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特許7582034締結構造体の製造方法及びエンジンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】締結構造体の製造方法及びエンジンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 41/12 20060101AFI20241106BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20241106BHJP
   F02D 15/02 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B23B41/12
F16B5/02 E
F02D15/02 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021066923
(22)【出願日】2021-04-12
(65)【公開番号】P2022162223
(43)【公開日】2022-10-24
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 貴郁
(72)【発明者】
【氏名】花▲崎▼ 雅洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 理
(72)【発明者】
【氏名】宮元 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】木村 克昌
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-161699(JP,A)
【文献】国際公開第2017/46878(WO,A1)
【文献】特開2016-84907(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/307005(US,A1)
【文献】特開昭52-87515(JP,A)
【文献】特開平4-8906(JP,A)
【文献】特開2002-130221(JP,A)
【文献】実開昭53-64963(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 35/00 - 49/06
F16B 5/00 - 5/12
F02D 13/00 - 28/00
F16C 3/00 - 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトを、締め付け方向が互いに逆方向から締め付けることにより、一対の締結部材を連結した締結構造体の製造方法において、
前記一対の締結部材を接合し、
前記一対の締結部材を接合した状態で、前記ボルトの一方側からの締め付けを完了したのち、
前記ボルトの他方側からの締め付けを完了し、
この状態で所定の加工を施し、
前記所定の加工を施したのち前記ボルトを弛め、
再び前記一対の締結部材を接合し、
前記一対の締結部材を接合した状態で、前記ボルトの一方側からの締め付けを完了したのち、
前記ボルトの他方側からの締め付けを完了する締結構造体の製造方法。
【請求項2】
前記ボルトを弛めた後に行う前記ボルトの締め付け順序は、
前記所定の加工を施す前に行う前記ボルトの締め付け順序に一致させる請求項1に記載の締結構造体の製造方法。
【請求項3】
可変圧縮比エンジンのマルチリンク機構のロアリンクが、一対のロアリンク部材を含み、当該一対のロアリンク部材は、ボルトを締め付け方向が互いに逆方向から締め付けることによりクランクピンに連結されるエンジンの製造方法において、
前記ロアリンクに前記クランクピンの挿通孔を加工する前に、前記一対のロアリンク部材を前記ボルトで締結する際の前記ボルトの締め付け順序と、
前記ロアリンクに前記挿通孔を加工したのち、前記ボルトを弛めて前記一対のロアリンク部材を一旦分解し、前記挿通孔に前記クランクピンを挟んで、再び前記一対のロアリンク部材を前記ボルトで締結する際の前記ボルトの締め付け順序と、を一致させるエンジンの製造方法。
【請求項4】
前記一対のロアリンク部材を接合した状態で、前記ボルトの一方側からの締め付けを完了したのち、
前記ボルトの他方側からの締め付けを完了し、
この状態の前記ロアリンクに前記挿通孔を加工したのち、
前記ボルトを弛めて前記一対のロアリンク部材を分解し、
前記分解された一対のロアリンク部材の挿通孔にベアリング部品を介装し、前記挿通孔に前記クランクピンを挟んで前記一対のロアリンク部材を接合し、
この状態で、前記ボルトの一方側からの締め付けを完了したのち、
前記ボルトの他方側からの締め付けを完了する請求項に記載のエンジンの製造方法。
【請求項5】
前記一対のロアリンク部材を接合した状態で、前記ボルトの一方側からの締め付けと、前記ボルトの他方側からの締め付けとを、所定のステップ毎に交互に行い、
