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特許7581926インサートの接合した鋳造品又は鍛造品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】インサートの接合した鋳造品又は鍛造品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
B23K20/00 340
B23K20/00 360Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021014124
(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公開番号】P2022117565
(43)【公開日】2022-08-12
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄大
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-237298(JP,A)
【文献】特開昭50-125927(JP,A)
【文献】特開2013-132676(JP,A)
【文献】特開昭55-117552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
B22D 17/00-17/32
B22D 19/00-19/16
B21J 1/00-1/06
B21J 5/00-5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型内部の空洞を挟んで互いに対向する第1面及び第2面を備え、前記第1面は第1開口を有し、前記第2面は第2開口を有する鋳型を用いて行うインサートの接合した鋳造品の製造方法であって、
前記空洞に金属又は非金属である第1素材からなるとともにテーパーを有するインサートを配置し、
前記第1面側に配置された前進ピンと前記第2面側に配置された後退ピンで前記インサートを挟み込み、
前記第1開口を前記インサート又は前記前進ピンで塞ぐとともに前記第2開口を前記インサート又は前記後退ピンで塞ぎ、
前記空洞に金属である第2素材からなる溶湯を注入することで前記インサートを、前記溶湯でくるみ、
前記溶湯を前記第2素材の再結晶温度よりも高く前記第2素材の融点よりも低い温度、以下、圧入温度という、まで半冷却することで前記第2素材からなる鋳造品を生成し、ここで前記鋳造品には前記インサートが埋まる孔、以下、嵌合孔という、が成形され、前記テーパーは前記嵌合孔にフィットし、前記テーパーの先端より先にアンダーカットは形成されず、
前記圧入温度において、前記前進ピン、前記インサート及び前記後退ピンが列を成して前記テーパーの細くなる方向、以下、圧入方向という、に沿って進むことで、前記テーパーで前記嵌合孔を押し広げながら、前記鋳造品の前記嵌合孔に前記インサートを圧入し、
前記圧入を維持したまま前記鋳造品をさらに冷却する、
インサートの接合した鋳造品の製造方法。
【請求項2】
少なくとも前記インサートの圧入後において前記嵌合孔は前記鋳造品を貫通している、
請求項1に記載のインサートの接合した鋳造品の製造方法。
【請求項3】
前記第2開口を前記後退ピンで塞ぎ、
前記前進ピンで前記インサートを押し込むことで前記インサートの頭部と前記後退ピンの頂部との間に染み込むとともに凝固した前記溶湯をその周囲に押し出し、
前記押し出しを維持したまま前記鋳造品をさらに冷却する、
請求項1又は2に記載のインサートの接合した鋳造品の製造方法。
【請求項4】
前記第2開口を前記後退ピンで塞ぎ、ここで前記後退ピンの頂部は前記テーパーの前記先端よりも大きく、
前記後退ピンを前記インサートの頭部で押し込むことで前記第2開口内に空間を生むとともに、前記インサートの圧入により前記第2面を超えて前記空間内に前記鋳造品の余剰な体積を押し除け、
前記押し除けを維持したまま前記鋳造品をさらに冷却する、
請求項1又は2に記載のインサートの接合した鋳造品の製造方法。
【請求項5】
前記後退ピンの前記頂部はその中央にさらに突起を有し、
前記第2開口を前記後退ピンの外縁で塞ぎ、
前記空洞に前記溶湯を注入することでさらに前記突起を前記溶湯でくるみ、
