(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】車両用のバッテリの容量劣化度を推定する推定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20241106BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20241106BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20241106BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241106BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241106BHJP
B60L 58/16 20190101ALI20241106BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
B60L58/16
(21)【出願番号】P 2021133922
(22)【出願日】2021-08-19
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 耕巳
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-240807(JP,A)
【文献】特開2012-200075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00
B60L 58/10-58/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のバッテリの容量劣化度を推定する推定装置であって、
前記バッテリの電圧及び電流をそれぞれ検出するセンサと、
前記センサによって検出された前記電圧及び前記電流から、前記バッテリの前記容量劣化度を推定する処理回路と、
を備え、
前記処理回路は、
前記車両の使用中に、検出された前記電圧及び前記電流に基づいて、前記バッテリの内部抵抗を繰り返し算出する処理と、
前記車両の一使用サイクルにおいて、算出された前記内部抵抗の最大値及び最小値を特定する処理と、
特定された前記最大値及び前記最小値に基づいて、前記バッテリの前記容量劣化度を推定する処理と、を実行する、
推定装置。
【請求項2】
前記処理回路は、
前記車両の一使用サイクル毎に特定される前記最大値及び前記最小値を、累積的に記憶していく処理をさらに実行し、
前記容量劣化度を推定する処理は、累積記憶された前記最大値のデータ群と、累積記憶された前記最小値のデータ群とに基づいて、将来の前記容量劣化度を推定する処理を含む、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記将来の前記容量劣化度を推定する処理は、
累積記憶された前記最大値のデータ群の第1近似曲線を算出する処理と、
累積記憶された前記最小値のデータ群の第2近似曲線を算出する処理と、
前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との間の将来における差分を、所定の閾値と比較する処理と、をさらに含む、請求項2に記載の推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、車両用のバッテリの容量劣化度を推定する推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリは、充放電を繰り返すことにより、例えば、バッテリの満充電容量の減少や内部抵抗の上昇といった劣化が生じる。この点に関して、特許文献1には、バッテリの満充電容量を推定する推定装置が記載されている。この推定装置は、バッテリの満充電容量を推定する処理回路を備える。処理回路は、充電量がゼロになるまで放電したときの内部抵抗を利用して、所定の劣化時点におけるバッテリの満充電容量を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような推定装置では、バッテリの満充電容量を推定するために、バッテリの充電量がゼロになるまで放電する必要がある。しかしながら、バッテリには、例えば車両に搭載される補機バッテリのように、通常の使用サイクルでは、所定の充電量を下回る状態で放電することが困難なものも含まれる。