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特許7581935演算装置、電動機の制御装置、演算方法、制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】演算装置、電動機の制御装置、演算方法、制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/14 20160101AFI20241106BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20241106BHJP
【FI】
H02P21/14
H02P21/22
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021016624
(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公開番号】P2022119473
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 悌
(72)【発明者】
【氏名】田中 政仁
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-521287(JP,A)
【文献】特開2013-13241(JP,A)
【文献】特開2006-14539(JP,A)
【文献】特開2013-81343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/14
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させたときの前記電動機の回転速度と前記電動機が前記回転速度のときの前記電動機の励磁回路におけるq軸電流の値と前記電動機が前記回転速度のときの前記励磁回路におけるd軸電流の値と前記q軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値と前記d軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値とを含む値の組を取得する手段と、
前記q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を前記電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と前記励磁回路の回路パラメータとが充足する理論式に適用することによって、前記励磁回路の回路パラメータを取得する手段と、
前記取得された回路パラメータを基に前記電動機を回転させるときの前記d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定する手段と、を備える演算装置。
【請求項2】
前記理論式は、式Aで与えられる請求項1に記載の演算装置。
(式A)
Vd=RId-ωLqIq;
Vq=RIq+ωLdId+ωKemf;
(ここで、Iqはq軸電流、Idはd軸電流、Vdはd軸電圧、Vqはq軸電圧、Rはモータ相抵
抗、Lqはq軸電流による磁束に対応するモータq軸インダクタンス、Ldはd軸電流による磁束に対応するモータd軸インダクタンス、Kemfは誘起電圧定数、ωは回転速度に対応する電気角速度である。)
【請求項3】
前記モデル式は、さらに、前記d軸電流の値が0となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定され、前記理論式は、式Bで与えられる請求項2に記載の演算装置。
(式B)
Vd=-ωLqIq;
Vq=RIq+ωKemf;
【請求項4】
電動機の励磁回路にq軸電流を供給するためのq軸電圧の指令値を出力する手段と、
前記電動機の励磁回路にd軸電流を供給するためのd軸電圧の指令値を出力する手段と、
前記q軸電圧の指令値および前記d軸電圧の指令値に基づき前記電動機に電力を供給する電力供給手段と、
前記電動機の励磁回路を流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記電動機の回転速度を検出する速度検出手段と、
演算装置と、を備え、前記演算装置は、
前記電動機のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させるときの前記電動機の回転速度と前記電動機が前記回転速度のときの前記電動機の励磁回路におけるq軸電流の値と前記電動機が前記回転速度のときの前記励磁回路におけるd軸電流の値と前記q軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値と前記d軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値とを含む値の組を取得する手段と、
前記q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を前記電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と前記励磁回路の回路パラメータとが充足する理論式に適用することによって、前記励磁回路の回路パラメータを取得する手段と、
前記取得された回路パラメータを基に前記電動機を回転させるときの前記d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定する手段と、を有する電動機の制御装置。
【請求項5】
前記q軸電圧の指令値と前記d軸電圧の指令値とを前記q軸電圧と前記d軸電圧の位相
差に応じて合成した合成値が前記電力供給手段の供給可能電圧に対して所定の条件を充足したときに、前記d軸電流を流すように制御する手段をさらに備える請求項4に記載の電動機の制御装置。
【請求項6】
前記d軸電流を流す場合に、前記取得された回路パラメータの値および前記電力供給手段の供給可能電圧の値の少なくとも1つを補償係数によって変化させることにより、前記d軸電流の電流値を所定の限度で低減する手段をさらに備える請求項5に記載の電動機の制御装置。
【請求項7】
前記q軸電圧の指令値と前記d軸電圧の指令値とを前記q軸電圧と前記d軸電圧の位相差に応じて合成した合成値が前記電力供給手段の供給可能電圧に対して所定の条件を充足する程度に応じて前記d軸電流の電流値を調整する手段をさらに備える請求項4から6のいずれか1項に記載の電動機の制御装置。
【請求項8】
電動機のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させたときの前記電動機の回転速度と前記電動機が前記回転速度のときの前記電動機の励磁回路におけるq軸電流の値と前記電動機が前記回転速度のときの前記励磁回路におけるd軸電流の値と前記q軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値と前記d軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値とを含む値の組を取得することと、
前記q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を前記電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と前記励磁回路の回路パラメータとが充足する理論式に適用することによって、前記励磁回路の回路パラメータを取得することと、
前記取得された回路パラメータを基に前記電動機を回転させるときの前記d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定することと、をコンピュータが実行する演算方法。
【請求項9】
制御装置が
電動機の励磁回路にq軸電流を供給するためのq軸電圧の指令値を出力することと、
前記電動機の励磁回路にd軸電流を供給するためのd軸電圧の指令値を出力することと、
前記q軸電圧の指令値および前記d軸電圧の指令値に基づき前記電動機に電力を供給することと、
前記電動機の励磁回路を流れる電流を検出することと、
前記電動機の回転速度を検出することと、
前記電動機のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させたときの前記電動機の回転速度と前記電動機が前記回転速度のときの前記電動機の励磁回路におけるq軸電流の値と前記電動機が前記回転速度のときの前記励磁回路におけるd軸電流の値と前記q軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値と前記d軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値とを含む値の組を取得することと、
