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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】車体組立精度の検査方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 21/00 20060101AFI20241106BHJP
   B23P 19/00 20060101ALI20241106BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B23P21/00 303A
B23P19/00 303B
G01M17/007 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021014158
(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公開番号】P2022117583
(43)【公開日】2022-08-12
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】田所 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】小西 豊
(72)【発明者】
【氏名】林 哲史
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-108964(JP,A)
【文献】特開2019-209403(JP,A)
【文献】特開2009-002814(JP,A)
【文献】特開2006-153805(JP,A)
【文献】特開2014-126531(JP,A)
【文献】特開2002-107139(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0359994(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 19/00ー21/00
G01M 17/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造ライン上車両ボデーを組み立てる精度を自動で検査する、車体組立精度の検査方法であって、
上記車両ボデーを構成するフロア構造体とサイドメンバとが正しく組み立てられていることが製造ライン外で確認されたマスターボデーを用意し、
上記マスターボデーに設定された基準点の位置を、製造ライン内に設けられた測定エリアの自動測定器によって測定し、その測定結果をマスターデータとして登録する登録ステップと、
上記測定エリアに搬入された検査対象である溶接前段階における上記フロア構造体および上記サイドメンバの位置ずれを確認するための基準点の位置を車両ボデーにおける基準点の位置として上記自動測定器によって測定する測定ステップと、
上記測定ステップで測定された、上記溶接前段階における上記フロア構造体および上記サイドメンバの位置ずれを確認するための基準点の位置と、上記登録ステップで登録されたマスターデータとの差分が所定の範囲内になることを条件として、上記検査対象であった上記フロア構造体と上記サイドメンバとの溶接を実行し、これらフロア構造体およびサイドメンバを測定エリアから送り出す検査ステップと、
を含むことを特徴とする車体組立精度の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造ライン上の車両ボデーの組立精度を自動で検査する、車体組立精度の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車製造工場などにおいては、車両の品質管理のために、製造中の車両ボデー(車体)の組立精度の検査が行われている。
【0003】
かかる組立精度の検査は、製造途中の車体を専用の検査ステーションへ移送して行うのが一般的であるが、これでは、車体の移送や検査自体に時間や工数を要するため、製造途中の車体の一部だけを検査する抜き取り検査にならざるを得ず、全数検査を行うことが困難であった。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、車体の組立ラインに設置されたロボットを用い、車体に接近させたロボットのアーム先端側部分を、仮想車体を基準に設定された測定基準位置に配置し、測定基準位置に配置されたアーム先端側部分と車体との間の距離を、ボールゲージ等の測定器具を用いて測定することで車体の組立精度を検査する、車体組立精度の検査方法が開示されている。
