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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】無線通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/06 20060101AFI20241106BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20241106BHJP
【FI】
H04B7/06 150
H04W16/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021012750
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022116538
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-10-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、「5G基地局共用技術に関する研究開発」研究開発委託契約に基づく開発項目「5G基地局の共用を実現する広帯域な無線通信システム構成技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】飛子 雄介
(72)【発明者】
【氏名】太田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】松原 聡之
(72)【発明者】
【氏名】小松▲崎▼ 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】川野 久人
(72)【発明者】
【氏名】神成 英幸
【審査官】鉢呂 健
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-523818(JP,A)
【文献】特開2005-151526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02-7/12
H04L 1/02-1/06
H04W 16/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームフォーミングを行う無線通信装置であって、
予め指定された複数のメインローブ方向それぞれにビームを形成したときに得られる電波強度の指向性を表す指向性情報を保存する保存部と、
第1のメインローブ方向に第1の信号を送信するための第1のビームを形成し、且つ、第2のメインローブ方向に第2の信号を送信するための第2のビームを形成する指示が与えられたときに、前記指向性情報に基づいて、前記第1のビームに対する前記第2のビームからの干渉量を計算する干渉計算部と、
前記干渉量に基づいて、前記第1のメインローブ方向において前記第2の信号をキャンセルするためのキャンセル信号を生成するキャンセル信号生成部と、
前記キャンセル信号が加算された前記第1の信号を送信する無線通信回路と、
を備える無線通信装置。
【請求項2】
前記干渉計算部は、前記第1のメインローブ方向における前記第1のビームの電波強度および前記第1のメインローブ方向における前記第2のビームの電波強度に基づいて前記干渉量を計算する
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記キャンセル信号生成部は、
前記干渉量に基づいて補正値を計算する補正値計算部と、
前記補正値で前記第2の信号の振幅を補正して前記キャンセル信号を生成する補正部と、
前記キャンセル信号が前記第1のメインローブ方向に送信されるように前記キャンセル信号の位相を制御する移相器と、を備え、
前記移相器の出力信号が前記第1の信号に加算される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記補正値は、前記キャンセル信号の強度が前記第1のメインローブ方向における前記第2の信号の強度と一致するように決定される
ことを特徴とする請求項3に記載の無線通信装置。
【請求項5】
ビームフォーミングを行う無線通信装置であって、
予め指定された複数のメインローブ方向それぞれにビームを形成したときに得られる電波強度の指向性を表す指向性情報を保存する保存部と、
第1の信号を受信するための第1のビームを第1のメインローブ方向に形成し、且つ、第2の信号を受信するための第2のビームを第2のメインローブ方向に形成する指示が与えられたときに、前記指向性情報に基づいて、前記第1の信号に対する前記第2の信号からの干渉量を計算する干渉計算部と、
前記干渉量に基づいて、前記第2のビームを使用して受信する信号から、前記第1のビームを介して受信する前記第2の信号を表す干渉成分信号を生成する干渉成分信号生成部と、
前記第1のビームを使用して受信した信号から前記干渉成分信号を除去する演算部と、
を備える無線通信装置。
【請求項6】
前記干渉計算部は、前記第1のメインローブ方向における前記第1のビームの電波強度および前記第2のメインローブ方向における前記第1のビームの電波強度に基づいて前記干渉量を計算する
ことを特徴とする請求項5に記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記干渉成分信号生成部は、
前記干渉量に基づいて補正値を計算する補正値計算部と、
前記第2のメインローブ方向から到来する信号を受信するように受信信号の位相を制御する移相器と、
前記補正値で前記移相器の出力信号の振幅を補正して前記干渉成分信号を生成する補正部と、を備える
ことを特徴とする請求項5に記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記補正値は、前記干渉成分信号の強度が前記第1のビームを介して受信する前記第2の信号の強度と一致するように決定される
ことを特徴とする請求項7に記載の無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビームフォーミングを行う無線通信装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信の多重化またはセンシング(レーダ)の高精度化を実現するための技術の1つとして、ビームフォーミングが実用化されている。ビームフォーミングを行う無線通信装置は、アレイ状に配置された複数のアンテナ素子を備える。以下、ビームフォーミングを行う無線通信装置を「ビームフォーミング無線機」と呼ぶことがある。