前記q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を前記電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と前記励磁回路の回路パラメータとが充足する理論式に適用することによって、前記励磁回路の回路パラメータを取得することと、
前記取得された回路パラメータを基に前記電動機を回転させるときの前記d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定することと、を実行する電動機の制御方法。
【請求項10】
電動機のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させたときの前記電動機の回転速度と前記電動機が前記回転速度のときの前記電動機の励磁回路におけるq軸電流の値と前記電動機が前記回転速度のときの前記励磁回路におけるd軸電流の値と前記q軸電流を前記
励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値と前記d軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値とを含む値の組を取得することと、
前記q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を前記電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と前記励磁回路の回路パラメータとが充足する理論式に適用することによって、前記励磁回路の回路パラメータを取得することと、
前記取得された回路パラメータを基に前記電動機を回転させるときの前記d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定することと、をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機の制御では、高速領域でのトルク特性改善のため、弱め界磁制御が行なわれる。従来、弱め界磁制御のためのパラメータの調整は、オフラインでモータの特性を測定して実施されていた。しかし、実際の電動機の定数、例えば、相抵抗、相インダクタンス、誘起電圧定数等を基に弱め界磁制御パラメータを設定するだけでは、適切な弱め界磁調整を行うことができない場合があった。そのため、試行錯誤でパラメータ調整を行うような場合もあり得た。したがって、例えば、事前に評価がなされていない電動機が制御装置に新たに接続された場合に、弱め界磁制御を適切に実行することが難しいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-10433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、複雑な手間を軽減し、電動機における弱め界磁制御に用いるパラメータ調整を簡易に精度よく行える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による実施形態は以下の演算装置によって例示される。第1の側面では、この演算装置は、
電動機のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させたときの前記電動機の回転速度と前記電動機が前記回転速度のときの前記電動機の励磁回路におけるq軸電流の値と前記電動機が前記回転速度のときの前記励磁回路におけるd軸電流の値と前記q軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値と前記d軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値とを含む値の組を取得する手段と、
前記q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を前記電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と前記励磁回路の回路パラメータとが充足する理論式に適用することによって、前記励磁回路の回路パラメータを取得する手段と、
前記取得された回路パラメータを基に前記電動機を回転させるときの前記d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定する手段と、を備える。
【0006】
この演算装置は、q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を用いるので、取得される回路パラメータの精度を高めることができる。また、この演算装置は、電動機から取得される上記値の組を基に回路パラメータを取得するので、電動機の動作状態または電動機が置かれる環境等、実際の状況に即して回路パラメータを取得できる。そして、この演算装置は、取得された回路パラメータにより、適切なd軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定できる。
【0007】
第2の側面では、上記の理論式は、式Aで与えてもよい。
【0008】
(式A)
Vd=RId-ωLqIq;
Vq=RIq+ωLdId+ωKemf;
ここで、Iqはq軸電流、Idはd軸電流、Vdはd軸電圧、Vqはq軸電圧、Rはモータ相抵抗
、Lqはq軸電流による磁束に対応するモータq軸インダクタンス、Ldはd軸電流による磁束に対応するモータd軸インダクタンス、Kemfは誘起電圧定数、ωは回転速度に対応する電気角速度である。
【0009】
この場合に、電動機の制御装置が電動機のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させたときの複数のd軸電流の値を取得するため、この制御装置は異なる一定のトルクで電動機の回転数を増加させることを複数回繰り返せばよい。演算装置は、このように異なる一定のトルクで電動機の回転数を増加させたときの値の組を電動機の制御装置等から取得すればよい。
【0010】
式Aのように、理論式はq軸電流およびd軸電流により、d軸電圧およびq軸電圧と線形な関係を充足するので、演算装置は、簡易かつ精度よく回路パラメータを取得できる。
【0011】
第3の側面では、上記モデル式は、さらに、前記d軸電流の値が0となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定され、前記理論式は、式Bで与えられてもよい。
【0012】
(式B)
Vd=-ωLqIq;
Vq=RIq+ωKemf;
式Bは、d軸電流に依存しないので、演算装置は、さらに簡易かつ精度よく回路パラメータを取得できる。
【0013】
第4の側面では、本発明の他の実施の形態は、次のような電動機の制御装置によって例示されてもよい。この電動機の制御装置は、
電動機の励磁回路にq軸電流を供給するためのq軸電圧の指令値を出力する手段と、
前記電動機の励磁回路にd軸電流を供給するためのd軸電圧の指令値を出力する手段と、
前記q軸電圧の指令値および前記d軸電圧の指令値に基づき前記電動機に電力を供給する電力供給手段と、
前記電動機の励磁回路を流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記電動機の回転速度を検出する速度検出手段と、
演算装置と、を備え、前記演算装置は、
前記電動機のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させるときの前記電動機の回転速度と前記電動機が前記回転速度のときの前記電動機の励磁回路におけるq軸電流の値と前記電動機が前記回転速度のときの前記励磁回路におけるd軸電流の値と前記q軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値と前記d軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値とを含む値の組を取得する手段と、
前記q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を前記電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と前記励磁回路の回路パラメータとが充足する理論式に適用することによって、前記励磁回路の回路パラメータを取得する手段と、
