(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】シート制御装置、シート制御プログラム、状態推定装置、及び状態推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20241106BHJP
B60W 40/08 20120101ALI20241106BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20241106BHJP
B60W 30/16 20200101ALI20241106BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20241106BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20241106BHJP
B60N 2/06 20060101ALI20241106BHJP
B60N 2/22 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G08G1/16 F
B60W40/08
B60W60/00
B60W30/16
B60W50/14
B60N2/90
B60N2/06
B60N2/22
(21)【出願番号】P 2021093879
(22)【出願日】2021-06-03
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】久米 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】小島 一輝
【審査官】篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087874(JP,A)
【文献】国際公開第2015/011866(WO,A1)
【文献】特開2005-108033(JP,A)
【文献】特開2021-015496(JP,A)
【文献】特開2020-128167(JP,A)
【文献】特開2017-197011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
B60N 2/00 - 2/90
B60W 30/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバの状態を監視するドライバモニタ(29)を搭載する自車両(Am)において用いられ、前記ドライバの着座する運転席(DS)の状態を制御するシート制御装置であって、
前記ドライバによる周辺監視義務のない自律走行制御によって前記自車両が走行しているか否かを把握する制御把握部(82)と、
前記自律走行制御によって前記自車両が走行している場合、前記ドライバモニタの検出範囲に前記ドライバが含まれるように、前記運転席のリクライニングの状態を制御するリクライニング制御部(89)と、を備え、
前記リクライニング制御部は、前記自律走行制御から前記ドライバによる周辺監視義務のある運転支援制御への移行予定が把握された場合、前記移行予定が把握されていない場合よりも、前記リクライニングの状態制御の実施を決定する判定基準を厳しくするシート制御装置。
【請求項2】
前記リクライニング制御部は、前記自律走行制御から前記運転支援制御への
前記移行予定が把握された場合、前記自律走行制御の開始前の状態に前記リクライニングの状態を戻す制御を実施する請求項
1に記載のシート制御装置。
【請求項3】
前記ドライバモニタが前記ドライバを検出できているか否かを把握する監視状態把握部(85)と、
前記ドライバモニタが前記ドライバを検出できていない場合、前記ドライバモニタによる検出の中断を前記ドライバに示す中断報知を実施する報知制御部(88)と、をさらに備え、
前記リクライニング制御部は、前記ドライバモニタが前記ドライバを検出できていない状態が前記中断報知の後も継続した場合に、前記リクライニングの制御を開始する請求項
1又は
2に記載のシート制御装置。
【請求項4】
前記リクライニング制御部は、前記自律走行制御の開始が把握された場合に、前記ドライバモニタによる状態監視が良好となる所定位置に前記ドライバが存在するように、前記リクライニングの状態を制御する請求項1~
3のいずれか一項に記載のシート制御装置。
【請求項5】
ドライバの状態を監視するドライバモニタ(29)を搭載する自車両(Am)において用いられ、前記ドライバの着座する運転席の状態を制御するシート制御プログラムであって、
前記ドライバによる周辺監視義務のない自律走行制御によって前記自車両が走行しているか否かを把握し(S101)、
前記自律走行制御によって前記自車両が走行している場合、前記ドライバモニタの検出範囲に前記ドライバが含まれるように、前記運転席のリクライニングの状態を制御し(S105,S109)、
前記自律走行制御から前記ドライバによる周辺監視義務のある運転支援制御への移行予定が把握された場合、前記移行予定が把握されていない場合よりも、前記リクライニングの状態制御の実施を決定する判定基準を厳しくする(S104)、
ことを含む処理を、少なくとも一つの処理部(11)に実行させるシート制御プログラム。
【請求項6】
ドライバによる周辺監視義務のない自律走行制御によって走行可能な自車両(Am)において用いられ、前記ドライバの状態を推定する状態推定装置であって、
運転席に着座する前記ドライバの頭部を少なくとも含むよう規定された検出範囲を撮影してなるドライバ撮像画像に基づき、前記ドライバ撮像画像に写る前記頭部のかたちに関連する頭情報と、前記ドライバ撮像画像に写る顔のパーツに関連する顔情報とを把握する監視状態把握部(85)と、
前記自律走行制御によって前記自車両が走行する場合、前記頭情報と前記顔情報とを組み合わせて前記ドライバの状態を推定するドライバ状態推定部(86)と、を備え、
前記ドライバ状態推定部は、
前記ドライバによる周辺監視義務のある運転支援制御によって前記自車両が走行している場合と、前記自律走行制御によって前記自車両が走行している場合とで、前記ドライバの状態推定における前記頭情報及び前記顔情報の重みづけを変化させ
、
前記自律走行制御によって前記自車両が走行している場合、前記運転支援制御によって前記自車両が走行している場合よりも、前記ドライバの状態推定における前記頭情報の比重を高める状態推定装置。
【請求項7】
前記ドライバの状態推定が中断した場合に、前記検出範囲に前記頭部が位置するように、前記運転席のリクライニングの状態を制御するリクライニング制御部(89)、をさらに備える請求項
6に記載の状態推定装置。
【請求項8】
