(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】四輪駆動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/10 20120101AFI20241106BHJP
B60K 17/348 20060101ALI20241106BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20241106BHJP
B60K 6/485 20071001ALI20241106BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20241106BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20241106BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20241106BHJP
B60W 10/14 20120101ALI20241106BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20241106BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20241106BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20241106BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20241106BHJP
B60L 7/26 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B60W10/10 900
B60K17/348 B ZHV
B60K6/52
B60K6/485
B60W20/15
B60T8/17 C
B60T8/1755 Z
B60W10/14
B60W10/00 126
B60W10/00 104
B60W10/00 120
B60W30/02
B60L50/16
B60L7/26
(21)【出願番号】P 2021014877
(22)【出願日】2021-02-02
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 繁弘
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 篤史
(72)【発明者】
【氏名】今村 泰理
(72)【発明者】
【氏名】吉田 琢
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-166004(JP,A)
【文献】特開2000-43696(JP,A)
【文献】特開2017-94830(JP,A)
【文献】国際公開第2015/068800(WO,A1)
【文献】特開2004-166363(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0173099(US,A1)
【文献】特開平10-71872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 20/50
B60K 6/20 - 6/547
B60K 17/348
B60T 8/17
B60T 8/1755
B60W 30/02
B60L 50/16
B60L 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにした四輪駆動車両の制御装置であって、
エンジンと、
前記エンジンの出力軸上に配置されかつ、力行運転と回生制動とを行うモータと、
前記エンジン及び前記モータに接続されかつ、前記エンジン及び前記モータのトルクを、前輪及び後輪に分配するトランスファと、
前記前輪のトルクと前記後輪のトルクとの分配比率を変更する調整機構と、
前記四輪駆動車両の走行状態に応じて、前記調整機構を通じて前記分配比率を調整する制御ユニットと、を備え、
前記制御ユニットは、前記エンジンが駆動トルクを発生させている走行状態において、前記分配比率を、前記後輪のトルクが前記前輪のトルクよりも大になる第1配分比に設定し、
前記制御ユニットは、エンジンブレーキが生じている制動状態において、前記分配比率を、前記前輪のトルクの配分比が前記第1配分比よりも大になる第2配分比に設定し、
前記制御ユニットは、エンジンブレーキが生じかつ、前記モータの回生制動が行われている制動状態において、前記分配比率を、前記前輪のトルクの配分比が前記第2配分比よりも大になる第3配分比に設定する、
四輪駆動車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の四輪駆動車両の制御装置において、
前記前輪及び前記後輪に制動力を付与する液圧ブレーキ装置をさらに備え、
