(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】静電気保護回路、半導体装置、電子機器
(51)【国際特許分類】
H01L 21/822 20060101AFI20241106BHJP
H01L 27/04 20060101ALI20241106BHJP
H01L 27/06 20060101ALI20241106BHJP
H01L 27/088 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01L27/04 H
H01L27/06 311B
H01L27/088 331C
(21)【出願番号】P 2021007139
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】池田 益英
【審査官】石川 雄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-034524(JP,A)
【文献】特開2015-062227(JP,A)
【文献】特開2001-345421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/04
H01L 27/06
H01L 27/088
H01L 21/822
H01L 21/8232
H01L 21/8234
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護対象回路と並列に接続される静電気保護回路であって、
第1伝導型の第1半導体領域および第2半導体領域と、
前記第1半導体領域および前記第2半導体領域より前記第1伝導型のキャリア濃度が高い共通不純物領域と、
前記共通不純物領域より前記第1伝導型のキャリア濃度が高い埋込領域と、
第2伝導型の第1不純物領域および第2不純物領域と、
を備え、
前記埋込領域は、前記第2伝導型の半導体基板の一方の面である積層方向の面に延在して設けられ、
前記第1半導体領域と前記第2半導体領域と前記共通不純物領域とは、前記埋込領域の前記積層方向に設けられて前記埋込領域に接続され、
前記第1半導体領域と前記第2半導体領域とは、前記共通不純物領域を介して接続され、
前記第1不純物領域は、前記第1半導体領域の前記積層方向に設けられて前記第1半導体領域に接続され、
前記第2不純物領域は、前記第2半導体領域の前記積層方向に設けられて前記第2半導体領域に接続され、
前記第1不純物領域と前記第1半導体領域とで構成される第1ダイオードと、前記第2不純物領域と前記第2半導体領域とで構成される第2ダイオードとが、前記共通不純物領域を介して互いに逆方向に接続され
、
前記第1不純物領域と前記共通不純物領域との距離と、前記第2不純物領域と前記共通不純物領域との距離と、が異なっている静電気保護回路。
【請求項2】
第1電極と、
前記第1不純物領域より前記第2伝導型のキャリア濃度が高い第1不純物領域半導体層と、
第1金属化合物層と、
を備え、
前記第1不純物領域半導体層は、前記第1不純物領域の前記積層方向に設けられて前記第1不純物領域に接続され、
前記第1金属化合物層は、前記第1不純物領域半導体層の前記積層方向に設けられて前記第1不純物領域半導体層に接続され、
前記第1電極は、前記第1金属化合物層の前記積層方向に設けられて前記第1金属化合物層に接続され、
前記第1金属化合物層の前記共通不純物領域に近い側の端部は、遠い側の端部に向かって、前記第1不純物領域半導体層の前記共通不純物領域に近い側の端部から離間して配設される、請求項
1に記載の静電気保護回路。
【請求項3】
第2電極と、
前記第2不純物領域より前記第2伝導型のキャリア濃度が高い第2不純物領域半導体層
と、
第2金属化合物層と、
を備え、
前記第2不純物領域半導体層は、前記第2不純物領域の前記積層方向に設けられて前記第2不純物領域に接続され、
前記第2金属化合物層は、前記第2不純物領域半導体層の前記積層方向に設けられて前記第2不純物領域半導体層に接続され、
前記第2電極は、前記第2金属化合物層の前記積層方向に設けられて前記第2金属化合物層に接続され、
前記第2金属化合物層の前記共通不純物領域に近い側の端部は、遠い側の端部に向かって、前記第2不純物領域半導体層の前記共通不純物領域に近い側の端部から離間して配設される、請求項1
または2に記載の静電気保護回路。
【請求項4】
前記共通不純物領域より前記第1伝導型のキャリア濃度が高い共通不純物領域半導体層を備え、
