(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ワイヤロープ検査方法、ワイヤロープ検査システム、および、ワイヤロープ検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/82 20060101AFI20241106BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20241106BHJP
B66B 7/12 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G01N27/82
B66B5/00 G
B66B7/12 Z
(21)【出願番号】P 2021144274
(22)【出願日】2021-09-03
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】戸波 寛道
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/152939(WO,A1)
【文献】特開2020-008500(JP,A)
【文献】特開2020-034509(JP,A)
【文献】国際公開第2020/246131(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0223206(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
B66B 5/00-5/28
B66B 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象であるワイヤロープに対して磁界を印加するステップと、
前記ワイヤロープに対して相対的に移動しながら、磁界が印加された前記ワイヤロープの磁束の変化を検出することによって検出信号を取得するステップと、
取得された前記検出信号に基づく信号波形である磁束波形に対して、1回目の微分処理を実行することによって1回微分波形を取得するステップと、
取得された前記1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得するステップと、
取得された前記2回微分波形の正の成分と、取得された前記2回微分波形の負の成分の絶対値とを、前記ワイヤロープの異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形を生成するステップと、
生成された前記加算波形に基づく値が所定の判定しきい値よりも大きい場合に、前記ワイヤロープの前記異常部分を判定するステップと、を備える、ワイヤロープ検査方法。
【請求項2】
前記1回微分波形を取得するステップは、前記磁束波形に対して、所定の第1微分区間による前記1回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップを含み、
前記2回微分波形を取得するステップは、前記1回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行することによって取得された前記1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、所定の第2微分区間による前記2回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップを含む、請求項1に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項3】
前記1回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップは、予め取得された前記ワイヤロープの前記異常部分を示す信号波形である異常波形に基づいて設定された前記第1微分区間による前記1回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップを含み、
前記2回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップは、前記異常波形に基づいて設定された前記第2微分区間による前記2回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップを含む、請求項2に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項4】
前記加算波形を生成するステップよりも前に、予め取得された前記ワイヤロープの前記異常部分を示す信号波形である異常波形に基づいて、前記加算波形を生成するためのシフト量を予め設定するステップをさらに備え、
前記加算波形を生成するステップは、前記2回微分波形の正の成分と、前記2回微分波形の負の成分の絶対値とのいずれか一方を、予め設定された前記シフト量に基づいて時間軸に沿ってシフトさせた状態で、いずれか他方に加算することによって、前記加算波形を生成するステップを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項5】
前記加算波形を生成するステップよりも前に、
取得された前記2回微分波形の正の成分と、取得された前記2回微分波形の負の成分の絶対値とのいずれか一方を、所定のシフト量変更範囲内においてシフト量を変更させながら時間軸に沿ってシフトさせた状態で、いずれか他方に加算することによって、複数の予備加算波形を生成するステップを含み、
前記加算波形を生成するステップは、生成された前記複数の予備加算波形の各々に基づく最大値が最も大きい前記予備加算波形の前記シフト量に基づいて、前記2回微分波形の正の成分と、前記2回微分波形の負の成分の絶対値とのいずれか一方を、前記ワイヤロープの前記異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で、いずれか他方に加算することによって、前記加算波形を生成するステップを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項6】
前記1回微分波形を取得するステップよりも前に、検査対象である前記ワイヤロープの磁束の変化を予め検出することによって取得された基準となる基準検出信号と、取得された前記検出信号との差分に基づいて前記磁束波形を生成するステップをさらに備える、請求項1~5のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項7】
前記2回微分波形を取得するステップよりも前に、前記磁束波形の形状に基づいて前記1回微分波形の正の成分または負の成分のいずれかを抽出するステップをさらに備える、請求項1~6のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項8】
前記2回微分波形を取得するステップよりも前に、前記1回微分波形に基づく値と所定の抽出判定しきい値との比較に基づいて、前記1回微分波形の正の成分または負の成分のいずれかを抽出するステップをさらに備える、請求項1~6のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項9】
検査対象であるワイヤロープの磁束の変化を検出するワイヤロープ検査装置と、
前記ワイヤロープ検査装置による前記ワイヤロープの測定結果に基づいて、前記ワイヤロープの異常部分を判定する処理を実行する処理装置と、を備え、
前記ワイヤロープ検査装置は、前記ワイヤロープに対して磁界を印加する励磁部と、前記ワイヤロープに対して相対的に移動しながら、前記励磁部により磁界が印加された前記ワイヤロープの磁束の変化を検出することによって検出信号を取得する検出部と、を含み、
前記処理装置は、
前記検出部により取得された前記検出信号に基づく信号波形である磁束波形に対して、1回目の微分処理を実行することによって1回微分波形を取得する1回目微分処理部と、
前記1回目微分処理部により取得された前記1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得する2回目微分処理部と、
前記2回目微分処理部により取得された前記2回微分波形の正の成分と、取得された前記2回微分波形の負の成分の絶対値とを、前記ワイヤロープの前記異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形を生成する加算処理部と、
前記加算処理部により生成された前記加算波形に基づく値が所定の判定しきい値よりも大きい場合に、前記ワイヤロープの前記異常部分を判定する判定処理部と、を含む、ワイヤロープ検査システム。
【請求項10】
検査対象であるワイヤロープに対して磁界を印加する励磁部と、
前記ワイヤロープに対して相対的に移動しながら、前記励磁部により磁界が印加された前記ワイヤロープの磁束の変化を検出することによって検出信号を取得する検出部と、
前記検出部により取得された前記検出信号に基づいて、前記ワイヤロープの異常部分を判定する処理を実行する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記検出部により取得された前記検出信号に基づく信号波形である磁束波形に対して、1回目の微分処理を実行することによって1回微分波形を取得する1回目微分処理部と、
前記1回目微分処理部により取得された前記1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得する2回目微分処理部と、
前記2回目微分処理部により取得された前記2回微分波形の正の成分と、取得された前記2回微分波形の負の成分の絶対値とを、前記ワイヤロープの前記異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形を生成する加算処理部と、
前記加算処理部により生成された前記加算波形に基づく値が所定の判定しきい値よりも大きい場合に、前記ワイヤロープの前記異常部分を判定する判定処理部と、を含む、ワイヤロープ検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープ検査方法、ワイヤロープ検査システム、および、ワイヤロープ検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スチールワイヤロープの磁束の変化を検知する検査装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に記載されている検査装置は、ワイヤロープの磁界の変化を検知する検知コイルを備える。この検知コイルは、2つのコイルからなる差動コイルとなっている。差動コイルによる検知信号は、傷などのない部分では略ゼロとなり、傷などのある部分ではゼロよりも大きい値を持つ。上記特許文献1に記載されている検査装置は、検知コイルからの検知信号の大きさに基づいて、ワイヤロープの傷などを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1には記載されていないが、検知コイル(検出部)によって検知されたワイヤロープの磁束に基づいてワイヤロープの異常を判定する場合には、ワイヤロープの形状などに起因して検出される磁束(磁気特性)は、一定とならず固有の磁気特性の変化を有する。この固有の磁気特性の変化は、検出部からの検出信号(検知信号)にノイズとして含まれる。このノイズの信号と異常部分の信号との差異が小さいことに起因して、ワイヤロープの異常部分の検出の精度が低下する。そのため、ワイヤロープに固有のノイズとワイヤロープの異常部分とを区別することによって、ワイヤロープの異常部分を精度よく判定することが望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ワイヤロープに固有のノイズとワイヤロープの異常部分とを区別することにより、ワイヤロープの異常部分を精度よく判定することが可能なワイヤロープ検査方法、ワイヤロープ検査システム、および、ワイヤロープ検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面におけるワイヤロープ検査方法は、検査対象であるワイヤロープに対して磁界を印加するステップと、ワイヤロープに対して相対的に移動しながら、磁界が印加されたワイヤロープの磁束の変化を検出することによって検出信号を取得するステップと、取得された検出信号に基づく信号波形である磁束波形に対して、1回目の微分処理を実行することによって1回微分波形を取得するステップと、取得された1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得するステップと、取得された2回微分波形の正の成分と、取得された2回微分波形の負の成分の絶対値とを、ワイヤロープの異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形を生成するステップと、生成された加算波形に基づく値が所定の判定しきい値よりも大きい場合に、ワイヤロープの異常部分を判定するステップと、を備える。なお、ワイヤロープの「異常部分」とは、素線断線、キンク、錆、異物の付着など、ワイヤロープの断面積または組成の変化が発生した部分を含む広い概念である。
