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特許7582118異音の要因特定装置、異音の要因特定システム、およびアプリケーションプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】異音の要因特定装置、異音の要因特定システム、およびアプリケーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/20 20230101AFI20241106BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20241106BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20241106BHJP
【FI】
G06Q10/20
G01H17/00 A
G01M99/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021130758
(22)【出願日】2021-08-10
(65)【公開番号】P2023025481
(43)【公開日】2023-02-22
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大室 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
【審査官】山田 倍司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-085059(JP,A)
【文献】特開2021-081364(JP,A)
【文献】特開2010-091282(JP,A)
【文献】特開2009-186481(JP,A)
【文献】特開2011-081543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G01H 17/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された部品の異音の発生原因を特定する異音の要因特定装置において、
判定用変数取得処理、異常判定処理、および出力処理を実行し、
前記判定用変数取得処理は、前記異音が生じた前記車両に関するイナータンス変数を取得する処理であり、
前記イナータンス変数は、第1部位への力の入力に対する第2部位に生じる振動のイナータンスを示す変数であり、
前記第1部位および前記第2部位は、前記異音の種類に応じて定められて且つ、互いに剛体によって連結された前記車両の部品の一部であり、
前記異常判定処理は、前記イナータンス変数を入力として前記異音の要因が伝達系の異常に起因するか否かを判定する処理であり、
前記出力処理は、前記異常判定処理による判定結果を出力する処理である異音の要因特定装置。
【請求項2】
実行装置と、記憶装置と、を備え、
前記実行装置は、前記判定用変数取得処理、前記異常判定処理、および前記出力処理を実行し、
前記判定用変数取得処理は、前記イナータンス変数に加えて、前記異音の周波数情報を示す変数である異音変数を取得する処理を含み、
前記記憶装置は、判定写像を規定するデータである判定写像データを記憶しており、
前記判定写像は、前記判定用変数取得処理による取得対象とされる変数の値を入力として且つ、前記伝達系の異常であるか否かの判定結果を出力する写像であり、
前記異常判定処理は、前記判定用変数取得処理によって取得された変数の値を前記判定写像に入力することによって、前記判定写像の出力として前記判定結果を得る処理である請求項1記載の異音の要因特定装置。
【請求項3】
前記判定写像は、前記伝達系の異常である確率を示す変数を出力する請求項2記載の異音の要因特定装置。
【請求項4】
前記第1部位および前記第2部位は、いずれも前記車両の駆動系の一部であり、
前記判定用変数取得処理は、アクセル変数、加速度変数、車速変数、および温度変数の4つのうちの少なくとも1つを取得する処理を含み、
前記アクセル変数は、前記車両に対する要求駆動トルクを指令する変数であり、
前記加速度変数は、前記車両の前後方向の加速度を示す変数であり、
前記車速変数は、前記車両の走行速度を示す変数であり、
前記温度変数は、前記駆動系の温度を示す変数である請求項2または3記載の異音の要因特定装置。
【請求項5】
前記実行装置は、特定取得処理、特定処理、および指示処理を実行し、
前記記憶装置には、特定写像データ、および指示用データが記憶されており、
前記特定取得処理は、前記異音変数を取得する処理であり、
前記特定写像データは、特定写像を規定するデータであり、
前記特定写像は、前記特定取得処理によって取得される変数の値を入力として発生源変数の値を出力する処理であり、
前記発生源変数は、前記異音の発生源を示す変数であり、
前記特定処理は、前記特定取得処理によって取得される変数の値を前記特定写像への入力として前記発生源変数の値を算出する処理であり、
前記指示用データは、前記異音の種類としての前記発生源変数の値のそれぞれについて、前記第1部位および前記第2部位を紐づけたデータであり、
前記指示処理は、前記特定処理によって算出された前記発生源変数の値に基づき、前記第1部位および前記第2部位を通知する処理である請求項2~4のいずれか1項に記載の異音の要因特定装置。
【請求項6】
前記特定取得処理は、前記異音変数に加えて、駆動系変数を取得する処理であり、
前記駆動系変数は、前記車両の駆動系の状態を特定する変数である請求項5記載の異音の要因特定装置。
【請求項7】
前記実行装置は、履歴取得処理、および仮判定処理を実行し、
前記履歴取得処理は、履歴情報を取得する処理であり、
前記履歴情報は、前記車両に搭載されている部品の履歴に関する情報であり、
前記仮判定処理は、前記履歴情報と前記発生源変数の値とに基づき、前記伝達系の異常である可能性があるか否かを判定する処理であり、
前記異常判定処理を、前記仮判定処理によって前記伝達系の異常である可能性があると判定される場合に実行する請求項5または6記載の異音の要因特定装置。
【請求項8】
請求項5または6に記載の異音の要因特定装置における前記実行装置を備え、
前記実行装置は、第1実行装置および第2実行装置を備え、
前記第1実行装置は、前記判定用変数取得処理、前記異常判定処理、前記出力処理、前記特定取得処理、前記特定処理、および前記指示処理を実行し、
前記第2実行装置は、指示情報受信処理、指示情報通知処理、イナータンス変数取得処理、イナータンス変数送信処理、結果受信処理、および結果通知処理を実行し、
前記指示情報受信処理は、前記指示処理によって通知された前記第1部位および前記第2部位に関するデータを受信する処理であり、
前記指示情報通知処理は、前記第1部位および前記第2部位を人に通知する処理であり、
前記イナータンス変数取得処理は、前記指示情報通知処理に応じた前記イナータンス変数の値の入力を受け付ける処理であり、
前記イナータンス変数送信処理は、前記イナータンス変数に関するデータを送信する処理であり、
