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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】衝突回避支援装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20241106BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20241106BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20241106BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W50/14
G08G1/16 C
B60T7/12 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021023243
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125580
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】陳 希
(72)【発明者】
【氏名】新保 祐人
(72)【発明者】
【氏名】小名木 努
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/159288(WO,A1)
【文献】特開2020-190845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60T 7/12- 8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方を少なくとも含む所定の前方範囲に存在する物標を検出し、当該検出された物標に関する情報を前方物標情報として取得する前方物標情報取得装置と、
自車両の斜め前方及び側方を少なくとも含む所定の前側方範囲に存在する物標を検出し、当該検出された物標に関する情報を前側方物標情報として取得する前側方物標情報取得装置と、
前記自車両の速度と、前記自車両のヨーレート又は前記自車両の操舵操作に基づく入力値である操舵入力値の少なくとも一方と、を含む車両情報を取得する車両情報取得装置と、
前記前方物標情報及び前記前側方物標情報に基づいて前記自車両が物標と衝突する可能性があると判定した場合に成立する衝突条件を当該物標が満たすとき、前記自車両の運転者に警報を発する警報制御、及び、前記自車両に自動的に制動力を付与する自動制動制御の少なくとも一方を衝突回避支援制御として実行する制御ユニットと、
を備える衝突回避支援装置において、
前記制御ユニットは、
前記前側方物標情報に含まれる物標から所定の選択条件を満たす物標を選択し、当該選択された物標のそれぞれについて前記衝突条件が成立するか否かを判定するように構成され、
前記判定を行う際に、前記車両情報に基づいて前記自車両が旋回中であるか否かを判定し、前記自車両が旋回中でない場合と前記自車両が旋回中である場合とで、前記選択条件を変更
前記自車両が旋回中でないと判定した場合、前記自車両が直進中であるか否かを更に判定し、
前記自車両が直進中である第1の場合、物標が所定の第1速度範囲内の速度を有する第1物標であるときに成立する条件を前記選択条件として含み、
前記自車両が旋回中である第2の場合、物標が、前記第1速度範囲の下限値よりも小さい下限値及び前記第1速度範囲の上限値よりも小さい上限値を有する所定の第2速度範囲内の速度を有する第2物標であるときに成立する条件を前記選択条件として含む、
ように構成された、
衝突回避支援装置。
【請求項2】
請求項に記載の衝突回避支援装置において、
前記制御ユニットは、
前記第1の場合、前記第1物標が前記前側方範囲のうち所定の第1特定範囲に存在するときに成立する条件を前記選択条件として含み、
前記第2の場合、前記第2物標が前記前側方範囲のうち前記第1特定範囲よりも狭い所定の第2特定範囲に存在するときに成立する条件を前記選択条件として含む、
ように構成された、
衝突回避支援装置。
【請求項3】
請求項に記載の衝突回避支援装置であって、
前記車両情報取得装置は、前記操舵入力値を取得し、
前記制御ユニットは、
前記第2の場合、
前記操舵入力値に基づいて前記自車両が旋回を開始した時点から現時点までに旋回した旋回角度を演算し、
前記旋回角度が所定の角度閾値を超えるとき、前記自車両の左斜め前方及び左側方を少なくとも含む左範囲と、前記自車両の右斜め前方及び右側方を少なくとも含む右範囲と、を含む範囲を前記第2特定範囲として設定し、
前記旋回角度が前記角度閾値以下のとき、前記左範囲及び前記右範囲のうち前記自車両の旋回方向側の範囲を前記第2特定範囲として設定する、
ように構成された、
衝突回避支援装置。
【請求項4】
請求項乃至請求項の何れか一項に記載の衝突回避支援装置において、
前記制御ユニットは、
前記第1の場合及び前記第2の場合において前記選択条件を満たす物標数がそれぞれ所定の上限数を超えるとき、前記前側方物標情報に基づいて各物標が継続して検出されているか否かを判定し、当該判定結果に基づいて各物標の信頼度を演算し、
物標が所定の信頼度閾値以上の信頼度を有する高信頼度物標であるときに成立する信頼度条件を前記選択条件として追加する、
ように構成された、
衝突回避支援装置。
【請求項5】
請求項に記載の衝突回避支援装置において、
前記制御ユニットは、
前記前側方物標情報に含まれる物標から前記上限数以下の物標を選択するように構成され、
前記第1の場合、
高信頼度物標数が前記上限数を超えるときは、前記高信頼度物標のそれぞれについて、前記自車両からの距離と、自身の速度と、によって規定される簡易衝突予測時間を演算し、当該簡易衝突予測時間が小さいほど高くなる第1優先度順に前記高信頼度物標を前記上限数の個数だけ選択し、
前記第2の場合、
高信頼度物標数が前記上限数を超えるときは、前記距離が小さいほど高くなる第2優先度順に前記高信頼度物標を前記上限数の個数だけ選択する、
ように構成された、
衝突回避支援装置。
【請求項6】
請求項又は請求項に記載の衝突回避支援装置において、
前記制御ユニットは、
前記前側方物標情報に含まれる物標から前記上限数以下の物標を選択するように構成され、
前記第1の場合、
高信頼度物標数が前記上限数未満のときは、前記信頼度条件を満たさない低信頼度物標のそれぞれについて、前記自車両までの距離と、自身の速度と、によって規定される簡易衝突予測時間を演算し、当該簡易衝突予測時間が小さいほど高くなる第1優先度順に、前記高信頼度物標数と低信頼度物標数との和が前記上限数の個数と一致するように前記低信頼度物標を選択し、
前記第2の場合、
高信頼度物標数が前記上限数未満のときは、前記距離が小さいほど高くなる第2優先度順に、前記高信頼度物標数と前記低信頼度物標数との和が前記上限数の個数と一致するように前記低信頼度物標を選択する、
ように構成された、
衝突回避支援装置。
【請求項7】
請求項に記載の衝突回避支援装置において、
前記制御ユニットは、
前記第2の場合、物標が前記第2物標であるときに成立する条件に加え、前記前側方範囲のうち所定の第1特定範囲に存在する前記第1物標を所定の上限数よりも少ない所定の個数だけ選択するという条件を前記選択条件として含む、
ように構成された、
衝突回避支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の斜め前方及び側方を少なくとも含む範囲である前側方範囲に存在する物標との衝突を回避したり、衝突による衝撃を軽減したりするための衝突回避支援制御を実行可能な衝突回避支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の周囲に車両が衝突する可能性(以下、「衝突可能性」とも称する。)がある物標が存在する場合に衝突回避支援制御を行う衝突回避支援装置が知られている。衝突回避支援装置は、車両の周囲に存在する物標を検出し、当該物標に関する情報(物標情報)を取得する物標情報取得装置を備える。衝突回避支援装置は、物標情報に含まれる各物標について衝突条件(衝突可能性がある場合に成立する条件)が成立するか否かを判定し、衝突条件が成立する物標に対して衝突回避支援制御を実行する。この構成によれば、物標情報取得装置により検出される物標数が多くなると物標情報の情報量が多くなるので、衝突条件が成立するか否かの判定に係る処理負荷が増大する。そのため、より高性能の演算装置が必要となる。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、物標情報の情報量を低減する車両制御装置(以下、「従来装置」と称する。)が開示されている。従来装置が備える物標情報取得装置は、複数のセンサから構成されている。このため、複数のセンサの検出範囲が重複する部分に存在する物標を検出する場合、各センサの測距タイミングのずれ又は測距誤差等に起因して、各センサの物標情報に含まれる物標の位置(座標)が互いに異なり、結果として複数の位置が検出される事態が生じ得る。各センサには、物標の検出精度を反映した信頼度が予め付与されている。従来装置は、上記の事態が生じると、最も信頼度が高いセンサの物標情報を採用し(即ち、当該物標情報に含まれる物標の座標を選択し)、残りのセンサの物標情報は除外し、これにより物標情報の情報量を低減するように構成されている。なお、特許文献1では、物標情報取得装置及び物標情報は、それぞれ「周囲情報センサ」及び「周囲情報」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6758438号公報
【発明の概要】
【0005】
従来装置によれば、1つの物標に関する物標情報の情報量が不要に増大してしまう可能性は抑制できるものの、複数の物標に関する物標情報の情報量を低減することについては何らの検討もされていない。このため、従来装置では上述した問題(検出物標数が多い場合に衝突回避支援制御の安定性が低下する可能性があるという問題)を解決することはできない。
【0006】
そこで、係る衝突回避支援装置は、検出物標数が多い場合、所定の選択条件を満たす物標を選択し、選択されなかった物標を物標情報から除外することにより、物標情報の情報量を低減するように構成され得る。
【0007】
しかしながら、物標情報取得装置が車両の前側方範囲に存在する物標を検出するように構成されている場合、一律に設定された選択条件では、衝突可能性がある物標を適切に選択できない可能性がある。即ち、衝突可能性が比較的に低い物標が選択される一方で、衝突可能性がある物標が選択されない可能性がある。この場合、物標情報の情報量は低減できるものの、衝突回避支援制御を適切に実行できない可能性がある。