【0008】
この発明の第2の局面におけるワイヤロープ検査システムは、検査対象であるワイヤロープの磁束の変化を検出するワイヤロープ検査装置と、ワイヤロープ検査装置によるワイヤロープの測定結果に基づいて、ワイヤロープの異常部分を判定する処理を実行する処理装置と、を備え、ワイヤロープ検査装置は、ワイヤロープに対して磁界を印加する励磁部と、ワイヤロープに対して相対的に移動しながら、励磁部により磁界が印加されたワイヤロープの磁束の変化を検出することによって検出信号を取得する検出部と、を含み、処理装置は、検出部により取得された検出信号に基づく信号波形である磁束波形に対して、1回目の微分処理を実行することによって1回微分波形を取得する1回目微分処理部と、1回目微分処理部により取得された1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得する2回目微分処理部と、2回目微分処理部により取得された2回微分波形の正の成分と、取得された2回微分波形の負の成分の絶対値とを、ワイヤロープの異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形を生成する加算処理部と、加算処理部により生成された加算波形に基づく値が所定の判定しきい値よりも大きい場合に、ワイヤロープの異常部分を判定する判定処理部と、を含む。
【0009】
この発明の第3の局面におけるワイヤロープ検査装置は、検査対象であるワイヤロープに対して磁界を印加する励磁部と、ワイヤロープに対して相対的に移動しながら、励磁部により磁界が印加されたワイヤロープの磁束の変化を検出することによって検出信号を取得する検出部と、検出部により取得された検出信号に基づいて、ワイヤロープの異常部分を判定する処理を実行する処理部と、を備え、処理部は、検出部により取得された検出信号に基づく信号波形である磁束波形に対して、1回目の微分処理を実行することによって1回微分波形を取得する1回目微分処理部と、1回目微分処理部により取得された1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得する2回目微分処理部と、2回目微分処理部により取得された2回微分波形の正の成分と、取得された2回微分波形の負の成分の絶対値とを、ワイヤロープの異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形を生成する加算処理部と、加算処理部により生成された加算波形に基づく値が所定の判定しきい値よりも大きい場合に、ワイヤロープの異常部分を判定する判定処理部と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の局面におけるワイヤロープ検査方法、第2の局面におけるワイヤロープ検査システム、および、第3の局面におけるワイヤロープ検査装置では、上記のように、取得された検出信号に基づく信号波形である磁束波形に対して、1回目の微分処理を実行することによって1回微分波形を取得する。そして、取得された1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得する。ここで、磁束波形の形状のうちの異常部分に対応する部分の形状は、異常部分の種類(素線断線、キンク、錆、異物の付着など)によって、右上がり、または、右下がりのいずれかの形状を有する。そのため、1回微分波形のうちの異常部分に対応する波形は、異常部分の種類によって、正の成分、または、負の成分のいずれかに含まれる。たとえば、異常部分が断線である場合には、異常部分に対応する波形の形状は右上がりとなる。したがって、異常部分が断線である場合には、1回微分波形のうちの異常部分に対応する部分の波形は、1回微分波形のうちの正の成分のみに含まれる。これに対して、本発明では、取得された1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって2回微分波形を取得するので、異常部分の種類に対応するように抽出された正の成分または負の成分に対してのみ2回目の微分処理を実行することができる。そのため、異常部分が含まれずノイズのみが含まれる成分の波形をキャンセルした状態で2回目の微分処理を実行することができる。そして、本発明では、上記のように、取得された2回微分波形の正の成分と、取得された2回微分波形の負の成分の絶対値とを、ワイヤロープの異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形を生成する。これにより、異常部分が含まれずノイズのみが含まれる成分の波形をキャンセルした状態で取得された2回微分波形に基づいて、ワイヤロープの異常部分を示す部分が重なり合うように2回微分波形の正の成分と負の成分の絶対値とを加算することによって加算波形を生成するため、異常部分に対応する部分が異常部分以外のノイズよりもより際立つように大きいピークを有するように加算波形を生成することができる。そのため、加算波形のピークを判定することによってワイヤロープに固有のノイズとワイヤロープの異常部分とを区別することができる。その結果、ワイヤロープに固有のノイズとワイヤロープの異常部分とを区別することにより、ワイヤロープの異常部分を精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態によるワイヤロープ検査システムの全体構成を示した模式図である。
【
図2】第1実施形態によるワイヤロープ検査システムの全体構成を示したブロック図である。
【
図3】第1実施形態のワイヤロープ検査装置による整磁部、励磁部、および、検出部の配置を示した図である。
【
図4】検出部の検知コイルの構成を説明するための模式図である。
【
図6】異常部分を示す異常波形を説明するための図であって、(A)は、素線断線の異常波形を示した図であり、(B)は、キンクの異常波形を示した図である。
【
図7】磁束波形を異常部分の種類に応じて区別する例を示した図である。
【
図8】処理用パラメータの設定を説明するための図である。
【
図10】2回微分波形の生成を説明するための図である。
【
図12】加算波形と判定しきい値とを説明するための図である。
【
図13】第1実施形態によるワイヤロープ検査方法を説明するためのフローチャート図である。
【
図14】第2実施形態によるワイヤロープ検査システムの全体構成を示したブロック図である。
【
図15】第2実施形態によるシフト量の設定を説明するための図である。
【
図16】第3実施形態によるワイヤロープ検査システムの全体構成を示したブロック図である。
【
図17】第3実施形態による磁束波形の取得を説明するための図である。
【
図18】第4実施形態によるワイヤロープ検査システムの全体構成を示したブロック図である。
【
図19】第4実施形態による1回微分波形と抽出判定しきい値を説明するための図である。
【
図20】本発明の第1~第4実施形態の変形例によるワイヤロープ検査装置の全体構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
[第1実施形態]
まず、
図1~
図12を参照して、本発明の第1実施形態によるワイヤロープ検査システム100の構成について説明する。なお、以下の説明において、「直交」とは、90度および90度近傍の角度をなして交差することを意味する。また、「平行」とは、平行および略平行を含む。
【0014】
(ワイヤロープ検査システムの構成)
図1に示すように、ワイヤロープ検査システム100は、ワイヤロープ検査装置101と、処理装置102とを備える。ワイヤロープ検査装置101は、検査対象であるワイヤロープWの磁束の変化を検出する。そして、ワイヤロープ検査装置101は、ワイヤロープWの磁束の変化を検出することによって測定された測定結果を処理装置102に送信するように構成されている。処理装置102は、ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの測定結果に基づいて、ワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行する。また、処理装置102は、ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの測定結果および異常部分の判定結果の表示などを行う。
【0015】
ワイヤロープ検査システム100は、エレベータ103に設けられたワイヤロープWの検査を行う。具体的には、ワイヤロープ検査システム100は、検査対象であるエレベータ103のワイヤロープWの異常部分(素線断線など)を検査するためのシステムである。また、ワイヤロープ検査システム100は、ワイヤロープWの内部の磁束を測定する全磁束法により、目視により確認しにくいワイヤロープWの異常を確認可能なシステムである。ワイヤロープWに異常部分が含まれる場合には、異常部分における磁束が正常部分とは異なる。全磁束法は、ワイヤロープWの表面の異常部分などからの漏洩磁束のみを測定する方法と異なり、ワイヤロープWの内部の異常部分をも測定可能な方法である。
【0016】
(エレベータの構成)
図1に示すように、エレベータ103は、かご室103a、シーブ103b、シーブ103c、制御装置103d、および、ワイヤロープWを備える。エレベータ103は、巻上機に設けられたシーブ103b(滑車)が回転してワイヤロープWを巻き上げることによって、人および積み荷などを積載するかご室103aを鉛直方向に移動させるように構成されている。また、エレベータ103は、たとえば、2つのシーブ103bおよびシーブ103cを備えるダブルラップ方式(フルラップ方式)のロープ式エレベータである。ダブルラップ方式とは、巻上機のシーブ103bから、そらせ車であるシーブ103cへと導かれたワイヤロープWを再度巻き上げ機のシーブ103bに戻すことによって、シーブ103bに2回ワイヤロープWを掛ける構造である。制御装置103dは、エレベータ103の各部の動作を制御する制御盤を含む。また、制御装置103dは、無線通信モジュールなどを含み、処理装置102と通信可能に構成されている。
【0017】
ワイヤロープWは、磁性を有する素線材料が編みこまれる(たとえば、ストランド編みされる)ことにより形成されており、長尺材からなる磁性体である。ワイヤロープWは、劣化による切断が生じることを未然に防ぐために、ワイヤロープ検査装置101により状態(異常部分の有無)を検査される。ワイヤロープWの磁束の計測の結果、劣化の程度が決められた基準を超えたと判断されるワイヤロープWは、検査作業者により交換される。なお、
図1に示す例では、便宜上、ワイヤロープWを1本しか図示していないが、エレベータ103は、複数本のワイヤロープWを備えている。たとえば、エレベータ103は、4本のワイヤロープWを備える。
【0018】
ワイヤロープWは、ワイヤロープ検査装置101の位置において、X方向(
図3参照)に延びるように配置されている。ワイヤロープ検査装置101は、ワイヤロープWの表面に沿って、ワイヤロープWに対して相対的にワイヤロープWの延びる方向(X方向)に移動しながら、ワイヤロープWの磁束を計測する。エレベータ103に使用されるワイヤロープWのように、ワイヤロープW自体が移動する場合には、ワイヤロープWをX2方向に移動させながら、ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの磁束の計測が行われる。これにより、ワイヤロープ検査装置101は、ワイヤロープWのX方向の各位置における磁束を計測することによって、ワイヤロープWのX方向の各位置における傷みを検査する。
