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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】トロイダル型無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/38 20060101AFI20241106BHJP
   F16C 32/06 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
F16H15/38
F16C32/06 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021038431
(22)【出願日】2021-03-10
(65)【公開番号】P2022138513
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】伊東 保雄
(72)【発明者】
【氏名】板垣 浩文
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-137651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/38
F16C 32/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、互いの内側面同士を対向させた状態で互いの相対回転を自在として前記入力軸と同心に配置された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心として揺動するトラニオンと、このトラニオンに対して静圧軸受を介して回転可能に支持された状態で前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されるパワーローラとを備え、
前記静圧軸受は、
前記パワーローラと前記トラニオンとの間に設けられて前記トラニオンに支持されるとともに、前記パワーローラを回転可能に支持する支軸と、前記支軸に支持された前記パワーローラの平坦な円環状の外側面に対向する平坦な円環状の内側面とを有する軸受本体と、
前記パワーローラの前記外側面および前記軸受本体の前記内側面のいずれか一方に設けられ、供給される潤滑油を貯留する圧油貯留部と、
前記圧油貯留部に供給されて貯留される潤滑油により形成され、前記パワーローラの前記外側面と前記軸受本体の前記内側面との間に、前記パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を支承する油圧を生起させる油膜と、
を有し、
前記静圧軸受の前記圧油貯留部に潤滑油を供給するための潤滑油供給部を更に備え、前記圧油貯留部は、前記パワーローラの前記外側面に設けられる溝から成ることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記静圧軸受は、前記パワーローラを介した前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間のトルク伝達に要する押付力を発生させることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記軸受本体が前記トラニオンに対して更なる静圧軸受を介して支持され、前記更なる静圧軸受は、前記軸受本体の平坦な外側面と対向する前記トラニオンの平坦な内側面に設けられるとともに供給される潤滑油を貯留する静圧ポケットを有することを特徴とする請求項1または2に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
前記更なる静圧軸受は、前記パワーローラを介した前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間のトルク伝達に要する押付力を発生させることを特徴とする請求項に記載のトロイダル型無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機として、図5および図6に記載されているものが知られている。
このダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図5および図6に示すように構成されている。図5に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転可能に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転可能に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された中間壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
図5に示すように、出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転可能に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これらの入力側ディスク2は入力軸1とともに回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面;トラクション面とも言う)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図6参照)が回転可能に挟持されている。
【0005】