【0008】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、車両の前側方範囲に存在する物標を検出可能な前側方物標情報取得装置を備える衝突回避支援装置において、検出物標を適切に選択することにより、処理負荷を低減しつつ、衝突回避支援制御を適切に実行できる技術を提供することにある。
【0009】
本発明による衝突回避支援装置(以下、「本発明装置」と称する。)は、
自車両の前方を少なくとも含む所定の前方範囲(Rf)に存在する物標を検出し、当該検出された物標に関する情報を前方物標情報として取得する前方物標情報取得装置(11、12)と、
自車両の斜め前方及び側方を少なくとも含む所定の前側方範囲(Rs、Rt)に存在する物標を検出し、当該検出された物標に関する情報を前側方物標情報として取得する前側方物標情報取得装置(13L、13R)と、
前記自車両の速度と、前記自車両のヨーレート又は前記自車両の操舵操作に基づく入力値である操舵入力値の少なくとも一方と、を含む車両情報を取得する車両情報取得装置(14、15、16)と、
前記前方物標情報及び前記前側方物標情報に基づいて前記自車両が物標と衝突する可能性があると判定した場合に成立する衝突条件を当該物標が満たすとき、前記自車両の運転者に警報を発する警報制御、及び、前記自車両に自動的に制動力を付与する自動制動制御の少なくとも一方を衝突回避支援制御として実行する制御ユニット(10)と、
を備える衝突回避支援装置において、
前記制御ユニット(10)は、
前記前側方物標情報に含まれる物標から所定の選択条件を満たす物標を選択し、当該選択された物標のそれぞれについて前記衝突条件が成立するか否かを判定するように構成され、
前記判定を行う際に、前記車両情報に基づいて前記自車両が旋回中であるか否かを判定し、前記自車両が旋回中でない場合と前記自車両が旋回中である場合とで、前記選択条件を変更
前記自車両が旋回中でないと判定した場合、前記自車両が直進中であるか否かを更に判定し、
前記自車両が直進中である第1の場合、物標が所定の第1速度範囲内の速度を有する第1物標(40)であるときに成立する条件を前記選択条件として含み、
前記自車両が旋回中である第2の場合、物標が、前記第1速度範囲の下限値よりも小さい下限値及び前記第1速度範囲の上限値よりも小さい上限値を有する所定の第2速度範囲内の速度を有する第2物標(50、60、61)であるときに成立する条件を前記選択条件として含む、
ように構成されている。
【0010】
前側方範囲に存在する物標のうち、旋回中でない場合に衝突可能性がある物標と、旋回中である場合に衝突可能性がある物標とは、互いに異なる特徴(例えば、速度及び位置)を有する。このため、旋回中でない場合と旋回中である場合とで選択条件を変更することにより、衝突可能性がある物標がより選択され易くなる。この構成によれば、処理負荷を低減しつつ(即ち、衝突条件の成立可否の判定対象となる物標数を減らしながら)、衝突回避支援制御を適切に実行することができる。
【0012】
自車両が直進中の場合(第1の場合)に衝突可能性がある物標は、典型的には、交差点進入時に左右の死角から比較的に高速で自車両に接近してくる物標である。一方、自車両が旋回中の場合(第2の場合)に衝突可能性がある物標は、典型的には、交差点を右左折するときに車線を比較的に低速で横断している物標、又は、横断しようとしている物標である。ここで、第2速度範囲の上限値及び下限値は第1速度範囲の上限値及び下限値よりも小さいので、第1物標は、第2物標よりも高速で移動する物標である。従って、上記の構成によれば、第1の場合及び第2の場合の何れにおいても、衝突可能性がある物標を優先的に(適切に)選択できる。
【0013】
本発明の一側面において、
前記制御ユニット(10)は、
前記第1の場合、前記第1物標(40)が前記前側方範囲のうち所定の第1特定範囲(Rs)に存在するときに成立する条件を前記選択条件として含み、
前記第2の場合、前記第2物標(50、60、61)が前記前側方範囲のうち前記第1特定範囲(Rs)よりも狭い所定の第2特定範囲(Rt)に存在するときに成立する条件を前記選択条件として含む、
ように構成されている。
【0014】
第1物標は第2物標よりも高速で移動するので、第1特定範囲を第2特定範囲よりも広くすることにより、自車両が直進中の場合(第1の場合)において、衝突可能性がある物標が第1特定範囲に含まれなくなってしまう可能性を低減できる。一方、第2物標は第1物標よりも低速で移動するので、第2特定範囲を第1特定範囲よりも狭くすることにより、衝突可能性が低い物標が第2特定範囲に含まれてしまう可能性を低減できる。このため、上記の構成によれば、第1の場合及び第2の場合の何れにおいても、衝突可能性がある物標を優先的に選択できる。
【0015】
本発明の一側面において、
前記車両情報取得装置(16)は、前記操舵入力値を取得し、
前記制御ユニット(10)は、
前記第2の場合、
前記操舵入力値に基づいて前記自車両が旋回を開始した時点から現時点までに旋回した旋回角度(θ)を演算し、
前記旋回角度(θ)が所定の角度閾値(θth)を超えるとき、前記自車両の左斜め前方及び左側方を少なくとも含む左範囲(Rtl)と、前記自車両の右斜め前方及び右側方を少なくとも含む右範囲(Rtr)と、を含む範囲を前記第2特定範囲(Rt)として設定し、
前記旋回角度(θ)が前記角度閾値(θth)以下のとき、前記左範囲(Rtl)及び前記右範囲(Rtr)のうち前記自車両の旋回方向側の範囲を前記第2特定範囲(Rt)として設定する、
ように構成されている。
【0016】
旋回角度が角度閾値を超える場合、衝突可能性がある物標(即ち、交差点を右左折するときに車線を比較的に低速で横断している物標、又は、横断しようとしている物標)は、前方物標情報取得装置では検出し難く、前方範囲の両側に位置している。このため、左範囲と右範囲の両方を含む範囲を第2特定範囲として設定することにより、衝突可能性がある物標を優先的に選択できる。
一方、旋回角度が角度閾値以下の場合、衝突可能性がある物標のうち「自車両が右左折を開始する前の進行方向と同方向に移動する同方向物標」は前方情報取得装置では検出し難く、前方範囲に対して旋回方向側に位置している。しかしながら、「上記進行方向と対向する方向に移動する対向方向物標」は前方情報取得装置により検出可能であり、前方範囲に位置している。このため、左範囲及び右範囲のうち旋回方向側の範囲を第2特定範囲として設定することにより、「前方情報取得装置では検出できないものの衝突可能性がある物標」を優先的に選択できる。
【0017】
本発明の一側面において、
前記制御ユニット(10)は、
前記第1の場合及び前記第2の場合において前記選択条件を満たす物標数がそれぞれ所定の上限数(n)を超えるとき、前記前側方物標情報に基づいて各物標が継続して検出されているか否かを判定し、当該判定結果に基づいて各物標の信頼度を演算し、
物標が所定の信頼度閾値以上の信頼度を有する高信頼度物標であるときに成立する信頼度条件を前記選択条件として追加する、
ように構成されている。
【0018】
この構成によれば、物標の確度が比較的に高い物標を優先的に選択できる。
【0019】
本発明の一側面において、
前記制御ユニット(10)は、
前記前側方物標情報に含まれる物標から前記上限数(n)以下の物標を選択するように構成され、
前記第1の場合、
高信頼度物標数が前記上限数(n)を超えるときは、前記高信頼度物標のそれぞれについて、前記自車両からの距離と、自身の速度と、によって規定される簡易衝突予測時間を演算し、当該簡易衝突予測時間が小さいほど高くなる第1優先度順に前記高信頼度物標を前記上限数(n)の個数だけ選択し、
前記第2の場合、
高信頼度物標数が前記上限数を超えるときは、前記距離が小さいほど高くなる第2優先度順に前記高信頼度物標を前記上限数(n)の個数だけ選択する、
ように構成されている。
【0020】
自車両が直進中の場合(第1の場合)、物標が自車両から比較的に離れた位置に位置していても、当該物標の速度が大きい場合は衝突可能性がある。このため、自車両からの距離だけでなく、自信の速度を因数に含む指標(簡易衝突予測時間)に基づいて高信頼度物標を選択することにより、衝突可能性がある物標を優先的に選択できる。
一方、自車両が旋回中の場合(第2の場合)、物標の速度は、第1の場合の物標の速度よりも小さいので、自車両からの距離に基づいて高信頼度物標を選択することにより、衝突可能性がある物標を優先的に選択できる。
【0021】
本発明の一側面において、
前記制御ユニット(10)は、
前記前側方物標情報に含まれる物標から前記上限数(n)以下の物標を選択するように構成され、
前記第1の場合、
高信頼度物標数が前記上限数(n)未満のときは、前記信頼度条件を満たさない低信頼度物標のそれぞれについて、前記自車両までの距離と、自身の速度と、によって規定される簡易衝突予測時間を演算し、当該簡易衝突予測時間が小さいほど高くなる第1優先度順に、前記高信頼度物標数と低信頼度物標数との和が前記上限数の個数と一致するように前記低信頼度物標を選択し、
前記第2の場合、
高信頼度物標数が前記上限数(n)未満のときは、前記距離が小さいほど高くなる第2優先度順に、前記高信頼度物標数と前記低信頼度物標数との和が前記上限数(n)の個数と一致するように前記低信頼度物標を選択する、
ように構成されている。
【0022】
この構成によれば、信頼度条件を満たす物標(高信頼度物標)が上限数未満であっても、信頼度条件を満たさない物標(低信頼度物標)の中から更に物標を選択できる。このため、選択物標数が極端に少なくなってしまう事態を回避でき、「上限数以下の物標を選択する」という構成を有効に活用できる。
【0023】
本発明の一側面において、
前記制御ユニット(10)は、
前記第2の場合、物標が前記第2物標であるときに成立する条件に加え、前記前側方範囲のうち所定の第1特定範囲(Rs)に存在する前記第1物標(53、62)を所定の上限数(n)よりも少ない所定の個数だけ選択するという条件を前記選択条件として含む、
ように構成されている。
【0024】
自車両が旋回中の場合(第2の場合)、自車両は、第1物標(典型的には、比較的に高速で自車両に接近してくる物標)とも衝突する可能性がある。このため、上記構成によれば、このような第1物標も選択することが可能となるので、衝突回避支援制御をより適切に実行することができる。
