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特許7581968車掌業務支援装置、車掌業務支援システム、車掌業務支援方法、車掌業務支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】車掌業務支援装置、車掌業務支援システム、車掌業務支援方法、車掌業務支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   B61L 23/00 20060101AFI20241106BHJP
   B61B 1/02 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B61L23/00 Z
B61B1/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021033578
(22)【出願日】2021-03-03
(65)【公開番号】P2022134452
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129012
【弁理士】
【氏名又は名称】元山 雅史
(72)【発明者】
【氏名】相澤 知禎
(72)【発明者】
【氏名】杉立 好正
(72)【発明者】
【氏名】高田 義教
(72)【発明者】
【氏名】馬場 基至
(72)【発明者】
【氏名】松井 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】有間 康二
【審査官】柳幸 憲子
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-028770(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2012/0188346(US,A1)
【文献】特開2020-006775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/00
B61B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の外面に取り付けられた光走査器によって前記車両の側面に沿って略鉛直に形成される走査範囲内において、前記車両の前記側面に設けられた旅客乗降用のドアと側面視で重なる領域に戸挟み検知エリアを設定する戸挟み検知エリア設定部と、
前記車両が駅に停車した状態で、前記走査範囲内において、前記駅のプラットホームと前記車両との間に形成される隙間に隙間検知エリアを設定する隙間検知エリア設定部と、
前記戸挟み検知エリア内で、物体の前記ドアへの挟み込みの有無を判定する戸挟み判定部と、
前記隙間検知エリア内で、前記隙間への転落の有無を判定する転落判定部と、
前記車両が停止状態であるか否かを判定する停止判定部と、
前記停止判定部で前記車両が前記停止状態になったと判定されると、前記走査範囲内に存在する物体を検知する検知部と、
前記検知部によって検知された前記物体から退避するようにして、前記隙間検知エリアを導出する隙間検知エリア導出部と、
を備え、
前記隙間検知エリア設定部は、前記隙間検知エリア導出部により導出された前記隙間検知エリアを前記走査範囲内に設定する、
車掌業務支援装置。
【請求項2】
前記ドアが閉じたことを示す閉扉情報を取得する開閉情報取得部、を更に備え、
前記開閉情報取得部で前記閉扉情報が取得されると、前記隙間検知エリア設定部が、前記隙間検知エリアを前記走査範囲内に設定し、前記転落判定部が、前記転落の有無の判定を開始する、
請求項1に記載の車掌業務支援装置。
【請求項3】
前記車両が停止状態であるか否かを判定する停止判定部、を更に備え、
前記停止判定部で前記車両が前記停止状態から発進したと判定されると、前記隙間検知エリア設定部が、前記隙間検知エリアの設定を解除し、前記転落判定部が、前記転落の有無の判定を終了する、
請求項1または2に記載の車掌業務支援装置。
【請求項4】
前記ドアが閉じたことを示す閉扉情報を取得する開閉情報取得部、を更に備え、
前記開閉情報取得部で前記閉扉情報が取得されると、前記戸挟み検知エリア設定部が、前記戸挟み検知エリアを前記走査範囲内に設定し、前記戸挟み判定部が、前記挟み込みの有無の判定を開始する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の車掌業務支援装置。
【請求項5】
前記車両が前記駅に在線しているか否かを示す情報を取得する在線情報取得部、を更に備え、
前記在線情報取得部で前記車両が前記駅から出線を終了したことを示す情報が取得されると、前記戸挟み検知エリア設定部が、前記戸挟み検知エリアの設定を解除し、前記戸挟み判定部が、前記挟み込みの有無の判定を終了する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の車掌業務支援装置。
【請求項6】
前記光走査器の前記ドアに対する相対位置関係に基づいて予め導出された前記戸挟み検知エリアを保存する記憶部を更に備える、
請求項1からのいずれか1項に記載の車掌業務支援装置。
【請求項7】
前記戸挟み判定部または前記転落判定部によって、前記挟み込みまたは前記転落が発生したと判定されると、車掌業務に従事する乗務員が乗り込む乗務員室内に設置された警報器を動作させる発報制御部を更に備える、
請求項1からのいずれか1項に記載の車掌業務支援装置。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1つに記載の車掌業務支援装置と、
車両の外面に取り付けられ、前記車両の側面に沿って略鉛直の走査範囲を形成する光走査器と、
を備える、車掌業務支援システム。
【請求項9】
少なくとも1つの前記光走査器が前記車両の1つの側面に取り付けられており、
前記車両の旅客乗降用のドアの全てが、側面視で前記走査範囲と重なる、
請求項に記載の車掌業務支援システム。
【請求項10】
車掌業務に従事する乗務員が乗り込む乗務員室内に設置された警報器を更に備え、
前記警報器は、前記戸挟み判定部により前記挟み込みが発生したと判定されたときと、前記転落判定部により前記転落が発生したと判定されたときとで、異なる動作パターンで動作する、
請求項またはに記載の車掌業務支援システム。
【請求項11】
車両の外面に取り付けられた光走査器によって前記車両の側面に沿って略鉛直に形成される走査範囲内において、前記車両の前記側面に設けられた旅客乗降用のドアと側面視で重なる領域に戸挟み検知エリアを設定する戸挟み検知エリア設定工程と、
前記車両が駅に停車すると、前記走査範囲内において、前記駅のプラットホームと前記車両との間に形成される隙間に隙間検知エリアを設定する隙間検知エリア設定工程と、
前記戸挟み検知エリア内で、物体の前記ドアへの挟み込みの有無を判定する戸挟み判定工程と、
前記隙間検知エリア内で、前記隙間への転落の有無を判定する転落判定工程と、
前記車両が停止状態であるか否かを判定する停止判定工程と、
前記停止判定工程で前記車両が前記停止状態になったと判定されると、前記走査範囲内に存在する物体を検知する検知工程と、
前記検知工程によって検知された前記物体から退避するようにして、前記隙間検知エリアを導出する隙間検知エリア導出工程と、
を備える、車掌業務支援方法。
【請求項12】
請求項11に記載の車掌業務支援方法をコンピュータに実行させる、
車掌業務支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道事業における車掌業務、特に、停車駅での安全確認を支援する車掌業務支援装置、車掌業務支援システム、車掌業務支援方法および車掌業務支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、旅客列車には、車掌業務に専従する乗務員として、車掌が乗車する。近年、鉄道事業の合理化が進むにつれて、車掌の乗車を廃止して運転士が運転業務と車掌業務を兼任するワンマン運転によって運行される区間が増えている。
