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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】被覆負極活物質および全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20241106BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241106BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241106BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20241106BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241106BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241106BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20241106BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20241106BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/48
H01M4/485
H01M4/36 E
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/0585
C01B33/02 Z
C01G23/00 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021148503
(22)【出願日】2021-09-13
(65)【公開番号】P2023041247
(43)【公開日】2023-03-24
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】ビスバル メンドザ ヘイディ ホデス
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109935805(CN,A)
【文献】特開2015-079727(JP,A)
【文献】特表2021-501977(JP,A)
【文献】国際公開第2012/144177(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123322(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065766(WO,A1)
【文献】特開2019-106352(JP,A)
【文献】特開2010-140901(JP,A)
【文献】特表2013-528907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36-4/485
H01M 10/052-10/0585
C01B 33/02
C01G 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池に用いられ、かつ、Si系活物質と、前記Si系活物質の表面の少なくとも一部を被覆し、リチウム酸化物を含む被覆層と、を有する被覆負極活物質であって、
前記Si系活物質と前記被覆層との間に、シリコン酸化物層が形成されている、被覆負極活物質。
【請求項2】
前記シリコン酸化物層が、非晶質である、請求項1に記載の被覆負極活物質。
【請求項3】
前記リチウム酸化物が、チタン酸リチウムである、請求項1または請求項2に記載の被覆負極活物質。
【請求項4】
前記チタン酸リチウムが、LiTi12である、請求項3に記載の被覆負極活物質。
【請求項5】
前記シリコン酸化物層が、Ti元素を含む、請求項3または請求項4に記載の被覆負極活物質。
【請求項6】
前記被覆層は、Si元素を含む、請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の被覆負極活物質。
【請求項7】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された固体電解質層と、を有し、
前記負極活物質層が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の被覆負極活物質を含有する、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆負極活物質および全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の負極層に用いられる負極活物質として、Si系活物質が知られている。特許文献1には、リチウムイオンが吸収/放出され得る活性粒子と、活性粒子の表面にコーティングされたコーティング層と、を含み、コーティング層は、ナノ中空繊維である第1物質と、炭素前駆体又はLTOである第2物質を含むリチウム二次電池用負極活物質が開示されており、上記活性粒子としてSiを用いることが記載されている。
【0003】