【0025】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係る衝突回避支援装置の概略構成図である。
図2】前方レーダセンサ、前方カメラセンサ及び前側方レーダセンサの検出範囲を示す図である。
図3】自車両が直進中の場合に設定される特定範囲を示す図である。
図4】自車両が直進中の場合における物標の選択方法を説明するための図である。
図5A】自車両の旋回度合いが比較的に浅い場合に設定される特定範囲を示す図である。
図5B】自車両の旋回度合いが比較的に深い場合に設定される特定範囲を示す図である。
図6】自車両の旋回度合いが比較的に浅い場合における物標の選択方法を説明するための図である。
図7】自車両の旋回度合いが比較的に深い場合における物標の選択方法を説明するための図である。
図8】衝突回避支援装置の衝突回避支援ECUのCPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
図9A】CPUが実行するルーチン(物標選択処理)を示すフローチャート(その1)である。
図9B】CPUが実行するルーチン(物標選択処理)を示すフローチャート(その2)である。
図10】CPUが実行するルーチン(信頼度処理)を示すフローチャートである。
図11】CPUが実行するルーチン(優先度処理)を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(構成)
以下、本発明の実施形態に係る衝突回避支援装置(以下、「本実施装置」とも称する。)について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施装置は、衝突回避支援ECU10、警報ECU20、及び、ブレーキECU30を備えている。ECU10、20及び30は、マイクロコンピュータを主要部として備えるとともに、図示しないCAN(Controller Area Network)を介して相互に送受信可能に接続されている。なお、ECUは、Electronic Control Unitの略である。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含み、CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。ECU10、20及び30の幾つか又は全ては一つのECUにコントローラとして統合されてもよい。以下では、本実施装置が搭載された車両を「自車両」と称する。
【0028】
衝突回避支援ECU10は、前方レーダセンサ11、前方カメラセンサ12、前側方レーダセンサ13L、前側方レーダセンサ13R、車速センサ14、ヨーレートセンサ15、及び、操舵角センサ16に接続されており、これらのセンサが出力又は発生する信号を所定の周期(本実施形態では、50[ms])が経過する毎に取得するようになっている。以下、衝突回避支援ECU10を、単に「ECU10」とも称する。
【0029】
図2に示すように、前方レーダセンサ11は、自車両のフロントバンパーの中央部に設置されている。前方レーダセンサ11は、自車両の前方範囲(厳密には、自車両の左斜め前方から右斜め前方までの範囲)に存在する物標を検出し、検出された物標に関する情報を取得する機能を有する。具体的には、前方レーダセンサ11は、ミリ波帯の電波を自車両の前方に照射し、物標が存在する場合、その物標からの反射波を受信する。前方レーダセンサ11は、その電波の照射タイミングと受信タイミングと等に基づいて、物標の有無、及び、自車両と物標との相対関係を演算する。自車両と物標との相対関係は、自車両から物標までの距離、自車両に対する物標の方位及び相対速度等を含む。なお、物標は、移動物標(移動中の車両及び歩行者等)及び静止物標(静止中の車両及び歩行者、並びに、ガードレール及び中央分離帯等)を含む。
【0030】
図2の範囲Rfは、前方レーダセンサ11が物標を検出可能な範囲(検出範囲)を示す。範囲Rfは、自車両の前後軸に関して線対称である。前方レーダセンサ11の水平画角は、例えば約100°であり、検出限界距離は、例えば約120[m]である。なお、本明細書では、図面を見易くするため自車両の縮尺と各範囲の縮尺とを変更して図示している。
【0031】
前方カメラセンサ12は、自車両のインナーミラー(ルームミラー/リアビューミラー)の裏面に設置されている。前方カメラセンサ12は、自車両の前方範囲に存在する物標に関する情報を取得する機能を有する。具体的には、前方カメラセンサ12は、自車両前方の風景を撮影し、撮影した画像データに基づいて物標の有無、及び、自車両と物標との相対関係を演算する。前方カメラセンサ12は前方レーダセンサ11から僅かに離れた位置に設置されているものの、本実施形態では、前方カメラセンサ12が物標を検出可能な範囲は、範囲Rfと略同一となるように設定されている。
【0032】
前方レーダセンサ11は、範囲Rfに存在する物標を検出し、当該物標に関する情報を「第1前方物標情報」としてECU10に出力する。前方レーダセンサ11が第1前方物標情報として出力可能な物標の上限数は予め設定されており、例えば17個である。範囲Rfに上限数を超える物標が存在する場合、前方レーダセンサ11は、周知の方法で物標を上限数まで検出する。
同様に、前方カメラセンサ12は、範囲Rfに存在する物標を検出し、当該物標に関する情報を「第2前方物標情報」としてECU10に出力する。前方カメラセンサ12が第2前方物標情報として出力可能な物標の上限数は予め設定されており、例えば17個である。範囲Rfに上限数を超える物標が存在する場合、前方カメラセンサ12は、周知の方法で物標を上限数まで検出する。
【0033】
このように、2種類のセンサ(前方レーダセンサ11及び前方カメラセンサ12)を用いて範囲Rfに存在する物標を検出することにより、物標の検出精度が向上する(後述)。以下では、前方レーダセンサ11及び前方カメラセンサ12を「前方センサ11及び112」と総称する場合がある。
【0034】
前側方レーダセンサ13Lは、自車両のフロントバンパーの左角部に設置されている。前側方レーダセンサ13Lは、自車両の左側の前側方範囲(厳密には、自車両の前方から左斜め後方までの範囲、即ち、自車両の左斜め前方及び左側方を少なくとも含む範囲)に存在する物標に関する情報を取得する機能を有する。
前側方レーダセンサ13Rは、自車両のフロントバンパーの右角部に設置されている。前側方レーダセンサ13Rは、自車両の右側の前側方範囲(厳密には、自車両の前方から右斜め後方までの範囲、即ち、自車両の右斜め前及び右側方を少なくとも含む範囲)に存在する物標に関する情報を取得する機能を有する。
【0035】
前側方レーダセンサ13L及び13Rは、何れも前方レーダセンサ11と同様の方法で物標の有無、及び、自車両と物標との相対関係を演算する。但し、前側方レーダセンサ13L及び13Rは、移動物標のみを検出するように構成されている点で前方レーダセンサ11と相違している。具体的には、前側方レーダセンサ13L及び13Rは、自車両と物標との相対関係に基づいて当該物標の速度(即ち、対地速度)を演算し、当該速度が所定の速度閾値(例えば、2[km/h])以上の移動物標のみを物標として検出する。
【0036】
図2の範囲Rl及び範囲Rrは、それぞれ、前側方レーダセンサ13L及び13Rが物標を検出可能な範囲を示す。範囲Rlと範囲Rrとは、自車両の前後軸に関して線対称である。前側方レーダセンサ13L及び13Rの水平画角は、何れも例えば約150°であり、検出限界距離は、何れも例えば約120[m]である。範囲Rl及び範囲Rrは、範囲Rfよりも自車両の側方側に位置している。範囲Rlと範囲Rrとは、自車両の前方において部分的に重複している。加えて、範囲Rlと範囲Rfとは、自車両の前方から左斜め前方までの範囲において部分的に重複しており、範囲Rrと範囲Rfとは、自車両の前方から右斜め前方までの範囲において部分的に重複している。
【0037】
前側方レーダセンサ13L及び13Rは、範囲Rl及びRrに存在する物標(厳密には、移動物標)をそれぞれ検出し、当該物標に関する情報を「前側方物標情報」としてECU10に出力する。前側方レーダセンサ13L及び13Rが前側方物標情報として出力可能な物標の合計の上限数は予め設定されており、例えば18個である。範囲Rl又は範囲Rrに上限数を超える物標が存在する場合、前側方レーダセンサ13L又は13Rは、周知の方法で物標を上限数まで検出する。前側方レーダセンサ13L及び13Rは、衝突可能性がある物標のうち、主に、前方センサ11、12の検出範囲Rf外に存在している物標を検出する目的で設置されている。
【0038】
車速センサ14は、自車両の走行速度(車速)に応じた信号を発生する。ECU10は、車速センサ14が発生した信号を取得し、当該信号に基づいて車速を演算する。
【0039】
ヨーレートセンサ15は、自車両に作用しているヨーレートに応じた信号を発生する。ECU10は、ヨーレートセンサ15が発生した信号を取得し、当該信号に基づいてヨーレートを演算する。本実施形態では、自車両が右方向に旋回しているときのヨーレートを正の値と規定し、左方向に旋回しているときのヨーレートを負の値と規定する。
【0040】
操舵角センサ16(操舵入力値取得装置)は、自車両の操舵ハンドルの操舵角(操舵入力値)を検出し、その検出信号をECU10に出力する。本実施形態では、操舵ハンドルが右方向に操舵されているときの操舵角を正の値と規定し、左方向に操舵されているときの操舵角を負の値と規定する。
【0041】
警報ECU20は、ブザー21に接続されている。ブザー21は、図示しないメータパネルに内蔵されている。以下、警報ECU20を、単に「ECU20」とも称する。ECU10は、ECU20に対して警報指令(後述)を送信可能に構成されている。ECU20は、警報指令を受信すると、当該指令に応じてブザー21を鳴動させる。これにより、ECU10は、ECU20を介して自車両の運転者に警報を発することができる。
【0042】
ブレーキECU30は、ブレーキアクチュエータ31に接続されている。ブレーキアクチュエータ31は、ブレーキペダルの踏力によって作動油を加圧するマスタシリンダ(図示省略)と、各車輪に設けられた摩擦ブレーキ機構32との間の油圧回路に設けられる。摩擦ブレーキ機構32は、車輪に固定されるブレーキディスク32aと、車体に固定されるブレーキキャリパ32bとを備え、ブレーキアクチュエータ31から供給される作動油の油圧によってブレーキキャリパ32bに内蔵されたホイールシリンダを作動させることによりブレーキパッドをブレーキディスク32aに押し付けて摩擦制動力を発生させる。以下、ブレーキECU30を、単に「ECU30」とも称する。