ドライバによる周辺監視義務のない自律走行制御によって走行可能な自車両(Am)において用いられ、前記ドライバの状態を推定する状態推定プログラムであって、
運転席に着座する前記ドライバの頭部を少なくとも含むよう規定された検出範囲を撮影してなるドライバ撮像画像に基づき、前記ドライバ撮像画像に写る前記頭部のかたちに関連する頭情報と、前記ドライバ撮像画像に写る顔のパーツに関連する顔情報とを把握し(S32)、
前記自律走行制御によって前記自車両が走行する場合、前記頭情報と前記顔情報とを組み合わせて前記ドライバの状態を推定し(S33)、
前記ドライバによる周辺監視義務のある運転支援制御によって前記自車両が走行している場合と、前記自律走行制御によって前記自車両が走行している場合とで、前記ドライバの状態推定における前記頭情報及び前記顔情報の重みづけを変化さ
せ(S21~S23)、
前記自律走行制御によって前記自車両が走行している場合、前記運転支援制御によって前記自車両が走行している場合よりも、前記ドライバの状態推定における前記頭情報の比重を高める、
ことを含む処理を、少なくとも一つの処理部(11)に実行させる状態推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、シート制御装置、シート制御プログラム、状態推定装置、及び状態推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、全ての運転操作を行うことで、運転者に周辺監視義務のない自動運転を可能にする制御装置が記載されている。この制御装置は、ドライバの状態を監視する乗員監視装置によって撮像された画像及び検出信号に基づき、運転者の状態が異常状態にあるか否かを判定する。制御装置は、自動運転を継続するために困難な異常が発生したと判定した場合、路肩及びパーキングエリア等の退避場所に自車両を停車させる車両制御を実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドライバに周辺監視義務がある場合、ドライバの頭の位置及び顔向き等は、概ね所定の範囲に収まり得る。しかし、ドライバに周辺監視義務がない場合、ドライバは、運転姿勢を崩したり、携帯端末を操作したりする。このように、周辺監視義務がない場合、周辺監視義務がある場合と比較して、ドライバが大きく動いてしまう可能性がある。その結果、ドライバの状態監視の継続が困難となる虞があった。
【0005】
本開示は、周辺監視義務のない自動運転期間において、ドライバの状態監視の中断を抑制可能なシート制御装置、シート制御プログラム、状態推定装置、及び状態推定プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、開示された一つの態様は、ドライバの状態を監視するドライバモニタ(29)を搭載する自車両(Am)において用いられ、ドライバの着座する運転席(DS)の状態を制御するシート制御装置であって、ドライバによる周辺監視義務のない自律走行制御によって自車両が走行しているか否かを把握する制御把握部(82)と、自律走行制御によって自車両が走行している場合、ドライバモニタの検出範囲にドライバが含まれるように、運転席のリクライニングの状態を制御するリクライニング制御部(89)と、を備え、リクライニング制御部は、自律走行制御からドライバによる周辺監視義務のある運転支援制御への移行予定が把握された場合、移行予定が把握されていない場合よりも、リクライニングの状態制御の実施を決定する判定基準を厳しくするシート制御装置とされる。
【0007】
また開示された一つの態様は、ドライバの状態を監視するドライバモニタ(29)を搭載する自車両(Am)において用いられ、ドライバの着座する運転席の状態を制御するシート制御プログラムであって、ドライバによる周辺監視義務のない自律走行制御によって自車両が走行しているか否かを把握し(S101)、自律走行制御によって自車両が走行している場合、ドライバモニタの検出範囲にドライバが含まれるように、運転席のリクライニングの状態を制御し(S105,S109)、自律走行制御からドライバによる周辺監視義務のある運転支援制御への移行予定が把握された場合、移行予定が把握されていない場合よりも、リクライニングの状態制御の実施を決定する判定基準を厳しくする(S104)、ことを含む処理を、少なくとも一つの処理部(11)に実行させるシート制御プログラムとされる。
【0008】
これらの態様では、ドライバモニタの検出範囲にドライバが含まれるように、運転席のリクライニングの状態が制御される。故に、周辺監視の義務から解放されたドライバが運転姿勢を崩そうとしても、ドライバは、リクライニング制御によってドライバモニタの検出範囲に留まり得る。その結果、周辺監視義務のない自動運転期間において、ドライバの状態監視の中断を抑制することが可能になる。
【0009】
上記目的を達成するため、開示された一つの態様は、ドライバによる周辺監視義務のない自律走行制御によって走行可能な自車両(Am)において用いられ、ドライバの状態を推定する状態推定装置であって、運転席に着座するドライバの頭部を少なくとも含むよう規定された検出範囲を撮影してなるドライバ撮像画像に基づき、ドライバ撮像画像に写る頭部のかたちに関連する頭情報と、ドライバ撮像画像に写る顔のパーツに関連する顔情報とを把握する監視状態把握部(85)と、自律走行制御によって自車両が走行する場合、頭情報と顔情報とを組み合わせてドライバの状態を推定するドライバ状態推定部(86)と、を備え、ドライバ状態推定部は、ドライバによる周辺監視義務のある運転支援制御によって自車両が走行している場合と、自律走行制御によって自車両が走行している場合とで、ドライバの状態推定における頭情報及び顔情報の重みづけを変化させ、自律走行制御によって自車両が走行している場合、運転支援制御によって自車両が走行している場合よりも、ドライバの状態推定における頭情報の比重を高める状態推定装置とされる。
【0010】
また開示された一つの態様は、ドライバによる周辺監視義務のない自律走行制御によって走行可能な自車両(Am)において用いられ、ドライバの状態を推定する状態推定プログラムであって、運転席に着座するドライバの頭部を少なくとも含むよう規定された検出範囲を撮影してなるドライバ撮像画像に基づき、ドライバ撮像画像に写る頭部のかたちに関連する頭情報と、ドライバ撮像画像に写る顔のパーツに関連する顔情報とを把握し(S32)、自律走行制御によって自車両が走行する場合、頭情報と顔情報とを組み合わせてドライバの状態を推定し(S33)、ドライバによる周辺監視義務のある運転支援制御によって自車両が走行している場合と、自律走行制御によって自車両が走行している場合とで、ドライバの状態推定における頭情報及び顔情報の重みづけを変化させる(S21~S23)、自律走行制御によって自車両が走行している場合、運転支援制御によって自車両が走行している場合よりも、ドライバの状態推定における頭情報の比重を高める、ことを含む処理を、少なくとも一つの処理部(11)に実行させる状態推定プログラムとされる。