このような実情を鑑み、本明細書は、バッテリの充電量がゼロになるまで放電することなく、バッテリ容量劣化度を推定するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する技術は、車両用のバッテリの容量劣化度を推定する推定装置に具現化される。この推定装置は、前記バッテリの電圧及び電流をそれぞれ検出するセンサと、前記センサによって検出された前記電圧及び前記電流から、前記バッテリの前記容量劣化度を推定する処理回路と、を備える。前記処理回路は、前記車両の使用中に、検出された前記電圧及び前記電流に基づいて、前記バッテリの内部抵抗を繰り返し算出する処理と、前記車両の一使用サイクルにおいて、算出された前記内部抵抗の最大値及び最小値を特定する処理と、特定された前記最大値及び前記最小値に基づいて、前記バッテリの前記容量劣化度を推定する処理と、を実行する。
【0006】
一般に、バッテリの劣化が進行するほど、バッテリの内部抵抗は上昇する。そのことから、バッテリの内部抵抗を監視することで、バッテリの容量劣化度といった劣化の度合いを推定することができる。しかしながら、バッテリの内部抵抗は、バッテリの充電量によっても変化し、特に、バッテリが満充電された状態では、劣化に伴う内部抵抗の上昇が比較的に小さく抑えられる。その一方で、劣化の進行したバッテリでは、満充電における内部抵抗に問題がなくても、充電量の低下に応じて内部抵抗が大きく上昇する傾向があり、その結果、バッテリの実質的な容量は低下することになる。即ち、劣化(特に、満充電容量が減少していく容量劣化)が進行したバッテリでは、充電量の変化に伴って、内部抵抗が大きく変動することになる。
【0007】
上記の点に関して、本明細書が開示する推定装置では、車両の使用中に、バッテリの内部抵抗が繰り返し算出されており、車両の一使用サイクルにおいて、その内部抵抗の最大値及び最小値が特定される。そして、特定された内部抵抗の最大値及び最小値に基づいて、バッテリの容量劣化度が推定される。前述したように、劣化(特に、容量劣化)が進行したバッテリでは、充電量の変化に伴って内部抵抗が大きく変動する。車両では、バッテリの充電量が所定の範囲内に維持されるように、バッテリの充電と放電とが繰り返し実行されており、車両の一使用サイクル(起動から停止までの1トリップ)において、バッテリの充電量は当該所定の範囲内を繰り返し変動する。そのことから、車両の一使用サイクルにおいて内部抵抗の最大値及び最小値を監視することで、バッテリの充電量の変化に対する内部抵抗の変動幅を特定することができ、それらの値に基づいて、バッテリの劣化度合、特に容量劣化度を推定することができる。
【0008】
ここで、バッテリの容量劣化度は、いわゆる健全度(State of Health:SOH)であり、具体的には、初期状態の満充電容量に対する現在の満充電容量の割合で表現される。上記した推定装置によると、現在の満充電容量を直接的に測定する必要がなく、バッテリの完全放電を必要としない。車両の普段の使用サイクルのなかで、バッテリの充電量を通常の範囲に維持したまま、バッテリの容量劣化度を推定することができる。従って、車両用の補機バッテリのように、通常の使用サイクルにおいて所定の充電量を下回る状態で放電することが困難なバッテリについても、バッテリの容量劣化度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】バッテリ12の初期状態における充電量と内部抵抗との関係を説明する図。
【
図3】バッテリ12の充電量に対する内部抵抗の変化を説明するための図。なお、グラフDは、容量劣化の進行が比較的に大きいバッテリ12の内部抵抗の変化を示し、グラフHは、容量劣化の進行が比較的に小さいバッテリ12の内部抵抗の変化を示す。
【
図4】容量劣化の進行が比較的に大きいバッテリ12の内部抵抗の変動幅ΔR(D)について、経時的な変化の一例を示す図。
【
図5】容量劣化の進行が比較的に小さいバッテリ12の内部抵抗の変動幅ΔR(H)について、経時的な変化の一例を示す図。
【
図6】処理回路18が実行する一連の処理の一例を示すフロー図。
【
図7】現在から所定時間経過後における第1近似曲線Laと第2近似曲線Lbとの間の差分ΔLを説明するための図。
【