前記ボルトの締め付けを完了した状態の前記ロアリンクに前記挿通孔を加工したのち、
前記ボルトを弛めて前記一対のロアリンク部材を分解し、
前記分解された一対のロアリンク部材の挿通孔にベアリング部品を介装し、前記挿通孔に前記クランクピンを挟んで前記一対のロアリンク部材を接合し、
この状態で、前記ボルトの一方側からの締め付けと、前記ボルトの他方側からの締め付けとを、前記所定のステップ毎に交互に行い、前記ボルトの締め付けを完了する請求項に記載のエンジンの製造方法。
【請求項6】
前記所定のステップは、着座締め付けステップ、仮締めステップ、トルク解放ステップ、スナッグ締めステップ及びトルク締めステップを含む請求項に記載のエンジンの製造方法。
【請求項7】
前記一対のロアリンク部材を接合した状態で、前記ボルトの一方側からの締め付けと、前記ボルトの他方側からの締め付けとを行う場合に、前記一対のロアリンクが前記ボルトの締め付けに連れ回るのを阻止する回転阻止部材を、前記一対のロアリンクから所定の間隔を設けて設置する請求項3~6のいずれか一項に記載のエンジンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の締結部材をボルトで連結した締結構造体の製造方法及びこれを応用したエンジンの製造方法に関し、特に締め付け方向が互いに逆方向のボルトにより、一対の締結部材を連結した締結構造体の製造方法及びこれを応用したエンジンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の締結構造体として、可変圧縮比エンジンのマルチリンク機構に用いられているロアリンクが知られている。可変圧縮比エンジンのロアリンクは、クランクシャフトのクランクピンに装着する都合上、クランクピンが挿通される部分で二分割した一対の締結部材で構成されている。そして、この一対の締結部材をボルトで連結し、この状態でクランクピンが挿通される挿通孔が機械加工される。
【0003】
このような締結構造体に挿通孔を機械加工する先行技術として、シリンダブロック本体にベアリングキャップを組み付け、両者を正規軸力でボルト締めした状態で、シリンダブロック本体とベアリングキャップとの間にクランク軸穴を加工する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2544011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術に記載されたシリンダブロック本体とベアリングキャップとのボルト締めは、その締め付け方向が同じであるため、一対の締結部材であるシリンダブロック本体とベアリングキャップとの間に捩れ方向のずれは生じない。しかしながら、一対の締結部材をボルトで連結する場合のボルトの締め付け方向が互いに逆方向であると、一対の締結部材に捩れ方向のずれが生じることがあり、ずれが生じたまま孔が機械加工される。そして、一対のボルトの締め付け具合によっては、捩れ方向が逆になることがあり、締結構造体によって形状がばらつくという問題があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、締め付け方向が互いに逆方向のボルトにより、一対の締結部材を連結する場合に、形状のバラツキが抑制できる締結構造体の製造方法及びエンジンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ボルトを、締め付け方向が互いに逆方向から締め付けることにより、一対の締結部材を連結した締結構造体の製造方法において、
前記一対の締結部材を接合し、前記一対の締結部材を接合した状態で、前記ボルトの一方側からの締め付けを完了したのち、前記ボルトの他方側からの締め付けを完了し、この状態で所定の加工を施し、
前記所定の加工を施したのち前記ボルトを弛め、
再び前記一対の締結部材を接合し、
前記一対の締結部材を接合した状態で、前記ボルトの一方側からの締め付けを完了したのち、
前記ボルトの他方側からの締め付けを完了することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ボルトの一方側からの締め付けを完了したのち、ボルトの他方側からの締め付けを完了するので、製造誤差が生じても製造品の間では同じ誤差になる。その結果、製造される締結構造体に形状のバラツキが生じるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の締結構造体の一実施の形態としてのロアリンクが適用された可変圧縮比エンジンの一例を示す断面図である。
図2図1のロアリンクを示す、(A)分解した状態の側面図、(B)分解した状態の斜視図、(C)組付けた状態の斜視図である。
図3図1のロアリンクを示す、(A)平面図、(B)正面図、(C)底面図である。
