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特許7582144車両用サスペンション制御装置、車両制御システム、及び車両用サスペンション制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】車両用サスペンション制御装置、車両制御システム、及び車両用サスペンション制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20241106BHJP
   B60G 17/0165 20060101ALI20241106BHJP
   B60G 23/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B60G17/015 B
B60G17/0165
B60G23/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021155779
(22)【出願日】2021-09-24
(65)【公開番号】P2023046927
(43)【公開日】2023-04-05
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 修太
(72)【発明者】
【氏名】古田 浩貴
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-138241(JP,A)
【文献】特開平07-081363(JP,A)
【文献】特表2010-501388(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0291610(US,A1)
【文献】国際公開第2020/158314(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0023094(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111137090(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/015
B60G 17/0165
B60G 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象輪のサスペンションストロークを制御するアクチュエータと、
前記アクチュエータを制御することにより、車両のばね上構造体の振動を低減するプレビュー制振制御を実行する電子制御ユニットと、
を備える車両用サスペンション制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
路面の上下方向の変位に関連する路面変位関連値をデータ記憶位置と関連付けてマップ化した路面データマップから、現在時刻からプレビュー時間後の前記制御対象輪の予測通過位置を含む前方路面における前記路面変位関連値のデータである前方路面データを取得する取得処理と、
前記前方路面データ上に存在する前記路面変位関連値の段差の境目に位置する前記路面変位関連値を連続的に使用するように前記車両が走行しているか否かを判定する判定処理と、
前記判定処理による判定結果が肯定的である場合、前記前方路面データに対してローパスフィルタを適用するフィルタリング処理と、
前記判定処理による判定結果が肯定的である場合、前記フィルタリング処理後の前記前方路面データに基づいて前記プレビュー制振制御を実行する制御処理と、
を実行する
ことを特徴とする車両用サスペンション制御装置。
【請求項2】
前記フィルタリング処理において、前記電子制御ユニットは、前記前方路面データの高周波成分の大きさを示す指標値が大きい場合には、前記指標値が小さい場合と比べて、前記ローパスフィルタの強度を高くする
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用サスペンション制御装置。
【請求項3】
前記フィルタリング処理において、前記電子制御ユニットは、前記指標値が大きい場合には、前記指標値が小さい場合と比べて、前記前方路面データに対して前記ローパスフィルタを適用する回数を増加させる
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用サスペンション制御装置。
【請求項4】
前記ローパスフィルタの前記強度のレベル値を1以上の正の数で定義したとき、前記フィルタリング処理において、前記電子制御ユニットは、前記指標値が大きくなるにつれ、隣接する自然数と前記隣接する自然数の間に位置する小数とを用いつつ前記レベル値を連続的に増加させる
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の車両用サスペンション制御装置。
【請求項5】
前記判定処理による判定結果が肯定的である場合、前記電子制御ユニットは、前記フィルタリング処理において適用された前記ローパスフィルタの時定数に応じた前記前方路面データの位相遅れを相殺するように前記プレビュー時間を増加させる
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1つに記載の車両用サスペンション制御装置。
【請求項6】
前記判定処理において、前記電子制御ユニットは、前記前方路面データの高周波成分の大きさを示す第1指標値が閾値より大きく、且つ、前記高周波成分よりも低域側の周波数成分の大きさを示す第2指標値が閾値以下の場合に、前記境目に位置する前記路面変位関連値を連続的に使用するように前記車両が走行していると判定する
ことを特徴とする請求項1~5の何れか1つに記載の車両用サスペンション制御装置。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1つに記載の車両用サスペンション制御装置を備え、
前記車両用サスペンション制御装置は、前記路面データマップを生成するマップ管理システムから、前記マップ管理システムによって生成された前記路面データマップの提供を受ける
を備えることを特徴とする車両制御システム。
【請求項8】
前記マップ管理システムは、
前記データ記憶位置のそれぞれに対して実行される処理であって、前記路面データマップ上において隣接するデータ記憶位置との間で前記路面変位関連値の差が閾値以上となるデータ記憶位置を前記路面データマップのエッジ位置として特定するエッジ検出処理と、
前記データ記憶位置のそれぞれに対して実行される処理であって、前記データ記憶位置が前記エッジ位置であるか否かを示すエッジ有無情報を前記データ記憶位置と関連付ける処理と、
を実行し、
前記判定処理において、前記電子制御ユニットは、前記予測通過位置に対応するデータ記憶位置が前記エッジ位置であることを所定回数以上連続して検出した場合に、前記境目に位置する前記路面変位関連値を連続的に使用するように前記車両が走行していると判定する
ことを特徴とする請求項7に記載の車両制御システム。
【請求項9】
制御対象輪のサスペンションストロークを制御するアクチュエータを制御することにより、車両のばね上構造体の振動を低減するプレビュー制振制御を実行する車両用サスペンション制御方法であって、
路面の上下方向の変位に関連する路面変位関連値をデータ記憶位置と関連付けてマップ化した路面データマップから、現在時刻からプレビュー時間後の前記制御対象輪の予測通過位置を含む前方路面における前記路面変位関連値のデータである前方路面データを取得する取得処理と、
前記前方路面データ上に存在する前記路面変位関連値の段差の境目に位置する前記路面変位関連値を連続的に使用するように前記車両が走行しているか否かを判定する判定処理と、
前記判定処理による判定結果が肯定的である場合、前記前方路面データに対してローパスフィルタを適用するフィルタリング処理と、
前記判定処理による判定結果が肯定的である場合、前記フィルタリング処理後の前記前方路面データに基づいて前記プレビュー制振制御を実行する制御処理と、
を含む
