(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20241106BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B41J2/165 203
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/165 211
B41J2/165 207
B41J2/165 501
(21)【出願番号】P 2021010973
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】上田 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】新藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】洞田 竜児
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 善一郎
(72)【発明者】
【氏名】洞出 賢太
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-074140(JP,A)
【文献】特開2015-189158(JP,A)
【文献】特開2005-238159(JP,A)
【文献】特開2016-087976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズルが液体の吐出に異常のある異常ノズルであるか否かを確認するための検査用駆動を前記液体吐出ヘッドに行わせた際に、前記異常ノズルであるか否かを示す判定用信号を前記複数のノズルそれぞれに対応させて出力する
判定用信号出力部と、
前記ノズルから液体を排出させる回復動作を行う回復手段と、
温度を示す温度信号を出力する温度信号出力部と、
記憶部と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記液体吐出ヘッドに前記検査用駆動を行わせたときに、前記判定用信号出力部から出力された前記判定用信号に基づく前記異常ノズルの数及び状態の少なくも一つに関連する第1異常ノズル情報と、前記温度信号出力部から出力された前記温度信号が示す温度に関連する第1温度情報と、を前記記憶部に記憶させ、
その後、前記回復手段に前記回復動作を行わせるときに、
前記記憶部に記憶された前記第1温度情報と、前記温度信号出力部から出力される前記温度信号に関連する第2温度情報とが、温度差に関する所定条件を満たすか否かに基づき、前記第1異常ノズル情報に基づいて前記回復手段に前記回復動作を行わせるか否かを切り換えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記回復手段に前記回復動作を行わせるときに、
前記所定条件を満たす場合には、
前記第1異常ノズル情報に基づいて、前記回復手段に前記回復動作を行わせ、
前記所定条件を満たさない場合には、
再度前記検査用駆動を行わせ、前記判定用信号出力部から出力された前記判定用信号に基づく前記異常ノズルの数及びまたは状態の少なくも一つに関連する第2異常ノズル情報を取得し、
前記第2異常ノズル情報に基づいて、前記回復手段に前記回復動作を行わせることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記回復手段に前記回復動作を行わせるときに、
前記所定条件を満たす場合には、
前記第1異常ノズル情報に基づいて、前記回復手段に前記回復動作を行わせ、
前記所定条件を満たさず、且つ、前記第2温度情報が前記第1温度情報よりも温度が高いことを示す情報である場合には、前記第1異常ノズル情報に基づいて前記回復手段に前記回復動作を行わせる場合よりも液体の排出量が少なくなるように、前記回復手段に前記回復動作を行わせることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記回復手段に前記回復動作を行わせるときに、
前記所定条件を満たす場合には、
前記第1異常ノズル情報に基づいて、前記回復手段に前記回復動作を行わせ、
前記所定条件を満たさず、且つ、前記第2温度情報が前記第1温度情報よりも温度が低いことを示す情報である場合には、前記第1異常ノズル情報に基づいて前記回復手段に前記回復動作を行わせる場合よりも液体の排出量が多くなるように、前記回復手段に前記回復動作を行わせることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記所定条件は、前記第1温度情報が示す温度と前記第2温度情報が示す温度との温度差が閾値以下であるという条件であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記記憶部は、範囲が重複しない複数種類の温度範囲の情報を記憶し、
前記第1温度情報及び前記第2温度情報は、前記複数種類の温度範囲のうちいずれの温度範囲であるかを示す情報であり、
前記所定条件は、前記第1温度情報が示す前記温度範囲と、前記第2温度情報が示す前記温度範囲とが、同じ温度範囲であるという条件であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記液体吐出ヘッドが、
前記ノズルと連通する複数の圧力室と、
前記圧力室内の液体に圧力を付与する駆動素子と、を有し、
前記駆動素子に電位を付与するドライバIC、を備え、
前記制御装置は、
前記ドライバICを制御して、前記駆動素子に電位を付与させることによって、前記液体吐出ヘッドに前記検査用駆動を行わせ、
前記温度信号出力部から出力される前記温度信号が示す温度が、前記複数種類の温度範囲のうちどの温度範囲内の温度であるかによって、前記駆動素子に付与させる電位を異ならせることを特徴とする請求項6に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記液体吐出ヘッドが、
前記ノズルと連通する複数の圧力室と、
前記圧力室内の液体に圧力を付与する駆動素子と、を有し、
前記制御装置は、
前記駆動素子に駆動信号を送信することによって、前記液体吐出ヘッドに前記検査用駆動を行わせ、
前記温度信号出力部から出力される前記温度信号が示す温度が、前記複数種類の温度範囲のうちどの温度範囲内の温度であるかによって、前記駆動素子に送信する前記駆動信号の波形を異ならせることを特徴とする請求項6に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
現在の時刻を示す時刻信号を出力する時刻信号出力部、を備え、
前記制御装置は、
前記時刻信号出力部から、所定時刻であることを示す前記時刻信号を受信したときに、
前記液体吐出ヘッドに前記検査用駆動を行わせ、
前記温度信号出力部から出力された前記温度信号が示す温度に関連する前記第1温度情報を前記記憶部に記憶させることを特徴とする請求項1~
8のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記制御装置は、
前記所定時刻であることを示す前記時刻信号の受信後、当該時刻信号とは別の信号を受信したときに、
前記回復手段に前記回復動作を行わせることを特徴とする請求項
9に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
前記別の信号は、
被吐出媒体に液体を吐出することを指示する指示信号であることを特徴とする請求項
10に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
前記別の信号は、前記検査用駆動の後、最初に受信する前記指示信号であることを特徴とする請求項
11に記載の液体吐出装置。
【請求項13】
前記回復手段は、
前記液体吐出ヘッドと接続可能なポンプを有し、
前記回復動作が、前記ポンプを駆動させることによって、前記ノズルから前記液体吐出ヘッド内の液体を排出させるパージを含むことを特徴とする請求項1~
12のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項14】
前記回復手段は、
前記液体吐出ヘッドを有し、
前記回復動作は、前記液体吐出ヘッドに前記ノズルから液体を吐出させるフラッシングを含むことを特徴とする請求項1~
13のいずれかに記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルから液体を吐出する液体吐出装置の一例として、特許文献1には、ノズルからインク滴を吐出するインクジェットプリンタが記載されている。特許文献1に記載のプリンタでは、ノズルから正常にインク滴が吐出されるか否かを検査するノズル検査処理を実行し、異常ノズルが発見されたときに、ノズル検査処理の結果に基づいてクリーニングの種類を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようなインクジェットプリンタでは、温度が変化するとヘッド内のインクの粘度が変化して、異常ノズルであるか否かの状態が変わることがある。また、ノズル検査処理の実行後、クリーニングが行われるまでに、例えば別の処理が行われる等、ある程度の期間が空く場合は、この期間に温度が大きく変わることがある。この場合には、温度が変わる前のノズル検査処理の結果に基づいてクリーニングを実行した場合、クリーニングが適切なものでなくなっている虞がある。
【0005】
本発明の目的は、大きな温度変化があった場合にも、異常ノズルを回復させるための回復動作を適切に行うことが可能な液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液体吐出装置は、液体を吐出する複数のノズルを有する液体吐出ヘッドと、前記ノズルが液体の吐出に異常のある異常ノズルであるか否かを確認するための検査用駆動を前記液体吐出ヘッドに行わせた際に、前記異常ノズルであるか否かを示す判定用信号を前記複数のノズルそれぞれに対応させて出力する信号出力部と、前記ノズルから液体を排出させる回復動作を行う回復手段と、温度を示す温度信号を出力する温度信号出力部と、記憶部と、制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記液体吐出ヘッドに前記検査用駆動を行わせたときに、前記判定用信号出力部から出力された前記判定用信号に基づく前記異常ノズルの数及び状態の少なくも一つに関連する第1異常ノズル情報と、前記温度信号出力部から出力された前記温度信号が示す温度に関連する第1温度情報と、を前記記憶部に記憶させ、その後、前記回復手段に前記回復動作を行わせるときに、前記記憶部に記憶された前記第1温度情報と、前記温度信号出力部から出力される前記温度信号に関連する第2温度情報とが、温度差に関する所定条件を満たすか否かに基づき、前記第1異常ノズル情報に基づいて前記回復手段に前記回復動作を行わせるか否かを切り換える。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、大きな温度変化があった場合にも、異常ノズルを回復させるための回復動作を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るプリンタの概略構成図である。
【
図2】キャップ内に配置された検出用電極、及び、検出用電極と高電圧電源回路及び判定回路との接続関係を説明するための図である。
【
図3】(a)はノズルからインクが吐出された場合の検出用電極の電位の変化を示す図であり、(b)はノズルからインクが吐出されなかった場合の検出用電極の電位の変化を示す図である。
【
図5】(a)は
図4のVA部拡大図であり、(b)は(a)のVB-VB線断面図である。
【
図6】プリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【
図7】制御装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】(a)は温度範囲と駆動電位とが関連付けられたテーブルを説明するための図であり、(b)は異常ノズルの数と回復動作とが関連付けられたテーブルを説明するための図である。
【
図9】変形例1の
図7に対応するフローチャートである。
【
図10】変形例2の
図7に対応するフローチャートである。
【
図11】変形例3の
図7に対応するフローチャートである。
【
図12】変形例4の温度範囲と駆動波形とが関連付けられたテーブルを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0011】
<プリンタの全体構成>
図1に示すように、本実施形態に係るプリンタ1(本発明の「液体吐出装置」)は、キャリッジ2、サブタンク3、インクジェットヘッド4(本発明の「液体吐出ヘッド」)、プラテン5、搬送ローラ6,7、メンテナンスユニット8などを備えている。
【0012】
キャリッジ2は、走査方向に延びた2本のガイドレール11,12に支持されている。キャリッジ2は、図示しないベルトなどを介してキャリッジモータ86(
図6参照)に接続されており、キャリッジモータ86を駆動させると、キャリッジ2がガイドレール11,12に沿って走査方向に移動する。なお、以下では、
図1に示すように、走査方向の右側及び左側を定義して説明を行う。
【0013】
サブタンク3は、キャリッジ2に搭載されている。ここで、プリンタ1は、カートリッジホルダ13を備えており、カートリッジホルダ13に4つのインクカートリッジ14が取り外し可能に装着されている。4つのインクカートリッジ14は、走査方向に並んでおり、走査方向の右側に配置されたものから、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインク(本発明の「液体」)を貯留している。サブタンク3は、4本のチューブ15を介してカートリッジホルダ13に装着された4つのインクカートリッジ14と接続されている。これにより、4つのインクカートリッジ14からサブタンク3に上記4色のインクが供給される。