図4】可変圧縮比エンジンではない定圧縮比エンジンのコネクティングロッドを示す正面図及び底面図である。
図5】本発明の一実施の形態に係る締結構造体の製造方法及びエンジンの製造方法を示す工程図である。
図6】本発明の他の実施の形態に係る締結構造体の製造方法及びエンジンの製造方法を示す工程図である。
図7図5のステップ1のボルトの締付工程で使用される自動締付装置の全体を示す斜視図である。
図8図7の自動締付装置のワークのテーブル部分を拡大して示す斜視図である。
図9図5の自動締付装置の側面図である。
図10図9の自動締付装置のクランパの対峙位置を示す平面図である。
図11図5のステップ2の挿通孔の機械加工を行う研削装置を示す断面図である。
図12図5のステップ4のエンジン組立におけるボルトの締付工程を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態例を説明する。図1は、本発明の締結構造体の一実施の形態としてのロアリンクが適用された可変圧縮比エンジンの一例を示す断面図、図2は、図1のロアリンクを示す図であって、図2(A)は分解した状態のロアリンクを示す側面図、図2(B)は分解した状態のロアリンクを示す斜視図、図2(C)は組付けた状態のロアリンクを示す斜視図である。
【0011】
本実施形態の可変圧縮比エンジンEは、たとえば直列4気筒エンジンであり、図1は一つの気筒101の断面を示している。本実施形態の可変圧縮比エンジンEは、ピストン上死点位置を変化させて圧縮比を変更するマルチリンク機構(圧縮比可変機構)110を備える。マルチリンク機構110は、ピストン102とクランクシャフト106とを、アッパリンク104及びロアリンク105で連結し、コントロールリンク108によってロアリンク105の姿勢を制御し、圧縮比を変更するものである。換言すれば、本実施形態の可変圧縮比エンジンEは、クランクピン107からピストンピン103までの長さであるコンロッド長Lを変化させ、ピストン102のストロークを変化させて圧縮比を変更する。
【0012】
アッパリンク104は、その上端においてピストンピン103を介して且つ当該ピストンピン103を中心にしてピストン102に回動可能に連結されている。またアッパリンク104は、その下端においてアッパピンP1及び第1ブッシュ116を介して且つ当該アッパピンP1を中心にしてロアリンク105の一端に回動可能に連結されている。ロアリンク105の他端は、コントロールピンP2及び第2ブッシュ117を介して且つ当該コントロールピンP2を中心にしてコントロールリンク108に回動可能に連結されている。
【0013】
ロアリンク105には、アッパピンP1の中心とコントロールピンP2の中心との間にクランクピン107が配置されるように、クランクピン107が挿通される挿通孔111が形成されている。ロアリンク105は、ほぼ中央に挿通孔111を有し、後からクランクピン107に組み付けることができるように、図示する上下2つのロアリンク部材(以下、ロアリンクアッパ105A,ロアリンクロア105Bとも言う。)から構成され、分割可能とされている。ロアリンク105は、挿通孔111にクランクシャフト106のクランクピン107が挿入されることで、クランクピン107を中心に揺動する。
【0014】
クランクシャフト106は、クランクピン107、ジャーナル112及びカウンターウェイト113を備える。クランクピン107の中心は、ジャーナル112の中心(すなわちクランクシャフト106の回転軸中心)から所定量偏心している。カウンターウェイト113は、クランクアームに一体形成されて、ピストン運動の回転1次振動成分を低減する。
【0015】
コントロールリンク108の上端は、コントロールピンP2及び第2ブッシュ117を介して且つ当該コントロールピンP2を中心にロアリンク105に対して回動可能に連結されている。コントロールリンク108の下端は、コントロールシャフト109の偏心軸(揺動軸)114に連結されている。コントロールリンク108は、偏心軸114を中心に揺動する。コントロールシャフト109は、クランクシャフト106と平行(図面の紙面に対して垂直な方向に平行)に配置され、シリンダブロック115に回転自在に支持されている。コントロールシャフト109の偏心軸114は、コントロールシャフト109の軸心から所定量だけ偏心した位置に形成されている。コントロールシャフト109は、ウォーム&ウォームホイール等の機構を介してアクチュエータ(不図示)によって回転制御され、これにより偏心軸114を移動させる。
【0016】
そして、アクチュエータによってコントロールシャフト109が回転し、偏心軸114がコントロールシャフト109の中心軸に対して相対的に低くなる方向に移動すると、ロアリンク105はクランクピン107を中心としてアッパピンP1の位置が相対的に上昇する方向に傾く。これによりピストン102の上死点位置が上昇して、エンジンEの幾何学的な圧縮比(ピストン上死点位置での燃焼室容積に対するピストン下死点位置での燃焼室容積の比)が高くなる。これに対して、偏心軸114がコントロールシャフト109の中心軸に対して相対的に高くなる方向に移動すると、ロアリンク105はクランクピン107を中心としてアッパピンP1の位置が相対的に低くなる方向に傾く。これによりピストン102の上死点位置が下降して、エンジンEの圧縮比が低くなる。
