が、規範特性であると判断されるか否かを判定する。この判定がYESの場合、特性推定部10は、現在のシステム挙動が適切であると判定し、モデル制御部13がFF値を生成してリターンする。この場合、PCM100は、FBパラメータを固定した状態で、かつ、各ユニット20に対応したモデルを非変更とした状態でモデル予測制御を実行することになる。この状態は、図10の(1)に示すように、ユニット20が経時変化しておらず、そのユニット性能が一定に保持された状態、もしくは、経時変化の発生後に、FFパラメータまたはFBパラメータの更新によって当該経時変化が補償された状態(FFパラメータまたはFBパラメータの更新を反映した規範特性が達成された状態)に対応する。
【0127】
一方、ステップS13の判定がNOの場合、特性推定部10は、ステップS14において、ユニット20の応答特性が改善可能か否か(FB特徴量調整で対応可能か否か?)を判定する。この判定がYESの場合、ステップS15に示すように、そのユニット20に対応するフィードバック部14がFBパラメータを更新し、モデル制御部13がFF値を生成してリターンする。この場合、PCM100は、FBパラメータを固定した状態で、かつ、各ユニット20に対応したモデルを非変更とした状態でモデル予測制御を実行することになる。この状態は、図10の(2)に実線で示したように、ユニット20の経時変化によってユニット性能が低下したものの、その低下の影響が、FBパラメータの更新によって補償された状態に対応する。なお、図10の鎖線は、FBパラメータの更新、および、FFパラメータの更新を双方とも行わなかった場合の性能曲線に相当する。
【0128】
また、ステップS14の判定がNOの場合、特性推定部10は、そのユニット20のユニット性能が不可逆的に大きく変化したものと判定する。この場合、特性推定部10がFFパラメータを更新し、モデル制御部13がFF値を生成してリターンする。この場合、ステップS16に示すように、PCM100は、FBパラメータを変更した状態で、かつ、各ユニット20に対応したモデルを特徴付けるFFパラメータを変更とした状態でモデル予測制御を実行することになる。この状態は、図10の(3)に示すように、ユニット20の経時変化によってユニット性能が大きく低下したものの、その低下の影響が、FBパラメータの更新と、モデルの変更(FFパラメータの更新)とによって補償された状態に対応する。
【0129】
以上説明したように、本実施形態によれば、FF更新部10bは、複数のユニット20のうち、性能変化判定部10aが特定したユニット20、つまり、ユニット固有の性能に変化が生じたと判定されたユニット20について、特性目標の補正を実行する。これにより、自動車Cの性能が自発的に補償され、これを一定に保つことができる。また、自動車C単位での補償を行うのではなく、ユニット20単位での補償を行うことで、他のユニット20に係る制御態様の変更を可能な限り抑制しつつ、性能の補償を実現することができる。
【0130】
また、FF更新部10bは、特定されたユニット20に対応したモデルの修正を介して目標特性を補正することで、所望のプラント出力を実現する。このように、ユニット20単位での補償を介してプラント出力を調整することで、他のユニット20に係る制御態様の変更を抑制しつつ、プラント出力の調整を実現することができる。
【0131】
また、図9を用いて説明したように、例えば、第1ユニット20の性能が不可逆的に大きく変化した場合において、他の第2ユニット20に係る目標値も増減させることで、所望のプラント出力が実現可能となる。このように他のユニット20が性能の変化を自発的にリカバリーすることで、自動車Cの性能を一定に保つ上で有利になる。
【0132】
また、一時的な性能変化、または、不可逆的な性能変化のうち、その変化量が比較的小さいものについては、フィードバック制御によって特性目標が修正される一方、不可逆的な性能変化のうち、その変化量が比較的大きいものについては、モデルの修正を介して特性目標が修正される。このように、2通りの修正方法を使い分けることで、より柔軟な制御を実現し、ひいては、自動車Cの性能を一定に保つ上で有利になる。
【0133】
また、外気温センサSW1等の外部センサを用いることで、ユニット20の性能変化と、自動車Cの運用環境とを関連付けた制御を実現することが可能となる。これにより、各ユニット20の性能をより適切に補償することが可能となる。
【0134】
<他の実施形態>
(その他のユニット20について)
