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特許7582148状態予測システム、メンバー決定システムおよび状態予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】状態予測システム、メンバー決定システムおよび状態予測方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/04 20230101AFI20241106BHJP
【FI】
G06Q10/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021163089
(22)【出願日】2021-10-01
(65)【公開番号】P2023053812
(43)【公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】勝原 康雄
(72)【発明者】
【氏名】高谷 智哉
(72)【発明者】
【氏名】山口 勇人
【審査官】阿部 圭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-119260(JP,A)
【文献】特開2018-139087(JP,A)
【文献】特開2009-009355(JP,A)
【文献】特開2007-094850(JP,A)
【文献】特開2010-198261(JP,A)
【文献】特開2004-220217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集団内の対象となる個人の現在の状態を示す現在状態値を取得する第1取得部と、
前記個人と前記集団内の他者とのコミュニケーションにより当該他者から当該個人に伝播する状態量を示す状態伝播量を取得する第2取得部と、
取得された前記個人の現在状態値と、取得された状態伝播量とから、当該個人の未来の状態を示す未来状態値を予測する個人状態予測部と、
を備え
前記第2取得部は、
前記他者の現在の状態を示す現在状態値と、前記個人と当該他者との間の現在のコミュニケーション量と、当該個人の状態に対する当該他者の影響度とを取得し、取得された情報に基づいて当該他者から当該個人への状態伝播量を導出し、
前記他者の現在状態値と、前記個人と当該他者との間の現在のコミュニケーション量と、当該個人の状態に対する当該他者の影響度との積を当該他者から当該個人への状態伝播量として導出し、
前記個人状態予測部は、前記個人の現在状態値と、前記他者から当該個人への状態伝播量との和を当該個人の未来状態値とする、
ことを特徴とする状態予測システム。
【請求項2】
集団内の対象となる個人の現在の状態を示す現在状態値を取得する第1取得部と、
前記個人と前記集団内の他者とのコミュニケーションにより当該他者から当該個人に伝播する状態量を示す状態伝播量を取得する第2取得部と、
取得された前記個人の現在状態値と、取得された状態伝播量とから、当該個人の未来の状態を示す未来状態値を予測する個人状態予測部と、
を備え、
前記第2取得部は、
前記他者の現在の状態を示す現在状態値と、前記個人と当該他者との間の現在のコミュニケーション量と、当該個人の状態に対する当該他者の影響度とを取得し、取得された情報に基づいて当該他者から当該個人への状態伝播量を導出し、
前記集団内の複数の他者のそれぞれに関して、当該他者の現在状態値と、前記個人と当該他者との間の現在のコミュニケーション量と、当該個人の状態に対する当該他者の影響度との積を当該他者から当該個人への状態伝播量として導出し、
前記個人状態予測部は、前記個人の現在状態値と、前記複数の他者から当該個人への状態伝播量との総和を、当該個人の未来状態値とする、
ことを特徴とする状態予測システム。
【請求項3】
前記第2取得部は、前記集団内の複数の他者のそれぞれに関して、当該他者から前記個人への状態伝播量を取得し、
取得された前記複数の他者から前記個人への状態伝播量を比較し、比較結果に基づいて、当該個人の未来状態値が改善するように当該個人と他者との間のコミュニケーション量の変更を提案する提案部を備える、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の状態予測システム。
【請求項4】
前記個人状態予測部は、前記集団内の複数の人のそれぞれの未来状態値を予測し、
予測された前記複数の人のそれぞれの未来状態値に基づいて、前記集団の未来の状態を示す集団状態値を予測する集団状態予測部を備える、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の状態予測システム。
【請求項5】
予測された未来の集団状態値が改善するように前記複数の人の間の目標のコミュニケーション量を導出する導出部と、
前記集団内の対象となる2人の間の現在のコミュニケーション量と目標のコミュニケーション量とを比較し、比較結果に基づいて、コミュニケーション量の変更を提案する提案部と、
を備えることを特徴とする請求項に記載の状態予測システム。
【請求項6】
集団を構成する候補となる複数の人を仮設定する仮設定部と、
仮設定された前記複数の人のそれぞれに関して、当該人の現在の状態を示す現在状態値を取得する第1取得部と、
仮設定された前記複数の人のそれぞれに関して、当該人と前記集団内の他者との過去のコミュニケーション量に基づいて予測される当該他者から当該人に伝播する状態量を示す状態伝播量を取得する第2取得部と、
仮設定された前記複数の人のそれぞれに関して、取得された当該人の現在状態値と、取得された当該人への状態伝播量とから、当該人の未来の状態を示す未来状態値を予測する個人状態予測部と、
予測された前記複数の人のそれぞれの未来状態値に基づいて、前記集団の未来の状態を示す集団状態値を予測する集団状態予測部と、