また、全固体電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。特許文献2には、全固体電池用の負極合材に、負極活物質として、炭素、Si、及びSnからなる群より選ばれる少なくとも一種と、LiTi12を併用して用いることにより、最大30サイクルでの充放電試験において、充電容量に対する放電容量の値が高いことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-528907号公報
【文献】特開2020-53154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Si系活物質は理論容量が大きいため、Si系活物質を用いた全固体電池は高エネルギー密度化を図りやすい。一方、Si系活物質は充放電時の体積変化が大きい。したがって、負極活物質としてSi系活物質を用いた場合には、充放電サイクルに伴って、負極活物質層におけるパス切れ(イオン伝導パスおよび電子伝導パスの切断)が生じ、抵抗増加が生じやすく、容量が低下しやすい傾向にある。そのため、負極活物質としてSi系活物質を用いた場合に、高サイクル時の反応抵抗の増加を抑制することが求められている。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高サイクル時における反応抵抗の増加を抑制可能な被覆負極活物質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示においては、Si系活物質と、上記Si系活物質の表面の少なくとも一部を被覆し、リチウム酸化物を含む被覆層と、を有する被覆負極活物質であって、上記Si系活物質と上記被覆層との間に、シリコン酸化物層が形成されている、被覆負極活物質を提供する。
【0008】
本開示によれば、Si系活物質と被覆層との間に、シリコン酸化物層を設けることで、Si系活物質と被覆層との密着性が向上し、高サイクル時の反応抵抗の増加を抑制可能な被覆負極活物質とすることができる。
【0009】
上記開示において、上記シリコン酸化物層が、非晶質であってもよい。
【0010】
上記開示では、上記リチウム酸化物が、チタン酸リチウムであってもよい。
【0011】
上記開示では、上記チタン酸リチウムが、LiTi12であってもよい。
【0012】
上記開示において、上記シリコン酸化物層が、Ti元素を含んでもよい。
【0013】
上記開示において、上記被覆層は、Si元素を含んでもよい。
【0014】
また、本開示においては、正極活物質層と、負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層と、を有し、上記負極活物質層が、上述した被覆負極活物質を含有する、全固体電池を提供する。
【0015】
本開示によれば、負極活物質層が上述した被覆負極活物質を含有するため、高サイクル時の反応抵抗の増加が抑制された全固体電池とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、高サイクル時の反応抵抗の増加を抑制可能な被覆負極活物質を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示における被覆負極活物質の一例を示す概略断面図である。
図2】本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。
図3】比較例1のSi粒子のSEM画像である。
図4】実施例1の被覆負極活物のSEM画像である。
図5】実施例1の被覆負極活物質のEDXマッピング画像である。
図6】実施例1の被覆負極活物質のHAADF-STEM像である。
図7】実施例1の被覆負極活物質のSTEM-EDX分析結果である。
図8】比較例1および実施例1の電池の各サイクルの容量維持率を算出した結果である。
図9】比較例1および実施例1の電池の初回充放電後および耐久後のインピーダンス測定を行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.被覆負極活物質
以下、本開示における被覆負極活物質の詳細を説明する。図1は本開示における被覆負極活物質の一例を示す概略断面図である。図1に示す被覆負極活物質1は、Si系活物質2と、Si系活物質2の表面の少なくとも一部を被覆し、リチウム酸化物を含む被覆層3と、を有し、Si系活物質2と被覆層3との間に、シリコン酸化物層4が形成されている。
【0019】
本開示によれば、Si系活物質の表面の少なくとも一部がリチウム酸化物を含む被覆層で被覆されているため、被覆負極活物質の体積変化を抑制することができる。これは、リチウム酸化物は、Si系活物質に比べ、充放電時の体積変化が小さいためである。さらに、Si系活物質と被覆層との間に、シリコン酸化物層が形成されているため、Si系活物質と被覆層との密着性が良好となる。この結果、リチウムイオン伝導性を有する被覆層が、Si系活物質の膨張収縮に追従するため、Si系活物質が孤立することによるイオン伝導パスおよび電子伝導パスの切断を抑制することができる。従って、高サイクル時の反応抵抗増加を抑制することができる。
【0020】
1.被覆層
本開示における被覆層は、Si系活物質の表面の少なくとも一部を被覆し、リチウム酸化物を含む層である。リチウム酸化物は、通常、Si系活物質に比べて充放電による体積変化が少ない。リチウム酸化物は、リチウム元素、金属元素Meおよび酸素元素を含有するものが挙げられる。金属元素Meとしては、Ti、Nbが挙げられる。
【0021】