【0003】
ビームフォーミング無線機は、複数のアンテナ素子を使用して、各端末に対してビームを形成する。例えば、ビームフォーミング無線機は、各アンテナ素子を介して送信する信号の位相および/または振幅を端末の位置に応じて制御することで、送信ビームの向きを制御する。また、ビームフォーミング無線機は、各アンテナ素子を介して受信する信号の位相および/または振幅を端末の位置に応じて制御することで、受信ビームの向きを制御することもできる。
【0004】
ただし、目的端末に向けて希望ビーム(送信/受信ビーム)を形成すると、サイドローブが形成される。サイドローブは、希望ビームのメインローブとは異なる方向に形成される。そして、サイドローブは、他の端末に対して干渉ビームとして作用することがある。このため、サイドローブによる干渉を抑圧する技術が提案されている。
【0005】
例えば、通信相手からの到来波と他の到来波の方向、強度、および数を検知し、それらに基づいてサイドローブを抑圧する演算を行うアンテナ装置が提案されている(例えば、特許文献1)。また、ビームパターンを適応させる方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-079434
【文献】特表2018-512780
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術(例えば、特許文献1に記載されている技術)においては、受信電力に基づいてサイドローブを抑圧するための演算が行われる。このため、干渉の検知からサイドローブの抑圧までに要する時間が長くなってしまう。よって、ビームを高速で変化させることが要求される無線通信システムでは、サイドローブを適切に抑圧できないことがある。例えば、5G通信においては、シンボル単位でビームを変化させることが要求されることがある。この場合、サイドローブを適切に抑圧できないと、無線通信の品質が劣化してしまう。
【0008】
本発明の1つの側面に係わる目的は、ビームフォーミングを行う無線通信システムにおいて、サイドローブを抑圧する処理の高速化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様に係わる無線通信装置は、予め指定された複数のメインローブ方向それぞれにビームを形成したときに得られる電波強度の指向性を表す指向性情報を保存する保存部と、第1のメインローブ方向に第1の信号を送信するための第1のビームを形成し、且つ、第2のメインローブ方向に第2の信号を送信するための第2のビームを形成する指示が与えられたときに、前記指向性情報に基づいて、前記第1のビームに対する前記第2のビームからの干渉量を計算する干渉計算部と、前記干渉量に基づいて、前記第1のメインローブ方向において前記第2の信号をキャンセルするためのキャンセル信号を生成するキャンセル信号生成部と、前記キャンセル信号が加算された前記第1の信号を送信する無線回路と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
上述の態様によれば、ビームフォーミングを行う無線通信システムにおいて、サイドローブを抑圧する処理の高速化が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係わる無線通信システムの一例を示す図である。
図2】希望ビームと他のビームのサイドローブとの干渉の一例を示す図である。
図3】ビームフォーミング無線機のハードウェア構成の一例を示す図である。
図4】ビームフォーミング無線機の機能の一例を示す図である。
図5】ビームフォーミング無線機が形成し得るビームの一例を示す図である。
図6】ビームフォーミング無線機の送信回路の一例を示す図である。
図7】送信信号に対してビームを割り当てる方法の一例を示す図である。
図8】位相テーブルの一例を示す図である。
図9】指向性情報の一例を示す図である。
図10】ビームテーブルに保存される指向性情報の一例を示す図である。
図11】希望ビームと妨害ビームとの干渉の一例を示す図である。
図12】ビームフォーミング無線機から目的端末への送信の一例を示す図である。
図13】キャンセル信号が送信されるケースでの電波の状態の一例を示す図である。
図14】ビームフォーミング無線機の送信動作の一例を示すフローチャートである。
図15】受信ビーム間の干渉の一例を示す図である。
図16】ビームフォーミング無線機の受信回路の一例を示す図である。
図17】ビームフォーミング無線機の受信動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係わる無線通信システムの一例を示す。この実施例では、無線通信システムは、ビームフォーミング無線機1および複数の端末100を備える。
【0013】
ビームフォーミング無線機1は、例えば、基地局装置またはアクセスポイントであり、複数の端末100と通信を行うことができる。また、ビームフォーミング無線機1は、複数のアンテナ素子を含む指向性アンテナを備え、各端末100に対してビーム(送信ビームおよび受信ビーム)を形成できる。
【0014】
端末100は、例えば、ユーザ装置(UE)であり、ビームフォーミング無線機1と通信を行うことができる。図1に示す例では、ビームフォーミング無線機1の通信エリア内に2台の端末100が位置している。なお、以下の記載では、2台の端末100と「UE#0」および「UE#1」と呼ぶことがある。
【0015】
ビームフォーミング無線機1は、UE#0に信号を送信するときは、図1(a)に示すように、希望ビーム#0を形成する。ただし、ビームを形成すると、メインローブとは異なる方向にサイドローブが現れる。なお、サイドローブの強度は、メインローブよりも弱い。以下の記載では、希望ビーム#0のサイドローブを「サイドローブ#0」と呼ぶことがある。
【0016】
同様に、UE#1に信号を送信するときは、図1(b)に示すように、ビームフォーミング無線機1は、希望ビーム#1を形成する。この場合も、メインローブとは異なる方向にサイドローブが現れる。以下の記載では、希望ビーム#1のサイドローブを「サイドローブ#1」と呼ぶことがある。
【0017】