前記インサートを圧入することで、前記突起の占めていた空間の少なくとも一部を前記インサートの頭部に置き換える。
請求項に記載のインサートの接合した鋳造品の製造方法。
【請求項6】
前記インサートは、前記先端よりも先の箇所において、前記頭部まで延在する、前記圧入方向に平行な柱状面をさらに有し、
前記柱状面は前記嵌合孔にフィットする、
請求項に記載のインサートの接合した鋳造品の製造方法。
【請求項7】
前記第1素材の融点は、前記第2素材の前記融点よりも高く、
前記圧入温度において前記第1素材のヤング率は、前記第2素材のヤング率よりも高い、
請求項1~のいずれかに記載のインサートの接合した鋳造品の製造方法。
【請求項8】
前記第1素材は鉄の単体又はその合金であり、
前記第2素材はアルミニウムの単体又はその合金であり、
前記圧入温度は150℃より高い、
請求項1~のいずれかに記載のインサートの接合した鋳造品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインサートの接合した鋳造品又は鍛造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、鉄系金属のリベットを、鉄系金属以外例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の部材に設けた孔に圧入することでリベットと部材とを接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-089657号公報
【文献】特開2006-312192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法に沿って、金属材の孔にインサートを圧入することで金属材とインサートとを強く接合するためには、孔及びインサートをそれぞれ別個に精度良く成形しなければならない。また圧入時に孔に対するインサートの位置を正確に決めなければならない。本発明の一つの観点において、金属材の孔とインサートとの形状並びに位置決めの精度に依拠せずに、これら部材を強く接合する方法を提供する。
【0005】
また特許文献2では鋼材からなるインサートをアルミニウムで鋳ぐるみにすることでこれらを接合する。鋳ぐるみでは接合の強度を高める上で、形状加工や位置決めの精度を高めることへの依存が圧入ほど強くない。またインサートと鋳造品との間に隙間はないため接合の強度も高い。しかしながら、鋳ぐるみされたインサートの周囲の金属材に、鋳巣及びその他の内部欠陥が生じる。内部欠陥はインサートと金属材の接合を弱める。本発明の一つの観点において、鋳ぐるみで生じるインサート周囲の内部欠陥を除去する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1> インサートの接合した鋳造品の製造方法であって、
金属又は非金属である第1素材からなるとともにテーパーを有するインサートを、金属である第2素材からなる溶湯でくるみ、
前記溶湯を前記第2素材の再結晶温度よりも高く前記第2素材の融点よりも低い温度、以下、圧入温度という、まで半冷却することで前記第2素材からなる鋳造品を生成し、ここで前記鋳造品には前記インサートが埋まる孔、以下、嵌合孔という、が成形され、前記テーパーは前記嵌合孔にフィットし、前記テーパーの先端より先にアンダーカットは形成されず、
前記圧入温度において、前記テーパーの細くなる方向、以下、圧入方向という、に向かって、前記テーパーで前記嵌合孔を押し広げながら、前記鋳造品の前記嵌合孔に前記インサートを圧入し、
前記圧入を維持したまま前記鋳造品をさらに冷却する、
方法。
【0007】
<2> 少なくとも前記インサートの圧入後において前記嵌合孔は前記鋳造品を貫通している、<1>の方法。
【0008】
<3> 鋳型内部の空洞を挟んで互いに対向する第1面及び第2面を備え、前記第1面は第1開口を有し、前記第2面は第2開口を有する鋳型を用いて行う<1>又は<2>の方法であって、
前記空洞に前記インサートを配置し、
前記第1面側に配置された前進ピンと前記第2面側に配置された後退ピンで前記インサートを挟み込み、
前記第1開口を前記インサート又は前記前進ピンで塞ぐとともに前記第2開口を前記インサート又は前記後退ピンで塞ぎ、