【0011】
これらの態様では、自律走行制御によって走行する場合、頭情報と顔情報とを組み合わせてドライバの状態が推定される。故に、周辺監視の義務から解放されたドライバが携帯端末等の操作のために下を向いていても、把握され難くなった顔情報が頭情報によって補完され得る。その結果、周辺監視義務のない自動運転期間において、ドライバの状態監視の中断を抑制することが可能になる。
【0012】
尚、上記及び特許請求の範囲における括弧内の参照番号は、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、技術的範囲を何ら制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の一実施形態によるHCUを含む車載ネットワークの全体像を示す図である。
【
図3】重みづけ変更処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図4】状態推定処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図5】HCUによって実施される情報提示及びリクライニング制御の一例を示すタイムチャートである。
【
図6】シート制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1及び
図2に示す本開示の一実施形態によるHCU(Human Machine Interface Control Unit)は、車両(以下、自車両Am)において用いられるインターフェース制御装置である。HCU100は、自車両AmのHMI(Human Machine Interface)システム10を、複数の表示デバイス、オーディオ装置24及び操作デバイス26等と共に構成している。HMIシステム10は、自車両Amのドライバ等の乗員による操作を受け付ける入力インターフェース機能と、ドライバへ向けて情報を提示する出力インターフェース機能とを備えている。
【0015】
HCU100は、自車両Amに搭載された車載ネットワーク1の通信バス99に通信可能に接続されている。HCU100は、車載ネットワーク1に設けられた複数のノードのうちの一つである。車載ネットワーク1の通信バス99には、周辺監視センサ30、ロケータ35、走行制御ECU40、運転支援ECU(Electronic Control Unit)50a及び自動運転ECU50b等がノードとして接続されている。さらに、通信バス99には、シートアクチュエータ28及びドライバモニタ29等が接続されている。通信バス99に接続されたこれらのノードは、相互に通信可能である。これら装置及び各ECU等のうちの特定ノード同士は、相互に直接的に電気接続され、通信バス99を介すことなく通信可能であってもよい。
【0016】
周辺監視センサ30は、自車両Amの周辺環境を監視する自律センサである。周辺監視センサ30には、例えばカメラユニット31、ミリ波レーダ32、ライダ33及びソナー34のうちの1つ又は複数が含まれている。周辺監視センサ30は、自車周囲の検出範囲から移動物体及び静止物体を検出可能である。周辺監視センサ30は、自車周囲の物体の検出情報を運転支援ECU50a及び自動運転ECU50b等に提供する。
【0017】
ロケータ35は、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機及び慣性センサ等を含む構成である。ロケータ35は、3次元地図データ及び2次元地図データを格納した地図データベースをさらに有している。ロケータ35は、現在位置周辺の地図データを地図データベースから読み出し、自車両Amの位置情報及び方角情報と共に、ロケータ情報として、運転支援ECU50a及び自動運転ECU50b等に提供する。
【0018】
走行制御ECU40は、マイクロコントローラを主体として含む電子制御装置である。走行制御ECU40は、ブレーキ制御ECU、駆動制御ECU及び操舵制御ECUの機能を少なくとも有している。走行制御ECU40は、ドライバの運転操作に基づく操作指令、運転支援ECU50aの制御指令及び自動運転ECU50bの制御指令のいずれか一つに基づき、各輪のブレーキ力制御、車載動力源の出力制御及び操舵角制御を継続的に実施する。
【0019】
運転支援ECU50a及び自動運転ECU50bは、自車両Amの自動運転システム50を構成している。自動運転システム50の搭載により、自車両Amは、自動運転機能を備えた自動運転車両となり、自動運転機能によって走行可能となる。
【0020】
運転支援ECU50aは、自動運転システム50において、ドライバの運転操作を支援する運転支援機能を実現させる。運転支援ECU50aは、米国自動車技術会の規定する自動運転レベルにおいて、レベル2程度の高度運転支援又は部分的な自動運転を可能にする。運転支援ECU50aによって実施される自動運転は、ドライバの目視による自車周辺の監視が必要な周辺監視義務のある自動運転となる。
【0021】
運転支援ECU50aは、処理部、RAM、記憶部、入出力インターフェース及びこれらを接続するバス等を備えた制御回路を主体として含むコンピュータである。運転支援ECU50aは、処理部でのプログラムの実行により、ACC(Adaptive Cruise Control)、LTC(Lane Trace Control)及びLCA(Lane Change Assist)等の運転支援機能を実現する。一例として、運転支援ECU50aは、ACC及びLTCの各機能の連携により、自車両Amを走行中の自車レーンLnsに沿って走行させる運転支援制御を実施する。
【0022】
自動運転ECU50bは、ドライバの運転操作を代行可能な自律走行機能を実現させる車載ECUである。自動運転ECU50bは、システムが制御主体となるレベル3以上の自律走行を実施可能である。自動運転ECU50bによって実施される自動運転は、自車周囲の監視が不要となる、即ち、周辺監視義務のないアイズオフの自動運転となる。
【0023】
自動運転ECU50bは、処理部51、RAM52、記憶部53、入出力インターフェース54及びこれらを接続するバス等を備えた制御回路を主体として含むコンピュータである。自動運転ECU50bは、運転支援ECU50aよりも高い演算能力を備えており、ACC、LTA及びLCAに相当する走行制御を少なくとも実施できる。自動運転ECU50bは、予め設定された自動運転可能エリア(以下、ADエリア,