前記取得された回路パラメータを基に前記電動機を回転させるときの前記d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定する手段と、を有する。
【0014】
この制御装置は、上記演算装置と同様に、簡易かつ精度よく電動機の励磁回路の回路パラメータを取得することができる。また、この制御装置は、電動機から取得される上記値の組を基に回路パラメータを取得するので、電動機の動作状態または電動機が置かれる環
境等、実際の状況に即して回路パラメータを取得できる。そして、この制御装置は、取得された回路パラメータにより、適切なd軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定できる。
【0015】
第5の側面では、この制御装置は、前記q軸電圧の指令値と前記d軸電圧の指令値とを前記q軸電圧と前記d軸電圧の位相差に応じて合成した合成値が前記電力供給手段の供給可能電圧に対して所定の条件を充足したときに、前記d軸電流を流すように制御する手段をさらに備えてもよい。ここで、この所定の条件は、電圧が飽和する条件ということもできる。電圧が飽和するとは、前記合成値が、上記電動機に供給可能な最大電圧、例えば、インバータ等の電力変換器に供給される最大直流電圧に達することであってもよい。したがって、制御装置は、前記合成値が、上記電動機に供給可能な最大電圧に達したときに、d軸電流を流すように制御すればよい。電動機に応じて励磁回路に供給可能な電流の最大値には制限が存在するので、制御装置は、上記所定の条件を充足したときに限定してd軸電流を流す結果、不必要なd軸電流を抑制し、トルクに寄与するq軸電流の値を増加することが可能となる。
【0016】
第6の側面では、この制御装置は、前記d軸電流を流す場合に、前記取得された回路パラメータの値および前記電力供給手段の供給可能電圧の値の少なくとも1つを補償係数によって変化させることにより、前記d軸電流の電流値を所定の限度で低減する手段をさらに備えてもよい。この制御装置は、前記d軸電流を流す場合に、前記d軸電流の電流値を所定の限度で低減することで、前記d軸電流を流さない状態から前記d軸電流を流す状態へ滑らかに遷移させることができる。
【0017】
第7の側面では、この制御装置は、前記q軸電圧の指令値と前記d軸電圧の指令値とを前記q軸電圧と前記d軸電圧の位相差に応じて合成した合成値が前記電力供給手段の供給可能電圧に対して所定の条件を充足する程度に応じて前記d軸電流の電流値を調整する手段をさらに備えてもよい。例えば、制御装置は、合成値が前記電力供給手段の供給可能電圧に対して過去に飽和した頻度または供給可能電圧に対する飽和の程度に応じてd軸電流の電流値を調整するので、適切な電流値でd軸電流を電動機の励磁回路に流すことができる。
【0018】
第8の側面では、本発明の実施形態はコンピュータが実行する演算方法によって例示してもよい。ここで、コンピュータは、電動機の制御装置の内部に組み込まれたものであってもよい。また、コンピュータは、電動機の制御装置とネットワークまたは記憶媒体等を介して連携可能な情報処理装置であってもよい。このような演算方法により、コンピュータは、上記演算装置と同様の効果を発揮する。
【0019】
第9の側面では、本発明の実施形態は制御装置が実行する制御方法によって例示されてもよい。すなわち、この側面では、本発明の実施形態は制御装置のハードウェアに必ずしも限定されない手順によって規定される。
【0020】
第10の側面では、本発明の実施形態はコンピュータに処理を実行させるためのプログラムによって例示されてもよい。このようなプログラムは、ネットワークまたは記憶媒体等を通じて配布可能である。このようなプログラムが搭載されたコンピュータは、上記演算装置と同様に作用し、同様の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0021】
本実施形態の少なくとも1つの側面では、複雑な手間を軽減し、電動機における弱め界磁制御に用いるパラメータ調整を簡易に精度よく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は実施形態1に係る制御装置の適用場面の一例を例示する図である。
図2図2は実施形態1の制御装置を例示する図である。
図3図3は比較例のサーボシステムによる処理結果を例示する図である。
図4図4は制御装置または制御装置と連携するコンピュータが制御装置の各部を調整する全体フローチャートである。
図5図5はモータを駆動することによる回路パラメータの同定方法を例示する図である。
図6図6はモータが一定のトルクで加速されたときに記録されたデータ例のグラフである。
図7図7は回帰モデルの式を導出する処理を例示する図である。
図8図8は同定された回路パラメータにより調整したときの電流を比較例の制御のときの電流と比較する図である。
図9図9は実施形態2の制御装置を例示する図である。
図10図10は実施形態2における制御装置の電流指令演算器の処理を例示する図である。
図11図11は電圧制限部からのフィードバック信号に応じて電流指令演算器へ入力される現在の状態を補正する回路構成を例示する図である。
図12図12はコンピュータの構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、本実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。なお、本実施形態において登場するデータは自然言語により説明される。しかし、より具体的には、本実施形態に登場するデータは、コンピュータが認識可能な疑似言語、コマンド、パラメータ、マシン語等で処理される。また、これらのデータは、主記憶装置または二次記憶装置の記憶領域に、バイナリデータ、文字列等の形式で保存される。
【0024】
<適用例>
まず、図1を用いて、本発明が適用される場面の一例について説明する。図1は、本実施形態に係る制御装置10が適用されるシステムを例示する。ただし、図1のように、このシステムは制御装置10の他に、サーボモータ(以下、単にモータと表記する)30、および位置検出器32も併せて例示されている。図1のように、本実施形態に係る制御装置10は、モータ30を制御するための装置である。ただし、制御装置10は、モータ30の回路パラメータ算出し、算出した回路パラメータにより適正な弱め界磁補正(図2)を実行可能である。
【0025】
まず、制御装置10のモータ制御機能について説明する。図1に例示されるように、制御装置10は、モータ30を制御する場合、位置制御器11、速度制御器12、電流制御器13、インバータ14、電流検出器15及び速度検出器16によって例示される各部を備えた装置として動作する。図1に示してある各部は、以下のように動作するユニットである。
【0026】
位置制御器11は、Programmable Logic Controller(PLC)等の上位装置(図示略
)から入力された位置指令(P_ref)と、モータ30に取り付けられている位置検出器3
2により検出されたモータ30の位置(以下、検出位置(P_act))との偏差(位置の偏
差)を計算する。位置制御器11は、計算した位置の偏差に、位置比例ゲインを乗ずるこ
とで速度指令(V_ref)を算出する。速度検出器16は、検出位置(P_act)を時間微分することにより速度(以下、検出速度(V_act)と表記する)を算出する。速度検出器16
は、速度検出手段の一例である。
【0027】
速度制御器12は、位置制御器11により算出された速度指令(V_ref)と検出速度(V_act)との偏差の積分量に速度積分ゲインを乗じ、その算出結果と当該速度偏差の和に速度比例ゲインを乗ずることにより、トルク指令(τ_ref)を算出する。
【0028】
電流制御器13は、速度制御器12により算出されたトルク指令(τ_ref)と、速度検出器16により検出された検出速度(V_act)とに基づき、電流指令値を生成する。そし
て、電流制御器13は、電流指令値と電流検出器15により検出されるモータ30を実際に流れる電流の大きさ(以下、検出電流と表記する)との偏差に応じた電圧指令を生成し、インバータ14に入力する。この電流制御器13としては、通常、PI制御器が使用される。
【0029】
インバータ14は、電流制御器13からの電圧指令を増幅してモータ30に印加するユニットである。インバータ14は電力変換器とも呼ばれる。
【0030】