図8】内部抵抗の変動許容幅Wの決め方の一例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本技術の一実施形態において、処理回路は、車両の一使用サイクル毎に特定される最大値及び最小値を、累積的に記憶していく処理をさらに実行してもよい。この場合、容量劣化度を推定する処理は、累積記憶された最大値のデータ群と、累積記憶された最小値のデータ群とに基づいて、将来の容量劣化度を推定する処理を含んでもよい。このような構成によると、推定されたバッテリの容量劣化度に基づいて、例えば、バッテリを交換すべき時期を適切に予測することができるため、バッテリから供給される電力が不足することを未然に防ぐことができる。
【0011】
上記した実施形態において、将来の容量劣化度を推定する処理は、累積記憶された最大値のデータ群の第1近似曲線を算出する処理と、累積記憶された最小値のデータ群の第2近似曲線を算出する処理と、第1近似曲線と第2近似曲線との間の将来における差分を、所定の閾値と比較する処理と、をさらに含んでもよい。
【0012】
前述したように、劣化(特に、容量劣化)が進行したバッテリでは、充電量の変化に伴って内部抵抗が大きく変動することから、車両の一使用サイクル毎に特定される内部抵抗の最大値と最小値との差分が大きくなる傾向がある。そのため、この差分が大きいほど、満充電時におけるバッテリの満充電容量が減少している、即ち、バッテリの容量劣化度が大きいと推測される。従って、上記の構成によると、累積記憶された最大値のデータ群及び最小値のデータ群について、それぞれ近似曲線を算出し、その近似曲線の間の将来における差分に基づいて、将来におけるバッテリの容量劣化度を推定することができる。さらに、バッテリの容量劣化度が所定の閾値を上回っているときには、バッテリの交換を要求する通知や、アイドリングストップの禁止といった適切な処置が実行され得る。
【実施例】
【0013】
図面を参照して、実施例の推定装置10について説明する。
図1に示すように、本実施例の推定装置10は、車両用のバッテリ12の容量劣化度を推定する推定装置であり、典型的には、バッテリ12とともに車両に搭載されている。ここでいう車両は、いわゆる自動車であって、路面を走行する車両である。車両は、例えば、エンジン車、ハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車、ソーラーカー等である。
【0014】
バッテリ12は、複数の電池セルを直列に接続した二次電池である。本実施例におけるバッテリ12は、車両用の補機バッテリである。図示省略するが、バッテリ12は、ルームランプやカーナビゲーション装置等の補機と電気的に接続されており、補機へ電力を供給することができる。また、バッテリ12は、車両に搭載されているオルタネータ等の発電機とも電気的に接続されており、オルタネータ等からの電力供給により充電されることができる。
図2に示すように、バッテリ12では、充電量に応じて内部抵抗が変化し、充電量が減少するほど内部抵抗は増大する。
【0015】
図2に示すように、バッテリ12が搭載された車両では、車両の通常の使用において、バッテリ12の充電量が、第1の閾値A以上かつ第2の閾値B以下の範囲内となるように制御される。なお、第1の閾値Aは、ゼロよりも大きい値であり、第2の閾値Bは、第1の閾値Aよりも大きい値である。特に限定されないが、第1の閾値Aから第2の閾値Bまでの範囲は、充電率(State of Charge:SOC)に基づいて設定されることができ、例えば充電率の変動幅が5%となる範囲として設定されることができる。一例ではあるが、バッテリ12の充電及び放電は、車両の制御装置によって監視及び制御される。例えば、バッテリ12からの放電により、充電量が第1の閾値Aを下回るとバッテリ12の充電が開始され、充電量が第2の閾値Bに到達すると充電が終了する。ここで、特に限定されないが、本実施例における第2の閾値Bは、バッテリ12が満充電されるときの充電量に設定されている。
【0016】
特に限定されないが、バッテリ12の通常の使用における充電量の範囲内で、内部抵抗が許容上限値Rnを上回るときには、バッテリ12の劣化が進行していると判定することができる。そのため、内部抵抗が許容上限値Rnを上回るバッテリ12については、処理回路18から、車両の制御装置に対して、バッテリ12の充放電を禁止する指令が送信される。バッテリ12の充放電を禁止する指令を受けた制御装置は、バッテリ12の充放電を禁止する。このとき、車両の制御装置は、バッテリ12の交換を要求する通知をしたり、アイドリングストップを禁止したりするといった適切な処置を実行することができる。
【0017】