ビームフォーミング無線機1がUE#0およびUE#1にそれぞれ信号を送信するときには、図1(a)に示す希望ビーム#0および図1(b)に示す希望ビーム#1が形成される。このとき、各希望ビームに対してそれぞれサイドローブが現れる。このため、いずれかの端末100に対して形成される希望ビームと他の希望ビームのサイドローブとが干渉することがある。この例では、図1(c)に示すように、UE#0に信号を送信するための希望ビーム#0は、UE#1に信号を送信するための希望ビーム#1のサイドローブ#1から干渉を受ける。この場合、UE#0において、受信信号の品質が劣化することがある。なお、図1(c)においては、サイドローブ#1は黒色で描かれている。また、UE#1に信号を送信するための希望ビーム#0のメインローブは、図面を見やすくするために省略されている。
【0018】
図2は、希望ビームと他のビームのサイドローブとの干渉の一例を示す。この例では、図1(c)に示すケースにおいて、ビームフォーミング無線機1からUE#0に向かう信号を表している。なお、UE#0に送信すべき信号S0およびUE#1に送信すべき信号S1がビームフォーミング無線機1に与えられる。
【0019】
この場合、ビームフォーミング無線機1は、図1(a)に示すビーム#0を形成して信号S0を送信する。また、ビームフォーミング無線機1は、図1(b)に示すビーム#1を形成して信号S1を送信する。このとき、ビーム#1のサイドローブ(すなわち、サイドローブ#1)が現れる。ここで、サイドローブ#1は、図1(c)に示すように、UE#0に向いているものとする。この場合、信号S1は、サイドローブ#1により、UE#0に向けて伝搬する。なお、以下の記載では、サイドローブ#1により伝送される信号S1を「S1_s」または「干渉信号S1_s」と呼ぶことがある。
【0020】
UE#0は、図2に示すように、信号S0および信号S1_sを受信する。このとき、信号S0は、UE#0が受信すべき信号であり、信号S1_sは、UE#0が受信すべきではない信号である。すなわち、信号S1_sは、信号S0に対する干渉成分である。ただし、信号S0がメインローブにより伝搬されるのに対して、信号S1_sはサイドローブにより伝搬される。このため、信号S0と比較して、信号S1_sの電力は小さい。
【0021】
ビームフォーミング無線機1は、上述の干渉成分を抑圧する機能を備える。図2に示す例では、ビームフォーミング無線機1は、信号S0に対して干渉成分として作用する信号S1_sを抑圧する。この場合、ビームフォーミング無線機1は、信号S1_sをキャンセルするためのキャンセル信号を生成する。そして、このキャンセル信号は、信号S0と共に、ビーム#0で送信される。そうすると、信号S1_sおよびキャンセル信号が互いに相殺され、信号S0に対する干渉が抑圧される。
【0022】
図3は、ビームフォーミング無線機1のハードウェア構成の一例を示す。ビームフォーミング無線機1は、通信インタフェース11、記憶装置12、プロセッサ13、メモリ14、および無線通信回路15を備える。なお、ビームフォーミング無線機1は、図3に示していない他の回路またはデバイスを備えてもよい。
【0023】
通信インタフェース11は、上位装置と接続し、ビームを形成するための制御情報を上位装置から受信する。ビームフォーミング無線機1から端末100に送信するデータは、アプリケーションから通信インタフェース11に与えられる。また、ビームフォーミング無線機1が端末100から受信したデータは、通信インタフェース11を介してアプリケーションに渡される。
【0024】
記憶装置12には、ビームフォーミング無線機1の動作を記述した通信プログラムが格納されている。また、後述する指向性情報および位相テーブルが記憶装置12に格納されている。
【0025】
プロセッサ13は、記憶装置12に格納されている通信プログラムを実行することによりビームフォーミング無線機1の動作を制御する。このとき、プロセッサ13は、指向性情報および位相テーブルを参照して端末装置100と通信を行う。なお、ビームを形成する処理もプロセッサ13により実行される。メモリ14は、プロセッサ13の作業領域として使用される。
【0026】
無線通信回路15は、無線送信機および無線受信機を備える。無線送信機は、プロセッサ13により処理された信号を目的端末に送信する。無線受信機は、端末から送信される信号を受信する。受信信号は、プロセッサ13に渡される。
【0027】
図4は、ビームフォーミング無線機1の機能の一例を示す。なお、ビームフォーミング無線機1は、不図示の上位装置に接続されている。上位装置は、ビームフォーミング無線機1に収容される端末を管理し、各端末に対応するビームを形成するためのビーム設定情報を生成する。また、上位装置は、各端末に送信するデータを生成する。
【0028】
通信インタフェース11は、上位装置IF11aおよび送受信設定部11bを備える。上位装置IF11aは、上位装置から送信データを受け取る。また、上位装置IF11aは、上位装置からビーム設定情報を受信する。ビーム設定情報は、各端末に割り当てられたビームを識別する。送受信設定部11bは、上位装置IF11aが受信したビーム設定情報をプロセッサ13に与える。
【0029】
記憶装置12には、指向性情報が格納されている。指向性情報は、ビームフォーミング無線機1が生成する各ビームの指向性を表す。具体的には、指向性情報は、予め指定された複数のメインローブ方向それぞれにビームを形成したときに得られる電波強度の指向性を表す。また、記憶装置12には、プロセッサ13により実行されるソフトウェアプログラムが格納されている。
【0030】
プロセッサ13は、ビーム形成処理部13a、デジタル送信処理部13b、およびデジタル受信処理部13cを備える。なお、ビーム形成処理部13a、デジタル送信処理部13b、およびデジタル受信処理部13cの機能は、プロセッサ13がソフトウェアプログラムを実行することにより提供される。
【0031】
ビーム形成処理部13aは、ビーム設定情報に基づいて、送信ビームを形成するための送信制御情報を生成する。この送信制御情報は、対応するキャンセル信号を生成するための情報を含む。また、ビーム形成処理部13aは、ビーム設定情報に基づいて、受信ビームを形成するための受信制御情報を生成する。この受信制御情報は、対応する干渉成分信号を生成するための情報を含む。なお、送信制御情報および受信制御情報は、記憶装置12に格納されている指向性情報を利用して生成される。
【0032】