【0005】
この特許文献1では、アームと車体との距離は、作業者がボールゲージを用いて手作業で測定する以外に、ロボットに設けられたセンサにより自動で測定するようにしてもよいことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-209403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1には、測定基準位置の基準となる仮想車体をどのように設定するかについては明記されていないが、仮想車体は車両ボデーの設計CADデータに基づいて設定されるのが一般的である。
【0008】
そうすると、特許文献1のものでは、検査対象となる車両ボデーと設計CADデータとを比較していることになるが、設計CADデータには、車両ボデーを搬送する搬送体や搬送経路などといった、製造ラインを構成する設備の歪み等に関する情報が含まれていないため、検査精度が設備に起因する誤差の影響を受ける可能性があり、その点で、特許文献1のものには改善の余地がある。
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車体組立精度の検査方法において、製造ラインを構成する設備に起因する誤差の影響を抑えて、検査精度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明に係る車体組立精度の検査方法では、検査対象となる車両ボデーを、正しく組み立てられたマスターボデーと、同じ条件下で比較するようにしている。
【0011】
具体的には、本発明は、製造ライン上車両ボデーを組み立てる精度を自動で検査する、車体組立精度の検査方法を対象としている。
【0012】
この検査方法では、上記車両ボデーを構成するフロア構造体とサイドメンバとが正しく組み立てられていることが製造ライン外で確認されたマスターボデーを用意する。
【0013】
そして、この検査方法は、上記マスターボデーに設定された基準点の位置を、製造ライン内に設けられた測定エリアの自動測定器によって測定し、その測定結果をマスターデータとして登録する登録ステップと、上記測定エリアに搬入された検査対象である溶接前段階における上記フロア構造体および上記サイドメンバの位置ずれを確認するための基準点の位置を車両ボデーにおける基準点の位置として上記自動測定器によって測定する測定ステップと、上記測定ステップで測定された、上記溶接前段階における上記フロア構造体および上記サイドメンバの位置ずれを確認するための基準点の位置と、上記登録ステップで登録されたマスターデータとの差分が所定の範囲内になることを条件として、上記検査対象であった上記フロア構造体と上記サイドメンバとの溶接を実行し、これらフロア構造体およびサイドメンバを測定エリアから送り出す検査ステップと、を含むことを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、正しく組み立てられていることが製造ライン外で確認されたマスターボデーに設定された基準点の位置(マスターデータ)と、車両ボデーにおける基準点の位置とを、製造ライン内に設けられた同じ測定エリアで、換言すると、同じ条件下で比較することから、車両ボデーと設計CADデータとを比較する場合等に比して、設備に起因する誤差の影響を抑えて、検査精度を高めることができる。
【0015】
しかも、製造ライン外で組立精度の検査が行われるのはマスターボデーだけであり、他の検査対象である車両ボデーについては、製造ライン内に設けられた測定エリアで組立精度の検査を実施することから、製造途中の全ての車両ボデーについて容易に検査(全数検査)を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明に係る車体組立精度の検査方法によれば、製造ラインを構成する設備に起因する誤差の影響を抑えて、検査精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の参考例1に係る測定エリアを模式的に示す斜視図である。
図2】車体組立精度検査装置を模式的に示すブロック図である。
図3】車両ボデーに設定された基準点を模式的に示す斜視図である。
図4】車体組立精度の検査方法の手順を示すフローチャートである。
図5実施形態に係るプリセット工程を模式的に説明する図である。