【0019】
(ワイヤロープ検査装置の構成)
図2および
図3に示すように、ワイヤロープ検査装置101は、整磁部10、励磁部20、検出部30、および、制御基板40を備える。ワイヤロープ検査装置101は、エレベータ103のシーブ103bおよびシーブ103cの間において、ワイヤロープWの検査を行うように配置されている。
【0020】
整磁部10は、ワイヤロープWに対して、予め磁界を印加することによって、ワイヤロープWの磁化の方向を整える。たとえば、整磁部10は、永久磁石である。また、整磁部10は、1対の整磁部10aおよび整磁部10bを含む。1対の整磁部10aおよび10bは、ワイヤロープWを挟み込むようにワイヤロープWの短手方向(ワイヤロープWの延びる方向と直交する方向、Z方向)の両側に配置される。具体的には、整磁部10aは、ワイヤロープWのZ1方向側に配置される。そして、整磁部10bは、ワイヤロープWのZ2方向側に配置される。そして、整磁部10は、整磁部10aのZ2方向に向けられたN極(斜線あり)と整磁部10bのZ1方向に向けられたN極(斜線あり)とがワイヤロープWを挟んで対向するように設けられている。整磁部10aおよび10bは、ワイヤロープWの磁化の方向を略均一に整えるために、比較的強い磁界を印加することが可能に構成されている。
【0021】
励磁部20は、ワイヤロープWの磁化の状態を励振する(振動させる)ように、ワイヤロープWに対して磁界(磁束)を印加するように構成されている。具体的には、励磁部20は、励振コイル21を含む。励振コイル21は、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿って、複数(4本)のワイヤロープWの全てをまとめて巻回するように設けられる。また、励振コイル21は、ワイヤロープWに対して後述する検出部30の検知コイル31aおよび31bの外側を巻回するように設けられている。
【0022】
励振コイル21は、励振交流電流が流れることにより、ワイヤロープWが延びる方向(X方向)に沿った磁束(磁界)をコイル内部(コイルの輪の内側)に発生させる。具体的には、後述する制御基板40の処理部41による制御によって励磁部20(励振コイル21)に一定の大きさかつ一定の周波数を有する交流電流(励振電流)が流されることにより、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)に振動するように磁界が印加される。すなわち、ワイヤロープWにおいて、整磁部10によって予め整えられた磁界(磁束)が、励磁部20によってX1方向への磁界とX2方向への磁界が周期的に現れるように振動される。
【0023】
検出部30は、ワイヤロープWに対して相対的に移動しながら、整磁部10により予め磁界が印加された後(整磁された後)に、励磁部20によって振動するように磁界が印加された(磁界が励振された)ワイヤロープWの磁束の変化を検出することによって検出信号を取得するように構成されている。第1実施形態のワイヤロープ検査システム100では、検出部30は、X2方向に向かって移動するワイヤロープWの磁束の変化を検出することによって、ワイヤロープWに対して相対的に移動しながらワイヤロープWの磁束の変化を検出する。
【0024】
具体的には、検出部30は、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)に直交する方向(Z方向)の一方側(Z1方向側)に配置される検知コイル31aと、他方側(Z2方向側)に配置される検知コイル31bとを含む。また、検知コイル31aおよび31bは、2つのコイルによって1つのワイヤロープWを取り囲んだ状態で挟み込むように配置される。なお、検知コイル31aおよび31bは、それぞれ、複数(4本)のワイヤロープWの各々に1つずつ設けられる。
【0025】
図4に示すように、検知コイル31aおよび31bは、ワイヤロープWの延びる方向に沿って、ワイヤロープWの周りに巻回されるように設けられている。具体的には、検知コイル31aと検知コイル31bとは、それぞれ独立した鞍型コイル(サドル型コイル)である。検知コイル31aと検知コイル31bとの各々は、ワイヤロープWの半周ずつを覆うように配置されている。したがって、検知コイル31aおよび31bは、検知コイル31aと検知コイル31bとを併せることによって、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿って、2つの鞍型コイルによってワイヤロープWの全周を巻回するように設けられている。また、検知コイル31aおよび31bは、それぞれ、フレキシブル基板に設けられた導体パターンによって構成されている。なお、本明細書では、「巻回する」とは、1周以上に亘って巻き回す(巻き付ける)ことのみならず、1周分以下(たとえば、半周)の回数(角度)分だけ巻き回すことも含む概念として記載している。
【0026】
また、検知コイル31aおよび検知コイル31bの各々は、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿って巻回するように設けられていることにより、ワイヤロープWの延びる方向(X方向)に沿ってコイルの内側を貫く向きの磁束の変化を検出(測定)する。そして、検知コイル31aおよび31bは、励磁部20(励振コイル21)によって周期的に時間変化させられる磁束(磁界)の変化を検出するように構成されている。また、検知コイル31aおよび検知コイル31bは、検出した磁束の変化を示す検出信号を後述する制御基板40の信号取得部42(
図2参照)に対して出力する。
【0027】
なお、検知コイル31aおよび検知コイル31bは差動接続されている。詳細には、検知コイル31aおよび検知コイル31bを組み合わせることによって、ワイヤロープWの周りに互いに逆方向の2つのコイルループがX1方向側とX2方向側との各々に形成される。そして、検知コイル31aによる検出信号と検知コイル31bによる検出信号とが合成されることによって、互いに逆方向の2つのコイルループにより検出された磁束の変化が合成された検出信号が取得される。すなわち、検出部30は、検知コイル31aの検出信号と検知コイル31bの検出信号とを合成することにより、差動コイルによる検出信号を取得するように構成されている。
【0028】
図2に示すように、制御基板40は、処理部41、信号取得部42、および、通信部43を含む。制御基板40は、処理部41による制御処理によって、ワイヤロープ検査装置101の各部の制御を行う。処理部41は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ、メモリ、および、AD変換器などを含む。制御基板40は、処理部41からの制御信号に基づいて、励磁部20(励振コイル21)の動作を制御する。また、信号取得部42は、検出部30(検知コイル31aおよび31b)からの検出信号を取得(受信)する。信号取得部42は、増幅器を含む。そして、信号取得部42は、取得した検出信号を増幅して処理部41に出力(送信)する。そして、通信部43は、処理装置102と通信可能に構成されている。通信部43は、無線LAN、および、Bluetooth(登録商標)などによる無線通信が可能な無線通信モジュールを含む。通信部43は、取得された検出信号を処理装置102に出力(送信)する。なお、通信部43を介したワイヤロープ検査装置101と処理装置102との接続は、有線接続であってもよい。
【0029】
(処理装置の構成)
図2に示すように、処理装置102は、制御部50、記憶部60、タッチパネル70、および、通信部80を備える。処理装置102は、ワイヤロープ検査装置101とは別個に設けられている。そして、処理装置102は、たとえば、ワイヤロープWの検査を行う検査作業者が用いるタブレットPC(Personal Computer)などのタブレット端末である。
【0030】
制御部50は、処理装置102の各部を制御する。制御部50は、CPUなどのプロセッサ、メモリなどを含んでいる。制御部50は、通信部80を介して受信したワイヤロープWの測定結果(検出信号)に基づいて、素線断線などのワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行する。なお、制御部50による異常部分の判定処理の詳細は後述する。
【0031】
記憶部60は、たとえば、フラッシュメモリを含む記憶装置である。記憶部60は、取得されたワイヤロープWの測定結果、および、制御部50によるワイヤロープWの異常部分の判定結果などの情報を記憶(保存)する。また、記憶部60は、ワイヤロープWの異常部分を判定するためのプログラム61および処理用パラメータ62を記憶している。
【0032】
タッチパネル70は、ワイヤロープWの測定結果、制御部50によるワイヤロープWの測定結果の解析結果(異常部分の判定結果)などの情報を表示する。また、タッチパネル70は、検査作業者による入力操作を受け付ける。
【0033】
通信部80は、ワイヤロープ検査装置101、および、エレベータ103の制御装置103dと通信可能に構成されている。通信部80は、通信用のインターフェースである。具体的には、通信部80は、無線LAN、および、Bluetooth(登録商標)などによる無線通信が可能な無線通信モジュールを含む。処理装置102は、通信部80を介して、ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの測定結果(検出信号)を受信する。また、処理装置102は、検査作業者による入力操作に基づいて、ワイヤロープWの検査を開始する場合に、ワイヤロープ検査装置101およびエレベータ103(エレベータ103の制御装置103d)に対して、通信部80を介して検査を開始することを示す信号を送信する。
【0034】
なお、処理装置102は、取得された検出信号(測定結果)と共に、ワイヤロープWの位置を示す信号を取得するように構成されている。そして、処理装置102は、検出信号と、検出信号に対応するワイヤロープWの位置を示す位置情報とを関連付けて記憶するように構成されている。ワイヤロープWの位置情報は、エンコーダなどの位置センサによって取得してもよいし、エレベータ103の動作速度と、検査を行う検査時間の経過とに基づいて算出するようにしてもよい。
【0035】
(処理装置による異常部分の判定処理)
次に、
図2、および、
図5~
図12を参照して、処理装置102による異常部分の判定の処理について説明する。ワイヤロープ検査システム100では、異常部分の種類(素線断線、キンク、錆、異物の付着など)ごとに判定を行うように構成されている。第1実施形態では、判定を行う対象である異常部分が素線断線とキンクとの2種類である場合の例について説明する。
【0036】
図2に示すように、処理装置102の制御部50は、波形生成部51、抽出処理部52、パラメータ設定部53、1回目微分処理部54、2回目微分処理部55、加算処理部56、および、判定処理部57、を含んでいる。具体的には、ハードウェアとしての制御部50は、ソフトウェア(プログラム61)の機能ブロックとして、波形生成部51、抽出処理部52、パラメータ設定部53、1回目微分処理部54、2回目微分処理部55、加算処理部56、および、判定処理部57を含むように構成されている。制御部50は、取得された検出信号に基づいて、プログラム61を実行することによって、ワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行するように構成されている。
【0037】
図5に示すように、波形生成部51(制御部50)は、通信部80を介してワイヤロープ検査装置101(検出部30)から取得された検出信号に基づく信号波形である磁束波形を生成する。磁束波形のサンプリング周波数は、たとえば、1[kHz]である。したがって、生成された磁束波形は、1[ms](ミリ秒)ごとに取得された離散的な検出信号の集合(