前記出力処理は、前記判定結果を送信する処理であり、
前記結果受信処理は、前記出力処理によって送信された前記判定結果を受信する処理であり、
前記結果通知処理は、前記判定結果を人に通知する処理である要因特定システム。
【請求項9】
請求項8に記載の要因特定システムにおける前記指示情報受信処理、前記指示情報通知処理、前記イナータンス変数取得処理、前記イナータンス変数送信処理、前記結果受信処理、および前記結果通知処理をコンピュータに実行させるアプリケーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異音の要因特定装置、異音の要因特定システム、およびアプリケーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、自動変速機の異音を定量的に評価する方法が記載されている。詳しくは、セカンドギアポジションによる惰行時に、入力軸の回転速度と出力軸のトルクとを予め定められた状態に制御しつつ惰行音を録音する。そして録音した惰行音を解析することによって、異音を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-25425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、異音が発生する場合、その発生源の部品が大きな音を出しているとは限らない。すなわち、発生源に機械的に連結された部材である振動の伝達系の共振周波数に発生源の振動が重なることで振動が大きくなり、ユーザにとって耳障りな異音となる場合がある。しかし、発生源の部品自体に問題があるのか、伝達系に問題があるのかを識別することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.車両に搭載された部品の異音の発生原因を特定する異音の要因特定装置において、判定用変数取得処理、異常判定処理、および出力処理を実行し、前記判定用変数取得処理は、前記異音が生じた前記車両に関するイナータンス変数を取得する処理であり、前記イナータンス変数は、第1部位への力の入力に対する第2部位に生じる振動のイナータンスを示す変数であり、前記第1部位および前記第2部位は、前記異音の種類に応じて定められて且つ、互いに剛体によって連結された前記車両の部品の一部であり、前記異常判定処理は、前記イナータンス変数を入力として前記異音の要因が伝達系の異常に起因するか否かを判定する処理であり、前記出力処理は、前記異常判定処理による判定結果を出力する処理である異音の要因特定装置である。
【0006】
上記イナータンス変数は、第1部位および第2部位を含む伝達系の特性を表現する変数である。したがって、第1部位および第2部位を、異音の発生箇所等の異音の種類に応じて設定することにより、発生源の振動が伝達系によって増幅されたために異音として感知されているのか否かを判定できる。したがって、振動の発生源の異常と、伝達系の異常とを識別することが可能となる。
【0007】
2.実行装置と、記憶装置と、を備え、前記実行装置は、前記判定用変数取得処理、前記異常判定処理、および前記出力処理を実行し、前記判定用変数取得処理は、前記イナータンス変数に加えて、前記異音の周波数情報を示す変数である異音変数を取得する処理を含み、前記記憶装置は、判定写像を規定するデータである判定写像データを記憶しており、前記判定写像は、前記判定用変数取得処理による取得対象とされる変数の値を入力として且つ、前記伝達系の異常であるか否かの判定結果を出力する写像であり、前記異常判定処理は、前記判定用変数取得処理によって取得された変数の値を前記判定写像に入力することによって、前記判定写像の出力として前記判定結果を得る処理である上記1記載の異音の要因特定装置である。
【0008】
上記構成では、イナータンス変数に加えて、異音変数を用いることにより、異音変数を用いない場合と比較して、異音が生じた状況についてのより詳細な情報に基づき、伝達系の異常に起因するか否かを判定できる。そのため、異音変数を用いない場合と比較して、伝達系の異常に起因するか否かをより高精度に判定できる。
【0009】
3.前記判定写像は、前記伝達系の異常である確率を示す変数を出力する上記2記載の異音の要因特定装置である。
4.前記第1部位および前記第2部位は、いずれも前記車両の駆動系の一部であり、前記判定用変数取得処理は、アクセル変数、加速度変数、車速変数、および温度変数の4つのうちの少なくとも1つを取得する処理を含み、前記アクセル変数は、前記車両に対する要求駆動トルクを指令する変数であり、前記加速度変数は、前記車両の前後方向の加速度を示す変数であり、前記車速変数は、前記車両の走行速度を示す変数であり、前記温度変数は、前記駆動系の温度を示す変数である上記2または3記載の異音の要因特定装置である。
【0010】
車両の駆動系が振動の発生源か伝達系となる場合、駆動系の状態が異音の発生に影響しうる。
ここで、要求駆動トルクが大きいか小さいかに応じて駆動系に加わる力が異なる。そのため、アクセル変数は、異音の発生に影響する変数である。したがって、判定写像の入力変数に、アクセル変数を含める場合には、含めない場合と比較して、異音が生じた状況についてのより詳細な情報に基づき、伝達系の異常に起因するか否かを判定できる。そのため、アクセル変数を含める場合には、アクセル変数を含めない場合と比較して、伝達系の異常に起因するか否かをより高精度に判定できる。
【0011】
また、加速度は、駆動系に加わる力の状態等を示す変数である。そのため、加速度変数は、異音の発生に影響する変数である。したがって、判定写像の入力変数に、加速度変数を含める場合には、含めない場合と比較して、異音が生じた状況についてのより詳細な情報に基づき、伝達系の異常に起因するか否かを判定できる。そのため、加速度変数を含める場合には、加速度変数を含めない場合と比較して、伝達系の異常に起因するか否かをより高精度に判定できる。
【0012】
また、走行速度は、駆動系の回転状態を示す変数である。したがって、判定写像の入力変数に、車速変数を含める場合には、含めない場合と比較して、異音が生じた状況についてのより詳細な情報に基づき、伝達系の異常に起因するか否かを判定できる。そのため、車速変数を含める場合には、車速変数を含めない場合と比較して、伝達系の異常に起因するか否かをより高精度に判定できる。
【0013】
また、駆動系の温度は、駆動系の摩擦等を示す変数である。そのため、温度変数は、異音の発生に影響する変数である。したがって、判定写像の入力変数に、温度変数を含める場合には、含めない場合と比較して、異音が生じた状況についてのより詳細な情報に基づき、伝達系の異常に起因するか否かを判定できる。そのため、温度変数を含める場合には、温度変数を含めない場合と比較して、伝達系の異常に起因するか否かをより高精度に判定できる。
【0014】