図6参考例2に係る車両ボデーの上部構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、参考例1を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本参考例1に係る測定エリア3を模式的に示す斜視図であり、図2は、車体組立精度検査装置10を模式的に示すブロック図である。この車体組立精度検査装置10は、オフライン(製造ライン1外)に設けられた専用の検査ステーション等ではなく、図1に示すように、インライン(製造ライン1内)に設けられた測定エリア3に設置された、各々3次元センサ13が取り付けられた4つの6軸多関節ロボット11を用いて、製造ライン1上で車両ボデー20の組立精度を自動で検査するものである。
【0020】
-車体組立精度検査装置-
車体組立精度検査装置10は、図2に示すように、搬送設備5と、6軸多関節ロボット
11と、3次元センサ13と、工程盤14と、ロボット盤15と、画像処理用パソコン16と、データ収集盤17と、サーバー18と、これらをオープンネットワークで接続するハブ19と、を備えている。
【0021】
搬送設備5は、支柱やレール等で構成された搬送経路7と、搬送経路7に沿って移動する搬送体9と、を備えていて、後述するマスターボデーを含む車両ボデー20を、図1のX方向に搬送するように構成されている。
【0022】
6軸多関節ロボット11は、搬送経路7と略平行に相互に間隔をあけて設置される基台12上に設けられている。この6軸多関節ロボット11は、複数のリンクとこれら複数のリンクを接続する6つの回転関節とで構成されるロボットアーム11aを有していて、ロボットアーム11aの先端には、ロボットハンド等のエンドエフェクタが取り付け可能となっている。各回転関節には、サーボモータ(図示せず)が設けられていて、各サーボモータが個別に角変位することによって、ロボットアーム11aの先端の位置および姿勢を3次元的に変更することが可能になっている。
【0023】
3次元センサ13は、ロボットアーム11aの先端に取り付けられていて、位置および姿勢を3次元的に変更しながら、被写体の距離画像を取得することが可能となっている。3次元センサ13の例としては、異なる視点で撮影された2以上の画像を用いて、被写体までの距離や姿勢などの3次元情報を復元するステレオビジョン(Stereo vision)等を挙げることができる。
【0024】
工程盤14は、シーケンス制御をプログラムで処理するPLC(Programmable Logic Controller)14a等を備えていて、例えばプリセット工程や溶接工程といった、製造ライン1における各種工程を制御するように構成されている。本参考例1では、工程盤14は、測定エリア3に設置された6軸多関節ロボット11を制御するロボット盤15に対して、検査対象である車両ボデー20の測定を行うことを指示する測定指令や、検査対象である車両ボデー20の車種の連番などといった情報を、ハブ19を介して送信するように構成されている。
【0025】
各ロボット盤15は、PLC15aと、ロボットCPU15bと、を備えていて、各々6軸多関節ロボット11の動作を制御するように構成されている。PLC15aは、ロボットCPU15bに対し、車両ボデー20の車種の連番などといった情報や、ロボット動作作成指令などを送信するように構成されている。
【0026】
図3は、車両ボデー20に設定された基準点を模式的に示す斜視図である。図3に示すように、車両ボデー20には、組立精度の検査を行う際の基準となる、複数の基準点P1~P10が設定されている。例えば、基準点P1は左側のヘッドランプ穴であり、基準点P2は右側のヘッドランプ穴である。また、基準点P3は左側のフェンダー建付け穴であり、基準点P4は右側のフェンダー建付け穴である。さらに、基準点P5は左側のフードヒンジ締結ナット穴であり、基準点P6は右側のフードヒンジ締結ナット穴である。また、基準点P7は右側のサイドメンバ22(図5参照)の前部に設定された基準点であり、基準点P8は右側のサイドメンバ22の後端から約1/4の位置に設定された基準点である。なお、図示省略するが、左側のサイドメンバ22にも、基準点P7,P8に対応する基準点が設定されている。さらに、基準点P9は左側のバックドアヒンジであり、基準点P10は右側のバックドアヒンジである。
【0027】