図5参照)において、自車周囲の渋滞が把握された場合、渋滞中の走行に限定して実施される自律走行制御(以下、渋滞時レベル3)を実行する。
【0024】
以上の自動運転システム50では、運転支援ECU50aによる周辺監視義務のある運転支援制御と、自動運転ECU50bによる周辺監視義務のない自律走行制御とを少なくとも含む複数のうちで、自動運転機能の走行制御状態が切り替えられる。以下の説明では、運転支援ECU50aによるレベル2以下の自動運転制御を「運転支援制御」と記載し、自動運転ECU50bによるレベル3以上の自動運転制御を「自律走行制御」と記載する。
【0025】
自動運転ECU50bによる自律走行制御によって自車両Amが走行する自動運転期間では、予め規定された運転以外の特定の行為(以下、セカンドタスク)がドライバに許可され得る。セカンドタスクは、自動運転ECU50b及びHCU100が連携して行う運転操作の実施要求、即ち、運転交代の要請が発生するまで、ドライバに法規的に許可される。例えば、動画コンテンツ等のエンターテイメント系のコンテンツの視聴、スマートフォン等のデバイス操作及び食事等の行為が、セカンドタスクとして想定される。
【0026】
シートアクチュエータ28は、運転席DSのシートポジションを調整する駆動装置である。シートアクチュエータ28は、運転席DSの着座面部の位置を前後方向及び左右方向に移動させる機能と、運転席DSの背もたれ部の着座面部に対する角度(以下、リクライニング角度)を変更する機能とを有している。加えて、シートアクチュエータ28は、着座面部の位置及びリクライニング角度をそれぞれ検出するポジションセンサを有している。
【0027】
シートアクチュエータ28は、ドライバによる操作及びHCU100から入力される制御信号に基づき、着座面部の位置及びリクライニング角度を調整する。加えてシートアクチュエータ28は、各ポジションセンサによって検出された着座面部の位置情報及びリクライニングの角度情報を、運転席DSの状態を示すシート情報として、HCU100等に提供する。
【0028】
ドライバモニタ29は、自車両Amに搭載され、自車両Amのドライバの状態を監視する。ドライバモニタ29は、近赤外光源及び近赤外カメラと、これらを制御する制御ユニットとを含む構成である。ドライバモニタ29は、運転席DSの背もたれ部の上側、具体的には、ヘッドレスト部分に近赤外カメラを向けた姿勢にて、例えばステアリングコラム部の上面又はインスツルメントパネルの上面等に設置されている。近赤外カメラは、後述するメータディスプレイ21又はセンターインフォメーションディスプレイ(以下、CID)22等と一体的に構成され、いずれかの画面に設けられている。
【0029】
ドライバモニタ29は、近赤外光源によって近赤外光を照射されたドライバの頭部を、近赤外カメラによって撮影する。近赤外カメラの検出範囲(撮像範囲)は、運転席DSに着座するドライバの頭部を少なくとも含むよう、ヘッドレスト部分を概ね中央とする範囲に予め規定されている。近赤外カメラによる撮像画像(以下、ドライバ撮像画像)は、制御ユニットによって画像処理又は画像解析される。制御ユニットは、ドライバのアイポイントの位置及び視線方向等の情報をドライバ撮像画像から抽出可能であってもよい。ドライバモニタ29は、ドライバ撮像画像、及び当該画像からの抽出情報の少なくとも一方を、ドライバステータス情報として、HCU100及び自動運転ECU50b等に提供する。
【0030】
次に、HMIシステム10に含まれる複数の表示デバイス、操作デバイス26及びHCU100の各詳細を順に説明する。
【0031】
表示デバイスは、画像表示等により、ドライバの視覚を通じて情報を提示する。表示デバイスには、メータディスプレイ21、CID22及びヘッドアップディスプレイ(以下、HUD)23等が含まれている。CID22は、タッチパネルの機能を有しており、ドライバ等による表示画面へのタッチ操作を検出する。オーディオ装置24は、運転席DSを囲む配置にて車室内に設置された複数のスピーカを有しており、報知音又は音声メッセージ等をスピーカによって車室内に再生させる。
【0032】
操作デバイス26は、ドライバ等によるユーザ操作を受け付ける入力部である。操作デバイス26には、例えば自動運転機能の作動及び停止に関連するユーザ操作等が入力される。一例として、運転支援制御から自律走行制御への移行を指示するドライバ入力(以下、レベル3移行操作)が操作デバイス26には入力される。ステアリングホイールのスポーク部に設けられたステアスイッチ、ステアリングコラム部に設けられた操作レバー、及びドライバの発話内容を認識する音声入力装置等が、操作デバイス26に含まれる。
【0033】
HCU100は、複数の表示デバイス及びオーディオ装置24を用いた情報提示を統合的に制御する。加えてHCU100は、シートアクチュエータ28と連携しドライバの着座する運転席DSの状態を制御するシート制御装置の機能と、ドライバモニタ29と連携しドライバの状態を推定する状態推定装置の機能とをさらに備えている。
【0034】
HCU100は、処理部11、RAM12、記憶部13、入出力インターフェース14及びこれらを接続するバス等を備えた制御回路を主体として含む構成である。処理部11は、RAM12と結合された演算処理のためのハードウェアである。処理部11は、CPU(Central Processing Unit)及びGPU(Graphics Processing Unit)等の演算コアを少なくとも一つ含む構成である。処理部11は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、NPU(Neural network Processing Unit)及び他の専用機能を備えたIPコア等をさらに含む構成であってよい。RAM12は、映像データ生成のためのビデオRAMを含む構成であってよい。処理部11は、RAM12へのアクセスにより、提示制御処理のための種々の処理を実行する。記憶部13は、不揮発性の記憶媒体を含む構成である。記憶部13には、処理部11によって実行される種々のプログラム(シート制御プログラム及び状態推定プログラム等)が格納されている。
【0035】
HCU100は、記憶部13に記憶された各プログラムを処理部11によって実行することにより、複数の機能部を構築する。HCU100には、情報取得部81、情報連携部82、ドライバ情報把握部85、ドライバ状態推定部86、提示制御部88及びリクライニング制御部89等の機能部が構築される(
図2参照)。
【0036】
情報取得部81は、自車両Amの状態を示す車両情報(例えば、車速情報等)を通信バス99から取得する。加えて情報取得部81は、ユーザ操作の内容を示す操作情報をCID22及び操作デバイス26等から取得する。
