(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】無線基地局、車両用通信装置、移動体通信方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20241106BHJP
H04B 7/08 20060101ALI20241106BHJP
H04W 4/46 20180101ALI20241106BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20241106BHJP
【FI】
H04B7/06 950
H04B7/08 800
H04W4/46
H04W16/28
(21)【出願番号】P 2021015883
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 陽一
(72)【発明者】
【氏名】熱田 隆
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-527772(JP,A)
【文献】特開2017-139727(JP,A)
【文献】特開2006-217228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02-7/12
H04W 4/46
H04W 16/28
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車車間通信を実施可能に構成された車両用通信装置であって、
無線基地局(2)と無線通信するための複数のアンテナを備える無線通信部(13)と、
任意の比較地点に先行車(u1)が存在するときに観測された、
前記先行車と前記無線基地
局の間の伝搬路状態の推定値を示す第1伝搬路情報を、前記先行車と車車間通信することで取得する先行車推定値取得部(F4)と、
前記無線基地局から発せられる所定の参照信号の受信結果に基づき、自車両が前記比較地点に存在するときの
、前記無線通信部と前記無線基地局の間の伝搬路状態の推定値を示す第2伝搬路情報を取得する伝搬路推定部(F2)と、
前記第1伝搬路情報と前記第2伝搬路情報とを比較することにより、前記先行車と自車両のアンテナ特性の差である特性差を特定する特性差特定部(F5)と、
前記無線通信部が備える前記複数のアンテナのビームを制御するビーム制御部(F6)と、を備え、
前記先行車推定値取得部は、前記比較地点よりも進行方向側の任意の地点である適用地点において前記先行車で観測された
、前記先行車と前記無線基地局の間の伝搬路状態の推定値を示す第3伝搬路情報も取得し、
前記ビーム制御部は、前記特性差特定部が特定した前記特性差と、前記適用地点で観測された前記第3伝搬路情報と、に基づいて、前記適用地点において前記無線基地局との通信のためのビーム制御を行うように構成されている車両用通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用通信装置であって、
他車両との通信状況を前記無線基地局に送信する報告処理部(G2)と、
自車両を含む、複数の車両から送信される前記他車両との通信状況に基づき前記無線基地局によって設定される、自車両が所属する車群についてのデータである車群設定データを、前記無線基地局から取得する車群情報取得部(G3)と、を備え、
自車両が前記車群の先頭車両に該当する場合には、
前記無線通信部と前記無線基地局の間の伝搬路状態を逐次推定し、地点ごとの前記伝搬路状態の推定値を車車間通信により、後続車としての前記車群を構成する他の前記車両に送信する車両用通信装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用通信装置であって、
前記特性差特定部は、前記先行車との前記特性差を逐次算出し、
前記ビーム制御部は、直近所定時間以内に算出された前記特性差の平均値又は中央値を用いて前記ビーム制御を行うように構成されている車両用通信装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の車両用通信装置であって、
前記特性差特定部は、前記先行車との前記特性差を逐次算出し、
前記ビーム制御部は、直近所定時間以内に算出された前記特性差のばらつき度合いを算出し、前記ばらつき度合いが所定の閾値以上である場合には、前記特性差を用いた前記ビーム制御を中止するように構成されている車両用通信装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の車両用通信装置であって、
前記伝搬路推定部は、前記適用地点においても
前記無線通信部と前記無線基地局の間の伝搬路状態を推定し、
前記ビーム制御部は、
前記第3伝搬路情報と前記特性差を組み合わせてなる補正済み推定値を算出し、
前記伝搬路推定部が推定した前記適用地点での前記伝搬路状態の推定値と、前記補正済み推定値との差が所定値以上である状態が所定時間継続したことに基づいて前記特性差を用いた前記ビーム制御を中止するように構成されている車両用通信装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の車両用通信装置であって、
前記先行車から配信される伝搬路情報には、伝搬路推定時において前記先行車の周囲に大型車両が存在したか否かを含む観測環境情報が含まれている車両用通信装置。
【請求項7】
車両と無線通信するための複数のアンテナを備える無線通信モジュール(22)と、
任意の比較地点に存在する第1車両(u1)と通信することで観測される
、前記第1車両と前記無線通信モジュールの間の伝搬路状態の推定値である第1伝搬路情報と、前記第1車両の後続車である第2車両(u2)が前記比較地点に存在するときに当該第2車両と通信することで観測される
、前記第2車両と前記無線通信モジュールの間の伝搬路状態の推定値を示す第2伝搬路情報を取得する伝搬路情報取得部(J2)と、
前記第1伝搬路情報と前記第2伝搬路情報とを比較することにより、前記第1車両と前記第2車両のアンテナ特性の差である特性差を特定する個体差特定部(J3)と、
前記無線通信モジュールが備える前記複数のアンテナのビームを制御するビーム制御部(J4)と、を備え、
前記伝搬路情報取得部は、前記比較地点よりも進行方向側の任意の地点である適用地点
に存在する前記第1車両と通信することで観測される
、前記第1車両と前記無線通信モジュールの間の伝搬路状態の推定値を示す第3伝搬路情報も取得し、
前記ビーム制御部は、前記個体差特定部が特定した前記特性差と
、前記第3伝搬路情報と、に基づいて、前記適用地点に存在する前記第2車両との通信のためのビーム形成を行うように構成されている無線基地局。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチパスの影響を考慮した無線通信を実施する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に開示のように近年は、Massive MIMOを用いたビーム形成により通信エリア及び通信容量を拡大する技術が開発されている。例えば4G等では、所定のパイロット信号を通信装置間で送受信することにより、通信装置間の伝搬路状態を推定し、当該伝搬路推定結果に基づいて送信側及び受信側の少なくとも何れか一方ビーム制御が行われる。これにより、マルチパス伝搬路の影響による通信品質低下を抑制する効果が期待できる。なお、伝搬路状態はCSI(Channel State Information)とも称される。
【0003】
また、特許文献1では、マルチパスの影響は、場所や周波数に応じて異なるといった点に着眼し、地点ごとの伝搬路特性を示す電波伝搬マップを作成し、当該電波伝搬マップを用いて端末位置に応じたビーム制御を行う構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】3GPP TR 21.915 V15.0.0 (2019-09) 3rd Generation Partnership Project, “Technical Specification Group Services and System Aspects; Release 15 Description;Summary of Rel-15 Work Items (Release 15)”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通信の信頼性を高めるためには、ビーム制御により精度の高い伝搬路推定値が適用されることが好ましい。しかしながら、車両等は、歩行者に比べて移動速度が大きいため、伝搬路特性を推定した際の地点と、実際のデータ通信時の位置との乖離が大きく異なりうる。その結果、伝搬路推定誤差が大きくなる恐れがある。