図3に示すような基準点P1~P10は、車種ごとに設定されており、例えばロボット盤15のメモリ(図示せず)等に車種に関連付けて記憶されている。ロボットCPU15bは、PLC15aから入力された車両ボデー20の車種に基づいて、メモリ等に記憶さ
れた基準点P1~P10を測定点として認識する。そうして、ロボットCPU15bは、ロボットアーム11aの先端に取り付けられた3次元センサ13が、測定点(基準点P1~P10)の距離画像を取得(撮像)することができるように、6軸多関節ロボット11の目標姿勢を決定し、かかる目標姿勢を実現するための各サーボモータの角変位を算出し(ロボット動作作成)、これに基づいて6軸多関節ロボット11を制御するように構成されている。
【0028】
画像処理用パソコン16には、専用の処理ソフトがインストールされており、3次元センサ13が取得した基準点P1~P10の距離画像を、画像座標からロボット座標に変換して、6軸多関節ロボット11から見た基準点P1~P10の位置情報(測定結果)を記憶するように構成されている。
【0029】
データ収集盤17は、モニター17aと、PLC17bと、を有している。PLC17bは、メモリ(図示せず)等に記憶された設計基準値(許容誤差等)に照らし、画像処理用パソコン16から送信された基準点P1~P10の測定結果に基づいて、車体組立精度の良否を判定し、判定結果をモニター17aに表示するように構成されている。モニター17aには、判定結果が数値化されて表示されるようになっており、これにより、作業者が車体組立精度の良否を確認することが可能になっている。
【0030】
サーバー18は、車両の流通経路を生産段階から最終消費段階または廃棄段階まで追跡が可能となるように構成されたトレーサビリティ記録用サーバーであり、車両ボデー20に関する測定結果等を、製造ライン1で製造される全ての車両について車種の連番に関連付けて記憶するようになっている。
【0031】
以上のように構成された車体組立精度検査装置10を用いて、車両ボデー20の組立精度を検査する場合には、搬送設備5によって検査対象である車両ボデー20が測定エリア3に搬送される度に、ロボット盤15が6軸多関節ロボット11に目標姿勢を採らせて、ロボットアーム11aの先端に取り付けられた3次元センサ13により、車両ボデー20の基準点P1~P10の距離画像を撮像する。そうして、画像処理用パソコン16が、3次元センサ13が取得した基準点P1~P10の距離画像を、6軸多関節ロボット11から見た基準点P1~P10の位置情報に変換し、データ収集盤17がかかる位置情報に基づいて、製造ライン1上の全ての車両ボデー20について車体組立精度の良否を判定する。
【0032】
なお、請求項との関係では、ロボット盤15、6軸多関節ロボット11、3次元センサ13および画像処理用パソコン16が、本発明でいうところの「自動測定器」に相当する。
【0033】
-検査方法-
ところで、データ収集盤17にて車体組立精度の良否を判定する際、仮に、検査対象となる車両ボデー20と設計CADデータとを比較する構成を採用すると、設計CADデータには、搬送設備5等といった製造ライン1を構成する設備の歪み等に関する情報が含まれていないため、かかる設備に起因する誤差の影響を受ける可能性がある。
【0034】
そこで、本参考例1では、検査対象となる車両ボデー20を、正しく組み立てられたマスターボデーと、同じ条件下で比較するようにしている。具体的には、本参考例1に係る車体組立精度の検査方法では、正しく組み立てられていることが製造ライン1外で確認されたマスターボデーを用意し、マスターボデーに設定された基準点P1~P10の位置を、測定エリア3にて車体組立精度検査装置10によって測定し、その測定結果をマスターデータとして登録するとともに、測定エリア3に搬入された検査対象である車両ボデー20における基準点P1~P10の位置を車体組立精度検査装置10によって測定し、車両ボデー20における基準点P1~P10の位置とマスターデータとの差分が所定の範囲内になることを条件として、車両ボデー20を測定エリア3から送り出すようにしている。以下、この検査方法について詳細に説明する。
【0035】
先ず、マスターボデーは、他の車両ボデー20と同様に、製造ライン1で組み立てが行われるが、組立精度を高めるべく、他の車両ボデー20よりも時間を掛けて丁寧に組み立てられる。このようにして組み立てられたマスターボデーは、一旦、製造ライン1外に出され、不図示の三次元測定機(Coordinate Measuring Machine)を用いて、オフラインで組立精度の確認が行われる。
【0036】