予測された未来の集団状態値が状態の良さに関する所定の条件を満たす場合、仮設定された前記複数の人を前記集団のメンバーとして決定する決定部と、
を備え
前記第2取得部は、
仮設定された前記複数の人のそれぞれに関して、前記他者の現在の状態を示す現在状態値と、当該人と当該他者との間の過去のコミュニケーション量と、当該人の状態に対する当該他者の影響度とを取得し、取得された情報に基づいて当該他者から当該人への状態伝播量を導出し、
仮設定された前記複数の人のそれぞれに関して、前記他者の現在状態値と、当該人と当該他者との間の過去のコミュニケーション量と、当該人の状態に対する当該他者の影響度との積を当該他者から当該人への状態伝播量として導出し、
前記個人状態予測部は、仮設定された前記複数の人のそれぞれに関して、当該人の現在状態値と、前記他者から当該人への状態伝播量との和を当該人の未来状態値とする、
ことを特徴とするメンバー決定システム。
【請求項7】
コンピュータが実行する状態予測方法であって、
集団内の対象となる個人の現在の状態を示す現在状態値を取得する第1取得ステップと、
前記個人と前記集団内の他者とのコミュニケーションにより当該他者から当該個人に伝播する状態量を示す状態伝播量を取得する第2取得ステップと、
取得された前記個人の現在状態値と、取得された状態伝播量とから、当該個人の未来の状態を示す未来状態値を予測する個人状態予測ステップと、
を備え
前記第2取得ステップにおいて、
前記他者の現在の状態を示す現在状態値と、前記個人と当該他者との間の現在のコミュニケーション量と、当該個人の状態に対する当該他者の影響度とを取得し、取得された情報に基づいて当該他者から当該個人への状態伝播量を導出し、
前記他者の現在状態値と、前記個人と当該他者との間の現在のコミュニケーション量と、当該個人の状態に対する当該他者の影響度との積を当該他者から当該個人への状態伝播量として導出し、
前記個人状態予測ステップにおいて、前記個人の現在状態値と、前記他者から当該個人への状態伝播量との和を当該個人の未来状態値とする、
ことを特徴とする状態予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集団におけるコミュニケーションを支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、人間のコミュニケーションの場の感情であるグループ感情を推定する感情推定装置を開示する。この技術では、現在の個人感情の情報と状態遷移モデルとからグループ感情を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-186521号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、現在の個人感情が悪化したことで現在のグループ感情が悪化したことは推定できるが、グループ感情が悪化する前に何らかの対策を講じることはできない。グループ感情が悪化した状態から対策を講じても、場の雰囲気を回復させることは困難な可能性がある。本発明者らは、集団におけるコミュニケーションを円滑に進めるために、個人の未来の状態を予測することが望ましいことを認識した。
【0005】
本発明の目的は、集団内の個人の未来の状態を予測できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の状態予測システムは、集団内の対象となる個人の現在の状態を示す現在状態値を取得する第1取得部と、前記個人と前記集団内の他者とのコミュニケーションにより当該他者から当該個人に伝播する状態量を示す状態伝播量を取得する第2取得部と、取得された前記個人の現在状態値と、取得された状態伝播量とから、当該個人の未来の状態を示す未来状態値を予測する個人状態予測部と、を備える。前記第2取得部は、前記他者の現在の状態を示す現在状態値と、前記個人と当該他者との間の現在のコミュニケーション量と、当該個人の状態に対する当該他者の影響度とを取得し、取得された情報に基づいて当該他者から当該個人への状態伝播量を導出し、前記他者の現在状態値と、前記個人と当該他者との間の現在のコミュニケーション量と、当該個人の状態に対する当該他者の影響度との積を当該他者から当該個人への状態伝播量として導出する。前記個人状態予測部は、前記個人の現在状態値と、前記他者から当該個人への状態伝播量との和を当該個人の未来状態値とする。
本発明の別の態様も、状態予測システムである。この状態予測システムは、集団内の対象となる個人の現在の状態を示す現在状態値を取得する第1取得部と、前記個人と前記集団内の他者とのコミュニケーションにより当該他者から当該個人に伝播する状態量を示す状態伝播量を取得する第2取得部と、取得された前記個人の現在状態値と、取得された状態伝播量とから、当該個人の未来の状態を示す未来状態値を予測する個人状態予測部と、を備える。前記第2取得部は、前記他者の現在の状態を示す現在状態値と、前記個人と当該他者との間の現在のコミュニケーション量と、当該個人の状態に対する当該他者の影響度とを取得し、取得された情報に基づいて当該他者から当該個人への状態伝播量を導出し、前記集団内の複数の他者のそれぞれに関して、当該他者の現在状態値と、前記個人と当該他者との間の現在のコミュニケーション量と、当該個人の状態に対する当該他者の影響度との積を当該他者から当該個人への状態伝播量として導出する。前記個人状態予測部は、前記個人の現在状態値と、前記複数の他者から当該個人への状態伝播量との総和を、当該個人の未来状態値とする。
【0007】
