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特許7581937スプレーノズル、塗布装置および塗布膜付き部材の製造方法
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  • 特許-スプレーノズル、塗布装置および塗布膜付き部材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】スプレーノズル、塗布装置および塗布膜付き部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 7/08 20060101AFI20241106BHJP
   B05B 1/04 20060101ALI20241106BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20241106BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20241106BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B05B7/08
B05B1/04
B05D1/02 Z
B05D3/04 Z
B05D3/00 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021017943
(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公開番号】P2022120899
(43)【公開日】2022-08-19
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂下 竜太
(72)【発明者】
【氏名】笹木 洸太
(72)【発明者】
【氏名】谷 義則
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 潔
【審査官】谷口 東虎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-102765(JP,A)
【文献】特開2006-205099(JP,A)
【文献】特開2005-262703(JP,A)
【文献】特開平10-335799(JP,A)
【文献】特開2012-071249(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0208225(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 7/08
B05B 1/04
B05D 1/02
B05D 3/04
B05D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向に配列された複数の塗布液吐出口と、塗布液吐出口の近傍に幅方向に渡って連続してまたは間欠で開口して塗布液吐出口を挟むように配置された一対のエア吐出口と、を備えたスプレーノズルであって、
外気引込流路と外気遮断壁を有し、
前記外気引込流路は、スプレーノズルの外部と前記エア吐出口の近傍とを連通しており、エア吐出口の近傍の開口部分が、幅方向に渡って連続してまたは間欠で開口してエア吐出口と略同一の幅を有する外気引込口になっており、
一対の前記外気引込流路が、それぞれの前記外気引込口で前記塗布液吐出口および前記一対のエア吐出口を挟むように配置されており、
前記外気遮壁は、前記一対のエア吐出口の幅方向の一端よりも外側に配置され、エア吐出口よりもエア吐出方向に延在し、塗布液吐出口および一対のエア吐出口に向く面が幅方向に略直交しており、
一対の前記外気遮壁が、前記外気引込口とともに前記塗布液吐出口および前記一対のエア吐出口を囲んでいる、
スプレーノズル。
【請求項2】
前記外気引流路の流路断面の形状が、幅方向に渡って連続して幅方向が長辺方向のスリット形状である、請求項1のスプレーノズル。
【請求項3】
前記スリット形状の短辺方向の長さが1mm上20mm以下である、請求項2のスプレーノズル
【請求項4】
前記一対の外気引込流路を複数組有する、請求項1~3のいずれかのスプレーノズル。
【請求項5】
前記スプレーノズルが、スプレーノズル本体、整流板および前記外気遮壁を有し、
前記整流板と前記スプレーノズル本体との間隙または前記整流板同士の間隙が前記外気引込流路であり、
前記整流板および前記外気遮壁が前記スプレーノズル本体に着脱可能である、請求項1~4のいずれかのスプレーノズル。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかのスプレーノズルと、