モータ30は上述のようにサーボモータと呼ばれる。モータ30としては、様々な方式のものを例示できる。モータ30は、例えば、AC同期モータと呼ばれ、回転子に永久磁石を有するPermanent Magnet(PM)モータを例示できる。また、PMモータとしては、Surface Permanent Magnet Synchronous Motor(SPMSM)、Interior Permanent Magnet Synchronous Motors(IPMSM)が例示される。ただし、AC同期モータが、PMモータに限定される訳ではなく、例えば、永久磁石を使用せず、リラクタンストルクのみを利用するリラクタンスモータであってもよい。リラクタンスモータとしては、スイッチトリラクタンスモータ(SRM)、同期式リラクタンスモータ(SynRM)等が例示される。
【0031】
位置検出器32は、モータ30の回転角を制御装置10に知らせるセンサである。位置検出器32は、ロータリーエンコーダとも呼ばれる。
【0032】
弱め界磁補正とは、モータ30の励磁回路(電機子巻線ともいう)に生じる、モータ30の回転に伴う誘起電圧を低減する技術である。
【0033】
すなわち、モータ30が高速で回転すると、電流が流れにくくなる向きに、回転数に比例した誘起電圧が発生する。このため、制御装置10は、より高い電圧をモータ30に加えないと電流を流せなくなる。この誘起電圧の影響を緩和する技術の1つが弱め界磁制御と呼ばれる。ところで、弱め界磁制御は必ずしも単純に実行できるものではない。
【0034】
例えば、Surface Permanent Magnet(SPM)モータの場合、モータ30を駆動する電流を回転子の磁極方向の磁束に寄与するd軸電流Idと、磁極方向の磁束に直交する磁束に寄与するq軸電流Iqに分けることができる。制御装置10は通常、出力したいトルクに応じた電流をq軸電流Iqに流し、d軸電流Idを0に制御する。SPMモータの場合、d軸電流Idに流した電流はトルク発生に寄与しない。弱め界磁制御では、制御装置10はあえてd軸電流Idを流すことで誘起電圧の影響を緩和する。ただし、弱め界磁制御は、モータ30の回路パラメータの影響を受け、かつ、モータ30の回路パラメータは、モータ30の動作状態あるいはモータ30が置かれた環境等の影響を受けて変動することがある。そこで、本実施形態の制御装置10は、モータ30の回路パラメータを必要なときにタイムリーに精度よく特定し、適正な弱め界磁制御を実行する。
【0035】
なお、図1において、位置制御器11、速度制御器12、電流制御器13、電流検出器15、速度検出器16、位置検出器32等の各部において、いずれかの少なくとも一部は、Central processing Unit(CPU)およびメモリ等の主記憶装置によって提供される
ものでもよい。すなわち、1または複数のCPUがメモリ上に実行可能に展開されたコンピュータプログラムにより、位置制御器11、速度制御器12、電流制御器13、電流検出器15、速度検出器16、位置検出器32等の各部またはいずれかの一部としての処理を実行してもよい。このようなCPUおよびメモリは、実施形態2の図10に例示するCPU101および主記憶部102と同様である。CPU101および主記憶部102の詳細は、別途図10に従って説明される。
【0036】
位置制御器11、速度制御器12、電流制御器13、電流検出器15、速度検出器16、位置検出器32等のうちのいずれかの少なくとも一部は、集積回路(IC)、その他のディジタル回路であっても良いし、アナログ回路が含まれても良い。集積回路は、LSI,Application Specific Integrated Circuit(ASIC),プログラマブルロジックデバイ
ス(PLD)を含む。PLDは、例えば、Field-Programmable Gate Array(FPGA)を含む。上記各部は、プロセッサと集積回路との組み合わせであっても良い。組み合わせは、例えば、マイクロコントローラ(MCU)、SoC(System-on-a-chip)、システムLSI、チップセットなどと呼ばれる。
【0037】
<実施形態1>
以下、図2から図8を参照して、本実施形態の制御装置10を説明する。
【0038】
(構成)
図2は、本実施形態の制御装置10を例示する図である。図2では、図1の電流制御器13の詳細が例示されている。図2のように、本実施形態の電流制御器13は、電流指令演算器131、d軸電流制御器132、q軸電流制御器133、電圧座標変換器134、PWM演算部135、電流座標変換器136を有する。
【0039】
電流指令演算器131は、トルク指令(τ_ref)を受け付け、弱め界磁補正後のd軸電流の指令値(Id_ref)と、トルクに対応するq軸電流の指令値(Iq_ref)を生成する。生成されたd軸電流の指令値は、d軸電流の指令値(Id_ref)とd軸電流の現在値(Id)との差分値を計算する差分器(加算器)に入力される。差分器は、d軸電流の指令値と、電流座標変換器136から出力されるd軸電流の現在値(Id)とから差分値を計算する。計算された差分値はd軸電流制御器132に入力される。d軸電流制御器132は、d軸電流の指令値(Id_ref)とd軸電流の現在値(Id)との差分値を基に、この差分値を低減または解消するためのd軸電流を流すためのd軸電圧(Vd)を計算し、電圧座標変換器134に入力する。d軸電流制御器132は、電動機の励磁回路にd軸電流を供給するためのd軸電圧の指令値を出力する手段の一例である。
【0040】
また、生成されたq軸電流の指令値(Iq_ref)は、q軸電流の指令値(Iq_ref)とq軸電流の現在値(Iq)との差分値を計算する差分器(加算器)に入力される。差分器は、
q軸電流の指令値(Iq_ref)と電流座標変換器136から出力されるq軸電流の現在値(Iq)との差分値を計算する。計算された差分値はq軸電流制御器133に入力される。
q軸電流制御器133は、q軸電流の指令値(Iq_ref)とq軸電流の現在値(Iq)との差分値を基に、この差分値を低減または解消するためのq軸電流を流すためのq軸電圧(Vq)を計算し、電圧座標変換器134に入力する。q軸電流制御器133は、電動機の励磁回路にq軸電流を供給するためのq軸電圧の指令値を出力する手段の一例である。
【0041】
電圧座標変換器134は、d軸電圧(Vd)とq軸電圧(Vq)から、三相交流の各相の電圧の指令値(Vu、Vv、Vw)を計算し、PWM演算部135に入力する。PWM演算部13
5は、各相の電圧の指令値(Vu、Vv、Vw)の直流最大電圧(Vpn)に対する比率を基に、
パルス幅変調(PWM)におけるデューティ比を計算し、計算されたデューティ比によるオンオフ信号をインバータ14に入力する。インバータ14は、入力されたオンオフ信号により、各相の交流電圧を生成し、モータ30を駆動する。電圧座標変換器134、PWM演算部135、およびインバータ14は、q軸電圧の指令値およびd軸電圧の指令値に基づき電動機に電力を供給する電力供給手段の一例である。
【0042】
電流座標変換器136は、電流検出器15で検出されたモータ30の励磁回路の三相の電流(Iu、Iv、Iw)をd軸電流Idとq軸電流Iqに変換する。電流検出器15および電流座標変換器136は、電流検出手段の一例である。
【0043】
(比較例の処理結果)
図3に、比較例のサーボシステムによる処理結果を例示する。比較例のサーボシステムは、モータの動作状態あるいはモータが置かれた環境等の影響を考慮しないシステムである。例えば、比較例は、モータの回路パラメータを固定したまま弱め界磁制御を実行するシステムである。
【0044】
図3は、横軸がモータの回転速度であり、縦軸が、その回転速度における電流と電圧を示している。図3で上段には電流の測定値が例示され、下段には電圧の指令値が例示されている。電流としては、d軸電流(Id)、q軸電流(Iq)、及びこれらの合成値(|I|=((Id)2+(Iq)2)1/2)が例示されている。また、電圧としては、d軸電圧(Vd)、q軸電圧(Vq)、及びこれらの合成値(|V|=((Vd)2+(Vq)2)1/2)が例示されている。
【0045】
また、図3では、横軸の回転速度が3つの区間A、B、Cに区切られている。Aの区間はd軸電流が0の区間であり、q軸電流に最大電流を流せる区間である。B、Cの区間で
はd軸電流をあえて流すことによって、q軸に必要な電圧を低減させている。これが、弱め界磁制御である。ただし、Cの区間では電圧制限により、最大電流を流すことができなくなっている。電圧制限は、モータを駆動するインバータに付与される最大直流電圧(Vpn)によって定まる。システムとしては、最大直流電圧(Vpn)以上の電圧を利用できないからである。さらに、B、Cの領域ではd軸電流を流す分だけ、q軸に流せる電流が小さくなってしまう。つまり、最大トルクが低下する。
【0046】
