(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/08 20060101AFI20241106BHJP
F02F 11/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
F16J15/08 F
F16J15/08 A
F02F11/00 F
(21)【出願番号】P 2021084492
(22)【出願日】2021-05-19
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 圭右
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-038088(JP,A)
【文献】特開2020-034035(JP,A)
【文献】特開平06-337069(JP,A)
【文献】特開2012-007645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/08
F02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドとシリンダブロックとに挟持され、孔軸方向に延在している燃焼室孔を前記シリンダブロックとともに有するガスケットであって、
前記シリンダヘッドに当接し、略一定の板厚を有する第1板部と、
前記シリンダブロックに当接し、略一定の板厚を有する第2板部と、
前記第1板部と前記第2板部との間に挟まれており、略一定の板厚を有する中間板部と、
前記第1板部と前記中間板部との間に挟まれ、かつ、前記燃焼室孔の周縁の全周に亘って配置されたシムとを備え、
前記シムは、前記燃焼室孔の前記周縁から離れるにしたがって前記孔軸方向の厚みが厚くなる徐変部
と、
ラウンドエッジ部とを含
み、
前記ラウンドエッジ部は、前記シムにおける前記燃焼室孔の前記周縁側とは反対側の端に設けられており、
前記徐変部および前記ラウンドエッジ部の各々の前記シリンダヘッド側の面は、滑らかに連続している、ガスケット。
【請求項2】
シリンダヘッドとシリンダブロックとに挟持され、孔軸方向に延在している燃焼室孔を前記シリンダブロックとともに有するガスケットであって、
前記シリンダヘッドに当接している第1板部と、
前記シリンダブロックに当接し、略一定の板厚を有する第2板部と、
前記第1板部と前記第2板部との間に挟まれており、略一定の板厚を有する中間板部と、
前記第1板部と前記中間板部との間に挟まれ、かつ、前記燃焼室孔の周縁の全周に亘って配置されており、略一定の板厚を有するシムとを備え、
前記第1板部は、前記燃焼室孔の前記周縁から離れるにしたがって前記孔軸方向の厚みが厚くなる徐変部を含む、ガスケット。
【請求項3】
前記徐変部の前記シリンダヘッド側の面は、前記燃焼室孔の周方向から見て、直線的に傾斜している、請求項1または請求項2に記載のガスケット。
【請求項4】
前記徐変部の前記シリンダヘッド側の面は、前記燃焼室孔の周方向から見て、曲線的に傾斜している、請求項1または請求項2に記載のガスケット。
【請求項5】
前記徐変部の前記シリンダブロック側の面は、前記中間板部に面接触可能な平坦状であり、
前記徐変部の前記シリンダヘッド側の面は、前記燃焼室孔の周方向から見て、前記徐変部の前記シリンダブロック側の面に対して傾斜している、請求項1に記載のガスケット。
【請求項6】
前記中間板部は、前記シムと当接する部分において、前記シリンダブロック側に変位している、請求項1に記載のガスケット。
【請求項7】
前記徐変部の前記シリンダブロック側の面は、前記シムに面接触可能な平坦状であり、
前記徐変部の前記シリンダヘッド側の面は、前記燃焼室孔の周方向から見て、前記徐変部の前記シリンダブロック側の面に対して傾斜している、請求項2に記載のガスケット。
【請求項8】
前記中間板部は、前記シムと当接する部分において、前記シリンダブロック側に変位している、請求項2に記載のガスケット。
【請求項9】
前記第1板部は、ラウンドエッジ部をさらに含み、
前記ラウンドエッジ部は、前記第1板部