【0007】
なお、特許文献1では、地点ごとの伝搬路特性を紐付けた電波伝搬マップの利用が検討されているが、車両ごとのアンテナ特性の差が考慮されていない。車両モデルや車種などが異なれば、アンテナ特性も異なることが想定される。特許文献1に開示の方法では、マップ作成に使用された車両と、実際にデータ通信を行う車両とのアンテナ特性差に起因して、推定誤差が大きくなる恐れが残る。
【0008】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、信頼性の高い通信を実施可能な移動体通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その目的を達成するための車両用通信装置は、車車間通信を実施可能に構成された車両用通信装置であって、無線基地局(2)と無線通信するための複数のアンテナを備える無線通信部(13)と、任意の比較地点に先行車(u1)が存在するときに観測された、先行車と無線基地局の間の伝搬路状態の推定値を示す第1伝搬路情報を、先行車と車車間通信することで取得する先行車推定値取得部(F4)と、無線基地局から発せられる所定の参照信号の受信結果に基づき、自車両が比較地点に存在するときの、無線通信部と無線基地局の間の伝搬路状態の推定値を示す第2伝搬路情報を取得する伝搬路推定部(F2)と、第1伝搬路情報と第2伝搬路情報とを比較することにより、先行車と自車両のアンテナ特性の差である特性差を特定する特性差特定部(F5)と、無線通信部が備える複数のアンテナのビームを制御するビーム制御部(F6)と、を備え、先行車推定値取得部は、比較地点よりも進行方向側の任意の地点である適用地点において先行車で観測された、先行車と無線基地局の間の伝搬路状態の推定値を示す第3伝搬路情報も取得し、ビーム制御部は、特性差特定部が特定した特性差と、適用地点で観測された第3伝搬路情報と、に基づいて、適用地点において無線基地局との通信のためのビーム制御を行うように構成されている。
【0010】
上記構成によれば、同一の地点(比較地点)において先行車で観測された伝搬路状態と自車両で観測した伝搬路状態の差に基づいて、先行車とのアンテナ特性の差分を示す特性差を特定する。そして、比較地点以降の地点である適用地点を自車両が通過する際、つまり、先行車と自車両との特性差を特定済みである場合には、先行車から車車間通信で提供される伝搬路状態と特性差を用いて、ビーム制御を行う。
【0011】
このように先行車から車車間通信で提供される地点ごとのリアルタイムな伝搬路状態と当該先行車とのアンテナ特性差を考慮したビーム制御を行う構成によれば、より誤差の少ない伝搬路状態の推定値に基づいたビーム制御を実施可能となる。故に、通信の信頼性を高める事が可能となる。
【0012】
上記目的を達成するための無線基地局は、車両と無線通信するための複数のアンテナを備える無線通信モジュール(22)と、任意の比較地点に存在する第1車両(u1)と通信することで観測される、第1車両と無線通信モジュールの間の伝搬路状態の推定値である第1伝搬路情報と、第1車両の後続車である第2車両(u2)が比較地点に存在するときに当該第2車両と通信することで観測される、第2車両と無線通信モジュールの間の伝搬路状態の推定値を示す第2伝搬路情報を取得する伝搬路情報取得部(J2)と、第1伝搬路情報と第2伝搬路情報とを比較することにより、第1車両と第2車両のアンテナ特性の差である特性差を特定する個体差特定部(J3)と、無線通信モジュールが備える複数のアンテナのビームを制御するビーム制御部(J4)と、を備え、伝搬路情報取得部は、比較地点よりも進行方向側の任意の地点である適用地点に存在する第1車両と通信することで観測される、第1車両と無線通信モジュールの間の伝搬路状態の推定値を示す第3伝搬路情報も取得し、ビーム制御部は、個体差特定部が特定した特性差と、第3伝搬路情報と、に基づいて、適用地点に存在する第2車両との通信のためのビーム形成を行うように構成されている。
【0013】
上記無線基地局によれば、同一の地点(比較地点)についての車両ごとの伝搬路状態の差に基づいて、先行車と後続車とのアンテナ特性の差分を示す特性差を特定する。そして、比較地点以降、つまり、先行車と後続車とのアンテナの特性差を特定済みである場合には、先行車との通信で観測された伝搬路状態とアンテナの特性差を用いて後続車との通信のためのビーム制御を行う。当該構成によれば、より誤差の少ない伝搬路状態の推定値に基づいたビーム制御を実施可能となり、通信の信頼性を高める事が可能となる。
【0014】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】車両用通信システムSysの構成を概略的に示す図である。
【
図2】車載器1の構成を説明するためのブロック図である。
【
図3】無線通信部の構成を説明するためのブロック図である。
【
図4】車載器1の機能を説明するためのブロック図である。
【
図6】無線基地局2の構成を説明するためのブロック図である。
【
図7】車群内でCSI関連情報を共有する場合の車載器1及び無線基地局2の構成例を示す図である。
【
図8】無線基地局2が先行車で観測されたCSIを用いた後続車向けのビーム制御を行う構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について図を用いて説明する。
図1は、本開示の移動通信システムが適用された車両用通信システムSysの概略的な構成の一例を示す図である。
【0017】
<全体構成>
図1に示すように車両用通信システムSysは、複数の車載器1と無線基地局2を含む。
図1では、車載器1を備える車両である搭載車両Uを2台しか図示していないが、システム全体としては、実際には3台以上存在し得る。なお、無線基地局2もまた複数存在しうる。
【0018】
本実施形態では一例として搭載車両Uは、四輪自動車とする。以降では車載器1にとって、当該車載器1が搭載されている車両を自車両とも記載するとともに、自車両以外の車両を他車両とも記載する。車両u1、u2は、いずれも搭載車両Uであって、車両u1は車両u2にとっての先行車に相当する。また、車両u2は車両u1にとっての後続車に相当する。車両u1が第1車両に相当し、車両u2が第2車両に相当する。
【0019】
以降では自車両が後続車u2に相当する場合を例にとって説明する。なお、先行車u1としては、車車間通信可能な車両のうち、例えば自車両の前方にあって、かつ、自車両から最も近い他車両を採用する事ができる。先行車u1は、自車両と同一レーンにおいて、自車両の前方を走行している車両とすることが好ましい。
【0020】
搭載車両Uは、道路上を走行する車両である。搭載車両Uは、四輪自動車のほか、二輪自動車、三輪自動車等であってもよい。二輪自動車には原動機付き自転車も含まれる。
【0021】
車載器1は、他車両や無線基地局2と無線通信を実施する機能を備える通信装置である。車載器1が車両用通信装置に相当する。車載器1は、無線基地局2とLTE(Long Term Evolution)などの規格に準拠した無線通信を実施可能に構成されている。車載器1は、無線基地局2にとってのユーザ装置(UE:User Equipment)に相当する。また、車載器1は、他車両とも直接的に無線通信可能に構成されている。つまり、各車両は、車載器1を介して互いに直接的に無線通信(いわゆる車車間通信)を実施可能に構成されている。
【0022】
無線基地局2は、例えばLTE(Long Term Evolution)、及び4Gの規格に準拠した移動体通信システムを提供する無線設備である。無線基地局2は、eNB(evolved NodeB)とも称される。なお、無線基地局2は、5G規格に準拠した通信を実施するものであっても良い。例えば無線基地局2はgNB(next generation NodeB)であってもよい。さらに、無線基地局2は、IEEE1509にて開示されているWAVE(Wireless Access in Vehicular Environment)規格や、DSRC(Dedicated Short Range Communications)規格などに準拠して車両と無線通信を実施する設備であってもよい。つまり、無線基地局2は、道路沿いに配置された、いわゆる路側機であってもよい。無線基地局2はRSU(Road Side Unit)と呼ぶこともできる。
【0023】