【0043】
ECU10は、ECU30に対して制動指令(後述)を送信可能に構成されている。ECU30は、制動指令を受信すると、当該指令に応じてブレーキアクチュエータ31を駆動(制御)する。これにより、ECU10は、ECU30を介して自車両に制動力を自動的に付与することができる。
【0044】
(作動の詳細)
次に、ECU10の作動の詳細について説明する。ECU10は、前方レーダセンサ11から第1前方物標情報を取得し、前方カメラセンサ12から第2前方物標情報を取得し、前側方レーダセンサ13L及び13Rから前側方物標情報を取得する。ECU10は、これらの物標情報をフュージョン(融合)する。具体的には、範囲Rf、範囲Rl及び範囲Rrのうち少なくとも2つの重複する範囲において重複して検出された物標の複数の物標情報に基づいて、1つの物標情報を生成する。これにより、重複して検出された物標の検出精度(即ち、物標情報の正確性)が向上する。その後、ECU10は、フュージョンされた物標情報に基づいて、物標が衝突条件(衝突可能性がある場合に成立する条件)を満たすか否かを判定し、衝突条件を満たす場合、衝突回避支援制御を実行する。衝突条件については後述する。
【0045】
ここで、物標情報の情報量が多い(即ち、検出物標数が多い)と、その後の処理(即ち、物標情報のフュージョン処理、及び、衝突条件の成立可否の判定処理)を行う負荷(演算負荷)が大きくなる。そこで、ECU10は、前側方物標情報に含まれる物標に対して物標選択処理を行い、当該処理で選択されなかった物標の物標情報を前側方物標情報から除外することにより、その後の処理における負荷を低減するように構成されている。物標選択処理は、物標が所定の上限数n(本実施形態では、4個)以下となるように物標を選択する処理である。以下、当該処理について具体的に説明する。なお、前方物標情報に含まれる物標に対しても物標を選択する別の処理を行ってもよいが、本実施装置は前側方物標情報の情報量を低減することを目的としているので、当該処理については説明を省略する。
【0046】
<物標選択処理>
物標選択処理では、衝突可能性がある物標を優先的に選択し、衝突可能性が比較的に低い物標は除外することが望ましい。衝突可能性がある物標の特徴は、自車両の走行状態によって異なる。具体的には、自車両が直進しているときに(前方センサ11及び12により検出される物標以外で)衝突可能性がある物標は、典型的には、交差点進入時に左右の死角から比較的に高速で自車両に接近してくる物標である。これに対し、自車両が旋回しているときに(前方センサ11及び12により検出される物標以外で)衝突可能性がある物標は、典型的には、交差点を右左折するときに車線を比較的に低速で横断している物標、又は、横断しようとしている物標である。ここで、上記車線は、右左折後に自車両が進入することになる車線を意味する。
【0047】
(物標の速度及び位置による選択)
このため、ECU10は、自車両が直進中の場合と旋回中の場合とで物標を選択する方法を変更する。具体的には、自車両が直進中の場合、ECU10は、前側方物標情報に含まれる物標のうち、「比較的に広い特定範囲Rs(図3及び図4参照。後述。)に存在し且つ比較的に高速で移動する物標」を選択する。以下、比較的に高速で移動する物標を、単に「高速物標」とも称する。一方、自車両が旋回中の場合、ECU10は、「比較的に狭い特定範囲Rt(図5A乃至図7参照。後述。)に存在し且つ比較的に低速で移動する物標」を選択する。以下、比較的に低速で移動する物標を、単に「低速物標」とも称する。本実施形態では、高速物標の速度(対地速度)範囲は、車両の法定速度を含む範囲として設定され、低速物標の速度範囲は、歩行者の平均的な速度を含む範囲として設定される。低速物標の速度範囲の下限値及び上限値は、高速物標の速度範囲の下限値及び上限値よりもそれぞれ小さい。なお、自車両が直進中の場合及び旋回中の場合は、「第1の場合」及び「第2の場合」の一例にそれぞれ相当し、高速物標及びその速度範囲は、「第1物標」及び「第1速度範囲」の一例にそれぞれ相当し、低速物標及びその速度範囲は、「第2物標」及び「第2速度範囲」の一例にそれぞれ相当する。
【0048】
ここで、自車両が直進中であるか否か、及び、旋回中であるか否か、は、自車両の現時点における旋回半径に基づいて判定され得る。即ち、ECU10は、車速センサ14及びヨーレートセンサ15から現時点の車速及びヨーレートをそれぞれ取得し、車速をヨーレートで除算することにより旋回半径rを演算する。自車両が右方向に旋回しているとき、旋回半径rは正の値となり、左方向に旋回しているとき、旋回半径rは負の値となる。ECU10は、旋回半径rの大きさが所定の第1半径閾値r1th以下の場合、自車両は旋回中であると判定し、旋回半径rの大きさが所定の第2半径閾値r2th(>r1th)を超える場合、自車両は直進中であると判定する。一方、r1th<|r|≦r2thが成立する場合、ECU10は、自車両が直進中であるか旋回中であるか特定できないと判定し、物標選択処理を行わずにその後の処理を行う。ここで、r1th<|r|≦r2thが成立する場合とは、例えば、意図しない操舵操作により自車両の転舵輪が一時的に転舵している場合である。なお、車速及びヨーレートは「車両情報」の一例に相当し、車速センサ14及びヨーレートセンサ15は、「車両情報取得装置」の一例に相当する。
【0049】
なお、自車両が直進中であるか否か、及び、旋回中であるか否か、は、旋回半径に基づいて判定される構成に限られず、現時点の車速、操舵角及び操舵角速度に基づいて判定されるように構成されてもよい。操舵角速度は、図示しない操舵角速度センサにより取得され得る。操舵角及び操舵角速度は、自車両の操舵操作(操舵ハンドルの操作)に基づく入力値である「操舵入力値」の一例に相当する。この場合、車速、操舵角及び操舵角速度が「車両情報」の一例に相当し、車速センサ14、操舵角センサ16及び操舵角速度センサが「車両情報取得装置」の一例に相当する。
【0050】
図3に示すように、特定範囲Rsは、範囲Rl及びRr内に設けられる範囲であり、その大きさ及び形状は、実験又はシミュレーションに基づいて、自車両Vが直進中の場合に衝突可能性がある物標の分布を求めることにより決定され得る。高速物標は、単位時間当たりの移動距離が長い。このため、特定範囲Rsは、その径方向の長さが前側方レーダセンサ13L及び13Rの検出限界距離と等しく、且つ、自車両Vの斜め前方及び側方を主に含むように設定される。特定範囲Rsの点P1は、自車両Vの前後軸の延長線上に位置している。自車両Vの前端中央部から点P1までの長さは、自車両Vの走行車線と交差する複数の車線の車線幅に基づいて、例えば約10[m]に設定され得る。
【0051】
図4は、自車両Vが直進中の場合における物標の選択方法の一例を示す。図4に示すように、範囲Rl及びRrには4個の物標40乃至43が存在している(即ち、前側方物標情報には物標40乃至43の物標情報が含まれている。)。物標40及び42は高速物標であり、物標41及び43は低速物標である。
【0052】
ECU10は、これらの物標40乃至43のうち、特定範囲Rsに存在する高速物標である物標40を選択する。選択されなかった物標41乃至43のうち、物標41及び42は範囲Rf(前方センサ11、12の検出範囲)にも存在しているので、前方センサ11、12によって検出される。このように、特定範囲Rsを、「前方センサ11、12によって適切に検出され得る範囲」を含まないように設定することにより、「前方センサ11、12では検出できないものの衝突可能性がある物標」を優先的に選択できるようになっている。一方、物標43は特定範囲Rsに存在しているものの、比較的に低速であり単位時間当たりの移動距離は僅かであるので、自車両Vに接近する方向に移動しても、衝突可能性は極めて低い。このため、特定範囲Rsに存在する低速物標は選択しないようにすることにより、衝突可能性が低い物標を除外できるようになっている。
【0053】
他方、図5A及び図5Bに示すように、特定範囲Rtは、範囲Rl及び/又はRr内に設けられる範囲であり、その大きさ及び形状は、実験又はシミュレーションに基づいて、自車両Vが旋回中の場合に衝突可能性がある物標の分布を求めることにより決定され得る。低速物標は、単位時間当たりの移動距離が短い。このため、特定範囲Rtは、特定範囲Rsよりも狭く、本実施形態では、特定範囲Rs内に含まれるように設定される。特定範囲Rtは、自車両Vの旋回度合いに応じて、左範囲Rtl又は右範囲Rtrの一方だけを含む場合と、左範囲Rtl及び右範囲Rtrの両方を含む場合と、がある。
【0054】
図5Aは、自車両Vが右方向に比較的に浅い旋回度合いで旋回している状況を示し、図5Bは、自車両Vが右方向に比較的に深い旋回度合いで旋回している状況を示す。図5A及び図5Bに示すように、ECU10は、旋回度合いが比較的に浅い場合、左範囲Rlと右範囲Rrのうち旋回方向側の範囲(本例では、右範囲Rtr)を特定範囲Rtとして設定し、旋回度合いが比較的に深い場合、左範囲Rtl及び右範囲Rtrの両方を特定範囲Rtとして設定する。以下では、前者の特定範囲Rtを「旋回方向特定範囲Rt」と称し、後者の特定範囲Rtを「両方向特定範囲Rt」と称する場合がある。旋回度合いの深浅は、旋回角度(自車両Vが旋回を開始した時点から現時点までに旋回した角度)θが所定の角度閾値θthを超えるか否かによって判定され得る。旋回角度θは、自車両Vが旋回を開始した時点から現時点までの移動距離を旋回半径rで除算することにより演算され得る。角度閾値θthは、前方センサ11、12の水平画角に基づいて予め決定され得る。なお、旋回角度θの代わりに、旋回角度関連値が用いられてもよい。この場合、旋回度合いの深浅は、旋回角度関連値が所定の関連値閾値を超えるか否かによって判定され得る。旋回角度関連値は、車速と操舵角(操舵角センサ16から取得される角度)との積を時間積分することにより演算され得る。
【0055】
左範囲Rtlは、範囲Rl内に位置しており、右範囲Rtrは、範囲Rr内に位置している。左範囲Rtlと右範囲Rtrとは、自車両Vの前後軸に関して線対称である。左範囲Rtl及び右範囲Rtrを含む範囲の車幅方向の長さは前後軸方向に亘って一定であり、例えば約25[m]であり、前後軸方向の長さの最大値は、例えば約20[m]である。自車両Vの前端中央部から点P2までの長さは、例えば約5[m]に設定され得る。
【0056】
図6は、右方向への旋回度合いが比較的に浅い場合(θ≦θth)における物標の選択方法の一例を示す。図6に示すように、範囲Rl及びRrには4個の物標50乃至53が存在している(即ち、前側方物標情報には物標50乃至53の物標情報が含まれている。)。物標50乃至52は低速物標であり、物標53は高速物標である。