前記第1不純物領域半導体層は、前記第1不純物領域と前記共通不純物領域の前記積層方向において、前記共通不純物領域半導体層と離間し、前記第1不純物領域から前記共通不純物領域に跨るように延在して前記第1不純物領域と前記共通不純物領域とに接続されている、請求項
2に記載の静電気保護回路。
【請求項5】
前記共通不純物領域より前記第1伝導型のキャリア濃度が高い共通不純物領域半導体層を備え、
前記共通不純物領域半導体層は、前記第1不純物領域と前記第1半導体領域と前記共通不純物領域の前記積層方向において、前記第1不純物領域半導体層と離間し、前記第1不純物領域から前記共通不純物領域に跨るように延在して前記第1不純物領域と前記共通不純物領域とに接続されている、請求項
2に記載の静電気保護回路。
【請求項6】
前記第1伝導型は、N型であり、前記第2伝導型は、P型である請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の静電気保護回路。
【請求項7】
請求項1から請求項
6のいずれか一項に記載の静電気保護回路を備える半導体装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の半導体装置を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気保護回路、半導体装置、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、信号および電源の統合静電気保護デバイスとして、基板表面の不純物層から構成されるダイオード構造を有するデバイスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のデバイスでは、静電気保護回路としての構成素子として、基板表面に形成されたダイオードを用いる場合、基板表面近くに流れる電流が局所的に集中し、ダイオードの保持電圧が高くなると、つまりブレークダウン電圧が高くなると、放熱以上にブレークダウン電流による発熱量が大きくなるため、構成素子の破壊に至る虞があるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の静電気保護回路は、保護対象回路と並列に接続される静電気保護回路であって、第1伝導型の第1半導体領域および第2半導体領域と、前記第1半導体領域および前記第2半導体領域より前記第1伝導型のキャリア濃度が高い共通不純物領域と、前記共通不純物領域より前記第1伝導型のキャリア濃度が高い埋込領域と、第2伝導型の第1不純物領域および第2不純物領域と、を備え、前記埋込領域は、前記第2伝導型の半導体基板の一方の面である積層方向の面に延在して設けられ、前記第1半導体領域と前記第2半導体領域と前記共通不純物領域とは、前記埋込領域の前記積層方向に設けられて前記埋込領域に接続され、前記第1半導体領域と前記第2半導体領域とは、前記共通不純物領域を介して接続され、前記第1不純物領域は、前記第1半導体領域の前記積層方向に設けられて前記第1半導体領域に接続され、前記第2不純物領域は、前記第2半導体領域の前記積層方向に設けられて前記第2半導体領域に接続され、前記第1不純物領域と前記第1半導体領域とで構成される第1ダイオードと、前記第2不純物領域と前記第2半導体領域とで構成される第2ダイオードとが、前記共通不純物領域を介して互いに逆方向に接続されている。
【0006】
本発明の半導体装置は、上記の静電気保護回路を備えている。
【0007】
本発明の電子機器は、上記の半導体装置を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る静電気保護回路を備えた半導体装置のブロック図である。
【
図2】実施形態の実施例1に係る静電気保護回路の構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】従来技術における第1不純物領域と共通不純物領域との距離を変えて構成した場合の第1ダイオードの耐圧特性の違いを示すグラフである。
【
図4】従来技術における静電気保護回路の構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】第1金属化合物層の端部が、第1不純物領域半導体層の端部に重なるように設けられている静電気保護回路の例を示す断面図である。
【
図6】実施形態に係る静電気保護回路に含まれる第1ダイオードの耐圧特性を示すグラフである。
【
図7】実施形態の実施例2に係る静電気保護回路の構成を模式的に示す断面図である。
【
図8】実施形態の実施例2に係る静電気保護回路の他の構成を模式的に示す断面図である。
【
図9】半導体装置に適用した静電気保護回路の構成を示す平面図である。