図5中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図5の右面)は、入力軸1の外周面に形成されたネジ部に螺合されたローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力(予圧)を付与する。
【0006】
図6は、図5のA-A線に沿う断面図である。図6に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図6においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(図6の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸(ピボット軸)23の基端部を成す支持軸部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これらの各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部を成す枢支軸部23bの周囲には、各パワーローラ11がラジアルニードル軸受(後述するスラスト玉軸受24の内輪(パワーローラ11)に作用する押付荷重を受ける(ラジアル方向の荷重を支承する)針状ころ軸受;ケージ・アンド・ローラ)35を介して回転可能に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の支持軸部23aと枢支軸部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図6の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これらの支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図5の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ(シリンダボディ)31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の枢支軸部23bが支持軸部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図6で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、ローディングカム式の押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これらの各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(転動体)26,26と、これらの各転動体26,26を転動可能に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道面24aは各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道面24bは各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらのパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の支持軸部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図6の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これらの各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これらの各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらのトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、ローディングカム式の押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、さらに、これら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図6の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。
【0015】
その結果、これらの各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0016】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれらの各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の支持軸部23a,23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0017】
このように、トロイダル形無段変速機のパワーローラ11は、入力側ディスク2と出力側ディスク3とに挟まれ、支持されているトラニオン15の傾転により変速および動力(トルク)を伝達し(例えば、特許文献1参照)、その回転部分(パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつパワーローラ11の回転を許容する部分)がスラスト玉軸受24となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開平10-141460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、このようなスラスト玉軸受24によるパワーローラ11の回転可能な支持形態では、伝達トルクが少ない場合、スラスト玉26に発生するジャイロモーメントにより、該玉26にジャイロ滑りが発生する。このような滑りは、摩擦抵抗の増大によりスラスト玉軸受24の回転トルクや発熱量を増大させて、軸受溝部(内輪軌道面24aおよび外輪軌道面24b)の焼付きを起こしてしまう場合があり、このスラスト玉軸受24の耐久性を低下させる。このため、トルクを要しない場合であっても、皿ばね等により、玉26のジャイロ滑りが発生しないように常時押付力を保持していなくてはならない。また、スラスト玉軸受24の前記軸受溝部およびトラクション面2a,3aは、高速回転域や高トルク動力伝達の際に生じる押付力による発熱がそれぞれの疲れ寿命に大きく影響する。