以降ではLTE、3G、4G、5GなどをまとめてLTE等とも記載する。無線基地局2は、LTE等に準拠した無線信号を車載器1と送受信する。以下の実施形態は、3GPP(Third Generation Partnership Project)が規定する、3Gや4G、5Gなどの通信アーキテクチャに準拠するように適宜変更して実施可能である。
【0024】
無線基地局2は、種々の参照信号(RS:Reference Signal)を随時送信又は受信する。参照信号としては、CRS(Cell-specific RS)や、SRS(Sounding RS)、CSI-RS(CSI-Reference Signal)、DMRS(DeModulation RS)などがある。参照信号はパイロット信号とも呼ぶこともできる。なお、CRSは、例えばUEによるセル切り替えに供される参照信号である。SRSやCSI-RS、DMRSは、上り又は下り方向の伝送路の状態を推定するための参照信号である。伝搬路状態を示す情報は、CSI(Channel State Information)とも称される。
【0025】
無線基地局2による参照信号の送信は、定期的に実施されてもよいし、所定のイベントが生じたことを受けて実施されても良い。無線基地局2による参照信号の送信は、例えばユーザ装置(UE:User Equipment)からの問い合わせを受けたことや、通信エラーの発生頻度が所定の閾値を超過したことなどをトリガとして実行されても良い。送信条件は、参照信号の種別によって相違しうる。例えばSRSなど、一部の参照信号は車載器1から無線基地局2に向かって送信されうる。
【0026】
無線基地局2は、IP(Internet Protocol)ネットワーク等のアクセス回線を介してコアネットワークと接続されている。無線基地局2は、車載器1とコアネットワークとの間でトラフィックを中継する。なお、コアネットワークとは、例えばEPC(Evolved Packet Core)である。コアネットワークでは、ユーザの認証、契約分析、データパケットの転送経路の設定、QoS(Quality of Service)の制御などの機能を提供する。コアネットワークは、例えばIPネットワークや携帯電話網等の、通信事業者によって提供される公衆通信ネットワークを含みうる。
【0027】
<車載器1と通信接続する車載デバイスの一例>
車載器1は、
図2に示すように、車両内に構築された通信ネットワークである車両内ネットワークIvNを介してロケータ3、運転支援ECU4、及びマルチメディアECU5と接続されて使用される。部材名称中のECUはElectronic Control Unitの略であって、電子制御装置を指す。車載器1もECUの一種と解することができる。ここでは車載器1及び車載器1に接続するデバイスを含む構成のことを車載システムIvSとも記載する。
【0028】
ロケータ3は、当該ロケータ3が用いられている車両(つまり自車両)の位置を逐次特定する装置である。例えばロケータ3は、GNSS(Global Navigation Satellite System)を構成する測位衛星が送信する測位信号を受信するGNSS受信機を備え、GNSS受信機が受信した測位信号を用いて位置を算出する。なお、ロケータ3は、GNSS受信機の測位結果と、ジャイロセンサや車速センサなどの計測結果との組み合わせにより位置を決定するものであってもよい。さらに、ロケータ3は、決定した位置の軌跡を地図データが示す道路形状に重ね合わせる、いわゆるマップマッチング処理を実施することで位置の補正を行ってもよい。ロケータ3が逐次特定する現在位置を示す位置情報は、車載器1に提供される。
【0029】
また、ロケータ3は、ローカライズ処理を実施可能に構成されていても良い。ローカライズ処理は、前方カメラなどの周辺監視カメラで撮像された画像に基づいて特定されたランドマークの座標と、地図データに登録されているランドマークの座標とを照合することによって自車両の詳細位置を特定する処理を指す。ランドマークとは、例えば、方面看板などの案内標識や、信号機、ポールなど、道路沿いに設置された立体構造物などである。
【0030】
運転支援ECU4は、運転席乗員(いわゆるドライバ)の運転操作を支援する運転支援機能、及びドライバの運転操作を代行可能な運転代行機能の少なくとも一方を有している。運転支援ECU4は、内部メモリに記憶された所定の車両制御プログラムをプロセッサが実行することにより、上記運転支援機能等を発現する。運転支援ECU4は、例えば、車載器1を介して図示しない外部サーバからダイナミックマップを取得し、当該ダイナミックマップを用いて車両の制御計画を作成する。なお、ここでのダイナミックマップとは、現在位置周辺に存在する他の移動体の位置や移動状態、障害物の位置や種別、地点ごとの路面状態、天候、及び、信号機の位置及び点灯状態の少なくとも何れか1つについてのデータを指す。ダイナミックマップは、詳細な道路構造を示す道路データと上記データとを対応付けたデータであってもよい。
【0031】
マルチメディアECU5は、ナビゲーションや、オーディオ、動画再生、ウェブブラウジング等の機能を提供するECUである。例えばマルチメディアECU5は、外部サーバから、例えば音楽データや動画データなどを取得してストリーミング再生する。マルチメディアECU5は1つの側面においてナビゲーションECUと呼ぶこともできる。なお、車載器1が備える機能の一部又は全部は、マルチメディアECU5が備えていても良い。
【0032】
<車載器1の構成について>
車載器1は、制御部11、車両内通信部12、無線通信部13、及び車車間通信部14を備える。
【0033】
制御部11は、コンピュータを主体として構成されている。制御部11は、プロセッサ111、RAM112、及びストレージ113を備える。プロセッサ111は、RAM112と結合された演算処理のためのハードウェアである。プロセッサ111は、CPU等の演算コアを少なくとも一つ含む構成である。プロセッサ111は、RAM112へのアクセスにより、種々の処理を実行する。ストレージ113は、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む構成である。ストレージ113には、プロセッサ111によって実行されるプログラムとして、車両用通信制御プログラムが格納されている。プロセッサ111が上記プログラムを実行することは、車両用通信制御プログラムに対応する方法である車両用通信制御方法を実行することに相当する。
【0034】
制御部11は、例えば、無線基地局2との間で送受信されるデータのデジタル信号に、動的に変更されうる重み係数(デジタルウェイト)を乗算する、いわゆるデジタルビームフォーミング(以降、デジタルBF)の処理を実行する。デジタルBFは、例えば、MR(Maximum Ratio)や、ZF(Zero Forcing)、SVD(Singular Value Decomposition)、MMSE(Minimum Mean Square Error)、MLD(Maximum Likelihood Detection)などのアルゴリズムを用いて実現されうる。なお、MMSEは、正規化ゼロフォーシング(RZF: Regularized ZeroForcing)と呼ばれることもある。制御部11が行う、無線基地局2との送受信データに対するデジタル信号処理の一部又は全部は、無線通信部13が実行するように構成されていても良い。
【0035】
車両内通信部12は、車両内ネットワークIvNを介して他のデバイスと通信するための回路モジュールである。車両内通信部12は、アナログ回路素子やIC、車両内ネットワークIvNの通信規格に準拠したPHYチップなどを用いて実現されている。車両内通信部12には、例えばロケータ3が検出した自車位置情報など、多様なデータが入力される。
【0036】
なお、車両内通信部12は、運転支援ECU4やマルチメディアECU5などの他の車載デバイスから入力された外部送信用のデータを無線基地局2に無線送信するまで一時的に保持する記憶領域であるバッファを含む。外部送信用のデータとは、例えば外部サーバや他車両など、車両外部に存在する装置を宛先とするデータである。バッファは、RAM等の書き換え可能な記憶媒体を用いて実現されればよい。車両内通信部12は、バッファに滞留しているデータの量やそれらのデータのヘッダに格納された情報を監視する機能も備える。バッファに入っているデータは、順次、データの入力元に応じた通信経路で宛先となるサーバに向けて送信される。ここでの通信経路の構成要素としては、周波数や、変調方式などを含みうる。
【0037】