【
図11】実施形態に係る電子機器の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態に係る静電気保護回路を備えた半導体装置の構成について、
図1を参照して説明する。
本実施形態の半導体装置1は、プレーナー技術を用いて製造される半導体デバイスであり、内部回路10、静電気保護回路20、電源保護回路30などから構成されている。
半導体装置1は、正の電源電位VDDに接続される電源端子11、接地電位VSSに接続される接地端子12、内部回路10に入力信号INを入力する入力端子13、内部回路10の出力信号OUTを出力する出力端子14などを有している。
電源端子11と内部回路10とは、内部回路10に電源電位VDDを供給する電源配線15により接続されている。接地端子12と内部回路10とは、内部回路10に接地電位VSSを供給する接地配線16により接続されている。入力端子13と内部回路10とは、内部回路10に入力信号INを伝達する入力配線17により接続されている。出力端子14と内部回路10とは、出力端子14に内部回路10からの出力信号OUTを伝達する出力信号線18により接続されている。
なお、それぞれの端子は、内部回路10の構成により、複数配置されてもよい。
【0010】
内部回路10は、例えば、CMOSトランジスターなどの能動素子を含む回路であり、その回路構成は、半導体装置1の用途によって種々に構成されてよい。なお、CMOSトランジスターは、Complementary Metal Oxide Semiconductorを意味している。
【0011】
静電気保護回路20は、入力端子13および出力端子14に印加される静電気から内部回路10を保護するための回路であり、双方向ダイオードを含む構成によって、例えば、出力端子14と接地端子12との間に静電気が印加されたとき、内部回路10に誘起される電圧の上昇を抑え、内部回路10を保護する。ここで、印加される静電気によって内部回路10に誘起され、静電気保護回路20により上昇が抑えられる電圧を保持電圧と言う。
【0012】
静電気保護回路20は、静電気保護回路20を構成する双方向ダイオードの一方の端に接続されるノードN1と、他方の端に接続されるノードN2の2つのノードを備えている。
入力端子13に印加される静電気から内部回路10を保護する静電気保護回路20は、ノードN1が、入力配線17と接続され、ノードN2が、接地配線16と接続されている。出力端子14に印加される静電気から内部回路10を保護する静電気保護回路20は、ノードN1が、出力信号線18と接続され、ノードN2が、接地配線16と接続されている。すなわち、静電気保護回路20は、静電気が印加される可能性のある端子と接地電位VSSとの間において、保護対象回路としての内部回路10と並列に接続される。
【0013】
電源保護回路30は、静電気保護回路20とは異なる構成の保護回路であり、例えば、ダイオードなどのクランプ素子を含むクランプ回路を有し、電源端子11と接地端子12との間に静電気などを含む過電圧が印加されたときに、内部回路10に誘起される電圧の上昇を抑え、内部回路10を保護する機能を有する。
【0014】
次に、本実施形態の静電気保護回路20の詳細について、いくつかの具体的な実施例に基づき説明する。
なお、実施例では、第1伝導型がN型であり、第2伝導型がP型である場合を例に説明するが、第1伝導型がP型であり、第2伝導型がN型であってもよい。また、以降参照する図との対応において、分かり易くするために、
第1半導体領域を、N--半導体領域2041、
第2半導体領域を、N--半導体領域2042、
共通不純物領域を、N-共通不純物領域507、
埋込領域を、N+埋込領域517、
第1不純物領域を、P-不純物領域2061、
第2不純物領域を、P-不純物領域2062
P型の半導体基板を、P半導体基板203、
P半導体基板203の一方の面である積層方向の面を、各図における上面、つまり積層方向を各図における上方向、
第1ダイオードを、ダイオード201、
第2ダイオードを、ダイオード202、
第1電極を、電極2151、
第2電極を、電極2152、
第1不純物領域半導体層を、不純物領域半導体層2091、
第2不純物領域半導体層を、不純物領域半導体層2092、
第1金属化合物層を、金属化合物層2111、
第2金属化合物層を、金属化合物層2112、
共通不純物領域半導体層を、共通不純物領域半導体層208、
として説明する。
なお、本実施例において各不純物層、金属化合物層等の積層方向を一方の面として、各図における上面、上方向として便宜的に説明しているが、各図において下面に積層される場合、積層方向が下面、下方向であることは当然のこととして理解されたい。