リチウム酸化物としては、チタン酸リチウムが好ましい。チタン酸リチウムは、Li、TiおよびOを含有する化合物であり、例えば、LiTi12、LiTiO、LiTiO、LiTiが挙げられる。チタン酸リチウムは、層状構造およびスピネル構造の少なくとも一方を有することが好ましい。
【0022】
チタン酸リチウムは、通常、Liが挿入された状態で電子伝導性を有し、Liが挿入された状態における電子伝導度(25℃)は、例えば8.0×10-1S/cm以上である。従って、本開示においては、チタン酸リチウムを含む被覆層がSi系活物質と密着していることで、Si系活物質の膨張収縮に伴う電子伝導パスの切断を、更に抑制することができる。一方、例えば短絡が生じると、チタン酸リチウムからLiが脱離するため、その絶縁化(シャットダウン機能)を利用して電子伝導パスを遮断することで、発熱量を低減することができる。なお、挿入されたLiが脱離した状態におけるチタン酸リチウムの電子伝導度(25℃)は、例えば2.1×10-6S/cm以下である。
【0023】
また、リチウム酸化物の一例としては、ニオブ酸リチウム(例えば、LiNbO)、リチウムニオブチタン系酸化物(例えば、LiNbTiO)、LiCoVO、LiMgSnO、LiVMoO等が挙げられる。
【0024】
被覆層は、リチウム酸化物を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0025】
被覆層は、リチウム酸化物を主体として含むことが好ましい。被覆層におけるリチウム酸化物の割合は、例えば70重量%以上であり、80重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。
【0026】
被覆層は、Si系活物質由来のSi元素を含むことが好ましい。Si系活物質と被覆層との密着性が更に良好となるためである。
被覆層におけるSi元素の上記金属元素Meに対する割合((Si/Me)のモル比)は、0.1以上0.4以下であってもよいし、0.2以上0.3以下であってもよい。
上記割合はTEM-EDXの点分析から算出することができる。被覆層中のSi元素の割合が少なすぎると、Si系活物質と被覆層との密着性が低下する場合がある。Si元素の割合が多すぎると、被覆負極活物質におけるSi系活物質の割合が少なくなり、エネルギー密度が低くなる可能性がある。また、被覆層がチタン酸リチウムを含む場合には、被覆層の電子伝導性が低下する可能性がある。
【0027】
被覆層の平均厚さは、例えば5nm以上であり、30nm以上であってもよく、50nm以上であってもよい。被覆層が薄すぎると、本開示の効果が得られない恐れがある。一方、被覆層の平均厚さは、例えば100nm以下であり、80nm以下であってもよく、60nm以下であってもよい。被覆層の平均厚さは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)等を用いて測定することができる。
【0028】
被覆層は、例えば図5に示すように、粒子の集合体であることが好ましい。この場合、粒子の平均粒径(D50)は、例えば5nm以上であり、30nm以上であってもよく、50nm以上であってもよい。一方、粒子の平均粒径(D50)は、例えば100nm以下であり、80nm以下であってもよく、60nm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。また、被覆層が粒子の集合体である場合、その粒子の平均粒径は、通常、Si系活物質の平均粒径より小さい。
【0029】
被覆層は、シリコン酸化物層を介して、Si系活物質の表面の少なくとも一部を被覆する。被覆層は、Si系活物質の表面の一部に形成されていてもよく、全面に形成されていてもよい。被覆層によるSi系活物質の被覆率は、例えば70%以上であり、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。一方、被覆率は、100%であってもよく、100%未満であってもよい。被覆率は、例えば、HAADF-STEM分析(高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡分析)とEDX分析(エネルギー分散型蛍光X線分光分析)により確認することができる。
【0030】
被覆層の形成方法については、後述する「5.被覆負極活物質の製造方法」に詳述するため、ここでの記載は省略する。
【0031】
2.シリコン酸化物層
シリコン酸化物層は、Si系活物質と被覆層との間に形成されており、シリコン酸化物を含む層である。シリコン酸化物層が、Si系活物質と被覆層との間に形成されていることは、例えば、被覆負極活物質の断面に対し、HAADF-STEM分析(高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡分析)とEDX分析(エネルギー分散型蛍光X線分光分析)を行うことにより確認することができる。
【0032】
シリコン酸化物層は、シリコン元素、酸素元素を含み、一般式:SiOxで示されるシリコン酸化物を主体に構成される。上記xは、ケイ素と酸素の比を表し、例えば、0<x<2を満足する実数であり、0.5≦x≦1.5を満足する実数であってもよい。シリコン酸化物層における一般式:SiOxで示されるシリコン酸化物の割合は、例えば70重量%以上であり、80重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。