【0014】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ2に搭載され、サブタンク3の下端部に接続されている。インクジェットヘッド4には、サブタンク3から上記4色のインクが供給される。また、インクジェットヘッド4は、その下面であるノズル面4aに形成された複数のノズル10からインクを吐出する。より詳細に説明すると、複数のノズル10は、走査方向と直交する搬送方向に配列されることによってノズル列9を形成しており、ノズル面4aにおいて、4列のノズル列9が走査方向に並んでいる。複数のノズル10からは、走査方向の右側のノズル列9を構成するものから、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクが吐出される。
【0015】
プラテン5は、インクジェットヘッド4の下方に配置され、複数のノズル10と対向している。プラテン5は、走査方向に記録用紙P(本発明の「被吐出媒体」)の全長にわたって延び、記録用紙Pを下方から支持する。搬送ローラ6は、インクジェットヘッド4及びプラテン5よりも搬送方向の上流側に配置されている。搬送ローラ7は、インクジェットヘッド4及びプラテン5よりも搬送方向の下流側に配置されている。搬送ローラ6,7は、図示しないギヤなどを介して搬送モータ87(
図6参照)に接続されている。搬送モータ87を駆動させると、搬送ローラ6,7が回転し、記録用紙Pが搬送方向に搬送される。
【0016】
メンテナンスユニット8は、キャップ71と、吸引ポンプ72と、廃液タンク73とを備えている。キャップ71は、プラテン5よりも走査方向の右側に配置されている。そして、キャリッジ2を、プラテン5よりも走査方向の右側のメンテナンス位置に位置させると、複数のノズル10がキャップ71と対向する。
【0017】
また、キャップ71は、キャップ昇降機構88(
図6参照)によって昇降可能となっている。そして、キャリッジ2を上記メンテナンス位置に位置させることによって複数のノズル10とキャップ71とを対向させた状態で、キャップ昇降機構88によりキャップ71を上昇させると、キャップ71の上端部がノズル面4aに密着し、複数のノズル10がキャップ71に覆われる。なお、キャップ71はノズル面4aに密着することで複数のノズル10を覆うものであることには限られない。キャップ71は、例えば、インクジェットヘッド4のノズル面4aの周囲に配置される図示しないフレーム等に密着することで、複数のノズル10を覆うものであってもよい。
【0018】
吸引ポンプ72はチューブポンプなどであり、キャップ71及び廃液タンク73と接続されている。そして、メンテナンスユニット8では、上述したように複数のノズル10がキャップ71によって覆われた状態で吸引ポンプ72を駆動させると、複数のノズル10からインクジェットヘッド4内のインクを排出させる、いわゆる吸引パージを行うことができる。吸引パージによって排出されたインクは廃液タンク73に貯留される。
【0019】
また、本実施形態では、弱パージ、中パージ、強パージの3種類の吸引パージのいずれかを選択的に行わせることができる。中パージは弱パージよりもインクの排出量が多く、強パージは中パージよりもインクの排出量が多い。弱パージ、中パージ、強パージ間では、例えば、吸引ポンプ72の駆動時間及び吸引ポンプ72の回転速度のうち少なくとも片方が異なっていることにより、インクの排出量が異なっている。
【0020】
なお、ここでは、便宜上、キャップ71が全てのノズル10をまとめて覆い、吸引パージにおいて、全てのノズル10からインクジェットヘッド4内のインクを排出させるものとして説明を行ったが、これには限られない。例えば、キャップ71が、ブラックインクを吐出する最も右側のノズル列9を構成する複数のノズル10を覆う部分と、カラーインク(イエロー、シアン、マゼンタのインク)を吐出する左側3列のノズル列9を構成する複数のノズル10を覆う部分とを別々に備えており、吸引パージにおいて、インクジェットヘッド4内のブラックインク及びカラーインクのいずれかを選択的に排出させることができるようになっていてもよい。あるいは、例えば、キャップ71が、ノズル列9毎に個別に設けられ、吸引パージにおいて、ノズル列9毎に個別に、ノズル10からインクを排出させることができるようになっていてもよい。
【0021】
また、
図2に示すように、キャップ71内には、矩形の平面形状を有する検出用電極76が配置されている。検出用電極76は、抵抗79を介して高電圧電源回路77に接続されている。そして、検出用電極76には、後述する判定用駆動の際に、高電圧電源回路77により所定の正の電位(例えば600V程度)が付与される。一方で、インクジェットヘッド4は、グランド電位に保持されている。これにより、インクジェットヘッド4と検出用電極76との間に所定の電位差が生じる。検出用電極76には、判定回路78が接続されている。判定回路78は、検出用電極76から出力された信号の電位と、閾値Vtとを比較し、その結果に応じた信号を出力する。
【0022】
より詳細に説明すると、インクジェットヘッド4と、検出用電極76との間には電位差が生じているため、ノズル10から吐出されたインクは帯電している。キャリッジ2を上記メンテンナンス位置に位置させた状態で、ノズル10から検出用電極76に向けてインクを吐出させると、
図3(a)に示すように、帯電したインクが検出用電極76に近づき、検出用電極76にインクが着弾するまで、検出用電極76の電位が、インクジェットヘッド4が駆動されていないときの電位Vaから低下し、電位Vaよりも低い電位Vbに達する。そして、帯電したインクが検出用電極76に着弾した後、検出用電極76の電位が徐々に上昇して電位Vaに戻る。すなわち、インクジェットヘッド4の駆動期間Tdにおいて、検出用電極76の電位が変化する。
【0023】
一方で、ノズル10からインクが吐出されていない場合には、
図3(b)に示すように、インクジェットヘッド4の駆動期間Tdにおいて、検出用電極76の電位は、電位Vaからほとんど変化しない。そこで、判定回路78は、これらを区別するために閾値Vt(Vb<Vt<Va)が設定されている。そして、判定回路78は、インクジェットヘッド4の駆動期間Tdにおいて、検出用電極76から出力される電圧信号の最大の電位と閾値Vtとを比較し、その判定結果に応じた判定用信号を出力する。なお、本実施形態では、検出用電極76と、高電圧電源回路77と抵抗79と判定回路78とを合わせたものが、本発明の「信号出力部」に相当する。そして、この信号出力部は、ノズル10が、インクが吐出されない異常ノズルであるか否かに応じた判定用信号を出力する。
【0024】
また、ここでは、高電圧電源回路77により、検出用電極76に正の電位が付与されているが、高電圧電源回路77により、検出用電極76に負の電位(例えば-600V程度)が付与されていてもよい。この場合には、上述したのとは逆に、キャリッジ2を上記メンテンナンス位置に位置させた状態で、ノズル10から検出用電極76に向けてインクを吐出させると、帯電したインクが検出用電極76に近づき、検出用電極76にインクが着弾するまで、検出用電極76の電位が電位Vaから上昇し、検出用電極76にインクが着弾した後、検出用電極76の電位が徐々に低下して電位Vaに戻る。