前記制御ユニットは、運転者の制動要求操作に応じて、前記液圧ブレーキ装置に制動力を発生させると共に、前記モータに回生制動を実行させる協調回生を行い、
前記制御ユニットは、前記協調回生中に、前記分配比率を、前記前輪のトルクの配分比が前記第3配分比よりも大になる第4配分比に設定する、
四輪駆動車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の四輪駆動車両の制御装置において、
前記制御ユニットは、前記液圧ブレーキ装置の制動力に対する、前記モータの回生制動力の比率が高い場合は、低い場合よりも、前記前輪のトルクの配分比が大になるよう、前記分配比率を設定する、
四輪駆動車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の四輪駆動車両の制御装置において、
前記制御ユニットは、前記モータの回生制動力が大きくなるほど、前記前輪のトルクの配分比が大になるよう、前記分配比率を設定する、
四輪駆動車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の四輪駆動車両の制御装置において、
前記制御ユニットは、制動時における前記車両の車速が高い場合は、低い場合よりも、前記前輪のトルクの配分比が大になるよう、前記分配比率を設定する、
四輪駆動車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の四輪駆動車両の制御装置において、
前記制御ユニットは、制動時における前記車両の操舵角が大きい場合は、小さい場合よりも、前記前輪のトルクの配分比が大になるよう、前記分配比率を設定する、
四輪駆動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、四輪駆動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにした四輪駆動車両が記載されている。この四輪駆動車両は、四輪駆動モードの前進定速走行時に、エンジンのトルクを後輪にのみ伝達しかつ、前輪には伝達しない。また、エンジンブレーキによる減速時に、エンジンと直結された後輪の回転数が低下し、前輪の回転数よりも下回った場合、減速トルクを前輪に伝達することによって、後輪のスリップを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンと走行用モータとを備えたハイブリッド車両は、エンジンブレーキが生じている制動状態において、モータが回生制動を行う場合がある。ここで、ハイブリッド車両のうち、モータがエンジンの出力軸上に配置されかつ、エンジンのトルク及びモータのトルクを、トランスファ及び電磁カップリング機構が前輪及び後輪に分配する構成のハイブリッド車両は、電磁カップリング機構の締結トルクが調整されることによって、エンジンのトルクとモータのトルクとが、同じ分配比率で、前輪と後輪とに分配される。
【0005】
前記構成のハイブリッド車両において、エンジンブレーキとモータの回生制動との両方によって制動している場合に、特許文献1に記載されているエンジンブレーキによる減速時の制御と同様に、前輪のトルクの配分比が走行時の配分比よりも大になるよう、前輪のトルクと後輪のトルクとの分配比率と設定したとしても、モータの回生制動が車両に加わる分、荷重が車両の前方へさらに移動するから、車両の挙動が不安定になる恐れがある。
【0006】
ここに開示する技術は、フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにした四輪駆動車両において、車両の挙動をさらに安定させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示する技術は、フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにした四輪駆動車両の制御装置に係る。この制御装置は、
エンジンと、
前記エンジンの出力軸上に配置されかつ、力行運転と回生制動とを行うモータと、
前記エンジン及び前記モータに接続されかつ、前記エンジン及び前記モータのトルクを、前輪及び後輪に分配するトランスファと、
前記前輪のトルクと前記後輪のトルクとの分配比率を変更する調整機構と、
前記四輪駆動車両の走行状態に応じて、前記調整機構を通じて前記分配比率を調整する制御ユニットと、を備え、
前記制御ユニットは、前記エンジンが駆動トルクを発生させている走行状態において、前記分配比率を、前記後輪のトルクが前記前輪のトルクよりも大になる第1配分比に設定し、
前記制御ユニットは、エンジンブレーキが生じている制動状態において、前記分配比率を、前記前輪のトルクの配分比が前記第1配分比よりも大になる第2配分比に設定し、
前記制御ユニットは、エンジンブレーキが生じかつ、前記モータの回生制動が行われている制動状態において、前記分配比率を、前記前輪のトルクの配分比が前記第2配分比よりも大になる第3配分比に設定する。