前記スプレーノズルに塗布液とエアを供給する供給手段と、
被塗布部材を支持する支持手段と、
前記スプレーノズルを前記支持手段に支持された前記被塗布部材に対して相対的に移動させる移動手段と、
を備えた塗布装置。
【請求項7】
請求項6の塗布装置を用いて被塗布部材上に塗布液を噴霧して、塗布膜が形成された部材を製造する、塗布膜付き部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレーノズル、そのスプレーノズルを用いた塗布装置、およびその塗布装置を用いた塗布膜付き部材の製造方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被塗布基材に塗布液を塗布する装置として、スプレーノズル(以下、単に「ノズル」とも言う)で塗布液を液滴化してから吹き付けるスプレー塗布装置が知られている。スプレー塗布装置では、液圧のみによって塗布液を液滴化する1流体型のスプレーノズルや、塗布液と同時に加圧エアを吐出し、吐出エアの打力によって塗布液を微細化して噴霧する2流体型のスプレーノズルが一般的に用いられる。2流体型のスプレーノズルは、乾燥前の塗布膜厚が10μm程度以下とごく薄い塗布膜の形成が求められる場合に特に用いられる。また、これらのノズルとしては、1つの点状の吐出口から液滴を噴霧する単孔型ノズルが広く知られている。
【0003】
このスプレー塗布装置においては、基材の生産性や機能性の観点から、広い幅を持つ基材の略全面に、塗布膜を薄くかつ均一な厚さに形成することを求められる場合が多々ある。このとき、スプレー塗布に上記の2流体型かつ単孔型のスプレーノズル(以下、単孔型2流体スプレーノズルとする)を用いると、均一に塗布できる塗布幅が数100mm程度と限定的であるため、単孔型ノズルの塗布幅を超える広幅に塗布する手段として、例えば特許文献1に開示されているように、基材の移動方向に対し直交する基材幅方向にノズルを揺動させ塗布膜を形成するスプレー塗布装置が開示されている。しかしながらこのスプレー塗布装置では、基材の移動方向に塗布液を断続的に塗り重ねて塗布を行うため、ノズルの揺動軌跡が塗布ムラとして現れ、均一な塗布膜を形成することは困難である。
【0004】
また、特許文献2のように基材の幅方向に複数の単孔型2流体スプレーノズルを配列し、各ノズルから噴霧される塗布液が塗り重なるように、同時に塗布液を噴霧しながら基材を移動させることで広幅に塗布できる塗布装置が開示されており、この塗布装置であれば基材幅方向のノズル移動が無いため、上記した塗布ムラは現れない。しかしながら複数のノズルを用いるため、各ノズルの個体差や、各ノズルへの塗布液の供給量バラつき等に起因する噴霧状態のバラつきによって、基材移動方向に延びる塗布ムラがでやすい。また、この塗布ムラを低減するためにノズルの配列ピッチを狭くした場合は、塗布幅当たりのノズル総数が多くなるため、塗布膜を薄く形成することが困難になる。
【0005】
これらの単孔型ノズルが持つ課題に対し、塗布膜を広く薄く均一に塗布できるスプレーノズルとして、特許文献3のように塗布幅方向に複数の塗布液吐出口を持ち、塗布液吐出口の近傍に幅方向に渡って連続してまたは間欠で開口して塗布液吐出口を挟むように配置された一対のエア吐出口を持つ、スロット型のスプレーノズルが開示されている。このスプレーノズルは、塗布幅に渡る単一のノズルとなっているため、噴霧状態のバラつきが小さく、塗布幅方向に極めて高い均一性で塗布液を噴射することができ、さらに塗布液の噴射後も基材に向かって真っすぐ、すなわち幅方向速度を持たずに飛翔させることで基材に均一な塗布膜を形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-090403号公報
【文献】特開2013-111512号公報
【文献】特開2005-262703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に開示されているスロット型のスプレーノズルであっても、吐出エアの持つ噴流の引き込み効果によって、スプレー塗布装置雰囲気中の外気をエア吐出口に向かって引き込み、引き込まれた外気の影響で噴射された塗布液滴の直線性が悪化する場合がある。これは外気の引き込みが、スプレーノズルのエア吐出口の周囲すべての方向から行われることで、外気が塗布幅方向に速度を持った状態で吐出エアに随伴し、吐出エアもその外気の慣性力や粘性力を受けて幅方向速度を持ち、その影響が吐出エアと一緒に飛翔する液滴に及んでしまうからである。