の前記徐変部における前記燃焼室孔の前記周縁側とは反対側の端に設けられている、請求項2に記載のガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスケットを開示した先行文献として、特開2001-295930号公報(特許文献1)がある。特許文献1に記載されたガスケットは、プレートと、シムとを備える。プレートには、燃焼室孔が穿設されている。シムは、燃焼室孔を囲んでプレートの縁部に固定されている。シムの断面は、燃焼室孔を囲む内周側の肉厚が厚く、外周側の肉厚が薄くなるテーパ状となっている。シムとプレートの縁部とにより燃焼室孔を囲んで局所的に面圧が高くなる1次シール部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンの高出力化に伴って燃焼室孔内のガスが過圧縮される場合、シリンダヘッドの燃焼室孔に隣接した部分が燃焼室孔側に突出するように熱膨張する。ガスケットのシムが設けられた燃焼室孔の周囲において、シリンダヘッドの熱膨張によりガスケットが押圧され、シリンダヘッドとガスケットとの接触面圧が過剰に増加してシリンダヘッドに圧痕が形成された場合、シリンダヘッドとガスケットとの密着性が維持できずにガスケットのシール性が低下する可能性がある。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、シリンダヘッドとガスケットとの接触面圧の過剰な増加によるシール性の低下を抑制することができる、ガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の局面に基づくガスケットは、シリンダヘッドとシリンダブロックとに挟持され、孔軸方向に延在している燃焼室孔をシリンダブロックとともに有する。ガスケットは、第1板部と、第2板部と、中間板部と、シムとを備える。第1板部は、シリンダヘッドに当接し、略一定の板厚を有する。第2板部は、シリンダブロックに当接し、略一定の板厚を有する。中間板部は、第1板部と第2板部との間に挟まれており、略一定の板厚を有する。シムは、第1板部と中間板部との間に挟まれ、かつ、燃焼室孔の周縁の全周に亘って配置される。シムは、徐変部を含む。徐変部は、燃焼室孔の周縁から離れるにしたがって上記孔軸方向の厚みが厚くなる。
【0007】
本発明の第2の局面に基づくガスケットは、シリンダヘッドとシリンダブロックとに挟持され、孔軸方向に延在している燃焼室孔をシリンダブロックとともに有する。ガスケットは、第1板部と、第2板部と、中間板部と、シムとを備える。第1板部は、シリンダヘッドに当接している。第2板部は、シリンダブロックに当接し、略一定の板厚を有する。中間板部は、第1板部と第2板部との間に挟まれており、略一定の板厚を有する。シムは、第1板部と中間板部との間に挟まれ、かつ、燃焼室孔の周縁の全周に亘って配置されており、略一定の板厚を有する。第1板部は、徐変部を含む。徐変部は、燃焼室孔の周縁から離れるにしたがって上記孔軸方向の厚みが厚くなる。
【0008】
本発明の一形態においては、徐変部のシリンダヘッド側の面は、燃焼室孔の周方向から見て、直線的に傾斜している。
【0009】
本発明の一形態においては、徐変部のシリンダヘッド側の面は、燃焼室孔の周方向から見て、曲線的に傾斜している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリンダヘッドとガスケットとの接触面圧の過剰な増加によるガスケットのシール性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るガスケットの構成を示す上面図である。
【
図2】
図1のガスケットをII-II線矢印方向から見た断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係るガスケットが備えるシムの構成を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態1に係るガスケットにおいてシリンダヘッドが熱膨張した状態を示す断面図である。
【
図5】比較例に係るガスケットの構成を示す断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態1および比較例における燃焼室孔の周縁からの距離に対するガスケットがシリンダヘッドに及ぼす面圧の変化を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施の形態1および比較例における燃焼室孔の周縁からの距離に対するシリンダヘッドの圧痕量を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態1の第1変形例に係るガスケットが備えるシムの構成を示す断面図である。
