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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】採水システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/18 20060101AFI20241106BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G01N33/18 106B
G01N1/10 N
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021054170
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022151205
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】井上 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 康弘
(72)【発明者】
【氏名】片山 浩之
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-147820(JP,A)
【文献】実開昭52-019280(JP,U)
【文献】特開2002-202228(JP,A)
【文献】米国特許第05390553(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0289402(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/18
G01N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
採水点から流入した試料水が流れる流路と、
前記流路において前記採水点と反対側に位置する端部に配置され、前記流路を流れてきた前記試料水を溜める採水容器と、
前記流路に沿って配置され、前記流路を流れる前記試料水を冷却する第1冷却装置と、
前記採水容器に溜まった前記試料水を冷却する第2冷却装置と、
を備え
前記第1冷却装置は、前記採水容器に溜まった前記試料水の温度が維持される第1範囲に、前記流路の前記端部に流れてきた前記試料水の温度が含まれるように前記試料水を冷却する、
採水システム。
【請求項2】
前記第2冷却装置は、前記採水容器に溜まった前記試料水の温度を前記第1範囲に維持する、
請求項1に記載の採水システム。
【請求項3】
前記第1冷却装置は、前記流路を構成する送液管に沿って配置され、かつ前記送液管を流れる前記試料水よりも低温の流体が流れる冷却管を有する、
請求項1又は2に記載の採水システム。
【請求項4】
前記第2冷却装置は、遮光した状態で前記採水容器を内部に収容する冷却庫を有する、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の採水システム。
【請求項5】
前記冷却庫は、内部に収容される前記採水容器を取り換え可能に構成される、
請求項に記載の採水システム。
【請求項6】
前記第1冷却装置と前記第2冷却装置との間に位置する前記流路を構成する送液管は保冷構造を有する、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の採水システム。
【請求項7】
前記採水容器は、前記採水容器に溜まった前記試料水の量に応じて容量可変に構成される、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の採水システム。
【請求項8】
前記流路を流れる前記試料水の流速が第2範囲に維持されるように前記流速を制御する制御装置を備える、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の採水システム。
【請求項9】
前記制御装置は、前記試料水が前記流路を1日にわたり常時流れるように前記流速を制御する、
請求項に記載の採水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、採水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば水処理インフラにおける処理水の水質を管理したり、海洋などの水域の水質を検査したりすることを目的とした試料水の採水に関連する技術が知られている。例えば、特許文献1には、ろ過速度を速めると共に、粒子の捕捉能力を高め、試料の変質を防ぐことができる自動採水器用ろ過装置が開示されている。例えば、特許文献1に記載のろ過装置は、冷凍機等補器類を含む冷蔵装置付きの自動採水器と組み合わせて使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-147820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術を含む試料水の採水に関連する従来技術では、採水された試料水の水質の劣化を抑制するために試料水を効率的に冷却して採水容器に溜める点については十分に考慮されていなかった。
【0005】
本開示は、試料水を効率的に冷却して採水容器に溜めることができる採水システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る採水システムは、採水点から流入した試料水が流れる流路と、前記流路において前記採水点と反対側に位置する端部に配置され、前記流路を流れてきた前記試料水を溜める採水容器と、前記流路に沿って配置され、前記流路を流れる前記試料水を冷却する第1冷却装置と、前記採水容器に溜まった前記試料水を冷却する第2冷却装置と、を備える。
【0007】
これにより、採水システムは、試料水を効率的に冷却して採水容器に溜めることができる。例えば、採水システムは、採水容器に溜まった試料水を冷却する第2冷却装置に加えて、流路を流れる試料水を冷却する第1冷却装置も有する。したがって、採水システムは、第2冷却装置に収容された採水容器に試料水が流入する前に、流路上であらかじめ試料水を冷却することができる。流路を構成する送液管のような細い管路を流れる試料水は流量が小さく、採水容器に流入する前に短時間で効率良く冷却可能である。採水システムは、流路を流れる試料水を適切な水温まで急速に冷却することで、試料水の水質の劣化を抑制可能である。すなわち、採水システムは、試料水に含まれる微生物及び酵素の活性を抑制して、捕食、被食、増殖、死滅、及び分解を抑制可能である。