【0008】
また、外気の引き込みは、吐出エア(噴流)と外気との境界面でのせん断速度によって生じる現象であるため、引き込まれる外気の流量は、噴流の速度が大きくなると増大し、また、境界面の面積が大きくなることによっても増大する性質がある。そのため、幅方向に渡って実質的に連続する帯状エアを吐出するスロット型のスプレーノズルは、吐出エアと外気の境界面積が大きく、引き込む外気流量も大きくなるため、単孔型の2流体ノズルを複数配列した構成よりも、噴射された液滴の直線性が悪化しやすくなるといった問題がある。
【0009】
なお、特許文献3によるスロット型のスプレーノズルは、エア吐出口の両側に備えた補助エアノズルによって、吐出エアを挟み込むように補助エアを吹かせることで、吐出エアの拡散を抑制し、余計な液滴の飛散を防止することができると記載されている。しかしながら、吐出エアが、高流速の補助エアの動圧で挟みこまれてしまうことで、幅方向に拡幅し、幅方向速度を持ってしまうため、噴射された液滴の直進性が悪化する。加えて、補助エアも噴流であるため外気を引き込み、外気の慣性力や粘性力は補助エアを介して吐出エアに作用するため、外気の引き込みによる液滴の直進性悪化を低減することはできない。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、吐出エアに引き込まれる外気流の塗布幅方向速度を低減してから、吐出エアに随伴させることにより、吐出エアの直進性を維持し、広幅に薄い塗布膜を均一に形成できるスプレーノズルを提供し、さらに、そのスプレーノズルを用いたスプレー塗布装置とそのスプレー塗布装置を用いた塗布膜付き部材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明のスプレーノズルは、幅方向に配列された複数の塗布液吐出口と、塗布液吐出口の近傍に幅方向に渡って連続してまたは間欠で開口して塗布液吐出口を挟むように配置された一対のエア吐出口と、を備えたスプレーノズルであって、
外気引込流路と外気遮断壁を有し、
上記外気引込流路は、スプレーノズルの外部と上記エア吐出口の近傍とを連通しており、エア吐出口の近傍の開口部分が、幅方向に渡って連続してまたは間欠で開口してエア吐出口と略同一の幅を有する外気引込口になっており、
一対の上記外気引込流路が、それぞれの上記外気引込口で上記塗布液吐出口および上記一対のエア吐出口を挟むように配置されており、
上記外気遮壁は、上記一対のエア吐出口の幅方向の一端よりも外側に配置され、エア吐出口よりもエア吐出方向に延在し、塗布液吐出口および一対のエア吐出口に向く面がエア吐出方向に略直交しており、
一対の上記外気遮壁が、上記外気引込口とともに上記塗布液吐出口および上記一対のエア吐出口を囲んでいる。
【0012】
本発明のスプレーノズルは、以下の(1)~(4)のいずれかの形態であることが好ましい。
(1)上記外気引流路の流路断面の形状が、幅方向に渡って連続して幅方向が長辺方向のスリット形状である。
(2)上記スリット形状の短辺方向の長さが1mm上20mm以下である。
(3)上記一対の外気引込流路を複数組有する。
(4)上記スプレーノズルが、スプレーノズル本体、整流板および上記外気遮壁を有し、
上記整流板と上記スプレーノズル本体との間隙または上記整流板同士の間隙が上記外気引込流路であり、
上記整流板および上記外気遮壁が上記スプレーノズル本体に着脱可能である
本発明の塗布装置は、
本発明のスプレーノズルと、
上記スプレーノズルに塗布液とエアを供給する供給手段と、
被塗布部材を支持する支持手段と、
上記スプレーノズルを上記支持手段に支持された上記被塗布部材に対して相対的に移動させる移動手段と、を備えている。
【0013】
本発明の塗膜付き部材の製造方法は、本発明の塗布装置を用いて被塗布部材上に塗布液を噴霧して、塗布膜が形成された部材を製造する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスプレーノズルを用いることで、基材上に塗布膜を薄く広く均一に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のスプレーノズルの概略構成を示す斜視図である。
図2】(a)は、スプレーノズルを塗布液吐出口側から見た底面図であり、塗布液吐出口、エア吐出口、外気引込口、外気遮断壁の配置を示す。(b)は、(a)のスプレーノズルとはエア吐出口の形態が異なるスプレーノズルを示した図である。
図3】外気遮断壁の特徴を説明するスプレーノズルの側面図である。