前記空洞に前記溶湯を注入することで前記インサートを前記溶湯でくるみ
前記前進ピン、前記インサート及び前記後退ピンが列を成して前記圧入方向に沿って進むことで前記圧入を行う、
方法。
【0009】
<4> 前記第2開口を前記後退ピンで塞ぎ、
前記前進ピンで前記インサートを押し込むことで前記インサートの頭部と前記後退ピンの頂部との間に染み込むとともに凝固した前記溶湯をその周囲に押し出し、
前記押し出しを維持したまま前記鋳造品をさらに冷却する、
<3>の方法。
【0010】
<5> 前記第2開口を前記後退ピンで塞ぎ、ここで前記後退ピンの頂部は前記テーパーの前記先端よりも大きく、
前記後退ピンを前記インサートの頭部で押し込むことで前記第2開口内に空間を生むとともに、前記インサートの圧入により前記第2面を超えて前記空間内に前記鋳造品の余剰な体積を押し除け、
前記押し除けを維持したまま前記鋳造品をさらに冷却する、
<3>の方法。
【0011】
<6> 前記後退ピンの前記頂部はその中央にさらに突起を有し、
前記第2開口を前記後退ピンの外縁で塞ぎ、
前記空洞に前記溶湯を注入することでさらに前記突起を前記溶湯でくるみ、
前記インサートを圧入することで、前記突起の占めていた空間の少なくとも一部を前記インサートの頭部に置き換える。
<5>の方法。
【0012】
<7> 前記インサートは、前記先端よりも先の箇所において、前記頭部まで延在する、前記圧入方向に平行な柱状面をさらに有し、
前記柱状面は前記嵌合孔にフィットする、
<6>の方法。
【0013】
<8> 前記第1素材の融点は、前記第2素材の前記融点よりも高く、
前記圧入温度において前記第1素材のヤング率は、前記第2素材のヤング率よりも高い、
上記方法。
【0014】
<9> 前記第1素材は鉄の単体又はその合金であり、
前記第2素材はアルミニウムの単体又はその合金であり、
前記圧入温度は150℃より高い、
上記方法。
【0015】
<10> インサートの接合した鍛造品の製造方法であって、
その再結晶温度よりも高くその融点よりも低い温度、以下、鍛造温度という、にて金属塊を型で押圧することで前記金属塊を成形し、
さらに前記鍛造温度にて、テーパーを有するインサートを、前記金属塊に圧入することで前記インサートが埋まる孔、以下、嵌合孔という、を前記金属塊内に成形し、ここで前記テーパーは前記嵌合孔にフィットし、
前記金属塊をその再結晶温度よりも高く、前記鍛造温度よりも低い温度、以下、再圧入温度という、まで半冷却することで前記金属塊からなる前記鍛造品を生成し、
前記再圧入温度において、前記鍛造品の前記嵌合孔の周りを前記型で抑えながら、また前記テーパーで前記嵌合孔を押し広げながら、前記テーパーの細くなる方向に向かって、前記鍛造品の前記嵌合孔に前記インサートを再度圧入し、
前記再度の圧入を維持したまま前記鍛造品をさらに冷却する、
製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一つの観点において、金属材の孔とインサートとの形状並びに位置決めの精度に依拠せずに、これら部材を強く接合する方法を提供する。本発明の他の観点において、鋳ぐるみで生じるインサート周囲の内部欠陥を除去する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】インサート及び金属成形品の接合の模式図。
図2】インサート及び鋳型の断面図。
図3】インサート及び溶湯の断面図。
図4】インサート及び鋳造品の断面図。
図5】各種インサートの断面図。
図6】各種インサートの断面図。
図7】各種テーパーの断面図。
図8】各種突起の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1はインサート96及び金属成形品MMの接合の様子を断面視して示す。本実施形態において、特に言及しない限り断面は縦断面を表す。金属成形品MMは鋳造品又は鍛造品である。インサート96及び金属成形品MMは相異なる素材からなる。上段は金属成形品MM内にインサート96が挿入された状態を示す。下段はインサート96を金属成形品MMの92にさらに突き入れた状態を示す。
【0019】
<鋳造品>
【0020】