ことを特徴とする車両用サスペンション制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両のばね上構造体の振動を低減するプレビュー制振制御を行う車両用サスペンション制御装置、車両制御システム、及び車両用サスペンション制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、アクティブサスペンションの制御装置を開示している。この制御装置は、車両の前面に取り付けられた路面センサによって検出された車両前方の路面変位の時系列データが正常であるか否かを判断する。そして、路面変位の検出が異常であるときには、制御装置は、後輪のサスペンションの制御を前輪位置での上下加速度に基づく制御に切り替える。これにより、路面センサによって路面の変位が正確に検出されない場合における車両の乗り心地性能の悪化が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平05-096922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両のばね上構造体の振動を低減するプレビュー制振制御では、制御対象輪のサスペンションストロークを制御するアクチュエータを制御するために、路面の上下方向の変位に関連する路面変位関連値を位置と関連付けてマップ化した路面データマップが用いることが考えられる。この路面データマップ上の路面変位関連値には、段差が生じ得る。車両がこのような段差の境目に位置する路面変位関連値を連続的に使用するように走行すると、プレビュー制振制御による制振効果が低下したり、車体の能動振動が生じたりする場合がある。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、路面データマップ上に存在する路面変位関連値の段差の影響に起因する制振効果の低下又は車体の能動振動の発生を抑制できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る車両用サスペンション制御装置は、アクチュエータと、電子制御ユニットと、を備える。アクチュエータは、制御対象輪のサスペンションストロークを制御する。電子制御ユニットは、アクチュエータを制御することにより、車両のばね上構造体の振動を低減するプレビュー制振制御を実行する。電子制御ユニットは、取得処理と、判定処理と、フィルタリング処理と、制御処理と、を実行する。取得処理は、路面の上下方向の変位に関連する路面変位関連値をデータ記憶位置と関連付けてマップ化した路面データマップから、現在時刻からプレビュー時間後の制御対象輪の予測通過位置を含む前方路面における路面変位関連値のデータである前方路面データを取得する処理である。判定処理は、前方路面データ上に存在する路面変位関連値の段差の境目に位置する路面変位関連値を連続的に使用するように車両が走行しているか否かを判定する処理である。フィルタリング処理は、判定処理による判定結果が肯定的である場合、前方路面データに対してローパスフィルタを適用する処理である。制御処理は、判定処理による判定結果が肯定的である場合、フィルタリング処理後の前方路面データに基づいてプレビュー制振制御を実行する処理である。
【0007】
フィルタリング処理において、電子制御ユニットは、前方路面データの高周波成分の大きさを示す指標値が大きい場合には、指標値が小さい場合と比べて、ローパスフィルタの強度を高くしてもよい。
【0008】
フィルタリング処理において、電子制御ユニットは、指標値が大きい場合には、指標値が小さい場合と比べて、前方路面データに対してローパスフィルタを適用する回数を増加させてもよい。
【0009】
ローパスフィルタの強度のレベル値を1以上の正の数で定義したとき、フィルタリング処理において、電子制御ユニットは、指標値が大きくなるにつれ、隣接する自然数と隣接する自然数の間に位置する小数とを用いつつレベル値を連続的に増加させてもよい。
【0010】
判定処理による判定結果が肯定的である場合、電子制御ユニットは、フィルタリング処理において適用されたローパスフィルタの時定数に応じた前方路面データの位相遅れを相殺するようにプレビュー時間を増加させてもよい。
【0011】
判定処理において、電子制御ユニットは、前方路面データの高周波成分の大きさを示す第1指標値が閾値より大きく、且つ、高周波成分よりも低域側の周波数成分の大きさを示す第2指標値が閾値以下の場合に、上記境目に位置する路面変位関連値を連続的に使用するように車両が走行していると判定してもよい。
【0012】
本開示に係る車両制御システムは、上記車両用サスペンション制御装置を備える。車両用サスペンション制御装置は、路面データマップを生成するマップ管理システムから、マップ管理システムによって生成された路面データマップの提供を受ける。
【0013】
マップ管理システムは、データ記憶位置のそれぞれに対して実行される処理であって路面データマップ上において隣接するデータ記憶位置との間で路面変位関連値の差が閾値以上となるデータ記憶位置を路面データマップのエッジ位置として特定するエッジ検出処理と、データ記憶位置のそれぞれに対して実行される処理であってデータ記憶位置がエッジ位置であるか否かを示すエッジ有無情報をデータ記憶位置と関連付ける処理と、を実行してもよい。そして、判定処理において、電子制御ユニットは、予測通過位置に対応するデータ記憶位置がエッジ位置であることを所定回数以上連続して検出した場合に、上記境目に位置する路面変位関連値を連続的に使用するように車両が走行していると判定してもよい。
【0014】
本開示に係る車両用サスペンション制御方法は、制御対象輪のサスペンションストロークを制御するアクチュエータを制御することにより、車両のばね上構造体の振動を低減するプレビュー制振制御を実行する。この制御方法は、路面の上下方向の変位に関連する路面変位関連値をデータ記憶位置と関連付けてマップ化した路面データマップから現在時刻からプレビュー時間後の制御対象輪の予測通過位置を含む前方路面における路面変位関連値のデータである前方路面データを取得する取得処理と、前方路面データ上に存在する路面変位関連値の段差の境目に位置する路面変位関連値を連続的に使用するように車両が走行しているか否かを判定する判定処理と、判定処理による判定結果が肯定的である場合、前方路面データに対してローパスフィルタを適用するフィルタリング処理と、判定処理による判定結果が肯定的である場合、フィルタリング処理後の前方路面データに基づいてプレビュー制振制御を実行する制御処理と、を含む。
【発明の効果】
【0015】
本開示に係る車両用サスペンション制御装置、車両制御システム、及び車両用サスペンション制御方法のそれぞれによれば、前方路面データ上に存在する路面変位関連値の段差の境目に位置する路面変位関連値を連続的に使用するように車両が走行していると判定された場合、プレビュー制振制御の基礎として用いられる前方路面データに対してローパスフィルタを適用するフィルタリング処理が実行される。これにより、段差の影響に起因する制振効果の低下又は車体の能動振動の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態に係る車両の構成例を示す概略図である。
図2】実施の形態に係るサスペンションの構成例を示す概念図である。
図3】ばね下変位算出処理の一例を示すフローチャートである。
図4】実施の形態に係る車両制御システムの構成例を示すブロック図である。
図5】車両の運転環境を示す運転環境情報の一例を示すブロック図である。
図6】本実施の形態に係るマップ管理システムの構成例を示すブロック図である。
図7】ばね下変位マップを説明するための概念図である。
図8】実施の形態に係るマップ生成/更新処理を要約的に示すフローチャートである。
図9】プレビュー制振制御を説明するための概念図である。
図10】ばね下変位マップ上に存在する段差Sの境目について説明するための概念図である。
図11】実施の形態に係るプレビュー制振制御に関する処理の一例を示すフローチャートである。
図12】段差Sの境目の判定手法Aの処理の一例を示すフローチャートである。
図13】指標値Xhの大きさに応じたLPFの強度変更の具体例1及び2を説明するための図である。
図14】指標値Xhに応じてLPFの強度を連続的に変更する処理を示すブロック図である。
図15】段差Sの境目の判定手法Bの処理の一例を示すフローチャートである。
図16】段差Sの境目の判定手法Bの処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本開示の実施の形態について説明する。以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術思想が限定されるものではない。
【0018】
1.サスペンション及び路面変位関連値
図1は、本実施の形態に係る車両1の構成例を示す概略図である。車両1は、車輪2とサスペンション3を備えている。車輪2は、左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、及び右後輪2RRを含んでいる。それら左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、及び右後輪2RRのそれぞれに対してサスペンション3FL、3FR、3RL、及び3RRが設けられている。以下の説明では、特に区別の必要が無い場合、各車輪を車輪2と呼び、各サスペンションをサスペンション3と呼ぶ。