無線通信部13は、無線基地局2に無線接続し、車載器1がコアネットワークを介して、他の通信装置である外部装置と通信するための通信モジュールである。無線通信部13は複数のアンテナ131、受信部132、及び送信部133を備える。
【0038】
複数のアンテナ131は、例えばアレイアンテナA131として作動するように所定の間隔をおいて1列に又は行列状に配置されている。なお、アンテナ131は必ずしも1列又は複数列に規則的に並んでいる必要はなく、それらの間隔や、素子形状はばらばらであってもよい。各アンテナ131は、無線基地局2との無線通信に用いられる所定の周波数帯で共振するように構成されている。受信部132は、アレイアンテナA131で受信した信号を復調して制御部11に提供する。送信部133は、制御部11から入力されたデータを変調してアレイアンテナA131に出力し、無線送信する。
【0039】
加えて、無線通信部13は、例えば
図3に示すようにより詳細な構成として、アナログデジタル変換部E1、アナログ信号処理部E2、分配結合回路E3、及び、移相器E4を含む。アナログデジタル変換部E1は、デジタル信号とアナログ信号との間の変換を行う構成である。つまり、アナログデジタル変換部E1は、D/A(Digital to Analog)変換器、及び、A/D(Analog to Digital)変換器として機能する。
【0040】
アナログ信号処理部E2は、例えば、ベースバンド帯域のアナログ信号とRF帯域のアナログ信号との間の周波数変換や、整波、増幅など、アナログ信号に対する所定の種々の信号処理を実行する回路群である。分配結合回路E3は、送信信号としてのアナログ信号複数のアンテナ131のそれぞれに分配する回路と、各アンテナ131から入力されたアナログ信号を結合してアナログ信号処理部E2に入力する回路とを含む。
【0041】
移相器E4は、アナログ信号に制御部11によって指定された重み係数(アナログウェイト)を乗算又は加算して出力する構成である。移相器E4は、重み係数に応じてアナログ信号の振幅及び移相を変化させる。各アンテナ131に接続されている移相器E4の集合は、各アナログ信号への重み係数の乗算により、アレイアンテナA131の指向性を制御する。つまり、移相器E4の集合は、各移相器E4に設定されている重み係数に基づいてビームフォーミングを実現する。各移相器E4に設定される重み係数は、後述する制御部11のビーム制御部F6によって制御される。
【0042】
車車間通信部14は、所定の周波数帯の電波を用いて他車両が備える車載器1と直接的な無線通信(つまり車車間通信)を実施するための通信モジュールである。車車間通信部14は、車車間通信用のアンテナ及び送受信部を備える。車車間通信用のアンテナは、車車間通信に用いられる周波数帯の電波を送受信可能に構成されている。車車間通信用の送受信部は、制御部11から入力されたデータを変調して車車間通信用アンテナに出力し、無線送信する。また、当該送受信部は、車車間通信用アンテナで受信した信号を復調して制御部11に提供する。
【0043】
なお、本実施形態では一例として、車車間通信は無線基地局2との通信方式とは異なる通信方式で実施されるものとするが、これに限らない。車車間通信もまた、LTE等の規格に従って実施されてもよい。それに伴い、車車間通信部14は、無線通信部13と統合されていても良い。無線通信部13は、セルラーV2Xを実施可能に構成されていてもよい。
【0044】
<車載器1の機能について>
ここでは
図4を用いて車載器1の機能及び作動について説明する。車載器1は、機能部として、位置取得部F1、CSI推定部F2、CSI送信部F3、他車両データ取得部F4、アンテナ特性差特定部F5、及びビーム制御部F6を備える。各機能部は、プロセッサ111が所定の車両用通信制御プログラムを実行することで実現されても良いし、IC等を用いて実現されていてもよい。また、車載器1は、受信CSI保持部M1、及びアンテナ特性差保持部M2を備える。受信CSI保持部M1及びアンテナ特性差保持部M2は、RAM112が備える記憶領域の一部を用いて実現することができる。
【0045】
位置取得部F1は、ロケータ3が算出した自車両の位置情報を逐次取得する。位置取得部F1が取得した自車両の位置情報(いわゆる自車位置情報)は、CSI送信部F3、アンテナ特性差特定部F5、及びビーム制御部F6によって利用される。
【0046】
CSI推定部F2は、参照信号を用いて上り又は下りリンクのCSIを算出する構成である。CSI推定部F2が伝搬路推定部に相当する。CSIの算出方法として、多様な方法を採用可能である。例えばある地点pにおけるCSIは、当該地点において実際に受信した参照信号をr、伝搬路の影響を受ける前の(つまり本来の)参照信号をsとすると、rに、sの複素共役転置を右側から乗ずることで求まる。つまり、CSIに対応する行列Hは、次の式1で算出することができる。CSIは、アンテナ数に応じた行数及び列数を備える行列Hで表現される。rは参照信号の受信結果に相当する。
【0047】
【数1】
行列Hは、検出行列あるいはプリコーディング行列とも称される。行列Hの上に付与しているチルダ「~」は、真値ではなく、推定値であることを示す。CSIは、概略的には伝搬過程における信号の減衰量としての振幅の差と、位相差を示す。
【0048】
なお、Hやrといったパラメータの右側に添えられた丸括弧内のpは観測地点を示し、uは無線基地局2との通信相手を示す。例えば、H(p,u)は、地点pに車両Uが存在するときに観測されたCSIを示す。観測の主体は、車両Uであっても良いし、無線基地局2であっても良い。また、文字の上に付与している線「-」は複素共役であることを示す。さらに、文字の右上に付与しているアスタリスク「*」は転置行列であることを示す。
【0049】
CSI推定部F2は、算出したCSIを、その時点における自車位置情報と対応付けてRAMに保存する。例えばCSI推定部F2は、DMRSなどの無線基地局2から発せられる参照信号を受信するたびに、その時点における下りリンクのCSIを算出する。位置情報と対応付けられたCSIは、後述するCSI送信部F3やビーム制御部F6によって参照される。
【0050】
CSI送信部F3は、車車間通信部14との協働により、CSI推定部F2が推定したCSIを観測地点の位置情報と対応付けて他車両に送信する。便宜上、観測地点毎のCSIを含む情報をCSI関連情報とも称する。
【0051】
CSI関連情報は、例えば
図5に示すように、送信元情報と、宛先情報と、観測地点の位置座標と、観測時刻情報と、CSIとを含む。送信元情報とは、送信元車両に対して予め割り当てられた、他の搭載車両と区別するための識別情報(いわゆる車両ID)である。送信元情報は、送信元としての車載器1に対して予め割り当てられた、他の車載器1と区別するための識別情報(つまり装置ID)であってもよい。なお、ここでは車載器1と車両とは1対1で対応するため、無線信号/データの送信元/宛先等としての車両との表現は、車載器1と読み替えることができる。
【0052】
宛先情報は、データの送信先を示す。なお、宛先情報が格納されるデータフィールドは任意の要素であって省略されても良い。また、宛先フィールドには、当該CSIの推定値を援用可能な/援用を推奨する車両の条件である利用車条件が挿入されても良い。利用車条件としては、例えば走行レーンや走行速度、車載器1のモデルなどを採用可能である。より具体的には、利用車条件は、観測車両と同一のレーンを走行している車両などに設定されうる。
【0053】
また、CSI関連情報は、より好ましい態様として、装置情報、及び、観測環境情報の少なくとも何れか一方を含んでいても良い。装置情報は、例えば車載器1のモデル名やバージョン情報を示す。装置情報は、メーカー名や、使用している無線チップの型番、アレイアンテナA131の構成などを含んでも良い。装置情報は端末情報と呼ぶこともできる。車載器1のモデル名称やバージョン情報は、後述するアンテナ特性差特定部F5が、車載器1のモデルごと或いはバージョンごとのアンテナ特性差を学習するために使用されうる。
【0054】
観測環境情報は、観測時の周辺環境を示す。観測環境情報は、例えば観測時に、自車両の近傍(例えば前後左右の何れか)に周囲に大型車両が存在していたか否かを示す。ここでの大型車両とは、タンクローリーや、トラック、大型バスなど、自車両の車体よりも1.5倍以上大きい車両を指す。大型車両は、車種、前後方向長さ、及び車高の少なくとも何れかを用いて定義される。自車両の近傍に大型車両が存在するか否かに応じてCSIは大きく変化しうる。特に、自車両から見て無線基地局2が存在する側に大型車両が位置しているか否かによって、CSIは異なりうる。つまり同一地点についてのCSIであっても、当該地点の近くに大型車両が存在するか否かに応じてCSIは相違しうる。
