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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】四輪駆動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20241106BHJP
   B60K 17/348 20060101ALI20241106BHJP
   B60W 10/14 20120101ALI20241106BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20241106BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B60W30/02
B60K17/348 B
B60W10/14
B60W10/00 150
B60W10/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021014881
(22)【出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022118394
(43)【公開日】2022-08-15
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 繁弘
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 篤史
(72)【発明者】
【氏名】今村 泰理
(72)【発明者】
【氏名】吉田 琢
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-166004(JP,A)
【文献】特開2000-043696(JP,A)
【文献】特開2021-133841(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0339779(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 60/00
B60K 6/20 - 6/547
B60K 17/28 - 17/36
B60T 7/12 - 8/1769
8/32 - 8/96
F16H 59/00 - 63/50
G08G 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにした四輪駆動車両の制御装置であって、
エンジンと、
前記エンジンの出力軸上に配置されかつ、力行運転と回生制動とを行うモータと、
前記エンジン及び前記モータに接続されかつ、前記エンジン及び前記モータのトルクを、前輪及び後輪に分配するトランスファと、
締結トルクの調整によって、前記前輪のトルクと前記後輪のトルクとの分配比率を変更する電磁カップリング機構と、
前記四輪駆動車両の走行状態に応じて、前記電磁カップリング機構を通じて前記分配比率を調整する制御ユニットと、
前記前輪及び前記後輪に制動力を付与する液圧ブレーキ装置と、を備え、
前記制御ユニットは、運転者の制動要求操作に応じて、前記液圧ブレーキ装置に制動力を発生させると共に、前記モータに回生制動を実行させる協調回生を行い、
前記制御ユニットは、協調回生中に、前記分配比率が所定の分配比率となるように、前記モータの回生制動量に応じて前記電磁カップリング機構の締結トルクを調整し、
前記制御ユニットは、前記四輪駆動車両の挙動が横滑りに関係する判断指標を超える場合は、前記回生制動量を低減させると共に、前記後輪のトルクの配分比が一時的に低下するように、前記回生制動量の低減タイミングから遅延したタイミングで、前記電磁カップリング機構の締結トルクを調整する、
四輪駆動車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の四輪駆動車両の制御装置において、
前記制御ユニットは、前記回生制動量の低減を開始した後、前記前輪のトルクの配分比が、一旦大になり、その後、小になるよう、前記電磁カップリング機構の締結トルクを調整する、
四輪駆動車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の四輪駆動車両の制御装置において、
前記制御ユニットは、前記前輪のトルクの配分比が一旦大になった後、所定時間経過後に、所定の割合で小になるよう、前記電磁カップリング機構の締結トルクを調整する、
四輪駆動車両の制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の四輪駆動車両の制御装置において、