デジタル送信処理部13bは、送信制御情報に基づいて、送信データから送信信号を生成する。このとき、送信信号は、送信ビームを形成するように生成される。また、この送信信号は、キャンセル信号を含む。そして、この送信信号は、無線通信回路15において増幅され、フィルタ16によりフィルタリングされた後、アンテナ素子を介して出力される。
【0033】
アンテナ素子に到着する受信信号は、フィルタ16によりフィルタリングされ、無線通信回路15において増幅された後、デジタル受信処理部13cに導かれる。デジタル受信処理部13cは、受信制御情報に基づいて、受信信号から受信データを再生する。このとき、受信信号は、受信ビームを形成するように処理される。また、デジタル受信処理部13cは、受信信号から干渉成分を除去する。そして、再生された受信データは、上位装置IF11aを介して不図示の上位装置に送られる。
【0034】
図5は、ビームフォーミング無線機1が形成し得るビームの一例を示す。この実施例では、ビームフォーミング無線機1は、所定の角度範囲内にビームを形成できる。図5に示す例では、-60度~60度の範囲内にビームが形成される。また、ビームフォーミング無線機1は、予め指定された複数のメインローブ方向それぞれにビームを形成できる。図5に示す実施例では、複数のメインローブ方向は、10度間隔で設定されている。具体的には、-50度、-40度、-30度、・・・50度にそれぞれメインローブ方向が設定されている。そして、各メインローブ方向に形成されるビームに対して識別番号(ID1~IDn)が付与されている。なお、ビームフォーミング無線機1が偏波多重通信を行うときは、各メインローブ方向に2つのビームを形成できる。
【0035】
図6は、ビームフォーミング無線機1の送信回路の一例を示す。送信回路20は、移相器21(#0-0~#0-3)、位相テーブル22、ビームテーブル23、干渉計算部24、補正値計算部25、補正部26、移相器27(#c-0~#c-3)、および加算器28を備える。なお、送信回路20は、図6に示していない他の素子または回路を備えてもよい。また、ビームフォーミング無線機1は、この実施例では、4個のアンテナ素子を備える。更に、ビームフォーミング無線機1は、送信信号ごとに送信回路20を備える。よって、ビームフォーミング無線機1がn個の端末に同時に信号を送信できるように構成されている場合、ビームフォーミング無線機1は、n個の送信回路20を備えてもよい。
【0036】
送信回路20には、送信回路20が送信すべき信号が入力される。この例では、送信回路20#0に信号S0が入力されている。また、送信回路20には、他の送信回路により送信される信号も入力される。この例では、送信回路20#1により送信される信号S1が送信回路20#0に入力されている。なお、図6では、説明を簡潔にするために、他の送信回路により送信される信号として信号S1のみが送信回路20#0に入力されているが、実際には、他の送信回路により送信されるすべての信号が送信回路20#0に入力される。
【0037】
また、送信回路20には、上位装置からビーム設定情報が与えられる。ビーム設定情報は、ビームフォーミング無線機1が形成すべきビームを識別する。ビームフォーミング無線機1が形成すべきビームは、上位装置により、送信信号の宛先端末の位置に基づいて決定される。
【0038】
図7は、送信信号に対してビームを割り当てる方法の一例を示す。ここでは、ビームフォーミング無線機1は、図5に示すビームID1~IDnを形成できるものとする。この場合、ビームフォーミング無線機1がビームを形成できる角度範囲(-60度~60度)は、ビームID1~IDnに基づいて分割される。具体的には、1つのビームに対して1つの領域が割り当てられる。例えば、ビームID1に対して領域A1(-60度~-45度)が割り当てられ、ビームID2に対して領域A2(-45度~-35度)が割り当てられている。
【0039】
上位装置は、ビームフォーミング無線機1に収容される各端末の位置を認識している。すなわち、上位装置は、各端末が複数の領域A1~Anの中のどの領域内に位置しているかを認識している。この実施例では、UE#0が領域A3内に位置し、UE#1が領域A1内に位置している。この場合、上位装置は、各端末の位置に基づいて、その端末と通信を行うためのビームを割り当てる。この実施例では、UE#0に送信される信号S0に対してビームID3が割り当てられ、UE#1に送信される信号S1に対してビームID1が割り当てられる。
【0040】
上位装置は、この割当てを表すビーム設定情報を生成してビームフォーミング無線機1に与える。すなわち、図7に示す例では、下記のビーム設定情報がフォーミング無線機1に与えられる。
信号S0:ビームID3
信号S1:ビームID1
【0041】
図6の説明に戻る。送信回路20に入力された送信信号S0は、移相器21(#0-0~#0-3)に導かれる。各移相器21は、送信信号S0を送信するためのビームを形成するように、送信信号S0の位相を制御する。位相の制御は、位相テーブル22に保存されている位相情報に従う。
【0042】
図8は、位相テーブル22の一例を示す。位相テーブル22は、各ビーム(ID1、ID2、・・・)について、各アンテナを介して出力する信号の位相を表す。たとえば、ビームID1を形成するための位相情報として「ポート#0、#1、#2、#3を介して出力する信号の位相をそれぞれθ_01、θ_11、θ_21、θ_31に設定する」が設定されている。
【0043】
この実施例では、送信回路20は、ビームID3を使用して信号S0を送信する。この場合、位相テーブル22から「ポート#0、#1、#2、#3を介して出力する信号の位相をそれぞれθ_03、θ_13、θ_23、θ_33に設定する」が読み出され、移相器21に設定される。そうすると、移相器21#0-0は信号S0の位相をθ_03に設定し、移相器21#0-1は信号S0の位相をθ_13に設定し、移相器21#0-2は信号S0の位相をθ_23に設定し、移相器21#0-3は信号S0の位相をθ_33に設定する。
【0044】
図9は、指向性情報の一例を示す。指向性情報は、位相テーブル22に格納されている位相情報に従ってビームを形成したときに得られる、各ビームの電波強度の指向性を表す。ここでは、ビームID1~ID6の電波強度の指向性が表されている。例えば、ビームID3は、-30度の方向にメインローブを有する。なお、指向性情報は、例えば、シミュレーションまたは測定により予め得られているものとする。そして、指向性情報は、ビームテーブル23に保存されている。
【0045】