【0017】
本発明の一実施の形態であるロアリンク105は、クランクシャフト106のクランクピン107に挿通する都合上、図2に示すように、クランクピン107の挿通部分で分割した一対のロアリンク部材105A,105B(ロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105B)で構成されている。2つのロアリンク部材105A,105Bは、図2に示すように、クランクピン107を中心とした回転対称形状を有する同一構造の部品である。
【0018】
このロアリンク105の挿通孔111は、クランクピン107が挿通されて摺動することから、所定値以上の真円度乃至円筒度が要求される。そのため、挿通孔111の機械加工は、図2(B)に示すように一対のロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105BをボルトB1,B2で正規に締め付けた状態で行われる。なお、ロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bのそれぞれには、図2(C)に示すように2つのピン孔1054が形成され、ここにダウエルピン1053を挿入することで、ロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bの位置合わせが行われる。ところが、挿通孔111を機械加工したのちクランクピン107との間にメタルベアリングシートを介装する必要があるため、挿通孔111を機械加工したのち、ボルトB1,B2を弛めてロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bを一旦分解する。
【0019】
そして、図2(A)~(C)に示すように、半円形状のメタルベアリングシートM,Mを介装し、クランクピン107を挟み込みながらロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bの接合面Sa,Saを互いに接合する。この状態で、一方のボルトB1をロアリンクアッパ105Aに形成された通孔1051に通し、ロアリンクロア105Bに形成されたネジ孔1052に締め付ける。また、他方のボルトB2をロアリンクロア105Bに形成された通孔1051に通し、ロアリンクアッパ105Aに形成されたネジ孔1052に締め付ける。これにより、ロアリンク105は、クランクピン107に装着される。
【0020】
図4は、可変圧縮比エンジンEではない定圧縮比エンジンのコネクティングロッド2を示す正面図及び底面図であり、コネクティングロッド2の下端は、図示しないクランクピンが挿通できるように二分割され、ボルトB,Bにより締結される。このようなコネクティングロッド2においては、正面図に示すように一対のボルトB,Bの締め付け方向が同じ方向(同図において下から上に向かう方向)であり、したがって底面図に示すように一対のボルトB,Bを締め付ける際の回転方向も同じ方向である。そのため、二分割されたコネクティングロッド2の下端は、ボルトBの回転に連れ回ることによりずれが生じたとしても、常に同じ方向(下側の部品が上側の部品に対して底面視において時計回りの方向)にずれることになる。したがって、製品ごとに形状がばらついたり、クランクピンの挿通孔21の真円度乃至円筒度がばらついたりするという問題は生じない。
【0021】
これに対し、本実施形態のロアリンク105を図3に示す。図3は、本実施形態のロアリンク105を示す、(A)平面図、(B)正面図、(C)底面図である。本実施形態のロアリンク105は、一対のロアリンクアッパ105Aとロアリンクロア105Bに、一対のボルトB1,B2を、締め付け方向が互いに逆方向から締め付けることにより、連結した締結構造体である。すなわち、図3(B)に示すように、ロアリンクアッパ105Aからロアリンクロア105Bに向かって締め付けられるボルトB1と、ロアリンクロア105Bからロアリンクアッパ105Aに向かって締め付けられるボルトB2により、ロアリンク105が締結されている。なお、一対のロアリンクアッパ105Aとロアリンクロア105Bとを締結するボルトは2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
【0022】