前記制御ユニットは、実ヨーレートと推定ヨーレートとの偏差が前記判断指標を超えた場合に、前記回生制動量を低減させ、
前記制御ユニットは、前記前輪のトルクの配分比が一旦大になった後、前記偏差の大きさに応じて、前記電磁カップリング機構の締結トルクを増減する、
四輪駆動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、四輪駆動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータの回生制動力と、液圧ブレーキの制動力とを車輪に付与する協調回生を行う電動車両において、前後車輪速差が大きくなると、協調回生中の回生制動力を制限することによって、車両挙動の安定化を図ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-60753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンと走行用モータとを備えたハイブリッド車両のうち、モータがエンジンの出力軸上に配置されかつ、エンジン及びモータのトルクを、トランスファ及び電磁カップリング機構が前輪及び後輪に分配する構成のハイブリッド車両は、協調回生時に、モータの回生制動トルクについての前輪のトルクと後輪のトルクとの分配比率が所定の分配比率となるよう、モータの回生制動トルクの大きさに応じて、電磁カップリング機構の締結トルクが調整される。
【0005】
ここで、ハイブリッド車両の協調回生中に、例えば後輪のグリップの低下により横滑りが発生しそうになった場合、特許文献1に記載された技術を適用して、回生制動トルクを減少させることは、車両の安定性確保に有効である。しかしながら、前輪のトルクと後輪のトルクとの分配比率が変化しないように、回生制動トルクの減少に伴い直ちに、電磁カップリング機構の締結トルクを調整しようとすると、後輪に分配される制動トルクが下がらずに車両が不安定になる恐れがある。
【0006】
ここに開示する技術は、フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにした四輪駆動車両において、協調回生中の車両の挙動を安定させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示する技術は、フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにした四輪駆動車両の制御装置に係る。この制御装置は、
エンジンと、
前記エンジンの出力軸上に配置されかつ、力行運転と回生制動とを行うモータと、
前記エンジン及び前記モータに接続されかつ、前記エンジン及び前記モータのトルクを、前輪及び後輪に分配するトランスファと、
締結トルクの調整によって、前記前輪のトルクと前記後輪のトルクとの分配比率を変更する電磁カップリング機構と、
前記四輪駆動車両の走行状態に応じて、前記電磁カップリング機構を通じて前記分配比率を調整する制御ユニットと、
前記前輪及び前記後輪に制動力を付与する液圧ブレーキ装置と、を備え、
前記制御ユニットは、運転者の制動要求操作に応じて、前記液圧ブレーキ装置に制動力を発生させると共に、前記モータに回生制動を実行させる協調回生を行い、
前記制御ユニットは、協調回生中に、前記分配比率が所定の分配比率となるように、前記モータの回生制動量に応じて前記電磁カップリング機構の締結トルクを調整し、
前記制御ユニットは、前記四輪駆動車両の挙動が横滑りに関係する判断指標を超える場合は、前記回生制動量を低減させると共に、前記後輪のトルクの配分比が一時的に低下するように、前記回生制動量の低減タイミングから遅延したタイミングで、前記電磁カップリング機構の締結トルクを調整する。
【0008】
この構成によると、液圧ブレーキ装置が制動力を付与すると共に、モータが回生制動を行う協調回生時に、モータの回生制動量の変化に対して、電気カップリング機構の締結トルクが調整される。前輪のトルクと後輪のトルクとの分配比率が所定の分配比率に設定される。四輪駆動車両の協調回生時における車両の安定化が高まる。
【0009】