図9参照)である。なお、波形生成部51は、電気的なノイズを低減するために、所定の区間(たとえば、20[ms])ごとに移動平均処理を行うことによって磁束波形を生成する。すなわち、波形生成部51は、1[ms]ごとに取得された検出信号に対して、前後10[ms]分を含めた区間の平均値を1[ms]ごとにサンプリングすることによって、磁束波形を生成するように構成されている。なお、磁束波形は、横軸を時間t[ms]、縦軸を波形生成部51によって取得された検出信号に基づく値F(t)(t:時間)としたグラフによって表される。また、
図5の区間t1は、ワイヤロープWの素線断線の異常部分に対応する部分(異常部分を示す部分)の磁束波形である。生成された磁束波形は、異常部分の波形がノイズに埋もれるような形となる。
【0038】
また、
図6に示すように、ワイヤロープWの異常部分を示す信号波形である異常波形は、異常部分の種類に応じて形状(幅、傾き、曲率など)が略一定となる。具体的には、異常波形は、異常部分の種類によって右上がり、または、右下がりのいずれかの形状を有する。たとえば、異常部分の種類が素線断線である場合には、断線部分から磁束が外に漏れ出すため、異常波形は右上がりとなる。そして、異常部分の種類がキンクである場合には、素線断線とは反対に異常波形は右下がりとなる。詳細には、素線断線の異常波形は、時間軸に沿って、検出される値が一度低下した後に波形が右上がりとなるように所定の割合で増加する。その後、検出される値は、再度減少する。キンクの異常波形は、素線断線とは反対に、検出される値が一度上昇した後に波形が右下がりとなるように所定の割合で減少する。その後、検出される値は、再度上昇する。
【0039】
図7に示すように、第1実施形態では、抽出処理部52(制御部50)は、生成された磁束波形の形状に基づいて、生成された磁束波形に含まれる異常部分の種類を判定するように構成されている。すなわち、抽出処理部52は、生成された磁束波形のうちから、素線断線の異常部分であると推測される部分と、キンクの異常部分であると推測される部分とを、それぞれ区別して抽出するように構成されている。たとえば、抽出処理部52は、所定の区間ごとに、磁束波形の形状が減少、増加、減少の順に変化している部分を素線断線の異常部分と推測される部分として抽出する。また、同様に、抽出処理部52は、所定の区間ごとに、磁束波形の形状が増加、減少、増加の順に変化している部分をキンクの異常部分と推測される部分として抽出する。
【0040】
また、
図8に示すように、パラメータ設定部53(制御部50)は、ワイヤロープWの異常部分の判定の処理のための処理用パラメータ62を設定する。ここで、第1実施形態のワイヤロープ検査システム100では、検査を行うワイヤロープWの異常部分の種類(素線断線およびキンク)の各々に対応するように複数の処理用パラメータ62が予め記憶部60に記憶されている。処理用パラメータ62は、たとえば、後述する第1微分区間dt1、第2微分区間dt2、およびシフト量Dを含む。記憶部60は、ワイヤロープWの異常部分の種類ごとに、処理用パラメータ62の組み合わせをテーブルとして記憶している。パラメータ設定部53は、素線断線の異常部分を判定する場合には、素線断線の異常部分に対応する第1微分区間dt1、第2微分区間dt2、およびシフト量Dを設定する。そして、パラメータ設定部53は、キンクの異常部分を判定する場合には、キンクの異常部分に対応する第1微分区間dt1、第2微分区間dt2、およびシフト量Dを設定する。なお、処理用パラメータ62は、異常部分の種類に加えて、検査対象であるワイヤロープWの種類(幅、素材など)に対応するように設定されてもよい。
【0041】
〈微分処理〉
図9および
図10に示すように、第1実施形態では、制御部50(1回目微分処理部54および2回目微分処理部55)は、磁束波形に対して2回の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得する。なお、以下の説明では、素線断線とキンクとの2つの種類の異常部分のうち、素線断線の異常部分の判定を行う場合の例について説明する。
【0042】
図9に示すように、1回目微分処理部54(制御部50)は、素線断線の異常部分の判定を行うために、素線断線であると推測される部分が抽出された磁束波形に対して、所定の第1微分区間dt1による1回目の微分処理を時間軸(横軸)に沿って順次実行する。たとえば、磁束波形の時点aにおいて微分処理を実行する場合には、時点aより所定の第1微分区間dt1だけ後の時点bにおける磁束波形の値F(b)と、時点aにおける磁束波形の値F(a)との差を取得することによって、時点aにおける1回目の微分処理を実行する。すなわち、時点aにおける1回目の微分処理を実行した結果の値をF′(a)とすると、F′(a)=F(b)-F(a)、b=a+dt1の関係が成り立つ。1回目微分処理部54は、時間軸に沿って、サンプリング周期(1[ms])ごとに、1回目の微分処理を順次実行することによって、1回微分波形を取得する。なお、1回微分波形の値をF′(t)と表す。
【0043】
なお、
図6に示すように、第1実施形態では、第1微分区間dt1は、予め取得されたワイヤロープWの異常部分を示す信号波形である異常波形に基づいて設定される。素線断線の異常部分を判定する場合には、第1実施形態のワイヤロープ検査システム100では、第1微分区間dt1は、予め取得された素線断線の部分を示す異常波形の右上がりの部分の幅と略等しい区間として設定されて、処理用パラメータ62として記憶部60に予め記憶される。たとえば、異常部分が素線断線である場合の第1微分区間dt1は、15[ms](サンプリング数15個分)である。キンクの異常部分を判定する場合にも、同様に、第1微分区間dt1は、予め取得されたキンクの部分を示す異常波形の右下がりの部分の幅と略等しい区間として設定されて、処理用パラメータ62として記憶部60に予め記憶される。
【0044】
そして、
図10に示すように、第1実施形態では、2回目微分処理部55(制御部50)は、2回目の微分処理を実行する前に、磁束波形の形状に基づいて1回微分波形の正の成分または負の成分のいずれかを抽出する。ここで、異常部分の種類が素線断線である場合には、異常部分に対応する部分の波形は右上がりとなるため、磁束波形における右下がりの部分は、異常部分ではなくノイズを示す波形である。したがって、1回微分波形の負の成分には、素線断線の異常部分を示す部分は存在しないこととなる。2回目微分処理部55は、磁束波形の形状に基づいて素線断線の異常部分を判定する場合には、取得された1回微分波形の負の成分を全て0にする(キャンセルする)ことによって、1回微分波形の正の成分を抽出する。なお、1回微分波形の正の成分の値をF′
(+)(t)と表す。なお、異常部分がキンクである場合には、異常波形が右下がりとなるため、2回目微分処理部55は、磁束波形に基づいて1回微分波形の負の成分を抽出する。
【0045】
そして、2回目微分処理部55は、1回微分波形に基づいて抽出された1回微分波形の正の成分に対して、第2微分区間dt2による2回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するように構成されている。2回目の微分処理は、1回目の微分処理と同様である。また、第2微分区間dt2は、第1微分区間dt1と同様に、素線断線の異常部分を示す異常波形に基づいて予め設定されて、記憶部60に記憶される。たとえば、第2微分区間dt2は、素線断線の異常波形の右上がりの部分の幅と略等しい区間である第1微分区間dt1の約半分の長さ(たとえば7[ms])である。このようにして、2回目の微分処理を実行することによって、2回目微分処理部55は、2回微分波形を生成する。なお、2回微分波形の値を、F″(t)と表す。
【0046】
〈加算処理〉
図11および
図12に示すように、第1実施形態では、加算処理部56(制御部50)は、取得された2回微分波形の正の成分と、取得された2回微分波形の負の成分の絶対値とを、ワイヤロープWの異常部分を示す部分(図中の区間t1の部分)が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形を生成するように構成されている。
【0047】
具体的には、
図11に示すように、加算処理部56は、2回微分波形の正の成分と、2回微分波形の負の成分とをそれぞれ取得する。そして、2回微分波形の負の成分の絶対値を取得する。なお、2回微分波形の正の成分の値を、F″
(+)(t)と表す。また、2回微分波形の負の成分の絶対値を、|F″
(-)(t)|と表す。
【0048】
そして、第1実施形態では、加算処理部56は、2回微分波形の負の成分の絶対値を、ワイヤロープWの異常部分を示す部分(異常部分に対応する部分)が重なり合うように、予め設定されたシフト量Dに基づいて、時間軸に沿ってシフトさせる。具体的には、加算処理部56は、パラメータ設定部53によって予め設定されたシフト量Dの大きさだけ、2回微分波形の負の成分の絶対値を、時間軸のマイナス方向(横軸の左方向)にシフトさせる。すなわち、シフトされた2回微分波形の負の成分の絶対値は、|F″(-)(t+D)|と表される。
【0049】
なお、第1実施形態では、シフト量Dは、第1微分区間dt1および第2微分区間dt2と同様に、異常部分を示す異常波形に基づいて予め設定されて、記憶部60に記憶される。シフト量Dは、たとえば、異常波形の右上がりまたは右下がりの部分の幅と略等しい区間である第1微分区間dt1よりも大きい値(たとえば、20[ms])である。
【0050】
そして、
図12に示すように、加算処理部56は、2回微分波形の正の成分と、シフトされた2回微分波形の負の成分の絶対値とを加算することによって、加算波形を生成する。なお、生成された加算波形の値は、F″
(+)(t)+|F″
(-)(t+D)|と表される。加算波形では、磁束波形に比べて、異常部分とノイズとの差異が大きい。
【0051】
〈判定処理〉
そして、判定処理部57(制御部50)は、生成された加算波形に基づく値(F″(+)(t)+|F″(-)(t+D)|で表される値)が、所定の判定しきい値Sよりも大きい場合にワイヤロープWの異常部分を判定するように構成されている。判定しきい値Sは、たとえば、パラメータ設定部53によって、設定された異常部分に対応するように予め設定される。また、判定しきい値Sは、検査作業者による入力操作に基づいて、複数の候補のうちから選択されることによって設定されてもよい。具体的には、異常部分が素線断線である場合には、素線断線の本数に応じて、複数の判定しきい値Sが記憶部60に処理用パラメータ62として記憶される。そして、検査作業者による判定を行う素線断線の本数を選択する操作が受け付けられたことに基づいて、パラメータ設定部53によって、選択された素線断線の本数に対応する判定しきい値Sが設定される。
【0052】
そして、判定処理部57は、加算波形の値が、判定しきい値Sよりも大きい部分を、異常部分であるとする判定結果を生成する。生成された判定結果は、ワイヤロープWのうちの異常部分と判定された位置を識別可能な情報を含む。判定処理部57は、たとえば、ワイヤロープWのうちの検査を開始した位置を0とした距離によって、ワイヤロープWのうちの異常部分の位置を示す位置情報を含む判定結果を生成する。なお、キンクの異常部分を判定する場合にも同様の処理によって異常部分の判定が行われる。
【0053】
〈結果の表示〉
制御部50は、判定処理部57による異常部分の判定結果(解析結果)をタッチパネル70に表示する。たとえば、制御部50は、異常部分と判定されたワイヤロープWの位置を示す表示を数値としてタッチパネル70に表示させる。また、制御部50は、判定された異常部分の種類(素線断線またはキンク)を識別可能な文字情報を併せて表示する。また、制御部50は、ワイヤロープWの位置に加えて異常部分と判定された場合の加算波形の値を併せて表示するようにしてもよい。
【0054】
(第1実施形態によるワイヤロープ検査方法)
次に、
図13を参照して、第1実施形態のワイヤロープ検査方法について説明する。このワイヤロープ検査方法は、ワイヤロープ検査システム100のワイヤロープ検査装置101および処理装置102によって実行される。すなわち、ステップ602およびステップ603は、ワイヤロープ検査装置101の処理部41による制御処理を示す。そして、ステップ601、および、ステップ604~ステップ612は、処理装置102の制御部50による制御処理を示す。
【0055】