図1の上段に示す金属成形品MMが鋳造品である場合、事前にインサート96を溶湯で鋳ぐるみする。インサート96はテーパー97を有する。図の上段において鋳ぐるみにより金属成形品MMには嵌合孔92が成形される。テーパー97は嵌合孔92にフィットする。
【0021】
図1の上段においてテーパー97の先端、図中では下端、より先にアンダーカットは形成されないことが好ましい。本実施形態においてテーパーの先端とは細い側をいう。嵌合孔92は金属成形品MMを貫通していることが好ましい。他の態様において嵌合孔92は金属成形品MMを貫通していない。
【0022】
図1の上段において、圧入温度まで半冷却することで金属成形品MMを生成する。圧入温度は金属成形品MMの再結晶温度よりも高い。テーパー97の細くなる方向に向かって、テーパー97で嵌合孔92を押し広げながら、金属成形品MMの嵌合孔92にインサート96を圧入する。圧入はもともと嵌合孔92に挿入されていたインサート96を嵌合孔92にさらに突き入れることで行う。圧入は嵌合孔92の表面に強い拡張圧力を生じる。またテーパー97の表面に強い締め付け圧力を生じる。
【0023】
図1の下段において、圧入により嵌合孔92の周りに鍛流線94が新たに生じる。また嵌合孔92の周りに内部欠陥があっても、これらは半冷却状態の金属の塑性流動と圧入の圧力とによって押しつぶされる。半冷却状態の金属は流動性に乏しいので圧入の圧力は嵌合孔92の周りに集中する。インサート96の圧入を維持したまま金属成形品MMをさらに冷却する。以上によりインサート96と金属成形品MMとの間に接合が形成される。圧入による接合は鋳ぐるみのみで得られる接合よりも強固である。
【0024】
図1の下段において、嵌合孔92は金属成形品MMを貫通していることが好ましい。他の態様において嵌合孔92は金属成形品MMを貫通していない。
【0025】
<鍛造品>
【0026】
図1の上段に示す金属成形品MMが鍛造品である場合、事前に金属塊を型91で押圧するとともにインサート96を金属塊に圧入することで鍛造を行う。鍛造は再結晶温度よりも高くその融点よりも低い温度、以下鍛造温度という、で行う。図の上段においてインサート96の圧入より金属成形品MMには嵌合孔92が成形される。テーパー97は嵌合孔92にフィットする。
【0027】
図1の上段において嵌合孔92は金属成形品MMを貫通していることが好ましい。他の態様において嵌合孔92は金属成形品MMを貫通していない。鍛造温度よりも低い再圧入温度まで半冷却することで金属成形品MMを生成する。再圧入温度は金属成形品MMの再結晶温度よりも高い。
【0028】
図1の下段に示すようにテーパー97の細くなる方向、テーパー97で嵌合孔92を押し広げながら、金属成形品MMの嵌合孔92にインサート96を再度圧入する。再度の圧入はもともと嵌合孔92に挿入されていたインサート96を嵌合孔92にさらに突き入れることで行う。
【0029】
図1の下段において、再圧入温度の金属は鍛造温度の金属よりも流動性に乏しいので再圧入の圧力は嵌合孔92の周りに特に集中する。再度の圧入は嵌合孔92の表面に強い拡張圧力を生じる。またテーパー97の表面に強い締め付け圧力を生じる。インサート96の再度の圧入は嵌合孔92の周りを型91で抑えながら行う。
【0030】
図1の下段において、インサート96の再度の圧入を維持したまま金属成形品MMをさらに冷却する。以上によりインサート96と金属成形品MMとの間に接合が形成される。再度の圧入による接合は鍛造温度で行う圧入のみで得られる接合よりも強固である。
【0031】
図1の下段において、嵌合孔92は金属成形品MMを貫通していることが好ましい。他の態様において嵌合孔92は金属成形品MMを貫通していない。
【実施例
【0032】
以下の実施例において、鋳造品を例にとって本発明をさらに説明する。以下の例示は上述の鍛造品にも応用することができる。
【0033】
<概要>
【0034】
図2はインサート16及びその他の工具の断面図である。その他の工具には鋳型10、前進ピン15a及び後退ピン15bが含まれる。鋳型10は上型11a、下型11bを備える。鋳型10は上型11aと下型11bとで挟まれた内部に空洞13を備える。これらの工具を用いて鋳ぐるみと圧入によりインサート16の接合した鋳造品を製造する。
【0035】