【0015】
<実施例1>
図2を参照し、
図1の静電気保護回路20の、実施例1としての静電気保護回路20aについて説明する。
静電気保護回路20aは、N型のN--半導体領域2041およびN型のN--半導体領域2042と、これらN--半導体領域2041およびN--半導体領域2042よりN型のキャリア濃度が高いN-共通不純物領域507と、このN-共通不純物領域507よりN型のキャリア濃度が高いN+埋込領域517と、P型のP-不純物領域2061およびP型のP-不純物領域2062と、を備えている。
また、静電気保護回路20aは、電極2151と、P-不純物領域2061よりP型のキャリア濃度が高い不純物領域半導体層2091と、金属化合物層2111と、また、電極2152と、P-不純物領域2062よりP型のキャリア濃度が高い不純物領域半導体層2092と、金属化合物層2112と、を備えている。
【0016】
N+埋込領域517は、P半導体基板203の上面に延在して設けられている。P半導体基板203は、P型の極性を有する半導体基板である。静電気保護回路20aを構成する各領域は、このP半導体基板203に、例えば、不純物を拡散させることによって形成された領域である。
N--半導体領域2041とN--半導体領域2042とN-共通不純物領域507とは、N+埋込領域517の上方向に設けられてN+埋込領域517に接続されている。また、N--半導体領域2041とN--半導体領域2042とは、N-共通不純物領域507を介して接続されている。
P-不純物領域2061は、N--半導体領域2041の上方向に設けられてN--半導体領域2041に接続され、P-不純物領域2062は、N--半導体領域2042の上方向に設けられてN--半導体領域2042に接続されている。
【0017】
不純物領域半導体層2091は、P-不純物領域2061の上方向に設けられてP-不純物領域2061に接続され、金属化合物層2111は、不純物領域半導体層2091の上方向に設けられて不純物領域半導体層2091に接続されている。また、電極2151は、金属化合物層2111の上方向に設けられて金属化合物層2111に接続されている。電極2151は、ノードN1に接続される。
【0018】
不純物領域半導体層2092は、P-不純物領域2062の上方向に設けられてP-不純物領域2062に接続され、金属化合物層2112は、不純物領域半導体層2092の上方向に設けられて不純物領域半導体層2092に接続されている。また、電極2152は、金属化合物層2112の上方向に設けられて金属化合物層2112に接続されている。電極2152は、ノードN2に接続される。
【0019】
各領域の以上の配置において、P-不純物領域2061とN--半導体領域2041とでダイオード201が構成され、P-不純物領域2062とN--半導体領域2042とでダイオード202が構成される。ダイオード201は、そのアノードが電極2151に接続され、ダイオード202は、そのアノードが電極2152に接続され、ダイオード201とダイオード202とは、それぞれのカソードが、N-共通不純物領域507を介して接続される構成になっている。つまり、ダイオード201とダイオード202とは、ダイオードの順方向が互いに反対方向となる逆方向に接続されている。
【0020】
共通不純物領域半導体層208は、N-共通不純物領域507よりN型のキャリア濃度が高い領域であり、N-共通不純物領域507の上方向に設けられて、N-共通不純物領域507に接続され、共通カソード端子を接続可能に設けられている。
【0021】
静電気保護回路20aの保持電圧は、ダイオード201の耐圧とダイオード202の耐圧とで決まる。詳しくは、静電気保護回路20aの保持電圧は、ダイオード201とダイオード202の一方のダイオードの逆方向電圧と、他方のダイオードの順方向電圧との和の電圧となる。静電気保護回路20aでは、ダイオード201の耐圧およびダイオード202の耐圧を、個別に設定することができるように構成している。このため、正の保持電圧および負の保持電圧を、個別に設定することができる。
具体的には、
図2に示すように、P-不純物領域2061とN-共通不純物領域507との間に距離L1を設け、P-不純物領域2062とN-共通不純物領域507との間に距離L2を設け、距離L1と距離L2とが異なるように構成することにより、正の保持電圧および負の保持電圧を、個別に設定することができる。
【0022】
図3、
図4を参照し、距離L1、距離L2の効果について説明する。
図3は、