そうして、正しく組み立てられていることが製造ライン1外で確認されたマスターボデーを製造ライン1に戻し、測定エリア3において、ロボットアーム11aの先端に取り付けられた3次元センサ13により、マスターボデーに設定された基準点P1~P10の距離画像を撮像する。そうして、画像処理用パソコン16が、3次元センサ13が取得した基準点P1~P10の距離画像を、6軸多関節ロボット11から見た基準点P1~P10の位置情報に変換し、かかる位置情報をマスターデータとして登録する(登録ステップ)。
【0037】
次いで、検査対象である車両ボデー20を測定エリア3に搬入し、ロボットアーム11aの先端に取り付けられた3次元センサ13により、車両ボデー20における基準点P1~P10の距離画像を撮像する(測定ステップ)。そうして、画像処理用パソコン16が、3次元センサ13が取得した基準点P1~P10の距離画像を、6軸多関節ロボット11から見た基準点P1~P10の位置情報に変換し、かかる位置情報(測定結果)を記録する。画像処理用パソコン16は、登録されたマスターデータおよび車両ボデー20の基準点P1~P10の測定結果をデータ収集盤17に送信する。
【0038】
データ収集盤17は、車両ボデー20の基準点P1~P10の位置と、マスターデータすなわちマスターボデーの基準点P1~P10の位置との差分を計算し、メモリ等に記憶された設計基準値に照らして、組立精度の良否を判定し、判定結果をモニター17aに表示する。そうして、組立精度が良好と判定された場合、すなわち、車両ボデー20の測定結果とマスターデータとの差分が設計基準値内に収まっている場合には、車両ボデー20を測定エリア3から次の工程へ送り出す(検査ステップ)。
【0039】
一方、組立不良と判定された場合には、製造ライン1を一旦ストップする。ここで、組立不良と判定される場合としては、(1)車両ボデー20の測定結果とマスターデータとの差分が実際に設計基準値を超えている場合と、(2)3次元センサ13による撮像時に、何らかの不具合で陰等が生じてしまい、車両ボデー20の基準点P1~P10の距離画像を正確に取得することができなかった等の画像上の原因である場合と、が考えられる。そうして、(1)の場合には、組立不良の車両ボデー20を製造ライン1から排除するしかないが、(2)の場合には、不具合を修正した後、再び車両ボデー20における基準点P1~P10の距離画像を撮像して良否判定を行い、その結果、組立精度が良好と判定された場合には、車両ボデー20を測定エリア3から次の工程へ送り出す。
【0040】
以上のような測定ステップおよび検査ステップを、検査済みの車両ボデー20の台数が全数に至るまで、測定エリア3に車両ボデー20が搬入される度に実行する。
【0041】
参考例1に係る車体組立精度の検査方法によれば、正しく組み立てられていることが製造ライン1外で確認されたマスターボデーに設定された基準点P1~P10の位置(マスターデータ)と、車両ボデー20における基準点P1~P10の位置とを、製造ライン1内に設けられた同じ測定エリア3で、換言すると、同じ条件下で比較することから、設備に起因する誤差の影響を抑えて、検査精度を高めることができる。
【0042】
しかも、オフラインで組立精度の検査が行われるのはマスターボデーだけであり、他の検査対象である車両ボデー20については、製造ライン1内に設けられた測定エリア3で組立精度の検査を実施することから、製造途中の全ての車両ボデー20について容易に検査(全数検査)を行うことができる。
【0043】
なお、1台の車両ボデー20につき、製造ライン1からはね出すのに約2時間を要し、また、三次元測定機を用いて組立精度の検査を行うのに約16時間を要することから、オフラインで車体組立精度の検査を行う場合には、1台の車両ボデー20につき約2日(約18時間)の着工遅れが生じることになる。それ故、検査精度を高めるべく、n(nは正の整数)台の車両ボデー20全てについて、オフラインで検査を行おうとすれば、2×n日の着工遅れが生じるところ、本参考例1では、オフラインで組立精度の検査が行われるのはマスターボデーだけであることから、検査精度を高めつつ、2×(n-1)日だけ工期の短縮を図ることができる。
【0044】
次に、車体組立精度の検査の手順について、図4のフローチャートに基づいて説明する。なお、図4のフローチャートは、正しく組み立てられていることが三次元測定機により確認されたマスターボデーを製造ライン1に戻した後の手順を示している。
【0045】