5.前記実行装置は、特定取得処理、特定処理、および指示処理を実行し、前記記憶装置には、特定写像データ、および指示用データが記憶されており、前記特定取得処理は、前記異音変数を取得する処理であり、前記特定写像データは、特定写像を規定するデータであり、前記特定写像は、前記特定取得処理によって取得される変数の値を入力として発生源変数の値を出力する処理であり、前記発生源変数は、前記異音の発生源を示す変数であり、前記特定処理は、前記特定取得処理によって取得される変数の値を前記特定写像への入力として前記発生源変数の値を算出する処理であり、前記指示用データは、前記異音の種類としての前記発生源変数の値のそれぞれについて、前記第1部位および前記第2部位を紐づけたデータであり、前記指示処理は、前記特定処理によって算出された前記発生源変数の値に基づき、前記第1部位および前記第2部位を通知する処理である上記2~4のいずれか1つに記載の異音の要因特定装置である。
【0015】
上記構成では、特定写像を用いて発生源を推定する。そして、推定された発生源に応じて第1部位および第2部位を定めることにより、第1部位および第2部位を人が定める場合と比較して、伝達系の異常の有無を判定する処理の工数を軽減できる。
【0016】
6.前記特定取得処理は、前記異音変数に加えて、駆動系変数を取得する処理であり、前記駆動系変数は、前記車両の駆動系の状態を特定する変数である上記5記載の異音の要因特定装置である。
【0017】
駆動系の状態は、異音の大きさや異音の発生に影響する。そのため、特定写像への入力変数に駆動系変数を含める場合には、含めない場合と比較して、異音が生じた状況についてのより詳細な情報に基づき、発生源を推定できる。そのため、特定写像への入力変数に駆動度変数を含める場合には、含めない場合と比較して、発生源を高精度に推定できる。
【0018】
7.前記実行装置は、履歴取得処理、および仮判定処理を実行し、前記履歴取得処理は、履歴情報を取得する処理であり、前記履歴情報は、前記車両に搭載されている部品の履歴に関する情報であり、前記仮判定処理は、前記履歴情報と前記発生源変数の値とに基づき、前記伝達系の異常である可能性があるか否かを判定する処理であり、前記異常判定処理を、前記仮判定処理によって前記伝達系の異常である可能性があると判定される場合に実行する上記5または6記載の異音の要因特定装置である。
【0019】
車両に搭載されている部品が交換されたり修理されたりする場合、交換または修理前の部品とはその特性が異なったものとなる可能性がある。そして特性が異なる場合には、同部品を含む伝達系の共振周波数が変化しうる。そのため、発生源から生じた振動が伝達系の共振周波数と一致することによって異音として感知されるおそれがある。これに対し、部品の交換等の履歴がない場合には、伝達系の異常の可能性は低い。そこで上記構成では、発生源から定まる伝達系の候補と、その履歴情報とに基づき、伝達系の異常の可能性があるか否かの仮判定をする。これにより、伝達系の異常の可能性が低い場合に、第1部位に力を入力する等の労力を費やすことを抑制できる。
【0020】
8.5または6に記載の異音の要因特定装置における前記実行装置を備え、前記実行装置は、第1実行装置および第2実行装置を備え、前記第1実行装置は、前記判定用変数取得処理、前記異常判定処理、前記出力処理、前記特定取得処理、前記特定処理、および前記指示処理を実行し、前記第2実行装置は、指示情報受信処理、指示情報通知処理、イナータンス変数取得処理、イナータンス変数送信処理、結果受信処理、および結果通知処理を実行し、前記指示情報受信処理は、前記指示処理によって通知された前記第1部位および前記第2部位に関するデータを受信する処理であり、前記指示情報通知処理は、前記第1部位および前記第2部位を人に通知する処理であり、前記イナータンス変数取得処理は、前記指示情報通知処理に応じた前記イナータンス変数の値の入力を受け付ける処理であり、前記イナータンス変数送信処理は、前記イナータンス変数に関するデータを送信する処理であり、前記出力処理は、前記判定結果を送信する処理であり、前記結果受信処理は、前記出力処理によって送信された前記判定結果を受信する処理であり、前記結果通知処理は、前記判定結果を人に通知する処理である要因特定システムである。
【0021】
上記構成では、第2実行装置を、車両の付近に位置する装置に搭載されたものとする一方、第1実行装置を任意の場所に配置することができる。
9.上記8に記載の要因特定システムにおける前記指示情報受信処理、前記指示情報通知処理、前記イナータンス変数取得処理、前記イナータンス変数送信処理、前記結果受信処理、および前記結果通知処理をコンピュータに実行させるアプリケーションプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態にかかる異音の要因特定システムの構成を示す図である。
図2】(a)および(b)は、要因特定システムが実行する処理の手順を示す流れ図である。
図3】同実施形態にかかる要因特定システムが実行する処理の手順を示す流れ図である。
図4】同実施形態にかかる要因特定システムが実行する処理の手順を示す流れ図である。
図5】同実施形態にかかる指示用データを例示する図である。
図6】(a)~(c)は、イナータンスを例示する図である。
図7】同実施形態にかかる要因特定システムが実行する処理の手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示す車両VCにおいて、内燃機関10のクランク軸12は、動力分割装置としての遊星歯車機構20のキャリアCに機械的に連結されている。遊星歯車機構20のサンギアSには、第1モータジェネレータ22の回転軸22aが機械的に連結されている。遊星歯車機構20のリングギアRには、第2モータジェネレータ24の回転軸24aが機械的に連結されている。第1モータジェネレータ22には、インバータ26の出力電圧が印加される。また、第2モータジェネレータ24には、インバータ28の出力電圧が印加される。リングギアRの動力は、変速装置30、プロペラシャフト32、およびディファレンシャルギア34を介して駆動輪36に伝達される。
【0024】
制御装置40は、制御対象としての車両VCの制御量を制御すべく、内燃機関10の各種操作部、およびインバータ26,28等を操作する。制御装置40は、CPU42、ROM44、周辺回路46、通信機48および通信線49を備えている。CPU42、ROM44、周辺回路46、および通信機48は、通信線49によって互いに通信可能とされている。ここで、周辺回路46は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、およびリセット回路等を含む。制御装置40は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42が実行することにより制御量を制御する。
【0025】
通信機48は、たとえばインターネット等のネットワーク50を介して外部の機器と通信可能となっている。こうした機器には、データ解析装置60および多機能携帯端末70がある。
【0026】