図4に示す従来技術における静電気保護回路20xにおいて、ダイオード201における距離L1を0μmから2.0μmまで0.5μmステップで変えて構成した場合のダイオード201の耐圧特性の違いを示すグラフである。従来技術における静電気保護回路20xは、
図4に示すようにN+埋込領域517を備えていない。また、静電気保護回路20xにおいて、N--半導体領域2041とN--半導体領域2042とは、N-共通不純物領域507によって分離されていない。
図3に示すように、ダイオード201は、距離L1を長くしていくと、それに伴って耐圧が高くなり、距離L1を短くすると、耐圧が低くなる。また、図示しないが、ダイオード202でも、同様に、距離L2を長くすると、それに伴って耐圧が高くなり、距離L2を短くすると、それに伴って耐圧が低くなる。距離L1、L2と耐圧との間には相関関係があるため、必要な耐圧を、この相関関係に基づいて設定することができる。
【0023】
しかしながら、
図4に示した従来技術の静電気保護回路20xでは、距離L1、あるいは距離L2を長くして保持電圧を高く設定した場合に、ブレークダウン電流による発熱量が大きくなり、静電気保護回路20xが熱破壊し易くなるという課題があった。具体的には、例えば、接地電位のノードN2に対して、つまり接地電位のダイオード202のアノード側の電極2152に対して、ノードN1に、つまり、ダイオード201のアノード側の電極2151に負の静電気が印加された場合に、ダイオード201がブレークダウンした場合のブレークダウン電流は、
図4に破線矢印で示す電流経路A0のように、比較的インピーダンスの低い表面付近を流れる。表面付近とは、積層構造の静電気保護回路20xにおいて、P半導体基板203が延在する深層側とは逆側の、P-不純物領域2062、N--半導体領域2042、N-共通不純物領域507、N--半導体領域2041、P-不純物領域2061が順に並ぶ表面付近である。保持電圧が高くなった結果として大きな電力集中により発熱し、耐熱性の低い部位において破壊に至ってしまう。
【0024】
例えば、
図3に示すダイオード201の耐圧特性のグラフからも分かるように、距離L1=1.0μmの場合には、保持電圧が約30V~50Vで1Aを越える付近、つまり約50Wで破壊に至るのに対して、距離L1=2.0μmとした場合に、保持電圧が約60V~70Vで0.5A、つまり35Wに至らない範囲で破壊に至ってしまう。
【0025】
これに対して、本実施例の静電気保護回路20aでは、P半導体基板203の上面に延在するようにN+埋込領域517が設けられ、その上層に設けられたN--半導体領域2041とN--半導体領域2042とN-共通不純物領域507とは、N+埋込領域517に接続されている。
N+埋込領域517は、N-共通不純物領域507よりもN型のキャリア濃度が高くインピーダンスが低い。そのため、ダイオード201がブレークダウンした場合のブレークダウン電流は、
図2に破線矢印で示す電流経路A1のように、よりインピーダンスの低い深層側を介して流れるようになる。その結果、表面付近に集中するブレークダウン電流が深層側に分散される。
【0026】
また、本実施例では、
図2に示すように、金属化合物層2111のN-共通不純物領域507に近い側の端部2111e、つまり
図2における金属化合物層2111の右側の端部は、遠い側の端部、つまり
図2における金属化合物層2111の左側の端部の方向に向かって、不純物領域半導体層2091のN-共通不純物領域507に近い側の端部2091eから離間して配設されている。
【0027】
本実施例のこのような構成に対して、
図5には、金属化合物層2111の端部2111eが、不純物領域半導体層2091の端部2091eの位置に重なるように設けられている例を示している。金属化合物層2111は、不純物領域半導体層2091に比較してインピーダンスが低いため、このように、金属化合物層2111のN-共通不純物領域507に近い側の端部2111eが、不純物領域半導体層2091と同じ位置に積層した場合に、P-不純物領域2061を介して不純物領域半導体層2091に流れ込むブレークダウン電流は、
図5に、破線と白矢印で示す電流経路A2のように、P-不純物領域2061のN-共通不純物領域507に近い端部に、つまり、P-不純物領域2061の比較的浅い領域に集中し易い。
これに対して、本実施例の構成では、先に説明したように、金属化合物層2111の端部2111eが、金属化合物層2111の、N-共通不純物領域507から遠い側の端部に向かって、不純物領域半導体層2091のN-共通不純物領域507に近い側の端部2091eから離間して配設されている。その結果、P-不純物領域2061を介して不純物領域半導体層2091に流れ込むブレークダウン電流の経路は、