図10は、ビームテーブル23に保存される指向性情報の一例を示す。指向性情報は、上述したように、各ビームの電波強度の指向性を表す。すなわち、指向性情報は、各ビームについて、所定の角度範囲における電波の強度を表す。この例では、ビームフォーミング無線機1は、-60度~60度の範囲内にビームを形成する。よって、指向性情報は、各ビームについて、-60度~60度の範囲における電波の強度を表す。なお、ビームテーブル23には、所定の角度間隔で電波の強度が記録される。図10に示す例では、5度間隔で電波の強度は記録されるが、より細かい間隔で電波の強度が記録されるようにしてもよい。
【0046】
干渉計算部24は、複数のビームが同時に形成されるときに、ビームテーブル23に保存されている指向性情報に基づいて、それら複数のビーム間の干渉量を計算する。ビームフォーミング無線機1が形成するビームは、上述したように、ビーム設定情報により指定される。この実施例では、図6に示す送信回路20#0は、信号S0を送信するためにビームID3を形成する。また、ビームフォーミング無線機1に実装される他の送信回路により、信号S1を送信するためのビームID1が形成される。
【0047】
この場合、送信回路20#0に実装される干渉計算部24は、ビームID3に対するビームID1からの干渉量を計算する。具体的には、下記の計算が行われる。なお、以下の記載では、送信回路20#0が信号S0を送信するためのビームID3を「希望ビーム」と呼ぶことがある。また、信号S1を送信するために他の送信回路により形成されるビームID1を「妨害ビーム」と呼ぶことがある。
【0048】
希望ビームID3のメインローブは、-34度~-26度に形成される。すなわち、希望ビームID3のメインローブ方向は-30度である。したがって、干渉計算部24は、ビームテーブル23を参照し、希望ビームID3のメインローブ方向における妨害ビームID1の電波強度を取得する。この実施例では、-30度における妨害ビームID1の電波強度は-8.3dBである。
【0049】
図11は、希望ビームと妨害ビームとの干渉の一例を示す。希望ビームID3は、上述したように、-30度の方向にメインローブを有する。ここで、メインローブ方向における希望ビームID3の強度は、0dBであるものとする。また、-30度の方向に妨害ビームID1のサイドローブが現れている。そして、この方向における妨害ビームID1の強度は、図10に示すように、-8.3dBである。よって、妨害ビームID1が雑音である場合の希望ビームID3の信号対雑音比(S/N)は、8.3dBである。なお、信号対雑音比は、ビーム間の干渉量を表す指標の1つである。
【0050】
補正値計算部25は、希望ビームに対する妨害ビームからの干渉量が閾値を超えているか否かを判定する。この実施例では、妨害ビームが雑音である場合の希望ビームの信号対雑音比と閾値とが比較される。閾値は、特に限定されるものではないが、例えば、無線ネットワークにおいて要求される品質に基づいて予め決定されるものとする。一例として、閾値は10dBであるものとする。この場合、希望ビームID3の信号対雑音比は閾値より低いので、希望ビームに対する妨害ビームからの干渉量が閾値を超えていると判定される。
【0051】
希望ビームに対する妨害ビームからの干渉量が閾値を超えているときには、補正値計算部25は、キャンセル信号を生成するための補正値を計算する。補正値は、この実施例では、電波の強度を制御する。なお、補正値を計算する方法の実施例は、後で説明する。
【0052】
補正部26は、補正値計算部25により計算された補正値を使用して入力信号を補正する。入力信号は、妨害ビームにより伝送される信号に相当する。この実施例では、補正部26の入力信号は、妨害ビームID1により伝送される信号S1である。そして、補正部26は、補正値に従って信号S1の振幅を制御する。この結果、希望ビームに対する妨害ビームからの干渉を抑圧するためのキャンセル信号が生成される。
【0053】
補正部26により補正された信号(即ち、キャンセル信号)は、移相器27(#c-0~#c-3)に導かれる。移相器27(#c-0~#c-3)の構成および動作は、移相器21(#0-0~#0-3)と実質的に同じである、すなわち、移相器27(#c-0~#c-3)は、キャンセル信号の位相を制御する。このとき、移相器27(#c-0~#c-3)は、所定の方向にキャンセル信号が送信されるようにキャンセル信号の位相を制御する。すなわち、移相器(#c-0~#c-3)は、キャンセル信号を送信するためのビームを形成する。
【0054】
補正値計算部25、補正部26、および移相器27は、キャンセル信号を生成するキャンセル信号生成部として動作する。ここで、キャンセル信号は、希望ビームのメインローブ方向に妨害ビームにより送信される信号をキャンセルするように生成される。この実施例では、希望ビームID3のメインローブ方向に妨害ビームID1により信号S1が送信される。この場合、キャンセル信号は、希望ビームID3のメインローブ方向に妨害ビームID1により送信される信号S1をキャンセルするように生成される。一例としては、キャンセル信号は、下記の条件を満足するように生成される。
【0055】
(1)キャンセル信号を送信するビームの強度は、希望ビームID3のメインローブ方向における妨害ビームID1の強度と同じである。
(2)キャンセル信号を送信するビームのメインローブの方向は、希望ビームID3と同じである。
(3)キャンセル信号により伝送されるデータは、妨害ビームID1により伝送される信号S1のデータと同じである。
【0056】
この実施例では、メインローブ方向(すなわち、-30度)において希望ビームの強度は0dBである。また、このメインローブ方向における妨害ビームID1の強度は-8.3dBである。よって、条件(1)を満足するためには、キャンセル信号の強度は、希望ビームを使用して送信される信号S0より-8.3dBだけ低く設定する必要がある。したがって、補正値計算部25は、補正値として、メインローブ方向における希望ビームID3の強度と妨害ビームID1の強度との差分(即ち、8.3dB)を出力する。この場合、補正部26は、補正値に従って、信号S1の強度が8.3dBだけ低くなるように信号S1の振幅を補正する。さらに、補正部26は、この信号を反転させる。この結果、キャンセル信号が生成される。
【0057】