【0008】
一実施形態では、前記第2冷却装置は、前記採水容器に溜まった前記試料水の温度を第1範囲に維持してもよい。これにより、採水システムは、採水容器に溜まった試料水の水質の劣化を最小限に抑制可能である。すなわち、採水システムは、試料水に含まれる微生物及び酵素の活性を最小限に抑制して、捕食、被食、増殖、死滅、及び分解を最小限に抑制可能である。採水システムは、第2冷却装置による保冷効果により適切な水温で採水容器にて試料水を保管することが可能である。
【0009】
一実施形態では、前記第1冷却装置は、前記流路の前記端部に流れてきた前記試料水の温度が前記第1範囲に含まれるように前記試料水を冷却してもよい。これにより、採水システムは、流路における送液中に短時間で試料水を保管水温に調整することができる。したがって、採水システムは、採水容器に溜まった試料水を第1範囲よりも高い温度から第1範囲内の温度まで第2冷却装置により改めて冷却する必要がない。第2冷却装置は、採水容器に溜まった試料水を保冷することができる程度の冷却能力を有していればよく、冷却装置としての構成を簡略化可能である。
【0010】
一実施形態では、前記第1冷却装置は、前記流路を構成する送液管に沿って配置され、かつ前記送液管を流れる前記試料水よりも低温の流体が流れる冷却管を有してもよい。これにより、採水システムは、二重管式熱交換器の原理によって流路を流れる試料水を効率的に冷却可能である。このとき、送液管を流れる試料水が高温流体となり、冷却管を流れる流体が低温流体となる。採水システムは、このような二重管式熱交換器において向流方式が用いられることで、熱交換率を向上させることができる。したがって、採水システムは、採水容器に流入する前に流路上で試料水を短時間で効率良く冷却可能である。
【0011】
一実施形態では、前記第2冷却装置は、遮光した状態で前記採水容器を内部に収容する冷却庫を有してもよい。これにより、採水システムは、採水容器に溜まった試料水に対する保冷効果を向上させることができる。加えて、採水システムは、外部から入射する光によって生じる試料水の水質の劣化を抑制可能である。以上により、採水システムは、温度を要因とする試料水の水質の劣化だけでなく光を要因とする試料水の水質の劣化も抑制可能である。
【0012】
一実施形態では、前記冷却庫は、内部に収容される前記採水容器を取り換え可能に構成されてもよい。これにより、採水者は、一の採水容器において採水量の目標値に相当する試料水が溜まった時点で、当該一の採水容器を他の採水容器に容易に交換可能である。
【0013】
一実施形態では、前記流路を構成する送液管は保冷構造を有してもよい。これにより、採水システムは、第1冷却装置によって冷却された試料水の水温を維持したまま第1冷却装置から採水容器へと試料水を導くことができる。
【0014】
一実施形態では、前記採水容器は、前記採水容器に溜まった前記試料水の量に応じて容量可変に構成されてもよい。これにより、採水システムは、採水容器における空き容量を小さく維持し、かつ空き容量の変化も小さく維持することが可能となる。したがって、採水システムは、採水容器に溜まった試料水に対する第2冷却装置による保冷効率を向上させることができる。
【0015】
一実施形態に係る採水システムは、前記流路を流れる前記試料水の流速が第2範囲に維持されるように前記流速を制御する制御装置を備えてもよい。
【0016】
これにより、採水システムは、試料水の水質変動の適切な把握に寄与することができる。例えば、採水システムに含まれる制御装置は、流路を流れる試料水の流速が第2範囲に維持されるように調整部を制御する。このような制御装置による制御によって、採水システムは、試料水の流速及び流量を定常的に維持しながら長期にわたって採水処理を実行することができる。採水システムは、試料水を少量ずつ定常的に採水しながら長期にわたって採水量の目標値を達成することも可能となる。
【0017】
したがって、採水システムは、最悪又は最大の微生物学的負荷を含む試料水を漏れなく適切に回収することができる。採水システムによる上記のような採水方法によって、試料水の水質に関する突発的な変動を検出したり、ワーストケースを検出したりすることも可能となる。採水時に発生した水質の最悪条件が試料水に反映され、最悪の事態によってもたらされる質的リスクを逃さないことが可能となる。採水システムは、目的とする流体全体の汚染状況を反映した、代表的サンプル及び平均的サンプルとして試料水を回収することができる。結果として、試料水の水質変動及び水処理システムの制御性能を適切に把握することが容易となる。
【0018】
一実施形態では、前記制御装置は、前記試料水が前記流路を1日にわたり常時流れるように前記流速を制御してもよい。これにより、採水システムは、バルブを介して得られた試料水を、例えば1日という所定期間ごとに採水容器に回収することも可能となる。例えば、採水システムは、試料水の所定期間ごとの採水を365日継続して、時間ごと、日ごと、及び月ごとなどの変動を長期的に評価するために用いることも可能である。採水システムは、例えば24時間の長時間にわたる試料水の連続的な採水においても、第1冷却装置及び第2冷却装置による冷却及び保冷効果によって、以後の解析が実施可能となるまで、試料水の水質の劣化を抑制可能である。採水システムは、例えば24時間の長時間にわたる試料水の連続的な採水においても、採水容器に溜まった試料水に対する適切な保管条件を第1冷却装置及び第2冷却装置により維持可能である。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、試料水を効率的に冷却して採水容器に溜めることができる採水システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の一実施形態に係る採水システムの概略構成図である。
図2図1の二点鎖線囲み部IIの構成をより具体的に示した構成図である。