【0055】
CSI関連情報に大型車両の有無を含めることにより、当該CSI関連情報に示されるCSIを他車両が援用できるか否かを判断可能となる。具体的には先行車u1が観測したCSIを後続車u2としての自車両が流用可能かどうかの判断材料となりうる。仮に先行車u1の近傍には大型車両が存在せず、自車両の近傍には大型車両が存在する場合には通信環境ひいてはCSIの相違が予想される。先行車u1の近傍には大型車両が存在せず、自車両の近傍には大型車両が存在する場合、ビーム制御部F6は、先行車u1が観測したCSIに基づくビーム制御は中止してもよい。大型車両が存在したかどうかは、1~2ビット程度のフラグで表現されてもよい。その他、観測環境情報は、自車両周辺に存在する車両の台数や、渋滞状態であったか否かなどの動的な環境要因についての情報を含んでいてもよい。
【0056】
CSI関連情報は、ブロードキャストで送信されても良いし、マルチキャスト又はユニキャストで宛先を指定した上で送信されても良い。CSI関連情報の宛先とする他車両は、自車両から所定の共有対象距離以内の車両としても良い。共有対象距離は、例えば100mや200m、300mなどとすることができる。共有対象距離は、車間時間の概念で定義されてもよい。例えば共有対象距離は、車間時間が5秒あるいは10秒以内となる値に設定されても良い。車間時間は、標識柱など道路上の目印となる所定の構造物であるランドマークを先行車u1が通過した時点からその後続車u2が当該ランドマークを通過するまでの時間に相当するものである。車間時間は、概略的には車間距離を自車両又は後続車u2の走行速度で除算した値に相当する。
【0057】
さらに、CSI送信部F3は、CSI関連情報の送信先を、自車両と同一レーンを走行している車両に限定しても良い。また、CSI関連情報の送信先は、別途後述する車群編成部によって設定される、同一車群内の車両に限定されても良い。さらに、CSI関連情報の送信先は、自車両よりも後方に位置する車両に限定されても良い。上記限定を適用した構成によれば、各車載器1の通信負荷や通信混雑を低減できる。なお、CSI送信部F3は、CSI関連情報を無線基地局2に送信するように構成されていてもよい。当該構成によれば、無線基地局2は車載器1から見た無線基地局2とのCSIを収集可能となる。
【0058】
他車両データ取得部F4は、車車間通信部14との協働により、他車両から車車間通信で送信されたデータを取得する構成である。例えば他車両データ取得部F4は、先行車u1から送信されたCSI関連情報を取得する。他車両データ取得部F4が先行車推定値取得部に相当する。
【0059】
他車両データ取得部F4は、車車間通信で受信した、他車両が観測したCSIを観測地点などと対応付けて受信CSI保持部M1に保存する。以降では、他車両が観測したCSIのことを他車両CSIとも記載する。また、他車両CSIのうち、特に先行車u1から提供されたCSIのことを先行車CSIと記載する。さらに、他車両CSIに対し、自車両のCSI推定部F2が推定したCSIのことを自車両CSIと記載する。なお、他車両CSIは受信CSI、自車両CSIは内部生成CSIなどとそれぞれ呼ぶこともできる。
【0060】
その他、各車載器1は自車両の位置や走行速度、進行方向、走行レーンID、方向指示器の作動状態、ワイパーの作動応対などといった走行状態を示すデータセットを車両情報として定期的に他車両に送信するように構成されていても良い。走行速度やワイパーの作動状態などの情報は、車両内ネットワークIvNを介して各種車載センサ或いはボディECUなどから入力される。その場合、他車両データ取得部F4は、他車両が送信した車両情報を受信してRAM112等に保存する。他車両の情報は、先行車u1の特定や、制御計画の作成などに使用されうる。
【0061】
アンテナ特性差特定部F5は、或る地点pにおいて先行車u1が観測したCSIと、同一地点pにおいて自車両が推定したCSIとを比較することで、先行車u1と自車両とのアンテナ特性の差であるアンテナ特性差を算出する。例えばアンテナ特性差は、或る地点pにおける先行車u1でのCSIと、自車両でのCSIの差分で表現される。つまり、地点pにおける先行車u1と、自車両としての車両u2とのアンテナ特性差の推定値は、次の式2で算出されうる。式2のDがアンテナ特性差を示すパラメータであって、行列で表現される。
【0062】
【数2】
なお、式2中のH(p,u2)は、地点pにおける自車両でのCSIの推定値を示す。また、H(p,u1)は、地点pにおける先行車u1でのCSIの推定値を示す。H
*(p,u1)は、先行車u1でのCSI推定値の転置行列を示す。つまり、先行車u1と自車両とのアンテナ特性差は、自車両でのCSI推定結果に対して、先行車u1でのCSI推定結果の転置行列を右側から乗じることによって算出される。当該アンテナ特性差は、振幅と位相の差を示す。
【0063】
ビーム制御部F6は、アレイアンテナA131のビームを制御する構成である。ビームの制御は、先行車u1で観測されたCSIと、先行車u1と自車両とのアンテナ特性差に基づいて各アンテナ131に接続する移相器E4の重み係数を調整することにより実現されうる。なお、ビーム制御は、送信側と受信側の少なくとも何れか一方で実施されれば良い。
【0064】
例えば送信時のビーム制御は下記の式3Aにしたがって実行される。また受信時のビーム制御は式3Bに従って実行される。つまり、各種信号に対する重み係数は、先行車u1でのCSIの推定値にアンテナ特性差を乗じてなる行列の転置行列によって定まる。
【0065】
【0066】
【数4】
なお、式中のxは、補正前の送信信号を表し、上部にチルド「~」を付与したxは、実際の(補正後の)送信信号を表す。また、yは実際の受信信号を表すものであって、例えば式4で表現されうる。式4中のnは、ノイズ成分を表す。また、前述の通り、上部にチルド「~」が付与されていないHは、伝搬路特性の真値を指す。上部にチルド「~」を付与したyは、伝搬路の影響を補正後の受信信号を示す。
【0067】
式中のqは、地点pよりも進行方向側の地点であって、自車両が実際にデータ通信を行う地点を示す。地点qはアンテナ特性差の算出に用いた地点pとは異なる地点となる。qとしては、地点pよりも進行方向側の任意の地点を適用することができる。なお、自車両の現在位置が、先行車u1がCSIを観測した2つの地点の中間に位置する場合には、それらの地点での推定値を線形補間した値を現在位置でのCSIとして採用してもよい。
【0068】
なお、進行方向に沿って存在する任意の2つの地点p、qのうち、相対的に進行方向側に位置する地点qが適用地点に相当し、アンテナ特性差の算出に使用された地点pが比較地点に相当する。先行車u1が地点pで観測したCSI推定値についてのCSI関連情報が第1伝搬路情報に相当し、先行車u1が地点qで観測したCSI推定値についてのCSI関連情報が第3伝搬路情報に相当する。また、自車両が地点pで観測したCSI推定値を示すデータが、第2伝搬路情報に相当する。
【0069】
ところで、先行車u1で観測されたCSIとしての行列Hに対して、先行車u1とのアンテナ特性差としての行列Dを右側から乗じてなる行列は、先行車u1から提供されたCSIを先行車u1とのアンテナ特性差で補正した補正済みCSIに相当する。なお、補正済みCSIは、概念的には、先行車u1で観測されたCSIに、先行車u1とのアンテナ特性差を加えたCSIに相当する。補正済みCSIが補正済み推定値に相当する。
【0070】
<無線基地局2の構成>
次に、ここでは
図6等を用いて無線基地局2の構成について説明する。無線基地局2は、
図6に示すように、基地局制御部21、基地局無線部22、及びネットワーク接続装置23を備える。
【0071】
基地局制御部21は、プロセッサ211、RAM212、及びストレージ213を備える、コンピュータを主体として構成されている。ストレージ213には、プロセッサ211によって実行されるプログラムとして、基地局用プログラムが格納されている。プロセッサ211が上記プログラムを実行することは、基地局用プログラムに対応する方法である基地局用通信制御方法を実行することに相当する。
【0072】
基地局制御部21は、基地局無線部22及びネットワーク接続装置23のそれぞれと相互通信可能に接続されている。基地局制御部21はこれらの動作を制御する。基地局制御部21は、基地局無線部22と連携してデジタルBFにかかる処理を実行可能に構成されている。
【0073】