このように、比較例のサーボシステムは、モータの回路パラメータを固定したまま弱め界磁制御を実行するため、適切なd軸電流を決定できていない。本実施形態では、モータの物理特性、モータの動作状態、および動作環境等に応じて、必要な時期にタイムリーに精度をよく、柔軟にモータ30の回路パラメータを決定し、適正な弱め界磁制御を実行する。その結果、本実施形態の制御装置10は、比較例のサーボシステムと比較して、図3よりも区間A(d軸電流が0の区間)を高速回転方向に引き延ばすことができる。また、
d軸電流を流す場合も、d軸電流値(Id)を適正な値に設定し、q軸に流せる電流を極力大きな値に設定し、比較例のサーボシステムに比べて最大トルクの低下を抑制する。
【0047】
(処理)
以下、本実施形態の制御装置の処理を例示する。図4は、制御装置10または制御装置10と連携するコンピュータが制御装置10の各部を調整する全体フローチャートである。図4の処理は、制御装置10による自動調整処理であり、例えば、CPUがコンピュータプログラムにより実行する処理である。また、図4の処理は、制御装置10のCPUまたは制御装置10とネットワークを通じて連携するコンピュータが、制御装置10およびモータ30を調整するユーザに調整を順次指示する処理としても例示される。以下、制御装置10が図4の処理を実行するものとして説明する。
本実施形態では、制御装置10は、まず、モータ30の回路パラメータ、例えば、モー
タ相抵抗R、モータ相インダクタンスL等を同定する(S1)。ここでは、例えば、モータ相抵抗R、モータ相インダクタンスL等が直接計測器で測定される。また、これらの値として、モータメーカ公称値(仕様値)が使用されてもよい。したがって、S1の処理では、制御装置10は、計測器による測定値またはモータメーカ公称値(仕様値)等の入力を受け付ければよい。また、制御装置10は、ネットワーク上の他のコンピュータからこれらの回路パラメータを受け取ってもよい。制御装置10は、S1の処理で同定したモータ相抵抗R、モータ相インダクタンスL等を基に以下の制御を実行する。
【0048】
次に、制御装置10は、電流制御器13を調整する(S2)。例えば、制御装置10は、電流制御器13のゲインを決定する。より具体的には、制御装置10は、d軸電流制御器132において、d軸電流の指令値(Id_ref)とd軸電流の現在値(Id)との差分値からd軸電圧(Vd)を計算するときの係数を決定する。また、制御装置10は、q軸電流制御器133において、q軸電流の指令値(Iq_ref)とq軸電流の現在値(Iq)との差
分値からq軸電圧(Vq)を計算するときの係数を設定する。これらの係数は、経験値、実験で決定された値であってもよい。
【0049】
次に、制御装置10は、速度制御器12、位置制御器11を調整する(S3)。より具体的には、制御装置10は、速度ループの比例ゲイン、速度ループの積分時定数、位置ループ比例ゲイン等を調整する。ただし、トルク制御で弱め界磁制御のパラメータを調整するのであれば、この工程をスキップすることが出来る。制御装置10は、モータ速度の振動が生じない範囲で速度ループの比例ゲインを徐々に大きな値に変更し、適正値に設定することで、応答性のよい速い制御を実現できる。また、制御装置10は、モータ速度の振動が生じない範囲で速度ループの積分時定数を徐々に小さくし、適正値に設定することで、応答性のよい速い制御を実現できる。
【0050】
制御装置10は、速度ループの調整が完了した後、位置ループを調整する。制御装置10は、モータの回転速度にオーバーシュート、アンダーシュートが生じない範囲でゲインを徐々に大きくし、適正値に設定することで、応答性を高めることができる。
【0051】
次に、制御装置10は、弱め界磁制御のパラメータを調整する前に、モータ30を駆動することによりモータ30の回路パラメータを同定する(S4)。実施形態1における回路パラメータの同定方法は、図5に例示される。
次に、制御装置10は、S4の処理で同定された回路パラメータを基に弱め界磁制御のパラメータを調整する(S5)。例えば、制御装置10は、モータ回転速度に対応して、弱め界磁制御を実行するときのd軸電流Idを決定する。弱め界磁パラメータの決定方法及び弱め界磁によるモータの制御方法はすでに様々な方法が提案されている(例えば、森本茂雄他、「PMモータの弱め磁束制御を用いた広範囲可変速運転」電気学会論文誌112巻
No.3 P.292-P.298、一般社団法人電気学会、1992年3月20日)。そこで
、本実施形態では、同定された回路パラメータを基に弱め界磁パラメータを調整する方法の詳細は省略する。
【0052】
図5は、モータ30を駆動することによるモータ30の回路パラメータの同定方法を例示する図である(図4のS4の詳細)。この処理では、制御装置10は、モータ30を一定のトルク(すなわち、一定のq軸電流Iq)で加速させる(S11)。そして、制御装置10は、S11の加速状態で、モータ回転速度、d軸実電流、q軸実電流、d軸電圧の指令値、q軸電圧の指令値の時系列データを記録する(S12)。
【0053】
制御装置10によるS11の処理は、電動機のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させた処理の一例である。S12の処理は、値の組を取得することの一例である。したがって、制御装置10は、値の組を取得する手段の一例としてS12の処理を実行する。
【0054】
ここで、モータ回転速度は、電動機の回転速度の一例である。また、S12で取得されるq軸実電流は、電動機が前記回転速度のときの電動機の励磁回路におけるq軸電流の値の一例である。また、S12で取得されるd軸実電流は、電動機が前記回転速度のときの励磁回路におけるd軸電流の値の一例である。さらに、S12で取得されるq軸電圧の指令値は、q軸電流を励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値の一例である。さらにまた、S12で取得されるd軸電圧の指令値は、d軸電流を励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値の一例である。
【0055】
図6は、モータ30が一定のトルク(一定のq軸電流Iq)で加速されたときに記録されたデータ例のグラフである。このデータ例は、モータ回転速度、d軸実電流(Id)、q軸実電流(Iq)、d軸電圧の指令値(Vd)、q軸電圧の指令値(Vq)を含む。図6で、最上段のグラフG1は、横軸を時間とするモータ回転速度のデータを例示する。中段のグラフG2は、横軸を時間とするd軸実電流(Id)とq軸実電流(Iq)のデータを例示する。最下段のグラフG3は、横軸を時間とするd軸電圧の指令値(Vd)とq軸電圧の指令値(Vq)のデータを例示する。中段のグラフG2から明らかなように、モータ30が一定のトルクで加速されたとき、当然q軸実電流(Iq)は一定値である。また、このとき、制御装置10は、モータ回転速度が所定値に達するまでの間(図6で時間0.04秒を超えるまでの区間)、d軸実電流(Id)を0に制御する。
【0056】
そして、モータ回転速度が所定値に達すると、制御装置10は、モータの励磁回路(固定子巻線)に発生する誘導電圧を打ち消す方向にd軸実電流(Id)を流す。なお、電圧ベクトルのノルム|V|=(Vd2+Vq2)1/2の最大値は、インバータ14の電源電圧(最大直流電圧Vpnともいう)によって制約される。また、電流ベクトルのノルム|I|=(Id2+Iq2)1/2の最大値は、モータ30の仕様によって制約される。
【0057】
次に、制御装置10は、S12の処理で記録した時系列データのうち、q軸実電流が一定、d軸実電流が0である区間を判別し、その区間に属するデータ抜き出す(S13)。
【0058】
ここで、交流(AC)同期モータにおいて、d軸実電流(Id)、q軸実電流(Iq)、d軸電圧(Vd)、q軸電圧(Vq)は、以下の理論式(電圧方程式)を満たす。
【0059】
(式1)
Vd=(R+sLd)Id-ωLqIq;
Vq=(R+sLq)Iq+ωLdId+ωKemf;
ここで、Vd:d軸電圧、Vq:q軸電圧、Id:d軸電流、Iq:q軸電流、R:モータ相抵抗、s:微分演算子、Ld:モータd軸インダクタンス、Lq:モータq軸インダクタンス、Kemf:誘起電
圧定数、ω: モータ回転速度に対応する電気角速度である。
【0060】
そして、Id=0、Iq=一定とすると、Iqの微分値は0となるので、上記式1は、以下の式2となる。
【0061】
(式2)
Vd=-ωLqIq;
Vq=RIq+ωKemf;
そこで、制御装置10は、q軸電流が一定、d軸電流が0である区間のデータから、最小
二乗法などにより、回帰モデルの式を導出する。
【0062】
図7は、回帰モデルの式を導出する処理を例示する図である。グラフG4、G5それぞれのデータは、図6に例示したグラフG2のd軸実電流とq軸実電流のデータ、およびグ