【
図9】本発明の実施の形態1の第2変形例に係るガスケットが備えるシムの構成を示す断面図である。
【
図10】本発明の実施の形態1の第3変形例に係るガスケットが備えるシムの構成を示す断面図である。
【
図11】本発明の実施の形態2に係るガスケットの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施の形態に係るガスケットについて図面を参照して説明する。以下の実施の形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。なお、図面においては、燃焼室孔の孔軸方向に直交し、かつ、複数の燃焼室孔が並ぶ方向をX軸方向、燃焼室孔の孔軸方向に直交し、かつ、複数の燃焼室孔が並ぶ方向に直交する方向をY軸方向、燃焼室孔の孔軸方向をZ軸方向とする。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るガスケットの構成を示す上面図である。
図2は、
図1のガスケットをII-II線矢印方向から見た断面図である。なお、
図2においては、ガスケットの配置関係の理解を容易にするためシリンダヘッドおよびシリンダブロックを図示している。
【0014】
図1および
図2に示すように、本発明の実施の形態1に係るガスケット3は、車両用エンジンを構成する部材である。
図2に示すように、ガスケット3は、シリンダヘッド1とシリンダブロック2とに挟持されている。
【0015】
シリンダヘッド1は、ガスケット3を間に挟んでシリンダブロック2に固定されている。シリンダヘッド1は、たとえば、アルミニウムによって構成されている。
【0016】
シリンダブロック2には、燃焼室孔20が設けられている。燃焼室孔20は、孔軸方向(Z軸方向)に延在している。シリンダブロック2には、図示しない4つの燃焼室孔がX軸方向に並んで配置されている。シリンダブロック2は、たとえば、アルミニウムまたは鋳鉄によって構成されている。
【0017】
図1に示すように、ガスケット3は、孔軸方向(Z軸方向)に延在している燃焼室孔30をシリンダブロック2とともに有する。本実施の形態においては、ガスケット3には、4つの燃焼室孔30がX軸方向に並んで配置されている。
【0018】
ガスケット3には、貫通孔31が設けられている。貫通孔31は、貫通孔31にボルトを挿通させてシリンダヘッド1とシリンダブロック2とを固定する、および、冷却液を通流させて燃焼室孔30の周囲を冷却する、などのいずれかの目的のために、複数設けられている。
【0019】
図1および
図2に示すように、本発明の実施の形態1に係るガスケット3は、第1板部100と、第2板部110と、中間板部120と、シム130とを備える。
【0020】
図2に示すように、第1板部100は、シリンダヘッド1側に設けられる板状部材である。第1板部100は、たとえば、ステンレス鋼によって構成されている。
【0021】
第1板部100は、燃焼室孔30の周りを囲むようにシリンダブロック2側に突出した凸部101を有している。凸部101は、燃焼室孔30の周縁30eから離間した位置に設けられている。
【0022】
第1板部100は、シリンダヘッド1に当接している。具体的には、第1板部100は、凸部101以外の部分のシリンダヘッド1側の面がシリンダヘッド1に当接している。
【0023】
第1板部100は、シリンダブロック2側において中間板部120およびシム130に当接している。具体的には、第1板部100において、凸部101のシリンダブロック2側の面が中間板部120に当接し、燃焼室孔30の周縁30e寄りの部分のシリンダブロック2側の面がシム130に当接している。
【0024】
第1板部100は、略一定の板厚を有している。なお、本実施の形態の板厚に関する「略一定」とは、後述する徐変部の板厚の変化と比較して微小な加工公差による板厚のばらつきを含む意味である。
【0025】
第2板部110は、シリンダブロック2側に設けられる板状部材である。第2板部110は、たとえば、ステンレス鋼によって構成されている。