基地局無線部22は、車載器1と無線通信するための通信モジュールである。基地局無線部22が無線通信モジュールに相当する。基地局無線部22は複数のアンテナ素子221eを含むアレイアンテナ221を備える。基地局無線部22は、車載器1が備える無線通信部13と同様に、AD変換器、DA変換器、アナログ信号処理部などを含む。アレイアンテナ221は、例えば複数のアンテナ素子221eが行列状又は格子状に配置されている。基地局制御部21は、アレイアンテナ221を構成する各アンテナ素子221eに入出力するアナログ信号の重み係数を調整することにより、デジタルBFを実現する。基地局無線部22は、基地局制御部21の制御のもと、車載器1に向けた無線信号を送信する。また、基地局無線部22は、車載器1からの無線信号を受信し、受信信号に対応するデジタル信号を基地局制御部21に出力する。
【0074】
ネットワーク接続装置23は、コアネットワークを構成する設備と通信するための構成である。コアネットワークを構成する設備とは、例えばMME(Mobility Management Entity)やAMF(Access and Mobility management Function)などである。ネットワーク接続装置23は、例えば光ファイバなどを用いてコアネットワークと相互通信可能に構成されている。ネットワーク接続装置23は、コアネットワークから入力されたデータを基地局制御部21に出力する。また、ネットワーク接続装置23は、基地局制御部21から入力されたデータをコアネットワークに出力する。コアネットワークに出力されたデータは、あて先に応じた経路で転送され、あて先としてのサーバ等で到達する。
【0075】
<上記構成の効果>
以上の構成によれば、CSI推定値を車車間通信で共有するとともに、同一地点において他車両で観測されたCSIと自車両で観測したCSIの差に基づいて、車両間のアンテナ特性の差(個体差)を推定する。先行車u1と自車両とのアンテナ特性差を特定済みの場合には、先行車u1から提供される各地点のCSIと、先行車u1とのアンテナ特性差を用いて、各アンテナで送受信する信号の強度(電力)及び位相の調整、すなわちビーム制御を随時行う。このように他車両からリアルタイムに提供される地点ごとのCSIと当該他車両とのアンテナ特性差を考慮した送受信レベルの制御を行う構成によれば、アンテナ利得を向上させる効果、ひいては通信の信頼性を高める効果が期待できる。
【0076】
また、上記の構成によれば伝搬路推定を実施した位置で、当該推定値を用いた通信が可能となる。ゆえに、CSI推定時の位置とデータ通信実行地点とがずれる恐れを低減できる。その結果、重み係数の調整に使用する伝搬路の推定誤差を抑制できる。加えて、先行車u1のCSIにアンテナ特性差に加味してビーム形成することで、ビーム精度を向上可能となる。
【0077】
また、ビーム制御に使用するCSIは先行車u1から取得するものであるため、例えば数秒以内など、相対的に現時点から近い時刻での推定値となることが期待できる。大型車両などの瞬間的な遮蔽物体の存在を無視できる場合には、CSIは1秒~数秒程度では大幅には変動しない。ゆえに、電波伝搬マップを用いる場合に比べて、相対的にCSI推定誤差の抑制効果が期待できる。
【0078】
なお、ビーム制御に使用する先行車u1としては、自車両と同一レーンにおいて自車両の前方を走行する車両のうち、自車両の車載器1とモデルやバージョンが同じ車両を優先して採用してもよい。当該構成によれば、ビーム制御に反映されるアンテナ特性差を小さくすることができ、アンテナ特性差の推定値が含む誤差もまた小さくできる。その結果、より適正にビーム制御を実施可能となることが期待できる。
【0079】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の変形例は、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0080】
<車群の適用>
各車両が所定の規則によって設定される車群の単位で移動する場合、車群内でCSI関連情報を共有するように構成されていてもよい。以下、当該技術思想に対応する構成の一例について説明する。
【0081】
車載器1は、
図7に示すように、機能部として、位置取得部F1などに加えて、通信品質取得部G1、報告処理部G2、及び車群設定取得部G3を備える。なお、
図7においては、例えば位置取得部F1など、
図2に示す機能部の一部について図示を省略している。
【0082】
通信品質取得部G1は、車車間通信部14が他車両からの無線信号を受信している場合に、当該車両との通信品質を示す情報を、送信元を示す車両IDと対応付けて保存する。自車両が複数の他車両と車車間通信可能な状況にあるときは、通信品質取得部G1は、車両ごとに通信品質情報を区別して管理保存する。車両毎の通信品質情報は、例えばRAM112に一時保存される。
【0083】
車両同士の無線通信品質を示す情報は、受信信号強度や受信信号の信号対雑音比や、符号誤り率(BER:Bit Error Rate)、パケットロス率など、多様な指標の少なくとも一部を含む。受信信号強度は、RSSI(Received Signal Strength Indication)とも表現されうる。信号雑音比は、信号と雑音の比あるいは差分を示すパラメータである信号対雑音比はSNR(Signal-to-Noise Ratio)、SN比、S/Nなどとも表現されうる。信号対雑音比は数値が大きいほど品質がよい事を示す。パケットロス率は、一定時間当りのデータの受信失敗率に相当する。RSSIの測定などは、車車間通信部14に設けられた強度検出回路などによって行われる。車車間通信部14は、上記品質指標の一部又は全部算出するように構成されている。なお、上述した種々の品質指標の一部又は全部を算出する機能は制御部11が備えていても良い。
【0084】
報告処理部G2は、自車両の走行状態を示すデータセット(例えば通信パケット)である走行状態報告を、所定の周期で生成し、無線通信部13と協働して無線基地局2に送信する。走行状態報告は、例えば、自車両と他車両との通信状況についてのデータを含む。ここでの通信状況には、通信相手ごとの通信品質を含む。また、走行状態報告は、自車両の現在位置や、走行速度などを含む。
【0085】
さらに、走行状態報告は、長期的又は中期的な制御計画を含んでいてもよい。長期的な制御計画とは、例えば現在位置から目的地までの走行経路を大まかに示す情報に相当する。中期的な計画は、長期的な計画よりも詳細/具体的な制御計画であって、例えば5分~10分以内に通過予定の範囲における走行レーンや走行速度などを含む。長期的/中期的な制御計画は、時刻毎の走行地点や走行速度などを含みうる。
【0086】
車群設定取得部G3は、無線基地局2から送信される車群設定データを取得する構成である。車群設定取得部G3が車群情報取得部に相当する。ここでの車群とは、複数の車両をグループ化したものである。車群設定データは、例えば同一の車群に属する各車両の識別情報と、車群内での通信経路の設定を示すデータと、を含む。なお、車両の識別情報としては、車両ごとに予め割り当てられている固有に番号(いわゆる車両ID)を採用することができる。また、車両の識別情報は、通信で使用される車両ごとのアドレス情報であってもよい。車群内での通信経路は例えば先頭車両を始点(根)とするツリー型に形成されうる。車群内の通信経路は、無線基地局2が設定してもよいし、各車両が実際の通信状況を鑑みて動的に設定してもよい。
【0087】
1つの車群に属する車両同士は、例えば、無線基地局2から複数に分割された状態で配信されるコンテンツデータを車車間通信によって共有し、補完し合う。ここでのコンテンツデータは、例えば高精度地図データや、動的地図データ、ソフトウェアの更新データなどを指す。高精度地図データは、レーンマークや道路標識、道路端などの位置座標など、詳細な道路構造を高精度に示すデータである。動的地図データは、道路の管理単位である道路セグメントごとの平均車速や、交通量、信号機の点灯状態、通行規制がなされている区間、渋滞の末尾位置、路上落下物の位置の少なくとも何れか1つを示すデータである。
【0088】
CSI送信部F3は、車群設定取得部G3が取得した車群設定データに基づき、自車両と同一の車群に属する他車両、換言すれば他の構成メンバに向けて、CSI関連情報を車車間通信で送信する。CSI送信部F3による車群内の他車両へのCSI関連情報の展開は、ユニキャストの態様で実施されても良いし、マルチキャストの態様で実施されてもよい。システムの設計としてCSI関連情報の到達確認は不要とする場合には、通信効率を高めるため、マルチキャストで送信することが好ましい。