【0019】
図2は、実施の形態に係るサスペンション3の構成例を示す概念図である。サスペンション3は、車両1のばね下構造体4とばね上構造体5との間を連結するように設けられている。ばね下構造体4は、車輪2を含んでいる。サスペンション3は、スプリング3S、ダンパ(ショックアブソーバ)3D、及びアクチュエータ3Aを含んでいる。スプリング3S、ダンパ3D、及びアクチュエータ3Aは、ばね下構造体4とばね上構造体5との間に並列に設けられている。アクチュエータ3Aはサスペンション3のストロークを制御する。スプリング3Sのばね定数はKである。ダンパ3Dの減衰係数はCである。アクチュエータ3Aは、ばね下構造体4とばね上構造体5との間に上下方向の制御力Fcを作用させる。
【0020】
より詳細には、アクチュエータ3Aは、例えば、電動式又は油圧式のアクティブアクチュエータ(いわゆる、フルアクティブサスペンションを構成するアクチュエータ)である。あるいは、アクチュエータ3Aは、例えば、ダンパ3Dが発生させる減衰力を可変とするアクチュエータ、又は、アクティブスタビライザ装置のアクチュエータであってもよい。
【0021】
ここで、用語の定義を行う。「路面変位Zr」は、路面RSの上下方向の変位である。「ばね下変位Zu」は、ばね下構造体4の上下方向の変位である。「ばね上変位Zs」は、ばね上構造体5の上下方向の変位である。「ばね下速度Zu'」は、ばね下構造体4の上下方向の速度である。「ばね上速度Zs'」は、ばね上構造体5の上下方向の速度である。「ばね下加速度Zu''」は、ばね下構造体4の上下方向の加速度である。「ばね上加速度Zs''」は、ばね上構造体5の上下方向の加速度である。なお、各パラメータの符号は、上向きの場合に正であり、下向きの場合に負である。
【0022】
車輪2は、路面RS上を移動する。以下の説明において、路面変位Zrに関連する値を、「路面変位関連値」と呼ぶ。路面変位関連値としては、上記の路面変位Zr、路面変位Zrの時間微分値である路面変位速度Zr’、ばね下変位Zu、ばね下速度Zu'、ばね下加速度Zu''、ばね上変位Zs、ばね上速度Zs'、ばね上加速度Zs''、等が例示される。路面変位関連値は、車輪2の上下運動(vertical motion)に関連するパラメータである「上下運動パラメータ」であると言うこともできる。
【0023】
一例として、以下の説明においては、路面変位関連値がばね下変位Zuである場合について考える。一般化する場合は、以下の説明における「ばね下変位」を「路面変位関連値」で読み替えるものとする。
【0024】
図3は、ばね下変位算出処理の一例を示すフローチャートである。
【0025】
ステップS11において、ばね上構造体5に設置されたばね上加速度センサ22によってばね上加速度Zs''が検出される。ステップS12において、ばね上加速度Zs''を2階積分することによりばね上変位Zsが算出される。
【0026】
ステップS13において、ばね上構造体5とばね下構造体4との間の相対変位であるストロークST(=Zs-Zu)が取得される。例えば、ストロークSTは、サスペンション3に設置されたストロークセンサにより検出される。他の例として、ストロークSTは、単輪2自由度モデルに基づいて構成されたオブザーバによって、ばね上加速度Zs''に基づいて推定されてもよい。
【0027】
ステップS14において、センサドリフト等の影響を抑えるために、ばね上変位Zsの時系列データに対してフィルタリング処理が行われる。同様に、ステップS15において、ストロークSTの時系列データに対してフィルタリング処理が行われる。例えば、フィルタは、特定周波数帯の信号成分を通過させるバンドパスフィルタである。特定周波数帯は、車両1のばね上共振周波数を含むように設定されてもよい。例えば、特定周波数帯は、0.3~10Hzである。付け加えると、これらのフィルタリング処理は、後述のフィルタリング処理PR3とは別に実行されるものである。
【0028】
ステップS16において、ばね上変位ZsとストロークSTとの差分がばね下変位Zuとして算出される。
【0029】
ステップS14及びS15の代わりに、ステップS16において算出されるばね下変位Zuの時系列データに対してフィルタリング処理が行われてもよい。
【0030】
更に他の例として、ばね下加速度センサによってばね下加速度Zu''が検出され、ばね下加速度Zu''からばね下変位Zuが算出されてもよい。
【0031】
2.車両制御システム
2-1.構成例
図4は、実施の形態に係る車両制御システム10の構成例を示すブロック図である。車両制御システム10は、車両1に搭載され、車両1を制御する。車両制御システム10は、車両状態センサ20、認識センサ30、位置センサ40、通信装置50、走行装置60、及び電子制御ユニット(ECU)70を含んでいる。
【0032】
車両状態センサ20は、車両1の状態を検出する。車両状態センサ20は、車両1の車速Vを検出する車速センサ(車輪速センサ)21、ばね上加速度Zs''を検出するばね上加速度センサ22、等を含んでいる。車両状態センサ20は、ストロークSTを検出するストロークセンサ23を含んでいてもよい。車両状態センサ20は、ばね下加速度センサを含んでいてもよい。その他、車両状態センサ20は、横加速度センサ、ヨーレートセンサ、舵角センサ、等を含んでいる。
【0033】
認識センサ30は、車両1の周囲の状況を認識(検出)する。認識センサとしては、カメラ、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ、等が例示される。
【0034】
位置センサ40は、車両1の位置及び方位を検出する。例えば、位置センサ40は、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機を含んでいる。
【0035】
通信装置50は、車両1の外部と通信を行う。
【0036】
走行装置60は、操舵装置61、駆動装置62、制動装置63、及びサスペンション3(図2参照)を含んでいる。操舵装置61は、車輪2を転舵する。例えば、操舵装置61は、パワーステアリング(EPS: Electric Power Steering)装置を含んでいる。駆動装置62は、駆動力を発生させる動力源である。駆動装置62としては、エンジン、電動機、インホイールモータ、等が例示される。制動装置63は、制動力を発生させる。
【0037】
ECU70は、車両1を制御するコンピュータである。ECU70は、1又は複数のプロセッサ71(以下、単にプロセッサ71と呼ぶ)と1又は複数の記憶装置72(以下、単に記憶装置72と呼ぶ)を含んでいる。プロセッサ71は、各種処理を実行する。例えば、プロセッサ71は、CPU(Central Processing Unit)を含んでいる。記憶装置72は、プロセッサ71による処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置72としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、等が例示される。ECU70は複数であってもよい。
【0038】
車両制御プログラム80は、車両1を制御するためのコンピュータプログラムであり、プロセッサ71によって実行される。車両制御プログラム80は、記憶装置72に格納される。あるいは、車両制御プログラム80は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。プロセッサ71が車両制御プログラム80を実行することにより、ECU70の機能が実現される。なお、ECU70は、本開示に係る「車両用サスペンション制御装置」が備える「電子制御ユニット」の一例に相当する。
【0039】
2-2.運転環境情報
図5は、車両1の運転環境を示す運転環境情報90の一例を示すブロック図である。運転環境情報90は、記憶装置72に格納される。運転環境情報90は、地図情報91、車両状態情報92、周辺状況情報93、及び位置情報94を含んでいる。
【0040】
地図情報91は、一般的なナビゲーション地図を含む。地図情報91は、レーン配置、道路形状、等を示していてもよい。地図情報91は、白線、信号機、標識、ランドマーク、等の位置情報を含んでいてもよい。地図情報91は、地図データベースから得られる。なお、地図データベースは、車両1に搭載されていてもよいし、外部の管理サーバに格納されていてもよい。後者の場合、ECU70は、管理サーバと通信を行い、必要な地図情報91を取得する。