【0026】
第2板部110は、燃焼室孔30の周りを囲むようにシリンダヘッド1側に突出した凸部111を有している。凸部111は、燃焼室孔30の周縁30eから離間した位置に設けられている。
【0027】
第2板部110は、シリンダブロック2に当接している。具体的には、第2板部110は、凸部111以外の部分のシリンダブロック2側の面がシリンダブロック2に当接している。
【0028】
第2板部110は、シリンダヘッド1側において中間板部120に当接している。具体的には、凸部111のシリンダヘッド1側の面が中間板部120に当接している。
【0029】
第2板部110は、略一定の板厚を有している。本実施の形態における第2板部110は、第1板部100と略同じ板厚を有している。
【0030】
中間板部120は、第1板部100と第2板部110との間に挟まれている板状部材である。中間板部120は、たとえば、ステンレス鋼によって構成されている。
【0031】
中間板部120は、シム130と当接する部分において、シリンダブロック2側に変位している。これにより、燃焼室孔30の周縁30e寄りの部分において、Z軸方向における、第2板部110と中間板部120との間の隙間に対して、第1板部100と中間板部120との間の隙間が大きくなっている。
【0032】
中間板部120は、略一定の板厚を有している。本実施の形態における中間板部120は、第1板部100および第2板部110の各々と比較して厚い板厚を有している。
【0033】
図1および
図2に示すように、シム130は、円環形状を有する板状部材である。シム130は、たとえば、ステンレス鋼によって構成されている。シム130は、燃焼室孔30の周縁30eの全周に亘って配置されている。
【0034】
シム130は、第1板部100と中間板部120との間に挟まれている。これにより、シム130とシリンダヘッド1との間に、第1板部100を介在させることができる。このようにシム130が配置されることによってガスケット3とシリンダヘッド1との接触面圧を高めつつ、局所的に接触面圧が増加することを抑制することができる。仮に、第2板部110と中間板部120との間にシム130が挟まれている場合には、ガスケット3とシリンダヘッド1との接触面圧を高める効果が得られにくい。
【0035】
図3は、本発明の実施の形態1に係るガスケットが備えるシムの構成を示す断面図である。
図2および
図3に示すように、シム130は、燃焼室孔30の周縁30eから離れるにしたがって孔軸方向(Z軸方向)の厚みが厚くなる徐変部131を含んでいる。具体的には、徐変部131は、周縁30e側の端部において厚みt1を有し、周縁30eとは反対側の端部において厚みt2を有している。徐変部131の厚みは、周縁30eから離れるにしたがって、厚みt1から厚みt2まで徐々に厚くなっている。徐変部131は、燃焼室孔30に隣接している。
【0036】
徐変部131は、燃焼室孔30の周縁30eの全周に亘って設けられている。シム130は、円環形状を有しているため、後述するように第1板部に徐変部を形成する場合と比較して、プレス加工などによってシム130に徐変部131を容易に形成することができる。
【0037】
徐変部131のシリンダブロック2側の面は、平坦状である。これにより、シム130は、中間板部120に面接触している。
【0038】
徐変部131のシリンダヘッド1側の面は、燃焼室孔30の周方向から見て、徐変部131のシリンダブロック2側の面に対して直線的に傾斜している。シリンダヘッド1の燃焼室孔30に隣接した部分がガスケット3側に突出するように熱膨張していない状態においては、周縁30e寄りの部分における第1板部100とシム130との間にはZ軸方向に隙間があいている。
【0039】
シム130は、ラウンドエッジ部132をさらに含んでいる。ラウンドエッジ部132は、シム130の周縁30e側とは反対側の端に設けられている。本実施の形態において、徐変部131およびラウンドエッジ部132の各々のシリンダヘッド1側の面は、滑らかに連続している。第1板部100とシム130とが当接する際、ラウンドエッジ部132によって接触面圧が分散されるため、第1板部100とシム130との接触面圧が局所的に増加することを抑制することができる。その結果、ラウンドエッジ部132周辺におけるガスケット3とシリンダヘッド1との接触面圧が局所的に増加することを抑制することができる。