【0008】
この構成によると、エンジンが駆動トルクを発生させている走行状態において、分配機構は、前輪のトルクと後輪のトルクとの分配比率を、後輪のトルクが前輪のトルクよりも大になるようにする。四輪駆動車両の走行が安定になる。
【0009】
エンジンブレーキが生じている制動状態において、分配機構は、前輪のトルクの配分比を第2配分比に設定する。第2配分比は、エンジンが駆動トルクを発生させている走行状態時の第1配分比と比較して、前輪のトルクの配分比が大になる。エンジンブレーキトルクが前輪に配分されるため、制動中の四輪駆動車両の挙動が安定になる。
【0010】
エンジンブレーキと、モータの回生制動との両方が行われている制動状態において、分配機構は、前輪のトルクの配分比を第3配分比に設定する。第3配分比は、エンジンブレーキが生じている制動状態時の第2配分比と比較して、前輪のトルクの配分比が大になる。前輪に配分される制動トルクがさらに大きくため、エンジンブレーキと、モータの回生制動との両方が行われている制動状態において、四輪駆動車両の挙動が安定になる。
【0011】
前記四輪駆動車両の制御装置は、
前記前輪及び前記後輪に制動力を付与する液圧ブレーキ装置をさらに備え、
前記制御ユニットは、運転者の制動要求操作に応じて、前記液圧ブレーキ装置に制動力を発生させると共に、前記モータに回生制動を実行させる協調回生を行い、
前記制御ユニットは、前記協調回生中に、前記分配比率を、前記前輪のトルクの配分比が前記第3配分比よりも大になる第4配分比に設定する、としてもよい。
【0012】
液圧ブレーキと、モータの回生制動との両方が行われている協調回生時に、分配機構は、前輪のトルクの配分比を第4配分比に設定する。第4配分比は、エンジンブレーキ及びモータの回生制動が生じている制動状態時の第3配分比と比較して、前輪のトルクの配分比が大である。ここで、液圧ブレーキは一般的に、前輪の制動トルクが後輪の制動トルクよりも大きい。分配機構が、協調回生時に、前輪に配分される制動トルクをさらに大きくすることによって、回生制動についての前輪のトルクと後輪のトルクとの分配比率と、液圧ブレーキについての前輪のトルクと後輪のトルクとの分配比率とが対応する。協調回生時に、四輪駆動車両の挙動が安定になる。
【0013】
前記制御ユニットは、前記液圧ブレーキ装置の制動力に対する、前記モータの回生制動力の比率が高い場合は、低い場合よりも、前記前輪のトルクの配分比が大になるよう、前記分配比率を設定する、としてもよい。
【0014】
モータの回生制動力の比率が高いと回生電力を多く確保できるから、ハイブリッド車両の電費性能が向上する。前記の構成によると、回生制動力の比率が高い場合に前輪への回生制動トルクが大になるから、協調回生時における四輪駆動車両の挙動が安定になる。
【0015】
前記制御ユニットは、前記モータの回生制動力が大きくなるほど、前記前輪のトルクの配分比が大になるよう、前記分配比率を設定する、としてもよい。
【0016】
この構成によると、回生制動力が大きくて四輪駆動車両に加わる制動力が大きい場合、前輪への回生制動トルクが大になるから、制動状態における四輪駆動車両の挙動が安定になる。
【0017】
前記制御ユニットは、制動時における前記車両の車速が高い場合は、低い場合よりも、前記前輪のトルクの配分比が大になるよう、前記分配比率を設定する、としてもよい。
【0018】
高車速での制動時に、前輪への制動トルクが大になるから、四輪駆動車両の挙動が安定になる。
【0019】
前記制御ユニットは、制動時における前記車両の操舵角が大きい場合は、小さい場合よりも、前記前輪のトルクの配分比が大になるよう、前記分配比率を設定する、としてもよい。
【0020】
旋回中の制動時に、操舵輪である前輪への制動トルクが大になるから、四輪駆動車両の挙動が安定になる。
【発明の効果】
【0021】
前記の四輪駆動車両の制御装置は、車両の挙動をさらに安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】
図2は、四輪駆動車両の制御装置の構成例である。
【
図3】
図3は、制御装置が実行する車両制御に係るフローチャートである。
【
図4】
図4は、各パラメータの特性を例示する図である。
【
図5】
図5は、車両制御に係るタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、四輪駆動車両の制御装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する四輪駆動車両、及び、その制御装置は例示である。
【0024】
図1は、四輪駆動車両1の構成を例示している。四輪駆動車両1は、フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにしている。四輪駆動車両1は、エンジン2、モータシステム3、変速機4、トランスファ54、リヤプロペラシャフト51、及び、フロントプロペラシャフト55を備えている。
