(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】酸化グラフェン分散液および酸化グラフェン分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/198 20170101AFI20241106BHJP
【FI】
C01B32/198
(21)【出願番号】P 2021062605
(22)【出願日】2021-04-01
【審査請求日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2020069611
(32)【優先日】2020-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平井 善英
(72)【発明者】
【氏名】玉木 栄一郎
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/056557(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047523(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047521(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラフェンが水に分散してなる酸化グラフェン水分散液であって、酸化グラフェン濃度を0.0013重量%に調整したときの、波長230nmにおける吸光度が0.6以上であり、波長270nmにおける吸光度に対する波長230nmにおける吸光度の比(230nm/270nm)が1.5以上となる酸化グラフェン水分散液。
【請求項2】
前記酸化グラフェンのX線光電子分光法による酸素/炭素の元素比(O/C比)が0.60以上0.80以下である請求項1記載の酸化グラフェン水分散液。
【請求項3】
酸化グラフェン濃度40重量%以上50重量%以下の酸化グラフェンウエットケーキに水を混合したスラリーを、開口径0.1mm以上1.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通す工程を有する、酸化グラフェン濃度0.1重量%以上2.0重量%以下の請求項1または2記載の酸化グラフェン水分散液の製造方法。
【請求項4】
濃度40重量%以上50重量%以下の酸化グラフェンウエットケーキに水を混合したスラリーを、開口径0.1mm以上1.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通し、酸化グラフェン濃度0.8重量%以上2.0重量%以下の酸化グラフェン水分散液を得る工程、および、酸化グラフェン濃度0.8重量%以上2.0重量%以下の酸化グラフェン水分散液を、開口径0.1mm以上1.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通す工程を有する、酸化グラフェン濃度0.1重量%以上0.6重量%以下の請求項1または2記載の酸化グラフェン水分散液の製造方法。
【請求項5】
前記開口径0.1mm以上1.0mm以下の孔状の間隙の形状が、四角形である請求項3または4記載の酸化グラフェン水分散液の製造方法。
【請求項6】
前記スラリーを、開口径0.1mm以上1.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通す工程において、スラリーを周速15m/s以上で撹拌する請求項3~5のいずれか記載の酸化グラフェン水分散液の製造方法。
【請求項7】
前記酸化グラフェン濃度0.8重量%以上2.0重量%以下の酸化グラフェン水分散液を、開口径0.1mm以上1.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通す工程において、酸化グラフェン濃度0.8重量%以上2.0重量%以下の酸化グラフェン水分散液を周速15m/s以上で撹拌する請求項6記載の酸化グラフェン水分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化グラフェン分散液および酸化グラフェン分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化グラフェンは、黒鉛から合成される炭素二次元シート状の素材である。酸化グラフェンは、潤滑剤や触媒などの機能性材料として優れた特性を発現することが期待されている。また、電池材料などの新エネルギー素材として研究されているグラフェンは、酸化グラフェンの還元反応により得られ、酸化グラフェンは、還元型酸化グラフェンの原料としても注目されている。近年、酸化グラフェンや還元型酸化グラフェンを線状やシート状などの様々な形状に成形し、配線材料や分離膜などに応用する技術も注目されている。