【0025】
<インクジェットヘッド>
次に、インクジェットヘッド4の構造について詳細に説明する。
図4、
図5(a)、(b)に示すように、インクジェットヘッド4は、流路ユニット21と、圧電アクチュエータ22とを有する。
【0026】
流路ユニット21は、プレート31~35が下方からこの順に鉛直方向に積層されることによって形成されている。流路ユニット21は、ノズル10をそれぞれ含む複数の個別流路41と、4つの共通流路42とを備えている。
【0027】
上記のように複数のノズル10が4列のノズル列9を形成しているのに対応して、複数の個別流路41は、搬送方向に配列されることによって個別流路列29を形成しており、流路ユニット21は、走査方向に並んだ4列の個別流路列29を有する。
【0028】
各個別流路41は、ノズル10と、圧力室51と、ディセンダ52と、絞り流路53とを有する。ノズル10と、圧力室51の走査方向における左側の端部とが、ディセンダ52を介して接続され、圧力室51の走査方向における右側の端部に絞り流路53が接続されている。なお、ノズル10、圧力室51、ディセンダ52及び絞り流路53の構造や位置関係については、従来と同様であるので、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0029】
4つの共通流路42は、4列の個別流路列29に対応しており、搬送方向に延びて、対応する個別流路列29を構成する複数の個別流路41の走査方向における右側の部分と鉛直方向に重なっている。そして、共通流路42は、これらの個別流路41を構成する絞り流路53の走査方向の右側の端部と接続されている。また、各共通流路42は、搬送方向の上流側の端部に設けられた供給口42aからインクが供給される。
【0030】
圧電アクチュエータ22は、振動板61と、圧電層62と、共通電極63と、複数の個別電極64とを有する。振動板61は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛の混晶であるチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料からなり、流路ユニット21の上面(プレート35の上面)に配置され、複数の圧力室51を覆っている。圧電層62は、上述の圧電材料からなり、振動板61の上面に配置され、複数の圧力室51にわたって連続的に延びている。なお、本実施形態では、振動板61及び圧電層62が圧電材料からなるが、振動板61については、例えば合成樹脂材料など、圧電材料以外の絶縁性材料からなるものであってもよい。
【0031】
共通電極63は、振動板61と圧電層62との間に配置され、その全域にわたって延びている。共通電極63は、図示しない配線を介して図示しない電源に接続され、グランド電位に保持されている。複数の個別電極64は、圧電層62の上面に配置されている。複数の個別電極64は、複数の圧力室51に個別のものであり、対応する圧力室51の中央部と鉛直方向に重なっている。複数の個別電極64は、それぞれ、図示しない配線を介してドライバIC89(
図6参照)に接続されている。そして、ドライバIC89から各個別電極64にグランド電位及び駆動電位(例えば20~30V程度)のいずれかが選択的に付与される。また、共通電極63及び複数の個別電極64がこのように配置されているのに対応して、圧電層62の共通電極63と各個別電極64とに挟まれた部分が、ぞれぞれ、厚み方向に分極されている。
【0032】
圧電アクチュエータ22では、各圧力室51と鉛直方向に重なる部分が、圧力室51内のインクに圧力を付与するための駆動素子22aとなっている。そして、ドライバIC89により個別電極64の電位をグランド電位と駆動電位とで切り換えることによって駆動素子22aを駆動させることができる。駆動素子22aを駆動させると、個別電極64と共通電極63との電位差が変化することで、圧電層62及び振動板61の圧力室51と鉛直方向に重なる部分が変形する。この変形により、圧力室51内のインクの圧力が変動し、圧力室51に連通するノズル10からインクを吐出させることができる。
【0033】
<プリンタの電気的構成>
次に、プリンタ1の電気的構成について説明する。
図6に示すように、プリンタ1は、制御装置80を備えている。制御装置80は、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83、フラッシュメモリ84、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)85などからなる。制御装置80は、キャリッジモータ86、ドライバIC89、搬送モータ87、キャップ昇降機構88、吸引ポンプ72、高電圧電源回路77等の動作を制御する。なお、本実施形態では、制御装置80は、ドライバIC89を制御することによって、インクジェットヘッド4を制御している。また、制御装置80は、判定回路78から判定用信号を受信する。
【0034】
また、プリンタ1は、以上で説明した構成のほかに、表示部69と操作部70と温度センサ68(本発明の「温度信号出力部」)と時計部67(本発明の「時刻信号出力部」)とを備えている。表示部69は、例えば、プリンタ1の筐体に設けられた液晶ディスプレイなどである。制御装置80は、表示部69を制御して、プリンタ1の動作に必要な情報等を表示する。操作部70は、例えば、プリンタ1の筐体に設け設けられたボタン、表示部69に設けられたタッチパネルなどである。ユーザが操作部70を操作することによって、制御装置80に対する信号の入力を行うことができる。
【0035】
温度センサ68は、気温等の温度を検出し、当該温度を示す温度信号を出力する。制御装置80は、温度センサ68から上記温度信号を受信する。時計部67は時刻を計時し、現在の時刻を示す時刻信号を出力する。制御装置80は、時計部67から時刻信号を受信する。
【0036】
なお、制御装置80は、CPU81のみが各種処理を行うものであってもよいし、ASIC85のみが各種処理を行うものであってもよいし、CPU81とASIC85とが協働して各種処理を行うものであってもよい。また、制御装置80は、1つのCPU81が単独で処理を行うものであってもよいし、複数のCPU81が処理を分担して行うものであってもよい。また、制御装置80は、1つのASIC85が単独で処理を行うものであってもよいし、複数のASIC85が処理を分担して行うものであってもよい。
【0037】
<制御装置によるプリンタの制御>
次に、制御装置80によるプリンタ1の制御について説明する。制御装置80は、
図7のフローに沿って処理を行うことによってプリンタ1の動作を制御している。
【0038】
より詳細に説明すると、制御装置80は、記録用紙Pへの記録を指示する記録指令(本発明の「吐出指示信号」)を受信しておらず(S101:NO)、且つ、時計部67から受信した時刻信号が示す時刻が所定時刻でない間は(S102:NO)、待機している。