本発明の別の態様は、メンバー決定システムである。このメンバー決定システムは、集団を構成する候補となる複数の人を仮設定する仮設定部と、仮設定された前記複数の人のそれぞれに関して、当該人の現在の状態を示す現在状態値を取得する第1取得部と、仮設定された前記複数の人のそれぞれに関して、当該人と前記集団内の他者との過去のコミュニケーション量に基づいて予測される当該他者から当該人に伝播する状態量を示す状態伝播量を取得する第2取得部と、仮設定された前記複数の人のそれぞれに関して、取得された当該人の現在状態値と、取得された当該人への状態伝播量とから、当該人の未来の状態を示す未来状態値を予測する個人状態予測部と、予測された前記複数の人のそれぞれの未来状態値に基づいて、前記集団の未来の状態を示す集団状態値を予測する集団状態予測部と、予測された未来の集団状態値が状態の良さに関する所定の条件を満たす場合、仮設定された前記複数の人を前記集団のメンバーとして決定する決定部と、を備える。前記第2取得部は、仮設定された前記複数の人のそれぞれに関して、前記他者の現在の状態を示す現在状態値と、当該人と当該他者との間の過去のコミュニケーション量と、当該人の状態に対する当該他者の影響度とを取得し、取得された情報に基づいて当該他者から当該人への状態伝播量を導出し、仮設定された前記複数の人のそれぞれに関して、前記他者の現在状態値と、当該人と当該他者との間の過去のコミュニケーション量と、当該人の状態に対する当該他者の影響度との積を当該他者から当該人への状態伝播量として導出する。前記個人状態予測部は、仮設定された前記複数の人のそれぞれに関して、当該人の現在状態値と、前記他者から当該人への状態伝播量との和を当該人の未来状態値とする。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、状態予測方法である。この方法は、コンピュータが実行する状態予測方法であって、集団内の対象となる個人の現在の状態を示す現在状態値を取得する第1取得ステップと、前記個人と前記集団内の他者とのコミュニケーションにより当該他者から当該個人に伝播する状態量を示す状態伝播量を取得する第2取得ステップと、取得された前記個人の現在状態値と、取得された状態伝播量とから、当該個人の未来の状態を示す未来状態値を予測する個人状態予測ステップと、を備える。前記第2取得ステップにおいて、前記他者の現在の状態を示す現在状態値と、前記個人と当該他者との間の現在のコミュニケーション量と、当該個人の状態に対する当該他者の影響度とを取得し、取得された情報に基づいて当該他者から当該個人への状態伝播量を導出し、前記他者の現在状態値と、前記個人と当該他者との間の現在のコミュニケーション量と、当該個人の状態に対する当該他者の影響度との積を当該他者から当該個人への状態伝播量として導出する。前記個人状態予測ステップにおいて、前記個人の現在状態値と、前記他者から当該個人への状態伝播量との和を当該個人の未来状態値とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、集団内の個人の未来の状態を予測可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施の形態のコミュニケーション支援システムの機能を説明するための図である。
図2図1に続く、コミュニケーション支援システムの機能を説明するための図である。
図3】第1の実施の形態のコミュニケーション支援システムの構成を示す図である。
図4】メンバーP1~P3の現在のストレス状態値と会話量の一例を示す図である。
図5図4の現在のストレス状態値と会話量から予測される未来のストレス状態値を示す図である。
図6】複数の会話量のパターンのそれぞれと、未来の個人のストレス状態値と、未来の集団のストレス状態値との関係の一例を示す図である。
図7図3のコミュニケーション支援システムのコミュニケーション支援処理を示すフローチャートである。
図8】コミュニケーション支援処理の別の例を示すフローチャートである。
図9】第2の実施の形態のコミュニケーション支援システムのメンバー決定機能を説明するための図である。
図10図9に続く、コミュニケーション支援システムのメンバー決定機能を説明するための図である。
図11】第2の実施の形態のコミュニケーション支援システムの構成を示す図である。
図12図11のコミュニケーション支援システムのメンバー決定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態のコミュニケーション支援システムの機能を説明するための図である。コミュニケーション支援システムは、図1の集団G1における円滑なコミュニケーションを支援する。円滑なコミュニケーションとは、集団G1を構成する各メンバー(以下、個人または人とも呼ぶ)P1~P4が良好な状態を維持しながらコミュニケーションを行うことを意味する。メンバーの数は複数であればよい。以下、集団G1が打ち合せを行う例を概略的に説明する。システムの詳細な処理は後述する。
【0012】
コミュニケーション支援システムは、集団G1の各メンバーP1~P4の現在の状態を示す現在状態値S1(t)~S4(t)と、集団G1内の2人のメンバーの複数の組み合わせのそれぞれに関する2人のメンバー間の現在のコミュニケーション量W12(t),W13(t),W14(t),W23(t),W24(t),W34(t)とを定期的に取得する。現在を時刻tとする。例えば、現在状態値S1(t)は、メンバーP1の現在の状態を表す数値であり、コミュニケーション量W13(t)は、メンバーP1とP3間の現在のコミュニケーション量を表す数値である。メンバーP1とP2間ではコミュニケーションが行われておらず、コミュニケーション量W12(t)はゼロである。図1の例では、現在状態値S1(t)~S4(t)の大きさを棒グラフの長さで表し、コミュニケーション量W13(t)等の大きさをメンバー間の実線の太さで表す。
【0013】