データ解析装置60は、車両VCの製造メーカが所持する装置である。データ解析装置60は、CPU62、ROM64、記憶装置65、周辺回路66、通信機68および通信線69を備えている。CPU62、ROM64、記憶装置65、周辺回路66、および通信機68は、通信線69によって互いに通信可能とされている。記憶装置65は、電気的に書き換え可能な不揮発性の装置である。記憶装置65には、ビッグデータ64a、特定写像データ64b、指示用データ64cおよび判定写像データ64dが記憶されている。ビッグデータ64aは、複数の車両VCから送信された車両VCの内部で取得されたデータ群である。特定写像データ64b、指示用データ64cおよび判定写像データ64dは、車両VCにおいて異音が生じた場合に、その要因を特定するためのデータである。
【0027】
多機能携帯端末70は、異音が生じることで車両VCが持ち込まれる修理工場の作業員が所持する端末である。多機能携帯端末70は、CPU72、記憶装置74、周辺回路76、マイク77、通信機78および通信線79を備えている。CPU72、記憶装置74、周辺回路76、マイク77および通信機78は、通信線79によって互いに通信可能とされている。記憶装置74には、アプリケーションプログラム74aが記憶されている。アプリケーションプログラム74aは、異音の要因を特定するための処理を実行する指令を規定する。
【0028】
本実施形態では、データ解析装置60および多機能携帯端末70によって、異音の要因特定システムが構成されている。以下では、要因特定システムが実行する処理について、主にその時系列に従って詳述する。
【0029】
「ビッグデータ64aの生成処理」
図2に、ビッグデータ64aの生成処理の手順を示す。詳しくは、図2(a)に示す処理は、制御装置40において、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。また、図2(b)に示す処理は、データ解析装置60において、ROM64に記憶されたプログラムをCPU62がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0030】
図2(a)に示す一連の処理において、CPU42は、まず、車両VC内で生成されるデータを取得する(S10)。車両データには、アクセル操作量ACCP,前後加速度Gx、横加速度Gy、車速SPD,シフト変数Vsft、変速装置30の油温Tatf、および操舵角θs等が含まれる。
【0031】
アクセル操作量ACCPは、アクセルセンサによって検出される、アクセルペダルの踏み込み量である。前後加速度Gxは、自身に加わる力を感知するセンサによって検出される車両VCの前後方向の加速度である。横加速度Gyは、自身に加わる力を感知するセンサによって検出される車両VCの横方向の加速度である。シフト変数Vsftは、変速装置30によって実現されている変速比を示す変数である。油温Tatfは、変速装置30の作動油の温度である。
【0032】
CPU42は、通信機48を操作することによって、車両VCの識別記号である車両IDとともに、S10の処理によって取得した車両データを、データ解析装置60に送信する(S12)。なお、CPU42は、S12の処理を完了する場合、図2(a)に示す一連の処理を一旦終了する。
【0033】
これに対し、図2(b)に示すように、データ解析装置60のCPU62は、車両IDおよび車両データを受信する(S20)。そしてCPU62は、車両IDおよび車両データを記憶装置65のうちのビッグデータ64aを記憶する領域に記憶する(S22)。なお、CPU62は、S22の処理を完了する場合、図2(b)に示す一連の処理を一旦終了する。
【0034】
「異音の発生に伴って修理工場の作業員が最初に実行する処理」
図3に、多機能携帯端末70が実行する処理の手順を示す。図3に示す処理は、記憶装置74に記憶されたアプリケーションプログラム74aをCPU72がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。
【0035】
図3に示す処理は、車両VCに異音を感知したユーザが車両VCを修理工場に持ち込むことにより実現される。
図3に示す一連の処理において、CPU72は、まず車両VCの部品に関する履歴情報を取得する(S30)。履歴情報は、車両VCが事故を経験しているか否か、部品を交換したか否か、改造したか否かに関する情報が含まれる。こうした情報は、修理工場の作業員がユーザに対して問診をすることで収集される。なお、この際、問診以外に、たとえば事故履歴がある場合、該当箇所を作業員が見てみることによって、破損等がないかを確認してもよい。その場合、収集される情報にその確認結果を含める。そして収集した情報は、作業員が多機能携帯端末70に入力する。これにより、S30の処理が完了する。
【0036】
この時点で、作業員は、ユーザとともに車両VCに乗り込む。そしてユーザに車両VCを運転してもらい、異音を再現してもらう。CPU72は、異音の再現の合図を待機する(S32:NO)。ここでは、修理工場のサービスマニュアル等に、異音が再現されたときの合図を規定しておく。合図は、「スタート」、「GO」等でよい。
【0037】
ユーザから異音が生じた旨知らされると、作業員は、その旨の合図をする。これに対し、CPU72は、合図があると判定する場合(S32:YES)、マイク77を操作することによって、録音を開始する(S34)。そして、CPU72は、録音データにタイムスタンプを付与する(S36)。この処理は、録音の終了の合図が出るまで継続される(S38:NO)。そしてCPU72は、録音の終了の合図が出る場合(S38:YES)、通信機78を操作することによって、履歴データ、音データ、タイムスタンプ、および車両IDをデータ解析装置60に送信する(S40)。
【0038】
履歴データは、S30の処理によって取得された履歴情報を示すデータである。音データは、S34の処理によって録音された音のデータである。車両IDは、異音が生じたとして修理工場に持ち込まれた車両VCの識別記号である。
【0039】
これにより、データ解析装置60によって、異音の発生源を特定する処理が実行される。
「異音の発生源を特定する処理」
図4に、異音の発生源の特定に関する処理の手順を示す。図4に示す処理は、ROM64に記憶されたプログラムをCPU62がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。
【0040】
図4に示す一連の処理において、CPU62は、まず、S40の処理によって送信されたデータを受信する(S50)。次にCPU72は、音データのうち音圧強度が最大となる周波数であるピーク周波数fpを抽出する(S52)。次にCPU62は、特定写像データ64bによって規定される写像である特定写像の入力変数に、S52の処理によって取得した変数の値を代入する(S54)。また、CPU62は、S64の処理において、特定写像の入力変数に、ビッグデータ64aのうちのS50の処理において受信した車両IDおよびタイムスタンプに紐づけられた変数の値を代入する。すなわち、CPU62は、入力変数x(1),x(2),x(3),x(4)に、それぞれ、ピーク周波数fp、アクセル操作量ACCP、前後加速度Gx、および横加速度Gyを入力する。また、CPU62は、入力変数x(5),x(6),x(7),x(8)に、それぞれ、車速SPD、シフト変数Vsft、油温Tatf、および操舵角θsを入力する(S54)。なお、入力変数xの次元は、8次元に限らない。