【0003】
酸化グラフェンを工業的に利用するために、分散性に優れる酸化グラフェンの分散液の製造方法が検討されている。例えば、グラファイトを酸化して得られる酸化グラフェンを溶媒中に展開して、酸化グラフェンの分散液を得る方法(例えば、特許文献1参照)、有機溶媒中に、層状鉱物粉体と前記有機溶媒に分散する塩とを加える添加工程と、得られた混合液を撹拌する混合工程とを含む、層状鉱物粉体の剥離方法(例えば、特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-79176号公報
【文献】特開2019-73401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化グラフェンの応用範囲を広げる上では、酸化グラフェン分散液から様々な形状に成形する技術が求められており、そのために、酸化グラフェンを単層または複数層の薄層状態に分散させた分散液とすることが有効である。酸化グラフェンは親水性であることから、酸化グラフェンを水に分散することにより、酸化グラフェンシート間の層間距離が広がり、酸化グラフェンを薄層状態にしやすい。しかし、水分散液中において、薄層状態の酸化グラフェンは積層凝集しやすく、さらに官能基が多いため、酸化グラフェン間において強い水素結合ネットワークを形成しやすいため、特許文献1や特許文献2に記載された酸化グラフェン分散液および分散方法では、塗布性が不十分である課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、塗布性に優れた酸化グラフェン水分散液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、酸化グラフェンが水に分散してなる酸化グラフェン水分散液であって、酸化グラフェン濃度を0.0013重量%に調整したときの、波長230nmにおける吸光度が0.6以上であり、波長270nmにおける吸光度に対する波長230nmにおける吸光度の比(230nm/270nm)が1.5以上となる酸化グラフェン水分散液である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の酸化グラフェン水分散液は、経時的な酸化グラフェンの沈降を抑制し、良好な塗布性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<酸化グラフェン水分散液>
本発明の酸化グラフェン水分散液は、酸化グラフェンが水に分散してなる。酸化グラフェンを水分散液とすることにより、酸化グラフェンを単層または複数層の薄層状態とし、塗布性を向上させることができる。ここで、本発明における「分散」とは、酸化グラフェン水分散液の目視観察によりゲル化が認められず、線径160μm、開口径250μmのメッシュフィルターに酸化グラフェン水分散液を通したときに、メッシュフィルター上に目視観察により捕捉物が認められない状態を言う。
【0010】
本発明の酸化グラフェン水分散液は、酸化グラフェン濃度を0.0013重量%に調整したときの、波長230nmにおける吸光度が0.6以上であり、波長270nmにおける吸光度に対する波長230nmにおける吸光度の比(230nm/270nm)が1.5以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、酸化グラフェンの分散性の指標として、酸化グラフェン濃度を0.0013重量%に調整した時の吸光度に着目した。酸化グラフェン濃度を0.0013重量%とすることにより、液中に酸化グラフェンが適度に存在するため、ノイズを抑制し、精度良く吸光度を測定することができる。
【0012】
酸化グラフェンの吸収スペクトルは、波長230nm付近に芳香環に由来するピークを有する。酸化グラフェンの吸光度は、酸化グラフェンの剥離状態によって変化し、単層の酸化グラフェンが最も吸光度が高く、積層数の増加や凝集の形成によって吸光度は低くなる。波長230nmにおける吸光度が0.6未満の場合、酸化グラフェンの剥離度が低く、酸化グラフェンの多くが積層凝集した状態であり、分散液中において酸化グラフェンが経時的に沈降し、塗布性が低下する。酸化グラフェンの波長230nmにおける吸光度は、0.65以上が好ましく、0.70以上がより好ましく、0.75以上がさらに好ましい。一方、酸化グラフェン分散液の粘度を抑制し、流動性を向上させる観点から、酸化グラフェンの波長230nmにおける吸光度は、1.0以下が好ましく、0.95以下がさらに好ましい。