車掌業務の一つとして、停車中のドア開閉が挙げられる。開扉中には、旅客がホームと列車との間の隙間へ転落する場合がある。閉扉時には、旅客の所有物(例えば、鞄やベビーカーなど)がドアに挟み込まれる場合がある。このような転落や戸挟みが発生している状況で列車が発進すると、大きな事故に繋がるおそれがある。
【0003】
事故を未然に防ぐため、停車駅でのドア開閉時における安全確認は、重要な車掌業務の一つである。しかし、目視で行うには限界がある。そこで、例えば特許文献1~4に開示されるように、車掌業務を支援するシステムが提案されている。
特許文献1および2では、停車中、ドアの周辺が、ホーム上方に設置されたカメラで撮影される。撮影結果に基づいて、戸挟みの有無が判定される。
【0004】
特許文献3および4では、レーザスキャナがホームの下方に設置され、2次元的な走査範囲が略水平に形成される。停車中、走査範囲内においてホームと列車との隙間と対応する領域に、検知エリアが設定される。隙間へ転落した旅客は、この検知エリア内で検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-167594号公報
【文献】特開2000-095099号公報
【文献】特開2015-168272号公報
【文献】特開2014-095649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2では、隙間の内部がカメラの死角となるため、隙間への転落を検知することができない。特許文献3および4では、2次元的な走査範囲がホームの下方で略水平に形成されるため、ドアの周辺を監視することができない。
カメラおよびレーザスキャナが両方ともホームに設置されると、車掌業務の負荷軽減が図られると考えられる。しかし、システムの導入コストおよび運転コストが高くなる。特に、ワンマン運転を採用している区間では、運転士の車掌業務の負荷軽減が望まれるが、高価なシステムを導入することが難しい。
【0007】
そこで、本発明は、高価なシステムを導入することなく、車掌業務の負荷を軽減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係る車掌業務支援装置は、車両の外面に取り付けられた光走査器と協働する。光走査器は、旅客乗降用のドアが設けられた車両の側面に沿って、略鉛直に走査範囲を形成する。車掌業務支援装置は、戸挟み検知エリア設定部、隙間検知エリア設定部、戸挟み判定部転落判定部、停止判定部、検知部および隙間検知エリア導出部を備える。戸挟み検知エリア設定部は、走査範囲内において、旅客乗降用のドアと側面視で重なる領域に戸挟み検知エリアを設定する。隙間検知エリア設定部は、車両が駅に停車した状態で、走査範囲内において、駅のプラットホームと車両との間に形成される隙間に隙間検知エリアを設定する。戸挟み判定部は、戸挟み検知エリア内で、物体のドアへの挟み込みの有無を判定する。転落判定部は、隙間検知エリア内で、隙間への転落の有無を判定する。停止判定部は、車両が停止状態であるか否かを判定する。検知部は、停止判定部で車両が停止状態になったと判定されると、走査範囲内に存在する物体を検知する。隙間検知エリア導出部は、検知部によって検知された物体から退避するようにして、隙間検知エリアを導出する。そして、隙間検知エリア設定部は、隙間検知エリア導出部により導出された隙間検知エリアを走査範囲内に設定する。
【0009】
上記構成では、光走査器が、例えば、車両の側面等の外面に取り付けられており、車両の側面に沿って略鉛直に走査範囲を形成する。走査範囲は、旅客乗降用のドアが設けられている側面を覆うように形成され、また、駅のプラットホームと車両との間に形成される隙間内に及ぶ。
このような走査範囲内に、戸挟み検知エリアおよび隙間検知エリアの2つの検知エリアが設定される。戸挟み検知エリアは、側面視でドアと重なる領域に設定される。戸挟み判定部は、走査範囲内に設定された戸挟み検知エリア内で物体を監視することで、物体のドアへの挟み込みの有無を判定する。隙間検知エリアは、プラットホームと車両との間の隙間内に設定される。転落判定部は、走査範囲内に設定された転落検知エリア内で物体を監視することで、隙間へ転落した旅客の有無を判定する。
ここで、駅により、プラットホームおよび軌道の形状(直線か曲線か、曲率の程度等)や、プラットホームと軌道との間の隙間の大きさが異なる。このため、車両に取り付けられた光走査器のプラットホームに対する相対位置関係は、停止する駅ごとに異なる可能性がある。また、バラストが高く積まれた駅もあれば、道床がない駅もある。このため、車両に取り付けられた光走査器から軌道表面までの距離も、停止する駅ごとに異なる可能性がある。
【0010】
上記構成によれば、旅客乗降用のドアが設けられた車両の側面に沿って走査範囲を形成する光走査器を用いて、戸挟みの有無と転落の有無とを両方とも判定することができる。車掌業務に従事する乗務員(例えば、車掌あるいはワンマン運転時の運転士など)は、この判定結果を参照し、目視のみに頼らず停車駅での安全確認を行うことができる。また、戸挟みの有無を判定する専用機器と、転落の有無を判定する専用機器とを別々に設置する場合と比べ、構成が簡素になる。よって、車掌業務の負荷軽減と低コスト化とを両立することができる。なお、隙間検知エリアが、駅に停車するたびに走査範囲内で検知された物体から退避するようにして導出されるため、光走査器が車両に取り付けられていても、駅ごとに隙間検知エリアを予め個別に導出したり、どの駅でも物体と干渉しないような共通の隙間検知エリアを予め導出したりする必要がない。よって、導入時のコストを下げることができる。また、駅に応じて軌道表面の近くまで隙間検知エリアを設定することができ、転落の検知精度が向上する。
【0011】
車掌業務支援装置は、ドアが閉じたことを示す閉扉情報を取得する開閉情報取得部、を更に備えてもよい。開閉情報取得部で閉扉情報が取得されると、隙間検知エリア設定部が、隙間検知エリアを走査範囲内に設定し、転落判定部が、転落の有無の判定を開始してもよい。
隙間への転落は、ドアが開いている間、すなわち旅客が乗降している間に発生する。上記構成によれば、ドアが閉じて旅客の乗降が終わると、転落の有無の判定が開始する。転落が発生していても、見逃さずに発見することができる。
【0012】
車掌業務支援装置は、車両が停止状態であるか否かを判定する停止判定部、を更に備えてもよい。停止判定部で車両が停止状態から発進したと判定されると、隙間検知エリア設定部が、隙間検知エリアの設定を解除し、転落判定部が、転落の有無の判定を終了してもよい。
車両が発進すると、隙間検知エリアに軌道やプラットホームなどの鉄道設備が進入する可能性がある。上記構成によれば、車両が発進すると、隙間検知エリアの設定が解除され、転落の有無の判定が終了する。よって、鉄道設備を転落者として誤判定することを抑止することができる。
【0013】
車掌業務支援装置は、ドアが閉じたことを示す閉扉情報を取得する開閉情報取得部、を更に備えてもよい。開閉情報取得部で閉扉情報が取得されると、戸挟み検知エリア設定部が、戸挟み検知エリアを走査範囲内に設定し、戸挟み判定部が、挟み込みの有無の判定を開始してもよい。
上記構成によれば、ドアが閉じると、戸挟み検知エリアが設定され、挟み込みの有無の判定が開始する。その前、ドアが開いている間は、旅客が乗降している。乗降中の旅客を、ドアに挟み込まれた物体と誤判定することを抑止することができる。
【0014】
車掌業務支援装置は、車両が駅に在線しているか否かを示す情報を取得する在線情報取得部、を更に備えてもよい。在線情報取得部で車両が駅からの出線を終了したことを示す情報が取得されると、戸挟み検知エリア設定部が、戸挟み検知エリアの設定を解除し、戸挟み判定部が、挟み込みの有無の判定を終了してもよい。