但し、バッテリ12は、必ずしも補機バッテリである必要はなく、車輪を駆動するための走行用バッテリであってもよい。また、複数の電池セルの具体的な数は、特に限定されず、少なくとも一つであればよい。複数の電池セルの各々は、例えば、リチウムイオン電池である。但し、複数の電池セルの各々は、必ずしもリチウムイオン電池である必要はなく、ニッケル水素電池といった他の電池であってもよい。
【0018】
図1に示すように、推定装置10は、電圧センサ14と、電流センサ16と、処理回路18とを備える。電圧センサ14は、バッテリ12の両端と電気的に接続されており、バッテリ12の電圧を検出することができる。電流センサ16は、バッテリ12と直列に接続されており、バッテリ12の電流を検出することができる。処理回路18は、各センサ14、16と通信可能に接続されており、各センサ14、16によって検出されたバッテリ12の電圧及び電流を監視することができる。さらに、処理回路18は、各センサ14、16によって検出された電圧及び電流に基づいて内部抵抗を算出し、その内部抵抗に基づいてバッテリ12の容量劣化度を推定することができる。
【0019】
一般に、バッテリ12の劣化が進行するほど、バッテリ12の内部抵抗は上昇する。そのことから、バッテリ12の内部抵抗を監視することで、バッテリ12の容量劣化度といった劣化の度合いを推定することができる。しかしながら、バッテリ12の内部抵抗は、バッテリ12の充電量によっても変化する。
【0020】
この点に関して、
図2、
図3を参照しながら説明する。説明の便宜上、
図2におけるバッテリ12が初期状態であるとする。そして、
図2のバッテリ12を繰り返し充放電することにより劣化が進行したバッテリ12が、
図3中のグラフD、Hに対応する。但し、
図3中のグラフDは、繰り返し充放電することにより容量劣化が比較的に進行したバッテリ12を示し、
図3中のグラフHは、繰り返し充放電しても容量劣化の進行が比較的に小さいバッテリ12を示す。
【0021】
図3中のグラフDに示すように、容量劣化の進行が比較的に大きいバッテリ12では、充電量の低下に応じて、内部抵抗が大きく上昇する傾向がある。この場合、充電量が第2の閾値Bであるときの内部抵抗Rb(D)と、充電量が第1の閾値Aであるときの内部抵抗Ra(D)との間に、大きな差分が生じる。これに対して、
図3中のグラフHに示すように、容量劣化の進行が比較的に小さいバッテリ12では、充電量の低下に応じて、内部抵抗が緩やかに上昇する傾向がある。この場合、充電量が第2の閾値Bであるときの内部抵抗Rb(H)と、充電量が第1の閾値Aであるときの内部抵抗Ra(H)との間に、大きな差分は生じない。このように、劣化(特に、満充電容量が減少していく容量劣化)が進行したバッテリ12では、充電量の変化に伴って、内部抵抗が大きく変動することになる。
【0022】
また、上記のようなバッテリ12の劣化に応じた内部抵抗の変化は、充電量が第1の閾値Aであるときの内部抵抗Raと、充電量が第2の閾値Bであるときの内部抵抗Rbとの差分ΔR(以下、単に「内部抵抗の変動幅ΔR」と称することがある)に反映される。即ち、容量劣化の進行が比較的に大きいバッテリ12の内部抵抗の変動幅ΔR(D)(
図4参照)は、容量劣化の進行が比較的に小さいバッテリ12の内部抵抗の変動幅ΔR(H)(
図5参照)よりも、有意に大きい。従って、バッテリ12について算出された内部抵抗の変動幅ΔRが大きいほど、バッテリ12の劣化が進行していると推定することができる。
【0023】
ここで、バッテリ12の容量劣化度は、いわゆる健全度(State of Health:SOH)であり、具体的には、初期状態の満充電容量に対する現在の満充電容量の割合で表現される。この点に関しても、
図2、
図3を参照して説明する。
【0024】
図2に示すように、初期状態のバッテリ12において、満充電から放電可能な電流の積算値(いわゆる、満充電容量)はC(P)であり、このときの内部抵抗はRxまで上昇する。これに対して、
図3に示すように、容量劣化の進行が比較的に大きいバッテリ12(図中のD)では、放電に伴う内部抵抗の上昇率が大きく、満充電から比較的に少ない放電量C(D)で内部抵抗が同じRxに到達する。即ち、容量劣化が進行していると、バッテリ12の満充電容量はC(D)まで低下する。従って、このときのバッテリ12の容量劣化度は、C(D)/C(P)として算出される。同様に、容量劣化の進行が比較的に小さいバッテリ12の満充電容量は、C(H)となることから、バッテリ12の容量劣化度は、C(H)/C(P)として算出される。
