(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】圧力容器
(51)【国際特許分類】
B29C 49/04 20060101AFI20241106BHJP
B29C 49/20 20060101ALI20241106BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20241106BHJP
F17C 1/16 20060101ALI20241106BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B29C49/04
B29C49/20
F17C1/06
F17C1/16
F16J12/00 A
(21)【出願番号】P 2021016249
(22)【出願日】2021-02-04
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大内山 直也
(72)【発明者】
【氏名】永松 大介
(72)【発明者】
【氏名】松井 明彦
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-150523(JP,A)
【文献】特開平08-311332(JP,A)
【文献】特開2016-203450(JP,A)
【文献】特開平11-010718(JP,A)
【文献】特開平07-032460(JP,A)
【文献】特開2017-166543(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/159861(JP,A1)
【文献】特開2017-095671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 49/00-49/46
B29C 49/58-49/68
B29C 49/72-51/28
B29C 51/42
B29C 51/46
F17C 1/00-13/12
F16J 12/00-13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の直胴部と、前記直胴部の両端に設けられ、前記直胴部から離れるにつれて窄む形状のドーム部とを備え、前記直胴部および前記ドーム部が熱可塑性樹脂製ライナー本体と、前記ライナー本体の外表面を強化繊維複合材の硬化物からなる補強層で覆われた外殻とで形成された圧力容器であって、前記ライナー本体がダイレクトブロー成形で製造され、且つ前記ドーム部に形成されたピンチオフ部の引張強度が100MPa以上、曲げ弾性率6GPa以上、荷重たわみ温度(荷重0.45MPa)200℃以上であることを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記ライナー本体に用いる熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂100重量部に対して、繊維状フィラーを15~200重量部含むポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。
【請求項3】
前記ドーム部に形成されたピンチオフ部の肉厚が、ドーム部肉厚に対して1.15倍以上1.30倍以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の圧力容器。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂組成物に含まれる前記繊維状フィラーが異形比1.3以上10以下の異形断面ガラス繊維であることを特徴とする請求項
2に記載の圧力容器。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂組成物に含まれる前記ポリアミド樹脂がナイロン11またはナイロン12のいずれかであることを特徴とする請求項
2または4に記載の圧力容器。
【請求項6】
ライナー本体の内面を測定波長1700
-1~1750cm
-1範囲でFT-IR測定したピーク強度比(ダイレクトブロー成形品の当該ピーク強度/ダイレクトブロー成形前の樹脂材料のピーク強度)が0.005以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の圧力容器
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイレクトブロー成形加工可能で、強度、剛性および耐熱性に優れた圧力容器用樹脂ライナーおよび樹脂ライナー外表面を強化繊維複合材の硬化物からなる補強層で覆われた外殻とで形成された、耐圧性に優れる圧力容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載される燃料タンクや天然ガス、水素ガスの貯蔵や輸送に利用され
る圧力容器(
図1)として、軽量性および加圧時の耐久性(高靭性)に優れる観点から、熱可塑樹脂製の容器本体(ライナー)が繊維強化樹脂材料からなる外殻で補強された圧力容器が利用されている。外殻に使用される強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維などが主に使用されている。なかでも比強度が高い炭素繊維は、圧力容器を軽量化しつつ強度、剛性向上設計が可能であるために、天然ガスや水素の移動用タンクや蓄圧器として公的に使用されている。
【0003】
圧力容器としては、例えば、円筒状の直胴部、および前記直胴部の両端に設けられた半球状のドーム部とを有する樹脂製ライナー(