【0013】
酸化グラフェンの吸光スペクトルは230nmにピークを有するが、酸化グラフェンは200nm~700nmの可視光領域の光を広く吸収するため、吸収スペクトルには波長270nm付近にショルダーが存在する。グラフェン間における水素結合ネットワークが強い場合には、芳香環同士が接近しやすくなり、接近しているグラフェンは、ピークが230nmより長波長側にシフトする。波長270nm付近のショルダーは、このシフトに由来すると考えられ、従ってグラフェン間における水素結合ネットワークが強いほど、270nmの吸光度が大きくなる。すなわち、波長270nmにおける吸光度に対する波長230nmにおける吸光度の比(230nm/270nm)が小さくなる。前述のとおり、グラフェン間における水素結合ネットワークが強いと、酸化グラフェンが凝集しやすくなり、塗布性が低下する。そこで、本発明においては、波長270nmにおける吸光度に対する波長230nmにおける吸光度の比(230nm/270nm)が大きいことが好ましく、酸化グラフェン水分散液の酸化グラフェン濃度を0.0013重量%に調整した時の波長270nmにおける吸光度に対する波長230nmにおける吸光度の比(230nm/270nm)の値が1.5以上である必要がある。吸光度の比(230nm/270nm)の値は、好ましくは1.55以上であり、より好ましくは1.60以上であり、さらに好ましくは1.65以上である。一方、酸化グラフェン間の接点を増加させ、塗工時の塗布ムラやカスレを抑制する観点から、吸光度の比(230nm/270nm)の値は、好ましくは1.90以下であり、より好ましくは1.85以下であり、さらに好ましくは1.80以下である。
【0014】
酸化グラフェン分散液の吸光度は、後述する測定例2に記載する方法により測定することができる。また、酸化グラフェン分散液の吸光度を前述の範囲にする手段としては、例えば、後述の製造方法により酸化グラフェン分散液を得る方法などが挙げられる。
【0015】
本発明の酸化グラフェン水分散液に含まれる酸化グラフェンは、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素の比(O/C比)が、0.60以上0.80以下であることが好ましい。酸化グラフェン表面の酸素原子は、酸化グラフェンが有する酸性基に含まれる酸素原子である。このような酸素原子は酸化グラフェンの分散性をより向上させる効果を有するため、酸化グラフェンのO/C比が0.60以上であると、酸化グラフェンの分散性をより向上させ、塗布性をより向上させることができる。酸化グラフェンのO/C比は、より好ましくは0.65以上である。一方、官能基による立体障害を抑制し、分散性をより向上させる観点から、酸化グラフェンのO/C比は、0.80以下が好ましく、より好ましくは0.75以下である。
【0016】
X線光電子分光法では、酸化グラフェン分散液を真空乾燥機や凍結乾燥機などにより予備乾燥した後、乾燥試料を高真空チャンバー付の測定室に導入し、超高真空中に置いた試料表面に軟X線を照射し、表面から放出される光電子をアナライザーで検出する。この光電子をワイドスキャンおよびナロースキャンで測定し、物質中の束縛電子の結合エネルギー値を求めることにより、物質表面の元素情報が得られる。具体的には、酸化グラフェンのO/C比は、後述する測定例3に記載する方法により測定することができる。
【0017】
X線光電子分光法により酸化グラフェンを測定すると、284eV付近に炭素に由来するC1sピークが検出されるが、炭素が酸素に結合している場合は高エネルギー側にシフトすることが知られている。具体的には、炭素が酸素に結合していないC-C結合、C=C二重結合、C-H結合に基づくピークはシフトせずに284eV付近に検出され、C-O一重結合の場合286.5eV付近に、C=O二重結合の場合287.5eV付近に、COO結合の場合288.5eV付近にシフトする。そのため、炭素に由来する信号は、284eV付近、286.5eV付近、287.5eV付近、288.5eV付近のそれぞれのピークを重ね合わせた形で検出される。また同時に、533eV付近には酸素に由来するO1sピークが検出される。C1sピークとO1sピークのピーク面積からO/C比を求めることができる。酸化グラフェンのO/C比は、例えば、酸化グラフェン製造時の酸化剤の使用量により、所望の範囲に調整することができる。