【0057】
ECU10は、これらの物標50乃至53のうち、旋回方向特定範囲Rt(本例では、右範囲Rtr)に存在する低速物標である物標50を選択する。選択されなかった物標51乃至53のうち、物標51は範囲Rfにも存在しているので、前方センサ11、12によって検出される。このように、特定範囲Rtを、「前方センサ11、12によって適切に検出され得る範囲」を含まないように設定することにより、「前方センサ11、12では検出できないものの衝突可能性がある物標」を優先的に選択できるようになっている。
【0058】
より詳細には、物標50は、自車両Vが右折を開始する前の進行方向と同方向に移動する同方向低速物標であり、物標51は、上記進行方向と対向する方向に移動する対向方向低速物標である。これらの物標50、51は、車線(右折後に自車両Vが進入することになる車線)を横断している物標、又は、横断しようとしている物標であるので、何れも衝突可能性がある。一般に、旋回度合いが比較的に浅い場合、対向方向低速物標(本例では、物標51)は前方センサ11、12によって検出されるので、旋回方向特定範囲Rtは、主に同方向低速物標(本例では、物標50)を検出可能な形状及び大きさに設定される。
【0059】
一方、物標52は、左範囲Rtl(即ち、旋回方向とは反対側の範囲)に存在しているものの、比較的に低速であり単位時間当たりの移動距離は僅かであるので、自車両Vが旋回する方向に移動しても、衝突可能性は極めて低い。このため、左範囲Rtl及び右範囲Rtrのうち旋回方向とは反対側の範囲に存在する低速物標は選択しないようにすることにより、衝突可能性が低い物標を除外できるようになっている。
【0060】
これに対し、物標53は、特定範囲Rsにも存在している高速物標であり、物標50及び51よりは衝突可能性が低いものの、現在の移動状態を継続した場合、自車両Vに衝突(側突)する可能性がある。このため、ECU10は、特定範囲Rtに存在する低速物標数がn未満の場合、特定範囲Rsに存在する高速物標を追加的に選択可能に構成されている(後述)。なお、物標53は、典型的には、自車両Vが右折後に進入することになる車線を自車両Vに接近する方向に走行している車両である。
【0061】
図7は、右方向への旋回度合いが比較的に深い場合(θ>θth)における物標の選択方法の一例を示す。図7に示すように、範囲Rl及びRrには3個の物標60乃至62が存在している(即ち、前側方物標情報には物標60乃至62の物標情報が含まれている。)。物標60及び61は低速物標であり、物標62は高速物標である。
【0062】
ECU10は、これらの物標60乃至62のうち、両方向特定範囲Rtに存在する低速物標である物標60及び61を選択する。より詳細には、物標60は同方向低速物標であり、物標61は対向方向低速物標であり、何れも衝突可能性がある。一般に、旋回度合いが深くなるにつれて、対向方向低速物標(本例では、物標61)は前方センサ11、12によって検出され難くなるので、旋回度合いが比較的に深い場合、両方向特定範囲Rtは、同方向低速物標(本例では、物標60)だけでなく、対向方向低速物標も検出可能な形状及び大きさに設定される。
【0063】
これに対し、物標62は、特定範囲Rsにも存在している高速物標であり、物標60及び61よりは衝突可能性が低いものの、現在の移動状態を継続した場合、自車両Vに衝突(側突)する可能性がある。このため、ECU10は、旋回度合いが比較的に浅い場合と同様、特定範囲Rtに存在する低速物標数がn未満の場合、特定範囲Rsに存在する高速物標を追加的に選択可能に構成されている(後述)。なお、物標62は、典型的には、対向車線(自車両Vが右折を開始する前の走行車線と対向する車線)を自車両Vに接近する方向に走行している車両である。
【0064】
ECU10は、自車両Vが直進中の場合、特定範囲Rs内の物標の中から高速物標をカウントする。高速物標数がn(=4)以下の場合、ECU10は、これらの高速物標を全て選択する。そして、範囲Rl及びRr内に存在する物標の中から選択されなかった物標の物標情報を前側方物標情報から除外(削除)する。以下、選択されなかった物標を「非選択物標」とも称する。図4の例では、特定範囲Rs内の高速物標は物標40のみ(即ち、4個以下)であるので、ECU10は、物標40を選択し、非選択物標41乃至43の物標情報を前側方物標情報から除外する。以下では、「前側方物標情報から非選択物標の物標情報を除外する」ことを、単に「非選択物標を除外する」とも称する。
【0065】
ECU10は、自車両Vが旋回中(旋回度合いの深浅は問わない)の場合、特定範囲Rt内の物標の中から低速物標をカウントする。低速物標数がnに等しい場合、これらの低速物標を全て選択し、非選択物標を除外する。一方、同場合において特定範囲Rt内の低速物標数がn未満のとき、ECU10は、まず、これらの低速物標を全て選択する。そして、特定範囲Rsに高速物標が存在していれば、選択される物標の総数がnに到達するまで高速物標を追加的に選択し、その後、非選択物標を除外する。図6の例では、特定範囲Rt内の低速物標は物標50のみ(即ち、4個未満)であるので、ECU10は、まず、物標50を選択する。そして、特定範囲Rsに高速物標53が存在するので、物標53を追加的に選択し、その後、非選択物標51及び52を除外する。高速物標の追加的な選択方法については後述する。
【0066】
上記説明から明らかなように、ECU10は、自車両Vが直進中の場合において特定範囲Rs内の高速物標数がn未満のときに特定範囲Rsに低速物標が存在していても、当該低速物標を追加的に選択する処理は行わない。自車両Vが直進中の場合、特定範囲Rs内の低速物標に自車両Vが衝突する可能性は極めて低いからである(図4の物標43参照)。
【0067】
(信頼度処理)
これに対し、ECU10は、自車両が直進中の場合において特定範囲Rs内の高速物標数がnを超える場合、これらの高速物標のそれぞれについて信頼度を演算し、信頼度が所定の信頼度閾値以上である物標を抽出する信頼度処理を行う。以下、信頼度の演算方法について具体的に説明する。
【0068】
信頼度は、物標の確度を示す指標であり、0から200ポイントまでの値を取り得る。物標の信頼度の初期値(即ち、前側方レーダセンサ13L及び13Rによって初めて検出された周期における信頼度)は、30ポイントに設定されている。物標が複数の周期に亘って連続的に検出される場合、1周期当たり60ポイントが加算される。但し、信頼度が200ポイントに到達した時点で、それ以上は増加しなくなる。一方、物標が途中で検出されなくなった場合、検出されない期間が1周期だけ継続したときは10ポイント減算され、2周期だけ継続したときは30ポイント減算され、3周期以上継続したときは1周期当たり100ポイント減算される。但し、信頼度が0ポイントに到達した時点で、それ以上は減少しなくなる。
【0069】
例えば、或る物標が初めて検出された周期から更に2周期に亘って連続的に検出された場合、当該物標の信頼度は150ポイント(30+60×2)となり、そこから更に2周期に亘って連続的に検出された場合、当該物標の信頼度は200ポイントとなる。一方、別の或る物標が信頼度200ポイントの時点で2周期の期間だけ検出されなかった場合、当該物標の信頼度は170ポイント(200-30)となり、上記時点で4周期の期間だけ検出されなかった場合、当該物標の信頼度は0ポイント(200-200)となる。なお、信頼度閾値は、実験又はシミュレーションに基づいて、信頼度の初期値(30ポイント)よりも大きい任意の値に設定され得る。
【0070】
ECU10は、上述したようにして各物標の信頼度を演算し、信頼度が信頼度閾値以上である物標(以下、「高信頼度物標」とも称する。)を抽出する。なお、以下では、信頼度が信頼度閾値未満の物標を「低信頼度物標」とも称する。
【0071】
信頼度処理の終了後、ECU10は、抽出された高信頼度物標数がnに等しいとき、これらの高信頼度物標を全て選択し、非選択物標を除外する。例えば、範囲Rl及びRrに高速物標が9個、低速物標が3個存在し、そのうち7個の高速物標が特定範囲Rsに存在する場合において、信頼度処理により抽出された高信頼度物標数が4個(=n)である場合を考える。この場合、ECU10は、これら4個の高信頼度物標を選択し、その後、残り8個の非選択物標(低信頼度物標3個、信頼度処理が行われなかった高速物標2個、低速物標3個)を除外する。
【0072】
これに対し、抽出された高信頼度物標数がnではない場合(即ち、高信頼度物標数がn未満又はnより大きい場合)、ECU10は優先度処理(後述)を行い、選択物標数がnとなるようにする。
【0073】
他方、ECU10は、自車両が旋回中の場合において特定範囲Rt内の低速物標数がnを超える場合、これらの低速物標のそれぞれについて上述した信頼度処理を行う。
【0074】
信頼度処理の終了後、ECU10は、抽出された高信頼度物標数がnに等しいとき、これらの高信頼度物標を全て選択し、非選択物標を除外する。例えば、範囲Rl及びRrに低速物標が11個、高速物標が5個存在し、そのうち9個の低速物標が特定範囲Rtに存在する場合において、信頼度処理により抽出された高信頼度物標数が4個(=n)である場合を考える。この場合、ECU10は、これら4個の高信頼度物標を選択し、その後、残り12個の非選択物標(低信頼度物標5個、信頼度処理が行われなかった低速物標2個、高速物標5個)を除外する。
【0075】
これに対し、抽出された高信頼度物標数がnではない場合(即ち、高信頼度物標数がn未満又はnより大きい場合)、ECU10は優先度処理(後述)を行い、選択物標数がnとなるようにする。
【0076】
(優先度処理)
上述したように、優先度処理は、特定範囲Rs内の高速物標数がnを超える場合(直進中)、又は、特定範囲Rt内の低速物標数がnを超える場合(旋回中)において、信頼度処理により抽出された高信頼度物標数がnではないときに実施される。以下、順に説明する。
【0077】
ECU10は、自車両が直進中の場合において高信頼度物標数がn未満のとき、これらの高信頼度物標を全て選択する。そして、残りの低信頼度物標のそれぞれについて簡易衝突予測時間を演算する。簡易衝突予測時間は、衝突予測時間(自車両が物標に衝突するまでに要すると予測される時間)の簡易版である。簡易衝突予測時間の予測精度は衝突予測時間ほど正確ではないが、比較的に低負荷で自車両が物標に衝突する逼迫度合いを演算することができる。以下では、衝突予測時間を「TTC」(Time To Collision)と称し、簡易衝突予測時間を「簡易TTC」と称する。