【0033】
シリコン酸化物層は、シリコン元素、酸素元素に加え、被覆層に由来する金属元素Meが含まれることが好ましい。Si系活物質と被覆層との密着性が更に良好となるためである。シリコン酸化物層に含まれる金属元素MeのSi元素に対する割合(Me/Siのモル比)は、例えば、0より大きい値であり、0.05以上であってもよく、0.1以上であってもよい。Me元素の割合が少なすぎると、密着性が低下する場合がある。一方、例えば、0.5以下であってもよい。上記割合はTEM-EDXの点分析から算出することができる。また、XPS分析により算出することもできる。シリコン酸化物層は、リチウム元素を含んでいてもよい。
【0034】
シリコン酸化物層は、非晶質であることが好ましい。非晶質であれば、シリコン酸化物上に被覆層を形成する際に、シリコン酸化物層への金属元素Meの拡散が進行しやすく、被覆層とSi系活物質との密着性がより良好となるためである。シリコン酸化物層が非晶質であることは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた画像解析等で確認することができる。
【0035】
シリコン酸化物層の平均厚さは、例えば2nm以上であり、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよい。一方、シリコン酸化物層の平均厚さは、例えば20nm以下であり、15nm以下であってもよい。シリコン酸化物層が薄すぎると、Si系活物質と被覆層との密着性を確保することができない。また、シリコン酸化物層が厚すぎると、被覆負極活物質におけるSi系活物質の割合が少なくなり、エネルギー密度が低くなる可能性がある。
【0036】
シリコン酸化物層は、Si系活物質の表面の一部に形成されていてもよく、全面に形成されていてもよい。シリコン酸化物層によるSi系活物質の被覆率は、例えば70%以上であり、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。一方、被覆率は、100%であってもよく、100%未満であってもよい。被覆率は、例えば、HAADF-STEM分析(高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡分析)とEDX分析(エネルギー分散型蛍光X線分光分析)により確認することができる。
【0037】
シリコン酸化物層の形成方法については、後述する「5.被覆負極活物質の製造方法」に詳述するため、ここでの記載は省略する。
【0038】
3.Si系活物質
Si系活物質は、Si元素を含有する活物質である。Si系活物質は、例えば、Si単体、Si合金を挙げることができる。Si合金は、Si元素を主成分として含有することが好ましい。Si合金中のSi元素の割合は、例えば、50mol%以上であってもよく、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。Si合金としては、例えば、Si-Al系合金、Si-Sn系合金、Si-In系合金、Si-Ag系合金、Si-Pb系合金、Si-Sb系合金、Si-Bi系合金、Si-Mg系合金、Si-Ca系合金、Si-Ge系合金、Si-Pb系合金等を挙げることができる。Si合金は、2成分系合金であってもよく、3成分系以上の多成分系合金であってもよい。
【0039】
Si系活物質は、被覆層に由来する金属元素Me(例えば、Ti元素)を含まないことが好ましい。エネルギー密度が低くなる可能性があるためである。
【0040】
Si系活物質の形状は、例えば、粒子状が挙げられる。Si系活物質の平均粒径(D50)は、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。本開示においては、1μm以上10μmが好ましい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0041】
4.被覆負極活物質
本開示における被覆負極活物質は、通常、全固体電池に用いられる。全固体電池については、後述する「B.全固体電池」に詳述するため、ここでの記載は省略する。
本開示における被覆負極活物質は、Si系活物質の表面に、シリコン酸化物層および被覆層がこの順に連続的に形成されている。本開示においては、被覆層に由来する金属元素Meは、シリコン酸化膜に拡散していることが好ましい。一方、被覆層に由来する金属元素Meは、Si系活物質には拡散していないことが好ましい。また、Si系活物質由来のSiは、被覆層に拡散していることが好ましい。本開示においては、被覆層に由来する金属元素Meがシリコン酸化膜に拡散し、かつ、Si系活物質由来のSiが被覆層に拡散していることが好ましい。被覆層とSi系活物質との密着性がさらに向上するためである。
【0042】
なお、被覆負極活物質における上記金属元素MeのSi元素に対する割合((Me/Si)のモル比)は、0.01~0.2であってもよい。上記割合はTEM-EDXの点分析から算出することができる。またXPS分析により算出することもできる。尚、上記割合が0.05以上だと被覆率は80%以上得られる。
【0043】
5.被覆負極活物質の製造方法
本開示における被覆負極活物質は、例えば、Si系活物質を準備する工程と、Si系活物質の表面に、リチウム酸化物の前駆体溶液を塗工し、前駆体層を形成する工程と、前駆体層を熱処理する熱処理工程と、を有する製造方法により製造することができる。