上記構成によれば、車両が発進して駅からの出線を終了するまで、戸挟み検知エリアが走査範囲内に設定され続け、挟み込みの有無の判定が継続される。仮に物体がドアに挟み込まれたままで車両が停止状態から発進したとしても、車両に引きずられている物体を発見することができる。
【0015】
車掌業務支援装置は、車両が停止状態であるか否かを判定する停止判定部と、停止判定部で車両が停止状態になったと判定されると、走査範囲内に存在する物体を検知する検知部と、検知部によって検知された物体から退避するようにして、隙間検知エリアを導出する隙間検知エリア導出部と、を更に備えてもよい。隙間検知エリア設定部は、隙間検知エリア導出部により導出された隙間検知エリアを走査範囲内に設定してもよい。
【0018】
車掌業務支援装置は、光走査器のドアに対する相対位置関係に基づいて予め導出された戸挟み検知エリアを保存する記憶部を更に備えてもよい。
光走査器の車両への取付位置が決まると、光走査器および走査範囲のドアに対する相対位置関係が固定される。よって、この相対位置関係に基づいて予め導出された戸挟み検知エリアが走査範囲内に設定されると、どの駅であろうと、戸挟み検知エリアのドアに対する相対位置関係が同じになる。戸挟み検知エリア設定部は、記憶部を参照して、記憶部に保存された戸挟み検知エリアを走査範囲内に設定する。戸挟み検知エリアを設定する処理を簡単にしつつ、どの駅でも戸挟み検知エリアをドアと側面視で重ねることができる。
【0019】
車掌業務支援装置は、戸挟み判定部または転落判定部によって、挟み込みまたは転落が発生したと判定されると、車掌業務に従事する乗務員が乗り込む乗務員室内に設置された警報器を動作させる発報制御部を更に備えてもよい。
車掌業務に従事する乗務員は、警報器の動作に基づき、挟み込みまたは転落が発生したことを知ることができる。乗務員によって行われる停車駅での安全確認を支援することができる。
【0021】
本発明の一形態に係る車掌業務支援システムは、上記の車掌業務支援装置と、車両の外面に取り付けられ、車両の側面に沿って略鉛直の走査範囲を形成する光走査器と、を備える。
上記システムは、上記車掌業務支援装置と対応する技術的特徴を具備する。したがって、光走査器を用いて、戸挟みの有無と転落の有無とを両方とも判定することができる。車掌業務に従事する乗務員は、この判定結果を参照し、目視のみに頼らず停車駅での安全確認を行うことができる。また、戸挟みの有無を判定する専用機器と、転落の有無を判定する専用機器とを別々に設置する場合と比べ、構成が簡素になる。よって、車掌業務の負荷軽減と低コスト化とを両立することができる。
【0022】
少なくとも1つの光走査器が車両の1つの側面に取り付けられていてもよい。車両の旅客乗降用のドアの全てが、側面視で走査範囲と重なってもよい。
上記構成によれば、どのドアで挟み込みが発生しても、挟み込みを漏らさず発見することができる。
車掌業務支援システムは、車掌業務に従事する乗務員が乗り込む乗務員室内に設置された警報器を更に備えてもよい。警報器は、戸挟み判定部により挟み込みが発生したと判定されたときと、転落判定部により転落が発生したと判定されたときとで、異なる動作パターンで動作してもよい。
【0023】
上記構成によれば、車掌業務に従事する乗務員は、警報器の動作パターンに基づいて、挟み込みが発生したのか転落が発生したのかを知ることができる。挟み込み発生時に必要な対処(例えば、ドア開き直しなど)と、転落発生時に必要な対処(例えば、ドア閉を維持して転落箇所へ急行など)とを、警報器の動作パターンに応じて迅速に行うことができる。
【0024】
本発明の一形態に係る車掌業務支援方法は、車両の外面に取り付けられ、車両の側面に沿って略鉛直に走査範囲を形成する光走査器を用いる。なお、車両の側面には、旅客乗降用のドアが設けられている。車掌業務支援方法は、戸挟み検知エリア設定工程、隙間検知エリア設定工程、戸挟み判定工程転落判定工程、停止判定工程、検知工程および隙間検知エリア導出工程を備える。戸挟み検知エリア設定工程では、戸挟み検知エリアが、走査範囲内においてドアと側面視で重なる領域に設定される。隙間検知エリア設定工程では、隙間検知エリアが、車両が駅に停車した状態で、走査範囲内において、駅のプラットホームと車両との間に形成される隙間に設定される。戸挟み判定工程では、戸挟み検知エリア内で、物体の前記ドアへの挟み込みの有無が判定される。転落判定工程では、隙間検知エリア内で、隙間への転落の有無が判定される。停止判定工程は、車両が停止状態であるか否かを判定する。検知工程は、停止判定部で車両が停止状態になったと判定されると、走査範囲内に存在する物体を検知する。隙間検知エリア導出工程は、検知部によって検知された物体から退避するようにして、隙間検知エリアを導出する。そして、隙間検知エリア設定工程は、隙間検知エリア導出工程により導出された隙間検知エリアを走査範囲内に設定する。
【0025】
本発明の一形態に係る車掌業務支援プログラムは、上記の車掌業務支援方法をコンピュータに実行させる。
上記方法およびプログラムは、上記車掌業務支援装置と対応する技術的特徴を具備する。したがって、光走査器を用いて、戸挟みの有無と転落の有無とを両方とも判定することができる。車掌業務に従事する乗務員は、この判定結果を参照し、目視のみに頼らず停車駅での安全確認を行うことができる。また、戸挟みの有無を判定する専用機器と、転落の有無を判定する専用機器とを別々に設置する場合と比べ、構成が簡素になる。よって、車掌業務の負荷軽減と低コスト化とを両立することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高価なシステムを導入することなく、車掌業務の負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1実施形態に係る車掌業務支援装置およびこれを備える車掌業務支援システムを示すブロック図である。
図2】(A)が、第1実施形態に係る車掌業務支援システムが適用されたプラットホームおよび軌道の平面図である。(B)が、図2(A)のIIB-IIB矢視図である。
図3図2(A)のIII矢視図である。
図4】隙間検知エリアを導出する処理の説明図である。
図5】隙間検知エリアを導出する処理の説明図である。
図6】隙間検知エリアを導出する処理の説明図である。
図7】隙間検知エリアを導出する処理の説明図である。
図8】隙間検知エリアを導出する処理の説明図である。
図9】本発明の第1実施形態に係る車掌業務支援方法を示すフローチャートである。
図10】本発明の第1実施形態に係る車掌業務支援方法を示すタイムチャートである。
図11】不在状態でのプラットホームおよび軌道の平面図である。
図12】(A)が入線状態でのプラットホームおよび軌道の平面図であり、(B)が側面図である。
図13】(A)が停止状態でドアが閉じたままの状態でのプラットホームおよび軌道の平面図であり、(B)が側面図である。
図14】(A)が停止状態でドアが開いている状態でのプラットホームおよび軌道の平面図であり、(B)が側面図である。
図15】(A)が停止状態でドアが再び閉じられた状態でのプラットホームおよび軌道の平面図であり、(B)が側面図である。
図16】(A)が出線状態でのプラットホームおよび軌道の平面図であり、(B)が側面図である。
図17】本発明の第2実施形態に係る車掌業務支援システムが適用されたプラットホームおよび軌道の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、全図を通じて同一または対応する要素には同一の符号を付して詳細説明の重複を省略する。
<第1実施形態>
(車掌業務支援システム)