【0041】
そしてCPU62は、特定写像に入力変数x(1),x(2),…を入力することによって、発生源変数y(1),y(2),…の値を算出する(S56)。特定写像は、ニューラルネットワークである。特に本実施形態では、出力層の活性化関数hpをソフトマックス関数としている。そのため、発生源変数y(1),y(2),…の値の和は、「1」に規格化されている。発生源変数y(1),y(2),…には、それぞれ異音の発生源の候補が紐づけられている。そして、発生源変数y(1),y(2),…は、それぞれ、発生源の候補が実際の発生源である確率を示す。
【0042】
特定写像データ64bは、異音の発生源の候補のそれぞれについて、実際に異音が発生する部品を用意することにより生成されたデータである。すなわち、たとえば候補となる車載部品を、その劣化を促進する過酷な状況下におくことによって、発生源自体の異音が許容範囲を超える部品を用意する。また、候補となる車載部品自体の異音は許容範囲内の場合、その発生源の音をユーザが感知する音圧レベルに高める伝達系の部品を用意する。これは、たとえば、伝達系の部品を、異音を伝達させやすい劣化した部品に代えることによって実現できる。またたとえば、伝達系の部品を、伝達系の共振周波数を変更すべく物性の相違する部品に変更することによって実現できる。そのようにして異音が発生する状況を用意すると、そのときの発生源の候補に対応する発生源変数y(i)が「1」であって、残りの発生源変数y(j)が「0」であるラベル変数と、入力変数xとの組を訓練データとする。ここで、「i」と「j」とは異なる数字としている。そして、訓練データを用いて特定写像データを訓練する。
【0043】
次にCPU62は、発生源変数y(1),y(2),…のうちの最大値ymaxを探索する(S58)。そしてCPU62は、履歴データと、発生源変数y(1),y(2),…のうちの最大値ymaxに対応する候補部品とに基づき、発生源からの振動の伝達系に部品交換等の履歴があるか否かを判定する(S60)。この処理は、発生源による起振力が伝達される伝達系を構成する部品の共振等によって、振動が強調されて異音として感知された可能性の有無を判定する処理である。すなわち、部品の交換等によって、振動の伝達系の共振周波数が変化している場合には、意図せずして振動が強調されるおそれがある。
【0044】
S60の処理は、発生源に応じて該当する伝達系の部品を特定する処理と、該当する部品に交換等の履歴があるか否かを判定する処理と、によって構成できる。伝達系の部品を特定する処理は、発生源と該当する伝達系の部品を紐づけるデータまたはロジックを用いて実現できる。
【0045】
CPU62は、履歴がないと判定する場合(S60:NO)、通信機68を操作することによって、多機能携帯端末70に、発生源の部品の交換を推奨する通知をする信号を送信する(S62)。すなわち、交換等の履歴がない場合、発生源による起振力が伝達される伝達系を構成する部品の共振等が異音の要因であるとは考えにくい。そのため、発生源の劣化等によって発生源にて生じる音の音圧レベルが増大したとして、交換を推奨する。
【0046】
これに対し、CPU62は、履歴があると判定する場合(S60:YES)、伝達系の異常であるか否かのさらなる検査をすべく、記憶装置65に記憶された指示用データ64cに基づき、第1部位および第2部位を特定する(S64)。ここで、さらなる検査は、車載部品のうちの所定の部位である第1部位を叩くなど、第1部位に力を入力することによって行われる。すなわち、第1部位に力を入力した際の、第2部位の振動によって、第1部位および第2部位を連結する伝達系の異常の有無を検査する。
【0047】
CPU62は図1に示した記憶装置65に記憶されている指示用データ64cを用いて、第1部位および第2部位を特定する。
図5に、指示用データ64cを例示する。
【0048】
指示用データ64cは、発生源を、第1部位および第2部位に紐づけるデータを含む。図5には、発生源が変速装置30のギアの場合に、第1部位が「エクステンションハウジングの上部」であって且つ第2部位が「ベアリングサポートブラケット」であることを例示している。また、図5には、発生源が「内燃機関」となっている欄を2つ記載している。これは、同一の発生源に対して、第1部位および第2部位の複数の組を紐づけることがありうることを示す。すなわち、1つの発生源から振動が伝達する伝達系は1つとは限らない。なお、図5には、発生源が「内燃機関」である欄を2つ記載したが、これは発生源が「内燃機関」である場合の第1部位および第2部位が2つであることを意味せず、複数であることを例示しているにすぎない。また、図5には、発生源が「変速装置のギア」、「タイヤ」、「蒸発器」、「モータジェネレータ」および「ブレーキ」の欄を1つずつ記載した。しかしこれは、それらのそれぞれを発生源とする場合に、第1部位および第2部位が1つであることを意味しない。
【0049】
上記「タイヤ」は、路面からの振動等を意図している。また、「蒸発器」は車載空調装置の蒸発器である。また、「モータジェネレータ」は、実際には、第1モータジェネレータ22および第2モータジェネレータ24で発生源を分けることが望ましい。
【0050】
図4に戻り、CPU62は、通信機68を操作することによって、多機能携帯端末70に、第1部位および第2部位の情報を含むデータを送信する(S66)。
なお、CPU62は、S62,S66の処理を完了する場合、図4に示す一連の処理を一旦終了する。
【0051】
「データ解析装置60からの指示に応じて多機能携帯端末70および作業員が実行する処理」
多機能携帯端末70のCPU72は、S62,S66の処理によって送信されたデータである判定結果を受信する(図3:S42)。そして、CPU72は、第1部位および第2部位の通知があったか否かを判定する(S44)。換言すれば、CPU72は、S66の処理が実行されたか否かを判定する。CPU72は、第1部位および第2部位の通知がないと判定する場合(S44:NO)、多機能携帯端末70の表示パネルに、部品の交換を推奨する表示をする(S46)。すなわち、S62の処理によって通知された発生源の部品を交換することを奨励する表示をする。
【0052】
一方、CPU72は、第1部位および第2部位の通知があると判定する場合(S44:YES)、多機能携帯端末70の表示パネルに、第1部位および第2部位を表示する(S48)。
【0053】
これにより、作業員は、第2部位に振動センサを配置した状態で第1部位を叩くことによって、第2部位の振動を計測する。そして、作業員は、計測した振動に応じたイナータンスを算出する。