図2)と、前記ライナー本体の外側に形成された外殻とを備える圧力容器が一般的に使用されている。また、外殻は、長尺の強化繊維束にマトリックス樹脂が含浸された繊維強化樹脂材料がフィラメントワインディング法(以下、FW法と略すこともある)によりライナー本体の外側に巻き回され、加熱硬化させることで圧力容器がつくられる。特に近年では天然ガス自動車、燃料電池自動車の燃料を充填することを想定した圧力容器に圧力容器用途に注目が集まっており、大規模な市場ニーズが今後出てくる可能性があるため、各メーカーで圧力容器のコストダウン方法を探索している。
【0004】
圧力容器用ライナーは現行、
図3に示しているように射出成形(半分割)+溶着加工(レーザーや熱)が主流であるが、ライナー品質管理項目の増加や低生産性によるコストアップなどの課題があり、後工程が不要なダイレクトブロー成形、回転成形などがコストダウン手法として検討されてきた。
【0005】
最近ではダイレクトブロー成形法によってライナー試作を検討しているメーカーが多い。ダイレクトブロー成形法は、一般的に熱顔性樹脂で形成された筒状のホットパリソンの一部を一対の金型で挟み込むことで、ライナーの軸方向に延びる筋状のピンチオフ部(
図4)が形成される。ピンチオフ部ではホットパリソンの一部が金型に拘束されるため、他の部分と厚みが異なる部分ができ、軸方向に延びるピンチオフラインの部分が薄くなり、ライナー本体の強度が低下しやすい問題があった。そこで、各メーカーでダイレクトブロー成形時のピンチオフ発生問題に対して、課題解決を図るべく鋭意検討している。
【0006】
例えば、耐圧性向上させたピンチオフ形状を有する樹脂ライナーとして、特許文献1(国際公開WO2018/207771号公報)が知られている。特許文献1には、ダイレクトブロー成形時に発生するピンチオフ部の谷形状を緩やかにした樹脂ライナーを用いた圧力容器が開示されている。
【0007】
また、ピンチオフ密着性に優れる樹脂材料を用いたブロー成形品として、特許文献2(国際公開WO2013/172226号公報)が知られている。特許文献2には、ブロー成形性に優れるEVOH樹脂にオレフィン系樹脂を配合した樹脂組成物を用いた
ブロー成形品が開示されている。
【0008】
ピンチオフ密着性に優れた液晶ポリアミド樹脂を用いた耐圧容器用ライナーの製造方法として、特許文献3(国際公開WO2006/112252号公報)が知られている。特許文献3には、液晶ポリアミド樹脂を用い、ダイレクトブロー成形加工した耐圧容器用ライナーで、パリソン押出速度は0.3kg/分~5kg/分、パリソン温度は融点+40℃の温度範囲に設定し、ピンチオフ部の引張伸びが1%以上の耐圧容器用ライナーが開示されている。
【0009】
樹脂材料の酸化劣化を抑制したブロー成形品として、特許文献4(特開平7-32460号公報)が知られている。特許文献4には、パリソンを金型で挟み込んでピンチオフした後、不活性ガスによりパリソンを吹き込んで得られたブロー成形品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開WO2018/207771号公報
【文献】国際公開WO2013/172226号公報
【文献】国際公開WO2006/112252号公報
【文献】特開平7-32460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の特許文献1~4に記載された発明は、ダイレクトブロー成形時のピンチオフ密着性は改善されるものの、ピンチオフ部の強度、剛性、耐熱性は実使用上満足できるレベルでなく、本発明の成形品のピンチオフ部の引張強度が100MPa以上、曲げ弾性率6GPa以上、荷重たわみ温度200℃(荷重0.45MPa)以上である熱可塑樹脂製ライナーについては何ら触れられていない。
【0012】
したがって、本発明はダイレクトブロー成形加工が可能で、強度、剛性および耐熱性に優れた熱可塑樹脂製ライナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る圧力容器および圧力容器の製造方法は次のいずれかの構成を有する。すなわち、
筒状の直胴部と、前記直胴部の両端に設けられ、前記直胴部から離れるにつれて窄む形状のドーム部とを備え、前記直胴部および前記ドーム部が熱可塑性樹脂製ライナー本体と、前記ライナー本体の外表面を強化繊維複合材の硬化物からなる補強層で覆われた外殻とで形成された圧力容器であって、前記ライナー本体がダイレクトブロー成形で製造され、且つ前記ドーム部に形成されたピンチオフ部の引張強度が100MPa以上、曲げ弾性率6GPa以上、荷重たわみ温度(荷重0.45MPa)200℃以上であることを特徴とする圧力容器である。
【0014】
本発明のライナー本体に用いる熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂100重量部に対して、繊維状フィラーを15~200重量部含むポリアミド樹脂組成物であることが好ましい。
【0015】
本発明のドーム部に形成されたピンチオフ部の肉厚が、ドーム部肉厚に対して1.15倍以上1.30倍以下であることが好ましい。
【0016】
本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる繊維状フィラーが異形比1.3以上10以下の異形断面ガラス繊維であることが好ましい。
【0017】
本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂がナイロン11またはナイロン12のいずれかであることが好ましい。
【0018】