図1は、第1実施形態に係る車掌業務支援システム1を示す。車掌業務支援システム1は、鉄道事業における車掌業務を支援する。車掌業務は、旅客輸送中に列車80に乗り込む乗務員(車掌あるいはワンマン運転時の運転士)によって行われる。
【0029】
車掌業務支援システム1は、車掌業務支援装置2、光走査器3、在線検出装置4、車速検知器5、開閉検知器6および警報器7を備えている。
車掌業務支援装置2は、光走査器3、在線検出装置4、車速検知器5、開閉検知器6および警報器7と通信可能に接続されている。車掌業務支援装置2、光走査器3、車速検知器5および開閉検知器6は、列車80に搭載されている。在線検出装置4は、列車80外に設置されている。
【0030】
車掌業務支援装置2は、例えば、CPU、メモリおよびインタフェースを有するコンピュータによって実現されている。車掌業務支援装置2は、単一のコンピュータで構成されてもよく、物理的に分散された複数のコンピュータの複合であってもよい。複合である場合、一部のコンピュータが、光走査器3の筐体内に収容されていてもよい。
メモリは、コンピュータとしての車掌業務支援装置2に、本実施形態に係る車掌業務支援方法(図9および図10を参照)を実行させる車掌業務支援プログラムを格納している。CPUは、メモリ内の車掌業務支援プログラムを読み出し、車掌業務支援プログラムに従って車掌業務支援方法に係る情報処理を行う。
【0031】
図2(A)、図2(B)および図3は、列車80、プラットホーム91および軌道92を示す。列車80は、路盤93に敷設された軌道92上を走行する。軌道92は、列車80の車輪を支持する一対のレールを有している。プラットホーム91は、軌道92上を走行する列車80と干渉しないように、軌道92に隣接して設置されている。
列車80は、1両の車両81により、または複数の車両81を順次に連結することによって構成されている。本実施形態では、列車80が、2両の車両81で構成されている。
【0032】
車両81は、車長方向に離れた複数の台車と、複数の台車に支持された車体とを有する。各台車は2つの輪軸を有し、各輪軸は、車軸の両端部に設けられた一対の車輪を有する。車体は、各台車にバネを介して支持されている。
車体は、概略直方体状に形成され、一対の側面を有している。車体の内部には、旅客を乗せる客室82が形成される。車体の各側面に、車長方向に互いに離れた複数の乗降口84が形成されている。車両81の側面には、複数の乗降口84をそれぞれ開閉する複数のドア85が設けられている。ドア85の形式は特に限定されない。例えば図示のように、ドア85は、両引き戸で構成される。
【0033】
列車80全体としての車長方向両端部に、2つの乗務員室83が設けられている。本実施形態では、列車80を構成する2両がどちらも制御車であり、制御車の内部は、仕切り板で客室82と乗務員室83とに仕切られている。車両81の各側面には、乗務員が乗務員室83に対して入出するための乗務員用ドア86が設けられている。
車両81には、その他に貫通扉などの種々のドアが設けられるが、本書で「ドア」という場合、車両81の側面に設けられた旅客乗降用のドア85である。
【0034】
乗務員室83には、運転業務および車掌業務に必要な機器類が設置されている。例えば、図1に示したように、乗務員室83内には、乗務員が、車掌業務の一つとして、ドア85を開閉操作するためのドア操作器88が設けられている。ドア操作器88は、車両81の第1の側面に設けられたドア85と対応する第1操作器と、第1の側面の反対側の第2の側面に設けられたドア85と対応する第2操作器とに分かれている。
【0035】
列車80が停止すると、乗務員がドア操作器88を操作し、プラットホーム91と対向する側面に設けられたドア85を開く。旅客は、プラットホーム91と車両81との間に形成される隙間90を跨ぎ、乗降口84を介し、プラットホーム91から客室82内へ乗車することができる。また、旅客は、客室82からプラットホーム91へと降車することができる。乗降が途絶えると、乗務員がドア操作器88を操作してドア85を閉じる。
【0036】
乗務員は、乗務員用ドア86に設けられた窓から顔を出し、ドア開閉時の安全確認を目視で行うことができる。例えば、乗務員は、ドア85を開けている間に、隙間90へ誤って転落した旅客がいないかどうか、閉じたドア85に旅客の所有物(例えば、鞄やベビーカー等)が挟み込まれていないかどうか等を確かめる。安全を確認できれば、運転士が列車80を発進させる。
【0037】
車掌業務支援システム1は、このような隙間90への転落および挟み込みの有無を判定する。「隙間90への転落」には、プラットホーム91から軌道92に達するまで落下した場合も、隙間90に挟まって宙吊りになっている場合も両方含まれる。転落および挟み込みの少なくともいずれか一方が発生していると、警報器7が動作する。例えば、警報器7は、乗務員室83内に設置されている(図1を参照)。警報が安全確認中の乗務員に向けて発せられ、乗務員の車掌業務が支援される。
【0038】
(在線検出装置、車速検知器、開閉検知器)
在線検出装置4は、プラットホーム91と隣接している軌道92上に列車80が存在するか否か、すなわち、列車80が駅のプラットホーム91に在線しているのか不在であるのかを検出する。在線検出装置4の検出結果は、無線で車掌業務支援装置2へ送信される。
【0039】
在線検出装置4は、どのように構成されていてもよい。例えば、軌道92のうちプラットホーム91と隣接している範囲を検知範囲Bとする軌道回路であってもよい。この場合、検知範囲Bは、1つの閉塞区間と対応している。軌道回路は、検知範囲B内に列車80が存在すると、列車80が停止しているか走行しているかに関わらず、列車80が在線していることを示す情報(在線情報)を出力する。軌道回路は、検知範囲B内に列車80が存在していないときには、列車80が不在であることを示す情報(不在情報)を出力する。
【0040】
その他、在線検出装置4は、検知範囲Bの両限界で列車80の存否を検知する一対の赤外線センサで構成されてもよい。一対の赤外線センサの検知結果の組み合わせに基づいて、列車80が在線しているか否かを判断することができる。
車速検知器5は、列車80の走行速度を検知する。車速検知器5は、検知された走行速度を示す情報を車掌業務支援装置2に出力する。車掌業務支援装置2は、車速検知器5から出力される情報に基づいて、列車80が停止状態であるか否かを判定することができる。
【0041】
開閉検知器6は、ドア85の状態を検知する。開閉検知器6は、検知された状態に応じて、ドア85が閉じていることを示す情報(閉扉情報)またはドア85が開いていることを示す情報(開扉情報)を車掌業務支援装置2に出力する。
【0042】
(光走査器)
図1に示すように、光走査器3は、光源11、偏向部12および受光部13を有し、これらは光走査器3の筐体内に収容されている。
図2(A)および図3に示すように、本実施形態では、2つの光走査器3が、1台の車両81の外面に取り付けられている。車両81の外面には、車体の天井面、車体の一対の側面、車体の前面および車体の後面が含まれる。本実施形態では、第1の光走査器3が、車両81の第1の側面に取り付けられている。第2の光走査器3が、車両81の第1の側面とは反対側の第2の側面に取り付けられている。
【0043】
光走査器3は、光源11で生成されたレーザ光等の走査光Lを偏向部12で所定の角度範囲内で偏向しながら射出することで、2次元的な(平面状の)走査範囲SRを形成する。
光走査器3は、走査範囲SRが略鉛直となる姿勢で、走査範囲SRが車両81の側面に沿う姿勢で、車両81に取り付けられている。「走査範囲SRが略鉛直」とは、平面状の走査範囲SRが水平面に対して略垂直に交差する状態をいう。「走査範囲SRが車両81の側面に沿う」とは、平面状の走査範囲SRが、車両81の側面から僅かな距離をおいて車幅方向に離れ、車両81の側面と略平行である状態をいう。
【0044】