図5に示す従来技術に比べ、N-共通不純物領域507から離れた位置となるため、P-不純物領域2061のより深い位置を経由して流れるようになり、電力の集中が緩和される。
【0028】
同様に、
図2に示すように、金属化合物層2112のN-共通不純物領域507に近い側の端部2112e、つまり
図2における金属化合物層2112の左側の端部は、遠い側の端部、つまり
図2における金属化合物層2112の右側の端部の方向に向かって、不純物領域半導体層2092のN-共通不純物領域507に近い側の端部2092eから離間して配設されている。
【0029】
なお、
図2においては、金属化合物層2111の端部2111eの反対側の端部、および、金属化合物層2112の端部2112eの反対側の端部も、それぞれ不純物領域半導体層2091および不純物領域半導体層2092の端部から内側に離間した位置に配置されているが、これらの端部は、これらの端部領域に電力の集中が危惧されない場合において、不純物領域半導体層2091および不純物領域半導体層2092の端部と重なる位置に配置されていてもよい。
図2のように、両側において端部を離間させるのは、
図2に示されていない左右の領域からのブレークダウン電流の流入を含む両側からのブレークダウン電流の流入に対応させるためである。なお、
図9、
図10に示すように、半導体装置1に静電気保護回路20aを適用する際には、
図2に示す静電気保護回路20aを複数並列に配置する。このように複数配置することで、静電気保護回路としての耐量を増加させることができる。
【0030】
本実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
静電気保護回路20aによれば、互いに逆方向に接続されるダイオード201とダイオード202とを含む回路によって、印加される静電気から保護対象回路としての内部回路10を保護することができる。
また、P-不純物領域2061とN--半導体領域2041とで構成されるダイオード201と、P-不純物領域2062とN--半導体領域2042とで構成されるダイオード202とが、N-共通不純物領域507を介して互いに逆方向に接続され、N--半導体領域2041とN--半導体領域2042とN-共通不純物領域507とは、N+埋込領域517の上方向に設けられてN+埋込領域517に接続されている。そのため、P-不純物領域2061とP-不純物領域2062との間で流れるブレークダウン電流は、半導体基板の積層構造の表面付近から、よりインピーダンスの低いN+埋込領域517に分散されて流れる、つまり積層構造の表面付近から深い側を流れるようになる。その結果、ダイオード201、ダイオード202のブレークダウン電圧、つまり保持電圧を高くなるように構成し、ブレークダウン電流が増加した場合であっても、電力の集中による発熱が分散されるため、静電気保護回路20が破壊に至ることが抑制される。
【0031】
また、P-不純物領域2061とN-共通不純物領域507との距離L1と、P-不純物領域2062とN-共通不純物領域507との距離L2と、が異なっている。距離L1と距離L2とを異ならせることで、正の保持電圧と負の保持電圧とを異ならせることができる。
【0032】
また、静電気保護回路20aによれば、金属化合物層2111のN-共通不純物領域507に近い側の端部2111eは、遠い側の端部に向かって、不純物領域半導体層2091のN-共通不純物領域507に近い側の端部2091eから離間して配設されている。金属化合物層2111のN-共通不純物領域507に近い側の端部2111eが、不純物領域半導体層2091のN-共通不純物領域507に近い側の端部2091eに重なる位置に配設される場合に比較して、P-不純物領域2061とP-不純物領域2062との間で流れるブレークダウン電流は、P-不純物領域2061のより深い位置に分散して流れるようになる。その結果、電力の集中による発熱が深い位置に分散されるため、静電気保護回路20が破壊に至ることが抑制される。
【0033】
また、静電気保護回路20aによれば、金属化合物層2112のN-共通不純物領域507に近い側の端部2112eは、遠い側の端部に向かって、不純物領域半導体層2092のN-共通不純物領域507に近い側の端部2092eから離間して配設されている。金属化合物層2112のN-共通不純物領域507に近い側の端部2112eが、不純物領域半導体層2092のN-共通不純物領域507に近い側の端部2092eに重なる位置に配設される場合に比較して、P-不純物領域2061とP-不純物領域2062との間で流れるブレークダウン電流は、P-不純物領域2062のより深い位置に分散して流れるようになる。その結果、電力の集中による発熱が深い位置に分散されるため、静電気保護回路20が破壊に至ることが抑制される。