図3から分かるように、容量劣化の進行が比較的に大きいバッテリ12の満充電容量C(D)は、容量劣化の進行が比較的に小さいバッテリ12の満充電容量C(H)よりも小さいことから、バッテリ12の容量劣化度は、容量劣化が進行しているバッテリ12において有意に小さくなる。以上のように、バッテリ12の容量劣化度は、バッテリ12の劣化の進行度合を示す指標と言える。
【0025】
次に、処理回路18が実行するバッテリ12の容量劣化度を推定する一連の処理について説明する。ステップS10において、処理回路18は、車両の使用中に、検出された電圧及び電流に基づいて、バッテリ12の内部抵抗を繰り返し算出する処理を実行する。特に限定されないが、車両の使用中とは、イグニッションがオンされている間を意味する。上記のように、車両では、バッテリ12の充電量が第1の閾値Aから第2の閾値Bまでの所定の範囲内に維持されるように、バッテリ12の充電と放電とが繰り返し実行されている。そのことから、ステップS10では、様々な充電量の状態においてバッテリ12の内部抵抗が算出され、そのときの充電量に応じて算出される内部抵抗は様々な値を取り得る。一例ではあるが、内部抵抗は、電圧センサ14による検出値を、電流センサ16による検出値で割ることにより算出される。ここで、内部抵抗を測定するタイミングは、バッテリ12に流れる電流が大きいときほど好ましく、例えば、スタータモータやブレーキ装置、パワーステアリング装置が作動したタイミングとすることができる。
【0026】
ステップS12では、処理回路18は、車両の一使用サイクルにおいて、算出された内部抵抗の最大値及び最小値を特定する処理を実行する。特に限定されないが、車両の一使用サイクルとは、起動から停止までの1トリップのことであり、イグニッションがオンされてからオフされるまでの間を意味する。バッテリ12の充電量が低下するほど、バッテリ12の内部抵抗は上昇する傾向があるため、ステップS12で特定される内部抵抗の最小値は、充電量が第2の閾値Bに近いときに算出された内部抵抗(
図3中のRbに相当する)であると考えられる。その一方で、ステップS12で特定される内部抵抗の最大値は、充電量が第1の閾値Aに近いときに算出された内部抵抗(
図3中のRaに相当する)であると考えられる。特定された最大値及び最小値は、処理回路18によって累積的に記憶されていく。
【0027】
ステップS14では、処理回路18は、特定された最大値及び最小値に基づいて、バッテリ12の容量劣化度を推定する処理を実行する。前述したように、処理回路18は、車両の一使用サイクル毎に内部抵抗の最大値及び最小値を特定し(ステップS12)、特定された最大値及び最小値を累積的に記憶している。
図7は、累積記憶された内部抵抗の最大値及び最小値のデータ群の一例を示す。
図7中の黒三角(▲)は、累積記憶された内部抵抗の最大値(
図3中のRaに相当する)のデータ群を示しており、
図7中の黒丸(●)は、累積記憶された内部抵抗の最小値(
図3中のRbに相当する)のデータ群を示している。この累積記憶された最大値のデータ群と、累積記憶された最小値のデータ群とに基づいて、将来の容量劣化度が推定される。
【0028】
詳しくは、処理回路18はさらに、累積記憶された最大値のデータ群について第1近似曲線Laを算出するとともに、累積記憶された最小値のデータ群について第2近似曲線Lbを算出する。そして処理回路18は、現在から所定期間後(例えば一月後)における第1近似曲線Laと第2近似曲線Lbとの間の差分ΔL(以下、単に「将来における差分ΔL」と称する)を算出し、その将来における差分ΔLを所定の変動許容幅Wと比較する。ここでいう変動許容幅Wとは、バッテリ12の容量劣化を判定するための閾値である。変動許容幅Wは、固定値であってもよいが、例えば
図8に示すように、満充電時の内部抵抗に応じて変更されてもよい。
図8に示す一例では、満充電時の内部抵抗が大きいときほど、変動許容幅Wが小さな値に設定される。詳しくは、満充電時の内部抵抗に、変動許容幅Wを加算した値が、前述した許容上限値Rnと等しくなるように、変動許容幅Wは設定される。例えば、満充電時の内部抵抗がRcの場合、変動許容幅WはWcに設定され、Rc+Wc=Rnの関係が満たされる。なお、満充電時の内部抵抗が、仮に許容上限値Rnに達している場合、変動許容幅Wの値はゼロに設定される。バッテリ12の内部抵抗が、満充電時においても許容上限値Rnを上回るときは、バッテリ12の寿命が完全に尽きているためである。