先ず、ステップS1では、ロボットアーム11aの先端部における3次元センサ13の取付位置を確認するためにキャリブレーションを実施する。キャリブレーションの手法としては、例えば、三次元形状や配置位置が既知のキャリブレーションプレート(図示せず)を、3次元センサ13で測定し、画像処理用パソコン16に記憶されているキャリブレーションプレートの三次元位置と、6軸多関節ロボット11から見たキャリブレーションプレートの位置との関係から、ロボットアーム11aの先端部における3次元センサ13の取付位置を確認する。
【0046】
次のステップS2では、ロボット盤15が測定点の確認を行った後、ステップS3においてロボット動作の作成を行う。具体的には、ロボットCPU15bが、PLC15aから入力された車両ボデー20の車種等に基づいて、メモリ等に記憶された基準点P1~P10を測定点として認識し、ロボットアーム11aの先端に取り付けられた3次元センサ13が、測定点(基準点P1~P10)の距離画像を撮像することができるように、6軸多関節ロボット11の目標姿勢を決定し、かかる目標姿勢を実現するための各サーボモータの角変位を算出する。
【0047】
次のステップS4では、3次元センサ13にてマスターボデーの測定点(基準点P1~P10)を測定する。具体的には、ステップS3で作成されたロボット動作に従って駆動するロボットアーム11aの先端に取り付けられた3次元センサ13により、マスターボデーに設定された基準点P1~P10の距離画像を撮像した後、画像処理用パソコン16が、撮像した基準点P1~P10の距離画像を、6軸多関節ロボット11から見た基準点P1~P10の位置情報に変換する。次のステップS5では、画像処理用パソコン16が、マスターボデーの基準点P1~P10の位置情報をマスターデータとして登録した後、ステップS6に進み、例えばロボット盤15が、検査済みの車両ボデー20の台数kにつきk=0を記録する。
【0048】
次のステップS7では、測定エリア3に搬入された検査対象である車両ボデー20の測定点(基準点P1~P10)を3次元センサ13にて測定する。次のステップS8では、データ収集盤17が、ステップS7で測定された測定結果とマスターデータとの差分を、
換言すると、検査対象である車両ボデー20の基準点P1~P10の位置と、マスターボデーの基準点P1~P10の位置との差分を算出した後、ステップS9に進む。次のステップS9では、ステップS8で算出した差分等のデータを、車種の連番に関連付けてサーバー18に書き込んだ後、ステップS10に進む。
【0049】
次のステップS10では、データ収集盤17が、ステップS8で算出した差分が設計基準値以下か否かを判定する。このステップS10での判定がYESの場合、すなわち、車両ボデー20の測定結果とマスターデータとの差分が設計基準値内に収まっている場合には、ステップ11に進み、搬送設備5が、車両ボデー20を測定エリア3から次の工程へ搬送した後、ステップS16に進む。
【0050】
一方、ステップS10での判定がNOの場合には、ステップ12に進み、データ収集盤17が、NG判定(組立不良)であることをモニター17aに出力(表示)するとともに、製造ライン1を一旦ストップした後、ステップS13に進む。次のステップS13では、作業者等がNG判定の原因を確認し、NG判定の原因が画像上の原因ではない場合、換言すると、車両ボデー20の測定結果とマスターデータとの差分が実際に設計基準値を超えている場合には、ステップS14に進み、組立不良の車両ボデー20を製造ライン1から排除した後、ステップS16に進む。
【0051】
これに対し、ステップS10でのNG判定の原因が画像上の原因である場合、例えば、何らかの不具合で陰等が生じてしまい、車両ボデー20の基準点P1~P10の距離画像を正確に取得することができなかった場合には、ステップS15に進み、不具合を修正した後、ステップS7に戻って、車両ボデー20の測定点(基準点P1~P10)を3次元センサ13にて再び測定する。そうして、再度のステップS10での判定が、肯定判定(YES)であれば、車両ボデー20を測定エリア3から次の工程へ搬送した後、ステップS16に進む一方、否定判定(NO)であれば、組立不良の車両ボデー20を製造ライン1から排除した後、ステップS16に進む。
【0052】
次のステップS16では、例えばロボット盤15が、k=k+1を記録した後、ステップS17に進み、検査済みの車両ボデー20の台数kが、工程盤14から送信されたn台(全数)に達したか否かを判定する。このステップS17での判定がYESの場合、すなわち、検査済みの車両ボデー20の台数が全数に達した場合には、そのままENDする。