【0089】
無線基地局2は機能部として、
図7に示すように、個別情報取得部H1、車群編成部H2、及び車群設定通知部H3を備える。各機能部は、プロセッサ211が基地局用プログラムを実行することによって発現されるものであってもよいし、IC等のハードウェアを用いて実現されるものであってもよい。
【0090】
個別情報取得部H1は、各車両から送信される走行状態報告を取得し、RAM212等に一時保存する。前述の通り、走行状態報告が含む情報の一部又は全部は、車群を設定するためのコンテキストデータに相当する。
【0091】
車群編成部H2は、個別情報取得部H1が取得した車両ごとのコンテキストデータに基づいて車群を編成する構成である。例えば車群編成部H2は、RSSIが所定のグルーピング強度以上である車両同士を同一のグループ(換言すれば車群)に設定していく。グルーピング強度は、安定して車車間通信を実施できる程度の値に設定されていればよく、車車間通信の規格で規定される送信電力の標準値に応じて変更されうる。グルーピング強度は、例えばパケット到達率の期待値が95%以上となるような値に設定されれば良い。通信が安定している状態とは、例えばパケットロス率が5%未満となる状態とすることができる。要求される通信品質は、通信の用途等に応じて決定されうる。グルーピング強度は、車車間通信の規格で規定される送信電力の値にもよるが、例えば-60dBmや、-50dBm、-40dBm、-30dBmなどとすることができる。グルーピング強度は、例えば通信が安定する環境(以降、良環境)におけるRSSIのシミュレーション結果をもとに設定されうる。なお、良環境としては、車間距離が25mであってそれらの車両の間に障害物が存在しない状況が想定される。
【0092】
車群の編成に使用するRSSIは、最新の観測値であってもよいし、直近所定時間以内における観測値の平均値、中央値、最大値、又は最小値であってもよい。なお、ここでは一例としてRSSIを用いて同一の車群に含める車両を選別するが、これに限らない。SNRが所定値以上であることや、直近所定時間以内におけるパケットロス率が所定値未満であることなどをグループ化の条件として採用しても良い。グループ化の条件を規定する各項目に対する閾値のことをグルーピング閾値とも称する。前述のグルーピング強度もグルーピング閾値の一例に相当する。
【0093】
車群編成部H2は、車車間通信の品質情報をもとに車群を形成するため、実際には通信しにくい車両を同一車群に含めてしまう恐れを低減できる。つまり、車群内での通信品質を担保しやすくなる。もちろん、車群編成部H2は、車車間の通信品質を示す少なくとも1つのパラメータに加えて、車間距離を併用して、車群を設定するように構成されていても良い。例えば、同一の車群に所属させる条件は、RSSIがグルーピング強度以上であって、かつ、車間距離が所定のグルーピング距離未満であることとしても良い。グルーピング距離は例えば50mmや、100m、150mなどとすることができる。
【0094】
車群編成部H2は、車両ごとの制御計画を元に、相対的な位置関係が一定時間以上変わらないことが期待できる車両同士が同一車群に所属するように、各車群を編成することが好ましい。相対的な位置関係が一定時間以上変わらないことが期待できる車両同士とは、例えば、目的地や進行方向、平均的な走行速度、速度を自動調整する際の目標値などが類似している車両である。
【0095】
車群設定通知部H3は、車群編成部H2による車群の設定データを、対応する各車載器1に送信する。車群設定データ等の宛先は、車群を構成するすべての車両であっても良いし、先頭車両に相当する車両だけであってもよい。車群設定データ等の宛先を、対象車群を構成する車両のうちの1台だけとする場合には、車群設定データを受信した車両は、当該車群設定データに示される同一車群に属する他車両に車車間通信で車群設定データを転送すればよい。
【0096】
上記の前提構成によれば、各車載器1は、無線基地局2から提供される車群設定データに基づいて、自車両が属する車群及びその構成メンバを特定する。つまり、各車載器1は自車両が属する車群、換言すればCSI関連情報を共有すべき他車両を認識する。各車載器1は、同一車群に属する他車両に向けてCSI関連情報を車車間通信で送信する。
【0097】
上記構成によれば、車群内で地点ごとのCSIが共有される。それに伴い、車群を構成する車両同士でアンテナ特性差が特定される。そのため、車群単位で上記のビーム制御を実施可能となる。加えて、車群編成部H2は、1つの態様として相対的な位置関係が一定時間以上変わらないことが期待できる車両同士を同一車群に設定する。当該態様によれば、先行車u1と後続車u2の相互関係も相対的に長い間保持されるため、特定済みのアンテナ特性差を流用できる期間を長くすることができる。換言すれば、アンテナ特性差を算出する頻度を抑制可能となる。
【0098】
CSI関連情報を送信する車両は、車群の先頭車両のみに限定しても良い。車群内において、先頭車両以外の車両である非先頭車両は、先頭車両にとっての後続車に相当する。上記構成によれば車群内の非先頭車両は、車群の先頭車両が送信したCSI関連情報と、先頭車両と自車両とのアンテナ特性差に基づいて、ビーム制御を実施可能となる。これにより、非先頭車両と無線基地局2との通信の信頼性を高めることができる。加えて、CSIは先頭車両のみが算出すればよいため、非先頭車両における車載器1の処理負荷を低減可能となる。
【0099】
上記のように車群の先頭車両がCSIを算出して車群内に展開する構成は、1つの側面において、先頭車両が地点ごとのCSIを示す動的な電波マップを生成して車群内で共有及び利用する構成に相当する。なお、車群の先頭車両がCSIを算出して車群内に展開する構成においては、先頭車両の処理負荷が大きくなる。車群編成部H2は、車群を編成する際、相対的に高性能なプロセッサ/ICが搭載されている車載器1が先頭車両となるように、車群を編成しても良い。車載器1毎の性能は、装置情報から特定されれば良い。
【0100】
<アンテナ特性差の活用方法の補足>
アンテナ特性差特定部F5は、先行車u1とのアンテナ特性差を特定済みである状況においても、定期的に又は所定のイベントが生じたことを受けて、先行車u1とのアンテナ特性差を再算出し、アンテナ特性差の検証や更新を行うように構成されていてもよい。また、ビーム制御部F6は、アンテナ特性差特定部F5が直近所定時間以内に算出した、アンテナ特性差のばらつき度合い(分散や偏差)が所定値以上であることに基づいて、先行車CSI及びアンテナ特性差を用いたビーム制御を中止してもよい。例えばビーム制御部F6は、直近所定時間以内に算出されたアンテナ特性差のばらつきが所定の閾値以上となる状態が、一定時間(例えば5秒)継続した場合には、補正済みCSIを用いたビーム制御を中止しても良い。
【0101】
なお、ビーム制御に使用するアンテナ特性差は、直近所定時間以内に算出されたアンテナ特性の平均値(いわゆる移動平均値)とすることができる。また、平均値の代わりに中央値を採用することもできる。それらの態様によれば、瞬間的なノイズによって補正済みCSIと真値との誤差が大きくなる恐れを低減できる。
【0102】
また、車載器1は、先行車u1とのアンテナ特性差を特定済みである場合、自車両で算出したCSIと補正済みCSIとを比較して、補正済みCSIと自車両CSIとが一致しているかを判定しても良い。ここでの一致とは、完全一致に限定されず、例えば±10%程度の差が生じている場合も含めることができる。つまり、一致の概念には略一致も含まれる。
【0103】
上記構成においてビーム制御部F6は、補正済みCSIと自車両CSIとの差が所定の閾値以上であることに基づいて、補正済みCSIを用いたビーム制御を中止するように構成されていても良い。より具体的には、ビーム制御部F6は、補正済みCSIと自車両CSIとの差が所定の閾値以上である状態が一定時間(例えば5秒)継続した場合には、補正済みCSIを用いたビーム制御を中止しても良い。
【0104】
その他、隣接車線を走行する車両との相対速度が所定値以上である場合など、周辺車両との相対位置の変動が激しい状況においては、CSIの経時的な変化度合いが大きくなりうる。故に、周辺車両との位置関係が不安定な状況においては、先行車CSI及び先行車u1とのアンテナ特性差を用いたビーム制御を中止してもよい。周辺車両との位置関係が安定しているか否かは、車車間通信で取得する他車両の位置情報及び速度、周辺車両と自車両との相対速度に基づいて判定すればよい。例えば、自車両に対する相対速度が所定の閾値以上である他車両が存在しない場合には、周辺車両との位置関係が安定していると判定されうる。なお、周辺車両との位置関係が安定しているか否かは、カメラなどの周辺監視センサのセンシング情報に基づいて判断されても良い。