【0039】
記録指令を受信したときに(S101:YES)、制御装置80は、駆動素子22aの駆動時に個別電極64に付与する駆動電位を設定する(S103)。より詳細に説明すると、フラッシュメモリ84には、例えば、
図8(a)に示すように、温度センサ68から受信した温度信号が示す温度Tの温度範囲と駆動電位とを関連付けたテーブルが記憶されている。ここで、
図8(a)のT1,T2,T3はT1<T2<T3の大小関係にあり、V1,V2,V3,V4はV1>V2>V3>V4の大小関係にある。そして、S103では、制御装置80は、
図8(a)のテーブルと、温度センサ68から受信した温度信号が示す温度Tとに基づいて、駆動電位をV1,V2,V3,V4のいずれかに設定する。
【0040】
続いて、制御装置80は、記録処理を実行する(S104)。記録処理では、制御装置80は、キャリッジモータ86を制御して、キャリッジ2を走査方向に移動させつつ、ドライバIC89を制御して、インクジェットヘッド4に複数のノズル10から記録用紙Pに向けてインクを吐出させる記録パスと、搬送モータ87を制御して、搬送ローラ6,7に記録用紙Pを所定量搬送させる搬送動作とを繰り返し行わせることによって、記録用紙Pへの記録を行わせる。また、記録パスを行わせるときに、制御装置80は、ドライバIC89を制御して、個別電極64に付与する電位を、グランド電位とS103で設定した駆動電位とで切り換える。
【0041】
一方、時計部67から受信した時刻信号が示す時刻が所定時刻となったときには(S102:YES)、制御装置80は、検査用駆動処理を行わせる(S105)。検査用駆動処理では、制御装置80は、インクジェットヘッド4に、各ノズル10が異常ノズルであるか否かを確認するための検査用駆動を行わせる。検査用駆動とは、キャリッジ2を上記メンテナンス位置に位置させた状態で、複数のノズル10の各々から順に検出量電極76に向けてインクを吐出させるように、インクジェットヘッド4を駆動させる動作である。また、このとき、制御装置80は、複数のノズル10の各々について、判定回路78から判定用信号を受信する。
【0042】
そして、判定用信号が、異常ノズルが存在していないことを示している場合には(S106:NO)、S101に戻る。判定用信号が、異常ノズルが存在していることを示している場合には(S106:YES)、制御装置80は、第1異常ノズル情報と第1温度情報とをフラッシュメモリ84に記憶させる(S107)。第1異常ノズル情報は、検査用駆動時に受信した判定用信号に基づく、どのノズル10が異常ノズルであるかを示す情報である。第1温度情報は、検査用駆動時に温度センサ68から受信した温度信号に基づく温度の情報である。第1温度情報は、温度信号が示す温度そのものの情報であってもよいし、温度情報が示す温度が
図8(a)に示す温度範囲のうちどの温度範囲内の温度であるかを示す情報であってもよい。
【0043】
続いて、制御装置80は、記録指令を受信するまで待機し(S108:NO)、記録指令を受信したときに(S108:YES)、検査用駆動時と温度範囲が異なっているか否かを判定する(S109)。より詳細には、温度センサ68から受信した温度信号(本発明の「第2温度情報」)が示す温度を含む温度範囲が、S107でフラッシュメモリ84に記憶させた第1温度情報が示す温度を含む温度範囲と異なっているか否かを判定する。
【0044】
なお、本実施形態では、温度センサ68から受信した温度信号が示す温度を含む温度範囲が、第1温度情報が示す温度を含む温度範囲と同じであるという条件が、本発明の「所定条件」に相当する。また、以下では、温度センサ68から受信した温度信号が示す温度を含む温度範囲が、第1温度情報が示す温度を含む温度範囲と同じであることを、単に「温度範囲が同じである」とすることがある。また、以下では、温度センサ68から受信した温度信号が示す温度を含む温度範囲が、第1温度情報が示す温度を含む温度範囲と異なっていることを、単に「温度範囲が異なっている」とすることがある。
【0045】
温度範囲が同じである場合には(S109:NO)、制御装置80は、S107でフラッシュメモリ84に記憶させた第1異常ノズル情報に基づいて回復動作を設定する(S110)。
【0046】
より詳細に説明すると、フラッシュメモリ84には、例えば
図8(b)に示すように、異常ノズルの数Nと回復動作とを関連付けたテーブルが記憶されている。
図8(b)のN1,N2,N3は、N1<N2<N3の大小関係にある。
図8(b)のフラッシングとは、ドライバIC89を制御してインクジェットヘッド4(駆動素子22a)を駆動させることで、インクジェットヘッド4の複数のノズル10のうち、少なくとも異常ノズルからインクを排出させる動作である。フラッシングは、弱パージよりもインクの排出量が少ない。
【0047】
なお、本実施形態では、吸引パージを行うメンテナンスユニット8、及び、フラッシングを行うインクジェットヘッド4が、本発明の「回復手段」に相当する。
【0048】
そして、S110では、第1異常ノズル情報から得られる異常ノズルの数Nと、
図8(b)のテーブルとに基づいて、回復動作を設定する。
【0049】
温度範囲が異なっている場合には(S109:YES)、制御装置80は、再度、S105と同様の検査用駆動処理を実行する(S111)。そして、S111の検査用駆動処理によって行われた検査用駆動時に判定回路78から出力された判定用信号に基づいて取得される、どのノズル10が異常ノズルであるかを示す第2異常ノズル情報に基づいて、回復動作を設定する(S112)。より詳細には、第2異常ノズル情報から得られる異常ノズルの数と、
図8(b)のテーブルとに基づいて、回復動作を設定する。
【0050】
S110又はS112で回復動作を設定した後、制御装置80は、回復処理を実行する(S113)。回復処理では、制御装置80は、S110又はS112で設定した回復動作を行わせる。そして、回復処理の後、S103に進む。
【0051】
<効果>
検査用駆動の後、回復動作を行わせるまでの期間に大きな温度変化が生じた場合には、異常ノズルであるか否かの状態が変わることがある。そこで、本実施形態では、検査用駆動時に第1異常ノズル情報と第1温度情報とを記憶させておく。そして、その後の回復動作を行わせるときに、検査用駆動時と温度範囲が同じである(所定条件を満たしている)か否かに基づいて、第1異常ノズル情報に基づいて設定した回復動作を行わせるか否かを切り換える。これにより、検査用駆動の後、回復動作を行わせるまでの期間に大きな温度が生じた場合に、第1異常ノズル情報に基づいて設定した回復動作を行わせないようにすることができる。
【0052】