前記実施形態では、第1ユニット20としてのエンジンと、第2ユニット20としてのモータとの組み合わせに関連した制御について説明したが、本開示は、そうした制御には限定されない。本開示は、エンジンおよびモータに加えて、ブレーキユニットを組み合わせた制御にも適用可能である。また、エンジンおよびモータに代えて、ステアリングユニットおよびブレーキユニットの組み合わせに関連した制御についても、同様に適用可能である。
【0135】
(外部サーバCsとの連携)
前記実施形態では、制御システムSを構成する各自動車CのPCM100が各々、本開示に係る制御装置として機能するような構成について説明したが、本開示は、そうした構成には限定されない。制御装置として機能する機能ブロックのうち、その少なくとも一部を外部サーバCs上に実装し、この外部サーバCsを介して自動車C同士を相互に通信してもよい。この場合、PCM100と外部サーバCsとを組み合わせた計算システムが、本開示に係る制御装置として機能することになる。
【0136】
この場合、図11に示すPCM100’のように、第1特性推定部10~第N特性推定部10を外部サーバCs上に実装することができる。また、図例に限らず、第1特性推定部10~第N特性推定部10のうちの一部をPCM100’に実装し、他部を外部サーバCsに実装してもよいし、第1特性推定部10~第N特性推定部10以外の機能ブロック、例えば、プラント挙動推定部11を外部サーバCsに実装してもよい。
【0137】
(プラント同士の連携)
また、図11に示す構成に代えて、複数のプラントのうち、いずれか1つのプラントにおけるユニット特定部(特性推定部10)の特定結果を、他のプラントの間で共有するように構成することもできる。この場合、図12に示すように、所定のPCM100”にのみ特性推定部10が実装され、他のPCM100”は、PCM100”による特定結果を受けて目標特性の修正等を実行することになる。この場合、外部サーバCsを介した連携は、必須ではない。
【0138】
図例に限らず、他のPCM100”にも特性推定部10を実装した状態で、性能に変化が生じたユニット等の情報を、プラント間で相互に送受し合うように構成することもできる。例えば、外気温に基づいて生成されたデータベース、マップ、モデル等を自動車C間で共有させることもできる。
【0139】
(工場F1,F2との連携)
また、例えば図13に示すように、外部サーバCsを介して自動車C同士を連携させる代わりに、または、自動車C同士を連携させるのに加えて、自動車Cと、自動車Cの部品工場F1と、自動車Cのシステム修理工場F2と、を連携させることもできる。
【0140】
この場合、プロセスP1に示すように、自動車Cによって得られた知見を示す情報(より具体的には、各ユニット20のユニット性能の経時変化を示す情報)が外部サーバCsに送信されると、外部サーバCsは、ユニット性能の経時変化に基づいて、部品工場F1にユニット20の製造を発注したり、スロットルバルブ201aおよびEGRバルブ201bのように、各ユニット20を構成するサブユニットの製造を発注したりする(プロセスP2を参照)。
【0141】
その後、プロセスP3およびプロセスP4に示すように、部品工場F1からシステム修理工場F2にサブユニット等の部品が納品され、部品工場F1から外部サーバCsに部品の納品が通知される。その後、外部サーバCsは、システム修理工場F2に保守作業を予約する(プロセスP5を参照)。最終的に、、システム修理工場F2、または外部サーバCsは、自動車Cに予約内容を通知する(プロセスP6を参照)。
【0142】
このように、本開示に係る制御装置は、ユニット性能の変化に基づいた制御に行うものであり、その変化を示す情報をプラントの外部に出力したり、プラント間で共有したりすることで、極めて有用となる。
【符号の説明】
【0143】
S 制御システム
C 自動車(プラント)
Cs 外部サーバ
20 エンジン(第1ユニット)
20 モータ(第2ユニット)
20 ブレーキユニット(第3ユニット)
20 ステアリングユニット(第Nユニット)
100 PCM(制御装置)
10 特性推定部
10a 性能変化判定部(ユニット特定部)
10b FF更新部(目標値補正部)
10c ユニット特性推定部
10d マップ生成部
12 プラント挙動推定部
13 モデル制御部
14 フィードバック部
SW1 外気温センサ(計測部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13