また、キャンセル信号は、上記条件(2)に従って、希望ビームID3と同じ方向に送信される。したがって、キャンセル信号の送信方向を制御するために移相器27に与えられる位相情報は、信号S0の送信方向を制御するために移相器21に与えられる移相情報と同じである。すなわち、希望ビームID3を形成するための位相情報が移相器27に与えられる。そして、各移相器27(#c-0~#c-3)は、この位相情報に従って、補正部26から出力されるキャンセル信号の位相を制御する。なお、補正部26の入力信号は、妨害ビームID1により送信される信号S1である。よって、上記条件(3)も満たされている。
【0058】
加算器28は、移相器21(#0-0~#0-3)の出力信号に移相器27(#c-0~#c-3)の出力信号をそれぞれ加算する。すなわち、信号S0にキャンセル信号が加算される。
【0059】
加算器28の出力信号は、ポート#0、#1、#2、#3を介してそれぞれ対応するアンテナに導かれる。そして、ビームフォーミング無線機1は、これらのアンテナを介して信号S0およびキャンセル信号を送信する。
【0060】
図12は、ビームフォーミング無線機1から目的端末への送信の一例を示す。この例では、ビームID3を使用してビームフォーミング無線機1からUE#0に信号S0が送信される。また、ビームID1を使用してビームフォーミング無線機1から不図示の他の端末に信号S1が送信される。このとき、信号S1は、ビームID1のサイドローブによりUE#0に到達する。
【0061】
ビームフォーミング無線機1は、UE#0に到達する信号S1をキャンセルするためのキャンセル信号を生成する。そして、ビームフォーミング無線機1は、キャンセル信号が加算された信号S0(又は、信号S0およびキャンセル信号の合成信号)を送信する。ここで、キャンセル信号は、ビームID3と同じ方向に送信される。すなわち、信号S0およびキャンセル信号は、ビームID3によりUE#0に送信される。そうすると、ビームID1のサイドローブにより送信される信号S1は、キャンセル信号によりキャンセルされる。すなわち、UE#0において、妨害ビームの影響が抑圧される。したがって、無線通信の品質が改善する。
【0062】
図13は、キャンセル信号が送信されるケースでの電波の状態の一例を示す。ここで、希望ビームID3および妨害ビームID1は、図11および図13において同じである。すなわち、希望ビームID3のメインローブは、-30度の方向に形成される。また、妨害ビームID1のサイドローブも-30度の方向に現れている。
【0063】
ビームフォーミング無線機1は、図13(a)に示すように、妨害ビームID1をキャンセルするために、キャンセル信号を送信するキャンセルビームを生成する。ここで、キャンセル信号は、妨害ビームID1により伝送される信号(上述の例では、信号S1)に基づいて生成される。一例としては、妨害ビームID1により伝送される信号を反転させることで、キャンセル信号が生成される。また、キャンセルビームの強度は、例えば、希望ビームID3のメインローブ方向における妨害ビームID1の強度と一致するように制御される。そして、キャンセルビームは、希望ビームID3のメインローブ方向に形成される。或いは、キャンセルビームは、妨害ビームID1のピークが現れる方向に形成してもよい。
【0064】
上述のキャンセルビームを使用してキャンセル信号を送信すると、受信端末(図12では、UE#0)において、妨害ビームID1により伝送される信号およびキャンセル信号が互いにキャンセルされる。この実施例では、希望ビームID3のメインローブ方向において妨害ビームID1およびキャンセルビームの強度が互いに一致するようにキャンセルビームが生成されている。したがって、希望ビームID3のメインローブ方向において、妨害ビームID1が雑音である場合の希望ビームID3の信号対雑音比が高くなる。図13(b)に示す例では、希望ビームID3のメインローブ範囲は、-26度~-34度である。そして、このメインローブ範囲においては、信号対雑音比の最悪値が約11dBである。すなわち、キャンセルビームを生成することで、図11に示すケースと比較して、通信品質が改善する。加えて、希望ビームの中心において性能を最適化できるので、複数のビーム情報を設定することにより、広い範囲にわたって良好な信号対雑音比が得られる通信システムを実現できる。
【0065】
なお、移相器21(#0-0~#0-3)、干渉計算部24、補正値計算部25、補正部26、移相器27(#c-0~#c-3)、および加算器28は、例えば、図3または図4に示すプロセッサ13により実現される。この場合、プロセッサ13が通信プログラムを実行することにより、移相器21(#0-0~#0-3)、干渉計算部24、補正値計算部25、補正部26、移相器27(#c-0~#c-3)、および加算器28の機能が提供される。
【0066】
図14は、ビームフォーミング無線機1の送信動作の一例を示すフローチャートである。なお、このフローチャートの処理は、ビームフォーミング無線機1の送信回路20により形成される各送信ビームに対して行われる。以下の記載では、図14に示すフローチャートにより処理される送信ビームを「対象ビーム」と呼ぶことがある。
【0067】
S1において、ビームフォーミング無線機1は、上位装置により生成されるビーム設定情報を取得する。ここで、上位装置は、ビームフォーミング無線機1の通信エリア内に位置する各端末にビームを割り当てる。ビーム設定情報は、ビームフォーミング無線機1が形成するビームと端末との対応関係を表す。すなわち、ビーム設定情報は、各端末へ送信される信号とビームとの対応関係を表す。例えば、図5および図7に示す例では、UE#0に送信すべき信号S0に対してビームID3が割り当てられ、UE#1に送信すべき信号S1に対してビームID1が割り当てられる。
【0068】
S2において、干渉計算部24は、ビーム設定情報に基づいて、対象ビーム#nと同時に形成される他のビーム#mが存在するか否かを判定する。以下の記載では、対象ビームと同時に形成される他のビームを「妨害ビーム」と呼ぶことがある。そして、妨害ビーム#mが存在するときは、S3において、干渉計算部24は、ビームテーブル23に保存されている指向性情報を参照し、対象ビーム#nに対する妨害ビーム#mからの干渉量を計算する。干渉量は、例えば、信号対雑音比で表される。この場合、干渉計算部24は、対象ビーム#nのメインローブ方向において、対象ビーム#nの強度と妨害ビーム#mの強度との比を計算する。
【0069】