【0018】
<酸化グラフェン分散液の製造方法>
本発明の酸化グラフェン水分散液は、一例として、酸化グラフェンを水に分散する製造方法により作製することができる。本発明においては、酸化グラフェンと水を含むスラリーを、開口径0.1mm以上3.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通す工程を有することが好ましく、酸化グラフェン同士のスタックを解消し、分散性を大きく向上させることができる。
【0019】
[酸化グラフェンの製造方法]
酸化グラフェンの製造方法としては、例えば、ハマーズ法等が挙げられる。また、所望のO/C比を有する市販の酸化グラフェンを購入してもよい。酸化グラフェンの製造方法の一例として、ハマーズ法を用いた方法を以下に例示する。
【0020】
氷浴中、黒鉛(石墨粉)と硝酸ナトリウムを濃硫酸中に入れて撹拌しながら、過マンガン酸カリウムを温度が上がらないように徐々に添加し、25~50℃の温度範囲に保ちながら、0.2~5時間撹拌する。その後、イオン交換水を加えて希釈して懸濁液とし、80~100℃の温度範囲で5~50分間撹拌する。その後、過酸化水素とイオン交換水を加えて1~30分間撹拌して、酸化グラフェン水分散液を得る。得られた酸化グラフェン水分散液を濾過、洗浄し、酸化グラフェンウエットケーキを得る。
【0021】
黒鉛としては、天然黒鉛が好ましく、メッシュ数は5,000以下が好ましい。天然黒鉛10gに対して、硝酸ナトリウム添加量は2~8g、濃硫酸添加量は150~300ml、過マンガン酸カリウム添加量は10~40g、過酸化水素添加量は40~80gが好ましく、イオン交換水添加量は、過酸化水素添加量の10~20倍が好ましい。酸化グラフェンの酸化度は、例えば、酸化剤である硝酸ナトリウムや過マンガン酸カリウムの添加量により、所望の範囲に調整することができる。具体的には、黒鉛に対する硝酸ナトリウムの添加量の比(硝酸ナトリウム/黒鉛)は、0.200以上0.800以下が好ましく、黒鉛に対する過マンガン酸カリウムの添加量の比(過マンガン酸カリウム/黒鉛)は、1.4以上4.0以下が好ましい。
【0022】
[分散工程]
前述のとおり、本発明においては、酸化グラフェングラフェンウエットケーキに水を混合したスラリーを、開口径0.1mm以上3.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通す工程を有することが好ましく、酸化グラフェン同士のスタックを解消し、分散性を大きく向上させることができる。
【0023】
孔状の間隙の形状としては、例えば、円状の丸孔や、四角形などの多角形の角孔などが挙げられる。孔状の間隙の形状は、角孔が好ましく、孔縁が角を有する角孔形状により、スラリーが間隙を通過する際のせん断力がより大きくなるため、積層状態の酸化グラフェンを剥離したり、水素結合ネットワークを切断することがより容易となり、酸化グラフェン同士のスタックを解消し、分散性をより向上させることができる。四角形がより好ましい。ここで、本発明における角孔の開口径とは、短辺側の長さを指す。四角形の間隙の形状は、幅である短辺に対する長辺の比である長短比(長辺/短辺)が1.0以上3.0以下であることが好ましい。長短比を3.0以下とすることにより、スラリー撹拌時に酸化グラフェン分散液にかかるせん断力が大きくなるため、分散性をより大きく向上させることができる。角孔の長短比は、2.0以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましい。一方、スリット状の間隙の形状は、幅である短辺に対する長辺の比である長短比(長辺/短辺)が20以上であることが好ましい。
【0024】
間隙が開口径0.1mm未満、または幅0.1mm未満である場合、スラリー撹拌時に間隙を通過する速度が遅く、酸化グラフェン分散液にかかるせん断力が小さくなるため、積層状態の酸化グラフェンを剥離したり、水素結合ネットワークを切断することが困難である。また、酸化グラフェンウエットケーキの間隙への詰まりが発生し、スラリーを間隙に通すことが困難である。一方、開口径が3.0mmを超える、またはスリット幅が1.0mmを超える場合、酸化グラフェン分散液にかかるせん断力が小さくなるため、同様に積層状態の酸化グラフェンを剥離したり、水素結合ネットワークを切断することが困難である。開口径は、スラリー撹拌時に間隙を通過する酸化グラフェン分散液にかかるせん断力をより大きくする観点から、2.0mm以下がより好ましく、1.0mm以下がさらに好ましい。特に、孔状の間隙の形状が円状の場合、角を有する角孔形状の場合に比べてスラリー撹拌時に間隙を通過する酸化グラフェン分散液にかかるせん断力が小さくなる傾向にあることから、丸孔の場合、開口径は1.0mm以下が好ましい。