四輪駆動車両の挙動が横滑りに関係する判断指標を超える場合、つまり、四輪駆動車両が横滑りしそうな場合は、回生制動量が低減される。前輪及び後輪に付与される制動トルクが減るため、四輪駆動車両の横滑りが抑制される。尚、横滑りに関係する判断指標とは、例えば推定ヨーレートと実ヨーレートとの偏差のしきい値としてもよい。推定ヨーレートは、四輪駆動車両の、操舵角、車速及び制動力等の値から、前輪及び後輪がグリップしている場合に発生していると推定されるヨーレートである。実ヨーレートは、四輪駆動車両に実際に生じているヨーレートである。推定ヨーレートと実ヨーレートとの偏差が大きい状態は、前輪及び/又は後輪のグリップが低下していて、四輪駆動車両が横滑りしそうな状態に相当する。
【0010】
回生制動量が低減された場合に、前輪のトルクと後輪のトルクとの分配比率を所定の分配比率に維持するならば、電磁カップリング機構の締結トルクも変更される。しかしながら前記の構成では、締結トルクの変更タイミングを、回生制動量の低減タイミングから遅延させる。回生制動量を低減する一方で、締結トルクを維持することに伴い、前輪のトルクと後輪のトルクとの分配比率が一時的に変化する。具体的には、前輪に付与される制動トルクが高まると共に、後輪に付与される制動トルクが低下する。これにより、後輪のスリップが抑制できる。その結果、フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにした四輪駆動車両において、四輪駆動車両が横滑りしそうな場合の、車両の挙動が安定する。
【0011】
そして、回生制動量の低減タイミングから、所定時間が経過すれば、制御ユニットは、電磁カップリング機構の締結トルクを調整する。前輪のトルクと後輪のトルクとの分配比率が、所定の分配比率に設定されるから、制動時における四輪駆動車両の挙動安定性が高まる。
【0012】
前記制御ユニットは、前記回生制動量の低減を開始した後、前記前輪のトルクの配分比が、一旦大になり、その後、小になるよう、前記電磁カップリング機構の締結トルクを調整する、としてもよい。
【0013】
前輪のトルクの配分比を一旦大にすると、前輪に付与される制動トルクが大きく高まると共に、後輪に付与される制動トルクが大きく低下する。その結果、後輪のスリップが効果的に抑制できる。四輪駆動車両が横滑りしそうな場合において回生制動量を低減した際の、四輪駆動車両の挙動が安定する。
【0014】
前記制御ユニットは、前記前輪のトルクの配分比が一旦大になった後、所定時間経過後に、所定の割合で小になるよう、前記電磁カップリング機構の締結トルクを調整する、としてもよい。
【0015】
フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにした四輪駆動車両において、前輪のトルクの配分比が増大した状態は、四輪ロックが発生する可能性がある。回生制動量が減少した後、前輪のトルクの配分比が増大した状態が長く継続すると、四輪ロックが発生するリスクが高まる。前記の構成は、前輪のトルクの配分比は、予め設定した時間が経過すれば、速やかに小になる。四輪ロックの発生リスクを下げることができる。
【0016】
前記制御ユニットは、実ヨーレートと推定ヨーレートとの偏差が前記判断指標を超えた場合に、前記回生制動量を低減させ、
前記制御ユニットは、前記前輪のトルクの配分比が一旦大になった後、前記偏差の大きさに応じて、前記電磁カップリング機構の締結トルクを増減する、としてもよい。
【0017】
この構成によると、前輪のトルクの配分比が一旦大になって、後輪のスリップが抑制された後、前輪のトルクの配分比は、実ヨーレートと推定ヨーレートとの偏差に応じて変更される。例えば、実ヨーレートと推定ヨーレートとの偏差が小さくならない間は、制御ユニットは、前輪のトルクの配分比を大に維持し、偏差が小さくなれば、前輪のトルクの配分比が小になるよう、電磁カップリング機構の締結トルクを調整する。四輪駆動車両が横滑りしないように、車両の挙動を、より安定化できる。
【発明の効果】
【0018】
前記の四輪駆動車両の制御装置は、協調回生中の車両の挙動を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、四輪駆動車両の構成例である。
図2図2は、四輪駆動車両の制御装置の構成例である。
図3A図3Aは、制御装置が実行する車両制御に係るフローチャートの一部である。
図3B図3Bは、制御装置が実行する車両制御に係るフローチャートの一部である。
図4図4は、各パラメータの特性を例示する図である。
図5図5は、車両制御に係るタイムチャートである。
図6図6は、制御装置が実行する車両制御に係るフローチャートの一部である。
図7図7は、車両制御に係るタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、四輪駆動車両の制御装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する四輪駆動車両、及び、その制御装置は例示である。