図3】送液管と冷却管とにより構成される二重管式熱交換器の、流路に沿った温度分布の一例を示すグラフ図である。
図4図1の制御装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図5】本開示の一実施形態に係る制御方法を説明するためのフローチャートである。
図6図1の採水システムの変形例を示す、図2に対応する構成図である。
図7】送液管と冷却管とにより構成される二重管式熱交換器の、流路に沿った温度分布の他の例を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
背景技術及び課題についてより詳細に説明する。
【0022】
例えば、水質調査に関するフィールドワークにおいては、短時間で試料水を手動により採水し、速やかに研究室へと輸送して解析などの後の処理を行うことが基本となる。一般的に、採水された試料水は、その性質及び状態の変化、又はその劣化の抑制を目的として輸送時に保冷剤及びクーラーボックスなどの簡易的なものを使用し保冷される。試料水の劣化の要因としては、例えば微生物の増殖、死滅、捕食、及び被食などが考えられる。環境調査に関する文献では、試料水を採水した後例えば4℃で暗所保管しつつ24時間以内に処理をしたと報告する事例が多い。
【0023】
例えば、United States Environmental Protection Agency (2005) Method 1623: Cryptosporidium and Giardia in Water by Filtration/IMS/FA.では、サンプリング手法として1-10℃での保管が定められている。例えば、American Public Health Association (2017) Standard Methods for the Examination of Water and Wastewater, 23rd Edition, Water Environment Federation, Alexandria, VA, 9060 B.では、試料水の採水後1時間以内に処理を開始することができない場合、試料水の凍結を避けて、1-10℃の冷暗所に最大で24時間まで保管することが定められている。すなわち、試料水は採水後24時間以内に処理される。
【0024】
また、採水された試料水の持ち運びを容易にするために、容量可変のディスポーザブルバッグを外殻容器で梱包する、いわゆるバッグインボックス方式が用いられるケースもある。採水される試料水の量が未定である場合に、このようなバッグインボックス方式が用いられる。
【0025】
また、冷蔵庫付きモデルの採水装置も存在し、採水した試料水が備え付けの冷蔵庫で保管される。このときの冷蔵庫内の温度は、例えば-40℃~60℃の範囲で調節可能である。
【0026】
また、特許文献1に記載の自動採水器用ろ過装置は、微生物などの浮遊物質を高濃度で含む液体試料に対して、自動採水器でサンプリングした場合に、自動採水器内でろ過を行って浮遊物質を除去し、上澄み液を得ることで、試料の変質を防ぐ。下水処理場の反応タンク混合液のように微生物と基質とを高濃度に含む液体試料の場合、冷却して微生物の活性を低下させようとしている間にも、試料の変質が急速に進んでしまう場合がある。したがって、特許文献1に記載の自動採水器用ろ過装置は、液体試料を採水後、直ちにろ過して微生物を分離し、試料の変質を防ぐ。自動採水器は冷凍機等補器類を備え、液体試料をより効果的に保存可能とする。
【0027】
上述した従来技術では、例えば、試料水は、採水された後速やかに処理されることが前提となっているため、単純な採水容器に溜められる。このような採水容器は、研究室へ持ち運び可能なサイズに限定される。例えば、採水者は、複数サイズのディスポーザブル容器を用意し、これらを組み合わせて試料水の採水を行う必要がある。採水者は、採水容器がディスポーザブル容器でない場合、使用後に採水容器を洗浄する必要がある。
【0028】
冷蔵庫付きモデルの採水装置の場合、冷蔵庫内で試料水を冷却するときの冷却時間が長くなってしまうという問題があった。また、採水容器の空き容量によって冷却時間が異なるという問題もあった。
【0029】
以下では、これらの問題を解決可能な採水システム1について説明する。本開示の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0030】
以下で説明する採水システム1は、多様な分野及び用途に応用可能である。例えば、採水システム1は、浄水場、下水処理場、水再生施設、及び海水淡水化施設などを含む水処理インフラにおいて水質管理及び処理性能を把握するための採水並びに採水された試料水の保管に用いることができる。採水システム1は、例えば、河川、海洋、親水域、プール、及び水浴場などを含む水域の環境調査における動態を把握するために、微粒子、コロイド分散系、及び微生物などの水質の検査に用いる試料水の採水及び保管に応用可能である。
【0031】
採水システム1は、例えば、水域及び環境インフラを網羅する都市の微生物感染リスクを把握するために、微粒子、コロイド分散系、及び微生物などの水質の検査に用いる試料水の採水及び保管に応用可能である。採水システム1は、飲料用又は加工食品の製造に使用される液体の質的リスク、安全把握、及び品質管理などを目的として、リスクを定量化したり、安全と判定できる閾値との比較検証を行ったりするために、微粒子、コロイド分散系、及び微生物などの水質の検査に用いる試料水の採水及び保管に応用可能である。
【0032】
採水システム1は、工業用水及び灌漑・農業用水などの水質の検査に用いる試料水の採水及び保管に応用可能である。採水システム1は、ミスト散布、加湿装置、及び打ち水などの、温湿度管理に用いる液体の質的リスク、安全把握、及び品質管理などを目的とした検査に用いる試料水の採水及び保管に応用可能である。採水システム1は、医薬品の製造及び人工透析療法などの品質管理検査に用いる試料水の採水及び保管に応用可能である。
【0033】