【0041】
地図情報91は、更に、「ばね下変位マップ200」を含んでいる。ばね下変位マップ200の詳細については後述される。
【0042】
車両状態情報92は、車両1の状態を示す情報である。ECU70は、車両状態センサ20から車両状態情報92を取得する。例えば、車両状態情報92は、車速V、ばね上加速度Zs''、ストロークST、横加速度、ヨーレート、舵角、等を含む。車速Vは、位置センサ40によって検出される車両位置から算出されてもよい。ECU70は、図3で示された手法によりばね下変位Zuを算出してもよい。その場合、車両状態情報92は、ECU70によって算出されたばね下変位Zuも含む。
【0043】
周辺状況情報93は、車両1の周囲の状況を示す情報である。ECU70は、認識センサ30を用いて車両1の周囲の状況を認識し、周辺状況情報93を取得する。例えば、周辺状況情報93は、カメラによって撮像される画像情報を含む。他の例として、周辺状況情報93は、LIDARによって得られる点群情報を含む。
【0044】
周辺状況情報93は、更に、車両1の周囲の物体に関する「物体情報」を含んでいる。物体としては、歩行者、自転車、他車両(先行車両、駐車車両、等)、道路構成(白線、縁石、ガードレール、壁、中央分離帯、路側構造物、等)、標識、ポール、障害物、等が例示される。物体情報は、車両1に対する物体の相対位置及び相対速度を示す。例えば、カメラによって得られた画像情報を解析することによって、物体を識別し、その物体の相対位置を算出することができる。また、LIDARによって得られた点群情報に基づいて、物体を識別し、その物体の相対位置と相対速度を取得することもできる。
【0045】
位置情報94は、車両1の位置及び方位(車両進行方向)を示す情報である。ECU70は、GNSS受信機等の位置センサ40による測定結果から位置情報94を取得する。他の例として、ECU70は、デッドレコニングにより位置情報94を取得してもよい。更に他の例として、ECU70は、物体情報と地図情報91を利用した周知の自己位置推定処理(Localization)により、高精度な位置情報94を取得してもよい。
【0046】
2-3.車両制御
ECU70は、車両1の走行を制御する車両走行制御を実行する。車両走行制御は、操舵制御、駆動制御、及び制動制御を含む。ECU70は、走行装置60(操舵装置61、駆動装置62、及び制動装置63)を制御することによって車両走行制御を実行する。ECU70は、運転環境情報90に基づいて、車両1の運転を支援する運転支援制御を行ってもよい。運転支援制御としては、車線維持制御、衝突回避制御、自動運転制御、等が例示される。
【0047】
更に、ECU70は、サスペンション3を制御する。具体的には、ECU70は、サスペンション3を制御して車両1の振動を抑制する制振制御を行う。ECU70は、アクチュエータ3Aを制御して、ばね下構造体4とばね上構造体5との間に上下方向の制御力Fcを発生させる(図2参照)。制振制御は、後述される「プレビュー制振制御」を含んでいる。
【0048】
3.マップ管理システム
3-1.構成例
図6は、実施の形態に係るマップ管理システム100の構成例を示すブロック図である。マップ管理システム100は、各種の地図情報を管理するコンピュータである。地図情報の管理は、地図情報の生成、更新、提供、配信、等を含む。典型的には、マップ管理システム100は、クラウド上の管理サーバである。マップ管理システム100は、複数のサーバが分散処理を行う分散システムであってもよい。
【0049】
マップ管理システム100は、通信装置110を含んでいる。通信装置110は、通信ネットワークNETに接続されている。例えば、通信装置110は、通信ネットワークNETを介して多数の車両1と通信を行う。
【0050】
マップ管理システム100は、更に、1又は複数のプロセッサ120(以下、単にプロセッサ120と呼ぶ)及び1又は複数の記憶装置130(以下、単に記憶装置130と呼ぶ)を含んでいる。プロセッサ120は、各種情報処理を実行する。例えば、プロセッサ120は、CPUを含んでいる。記憶装置130は、各種の地図情報を格納する。また、記憶装置130は、プロセッサ120による処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置130としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD、SSD、等が例示される。
【0051】
マップ管理プログラム140は、マップ管理のためのコンピュータプログラムであり、プロセッサ120によって実行される。マップ管理プログラム140は、記憶装置130に格納される。あるいは、マップ管理プログラム140は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。プロセッサ120がマップ管理プログラム140を実行することにより、マップ管理システム100の機能が実現される。
【0052】
プロセッサ120は、通信装置110を介して車両1の車両制御システム10と通信を行う。プロセッサ120は、車両制御システム10から各種情報を収集し、収集した情報に基づいて地図情報を生成、更新する。また、プロセッサ120は、車両制御システム10に地図情報を配信する。また、プロセッサ120は、車両制御システム10からのリクエストに応答して地図情報を提供する。
【0053】
3-2.ばね下変位マップ(路面データマップ)
マップ管理システム100が管理する地図情報の一つが、「ばね下変位マップ200」である。ばね下変位マップ200は、ばね下変位Zu(路面変位関連値)に関する地図である。ばね下変位マップ200は、記憶装置130に格納されている。なお、ばね下変位マップ200は、本開示に係る「路面の上下方向の変位に関連する路面変位関連値をデータ記憶位置と関連付けてマップ化した路面データマップ」の一例に相当する。
【0054】
図7は、ばね下変位マップ200を説明するための概念図である。XY面は水平面を表す。例えば、水平面における絶対座標系は緯度方向と経度方向により定義され、路面上のデータ記憶位置は緯度と経度により定義される。ばね下変位マップ200は、少なくともデータ記憶位置(X,Y)とばね下変位Zuとの対応関係を表す。言い換えれば、ばね下変位マップ200は、ばね下変位Zuを少なくともデータ記憶位置(X,Y)の関数として表す。
【0055】
道路領域は、水平面上でメッシュ状に区分されてもよい。つまり、道路領域は、水平面上で複数の単位エリア(以下、「路面区画M」と称する)に区分されてもよい。路面区画Mは、例えば正方形である。正方形の1辺の長さは、例えば10cmである。ばね下変位マップ200は、路面区画Mの位置(すなわち、データ記憶位置)とばね下変位Zuとの対応関係を表す。路面区画Mの位置は、その路面区画Mの代表位置(例:中心位置)で定義されてもよいし、その路面区画Mの範囲(緯度範囲、経度範囲)で定義されてもよい。路面区画Mのばね下変位Zuは、例えば、その路面区画M内で取得されたばね下変位Zuの平均値である。路面区画Mを小さくするほど、ばね下変位マップ200の解像度は増加する。
【0056】
3-3.マップ生成/更新処理
プロセッサ120は、通信装置110を介して、多数の車両1から情報を収集する。そして、プロセッサ120は、多数の車両1から収集した情報に基づいて、ばね下変位マップ200の生成及び更新を行う。以下、マップ生成/更新処理の例について更に詳しく説明する。
【0057】
ばね下変位マップ200における位置は、車輪2が通過した位置である。各車輪2の位置は、上記の位置情報94に基づいて算出される。具体的には、車両1における車両位置の基準点と各車輪2との間の相対位置関係は既知情報である。その相対位置関係と位置情報94で示される車両位置に基づいて、各車輪2の位置を算出することができる。
【0058】
ばね下変位Zuは、図3で示されたような手法により算出される。すなわち、車両1に搭載された車両状態センサ20を用いることによって、ばね上変位Zs及びストロークSTが得られる。これらばね上変位Zs及びストロークSTを、便宜上、「センサベース情報」と呼ぶ。ばね下変位Zuは、このセンサベース情報に基づいて算出される。
【0059】
例えば、車両1の走行中、車両制御システム10のECU70は、センサベース情報に基づいてリアルタイムにばね下変位Zuを算出する。また、ECU70は、同じタイミングの車輪位置とばね下変位Zuとを関連付ける。そして、ECU70は、車輪位置の時系列データとばね下変位Zuの時系列データのセットをマップ管理システム100に送信する。マップ管理システム100のプロセッサ120は、車輪位置の時系列データとばね下変位Zuの時系列データに基づいて、ばね下変位マップ200を生成、更新する。