S4において、補正値計算部25は、干渉計算部24により計算される干渉量が閾値より大きいか否かを判定する。閾値は、例えば、無線ネットワークにおいて要求される品質に基づいて予め決定される。そして、干渉量が閾値より大きいときは、補正値計算部25は、S5において、キャンセルビームの強度を指定する補正値を計算する。なお、干渉量が信号対雑音比で表されるときは、その信号対雑音比が閾値より低いときに補正値が計算される。補正値は、例えば、対象ビーム#nのメインローブ方向において、キャンセルビームの強度と妨害ビーム#mの強度とが互いに一致するように決定される。また、補正値計算部25は、キャンセルビームを形成する方向を指定する位相情報を生成して移相器27に与える。キャンセルビームは、例えば、対象ビーム#mと同じ方向に形成される。この場合、移相器27に与えられる位相情報は、移相器21に与えられる位相と同じであってもよい。
【0070】
S6において、補正部26は、妨害ビーム#nにより伝送される信号を、補正値計算部25により計算された補正値で補正する。このとき、補正部26は、妨害ビーム#nにより伝送される信号を反転させると共に、補正値に従ってその信号の振幅を補正する。これにより、キャンセル信号が生成される。
【0071】
S7において、移相器27は、キャンセル信号を送信するためのキャンセルビームを設定する。なお、キャンセルビームは、移相器27においてキャンセル信号の位相を制御することで設定される。一例としては、キャンセルビームのメインローブが対象ビーム#mのメインローブ方向に形成されるように、各移相器27(#c-0~#c-3)がそれぞれキャンセル信号の位相を制御する。
【0072】
S8において、加算器28は、ポート毎に(即ち、アンテナ素子毎に)、対象ビーム#mで伝送される信号にキャンセル信号を加算する。図6に示す例では、移相器#0-0~#0-3の出力信号に、それぞれ、移相器#c-0~#c-3の出力信号が加算される。
【0073】
S9において、各加算器28の出力信号が対応するアンテナ素子を介して送信される。この出力信号は、キャンセル信号を含む。よって、対象ビーム#mに加えてキャンセルビームが形成される。なお、加算器28とアンテナ素子との間には、デジタル/アナログ変換器、増幅器などが実装されている。
【0074】
このように、ビームフォーミング無線機1は、妨害ビームをキャンセルするためのキャンセルビームを形成する。ここで、ビームフォーミング無線機1は、予め用意されている指向性情報を利用して、希望ビームに対して干渉する妨害ビームの角度および強度を計算し、その計算結果に基づいてキャンセルビームを形成する。そして、ビームフォーミング無線機1は、希望ビームおよびキャンセルビームを合成することで、妨害ビームの影響を抑圧する。すなわち、ビームフォーミング無線機1は、キャンセルビームを形成する際に電波状況を測定する必要はないので、送信ビームを高速で変化させることが要求される無線通信システムであっても、妨害ビームのサイドローブを適切に抑圧できる。よって、シンボル単位で送信ビームを変化させることが要求される無線通信システムであっても、妨害ビームのサイドローブに起因する干渉を適切に抑圧できるので、通信品質が向上する。
【0075】
なお、上述した実施例では、希望ビームに対して1つの妨害ビームが発生するが、希望ビームに対して複数の妨害ビームが発生することもある。この場合、ビームフォーミング無線機1は、各妨害ビームに対応するキャンセルビームをそれぞれ形成してもよい。
【0076】
<受信ビーム>
ビームフォーミング無線機1は、上述したように、各端末100に信号を送信するとともに、各端末100から信号を受信する。端末100から送信される信号を受信するときは、ビームフォーミング無線機1は、各端末100に対して受信ビームを形成する。
【0077】
図15は、受信ビーム間の干渉の一例を示す。この例では、無線通信システムは、図1と同様に、ビームフォーミング無線機1および複数の端末(UE#0およびUE#1)を備える。
【0078】
UE#0から送信される信号S0を受信するときは、ビームフォーミング無線機1は、図15(a)に示すように、受信ビーム#0を形成する。受信ビーム#0のメインローブは、UE#0に向かう方向に形成される。ただし、受信ビーム#0を形成すると、対応するサイドローブ#0が現れる。ここで、サイドローブ#0は、UE#1に向かう方向に現れるものとする。この場合、UE#1が信号S1を送信すると、ビームフォーミング無線機1は、サイドローブ#0を介して信号S1を受信してしまう。この結果、信号S0の品質が劣化してしまう。
【0079】
ただし、UE#1が信号S1を送信するときは、ビームフォーミング無線機1は、図15(b)に示すように、UE#1に対して受信ビーム#1を形成する。したがって、ビームフォーミング無線機1は、上述した指向性情報(例えば、図10に示すビームテーブル23)を参照することにより、サイドローブ#0を介して受信する信号S1の強度を推定できる。ここで、サイドローブ#0を介して受信する信号S1は、信号S0に対する干渉成分に相当する。よって、ビームフォーミング無線機1は、受信ビーム#0を利用して受信する信号から、干渉成分(すなわち、サイドローブ#0を介して受信する信号S1)を除去すれば、信号S0を取得することができる。
【0080】
図16は、ビームフォーミング無線機1の受信回路の一例を示す。受信回路40は、移相器41(#0-0~#0-3)、位相テーブル42、ビームテーブル43、干渉計算部44、補正値計算部45、補正部46、移相器47(#c-0~#c-3)、および演算部48を備える。なお、受信回路40は、図16に示していない他の素子または回路を備えてもよい。また、ビームフォーミング無線機1は、4個のアンテナ素子を備える。さらに、ビームフォーミング無線機1は、受信信号ごとに受信回路40を備える。よって、ビームフォーミング無線機1がn個の端末から同時に信号を受信できるように構成されている場合、ビームフォーミング無線機1は、n個の受信回路40を備えてもよい。
【0081】
移相器41(#0-0~#0-3)、位相テーブル42、ビームテーブル43、干渉計算部44、補正値計算部45、補正部46、移相器47(#c-0~#c-3)は、図6に示す移相器21(#0-0~#0-3)、位相テーブル22、ビームテーブル23、干渉計算部24、補正値計算部25、補正部26、移相器27(#c-0~#c-3)にそれぞれ対応する。
【0082】
移相器41(#0-0~#0-3)は、対応するアンテナ素子を介して受信する信号の位相を制御する。このとき、受信回路40が受信すべき信号(即ち、目的信号)の到来方向に受信ビームが形成されるように、各受信信号の位相が制御される。これにより、希望受信ビームが形成される。
【0083】