【0025】
例えば、酸化グラフェン濃度0.1重量%以上2.0重量%以下の酸化グラフェン水分散液を製造する場合、分散工程として、酸化グラフェン濃度40重量%以上50重量%以下の酸化グラフェンウエットケーキに水を混合したスラリーを、開口径0.1mm以上3.0mm以下、より好ましくは開口径0.1mm以上1.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通す工程を有することが好ましい。間隙の大きさについて、孔状の場合の開口径およびスリット状の場合の幅を0.1mm以上とすることにより、スラリー撹拌時に間隙を通過する速度が速く、酸化グラフェン分散液にかかるせん断力が大きくなるため、積層状態の酸化グラフェンを剥離したり、水素結合ネットワークを切断することが容易となる。また、酸化グラフェンウエットケーキの間隙への詰まりを抑制することができる。かかる開口径または幅は、0.5mm以上がより好ましい。一方、孔状の場合の開口径およびスリット状の場合の幅を3.0mm以下、より好ましくは1.0mm以下とすることにより、酸化グラフェン同士のスタックをより効果的に解消し、分散性をより向上させることができる。
【0026】
開口径0.1mm以上3.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙を有する分散機としては、薄膜旋回方式、ローター/ステーター式などの旋回する刃と壁面の距離が10mm以下の短い形状であることが好ましい。このような分散機としては、例えば、“フィルミックス”(登録商標)30-30型(プライミクス社)、“クレアミックス”(登録商標)CLM-0.8S(エム・テクニック社)、“シルバーソンミキサー”(登録商標)L5M-A(シルバーソンニッポン社)などが挙げられる。
【0027】
酸化グラフェングラフェンウエットケーキに水を混合したスラリーを、開口径0.1mm以上3.0mm以下、より好ましくは開口径0.1mm以上1.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通す工程において、スラリーを周速15m/s以上で撹拌することが好ましい。スラリーを間隙に通すときの周速が高いほど、せん断力により酸化グラフェンをより効果的に剥離しやすいため、分散性をより向上させることができる。
【0028】
例えば、酸化グラフェン濃度0.1重量%以上0.6重量%以下の、より低濃度の酸化グラフェン水分散液を製造する場合、分散工程として、(1)濃度40重量%以上50重量%以下の酸化グラフェンウエットケーキに水を混合したスラリーを、開口径0.1mm以上3.0mm以下、より好ましくは開口径0.1mm以上1.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通し、酸化グラフェン濃度0.8重量%以上2.0重量%以下の酸化グラフェン水分散液を得る工程、および、(2)酸化グラフェン濃度0.8重量%以上2.0重量%以下の酸化グラフェン水分散液を、開口径0.1mm以上3.0mm以下、より好ましくは開口径0.1mm以上1.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通す工程の2つの工程を有することが好ましい。2つの工程を経ることにより、水素結合ネットワークをより効率よく切断し、酸化グラフェンの塗布性をより向上させることができる。前記工程(1)においては、間隙に通すスラリーの粘性が低いほど、酸化グラフェンの剥離を効果的に進めることができることから、工程(1)において得る酸化グラフェン水分散液の酸化グラフェン濃度を、0.8重量%以上1.5重量%以下とすることがより好ましい。
【0029】
前記工程(1)および(2)における間隙の大きさや形状、工程(1)および(2)に用いる分散機の具体例は、前述のとおりである。
【0030】