【0044】
(1)Si系活物質準備工程
Si系活物質は、自ら合成して準備してもよく、市販品を購入して準備してもよい。Si系活物質については、「A.被覆負極活物質」と同様の内容であるためここでの記載は省略する。
【0045】
本開示においては、前駆体層を形成する工程の前に、Si系活物質の表面に予めシリコン酸化物層を形成する工程を行ってもよい。シリコン酸化物層を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、酸素プラズマ処理、酸化雰囲気下での処理、シランカップリング剤処理等が挙げられる。また、シリコン酸化物層は、後述する熱処理工程で被覆層と同時に形成してもよい。
【0046】
(2)前駆体層形成工程
本工程は、Si系活物質の表面に、リチウム酸化物の前駆体溶液を塗工し、前駆体層を形成する工程である。本開示における前駆体溶液は、通常、リチウム酸化物の原料と、溶媒とを含有する。
【0047】
前駆体溶液は、通常、リチウム酸化物のLi源を含有する。Li源としては、例えば、Li無機塩、Liアルコキシド、Li水酸化物を挙げることができる。Li無機塩としては、例えば、硝酸リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウムを挙げることができる。Liアルコキシドとしては、例えば、エトキシリチウム、メトキシリチウムを挙げることができる。Li水酸化物としては、例えば、水酸化リチウムを挙げることができる。
【0048】
リチウム酸化物の原料としては、例えば、金属錯体、金属アルコキシド、金属無機塩、金属水酸化物等を挙げることができる。金属錯体としては、例えば、金属酸錯体を挙げることができ、具体的には、金属のペルオキソ錯体、金属のオキサラト錯体等を挙げることができる。金属のペルオキソ錯体としては、ペルオキソチタネート錯体が挙げられる。金属無機塩としては、例えば、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属酢酸塩等を挙げることができる。
【0049】
金属のペルオキソ錯体を含有する前駆体溶液の調製方法としては、例えば、金属酸化物に、過酸化水素水およびアンモニア水を添加する方法を挙げることができる。過酸化水素水およびアンモニア水の添加量は、透明溶液(均一な溶液)が得られるように適宜調整すれば良い。このように前駆体溶液が過酸化水素を含有する場合、過酸化水素の酸化作用により、Si系活物質の表面が酸化されるため、熱処理工程後に、シリコン酸化物層が被覆層と同時に形成される。
【0050】
前駆体溶液が金属アルコキシドを含有する場合、通常は、ゾルゲル法により前駆体層を形成する。この場合、金属アルコキシドは、加水分解反応および重縮合反応によってゾル状態となり、さらに重縮合反応および凝集によってゲル状態となる。
【0051】
前駆体溶液の溶媒の種類は、特に限定されるものではなく、アルコール、水等を挙げることができる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等を挙げることができる。前駆体溶液の溶媒は、主成分がアルコールであっても良い。溶媒におけるアルコールの割合は50mol%以上であることが好ましく、70mol%以上であっても良く、90mol%以上であっても良い。前駆体溶液の溶媒は、主成分が水であっても良い。溶媒における水の割合は50mol%以上であることが好ましく、70mol%以上であっても良く、90mol%以上であっても良い。
【0052】
例えば、前駆体溶液が金属アルコキシドを含有する場合、溶媒は、無水または脱水アルコールであることが好ましい。一方、例えば、前駆体溶液が、金属のペルオキソ錯体を含有する場合、溶媒は水であることが好ましい。
【0053】
前駆体溶液の塗工方法としては、特に限定されないが、前駆体溶液中にSi系活物質を浸漬し、攪拌分散する方法が挙げられる。その後、溶媒を乾燥することで粉末を得ることができる。
【0054】
(3)熱処理工程
本開示における熱処理工程は、前駆体層を熱処理する工程である。
【0055】
熱処理温度は、目的とする被覆層を形成可能な温度であれば特に限定されるものではないが、例えば100℃以上であり、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。一方、熱処理温度は、例えば、600℃以下であり、500℃以下であることが好ましい。熱処理温度が高すぎると、シリコン酸化物層が結晶化し、金属元素Meのシリコン酸化物層への拡散が進行しにくくなり、Si系活物質と被覆層との密着性が低下する場合がある。また、シリコン酸化物層が厚くなり、Si系活物質の割合が少なくなり、エネルギー密度が低くなる可能性がある。
【0056】
熱処理時間は、目的とする被覆層を形成できるように適宜設定する。熱処理時間は、例えば、30分間~48時間の範囲内であり、1時間~20時間の範囲内であることが好ましい。また、熱処理雰囲気は、例えば、アルゴン雰囲気下が挙げられる。
【0057】
B.全固体電池
図2は、本開示における全固体電池の概略断面図である。図2に示す全固体電池10は、正極活物質層11と、上述した被覆負極活物質を含有する負極活物質層12と、正極活物質層11および負極活物質層12の間に形成された固体電解質層13と、正極活物質層11の集電を行う正極集電体14と、負極活物質層12の集電を行う負極集電体15とを有する。