現在状態値は、例えば、ストレス状態値、感情値、パフォーマンス値、疲労の程度を表す値、幸福度を表す値などである。現在状態値は、これらのうち少なくとも2つの値を所定の計算式に代入して得られる値であってもよい。所定の計算式は、例えば、それぞれの値に重み付けして総和を計算する式であってよい。現在状態値は、センサなどを用いて公知の技術により検出できる。例えば、感情値は、カメラで撮影されたメンバーの画像を分析して、メンバーの表情解析を実行し、メンバーの喜怒哀楽を推定することにより取得してもよい。現在状態値は、検出値でなくてもよく、各メンバーが申告した数値であってもよい。
【0014】
現在状態値は、例えば、負から正の範囲の値であり、正の値が大きくなるほど状態が悪いことを表し、負の値が小さくなるほど状態が良いことを表す。例えば、現在状態値がストレス状態値を表す場合、正の値が大きくなるほど状態が悪いことを表し、負の値が小さくなるほど状態が良いことを表す。正の値が大きくなるほど状態が良いことを表し、負の値が小さくなるほど状態が悪いことを表してもよい。例えば、現在状態値が幸福度を表す場合、正の値が大きくなるほど状態が良いことを表し、負の値が小さくなるほど状態が悪いことを表す。
【0015】
コミュニケーション量は、2人のメンバー間の単位時間当たりの会話量、単位時間当たりに2人のメンバーのうち一方が他方に笑顔を向けている時間に基づいて導出される量、単位時間当たりに2人のメンバーのうち一方が他方を見た時間に基づいて導出される量、または、単位時間当たりに2人のメンバー間で身振り手振りが行われた時間に基づいて導出される量など、2人のメンバー間の単位時間当たりのコミュニケーションの度合いを数値化したものである。コミュニケーション量は、これらのうち少なくとも2つの量を所定の計算式に代入して得られる値であってもよい。コミュニケーション量は、0以上の値である。コミュニケーション量は、マイク、カメラ、センサなどを用いて公知の技術により検出できる。
【0016】
コミュニケーション支援システムは、現在状態値S1(t)~S4(t)と、現在のコミュニケーション量W12(t)~W34(t)とに基づいて、集団G1内の2人のメンバーの組み合わせのそれぞれに関する2人のメンバー間の状態伝播量を取得する。状態伝播量とは、2人のメンバーのコミュニケーションにより一方のメンバーから他方のメンバーに伝播する状態量を示し、負から正の範囲の値である。第1のメンバーから第2のメンバーへの状態伝播量は、例えば、第1のメンバーの現在状態値、および、これらのメンバー間の現在のコミュニケーション量に比例してよい。第1のメンバーから第2のメンバーへの状態伝播量は、さらに、第2のメンバーにおける相手の状態の影響の受けやすさを表す係数に比例してもよい。そのため、例えば、メンバーP1からP3への状態伝播量は、メンバーP3からP1への状態伝播量とは異なる確率が高い。なお、メンバーP1とP2間のコミュニケーション量W12(t)はゼロであるため、メンバーP1からP2への状態伝播量およびメンバーP2からP1への状態伝播量はゼロであるとする。
【0017】
コミュニケーション支援システムは、各メンバーP1~P4に関して、当該メンバーの現在状態値S1(t)~S4(t)と、複数の他メンバーから当該メンバーへの状態伝播量とから、当該メンバーの未来の状態を示す未来状態値を予測する。未来を時刻t+1とする。例えば、未来状態値S1(t+1)は、メンバーP1の未来の状態を表す数値であり、メンバーP1の現在状態値S1(t)に、メンバーP2からP1への状態伝播量と、メンバーP3からP1への状態伝播量と、メンバーP4からP1への状態伝播量とを加算して得られる。未来状態値S2(t+1)~S4(t+1)も同様に取得できる。
【0018】
コミュニケーション支援システムは、未来状態値S1(t+1)~S4(t+1)に基づいて、集団G1の未来の状態を示す集団状態値Smを予測する。図1の例では、未来の集団状態値Smは、しきい値Thより大きいことを想定する。集団状態値Smがしきい値Thより大きい場合、コミュニケーション支援システムは、未来の集団状態値Smがしきい値Thより小さくなるように、コミュニケーション量の変更をメンバーP1~P4に提案する。
【0019】
コミュニケーション支援システムは、例えば、メンバーP1とP2の間、P1とP3の間、P2とP3の間、P3とP4の間のコミュニケーション量の増加を提案し、メンバーP1とP4の間、P2とP4の間のコミュニケーション量の減少を提案する。
【0020】
図2は、図1に続く、コミュニケーション支援システムの機能を説明するための図である。各メンバーP1~P4は、コミュニケーション支援システムからの提案に従い、コミュニケーション量を変更したと想定する。これにより、コミュニケーション支援システムにより新たに予測される各メンバーの未来状態値S1(t+1)~S4(t+1)は、図1の場合の値とは異なる。未来の集団状態値Smも図1の場合の値とは異なり、しきい値Thより小さくなる。よって、図1の状態と比較して、打ち合わせ中に各メンバーが良好な状態を保ちやすくなり、集団G1におけるコミュニケーションをより円滑に進めることができる。
【0021】
以下、現在状態値と未来状態値はストレス状態値であり、コミュニケーション量は会話量である一例について、詳細に説明する。ストレス状態値は、例えば、負から正の範囲の値であり、正の値が大きくなるほどストレスが強いことを表し、負の値が小さくなるほどリラックスしている程度が大きいことを表す。正負が表すストレス状態は逆でもよい。会話量は、0以上の値である。
【0022】
図3は、第1の実施の形態のコミュニケーション支援システム1の構成を示す。コミュニケーション支援システム1は、マイク2、カメラ4、センサ6、記憶装置7、出力装置8、および、処理装置10を備える。図示しないが、コミュニケーション支援システム1は、複数のマイク2、複数のカメラ4および複数のセンサ6を有する。コミュニケーション支援システム1は、状態予測システムとも呼べる。
【0023】