また、本実施形態では、回復動作を行わせるときに、検査用駆動時と温度範囲が異なっている(所定条件を満たしていない)場合に、再度検査用駆動を行わせて第2異常ノズル情報を取得する。そして、取得した第2異常ノズル情報に基づいて設定した回復動作を行わせる。これにより、検査用駆動の後、回復動作を行わせるまでの期間に大きな温度変化が生じている場合に、第2異常ノズル情報に基づいて適切な回復動作を行わせることができる。一方で、検査用駆動の後、回復動作を行わせるまでの期間に大きな温度変化が生じていない場合には、予め行わせた検査用駆動の結果に基づいて回復動作を行わせることができる。したがって、回復動作の直前に検査用駆動を行わせる必要がなく、回復動作が完了するまでの時間を短くすることができる。
【0053】
また、本実施形態では、温度範囲と駆動電位とが関連付けられている。この場合、温度範囲と駆動電位とは、通常、インクジェットヘッド4内のインクの温度とインクの粘度との関係に応じて関連付けられる。そして、本実施形態では、駆動電位と関連付けられた温度範囲を用いて、回復動作を行わせるときに、検査用駆動時と温度範囲が異なっているか否かを判定する。これにより、回復動作を行わせるときに、検査用駆動時からの温度変化が大きく、インクの粘度が駆動電位を変える必要があるほどに大きく変化しているか否かに応じて、第1異常ノズル情報に基づいて設定した回復動作を行わせるか否かを切り換えることができる。
【0054】
また、本実施形態では、時計部67からの時計信号が示す時刻が所定時刻となったときに検査用駆動を行わせる。したがって、所定時刻を適切に設定すれば、例えば、ユーザが液体吐出装置を使用する頻度が低いときに検査用駆動を行わせることができる。
【0055】
また、検査用駆動を行わせ、判定用信号が、異常ノズルが存在していることを示している場合に、本実施形態と異なり、直ちに回復動作を行わせると、検査用駆動から記録指令を受信するまでの期間が長い場合に、この期間に液体吐出ヘッド内の液体が増粘してしまう虞がある。そして、この場合、記録指令を受信したときに、改めて回復動作を行わせる必要があり、結果として、検査用駆動時の回復動作によるインクの排出が無駄なものとなってしまう。
【0056】
そこで、本実施形態では、検査用駆動の後、記録指令を受信したときに回復動作を行わせる。これにより、記録処理の直前に回復動作が行われるため、検査用駆動から記録指令の受信までの期間が長い場合でも、インクを無駄に排出させてしまうことがない。
【0057】
また、本実施形態では、回復動作として、フラッシング、弱パージ、中パージ、強パージのいずれかを選択的に行わせることによって、ノズル10からインクジェットヘッド4内のインクを排出させて、異常ノズルを回復させることができる。
【0058】
<変形例>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態には限られず、特許請求の範囲に記載の限りにおいて様々な変更が可能である。
【0059】
上述の実施形態では、検査用駆動時の温度範囲が、その後記録指令を受信したときの温度範囲と異なっているか否かによって、第1異常ノズル情報に基づいて設定した回復動作を行わせるか、第2異常ノズル情報に基づいて設定した回復動作を行わせるかを切り換えたが、これには限られない。
【0060】
変形例1では、制御装置80は、
図9のフローに沿って処理を行うことでプリンタ1を制御する。
図9のフローは、
図7のフローにおいてS109をS201に置き換えたものである。また、
図9のフローでは、S107において、第1温度情報として、温度センサ68から受信した温度信号が示す温度そのものの情報を記憶させる。
【0061】
S201では、S108で記録指令を受信したと判断したときに温度センサ68から受信した温度信号(本発明の「第2温度情報」)が示す温度と、第1温度情報が示す温度との温度差|ΔT|が閾値ΔThよりも大きいか否かを判定する。なお、変形例1では、温度差|ΔT|が閾値ΔTh以下であるという条件が、本発明の「所定条件」に相当する。
【0062】
そして、温度差|ΔT|が閾値ΔTh以下の場合には(S201:NO)、S110に進む。温度差|ΔT|が閾値ΔThよりも大きい場合には(S201:YES)、S111に進む。
【0063】
検査用駆動の後、回復動作を行わせるまでの期間に大きな温度変化が生じた場合には、異常ノズルであるか否かの状態が変わることがある。そこで、変形例1では、検査用駆動時に第1異常ノズル情報と第1温度情報とを記憶させておく。そして、その後の回復動作を行わせるときに、検査用駆動時の温度との温度差|ΔT|が閾値以下である(所定条件を満たしている)か否かに基づいて、第1異常ノズル情報に基づいて設定した回復動作を行わせるか否かを切り換える。これにより、検査用駆動の後、回復動作を行わせるまでの期間に大きな温度変化が生じた場合に、第1異常ノズル情報に基づいて設定した回復動作を行わせないようにすることができる。
【0064】
また、上述の実施形態では、S109において温度範囲が異なっていると判定したときに、再度検査用駆動を行わせることで第2異常ノズル情報を取得し、取得した第2異常ノズル情報に基づいて回復動作を設定したが、これには限られない。
【0065】
変形例2では、制御装置80は、
図10のフローに沿って処理を行うことでプリンタ1を制御する。
図10のフローは、
図7のフローにおいてS111,S112をS301~S303に置き換えたものである。
【0066】
より詳細に説明すると、変形例2では、S109において温度範囲が異なっていると判定したときに(S109:YES)、制御装置80は、さらに、検査用駆動時よりも温度が上昇しているか否かを判定する(S301)。検査用駆動時よりも温度が上昇している場合には(S301:YES)、回復動作を、第1異常ノズル情報に基づいて設定される回復動作よりもインクの排出量の少ない回復動作に設定し(S302)、S113に進む。
【0067】
検査用駆動時よりも温度が低下している場合には(S301:NO)、回復動作を、第1異常ノズル情報に基づいて設定される回復動作よりもインクの排出量の多い回復動作に設定し(S303)、S113に進む。
【0068】
温度が上昇するとインクの粘度が低下する。そこで、変形例2では、検査用駆動の後、回復動作を行わせるまでに、温度範囲が変わる程度に温度が大きく上昇した場合に、温度が大きく変化していない場合よりもインクの排出量の少ない回復動作を行わせる。これにより、検査用駆動の後、回復動作を行わせるまでの温度変化に応じて、適切な回復動作を行わせることができる。
【0069】
また、温度が低下するとインクの粘度が増大する。そこで、変形例2では、検査用駆動の後、回復動作を行わせるまでに、温度範囲が変わる程度に温度が大きく低下した場合に、温度が大きく変化していない場合よりもインクの排出量の多い回復動作を行わせる。これにより、検査用駆動の後、回復動作を行わせるまでの温度変化に応じて、適切な回復動作を行わせることができる。
【0070】
また、変形例2では、S109で温度範囲が異なっていると判定したときに、温度が上昇している場合及び温度が低下している場合のいずれにおいても、第1異常ノズル情報に基づいて設定される回復動作とは異なる回復動作を行わせたが、これには限られない。
【0071】