【0020】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、スラスト玉軸受に伴う玉のジャイロ滑りおよびそれによる発熱の問題を解消できるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するために、本発明のトロイダル型無段変速機は、入力軸と、互いの内側面同士を対向させた状態で互いの相対回転を自在として前記入力軸と同心に配置された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心として揺動するトラニオンと、このトラニオンに対して静圧軸受を介して回転可能に支持された状態で前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されるパワーローラとを備え、前記静圧軸受は、前記パワーローラと前記トラニオンとの間に設けられて前記トラニオンに支持されるとともに、前記パワーローラを回転可能に支持する支軸と、前記支軸に支持された前記パワーローラの平坦な円環状の外側面に対向する平坦な円環状の内側面とを有する軸受本体と、前記パワーローラの前記外側面および前記軸受本体の前記内側面のいずれか一方に設けられ、供給される潤滑油を貯留する圧油貯留部と、前記圧油貯留部に供給されて貯留される潤滑油により形成され、前記パワーローラの前記外側面と前記軸受本体の前記内側面との間に、前記パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を支承する油圧を生起させる油膜とを有し、前記静圧軸受の前記圧油貯留部に潤滑油を供給するための潤滑油供給部を更に備えることを特徴とする。
【0022】
上記構成によれば、従来のようなスラスト玉軸受ではなく静圧軸受を介してパワーローラがトラニオン側に回転可能に支持されているため、前述したスラスト玉(転動体)のジャイロ滑りは、発生源となる玉が存在しないため生じることはなく、したがって、ジャイロ滑りを抑止するために従来必要であった入力側ディスクおよび出力側ディスクへの押付力も少なくて済む。また、ジャイロ滑りに伴う発熱の問題(例えば軸受溝部の焼付き等)も解消できる。さらには、スラスト玉軸受を構成する玉や保持器などを排除できることから、パワーローラ回転軸方向でのトラニオンの厚さ寸法も抑えることができ、装置全体の小型化を図ることができる。また、パワーローラと入力側ディスクおよび出力側ディスクの変形に伴って必要とされるパワーローラの揺動についても、静圧軸受面の圧油に伴う浮上によって行なわれることから、従来必要であったパワーローラ揺動用の変位軸(ピボット軸)も排除できる。
【0023】
なお、上記構成において、圧油貯留部としては、例えば、パワーローラの外側面に設けられる溝、軸受本体の内側面に設けられる静圧ポケットなどを挙げることができ、これらの溝や静圧ポケットには、トラニオン側から油路を介して圧油が供給される。
【0024】
また、上記構成において、静圧軸受は、パワーローラを介した入力側ディスクと出力側ディスクとの間のトルク伝達に要する押付力を発生させることが好ましい。上記構成によれば、前述したように、パワーローラを回転可能に支持する(パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を支承する)軸受を静圧化することで、ジャイロ滑りおよび発熱の問題を解消できる。しかし、伝達されるトルクによってはトラクション面(入力側および出力側ディスクの内側面)に与えるべき押付力が不足する場合がある。そうした場合には、静圧軸受で生起される油圧によりトルク伝達に要する押付力をパワーローラと入力側ディスクおよび出力側ディスクとの間で発生させることでこれに対応できる。
【0025】
また、上記構成では、軸受本体がトラニオンに対して更なる静圧軸受を介して支持されてもよく、その場合、更なる静圧軸受は、軸受本体の平坦な外側面と対向するトラニオンの平坦な内側面に設けられるとともに供給される潤滑油を貯留する静圧ポケットから成ってもよい。この場合、更なる静圧軸受は、パワーローラを介した入力側ディスクと出力側ディスクとの間のトルク伝達に要する押付力を発生させることが好ましい。これによれば、押付力発生機能を果たす前述した静圧軸受に加えて、更なる静圧軸受をトラニオン側に付加することで、2つの静圧軸受の協働により、押付力不足状態を補償して適正な押付力をトラクション面に与えることが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来のスラスト玉軸受に代えて静圧軸受を採用することにより、スラスト玉軸受に伴う玉のジャイロ滑りおよびそれによる発熱の問題を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機の静圧軸受を伴うパワーローラの斜視図である。
図2図1の静圧軸受を伴うパワーローラの概略的な側断面図である。
図3】本発明の第2の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機の静圧軸受を伴うパワーローラの概略的な側断面図である。