図3は鋳型10内に注がれた溶湯20の断面を表す。鋳造はダイカストで行う。図4は空洞13に形成された鋳造品25の断面を表す。空洞13に留め置かれている鋳造品25に対してインサート16が圧入される。
【0036】
<インサート>
【0037】
図2に戻る。図2に示すインサート16は鋳造用金属と異なる材料からなる。本実施形態において、インサート16を構成する材料を第1素材と称する。第1素材は金属又は非金属である。一態様において金属は鉄、銅、チタン及びニッケルの単体並びにこれらの合金のいずれかである。一態様において鉄の合金は鋼である。一態様において非金属はセラミックスである。また本実施形態において、鋳造用金属を第2素材と称する。インサート16は第2素材で鋳ぐるみされる。
【0038】
図2に示すように空洞13にインサート16を配置する。インサート16はその中央にテーパー17を有する。先に述べたように圧入はテーパー17の細くなる方向に向かって行う。この方向を圧入方向という。図中では圧入方向は下向きである。テーパー17の先端は圧入方向の先頭側にある。
【0039】
図2に示すようにインサート16は、テーパー17の太い側に、圧入方向に対して平行な柱状面18aをさらに有する。柱状面18bはインサート16の尾部まで延在する。本実施形態においてインサートの『尾部』は圧入方向における後方側端部をいう。他の態様においてインサート16は柱状面18aを有しない。前進ピン15aに接する側のインサート16の端面は平坦である。
【0040】
図2に示すようにインサート16は、テーパー17の細い側に、圧入方向に平行な柱状面18bをさらに有する。柱状面18bはインサート16の頭部まで延在する。本実施形態においてインサートの『頭部』は圧入方向における前方側端部をいう。他の態様においてインサート16は柱状面18bを有しない。後退ピン15bに接する側のインサート16の端面は平坦である。
【0041】
図2に示すインサート16の形状は例示である。インサート16の尾部は上型11aの内部にまで延在していてもよい。インサート16の頭部は上型11bの内部にまで延在していてもよい。インサート16の内部は空洞を有していてもよい。
【0042】
<鋳型>
【0043】
図2に示すように、鋳型10は第1面12a及び第2面12bを備える。第1面12aは上型11a上に位置する。第2面12bは下型11b上に位置する。第1面12a及び第2面12bは空洞13を挟んで互いに対向する。第1面12aは第1開口14aを有する。第2面12bは第2開口14bを有する。
【0044】
<ピン>
【0045】
図2に示すように前進ピン15aは第1面12aの側に配置される。後退ピン15bは第2面12b側に配置される。前進ピン15a及び後退ピン15bのペアでインサート16を挟み込むように配置する。一態様においてインサート16の尾部が前進ピン15aの頂部に接し、インサート16の頭部が後退ピン15bの頂部に接する。本実施形態において各ピンの『頂部』はインサートに近い側の端部をいう。
【0046】
図2に示す後退ピン15bの頂部は、これを平面視した時、インサート16の頭部よりも大きいことが好ましい。また後退ピン15bの頂部は、これを平面視した時、テーパー17の先端よりも大きいことが好ましい。また後退ピン15bの頂部はその中央にさらに突起19を有することが好ましい。一態様において突起19は、これを平面視した時、インサート16の頭部と大きさが等しい。一態様において突起19は、これを平面視した時、インサート16の柱状面18bと大きさが等しい。一態様において突起19は、これを平面視した時、テーパー17の先端と大きさが等しい。
【0047】
図2に示すように第1開口14aをインサート16で塞ぐ。他の態様において第1開口14aを前進ピン15aで塞ぐ。また第2開口14bを後退ピン15bで塞ぐ。他の態様において第2開口14bをインサート16で塞ぐ。好ましくは後退ピン15bの頂部の外縁で第2開口14bを塞ぐ。一態様において後退ピン15bの外縁は下型11bの第2面12bと高さが揃い、それらの間に段差が生じない。他の態様において第2開口14bを突起19で塞ぐ。
【0048】
<鋳ぐるみ>
【0049】
図3に示すように第2素材からなる溶湯20を鋳型10内の空洞に注入する。インサート16を溶湯20でくるむ。さらに突起19を溶湯20でくるむことが好ましい。溶湯20を所定の圧入温度まで半冷却することで第2素材からなる成型物を生成する。