【0078】
簡易TTCは、前側方物標情報に基づいて、「自車両から物標までの距離」を「自車両に向かう物標の速度成分」で除算することにより演算され得る。ECU10は、簡易TTCが小さいほど高くなる第1優先度順に、選択物標の総数がnに到達するまで低信頼度物標を選択する。即ち、ECU10は、既に選択されている高信頼度物標数と、第1優先度順に選択する低信頼度物標数との和がnとなるように低信頼度物標を選択する。以上が自車両が直進中の場合において高信頼度物標数がn未満のときの優先度処理である。
【0079】
優先度処理の終了後、ECU10は、非選択物標を除外する。例えば、範囲Rl及びRrに高速物標が9個、低速物標が3個存在し、そのうち7個の高速物標が特定範囲Rsに存在する場合において、信頼度処理により抽出された高信頼度物標数が1個(<n)であるときを考える。この場合、ECU10は、この1個の高信頼度物標を選択するとともに、特定範囲Rs内の6個の低信頼度物標の中から簡易TTCが小さい順に(第1優先度順に)3個の低信頼度物標を選択する。これにより、選択物標の総数が4個となる。その後、ECU10は、残り8個の非選択物標(低信頼度物標3個、信頼度処理が行われなかった高速物標2個、低速物標3個)を除外する。
【0080】
一方、ECU10は、自車両が直進中の場合において高信頼度物標数がnを超えるとき、これらの高信頼度物標のそれぞれについて簡易TTCを演算し、第1優先度順にn個の高信頼度物標を選択する優先度処理を行う。優先度処理の終了後、ECU10は、非選択物標を除外する。例えば、範囲Rl及びRrに高速物標が9個、低速物標が3個存在し、そのうち7個の高速物標が特定範囲Rsに存在する場合において、信頼度処理により抽出された高信頼度物標数が5個(>n)であるときを考える。この場合、ECU10は、これら5個の高信頼度物標の中から第1優先度順に4個の高信頼度物標を選択する。その後、ECU10は、残り8個の非選択物標(高信頼度物標1個、低信頼度物標2個、信頼度処理が行われなかった高速物標2個、低速物標3個)を除外する。
【0081】
これに対し、ECU10は、自車両が旋回中の場合において高信頼度物標数がn未満のとき、これらの高信頼度物標を全て選択する。そして、残りの低信頼度物標を、自車両からの距離が小さいほど高くなる第2優先度順に、選択物標の総数がnに到達するまで選択する。
【0082】
ここで、自車両から複数の低信頼度物標までの距離が同一である場合、選択物標数がnにならないことがある(以下、自車両からの距離が同一である複数の物標を「同一距離物標」とも称する。)。低速物標には、歩行者だけでなく低速で走行する車両も含まれるが、自車両が旋回中の場合、衝突回避支援制御は、車両よりも歩行者に対して優先して実行されることが望ましい。そこで、ECU10は、第2優先度順に低信頼度物標を選択しても選択物標数がnにならない場合、同一距離物標から歩行者を識別し、車両よりも歩行者を優先的に選択して選択物標数をnにするように構成されている。以下、具体的に説明する。
【0083】
まず、ECU10は、同一距離物標のそれぞれについてマイクロドップラー条件が成立するか否かを判定する。マイクロドップラー条件は、マイクロドップラー判定により歩行者を識別できるときに成立する条件である。マイクロドップラー判定は、歩行者を識別するための周知の判定であり、マイクロ波を利用して行われる。即ち、前側方レーダセンサ13L及び13Rは、ミリ波帯の電波に加え、マイクロ波を照射可能に構成されている。或る物標についてマイクロドップラー条件が成立する場合、ECU10は、当該物標(歩行者と識別された物標)を優先的に選択する。
【0084】
同一距離物標の中に複数の歩行者が含まれるか、歩行者が全く含まれないか、等に起因して選択物標数がnにならない場合、ECU10は、同一距離物標のそれぞれについて速度条件が成立するか否かを判定する。速度条件は、基準速度(本実施形態では、例えば5[km/h])に最も近い速度を有する物標が満たす条件である。ECU10は、速度条件が成立する物標を優先的に選択する。
【0085】
同一距離物標の中に速度条件を満たす物標が複数存在することに起因して選択物標数がnにならない場合、ECU10は、同一距離物標のそれぞれについてサイズ条件が成立するか否かを判定する。サイズ条件は、物標の縦、横、高さのそれぞれのサイズが何れも1m以下であるときに成立する条件である。或る物標についてサイズ条件が成立する場合、ECU10は、当該物標を優先的に選択する。上記選択をしても選択物標数がnにならない場合、ECU10は、選択物標数がn以下となるまで、サイズ条件を同時に満たす物標、速度条件を同時に満たす物標、及び、マイクロドップラー条件を同時に満たす物標をこの順に除外していく。以上が自車両が旋回中の場合において高信頼度物標数がn未満のときの優先度処理である。
【0086】
優先度処理の終了後、ECU10は、非選択物標を除外する。例えば、範囲Rl及びRrに低速物標が11個、高速物標が5個存在し、そのうち9個の低速物標が特定範囲Rtに存在する場合において、信頼度処理により抽出された高信頼度物標数が1個(<n)であるときを考える。この場合、ECU10は、この1個の高信頼度物標を選択するとともに、特定範囲Rt内の8個の低信頼度物標の中から距離が小さい順に(第2優先度順に)3個の低信頼度物標を選択する。これにより、選択物標の総数が4個となる。なお、特定範囲Rt内に同一距離物標が複数存在することに起因して第2優先度順に選択しても3個の低信頼度物標を選択することが不可能な場合、ECU10は、マイクロドップラー条件、速度条件及びサイズ条件を順に適用し、3個の低信頼度物標を選択することを試みる。その後、残り12個の非選択物標(低信頼度物標5個、信頼度処理が行われなかった低速物標2個、高速物標5個)を除外する。
【0087】
一方、ECU10は、自車両が旋回中の場合において高信頼度物標がnを超えるとき、第2優先度順にn個の高信頼度物標を選択する。第2優先度順に高信頼度物標を選択しても選択物標数がnにならない場合、ECU10は、上述したマイクロドップラー条件、速度条件及びサイズ条件を順に適用し、選択物標数がnとなるように高信頼度物標を選択することを試みる。以上が自車両が旋回中の場合において高信頼度物標がnを超えるときの優先度処理である。
【0088】
優先度処理の終了後、ECU10は、非選択物標を除外する。例えば、範囲Rl及びRrに低速物標が11個、高速物標が5個存在し、そのうち9個の低速物標が特定範囲Rtに存在する場合において、信頼度処理により抽出された高信頼度物標数が5個(>n)であるときを考える。この場合、ECU10は、これら5個の高信頼度物標の中から第2優先度順に4個の高信頼度物標を選択する。選択された高信頼度物標数が4個とならない場合の処理は上述した通りである。その後、ECU10は、残り12個の非選択物標(高信頼度物標1個、低信頼度物標4個、信頼度処理が行われなかった低速物標2個、高速物標5個)を除外する。
【0089】
(旋回時における高速物標の追加的な選択処理)
自車両が旋回中の場合に衝突可能性がある物標は、主に特定範囲Rtに存在する低速物標であるが、上述したように、特定範囲Rsに存在する高速物標とも(衝突可能性は低速物標よりは低いものの)衝突可能性がある。そこで、特定範囲Rt内の低速物標数がn未満であり、且つ、特定範囲Rsに高速物標が存在する場合、ECU10は、選択物標数がnに到達するまで当該高速物標を追加的に選択可能に構成されている。
【0090】
具体的には、上記の場合、ECU10は、特定範囲Rs内の高速物標のそれぞれについて、信頼度閾値以上の信頼度を有する高速物標を抽出する信頼度処理を行う。ECU10は、抽出された高信頼度物標数が「nから特定範囲Rt内の低速物標数を減算した数nr」に等しいとき、これらnr個の高信頼度物標を全て選択し、非選択物標を除外する。例えば、特定範囲Rt内の低速物標数が1個であり、特定範囲Rs内の高速物標数が5個であり、当該5個の高速物標のうち高信頼度物標数が3個(=nr)である場合、ECU10は、当該3個の高信頼度物標を選択する。これにより、選択物標の総数が4個となる。その後、ECU10は、残り2個の非選択物標(低信頼度物標2個)を除外する。
【0091】
一方、抽出された高信頼度物標数がnr未満の場合、ECU10は、これらの高信頼度物標を全て選択する。そして、低信頼度物標(信頼度処理により抽出されなかった高速物標)が存在する場合、ECU10は、これらの低信頼度物標のそれぞれについて簡易TTCを演算し、選択物標の総数がnを超えることがないように第1優先度順に選択する。その後、ECU10は、非選択物標を除外する。例えば、特定範囲Rt内の低速物標数が1個であり、特定範囲Rs内の高速物標数が5個であり、当該5個の高速物標のうち高信頼度物標数が1個(<nr=3)である場合、ECU10は、当該1個の高信頼度物標を選択する。そして、4個の低信頼度物標の中から第1優先度順に2個の低信頼度物標を選択する。これにより、選択物標の総数が4個となる。その後、ECU10は、残り2個の非選択物標(低信頼度物標2個)を除外する。
他方、抽出された高信頼度物標数がnr未満の場合において低信頼度物標が存在しない場合、ECU10は、これらの高信頼度物標を全て選択し、その後、非選択物標(例えば、特定範囲Rtの外部に存在する物標)を除外する。
【0092】
これに対し、抽出された高信頼度物標数がnrを超える場合、ECU10は、これらの高信頼度物標のそれぞれについて簡易TTCを演算し、第1優先度順にn個の高信頼度物標を選択する。その後、ECU10は、非選択物標を除外する。例えば、特定範囲Rt内の低速物標数が1個であり、特定範囲Rs内の高速物標数が5個であり、当該5個の高速物標のうち高信頼度物標数が4個(>nr=3)である場合、ECU10は、これら4個の高信頼度物標の中から第1優先度順に3個の高信頼度物標を選択する。これにより、選択物標の総数が4個になる。その後、ECU10は、残り2個の非選択物標(高信頼度物標1個、低信頼度物標1個)を除外する。
【0093】
以上が物標選択処理についての説明である。第1前方物標情報、第2前方物標情報、及び、物標選択処理により情報量が低減された前側方物標情報は、フュージョン処理によりフュージョンされる。その後、フュージョンされた物標のそれぞれについて衝突条件の成立可否が判定される。
【0094】