【0025】
エンジン2は、少なくともガソリンを含む燃料が供給されるガソリンエンジン、又は、ディーゼル燃料が供給されるディーゼルエンジンである。エンジンは火花点火式又は圧縮着火式である。尚、エンジン2の形式に特に制限はない。エンジン2は、車両の前部に設けられたエンジンルームの中に、いわゆる縦置きで設置されている。
【0026】
モータシステム3は、電気モータ30、インバータ31、及び、バッテリ32を備えている。電気モータ30は、エンジン2の出力軸上に配設されている。
図1に例示するように、電気モータ30は、エンジン2と、後述する変速機4との間に介設されている。電気モータ30は、力行時には車両が走行するための駆動トルクを出力すると共に、車両に制動力を付与する回生を行う。バッテリ32は、インバータ31を介して電気モータ30に接続されている。バッテリ32は、電気モータ30へ、駆動用の電力を供給すると共に、電気モータ30の回生時に、バッテリ32は充電される。インバータ31は、後述する制御ユニット10からの制御信号を受けて、力行時には電気モータ30へバッテリ32の電力を供給すると共に、回生時にはバッテリ32へ電気モータ30の発電電力を送る。
【0027】
変速機4は、例えば、少なくとも一の遊星歯車機構を含む自動変速機である。尚、変速機4は、自動変速機に限定されない。変速機4は、エンジン2及び電気モータ30の出力軸に結合されている。変速機4は、エンジン2及び/又は電気モータ30のトルクを変速して出力する。
【0028】
トランスファ54は、変速機4の出力軸に接続されている。トランスファ54には、リヤプロペラシャフト51及びフロントプロペラシャフト55がそれぞれ、接続されている。トランスファ54は、エンジン2及び/又は電気モータ30のトルクを、前輪61及び後輪62に分配する。
【0029】
リヤプロペラシャフト51は、トランスファ54から車両の後方へ伸びている。リヤプロペラシャフト51は、リヤディファレンシャルギヤ52を介して、リヤドライブシャフト53に接続されている。リヤドライブシャフト53は、左右の後輪62に結合している。リヤディファレンシャルギヤ52は、左右の後輪62の回転数差を調整する。
【0030】
フロントプロペラシャフト55は、トランスファ54から車両の前方へ伸びている。フロントプロペラシャフト55は、フロントディファレンシャルギヤ56を介して、フロントドライブシャフト57に接続されている。フロントドライブシャフト57は、左右の前輪61に結合している。フロントディファレンシャルギヤ56は、左右の前輪61の回転数差を調整する。
【0031】
フロントプロペラシャフト55は、電磁カップリング機構58を介して、トランスファ54に接続されている。電磁カップリング機構58は、締結トルクを調整することによって、前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率を変更する。トランスファ54の入力トルクが一定と仮定すれば、締結トルクが高いほど、前輪61のトルクの配分比は大になる。また、締結トルクが一定と仮定すれば、トランスファ54の入力トルクが高くなると、前輪61のトルクの配分比は大になる。電磁カップリング機構58は、制御ユニット10からの制御信号を受けて、分配比率を、四輪駆動車両1の走行状態に応じた分配比率に変更する。
【0032】
図2は、四輪駆動車両1の制御装置の構成を例示している。制御装置は、制御ユニット10、アクセル開度センサ71、ブレーキ踏込量センサ72、舵角センサ73、車速センサ74を備えている。アクセル開度センサ71、ブレーキ踏込量センサ72、舵角センサ73、及び、車速センサ74はそれぞれ、制御ユニット10に接続されている。
【0033】
アクセル開度センサ71は、アクセルペダルに取り付けられかつ、運転者のアクセルペダルの踏込量に対応するアクセル開度相当の信号を、制御ユニット10に出力する。ブレーキ踏込量センサ72は、ブレーキペダルに取り付けられかつ、運転者のブレーキペダルの踏込量に対応する信号を、制御ユニット10に出力する。舵角センサ73は、ステアリングシャフトに取り付けられ、運転者のステアリングホイールの操舵量に対応する信号を、制御ユニット10に出力する。車速センサ74は、車両に搭載され、車速に対応する信号を、制御ユニット10に出力する。
【0034】
制御ユニット10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をするI/F回路と、を備えている。制御ユニット10は、アクセル開度センサ71、ブレーキ踏込量センサ72、舵角センサ73、及び、車速センサ74の信号に基づいて、四輪駆動車両1の走行状態を判断する。制御ユニット10は、エンジン2、モータシステム3、及び、電磁カップリング機構58に制御信号を出力する。エンジン2は、制御信号を受けて、所定のトルクを出力するよう運転する。モータシステム3は、制御信号を受けて、力行運転または回生制動を行う。電磁カップリング機構58は、制御信号を受けて、締結トルクを変更する。エンジン2のトルク、又は、エンジン2及び電気モータ30のトルクが、前輪61及び後輪62に伝達されて、四輪駆動車両1が走行する。前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率は、電磁カップリング機構58が締結トルクを変更することにより、四輪駆動車両1の走行状態に応じて変更される。