ラフG3のd軸電圧の指令値とq軸電圧の指令値のデータを、横軸をモータ回転数(速度[r/min])として描いたものである。上記式2のように、d軸電流=0、かつ、q軸電流
=一定の区間では、d軸電圧とq軸電圧は時間変化が直線となる。そこで、制御装置10は、q軸電圧の指令値をq軸電圧と見なして、最小二乗法などにより、回帰モデルの式を導出する(S141)。また、制御装置10は、d軸電圧の指令値をd軸電圧と見なして、最小二乗法などにより、回帰モデルの式を導出する(S142)。そして、制御装置10は得られた回帰モデルによるVd、Vqの式を上記式2に対応させ、モータq軸インダクタンスLq、モータ相抵抗R、誘起電圧定数Kemfを求める。
【0063】
なお、モータ30の形式によるが、モータ30でLqとLdが同一の値の形式であれば、Lq=Ldがえられる。一方、モータ30でLdとLqが異なる場合には、さらにId=0ではなくIdを変化させて再度測定を実施する。この場合、式1から下記式3が得られる。
【0064】
(式3)
Vd=RId-ωLqIq;
Vq=RIq+ωLdId+ωKemf;
そこで、制御装置10はIdを変化させたVq、Iq、Idの測定結果に最小二乗法等を実施することで、モデル式を求める。そして、制御装置10は得られたモデル式と上記式3との対応関係からLdを求めることができる。
【0065】
以上のように、制御装置10は、前記区間で横軸がモータ回転速度、縦軸がd軸電圧の指令値での回帰モデルの式と、同区間で横軸がモータ回転速度、縦軸がq軸電圧の指令値での回帰モデルの式を生成する。そして、およびモータ30のモータ回転速度とd軸電圧と(およびq軸電流)が充足する理論式、およびモータ30のモータ回転速度とq軸電圧(およびq軸電流,場合によりさらにd軸電流)とが充足する理論式に、生成した2つの回帰モデルの式を当てはめる。そして、それぞれの回帰モデルの式と理論式とを対応させ、これらのモータ回転速度と電圧の関係から、弱め界磁制御の調整に使用される回路パラメータを同定する(S14)。S14の処理は、励磁回路の回路パラメータを取得することの一例である。したがって、制御装置10は、励磁回路の回路パラメータを取得する手段の一例としてS14の処理を実行する。なお、式1乃至式3は電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と励磁回路の回路パラメータとが充足する理論式の一例である。
【0066】
最後に、制御装置10は、同定した回路パラメータを弱め界磁制御の調整に反映する(S15)。例えば、制御装置10は、弱め界磁制御時に参照するメモリの所定アドレスに同定した回路パラメータを格納する。これらのパラメータは、図4のS5の処理で参照され、弱め界磁制御の調整時に使用される。S14の結果を反映したS5の処理は、d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定することの一例である。したがって、制御装置10は、d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定する手段の一例として、S15およびS5の処理を実行する。
【0067】
図8は、同定された回路パラメータにより調整した電流を比較例の制御のときの電流と比較する図である。図8で上段のグラフG6は、同定した回路パラメータにより調整したときのq軸実電流Iq1と調整前のq軸実電流Iq0を例示する。また、同図で下段のグラフG7は、同定した回路パラメータにより調整したときのd軸実電流Id1と調整前のd軸実電
流Id0を例示する。図8で、横軸はいずれも、モータ回転速度(図8では速度、単位[r/min])である。
【0068】
(実施形態の効果)
図8で調整前(比較例)の状態では横軸3000[r/min]近傍からd軸実電流Id0が流れて
いる。一方、本実施形態の制御装置10による調整後の状態では4000[r/min]近傍から
d軸実電流Id1が流れている。このように、制御装置10は、モータ30の動作状態また
は環境等に応じて、モータ30の励磁回路の回路パラメータを測定し、弱め界磁制御を好ましい状態で実施できる。制御装置10によれば、高度な測定器がない環境においても、試行錯誤のような複雑な手間を軽減し、モータ30の励磁回路の回路パラメータを測定できる。制御装置10は、弱め界磁制御を適切に実行することによって、より大きなq軸電流を流すことができ、モータ30の性能を発揮することができる。したがって、例えば、事前に評価がなされていない電動機が制御装置10に新たに接続された場合においても、制御装置10は、適切な弱め界磁制御を実行できる。
【0069】
上述のように、制御装置10は、式2または式3のように、モータ回転速度に対応する電気角速度ω、d軸電圧Vd、q軸電圧Vq、d軸電流Id、q軸電流Iqの線形のモデル式から、精度良くモータ30の励磁回路の回路パラメータを取得できる。さらに、制御装置10は、モータd軸インダクタンスLdとモータq軸インダクタンスLqが等しいモータ30では、式2のようなd軸電流Idのない単純な直線から精度良くモータ30の励磁回路の回路パラメータを取得できる。
【0070】
そして、制御装置10は、上記取得したモータ30の励磁回路の回路パラメータに対応して、モータ回転速度に応じてd軸電流Idを決定し、弱め界磁制御を実行できる。
【0071】
<実施形態2>
以下、図9および図10を参照し、実施形態2の制御装置10Aを説明する。図9は、実施形態2の制御装置10Aを例示する図である。制御装置10Aは、実施形態1の制御装置10に電圧制限部137を追加した構成である。電圧制限部137は、d軸電圧の指令値Vdとq軸電圧の指令値Vqの合成値V(ノルム|V|)をインバータ14の電源電圧(最大直流電圧)Vpnに制限する。電圧制限部137は、例えば、数値演算が可能な演算装
置で実現される。例えば、電圧制限部137は、d軸電圧の指令値Vd,q軸電圧の指令値Vqの比率を保ったまま、ノルム|V|が制限値以下になるように、VdとVqを同じ比率で減
少させるように演算すればよい。ここで、合成値V(ノルム|V|)は、第1の電圧の指令値と前記第2の電圧の指令値とを第1の電圧と第2の電圧の位相差に応じて合成した合成値の一例である。
【0072】
図9では、電圧制限部137において、電圧制限が動作しているか否かの情報がフィードバック信号FDにより、電流指令演算器131に入力される。電圧制限が動作しているか否かは、電圧制限部137において合成値Vが最大直流電圧Vpnに達したことにより、
トランジスタ、ダイオード等がオンしたか否かによって判定できる。なお、電圧制限部137は、合成値Vが最大直流電圧Vpnに所定の限度で近づいたこと(以下、飽和という)
を検出し、電圧を制限してもよい。したがって、電圧制限部137は、合成値Vの飽和の程度を通知するものであってもよい。また、飽和の程度は、合成値Vが最大直流電圧Vpn
に所定の限度で近づいた現象発生の頻度(単位時間あたりの発生回数)であってもよい。
【0073】
本実施形態では、電流指令演算器131は、電圧制限部137において、電圧制限が動作するまでの間、すなわち、合成値Vが最大直流電圧Vpnに達しない状態では、電流指令
演算器131は、弱め界磁制御を実行しない。合成値Vが最大直流電圧Vpnに達しない状
態では、インバータ14はモータ30の励磁回路に誘導起電力に打ち勝って電力供給可能だからである。この状態では、制御装置10A(電流指令演算器131)は、弱め界磁制御を実行せず、d軸電流を0のまま維持する。したがって、制御装置10Aは、トルクを生じるq軸電流として、ほぼすべての電力を供給できる。電圧制限部137は、合成値が電力供給手段の供給可能電圧に対して所定の条件を充足したか否かを判定する手段の一例である。
【0074】
図10に、実施形態2における制御装置10Aの電流指令演算器131の処理を例示する。この処理では、電流指令演算器131は、電圧制限部137における電圧飽和の程度を取得する(S41)。
【0075】
そして、電流指令演算器131は、電圧飽和の程度が所定の限度を超えているか否かを判定する(S42)。ここで、電流指令演算器131は、電圧制限部137からのフィードバック信号をそのまま用いて電圧飽和の程度を判断してもよい。また、電流指令演算器131は、電圧制限部137からのフィードバック信号を加工して電圧飽和の程度を判断してもよい。例えば、電流指令演算器131は、電圧制限部137からのフィードバック信号により、電圧飽和の発生回数が所定の頻度で発生した場合、あるいは電圧飽和が所定時間継続して発生した場合に、S42において、電圧飽和の程度が所定の限度を超えていると判断してもよい。