なお、光走査器3および走査範囲SRの車両81に対する位置および姿勢は、側面への取付けにより、軌道92の勾配の有無に関わらず固定される。走査範囲SRの対地の姿勢は、軌道92の勾配に応じて、車両81とともに変わる。上記の「水平」および「鉛直」は、水平な軌道92上で列車80が走行している場合における対地の姿勢であり、勾配の変化に応じて変更される。
【0045】
図2(B)に示すように、走査光Lの偏向範囲は概略180度である。走査範囲SRは、側面視で半円形状であり、光走査器3から真下に延びる基準線を基準に線対称に形成されている。光走査器3は、側面の上部かつ車長方向中央部に配置されており、走査範囲SRの直径は、車両81の車長よりも長い。このため、側面の略全域が、走査範囲SRで覆われる。第1の側面に設けられた全てのドア85が、同じ側面に取り付けられている光走査器3によって形成される走査範囲SRと側面視で重ねられる。
【0046】
図3に示すように、走査範囲SRは、車両81の側面に沿っている。光走査器3の筐体は、車両限界に収まるようにして取り付けられており、走査範囲SRは、筐体の車幅方向先端よりも車両側に形成されている。プラットホーム91は、車両81と干渉しないように設置されている。よって、プラットホーム91の形状および軌道92の線形が特殊でなく、車体の台車あるいは軌道92に対する横方向への揺れが小さければ、光走査器3から射出された走査光Lおよびこれによって形成される走査範囲SRは、隙間90を通り抜け、プラットホーム91の下方に及ぶ。
【0047】
図2(B)に示すように、走査範囲SR内には、検知したい物(検知対象物)と、検知対象物を検知する状況(検知状況)とに応じて、検知エリアA1,A2が設定される。検知対象物とは、例えば、隙間90への転落者や、ドア85に挟み込まれた旅客の所有物である。検知状況とは、例えば、停止中や出線中のような車両81の状態である。検知エリアA1,A2は、走査範囲SR内に設定されるため、走査範囲SRと同様に平面状であり、走査範囲SRと同じ面内にある。
【0048】
この光走査器3においては、1つの走査範囲SR内に複数の検知エリアA1,A2を同時的に設定することができる。そのため、転落者と挟み込みのように、異なる検知対象物を同時並行で監視することができる。更に、同じ検知対象物(例えば、挟み込み)を、複数の検知エリアそれぞれで個別に検知することができる。例えば、停止状態という同じ検知状況下で、挟み込みを複数の検知エリアA1それぞれで個別に検知することができる。
物体が走査範囲SR内に存在すると、走査光Lがその物体で反射する。受光部13は、この反射光を受光する。車掌業務支援装置2は、検知状況に応じて検知エリアA1,A2を設定あるいは解除し、検知エリアA1,A2の設定中には受光部13での反射光の入力に基づいて設定中の検知エリアA1,A2内における検知対象物の有無を判定する。
【0049】
(車掌業務支援装置)
図1に示すように、車掌業務支援装置2は、車掌業務支援プログラムの実行により、記憶部20、在線情報取得部21、停止判定部22、開閉情報取得部23、戸挟み検知エリア設定部31、隙間検知エリア設定部32、検知部33、隙間検知エリア導出部34、戸挟み判定部35、転落判定部36および発報制御部37を有している。
【0050】
記憶部20は、車掌業務支援方法の実行に必要な情報およびデータを保存する。
在線情報取得部21は、在線検出装置4から在線情報および不在情報を取得する。
停止判定部22は、車速検知器5によって検知された列車80の走行速度に基づいて、列車80が停止状態であるか否かを判定する。停止判定部22は、走行状態から停止状態になったか否か、および停止状態から走行状態になったか否かを判定する。
【0051】
開閉情報取得部23は、開閉検知器6から閉扉情報および開扉情報を取得する。
戸挟み検知エリア設定部31は、戸挟み判定期間T3(図10を参照)において、走査範囲SR内に戸挟み検知エリアA1を設定する。戸挟み判定部35は、戸挟み判定期間T3において、走査範囲SRに設定された戸挟み検知エリアA1内で、物体のドア85への挟み込みの有無を判定する。
【0052】
隙間検知エリア設定部32は、転落判定期間T2(図10を参照)において、走査範囲SR内に隙間検知エリアA2を設定する。転落判定部36は、転落判定期間T2において、走査範囲SRに設定された隙間検知エリアA2内で、隙間90への転落の有無を判定する。
戸挟み判定期間T3の始期は、ドア85が一旦開いた後に再び閉じたタイミングである。戸挟み判定期間T3の終期は、在線状態から不在状態に切り換わったタイミングである。すなわち、戸挟み判定期間T3は、旅客の乗降が終わってから、列車80が駅からの出線を終了するまでの期間である。
【0053】
転落判定期間T2の始期は、ドア85が一旦開いた後に再び閉じたタイミングである。転落判定期間T2の終期は、列車80が停止状態から走行状態に切り換わったタイミングである。すなわち、転落判定期間T2は、旅客の乗降が終わってから列車80が発車するまでの期間であり、戸挟み判定期間T3と同時に始まり戸挟み判定期間T3よりも早く終わる。
【0054】
発報制御部37は、戸挟み判定部35または転落判定部36により、挟み込みまたは転落が発生したと判定されると、警報器7を動作させる。警報器7は、挟み込みが発生したと判定されたときと、転落が発生したと判定されたときとで、異なる動作パターンで動作する。警報器7がランプの場合、点灯色や、点灯し続けるか点滅するか等の動作パターンが異なる。警報器7がディスプレイの場合、表示されるメッセージの内容が異なる。警報器7がスピーカの場合、出力される音声が異なる。
【0055】
(戸挟み検知エリア)
戸挟み検知エリアA1は、予め導出されて記憶部20に保存されている。「予め」とは、車掌業務支援システム1を本稼働させる前である。複数の戸挟み検知エリアA1が、複数のドア85それぞれと一対一で対応している。各戸挟み検知エリアA1は、対応するドア85と側面視で重なる領域に設定される。
【0056】
本実施形態では、光走査器3が、プラットホーム91の下方で路盤93に対して固定されるのではなく、車両81の側面に取り付けられている。このため、光走査器3の車両81への取付位置および光走査器3の車両81に対する姿勢が決まれば、光走査器3および走査範囲SRのドア85に対する相対位置関係が固定される。列車80の停止位置が目標停止位置からずれたとしても、軌道92に勾配が付いていたとしても、停止状態で車体が揺れたとしても、光走査器3から見たドア85の方位および距離は変わらない。そこで、各戸挟み検知エリアA1は、光走査器3の車両81に対する位置および姿勢に応じて、対応するドア85と重なるように、予め導出される。
【0057】
戸挟み検知エリアA1は、設計データに基づいて予め導出されてもよい。戸挟み検知エリアA1は、光走査器3の車両81への取付後であって車掌業務支援システム1の本稼働前に行われた光走査器3の試験運転の結果に応じて、予め導出されてもよい。
戸挟み検知エリア設定部31は、戸挟み判定期間T3内において、記憶部20を参照して、予め保存されている戸挟み検知エリアA1を走査範囲SR内に設定する。戸挟み検知エリアA1を設定する処理が簡単でありながら、どの駅でも戸挟み検知エリアA1をドア85と側面視で重ねることができる。
【0058】
(隙間検知エリア)
隙間検知エリアA2は、列車80が駅で停止するとその都度、エリア導出期間T1(図10を参照)内に、検知部33および隙間検知エリア導出部34によって導出される。エリア導出期間T1の始期は、列車80が走行状態から停止状態に切り換わったタイミングである。エリア導出期間T1の終期は、転落判定期間T2の始期である。隙間検知エリア設定部32は、転落判定期間T2において、その直前のエリア導出期間T1内に導出された隙間検知エリアA2を走査範囲SR内に設定する。記憶部20は、隙間検知エリア導出部34で導出された隙間検知エリアA2を、その隙間検知エリアA2を用いた転落判定が終わるまで一時的に保存してもよい。