そのため、ロアリンクアッパ105Aからロアリンクロア105Bに向かって締め付けられるボルトB1について言えば、図3(A)に示すように、当該ボルトB1を時計回りに回転して締め付けるとロアリンクアッパ105Aが時計回りに連れ回り、これにより、同図の平面視において、ロアリンクアッパ105Aがロアリンクロア105Bに対して時計回り方向のずれが生じる。これに対し、ロアリンクロア105Bからロアリンクアッパ105Aに向かって締め付けられるボルトB2について言えば、図3(C)に示すように、当該ボルトB2を時計回りに回転して締め付けるとロアリンクロア105Bが時計回りに連れ回り、これにより、同図の底面視において、ロアリンクロア105Bがロアリンクアッパ105Aに対して時計回り方向のずれが生じる。これを平面視で見ると、ロアリンクロア105Bがロアリンクアッパ105Aに対して反時計回り方向のずれが生じることになる。
【0023】
すなわち、2つのボルトB1,B2の回転にともなう連れ回り方向が互いに逆になる。このため、ナットランナなどの自動締付装置を用いて2つのボルトB1,B2を同時に締め付けるようにしても、締付反力の個体差などが原因で締付完了タイミングに僅かでも誤差が生じると、ロアリンクアッパ105Aがロアリンクロア105Bに対して時計回りにずれたり、逆に反時計回りにずれたりし、製品によって形状がばらつくことになる。
【0024】
そこで、本実施形態では、一対のボルトB1,B2の締め付け順序、すなわちどちらのボルトB1,B2を先に締め付けるかを予め決めておき、この順序を遵守することで製品の形状のバラツキを抑制する。たとえば、図3(B)に示すロアリンク105において、ボルトB1による締め付けを完了したのち、ボルトB2による締め付けを完了する。これにより、ロアリンクアッパ105Aとロアリンクロア105Bが堅固に固定されていない状態で、先にボルトB1による締め付けが完了するので、ロアリンクアッパ105AがボルトB1の回転にともなって連れ回り、図3(A)に示すようにロアリンクアッパ105Aがロアリンクロア105Bに対し、平面視において時計回り方向にずれる。その後、他方のボルトB2による締め付けが完了するが、一方のボルトB1による締め付けが既に完了しているので、ロアリンクアッパ105Aとロアリンクロア105Bが堅固に固定されていることから、ボルトB2の回転にともなうロアリンクロア105Bの連れ回りは生じない。したがって、ロアリンクアッパ105Aとロアリンクロア105Bとのずれは、一定方向のものになる。
【0025】
図5は、本発明の一実施の形態に係る締結構造体の製造方法及びエンジンの製造方法を示す工程図である。本実施形態では、ロアリンク105の挿通孔111の真円度乃至円筒度の精度を確保するために、ステップS1にて、一対のロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105BをボルトB1,B2で正規に締め付け、この状態で、ステップS2にて挿通孔111の機械加工を行う。ステップS1のボルトB1,B2による締結は、先にボルトB1による締め付けを完了したのち、ボルトB2による締め付けを完了するといった順序で行う。
【0026】
図7は、ステップ1のボルトの締付工程で使用される自動締付装置3の全体を示す斜視図、図8は、ワークのテーブル部分を拡大して示す斜視図、図9は、自動締付装置3の側面図、図10は、自動締付装置3のクランパ33の対峙位置を示す平面図、図11は、ステップ2の挿通孔111の機械加工を行う研削装置4を示す断面図である。
【0027】
図7図10に示す自動締付装置3は、2つのワークに対して同時にボルトを締め付けて締結構造体とする、いわゆる2個取りの装置である。本実施形態の自動締付装置3は、ワークとしてのロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bをセットするテーブル31と、ロアリンク105にボルトを締め付ける4つのナットランナ32と、ワークとしてのロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bの回転を固定するためのクランパ33とを備える。
【0028】
図8に拡大して示すように、ロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bは、互いの接合面Saが合わされた状態でテーブル31に載置され、テーブル31に設けられた一対のクランプ311,311により、テーブル31の面に平行な面内における位置が固定される。また、図9に示すように、テーブル31の上部に設けられたクランパ33のクランプピン331が、シリンダ332により下降し、テーブル31に載置されたロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bの側面に対し、接することなく所定の間隔Gを介して対峙する。このクランパ33のクランプピン331は、シリンダ332の先端に6つ設けられ、図10に示すように、ロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bのそれぞれの側面に対して3箇所ずつ対峙する。ボルトを締め付ける際にその反力がナットランナ32に作用するが、クランプピン331をロアリンク105の側面に接触させると、反力が大きくなった場合にその逃げがなくなり、ナットランナ32のベースに設けられたリニアガイド321が外れるおそれがあるからである。