【0029】
従って、将来における差分ΔLが内部抵抗の変動許容幅Wを超えるときには、処理回路18は、バッテリ12の容量劣化が進行していると判定する。そして、処理回路18は、車両の制御装置に対して、バッテリ12の充放電を禁止する指令を送信する。一方で、将来における差分ΔLが内部抵抗の変動許容幅W内を超えないときには、処理回路18は、バッテリ12の容量劣化が進行していないと判定する。なお、このような所定の変動許容幅Wとの比較は、将来における差分ΔLに限られず、現在の内部抵抗の変動幅ΔR(
図3参照)についても行うことができる。
【0030】
上記した推定装置10では、車両の使用中に、バッテリ12の内部抵抗が繰り返し算出されており、車両の一使用サイクルにおいて、その内部抵抗の最大値及び最小値が特定される。そして、特定された内部抵抗の最大値及び最小値に基づいて、バッテリ12の容量劣化度が推定される。前述したように、劣化(特に、容量劣化)が進行したバッテリ12では、充電量の変化に伴って内部抵抗が大きく変動する。車両では、バッテリ12の充電量が所定の範囲内に維持されるように、バッテリ12の充電と放電とが繰り返し実行されており、車両の一使用サイクル(起動から停止までの1トリップ)において、バッテリ12の充電量は当該所定の範囲内を繰り返し変動する。そのことから、車両の一使用サイクルにおいて内部抵抗の最大値及び最小値を監視することで、バッテリ12の充電量の変化に対する内部抵抗の変動幅を特定することができ、それらの値に基づいて、バッテリ12の劣化度合、特に容量劣化度を推定することができる。具体的には、バッテリ12について算出された内部抵抗の変動幅(
図3中のΔRに相当する)が大きいほど、バッテリ12の劣化が進行していると推定することができる。
【0031】
また、上記の推定装置10によると、現在の満充電容量を直接的に測定する必要がなく、バッテリ12の完全放電を必要としない。車両の普段の使用サイクルのなかで、バッテリ12の充電量を通常の範囲に維持したまま、バッテリ12の容量劣化度を推定することができる。従って、車両用の補機バッテリのように、通常の使用サイクルにおいて所定の充電量を下回る状態で放電することが困難なバッテリ12についても、バッテリ12の容量劣化度を推定することができる。
【0032】
さらに、上記の構成によると、累積記憶された最大値のデータ群(
図7中の黒三角(▲))及び最小値のデータ群(
図7中の黒丸(●))について、それぞれ近似曲線La、Lbを算出し、二つの近似曲線La、Lbの間の将来における差分ΔLに基づいて、将来におけるバッテリ12の容量劣化度を推定することができる。さらに、将来における差分ΔLが内部抵抗の変動許容幅Wを上回っているときには、バッテリ12の交換を要求する通知や、アイドリングストップの禁止といった適切な処置を、前もって実行することができる。
【0033】
なお、特に限定されないが、上記した推定装置10では、将来におけるバッテリ12の容量劣化度を推定するときに、複数の車両において特定された内部抵抗の最大値及び最小値を利用することができる。即ち、推定装置10は、外部サーバと通信可能に接続されており、当該外部サーバと通信可能に接続されている複数の車両において特定された内部抵抗の最大値及び最小値を取得可能に構成されることができる。これにより、推定装置10は、外部サーバに集約された多数の内部抵抗の最大値のデータ群及び最小値のデータ群を用いて、バッテリ12の容量劣化度を推定することができる。一般に、内部抵抗は、周囲温度、バッテリ12の使用頻度及び使用時間等の各指標から影響を受けることから、複数の車両について特定された内部抵抗の最大値及び最小値を利用することにより、推定対象となるバッテリ12の容量劣化度が精度よく推定され得る。
【0034】
以上、いくつかの具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書又は図面に説明した技術要素は、単独であるいは組み合わせによって技術的有用性を発揮するものである。
【符号の説明】
【0035】
10 :推定装置
12 :バッテリ
14 :電圧センサ
16 :電流センサ
18 :処理回路
A :第1の閾値
B :第2の閾値
La :第1近似曲線
Lb :第2近似曲線
Ra :充電量が第1の閾値であるときの内部抵抗
Rb :充電量が第2の閾値であるときの内部抵抗
Rn :許容上限値
W :変動許容幅
ΔL :差分
ΔR :変動幅