【0050】
図3に示す溶湯20に対する圧入温度は溶湯20を構成する第2素材の再結晶温度よりも高く、第2素材の融点よりも低い。一態様において溶湯20の第1素材の融点は、溶湯20の第2素材の融点よりも高い。
【0051】
図3に示すように、溶湯20から生じる成型物にはインサート16が埋まる孔、嵌合孔22、が成形される。テーパー17は嵌合孔22にフィットする。柱状面18a及び18bも嵌合孔22にフィットする。また成型物中においてテーパー17の先端より先にアンダーカットは形成されないことが好ましい。
【0052】
図3に示す溶湯20となっている第2素材は、一態様においてアルミニウム、マグネシウム及び亜鉛の単体並びにそれらの合金のいずれかである。
【0053】
一例において図3に示す溶湯20の第2素材は純アルミニウム又はアルミニウム合金である。一態様において圧入温度は150℃より高い。これらの第2素材は150℃以上で高い延性を示す。したがって、下記の行程でインサート16を鋳造品に突き入れた時でも嵌合孔22が割れにくい。
【0054】
<圧入>
【0055】
図4に示すように圧入温度において嵌合孔22にインサート16を圧入する。圧入はテーパー17の細くなる方向、圧入方向、に向かって行う。圧入はテーパー17で嵌合孔22を押し広げながら、インサート16を嵌合孔22に突き入れることで行う。圧入は嵌合孔22の表面を拡張する圧力と、テーパー17の表面を締め上げる圧力とを生じる。
【0056】
図4に示すように圧入は、前進ピン15aでインサート16及び後退ピン15bを押し込むことで行う。前進ピン15a及びインサート16は第1開口14a上を圧入方向に沿って摺動する。後退ピン15bは第2開口14b上を圧入方向に沿って摺動する。
【0057】
図4において前進ピン15a、インサート16及び後退ピン15bが列を成して圧入方向に沿って進む。後退ピン15bが空洞13から逃げることで、後退ピン15bのいなくなった領域にインサート16が進入する。後退ピン15bはインサート16の頭部に働く、インサート16を押し戻す圧力を軽減する。
【0058】
一態様において図4に示す前進ピン15a及びインサート16がいずれも回転対称形であり、またそれらの回転中心が一致する。さらなる一態様において回転中心を軸にしてインサート16で前進ピン15aを回転させながら突き込む。嵌合孔22の表面に強い剪断力が働くため、さらに嵌合孔22の表面が硬くなり強い接合が得られる。
【0059】
一態様において図4に示す鋳造品25の第2素材の再結晶温度は常温よりも高い。一例において常温は5~35℃である(JIS規格)。さらにインサート16の第1素材のヤング率は、圧入温度において鋳造品25の第2素材のヤング率よりも高い。したがって嵌合孔22の周囲の金属組織は、インサート16によって鍛造された状態を有するに至る。圧入により鋳造品25の嵌合孔22の周囲の金属組織に鍛流線24が形成される。
【0060】
図4に示す一態様において、圧入後において嵌合孔22は鋳造品25を貫通していることが好ましい。非貫通孔の底には応力が集中し割れやすいため、そのような底を有しないことが有利である。他の態様において嵌合孔22は鋳造品25を貫通していない。
【0061】
<鋳造品の取り出し>
【0062】
図4において、上述の通りインサート16の圧入を維持したまま鋳造品25をさらに冷却する。好ましくは第2素材の再結晶温度よりも低い温度まで冷却する。上型11a、下型11b、前進ピン15a及び後退ピン15bを鋳造品25から取り外すことで、インサート16の接合した鋳造品25を取り出す。
【0063】
<応用例:バリの除去>
【0064】
図3に戻る。図に示すように溶湯20がインサート16の頭部と後退ピン15bの頂部との間に染み込むことがある。具体的にはインサート16の頭部と突起19との間に溶湯が染み込む。染み込んだ溶湯20は凝固することでバリとなる。一態様においてこのバリを圧入時に除去する。
【0065】
図4に示すように前進ピン15aでインサート16を押し込む。後退ピン15bは第2開口14bに支持されている。インサート16の頭部は後退ピン15bの頂部に達する。インサート16と後退ピン15bとが、それらの間に生じたバリをその周囲に押しのける。このバリ除去は、圧入によるインサート16と鋳造品25との接合と同時に行われる。