【0076】
S42において、電圧飽和の程度が所定の限度を超えていると判断される場合、電流指令演算器131は弱め界磁パラメータを設定する。この場合、電流指令演算器131は、例えば、モータ30の励磁回路の誘導起電力を弱めるd軸電流の指令値を設定し、制御装置10Aはd軸電流を流すように制御する。
【0077】
一方、電圧飽和の程度が所定の限度を超えていないと判断される場合、電流指令演算器131は弱め界磁パラメータを設定しない。この場合d軸電流の指令値は0のまま維持される。このような制御装置10によるS41、S42の処理は、合成値が電力供給手段の供給可能電圧に対して所定の条件を充足するまでの間、d軸電流を抑制することの一例である。一方、電圧飽和の程度が所定の限度を超えていると判断される場合に限って、電流指令演算器131は弱め界磁パラメータを設定する。したがって、S42およびS43の処理は、合成値が電力供給手段の供給可能電圧に対して所定の条件を充足したときに、d軸電流を流すように制御する手段の一例といえる。
【0078】
制御装置10Aは、このような構成によって、電圧飽和が所定の限度に至らない場合には、弱め界磁制御を実施せず、d軸電流を0に維持し、モータ30のトルクに寄与するq軸電流に集中して電力をモータ30に供給できる。すなわち、制御装置10Aは、必要な場合に限定して弱め界磁制御が働くようにし、d軸電流を流すので、実施形態1の図3における区間Aの領域をできるだけ大きく取れるように弱め界磁制御を調整することができる。
【0079】
例えば、実施形態1のように制御装置10がモータ30の励磁回路の回路パラメータを求めて弱め界磁制御を実行する場合でも、制御装置10またはモータ30が設置される環境(温度等)、制御装置10またはモータ30の動作状態等により、電圧の指令値が飽和しない場合もあり得る。また、逆に、電圧の指令値が飽和しているにも拘わらず、弱め界磁制御が行われないこともあり得る。実施形態2の制御装置10Aは、弱め界磁制御が必要な場合に、的確に弱め界磁制御を実行できる。
【0080】
(弱め界磁制御を抑制する補償)
さらに以下のような追加の設定を行うことにより、弱め界磁制御の有効/無効の切替で
、弱め界磁制御によって与えられる補償量がなめらかに切り替わるようにすることができる。例えば、制御装置10Aが測定したパラメータよりも、弱め界磁制御が働きにくい状態にパラメータを設定しておく。具体的には制御装置10Aは、実施形態1の手順で同定された回路パラメータ(たとえばモータ相抵抗R、モータ相インダクタンスL、誘起電圧定数Kemfなど)をそのまま弱め界磁制御に使用しないで、同定された回路パラメータに補償係数を掛ける。制御装置10Aは、この補償係数によって理論上、電流を流すために必要
な電圧が小さくなるように設定すればよい。制御装置10Aは、どれか一つの回路パラメータまたは複数のパラメータに対して補償係数を乗算しても良い。制御装置10Aが回路パラメータ(たとえばモータ相抵抗R、モータ相インダクタンスL、誘起電圧定数Kemfなど)に補償係数を乗算することは、取得された回路パラメータの値および電力供給手段の供給可能電圧の値の少なくとも1つを補償係数によって変化させることの一例である。したがって、制御装置10は、d軸電流の電流値を所定の限度で低減する手段の一例でもある。
【0081】
例えば、モータ相抵抗Rであれば、1より小さい補償係数をかけると、理論上、電流を
流すために必要な電圧が小さくなる。つまり、モータの状態から判断される理論上の電圧飽和が起こりにくくなり、弱め界磁制御が働きにくくなる。制御装置10は、弱め界磁制御を実行するときに、弱め界磁制御を働きにくくすることで、弱め界磁制御が働かない状態から弱め界磁制御が働く状態への遷移を滑らかにすることができる。
【0082】
(弱め界磁制御を促進する回路)
電圧制限部137からのフィードバック信号が、電圧飽和の程度を示す値、例えば、電圧制限部137で、一定時間のうち、電圧制限が発生していた時間の割合または発生頻度等であってもよい。この割合に応じて弱め界磁演算を行う際に用いる、現在の入力値(例えば、電流指令演算器131への指令トルクτref、モータ回転速度v、P-N間電圧VPN
など)に、弱め界磁制御が必要となるように補正する補正回路を設けてもよい。
【0083】
図11に、電圧制限部137からのフィードバック信号に応じて電流指令演算器131へ入力される現在の入力値(最大直流電圧Vpn)を補正する回路構成を例示する。図10
のように、電圧飽和が発生していた割合(頻度等)に応じて最大直流電圧Vpnが小さくな
るように電流指令演算器131への入力値を補正する。同様に、制御装置10Aに、電圧飽和が発生していた割合に応じて指令トルクτreが大きくなるように補正する回路を設けてもよい。また、電圧飽和が発生していた割合に応じてモータ回転速度vが大きくなるよ
うに補正する回路を設けてもよい。このようにして、弱め界磁制御が実行されやすくすることができる。したがって、図11に例示される電圧制限部137からのフィードバック信号に応じて電流指令演算器131へ入力される現在の入力値(例えば、最大直流電圧Vpn)を補正する回路構成は、合成値が電力供給手段の供給可能電圧に対して所定の条件を
充足する程度に応じてd軸電流の電流値を調整する手段の一例と言える。
【0084】
<その他の実施形態>
上記実施形態1の制御装置10による回路パラメータを測定する処理は、制御装置10以外の装置、例えば、制御装置10とネットワークで接続されたコンピュータにおいて実行できる。また、回路パラメータを計算する処理は、例えば、モータ30のモータ回転速度、電圧の指令値(Vd、Vq)、測定された電流値(Id、Iq)を、記憶媒体等を介して取得したコンピュータにおいて実行できる。すなわち、実施形態1の図5乃至図7に例示した処理(図5のS12乃至S14の演算方法、図7のS141、S142の処理等)を制御装置10以外のコンピュータ実行するようにしてもよい。
【0085】
図12に、このような処理を実行するコンピュータ100の構成を例示する。このコンピュータ100は、CPU101と、主記憶部102と、インターフェース(I/F)を通じて接続される外部機器を有し、プログラムにより情報処理を実行する。外部機器としては、外部記憶部103、表示部104、操作部105、および通信部106を例示できる。
【0086】
CPU101は、主記憶部102に実行可能に展開されたコンピュータプログラムにより、図5乃至図7に例示した処理を実行し、計算したモータ30の励磁回路の回路パラメ
ータを実施形態1の制御装置10、実施形態2の制御装置10A等に引き渡すようにすればよい。CPU101と主記憶部102とI/Fは、演算装置の一例である。
【0087】
CPU101はプロセッサとも呼ばれる。CPU101は、は、単一のプロセッサに限定される訳ではなく、マルチプロセッサ構成であってもよい。また、単一のCPU101がマルチコア構成を有していても良い。
【0088】
主記憶部102は、CPU101が実行するコンピュータプログラム、CPU101が処理するデータ等を記憶する。主記憶部102は、Dynamic Random Access Memory(DRAM)、Static Random Access Memory(SRAM)、Read Only Memory(ROM)等で
ある。さらに、外部記憶部103は、例えば、主記憶部102を補助する記憶領域として使用され、CPU101が実行するコンピュータプログラム、CPU101が処理するデータ等を記憶する。外部記憶部103は、ハードディスクドライブ、Solid State Disk(SSD)等である。さらに、コンピュータ100には、着脱可能記憶媒体の駆動装置を設けてもよい。着脱可能記憶媒体は、例えば、ブルーレイディスク、Digital Versatile Disk(DVD)、Compact Disc(CD)、フラッシュメモリカード等である。
【0089】
また、コンピュータ100は、表示部104、操作部105、通信部106を有する。表示部104は、例えば、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスパネル等である。操作部105は、例えば、キーボード、ポインティングデバイス等である。本実施形態では、ポインティングデバイスとしてマウスが例示される。通信部106は、ネットワーク上の他の装置とデータを授受する。コンピュータは、メモリに実行可能に展開されたコンピュータプログラムにより、
<コンピュータが読み取り可能な記録媒体>