【0059】
図2(B)に示すように、隙間検知エリアA2は、走査範囲SR内において、プラットホーム91と車両81との間に形成される隙間90に設定される。ここでの「隙間」には、プラットホーム91の上面よりも下方の領域で、車両81とプラットホーム91との間に形成された空間も含まれる。
図2(B)では、図示の便宜上、隙間90内で走査光Lが反射し得る軌道92の表面が、車輪と接した直線で単純化されている。つまり、軌道92の表面が、軌道92の延在方向において起伏がなくレール頭頂面と同じ高さを保つように、単純化されている。
【0060】
しかし、図3に示すように、軌道92は、様々な要素から構成される。隙間90内では、砂利や砕石等のバラストが積まれる場合がある。バラストは、軌道92の延在方向において起伏を有する場合がある。バラストの高さは、保線作業の結果として変わる場合がある。更に、駅によってバラストの高さは異なり、一部の駅にバラストがない場合もある。
したがって、車両81に取り付けられた光走査器3から隙間90内の軌道92の表面までの距離は、方位(車長方向の位置)によって異なり、また、駅によって異なる。同じ駅で同じ方位であっても、停止位置が目標停止位置から車長方向にずれると、光走査器3から軌道92の表面までの距離が異なってくる。同じ駅で同じ停止位置であっても、保線作業の前後で光走査器3から軌道92の表面までの距離が、様々な方位で異なってくる場合がある。
【0061】
隙間検知エリアA2に軌道92の表面が入り込むと、転落判定部36が軌道92を転落者として誤判定する可能性がある。この誤判定を避けるため、どの駅でどの位置に列車80が停止したとしても軌道92が隙間検知エリアA2に入り込まないよう、隙間検知エリアA2の下辺縁A2aを上方に高く位置付けるようにして、全駅に共通の隙間検知エリアA2が予め導出されてもよい。この場合、軌道92の表面が相対的に低い箇所で旅客が転落すると、旅客が隙間検知エリアA2に入り込まず、転落判定部36が転落者を看過する可能性がある。この看過を避けるため、各駅で個別の隙間検知エリアA2が予め導出されてもよい。この場合、多数の隙間検知エリアA2を予め導出する作業が煩雑であり、車掌業務支援システム1の導入コストが高くなる可能性がある。また、システム本稼働前に確認された隙間検知エリアA2の妥当性を、保線作業その他の影響で、本稼働中に維持できない可能性もある。
【0062】
そこで、本実施形態に係る隙間検知エリアA2は、列車80が駅で停止するとその都度導出される。検知部33は、エリア導出期間T1が始まると、走査範囲SR内に存在する物体を検知する。検知される物体の候補として、軌道92の表面およびプラットホーム91の上面を挙げることができる。
隙間検知エリア導出部34は、検知部33によって検知された物体から退避するようにして隙間検知エリアA2を導出する。検知部33における検知のためのデータ取りは、ドア85が開くまでに完了する。隙間検知エリア導出部34におけるエリア導出の処理は、エリア導出期間T1の終期(転落判定期間T2の始期)までに完了すれば、どのタイミングで終わってもよい。ドア85が開くまでに完了してもよいし、ドア85が開いてからもエリア導出の処理が継続していてもよい。
【0063】
図4図8を参照して、隙間検知エリアA2の導出工程について説明する。図4図8では、プラットホーム91の上面および車輪と接するレール頭頂面が、二点鎖線の直線で示されている。隙間90内で走査光Lが反射し得る軌道92の表面は、実線で示されており、図2(B)とは異なり軌道92の延在方向において緩やかな起伏を有している。
隙間検知エリアA2の導出工程では、偏向部12が、走査光Lを約180度の走査範囲SR内で角移動させる(白抜き矢印を参照)。1回のスキャン動作で、走査光Lは、走査開始角θSの走査角から走査終了角θEの走査角まで、筐体内の偏向中心周りに角移動する。軌道92から光走査器3までの高さは、走査範囲SRの半径(あるいは光走査器3から車両81の車長方向端部までの長さ)よりも十分に小さい。そのため、このスキャン動作中における或る角度範囲内において、走査光Lが、隙間90を通り抜けて軌道92の表面上に照射され、表面からの反射光が受光部13に入力される。受光部13が反射光を受光すると、検知部33は、その反射位置RPの光走査器3に対する相対位置を測定する。すなわち、検知部33は、光走査器3から見た反射位置RPの方位と、光走査器3から反射位置RPまでの距離とを測定する。
【0064】
光走査器3の走査角は連続的に変化するが、検知部33は、反射位置RPの方位を所定の角度分解能ごとに検知する。角度分解能は、例えば、0.042°~1°の微小な値であるが、図4では、図示便宜上、5°おきに走査光Lおよびその反射光と反射位置RPを示している。距離は、走査光Lの飛行時間(方位と一致する走査角で走査光Lを射出してから、当該方位にある反射位置RPからの反射光を受光部13で入力するまでの時間)と、走査光Lの伝播速度とに基づいて測定される。
【0065】
1回のスキャン動作後に角度分解能ごとに反射位置RPを測定し、測定された反射位置RPを表したプロットを走査範囲SRが成す平面上に投影すると、図4に黒塗潰しの丸印(●)で示すように、プロットが表面に沿って離散的に並ぶ図を得ることができる。以下では、1回のスキャン動作、もしくは、1回のスキャン動作で得られた反射位置RPの測定結果群、もしくは、その測定結果群から生成される投影図を、「1フレーム」という。実際の角度分解能は、図4の例示より細かい。そのため、1フレームの投影図において、より多数のプロットが、表面に倣う線を成すかのように、より微細な間隔で並ぶ。
【0066】
スキャン動作は高速で繰り返される。偏向部12は、例えば、1秒あたり25回のスキャン動作を行うことができ、検知部33は、1秒間で25フレームを得る。前述した「検知部33における検知のためのデータ取り」とは、検知部33が、複数フレーム分の反射位置RPの測定データを得ることである。データ取りは、列車80が停止状態になると開始し、0.5~1秒間で終了する。この時間は、ドア85が閉まったままであるため旅客の乗降が開始しておらず、また、隙間90への転落が発生する蓋然性も低いと考えられる。このため、走査光Lが旅客で遮られず、隙間90内の反射位置RPのデータを取得するための時間として、好適である。
【0067】
スキャン動作の周波数(上記の25Hz)と、データ取りのために設定された時間(上記の0.5~1秒間)とに基づいて、検知部33は、13~25フレーム分の測定データを得る。検知部33は、これら複数フレームを、同一平面上に投影する。データ取りのために設定された時間内には、走査光Lが旅客で遮られる蓋然性は低いが、制動時に車体に作用する慣性や、降車準備中の旅客が客室82内で移動することによって生じる荷重移動の影響で、車体が揺れる場合がある。この揺れにより、車体に取り付けられた光走査器3の軌道92に対する相対位置が変位し、フレームごとに、各方位と対応した距離が変化する場合がある。複数フレームが投影されることにより、走査範囲SR内で軌道92の表面が入り込む可能性がある位置を特定することができる。
【0068】
図5は、検知部33によるデータ取り後の隙間検知エリアA2の導出を示す。図5では、図示の便宜上、図4に示した反射位置RPの測定結果群、すなわち1フレーム分の測定データのみが白抜き丸印(○)で示されている。実際には、上記のとおり、複数フレーム分の測定データが同一面上に表される。