マイク2は、集団G1を構成する複数のメンバーP1~Pk(kは2以上の整数)の会話を取得し、取得した音声データを処理装置10に供給する。カメラ4は、複数のメンバーP1~Pkを撮影し、撮影した画像データを処理装置10に供給する。センサ6は、各メンバーP1~Pkの身体に取り付けられ、各メンバーP1~Pkの心拍数を検出し、検出した心拍数データを処理装置10に供給する。出力装置8は、例えば、画像を出力可能なディスプレイと、音声を出力可能な音声出力装置の少なくとも一方を含み、各種情報を出力する。出力装置8は、各メンバーP1~Pkが所持するスマートフォンなどの携帯端末に含まれてもよい。
【0024】
処理装置10は、第1分析部12、第2分析部14、第1取得部16、第2取得部18、個人状態予測部20、集団状態予測部22、導出部24、および、提案部26を備える。処理装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、スマートフォンまたはサーバ装置などであってよい。
【0025】
処理装置10の構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0026】
第2分析部14は、顔画像認識機能を有し、カメラ4で撮影された複数の顔画像がどの登録ユーザの顔画像であるか識別する。記憶装置7には、登録ユーザの顔画像の特徴量が記憶されている。第2分析部14は、記憶装置7に記憶された登録ユーザの顔画像の特徴量と、画像データの顔画像の特徴量とを比較して、各メンバーP1~Pkの顔画像の認証処理を実行し、各メンバーP1~Pkが登録ユーザであるか否かを判定する。第2分析部14は、各メンバーP1~Pkが登録ユーザであることを判定すると、複数のメンバーP1~Pkの識別情報である複数の登録ユーザの識別情報を第1分析部12と第2取得部18に供給する。なお、管理者などが複数のメンバーを特定するための情報を処理装置10の図示しない入力部に入力してもよい。
【0027】
第2分析部14は、マイク2から供給された音声データを音声分析し、カメラ4から供給された画像データを画像分析することで、現在までの単位時間当たりのメンバーPiとPjとの間の会話量Wij(t)(i,j≦k)を定期的に検出する。第2分析部14は、例えば、単位時間当たりのメンバーPiとPjとの間の会話時間が長いほど会話量Wij(t)を大きく導出する。第2分析部14は、検出した会話量Wij(t)を第2取得部18に供給する。
【0028】
第2分析部14は、話者認識機能を有し、どの登録ユーザの音声データか識別する。記憶装置7には、登録ユーザの音声テンプレートが登録されており、第2分析部14は、記憶装置7に記憶された音声テンプレートと照合して、話者が誰であるかを特定する。第2分析部14は、画像データから各メンバーP1~Pkの位置を特定し、発話しているメンバーの顔画像が向いている方向から、その発話がどのメンバーに対するものであるか推定する。第2分析部14は、自然言語処理機能を有してもよく、メンバーの間の会話状況を分析し、分析結果からどのメンバー同士が会話しているか推定してもよい。会話量Wij(t)の検出には公知の技術を用いることができる。
【0029】
第1分析部12は、センサ6から供給された各メンバーP1~Pkの心拍数データを分析することで、各メンバーP1~Pkのストレス状態値S1(t)~Sk(t)を定期的に検出し、検出したストレス状態値S1(t)~Sk(t)を第1取得部16と第2取得部18に供給する。ストレス状態値の検出には公知の技術を利用できる。なお、センサ6を設けず、各メンバーP1~Pkから申告されたストレスの程度を管理者などが数値入力や音声入力などにより処理装置10の図示しない入力部に定期的に入力してもよい。この場合、第1分析部12は、入力された情報を分析することでストレス状態値S1(t)~Sk(t)を検出する。
【0030】
第1取得部16と第2取得部18は、集団G1の複数のメンバーP1~Pkのそれぞれについて、以下の処理を行う。
【0031】
第1取得部16は、第1分析部12で検出された対象となるメンバーPiの現在のストレス状態値Si(t)を取得する。この処理は、第1取得部16が、集団G1内の対象となる個人Piの現在の状態を示す現在状態値Si(t)を取得することに相当する。
【0032】
第2取得部18は、対象となるメンバーPiと集団G1内の他者Pjとのコミュニケーションにより当該他者Pjから当該対象となるメンバーPiに伝播する状態量を示す状態伝播量を、集団G1内の複数の他者のそれぞれに関して取得する。具体的には、第2取得部18は、集団G1内の複数の他者のそれぞれに関して、第1分析部12で検出された他者Pjの現在のストレス状態値Sj(t)と、第2分析部14で検出された対象となるメンバーPiと当該他者Pjとの間の現在の会話量Wij(t)と、当該対象となるメンバーPiの状態に対する当該他者Pjの影響度λとを取得する。影響度λは、当該対象となるメンバーPiに固有の値である。第2取得部18は、集団G1内の複数の他者のそれぞれに関して、取得された他者Pjの現在のストレス状態値Sj(t)と、対象となるメンバーPiと当該他者Pjとの間の現在の会話量Wij(t)と、当該対象となるメンバーPiの状態に対する当該他者Pjの影響度λとの積を当該他者Pjから当該対象となるメンバーPiへの状態伝播量として導出する。
【0033】
この処理は、第2取得部18が、集団G1内の複数の他者のそれぞれに関して、他者Pjの現在の状態を示す現在状態値Sj(t)と、対象となる個人Piと当該他者Pjとの間の現在のコミュニケーション量Wij(t)と、当該個人Piの状態に対する当該他者Pjの影響度λとを取得し、取得された他者Pjの現在状態値Sj(t)と、当該個人Piと当該他者Pjとの間の現在のコミュニケーション量Wij(t)と、当該個人Piの状態に対する当該他者Pjの影響度λとの積を当該他者Pjから当該個人Piへの状態伝播量として導出することに相当する。