本明細書において、「微生物」は、例えば原虫、細菌、及びウイルスなどを含む。「原虫」は、例えばクリプトスポリジウム及びジアルジアなどを含む。「細菌」は、例えば大腸菌、ブドウ球菌、コレラ菌、結核菌、及びピロリ菌などを含む。「ウイルス」は、例えばノロウイルス、アデノウイルス、腸管系ウイルス、及びトウガラシ微斑ウイルス(Pepper Mild Mottle Virus:PMMoV)などを含む。
【0034】
図1は、本開示の一実施形態に係る採水システム1の概略構成図である。図1を参照しながら、一実施形態に係る採水システム1の構成及び機能について主に説明する。図1において、構成部同士を結ぶ実線は流体の経路を示し、構成部同士を結ぶ破線は電気信号の経路を示す。
【0035】
採水システム1は、例えば水処理インフラにおける処理水などを試料水として採水及び保管するために用いられるシステムである。採水システム1により試料水として採水される流体は、例えば水処理インフラの一部を構成する配管2を一方向に流れる。例えば、このような流体の水質は、時間によって変化するとする。配管2は、水処理インフラにおいて主要な流路を構成してもよいし、主要な流路から分岐したバイパス流路を構成してもよい。
【0036】
採水システム1は、配管2の側面に取り付けられる着脱式のバルブ3を有する。配管2を一方向に流れる流体の一部は、配管2におけるバルブ3の設置個所を採水点として採水される。採水システム1は、採水容器4及び流路5を有する。流路5は、着脱式のバルブ3から採水容器4まで連続して配置される送液管によって構成される。流路5には、採水点から流入した試料水が流れる。採水容器4は、流路5において採水点と反対側に位置する端部5aに配置され、流路5を流れてきた試料水を溜める。採水システム1では、配管2によって構成される流路から着脱式のバルブ3及び流路5を介して採水容器4へと試料水が採水される。
【0037】
図2は、図1の二点鎖線囲み部IIの構成をより具体的に示した構成図である。図2の流路5を構成する送液管5bは保冷構造を有してもよい。例えば、送液管5bは、二重構造の管壁の間を真空状態に維持した真空断熱構造を有してもよい。図2では一例として、採水容器4は容量可変でなく一定の容量で構成される。例えば、採水容器4は、ディスポーザブルのプラスチック容器を含んでもよい。採水システム1は、採水した試料水を冷却するための第1冷却装置10及び第2冷却装置20を有する。
【0038】
第2冷却装置20は、例えば採水容器4を内部に収容して、採水容器4に溜まった試料水を冷却する。第2冷却装置20は、採水容器4に溜まった試料水の温度を第1範囲に維持してもよい。すなわち、採水容器4に溜まった試料水は、第2冷却装置20によって第1範囲内の温度に維持されながら第2冷却装置20内で保管される。
【0039】
本明細書において、「第1範囲」は、例えば採水容器4に溜まった試料水の水質の劣化を抑制可能な温度範囲を含む。すなわち、第1範囲は、試料水に含まれる微生物及び酵素の活性を抑制して、捕食、被食、増殖、死滅、及び分解を抑制可能な温度範囲を含む。例えば、第1範囲は、1℃以上10℃以下の温度範囲を含む。
【0040】
第2冷却装置20は、遮光した状態で採水容器4を内部に収容する冷却庫を有してもよい。すなわち、このような冷却庫は、採水容器4に溜まった試料水に対する遮光機能と、採水容器4に溜まった試料水の温度を第1範囲に維持する保冷機能と、を併せて有してもよい。このような冷却庫は、内部に収容される採水容器4を取り換え可能に構成されてもよい。
【0041】
第1冷却装置10は、流路5に沿って配置され、流路5を流れる試料水を冷却する。第1冷却装置10は、流路5を流れる試料水が採水容器4に流入する前に試料水を適切な温度に調整する。例えば、第1冷却装置10は、流路5の端部5aに流れてきた試料水の温度が第1範囲に含まれるように試料水を冷却してもよい。第1冷却装置10は、可能な限り採水容器4及び第2冷却装置20に近い位置で流路5上に配置されてもよい。これにより、試料水は、第1冷却装置10による冷却効果をより確実に維持したまま採水容器4へと流入することが可能となる。
【0042】
第1冷却装置10は、流路5を構成する送液管5bに沿って配置され、かつ送液管5bを流れる試料水よりも低温の流体が流れる冷却管11を含んでもよい。冷却管11は、送液管5bの一部を外側から囲むように送液管5bに取り付けられてもよい。すなわち、送液管5bと冷却管11とによって二重管式熱交換器が構成されてもよい。このとき、冷却管11を流れる低温流体の流れの方向は、送液管5bを流れる高温流体としての試料水の流れの方向と逆であってもよい。すなわち、二重管式熱交換器において向流方式が用いられてもよい。
【0043】
図3は、送液管5bと冷却管11とにより構成される二重管式熱交換器の、流路に沿った温度分布の一例を示すグラフ図である。図3に示すグラフ図では、一例として向流方式での温度分布の一例が示されている。図3において上のグラフは、流路5に沿った高温流体としての試料水の温度分布を示す。試料水は、当該グラフ上で例えば左から右に流れている。図3において下のグラフは、冷却管11により構成される流路に沿った低温流体の温度分布を示す。低温流体は、当該グラフ上で例えば右から左に流れている。
【0044】
例えば、高温流体としての試料水から低温流体へと熱が移動することで第1冷却装置10に沿った流路5上で試料水が冷却される。試料水の温度は、例えば温度Tから温度Tへと低下する。一方で、流路5に沿った冷却管11を流れる低温流体は、流路5を流れる試料水から熱を受け取って加熱される。低温流体の温度は、例えば温度tから温度tへと上昇する。高温流体及び低温流体の質量流量(kg・s-1)をそれぞれM及びmとし、高温流体及び低温流体の比熱(J・kg-1・K-1)をそれぞれC及びcとする。
【0045】
このとき、高温流体が失う熱流量(W)Q、低温流体が得る熱流量(W)Q、及び二重管式熱交換器における交換熱流量(W)Qは、それぞれ以下の式により算出される。
【0046】
【数1】
【0047】
ここで、Uは総括伝熱係数(W・m-2・K-1)であり、Aは伝熱面積(m)である。ΔTlmは対数平均温度差(K)であり、以下の式で算出される。
【0048】
【数2】
【0049】
例えば、第1冷却装置10によって冷却される前の試料水の平均水温Tを30℃、第1冷却装置10によって冷却された直後の目標水温Tを10℃として、送液管5b及び冷却管11の径と長さとから求まる伝熱面積Aに基づいて、低温流体の水温が検討される。又は、実用可能な低温流体の温度範囲から送液管5b及び冷却管11の長さが設計されてもよい。