本発明のライナー本体の内面を測定波長1700-1~1750cm-1範囲でFT-IR測定したピーク強度比(ダイレクトブロー成形品の当該ピーク強度/ダイレクトブロー成形前の樹脂材料のピーク強度)が0.005以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ピンチオフ部の強度、剛性および耐熱性を改善したダイレクトブロー成形加工した熱可塑性樹脂製ライナーを用いることで、耐圧性能、コスト競争力が大幅にアップした圧力容器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】射出成形および溶着加工した樹脂ライナーの概略図である。
【
図4】ダイレクトブロー成形加工した樹脂ライナーのピンチオフ形状を示した成形品である。
【
図5】ダイレクトブロー成形装置を示した概略図である。
【
図6】樹脂ライナー内面のFT-IR分析結果を示したグラフである。
【
図8】実施例でダイレクトブロー成形した樹脂ライナー形状に関する概略図である。
【
図9】圧力容器の耐圧試験を実施する装置に関する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
本発明に係る圧力容器は、筒状の直胴部と、前記直胴部の両端に設けられ、前記直胴部から離れるにつれて窄む形状のドーム部とを備え、前記直胴部および前記鏡部が熱可塑性樹脂製ライナー本体と、前記ライナー本体の外表面を強化繊維複合材の硬化物からなる補強層で覆われた外殻とで形成された圧力容器である。
【0026】
<熱可塑性樹脂>
本発明のライナー本体に用いる熱可塑性樹脂は繊維状フィラーを含有してなるポリアミド樹脂組成物である。
【0027】
ポリアミド樹脂組成物に用いるポリアミド樹脂としては、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主原料として合成されるナイロンなどが挙げられる。
【0028】
その原料の代表例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチルー3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸などが挙げられる。
【0029】
ポリアミド樹脂としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)およびこれらの混合物ないし共重合体などが好ましく用いられる。とりわけ好ましいものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6/66コポリマー、ナイロン6/12コポリマーなどを挙げることができる。
【0030】
さらに本発明に用いるポリアミド樹脂として、植物性油であるヒマシ油から得られる11-アミノウンデカン酸の縮重合によって得られる脂肪族ポリアミド(ナイロン11、融点185℃)、あるいは合成化学ブタジエンから出発して合成されるモノマーであるラウリルラクタムの縮重合によって得られる脂肪族ポリアミド(ナイロン12、融点175℃)が融点および吸水率が最も低いため、ブロー成形加工性および寸法精度に優れる点でより好ましく用いることができる。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる繊維状フィラーとして、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、セラミック繊維、および鉱物繊維などが挙げられる。この中で、鉱物繊維としては、例えば、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、ワラストナイトウィスカ、アスベスト繊維、及び石こう繊維などが挙げられる。セラミック繊維としては、例えばアルミナ繊維および炭化珪素繊維などが挙げられる。本発明の実施形態において好ましい繊維状フィラーは、一般に短繊維と称される、配合前の繊維長1~150μm、繊維直径1~25μmのものである。このような短繊維フィラーを用いることで、フィラー異方性が緩和され、等方的な反り低減効果を付与できる。繊維状フィラーの含有量はポリアミド樹脂100重量部に対して15~200重量部であり、より好ましくは25~200重量部である。繊維状フィラー含有量が15重量部未満であるとフィラーによる補強効果が得られにくいため好ましくなく、200重量部を超えると溶融粘度が顕著に増加し、ダイレクトブロー成形加工性が損なわれるため好ましくない。
【0032】
さらに本発明に用いる繊維状フィラーとして、異形断面ガラス繊維を用いることで、成形品流れ方向と直角方向の反り低減と高強度を両立させることができるので好ましい。ここで、異形断面ガラス繊維の断面形状は、扁平形、まゆ形、長円形、楕円形、半円若しくは円弧形、矩形又はこれらの類似形状の断面形状が好ましく、特に扁平形の断面形状であることがより好ましい。断面形状が扁平形状を有するガラス繊維の、長さ方向に直角の断面に於いて、長径(断面の最長の直線距離)と短径(長径と直角方向の最長の直線距離)の比(異形比)は、1.3~10が好ましく、さらに好ましくは1.5~5である。繊維状フィラーの異形比が1.3未満では強度向上効果に乏しく、生産性の点より異形比の上限値は10である。
【0033】