【0021】
図1は、四輪駆動車両1の構成を例示している。四輪駆動車両1は、フロントエンジンリヤドライブ車両をベースにしている。四輪駆動車両1は、エンジン2、モータシステム3、変速機4、トランスファ54、リヤプロペラシャフト51、及び、フロントプロペラシャフト55を備えている。
【0022】
エンジン2は、少なくともガソリンを含む燃料が供給されるガソリンエンジン、又は、ディーゼル燃料が供給されるディーゼルエンジンである。エンジンは火花点火式又は圧縮着火式である。尚、エンジン2の形式に特に制限はない。エンジン2は、車両の前部に設けられたエンジンルームの中に、いわゆる縦置きで設置されている。
【0023】
モータシステム3は、電気モータ30、インバータ31、及び、バッテリ32を備えている。電気モータ30は、エンジン2の出力軸上に配設されている。図1に例示するように、電気モータ30は、エンジン2と、後述する変速機4との間に介設されている。電気モータ30は、力行時には車両が走行するための駆動トルクを出力すると共に、車両に制動力を付与する回生を行う。バッテリ32は、インバータ31を介して電気モータ30に接続されている。バッテリ32は、電気モータ30へ、駆動用の電力を供給すると共に、電気モータ30の回生時に、バッテリ32は充電される。インバータ31は、後述する制御ユニット10からの制御信号を受けて、力行時には電気モータ30へバッテリ32の電力を供給すると共に、回生時にはバッテリ32へ電気モータ30の発電電力を送る。
【0024】
変速機4は、例えば、少なくとも一の遊星歯車機構を含む自動変速機である。尚、変速機4は、自動変速機に限定されない。変速機4は、エンジン2及び電気モータ30の出力軸に結合されている。変速機4は、エンジン2及び/又は電気モータ30のトルクを変速して出力する。
【0025】
トランスファ54は、変速機4の出力軸に接続されている。トランスファ54には、リヤプロペラシャフト51及びフロントプロペラシャフト55がそれぞれ、接続されている。トランスファ54は、エンジン2及び/又は電気モータ30のトルクを、前輪61及び後輪62に分配する。
【0026】
リヤプロペラシャフト51は、トランスファ54から車両の後方へ伸びている。リヤプロペラシャフト51は、リヤディファレンシャルギヤ52を介して、リヤドライブシャフト53に接続されている。リヤドライブシャフト53は、左右の後輪62に結合している。リヤディファレンシャルギヤ52は、左右の後輪62の回転数差を調整する。
【0027】
フロントプロペラシャフト55は、トランスファ54から車両の前方へ伸びている。フロントプロペラシャフト55は、フロントディファレンシャルギヤ56を介して、フロントドライブシャフト57に接続されている。フロントドライブシャフト57は、左右の前輪61に結合している。フロントディファレンシャルギヤ56は、左右の前輪61の回転数差を調整する。
【0028】
フロントプロペラシャフト55は、電磁カップリング機構58を介して、トランスファ54に接続されている。電磁カップリング機構58は、締結トルクを調整することによって、前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率を変更する。トランスファ54の入力トルクが一定と仮定すれば、締結トルクが高いほど、前輪61のトルクの配分比は大になる。また、締結トルクが一定と仮定すれば、トランスファ54の入力トルクが高くなると、前輪61のトルクの配分比は大になる。電磁カップリング機構58は、制御ユニット10からの制御信号を受けて、分配比率を、四輪駆動車両1の走行状態に応じた分配比率に変更する。
【0029】
図2は、四輪駆動車両1の制御装置の構成を例示している。制御装置は、制御ユニット10、アクセル開度センサ71、ブレーキ踏込量センサ72、舵角センサ73、車速センサ74、ヨーレートセンサ75を備えている。アクセル開度センサ71、ブレーキ踏込量センサ72、舵角センサ73、車速センサ74、及び、ヨーレートセンサ75はそれぞれ、制御ユニット10に接続されている。
【0030】
アクセル開度センサ71は、アクセルペダルに取り付けられかつ、運転者のアクセルペダルの踏込量に対応するアクセル開度相当の信号を、制御ユニット10に出力する。ブレーキ踏込量センサ72は、ブレーキペダルに取り付けられかつ、運転者のブレーキペダルの踏込量に対応する信号を、制御ユニット10に出力する。舵角センサ73は、ステアリングシャフトに取り付けられ、運転者のステアリングホイールの操舵量に対応する信号を、制御ユニット10に出力する。車速センサ74は、車両に搭載され、車速に対応する信号を、制御ユニット10に出力する。ヨーレートセンサ75は、車両に搭載され、車両に発生しているヨーレートに対応する信号を、制御ユニット10に出力する。