図4】本発明の第3の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機の静圧軸受を伴うトラニオンおよびパワーローラの概略的な側断面図である。
図5】従来のトロイダル型無段変速機の一例を示す断面図である。
図6図5におけるA-A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の特徴は、パワーローラの回転可能な支持形態にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分においては、図5および図6と同一の符号を付してその詳細な説明を省略または簡略化することにする。
【0029】
図1および図2は、本発明の第1の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機の静圧軸受を伴うパワーローラを示している。図示のように、本実施の形態では、図5および図6に関連して説明した従来の構造において、スラスト玉軸受24に代えて静圧軸受70が採用されている。そのため、本実施の形態では、図5および図6に関連して前述した外輪28から変位軸23に関連する部位と外輪軌道面24bとが排除されて成る部分が静圧軸受70の軸受本体28Aとして構成されている。この場合、軸受本体28Aは、パワーローラ11とトラニオン15(図1および図2には示されない;図5および図6参照)との間に設けられ、トラニオン15に対して直接的または支持部材を介して間接的に支持される。また、軸受本体28Aは、パワーローラ11と対向する側の中央に支軸72を有し、この支軸72には、パワーローラ11が、該パワーローラ11に作用する押付荷重を受ける(ラジアル方向の荷重を支承する)ラジアルニードル軸受35を介して回転可能に支持されている。また、この支軸72の存在に起因して、軸受本体28Aは、パワーローラ11と対向する側に平坦な円環状の内側面28Aaを有する。なお、軸受本体28Aは、内側面28Aaの反対側に、トラニオン15と対向する平坦な外側面28Abも有する。
【0030】
一方、支軸72に回転可能に支持されるパワーローラ11も、静圧軸受70の導入に伴って、図5および図6に関連して前述した形態から内輪軌道面24aが排除されて、支軸72が挿通される有底円筒状の内孔11bを有し、それに伴って、軸受本体28Aの平坦な円環状の内側面28Aaと対向する平坦な円環状の外側面(大端面)11cを有する。また、パワーローラ11は、外側面11cの反対側に、平坦な内側面(小端面)11dも有する。
【0031】
また、静圧軸受70は、供給される潤滑油を貯留する圧油貯留部を更に有し、この圧油貯留部は、パワーローラ11の外側面11cおよび軸受本体28Aの内側面28Aaのいずれか一方に設けられる。特に本実施の形態では、この圧油貯留部がパワーローラ11の外側面11c上に設けられる。圧油貯留部は、この圧油貯留部に供給されて貯留される潤滑油により、パワーローラ11の外側面11cと軸受本体28Aの内側面28Aaとの間に、パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承する油圧を生起させる油膜を形成するようになっている。具体的には、そのような圧油貯留部は、本実施の形態では、パワーローラ11の外側面11cに設けられる多数の溝75から成り、これらの溝75は、図1に示される例では、パワーローラ11の内孔11bの周縁からそれぞれが時計回りに大きな曲率を描くように湾曲して径方向外側へと延びており、全体として放射状の形態を成して外側面11cの全周にわたって配設されている。なお、これらの溝75には、図5および図6に関連して説明した駆動装置32または該駆動装置に圧油を供給する油供給源(図1に概念的に示される潤滑油供給部92を参照)から、潤滑油供給路(油路;図6に示される管路を参照)や例えば支軸72等を通じて潤滑油(圧油)が供給されるようになっている。
【0032】
また、本実施の形態において、軸受本体28Aの周側面には、内側面28Aaの側に位置して、パワーローラ11の外側面11cの側の周側縁部と僅かな隙間を存して全周にわたって嵌合する環状のフランジ壁28Acがパワーローラ11に向かって軸方向に延出して形成されている。このフランジ壁28Acとパワーローラ11の周側縁部との嵌合(遊嵌)により、溝75に供給される潤滑油の油圧がパワーローラ11の外側面11cと軸受本体28Aの内側面28Aaとの間で上昇し、その油圧によって軸受本体28Aに対してパワーローラ11を浮かせることができる。
【0033】
このように、本実施の形態によれば、従来のようなスラスト玉軸受24ではなく静圧軸受70を介してパワーローラ11がトラニオン15側に回転可能に支持されているため、前述したスラスト玉(転動体)26のジャイロ滑りは、発生源となる玉26が存在しないため生じることはなく、したがって、ジャイロ滑りを抑止するために従来必要であった入力側ディスク2および出力側ディスク3への押付力も少なくて済む。また、ジャイロ滑りに伴う発熱の問題(例えば軸受溝部の焼付き等)も解消できる。さらには、スラスト玉軸受24を構成する玉26や保持器27などを排除できることから、パワーローラ回転軸方向でのトラニオン15の厚さ寸法も抑えることができ、装置全体の小型化を図ることができる。また、パワーローラ11と入力側ディスク2および出力側ディスク3の変形に伴って必要とされるパワーローラ11の揺動についても、前述した静圧軸受面の圧油に伴う浮上によって行なわれることから、従来必要であったパワーローラ揺動用の変位軸(ピボット軸)23も排除できる。
【0034】