本発明に用いるポリアミド樹脂組成物は改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、(3,9-ビス[2-(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)などのようなフェノール系酸化防止剤、(ビス(2,4-ジ-クミルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト)などのようなリン系酸化防止剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤をPPS樹脂組成物に配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の20重量%を越えると(A)PPS樹脂本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、更に好ましくは1重量%以下の添加がよい。
【0034】
さらに繊維状フィラーとポリアミド樹脂との密着性を向上させ、樹脂ライナーの吸水時の反り変形を抑える目的で、繊維状フィラーをエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、およびメルカプト基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシラン化合物で表面処理することが可能である。かかる化合物の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物;γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ-(2-ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物;γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物;γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物;およびγ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0035】
<ポリアミド樹脂組成物の製造方法>
本発明に用いるポリアミド樹脂組成物は通常溶融混練によって得られる。溶融混練機は、単軸、2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に供給してポリアミド樹脂の融解ピーク温度+5~100℃の加工温度の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。この際、原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
【0036】
<強化繊維複合材>
本発明のライナー本体の外表面を覆う補強層の強化繊維複合材は、強化繊維束に熱硬化性樹脂を含浸させ加熱硬化した硬化物である。
【0037】
本発明で用いられる熱硬化性樹脂として、液状であれば特に使用制限はないが、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、およびメラミン樹脂などが挙げられる。特に、接着強度が高い点より、フェノール類、アミン類、カルボン酸類、分子内不飽和炭素などの化合物を前駆体とするエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0038】
フェノール類を前駆体とするグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジフェニルフルオレン型エポキシ樹脂やそれぞれの各種異性体やアルキル、ハロゲン置換体などが挙げられる。また、フェノール類からなるエポキシ樹脂をウレタンやイソシアネートで変性した化合物なども、このタイプに含まれる。
【0039】
アミン類を前駆体とするグリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、キシレンジアミンのグリシジル化合物、トリグリシジルアミノフェノールや、グリシジルアニリンのそれぞれの位置異性体やアルキル基やハロゲンでの置換体が挙げられる。
【0040】
カルボン酸を前駆体とするエポキシ樹脂としては、フタル酸のグリシジル化合物や、ヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸のグリシジル化合物の各種異性体が挙げられる。
【0041】
分子内不飽和炭素を前駆体とするエポキシ樹脂としては、例えば脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。
【0042】
本発明の熱硬化性樹脂を加熱硬化させるために用いる硬化剤としては、熱硬化性樹脂を硬化させるものであれば特に限定はない。アミン、無水酸等の付加反応する硬化剤であってもよいし、カチオン重合、アニオン重合等の付加重合を引き起こす硬化触媒であってもよく、2種類以上の硬化剤を併用してもよい。硬化剤としては、好ましくは、アミノ基、酸無水物基、アジド基を有する化合物が適している。例えば、ジシアンジアミド、脂環式アミン、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミノ安息香酸エステル類、各種酸無水物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、イミダゾール誘導体、t-ブチルカテコールなどのフェノール系化合物をはじめ、三フッ化ホウ素錯体や三塩化ホウ素錯体のようなルイス酸錯体などが挙げられる。
【0043】
本発明の強化繊維複合材に用いる強化繊維束を構成する繊維としては、強化繊維の種類としては特に限定されず、炭素繊維、金属繊維、有機繊維、無機繊維が例示される。これらを2種以上用いてもよい。
【0044】