【0029】
ナットランナ32は、リニアガイド321に設けられて前進及び後退移動が可能とされ、シリンダ322により前進及び後退駆動が制御される。また、図示しないモータにより主軸が時計方向又は反時計方向に回転し、これによりボルトを時計方向に回転させて締め付けを行うとともに、反時計方向に回転させてボルトを弛める。
【0030】
図5に戻り、以上の自動締付装置3を用い、ステップ1のボルトの締付工程でロアリンク105を組み立てる場合には、まずロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bを自動締付装置3に搬入し、これらロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bを、互いの接合面Saを合わせた状態でテーブル31に載置し、テーブル31に設けられた一対のクランプ311,311により、テーブル31上に固定する。また、クランパ33のシリンダ332を作動してクランプピン331を下降し、クランプピン331の先端を、間隔Gだけ確保した状態でロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bの側面に対峙させる。
【0031】
次いで、互いに対向する一対のナットランナ32,32のうちの一方、たとえば図10に示すロアリンクアッパ105Aからロアリンクロア105Bに向かってボルトB1を締め付けるナットランナ32を前進させ、所定の締付トルクが検出されるまでボルトB1を締め付ける。このボルトB1の締付が完了したら、他方のナットランナ32を前進させ、図10に示すロアリンクロア105Bからロアリンクアッパ105Aに向かってボルトB2を締め付け、所定の締付トルクが検出されたら締付を完了する。以上により、ロアリンクアッパ105Aとロアリンクロア105Bが2つのボルトB1,B2で正規に締め付けられたロアリンク105が得られる。
【0032】
正規に締め付けられたロアリンク105は、図5のステップS2にて挿通孔111を機械加工するために、図11に示す研削装置4に搬送される。研削装置4は、工具である砥石42が先端に装着され、図示しないモータにより回転する回転軸41を備える。ワークとしてのロアリンク105は、工具台のチャックに装着されて砥石42とは反対方向に回転する。そして、研削装置4の砥石42を挿通孔111に挿入し、砥石42とロアリンク105とを反対方向に回転させる。これとともに、砥石42とロアリンク105とを挿通孔111の軸方向に対しても移動させながら、所定の径が得られるまで挿通孔111を研削加工する。
【0033】
図5のステップS2の機械加工が完了したら、続くステップS3にてボルトB1,B2を弛め、挿通孔111が加工されたロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bを一旦分解する。これをエンジンEの組立工程に搬送する。続くステップS4では、分解されたロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bのそれぞれに、半円形状のメタルベアリングシートM,Mを介装し、またダウエルピン1053を挿入し、クランクピン107を挟み込みながらロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bの接合面Sa,Saを互いに接合する。
【0034】
そして、この状態で、図12に示すように、一方のボルトB1をロアリンクアッパ105Aに形成された通孔1051に通し、ロアリンクロア105Bに形成されたネジ孔1052に締め付け、所定のトルクが検出されたら締付を完了する。次いで、他方のボルトB2をロアリンクロア105Bに形成された通孔1051に通し、ロアリンクアッパ105Aに形成されたネジ孔1052に締め付け、所定のトルクが検出されたら締付を完了する。これにより、ロアリンク105は、クランクピン107に装着される。このステップS4のエンジンEの組立工程における2つのボルトB1,B2の締め付け順序は、ステップS1の締め付け順序と同じである。
【0035】
なお、ステップS1及びS4における2つのボルトB1,B2の締付工程は、一方のボルトB1の締め付けを完了したのち、他方のボルトB2の締め付けを完了したが、それぞれの締付工程を幾つかのステップに分割してもよい。図6は、本発明の他の実施の形態に係る締結構造体の製造方法及びエンジンの製造方法を示す工程図である。図6に示す締付工程は、ボルトがネジ孔に接地するまで、スナッグトルクより小さいトルクで締め付ける着座締付ステップS12,S13と、ボルトをネジ孔に馴染ませるためにスナッグトルクに達するまで締め付ける仮締めステップS14,S15と、ボルトをたとえば180°逆回転させて弛め、一旦トルクを解放するトルク解放ステップS16と、再びスナッグトルクに達するまで締め付けるスナッグ締めステップS17,S18と、ボルトの塑性域まで締め付けるトルク締めステップS19,S20とに分割されている。