【0035】
制御ユニット10にはまた、液圧ブレーキ装置8が接続されている。液圧ブレーキ装置8は、左右の前輪61及び左右の後輪62のそれぞれにブレーキ液圧を供給することによって、左右の前輪61及び左右の後輪62のそれぞれに制動力を付与する。制御ユニット10は、四輪駆動車両1の制動時に、液圧ブレーキ装置8の制動力と、電気モータ30の回生制動力の両方を、左右の前輪61及び左右の後輪62のそれぞれに付与する協調回生を行う。制御ユニット10は、四輪駆動車両1の走行状態に応じて、液圧ブレーキ装置8の制動力と電気モータ30の回生制動力との割合を調整する。
【0036】
(四輪駆動車両の制動制御)
制御ユニット10は、前述したように、電磁カップリング機構58の制御を通じて、前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率を、四輪駆動車両1の走行状態に応じて変更する。具体的に、運転者がアクセルペダルを踏んでおりかつ、エンジン2が駆動トルクを発生させている通常の走行状態において、制御ユニット10は、分配比率を、後輪62のトルクが前輪61のトルクよりも大になるよう設定する(つまり、第1配分比)。尚、エンジン2と電気モータ30との双方が駆動トルクを発生させている走行状態においても、分配比率は、後輪62のトルクが前輪61のトルクよりも大になる第1配分比に設定される。フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにした四輪駆動車両1において、走行安定性が確保される。
【0037】
運転者がアクセルペダルを踏むことを止める(つまり、アクセル開度がゼロ)ことによって、エンジンブレーキが生じている制動状態において、制御ユニット10は、分配比率を、第1配分比と比較して、前輪61のトルクが大になるよう設定する(つまり、第2配分比)。四輪駆動車両1に制動力が付与されることに起因して、荷重が車両前方へ移動した状態において、後輪62に付与されるエンジンブレーキトルクが減りかつ、前輪61に付与されるエンジンブレーキトルクが増えることにより、エンジンブレーキが作用している四輪駆動車両1の安定性が高まる。
【0038】
そして、目標減速度がさらに高くて、エンジンブレーキが生じている状態において、電気モータ30の回生制動を行う場合、制御ユニット10は、分配比率を、前輪61のトルクが、第2配分比と比較してさらに大になるよう設定する(つまり、第3配分比)。電気モータ30の回生制動が行われることによって、荷重が車両前方へさらに移動した状態において、後輪62に付与されるエンジンブレーキトルクが減りかつ、前輪61に付与されるエンジンブレーキトルクが増えることにより、電気モータ30の回生制動中の四輪駆動車両1の安定性が高まる。
【0039】
また、前述したように、制御ユニット10は、四輪駆動車両1の制動時に、液圧ブレーキ装置8の液圧ブレーキの制動力と、電気モータ30の回生制動とを併用する協調回生を行う。制御ユニット10は、協調回生を行う場合に、分配比率を、第3配分比と比較して、前輪61のトルクがさらに大になるよう設定する(つまり、第4配分比)。
【0040】
液圧ブレーキ装置8は、制動力が付与された状態における四輪駆動車両1の荷重移動を考慮して、前輪61に付与する制動力を、後輪62に付与する制動力よりも高く設定している。協調回生時に、電気モータ30の回生制動トルクは、電磁カップリング機構58の締結トルクによって調整される比率であって、前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率に応じて、前輪61と後輪62とに分配される。前輪61へ分配される回生制動トルクを大にすることによって、回生制動トルクの前輪61及び後輪62の分配比率が、液圧ブレーキの制動力の分配比率に対応するようになる。その結果、協調回生時における四輪駆動車両1の安定性が向上する。
【0041】
次に、
図3のフローチャートを参照しながら、制御ユニット10による制動制御を説明する。このフローは、運転者がアクセルペダルの踏むことを止めるとスタートする。制御ユニット10は、アクセル開度センサ71の信号に基づいて、アクセルペダルが踏まれなくなったことを判断する。スタート後のステップS31において、制御ユニット10は、ブレーキ踏込量、操舵角、及び車速を読み込む。続くステップS32において、制御ユニット10は、四輪駆動車両1の目標減速度を設定する。目標減速度は、ブレーキ踏込量、操舵角、及び車速に応じて設定される。