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、ビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とするセルロース系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが挙げられる。これら炭素繊維のうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0045】
金属繊維としては、例えば、鉄、金、銀、銅、アルミニウム、黄銅、ステンレスなどの金属からなる繊維が挙げられる。
【0046】
有機繊維としては、例えば、アラミド、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンなどの有機材料からなる繊維が挙げられる。アラミド繊維としては、例えば、強度や弾性率に優れるパラ系アラミド繊維と、難燃性、長期耐熱性に優れるメタ系アラミド繊維が挙げられる。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維などが挙げられ、メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維などが挙げられる。アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維に比べて弾性率の高いパラ系アラミド繊維が好ましく用いられる。
【0047】
無機繊維としては、例えば、ガラス、バサルト、シリコンカーバイト、シリコンナイトライドなどの無機材料からなる繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、Eガラス繊維(電気用)、Cガラス繊維(耐食用)、Sガラス繊維、Tガラス繊維(高強度、高弾性率)などが挙げられる。バサルト繊維は、鉱物である玄武岩を繊維化した物で、耐熱性の非常に高い繊維である。玄武岩は、一般的に、鉄の化合物であるFeOまたはFeO2を9~25重量%、チタンの化合物であるTiOまたはTiO2を1~6重量%含有するが、溶融状態でこれらの成分を増量して繊維化することも可能である。
【0048】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化樹脂基材は、補強材としての役目を期待されることが多いため、高い機械特性を発現することが望ましく、高い機械特性を発現するためには、強化繊維が炭素繊維を含むことが好ましい。
【0049】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化樹脂基材において、強化繊維は、通常、多数本の単繊維を束ねた強化繊維束を1本または複数本並べて構成される。1本または複数本の強化繊維束を並べたときの強化繊維の総フィラメント数(単繊維の本数)は、1,000~2,000,000本が好ましい。
【0050】
生産性の観点からは、強化繊維の総フィラメント数は、1,000~1,000,000本がより好ましく、1,000~600,000本がさらに好ましく、1,000~300,000本が特に好ましい。強化繊維の総フィラメント数の上限は、分散性や取り扱い性とのバランスも考慮して、生産性と分散性、取り扱い性を良好に保てるようであれば良い。
【0051】
本発明のライナー本体の前記ドーム部に形成されたピンチオフ部について以下に説明する。
【0052】
ダイレクトブロー成形時に、熱可塑性樹脂で形成された筒状のホットパリソンの一部が一対の金型で挟み込まれることで、ライナーの軸方向に延びる筋状のピンチオフ部(
図4)がドーム部に形成される。ピンチオフ部ではパリソン樹脂の一部が金型に拘束されるため、他の部分と厚みが異なる部分ができ、軸方向に延びるピンチオフラインの部分が薄くなりピンチオフ部の強度低下が発生しやすいため、ピンチオフ部の厚みをドーム部厚みに対して1.15倍上にする必要があり、金型で挟みこめるホットパリソン厚みに限界があり上限値として1.30倍である。
【0053】
本発明の前記ドーム部に形成されたピンチオフ部は強固に接着していないと圧力容器の耐圧性能が著しく低下するため、ピンチオフ部における引張強度は100MPa、曲げ弾性率は6GPa、荷重たわみ温度(荷重0.45MPa)は200℃である必要がある。ポリアミド樹脂100重量部に対して繊維状フィラーが200重量部含有した時のピンチオフ部における引張強度300MPa、曲げ弾性率25GPa、荷重たわみ温度260℃が上限である。
【0054】
<圧力容器の製造方法>
本発明の圧力容器の製造方法は、筒状の直胴部と、前記直胴部の両端に設けられ、前記直胴部から離れるにつれて窄む形状のドーム部とを備え、前記直胴部および前記ドーム部が、熱可塑性樹脂製ライナー本体と、前記ライナー本体の外表面を強化繊維複合材の硬化物からなる補強層で覆われた外殻とで形成された圧力容器の製造方法であって、 前記ライナー本体は、熱可塑性樹脂を押出速度0.10kg/秒~0.50kg/秒で押し出してホットパリソンとし、前記ホットパリソンの上下端を金型で固定し、前記熱可塑性樹脂の融点+10℃以上の成形条件にてダイレクトブロー成形により成形し、前記ライナー本体に強化繊維複合材を巻き付け、硬化させて外殻を形成することを特徴とする圧力容器の製造方法である。
【0055】
<圧力容器用樹脂ライナーの製造方法>
このうち、本発明の圧力容器を構成するライナー本体の製造方法としては、ダイレクトブロー成形法(
図5)で行うことが重要である。ダイレクトブロー成形とは、溶融押出したホットパリソンが冷却しないうちに直接空気を吹き込むホットパリソン式であり、押出ブロー成形ともいう。押出機で加熱溶融された樹脂をダイヘッドからチューブ形状(ホットパリソン)に押し出し、溶融状態のパリソンを金型で挟んで、内部に空気を吹き込み冷却後、金型を開いて成形品を取り出す。本発明は通常、金型上側方向から空気を吹き込むが、金型下側方向および横方向から吹き込む方法でも構わない。ダイレクトブロー成形法はホットパリソンを金型で挟みこむ過程で、ピンチオフ(