【0037】
情報連携部82は、自動運転ECU50bと連携し、自動運転システム50及びHCU100間での情報の共有を可能にする。情報連携部82は、情報取得部81にて把握される操作情報、及びドライバ状態推定部86にて推定されるドライバ推定情報(後述する)等を、自動運転ECU50bに提供する。
【0038】
情報連携部82は、自動運転機能の状態を示す制御ステータス情報の取得により、自動運転システム50による自動運転の動作状態を把握する。情報連携部82は、制御ステータス情報に基づき、実施中の走行制御が運転支援制御及び自律走行制御のいずれであるか否か、言い替えれば、自動運転機能によって実施される走行制御にドライバによる周辺監視義務があるか否かを把握する。加えて情報連携部82は、運転支援制御によって自車両Amが走行する場合に、運転支援制御から自動走行制御への移行予定を把握し、自律走行制御によって自車両Amが走行する場合に、自律走行制御から運転支援制御への移行予定を把握する。
【0039】
ドライバ情報把握部85は、ドライバ撮像画像及び抽出情報の少なくとも一方を含むドライバステータス情報をドライバモニタ29から取得する。ドライバ情報把握部85は、ドライバステータス情報に基づき、ドライバモニタ29の動作状態を把握する。一例として、ドライバの上体がドライバモニタ29の検出範囲から外れていた場合、ドライバ情報把握部85は、ドライバモニタ29がドライバを検出できているか否か、言い替えれば、ドライバモニタ29におけるドライバ検出の中断を把握する。ドライバ情報把握部85は、ドライバモニタ29によるドライバの検出中断を把握した場合、ドライバ監視の中断を提示制御部88に通知する。
【0040】
ドライバ情報把握部85は、ドライバステータス情報に基づき、ドライバ撮像画像に基づく頭情報及び顔情報を把握する。頭情報は、ドライバ撮像画像に写る頭部のかたちに関連する情報であり、主に頭部の輪郭形状から抽出される情報である。顔情報は、ドライバ撮像画像に写る顔のパーツ(例えば、目,鼻,口等)に関連する情報であり、主に各パーツの位置関係から抽出される情報である。
【0041】
頭情報及び顔情報は、ドライバ情報把握部85及びドライバモニタ29のどちらで生成されてもよい。例えば、ドライバ撮像画像がドライバモニタ29からドライバ情報把握部85に提供される場合、頭情報及び顔情報は、全てドライバ情報把握部85によって準備されてよい。また、頭情報及び顔情報の少なくとも一部が、ドライバモニタ29の制御ユニットによって生成され、ドライバステータス情報としてドライバ情報把握部85に提供されてよい。
【0042】
ドライバ状態推定部86は、ドライバ情報把握部85にて把握された情報に基づき、ドライバの状態及び行動を把握する。ドライバ状態推定部86は、ドライバが自車両Amの周囲を監視しているか否か、運転姿勢が崩れているか否か等を把握する。ドライバ状態推定部86は、自動運転期間にて、ドライバが行うセカンドタスクの内容を把握する。尚、ドライバ状態推定部86は、ステアリングホイールの把持の有無、及びドライバの体調異常等をさらに把握可能であってよい。
【0043】
ドライバ状態推定部86は、情報連携部82及びドライバ情報把握部85と連携し、重みづけ変更処理(
図3)及び状態推定処理(
図4)を実施する。重みづけ変更処理及び状態推定処理は、自車両Amの電源がオン状態となった後、初期処理を完了したHCU100によって開始され、自車両Amの電源がオフ状態となるまで繰り返し実施される。
【0044】
重みづけ変更処理にて、ドライバ状態推定部86は、運転支援制御によって自車両Amが走行している場合と、自律走行制御によって自車両Amが走行している場合とで、ドライバの状態推定における頭情報及び顔情報の重みづけを変化させる。重みづけ変更処理では、制御ステータス情報に基づき、レベル3の自律走行制御が実行中か否かが判定される(S21)。
【0045】
レベル3の自律走行制御が自動運転システム50において実行中である場合(S21:YES)、ドライバ状態推定部86は、レベル3用の設定を選択する(S22)。レベル3用の設定では、頭情報の重みづけが増やされており、レベル2用の設定よりも、ドライバの状態推定における頭情報の比重が高められる。言い替えれば、頭情報がドライバの状態推定に与える影響は、運転支援制御の実行時よりも、自律走行制御の実行時の方が大きくなる。
【0046】
一方、レベル2の運転支援制御が自動運転システム50において実行中である場合(S21:NO)、ドライバ状態推定部86は、レベル2用の設定を選択する(S23)。レベル2用の設定では、頭情報の重みづけが減らされており、レベル3用の設定よりも、ドライバの状態推定における顔情報の比重が高められる。
【0047】
状態推定処理にて、ドライバ状態推定部86は、自律走行制御又は運転支援機能よって自車両Amが走行する期間でのドライバの状態を推定する。ドライバ状態推定部86は、状態推定処理の繰り返しにより、ドライバ状態を把握し続ける。ドライバ状態推定部86は、状態推定処理にて、重みづけ変更処理に基づく頭情報及び顔情報の重みづけの設定を読み込む(S31)。重みづけの設定を読み込むステップは、毎回実施されなくてもよく、所定時間に1回だけ実施されてもよい。
【0048】
ドライバ状態推定部86は、ドライバ情報把握部85と連携し、最新のドライバ撮像画像に基づく顔情報及び頭情報を把握する(S32)。ドライバ状態推定部86は、読み込んだ重みづけの設定を反映した比重で、顔情報と頭情報とを組み合わせて、ドライバの状態を推定する(S33)。具体的に、ドライバ状態推定部86は、ドライバの視線方向、携帯端末を操作中か否か、睡眠中か否か、飲酒しているか否か等を、ドライバの状態として推測する。ドライバ状態推定部86によるドライバ状態の推定結果は、ドライバ推定情報として、提示制御部88及び自動運転ECU50b等に提供される。
【0049】
提示制御部88は、各表示デバイス及びオーディオ装置24を用いたドライバへの情報の提供を統合制御する。提示制御部88は、情報連携部82にて取得される制御ステータス情報と、ドライバ情報把握部85にて取得されるドライバステータス情報等とに基づき、自動運転の動作状態に合わせたコンテンツ提供及び情報提示を実施する(
図5参照)。
【0050】
具体的に、レベル2の運転支援制御にて自車両AmがADエリアを走行中に渋滞の接近が把握された場合、提示制御部88は、HUD23及びメータディスプレイ21等を用いてレベル3接近通知を行う。レベル3接近通知は、レベル3の自動運転(渋滞時レベル3)の使用が可能になりそうなことをドライバに示す通知であり、例えば「前方渋滞中 2ndタスク利用可能」等のメッセージを表示させる。