【0050】
例えば、一日の採水量の目標値を1000リットル(L)として、毎分0.7L程度の試料水が送液管5bを流れる場合を考える。例えば、二重管式熱交換器を用いて試料水を30℃から10℃へと一分かけて20℃の冷却を試みる場合、送液管5bにおいて冷却管11に沿った部分に設けられたアルミ製冷却部に試料水(比熱1.0Cal/g/℃、密度1.0g/cm)を一分かけて流下させると、試料水に対する以下の冷却能力を試算することができる。
比熱熱交換器負荷容量(kW)=試料水の体積0.0007(m)×試料水の比熱4.2(kJ/kg/℃)×試料水の密度1000(kg/m)×20(℃)/60(sec)=0.98(kW)
【0051】
冷却能力は、約1kWの比熱熱交換器負荷容量として試算される。したがって、第1冷却装置10は、1kW又は例えば20%の安全率を考慮して1.2kW程度の冷却能力を有してもよい。又は、試料水が冷却管11に沿って送液管5bを流れる時間を60秒から120秒に延長すれば、第1冷却装置10の冷却能力を半分程度に低減することもできる。
【0052】
以上のような第1冷却装置10によって、流路5上で第1冷却装置10を通過した直後の試料水は、確実に10℃以下に冷却される。加えて、流路5を構成する送液管5bが保冷構造を有することで、試料水は、流路5の端部5aにおいても確実に10℃以下に保冷される。さらに、採水容器4が第2冷却装置20の内部に収容されることで、採水容器4に溜まった試料水は、採水容器4においても確実に10℃以下に保冷される。
【0053】
再度図1を参照すると、採水システム1は制御装置30を有してもよい。試料水は、流路5上でバルブ3と採水容器4との間に配置される制御装置30によって採水容器4へと引き込まれる。後述するとおり、制御装置30は、流路5を流れる試料水の流速が第2範囲に維持されるように流速を制御してもよい。制御装置30は、試料水が流路5を1日にわたり常時流れるように流速を制御してもよい。
【0054】
図4は、図1の制御装置30の概略構成を示す機能ブロック図である。図1及び図4を参照しながら、制御装置30の構成及び機能について主に説明する。制御装置30は、測定部31、調整部32、入力部33、出力部34、記憶部35、及び制御部36を有する。
【0055】
測定部31は、流路5を流れる試料水の流量及び流速の少なくとも一方を測定する。測定部31は、測定した情報を制御部36に送信する。本明細書において、「流量」は、例えば流路5を構成する送液管5bを単位時間あたりに通過する試料水の体積を意味し、L/sec又はm/secの単位で表される。「流速」は、例えば流路5を構成する送液管5bの断面積で流量を除算したものを意味し、m/secの単位で表される。例えば、測定部31は、流路5において調整部32の下流側に配置され、かつ試料水の流量を測定する流量計31aを含む。これに限定されず、測定部31は、流路5上に配置され、かつ試料水の流速を測定する流速計を含んでもよい。
【0056】
調整部32は、制御部36から受信した制御信号に基づいて、流路5を流れる試料水の流速を調整する。流路5を構成する送液管5bが同一のものであり内径が一定であれば、調整部32は、流路5を流れる試料水の流速を調整することでその流量を調整することになる。例えば、調整部32は、流路5において流量計31aの上流側に配置され、かつ試料水の流速を調整する送液ポンプ32aを含む。
【0057】
送液ポンプ32aは、流路5を流れる試料水を下流側に送液する。送液ポンプ32aは、例えば、軟質チューブをローラーでしごいて送液するペリスタポンプ(登録商標)であってもよいし、所定の試料水を送液可能な他の任意のポンプであってもよい。送液ポンプ32aの形式として、加圧及び吸引のいずれか一方が試料水の性質によって選択されてもよい。調整部32は、試料水に応じて加圧及び吸引形式の送液ポンプ32aのいずれか一方に組み換え可能に構成されてもよい。
【0058】
入力部33は、ユーザの入力操作を受け付けて、ユーザの操作に基づく入力情報を取得する1つ以上の入力インタフェースを含む。例えば、入力部33は、物理キー、静電容量キー、出力部34のディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーン、及び音声入力を受け付けるマイクなどを含むが、これらに限定されない。
【0059】
出力部34は、ユーザに対して情報を出力する1つ以上の出力インタフェースを含む。例えば、出力部34は、情報を画像で出力するディスプレイ、及び情報を音声で出力するスピーカなどを含むが、これらに限定されない。
【0060】
記憶部35は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を含む任意の記憶モジュールを含む。記憶部35は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能してもよい。記憶部35は、制御装置30の動作に用いられる任意の情報を記憶する。例えば、記憶部35は、システムプログラム及びアプリケーションプログラムなどを記憶する。記憶部35は、制御装置30に内蔵されるものに限定されず、USB(Universal Serial Bus)などのデジタル入出力ポートによって接続される外付け型の記憶モジュールを含んでもよい。
【0061】
制御部36は、1つ以上のプロセッサを含む。一実施形態において「プロセッサ」は、汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用のプロセッサであるが、これらに限定されない。制御部36は、制御装置30を構成する各構成部と通信可能に接続され、制御装置30全体の動作を制御する。
【0062】
制御部36は、測定部31により測定された試料水の流量及び流速の少なくとも一方に基づいて調整部32を制御する。より具体的には、制御部36は、測定部31から送信された測定に関する情報を受信する。制御部36は、受信した測定に関する情報に基づいて調整部32に制御信号を送信する。制御部36は、流路5において試料水の流速が第2範囲に維持されるように調整部32を制御する。