まず、ステップ601において、ワイヤロープWの検査開始の入力操作が受け付けられる。具体的には、タッチパネル70に対する入力操作に基づいて、ワイヤロープWの検査が開始される。そして、エレベータ103の制御装置103dおよびワイヤロープ検査装置101の処理部41に対して、検査の開始を示す信号が送信される。
【0056】
次に、ステップ602において、ワイヤロープWに対して磁界が印加される。そして、ステップ603において、ワイヤロープWに対して相対的に移動しながら、磁界が印加されたワイヤロープWの磁束の変化を検出することによって検出信号が取得される。
【0057】
次に、ステップ604において、取得された検出信号に基づいて、磁束波形が生成される。
【0058】
次に、ステップ605において、生成された磁束波形の形状に基づいて、磁束波形に含まれる異常部分の種類が判定される。具体的には、磁束波形のうちから、素線断線の異常部分であると推測される部分と、キンクの異常部分であると推測される部分とが、それぞれ区別されて抽出される。
【0059】
次に、ステップ606において、判定を行う異常部分の種類に対応する処理用パラメータ62が設定される。具体的には、判定処理を実行するための、第1微分区間dt1、第2微分区間dt2、シフト量D、および、判定しきい値Sが、判定処理に先立って異常部分の種類(素線断線およびキンク)の各々に対応するように予め設定される。
【0060】
次に、ステップ607において、磁束波形に対して所定の第1微分区間dt1による1回目の微分処理が時間軸に沿って順次実行される。また、1回目の微分処理を実行することによって、1回微分波形が取得される。そして、ステップ608において、磁束波形の形状に基づいて1回微分波形の正の成分または負の成分が抽出される。そして、ステップ609において、1回微分波形の正の成分または負の成分に対して所定の第2微分区間dt2による微分処理が時間軸に沿って順次実行される。また、2回目の微分処理が実行されることによって2回微分波形が生成される。
【0061】
次に、ステップ610において、2回微分波形の正の成分と、2回微分波形の負の成分の絶対値とを、ワイヤロープWの異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形が生成される。具体的には、2回微分波形の負の成分の絶対値を、予め設定されたシフト量Dに基づいて時間軸に沿ってシフトさせた状態で、2回微分波形の正の成分に加算することによって、加算波形が生成される。
【0062】
次に、ステップ611において、生成された加算波形に基づく値(F″(+)(t)+|F″(-)(t+D)|で表される値)が所定の判定しきい値Sよりも大きい場合に、ワイヤロープWの異常部分が判定される。そして、ステップ612において、判定結果がタッチパネル70に表示される。
【0063】
なお、ステップ607~ステップ611の処理は、異常部分の種類(素線断線およびキンク)ごとにそれぞれ実行される。また、ステップ604における磁束波形の生成と、ステップ605における異常部分の種類の判定と、ステップ606における処理用パラメータ62の設定とは、いずれのステップを先に実行するようにしてもよい。
【0064】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態のワイヤロープ検査方法では、以下のような効果を得ることができる。
【0065】
第1実施形態のワイヤロープ検査方法では、上記のように、取得された検出信号に基づく信号波形である磁束波形に対して、1回目の微分処理を実行することによって1回微分波形を取得する。そして、取得された1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得する。ここで、磁束波形の形状のうちの異常部分に対応する部分の形状は、異常部分の種類(素線断線、キンク、錆、異物の付着など)によって、右上がり、または、右下がりのいずれかの形状を有する。そのため、1回微分波形のうちの異常部分に対応する波形は、異常部分の種類によって、正の成分、または、負の成分のいずれかに含まれる。たとえば、異常部分が断線である場合には、異常部分に対応する波形の形状は右上がりとなる。したがって、異常部分が断線である場合には、1回微分波形のうちの異常部分に対応する部分の波形は、1回微分波形のうちの正の成分のみに含まれる。これに対して、第1実施形態では、取得された1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって2回微分波形を取得するので、異常部分の種類に対応するように抽出された正の成分または負の成分に対してのみ2回目の微分処理を実行することができる。そのため、異常部分が含まれずノイズのみが含まれる成分の波形をキャンセルした状態で2回目の微分処理を実行することができる。そして、第1実施形態では、上記のように、取得された2回微分波形の正の成分と、取得された2回微分波形の負の成分の絶対値とを、ワイヤロープWの異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形を生成する。これにより、異常部分が含まれずノイズのみが含まれる成分の波形をキャンセルした状態で取得された2回微分波形に基づいて、ワイヤロープWの異常部分を示す部分が重なり合うように2回微分波形の正の成分と負の成分の絶対値とを加算することによって加算波形を生成するため、異常部分に対応する部分が異常部分以外のノイズよりもより際立つように大きいピークを有するように加算波形を生成することができる。そのため、加算波形のピークを判定することによってワイヤロープWに固有のノイズとワイヤロープWの異常部分とを区別することができる。その結果、ワイヤロープWに固有のノイズとワイヤロープWの異常部分とを区別することにより、ワイヤロープWの異常部分を精度よく判定することができる。
【0066】
また、第1実施形態では、以下のように構成したことによって、下記のような更なる効果が得られる。
【0067】
すなわち、第1実施形態では、磁束波形に対して、所定の第1微分区間dt1による1回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップ607を含み、1回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行することによって取得された1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、所定の第2微分区間dt2による2回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップ609を含む。このように構成すれば、所定の第1微分区間dt1による1回目の微分処理を順次実行するとともに、所定の第2微分区間dt2による2回目の微分処理を順次実行することによって、比較的広い範囲に亘って2回微分波形を容易に取得することができる。そのため、取得された2回微分波形に基づいて比較的広い範囲に亘る加算波形を容易に生成することができるので、加算波形のピークを判定することによって比較的広い範囲に亘ってワイヤロープWの異常部分を容易に、かつ、精度よく判定することができる。
【0068】
また、第1実施形態では、予め取得されたワイヤロープWの異常部分を示す信号波形である異常波形に基づいて設定された第1微分区間dt1による1回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップ607を含み、異常波形に基づいて設定された第2微分区間dt2による2回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップ609を含む。このように構成すれば、第1微分区間dt1および第2微分区間dt2の各々が、予め取得された異常波形に基づいて設定されているため、第1微分区間dt1による1回目の微分処理と、第2微分区間dt2による2回目の微分処理とを実行することによって、異常部分の判定を行うためにより適切な2回微分波形を取得することができる。そのため、2回微分波形に基づいて生成される加算波形における異常部分のピークをより一層際立たせることができるので、ワイヤロープWの異常部分をより一層精度よく判定することができる。
【0069】
また、第1実施形態では、加算波形を生成するステップ610よりも前に、予め取得されたワイヤロープWの異常部分を示す信号波形である異常波形に基づいて、加算波形を生成するためのシフト量Dを予め設定するステップ606を備え、加算波形を生成するステップ610は、2回微分波形の正の成分と、2回微分波形の負の成分の絶対値とのいずれか一方である2回微分波形の負の成分の絶対値を、予め設定されたシフト量Dに基づいて時間軸に沿ってシフトさせた状態で、いずれか他方である2回微分波形の正の成分に加算することによって、加算波形を生成する。このように構成すれば、予め取得された異常部分を示す信号波形である異常波形に基づいて加算波形を生成するためのシフト量Dが予め設定されているため、生成された加算波形に基づいて適切なシフト量Dを算出する場合に比べて、異常部分を判定するための加算波形を容易に生成することができる。
【0070】
また、第1実施形態では、2回微分波形を取得するステップ609よりも前に、磁束波形の形状に基づいて1回微分波形の正の成分または負の成分のいずれかを抽出するステップ608を備える。このように構成すれば、異常部分を示す異常波形の形状は異常部分の種類に応じて右上がりか右下がりかのいずれかであるため、磁束波形の形状が右上がりの部分と右下がりの部分とを区別することによって、磁束波形のうちから異常部分の種類ごとに対応する部分を容易に抽出することができる。そのため、異常部分の種類に対応するように1回微分波形の正の成分または負の成分を容易に抽出することができるので、異常部分が含まれずノイズのみが含まれる成分の波形をキャンセルした状態で2回微分波形を容易に取得することができる。その結果、ワイヤロープWの異常を判定するための加算波形を容易に取得することができるので、ワイヤロープWの異常部分を精度よく、かつ、容易に判定することができる。
【0071】
[第2実施形態]
図14および
図15を参照して、第2実施形態によるワイヤロープ検査システム200の構成について説明する。この第2実施形態は、予め設定されたシフト量Dに基づいて加算波形を生成した第1実施形態と異なり、所定のシフト量変更範囲(Dmin~Dmax)のうちから適切なシフト量D200を設定(算出)する。なお、図中において、上記第1実施形態と同様の構成の部分には、同一の符号を付して図示するとともに説明を省略する。
【0072】
(第2実施形態によるワイヤロープ検査システムの構成)
図14に示すように、第2実施形態によるワイヤロープ検査システム200は、ワイヤロープ検査装置101と処理装置202とを備える。ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの磁束の変化の検出は、第1実施形態と同様である。
【0073】
処理装置202は、制御部250、記憶部260、タッチパネル70、および、通信部80を備える。処理装置202は、第1実施形態による処理装置102と同様に、ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの測定結果に基づいて、ワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行する。また、記憶部260は、第1実施形態の記憶部60と同様に、ワイヤロープWの測定結果、および、異常部分の判定結果などの情報を記憶(保存)する。そして、第2実施形態では、記憶部260は、ワイヤロープWの異常部分を判定するためのプログラム261および処理用パラメータ262を記憶している。
【0074】
(処理装置による異常部分の判定処理)
制御部250は、加算処理部256を含んでいる。具体的には、ハードウェアとしての制御部250は、ソフトウェア(プログラム261)の機能ブロックとして、加算処理部256を含むように構成されている。制御部250は、取得された検出信号に基づいて、プログラム261を実行することによって、ワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行するように構成されている。制御部250のその他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0075】