【0051】
さらに、自車両Amの渋滞期間への進入が把握された場合、提示制御部88は、レベル3可能通知を行う。レベル3可能通知は、レベル3の自律走行制御が使用可能になったことをドライバに示す通知である。レベル3可能通知では、例えば「2ndタスクが利用可能になりました」等のメッセージを表示させる。
【0052】
レベル3可能通知の後、ドライバによるレベル3移行操作の入力が情報取得部81によって把握されると、提示制御部88は、レベル3開始通知を行う。レベル3開始通知は、レベル3の自律走行制御の開始をドライバに示す通知である。レベル3開始通知では、例えば「車両からの情報にご注意ください 周辺の道路状況により自動運転が解除されます」等のメッセージが表示される。加えて、提示制御部88は、自動運転ECU50bによる自律走行制御の実施が情報連携部82によって把握されると、CID22による動画コンテンツ等の再生を可能にする。
【0053】
提示制御部88は、自律走行制御の開始後、ドライバモニタ29がドライバを検出できていない場合、ドライバ情報把握部85から取得するドライバ監視の中断通知に基づき、姿勢改善要求を行う。例えば、運転姿勢の崩れにより、ドライバの頭部の大部分がドライバモニタ29の検出範囲から外れた場合(
図5 フレームアウト参照)、姿勢改善要求が実施される。姿勢改善要求は、ドライバモニタ29による検出の中断をドライバに示す中断報知であり、ドライバモニタ29の検出範囲に頭部が戻るように、運転姿勢の改善をドライバに要求する報知である。姿勢改善要求では、例えば「正しい運転姿勢をとってください」等のメッセージが、CID22に表示されると共に、オーディオ装置24によって車室内に再生される。姿勢改善要求に応じたドライバが運転姿勢を改善し、ドライバの頭部がドライバモニタ29の検出範囲に戻った場合(
図5 フレームイン参照)、提示制御部88は、姿勢改善要求を終了する。
【0054】
渋滞区間の終了等によって自律走行制御の終了が自動運転ECU50bにて予測された場合、提示制御部88は、運転交代要請を行う。運転交代要請は、レベル3の自律走行制御の終了予定、及び運転操作の制御権の引き取りが必要なことをドライバに示す通知である。運転交代要請では、例えば「自動運転が解除されます ハンドルを握ってください」等のメッセージがHUD23及びメータディスプレイ21の少なくとも一方に表示される。さらに、運転交代要請に合わせて、CID22による動画コンテンツの再生が停止される。
【0055】
レベル3の自律走行制御(渋滞時レベル3)が終了されると、提示制御部88は、レベル3終了通知を行う。レベル3終了通知は、自律走行制御から運転支援制御への移行をドライバに示す通知である。レベル3終了通知では、例えば「自動運転解除中」等の自動運転の終了を示すメッセージがHUD23及びメータディスプレイ21の少なくとも一方に表示される。
【0056】
リクライニング制御部89は、リクライニング制御部89から取得するシート情報に基づき、運転席DSの着座面部の位置、及び背もたれ部のリクライニング角度を把握する。加えてリクライニング制御部89は、シートアクチュエータ28へ向けた駆動信号(制御指令)の出力により、運転席DSの着座面部の位置及びリクライニング角度を調整可能である。リクライニング制御部89は、自律走行制御によって自車両Amが走行している自動運転期間にて、ドライバモニタ29の検出範囲にドライバが含まれるように、運転席DSのリクライニングの状態を少なくとも制御する。リクライニング制御部89は、ドライバモニタ29による状態監視が良好となる所定位置にドライバが存在するように、リクライニング角度及び着座面部の位置を調整する。所定位置は、検出範囲の中央付近にドライバの頭部及び顔が位置するようなドライバの位置である。
【0057】
リクライニング制御部89は、自律走行制御の開始が把握されるレベル3開始通知の実施時から、運転交代要請が開始されるまでの期間(
図5 ドット範囲参照)にて、ドライバ監視の中断回避を目的とした運転席DSのリクライニング制御を実施する。リクライニング制御部89は、ドライバモニタ29によるドライバの不検出、又はドライバ状態推定部86によるドライバ状態の推定不可をトリガに、リクライニング制御を開始する。一例として、ドライバの頭部がフレームアウト(
図5参照)となった後、姿勢改善要求によってもドライバの運転姿勢が改善されず、ドライバモニタ29がドライバを検出できていない状態が継続した場合に、リクライニング制御が実施される。
【0058】
リクライニング制御部89は、自律走行制御から運転支援制御への移行予定が把握された場合、運転交代要請(
図5参照)が開始されるタイミングに合わせて、リクライニング制御を実施する。リクライニング制御部89は、一例として、自律走行制御の開始前の状態にリクライニングの状態を戻す制御を実施する。詳記すると、リクライニング制御部89は、運転支援期間における運転席DSの着座面部及び背もたれ部の各ポジションを記憶し、記憶した各ポジションに着座面部の位置及びリクライニング角度を戻す制御を実施する。
【0059】
次に、ここまで説明したリクライニング制御を実現するためのシート制御処理の詳細を、
図6に基づき、
図2及び
図5を参照しつつ、以下説明する。シート制御処理は、例えば運転支援制御での走行開始に基づき、HCU100によって開始される。
【0060】
S101では、情報連携部82が、周辺監視義務のない自律走行制御によって自車両Amが走行しているか否かを把握し、自律走行制御が開始されるか否かを判定する。S101にて、自律走行制御による走行が開始されると判定した場合、S102に進む。
【0061】
S102では、リクライニング制御部89が、シートアクチュエータ28から取得するシート情報に基づき、自律走行制御の開始前におけるリクライニング等の位置を記憶し、S103に進む。尚、リクライニング等の位置を記憶する処理は、レベル3可能通知の実施時から、レベル3開始通知が実施されるまでの期間に実施されてもよい。
【0062】
S103では、情報連携部82が、レベル3での自律走行制御の終了予定の有無を判定する。S103にて、自律走行制御の終了予定があると判定した場合、言い替えれば、レベル2以下の運転支援制御又は手動運転への移行予定があると判定した場合、S104に進む。
【0063】
S104では、ドライバ状態推定部86が、運転姿勢の良否を判定する。S104における運転姿勢の判定条件は、後述するS106の運転姿勢の判定条件よりも厳しくされてよい。S104にて、ドライバの頭部がドライバモニタ29の検出範囲に良好に位置していると判定した場合、シート制御処理は終了となる。一方、ドライバモニタ29の検出範囲からドライバの頭部の大部分が外れているような場合、又はドライバが顔を下方に向けているような場合、不適切な運転姿勢がとられていると判定し、S105に進む。