【0105】
なお、上述したアンテナ特性差の活用方法にかかる種々の補足は、次に述べるように、無線基地局2がビーム制御を行う場合にも適用することができる。
【0106】
<無線基地局2でビーム制御を行う構成について>
上述した実施例では、車載器1が信号送信時や受信時に補正済みCSIを用いてビーム制御を行う態様を開示したがこれに限らない。無線基地局2が車両間でのアンテナ特性差を推定し、各車両に通知してもよい。また、無線基地局2で、先行車u1との通信で観測したCSIと、先行車u1と後続車u2とのアンテナ特性差に基づいて、後続車u2向けのビーム制御を実施してもよい。そのような技術思想に対応する構成の一例について次に説明する。
【0107】
無線基地局2は
図8に示すように機能部として、車両位置取得部J1、CSI推定部J2、個体差特定部J3、及びビーム制御部J4を備える。また、基地局制御部21は、CSI記憶部M3及び個体差保持部M4を備える。CSI記憶部M3はRAM212が備える記憶領域の一部を用いて実現されていても良いし、RAM212とは別の記憶デバイスを用いて実現されていても良い。個体差保持部M4についても同様である。
【0108】
車両位置取得部J1は、無線基地局2の通信エリア(換言すればセル)内に存在する各車載器1の位置を取得する構成である。各車載器1の位置情報は、各車載器1から報告される。例えば車両位置取得部J1は、各車載器1から送信される走行状態報告に基づいて、各車両の現在位置を取得する。車両位置取得部J1が取得した車両ごとの位置情報は、例えばCSI推定部J2に出力される。
【0109】
なお、例えば走行状態報告など、車両から無線基地局2に送信される情報は、先行車u1や後続車についての情報、つまり前後関係を示す情報を含むことが好ましい。各車両が自車両の前又は後ろに位置する車両についての情報を無線基地局2に送信する構成によれば、無線基地局2は或る複数の車両の前後関係を特定しやすくなる。
【0110】
CSI推定部J2は、所定の参照信号を車両(車載器1)と送受信することによって、地点ごと及び車両ごとの、上り及び下りリンクの少なくとも何れか一方のCSIを推定する。なお、無線信号の伝搬路には可逆性があるため、上りリンク及び下りリンクの何れか一方についてのCSIは、他方のCSIとしても援用可能である。CSI推定部J2は、車両毎及び地点ごとのCSIを、その車両の識別情報及び位置情報と対応づけてCSI記憶部M3に保存する。CSI推定部J2が伝搬路情報取得部に相当する。
【0111】
個体差特定部J3は、CSI記憶部M3に保存されている、地点ごと、車両ごとのCSIに基づいて、先行車u1と後続車u2の関係にある車両同士のアンテナ特性差、換言すれば個体差を算出する。アンテナ特性差(個体差)は、前述の式1~2を用いて算出されうる。車両同士の前後関係は、時刻毎の位置情報に基づいて特定してもよいし、車両からの報告に基づいて特定しても良い。個体差特定部J3が特定した車両間のアンテナ特性差は、車両の組み合わせを示すデータとともに、個体差保持部M4に保存される。個体差特定部J3は先行車u1と後続車u2とのアンテナ特性差を定期的にあるいは所定の参照信号を送受信する度に算出しても良い。
【0112】
ビーム制御部J4は、CSI記憶部M3に保存されている地点ごと及び車両ごとのCSIと、個体差保持部M4に保存されているアンテナ特性差に基づいて、各車両との通信におけるビーム制御を行う。ビーム制御の具体的な方法は、車載器1がビーム制御を行う場合と同様である。すなわち、ビーム制御部J4は、先行車u1との通信で特定したCSIと、先行車u1と後続車u2とのアンテナ特性差を組み合わせることで、後続車u2用の補正済みCSIを算出し、当該補正済みCSIを用いてビーム制御を行う。
【0113】
以上の構成によれば、CSIの推定を無線基地局2が行うため、車載器1の処理負荷を低減できる。また、車両同士が車車間通信にてCSI関連情報を送受信し合う必要がない。そのため、車載器1の処理負荷をより一層低減できる。もちろん、上記の実施例と同様に、伝搬路推定が行われた位置で、当該推定値を用いた通信を実施可能となる。故に、CSI推定時の位置とデータ通信実行地点とがずれる恐れを低減できる。その結果、通信の信頼性を高めることができる。
【0114】
なお、前述の通り、アンテナの特性差のばらつき度合いなどに基づき、アンテナ特性差を用いたビーム制御の実施/中止にかかる制御は、無線基地局2がビーム制御を行う場合にも適用されうる。例えば、ビーム制御部J4は、直近所定時間以内に算出されたアンテナ特性差のばらつきが所定の閾値以上である場合には、先行車u1との通信で推定したCSIを用いて後続車u2との通信のビーム制御を行わないように構成されていてもよい。
【0115】
また、ビーム制御部J4は、同一地点についての後続車u2向けの補正済みCSIと、当該後続車u2との通信で演算したCSIの推定値との差が所定値以上である状態が所定時間継続したことに基づいて補正済みCSIを用いたビーム制御を中止してもよい。
【0116】
その他、各車両から送信される走行状態報告には、周囲に大型車両が存在するか否かを示す情報、つまり観測環境情報が含まれていても良い。無線基地局2は、先行車u1及び後続車u2の少なくとも何れか一方の周囲に大型車両が存在する場合には、それらの車両に関連するアンテナ特性差や補正済みCSIを算出する処理を停止してもよい。つまり、無線基地局2や車載器1は、アンテナ特性差に誤差が含まれやすい状況や、同一地点についてのCSIが動的に変化しやすい状況においては、上述した種々の処理の一部又は全部を中止してもよい。
【0117】
<付言>
本開示に記載の装置、システム、並びにそれらの手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路を用いて実現されてもよい。さらに、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。つまり、車載器1等が提供する手段および/又は機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供できる。例えば車載器1が備える機能の一部又は全部はハードウェアとして実現されても良い。或る機能をハードウェアとして実現する態様には、1つ又は複数のICなどを用いて実現する態様が含まれる。車載器1は、CPUの代わりに、MPUやGPU、DFP(Data Flow Processor)を用いて実現されていてもよい。車載器1は、CPUや、MPU、GPUなど、複数種類の演算処理装置を組み合せて実現されていてもよい。車載器1は、システムオンチップ(SoC:System-on-Chip)として実現されていても良い。さらに、各種処理部は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)を用いて実現されていても良い。各種プログラムは、非遷移的実体的記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に格納されていればよい。プログラムの保存媒体としては、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ、SD(Secure Digital)カード等、多様な記憶媒体を採用可能である。非遷移的実体的記録媒体には、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)などのROMも含まれる。
【0118】
上述した車載器1の他、当該車載器1を構成要素とするシステムなと、種々の形態も本開示の範囲に含まれる。例えば、コンピュータを車載器1として機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体等の形態も本開示の範囲に含まれる。無線基地局2についても同様である。
【符号の説明】
【0119】
1 車載器、2 無線基地局、13 無線通信部、 22 無線通信モジュール、F2 CSI推定部(伝搬路推定部)、F4 他車両データ取得部(先行車推定値取得部)、F5 アンテナ特性差特定部、F6 ビーム制御部、G2 報告処理部、G3 車群設定取得部(車群情報取得部)、J2 CSI推定部(伝搬路情報取得部)、J3 個体差特定部、J4 ビーム制御部、u1 先行車(第1車両)、u2 自車両(第2車両)。