図4A】スプレーノズル塗布時における、塗布液滴の飛翔状態と外気の引込状態について説明する図であり、(a)は、図1におけるスプレーノズルの拡大断面図であり、(b)は、外気引込流路を3組有する形態における同断面図である。
図4B】スプレーノズル塗布時における、塗布液滴の飛翔状態と外気の引込状態について説明する図であり、(c)は、図1における外気引込流路の断面図であり、(d)、(e)は、エア吐出口と外気引込口とが略同一の幅でない場合における同断面図である。
図5】スプレーノズルの特徴的な寸法を示す、スプレーノズルの拡大断面図である。
図6図1のスプレーノズル塗布時における、塗布液滴の飛翔状態と外気の引込状態について説明する、スプレーノズルの幅方向端部における拡大前面図である。
図7】スプレーノズルの分解斜視図である。
図8】整流板と外気遮断壁の着脱手段を備えた形態のスプレーノズルの側面図である。
図9】本発明のスプレーノズルを用いた塗布装置の概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者等は、上記の課題について鋭意検討を行った結果、スプレーノズルからエアが吐出された際に引き込まれる、スプレーノズル設置雰囲気中の外気流れの制御に着眼するに至り、より具体的には、外気の引き込みを部分的に遮断し、且つ非遮断部では外気を整流化しながら引き込むことによって、吐出エアの直進性を維持し、塗布膜の均一性を向上できることを見出し本発明に到達した。
【0017】
なお、本発明に用いるエアや外気の気体成分としては、塗布に適した気体であれば特に制限はなく、空気や窒素ガス等を用いることができる。また、外気の雰囲気圧としては特に制限はなく、大気圧環境下や減圧環境下等とすることができる。
【0018】
また、スプレー塗布に用いる塗布液としては特に制限はなく、有機物の溶液、あるいは無機物や有機物をバインダーと溶剤に分散させたスラリー等が挙げられる。塗布液の粘度としては、吐出エアの打力によって塗布液を微細化できる程度に低い粘度が必要であり、一般的に500mPas以下とすることが好ましい。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明は本発明の理解を容易にするために記載したものであり、本発明を何ら限定するものではない。本発明の権利範囲は、以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0020】
〔スプレーノズル〕
図1は、本発明のスプレーノズルの概略構成を示す斜視図である。このスプレーノズル10は、スプレーノズル本体である本体筐体11、整流板20a、20b、および外気遮断壁23L、23R(23Rは断面表示により図示されない)から構成されている。スプレーノズル10は、長尺基材40の搬送方向Dと直交する方向、すなわち基材40の幅方向に長手方向を持ち、基材40の塗布面に対向するように、基材40と一定の距離を設けて配置されている。塗布液は、本体筐体11の幅方向の中央に設けられた塗布液供給口16から供給され、塗布液マニホールド18で幅方向に拡幅され、塗布液吐出口31から吐出される。また、エアは、本体筐体11の前面と後面の幅方向の中央にそれぞれ設けられたエア供給口15a、15bから供給され、エアマニホールド17a、17bで幅方向に拡幅され、エア吐出口33a、33bから吐出され、塗布液吐出口31から吐出された塗布液をエアの打力で液滴化する。液滴化された塗布液は、吐出エアの流れに乗って搬送される基体40上に付着することにより、塗布膜41が形成される。
【0021】
さらにスプレーノズル10は、一対の外気引込流路24a、24bを有している。外気引込流路24a、24bは、本体筐体11と本体筐体11の外面Aに略平行に配された整流板20a、20bとによって形成される、幅方向を長手方向とする隙間である。また外気引込流路24a、24bの、エア吐出口33a、33b近傍の開口部が外気引込口25a、25bとなっている。エア吐出口33a、33bからエアが吐出されると、噴流の引き込み効果によって、外気が外気引込流路24a、24bを通り、外気引込口25a、25bから出て、エア吐出口33a、33bから吐出されているエアに引き込まれる。
【0022】
図2(a)は、スプレーノズルを塗布液吐出口側から見た底面図であり、塗布液吐出口、エア吐出口、外気引込口、および外気遮断壁の配置を示す。図2(b)は、図2(a)の外気引込口の形態が異なるスプレーノズルを示した図である。また、図3は外気遮断壁の特徴を説明するスプレーノズルの側面図である。
【0023】