すなわち、制御部250は、第1実施形態と同様の制御処理を実行することによって、取得された検出信号に基づく信号波形である磁束信号に対して、2回の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得する。記憶部260には、第1実施形態と同様の第1微分区間dt1および第2微分区間dt2が処理用パラメータ262として記憶されている。一方で、第2実施形態では、予め記憶されている処理用パラメータ262には、第1実施形態と異なりシフト量が含まれていない。
【0076】
図15に示すように、第2実施形態では、加算処理部256(制御部250)は、判定処理を行うための加算波形を生成するためのシフト量D200を、所定のシフト量変更範囲(Dmin~Dmax)のうちから設定(算出)するように構成されている。具体的には、加算処理部256は、取得された2回微分波形の負の成分の絶対値を、所定のシフト量変更範囲(Dmin~Dmax)内においてシフト量を変更させながら時間軸に沿ってシフトさせた状態で、取得された2回微分波形の正の成分に加算することによって、複数の予備加算波形を生成する。所定のシフト量変更範囲は、たとえば、0[ms]以上30[ms]以下である。すなわち、Dminは、0[ms]であって、Dmaxは、30[ms]である。加算処理部256は、0[ms]~30[ms]まで、1[ms]ずつシフト量を変更させながら、複数(31個)の予備加算波形を生成する。予備加算波形を生成する処理は、第1実施形態の加算処理部56による加算処理と同様である。なお、
図15では、複数の予備加算波形のうちの5つの予備加算波形を例示している。
【0077】
そして、加算処理部256は、生成された複数の予備加算波形の最大値を取得する。そして、加算処理部256は、複数の予備加算波形のうちから、取得された最大値が最も大きい予備加算波形を選択する。また、加算処理部256は、シフト量変更範囲(Dmin~Dmax)のうちから、最大値が最も大きい予備加算波形を生成したシフト量を、異常部分の判定を行うためのシフト量D200として設定する。そして、第2実施形態では、加算処理部256は、設定されたシフト量D200に基づいて、取得された2回微分波形の負の成分の絶対値を、ワイヤロープWの異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で、2回微分波形の正の成分に加算することによって、加算波形を生成するように構成されている。
【0078】
すなわち、加算処理部256は、シフト量変更範囲(Dmin~Dmax)のうちから、加算波形におけるワイヤロープWの異常部分を示す部分が重なり合うように、異常部分の判定を行うためのシフト量D200を選択するように構成されている。また、加算処理部256は、ワイヤロープWの長さの所定の区間ごと(たとえば、1[m]ごと)に、シフト量変更範囲(Dmin~Dmax)のうちからシフト量D200を設定する処理を行う。
【0079】
なお、設定されたシフト量D200に基づいて生成された加算波形に対する異常部分の判定処理は、第1実施形態の判定処理と同様である。また、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0080】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0081】
第2実施形態では、加算波形を生成するよりも前に、取得された2回微分波形の正の成分と、取得された2回微分波形の負の成分の絶対値とのいずれか一方である2回微分波形の負の成分の絶対値を、所定のシフト量変更範囲(Dmin~Dmax)内においてシフト量を変更させながら時間軸に沿ってシフトさせた状態で、いずれか他方である2回微分波形の正の成分に加算することによって、複数の予備加算波形を生成する。そして、生成された複数の予備加算波形の各々に基づく最大値が最も大きい予備加算波形のシフト量D200に基づいて、2回微分波形の正の成分と、2回微分波形の負の成分の絶対値とのいずれか一方である2回微分波形の負の成分の絶対値を、ワイヤロープWの異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で、いずれか他方である2回微分波形の正の成分に加算することによって、加算波形を生成する。このように構成すれば、複数の予備加算波形の各々に基づく最大値が最も大きい予備加算波形のシフト量D200に基づいて加算波形を生成するため、ワイヤロープWの異常を判定するために2回微分波形の正の成分と負の成分の絶対値を加算する場合に、異常部分に対応する部分(異常部分を示す部分)がより大きいピークを有するように、加算波形を生成するためのシフト量D200をより適切に設定することができる。そのため、予め設定された1つシフト量に基づいて加算波形を生成する場合に比べて、ワイヤロープWに固有のノイズとワイヤロープWの異常部分とをより精度よく区別することができる。その結果、ワイヤロープWの異常部分をより精度よく判定することができる。
【0082】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0083】
[第3実施形態]
図16および
図17を参照して、第3実施形態によるワイヤロープ検査システム300の構成について説明する。この第3実施形態は、検出部30によって検出された検出信号をそのまま(移動平均処理を行って)磁束波形として取得した第1および第2実施形態と異なり、検出信号F
1(t)と予め取得された基準検出信号F
0(t)との差分に基づいて磁束波形を生成する。なお、図中において、上記第1および第2実施形態と同様の構成の部分には、同一の符号を付して図示するとともに説明を省略する。
【0084】
(第3実施形態によるワイヤロープ検査システムの構成)
図16に示すように、第3実施形態によるワイヤロープ検査システム300は、ワイヤロープ検査装置101と処理装置302とを備える。ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの磁束の変化の検出は、第1実施形態と同様である。
【0085】
処理装置302は、制御部350、記憶部360、タッチパネル70、および、通信部80を備える。処理装置302は、第1実施形態による処理装置102と同様に、ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの測定結果に基づいて、ワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行する。また、記憶部360は、第1実施形態の記憶部60と同様に、ワイヤロープWの測定結果、および、異常部分の判定結果などの情報を記憶(保存)する。そして、第3実施形態では、記憶部360は、ワイヤロープWの異常部分を判定するためのプログラム361と基準検出信号F0(t)を記憶している。
【0086】
基準検出信号F0(t)は、検査対象であるワイヤロープWの磁束の変化を予め検出することによって取得された基準となる検出信号である。基準検出信号F0(t)は、たとえば、ワイヤロープWの設置時などの異常部分が発生する前(異常部分が少ない状態)においてワイヤロープ検査装置101によって検出される。また、エレベータ103のようにワイヤロープWが複数(4本)設置されている場合には、複数のワイヤロープWの各々についての基準検出信号F0(t)が予め記憶部360に記憶される。なお、基準検出信号F0(t)は、ワイヤロープWの位置情報と関連付けて記憶されている。
【0087】
(処理装置による異常部分の判定処理)
制御部350は、波形生成部351を含んでいる。具体的には、ハードウェアとしての制御部350は、ソフトウェア(プログラム361)の機能ブロックとして、波形生成部351を含むように構成されている。制御部350は、取得された検出信号に基づいて、プログラム361を実行することによって、ワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行するように構成されている。制御部350のその他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0088】
図17に示すように、予め記憶部60に記憶された基準検出信号F
0(t)に対して、異常部分の判定のために検出された検出信号をF
1(t)と表す。第3実施形態では、波形生成部351(制御部350)は、ワイヤロープWに固有のノイズ(固有の磁気特性の変化)を打ち消すように、基準検出信号F
0(t)と、取得された検出信号F
1(t)との差分(F
1(t)-F
0(t))に基づいて磁束波形(差分波形)を生成する。生成された磁束波形では、ワイヤロープWの異常部分が、抽出されたような波形となる。なお、波形生成部351は、ワイヤロープWの位置情報に基づいて、基準検出信号F
0(t)と検出信号F
1(t)との略同じ位置における差分を取得することによって磁束波形を生成するように構成されている。また、波形生成部351は、第1実施形態と同様に、基準検出信号F
0(t)および検出信号F
1(t)に対して移動平均処理を実行した状態で差分を取得することによって、磁束信号を生成する。
【0089】
なお、生成された磁束波形(差分波形)に対する2回の微分処理、加算波形を生成する加算処理、および、異常部分の判定処理は、第1実施形態と同様である。また、第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0090】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0091】
第3実施形態では、1回微分波形を取得するよりも前に、検査対象であるワイヤロープWの磁束の変化を予め検出することによって取得された基準となる基準検出信号F0(t)と、取得された検出信号F1(t)との差分に基づいて磁束波形を生成する。このように構成すれば、予め取得された基準検出信号F0(t)と、異常部分の判定のために検出された検出信号F1(t)とにおいて、ワイヤロープWに固有のノイズは共通するため、基準検出信号F0(t)と検出信号F1(t)との差分を取得することによって、検出信号F1(t)に含まれるワイヤロープWに固有のノイズを打ち消して抑制(キャンセル)した状態の磁束波形を生成することができる。そのため、ノイズが抑制された状態の磁束波形に対して、2回の微分処理を実行することによって、加算波形を生成することができるので、加算波形におけるノイズをより一層抑制することができる。その結果、ワイヤロープWの異常部分をより一層精度よく判定することができる。
【0092】
なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1および第2実施形態と同様である。
【0093】
[第4実施形態]
図18および
図19を参照して、第4実施形態によるワイヤロープ検査システム400の構成について説明する。この第4実施形態は、磁束波形の形状に基づいて、1回微分波形の正の成分または負の成分のいずれかを抽出するように構成された第1実施形態と異なり、1回微分波形に基づく値が所定の抽出判定しきい値S400よりも大きいか否かを判定することによって1回微分波形の正の成分または負の成分を抽出するように構成されている。なお、図中において、上記第1~第3実施形態と同様の構成の部分には、同一の符号を付して図示するとともに説明を省略する。
【0094】
(第4実施形態によるワイヤロープ検査システムの構成)
図18に示すように、第4実施形態によるワイヤロープ検査システム400は、ワイヤロープ検査装置101と処理装置402とを備える。ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの磁束の変化の検出は、第1実施形態と同様である。
【0095】