【0060】
他の例として、車両制御システム10のECU70は、同じタイミングの車輪位置とセンサベース情報とを関連付ける。そして、ECU70は、車輪位置の時系列データとセンサベース情報の時系列データのセットをマップ管理システム100に送信する。マップ管理システム100のプロセッサ120は、受信したセンサベース情報に基づいてばね下変位Zuを算出する。更に、プロセッサ120は、車輪位置の時系列データとばね下変位Zuの時系列データに基づいて、ばね下変位マップ200を生成、更新する。
【0061】
なお、マップ管理システム100においてばね下変位Zuを算出する場合、処理時間の制約はないため、ゼロ位相フィルタを用いてフィルタリング処理を行うことができる。ゼロ位相フィルタを利用することにより、「位相ずれ」を防止することができる。
【0062】
図8は、実施の形態に係るマップ生成/更新処理を要約的に示すフローチャートである。
【0063】
ステップS100において、マップ管理システム100のプロセッサ120は、通信装置110を介して、車両1(車両制御システム10)から「マップ更新用情報」を取得する。マップ更新用情報は、車両1の位置(車輪位置)の時系列データを含む。また、マップ更新用情報は、ばね下変位Zuを算出するために必要なセンサベース情報(例えば、ばね上変位Zs及びストロークST)の時系列データを含む。あるいは、マップ更新用情報は、車両制御システム10のECU70によって算出されたばね下変位Zuの時系列データを含んでいてもよい。
【0064】
ステップS200において、マップ管理システム100のプロセッサ120は、マップ更新用情報に基づいて、ばね下変位マップ200を生成/更新する。
【0065】
3-4.変形例
車両1の車両制御システム10が、ばね下変位マップ200のデータベースを保持し、自身のばね下変位マップ200の生成/更新を行ってもよい。つまり、マップ管理システム100は車両制御システム10に含まれていてもよい。
【0066】
4.ばね下変位マップを利用したプレビュー制振制御
車両制御システム10のECU70は、通信装置50を介してマップ管理システム100と通信を行う。ECU70は、車両1の現在位置を含むエリアのばね下変位マップ200をマップ管理システム100から取得する。ばね下変位マップ200は、記憶装置72に格納される。そして、ECU70は、ばね下変位マップ200に基づいて、制振制御の一種である「プレビュー制振制御」を実行する。
【0067】
4-1.プレビュー制振制御の概要
図9は、プレビュー制振制御を説明するための概念図である。なお、プレビュー制振制御は、ばね上構造体5の振動を低減するために実行される。プレビュー制振制御は、例えば、4つの車輪2のそれぞれを対象として実行されてもよい。また、プレビュー制振制御の制御対象輪は、例えば、2つの前輪2FL及び2FRのみ、又は2つの後輪2RL及び2RRのみであってもよい。
【0068】
プレビュー制振制御において、ECU70は、各車輪2の現在位置P0を取得する。車両1における車両位置の基準点と各車輪2との間の相対位置関係は既知情報である。その相対位置関係と位置情報94で示される車両位置に基づいて、各車輪2の位置を算出することができる。
【0069】
次に、ECU70は、現在時刻からプレビュー時間tp後の車輪2の予測通過位置Pfを算出する。プレビュー時間tpは、例えば、ECU70が予測通過位置Pfを特定してからサスペンション3のアクチュエータ3Aが目標制御力Fc_tに対応する制御力Fcを出力するまでに要する時間となるように予め設定されている。プレビュー距離Lpは、プレビュー時間tpと車速Vの積により与えられる。予測通過位置Pfは、車輪2が移動すると予測される移動予測進路に沿って現在位置P0からプレビュー距離Lpだけ車両進行方向の前方の位置である。移動予測進路は、例えば、車両1の進行方向Tdと車輪2の現在位置P0とに基づいて特定できる。進行方向Tは、例えば次の手法で特定できる。すなわち、ECU70は、前回の時間ステップの現在位置P0及び現在の時間ステップの現在位置P0を地図情報91にマッピングしたうえで、前回の時間ステップの現在位置から現在の時間ステップの現在位置P0に向かう方向を進行方向Tdとして特定する。変形例として、ECU70は、車速Vと車輪2の舵角に基づいて予想走行ルートを算出し、予想走行ルートに基づいて予測通過位置Pfを算出してもよい。
【0070】
次に、ECU70は、予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zuをばね下変位マップ200から読み出す。すなわち、ECU70は、マップ管理システム100からばね下変位マップ200の提供を受ける。そして、ECU70は、予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zuに基づいて、サスペンション3のアクチュエータ3Aの目標制御力Fc_tを算出する。目標制御力Fc_tは、例えば、次のように算出される。この目標制御力Fc_tは、プレビュー制振制御のために必要とされる制御力Fcの要求値(すなわち、要求制御量)に相当する。
【0071】
ばね上構造体5(図2参照)に関する運動方程式は、次の式(1)により表される。
【数1】
【0072】
式(1)において、mはばね上構造体5の質量であり、Cはダンパ3Dの減衰係数であり、Kはスプリング3Sのばね定数であり、Fcはアクチュエータ3Aが発生させる上下方向の制御力Fcである。仮に、制御力Fcによってばね上構造体5の振動が完全に打ち消される場合(Zs''=0,Zs'=0,Zs=0)、その制御力Fcは次の式(2)により表される。
【数2】
【0073】
少なくとも制振効果をもたらす制御力Fcは、次の式(3)により表される。
【数3】
【0074】
式(3)において、ゲインαは、0より大きく且つ1以下であり、ゲインβも、0より大きく且つ1以下である。式(3)中の微分項を省略した場合、少なくとも制振効果をもたらす制御力Fcは、次の式(4)により表される。
【数4】
【0075】
ECU70は、上記式(3)あるいは式(4)に従って、目標制御力Fc_tを算出する。すなわち、ECU70は、予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zuを式(3)あるいは式(4)に代入して、目標制御力Fc_tを算出する。
【0076】
そして、ECU70は、アクチュエータ3Aが目標制御力Fc_tに対応する制御力Fcを発生させるように、目標制御力Fc_tを含む制御指令をアクチュエータ3Aに送信する。アクチュエータ3Aは、現在時刻からプレビュー時間tpだけ後のタイミング(すなわち、車輪2が予測通過位置Pfを通過するタイミング)で目標制御力Fc_tに対応する制御力Fcを発生させる。
【0077】
以上に説明されたばね下変位マップ200を利用したプレビュー制振制御によれば、車輪2の予測通過位置Pfのばね下変位Zu(路面変位関連値)に起因して生じるばね上構造体5の振動を抑制する制御力Fcを適切なタイミングで発生できる。これにより、ばね上構造体5(車体)の振動を効果的に抑制することが可能となる。
【0078】
4-2.ばね下変位マップ上に存在する段差を考慮したプレビュー制振制御
図10は、ばね下変位マップ上に存在する段差Sの境目について説明するための概念図である。
【0079】
ばね下変位マップ(路面データマップ)上には、路面区画M(データ記憶位置)間でのデータの段差S(データの高低差)が生じ得る。より詳細には、ばね下変位Zu(路面変位関連値)の段差Sが生じ得る。図10中にハッチングを付して示される路面区画M1は、ばね下変位Zuが大きい(すなわち、段差Sの上側のばね下変位Zuを有する)路面区画Mに相当する。一方、ハッチングが付されていない路面区画M2は、ばね下変位Zuが小さい(すなわち、段差Sの下側のばね下変位Zuを有する)路面区画Mに相当する。
【0080】
このようなデータの段差Sは、例えば、次のような要因によって生じ得る。すなわち、段差Sは、例えば、実際の路面RSの凹凸に起因して生じ得る(例えば、轍に沿って延びるように生じ得る)。また、段差Sは、ばね下変位Zuのデータを有する路面区画Mの領域と、当該データのない路面区画Mの領域との境目においても生じ得る。データのない路面区画Mでは、同一の初期値(例えば、ゼロ)がばね下変位Zuとして一律に入力されているためである。さらに、段差Sは、ばね下変位Zuのデータを有する路面区画Mの領域の内部においても生じ得る。具体的には、フィルタリング処理(ステップS14及びS15参照)の影響が異なることに起因して、ばね下変位マップ200の生成のために取得されるばね下変位Zuのデータの値は車速に応じて変化する。したがって、異なる車速時に取得されたデータを組み合わせてばね下変位マップ200が生成されると、段差Sが生じ得る。