【0058】
本開示によれば、負極活物質層が上述した被覆負極活物質を含有するため、高サイクル時の反応抵抗の増加を抑制した全固体電池とすることができる。
【0059】
1.負極活物質層
本開示における負極活物質層は、上述した被覆負極活物質を含有する。負極活物質層は、負極活物質として、被覆負極活物質のみを含有していてもよく、他の負極活物質を含有していてもよい。負極活物質層に含まれる全ての負極活物質に対する、被覆負極活物質の合計の割合は、例えば50体積%以上であり、70体積%以上であってもよく、90体積%以上であってもよい。
【0060】
負極活物質層における負極活物質の割合は、例えば30体積%以上であり、50体積%以上であってもよい。負極活物質の割合が少なすぎると、体積エネルギー密度の向上が図れない可能性がある。一方、負極活物質層における負極活物質の割合は、例えば80体積%以下である。負極活物質の割合が多すぎると、良好な電子伝導パスおよびイオン伝導パスが形成されない可能性がある。
【0061】
負極活物質層は、固体電解質を含有することが好ましい。良好なイオン伝導パスが形成
されるからである。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質
、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。
【0062】
硫化物固体電解質としては、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、S元素を含有する固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。硫化物固体電解質は、ガラス(非晶質)であってもよく、ガラスセラミックスであってもよい。硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-SiS、LiS-GeS、LiS-P-GeSが挙げられる。
【0063】
負極活物質層は、導電材を含有していてもよい。導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。
【0064】
負極活物質層は、バインダーを含有していてもよい。バインダーとしては、例えば、フッ化物系バインダー、ポリイミド系バインダー、ゴム系バインダーが挙げられる。また、負極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0065】
2.正極活物質層
本開示における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。また、正極活物質層は、必要に応じて、導電材、固体電解質およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0066】
正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、LiTi12、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0067】
酸化物活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有する保護層が形成されていてもよい。酸化物活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbOが挙げられる。保護層の厚さは、例えば、1nm以上30nm以下である。また、正極活物質として、例えばLiSを用いることもできる。
【0068】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。正極活物質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。
【0069】
正極活物質層に用いられる導電材、固体電解質およびバインダーについては、上記「1.負極活物質層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0070】
3.固体電解質層
本開示における固体電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に配置され、少なくとも固体電解質を含有する層である。固体電解質層は、固体電解質として硫化物固体電解質を含有することが好ましい。また、固体電解質層はバインダーを含有していてもよい。固体電解質層に用いられる固体電解質およびバインダーについては、上記「1.負極活物質層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0071】
4.全固体電池
本開示における全固体電池は、通常、正極活物質層の集電を行う正極集電体と、負極活物質層の集電を行う負極集電体と、を有する。正極集電体および負極集電体の形状としては、例えば、箔状が挙げられる。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、カーボンが挙げられる。また、負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケル、カーボンが挙げられる。
【0072】