【0034】
記憶装置7は、登録ユーザの識別情報に対応付けて、登録ユーザに固有の影響度λを予め記憶している。影響度λは、0以上の値である。影響度λは、登録ユーザの個性に応じて異なるため、登録ユーザ毎に設定されている。第2取得部18は、対象となるメンバーの識別情報を取得し、取得した識別情報に対応付けられた影響度λを記憶装置7から取得する。
【0035】
影響度λは、個人と他者との組み合わせ毎に設定されてもよい。これにより、得意な相手や苦手な相手などの相手に応じて、相手の状態が個人に影響する度合いが異なることも状態伝播量に反映させることができ、より高精度な状態伝播量を取得できる。
【0036】
影響度λは、メンバーの体調などに応じて変化し得る。影響度λは、打ち合わせ前に各メンバーP1~Pkが申告した数値を管理者などが処理装置10に入力して記憶装置7に記憶させてもよいし、図示しないセンサの検出値に基づいて導出された値が記憶装置7に記憶されてもよい。例えば、センサによりメンバーの疲労度または集中度を定期的に検出し、処理装置10が検出結果に応じて影響度を定期的に導出してもよい。あるいは、メンバーが申告した前日の睡眠時間と平均睡眠時間を処理装置10に入力し、処理装置10が平均睡眠時間に対する前日の睡眠時間の割合をもとに影響度を導出してもよい。
【0037】
個人状態予測部20は、複数のメンバーP1~Pkのそれぞれに関して、第1取得部16で取得された対象となるメンバーPiの現在のストレス状態値Si(t)と、第2取得部18で取得された複数の他者から対象となるメンバーPiへの状態伝播量とから、当該対象となるメンバーPiの未来のストレス状態値Si(t+1)を予測する。つまり、個人状態予測部20は、集団G1内の複数のメンバーP1~Pkのそれぞれの未来状態値S1(t+1)~Sk(t+1)を予測する。具体的には、個人状態予測部20は、複数のメンバーP1~Pkのそれぞれに関して、対象となるメンバーPiの現在のストレス状態値Si(t)と、複数の他者から当該対象となるメンバーPiへの状態伝播量との総和を当該対象となるメンバーPiの未来のストレス状態値Si(t+1)とする。
【0038】
この処理は、個人状態予測部20が、集団G1内の複数の人P1~Pkのそれぞれについて、個人Piの現在状態値Si(t)と、複数の他者から当該個人Piへの状態伝播量とから、当該個人Piの未来の状態を示す未来状態値Si(t+1)を予測することに相当する。
【0039】
図4は、メンバーP1~P3の現在のストレス状態値と会話量の一例を示す。図5は、図4の現在のストレス状態値と会話量から予測される未来のストレス状態値を示す。
【0040】
図4において、メンバーP1の現在のストレス状態値S1(t)は「15」であり、メンバーP2の現在のストレス状態値S2(t)は「18」であり、メンバーP3の現在のストレス状態値S3(t)は「10」であると想定する。メンバーP1とメンバーP2の間の現在の会話量W12(t)は「1.0」であり、メンバーP1とメンバーP3の間の現在の会話量W13(t)は「0.2」であり、メンバーP2とメンバーP3の間の現在の会話量W23(t)は「0」であると想定する。
【0041】
この例の場合、メンバーP1の未来のストレス状態値S1(t+1)は、既述のように次の式(1)で表される。
S1(t+1)=S1(t)+S2(t)×W12(t)×λ12+S3(t)×W13(t)×λ13 ・・・式(1)
【0042】
ここで、λ12は、メンバーP1の状態に対するメンバーP2の影響度であり、λ13は、メンバーP1の状態に対するメンバーP3の影響度である。既述のように、λ12とλ13は等しくてもよい。S2(t)×W12(t)×λ12は、メンバーP2からメンバーP1への状態伝播量である。S3(t)×W13(t)×λ13は、メンバーP3からメンバーP1への状態伝播量である。
【0043】
例えば、λ12=0.1、λ13=0.2を想定すると、S1(t+1)は、「17.2」となる。このように、メンバーP1からP3の現在のストレス状態値S1(t)~S3(t)および会話量W12(t),W13(t)から、メンバーP1の未来のストレス状態値S1(t+1)を予測できる。状態伝播量をもとに個人の未来状態値を予測するので、他者とのコミュニケーションによる影響を考慮した個人の未来状態値を予測できる。
【0044】
例えば、あるメンバーPiのコミュニケーションの相手Pjのストレス状態値Sj(t)が負の場合、この相手Pjからの状態伝播量は負の値になるため、このメンバーPiの未来のストレス状態値Si(t+1)は、現在のストレス状態値Si(t)より低くなる。つまり、相手がリラックスしている状態にある場合、相手とのコミュニケーションにより、このメンバーが相手の状態の影響を受け、このメンバーのストレス状態は改善することが予想される。
【0045】
なお、個人状態予測部20は、複数のメンバーP1~Pkのそれぞれに関して、対象となるメンバーPiの現在状態値と、一人の他者Pjから対象となるメンバーPiへの状態伝播量とに基づいて、対象となるメンバーPiの未来状態値Si(t+1)を予測してもよい。つまり、複数の他者から対象となるメンバーPiへの状態伝播量が0より大きい状況において、全ての状態伝播量を考慮しなくてもよい。この場合、一人の他者Pjは、例えば、対象となるメンバーPiへの状態伝播量の絶対値が最大であるメンバーであってよい。他者は2人以上であってもよい。絶対値が相対的に小さい状態伝播量を用いなくても、絶対値が最大の状態伝播量を用いることで、未来状態値の予測精度の低下を抑制できる。また、処理負荷を軽減できる。
【0046】
集団状態予測部22は、個人状態予測部20で予測された複数のメンバーP1~Pkのそれぞれの未来のストレス状態値S1(t+1)~Sk(t+1)をもとに、集団G1の未来の状態を示す集団G1のストレス状態値Smを予測する。集団状態予測部22は、複数のメンバーP1~Pkのそれぞれの未来のストレス状態値S1(t+1)~Sk(t+1)の統計値を集団G1のストレス状態値Smとする。統計値は、例えば、平均値である。