【0040】
なお、本実施の形態におけるシム130は、燃焼室孔30の周方向から見て、Z軸方向の板厚が徐変した台形形状を有しているが、この構成に限定されない。具体的には、シム130は、燃焼室孔30の周方向から見て、板厚が略一定の部分と徐変部131とを含んでいてもよい。
【0041】
図2に示すように、本実施の形態におけるガスケット3は、第1シール領域SR1と、第2シール領域SR2とを含む。
【0042】
第1シール領域SR1は、第1板部100、第2板部110、中間板部120およびシム130がZ軸方向に積層されている領域である。第1シール領域SR1は、燃焼室孔30に隣接している。
【0043】
第2シール領域SR2は、第1板部100、第2板部110および中間板部120がZ軸方向に積層されている領域である。第2シール領域SR2は、燃焼室孔30から見て第1シール領域SR1の外周に位置している。
【0044】
第1シール領域SR1においては、第1板部100、第2板部110および中間板部120の各々に加えてシム130が配置されることにより、シリンダヘッド1およびシリンダブロック2の各々とガスケット3との接触面圧が、第2シール領域SR2における当該接触面圧より増加する。
【0045】
図4は、本発明の実施の形態1に係るガスケットにおいてシリンダヘッドが熱膨張した状態を示す断面図である。
【0046】
シリンダヘッド1は、燃焼室孔30内における燃料ガスの燃焼によって高温になり、熱膨張する。これにより、シリンダヘッド1は、燃焼室孔30に隣接する部分において燃焼室孔30側に突出するように変形する。すなわち、
図4に示すように、シリンダヘッド1は、
図4中の矢印方向に熱膨張して変形する。
【0047】
シリンダヘッド1の熱膨張による変形に伴って、第1板部100が変形する。具体的には、第1板部100の周縁30e寄りの部分がシリンダブロック2側へ変形する。第1板部100の変形によって、周縁30e寄りの部分における第1板部100とシム130との間の隙間がなくなる。このように、ガスケット3は、シリンダヘッド1の熱膨張による変形に追従して変形可能に構成されている。
【0048】
ここで、シムの板厚が略一定である場合の比較例に係るガスケットについて説明する。なお、本比較例に係るガスケットにおいて、本発明の実施の形態1のガスケット3と同様である構成については説明を繰り返さない。
【0049】
図5は、比較例に係るガスケットの構成を示す断面図である。
図5に示すように、比較例に係るガスケット9には、燃焼室孔90が設けられている。ガスケット9は、第1板部900と、第2板部910と、中間板部920と、シム930とを備える。シム930は、略一定の板厚を有している。
【0050】
燃焼室孔90内のガスが過圧縮されることによって、シリンダヘッド1が熱膨張して燃焼室孔90側に変形する場合、シリンダヘッド1とガスケット9の燃焼室孔90の周縁90eの近傍との接触面圧が局所的に増加する。この局所的に増加した接触面圧が閾値を超えた場合、シリンダヘッド1に圧痕が形成される。
【0051】
図6は、本発明の実施の形態1および比較例における燃焼室孔の周縁からの距離に対するガスケットとシリンダヘッドとの接触面圧の変化を示すグラフである。
図6においては、縦軸にガスケットとシリンダヘッドとの接触面圧(MPa)を示し、横軸に燃焼室孔の周縁からの距離(mm)を示している。
【0052】
図7は、本発明の実施の形態1および比較例における燃焼室孔の周縁からの距離とシリンダヘッドに形成された圧痕の深さとの関係を示すグラフである。
図7においては、縦軸にシリンダヘッド1に形成されたZ軸方向の圧痕の深さ(μm)を示し、横軸に燃焼室孔の周縁からの距離(mm)を示している。
【0053】
上記のように、シリンダヘッド1とガスケットとの接触面圧が閾値を超えると、シリンダヘッド1に圧痕が形成される。
図6に示すように、シリンダヘッド1に圧痕が形成される接触面圧の閾値である圧痕発生面圧は、P
iである。
【0054】
比較例に係るガスケット9においては、シム930が略一定の板厚を有しているため、第1シール領域SR1の全域および第2シール領域SR2の第1シール領域SR1に隣接している部分において、シリンダヘッド1とガスケット9との接触面圧が圧痕発生面圧Piを超えている。