図4)と呼ばれる凹みが発生するため、成形品内部から圧力をかけると、ピンチオフを起点に亀裂進展し破壊しやすい。そこで、本発明ではピンチオフ部の凹み改善をするために、ホットパリソン押出速度を0.10kg/秒~0.5kg/秒の範囲にコントロールする必要がある。ホットパリソン押出速度が下限値0.10kg/秒を下回ると押出機内の溶融滞留時間が長くなり、樹脂の熱劣化がし強度低下するために好ましくない。ホットパリソン押出速度が上限値0.50kg/秒を上回ると、ホットパリソン吐出速度が速すぎてせん断力により樹脂焼けが発生する可能性あるために好ましくない。また、本発明ではピンチオフ部の密着性を強固にするために、ホットパリソン形成温度を熱可塑性樹脂の融点+10℃以上にする必要がある。但し、ホットパリソン形成温度を融点+100℃より大きくすると、樹脂の熱分解進行により樹脂粘度が低下し、ホットパリソンがドローダウンし成形不可になるため好ましくない。また、本発明では樹脂ライナーの酸化劣化改善による強度向上のために、ダイレクトブロー成形時のホットパリソン吹き込み工程で酸素濃度10%以下の不活性ガス(窒素、ヘリウム、アルゴンなど)を用いることが好ましい。ホットパリソン吹き込み工程で空気を用いると、樹脂ライナーが酸化劣化し脆くなる場合があるため好ましくない。
【0056】
<外殻の製造方法>
本発明の筒状の直胴部と、前記直胴部の両端に設けられ、前記直胴部から離れるにつれて窄む形状のドーム部とを備え、前記直胴部および前記ドーム部が、熱可塑性樹脂製ライナー本体と、前記ライナー本体の外表面を強化繊維複合材の硬化物からなる補強層で覆われた外殻とで形成された圧力容器の製造方法であって、ライナー本体の外表面を強化繊維複合材の硬化物からなる補強層で覆われた外殻を形成する方法(フィラメントワインディン法と呼ぶ)を以下に説明する。
【0057】
この製造方法は、液状の熱硬化性樹脂組成物を含浸させた強化繊維複合材をライナーに巻き付けることにより、複数の強化繊維複合材からなる補強層で形成された成形品中間体を準備する工程(a)と、成形品中間体を常温で保持し、強化繊維複合材に含浸させた熱硬化性樹脂組成物を流動させる工程(b)と、工程(b)の後、成形品中間体を加熱して、熱硬化樹脂を含浸させた強化繊維複合材の硬化物を得る工程(c)によって構成される。本発明において、常温とは、5℃~35℃の範囲の温度のことをいうものとする。
【0058】
成形品中間体を準備する工程(a)では、強化繊維複合材を引き出し、熱硬化性樹脂組成物に浸含させ、その後ライナーに巻き取る。ライナーは、フィラメントワインディング成形品の用途に応じて自由に選択することができる。例えば、中空パイプ部材の製造においては、成形品を硬化させた後に脱芯が可能な円筒状のライナーや、加熱等によって溶融させることにより、脱芯が可能な各種形状のライナー等が使用可能である。圧力容器の製造においては、所定の収容物に対するシール性が確保された金属製あるいは樹脂製のライナー等が使用可能である。熱硬化性樹脂組成物を含浸させた強化繊維複合材をライナーに巻き取る方法としては、成形性や成形品の機械特性等の観点から、ライナーに対して相対的に自由に動かすことが可能なヘッド部より前記強化繊維複合材を供給し、フィラメントワインディング成形品の要求性能を満たすように強化繊維複合材を配置することが好ましい。
【0059】
成形品中間体を常温で保持する工程(b)では、成形品中間体が常温で保持されることによって、少なくとも工程の一部において、強化繊維複合材に含浸させた熱硬化性樹脂組成物が流動性を有した状態が保たれる。熱硬化性樹脂組成物の流動が可能な状態において、工程(a)で得られる強化繊維複合材の補強層に入り込んだ気泡は、気泡に働く浮力や、繊維を巻芯に巻きまわした際に繊維に残留した張力に起因する巻き締まり等によって、強化繊維複合材の補強層の表層に表出する。したがって、成形品中間体を常温で保持することにより、強化繊維複合材の補強層の気泡の少なくとも一部を除去し、フィラメントワインディング成形品に残留する空隙を低減することができる。成形品中間体の保持は、成形品中間体のライナーを回転中心として、回転させながら行うことができる。これにより、流動性を有する熱硬化性樹脂組成物が重力によって滴り、脱落することを防止できる。熱硬化性樹脂組成物の脱落は、フィラメントワインディング成形品の繊維体積含有率(Vf:%)を上昇させ、製品性能を悪化させるおそれがある。また、脱落した熱硬化性樹脂組成物は多くの場合廃棄され、製品歩留まりが悪化する。保持中に成形品中間体を回転させることによって、熱硬化性樹脂組成物の脱落による影響を排除することができる。
【0060】
成形品中間体の保持において、保持温度は常温であるが、好ましくは常温の範囲内であって、熱硬化性樹脂組成物の種類および使用条件に応じて定まる任意の温度±5℃とすることができる。この任意の温度±5℃の範囲が常温の範囲を超過するとき、超過分は切り捨てるものとする。熱硬化性樹脂組成物は、種類および使用条件によっては、温度が高い場合、熱硬化性樹脂組成物のゲル化が速やかに進行し、十分な樹脂流動時間を確保できない恐れがある。また、温度が低い場合、熱硬化性樹脂組成物の粘度が低下し、温度が高い場合に比べて、同程度の空隙低減効果を得るために、多くの時間を要する恐れがある。したがって、保持温度は常温であれば特に制限されるものではないが、使用する熱硬化性樹脂組成物の種類や使用条件に応じて決定される範囲であることが好ましい。