【0064】
S105では、リクライニング制御部89が、リクライニング制御を実施する。S105では、S102にて記憶した情報を読み出し、レベル3の自律走行制御が開始される前の状態となるように、運転席DSの各ポジションが調整される。リクライニング制御の完了により、シート制御処理は終了となる。
【0065】
一方、S103にて、運転支援制御又は手動運転への移行予定がなく、レベル3の自律走行制御が継続されると判定した場合、S106に進む。S106でも、運転姿勢の良否が判定される。S106では、ドライバ情報把握部85が、ドライバモニタ29によるドライバ監視の継続状態を把握し、ドライバモニタ29の検出範囲からのドライバ頭部のフレームアウトを判定する。S106にて、ドライバの頭部が検出範囲内に位置していると判定した場合、S110に進む。対して、S106にて、ドライバ頭部の大部分が検出範囲から外れていると判定した場合、S107に進む。S107では、提示制御部88が、ドライバモニタ29によるドライバの認識ができていないことを示す姿勢改善要求を開始する。
【0066】
S108では、姿勢改善要求に応じて、ドライバが運転姿勢を改善したか否かを判定する。S108にて、ドライバの運転姿勢が改善され、検出範囲の概ね中央にドライバの頭部が位置していると判定した場合、S110に進む。一方、S108にて、運転姿勢が改善されておらず、ドライバ監視の中断が継続していると判定した場合、S109に進む。
【0067】
S109では、リクライニング制御部89が、ドライバモニタ29の検出範囲にドライバの頭部が含まれるように、運転席DSのリクライニングの状態を制御する。S109でのリクライニング制御は、S105のリクライニング制御と同様に、S102にて記憶した各ポジションに、着座面部の位置及びリクライニング角度を戻す制御であってよい。又は、ドライバ状態推定部86にて把握されるドライバ頭部の位置情報を参照し、検出範囲の中央にドライバ頭部を位置させるリクライニング制御が、リクライニング制御部89によって実施されてもよい。
【0068】
ここで、S109のリクライニング制御によっても、ドライバ監視の中断が継続される場合、自動運転ECU50bは、レベル3の自律走行制御の継続が困難であると判断し、MRM(Minimal Risk Maneuver)制御への移行を開始する。MRM制御は、走行中のレーン内又は走行中の道路の道路脇(路肩)等を退避場所として設定し、退避場所に自車両Amを停車させる自動退避制御である。
【0069】
S110では、情報連携部82がレベル3の自律走行制御が終了されるか否かを判定する。S110にて、自律走行制御が継続されると判定した場合、S103に戻る。一方、S110にて、自律走行制御が終了されると判定した場合、今回のシート制御処理を終了する。
【0070】
ここまで説明した本実施形態では、ドライバモニタ29の検出範囲にドライバが含まれるように、運転席DSのリクライニングの状態が制御される。故に、周辺監視の義務から解放されたドライバが運転姿勢を崩そうとしても、ドライバは、リクライニング制御によってドライバモニタ29の検出範囲に留まり得る。その結果、周辺監視義務のない自動運転期間において、ドライバの状態監視の中断を抑制することが可能になる。
【0071】
以上によれば、運転姿勢が不適切であることに起因し、自律走行制御が強制的に終了され、MRM制御への移行が開始されてしまう事態は、回避され得る。言い替えれば、レベル3の自動運転が継続され易くなる。したがって、本実施形態のリクライニング制御は、自動運転の利便性向上に寄与できる。
【0072】
加えて本実施形態では、自律走行制御の開始が把握された場合に、ドライバモニタ29による状態監視が良好となる所定位置にドライバが存在するように、運転席DSのリクライニングの状態が制御される。以上によれば、レベル3の自動運転の開始後におけるドライバ監視の中断は、いっそう抑制され得る。
【0073】
また本実施形態では、自律走行制御から運転支援制御への移行予定が把握された場合、自律走行制御の開始前の状態にリクライニングの状態を戻すリクライニング制御が実施される。以上によれば、運転交代に際して、ドライバは、自車周囲の周辺監視を円滑に開始することが可能となる。
【0074】
さらに本実施形態では、ドライバモニタ29がドライバを検出できていない状態が姿勢改善要求の実施後も継続した場合に、リクライニング制御部89によるリクライニング制御が開始される。以上によれば、リクライニング制御の唐突な実施により、ドライバに不安及び不快感等を与えてしまうことが回避され得る。
【0075】
加えて本実施形態では、自律走行制御によって自車両Amが走行する場合、頭情報と顔情報とを組み合わせてドライバの状態が推定される。故に、周辺監視の義務から解放されたドライバが携帯端末等の操作のために下を向いていても、把握され難くなった顔情報が頭情報によって補完され得る。その結果、周辺監視義務のない自動運転期間において、ドライバの状態監視の中断を抑制することが可能になる。
【0076】
また本実施形態のドライバ状態推定部86は、周辺監視義務のある運転支援制御によって自車両Amが走行している場合と、自律走行制御によって自車両Amが走行している場合とで、ドライバの状態推定における頭情報及び顔情報の重みづけを変化させる。故に、周辺監視を実施しているドライバの状態と、周辺監視を実施していないドライバの状態とが、それぞれの状態に適した処理で推定され得る。したがって、ドライバ状態の推定精度が向上可能となる。
【0077】
さらに本実施形態では、自律走行制御によって自車両Amが走行している場合、運転支援制御によって自車両Amが走行している場合よりも、ドライバ状態推定における頭情報の比重が高められる。故に、顔情報の抽出が難しくなる自動運転期間においても、ドライバ状態推定の精度が確保され得る。
【0078】
加えて本実施形態では、ドライバの状態推定が中断した場合に、ドライバモニタ29の検出範囲に頭部が位置するように、運転席DSのリクライニングの状態が制御される。以上のように、頭情報による顔情報の補完と、リクライニング制御とが組み合わされることにより、ドライバの状態監視の中断は、いっそう抑制可能となる。
【0079】
尚、上記実施形態では、情報連携部82が「制御把握部」に相当し、ドライバ情報把握部85が「監視状態把握部」に相当し、提示制御部88が「報知制御部」に相当し、HCU100が「シート制御装置」及び「状態推定装置」相当する。また、姿勢改善要求が「中断報知」に相当する。
【0080】
(他の実施形態)