【0055】
図7に示すように、比較例に係るシリンダヘッド1には、圧痕発生面圧P
iを超える接触面圧によって、第1シール領域SR1の全域および第2シール領域SR2の第1シール領域SR1に隣接している部分において圧痕が形成される。圧痕は、燃焼室孔90の周縁90eの近傍が最も深く、燃焼室孔90の周縁90eの近傍から離れるにしたがって浅くなる。シリンダヘッド1に圧痕が形成されると、シリンダヘッド1とガスケット9との密着性が維持できずにガスケット9のシール性が低下する。
【0056】
一方、
図2、
図4および
図6に示すように、本実施の形態におけるガスケット3においては、シム130が徐変部131を含んでおり、ガスケット3は、シリンダヘッド1の熱膨張による変形に追従して変形可能に構成されているため、シリンダヘッド1とガスケット3の燃焼室孔30の周縁30eの近傍との接触面圧が局所的に増加することを抑制することができる。その結果、第1シール領域SR1の全域および第2シール領域SR2の全域において、シリンダヘッド1とガスケット3との接触面圧が圧痕発生面圧P
i以下となる。
【0057】
図7に示すように、シリンダヘッド1とガスケット3との接触面圧が圧痕発生面圧P
i以下に維持されることにより、シリンダヘッド1には、圧痕は形成されない。その結果、シリンダヘッド1とガスケット3との密着性を維持して、ガスケット3のシール性を維持することができる。
【0058】
本発明の実施の形態1に係るガスケット3においては、シム130が、燃焼室孔30の周縁30eから離れるにしたがって厚くなっている徐変部131を含むことによって、シリンダヘッド1とガスケット3との接触面圧の過剰な増加を抑制することができる。ひいては、シリンダヘッド1に圧痕が形成されることを抑制できるため、ガスケット3のシール性を維持することができる。
【0059】
本発明の実施の形態1に係るガスケット3においては、徐変部131のシリンダヘッド1側の面が燃焼室孔30の周方向から見て直線的に傾斜していることによって、シム130を簡易な構造にできるため、ガスケット3を廉価に製造することができる。
【0060】
以下、本発明の実施の形態1の変形例に係るガスケットについて説明する。以下の変形例に係るガスケットは、シムの構成が本発明の実施の形態1に係るガスケット3と異なるため、本発明の実施の形態1に係るガスケット3と同様である構成については説明を繰り返さない。
【0061】
図8は、本発明の実施の形態1の第1変形例に係るガスケットが備えるシムの構成を示す断面図である。
図8に示すように、本発明の実施の形態1の第1変形例に係るガスケットが備えるシム130Aにおいては、徐変部131Aのシリンダヘッド1側の面は、燃焼室孔30の周方向から見て、曲線的に傾斜している。具体的には、徐変部131Aのシリンダヘッド1側の面は、シリンダヘッド1側に凸状に湾曲しつつ傾斜している。
【0062】
図9は、本発明の実施の形態1の第2変形例に係るガスケットが備えるシムの構成を示す断面図である。
図9に示すように、本発明の実施の形態1の第2変形例に係るガスケットが備えるシム130Bにおいては、徐変部131Bのシリンダヘッド1側の面は、シリンダブロック2側に凸状に湾曲しつつ傾斜している。
【0063】
図10は、本発明の実施の形態1の第3変形例に係るガスケットが備えるシムの構成を示す断面図である。
図10に示すように、本発明の実施の形態1の第3変形例に係るガスケットが備えるシム130Cにおいては、徐変部131Cのシリンダヘッド1側の面は、シリンダヘッド1側に凸状に湾曲する部分とシリンダブロック2側に凸状に湾曲している部分とが接続されて、燃焼室孔の周縁から離れるにしたがって高くなるように傾斜している。
【0064】
本発明の実施の形態1の第1~第3変形例に係るガスケットにおいては、シム130A~130Cの徐変部131A~131Cが、シリンダヘッド1とガスケットとの接触面圧における燃焼室孔の周縁からの分布に対応した形状を有することにより、シリンダヘッド1とガスケットとの接触面圧の局所的な増加をさらに抑制することが可能となる。
【0065】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2に係るガスケットについて説明する。本発明の実施の形態2に係るガスケットは、第1板部およびシムの構成が本発明の実施の形態1に係るガスケット3と異なるため、本発明の実施の形態1に係るガスケット3と同様である構成については説明を繰り返さない。