前記工程(1)においては、前述のとおり、酸化グラフェングラフェンウエットケーキに水を混合したスラリーを、開口径0.1mm以上3.0mm以下、より好ましくは開口径0.1mm以上1.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通す工程において、スラリーを周速15m/s以上で撹拌することが好ましい。また、前記工程(2)において、酸化グラフェン水分散液を間隙に通すときの周速が高いほど、せん断力により酸化グラフェンをより効果的に剥離しやすいため、開口径0.1mm以上3.0mm以下、より好ましくは開口径0.1mm以上1.0mm以下の孔状、または幅0.1mm以上1.0mm以下のスリット状の間隙に通す工程において、酸化グラフェン水分散液を、周速15m/s以上で撹拌することが好ましい。
【実施例】
【0031】
[測定例1:酸化グラフェンウエットケーキまたは酸化グラフェン水分散液濃度]
酸化グラフェンウエットケーキまたは酸化グラフェン水分散液を、重量既知のアルミカップに乗せて重量を測定し、温度を100℃に調整したホットプレート上で1.5時間加熱して溶媒(水)を揮発させた。加熱前の酸化グラフェンウエットケーキまたは酸化グラフェン水分散液の重量と、加熱前後の重量差から算出した溶媒揮発量から、酸化グラフェンウエットケーキまたは酸化グラフェン水分散液の濃度を測定した。これを3回繰り返し、平均値を求めた。
【0032】
[測定例2:吸光度および吸光度比]
各実施例および比較例により作製した酸化グラフェン水分散液について、U-3010型分光光度計(日立ハイテクサイエンス社)を用いて吸光度を測定した。セルは光路長10mmの石英製を用いた。各実施例および比較例により作製した酸化グラフェン水分散液に、酸化グラフェン濃度が0.0013重量%となるようにイオン交換水を加え、出力130W、発振周波数40kHzの超音波洗浄機(ASU-6M、アズワン社)を用いて出力設定Highで10分間処理した希釈液を用いて、事前にイオン交換水でベースライン測定をした上で測定を行った。得られた230nmおよび270nmの吸光度から、下記式により定義した吸光度比を算出した。
吸光度比=吸光度(230nm)/吸光度(270nm)。
【0033】
[測定例3:O/C比]
各実施例および比較例に用いた酸化グラフェンについて、Quantera SXM (PHI社製)を用いてO/C比を測定した。励起X線は、monochromatic Al Kα1,2線(1486.6eV)とし、X線径は200μm、光電子脱出角度は45°とした。炭素原子に基づくC1sメインピークを284.3eVとし、酸素原子に基づくO1sピークを533eV付近のピークに帰属し、各ピークの面積比からO/C比を求めた。
【0034】
[評価例1:分散性-溶け残りまたはゲル化]
各実施例および比較例により作製した酸化グラフェン水分散液を目視観察し、ゲル化の有無を評価した。また、各実施例および比較例により作製した酸化グラフェン水分散液を、線径160μm、開口径250μmのメッシュフィルターに通し、メッシュフィルター上に捕捉される酸化グラフェンウエットケーキの溶け残りを目視観察した。
【0035】
[評価例2:分散性-経時沈降]
容量200ccのビーカーに、各実施例および比較例により作製した酸化グラフェン水分散液をそれぞれ100cc入れ、室温で48時間静置した後、酸化グラフェン水分散液の上層部および下層部をスポイトで採取し、測定例1により濃度を測定し、下層部における濃度に対する上層部における濃度の比(上層部濃度/下層部濃度)を算出した。濃度比が0.9以上であれば、経時沈降が無いと判断した。
【0036】
[評価例3:ペースト塗布性 ]
各実施例および比較例により作製した酸化グラフェン水分散液を、吸引濾過により固液分離し、酸化グラフェンのウエットケーキを得た。得られたウエットケーキを、酸化グラフェンが固形分として1.5重量%となるように濃度2重量%のカルボキシメチルセルロース水溶液に混合し、プラネタリーミキサーで混練して酸化グラフェンペーストを得た。得られた酸化グラフェンペーストを、ドクターブレード(300μm)を用いてアルミニウム箔(厚さ18μm)に塗布し、塗布膜表面の目視観察により、塗布性を5段階で評価した。判断基準は以下のとおりとし、3点以上であれば、塗布性が良好であると判断した。
5点:塗布膜表面の塗布ムラやカスレが認められない
4点:塗布膜表面の面積の概ね95%に塗布ムラやカスレが認められない
3点:塗布膜表面の面積の概ね90%以上95%未満に塗布ムラやカスレが認められない
2点:塗布膜表面の面積の概ね80%以上90%未満に塗布ムラやカスレが認められない
1点:塗布膜表面に塗布ムラやカスレが多い。
【0037】
[合成例1:酸化グラフェンウエットケーキの作製方法]