【0081】
段差Sが生じると、図10に例示されるように、段差Sの境目において、ばね下変位Zuの大きな路面区画M1と、ばね下変位Zuが小さな路面区画M2とが交互に切り替わることが生じ得る。なお、説明の便宜上、図10では、段差Sの境目は、一列で直線的に延びる路面区画Mによって表現されている。しかしながら、境目は、複数列の路面区画Mにわたって、あるいは、曲線的に延びるように生じ得る。
【0082】
図10中に示す矢印Aは、車輪2の軌跡を示している。矢印Aによって例示されるように、段差Sの境目に位置する路面区画M(M1及びM2)のばね下変位Zuを連続的に使用するように車両1が走行すると、路面区画M1と路面区画M2とが高頻度で切り替わることになる。その結果、プレビュー制振制御のためにばね下変位マップ200から取得されるばね下変位Zuは、短い周期で大きく変動してしまう。以下、この現象を、「読み込みデータの振動」と称する。
【0083】
上述の「読み込みデータの振動」が生じると、ばね下変位Zuに基づく目標制御力Fc_t(要求制御量)が振動してしまう。その結果、プレビュー制振制御による制振効果が低下し得る。また、「読み込みデータの振動」に起因するばね上構造体5(車体)の能動振動が生じ得る。
【0084】
上述の課題に鑑み、プレビュー制振制御のためにECU70によって実行される処理は、次の「取得処理PR1」、「判定処理PR2」、「フィルタリング処理PR3」、及び「制御処理PR4」を含んでいる。
【0085】
図11は、実施の形態に係るプレビュー制振制御に関する処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、車両1の走行中に、所定の時間ステップ毎に繰り返し実行される。
【0086】
図11では、ECU70(プロセッサ71)は、図9を参照して上述したように、各車輪2の現在位置P0を取得し(ステップS31)、次いで、各車輪2の予測通過位置Pfを算出する(ステップS32)。
【0087】
次に、ステップS33において、ECU70は、ばね下変位マップ200から、予測通過位置Pfを含む前方路面におけるばね下変位Zuのデータ(以下、「前方路面データ」と称する)を取得する。
【0088】
より詳細には、この前方路面データは、例えば次のような手法で取得することができる。すなわち、車両1の現在位置P0に対して進行方向Tdの前方に位置する所定区間内のばね下変位Zuのデータと進行方向Tdに沿って移動する車輪2の各位置への到達予想時刻とを関連付けた時系列データが、前方路面データとして取得されてもよい。当該所定区間は、例えば、予測通過位置Pfを始点とし、この予測通過位置Pfから進行方向Tdに沿って所定距離だけ離れた位置を終点とする区間である。当該始点は、現在位置P0、又は、現在位置P0と予測通過位置Pfとの間にある進行方向Td上の任意の位置であってもよい。当該所定距離は、例えば、プレビュー距離Lp(図9参照)と比べて十分に大きな値に定められてもよい。また、当該所定区間は、例えば、現在位置P0を始点とし且つ予測通過位置Pfを終点とする進行方向Tdに沿った区間であってもよい。さらに、前方路面データは、各時間ステップで取得するデータの量を減らしてデータ処理負荷を低減するために、例えば次のような手法で取得されてもよい。すなわち、時間ステップ毎に、ばね下変位マップ200から予測通過位置Pfのばね下変位Zuのデータ(1点のデータ)が取得されてもよい。そして、現在の時間ステップで取得されたばね下変位Zuのデータと、前回以前の所定数の時間ステップにて取得されたばね下変位Zuのデータとを組み合わせて、上記所定区間のばね下変位Zuのデータが前方路面データとして取得されてもよい。なお、ステップS31~S33の処理が「取得処理PR1」の一例に相当する。
【0089】
次に、ステップS34において、ECU70は、判定処理PR2を実行する。具体的には、ECU70は、前方路面データ上に存在する段差Sの境目(図10参照)に位置するばね下変位Zuを連続的に使用するように車両1が走行しているか否か(換言すると、車両1が段差Sの境目に沿って走行しているか否か)を判定する。この判定処理PR2は、例えば、次の判定手法Aを用いて行うことができる。
【0090】
上述の「読み込みデータの振動」が生じていると、ステップS33にて取得された前方路面データに含まれる高周波成分(高周波の振動成分)fhが大きくなる。ただし、例えば単純に波打っている路面の走行中には、「読み込みデータの振動」が生じていなくても、高周波成分fhだけでなく、当該高周波成分fhよりも低域側の周波数成分も大きくなることがある。
【0091】
そこで、判定手法Aでは、ECU70は、取得された前方路面データの高周波成分fhの大きさを示す指標値(第1指標値)が閾値より大きく、当該高周波成分fhよりも低域側の周波数成分の大きさを示す指標値(第2指標値)が閾値以下であるか否かを判定する。なお、次に図12を参照して説明される判定手法Aの具体例では、高周波成分fhよりも低域側の周波数成分として、2つの周波数成分(中周波成分fm及び低周波成分fl)が用いられている。ただし、判定手法Aは、高周波成分fhのみが大きくなっていることが分かればよい。したがって、高周波成分fhよりも低域側の周波数成分の数は、2つに代え、1又は3つ以上であってもよい。
【0092】
図12は、段差Sの境目の判定手法Aの処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、車両1の走行中に図11に示すフローチャートの処理と並行して実行される。
【0093】
ステップS41において、ECU70は、高周波成分fh、中周波成分fm、及び低周波成分flのそれぞれに対応するバンドパスフィルタを用いて、ステップS33にて取得した前方路面データから各周波数成分fh、fm、及びflをそれぞれ抽出(取得)する。高周波成分fhに対応する高周波数帯は、「読み込みデータの振動」に起因して大きくなる高周波成分fhを特定するために適した周波数帯となるように決定される。より詳細には、事前のフィルタリング処理(ステップS14及びS15参照)を利用する例では、10Hz以上の周波数帯の信号成分は減衰されている。しかし、「読み込みデータの振動」が生じると、10Hz以上の周波数帯の信号成分(振動成分)が有意に増加する。このため、高周波数帯は、例えば、10Hz以上の周波数帯を含むように設定されてもよい。
【0094】
次に、ステップS42において、ECU70は、高周波成分fhの大きさを示す指標値Xhが閾値TH1より大きく、且つ、中周波成分fm及び低周波成分flのそれぞれの大きさを示す指標値Xm及びXlが共に閾値TH2以下であるか否かを判定する。これらの指標値Xh、Xm、及びXlの具体的な一例は、各周波数成分fh、fm、及びflの信号強度である。なお、閾値TH1と閾値TH2とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0095】
ステップS42において高周波成分fhの指標値Xhのみが大きい場合(Xh>TH1、Xm≦TH2、且つ、Xl≦TH2)には、処理はステップS43に進む。ステップS43では、ECU70は、段差Sの境目に位置するばね下変位Zuを連続的に使用するように車両1が走行していると判定する(ステップS34;Yes)。
【0096】
一方、ステップS42の判定結果が否定的である場合には、ECU70は、ステップS44において、段差Sの境目に位置するばね下変位Zuを連続的に使用するように車両1は走行していないと判定する(ステップS34;No)。
【0097】
図11において、ステップS34の判定結果が否定的である場合、処理はステップS35に進む。ステップS35では、ECU70は、ステップS33にて取得された前方路面データから、ステップS32にて取得した予測通過位置Pfにおけるばね下変位Zuを取得する。そして、ECU70は、取得したばね下変位Zuに基づいて、サスペンション3のアクチュエータ3Aの目標制御力Fc_tを算出する。このように、ステップS34の判定結果が否定的である場合には、後述のステップS36におけるフィルタリング処理PR3は実行されない。
【0098】