【0031】
制御ユニット10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をするI/F回路と、を備えている。制御ユニット10は、アクセル開度センサ71、ブレーキ踏込量センサ72、舵角センサ73、車速センサ74、及び、ヨーレートセンサ75の信号に基づいて、四輪駆動車両1の走行状態を判断する。制御ユニット10は、エンジン2、モータシステム3、及び、電磁カップリング機構58に制御信号を出力する。エンジン2は、制御信号を受けて、所定のトルクを出力するよう運転する。モータシステム3は、制御信号を受けて、力行運転または回生制動を行う。電磁カップリング機構58は、制御信号を受けて、締結トルクを変更する。エンジン2のトルク、又は、エンジン2及び電気モータ30のトルクが、前輪61及び後輪62に伝達されて、四輪駆動車両1が走行する。前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率は、電磁カップリング機構58が締結トルクを変更することにより、四輪駆動車両1の走行状態に応じて変更される。
【0032】
制御ユニット10にはまた、液圧ブレーキ装置8が接続されている。液圧ブレーキ装置8は、左右の前輪61及び左右の後輪62のそれぞれにブレーキ液圧を供給することによって、左右の前輪61及び左右の後輪62のそれぞれに制動力を付与する。制御ユニット10は、四輪駆動車両1の制動時に、液圧ブレーキ装置8の制動力と、電気モータ30の回生制動力の両方を、左右の前輪61及び左右の後輪62のそれぞれに付与する協調回生を行う。制御ユニット10は、四輪駆動車両1の走行状態に応じて、液圧ブレーキ装置8の制動力と電気モータ30の回生制動力との割合を調整する。
【0033】
(四輪駆動車両の制動制御)
制御ユニット10は、前述したように、電磁カップリング機構58の制御を通じて、前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率を、四輪駆動車両1の走行状態に応じて変更する。具体的に、運転者がアクセルペダルを踏んでおりかつ、エンジン2が駆動トルクを発生させている通常の走行状態において、制御ユニット10は、分配比率を、後輪62のトルクが前輪61のトルクよりも大になるよう設定する。
【0034】
また、制御ユニット10は、四輪駆動車両1の協調回生時に、回生制動トルクに応じて電磁カップリング機構58の締結トルクを調整することにより、前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率を所定の分配比率に設定する。これにより、四輪駆動車両1の協調回生時に、車両の挙動が安定化する。
【0035】
そして、協調回生が行われている場合に、後輪62のグリップが低下することにより、四輪駆動車両1が横滑りしそうになった場合、制御ユニット10は、回生制動量を低減、又は、ゼロにする。こうすることで、前輪61及び後輪62に付与される制動トルクが減るから、四輪駆動車両1の挙動が安定方向へ移行する。
【0036】
ここで、協調回生中に、制御ユニット10は、電磁カップリング機構の締結トルクを、回生制動トルクに応じて設定するため、回生制動トルクが低下すれば、締結トルクも下げることによって、前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率を所定の分配比率に設定しようとする。
【0037】
ところが、横滑りしそうな状況で、回生制動トルクを低下させた後、直ちに、電磁カップリング機構58の締結トルクを下げて前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率を調整しようとすると、後輪62に分配される制動トルクが下がらない結果、四輪駆動車両1の安定性が低下する恐れがある。
【0038】
そこで、四輪駆動車両1の制御装置は、回生制動トルクを低下させたタイミングから、遅延したタイミングで、前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率を変更する。
【0039】