【0061】
熱硬化性樹脂を含浸させた強化繊維複合材の硬化物を得る工程(c)では、常温保持後の成形品中間体を加熱し熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させるが、その方法は限定されず、ヒーターや誘導加熱コイル等任意の方法を用いて加熱することができる。加熱中は、成形品中間体を回転させつつ保持することができる。成形品中間体を回転保持することにより、熱硬化性樹脂組成物の脱落を防止することができる。
【0062】
成形品中間体を準備する工程(a)、成形品中間体を常温で保持する工程(b)、および熱硬化性樹脂を含浸させた強化繊維複合材の硬化物を得る工程(c)は、実施する場所を限定されない。すなわち、工程(a)と工程(b)の間で成形品中間体を移動させてもよく、移動させずに連続して工程を実施することもできる。また、工程(b)と工程(c)の間で成形品中間体を移動させてもよく、移動させず連続して工程を実施することができる。さらに、工程(b)と工程(c)の間で成形品中間体を移動させる場合、移動させる場所は、工程(a)が行われた場所で行うこともできる。
【0063】
本発明で得られるフィラメントワインディング成形品は、圧力容器、ロール、プロペラシャフト、フライホイール、釣竿およびゴルフクラブシャフトをはじめ、航空宇宙用途、レジャー用途および一般産業用途に広く用いることができる。特に、強度が求められる圧力容器等の用途に好適に用いることができる。本発明で製造される圧力容器は、水素ガス自動車や天然ガス自動車に限らず、船舶と航空機等、および、地上に固定されて使用される据え置き型や病院や消防士が使用する空気呼吸器等に好適に用いられる。また、この圧力容器で保管される物質としては、窒素、酸素、アルゴン、液化石油ガスおよび水素等の気体であってもよいし、前記物質を液化したもの等が挙げられる。
【0064】
<樹脂ライナーの酸化劣化分析方法>
本発明の樹脂ライナーは、ピンチオフ密着時の強度、靭性を改善するために、FT-IR測定時の1700cm
-1~1750cm
-1範囲の材料酸化劣化起因のピーク強度比(ダイレクトブロー成形品の当該ピーク強度/ダイレクトブロー成形前の樹脂材料のピーク強度)が0.005以下にする必要があり、より好ましくは0.002以下である。尚、本発明のFT-IR測定方法として、具体的には成形品表面を約1g程度、3箇所削り出しを行い、FT-IR装置(Bruker社製:TENSOR II)を使用しATR法(減衰全反射法:検出器DLaTGS、入射角45°、Geプリズム、分解能4cm
-1)にて測定した。そして、酸化劣化によって樹脂が熱分解することで観測されやすい1700cm
-1~1750cm
-1の波長範囲の吸収ピーク強度の大小で酸化劣化の度合いを定量評価した。尚、
図6に酸化劣化したブロー成形条件および酸化劣化抑制したブロー成形条件の樹脂ライナーのFT-IR分析結果を示すが、このグラフからみてわかるように1700cm
-1~1750cm
-1範囲の波長の吸収ピーク強度に差異があり、酸化劣化抑制したブロー成形条件では当該吸収ピークが殆ど観測されないことがわかる。
【0065】
<樹脂ライナーのピンチオフ部における引張試験>
ダイレクトブロー成形加工した樹脂ライナー(肉厚3mmの場合)のドーム部におけるピンチオフ部分を、幅15mm×長さ125mmの短冊状に切削加工して、ASTM D3039に準拠して引張試験(各n=5)を実施し、引張強度を測定した。
【0066】
<樹脂ライナーのピンチオフ部における曲げ試験>
ダイレクトブロー成形加工した樹脂ライナー(肉厚3mmの場合)のドーム部におけるピンチオフ部分を、幅15mm×長さ125mmの短冊状に切削加工して、ASTM D790に準拠して曲げ試験(各n=3)を実施し、曲げ弾性率を測定した。
<樹脂ライナーのピンチオフ部における荷重たわみ温度測定>
ダイレクトブロー成形加工した樹脂ライナー(肉厚3mmの場合)のドーム部におけるピンチオフ部分を、幅15mm×長さ125mmの短冊状に切削加工して、ASTM D648に準拠して荷重たわみ温度(荷重0.45MPa、各n=3)を実施し、荷重たわみ温度を測定した。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。各実施例および比較例における物性評価は下記の方法に従って実施した。
【0068】
[樹脂ライナーの製造方法]
タハラ製アキュームレーター式押出ブロー成形装置を用いて、各実施例および比較例のブロー成形条件にて、
図8に示した樹脂ライナー形状(肉厚:3mm±0.5mm、ネジ部分:内径φ13mm、外径φ24mm)を得た。
<押出ブロー成形装置/機器仕様>
・押出機スクリュー径 :φ80mm
・押出機スクリューアレンジ :深溝フルフライト仕様
・アキュームポンプ容量 :4000cc
・押出機スクリュー回転数 :35rpm
・ダイス形状 :ダイパージ
<成形条件>
・ホットパリソン長さ :70mm
・ホットパリソン重さ :2000g
・ホットパリソン吹き込みガス :エアー又は不活性ガス(窒素ガス使用)
【0069】
[ホットパリソン押出速度測定方法]
各実施例および比較例のブロー成形条件にてホットパリソンを長さ70mm(パリソン重さ2000g)まで押出完了時の時間をストップウォッチで計測(N=3)し、押出速度(kg/秒)を算出した。
【0070】
[ホットパリソン形成温度測定方法]
各実施例および比較例のブロー成形条件にて押出したパリソン形成時(長さ70mm)のパリソン表面温度を赤外線サーモグラフィー(非接触式)で測定した。尚、測定箇所はパリソン押出側とパリソン押出方向と反対側(以下、反押出側とする)の2箇所とした。