一方、ステップS34の判定結果が肯定的である場合、処理はステップS36に進む。ステップS36では、ECU70は、ステップS33にて取得した前方路面データ(前方路面におけるばね下変位Zuのデータ)に対してローパスフィルタ(LPF)を適用するフィルタリング処理PR3を実行する。このLPFのカットオフ周波数は、上述の高周波成分fhを減衰させるように設定され、例えば10Hzである。付け加えると、例えば、ばね下変位マップ200の生成のためのばね下変位Zuのデータ取得の際に事前のフィルタリング処理として何らかのLPFを利用している例では、本ステップS36のフィルタリング処理PR3によって、LPFが追加されることになる。
【0099】
前方路面データに対してフィルタリング処理PR3を施すと、前方路面データの位相に遅れが生じる。この位相遅れは、適用されるLPFに応じて定まる時定数が大きいほど大きくなる。そこで、ステップS37において、ECU70は、フィルタリング処理PR3において適用されたLPFの時定数に応じた前方路面データの位相遅れを相殺するようにプレビュー時間tpを増加させる。具体的には、プレビュー時間tpは、適用されるLPFの時定数分だけ長くなるように修正される。このため、プレビュー時間tpは、当該時定数が大きいほど長くなるように修正される。
【0100】
次に、ステップS38において、ECU70は、フィルタリング処理PR3後の前方路面データに基づいてサスペンション3のアクチュエータ3Aの目標制御力Fc_tを算出する。具体的には、ECU70は、フィルタリング処理PR3後の前方路面データの中から、ステップS37の処理による修正後のプレビュー時間tp’に応じた修正後の予測通過位置Pf’でのばね下変位Zuを取得する。そして、ECU70は、取得したばね下変位Zuに基づいて目標制御力Fc_tを算出する。
【0101】
次に、ステップS39において、ECU70は、ステップS35又はS38にて算出した目標制御力Fc_tを含む制御指令をアクチュエータ3Aに送信する。なお、ステップS38及びS39の処理は「制御処理PR4」の一例に相当する。
【0102】
4-3.効果
以上説明したように、本実施形態によれば、ばね下変位マップ200上に存在する段差Sの境目に位置するばね下変位Zuを連続的に使用するように車両1が走行していると判定された場合、プレビュー制振制御の基礎として用いられる前方路面データに対してローパスフィルタを適用するフィルタリング処理PR3が実行される。これにより、段差Sの影響に起因する目標制御力Fc_t(要求制御量)の振動を抑制できる。その結果、プレビュー制振制御による制振効果が段差Sの影響に起因して低下するのを抑制できる。また、段差Sの影響に起因するばね上構造体5(車体)の能動振動の発生を抑制できる。このことは、車両1の乗り心地性能の向上につながる。
【0103】
また、本実施形態によれば、フィルタリング処理PR3が行われた場合には、適用されたLPFの時定数に応じた前方路面データの位相遅れを相殺するようにプレビュー時間tpが増やされる。これにより、サスペンション3のアクチュエータ3Aの目標制御力Fc_t(要求制御量)の算出の基礎となる前方路面データの位相と、当該前方路面データに基づく目標制御力Fc_tに対応する制御力Fcをアクチュエータ3Aが発生させるタイミングの位相とのずれがLPFの追加に起因して生じることを抑制できる。これにより、当該位相のずれに起因する乗り心地性能の悪化を抑制できる。
【0104】
4-4.フィルタリング処理PR3の変形例
上述のステップS36のフィルタリング処理PR3の例では、高周波成分fhの大きさを示す指標値Xhによらず、一律の強度のLPFが適用される。しかしながら、LPFの強度(平滑化度)が必要以上に強くなると、プレビュー制振制御の性能が損なわれてしまう可能性がある。
【0105】
そこで、ECU70は、指標値Xhに応じて、LPFの強度を変更してもよい。具体的には、ECU70は、指標値Xhが大きい場合には、指標値Xhが小さい場合と比べて、LPFの強度を高くしてもよい。これにより、「読み込みデータの振動」の大きさに相関する指標値Xhに応じて、LPFの強度を適切に変更することができる。すなわち、前方路面データに含まれる高周波成分が多いほど、より高い強度のLPFを使用して当該高周波成分をより多く減衰することが可能となる。
【0106】
なお、LPFの強度を変更するために用いられる指標値Xhは、前方路面データの高周波成分fhの大きさを示す値、又はこれに相関する値であればよい。すなわち、指標値Xhは、信号強度等の高周波成分fhの大きさを示す値に代え、例えば、目標制御力Fc_t(要求制御量)の高周波成分の大きさを示す値(例えば、信号強度)であってよい。また、前方路面データの高周波成分fhの影響によって目標制御力Fc_t(要求制御量)の高周波成分が大きいと、ばね上構造体5(車体)に能動振動が生じ得る。このため、指標値Xhの他の例として、ばね上構造体5の能動振動の大きさを示す値(例えば、ばね上変位Zs、ばね上速度Zs'、及びばね上加速度Zs''の少なくとも1つの高周波成分の大きさを示す値)が用いられてもよい。
【0107】
図13(A)及び図13(B)は、指標値Xhの大きさに応じたLPFの強度変更の具体例1及び2をそれぞれ説明するための図である。
【0108】
(具体例1)
まず、図13(A)に示されるように、フィルタリング処理PR3において、ECU70は、指標値Xhが大きい場合には、指標値Xhが小さい場合と比べて、前方路面データに対して同一のLPFを適用する回数を増加させてもよい。
【0109】
(具体例2)
次に、図13(B)の縦軸は、LPFの強度のレベルを数値で表すためのレベル値LVである。レベル値LVは、1以上の正の数によって定義されている。より詳細には、LPFの適用回数が1である時、レベル値LVは1となる。このことは、適用回数が2以上の場合も同様である。
【0110】
ここで、図13(A)に示す例のように指標値Xhに応じてLPFの適用回数を0、1、及び2のように断続的に切り替える手法では、適用回数の切り替わりの前後で目標制御力Fc_t(要求制御量)が急変してしまう可能性がある。
【0111】
そこで、図13(B)に示されるように、フィルタリング処理PR3において、ECU70は、指標値Xhが大きくなるにつれ、隣接する自然数(1、2、及び3等)と当該隣接する自然数の間に位置する小数(1.1、1.2、及び1.3等)とを用いつつレベル値LVを連続的に増加させてもよい。この具体例2によれば、指標値Xhに増加に伴ってレベル値LVを増加させる際、レベル値LVは、例えば、1から2に変更するのではなく1.6に変更される。
【0112】
図13(B)に示されるようなLPFの強度(レベル値LV)の連続的な変更は、例えば、次の図14に示す手法を利用して行うことができる。図14は、指標値Xhに応じてLPFの強度を連続的に変更する処理を示すブロック図である。この処理は、ECU70によって実行される。
【0113】
図14には、一例として6つのLPF302を含むローパスフィルタユニット(LPFユニット)300が表されている。LPFユニット300には、前方路面データ(ステップS33参照)が入力される。LPFユニット300は、前方路面データが並列で入力される第1~第3信号線304、306、及び308を備える。
【0114】
第1信号線304には、1つのLPF302が配置されている。第2信号線306には、2つのLPF302が直列に配置されている。第3信号線308には、3つのLPF302が直列に配置されている。
【0115】
第1信号線304に配置された1つのLPF302を通過した後の前方路面データは、比率R1と掛け合わされた後に第1信号線304から出力される。第2信号線306に配置された2つのLPF302を順に通過した後の前方路面データは、比率R2と掛け合わされた後に第2信号線306から出力される。第3信号線308に配置された3つのLPF308を順に通過した後の前方路面データは、比率R3と掛け合わされた後に第2信号線308から出力される。
【0116】
そして、第1~第3信号線304、306、及び308からのそれぞれの出力は足し合わされ、LPFユニット300による最終的な出力となる。この最終的な出力は、LPFユニット300によるフィルタリング処理PR3が施された後の前方路面データに相当し、目標制御力Fc_t(要求制御量)の算出の基礎として用いられる。
【0117】
比率R1、R2、及びR3は、それぞれ、0以上且つ1未満の値であり、これらの和は1である。比率R1、R2、及びR3は、小数を含む1以上の正の数の範囲内の所望のレベル値LV(すなわち、LPFユニット300全体としてのLPFの強度)を実現できるように、指標値Xhに応じて変更される。
【0118】