例えば、変形例2において、S109で温度範囲が異なっていると判定したときに、温度が低下している場合に、S303と同様にして回復動作を設定し、温度が上昇している場合に、第1異常ノズル情報に基づいて設定される回復動作を行わせてもよい。この場合、回復動作におけるインクの排出量が適切な量よりも多くなってしまうことがあるが、異常ノズルを回復させることはできる。なお、この場合には、温度範囲が同じであるという条件、及び、温度範囲が異なっており、且つ、温度が上昇しているという条件が、本発明の「所定条件」に相当する。
【0072】
あるいは、変形例2において、S109で温度範囲が異なっていると判定したときに、温度が上昇している場合に、S302と同様にして回復動作を設定し、温度が低下している場合に、第1異常ノズル情報に基づいて設定される回復動作を行わせてもよい。この場合でも、例えば、第1異常ノズル情報に基づいて設定される回復動作をインクの排出量の多いものに設定しておけば、回復動作におけるインクの排出量が適切な量よりも多くなってしまうことがあるが、異常ノズルを回復させることはできる。なお、この場合には、温度範囲が同じであるという条件、及び、温度範囲が異なっており、且つ、温度が低下しているという条件が、本発明の「所定条件」に相当する。
【0073】
また、上述の実施形態では、第1異常ノズル情報及び第1温度情報をフラッシュメモリ84に記憶させた後、記録指令を受信したときに、温度範囲が異なっているか否かを判定する。そして、温度範囲が異なっている場合に、再度検査用駆動を行わせることで、第2異常ノズル情報を取得し、取得した第2異常ノズル情報に基づいて回復処理を設定する。しかしながら、これには限られない。
【0074】
変形例3では、
図11のフローに沿って処理を行うことでプリンタ1を制御する。より詳細に説明すると、制御装置80は、上述の実施形態と同様にS101~S106の処理を行う。そして、S106で異常ノズルが存在していると判定したときに(S106:YES)、制御装置80は、異常ノズル情報と第1温度情報とをフラッシュメモリ84に記憶させる(S401)。異常ノズル情報は、上述の実施形態の第1異常ノズル情報と同様の情報である。
【0075】
その後、温度センサ68から受信した温度信号(本発明の「第2温度情報」)が示す温度を含む温度範囲が、第1温度情報が示す温度を含む温度範囲と同じであり(S402:NO)、且つ、記録指令を受信していない間は(S403:NO)、待機している。
【0076】
温度センサ68から受信した温度信号が示す温度を含む温度範囲が、第1温度情報が示す温度を含む温度範囲と異なる温度範囲となったときに(S402:YES)、制御装置80は、S105と同様の検査用駆動処理を実行する(S404)。そして、フラッシュメモリ84に記憶されている異常ノズル情報及び第1温度情報を更新し(S405)、S402に戻る。S405では、S404の検査用駆動処理によって検査用駆動が行われたときに判定回路78から出力された判定用信号に基づいて、フラッシュメモリ84に記憶されている第1異常ノズル情報を更新する。また、S405では、S404の検査用駆動処理によって検査用駆動が行われたときに温度センサ68から出力された温度信号に基づいて、フラッシュメモリ84に記憶されている第1温度情報を更新する。
【0077】
また、記録指令を受信したときに(S403:YES)、制御装置80は、第1異常ノズル情報に基づいて回復動作を設定する(S406)。そして、回復処理を実行して、S406で設定した回復動作を行わせ(S407)、S103に進む。すなわち、変形例3では、最後にフラッシュメモリ84に記憶された異常ノズル情報に応じた回復動作を行わせている。
【0078】
変形例3では、検査用駆動を行わせ、このときに判定回路78から出力された判定用信号に基づいて異常ノズル情報を記憶させた後、回復動作を行わせるまでに、異なる温度範囲となる(所定条件を満たさなくなる)毎に、検査用駆動を行わせ、このときに判定回路78から出力された判定用信号に基づいて異常ノズル情報を更新させる。そして、回復動作を行わせるときには、最後に記憶された異常ノズル情報に基づいて設定した回復動作を行わせる。
【0079】
これにより、最初に検査用駆動を行わせてからの温度変化がそれほど大きくないときには、最初に記憶させた異常ノズル情報に応じた適切な回復動作を行わせることができる。また、最初に検査用駆動を行わせてから大きな温度変化があった場合には、温度変化後の異常ノズル情報に応じた適切な回復動作を行わせることができる。
【0080】
また、変形例3において、異なる温度範囲となる毎に、検査用駆動を行わせ、異常ノズル情報及び第1温度情報を更新させる代わりに、変形例1で説明した温度差|ΔT|が閾値ΔThを超える毎に、検査用駆動を行わせ、異常ノズル情報及び第1温度情報を更新させてもよい。
【0081】
また、以上の例では、
図8(a)に示すような、駆動電位と関連付けられている温度範囲を用いて、S109において温度範囲が異なっているか否かを判定したが、これには限られない。
【0082】
変形例4では、
図12に示すように、フラッシュメモリ84に、温度範囲と駆動波形とが関連付けられたテーブルが記憶されている。駆動波形は、駆動素子22aの個別電極64の電位をグランド電位と駆動電位とで切り換えるために、ドライバIC89から個別電極64に送信される駆動信号の波形である。また、
図12の駆動波形W1,W2,W3,W4は、例えば、パルス波形であり、パルス幅、パルス数及びパルス間隔の少なくともいずれかが互いに異なっている。そして、駆動波形W1,W2,W3,W4は、W1,W2,W3,W4の順にノズル10から吐出されるインクの量が多くなるような波形となっている。そして、変形例4では、
図12の、駆動波形と関連付けられている温度範囲を用いて、S109において温度範囲が異なっているか否かを判定する。
【0083】
変形例4では、温度範囲と駆動波形とが関連付けられている。この場合、温度範囲と駆動波形とは、通常、インクジェットヘッド4内のインクの温度とインクの粘度との関係に応じて関連付けられる。そして、変形例4では、駆動波形と関連付けられた温度範囲を用いて、回復動作を行わせるときに検査用駆動時から温度範囲が異なっているか否かを判定する。これにより、回復動作を行わせるときに、検査用駆動時からの温度変化が大きく、インクの粘度が駆動波形を変える必要があるほどに大きく変化しているか否かに基づいて、第1異常ノズル情報に基づいて設定した回復動作を行わせるか否かを切り換えることができる。
【0084】
また、S109の判定に用いる温度範囲は、
図8(a)のような駆動電位と関連付けられた温度範囲、
図12のような駆動波形と関連付けられた温度範囲等、駆動素子22aの駆動条件と関連付けられた温度範囲であることにも限られない。駆動素子22aの駆動条件と関係なく設定された温度範囲を用いてS109の判定を行ってもよい。
【0085】