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0081】
上記実施形態のリクライニング制御では、着座面部の位置及びリクライニング角度の両方が調整対象とされていた。対して、上記実施形態の変形例1では、リクライニング角度のみが、リクライニング制御での調整対象とされる。また、リクライニング制御と連携した運転ポジション制御として、ステアリングの位置等が、リクライニング角度と共に調整されてよい。
【0082】
上記実施形態のリクライニング制御では、自律走行制御への移行時に記憶したポジションに運転席DSの状態を戻す調整が実施されていた。対して、上記実施形態の変形例2では、ドライバの頭部が検出範囲から外れないように、着座面部の位置及びリクライニング角度の各調整範囲を制限するリクライニング制御が実施される。
【0083】
上記実施形態の変形例3,4では、レベル3移行時にポジションを記憶する処理が省略される。変形例3では、状態監視が良好となる所定位置にドライバを存在させるような基準状態が予め設定されており、リクライニング制御部89は、基準状態にリクライニング角度等を調整するリクライニング制御を実施する。また、変形例4では、ドライバ撮像画像から抽出される情報を参照し、ドライバの顔位置を検出範囲の中央に位置させるようリクライニング角度等を調整するリクライニング制御が実施される。
【0084】
上記実施形態の変形例5では、姿勢改善要求の実施が省略される。変形例5では、ドライバモニタ29によるドライバ監視の中断をトリガとして、リクライニング制御が直ちに開始される。上記実施形態の変形例6では、姿勢改善要求と並行して、リクライニング制御が実施される。
【0085】
上記実施形態では、運転支援期間におけるドライバの状態推定にも、ドライバの頭情報が用いられていた。一方で、上記実施形態の変形例7では、運転支援期間におけるドライバの状態推定は、ドライバの顔情報のみを用いて実施される。また、自動運転期間におけるドライバの状態推定は、ドライバの頭情報のみを用いて実施される。
【0086】
上記実施形態のHCU100は、自動運転レベル1の運転支援制御時又は手動運転時においても、ドライバの状態推定を実施可能である。ドライバ状態推定部86は、レベル1の運転支援制御時又は手動運転時において、レベル2用の重みづけ設定を選択してもよく、又はレベル2用とは異なる重みづけ設定を選択してもよい。
【0087】
上記実施形態では、レベル3終了予定時における運転姿勢の良否判定(
図6 S104参照)における判定基準は、レベル3継続期間における運転姿勢の良否判定(
図6 S106参照)の判定基準よりも厳しくされていた。しかし、レベル3終了予定時にて用いられる判定基準と、レベル3継続期間にて用いる判定基準は、互い実質同一であってよい。さらに、レベル3継続期間にて用いる判定基準が、レベル3終了予定時にて用いられる判定基準より厳しくされていてもよい。
【0088】
上記実施形態にて、HCU100に実装されていたシート制御装置及び状態推定装置の各機能は、HCU100とは別の車載ECUに実装されていてもよい。例えば、運転支援ECU50a、自動運転ECU50b、又はシートアクチュエータ28の制御ユニット等に、シート制御装置の機能が実装されていてもよい。また、運転支援ECU50a、自動運転ECU50b、又はドライバモニタ29の制御ユニット等に、状態推定装置の機能が実装されていてもよい。さらに、ドライバモニタ29とは別に設けられたデッドマン判定装置に、状態推定装置の機能が実装されていてもよい。
【0089】
自動運転ECU50bは、特定エリア内に限定して実施されるエリア限定制御(以下、エリアレベル3)等、渋滞時レベル3とは異なる走行制御モードの自律走行制御を実施可能であってよい。さらに、自動運転ECU50bは、レベル4以上の自動運転制御を実施可能であってよい。
【0090】
上記実施形態の変形例8では、自動運転ECU50b及びHCU100の各機能が、一つの車載ECUによって提供されている。こうした変形例8では、自動運転ECU50b及びHCU100の両方を兼ねた車載ECUが、「シート制御装置」及び「状態推定装置」に相当する。
【0091】
上記実施形態にて、自HCUによって提供されていた各機能は、ソフトウェア及びそれを実行するハードウェア、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの複合的な組合せによっても提供可能である。さらに、こうした機能がハードウェアとしての電子回路によって提供される場合、各機能は、多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によっても提供可能である。
【0092】
上述の実施形態の各処理部は、プリント基板に個別に実装された構成であってもよく、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)及びFPGA等に実装された構成であってもよい。また、各種プログラム等を記憶する記憶媒体(持続的有形コンピュータ読み取り媒体,non-transitory tangible storage medium)の形態も、適宜変更されてよい。さらに、記憶媒体は、回路基板上に設けられた構成に限定されず、メモリカード等の形態で提供され、スロット部に挿入されて、自動運転ECU又はHCU等の制御回路に電気的に接続される構成であってよい。また、記憶媒体は、自動運転ECU又はHCUへのプログラムのコピー基となる光学ディスク及びのハードディスクドライブ等であってもよい。
【0093】
上記の自動運転システム及びHMIシステムを搭載する車両は、一般的な自家用の乗用車に限定されず、レンタカー用の車両、有人タクシー用の車両、ライドシェア用の車両、貨物車両及びバス等であってもよい。また、自動運転システム及びHMIシステムを搭載する車両は、右ハンドル車両であってもよく、又は左ハンドル車両であってもよい。さらに、車両が走行する交通環境は、左側通行を前提とした交通環境であってもよく、右側通行を前提とした交通環境であってもよい。本開示によるシート制御及びドライバ状態推定は、それぞれの国及び地域の道路交通法、さらに車両のハンドル位置等に応じて適宜最適化されてよい。
【0094】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0095】
Am 自車両、DS 運転席、11 処理部、29 ドライバモニタ、82 情報連携部(制御把握部)、85 ドライバ情報把握部(監視状態把握部)、86 ドライバ状態推定部、88 提示制御部(報知制御部)、89 リクライニング制御部、100 HCU(シート制御装置,状態推定装置)