コンピュータその他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0090】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、ブルーレイディスク、DAT、8mmテープ、フラッシュメモリなどのメモリカード等がある。また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスク、ROM(リードオンリーメモリ)等がある。さらに、SSD(Solid State Drive)は、コンピュータ等から取り外し可能な記録媒体としても、コンピュータ
等に固定された記録媒体としても利用可能である。
<付記>
1. 電動機(30)のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させたときの前記電動機の回転速度と前記電動機が前記回転速度のときの前記電動機の励磁回路におけるq軸電流の値と前記電動機が前記回転速度のときの前記励磁回路におけるd軸電流の値と前記q軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値と前記d軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値とを含む値の組を取得する手段(S12)と、
前記q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を前記電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と前記励磁回路の回路パラメータとが充足する理論式に適用することによって、前記励磁回路の回路パラメータを取得する手段(S14)と、
前記取得された回路パラメータを基に前記電動機を回転させるときの前記d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定する手段(S15、S4)と、を備える演算装置
(101、102、10)。
2. 電動機の励磁回路にq軸電流を供給するためのq軸電圧の指令値を出力する手段(133)と、
前記電動機の励磁回路にd軸電流を供給するためのd軸電圧の指令値を出力する手段(132)と、
前記q軸電圧の指令値および前記d軸電圧の指令値に基づき前記電動機に電力を供給する電力供給手段(134、135、14)と、
前記電動機の励磁回路を流れる電流を検出する電流検出手段(15、136)と、
前記電動機の回転速度を検出する速度検出手段(16)と、
演算装置と、を備え、前記演算装置(101、102、10)は、
前記電動機のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させるときの前記電動機の回転速度と前記電動機が前記回転速度のときの前記電動機の励磁回路におけるq軸電流の値と前記電動機が前記回転速度のときの前記励磁回路におけるd軸電流の値と前記q軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値と前記d軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値とを含む値の組を取得する手段(S12)と、
前記q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を前記電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と前記励磁回路の回路パラメータとが充足する理論式に適用することによって、前記励磁回路の回路パラメータを取得する手段(S14)と、
前記取得された回路パラメータを基に前記電動機を回転させるときの前記d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定する手段(S15、S4)と、を有する電動機の制御装置(10)。
3. 電動機(30)のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させたときの前記電動機の回転速度と前記電動機が前記回転速度のときの前記電動機の励磁回路におけるq軸電流の値と前記電動機が前記回転速度のときの前記励磁回路におけるd軸電流の値と前記q軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値と前記d軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値とを含む値の組を取得することと(S12)、
前記q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を前記電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と前記励磁回路の回路パラメータとが充足する理論式に適用することによって、前記励磁回路の回路パラメータを取得することと(S14)、
前記取得された回路パラメータを基に前記電動機を回転させるときの前記d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定することと(S15、S4)、をコンピュータ(101、102、10)が実行する演算方法。
4. 制御装置(10)が
電動機の励磁回路にq軸電流を供給するためのq軸電圧の指令値を出力することと(133)、
前記電動機の励磁回路にd軸電流を供給するためのd軸電圧の指令値を出力することと(132)、
前記q軸電圧の指令値および前記d軸電圧の指令値に基づき前記電動機に電力を供給することと(134、135、14)、
前記電動機の励磁回路を流れる電流を検出することと、
前記電動機の回転速度を検出することと(16)、
前記電動機のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させたときの前記電動機の回転速度と前記電動機が前記回転速度のときの前記電動機の励磁回路におけるq軸電流の値と前記電動機が前記回転速度のときの前記励磁回路におけるd軸電流の値と前記q軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値と前記d軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値とを含む値の組を取得することと(S12)、
前記q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を前記電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と前記励磁回路の
回路パラメータとが充足する理論式に適用することによって、前記励磁回路の回路パラメータを取得することと(S14)、
前記取得された回路パラメータを基に前記電動機を回転させるときの前記d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定することと(S15、S4)、を実行する電動機の制御方法。
5. 電動機のトルクを所定値に維持して回転速度を増加させたときの前記電動機の回転速度と前記電動機が前記回転速度のときの前記電動機の励磁回路におけるq軸電流の値と前記電動機が前記回転速度のときの前記励磁回路におけるd軸電流の値と前記q軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのq軸電圧の指令値と前記d軸電流を前記励磁回路に生じさせるためのd軸電圧の指令値とを含む値の組を取得することと(S12)、
前記q軸電流の値が一定となる回転速度の範囲の前記値の組によって決定されるモデル式を前記電動機の回転速度とq軸電流とd軸電流とq軸電圧とd軸電圧と前記励磁回路の回路パラメータとが充足する理論式に適用することによって、前記励磁回路の回路パラメータを取得することと(S14)、
前記取得された回路パラメータを基に前記電動機を回転させるときの前記d軸電流の電流値を調整するためのパラメータを決定することと(S15、S4)、をコンピュータ(101、102、10)に実行させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0091】
10 制御装置
11 位置制御器
12 速度制御器
13 電流制御器
14 インバータ
15 電流検出器
16 速度検出器
30 モータ
32 位置検出器
131 電流指令演算器
132 d軸電流制御器
133 q軸電流制御器
134 電圧座標変換器
135 PWM演算部
136 電流座標変換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12