【0066】
図4においてインサート16と後退ピン15bの間からバリを押し除けた状態を維持したまま鋳造品25をさらに冷却する。好ましくは第2素材の再結晶温度よりも低い温度まで冷却する。
【0067】
図4に示す他の態様においてインサート16と後退ピン15bとの間のバリは鋳造品25に残ってもよい。鋳造品25を鋳型10から取り出すとともに、後退ピン15bを鋳造品25から分離した後にバリを除去してもよい。
【0068】
<応用例:余剰な体積の逃がし>
【0069】
図3から図4にかけて示すように鋳造品25にインサート16を圧入することで嵌合孔22の周りの金属が押し除けられる。さらにインサート16と後退ピン15bとの間の金属も押し除けられる。鋳造品25は半冷却状態なのでこれにより生じる圧力は嵌合孔22の周りに留まる。圧力が高すぎるとインサート16の圧入自体が困難になる。したがって鋳造品25のこれらの余剰な体積を逃がすことで、圧入を弱めるために以下のように後退ピン15b他を設計する。
【0070】
図4に示すように後退ピン15bの頂部はテーパー17の先端よりも大きい。したがって後退ピン15bをテーパー17の先端で押し込むことで第2開口14b内に空間23を生む。これにより第2面12bを超えて空間23内に鋳造品25の余剰な体積を押し除ける。
【0071】
図4に示すように鋳造品25の余剰な体積を押し除けた状態を維持したまま鋳造品25をさらに冷却する。
【0072】
<応用例:インサート飛び出し量の調整>
【0073】
図2に戻る。後退ピン15bの頂部はその中央に突起19を有する。また第2開口14bを後退ピン15bの外縁で塞ぐ。空洞13に溶湯を注入することで、図3に示すように突起19を溶湯20でくるむ。溶湯20を圧入温度まで冷却した後、図4に示すように圧入の深さが突起19の高さを上回らない範囲でインサート16を圧入する。
【0074】
図4に示すようにインサート16を圧入することで、突起19の占めていた空間の少なくとも一部を、好ましくは全部をインサート16の頭部に置き換える。
【0075】
図2~4に示す一態様において突起19は、これを平面視した時、インサート16の頭部と大きさが等しい。一態様において突起19は、これを平面視した時、インサート16の柱状面18bと大きさが等しい。一態様において突起19は、これを平面視した時、テーパー17の先端と大きさが等しい。突起19の占めていた空間にインサート16の頭部がスムーズに進入する。
【0076】
図4に示すようにインサート16の頭部は鋳造品25の表面から飛び出ないことが好ましい。この圧入状態を維持したまま鋳造品25をさらに冷却する。突起19の高さを調整することで、鋳型10の第2面12b側に対するインサート16の頭部の飛び出しの高さ又は引っ込みの深さを任意のものとすることができる。好ましい態様において圧入完了時の鋳型10の第2面12bとインサート16の頭部の端面の高さを揃える。
【0077】
<変形例:インサートの形状のバリエーション>
【0078】
図5にインサート96(図1)やインサート16(図2~4)のバリエーションの断面形状を示す。インサート26a~26gは図の下方に向かって進行することで金属成形品MMに圧入される。便宜的に図の下方をインサートの頭部とし、図の上方をインサートの尾部とする。特に言及しない限りインサートの有するテーパーは尾部側から頭部側に向かって細くなる。
【0079】
図5に示すインサート26a~26gはテーパーを有する。これらのテーパーはもっぱら尾部側から頭部側に向かって細くなる。インサート26aは頭部にテーパーを有し、尾部に、テーパーの根元からつながる柱状面を有する。インサート26bは頭部の端部から尾部の端部まで全てテーパーで形成されている。インサート26cは頭部側で丸まったテーパーを有する。
【0080】
図5に示すインサート26dは頭部にテーパーを有し、尾部にもテーパーを有する。ただし尾部のテーパーは圧入方向に逆らって細くなる。
【0081】