【0047】
この処理は、集団状態予測部22が、個人状態予測部20で予測された複数の人P1~Pkのそれぞれの未来状態値S1(t+1)~Sk(t+1)に基づいて、集団G1の未来の状態を示す集団状態値Smを予測することに相当する。
【0048】
予測された未来の集団G1のストレス状態値Smがしきい値Thより大きい場合、導出部24は、予測された未来の集団G1のストレス状態値Smが改善するように集団G1内の複数のメンバーP1~Pkの間の目標の会話量Wij_m(t)を導出する。しきい値Thは、実験やシミュレーションにより適宜定めることができる。
【0049】
この処理は、予測された集団G1の未来状態値Smが状態の悪さに関する所定の条件を満たす場合、導出部24が、予測された未来の集団状態値Smが改善するように集団G1内の複数の人P1~Pkの間の目標のコミュニケーション量を導出することに相当する。
【0050】
導出部24は、それぞれ異なる複数の会話量のパターンを仮想的に設定し、複数のパターンのそれぞれに関して、各メンバーP1~Pkの現在のストレス状態値S1(t)~Sk(t)をもとに各メンバーP1~Pkの未来のストレス状態値S1(t+1)~Sk(t+1)を導出し、導出した未来のストレス状態値S1(t+1)~Sk(t+1)の平均値を集団G1のストレス状態値Smとして導出する。これにより、どのような会話量のパターンで集団G1のストレス状態値Smが小さくなるか推定できる。
【0051】
導出部24は、集団G1のストレス状態値Smが最小となる会話量のパターンを、複数のメンバーP1~Pkの間の目標の会話量Wij_m(t)とする。導出部24は、集団G1のストレス状態値Smが所定値以下となる会話量のパターンを、複数のメンバーP1~Pkの間の目標の会話量Wij_m(t)としてもよい。
【0052】
図6は、複数の会話量のパターンのそれぞれと、未来の個人のストレス状態値S1(t+1)~Sk(t+1)と、未来の集団G1のストレス状態値Smとの関係の一例を示す。この例では、複数の会話量のパターンは、会話量Wij(t)が0.1ずつ異なるように全ての数値の組み合わせを網羅している。
【0053】
図6の例では、会話量のパターン1で集団G1のストレス状態値Smが最小であると想定する。そのため、パターン1の会話量Wij(t)を目標の会話量Wij_m(t)とする。よって、例えば、メンバーP1とP2の間の目標の会話量W12_m(t)は0.1であり、メンバーP1とP3の間の目標の会話量W13_m(t)は0.1であり、メンバーP1とP4の間の目標の会話量W14_m(t)は0.1である。
【0054】
提案部26は、集団G1のストレス状態値Smがしきい値Thより大きい場合、集団G1内の2人のメンバーPi,Pjの組み合わせのそれぞれに関して、当該2人の現在の会話量Wij(t)と目標の会話量Wij_m(t)とを比較し、現在の会話量Wij(t)が目標の会話量Wij_m(t)より小さければ会話量の増加を提案し、現在の会話量Wij(t)が目標の会話量Wij_m(t)より大きければ会話量の減少を提案する。提案部26は、例えば、提案内容を示す画像や音声を出力装置8に出力させることで、会話量の変更を提案する。
【0055】
この処理は、提案部26が、未来の集団状態値Smがしきい値Thより大きい場合、集団G1内の対象となる2人Pi,Pjに関して、現在のコミュニケーション量Wij(t)と目標のコミュニケーション量Wij_m(t)とを比較し、比較結果に基づいて、コミュニケーション量の変更を提案することに相当する。これにより、集団G1の未来の状態が悪くなることが予測された場合、状態が悪くなりにくいように集団G1内の2人の間のコミュニケーション量の変更を提案できる。よって、集団G1の未来の状態を予測より改善するためにどのような対策を取ればよいかメンバーに把握させることができる。
【0056】
提案部26は、集団G1のストレス状態値Smがしきい値Thより小さい場合、会話量の変更を提案しない。
処理装置10は、以上の処理を定期的に繰り返す。
【0057】
図7は、図3のコミュニケーション支援システム1のコミュニケーション支援処理を示すフローチャートである。この処理は、打ち合せを開始するときに開始される。
【0058】
第2分析部14は、k人のメンバーP1~Pk(k≦N)を特定し(S10)、処理の終了の指示が入力されない場合(S12のN)、第2分析部14は、メンバーPiとPjの間の現在の会話量Wij(t)(i,j≦k)を検出する(S14)。第1分析部12は、各メンバーP1~Pkの現在のストレス状態値S1(t)~Sk(t)を検出し(S16)、個人状態予測部20は、現在の会話量Wij(t)とストレス状態値S1(t)~Sk(t)から各メンバーP1~Pkの未来のストレス状態値S1(t+1)~Sk(t+1)を導出する(S18)。
【0059】
集団状態予測部22は、各メンバーP1~Pkの未来のストレス状態値S1(t+1)~Sk(t+1)の平均値Smを導出し(S20)、平均値Smがしきい値Th以下であれば(S22のN)、S12に戻る。
【0060】
平均値Smがしきい値Thより大きい場合(S22のY)、導出部24は、平均値Smが最小になる目標の会話量Wij_m(t)のパターンを特定し(S24)、Wij_s(t)=Wij(t)-Wij_m(t)を導出する(S26)。
【0061】
提案部26は、Wij_s(t)<0を満たすメンバーPiとメンバーPjに発言を促し(S28)、Wij_s(t)>0を満たすメンバーPiとメンバーPjに沈黙を促し(S30)、S12に戻る。処理の終了の指示が入力された場合(S12のY)、処理を終了する。
【0062】