【0036】
そして、ステップS11にてロアリンクアッパ105Aの着座締付を行ったのち、ステップS12にてロアリンクロア105Bの着座締付を行い、同様にステップS13にてロアリンクアッパ105Aの仮締めを行ったのち、ステップS14にてロアリンクロア105Bの仮締めを行う。続くステップ16にてロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bのトルク解放を同時に行ったのち、ステップS17にてロアリンクアッパ105Aのスナッグ締めを行ったのち、ステップS18にてロアリンクロア105Bのスナッグ締めを行い、同様にステップS19にてロアリンクアッパ105Aのトルク締めを行ったのち、ステップS20にてロアリンクロア105Bのトルク締めを行う。
【0037】
以上のステップS11~S20が、図5のボルトの締付工程S1の他の実施形態であるが、当該他の実施形態では、図5のエンジン組立工程のボルト締付工程S4においても、図6に示すステップS11~S20のステップを実行する。
【0038】
以上のとおり、本実施形態の締結構造体の製造方法及びエンジンの製造方法によれば、図5の挿通孔111の機械加工を行う工程S2の前の工程S1において、ロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bの、互いの接合面Saを合わせ、この状態で、先に一方のボルトB1による締め付けを完了したのち、他方のボルトB2による締め付けを完了するといった順序で行う。これにより、ロアリンクアッパ105Aとロアリンクロア105Bとにずれが生じたとしても、そのずれは一定方向のものになることから、ロアリンク105の形状のバラツキを抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態の締結構造体の製造方法及びエンジンの製造方法によれば、図5の挿通孔111の機械加工を行う工程S2の後の工程S4において、ロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bの、互いの接合面Saを合わせ、この状態で、先に一方のボルトB1による締め付けを完了したのち、他方のボルトB2による締め付けを完了するといった順序で行う。すなわち、工程S1における締め付け順序と同じ締め付け順序でボルトB1,B2を締め付けるので、挿通孔111を機械加工した際のロアリンク105の形状が再現される。その結果、挿通孔111の真円度乃至円筒度が再現されることになる。
【0040】
また、本実施形態の締結構造体の製造方法及びエンジンの製造方法によれば、図6に示すように、ボルトの締付工程を複数のステップに分割して行うので、ロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bのずれの発生自体を抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態の締結構造体の製造方法及びエンジンの製造方法によれば、図7図10に示す自動締付装置3を用いてボルトを締め付ける際に、クランパ33のクランプピン331が、ロアリンクアッパ105A及びロアリンクロア105Bの側面に対し、接することなく所定の間隔Gを介して対峙するので、ナットランナ32のベースに設けられたリニアガイドの故障などを抑制することができる。
【符号の説明】
【0042】
E…可変圧縮比エンジン
101…気筒
102…ピストン
103…ピストンピン
104…アッパリンク
105…ロアリンク
105A…ロアリンクアッパ
105B…ロアリンクロア
1051…通孔
1052…ネジ孔
106…クランクシャフト
107…クランクピン
108…コントロールリンク
109…コントロールシャフト
110…マルチリンク機構(圧縮比可変機構)
111…挿通孔
112…ジャーナル
113…カウンターウェイト
114…偏心軸(揺動軸)
115…シリンダブロック
116…第1ブッシュ
117…第2ブッシュ
P1…アッパピン
P2…コントロールピン
B1,B2,B…ボルト
2…コネクティングロッド
21…挿通孔
3…自動締付装置3
31…テーブル
311…クランプ
32…ナットランナ
33…クランパ
331…クランプピン
332…シリンダ
G…間隔
4…研削装置
41…回転軸
42…砥石
図1
図2
図3
図4
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図12