図3は、本発明の第2の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機の静圧軸受70Aを伴うパワーローラ11を概略的に示している。図示のように、本実施の形態において、静圧軸受70Aは、パワーローラ11とトラニオン15(図3には示されない;図5および図6参照)との間に設けられてトラニオン15に対して直接的または支持部材を介して間接的に支持される第1の実施の形態とほぼ同様の軸受本体28A(本実施の形態ではフランジ壁28Acを伴わない)と、軸受本体28Aの内側面28Aaに設けられるとともに供給される潤滑油を貯留する圧油貯留部とを有する。パワーローラ11は、軸受本体28Aの支軸72に回転可能に支持されるとともに、内側面11d側に設けられる抜け止め部材90によって支軸72からの抜けが防止される。
【0035】
静圧軸受70Aの前記圧油貯留部は、この圧油貯留部に供給されて貯留される潤滑油により、パワーローラ11の外側面11cと軸受本体28Aの内側面28Aaとの間に、パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承する油圧を生起させる油膜を形成するようになっており、本実施の形態では、軸受本体28Aの内側面28Aaに設けられる静圧ポケット79から成る。静圧ポケット79は、図3に示される例では、軸受本体28Aの内側面28Aaの全周にわたって環状に形成されるが、前述した第1の実施形態のような放射状または任意の他の形状の配列形態を成して全周にわたって複数設けられてもよく、その配設形態は様々に考えられる。また、このような静圧ポケット79には、軸受本体28Aを通じて延びる潤滑油供給路(油路)76を介して潤滑油(圧油)がトラニオン15側(潤滑油供給部側)から供給されるようになっている。それにより、静圧軸受70Aは、パワーローラ11の外側面11cと軸受本体28Aの内側面28Aaとが接触しないような油膜(浮上油圧)をこれらの間で生起できるとともに、例えば図示しない潤滑油供給部からの供給量(供給圧)が調整されることにより、パワーローラ11を介した入力側ディスク2と出力側ディスク3との間のトルク伝達に要する適正な押付力をさらに発生させることができるようになっている。このように、静圧軸受70Aが、トルク伝達に要する押付力の発生機構を兼ねれば、トルクに応じてトラクション面(ディスク2,3の内側面2a,3a)に与えるべき押付力が不足する場合に、その不足した押付力を静圧軸受70Aで補うことができる。
【0036】
図4は、本発明の第3の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機の静圧軸受を伴うトラニオン15およびパワーローラ11を概略的に示している。図示のように、本実施の形態では、図3に示される第2の実施の形態の構成に加えて、軸受本体28Aがトラニオン15に対して更なる静圧軸受70Bを介して支持されている。この場合、更なる静圧軸受70Bは、軸受本体28Aの平坦な外側面28Abと対向するトラニオン15の平坦な内側面15aに設けられるとともに供給される潤滑油を貯留する静圧ポケット98を有する。静圧ポケット98は、図4に示される例では、トラニオン15の内側面15aの全周にわたって環状に形成されるが、前述した第1の実施形態のような放射状または任意の他の形状の配列形態を成して全周にわたって複数設けられてもよく、その配設形態は様々に考えられる。また、このような静圧ポケット98には、トラニオン15を通じて延びる潤滑油供給路(油路)97を介して潤滑油(圧油)が駆動装置32側(潤滑油供給部側)から供給されるようになっている。それにより、静圧軸受70Bは、トラニオン15の内側面15aと軸受本体28Aの外側面28Abとが接触しないような油圧(浮上油圧)をこれらの間で生起できるとともに、例えば図示しない油圧源からの供給量(供給圧)が調整されることにより、パワーローラ11を介した入力側ディスク2と出力側ディスク3との間のトルク伝達に要する適正な押付力をさらに発生させることができるようになっている。このように、押付力発生機能を果たす前述した静圧軸受70Aに加えて、更なる静圧軸受70Bをトラニオン15側に付加することで、2つの静圧軸受70A,70Bの協働により、押付力不足状態を補償して適正な押付力をトラクション面(ディスク2,3の内側面2a,3a)に与えることが可能となる。
【0037】
なお、本実施の形態では、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pの置端部に、トラニオン15の折れ曲がり壁部20の内側面により形成される段部20aによって、図4の平断面に対して垂直方向のパワーローラ11の揺動をガタつきことなく案内するパワーローラ揺動ガイド95も設けられる。
【0038】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は、前述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変形が可能である。例えば、前述の実施の形態では、本発明を、ダブルキャビティ式ハーフトロイダル型無段変速機に適用する場合を例にとって説明したが、これに限ることなく、本発明は、シングルキャビティ式のハーフトロイダル型やフルトロイダル型のトロイダル型無段変速機にも適用できる。また、圧油貯留部を構成する静圧ポケットおよび溝の形成形態も前述した実施の形態に限定されない。
【符号の説明】
【0039】
1 入力軸
2 入力側ディスク
2a 内側面
3 出力側ディスク
3a 内側面
11 パワーローラ
14 枢軸
15 トラニオン
28A 軸受本体
70,70A,70B 静圧軸受
72 支軸
75 溝(圧油貯留部)
79,98 静圧ポケット(圧油貯留部)
92 潤滑油供給部
図1
図2
図3
図4
図5
図6