次に、図3A及び図3Bのフローチャートを参照しながら、制御ユニット10による制動制御を説明する。このフローは、運転者がブレーキペダルを踏み込むとスタートする。スタート後のステップS31において、制御ユニット10は、ブレーキ踏込量、操舵角、車速、及び、ヨーレートを読み込む。続くステップS32において、制御ユニット10は、四輪駆動車両1の目標制動量を設定する。目標制動量は、ブレーキ踏込量及び車速に応じて設定される。
【0040】
ステップS33において、制御ユニット10は、目標制動量を実現するための、回生制動量、及び/又は、液圧制動量を設定する。
【0041】
回生制動量は、回生制動量の基本値に、回生係数aと回生係数bとを乗算することによって設定される。
【0042】
図4のグラフ401は、目標制動量と、回生制動量の基本値との関係を例示している。回生制動量の基本値は、目標制動量が大になるほど大に設定される。また、回生制動量の基本値が上限値に達すると、目標制動量が大になっても回生制動量の基本値は上限値のままになる。上限値は、電気モータ30の特性に応じて設定される。
【0043】
図4のグラフ402は、車速と回生係数aとの関係を例示している。車速が低いと回生係数aは、1よりも大に設定される。電気モータ30の特性上、回転数が低い場合、電気モータ30の回生制動トルクは大になり、発電効率も高い。車速が低くて電気モータ30の回転数が低い場合、電気モータ30の回生制動力を大きくするため、回生係数aは1よりも大に設定される。こうすることで、四輪駆動車両1の電費性能の向上に有利になる。車速が高くなると、車速に対し回生係数aは次第に小さくなる。四輪駆動車両1の車速が所定車速以上になれば、回生係数aは1になる。
【0044】
図4のグラフ403は、操舵角と回生係数bとの関係を例示している。操舵角が小さいと回生係数bは1に設定される。操舵角が大きい場合、回生係数bは、1よりも小に設定される。操舵角が大きくなるほど、回生係数bは、小に設定される。操舵角が大きくなると、回生制動力を小さくすることにより、旋回時における車両の安定性を確保する。尚、回生係数bの下限値は0よりも大きい。回生制動量をゼロにしないことによって、四輪駆動車両1の電費性能の向上を図る。
【0045】
ステップS33において、回生制動量を設定すれば、制御ユニット10は、液圧制動量を設定する。液圧制動量は、目標制動量から回生制動量を差し引くことによって設定される。
【0046】
ステップS33において回生制動量と液圧制動量とを設定すれば、制御ユニット10は、ステップS34において、液圧制動量に対する回生制動量の割合に基づいて、前輪61のトルクと後輪62のトルクとの分配比率を設定する。分配比率は、例えば回生制動量の割合が高くなると、前輪61のトルクの配分比が高くなるように設定される。制御ユニット10は、また、設定した分配比率が実現するよう、電磁カップリング機構58の締結トルクを演算する。尚、トランスファ54の入力トルクが一定と仮定すれば、電磁カップリング機構58の締結トルクと前輪61のトルクの配分比とは比例し、締結トルクが大きいほど、前輪61のトルクの配分比は大になる。
【0047】
制御ユニット10は、ステップS35において、モータシステム3に回生制動を指示すると共に、液圧ブレーキ装置8に液圧制動を指示する。制御ユニット10は、電磁カップリング機構58に対し、ステップS34において設定した締結トルクでの締結動作を指示する。
【0048】
続くステップS36において、制御ユニット10は、センサによって計測された、操舵角、車速及び制動力等の値に基づいて、四輪駆動車両1に生じているヨーレートを推定する。このヨーレートは、四輪駆動車両1の前輪61及び後輪62がグリップしていると仮定した場合において、四輪駆動車両1に生じていると推定されるヨーレートである。
【0049】
ステップS37において、制御ユニット10は、推定したヨーレートと、ヨーレートセンサ75が計測した実ヨーレートとの偏差Δγが、予め定めたしきい値Δγ1を超えたか否かを判定する。前輪61及び/又は後輪62のグリップが低下して四輪駆動車両1の挙動に影響が及ぶと、実際のヨーレートは、推定ヨーレートに対して、ずれる。つまり、制御ユニット10は、ステップS37において四輪駆動車両1が横滑りしそうか否かを判定している。横滑りしそうでない場合、プロセスはステップS314に進む。この場合、制御ユニット10は、運転者によるブレーキ操作がオフになったか否かを判断する。ブレーキ操作がオフでなければ、プロセスはステップS31に戻り、前述した、プロセスは、制動に関するステップを繰り返す。ブレーキ操作がオフになれば、プロセスはステップS314からステップS315に進み、制御ユニット10は、回生制動、及び、液圧制動の終了を指示すると共に、電磁カップリング機構58に対し、締結動作を、制動時の締結動作から、走行時の締結動作へ変更するように、指示する。