【0034】
図6には、以上の構成の静電気保護回路20aにおけるダイオード201の耐圧特性を示している。距離L1=2.0μmの場合には、保持電圧が約22V~55Vで1.5Aを越える付近、つまり約83Wまで破壊には至っていない。また、距離L1=4.0μmとした場合であっても、保持電圧が約55V~105Vで1.2A、つまり120Wを越える範囲まで破壊には至っていない。
【0035】
また、静電気保護回路20aでは、第1伝導型がN型であり、第2伝導型がP型である。そのため、一般に広く用いられているP型基板を用いて、特性に優れた静電気保護回路20を実現することができる。
【0036】
また、半導体装置1は、静電気保護回路20aを備えることにより、印加される静電気から、より効果的、長期的に半導体装置1を保護することができる。
【0037】
<実施例2>
次に、
図7を参照し、実施例2について説明する。
実施例1では、距離L1と距離L2とを異ならせることで、正の保持電圧と負の保持電圧とを異ならせることができるとした。しかしながら、例えば、一方の保持電圧に寄与する距離L1を距離L1=0μmとしても、保持電圧が高くなりすぎてしまう場合がある。この場合には、内部回路10の静電耐圧を保持電圧より高く設計する必要が生じてしまう。そこで、本実施例の静電気保護回路20bでは、
図7に示すように、不純物領域半導体層2091を、P-不純物領域2061とN-共通不純物領域507の上方向において、共通不純物領域半導体層208とは離間させながら、P-不純物領域2061からN-共通不純物領域507に跨るように延在させ、P-不純物領域2061とN-共通不純物領域507とに接続するように構成している。その結果、不純物領域半導体層2091とN-共通不純物領域507とで構成されるダイオード201bの逆方向電圧は、実施例1の静電気保護回路20aにおいてP-不純物領域2061とN--半導体領域2041とで構成されるダイオード201に比較して、より低い電圧となる。
なお、このように構成した場合には、距離L1≠0であってもよい。L1≠0の場合、P+・N-構造のダイオードと並列に接続されるダイオードの構造がP-・N--構造であるのに対し、L1=0の場合、並列に接続されるダイオードの構造は、P-・N-構造で、P-・N--よりもブレークダウン電圧が低い構造のため、放電時の電流が分散され、保護素子としての破壊電流をさらに大きくすることができる。
【0038】
静電気保護回路20bによれば、実施例1の静電気保護回路20aにおいて構成されるダイオード201と比較して、逆方向電圧がより低い、つまり、保持電圧がより低くなるダイオード201bを構成することができる。その結果、印加される静電気によって内部回路10に誘起される電圧の上昇を抑えることができる。つまり、静電耐圧が比較的低い内部回路10であっても保護することが可能となる。
【0039】
図8には、実施例2の他の例としての静電気保護回路20cを示している。この例では、共通不純物領域半導体層208を、P-不純物領域2061とN--半導体領域2041とN-共通不純物領域507の上方向において、不純物領域半導体層2091とは離間させながら、P-不純物領域2061からN-共通不純物領域507に跨るように延在させ、P-不純物領域2061とN-共通不純物領域507とに接続するように構成している。その結果、P-不純物領域2061と共通不純物領域半導体層208とで構成されるダイオード201cの逆方向電圧は、実施例1の静電気保護回路20aにおいてP-不純物領域2061とN--半導体領域2041とで構成されるダイオード201に比較して、より低い電圧となる。
なお、このように構成した場合には、距離L1≠0であってもよい。L1≠0の場合、P+・N-構造のダイオードと並列に接続されるダイオードの構造がP-・N--構造であるのに対し、L1=0の場合、並列に接続されるダイオードの構造は、P-・N-構造で、P-・N--よりもブレークダウン電圧が低い構造のため、放電時の電流が分散され、保護素子としての破壊電流をさらに大きくすることができる。
【0040】
静電気保護回路20cによれば、実施例1の静電気保護回路20aにおいて構成されるダイオード201と比較して、逆方向電圧がより低い、つまり、保持電圧がより低くなるダイオード201cを構成することができる。その結果、印加される静電気によって内部回路10に誘起される電圧の上昇を抑えることができる。つまり、静電耐圧が比較的低い内部回路10であっても保護することが可能となる。