【0071】
[樹脂ライナーのFT-IR測定(樹脂材料の酸化劣化度合)]
前記で得られた樹脂ライナーの内面を約1g程度、3箇所削り出しを行い、FT-IR装置(Bruker社製:TENSOR II)を使用しATR法にて測定した。そして、酸化劣化によって樹脂が熱分解することで観測されやすい1700cm-1~1750cm-1の波長範囲の吸収ピーク強度比(樹脂ライナー成形品の当該ピーク強度/ブロー成形前の樹脂原料のピーク強度)の大小で酸化劣化の度合いを定量評価した。尚、この数値が小さいほど酸化劣化していない樹脂ライナーといえる。
<測定条件>
・光源:グローバー(SiC)
・検出器:DLaTGS
・分解能:4cm-1
・積算回数:128回
・付属装置:サンダードーム、1回反射ATR、入射角45°、Geプリズム使用
【0072】
[樹脂ライナー/ピンチオフ部の引張試験(ピンチオフ密着性)]
前記で得られた樹脂ライナーのドーム部におけるピンチオフ部分を、パリソン押出方向側およびパリソン反押出方向側の2箇所から幅15mm×長さ125mmの短冊状に切削加工して、ASTM D3039に準拠して引張試験(各n=5)を実施し、引張強度を測定した。尚、この数値が大きいほどピンチオフ密着性に優れた樹脂ライナーといえる。
【0073】
[樹脂ライナー/ピンチオフ部の曲げ試験(ピンチオフ部の剛性)]
ダイレクトブロー成形加工した樹脂ライナー(肉厚3mmの場合)のドーム部におけるピンチオフ部分を、幅15mm×長さ125mmの短冊状に切削加工して、ASTM D790に準拠して曲げ試験(各n=3)を実施し、曲げ弾性率を測定した。なお、この数値が大きいほどピンチオフ部の剛性に優れた樹脂ライナーといえる。
【0074】
[樹脂ライナー/ピンチオフ部の荷重たわみ温度測定(ピンチオフ部の耐熱性)]
ダイレクトブロー成形加工した樹脂ライナー(肉厚3mmの場合)のドーム部におけるピンチオフ部分を、幅15mm×長さ125mmの短冊状に切削加工して、ASTM D648に準拠して荷重たわみ温度(荷重0.45MPa、各n=3)を実施し、荷重たわみ温度を測定した。なお、この数値が大きいほどピンチオフ部が熱変形しにくい樹脂ライナーといえる。
【0075】
[フィラメントワインディング法による圧力容器製造方法および耐圧試験(耐圧性)]
フィラメントワインディング成形装置に、前記で得られたライナーを設置し当該巻芯に対し、液状の熱硬化性樹脂組成物(エポキシ主剤:硬化剤=100:32質量比で25℃常温で均一混合したもの)の入った樹脂を東レ(株)製炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700SC-24Kの糸束1本に含浸させながら給糸した。巻芯の軸方向に対して、±83°の巻き角度で幅60mmの範囲に巻きつけ、厚さ1mm積層し、成形品中間体を用意した。繊維巻き付け後、前記中間体を速度7rpmで回転させつつ20℃環境下で15分間保持した。保持開始時、樹脂の粘度は、1100mPa・sであった。
【0076】
前記保持後、前記の成形品中間体を80℃の温度で2時間、110℃の温度で4時間加熱し、前記の樹脂を硬化させ、耐圧試験用圧力容器を得た。次いで、
図9に示す圧力容器水圧破裂試験装置に、前記で得られた圧力容器を設置して、水圧ポンプにより送水・加圧して、容器破裂した時の破裂圧力を測定(N=3)し、下記の判定基準を設けて耐圧性能を評価した。
<耐圧性能/判定基準>
〇 :破裂圧力100MPa以上
△ :破裂圧力80MPa以下
× :破裂圧力50MPa以下
【0077】
〔原料〕
実施例および比較例において、原料は以下に示すものを用いた。
【0078】
<参考例1>ダイレクトブロー成形に用いる熱可塑性樹脂
ガラス繊維強化ナイロン6樹脂-1:CM1046K4(東レ(株)製、ガラス繊維20%含有ブロー成形用グレード、ガラス繊維の異形比1.0、(登録商標)アミラン)
ガラス繊維強化ナイロン6樹脂-2:CM1046K4含有のガラス繊維のみを異形断面ガラス繊維(日東紡(株)製CSG-3PA-830、異形比4.0)に変更
ナイロン6樹脂 :CM1056(東レ(株)製、高粘度・高衝撃ブロー成形用グレード、繊維状フィラーは未含有、(登録商標)アミラン)
【0079】
<参考例2>液状の熱硬化性樹脂組成物
エポキシ主剤:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)828 (三菱化学(株)製))
硬化剤:ポリ(プロピレングリコール)ジアミン、イソホロンジアミン、シクロヘキシルアミン、ポリプレピレングリコールの混合物(“ARADUR”(登録商標)3486 (ハンツマンジャパン(株)製))
【0080】
【0081】
【0082】
上記のとおり、実施例と比較例の比較により、本発明の樹脂ライナーおよび圧力容器
は、
図7に示すようにピンチオフ凹み改善しピンチオフ部が強固に接着することで、高強度、高剛性且つ高耐熱性を示すピンチオフ部が形成され、耐圧性能の飛躍的な向上を実現していることがわかる。
【符号の説明】
【0083】
101 圧力容器
102 強化繊維複合材
103 ライナー容器
104 口金部分
201 円筒状の直胴部
202 直胴部の両端に設けられた半球状のドーム部
301 射出成形ライナー(半割部品)
302 射出成形ライナー(半割部品を溶着接合したもの)
401 ダイレクトブロー成形ライナー
402 ピンチオフ発生した凹み箇所
501 単軸押出機
502 ダイレクトブロー成形用金型
503 ホットパリソン
701 ピンチオフ凹みが大きいダイレクトブロー成形ライナー
702 ピンチオフ凹みが小さいダイレクトブロー成形ライナー