【0066】
図11は、本発明の実施の形態2に係るガスケットの構成を示す断面図である。
図11に示すように、本発明の実施の形態2に係るガスケット3Aは、第1板部200と、第2板部110と、中間板部120と、シム230とを備える。
【0067】
第1板部200は、燃焼室孔30の周りを囲むようにシリンダブロック2側に突出した凸部201を含んでいる。凸部201は、燃焼室孔30の周縁30eから離間した位置に設けられている。
【0068】
第1板部200は、燃焼室孔30の周縁30eから離れるにしたがって孔軸方向(Z軸方向)の厚みが厚くなる徐変部202を含んでいる。
【0069】
第1板部200は、シリンダヘッド1に当接している。具体的には、第1板部200は、凸部201および徐変部202以外の部分のシリンダヘッド1側の面がシリンダヘッド1に当接している。
【0070】
徐変部202のシリンダブロック2側の面は、平坦状である。これにより、徐変部202は、シム230に面接触している。
【0071】
徐変部202のシリンダヘッド1側の面は、燃焼室孔30の周方向から見て、徐変部202のシリンダブロック2側の面に対して直線的に傾斜している。シリンダヘッド1の燃焼室孔30に隣接した部分がガスケット3A側に突出するように熱膨張していない状態においては、周縁30e寄りの部分におけるシリンダヘッド1と第1板部200との間にはZ軸方向に隙間があいている。なお、徐変部202のシリンダヘッド1側の面は、燃焼室孔30の周方向から見て、徐変部202のシリンダブロック2側の面に対して曲線的に傾斜していてもよい。
【0072】
第1板部200は、ラウンドエッジ部203をさらに含んでいる。ラウンドエッジ部203は、第1板部200において徐変部202の周縁30e側とは反対側の端に隣接して設けられている。
【0073】
シム230は、円環形状を有する板状部材である。具体的には、シム230は、略一定の板厚を有して、燃焼室孔30の周縁30eの全周に亘って配置されている。
【0074】
シリンダヘッド1の熱膨張による変形によって、シリンダヘッド1と第1板部200の徐変部202との隙間がなくなる。本実施の形態に係るガスケット3Aは、シリンダヘッド1の熱膨張による変形の影響を緩和可能に構成されている。その結果、第1シール領域SR1の全域および第2シール領域SR2の全域において、シリンダヘッド1とガスケット3Aとの接触面圧が圧痕発生面圧Pi以下となる。シリンダヘッド1とガスケット3Aとの接触面圧が圧痕発生面圧Pi以下に維持されることにより、シリンダヘッド1には、圧痕は形成されない。
【0075】
本発明の実施の形態2に係るガスケット3Aにおいては、第1板部200が、燃焼室孔30の周縁30eから離れるにしたがって厚くなっている徐変部202を含むことによって、シリンダヘッド1とガスケット3Aとの接触面圧の過剰な増加を抑制することができる。ひいては、シリンダヘッド1に圧痕が形成されることを抑制できるため、ガスケット3Aのシール性を維持することができる。
【0076】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本開示の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるものではない。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。上述した実施の形態の説明において、組み合わせ可能な構成を相互に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 シリンダヘッド、2 シリンダブロック、3,3A,9 ガスケット、20,30,90 燃焼室孔、30e 周縁、31 貫通孔、100,200,900 第1板部、101,111,201 凸部、110,910 第2板部、120,920 中間板部、130,130A,130B,130C,230,930 シム、131,131A,131B,131C,202 徐変部、132,203 ラウンドエッジ部、Pi 圧痕発生面圧、SR1 第1シール領域、SR2 第2シール領域。