【0041】
なお、実施例2では、ダイオード201の構成における変形例として説明したが、ダイオード202も同様に構成することができる。
【0042】
<電子機器>
次に、
図11を参照し、実施形態に係る電子機器について説明する。
本実施形態の電子機器100は、
図11に示すように、CPU220、操作部230、ROM240、RAM250、通信部260、表示部270、音声出力部280を備えている。CPUは、Central Processing Unitを、ROMは、Read-Only Memoryを、RAMは、Random access memoryを意味する。
【0043】
ここで、CPU220、ROM240、RAM250、通信部260、表示部270および音声出力部280のうちの少なくとも一部は、図示しないが、前記実施形態に係る半導体装置1に内蔵されている。つまり、電子機器100は、各機能を実現する機能部としての内部回路10と、前述した静電気保護回路20とを内蔵する半導体装置1を備えている。これにより、半導体装置1では、内蔵されたCPU220等を、静電気や異常信号等から保護することができる。電子機器100は、半導体装置1が、印加される静電気から、より効果的、長期的に保護されるため、より信頼性の高い電子機器として構成される。
【0044】
なお、
図11に示す構成要素の一部は、省略または変更されていてもよく、
図11に示す構成要素に他の構成要素が付加されていてもよい。
CPU220は、ROM240等に記憶されているプログラムにしたがって、外部から供給されるデータ等を用いて各種の信号処理や制御処理を行う。例えば、CPU220は、操作部230から供給される操作信号に応じて各種の信号処理を行ったり、外部との間でデータ通信を行うために通信部260を制御したり、表示部270に各種の画像を表示させるための画像信号を生成したり、音声出力部280に各種の音声を出力させるための音声信号を生成したりする。
【0045】
操作部230は、例えば、操作キーやボタンスイッチ等を含む入力装置であり、ユーザーによる操作に応じた操作信号をCPU220に出力する。ROM240は、CPU220が各種の信号処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶する。RAM250は、CPU220の作業領域として用いられ、ROM240から読み出されたプログラムやデータ、操作部230を用いて入力されたデータ、または、CPU220がプログラムにしたがって実行した演算結果等を一時的に記憶する。
【0046】
通信部260は、例えば、アナログ回路およびデジタル回路で構成され、CPU220と外部装置との間のデータ通信を行う。表示部270は、例えば、LCD等を含み、CPU220から供給される画像信号に基づいて各種の画像を表示する。LCDは、Liquid Crystal Displayを意味する。
【0047】
音声出力部280は、例えば、スピーカー等を含み、CPU220から供給される音声信号に基づいて音声を出力する。
【0048】
このような電子機器100としては、例えば、腕時計や置時計等の時計、タイマー、携帯電話機等の移動端末、デジタルスチルカメラ、デジタルムービー、テレビ、テレビ電話、防犯用テレビモニター、ヘッドマウント・ディスプレイ、パーソナルコンピューター、プリンター、ネットワーク機器、複合機、車載装置、電卓、電子辞書、電子ゲーム機器、ロボット、測定機器、医療機器等が挙げられる。
【符号の説明】
【0049】
1…半導体装置、10…内部回路、11…電源端子、12…接地端子、13…入力端子、14…出力端子、15…電源配線、16…接地配線、17…入力配線、18…出力信号線、20…静電気保護回路、20a…静電気保護回路、20b…静電気保護回路、20c…静電気保護回路、30…電源保護回路、100…電子機器、201…ダイオード、201b…ダイオード、201c…ダイオード、202…ダイオード、203…P半導体基板、208…共通不純物領域半導体層、507…N-共通不純物領域、517…N+埋込領域、2041…N--半導体領域、2042…N--半導体領域、2061…P-不純物領域、2062…P-不純物領域、2091…不純物領域半導体層、2091e…端部、2092…不純物領域半導体層、2092e…端部、2111…金属化合物層、2111e…端部、2112…金属化合物層、2112e…端部、2151…電極、2152…電極、A1…電流経路、A2…電流経路、L1…距離、L2…距離、N1…ノード、N2…ノード。