【0053】
一方、ステップS17での判定がNOの場合には、ステップS7に戻って、次の検査対象である車両ボデー20の測定点を3次元センサ13にて測定する。
【0054】
実施形態
実施形態は、サイドメンバ22のプリセット(仮組み)にマスターデータを活用する点が、上記参考例1と異なるものである。以下、参考例1と異なる点を中心に説明する。
【0055】
図5は、本実施形態に係るプリセット工程を模式的に説明する図である。なお、図5中の符号11は、3次元センサ13が取り付けられた6軸多関節ロボットを、符号31は、サイドメンバ22を把持するロボットハンドが取り付けられた6軸多関節ロボットを、また、符号32は、サイドメンバ22をフロア構造体21に溶接する溶接機が取り付けられた6軸多関節ロボットをそれぞれ示している。
【0056】
図5に示すように、搬送経路7に沿って移動する搬送体9によって、車両ボデー20を構成するフロア構造体21およびサイドメンバ22が搬入されると、6軸多関節ロボット31がサイドメンバ22を移動させてフロア構造体21に組み付け、6軸多関節ロボット32がサイドメンバ22をフロア構造体21に溶接する。
【0057】
その際、本実施形態では、ハッチングを施した6軸多関節ロボット11に取り付けられた3次元センサ13によって、フロア構造体21およびサイドメンバ22における組付け位置を測定し、登録されたマスターデータに基づいて、位置ずれがないことを確認してから、6軸多関節ロボット31によるサイドメンバ22の組み付けを実行するようにしている。
【0058】
このように、本実施形態によれば、正しく組み立てられていることが確認されたマスターボデーのマスターデータに基づいて、組付前(溶接前)にフロア構造体21およびサイドメンバ22を測定することで位置ずれを検出し、不良品を出さない「手直し0」を実現することが可能となる。
【0059】
参考例2
参考例2は、モヒカン幅の測定にマスターデータを活用する点が、上記参考例1と異なるものである。以下、参考例1と異なる点を中心に説明する。
【0060】
図6は、本参考例2に係る車両ボデー20の上部構造を模式的に示す図である。図6に示す上部構造は、レールインナパネル24およびサイドメンバアウタパネル25の接合部に、ルーフパネル23が重なり、これらがスポット溶接等により互いに接合固定されているとともに、ルーフパネル23とサイドメンバアウタパネル25との間に、Y方向に延びる凹状の溝部(モヒカン溝26)が形成された所謂ルーフモヒカン構造になっている。
【0061】
従来、このようなモヒカン溝26の幅(モヒカン幅(図6の黒塗り矢印参照))の測定は、製造途中の車両ボデー20の一部だけを検査する抜き取り検査にて、作業者がノギスで測定を行い管理していた。
【0062】
これに対し、本参考例2では、6軸多関節ロボット11に取り付けられた3次元センサ13によって、モヒカン幅を測定し、登録されたマスターデータに基づいて、正しいモヒカン幅であるか否かを確認・管理するようにしており、これにより、自動測定および全数測定管理が可能となる。
【0063】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0064】
上記実施形態では、図1等に示す搬送設備5を用いて製造ライン1上で車両ボデー20を搬送するようにしたが、これに限らず、例えば、床面に敷設された磁気テープが発する磁気により誘導されて自動で走行する無人搬送車(AGV:Auto Guided Vehicle)によって、車両ボデー20を搬送するようにしてもよい。
【0065】
また、上記参考例1では、測定点として基準点P1~P10を設定したが、これに限らず、基準点P1~P10に他の基準点を加えたものを測定点として設定するようにしてもよい。
【0066】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によると、製造ラインを構成する設備に起因する誤差の影響を抑えて、検査精度
を高めることができるので、車体組立精度の検査方法に適用して極めて有益である。
【符号の説明】
【0068】
1 製造ライン
3 測定エリア
11 6軸多関節ロボット(自動測定器)
13 3次元センサ(自動測定器)
15 ロボット盤(自動測定器)
16 画像処理用パソコン(自動測定器)
20 車両ボデー
P1~P10 基準点
図1
図2
図3
図4
図5
図6