1500メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社)を原料として、氷浴中の10gの天然黒鉛粉末に、220mlの98%濃硫酸、5gの硝酸ナトリウム、30gの過マンガン酸カリウムを入れ、1時間撹拌し、混合液の温度を20℃以下に保持した。この混合液を氷浴から取り出し、35℃の水浴中で4時間撹拌し、その後イオン交換水500mlを入れて、得られた懸濁液を90℃でさらに15分間撹拌を行った。最後に600mlのイオン交換水と50mlの過酸化水素を入れ、5分間撹拌し、酸化グラフェン水分散液を得た。得られた酸化グラフェン水分散液を濾過し、希塩酸で金属イオンを洗浄し、イオン交換水で酸を洗浄し、pHが7になるまで洗浄を繰り返して酸化グラフェンウエットケーキ-1を作製した。作製した酸化グラフェンウエットケーキ-1の、測定例3により測定した酸素原子の炭素原子に対する元素比(O/C比)は0.70、測定例1により測定した酸化グラフェンウエットケーキ-1の濃度は44.5重量%であった。
【0038】
[合成例2:酸化グラフェンウエットケーキ-2の作製方法]
酸化度を変更したこと以外は合成例1と同様にして、酸化グラフェンウエットケーキ-2を作製した。作製した酸化グラフェンウエットケーキ-2の、測定例3により測定した酸素原子の炭素原子に対する元素比(O/C比)は0.53、測定例1により測定した酸化グラフェンウエットケーキ-1の濃度は46.3重量%であった。
【0039】
[合成例3:酸化グラフェンウエットケーキ-3の作製方法]
天然黒鉛粉末の種類を変更したこと以外は合成例1と同様にして、酸化グラフェンウエットケーキ-3を作製した。作製した酸化グラフェンウエットケーキ-3の、測定例3により測定した酸素原子の炭素原子に対する元素比(O/C比)は0.63、測定例1により測定した酸化グラフェンウエットケーキ-3の濃度は6.5重量%であった。
【0040】
[実施例1]
合成例1により得られた酸化グラフェンウエットケーキ-1 11.23gにイオン交換水988.77gを混合し、開口径0.8mmの丸孔状のステーターを取り付けたシルバーソンミキサーL5M-Aを用いて、回転数7,500rpmで30分間撹拌して、酸化グラフェン濃度0.5重量%の酸化グラフェン水分散液を得た。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0041】
[実施例2]
合成例1により得られた酸化グラフェンウエットケーキ-1 2.24gにイオン交換水997.76gを混合して、酸化グラフェン濃度を0.1重量%に変えた以外は実施例1と同様にして、酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0042】
[実施例3]
合成例1により得られた酸化グラフェンウエットケーキ-1 22.47gにイオン交換水977.53gを混合して、酸化グラフェン濃度を1.0重量%に変えた以外は実施例1と同様にして、酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0043】
[実施例4]
合成例1により得られた酸化グラフェンウエットケーキ-1 44.94gにイオン交換水955.06gを混合して、酸化グラフェン濃度を2.0重量%に変えた以外は実施例1と同様にして、酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0044】
[実施例5]
ステーターを、幅0.6mm、長短比22のスリット状のステーターに変えた以外は実施例1と同様にして、酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0045】
[実施例6]
シルバーソンミキサーL5M-Aの回転数を10,000rpmに変えた以外は実施例1と同様にして、酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0046】
[実施例7]
合成例2により得られた酸化グラフェンウエットケーキ-2 10.80gにイオン交換水989.20gを混合して、開口径0.8mmの丸孔状のステーターを取り付けたシルバーソンミキサーL5M-Aを用いて、回転数10,000rpmで30分間撹拌して、酸化グラフェン濃度0.5重量%の酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0047】
[実施例8]
合成例1により得られた酸化グラフェンウエットケーキ-1 22.47gにイオン交換水977.53gを混合して、開口径0.8mmの丸孔状のステーターを取り付けたシルバーソンミキサーL5M-Aを用いて、回転数7,500rpmで30分間撹拌して、酸化グラフェン濃度1.0重量%の酸化グラフェン水分散液を得た。