処理装置402は、制御部450、記憶部460、タッチパネル70、および、通信部80を備える。処理装置402は、第1実施形態による処理装置102と同様に、ワイヤロープ検査装置101によるワイヤロープWの測定結果に基づいて、ワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行する。また、記憶部460は、第1実施形態の記憶部60と同様に、ワイヤロープWの測定結果、および、異常部分の判定結果などの情報を記憶(保存)する。そして、第4実施形態では、記憶部460は、ワイヤロープWの異常部分を判定するためのプログラム461と処理用パラメータ462を記憶している。
【0096】
(処理装置による異常部分の判定処理)
制御部450は、抽出処理部452を含んでいる。具体的には、ハードウェアとしての制御部450は、ソフトウェア(プログラム461)の機能ブロックとして、抽出処理部452を含むように構成されている。制御部450は、取得された検出信号に基づいて、プログラム461を実行することによって、ワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行するように構成されている。制御部450のその他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0097】
制御部450は、第1実施形態と同様の制御処理によって、磁束波形を生成する。そして、第4実施形態では、制御部450は、異常部分の種類の判定よりも前に、生成された磁束波形に対して1回目の微分処理を実行するように構成されている。第4実施形態では、記憶部460に記憶されている処理用パラメータ462は、第1微分区間dt401、第2微分区間dt2、シフト量Dを含んでいる。第4実施形態では、第1微分区間dt401は、異常部分の種類によらず共通の値(たとえば、20[ms])となる。第2微分区間dt2およびシフト量Dは、第1実施形態と同様に、異常部分の種類(素線断線およびキンク)ごとに、予め取得された異常部分を示す異常波形に基づいて設定されて記憶部460に記憶される。
【0098】
制御部450の1回目微分処理部54は、第1実施形態と同様の処理を行うことによって、生成された磁性波形の全体に対して、所定の第1微分区間dt401における1回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行することによって、1回微分波形を取得する。
【0099】
そして、
図19に示すように、第4実施形態では、抽出処理部452(制御部450は)、2回微分波形を取得する前に、1回微分波形に基づく値と所定の抽出判定しきい値S400との比較に基づいて、1回微分波形の正の成分または負の成分のいずれかを抽出するように構成されている。すなわち、抽出処理部452は、所定の抽出判定しきい値S400との比較に基づいて、1回微分波形のうちから、素線断線の異常部分であると推測される部分と、キンクの異常部分であると推測される部分とを、それぞれ区別して抽出するように構成されている。
【0100】
たとえば、抽出処理部452は、1回微分波形の値が所定の抽出判定しきい値S400よりも大きい部分を素線断線の異常部分であると推測される部分として抽出する。そして、制御部450の2回目微分処理部55は、1回微分波形のうちの素線断線の異常部分であると推測される部分に対して、正の成分を抽出する処理を実行するとともに2回目の微分処理を実行することによって、素線断線の異常部分を判定するための2回微分波形を取得するように構成されている。また、抽出処理部452は、1回微分波形の値が所定の抽出判定しきい値S400よりも小さい部分をキンクの異常部分であると推測される部分として抽出する。そして、制御部450の2回目微分処理部55は、1回微分波形のうちのキンクの異常部分であると推測される部分に対して、負の成分を抽出する処理を実行するとともに2回目の微分処理を実行することによって、キンクの異常部分を判定するための2回微分波形を取得するように構成されている。なお、取得された2回微分波形の各々から加算波形を取得する処理と、異常部分の判定を行う処理とは、第1実施形態と同様である。また、第4実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0101】
(第4実施形態の効果)
第4実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0102】
第4実施形態では、2回微分波形を取得する前に、1回微分波形に基づく値と所定の抽出判定しきい値S400との比較に基づいて、1回微分波形の正の成分または負の成分のいずれかを抽出する。このように構成すれば、所定の抽出判定しきい値S400を用いることによって、1回微分波形のうちから異常部分に対応する部分を容易に区別することができる。そのため、抽出判定しきい値S400を用いることによって、異常部分の種類に対応するように1回微分波形の正の成分または負の成分を容易に抽出することができるので、異常部分が含まれずノイズのみが含まれる成分の波形をキャンセルした状態で2回微分波形を容易に取得することができる。その結果、ワイヤロープWの異常を判定するための加算波形を容易に取得することができるので、ワイヤロープWの異常部分を精度よく、かつ、容易に判定することができる。
【0103】
なお、第4実施形態のその他の効果は、上記第1~第3実施形態と同様である。
【0104】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0105】
たとえば、上記第1~第4実施形態では、ワイヤロープWの磁束の変化を検出するワイヤロープ検査装置101と異常部分を判定する処理を実行する処理装置102(202、302、402)とが別個に構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図20に示す変形例によるワイヤロープ検査装置500のように、ワイヤロープWの磁束の変化の検出と、異常部分を判定する処理とを1つの(共通の)ワイヤロープ検査装置500によって実行するように構成してもよい。具体的には、ワイヤロープ検査装置500は、第1実施形態のワイヤロープ検査装置101と同様に整磁部10、励磁部20、および、検出部30を備える。また、ワイヤロープ検査装置500は、処理部550を備える。処理部550は、波形生成部551、抽出処理部552、パラメータ設定部553、1回目微分処理部554、2回目微分処理部555、加算処理部556、および、判定処理部557、を含んでいる。この波形生成部551、抽出処理部552、パラメータ設定部553、1回目微分処理部554、2回目微分処理部555、加算処理部556、および、判定処理部557は、それぞれ、第1実施形態の制御部50の波形生成部51、抽出処理部52、パラメータ設定部53、1回目微分処理部54、2回目微分処理部55、加算処理部56、および、判定処理部57と同様である。すなわち、ワイヤロープ検査装置500は、第1実施形態による処理装置102の制御部50と同様に、検出部30により取得された検出信号に基づいて、ワイヤロープWの異常部分を判定する処理を実行するように構成されている。なお、変形例によるワイヤロープ検査装置500では、第1~第4実施形態のワイヤロープ検査システム100(200、300、400)と同様に、ワイヤロープWに固有のノイズとワイヤロープWの異常部分とを区別することにより、ワイヤロープWの異常部分を精度よく判定することができる。
【0106】
また、上記第1~第4実施形態では、処理装置102(202、302、402)が、検査作業者が用いるタブレットPCである例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、異常部分の判定処理を実行する処理装置は、サーバ装置などの遠隔地に設置された装置であってもよい。すなわち、ワイヤロープ検査装置101による測定結果を遠隔地に設置された処理装置によって取得するとともに、エレベータ103(ワイヤロープW)から離間した位置において、異常部分の判定を実行するように構成してもよい。
【0107】
また、上記第1~第3実施形態では、予め取得されたワイヤロープWの異常部分を示す信号波形である異常波形に基づいて第1微分区間dt1を15[ms]、第2微分区間dt2を7[ms]に設定する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1微分区間dt1および第2微分区間dt2は、検査作業者による入力操作に基づいて設定されるようにしてもよい。また、異常波形に基づいて設定される第1微分区間dt1は、15[ms]に限られず、第2微分区間dt2は、7[ms]に限られない。
【0108】
また、上記第1~第3実施形態では、第2微分区間dt2が第1微分区間dt1の約半分の長さである例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第2微分区間dt2を第1微分区間dt1と略等しい長さとしてもよい。
【0109】
また、上記第1、第3、および、第4実施形態では、シフト量Dを予め取得されたワイヤロープWの異常部分を示す信号波形である異常波形に基づいて20[ms]に設定する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、シフト量Dを検査作業者による入力操作に基づいて設定するようにしてもよい。また、異常波形に基づいて設定されるシフト量Dは、20[ms]に限られない。
【0110】
また、上記第1および第3実施形態では、シフト量Dが第1微分区間dt1よりも大きい値である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、シフト量Dを第1微分区間dt1よりも小さい値としてもよい。
【0111】
また、上記第2実施形態では、所定のシフト量変更範囲(Dmin~Dmax)が0[ms]以上30[ms]以下である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、シフト量変更範囲の最小値のDminは、0[ms]以外の値であってもよいし、最大値のDmaxは30[ms]以外の値であってもよい。
【0112】
また、上記第1~第3実施形態では、生成された磁性波形の形状に基づいて異常部分の種類を区別して判定するように構成されており、上記第4実施形態では、1回微分波形に基づく値と所定の抽出判定しきい値S400との比較に基づいて、異常部分の種類を区別して判定するように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、磁束波形または1回微分波形に対して、異常部分の種類の判定の制御を実行しないようにしてもよい。具体的には、検査作業者による入力操作に基づいて、判定を行う異常部分の種類を予め設定するように構成するとともに、予め設定された異常部分の種類に基づいて、1回微分波形の正の成分または負の成分のいずれかを抽出するようにしてもよい。
【0113】
また、上記第4実施形態では、1つの抽出判定しきい値S400よりも大きいか否かを判定することによって、1回微分波形の正の成分または負の成分のいずれを抽出するかを判定する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、所定の抽出判定しきい値を、異常部分の種類に対応するように複数設定するようにしてもよい。具体的には、第1のしきい値よりも1回微分波形の値が大きい部分を、素線断線の異常部分と推測される部分として取得するとともに、第1のしきい値とは異なる第2のしきい値よりも1回微分波形の値が小さい部分を、キンクの異常部分と推測される部分として取得するようにしてもよい。また、所定の抽出判定しきい値S400は、たとえば、0であってもよい。すなわち、1回微分波形の値が正の部分を素線断線の異常部分を判定するための部分として設定するとともに、1回微分波形が負の部分をキンクの異常部分を判定するための部分として設定するようにしてもよい。
【0114】
また、上記第1~第4実施形態では、判定を行う対象の異常部分の種類を、素線断線とキンクとの2種類とする例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、キンクのかわりに、鉄粉などの異物の付着、または、さびなどを異常部分として判定するようにしてもよい。また、2種類よりも多くの種類の異常部分の判定を行うように構成してもよい。また、1つの種類のみの異常部分の判定を行うようにしてもよい。