図2(a)に示すスプレーノズル10の底面において、塗布液吐出口31は矩形の開口端を有しており、塗布液吐出幅W1となるように幅方向に等間隔で複数並んでいる。各塗布液吐出口31の幅W2は、使用する塗布液の粘度によって最適な値が異なるが、100μm以上、400μm以下とすることができ、塗布液吐出口31の配列ピッチL2は、塗布膜の幅方向均一性の観点から10mm以下であることが好ましい。
【0024】
次に塗布液吐出口31の近傍で、塗布液吐出口31を挟み込むようにエア吐出幅W3の一対のスリット形状のエア吐出口33a、33bが配列されている。このとき各塗布液吐出口31から吐出されるすべての塗布液を均等にエアの打力で微細化するために、エア吐出幅W3は塗布液吐出幅W1よりも長くなっている。なお、エア吐出口33a、33bは図2(a)に示すように幅方向に渡って連続する1つのスリットで開口してもよいし、塗布液吐出口31に一対一に対応して、間欠状に開口してもよい。間欠状に開口する場合は、円形、楕円形等であってもよい。間欠状に開口させる場合は、幅方向の開口長さをW2より大きくすることが好ましい。
【0025】
次にエア吐出口33a、33bの近傍で、エア吐出口33a、33bを挟みこむように、幅W4の一対の外気引込口25a、25bが配列されている。このとき、エア吐出口33a、33bに幅方向で均一に外気を引き込むために、W4はエア吐出口幅W3と略同一である。W4とW3が略同一であるとは、製作上の誤差を許容し、幅方向における、エア吐出口の一端とその近傍に存在する外気引込口の一端との距離が、10mm以下であることを意味しており、この範囲内であれば外気を均一に引き込むための必要な条件を満たす。なお、外気引込口25a、25bの形状は、図2(a)に示すように外気の整流化効果を大きくしつつ引込流量も大きくするために、幅方向に渡って連続して幅方向が長辺方向のスリット形状であることが好ましいが、図2(b)のように間欠で開口していても良い。なお、外気引込口25a、25bは、間欠で開口している場合には、開口部が塗布液吐出口31に一対一に対応していなくてもよい。また、各開口部の形状が円形、楕円形等であってもよい。
【0026】
外気遮断壁23L、23Rは、エア吐出口33a、33bの幅方向両端部近傍で、エア吐出口33a、33bの幅方向の一端よりも外側に配置されている。外気遮断壁23L、23Rのエア吐出口33a、33bに向く面Bは、スプレーノズル10の幅方向に略直交している。なお、略直交であるとは、製作上の誤差を許容し、面Bの法線と幅方向のなす角度が5度以下であることを意味する。また、図3に示すように外気遮断壁23Rは、エア吐出口33a、33bよりもエア吐出方向に延在している。これによりスプレーノズルを幅方向から見たときに、外気引込口25a、25b、塗布液吐出口31、およびエア吐出口33a、33bを覆う形状となっており、エア吐出口33a、33bからエアが吐出された際にエア吐出口33a、33bの幅方向の一端よりも幅方向の外側から引き込まれる外気の流量を低減する。
【0027】
図4Aは、スプレーノズル塗布時における、塗布液滴の飛翔状態と外気の引込状態について説明する図であり、(a)は、図1におけるスプレーノズルの拡大断面図であり、(b)は、外気引込流路を3組有する形態における同断面図である。図4Bは、スプレーノズル塗布時における、塗布液滴の飛翔状態と外気の引込状態について説明する図であり、(c)は、図1における外気引込流路の断面図であり、(d)、(e)は、エア吐出口と外気引込口とが略同一の幅でない場合における同断面図である。
【0028】
図4A(a)に示すスプレーノズル10では、塗布液吐出口31より塗布液Fが吐出され、さらに一対のエア吐出口33a、33bよりエアGが吐出される。吐出された塗布液Fは吐出エアの打力によって微細な塗布液滴42となり、基材40に向かってエアGと共に基材に向かって飛翔し、塗布膜41を形成する。なお、エア吐出口33a、33bから吐出されるエアGの供給条件は、所望の塗布液種類、塗布膜厚等により一概に規定できないが、液滴を微細化する打力を維持しつつ、使用するエア流量を最小化する観点から、概ねエアマニホールドで計測される圧力は50kPaから200kPaの範囲が好ましく、エア流量は、エア吐出幅1m当たり500NL/min以上1200NL/min以下であることが好ましい。
【0029】
エアGが吐出されたとき、吐出エア噴流の引き込み効果によって、外気O1が外気引込流路24a、24bを通り、また、外気O2が整流板20a、20bの外縁に沿ってエア吐出口33a、33bに引き込まれる。外気O1は、外気引込流路24a、24bを通過する際に流路抵抗を受けるため、幅方向に均一に整流化、すなわち引き込み速度が幅方向で均一化され、さらに幅方向の速度が低減される。その結果、図4B(c)に示すように、外気O1は、吐出エアGの直進性を幅方向で乱すことなく、吐出エアGに随伴する。吐出エアGの直進性が幅方向で乱れないので、塗布液吐出口31から基材40に向かう塗布液滴42の直線性が保たれ、基材40に塗布される塗布膜41が均一となる。