隙間検知エリア導出部34は、複数フレーム分の反射位置RPの測定結果に基づいて、隙間検知エリアA2の下辺縁A2aを決定する。下辺縁A2aは、軌道92の表面に沿って軌道92の延在方向に並ぶ反射位置RPの測定結果群に対して上方に設定される。下辺縁A2aは、例えば、反射位置RPの各測定結果に対して所定距離(例えば、数cm)だけ上方に離れた位置を決定し、この反射位置RPから上方に離れた位置群を結ぶことによって設定されてもよい。これにより、光走査器3によって検知された物体としての軌道92の表面から上方に退避するように、隙間検知エリアA2が導出される。また、隙間検知エリアA2の下辺縁A2aは、軌道92の表面が起伏を有していたとしても、その表面と略平行になる。
【0069】
隙間検知エリアA2の上辺縁A2bおよび一対の側辺縁A2c,A2dは、記憶部20に予め保存されていてもよい。例えば、上辺縁A2bは、乗降口84の下縁に設けられる沓摺87と同じ高さ、あるいは、車体側面の下端と同じ高さに設定される。これにより、どの駅においても、隙間検知エリアA2の上辺縁A2bをプラットホーム91の上面付近に位置させることができる。一対の側辺縁A2c,A2dは、車長方向において車体の前面および後面それぞれと同じ位置に設定される。これにより、車両81の全長にわたって、隙間90への転落者を監視することができる。
【0070】
これにより、隙間検知エリアA2が、駅に停車するたびに走査範囲SR内で検知された物体(例えば、軌道92の表面)から退避するようにして導出される。このため、光走査器3が車両81に取り付けられていても、駅ごとに隙間検知エリアA2を予め個別に導出したり、どの駅でも物体と干渉しないような共通の隙間検知エリアA2を予め導出したりする必要がない。よって、導入時のコストを下げることができる。また、その都度軌道92の表面の近くまで隙間検知エリアA2を設定することができ、転落の検知精度が向上する。
【0071】
図6は、図4とは別の状況で複数フレーム分の測定結果を投影した図である。駅によっては、隙間90が極めて小さい場合がある。この場合、走査光Lが、プラットホーム91の上面で反射したり隙間90をギリギリ通過したりする。このような測定結果が得られた場合、隙間検知エリア導出部34は、隙間検知エリアA2を導出しない。必要な測定データが得られないため隙間検知エリアA2を導出することができないが、逆に言えば、転落が発生するおそれがない。このため、不導出により直後の転落判定を休止することも許容される。
【0072】
図7は、図4および図6とは別の状況で1フレーム分の測定結果を投影した図である。駅によっては、隙間90が極めて小さい箇所が局所的に存在する場合がある。この場合、走査光Lは、この局所的に隙間90が小さい箇所ではプラットホーム91の上面で反射し、それ以外の通常の隙間90が形成されている箇所では軌道92の表面で反射する。このような場合、図8に示すように、プラットホーム91の上面で反射した領域を除外するようにして、隙間検知エリアA2が設定されてもよい。
【0073】
(車掌業務支援方法)
以下、図9図16を参照して車掌業務支援方法の手順に沿って車掌業務支援装置2の動作を説明する。図9に示すフローは、列車80の運行中に繰り返し実行される。
図10のt6以降あるいはt1以前および図11を併せて参照して、まず、列車80が駅間を走行中であると仮想する。このとき、在線情報取得部21は、在線検出装置4から不在情報を取得する。このように不在状態であれば(S1:Y)、処理が終了する。
【0074】
次に、図10のt1以降および図12を併せて参照して、列車80が検知範囲B内に進入する。このとき、在線情報取得部21は、在線検出装置4から在線情報を取得する。停止判定部22は、列車80が走行状態であると判定する。特に、停止判定部22は、在線情報取得部21が在線情報を取得し始めた時点t1から、列車80が未だ停止状態に遷移せずに走行状態を維持していると判定する。これにより、車掌業務支援装置2内で、列車80の入線状態が検出される。このように入線状態であれば(S1:Y)、処理が終了する。
【0075】
次に、図10のt2以降および図13を併せて参照して、列車80が検知範囲B内で停止する。このとき、在線情報取得部21は、在線検出装置4から在線情報を取得する。停止判定部22は、列車80が停止状態であると判定する。停止判定部22が、列車80が走行状態から停止状態に遷移したと判定した時点t2において、ドア85は開かれる前の閉じた状態である。開閉情報取得部23は、開閉検知器6から閉扉情報を取得する。この停止状態かつ開扉前の閉扉状態では(S1:N、S2:N、S3:Y)、隙間検知エリアA2が導出される(S10)。
【0076】
上記までの構成では、車掌業務支援装置2は、列車80が停止した時点t2で、進行方向に向かって左右どちらにプラットホーム91があり、左右どちらのドア85を開けるのかを特定できない。そのため、左右の光走査器3の両方で、隙間検知エリアA2が導出されてもよい。代わりに、進行方向に向かって左側のドア85が開くのか右側のドア85が開くのかは、駅によって予め決められている。よって、記憶部20は、停車駅ごとに左右どちらのドア85が開くのかを示す情報を予め保存してもよい。この場合、検知部33は、記憶部20に保存される情報に従って、プラットホーム91と対向する側の光走査器3を特定し、当該光走査器3の走査範囲SR内の物体を検知する。開閉検知器6が、前述した第1操作器および第2操作器のいずれが操作されたのかを検出可能である場合、操作された操作器を検出すると、操作されなかった側の隙間検知エリアの導出および設定が中止されてもよい。
【0077】
隙間検知エリアA2の導出法は、前述したとおりである。検知部33は、列車80が停止した時点t2から0.5~1秒のデータ取得期間内に、複数フレーム分の測定データを取得する。測定データの取得は、ドア85が開く時点t3前に完了する。隙間検知エリア導出部34は、検知部33の検知結果に基づいて、隙間検知エリアA2を導出する。図9に示すフローは、隙間検知エリアA2の導出処理(S10)が、ドア85を開ける前に完了する旨を示すが、隙間検知エリアA2は、列車80が停止した時点t2から、ドア85が一旦開いた後に再び閉じる時点t4までのエリア導出期間T1内に導出されればよい(図10を参照)。ドア85が開いた後にも隙間検知エリアA2の導出処理(S10)が継続してもよい。
【0078】
次に、図10のt3以降および図14を併せて参照して、乗務員がドア操作器88を操作してドア85を開ける。このとき、在線情報取得部21は、在線検出装置4から在線情報を取得し、停止判定部22は、列車80が停止状態であると判定する。開閉情報取得部23は、開閉検知器6から開扉情報を取得する。この停止状態かつ開扉状態では(S1:Y)、処理が終了する。換言すれば、車掌業務支援装置2は、開閉検知器6が開扉情報を取得した時点t3以降、ドア85が再び閉まるのを待機する。
【0079】
ドア85が開くと、旅客が隙間90を跨いで乗降口84を介し、列車80に対して乗降する。乗務員は、乗降する旅客の流れが途絶えると、ドア操作器88を操作してドア85を閉じる。開扉中には転落が発生する可能性があり、閉扉時には挟み込みが発生する可能性がある。
次に、図10のt4以降および図15を参照して、ドア85が再び閉じられている。このとき、在線情報取得部21は、在線検出装置4から在線情報を取得し、停止判定部22は、列車80が停止状態であると判定する。開閉情報取得部23は、開閉検知器6から閉扉情報を取得する。この停止状態かつ開扉後の再閉扉状態になると(S1:N、S2:N、S3:N)、転落判定期間T2および戸挟み判定期間T3が始まる。
【0080】
隙間検知エリア設定部32が、隙間検知エリア導出部34によって導出された隙間検知エリアA2を走査範囲SR内に設定する(S21)。転落判定部36は、隙間検知エリアA2内で隙間90への転落の有無を判定する(S22)。