【0115】
また、上記第1~第4実施形態では、取得された検出信号に基づく信号波形である磁束波形を、サンプリングごとに前後10個ずつ(20[ms])の範囲で移動平均処理を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。移動平均処理の範囲は、20[ms]以外の範囲であってもよい。また、磁束波形を生成する際に移動平均処理を実行しなくともよい。また、ローパスフィルタ処理など、移動平均処理以外のノイズ除去処理を実行して、磁束波形を生成してもよい。
【0116】
また、上記第1~第4実施形態では、エレベータ103のワイヤロープWを検査する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、クレーンおよびロープウェイなどのエレベータ以外のワイヤロープを検査するように構成してもよい。
【0117】
また、上記第1~第4実施形態では、検出部30の2つの検知コイル31aおよび31bが、それぞれ独立した鞍型コイル(サドル型コイル)である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、検出部30を、ワイヤロープWの周りに巻回されるように配置され、差動接続された1組のソレノイドコイルであってもよい。
【0118】
また、上記第1~第4実施形態では、励振コイル21がワイヤロープWに対して検知コイル31aおよび31bの外側を巻回するように設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、励磁部20と検出部30とを、ワイヤロープWの延びる方向に沿って並べて配置してもよい。
【0119】
また、上記第1~第4実施形態では、ワイヤロープWを挟んで互いに対向するように設けられた整磁部10aおよび整磁部10bが、それぞれN極をワイヤロープW側に向けるように配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、2つの整磁部が、N極とS極とをそれぞれワイヤロープWに向けるように配置されていてもよい。また、2つの整磁部は、互いに対向する方向ではなく、ワイヤロープWの延びる方向に沿ってN極とS極とを配置するようにしてもよい。その場合、2つの整磁部は同じ向きでもよいし異なる向きでもよい。また、整磁部は、ワイヤロープWの延びる方向に沿って平行な向きから、斜めにずれた向きに磁界を印加するように配置されていてもよい。また、1つの整磁部を、ワイヤロープWの延びる方向と交わる方向の片側に配置してよい。また、整磁部を設けずに、磁界を整えないで磁束を検知するようにしてもよい。
【0120】
また、上記第1~第4実施形態では、整磁部10を永久磁石によって構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、整磁部を、電磁石によって構成してもよい。
【0121】
また、上記第1~第4実施形態では、検知コイル31aおよび31bを4本のワイヤロープWの各々に設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、検知コイルを、1以上3以下のワイヤロープWの磁束を検知するように構成してもよいし、5以上のワイヤロープWの磁束を検知するように構成してもよい。また、複数のワイヤロープWの磁束を1つの検知コイルによって検知するように構成してもよい。
【0122】
[態様]
上記した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0123】
(項目1)
検査対象であるワイヤロープに対して磁界を印加するステップと、
前記ワイヤロープに対して相対的に移動しながら、磁界が印加された前記ワイヤロープの磁束の変化を検出することによって検出信号を取得するステップと、
取得された前記検出信号に基づく信号波形である磁束波形に対して、1回目の微分処理を実行することによって1回微分波形を取得するステップと、
取得された前記1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得するステップと、
取得された前記2回微分波形の正の成分と、取得された前記2回微分波形の負の成分の絶対値とを、前記ワイヤロープの異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形を生成するステップと、
生成された前記加算波形に基づく値が所定の判定しきい値よりも大きい場合に、前記ワイヤロープの前記異常部分を判定するステップと、を備える、ワイヤロープ検査方法。
【0124】
(項目2)
前記1回微分波形を取得するステップは、前記磁束波形に対して、所定の第1微分区間による前記1回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップを含み、
前記2回微分波形を取得するステップは、前記1回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行することによって取得された前記1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、所定の第2微分区間による前記2回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップを含む、項目1に記載のワイヤロープ検査方法。
【0125】
(項目3)
前記1回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップは、予め取得された前記ワイヤロープの前記異常部分を示す信号波形である異常波形に基づいて設定された前記第1微分区間による前記1回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップを含み、
前記2回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップは、前記異常波形に基づいて設定された前記第2微分区間による前記2回目の微分処理を時間軸に沿って順次実行するステップを含む、項目2に記載のワイヤロープ検査方法。
【0126】
(項目4)
前記加算波形を生成するステップよりも前に、予め取得された前記ワイヤロープの前記異常部分を示す信号波形である異常波形に基づいて、前記加算波形を生成するためのシフト量を予め設定するステップをさらに備え、
前記加算波形を生成するステップは、前記2回微分波形の正の成分と、前記2回微分波形の負の成分の絶対値とのいずれか一方を、予め設定された前記シフト量に基づいて時間軸に沿ってシフトさせた状態で、いずれか他方に加算することによって、前記加算波形を生成するステップを含む、項目1~3のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【0127】
(項目5)
前記加算波形を生成するステップよりも前に、
取得された前記2回微分波形の正の成分と、取得された前記2回微分波形の負の成分の絶対値とのいずれか一方を、所定のシフト量変更範囲内においてシフト量を変更させながら時間軸に沿ってシフトさせた状態で、いずれか他方に加算することによって、複数の予備加算波形を生成するステップを含み、
前記加算波形を生成するステップは、生成された前記複数の予備加算波形の各々に基づく最大値が最も大きい前記予備加算波形の前記シフト量に基づいて、前記2回微分波形の正の成分と、前記2回微分波形の負の成分の絶対値とのいずれか一方を、前記ワイヤロープの前記異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で、いずれか他方に加算することによって、前記加算波形を生成するステップを含む、項目1~3のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【0128】
(項目6)
前記1回微分波形を取得するステップよりも前に、検査対象である前記ワイヤロープの磁束の変化を予め検出することによって取得された基準となる基準検出信号と、取得された前記検出信号との差分に基づいて前記磁束波形を生成するステップをさらに備える、項目1~5のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【0129】
(項目7)
前記2回微分波形を取得するステップよりも前に、前記磁束波形の形状に基づいて前記1回微分波形の正の成分または負の成分のいずれかを抽出するステップをさらに備える、項目1~6のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【0130】
(項目8)
前記2回微分波形を取得するステップよりも前に、前記1回微分波形に基づく値と所定の抽出判定しきい値との比較に基づいて、前記1回微分波形の正の成分または負の成分のいずれかを抽出するステップをさらに備える、項目1~6のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【0131】
(項目9)
検査対象であるワイヤロープの磁束の変化を検出するワイヤロープ検査装置と、
前記ワイヤロープ検査装置による前記ワイヤロープの測定結果に基づいて、前記ワイヤロープの異常部分を判定する処理を実行する処理装置と、を備え、
前記ワイヤロープ検査装置は、前記ワイヤロープに対して磁界を印加する励磁部と、前記ワイヤロープに対して相対的に移動しながら、前記励磁部により磁界が印加された前記ワイヤロープの磁束の変化を検出することによって検出信号を取得する検出部と、を含み、
前記処理装置は、
前記検出部により取得された前記検出信号に基づく信号波形である磁束波形に対して、1回目の微分処理を実行することによって1回微分波形を取得する1回目微分処理部と、
前記1回目微分処理部により取得された前記1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得する2回目微分処理部と、
前記2回目微分処理部により取得された前記2回微分波形の正の成分と、取得された前記2回微分波形の負の成分の絶対値とを、前記ワイヤロープの前記異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形を生成する加算処理部と、
前記加算処理部により生成された前記加算波形に基づく値が所定の判定しきい値よりも大きい場合に、前記ワイヤロープの前記異常部分を判定する判定処理部と、を含む、ワイヤロープ検査システム。
【0132】
(項目10)
検査対象であるワイヤロープに対して磁界を印加する励磁部と、
前記ワイヤロープに対して相対的に移動しながら、前記励磁部により磁界が印加された前記ワイヤロープの磁束の変化を検出することによって検出信号を取得する検出部と、
前記検出部により取得された前記検出信号に基づいて、前記ワイヤロープの異常部分を判定する処理を実行する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記検出部により取得された前記検出信号に基づく信号波形である磁束波形に対して、1回目の微分処理を実行することによって1回微分波形を取得する1回目微分処理部と、
前記1回目微分処理部により取得された前記1回微分波形の正の成分または負の成分に対して、2回目の微分処理を実行することによって、2回微分波形を取得する2回目微分処理部と、
前記2回目微分処理部により取得された前記2回微分波形の正の成分と、取得された前記2回微分波形の負の成分の絶対値とを、前記ワイヤロープの前記異常部分を示す部分が重なり合うように時間軸に沿ってシフトさせた状態で加算することによって、加算波形を生成する加算処理部と、
前記加算処理部により生成された前記加算波形に基づく値が所定の判定しきい値よりも大きい場合に、前記ワイヤロープの前記異常部分を判定する判定処理部と、を含む、ワイヤロープ検査装置。
【符号の説明】
【0133】
20 励磁部
30 検出部
54、554 1回目微分処理部
55、555 2回目微分処理部
56、256、556 加算処理部
57、557 判定処理部
100、200、300、400 ワイヤロープ検査システム
101、500 ワイヤロープ検査装置
102、202、302、402 処理装置
550 処理部