【0063】
より具体的には、制御部36は、流量計31aにより測定された試料水の流量に基づいて送液ポンプ32aを制御する。制御部36は、流量計31aから送信された流量の情報を受信する。制御部36は、受信した流量の情報に基づいて送液ポンプ32aに制御信号を送信する。制御部36は、流路5において試料水の流速が第2範囲に維持されるように送液ポンプ32aを制御する。すなわち、制御部36は、送液ポンプ32aと流量計31aとを互いに関連させながら、流路5を流れる試料水の採水速度及び瞬時的な採水量を調整する。
【0064】
例えば、制御部36は、あらかじめ取得した配管情報及び採水情報に基づいて第2範囲を算出してもよい。本明細書において、「配管情報」は、例えば流路5を構成する送液管5bの内径などを含む。「採水情報」は、採水期間、採水量の目標値、及び採水量に関する目標値からの許容範囲などを含む。
【0065】
本明細書において、「第2範囲」は、例えばあらかじめ設定された採水期間で設定された採水量の目標値に達するように流路5上で試料水を定常的に流すときの流速の範囲を含む。例えば、1日にわたり少量ずつ最大で1000Lの採水量を達成したいとき、1秒あたりに必要となる平均的な流量が算出可能である。加えて、流路5を構成する送液管5bの内径に基づいて平均的な流速が算出可能である。例えば、第2範囲は、このような平均的な流速に対して、あらかじめ設定された採水量に関する目標値からの許容範囲に基づき定められる誤差の範囲として算出されてもよい。例えば、制御部36は、試料水の流速が第2範囲に維持されながら、試料水が流路5を1日にわたり常時流れるように調整部32を制御してもよい。
【0066】
例えば、制御部36は、流路5における試料水の流速が第2範囲を下回りそうになった場合、配管2から採水容器4へと試料水を引き込む力を強めるために、調整部32に含まれる送液ポンプ32aの動力を上げてもよい。例えば、制御部36は、流路5における試料水の流速が第2範囲を上回りそうになった場合、配管2から採水容器4へと試料水を引き込む力を弱めるために、調整部32に含まれる送液ポンプ32aの動力を下げてもよい。
【0067】
例えば図1において第1冷却装置10を介さず配管2から流路5を経由して採水容器4に試料水が回収される場合、試料水に含まれる濁質及び沈殿物などにより、流路5を構成する送液管5bが閉塞される可能性がある。このような送液管5bの閉塞を抑制するために、流路5を流れる試料水の流速が1m/sec以上となるように流路5を構成する送液管5b及び調整部32が設計されてもよい。例えば、流路5を構成する送液管5bの内径が15mmの場合、流速1m/secに対応する流量は、約170mL/sec(約10L/min)である。したがって、一実施形態では、第2範囲は、1m/sec以上の範囲に含まれてもよい。
【0068】
図5は、本開示の一実施形態に係る制御方法を説明するためのフローチャートである。図5を参照しながら、図1の制御装置30を用いて実行される制御方法について主に説明する。
【0069】
ステップS100では、制御装置30の制御部36は配管情報を取得する。例えば、このような配管情報は、ユーザにより入力部33を用いて入力され、入力部33から制御部36へと送信されてもよい。
【0070】
ステップS101では、制御部36は採水情報を取得する。例えば、このような採水情報は、ユーザにより入力部33を用いて入力され、入力部33から制御部36へと送信されてもよい。
【0071】
ステップS102では、制御部36は、ステップS100において取得した配管情報及びステップS101において取得した採水情報に基づいて第2範囲を算出する。
【0072】
ステップS103では、制御部36は、測定部31を用いて流路5を流れる試料水の流量及び流速の少なくとも一方を測定する。
【0073】
ステップS104では、制御部36は、ステップS103において測定された試料水の流量及び流速の少なくとも一方に基づいて流路5を流れる試料水の流速を制御する。制御部36は、ステップS104において、試料水の流速がステップS102において算出した第2範囲に維持されるように調整部32を制御する。
【0074】
以上のような一実施形態に係る採水システム1によれば、試料水を効率的に冷却して採水容器4に溜めることができる。例えば、採水システム1は、採水容器4に溜まった試料水を冷却する第2冷却装置20に加えて、流路5を流れる試料水を冷却する第1冷却装置10も有する。これにより、採水システム1は、第2冷却装置20に収容された採水容器4に試料水が流入する前に、流路5上であらかじめ試料水を冷却することができる。流路5を構成する送液管5bのような細い管路を流れる試料水は流量が小さく、採水容器4に流入する前に短時間で効率良く冷却可能である。採水システム1は、流路5を流れる試料水を適切な水温まで急速に冷却することで、試料水の水質の劣化を抑制可能である。すなわち、採水システム1は、試料水に含まれる微生物及び酵素の活性を抑制して、捕食、被食、増殖、死滅、及び分解を抑制可能である。
【0075】
採水システム1は、第1冷却装置10によって試料水をあらかじめ冷却することで、第2冷却装置20が有する冷却庫内で試料水を冷却するときの冷却時間を短縮可能である。加えて、採水システム1は、第1冷却装置10によって試料水をあらかじめ冷却することで、採水容器4の空き容量によって生じる冷却時間の差を小さくすることも可能である。
【0076】
第2冷却装置20が採水容器4に溜まった試料水の温度を第1範囲に維持することで、採水システム1は、採水容器4に溜まった試料水の水質の劣化を最小限に抑制可能である。すなわち、採水システム1は、試料水に含まれる微生物及び酵素の活性を最小限に抑制して、捕食、被食、増殖、死滅、及び分解を最小限に抑制可能である。採水システム1は、第2冷却装置20による保冷効果により適切な水温で採水容器4にて試料水を保管することが可能である。
【0077】
流路5の端部5aに流れてきた試料水の温度が第1範囲に含まれるように第1冷却装置10が試料水を冷却することで、採水システム1は、流路5における送液中に短時間で試料水を保管水温に調整することができる。これにより、採水システム1は、採水容器4に溜まった試料水を第1範囲よりも高い温度から第1範囲内の温度まで第2冷却装置20により改めて冷却する必要がない。第2冷却装置20は、採水容器4に溜まった試料水を保冷することができる程度の冷却能力を有していればよく、冷却装置としての構成を簡略化可能である。