また、上述の実施形態では、検査用駆動後に最初に受信した記録指令を受信したときに(S107:YES)、S108に進むようにしていたが、これには限られない。例えば、プリンタ1において低画質での記録と高画質での記録とのいずれかを選択的に行うことができるようになっており、検査用駆動後、最初に受信した高画質で記録を行うことを指示する記録指令を受信したときに、S108に進むようにしてもよい。そして、この場合、高画質で記録を行うことを指示する記録指令を受信するまでに、低画質で記録を行うことを指示する記録指令を受信したときには、そのまま記録処理を実行するようにしてもよい。
【0086】
さらには、検査用駆動後に記録指令を受信したときに、S108に進むことにも限られない。例えば、検査用駆動後に、プリンタ1の電源がオンにされて制御装置80が、電源がオンになったことを示すオン信号等、記録指令以外の信号を受信したときに、S108に進むようにしてもよい。
【0087】
また、所定時刻であることを示す時刻信号を受信して検査用駆動を行わせた後、当該時刻信号とは別の信号を受信したときに回復動作を行わせることにも限られない。例えば、所定時刻であることを示す時刻信号を受信して検査用駆動を行わせた後、続けて、回復動作以外の、ある程度の時間がかかる別の動作を行わせてから、回復動作を行わせてもよい。この場合でも、当該別の動作の間に大きな温度変化が生じているか否かによって、第1異常ノズル情報に基づいて設定した回復動作を行わせるか否かを切り換えることは有効である。
【0088】
また、上述の実施形態では、時計部67からの時刻信号が所定時刻となったときに、検査用駆動処理を実行するようにしていたが、これには限られない。例えば、最後の記録又は最後の検査用駆動から所定時間経過したとき等、別のタイミングで検査用駆動処理を実行するようにしてもよい。
【0089】
また、以上の例では、回復動作として、フラッシング、弱パージ、中パージ及び強パージのいずれかを選択的に行わせたが、これには限られない。回復動作として、フラッシングを行わせることがなく、インクの排出量の異なる複数種類の吸引パージのいずれかを選択的に行わせてもよい。あるいは、回復動作として、吸引パージを行わせることがなく、インクの排出量の異なる複数種類のフラッシングのいずれかを選択的に行わせてもよい。
【0090】
また、以上の例では、パージとして吸引パージを行わせたが、これには限られない。例えば、サブタンク3とインクカートリッジ14とを接続するチューブ15の途中部分に加圧ポンプが設けられていてもよい。あるいは、プリンタにインクカートリッジと接続された加圧ポンプが設けられていてもよい。そして、複数のノズル10がキャップ71で覆われた状態で、上記加圧ポンプを駆動させることで、インクジェットヘッド4内のインクを加圧してノズル10からインクジェットヘッド4内のインクを排出させる、いわゆる加圧パージを行ってもよい。
【0091】
さらには、パージにおいて、吸引ポンプ72による吸引と加圧ポンプによる加圧の両方を行わせてもよい。
【0092】
また、上述の実施形態では、インクジェットヘッド4の全てのノズル10について、検査用駆動を行わせたが、これには限られない。例えば、各ノズル列9における1つおきのノズル10等、インクジェットヘッド4の一部のノズル10についてのみ、検査用駆動を行わせ、それ以外のノズル10については、当該検査用駆動時に判定回路78から出力された判定用信号に基づいて、異常ノズルであるか否かを推定してもよい。
【0093】
また、上述の実施形態では、ノズル10から検出用電極76に向けてインクを吐出させたときの検出用電極76の電位に応じて、判定回路78が異常ノズルであるか否かに応じた信号を出力したが、これには限られない。
【0094】
例えば、鉛直方向に延びた検出用電極を配置し、ノズル10から検出用電極と対向する領域を通過するようにインクを吐出させたときの検出用電極の電位に応じて、判定回路から、異常ノズルであるか否かに応じた信号を出力してもよい。あるいは、ノズル10から吐出されたインクを検出する光センサ(本発明の「信号出力部」)を設け、光センサから、異常ノズルであるか否かに応じた信号を出力してもよい。
【0095】
あるいは、例えば、特許第4929699号公報に記載されているのと同様に、インクジェットヘッドのノズルが形成されたプレートに、ノズルからインクが吐出されたときの電圧の変化を検出する電圧検出回路(本発明の「信号出力部」)を接続して、電圧検出回路から制御装置80に、異常ノズルであるか否かに応じた信号を出力するようにしてもよい。
【0096】
あるいは、例えば、特許第6231759号公報に記載されているのと同様に、インクジェットヘッドの基板を、温度検知素子(本発明の「信号出力部」)を備えたものとしてもよい。そして、インクの吐出のために第1印加電圧を印加してヒータを駆動した後に、インクが吐出されないように第2印加電圧を印加してヒータを駆動し、第2印加電圧を印加してから、その後、所定時間が経過するまでの間の、温度検知素子で検知された温度の変化に基づいて、ノズル10が異常ノズルであるか否かに応じた信号を出力するようにしてもよい。
【0097】
また、以上の例では、信号出力部が、ノズル10からインクが吐出されたか否かに応じた信号を出力するものであり、この信号に基づいて、どのノズルが異常ノズルであるかの情報を取得している。そして、この情報から得られる異常ノズルの数Nに基づいて設定した回復動作を行わせている。しかしながら、これには限られない。
【0098】
例えば、インクが吐出されないこと以外の異常ノズルの状態に応じた信号を出力する信号出力部を設け、信号出力部からの信号に基づいて、異常ノズルの状態に関する情報を取得してもよい。異常ノズルの状態とは、例えば、異常ノズルにおいて、インクの吐出方向に異常がある、しぶきが発生する、気泡が混入している、紙粉が詰まっている等の状態のことである。そして、異常ノズルの状態に関する情報に基づいて設定した回復動作を行わせてもよい。また、異常ノズルの数と異常ノズルの状態の両方を含む情報を取得し、この情報に基づいて設定した回復動作を行わせてもよい。
【0099】
また、以上では、キャリッジとともに走査方向に移動しつつ複数のノズルからインクを吐出する、いわゆるシリアルヘッドを備えたプリンタに本発明を適用した例について説明したが、これには限られない。例えば、走査方向に記録用紙Pの全長にわたって延びたいわゆるラインヘッドを備えたプリンタに本発明を適用することも可能である。
【0100】
また、以上では、ノズルからインクを吐出して記録用紙Pに記録を行うプリンタに本発明を適用した例について説明したが、これには限られない。Tシャツ、屋外広告用のシート、スマートフォン等の携帯端末のケース、段ボール、樹脂部材など、記録用紙以外の被記録媒体に画像を記録するプリンタにも適用され得る。また、インク以外の液体、例えば、液体状にした樹脂や金属を吐出する液体吐出装置にも適用され得る。
【符号の説明】
【0101】
1 プリンタ
4 インクジェットヘッド
8 メンテナンスユニット
10 ノズル
22a 駆動素子
51 圧力室
67 温度センサ
68 時計部
72 吸引ポンプ
76 検出用電極
77 高電圧電源回路
78 判定回路
79 抵抗
80 制御装置
89 ドライバIC
84 フラッシュメモリ