【0048】
得られた酸化グラフェン水分散液500gにイオン交換水500gを混合して、開口径0.8mmの丸孔状のステーターを取り付けたシルバーソンミキサーL5M-Aを用いて、回転数7,500rpmで30分間撹拌して、酸化グラフェン濃度0.5重量%の酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0049】
[実施例9]
ステーターを、開口径1.6mm、長短比1.2の角孔状のステーターに変えた以外は実施例1と同様にして、酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0050】
[実施例10]
ステーターを、開口径0.8mm、長短比1.2の角孔状のステーターに変えた以外は実施例1と同様にして、酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0051】
[実施例11]
シルバーソンミキサーL5M-Aの回転数を10,000rpmに変えた以外は実施例10と同様にして、酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0052】
[実施例12]
ステーターを、開口径1.6mm、長短比1.2の角孔状のステーターに変えた以外は実施例9と同様にして、酸化グラフェン濃度0.5重量%の酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0053】
[比較例1]
合成例1により得られた酸化グラフェンウエットケーキ-1 67.41gにイオン交換水932.59gを混合して、開口径0.8mmの丸孔状のステーターを取り付けたシルバーソンミキサーL5M-Aを用いて、回転数7,500rpmで30分間撹拌して、酸化グラフェン濃度3.0重量%の酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0054】
[比較例2]
合成例1により得られた酸化グラフェンウエットケーキ-1 22.47gにイオン交換水977.53gを混合して、分散する工程としてシルバーソンミキサーの代わりに、ディスパー撹拌機であるホモディスパー2.5型(プライミクス社)を用いて、回転数8,000rpmで30分間撹拌して、酸化グラフェン濃度1.0重量%の酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0055】
[比較例3]
合成例1により得られた酸化グラフェンウエットケーキ-1 22.47gにイオン交換水977.53gを混合して、分散する工程としてシルバーソンミキサーの代わりに、プラネタリー混練機であるハイビスディスパーミックス3D-2型(プライミクス社)を用いて、回転数300rpmで30分間撹拌して、酸化グラフェン濃度1.0重量%の酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0056】
[比較例4]
ステーターを、開口径1.6mmの丸孔状のステーターに変えた以外は実施例1と同様にして、酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0057】
[比較例5]
ステーターを、幅1.6mm、長短比8.3のスリット状のステーターに変えた以外は実施例1と同様にして、酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0058】
[比較例6]
合成例3により得られた酸化グラフェンウエットケーキ-3 76.92gにイオン交換水923.08gを混合して、開口径0.8mmの丸孔状のステーターを取り付けたシルバーソンミキサーL5M-Aを用いて、回転数7,500rpmで30分間撹拌して、酸化グラフェン濃度0.5重量%の酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0059】
[比較例7]
ステーターを、開口径1.6mmの丸孔状のステーターに変え、撹拌時間を3時間に変えた以外は実施例1と同様にして、酸化グラフェン水分散液を作製した。得られた酸化グラフェン水分散液について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0060】
各実施例および比較例の主な製造方法と評価結果を表1~2に示す。
【0061】
【0062】