旅客が隙間90へ転落していない場合、隙間検知エリアA2内に入り込む物体は存在しない。仮に旅客が隙間90へ転落すると、旅客が隙間検知エリアA2内に入り込む。旅客が軌道92の表面上で立っている、あるいは隙間90に挟まって宙吊りになっている場合には、旅客の頭部に、場合により肩部や背部にも走査光Lが照射される。旅客が軌道92上で横たわっている場合には、旅客の頭部あるいは脚部に走査光Lが照射される。下辺縁A2aが軌道92の表面に近づけられているので、横たわる旅客も隙間検知エリアA2内に入り込ませることができる。転落判定部36は、隙間検知エリアA2内に走査光Lの反射位置が出現したことに基づいて、隙間への転落が発生したと判定する。
【0081】
また、戸挟み検知エリア設定部31が、記憶部20に保存されている戸挟み検知エリアA1を走査範囲SR内に設定する(S31)。これにより、複数の戸挟み検知エリアA1が、プラットホーム91と面している全てのドア85それぞれと側面視で重ねられる。戸挟み判定部35は、各戸挟み検知エリアA1内で戸挟みの有無を判定する(S32)。
戸挟みが発生していない場合、既に旅客の乗降も終了しており、各ドア85の周辺に戸挟み検知エリアA1を横切るような物体は存在しない。仮に戸挟みが発生すると、ドア85に挟み込まれた物体のうち、車外にはみ出している部分が、戸挟み検知エリアA1内に入り込む。走査光Lがこの物体に照射される。戸挟み判定部35は、少なくともいずれか1つの戸挟み検知エリアA1内に走査光Lの反射位置が出現したことに基づいて、少なくともいずれか1つのドア85において戸挟みが発生したと判定する。
【0082】
転落も戸挟みも発生していないと判定されると(S23:N且つS33:N)、処理が終了する。
転落が発生したと判定されると(S23:Y)、発報制御部37が、転落発生時に対応する動作パターンで警報器7を動作させる(S24)。戸挟み判定部35が、戸挟みが発生したと判定すると(S33:Y)、発報制御部37は、戸挟み発生時に対応する動作パターンで警報器7を動作させる(S34)。これにより、乗務員室83内の乗務員は、転落が発生したのか、戸挟みが発生したのかを知ることができる。
なお、図9に示すフローでは、転落判定に係る処理S21~S24が、戸挟み判定に係る処理S31~S34に先立って実行されているが、2つの処理の実行順序は逆でもよい。
【0083】
次に、図10の時点t5以降および図16を併せて参照して、列車80が発進する。このとき、在線情報取得部21は、在線検出装置4から在線情報を取得する。停止判定部22は、列車80が走行状態であると判定する。特に、停止判定部22は、在線情報取得部21が在線情報を取得し始めた時点から、列車80が一旦停止状態に遷移し、この停止状態を脱して再び走行状態になったと判定する。これにより、車掌業務支援装置2において、列車80の発進、走行開始および出線状態が検出される。このように列車80が走行を開始して出線状態になると(S1:N、S2:Y)、転落判定期間T2が終わり、戸挟み判定期間T3は継続する。
【0084】
隙間検知エリア設定部32は、隙間検知エリアA2の設定を解除し(S41)、転落判定部36は、転落の有無の判定を終了する(S42)。そして、発進前と同様に、戸挟み検知エリア設定部31および戸挟み判定部35が、戸挟み判定に係る処理S31~S34を実行する。
戸挟み判定に係る処理は、列車80が駅からの出線を終了するまで継続する。在線情報取得部21は、列車80が出線を終了していない間は、在線検出装置4から在線情報を取得し続ける。列車80が出線を終了すると、すなわち、列車80の最後尾が検知範囲Bから退出すると、在線情報取得部21で取得される情報が、在線情報から不在情報に切り換わる。不在情報に切り換わると(S1:Y)、処理が終了する。すなわち、戸挟み検知エリア設定部31は、戸挟み検知エリアA1の設定を解除し、戸挟み判定部35は、戸挟みの有無の判定を終了する。
【0085】
本実施形態によれば、旅客乗降用のドア85が設けられた車両81の側面に沿って走査範囲SRを形成する光走査器3を用いて、戸挟みの有無と転落の有無とを両方とも判定することができる。車掌業務に従事する乗務員は、この判定結果を参照し、目視のみに頼らず停車駅での安全確認を行うことができる。また、戸挟みの有無を判定する専用機器と、転落の有無を判定する専用機器とを別々に設置する場合と比べ、構成が簡素になる。よって、車掌業務の負荷軽減と低コスト化とを両立することができる。
【0086】
このため、ワンマン運転を採用した区間でも導入しやすく、運転士の車掌業務の負荷を軽減することができ有益である。2つの光走査器3が1台の車両81に設置されるが、このような区間では、1編成当たりの車両数が少なく、また、編成数も少ない。よって、各駅にカメラやレーザスキャナを設置する場合よりも、構成を簡素にすることも可能である。
【0087】
転落の判定は、停止状態かつ再閉扉状態で行われる。再閉扉状態になる前に転落が発生していたとしても、これを発車前に見逃さずに発見することができる。
隙間検知エリアA2は、停止状態で軌道92の表面の形状に合わせて導出されているが、列車80が動いて光走査器3の軌道92の表面に対する相対位置関係が変わると、軌道92の表面あるいはその他の鉄道設備が、隙間検知エリアA2内に入り込む可能性がある。転落の判定は、列車80が発進すると終了する。そのため、転落判定部36が、転落者以外の鉄道設備を転落者として誤判定するのを抑止することができる。
【0088】
戸挟みの判定も、停止状態かつ再閉扉状態で行われる。閉扉時に挟み込みが発生していたとしても、これを発車前に早期に発見することができる。戸挟みの判定は、更に、列車80が出線を終了するまで継続される。戸挟みが解消されないまま列車80が発進を開始してしまっても、ドア85に挟み込まれて列車80に引き摺られている物体を列車80の走行速度が高くならないうちに発見することができる。
【0089】
挟み込みの発生時と、転落の発生時とで警報器7が異なるパターンで動作するので、乗務員は、挟み込みが発生したのか転落が発生したのかを知ることができる。挟み込み発生時に必要な対処(例えば、ドア85の開き直し等)、および転落発生時に必要な対処(例えば、閉扉状態を維持して転落箇所へ急行する等)を、警報器7の動作に応じて迅速に行うことができる。
【0090】
<第2実施形態>
図17は、第2実施形態に係る車掌業務支援システムが適用されたプラットホームおよび軌道を示す。
本実施形態に係る光走査器3Aは、複数の走査範囲SRを形成する。複数の走査範囲SRは、光走査器3Aの筐体を通過する車長方向の仮想軸周りの姿勢が互いに異なる。複数の走査範囲SRが形成される場合、各走査範囲SR内に隙間検知エリアおよび戸挟み検知エリアが設定される。
これにより、これら検知エリアを横切る物体の車幅方向における位置およびサイズを監視することができ、転落の発生および戸挟みの発生を精度よく検知することができる。
【0091】
<変形例>
これまで実施形態について説明したが、上記構成は本発明の範囲内で適宜変更、追加および/または削除可能である。
【0092】
光走査器3、3Aは、車両81の側面に設けられる例を挙げて説明したが、側面に走査範囲SRを形成可能であればよく、側面以外の外面に設けられていてもよい。
1つの光走査器を1つの側面に設けるとしたが、複数の光走査器が1つの側面に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1 車掌業務支援システム
2 車掌業務支援装置
3、3A 光走査器
7 警報器
20 記憶部
21 在線情報取得部
22 停止判定部
23 開閉情報取得部
31 戸挟み検知エリア設定部
32 隙間検知エリア設定部
33 検知部
34 隙間検知エリア導出部
35 戸挟み判定部
36 転落判定部
37 発報制御部
80 列車
81 車両
83 乗務員室
85 旅客乗降用ドア
90 隙間
91 プラットホーム
92 軌道
L 走査光
SR 走査範囲
A1 戸挟み検知エリア
A2 隙間検知エリア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
図16
図17