【0054】
図6に、イナータンスを例示する。詳しくは、図6(a)は、伝達系に異常がない場合におけるイナータンスを例示する。また、図6(b)は、伝達系に異常がある場合のイナータンスを例示する。図6(c)は、図6(a)と図6(b)との差である。
【0055】
図6に示すように、イナータンスは、周波数毎の振動強度を示す。図6に示すように、正常時と異常時とでイナータンスに大きな相違がある。
イナータンスの算出は、実際には、振動の計測結果のデータが入力されたコンピュータによって実行される。なお、このコンピュータをCPU72としてもよい。そして、作業員は、上記コンピュータによって、イナータンスを示す変数であるイナータンス変数Viを算出する。本実施形態では、伝達系毎に正常時のイナータンスに関するデータを保持しておく。そして、計測されたイナータンスとの差の最大値をイナータンス変数Viに代入する。図6(c)に示す例では、これは、周波数f1における差となる。
【0056】
そして、作業員は、イナータンス変数Viの値を、図3の処理を規定するアプリケーションプログラム74aによって規定される入力画面を操作することによって入力する。これは、CPU72がイナータンス変数Viを取り込む処理(図5のS50)である。
【0057】
これにより、CPU72は、通信機78を操作することによって、データ解析装置60に、車両IDとイナータンス変数Viとを送信する(S52)。
「伝達系の異常の有無の判定に関する処理」
図7に、伝達系の異常の有無の判定に関する処理の手順を示す。図7に示す処理は、ROM64に記憶されたプログラムをCPU62がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。
【0058】
図7に示す一連の処理において、CPU62は、S52の処理によって送信されたイナータンス変数Viを取り込む(S70)。そして、CPU72は、ビッグデータ64aから、異音の発生時の車両データを読み出す(S72)。すなわち、S40の処理によって、データ解析装置60には、異音が生じたときのタイムスタンプおよび車両IDが送信される。そのため、CPU62は、ビッグデータ64aのうちの、車両IDおよびタイムスタンプによって特定されるデータを読み出す。
【0059】
ここで、読み出すデータは、指示用データ64cによって指定されている入力変数に関するデータである。すなわち、指示用データ64cは、図5に示すように、発生源、第1部位および第2部位と、入力変数とを紐づけている。指示用データ64cによって指定されている入力変数は、判定写像の入力変数である。判定写像は、伝達系の異常の有無を判定する学習済みモデルである。判定写像は、判定写像データ64dによって規定される写像である。詳しくは、指示用データ64cは、発生源、第1部位および第2部位と、判定写像データ64dと、入力変数とを紐づける。記憶装置65には、判定写像データ64dが複数種類記憶されている。それらのそれぞれは、指示用データ64cによって、発生源、第1部位および第2部位の特定の組み合わせに紐づけられている。
【0060】
図5には、発生源が「変速装置のギア」である第1行目に、入力変数として、イナータンス変数Viおよびピーク周波数fpに加えて、アクセル操作量ACCP、前後加速度Gx,車速SPDおよび油温Tatfが例示されている。したがって、指示用データ64cの図5の第1行目に対応する場合、CPU62は、S72の処理において、ピーク周波数fp、アクセル操作量ACCP、前後加速度Gx,車速SPDおよび油温Tatfを読み出す。
【0061】
そしてCPU62は、指示用データ64cが指定する判定写像の入力変数に、イナータンス変数ViおよびS72の処理において読み出した値を代入する(S74)。そして、CPU72は、S74の処理によって生成された入力変数を判定写像に入力することによって、伝達系の異常であるか否か示す出力変数zの値を算出する(S76)。ここで、判定写像は、ニューラルネットワークである。また、ニューラルネットワークの出力層の活性化関数σは、ロジスティックシグモイド関数である。出力変数zは、伝達系の異常である確率を示す。
【0062】
上記判定写像を規定する判定写像データ64dは、次のようにして学習されたデータである。すなわち、伝達系の一部の部品を正規品から物性の異なる部品に取り換えたものを複数種類用意する。また、伝達系の一部の部品の劣化を促進させたものを少なくとも1つ用意する。また、伝達系が正常な部品を1つ用意する。また、発生源として、正常なものと、単体で生じる振動が大きいものとを用意する。そして、部品を取り換えた伝達系または劣化を促進させた伝達系と正常な発生源とを組み合わせる。そしてそれらのそれぞれについて第1部位に力を加えた際の第2部位の振動からイナータンス変数Viを取得する。また、それらを駆動させることによって、その他の入力変数を取得する。そして、取得したデータと、出力変数を「1」としたものとの組を、訓練データとする。また、正常な伝達系と単体で生じる振動が大きい発生源とを組み合わせる。そして、その第1部位に力を加えた際の第2部位の振動からイナータンス変数Viを取得する。また、その組み合わせ部品を駆動させることによって、その他の入力変数を取得する。そして、取得したデータと、出力変数を「0」としたものとの組を、訓練データとする。
【0063】
次に、CPU62は、出力変数zが閾値zth以上であるか否かを判定する(S78)。この処理は、伝達系の異常であるか否かを判定する処理である。CPU62は、閾値zth以上であると判定する場合(S78:YES)、伝達系の異常であると判定する(S80)。CPU62は、S80の処理を完了する場合と、S78の処理において否定判定する場合とには、通信機68を操作して多機能携帯端末70に判定結果を送信する(S82)。
【0064】
なお、CPU62は、S82の処理が完了する場合には、図7に示した一連の処理を一旦終了する。
「判定結果の表示に関する処理について」
S82の処理がなされると、多機能携帯端末70のCPU72は、判定結果を受信する(図3のS54)。そしてCPU72は、多機能携帯端末70の表示パネルに、判定結果を表示する(S56)。
【0065】
なお、CPU72は、S46,S56の処理を完了する場合、図3に示す一連の処理を一旦終了する。
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
【0066】
車両VCのユーザが車両VCに異音が生じたとして車両VCを修理工場に持ち込むと、修理工場の作業員は、異音を録音する。そして作業員は、多機能携帯端末70を介して、データ解析装置60に車両データと録音した音データとを送信する。
【0067】
データ解析装置60のCPU62は、車両IDに基づきビッグデータ64aから異音が生じていた時の車両のデータを読み出す。そして、音データと、車両のデータとに基づき、異音の発生源を推定する。そして、CPU62は、発生源に基づき、指示用データ64cに従って、第1部位および第2部位を多機能携帯端末70に通知する。