【0050】
一方、ヨーレートの偏差Δγがしきい値Δγ1を超えることにより、四輪駆動車両1が横滑りしそうな場合、プロセスはステップS37からステップS38に移行する。ステップS38において制御ユニット10は、モータシステム3に対して回生制動力の低減を指示する。制御ユニット10はまた、ステップS39において、電磁カップリング機構58に対し、締結トルクの増大を指示する。締結トルクの増加率は、比較的小さい。締結トルクは、(後述の変形例に係る制御に比べて)小に抑えられる。
【0051】
ステップS310において、制御ユニット10は、ヨーレート偏差Δγが拡大しているか否かを判断する。ヨーレート偏差Δγが拡大している場合、回生制動力の低減及び締結トルクの増大を行っても四輪駆動車両1の挙動が不安定なままであるため、プロセスはステップS39に戻り、電磁カップリング機構58の締結トルクをさらに増大させる。一方、ヨーレート偏差Δγが拡大していない場合、プロセスはステップS311に進み、制御ユニット10は、電磁カップリング機構58の締結トルクを維持させる。
【0052】
ステップS312において、制御ユニット10は、ヨーレート偏差Δγが縮小しているか否かを判断する。ヨーレート偏差Δγが縮小している場合、四輪駆動車両1の挙動が安定する方向に向かっているため、プロセスはステップS313に進む。一方、ヨーレート偏差Δγが縮小していない場合、プロセスはステップS310に戻る。
【0053】
ステップS313において、制御ユニット10は、一時的に高めた電磁カップリング機構58の締結トルクを、目標分配比率に対応する締結トルクとなるまで低下させる。四輪駆動車両1の挙動が安定する方向に向かっているためである。目標分配比率は、ステップS38において低減した回生制動トルクに対応した分配比率、又は、回生制動を終了した場合は、非回生制動に対応する分配比率である。プロセスはその後、ステップS314に進む。
【0054】
次に、図5のタイムチャートを参照しながら、四輪駆動車両1における、制動力の前後配分について説明する。このタイムチャートは、例えば旋回状態における制動に相当する。
【0055】
図5のグラフ501は、回生制動の実行フラグである。時刻t1に、回生制動の実行フラグがゼロから1になっている。時刻t1以降は、協調回生を行っている。
【0056】
時刻t1以降、グラフ504に示されるように、モータ30の回生制動トルク、つまりマイナストルクが発生する。モータ30の回生制動トルクが発生すると、電磁カップリング機構58の締結トルクが増大する。電磁カップリング機構58の締結トルクは、時刻t1以前よりも大になる(グラフ505参照)。回生制動トルクの増大に合わせて締結トルクが高まることにより、図5の例では、グラフ506に示されるように、前輪61のトルクの分配比は一定に維持される。
【0057】
尚、図5の例では、時刻t1以降の協調回生中に、車速が次第に低下することに対応して、モータ30の回生制動トルクが次第に高まっている(グラフ504参照)。電磁カップリング機構58の締結トルクが、モータ30の回生制動トルクの上昇に合わせて高まることにより、前輪61のトルクの分配率は一定に保たれる。
【0058】
グラフ502に例示するように、四輪駆動車両1に生じている実ヨーレートが、推定ヨーレートに対して乖離し始めると、グラフ503に示すように、実ヨーレートと推定ヨーレートとの差であるヨーレート偏差が次第に大きくなる。時刻t2において、ヨーレート偏差が、しきい値Δγ1を超えると、前述したように、回生制動量の低減が指示される。図5の例では回生制動の停止が指示されている。回生制動トルクは、グラフ504に例示するように、時刻t2から次第に減少する。
【0059】
グラフ506に一点鎖線で示すように、時刻t2以降も前輪61のトルク配分比を一定にするならば、電磁カップリング機構58の締結トルクは、グラフ505に一点鎖線で示すように、モータ回生制動トルクの減少に合わせて減少する。しかしながらこうすると、後輪62に付与される制動トルクが下がらずに、横滑りしそうになっている四輪駆動車両1の挙動が不安定になる恐れがある。そこで、前述したように、制御ユニット10は、電磁カップリング機構58の締結トルクを、一旦、高める(グラフ505参照)。締結トルクを高めると、グラフ506に示すように前輪61のトルク配分比が高まり、それに伴い後輪62のトルク配分比が下がるから、後輪62に入力される制動トルクが下がる。その結果、四輪駆動車両1の挙動が安定化する。