【0078】
第1冷却装置10が流路5を構成する送液管5bに沿って配置される冷却管11を有することで、採水システム1は、二重管式熱交換器の原理によって流路5を流れる試料水を効率的に冷却可能である。このとき、送液管5bを流れる試料水が高温流体となり、冷却管11を流れる流体が低温流体となる。採水システム1は、このような二重管式熱交換器において向流方式が用いられることで、熱交換率を向上させることができる。したがって、採水システム1は、採水容器4に流入する前に流路5上で試料水を短時間で効率良く冷却可能である。
【0079】
第2冷却装置20が遮光した状態で採水容器4を内部に収容する冷却庫を有することで、採水システム1は、採水容器4に溜まった試料水に対する保冷効果を向上させることができる。加えて、採水システム1は、外部から入射する光によって生じる試料水の水質の劣化を抑制可能である。以上により、採水システム1は、温度を要因とする試料水の水質の劣化だけでなく光を要因とする試料水の水質の劣化も抑制可能である。
【0080】
冷却庫が、内部に収容される採水容器4を取り換え可能に構成されることで、採水者は、一の採水容器4において採水量の目標値に相当する試料水が溜まった時点で、当該一の採水容器4を他の採水容器4に容易に交換可能である。
【0081】
流路5を構成する送液管5bが保冷構造を有することで、採水システム1は、第1冷却装置10によって冷却された試料水の水温を維持したまま第1冷却装置10から採水容器4へと試料水を導くことができる。
【0082】
採水システム1は、試料水の水質変動の適切な把握に寄与することができる。例えば、採水システム1に含まれる制御装置30は、流路5を流れる試料水の流速が第2範囲に維持されるように調整部32を制御する。このような制御装置30による制御によって、採水システム1は、試料水の流速及び流量を定常的に維持しながら長期にわたって採水処理を実行することができる。採水システム1は、試料水を少量ずつ定常的に採水しながら長期にわたって採水量の目標値を達成することも可能となる。
【0083】
したがって、採水システム1は、最悪又は最大の微生物学的負荷を含む試料水を漏れなく適切に回収することができる。採水システム1による上記のような採水方法によって、試料水の水質に関する突発的な変動を検出したり、ワーストケースを検出したりすることも可能となる。採水時に発生した水質の最悪条件が試料水に反映され、最悪の事態によってもたらされる質的リスクを逃さないことが可能となる。採水システム1は、目的とする流体全体の汚染状況を反映した、代表的サンプル及び平均的サンプルとして試料水を回収することができる。結果として、試料水の水質変動及び水処理システムの制御性能を適切に把握することが容易となる。
【0084】
例えば、採水システム1は、膜ろ過水、処理プロセス、ろ過して逆洗、及び処理プロセスの運転変更などに伴う物理的又は機械的な衝撃に伴う流体の水質への影響を捉えることに寄与することができる。採水システム1は、膜の破断を見逃さず、膜の膨張に伴う孔径の変動及び破断といった水質の品質保証に関わる管理にも用いることができる。
【0085】
採水システム1は、例えば1000Lなどの大きな採水量を達成しつつ、クリプトスポリジウム及びジアルジアなどを含む原虫に限定されることなく、試料水の採水処理を実行することができる。
【0086】
測定部31が流量計31aを含むことで、制御装置30は、流速が第2範囲に維持されるように調整部32を制御するときに、流量計31aにより測定された流量を参照しながら制御処理を実行することができる。
【0087】
調整部32は、試料水の流速を調整する送液ポンプ32aを含むことも可能である。これにより、採水システム1は、流路5上でより大きな流速及び流量を達成することが可能である。したがって、試料水に含まれる濁質及び沈殿物などによる、流路5を構成する送液管5bの閉塞が抑制される。例えば、所定の範囲が1m/sec以上の範囲に含まれることで、このような効果が顕著になる。採水システム1では、送液ポンプ32aを使用することにより、試料水を下流側に送るために十分な圧力を確保することも可能である。
【0088】
制御装置30が、試料水が流路5を1日にわたり常時流れるように試料水の流速を制御することで、採水システム1は、バルブ3を介して得られた試料水を、例えば1日という所定期間ごとに採水容器4に回収することも可能となる。例えば、採水システム1は、試料水の所定期間ごとの採水を365日継続して、時間ごと、日ごと、及び月ごとなどの変動を長期的に評価するために用いることも可能である。採水システム1は、例えば24時間の長時間にわたる試料水の連続的な採水においても、第1冷却装置10及び第2冷却装置20による冷却及び保冷効果によって、以後の解析が実施可能となるまで、試料水の水質の劣化を抑制可能である。採水システム1は、例えば24時間の長時間にわたる試料水の連続的な採水においても、採水容器4に溜まった試料水に対する適切な保管条件を第1冷却装置10及び第2冷却装置20により維持可能である。
【0089】
バルブ3は、着脱式であることで、採水システム1による採水処理が実行されていないときに取り外して洗浄可能である。
【0090】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び改変を行うことが可能であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成又は各ステップに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成又はステップを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0091】
例えば、本開示は、上述した制御装置30の各機能を実現する処理内容を記述したプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得る。本開示の範囲には、これらも包含されると理解されたい。