【0042】
ステップS33において、制御ユニット10は、目標減速度を実現するための、回生制動量、及び/又は、液圧制動量を設定する。
【0043】
回生制動量は、回生制動量の基本値に、回生係数aと回生係数bとを乗算することによって設定される。
【0044】
図4のグラフ401は、目標減速度と、回生制動量の基本値との関係を例示している。回生制動量の基本値は、目標減速度が所定値eを超えるまでは、ゼロである。目標減速度が所定値eを超えるまでは、エンジンブレーキによって目標減速度が達成される。目標減速度が所定値eを超えると、目標減速度が大になるほど回生制動量の基本値が大に設定される。また、回生制動量の基本値が上限値に達すると、目標減速度が大になっても回生制動量の基本値は上限値のままになる。上限値は、電気モータ30の特性に応じて設定される。
【0045】
図4のグラフ402は、車速と回生係数aとの関係を例示している。車速が低いと回生係数aは、1よりも大に設定される。電気モータ30の特性上、回転数が低い場合、電気モータ30の回生制動トルクは大になり、発電効率も高い。車速が低くて電気モータ30の回転数が低い場合、電気モータ30の回生制動力を大きくするため、回生係数aは1よりも大に設定される。こうすることで、四輪駆動車両1の電費性能の向上に有利になる。車速が高くなると、車速に対し回生係数aは次第に小さくなる。四輪駆動車両1の車速が所定車速以上になれば、回生係数aは1になる。
【0046】
図4のグラフ403は、操舵角と回生係数bとの関係を例示している。操舵角が小さいと回生係数bは1に設定される。操舵角が大きい場合、回生係数bは、1よりも小に設定される。操舵角が大きくなるほど、回生係数bは、小に設定される。操舵角が大きくなると、回生制動力を小さくすることにより、旋回時における車両の安定性を確保する。尚、回生係数bの下限値は0よりも大きい。回生制動量をゼロにしないことによって、四輪駆動車両1の電費性能の向上を図る。
【0047】
ステップS33において、回生制動量を設定すれば、制御ユニット10は、液圧制動量を設定する。液圧制動量は、目標減速度から、エンジンブレーキによる制動力と回生制動量とを差し引くことによって設定される。
【0048】
ステップS34において、制御ユニット10は、回生制動量/液圧制動量の比から、前輪61の制動トルクの基本配分を設定する。
図4のグラフ404は、回生制動量/液圧制動量の比と、前輪61の制動トルクの基本配分との関係を例示している。液圧制動量に対する回生制動量の割合が大きくなるに従って、前輪61に分配される制動トルクは大きくなる。こうすることで、回生制動力の前輪61及び後輪62の配分特性は、液圧ブレーキの配分特性(つまり、後輪62への制動力よりも前輪61への制動力を高くしている特性)に対応する。液圧ブレーキの制動力とモータ30の回生制動力とが付与される協調回生において、四輪駆動車両1の安定性が向上する。尚、前輪61への配分割合には、上限値maxが設定されている。
【0049】
尚、運転者がブレーキペダルを踏んでおらず、液圧制動力がゼロの場合、制御ユニット10は、ステップS34において、グラフ404に依らずに、前輪61の制動トルクの基本配分を所定値に設定する。
【0050】
ステップS35において、制御ユニット10は、前輪61のトルク配分を設定する。前輪61のトルク配分は、前輪61の制動トルクの基本配分に対して、トルク配分係数c及びトルク配分係数dを乗算することによって設定される。
【0051】
図4のグラフ405は、四輪駆動車両1の車速とトルク配分係数cとの関係を例示している。車速が高い場合、低い場合よりもトルク配分係数cが大になる。これにより、車速が高い場合、前輪61の制動トルクの配分が大になる。車速が高い状態での制動中に、前輪61に付与される制動トルクが大になるから、四輪駆動車両1の安定性が向上する。
【0052】
図4のグラフ406は、四輪駆動車両1の操舵角とトルク配分係数dとの関係を例示している。操舵角が大きい場合、小さい場合よりもトルク配分係数dが大になる。これにより、操舵角が大きい場合、前輪61の制動トルクの配分が大になる。旋回状態の制動中に、操舵輪である前輪61に付与される制動トルクが大になるから、四輪駆動車両1の安定性が向上する。
【0053】
ステップS35において前輪61のトルク配分を設定すれば、制御ユニット10は、ステップS36において、設定した前輪61のトルクの配分比が実現するよう、電磁カップリング機構58の締結トルクを演算する。トランスファ54の入力トルクが一定と仮定すれば、電磁カップリング機構58の締結トルクと前輪61のトルクの配分比とは比例しており、締結トルクが大きいほど、前輪61のトルクの配分比は大になる。
【0054】
制御ユニット10は、ステップS37において、モータシステム3に回生制動を指示すると共に、液圧制動が必要な場合、液圧ブレーキ装置8に液圧制動を指示する。制御ユニット10は、電磁カップリング機構58に対し、ステップS36において設定した締結トルクでの締結動作を指示する。