図5に示すインサート26eは頭部に柱状面を有し、尾部にテーパーを有する。インサート26fは頭部にテーパーを有し、尾部に柱状面を有する。柱状面の径はテーパーの根元の径よりも大きい。テーパーと柱状面とを接続するテーブル面をされに備える。インサート26gは頭部に柱状面を有し、尾部にテーパーを有する。尾部のテーパーは頭部側にて丸まっている。
【0082】
図6に他のインサートの断面を示す。インサート36a~36c及び36e~36gはテーパーを有する。これらのテーパーはもっぱら尾部側から頭部側に向かって太くなる、いわゆる逆テーパーである。これらのインサートを頭部から金属成形品MMの嵌合孔に圧入しても、逆テーパーの表面には締め付け圧力を生じない。したがってインサートと金属成形品MMとの接合には、図1~5に示すようなテーパーを備えるインサートを用いることが好ましい。
【0083】
図6に示すインサート36dは頭部に逆テーパーを有し、尾部にも逆テーパーを有するくびれ型である。ただし尾部の逆テーパーは圧入方向に沿って細くなる。したがって一見するとインサートを嵌合孔に圧入することで、尾部のテーパーに締め付け圧力がかかることが予想される。しかしながら本例では頭部の逆テーパーと嵌合孔の表面との間にポケットが形成されるため、フレッティング破壊が助長される可能性がある。したがって図1~5に示すように、テーパーの先端より先にアンダーカットは形成されないことが好ましい。
【0084】
<変形例:圧入後のインサートの位置のバリエーション>
【0085】
図7に圧入後のインサートの位置のバリエーションを断面視したものを示す。金属成形品MMは貫通している嵌合孔を有する。嵌合孔は逆テーパーを有する。嵌合孔の逆テーパーの太い側の表面を第1面とする。逆テーパーの細い側の表面を第2面とする。
【0086】
図7に示すようにインサート27aの尾部の端面と金属成形品MMの第1面とは高さが揃っている。またインサート27aの頭部の端面と金属成形品MMの第2面とは高さが揃っている。インサート27bの尾部は金属成形品MMの第1面から飛び出ている。またインサート27bの頭部の端面と金属成形品MMの第2面とは高さが揃っている。インサート27cの尾部は金属成形品MMの第1面から飛び出ており、またインサート27cの頭部は第2面から飛び出ている。インサート27dの尾部の端面は金属成形品MMの第1面よりも低いが、インサート27cの頭部は第2面から飛び出ている。インサート27eの尾部の端面は金属成形品MMの第1面よりも低く、またインサート27eの頭部の端面は金属成形品MMの第2面よりも低い。
【0087】
本実施形態では金属成形品に対するインサートの位置を所望のものとすることができる。所望の位置はインサートの高さ、後退ピンの突起の高さ、及び圧入の深さを調整することで得られる。これらの調整により、インサートの端面と金属成形品の表面との間の段差を小さくすることができる。
【0088】
<後退ピンの突起の形状のバリエーション>
【0089】
図8は後退ピンの頂面の突起のバリエーションの断面の形状を示す。図2に示す後退ピン15bと同様に、図8に示す後退ピン28a~28dも下型11bの開口を塞いでいる。
【0090】
図8に示す後退ピン28aはテーパー形状の突起29aを有する。後退ピン28bは丸まったテーパー形状の突起29bを有する。後退ピン28cは柱状の突起29cを有する。これらの突起を備える後退ピンは半冷却状態の鋳造品25から容易に脱離する。後退ピン28dは逆テーパー形状の突起29dを有する。突起29dは鋳造品25に対してアンダーカット形状となるため、後退ピン28dは半冷却状態の鋳造品25から脱離しにくい。
【符号の説明】
【0091】
10 鋳型、 11a 上型、 11b 下型、 12a 第1面、 12b 第2面、 13 空洞、 14a 第1開口、 14b 第2開口、 15a 前進ピン、 15b 後退ピン、 16 インサート、 17 テーパー、 18a-b 柱状面、 19 突起、 20 溶湯、 22 嵌合孔、 23 空間、 24 鍛流線、 25 鋳造品、 26a-g インサート、 27a-e インサート、 28a-d 後退ピン、 29a-d 突起、 36a-g インサート、 91 型、 92 嵌合孔、 94 鍛流線、 96 インサート、 97 テーパー、 MM 金属成形品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8