【0092】
例えば、上述した各構成部の形状、配置、向き、及び個数は、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の形状、配置、向き、及び個数は、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。
【0093】
例えば、上述した一実施形態に係る採水システム1に基づいて、微生物の生死に関わらず、その存在個体数に基づいて汚染状況及び除去実態が把握されてもよい。
【0094】
採水システム1では、水道、食品、及び飲料水などを含む上記の様々な分野への応用を可能とするために、試料水の採水期間は可変であってもよい。採水のためのバルブ3の形状は可変であってよい。
【0095】
上記実施形態では、第1冷却装置10は、流路5の端部5aに流れてきた試料水の温度が第1範囲に含まれるように試料水を冷却すると説明したが、これに限定されない。流路5の端部5aに流れてきた試料水の温度は第1範囲に含まれていなくてもよい。例えば、第1冷却装置10は、流路5の端部5aに流れてきた試料水の温度が第1範囲よりも若干高くなるように試料水を冷却してもよい。このとき、第2冷却装置20は、採水容器4に溜まった試料水の温度が第1範囲まで下がるように試料水を改めて冷却してもよい。
【0096】
上記実施形態では、第1冷却装置10は冷却管11を有し、二重管式熱交換器の原理により流路5を流れる試料水を冷却すると説明したが、これに限定されない。第1冷却装置10は、流路5を流れる試料水を冷却可能な任意の他の構成を有してもよい。例えば、第1冷却装置10は、冷却管11に代えて、又は加えてペルチェ素子を有してもよい。
【0097】
上記実施形態では、第2冷却装置20は、遮光した状態で採水容器4を内部に収容する冷却庫を有すると説明したが、これに限定されない。第2冷却装置20は、採水容器4に溜まった試料水を冷却可能な任意の態様で構成されてもよい。例えば、第2冷却装置20は、遮光機能を有していなくてもよい。
【0098】
上記実施形態では、流路5を構成する送液管5bは保冷構造を有すると説明したが、これに限定されない。送液管5bは、採水システム1が試料水を効率的に冷却して採水容器4に溜めることができるのであれば、保冷構造を有さなくてもよい。
【0099】
図6は、図1の採水システム1の変形例を示す、図2に対応する構成図である。上記実施形態では、採水容器4は容量可変でなく一定の容量で構成されると説明したが、これに限定されない。採水容器4は、採水容器4に溜まった試料水の量に応じて容量可変に構成されてもよい。例えば、採水容器4は、容量可変のディスポーザブルバッグを外殻容器で梱包する、いわゆるバッグインボックス方式で構成されてもよい。採水容器4は、外殻容器内に滅菌済プラスチックバッグなどのディスポーザブル容器を配置することで構成されてもよい。
【0100】
採水容器4が容量可変に構成されることで、採水システム1は、採水容器4における空き容量を小さく維持し、かつ空き容量の変化も小さく維持することが可能となる。これにより、採水システム1は、採水容器4に溜まった試料水に対する第2冷却装置20による保冷効率を向上させることができる。加えて、採水システム1は、外殻容器内にディスポーザブル容器を配置することで、採水ごとに新しい容器に交換して採水容器4として用いることができる。したがって、採水者は、採水に再度用いるために容器を洗浄するという手間を省くことが可能であり、かつ容器に残った過去の試料水の影響を考慮する必要がない。採水システム1は、処理前後の試料水交雑を抑制する仕様を実現する。
【0101】
採水容器4は、上記のようなディスポーザブルバッグに基づく構成に限定されず、複数回にわたり繰り返し使用可能な容器により構成されてもよい。すなわち、採水者は、採水システム1による試料水の採水が終了した後、採水容器4を洗浄して採水に再度用いてもよい。
【0102】
図7は、送液管5bと冷却管11とにより構成される二重管式熱交換器の、流路に沿った温度分布の他の例を示すグラフ図である。上記実施形態では、図3を参照しながら二重管式熱交換器において向流方式が用いられると説明したが、これに限定されない。図7に示すとおり、二重管式熱交換器において並流方式が用いられてもよい。図7において上のグラフは、流路5に沿った高温流体としての試料水の温度分布を示す。試料水は、当該グラフ上で例えば左から右に流れている。図7において下のグラフは、冷却管11により構成される流路に沿った低温流体の温度分布を示す。低温流体は、当該グラフ上で例えば左から右に流れている。このとき、上述したΔT及びΔTは以下のような式に置き換えられる。
【0103】
【数3】
二重管式熱交換器に関して上述した他の算出方法については、図7の変形例においても同様に当てはまる。
【0104】
上記実施形態では、制御装置30の調整部32は送液ポンプ32aを含むと説明したが、これに限定されない。調整部32は、送液ポンプ32aに代えて絞り弁を含んでもよい。このとき、採水システム1では、採水速度が小さく、流路5に沈殿が生じる場合を想定している。より具体的には、流路5を流れる試料水の流速が1m/secよりも小さくなる場合を想定している。このような絞り弁は、流量計31aと一体的に構成されてもよいし、流量計31aとは別部品として構成されてもよい。
【0105】
調整部32が絞り弁を含むとき、調整部32は、絞り弁に加えて、絞り弁を通過しない余剰の試料水を排水する排水流路を含んでもよい。また、制御装置30は、図4に示す構成部に加えて洗浄部を有してもよい。洗浄部は、絞り弁及び排水流路よりも上流側の流路5を洗浄水によって洗浄する。洗浄部は、試料水に含まれる濁質及び沈殿物などによる、流路5を構成する送液管5bの閉塞を抑制する。
【符号の説明】
【0106】
1 採水システム
2 配管
3 バルブ
4 採水容器
5 流路
5a 端部
5b 送液管
10 第1冷却装置
11 冷却管
20 第2冷却装置
30 制御装置
31 測定部
31a 流量計
32 調整部
32a 送液ポンプ
33 入力部
34 出力部
35 記憶部
36 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7