具体的には、図13(B)に例示されるように、指標値Xhとレベル値LVとは事前に関連付けられている。例えば、指標値Xhに対応するレベル値LVが1である場合、比率R1、R2、及びR3は、それぞれ、1、0、及び0に設定される。レベル値LVが1.5である場合、比率R1、R2、及びR3は、それぞれ、0.5、0.5、及び0に設定される。レベル値LVが1.6である場合、比率R1、R2、及びR3は、それぞれ、0.4、0.6、及び0に設定される。レベル値LVが2.5である場合、比率R1、R2、及びR3は、それぞれ、0.2、0.4、及び0.5に設定される。
【0119】
上述のように、LPFユニット300によれば、指標値Xhに応じて比率R1~R3を変更することにより、小数を含む1以上の正の数の範囲内で指標値Xhに応じてレベル値LV(強度)を連続的に変更することができる。
【0120】
具体例2によれば、指標値Xhに対するレベル値LVの変化率(すなわち、図13(B)に示す直線の傾き)を所定値以下に制限することにより(レートリミット)、指標値Xhの変化に伴うLPFの強度(レベル値LV)の変更に起因する要求制御量の急変を抑制できる。
【0121】
付け加えると、LPFユニット300全体の時定数は、例えば、個々のLPF302の時定数と比率R1、R2、及びR3とに基づいて算出できる。このため、具体例2を用いる場合、ステップS37(図11参照)において、ECU70は、LPFユニット300の時定数分だけ長くなるようにプレビュー時間tpを増加させてもよい。
【0122】
4-5.判定処理PR2の変形例
判定処理PR2として、判定手法A(図12参照)に代え、例えば、次のような判定手法Bが用いられてもよい。図15及び図16は、段差Sの境目の判定手法Bの処理の一例を示すフローチャートである。
【0123】
まず、図15に示すフローチャートの処理は、マップ管理システム100(プロセッサ120)によって、ばね下変位マップ200内でばね下変位Zuのデータのあるデータ記憶位置(路面区画M)のそれぞれに対して実行される。
【0124】
ステップS51において、プロセッサ120は、エッジ検出処理を実行する。エッジ検出処理は、ばね下変位マップ200(路面データマップ)上において隣接するデータ記憶位置との間でばね下変位Zu(路面変位関連値)の差が閾値以上となるデータ記憶位置をばね下変位マップ200のエッジ位置として特定する処理である。このようなエッジ検出処理は、例えば、公知の画像処理技術を利用して行うことができる。
【0125】
ばね下変位マップ200上に存在する段差Sの境目においては、互いに隣接し合うデータ記憶位置間において、ばね下変位Zuの差が大きくなる。したがって、エッジ検出処理によってエッジ位置として特定されたデータ記憶位置は、段差Sの境目に位置すると判断できる。付け加えると、エッジ検出処理によれば、図10中に境目として特定されている路面区画M(データ記憶位置)がエッジ位置として特定されることになる。
【0126】
次に、ステップS52において、プロセッサ120は、ステップS51のエッジ検出処理の対象であるデータ記憶位置にエッジ有無情報を関連付ける処理を実行する。エッジ有無情報は、データ記憶位置がエッジ位置であるか否かを示す情報である。エッジ有無情報の具体的な一例は、例えば、データ記憶位置がエッジ位置であるときにオンとされ、データ記憶位置がエッジ位置でないときにオフとされるフラグFである。
【0127】
ステップS52の処理によれば、エッジ検出処理によってエッジ位置として特定されたデータ記憶位置については、エッジ有無情報としてエッジ位置であることを示す情報(例えば、オンに設定されたフラグF)が関連付けられて記憶される。これにより、ECU70は、車両1の走行中に当該データ記憶位置のばね下変位Zuを参照した際に、当該データ記憶位置がエッジ位置であることを把握できる。一方、ステップS51のエッジ検出処理の対象であるデータ記憶位置がエッジ位置として特定されなかった場合には、当該データ記憶位置には、エッジ有無情報としてエッジ位置でないことを示す情報(例えば、オフに設定されたフラグF)が関連付けられて記憶される。
【0128】
次に、図16に示すフローチャートの処理は、車両1のECU70(プロセッサ71)によって、車両1の走行中に図11に示すフローチャートの処理と並行して実行される。
【0129】
ステップS61において、ECU70は、現在の時間ステップにおける要求制御量(目標制御力Fc_t)の算出に用いられるばね下変位Zuに対応するデータ記憶位置(すなわち、予測通過位置Pfに対応するデータ記憶位置)のフラグFがオンであるか否かを判定する。
【0130】
その結果、ステップS61においてフラグFがオンでない場合(つまり、現在の時間ステップの予測通過位置Pfに対応するデータ記憶位置がエッジ位置でない場合)には、処理はステップS62に進む。ステップS62では、ECU70は、カウンタCTによるカウント値をクリアする。このカウンタCTは、予測通過位置Pfに対応するデータ記憶位置のフラグFがオンとなる回数をカウントするためのカウンタである。
【0131】
一方、ステップS61においてフラグFがオンである場合(つまり、現在の時間ステップの予測通過位置Pfに対応するデータ記憶位置がエッジ位置である場合)には、処理はステップS63に進む。ステップS63では、ECU70は、カウンタCTによるカウント値を1だけカウントアップする。ステップS61~S63の処理によれば、カウント値は、連続する時間ステップにおいて継続的にフラグFがオンとなる場合に限ってカウントアップされる。このため、カウント値は、時間ステップ毎に到来するデータ記憶位置がエッジ位置であることを連続して検出した回数に相当する。
【0132】
次に、ステップS64において、ECU70は、カウンタCTのカウント値が閾値以上であるか否かを判定する。その結果、カウント値が閾値以上の場合、つまり、ECU70が、データ記憶位置がエッジ位置であることを所定回数以上連続して検出した場合には、処理はステップS65に進む。ステップS65では、ECU70は、段差Sの境目に位置するばね下変位Zuを連続的に使用するように車両1が走行していると判定する(ステップS34;Yes)。
【0133】
一方、ステップS64の判定結果が否定的である場合、又はステップS62が実行された後、処理はステップS66に進む。ステップS66では、ECU70は、段差Sの境目に位置するばね下変位Zuを連続的に使用するように車両1は走行していないと判定する(ステップS34;No)。
【0134】
上述のように、図16に示すフローチャートの処理によれば、データ記憶位置がエッジ位置であることが所定回数以上連続して検出された場合に、段差Sの境目に位置するばね下変位Zuを連続的に使用するように車両1が走行していると判定することができる。これは、車両1(車輪2)がエッジ位置を連続的に何度も通過している場合には、上述の「読み込みデータの振動」が生じている可能性が高いと推定できるためである。
【0135】
付け加えると、ステップS64の処理によれば、データ記憶位置がエッジ位置であることが検出されても、その検出が断続的である場合(すなわち、検出が所定回数以上連続していない場合)には、ステップS34の判定結果は肯定的とされない。この理由は、次の通りである。すなわち、車両1が例えば轍を横切るように走行した場合には、車両1は、轍を横切る際に、エッジ位置であるデータ記憶位置のばね下変位Zuを一時的に(断続的に)使用するように走行する。しかしながら、車両1が轍を横切る場合には、車両1が轍に沿って走行する場合には異なり、車両1(車輪2)がエッジ位置を連続的に何度も通過することはない。つまり、ステップS64においてカウンタCTを利用した判定を行うことにより、車両1が轍を横切るように走行している場合を区別しつつ、車両1轍に沿って走行していることを判定することが可能となる。換言すると、車両1が轍を横切るように走行している場合に、ステップS34の判定結果は肯定的であると誤判定することを回避できる。これにより、車両1が轍を横切るように走行している場合に、フィルタリング処理PR3の実行に起因してプレビュー制振制御の制振効果が低下することを回避できる。
【符号の説明】
【0136】
1 車両
2 車輪
3 サスペンション
3A サスペンションのアクチュエータ
4 ばね下構造体
5 ばね上構造体
10 車両制御システム
20 車両状態センサ
40 位置センサ
50 通信装置
60 走行装置
70 電子制御ユニット
100 マップ管理システム
110 通信装置
120 プロセッサ
130 記憶装置
300 ローパスフィルタユニット(LPFユニット)
302 ローパスフィルタ(LPF)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10
図11
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