衝突条件は、警報条件と、自動制動条件と、を含む。警報条件は、自車両が直進中の場合において物標が所定の警報範囲に存在する(即ち、当該物標に衝突する可能性がある)ときに成立する条件である。警報範囲は、特定範囲Rsと同一の形状及び大きさに設定されてもよいし、特定範囲Rs内の任意の範囲に設定されてもよい。自車両が直進中の場合においてフュージョンされた物標が警報範囲に存在するとき、当該物標について警報条件が成立する。この場合、ECU10は、運転者に警報を発する警報制御を衝突回避支援制御として実行する。具体的には、警報条件が成立する場合、ECU10は、ECU20に警報指令を送信する。ECU20は、警報指令を受信するとブザー21を鳴動させて運転者に警報を発することにより警報制御を実行する。
【0095】
一方、自動制動条件は、物標までのTTCが所定のTTC閾値以下である(即ち、当該物標に衝突する可能性がある)ときに成立する条件である。以下、TTCの演算方法について具体的に説明する。まず、ECU10は、自車両の軌道と物標の軌道とをそれぞれ演算する。自車両の軌道は、自車両の旋回半径rに基づいて演算され得る。物標の軌道は、「フュージョンされた物標情報に含まれる物標の位置」の推移に基づいて演算され得る。ECU10は、これらの軌道に基づいて、自車両が現在の走行状態を維持して走行するとともに物標が現在の移動状態を維持して移動した場合に自車両が当該物標に衝突するか否かを判定する。衝突すると判定した場合、ECU10は、当該物標についてTTCを演算する。このTTCは、自車両から「物標に衝突すると判定された地点」までの距離を、車速で除算することにより演算され得る。
【0096】
フュージョンされた物標についてのTTCがTTC閾値以下の場合、当該物標について自動制動条件が成立する。この場合、ECU10は、自車両に自動的に制動力を付与する自動制動制御を衝突回避支援制御として実行する。具体的には、自動制動条件が成立する場合、ECU10は、車両を物標に対して所定の距離だけ手前で停止させるために必要な目標減速度を演算し、当該目標減速度を含む指令である制動指令をECU30に送信する。ECU30は、制動指令を受信すると、実際の加速度が目標減速度に一致するようにブレーキアクチュエータ31を制御して各車輪に摩擦制動力を発生させることにより自動制動制御を実行する。
【0097】
このように、衝突条件(特に自動制動条件)は、その成立可否を判定するための処理量が比較的に大きいので、判定対象となる物標数が多いと処理負荷が増大してしまう。しかしながら、本実施装置によれば、物標選択処理により前側方物標情報の情報量が低減されるので、衝突条件を判定する際の処理負荷が低減される。加えて、物標選択処理では、自車両が直進中の場合と旋回中の場合とで物標を選択する方法が変更される。このため、何れの場合においても衝突可能性がある物標を適切に選択できる(別言すれば、衝突可能性がある物標が除外されたり、衝突可能性が低い物標が選択されたりする可能性を大幅に低減できる。)。従って、この構成によれば、前側方物標情報の情報量を低減しつつ、衝突回避支援制御を適切に実行できる。
【0098】
(具体的作動)
続いて、ECU10のCPUの具体的作動について説明する。CPUは、イグニッションスイッチがオン位置にある期間中、所定時間が経過する毎に、図8乃至図11にフローチャートにより示したルーチンを実行するようになっている。
【0099】
所定のタイミングになると、CPUは、図8のステップ800から処理を開始してステップ805及びステップ810に進む。ステップ805では、CPUは、前方レーダセンサ11から第1前方物標情報を取得するとともに、前方カメラセンサ12から第2前方物標情報を取得する。その後、CPUは、ステップ820に進む(後述)。一方、ステップ810では、CPUは、前側方レーダセンサ13L及び13Rから前側方物標情報を取得する。
【0100】
ステップ810の終了後、CPUはステップ815に進み、物標選択処理を行う。即ち、CPUは、ステップ900(図9A参照)から処理を開始してステップ905に進む。ステップ905では、CPUは、旋回半径rに基づいて自車両が旋回中か否かを判定する。旋回中ではない(|r|>r1th)場合、CPUは、ステップ905にて「No」と判定し、ステップ910に進む。
【0101】
ステップ910では、CPUは、旋回半径rに基づいて自車両が直進中か否かを判定する。直進中ではない(|r|≦r2th)場合、CPUは、ステップ910にて「No」と判定し(即ち、自車両が直進中であるか旋回中であるか特定できないと判定し)、ステップ995を経てステップ820(図8参照)に進む(後述)。この場合、物標選択処理は行われない。一方、直進中(|r|>r2th)の場合、CPUは、ステップ910にて「Yes」と判定し、ステップ915に進む。
【0102】
ステップ915では、CPUは、特定範囲Rs内の高速物標数が上限数n以下であるか否かを判定する。ここで、「特定範囲Rs内の高速物標」とは、別言すれば、「物標が高速物標であるときに成立する条件」及び「高速物標が特定範囲Rsに存在するときに成立する条件」の双方を同時に満たす物標である。特定範囲Rs内の高速物標数がn以下の場合、CPUは、ステップ915にて「Yes」と判定し、ステップ920に進む。ステップ920では、CPUは、特定範囲Rs内の高速物標を選択する。
【0103】
他方、特定範囲Rs内の高速物標数がnを超える場合、CPUは、ステップ915にて「No」と判定し、ステップ925に進んで信頼度処理を行う。CPUは、ステップ925に進むと、ステップ1000(図10参照)から処理を開始してステップ1005に進む。ステップ1005では、CPUは、特定範囲Rs内の各高速物標の信頼度を演算する。続いて、CPUは、ステップ1010に進み、信頼度が信頼度閾値以上である場合に成立する信頼度条件を満たす物標(高信頼度物標)を抽出する。その後、CPUは、ステップ1095にて信頼度処理を一旦終了し、ステップ930(図9A参照)に進む。
【0104】
ステップ930では、CPUは、ステップ1010(図10参照)にて抽出された高信頼度物標数がnに等しい否かを判定する。高信頼度物標数がnに等しい場合、CPUは、ステップ930にて「Yes」と判定し、ステップ940にてn個の高信頼度物標を選択する。
【0105】
一方、高信頼度物標数がnではない場合、CPUは、ステップ930にて「No」と判定し、ステップ935に進んで優先度処理を行う。CPUは、ステップ935に進むと、ステップ1100(図11参照)から処理を開始してステップ1105に進む。ステップ1105では、信頼度処理において抽出された高信頼度物標数がn未満であるか否かを判定する。高信頼度物標数がn未満の場合、CPUは、ステップ1105にて「Yes」と判定し、ステップ1110に進む。
【0106】
ステップ1110では、CPUは、高信頼度物標が高速物標であるか否かを判定する。自車両が直進中の場合、信頼度処理は高速物標に対して行われるので、CPUは、ステップ1110にて「Yes」と判定し、ステップ1115に進んでこれらの高信頼度物標を選択する。続いて、CPUは、ステップ1120に進んで信頼度条件を満たさない物標(低信頼度物標)のそれぞれについて簡易TTCを演算する。次いで、CPUは、ステップ1125に進んで、選択物標数(高信頼度物標数と低信頼度物標数との和)がnとなるまで低信頼度物標を簡易TTCの小さい順に選択する。その後、CPUは、ステップ1195に進んで優先度処理を一旦終了する。
【0107】
これに対し、信頼度処理において抽出された高信頼度物標数がnを超える場合、CPUは、ステップ1105にて「No」と判定し、ステップ1150に進む。ステップ1150では、CPUは、高信頼度物標が高速物標であるか否かを判定する。自車両が直進中の場合、CPUは、ステップ1150にて「Yes」と判定し、ステップ1155に進む。
【0108】
ステップ1155では、CPUは、nを超える高信頼度物標のそれぞれについて簡易TTCを演算する。次いで、CPUは、ステップ1125に進んで、選択物標数がnとなるまで高信頼度物標を簡易TTCの小さい順に選択する。その後、CPUは、ステップ1195に進んで優先度処理を一旦終了する。
【0109】
他方、自車両が旋回中(|r|≦r1th)の場合、CPUは、ステップ905(図9A参照)にて「Yes」と判定し、図9Bのステップ945に進む。ステップ945では、CPUは、旋回角度θが角度閾値θth以下であるか否かを判定する。θ≦θthが成立する(旋回度合いが比較的に浅い)場合、CPUは、ステップ945にて「Yes」と判定し、ステップ950に進む。
【0110】
ステップ950では、CPUは、旋回方向特定範囲Rt内の低速物標数がn以下であるか否かを判定する。ここで、「旋回方向特定範囲Rt内の低速物標」とは、別言すれば、「物標が低速物標であるときに成立する条件」及び「低速物標が旋回方向特定範囲Rtに存在するときに成立する条件」の双方を同時に満たす物標である。旋回方向特定範囲Rt内の低速物標数がn以下の場合、CPUは、ステップ950にて「Yes」と判定し、ステップ960に進む。
【0111】
ステップ960では、CPUは、旋回方向特定範囲Rt内の低速物標を選択し、ステップ965に進む。ステップ965では、CPUは、ステップ960にて選択された低速物標数がn未満であり、且つ、特定範囲Rs内に高速物標が存在する、という条件が成立するか否かを判定する。当該条件が成立しない場合(即ち、低速物標数がnに等しい場合、又は、特定範囲Rs内に高速物標がない場合)、CPUは、ステップ965にて「No」と判定し、ステップ994(図9A参照)に進む(後述)。一方、当該条件が成立する場合、CPUは、ステップ965にて「Yes」と判定し、ステップ970に進んで信頼度処理を行う。
【0112】
CPUは、ステップ970に進むと、ステップ1000(図10参照)から処理を開始してステップ1005に進み、特定範囲Rs内の各高速物標の信頼度を演算する。続いて、CPUは、ステップ1010に進み、信頼度条件を満たす高信頼度物標を抽出する。その後、CPUは、ステップ1095にて信頼度処理を一旦終了し、ステップ975(図9B参照)に進む。
【0113】
ステップ975では、CPUは、ステップ1010(図10参照)にて抽出された高信頼度物標数がnr(nからステップ960にて選択された低速物標数を減算した数)に等しいか否かを判定する。高信頼度物標数がnrに等しい場合、CPUは、ステップ975にて「Yes」と判定し、ステップ980にてnr個の高信頼度物標を選択する。
【0114】
一方、高信頼度物標数がnrではない場合、CPUは、ステップ975にて「No」と判定し、ステップ985に進んで高信頼度物標数がnr未満であるか否かを判定する。高信頼度物標数がnrを超える場合、CPUは、ステップ985にて「No」と判定し、ステップ1155(図11参照)に進む。