【0068】
多機能携帯端末70には、第1部位および第2部位が表示される。作業員は、第2部位に振動の計測器を配置する。そして第1部位を叩いた時の第2部位の振動を計測する。そして、作業員は、振動の計測結果に応じたイナータンス変数Viを多機能携帯端末70のアプリケーションプログラム74aの指示に従って入力する。多機能携帯端末70は、入力されたイナータンス変数Viをデータ解析装置60に送信する。
【0069】
データ解析装置60のCPU62は、イナータンス変数Viに基づき、異音が、発生源に接続される伝達系の異常であるか否かを判定する。そして、CPU62は、判定結果を多機能携帯端末70へと送信する。
【0070】
このように、発生源に応じてイナータンスの計測対象を定めることによって、イナータンス変数Viを伝達系の異常であるか否かを高精度に示す変数とすることができる。したがって、本実施形態によれば、伝達系の異常であるか否かを高精度に判定できる。
【0071】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1)イナータンス変数Viをアナログ的に3値以上の値を取り得る変数として、学習済みモデルとしての判定写像への入力とした。これにより、イナータンス変数Viの値と閾値との大小比較をする場合と比較して、イナータンス変数Viの値に含まれる情報をより十分に活用して判定をすることができる。
【0072】
(2)判定写像への入力変数に、イナータンス変数Viに加えて、ピーク周波数fpを含めた。これにより、ピーク周波数fpを含めない場合と比較して、異音が生じた状況についてのより詳細な情報に基づき、伝達系の異常に起因するか否かを判定できる。そのため、ピーク周波数fpを含めない場合と比較して、伝達系の異常に起因するか否かをより高精度に判定できる。
【0073】
(3)発生源が「変速装置のギア」である場合、判定写像への入力変数に、アクセル操作量ACCP、前後加速度Gx、車速SPD、および油温Tatfを含めた。これにより、それらを含めない場合と比較して、伝達系の異常に起因するか否かをより高精度に判定できる。
【0074】
(4)CPU62は、特定写像を用いて発生源を推定した。そして、CPU62が、推定された発生源に応じて第1部位および第2部位を定めた。これにより、第1部位および第2部位を人が定める場合と比較して、伝達系の異常の有無を判定する処理の工数を軽減できる。
【0075】
(5)CPU62は、発生源に応じて特定される伝達系の部品の交換等の履歴があるか否かを判定した。そして、CPU62は、交換の履歴があると判定する場合、第1部位および第2部位を通知する処理を実行した。車両VCに搭載されている部品が交換されたり修理されたりする場合、交換または修理前の部品とはその特性が異なったものとなる可能性がある。そして特性が異なる場合には、同部品を含む伝達系の共振周波数が変化しうる。そのため、発生源から生じた振動が伝達系の共振周波数と一致することによって異音として感知されるおそれがある。これに対し、部品の交換等の履歴がない場合には、伝達系の異常の可能性は低い。そこで部品交換等の履歴がある場合に第1部位および第2部位を通知することにより、伝達系の異常の可能性が低い場合に、人が第1部位に力を入力する等の労力を費やすことを抑制できる。
【0076】
(6)データ解析装置60と多機能携帯端末70との協働で、異音の要因を特定する処理を実行した。これにより、対象となる車両VCの付近には、アプリケーションプログラム74aがインストールされた多機能携帯端末70さえあれば、異音の要因を特定できる。
【0077】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]要因特定装置は、データ解析装置60に対応する。判定用変数取得処理は、S70の処理に対応する。異常判定処理は、S74~S80の処理に対応する。出力処理は、S82の処理に対応する。[2]実行装置は、CPU62およびROM64に対応する。記憶装置は、記憶装置65に対応する。判定用変数取得処理は、S72の処理に対応する。異音変数は、ピーク周波数fpに取得する。[3]S76の処理において利用するニューラルネットワークの出力層の活性化関数をロジスティックシグモイド関数とした点に対応する。[4]第1部位および第2部位が駆動系の一部である例は、図5において、それぞれ第1部位がエクステンションハウジングの上部であって且つ第2部位がベアリングサポートブラケットである例に対応する。判定用変数取得処理の取得対象に、アクセル変数等が含まれる例は、図5において発生源が変速装置のギアである例に対応する。[5]特定取得処理は、S52の処理に対応する。異音変数は、ピーク周波数fpに対応する。特定処理は、S54~S58の処理に対応する。指示処理は、S66の処理に対応する。[6]駆動系変数は、アクセル操作量ACCPおよびシフト変数Vsftに対応する。[7]履歴取得処理は、S50の処理に対応する。仮判定処理は、S60の処理に対応する。[8]異音の要因特定システムは、多機能携帯端末70およびデータ解析装置60に対応する。第1実行装置は、CPU62およびROM64に対応する。第2実行装置は、CPU72および記憶装置74に対応する。指示情報受信処理は、S42の処理に対応する。指示情報通知処理は、S48の処理に対応する。イナータンス変数取得処理は、S50の処理に対応する。イナータンス変数送信処理は、S52の処理に対応する。結果受信処理は、S54の処理に対応する。結果通知処理は、S56の処理に対応する。[9]コンピュータは、CPU72に対応する。
【0078】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0079】
「異音の録音手法について」
図3に示した処理では、異音を含む音データとタイムスタンプとを紐づけてデータ解析装置60に送信したが、これに限らない。たとえば、車両VCにマイクを備え、制御装置40によって、マイクを操作することによって、マイクが感知した音と、都度収集するデータとを紐づけて記憶するようにしてもよい。その場合、S12の処理において、音データを送信すればよい。ただし、その場合、ユーザが異音を感知した場合に、ユーザにその旨を入力してもらうことによって、異音を感知した時点の時刻情報を併せて送信することが望ましい。もっとも、これに代えて、たとえば、送信対象とする音データを、ユーザが合図した期間のデータのみとしてもよい。
【0080】
「イナータンス変数について」
・上記実施形態では、正常時のデータと異常時のデータとの差の最大値をイナータンス変数Viとしたが、これに限らない。たとえば、最大値および最大値となる周波数の組からなる変数をイナータンス変数Viとしてもよい。その場合、イナータンス変数Viは、2次元の変数となる。またたとえば、周波数と、対応する振動強度との複数の組み合わせであってもよい。その場合、イナータンス変数Viは組み合わせの数の2倍の次元を有する変数となる。