【0060】
図5の例では、回生制動トルクを減少させた後、ヨーレート偏差がしばらく一定値を維持する。電磁カップリング機構58の締結トルクも、しばらく一定値に保持される。前輪61のトルク配分比率も、一定値に維持される。
【0061】
時刻t3に、ヨーレート偏差が減少に転じる(グラフ503参照)。これを受けて、制御ユニット10は、グラフ505に示すように、電磁カップリング機構58の締結トルクを目標のトルクまで減少させる。その結果、前輪61のトルク配分比率が、目標の比率へと変化する(グラフ506参照)。
【0062】
制御ユニット10は、ヨーレート偏差の変化に応じて、電磁カップリング機構58の締結トルクを変えるため、四輪駆動車両1が横滑りすることを、効果的に抑制することができる。
【0063】
(変形例)
図6は、変形例に係る制御を示すフローチャートである。図6のフローチャートは、図3BのフローチャートにおけるステップS39-S313のステップに置き換わるステップを示している。
【0064】
前述した制御では、ヨーレートの増大が効果的に抑制される一方で、回生制動トルクを減少させた後、電磁カップリング機構58の締結トルクを高くした状態が、比較的長く継続する場合がある。この状態では、前輪61へのトルクの配分比が高いため、いずれか一輪がロックした場合に、全ての車輪がロックする四輪ロックが発生する可能性が高まる。変形例に係る制御は、締結トルクを高くした状態を速やかに終了させる。
【0065】
ステップS38において回生制動トルクが減少した後のステップS316において、制御ユニット10は、電磁カップリング機構58に対して、締結トルクの増大を指示する。この場合の増大率は、前述した制御に比べて大きいことが好ましい。増大率を大きくすることにより、締結トルクが大きくなるから、後輪62に付与される制動トルクを十分に下げることができる。これは、後輪62のスリップを抑制する上で有利になる。
【0066】
続くステップS317において、制御ユニット10は、締結トルクの増大後、所定時間が経過したか否かを判断する。所定時間が経過していない場合、プロセスはステップS317を繰り返す。所定時間を経過した場合、プロセスはステップS318に進む。
【0067】
ステップS318において、制御ユニット10は、電磁カップリング機構58の締結トルクを、目標分配比率に対応する締結トルクとなるまで低下させる。その後、プロセスは、図3BのステップS314に進む。
【0068】
図7は、図6のフローチャートに従って制御した場合の、各パラメータの変化を例示するタイムチャートである。時刻t1において回生制動が開始し、時刻t2においてヨーレート偏差Δγが、しきい値Δγ1を超える点は、図5と同じである。
【0069】
その後、モータ30の回生制動トルクが減少することに対し、電磁カップリング機構58の締結トルクは増大する。このときの増大率は、図5の例よりも大きい。締結トルクを大きく増大させることで、前輪61のトルク配分比が大きく向上するため(グラフ706参照)、後輪62のスリップを、より効果的に抑制できる。
【0070】
締結トルクの増大後、所定時間が経過した時刻t3で、グラフ705に示すように、締結トルクの低下を開始する。締結トルクは予め設定された減少率で低下される。図7の例では、ヨーレート偏差がその後の時刻t4で、減少に転じている。つまり、ヨーレート偏差の減少を待たずに、締結トルクは低下する。
【0071】
尚、図7のグラフ705及びグラフ706に破線で例示するように、回生制動トルクの減少を開始した後、電磁カップリング機構58の締結トルクを高めずに、所定時間経過するまで締結トルクを維持し、その後、締結トルクを低下させてもよい。締結トルクを維持した場合、回生制動トルクの減少に対応して、前輪61のトルクの配分比は高まる。それに伴い後輪62のトルクの配分比が下がるから、前記と同様に、後輪62のスリップを抑制できる。この制御は、図6のフローチャートにおけるステップS316を省略することに相当する。
【0072】
尚、図3BのフローチャートにおけるステップS39を省略してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 四輪駆動車両
10 制御ユニット
2 エンジン
30 電気モータ
54 トランスファ
58 電磁カップリング機構
8 液圧ブレーキ装置
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7