【0055】
続くステップS38において、制御ユニット10は、目標減速度がゼロになったか否かを判断すると共に、目標減速度がゼロでない場合、プロセスはステップS31に戻って、前述した各ステップを繰り返す。目標減速度がゼロの場合、プロセスはステップS39に進む。四輪駆動車両1の制動を終了すべく、制御ユニット10は、モータシステム3に回生制動の終了を指示すると共に、液圧ブレーキ装置8に液圧制動の終了を指示する。また、前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率を変更するよう、制御ユニット10は、電磁カップリング機構58に対し、締結動作の変更を指示する。
【0056】
次に、
図5のタイムチャートを参照しながら、四輪駆動車両1における、制動力の前後配分について説明する。
図5のグラフ501は、アクセルペダルの踏込量の変化を例示している。運転者は、時刻t1にアクセルペダルの踏込を止めている。
【0057】
時刻t1以前において、四輪駆動車両1は、エンジン2が駆動トルクを発生させている走行状態である(グラフ506参照)。グラフ507及びグラフ508に例示するように、前輪61のトルクの配分比は、相対的に小さい(つまり、第1配分比)。後輪62に分配されるトルクは、前輪61に分配されるトルクよりも大きい。四輪駆動車両1は、実質的に後輪駆動によって走行している。フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにした四輪駆動車両1の走行安定性が向上する。尚、グラフ503及びグラフ505に例示するように、時刻t1以前において、モータ30の回生制動が行われておらず、モータ30の回生制動トルクはゼロである。
【0058】
時刻t1以降において、四輪駆動車両1には、エンジンブレーキが作用する(グラフ506参照)。尚、
図5の例において、エンジン2の駆動トルク、つまりプラスのトルクと、エンジン2の制動トルク、つまりマイナスのトルクとは、それらの絶対値が同じである。従って、後述する電磁カップリング機構58の締結トルクの変化には、エンジン2のトルク変動の影響が含まれない。
【0059】
エンジンブレーキが生じている作動状態において、電磁カップリング機構58の締結トルクが相対的に高まる(グラフ508参照)。締結トルクが高まることにより、グラフ507に示されるように、前輪61のトルクの配分比は、第1配分比よりも大になる(つまり、第2配分比)。尚、前述の通り、時刻t1以前と時刻t1以降との間において、トランスファ54に入力されるエンジン2のトルクの大きさに変化はないため、締結トルクの上昇と、前輪61のトルクの配分比の増大とは対応する。
【0060】
目標減速度を達成させるために、時刻t2において、モータ30の回生制動が開始される(グラフ503参照)。グラフ505に示されるように、モータ30の回生制動トルク、つまりマイナストルクが発生する。エンジンブレーキが生じておりかつ、モータ30の回生制動トルクが発生している状態において、電磁カップリング機構58の締結トルクが、さらに高まる(グラフ508参照)。締結トルクが高まることにより、グラフ507に示されるように、前輪61のトルクの配分比は、第2配分比よりも大になる(つまり、第3配分比、グラフ507の上向きの矢印参照)。
【0061】
時刻t3に運転者がブレーキペダルを踏む。これにより、液圧ブレーキの制動力が、前輪61及び後輪62に付与される。液圧ブレーキの制動力とモータ30の回生制動力との協調回生が行われる。グラフ508に示されるように、電磁カップリング機構58の締結トルクが、さらに高まる。締結トルクが高まることにより、グラフ507に示されるように、前輪61のトルクの配分比は、第3配分比よりも大になる(つまり、第4配分比)。
【0062】
図5の例では、協調回生中に、車速が次第に低下することに対応して、モータ30の回生制動トルクが次第に高まっている(グラフ505、
図4のグラフ402参照)。電磁カップリング機構58の締結トルクが、モータ30の回生制動トルクの上昇に合わせて高まることにより、前輪61のトルクの配分比は一定に保たれている。
【0063】
尚、前輪61のトルクの配分比を一定に保つ代わりに、前輪61のトルクの配分比が、モータ30の回生制動トルクの上昇に合わせて高くなるよう(グラフ507の一点鎖線参照)、電磁カップリング機構58の締結トルクを、モータ30の回生制動トルクの上昇に合わせて変更してもよい。回生制動力が大きくて四輪駆動車両1に加わる制動力が大きい場合、前輪61への回生制動トルクが大になるから、制動状態における四輪駆動車両1の挙動が安定になる。
【0064】
尚、
図5の例では、回生制動を終了するトリガーが入って、回生制動が終了している。
【符号の説明】
【0065】
1 四輪駆動車両
10 制御ユニット
2 エンジン
30 電気モータ
54 トランスファ
58 電磁カップリング機構(調整機構)
8 液圧ブレーキ装置