本開示における全固体電池は、正極活物質層、固体電解質層および負極活物質層を有する発電単位を少なくとも1つ有し、2以上有していてもよい。全固体電池が複数の発電単位を有する場合、それらは、並列接続されていてもよく、直列接続されていてもよい。本開示における全固体電池は、正極集電体、正極物質層、固体電解質層、負極活物質層および負極集電体を収納する外装体を備える。外装体の種類は特に限定されないが、例えば、ラミネート外装体が挙げられる。
【0073】
本開示における全固体電池は、正極活物質層、固体電解質層および負極活物質層に対して、厚さ方向に沿って拘束圧を付与する拘束治具を有していてもよい。拘束圧を付与することで、良好なイオン伝導パスおよび電子伝導パスが形成される。拘束圧は、例えば0.1MPa以上であり、1MPa以上であってもよく、5MPa以上であってもよい。一方、拘束圧は、例えば100MPa以下であり、50MPa以下であってもよく、20MPa以下であってもよい。
【0074】
本開示における全固体電池は、典型的には全固体リチウムイオン二次電池である。全固体電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0075】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0076】
以下、本開示の全固体電池について、実施例および比較例を用い、さらに具体的に説明する。
【0077】
[比較例1]
(負極の作製)
負極活物質(Si粒子、平均粒径2.5μm)と、硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-75(0.75LiS-0.25P)、平均粒径0.5μm)と、導電材(VGCF)と、バインダー(SBR)とを準備した。これらを、重量比で、負極活物質:硫化物固体電解質:バインダー=66.7:31.9:1.3となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。VGCFは、負極活物質層における割合が2.5体積%となるように秤量し、投入した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、負極スラリーを得た。得られた負極スラリーを、負極集電体(Ni箔)上に塗工し、100℃30分間の条件で乾燥させた。その後、1cmの大きさに打ち抜くことにより、負極活物質層および負極集電体を有する負極を得た。負極活物質層の厚さは80μmであった。
【0078】
(正極の作製)
正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)と、硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-75(0.75LiS-0.25P))と、導電材(VGCF)と、バインダー(PVdF)とを準備した。これらを、重量比で、正極活物質:硫化物固体電解質:導電材:バインダー=84.7:13.4:1.3:0.6となるように秤量し、分散媒(ヘプタン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、正極スラリーを得た。得られた正極スラリーを、正極集電体(アルミニウム箔)上に塗工し、100℃、30分間の条件で乾燥させた。その後、1cmの大きさに打ち抜くことにより、正極活物質層および正極集電体を有する正極を得た。正極活物質層の厚さは80μmであった。
【0079】
(固体電解質層の作製)
内径断面積1cmの筒状セラミックスに、硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-75(0.75LiS-0.25P))を入れ、4ton/cmでプレスすることにより、固体電解質層(厚さ15μm)を得た。
【0080】
(評価用セルの作製)
固体電解質層の一方の面に正極を配置し、1ton/cm(≒98MPa)でプレスした。次に、固体電解質層の他方の面に負極を配置し、4ton/cm(≒392MPa)でプレスした。これにより、評価用セルを得た。
【0081】
[比較例2および比較例3]
導電材として、VGCFに加えてLTO(LiTi12、平均粒径0.5μm)を用い、負極活物質層におけるLTO(LiTi12)の割合(体積%)を、表1に示す値に変更したこと以外は、比較例1と同様にして負極スラリーを調製した。得られた負極スラリーを使用したこと以外は、比較例1と同様にして負極活物質層を製造し、評価用セルを得た。
【0082】
[実施例1]
(被覆負極活物質の合成)
Si粒子(平均粒径5μm)を用い、(Si-SiOx)/LTO≒0.5g/0.35gの比率を有する被覆負極活物質を合成した。
【0083】
まず、CHCOOLi・2HO粉末1.24gをナスフラスコに入れた。上記ナスフラスコに、過酸化水素水(濃度:30重量%)20ml、および、アンモニア水(濃度:28重量%)20mlを添加し、撹拌して分散させた。さらに、HTiO粉末1.47gを添加して40分間攪拌して溶解させた。これにより、ペルオキソチタネート錯体を含む淡黄色透明溶液を得た。この反応は、下記式(1)および下記式(2)で表される。
TiO+H+OH⇔[TiO(O)(OH)]+2HO (1)
TiO+H+2OH⇔[TiO(O)(OH)2-+2HO (2)
【0084】