【0115】
ステップ1155では、CPUは、nr個を超える高信頼度物標のそれぞれについて簡易TTCを演算する。次いで、CPUは、ステップ1125に進んで、選択物標数(低速物標数と高信頼度物標数(高速物標)との和)がnとなるまで高信頼度物標を簡易TTCの小さい順に選択する。その後、CPUは、ステップ1195に進んで優先度処理を一旦終了する。
【0116】
他方、高信頼度物標数がnr未満の場合、CPUは、ステップ985にて「Yes」と判定し、ステップ990にて、信頼度処理により抽出された全ての高信頼度物標を選択する。続いて、CPUは、ステップ992に進み、特定範囲Rs内の高速物標の中に信頼度条件を満たさない低信頼度物標が存在するか否かを判定する。低信頼度物標が存在しない場合、CPUは、ステップ992にて「No」と判定する。
【0117】
一方、低信頼度物標が存在する場合、CPUは、ステップ992にて「Yes」と判定し、ステップ1120(図11参照)に進んで低信頼度物標のそれぞれについて簡易TTCを演算する。次いで、CPUは、ステップ1125に進んで、選択物標数(低速物標数と高信頼度物標(高速物標)数と低信頼度物標(高速物標)数との和)がnとなるまで低信頼度物標を簡易TTCの小さい順に選択する。その後、CPUは、ステップ1195に進んで優先度処理を一旦終了する。
【0118】
これに対し、旋回方向特定範囲Rt内の低速物標数がnを超える場合、CPUは、ステップ950にて「No」と判定し、ステップ925(図9A参照)を経由してステップ1000(図10参照)から信頼度処理を開始してステップ1005に進む。CPUは、ステップ1005にて旋回方向特定範囲Rt内の各低速物標の信頼度を演算してステップ1010に進み、信頼度条件を満たす高信頼度物標を抽出し、ステップ1095を経由してステップ930(図9A参照)に進む。
【0119】
ステップ930では、CPUは、ステップ1010(図10参照)にて抽出された高信頼度物標数がnに等しい否かを判定し、nに等しい場合、ステップ930にて「Yes」と判定し、ステップ940にてn個の高信頼度物標を選択する。
一方、高信頼度物標数がnではない場合、CPUは、ステップ930にて「No」と判定し、ステップ935を経由してステップ1100(図11参照)から優先度処理を開始してステップ1105に進む。CPUは、ステップ1005にて、信頼度処理において抽出された高信頼度物標数がn未満であるか否かを判定し、n未満の場合、ステップ1105にて「Yes」と判定し、ステップ1110にて高信頼度物標が高速物標であるか否かを判定する。
【0120】
自車両が旋回中の場合、信頼度処理は低速物標に対して行われるので、CPUは、ステップ1110にて「No」と判定し、ステップ1130に進んでこれらの高信頼度物標を選択する。続いて、CPUは、ステップ1135に進み、前側方物標情報に基づいて、低信頼度物標のそれぞれについて自車両からの距離を取得し、選択物標数(高信頼度物標数と低信頼度物標数との和)がnとなるまでこれらの低信頼度物標を距離順に選択する。
【0121】
その後、CPUはステップ1140に進み、選択物標数がnに等しいか否かを判定する。nに等しい場合、CPUは、ステップ1140にて「Yes」と判定し、ステップ1195に進んで優先度処理を一旦終了する。
一方、同一距離物標が複数存在することに起因して選択物標数がnにならない場合、CPUは、ステップ1140にて「No」と判定し、ステップ1145に進んでマイクロドップラー条件、速度条件及びサイズ条件を選択物標数がnとなるまで順次適用する。その後、CPUは、ステップ1195に進んで優先度処理を一旦終了する。
【0122】
これに対し、信頼度処理において抽出された高信頼度物標数がnを超える場合、CPUは、ステップ1105にて「No」と判定し、ステップ1150にて高信頼度物標が高速物標であるか否かを判定する。自車両が旋回中の場合、CPUは、ステップ1150にて「No」と判定し、ステップ1135に進む。
【0123】
ステップ1135では、CPUは、nを超える高信頼度物標のそれぞれについて自車両からの距離を取得し、選択物標数がnとなるまで高信頼度物標を距離順に選択する。続いて、CPUは、ステップ1140に進んで選択物標数がnに等しいか否かを判定し、nに等しい場合、ステップ1140にて「Yes」と判定し、ステップ1195に進んで優先度処理を一旦終了する。一方、選択物標数がnにならない場合、CPUは、ステップ1140にて「No」と判定し、ステップ1145に進む。ステップ1145の処理は上述したとおりである。
【0124】
これに対し、θ>θthが成立する(旋回度合いが比較的に深い)場合、CPUは、ステップ945にて「No」と判定し、ステップ955に進む。ステップ955では、CPUは、両方向特定範囲Rt内の低速物標数がn以下であるか否かを判定する。ここで、「両方向特定範囲Rt内の低速物標」とは、別言すれば、「物標が低速物標であるときに成立する条件」及び「低速物標が両方向特定範囲Rtに存在するときに成立する条件」の双方を同時に満たす物標である。両方向特定範囲Rt内の低速物標数がn以下の場合、CPUは、ステップ955にて「Yes」と判定し、ステップ960に進む。ステップ960以降の処理は上述した通りである。
【0125】
一方、両方向特定範囲Rt内の低速物標数がnを超える場合、CPUは、ステップ955にて「No」と判定し、ステップ925(図9A参照)に進む。ステップ925以降の処理は上述した通りである。
【0126】
CPUは、ステップ920、940若しくは980の終了後、ステップ965若しくは992にてそれぞれ「No」と判定した後、又は、ステップ1195における優先度処理の終了後、ステップ994(図9A参照)に進み、非選択物標を除外する。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチン(物標選択処理)を一旦終了し、ステップ820(図8参照)に進む。
【0127】
ステップ820では、CPUは、第1前方物標情報と、第2前方物標情報と、物標選択処理により情報量が低減された前側方物標情報と、をフュージョンするフュージョン処理を行う。続いて、CPUは、ステップ825に進んで、フュージョンされた物標のそれぞれについて衝突条件(警報条件及び/又は自動制動条件)が成立するか否かを判定する。衝突条件が成立しない場合、CPUは、ステップ825にて「No」と判定し(即ち、衝突可能性がある物標はないと判定し)、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0128】
一方、衝突条件が成立する場合、CPUは、ステップ825にて「Yes」と判定し、ステップ830に進む。ステップ830では、衝突条件のうち警報条件が成立する場合は警報制御を衝突回避支援制御として実行し、衝突条件のうち自動制動条件が成立する場合は自動制動制御を衝突回避支援制御として実行する。その後、CPUは、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0129】
以上、実施形態及び変形例に係る衝突回避支援装置について説明したが、本発明は上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0130】
例えば、ECU10は、自車両が旋回中でない場合は直進していると判定するように構成されてもよい。この場合、「旋回中でない場合」が「第1の場合」の一例に相当する。
【0131】
加えて、前側方レーダセンサ13L及び13Rに代えて/加えて、前側方カメラにより前側方物標情報が取得されてもよい。
【0132】
更に、衝突回避支援制御として、警報制御及び自動ブレーキ制御に加えて、自動操舵制御が実行されてもよい。自動操舵制御は、衝突条件が成立する場合に自車両の転舵輪の転舵角を自動的に変更する周知の制御である。なお、警報制御は、自車両が旋回中の場合に警報条件が成立したときにも実行されるように構成されてもよい。
【0133】
更に、信頼度処理及び/又は優先度処理は必ずしも行われなくてもよい。具体的には、自車両が直進中の場合、物標が高速物標であり且つ特定範囲Rsに存在しているときに成立する条件を満たす物標を選択する(即ち、非選択物標を除外する)ように構成されてもよい。そして、自車両が旋回中の場合、物標が低速物標であり且つ特定範囲Rtに存在しているときに成立する条件を満たす物標を選択する(即ち、非選択物標を除外する)ように構成されてもよい。この構成によっても前側方物標情報の情報量を適切に低減できる。
【0134】
更に、上記に加え、特定範囲Rs及び特定範囲Rtは必ずしも設定されなくてもよい。具体的には、自車両が直進中の場合、物標が高速物標であるときに成立する条件を満たす物標を選択するように構成され、自車両が旋回中の場合、物標が低速物標であるときに成立する条件を満たす物標を選択するように構成されてもよい。この構成によっても、前側方物標情報の情報量を適切に低減できる。
【0135】
更に、上記実施形態では、自車両が旋回中の場合、特定範囲Rtに存在する低速物標を上限数nだけ選択し、当該低速物標数がn未満のときのみ、特定範囲Rsに存在する高速物標をnrを上限として追加的に選択可能に構成されている。しかしながら、以下のように構成されてもよい(以下、「構成1」と称する。)。即ち、自車両が旋回中の場合、特定範囲Rtに存在する低速物標を上限数n1(例えば、3個)だけ選択し、特定範囲Rsに存在する高速物標を上限数n2(n2=n-n1。例えば、1個。)だけ選択するように構成されてもよい(以下、「構成2と称する」。)。構成2によれば、特定範囲Rt内にn以上の低速物標が存在していても、特定範囲Rsに存在する高速物標をn2個まで確実に選択することができる。従って、このような高速物標に対しても衝突回避支援制御を適切に実行できる。更に、構成1と構成2を運転者が切り替え可能に構成されてもよい。
【符号の説明】
【0136】
10:衝突回避支援ECU、11:前方レーダセンサ、12:前方カメラセンサ、13L:前側方レーダセンサ、13R:前側方レーダセンサ、14:車速センサ、15:ヨーレートセンサ、16:操舵角センサ、20:警報ECU、21:ブザー、30:ブレーキECU、31:ブレーキアクチュエータ、32:摩擦ブレーキ機構
図1
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図5A
図5B
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図10
図11