【0030】
一方、図4B(d)に示すように、エア吐出口33aよりも外気引込口の幅が短い場合、エア吐出口の近傍に外気引込口が存在しない領域が存在する。そのような領域では、外気引込流路で整流化された外気が吐出エアに随伴しないため、吐出エアが乱れるおそれがある。また、図4B(e)に示すように、エア吐出口33aよりも外気引込口の幅が長い場合、外気引込口の近傍にエア吐出口が存在しない領域が存在する。そのような領域で外気引込流路を通過する外気は、最も近くに存在する吐出エア、すなわちエア吐出口33aの幅方向の両端部に向かって引き込まれることになる。そのため、外気引込流路通過中に幅方向の外気の移動が生じ、外気引込流路の整流化効果が得られなくなるおそれがある。エア吐出口と外気引込口とが略同一の幅であることで、エア吐出口33a、33bの幅方向いずれの位置においても同等に外気が引き込まれるため、吐出エアGの直進性が幅方向で乱れることがない。
【0031】
また、図4A(b)に示すように、さらに整流板21a、21b、22a、22bを配して、一対の外気引込流路24a、24bをエア吐出方向に複数組有することが好ましい。図4A(b)の形態では、一対の外気引込流路24a、24bを3組有している。外気引込流路24a、24bを複数組備えることで各外気引込流路の整流化効果を維持しつつ、整流化できる外気O1の流量を大きくすることができるため、吐出エアGの基材への直進性をより一層高めることができる。外気引込流路24a、24bの数についてより好ましくは3組以上、5組以下である。
【0032】
なお、前述の特許文献3に開示されているスプレーノズルでは、圧搾空気を補助エアノズルに供給するなどして、補助エアノズルから強制的に補助エアを噴出しているが、それによって引き込まれる外気は、ノズル周囲の空間から幅方向速度をもった状態で補助エアに随伴するため、吐出エアに随伴するエア(補助エアと外気)の直進性は維持されない。一方で、本発明のスプレーノズルでは、吐出エア噴流の引き込み効果によって、外気O1が外気引込流路24a、24bを通り、外気引込口25a、25bから出て行く。そのため、外気引込流路24a、24bを通過する際に十分に流路抵抗を受けるので、幅方向に均一に整流化、すなわち引き込み速度が幅方向で均一化され、さらに幅方向の速度が低減される。この外気O1が、吐出エアに随伴するエアの大半を占めるため、吐出エアに随伴するエア(外気)の直進性は維持される。
【0033】
図5は、スプレーノズルの特徴的な寸法を示す、スプレーノズルの拡大断面図である。図5において、塗布液吐出口31とエア吐出口33a、33bがなす角度θ1は、15度以上、45度以下が好ましい。θ1が15度以上であると、エア吐出口33a、33bから吐出されるエアによって、塗布液滴を液滴化するのに十分な打力を塗布液に与えることができる。θ1が45度以下であると、基材進行方向へ飛翔する塗布液滴が少ないため、基材に付着せずに飛散する塗布液滴も少なく、塗布液の使用効率は低下しない。
【0034】
塗布液吐出口31の間隙L1は、使用する塗布液の粘度によって最適な値が異なるが、50μm以上、200μm以下とすることができる。
【0035】
エア吐出口33a、33bの間隙L3は、100μm以下が好ましい。L3が100μm以下であると、吐出エアの平均流速が十分に大きく、塗布液に与えるエアの打力も十分に大きくなるので、塗布液滴を液滴化できる。さらに、塗布液滴を液滴化するためのエアの量も少なくて済む。
【0036】
塗布液吐出口31とエア吐出口33a、33bの間隔L4は、100μm以下が好ましい。L4が100μm以下であると、塗布液に与えるエアの打力を十分に大きくすることができる。
【0037】
エア吐出口33a、33bと外気吸気口25a、25bの間隔L5は、外気引込流量を大きくする観点から狭い方が良く、5mm以下が好ましい。
【0038】
外気引込流路24a、24bの短辺方向の長さL6は、1mm以上、20mm以下が好ましく、より好ましくは3mm以上7mm以下である。L6が1mm以上であると外気引込流路を通過する外気流量を大きくすることができる。L6が20mm以下であると外気の整流化効果を大きくすることができる。
【0039】
外気引込流路長さL7は、外気の整流化効果を大きくする観点から20mm以上が好ましい。
【0040】