次に、淡黄色透明溶液を含むナスフラスコを60℃の水浴中に漬けて、淡黄色透明溶液にSi粒子2gを添加して約35分間攪拌し、分散させた。次いで、ロータリーエバポレーター装置で上記溶液を60℃、減圧(60hPa(0.06atm))して溶媒を蒸発させた。次いで、100℃にて乾燥して粉末を回収した。次に、昇温速度10℃/分で昇温し、600℃/5時間、Arガス雰囲気下で本焼成し、結晶化を行った(熱処理工程)。次いで、放冷した(自然降温)。これにより、Si粒子の表面に、シリコン酸化物層およびLiTi12(LTO)を含む被覆層が形成された、粉末状の被覆負極活物質を得た。
【0085】
得られた被覆負極活物質を用いて調製した負極スラリーを使用したこと以外は、比較例1と同様の方法で負極活物質層を製造し、評価用セルを得た。なお、負極活物質層におけるLTOの割合(体積%)を表1に示す。
【0086】
[実施例2]
(Si-SiOx)/LTO≒0.5g/0.15gの比率となるように配合量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、被覆負極活物質を合成した。得られた被覆負極活物質を用いて調製した負極スラリーを使用したこと以外は、比較例1と同様の方法で負極活物質層を製造し、評価料セルを得た。なお、負極活物質層におけるLTOの割合(体積%)を表1に示す。
【0087】
[SEM観察]
比較例1で使用したSi粒子と、実施例1で合成した被覆負極活物質を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。それぞれのSEM画像を図3および図4に示す。また、実施例1で合成した被覆負極活物質について、O原子、Si原子、Ti原子のEDXマッピング画像を得た。結果を図5に示す。図4および図5から、Si粒子の表面に、チタン酸リチウムを含む被覆層(LTO層)が形成されていることが確認された。
【0088】
[HAADF-STEM観察]
実施例1で得られた評価用セルから、負極層の断面試料を作製し、被覆負極活物質の断面に対してHAADF-STEM分析(高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡分析)およびEDX分析(エネルギー分散型蛍光X線分光分析)を実施した。HAADF-STEM像を図6に示す。STEM-EDX分析結果を図7に示す。図6および図7から、Si粒子とチタン酸リチウムを含む被覆層との間に、非晶質のシリコン酸化物層が形成されていることが確認された。また、非晶質のシリコン酸化物層はTi元素を含み、LTO層はSi元素を含んでいることが確認された。
【0089】
[評価方法]
(容量維持率)
比較例1~3および実施例1~2の各電池に対して、充放電試験を行い評価した。5MPaの拘束圧で定寸拘束し、0.461mAで4.35Vまで定電流-定電圧(CC-CV)充電を行った。その後、0.461mAで3.0VまでCC-CV放電を行った。その後、再度全固体電池を充電した。この時の充電を初回充電とした。サイクルは2Cで600サイクルまで評価を行った。
上記サイクル試験の1サイクル目の放電容量と、100サイクル目の放電容量を求め、下記式により容量維持率を算出した。
容量維持率(%)=(100サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量)×100
同様に、比較例1および実施例1の電池に対して、600サイクル目の容量維持率を算出した。その結果を表1にまとめた。また、比較例1および実施例1の電池に対し、1サイクル目から600サイクル目までの容量維持率を算出した結果を図8に示す。
【0090】
(反応抵抗増加率)
インピーダンス法により反応抵抗評価を行った。具体的には、比較例1および実施例1の電池に対し、初回充放電の後、全固体電池のOCVを3.9Vに調整し、交流インピーダンス測定を行い、図9に示すナイキストプロット(図9中、初回)を得た。ナイキストプロットにより得られた円弧成分を反応抵抗として定義した。また、同様に上記600サイクル後の反応抵抗評価を行った(図9中、耐久後)。下記式により、反応抵抗増加率(倍)を算出した。結果を表1に示す。
反応抵抗増加率(倍)=600サイクル後反応抵抗÷1サイクル後反応抵抗
【0091】
【表1】
【0092】
表1の結果から、実施例1および実施例2の電池は、高サイクル時における反応抵抗の増加を抑制することができ、高サイクル時においても高い容量維持率が得られることが確認された。一方、比較例1~比較例3の電池は、LTOの添加の有無およびLTO量に関わらず、100サイクル時における容量維持率が70%程度と低かった。これは、LTOを単に添加するだけでは、Siの膨張収縮により、一度物理的に離れたSi粒子とLTO粒子同士の接触が戻らず、Siが孤立してしまったためと推察される。一方、実施例1および実施例2では、Si粒子と被覆層との間にシリコン酸化物層が形成されていることにより、Si粒子と被覆層との密着性が良好であり、高サイクル時における反応抵抗の増加を抑制することができたと推察される。
【符号の説明】
【0093】
1 … 被覆負極活物質
2 … Si系活物質
3 … 被覆層
4 … シリコン酸化物層
10… 全固体電池
11… 正極活物質層
12… 負極活物質層
13… 固体電解質層
14… 正極集電体
15… 負極集電体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9