移相器41(#0-0~#0-3)の出力信号は合成される。これにより、希望受信ビームを利用して受信した信号が得られる。但し、この受信信号は、目的信号だけでなく、干渉成分を含んでいる。図15(a)に示す例では、受信ビーム#0を利用して受信する信号は、メインローブを介して受信する信号S0およびサイドローブを介して受信する信号S1を含む。この場合、信号S0が目的信号であり、信号S1が干渉成分である。
【0084】
受信回路40は、目的信号に対する干渉成分を推定するために、目的信号と異なる他の信号(以下、干渉信号)を受信するための受信ビーム(以下、干渉信号受信ビーム)を形成する。干渉信号受信ビームは、移相器47により形成される。
【0085】
移相器47(#c-0~#c-3)は、対応するアンテナ素子を介して受信する信号の位相を制御する。ただし、移相器47においては、干渉信号受信ビームが形成されるように、各受信信号の位相が制御される。図15に示す例では、移相器47により、受信ビーム#1が形成される。そして、移相器47(#c-0~#c-3)の出力信号は合成される。これにより、干渉信号が得られる。
【0086】
干渉計算部44は、ビームテーブル43に保存されている指向性情報を参照して、希望受信ビームのメインローブを介して受信する信号S0と希望受信ビームのサイドローブを介して受信する信号S1との間の干渉量が計算される。そして、補正値計算部45は、この干渉量に基づいて補正値を生成する。
【0087】
例えば、ビームテーブル43に図10に示す指向性情報が保存されているものとする。受信回路40は、ビームID3を利用して信号S0を受信する。ビームフォーミング無線機1の他の受信回路は、ビームID2を利用して信号S1を受信する。この場合、ビームID2のメインローブの方向は-40度である。また、-40度の方向におけるビームID3の強度は-7.6dBである。そうすると、受信回路40がビームID3を介して受信する干渉信号(即ち、信号S1)の強度は-7.6dBであると推定される。そして、補正値計算部45は、干渉信号の強度に基づいて補正値を生成する。
【0088】
補正部46は、この補正値で、移相器47により得られた干渉信号の振幅を補正する。なお、振幅が補正された干渉信号は、受信回路40が希望受信ビームを使用して受信する信号に含まれる干渉成分に相当する。図15(a)に示す例では、補正部46により得られる干渉成分信号は、サイドローブ#0を介して受信する信号S1に相当する。このように、補正値計算部45、補正部46、および移相器47は、干渉成分信号を生成する干渉成分信号生成部として動作する。
【0089】
演算部48は、受信信号から補正部46の出力信号(すなわち、干渉成分信号)を引算する。この結果、希望受信ビームによる受信信号から干渉成分が除去される。図15に示す例では、受信ビーム#0を使用して受信した信号から、サイドローブ#0を介して受信した信号S1が除去され、信号S0が得られる。
【0090】
なお、移相器41(#0-0~#0-3)、干渉計算部44、補正値計算部45、補正部46、移相器47(#c-0~#c-3)、および演算部48は、例えば、図3または図4に示すプロセッサ13により実現される。この場合、プロセッサ13が通信プログラムを実行することにより、移相器41(#0-0~#0-3)、干渉計算部44、補正値計算部45、補正部46、移相器47(#c-0~#c-3)、および演算部48の機能が提供される。
【0091】
図17は、ビームフォーミング無線機1の受信動作の一例を示すフローチャートである。なお、このフローチャートの処理は、ビームフォーミング無線機1の受信回路40により形成される各受信ビームに対して行われる。以下の記載では、図17に示すフローチャートにより処理される受信ビームを「対象受信ビーム」と呼ぶことがある。
【0092】
S11~S15の処理は、図14に示すS1~S5と実質的に同じである。すなわち、ビームフォーミング無線機1は、対象受信ビームが受信すべき信号に対する他の信号からの干渉量が閾値を越えているか否かを判定する。そして、干渉量が閾値を越えているときは、ビームフォーミング無線機1は補正値を計算する。
【0093】
S16において、ビームフォーミング無線機1は、ビーム設定情報および位相テーブル42に基づいて、他の受信ビーム#mを形成する。他の受信ビーム#mは、ビーム設定情報により指定されるビームIDを用いて位相テーブル42から抽出される位相情報を移相器47(#c-0~#c-3)に設定することで形成される。そして、ビームフォーミング無線機1は、この受信ビーム#mを用いて信号を受信することで干渉信号を検出する。
【0094】
S17において、補正部46は、S15で得られた補正値で干渉信号の振幅を補正することにより、対象受信ビーム#nを介して受信した信号に含まれる干渉成分を推定する。S18において、対象受信ビーム#nを介して受信した信号から干渉成分を除去する。この結果、目的信号が得られる。
【0095】
このように、ビームフォーミング無線機1は、受信ビームのサイドローブを介して受信する干渉成分を除去する機能を備える。ここで、ビームフォーミング無線機1は、予め用意されている指向性情報を利用して、希望ビームに対して干渉する信号の角度および強度を計算し、その計算結果に基づいて干渉成分を推定する。そして、ビームフォーミング無線機1は、受信信号から干渉成分を除去することで、信号の影響を抑圧する。すなわち、ビームフォーミング無線機1は、干渉成分を推定する際に電波状況を測定する必要はないので、受信ビームを高速で変化させることが要求される無線通信システムであっても、干渉成分を適切に抑圧できる。よって、シンボル単位で受信ビームを変化させることが要求される無線通信システムであっても、干渉成分を適切に抑圧できるので、通信品質が向上する。
【符号の説明】
【0096】
1 ビームフォーミング無線機
13 プロセッサ
15 無線通信回路
20 送信回路
21 移相器(#0-0~#0-3)
22 位相テーブル
23 ビームテーブル
24 干渉計算部
25 補正値計算部
26 補正部
27 移相器(#c-0~#c-3)
28 加算器
40 受信回路
41 移相器(#0-0~#0-3)
42 位相テーブル、
43 ビームテーブル
44 干渉計算部
45 補正値計算部
46 補正部
47 移相器(#c-0~#c-3)
48 演算部
100 端末(UE)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17