エア吐出口と外気引込口がなす角度θ2は、特に制限がなく、0度以上、45度以下とすることができる。
【0041】
図6は、図1のスプレーノズル塗布時における、塗布液滴の飛翔状態と外気の引込状態について説明する、スプレーノズルの幅方向端部における拡大前面図である。図6において、エアにより微細液滴化された塗布液滴42が吐出されたエアGと共にスプレーノズル10から飛翔する際、外気遮断壁23Lよりも幅方向の外側に存在する外気O3は、外気遮断壁23Lの存在により、外気遮断壁先端部Cまで引き込まれ、その後、吐出エアGに合流して随伴する。外気遮断壁先端部Cでの吐出エア流速は、エア吐出口33a、33b近傍の流速よりも十分に低下しているため、引き込まれる外気流量は、外気遮断壁23L、23Rが無い場合に比べて低減され、吐出エアGの直進性への影響を低減できる。上述した外気引込流路24a、24bを有する効果と同じく、吐出エアGの直進性が乱れないので、塗布液滴42の直線性が保たれ、基材に塗布される塗布膜が均一となる。
【0042】
なお、エア吐出口33a、33bの幅方向の両端部近傍から吐出されたエアGは、コアンダ効果によって、外気遮断壁23Lのエア吐出口33a、33bに向く面Bに沿って流れるため、面Bが幅方向に略直交でない場合、そのエアは幅方向や基材進行方向の速度を付加されてしまい直進性が悪化するおそれがある。面Bが幅方向に略直交、すなわちエア吐出方向と基材進行方向のいずれにも平行であることで、両端部近傍から吐出されたエアGの直進性が乱れないので、塗布液滴42の直線性が保たれ、基材に塗布される塗布膜が均一となる。
【0043】
外気遮断壁23Lのエア吐出口33a、33bに向く面Bとエア引込流路24aの一端との距離L8は5mm以下が好ましい。L8が大きい、すなわち外気遮断壁23Lとエア吐出口33a、33bとの一端の間に大きな空間があると、その空間を通って引き込まれる外気が発生し、吐出エアの直進性が悪化する恐れがある。L8を5mm以下とすることで、そのような外気の発生を低減し、吐出エアの直進性への影響を小さくできる。
【0044】
エア吐出口33a、33bから外気遮断壁先端部Cまでの距離L9は、20mm以上が好ましい。20mm以上であると外気遮断壁先端部Cでの吐出エア流速が十分に低下しているため、引き込む外気流量の低減効果が十分に得られる。
【0045】
図7はスプレーノズルの構成を説明する分解斜視図である。図7において、スプレーノズルの本体筐体11は、符号12、13a、13b、14aおよび14bの部品から構成されている。符号13a、13bは、塗布液マニホールドと塗布液吐出口を形成するための内側ブロックである。片方の内側ブロック13aは、塗布液を受け入れる塗布液供給口16と塗布液を幅方向に拡幅する塗布液マニホールド18を有しており、塗布液供給口16は塗布液マニホールド18まで連通している。次に符号12は内側ブロック13a、13bに挟まれる櫛形状のシムであり、内側ブロック13a、13b、およびシム12が合わさったとき、シム12の櫛歯間の隙間によって幅方向に複数の塗布液吐出口が形成される。符号14a、14bは外側ブロックであり、内側ブロック13a、13bとそれぞれ合わさることでエアを吐出するエア吐出口を形成する。この場合のエア吐出口の形状は幅方向に渡って連続する1つのスリットである。それぞれの外側ブロック14a、14bは、エアを受け入れるエア供給口15a、15bと、外側ブロック14a、14bとの合わせ面側にエアを幅方向に拡幅するエアマニホールド17a、17bを有しており、エア供給口15a、15bはエアマニホールド17a、17bまで連通している。次に、符号20a、20bは整流板であり、本体筐体11と合わせることで外気引込流路と外気引込口を形成する。符号23L、23Rは外気遮断壁であり、外気遮断壁23L、23Rと、本体筐体11および整流板20a、20bは、外気の流入を防止するために隙間なく接合される。
【0046】
なお、図7では外気遮断壁と整流板を別の部品として示しているが、これらが一体物の部品より構成されていてもよく、その場合、外気引込流路となるスリットの幅方向端面と、外気遮断壁の面Bを同一面とすることができる。
【0047】
図8は、図1のスプレーノズルにおいて、さらに外気引込流路と外気遮断壁の着脱手段を備えたスプレーノズルの側面図である。図8に示す外気遮断壁23Rと整流板20a、20bは、スプレーノズルの本体筐体11の側面に備えた着脱機構50によって、接合部51を介して、エア吐出方向に前後移動可能に接続されており、図示しない駆動手段によって外気遮断壁23Rと整流板20a、20bを本体筐体11に対して着脱できる。この着脱手段50によって外気遮断壁23Rと整流板20a、20bを外すことで、塗布液吐出口31が塗布液で汚れた際に、効率的に清掃を行うことが可能である。なお、着脱機構50の駆動手段に関しては特に制限はなく、電気や加圧エアを動力源とした、スライダー、シリンダー等を用いることができる。また、着脱はエア吐出方向に垂直な方向に移動させて行っても良いし、回転による移動であっても良い。