【0081】
「判定用変数取得処理について」
図5においては、発生源が「変速装置のギア」である場合、判定写像への入力変数に、アクセル操作量ACCP、前後加速度Gx,車速SPDおよび油温Tatfを含めたが、これに限らない。たとえば、それら4つの変数については、そのうちの3つに限って含めたり、2つに限って含めたり、1つに限って含めたりしてもよい。
【0082】
・上記実施形態では、判定用写像への入力変数として、イナータンス変数Vi,ピーク周波数fpおよび、異音の発生源毎に予め定められた変数であって且つ車両VCの状態を示す変数を例示したが、これに限らない。たとえば、異音の周波数情報を示す変数としては、ピーク周波数fpに限らない。たとえば、いくつかの周波数とその音圧レベルとの組からなる変数であってもよい。またたとえば、入力変数に、音の発生源毎に予め定められた変数であって且つ車両VCの状態を示す変数が含まれることは必須ではない。さらに、入力変数に、異音の周波数情報を示す変数が含まれることは必須ではない。
【0083】
「判定写像について」
図7には、ニューラルネットワークとして、中間層の層数が2層以上のネットワークを例示したが、これに限らない。中間層の層数が1層であってもよい。
【0084】
・ニューラルネットワークの出力層の活性化関数としては、ロジスティックシグモイド関数に限らない。たとえば、出力層の次元数を複数として且つ、活性化関数をソフトマックス関数としてもよい。その場合、たとえば、判定用写像への入力変数に、S50の処理において取得した履歴データを含めて且つ、出力の変数に、伝達系の異常である旨の確率を示す変数と、発生源の部品の異常である確率を示す変数と、を含めればよい。その場合、図4のS60の処理を削除し、発生源の部品の異常である確率を示す変数の値が大きい場合に、S62の処理を実行すればよい。
【0085】
なお、活性化関数としてソフトマックス関数を用いることは、判定用写像への入力変数に、S50の処理において取得した履歴データを含めることにとって必須ではない。たとえば、活性化関数がロジスティックシグモイド関数の場合であっても、判定用写像への入力変数に、S50の処理において取得した履歴データを含めてもよい。その場合、たとえば、図4のS60の処理を削除し、出力変数zの値が閾値zth未満の場合に、S62の処理を実行すればよい。
【0086】
・判定写像としては、確率的識別モデルに限らない。たとえば、伝達系の異常であるか否かに応じて出力変数の符号を反転させるモデルであってもよい。これは、たとえばサポートベクトルマシンにて実現できる。
【0087】
「異常判定処理について」
・異常判定処理としては、機械学習による学習済みモデルを用いる処理に限らない。たとえば、正常品のイナータンスと異常判定の対象となる製品のイナータンスとの差が所定値以上である場合に、伝達系の異常である旨判定してもよい。詳しくは、たとえば、図6(c)に例示したように、正常品とのイナータンスの差の最大値である周波数f1における差が所定値以上である場合に、伝達系の異常である旨判定すればよい。またたとえば、正常品との差の周波数による積分値が所定値以上である場合に、伝達系の異常である旨判定してもよい。
【0088】
「特定写像について」
図4には、ニューラルネットワークとして、中間層の層数が2層以上のネットワークを例示したが、これに限らない。中間層の層数が1層であってもよい。
【0089】
・発生源変数の値を出力する写像としては、ニューラルネットワークに限らない。たとえば、決定木であってもよい。またたとえば、発生源の候補毎に、その候補である確率を示す確率的識別モデルを各別に設けてもよい。さらに、確率的識別モデルに代えて、決定論的識別モデルを設けてもよい。これは、たとえば発生源の候補が変速装置30のギアである場合、変速装置30のギアが発生源であるか否かに応じて出力変数の符号が逆となるモデルによって実現できる。なお、このモデルとしては、サポートベクトルマシン等を利用できる。
【0090】
「駆動系変数について」
・駆動系変数としては、アクセル操作量ACCPおよびシフト変数Vsftに限らない。たとえば、アクセル操作量ACCPおよびシフト変数Vsftの2つに関しては、それらのうちのいずれか1つであってもよい。もっとも、駆動系変数に、それら2つの変数のうちの少なくとも1つが含まれること自体、必須ではない。
【0091】
「特定写像への入力変数について」
・特定写像への入力変数に、たとえば、ブレーキペダルの踏み込み量であるブレーキ操作量を含めてもよい。
【0092】
・特定写像への入力変数に、内燃機関10に対する要求トルクまたは要求出力等、車載原動機に対する要求トルクまたは要求出力を含めてもよい。さらに、たとえば、駆動輪36に対する要求トルクを含めてもよい。
【0093】
・特定写像への入力変数に、駆動系変数を含めることは必須ではない。
「仮判定処理について」
・S60の処理を設けることは必須ではない。ここで、S60の処理を省く場合としては、「判定写像について」の欄に記載した場合に限らない。
【0094】
「要因特定装置について」
・異音の要因特定装置としては、車両VCの製造メーカが所持するデータ解析装置60に限らない。たとえば、修理工場が備える端末であってもよい。
【0095】
・要因特定装置としては、CPU62とROM64とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、要因特定装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は1または任意の複数個でよい。
【0096】
「要因特定システムについて」
・要因特定システムとしては、修理工場の作業員が所持する多機能携帯端末70およびデータ解析装置60を備えるものに限らない。たとえば、多機能携帯端末70をユーザが所持するものとしてもよい。さらに、汎用の多機能携帯端末70に代えて、スキャンツール等、修理工場が所持する専用の端末であってもよい。
【0097】
「コンピュータについて」
・アプリケーションプログラム74aに規定された指令を実行するコンピュータとしては、多機能携帯端末70のCPU72に限らない。たとえば、修理工場が所持する専用の端末であってもよい。
【0098】
「車両について」
・ハイブリッド車両としては、シリーズ・パラレルハイブリッド車両に限らない。たとえば、パラレルハイブリッド車両であってもよい。もっとも、車両の推力生成装置として、内燃機関および回転電機を備える車両にも限らない。たとえば、回転電機のみを備える車両であってもよい。
【符号の説明】
【0099】
10…内燃機関
12…クランク軸
20…遊星歯車機構
22…第1モータジェネレータ
24…第2モータジェネレータ
30…変速装置
32…プロペラシャフト
34…ディファレンシャルギア
36…駆動輪
40…制御装置
50…ネットワーク
60…データ解析装置
70…多機能携帯端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7