【0048】
〔スプレー塗布装置〕
図9は、本発明のスプレーノズルを用いた塗布装置の概略構成を示す側面図である。図9のスプレー塗布装置60は、スプレーノズル10を有する塗布手段80と、スプレーノズル10に塗布液とエアを供給する供給手段70と、基材の搬送手段であるフィードロール61とからなる。
【0049】
塗布手段80は、スプレーノズル10と、基材の支持手段であるバックアップロール81と、それらの周囲を覆うブース82と、廃液回収タンク83と、減圧手段84とから構成される。バックアップロール81は、スプレーノズルの塗布部において、搬送される基材を支持する。また、ブース82は、基材40が通過する入口開口部85、出口開口部86等を除きブース82内部を略密閉系としており、スプレーノズル10から吐出される塗布液滴の塗布手段80外への飛散を防止する。ブースの下部開口部87は廃液回収タンク83と連通しており、ブース内で生じた余分な塗布液は、ブース内の斜面88に沿って落下し、下部開口部87を介して排液回収タンク83に回収される。また、ブースの背部開口部89は、吸気管90を介して減圧手段84に接続している。減圧手段84の駆動により、ブース内を減圧環境下にすると、入口開口部85、出口開口部86ではブース内部への外気流れが生じるため、スプレーノズル10から吐出された塗布液のブース外への飛散を防止できる。
【0050】
供給手段70は、塗布液タンク71と定量ポンプ72によって塗布液を、塗布液配管73を介してスプレーノズル10に供給する。また、加圧エア源74と圧力調整弁75によって圧力調整されたエアを、エア配管76、分岐管77を介してスプレーノズル10に供給する。
【0051】
搬送手段であるフィードロール61は、図示しない駆動手段と連結されている。駆動手段によってフィードロール61を回転させることで任意の搬送速度で基材40を搬送方向Dに搬送する。
【0052】
このスプレー塗布装置60によって、基材40上に均一な塗布膜41を形成し、塗布膜付き部材43を製造することができる。なお、塗布装置60から搬送された塗布膜付き部材43に対して、さらに塗布膜41を乾燥させる乾燥手段を備えていても良い。乾燥手段における塗布膜の乾燥方法は特に限定されるものではなく、熱風などの熱媒体を送風する方法や熱ヒーターを用いる熱オーブン方式などを用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
10 スプレーノズル
11 本体筐体
12 シム
13a、13b 内側ブロック
14a、14b 外側ブロック
15a、15b エア供給口
16 塗布液供給口
17a、17b エアマニホールド
18 塗布液マニホールド
20a、20b、21a、21b、22a、22b 整流板
23L、23R 外気遮断壁
24a、24b 外気引込流路
25a、25b 外気引込口
30 塗布液吐出部
31 塗布液吐出口
32 エア吐出部
33a、33b エア吐出口
40 基材
41 塗布膜
42 塗布液滴
43 塗布膜付き基材
50 着脱手段
51 接合部
60 スプレー塗布装置
61 フィードロール
70 供給手段
71 塗布液タンク
72 定量ポンプ
73 塗布液配管
74 加圧エア源
75 圧力調整弁
76 エア配管
77 分岐管
80 塗布手段
81 バックアップロール
82 ブース
83 排液回収タンク
84 減圧手段
85 入口開口部
86 出口開口部
87 下部開口部
88 ブース斜面
89 背部開口部
90 吸気管
A 外面
B 外気遮断壁のエア吐出口を向く面
C 外気遮断壁先端部
D 搬送方向
F 塗布液
G エア
O1、O2、O3 外気
W1 塗布液吐出口幅
W2 塗布液吐出口幅
W3 エア吐出口幅
W4 外気引込口幅
L1 塗布液吐出口厚み
L2 塗布液吐出口配列ピッチ
L3 エア吐出口厚み
L4 塗布液吐出口とエア吐出口の間隔
L5 エア吐出口と外気引込口の間隔
L6 外気引込流路の短辺方向長さ
L7 外気引込流路の長辺方向長さ
L8 外気遮断壁とエア吐出口の一端の間隔
L9 外気遮断壁先端からエア吐出口までの距離
θ1 エア吐出角
θ2 外気引き込み角
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9