なお、会話量の変更の提案対象メンバーの決定方法は、以上の例に限らない。
図8は、コミュニケーション支援処理の別の例を示すフローチャートである。図7のS28,S30に替えて、図8のS42からS50の処理が実行される。
【0063】
図7のS26の次に、導出部24は、Wij_s_m(t)=max(|Wij_s(t)|)を導出する(S42)。max(|Wij_s(t)|)は、絶対値が最大であるWij_s(t)を表す。つまり、導出部24は、絶対値が最大であるWij_s(t)をWij_s_m(t)とする。
【0064】
X<Wij_s_m(t)<Yである場合(S44のY)、S12に戻る。この場合、提案部26は、会話量の変更を提案しない。Xは下限値であり、Yは上限値であり、これらは実験やシミュレーションにより適宜定めることができる。例えば、Xは負の値であり、Yは正の値である。つまり、Wij_s_m(t)がゼロに近ければ、提案部26は会話量の変更を提案しない。
【0065】
X<Wij_s_m(t)<Yでない場合(S44のN)、Wij_s_m(t)≦Xであれば(S46のY)、提案部26はメンバーPiとメンバーPjに発言を促し(S48)、S12に戻る。Wij_s_m(t)≦Xでなければ(S46のN)、提案部26はメンバーPiとメンバーPjに沈黙を促し(S50)、S12に戻る。
【0066】
この例では、現在の会話量と目標の会話量との差の絶対値が最大である2人のメンバーに限り会話量の変更を提案するので、提案対象のメンバーを最小限にしつつ、未来の集団状態値Smを改善可能な提案を行える。
【0067】
なお、S44の処理を省き、S42の後、S46の判定を実行してもよい。この場合、S46の判定を変更し、Wij_s_m(t)<0であれば(S46)、提案部26はメンバーPiとメンバーPjに発言を促し(S48)、S12に戻る。Wij_s_m(t)>0であれば(S46)、提案部26はメンバーPiとメンバーPjに沈黙を促し(S50)、S12に戻る。Wij_s_m(t)=0であれば(S46)、S12に戻る。この変形例でも、提案対象のメンバーを最小限にしつつ、未来の集団状態値Smを改善可能な提案を行える。
【0068】
また、図7の処理において、S28にて提案部26はWij_s(t)<Xを満たすメンバーPiとメンバーPjに発言を促し、S30にて提案部26はWij_s(t)>Yを満たすメンバーPiとメンバーPjに沈黙を促してもよい。X,Yは、既述の上限値と下限値である。この変形例では、提案対象のメンバーを、未来の集団状態値Smの改善に寄与する度合いが相対的に大きいことが予測されるメンバーに限ることができる。
【0069】
以上、未来の集団G1のストレス状態値Smがしきい値Thより大きい場合、集団G1のストレス状態値Smが最小となる会話量のパターンを複数のメンバーP1~Pkの間の目標の会話量とする一例を説明したが、目標の会話量を導出せずに会話量の変更を提案してもよい。
【0070】
具体的には、提案部26は、集団G1内の複数の他者のそれぞれから対象のメンバーへの状態伝播量を比較し、比較結果に基づいて、予測された当該対象のメンバーの未来状態値が改善するように当該対象のメンバーと他者との間のコミュニケーション量の変更を提案する。提案部26は、正で最大である他者から対象のメンバーへの状態伝播量を特定し、当該メンバーと当該他者との間のコミュニケーション量の低減を提案する。当該メンバーと当該他者との間のコミュニケーション量を低減することで、コミュニケーション量の低減前と比較し、当該他者から当該メンバーへの状態伝播量を小さくでき、当該メンバーの未来状態値を小さくできる。
【0071】
提案部26は、負で最小である他者から対象のメンバーへの状態伝播量を特定し、当該メンバーと当該他者との間のコミュニケーション量の増加を提案してもよい。当該メンバーと当該他者との間のコミュニケーション量を増加することで、コミュニケーション量の増加前と比較し、当該他者から当該メンバーへの負の状態伝播量を小さくでき、当該メンバーの未来状態値を小さくできる。
【0072】
この変形例では、提案部26は、1人以上のメンバーについて提案の有無を判定すればよく、全てのメンバーについて判定しなくてもよい。この場合、判定の対象のメンバーは、管理者などにより記憶装置7に予め登録されてもよいし、メンバーの状態に対する他者の影響度λが所定値以上である当該メンバーであってもよいし、メンバーの状態に対する他者の影響度λが最大である当該メンバーであってもよい。第2取得部18は、判定の対象のメンバーへの状態伝播量のみを取得してもよく、個人状態予測部20は、判定の対象のメンバーの未来のストレス状態値のみを予測してもよい。
【0073】
この変形例では、対象のメンバーと他者との間のコミュニケーション量の変更を提案するので、当該メンバーの未来の状態を改善するためにどのような対策を取ればよいかメンバーに把握させることができる。これにより、未来の集団G1のストレス状態値Smを改善できる。また、目標の会話量を導出しないため、処理を簡素化できる。
【0074】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態では、未来の集団状態値が良い状態を示すように集団G1のメンバーを複数の人の中から決定する処理が、第1の実施の形態に加わる。以下、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0075】
図9は、第2の実施の形態のコミュニケーション支援システムのメンバー決定機能を説明するための図である。コミュニケーション支援システムは、打ち合わせの開始前、例えば、7人の人P1~P7の中から集団G1を構成する候補となる4人のメンバーP1~P4を仮設定する。この時点では、7人の人P1~P7は、コミュニケーションできる距離に集まっていなくてよい。
【0076】
コミュニケーション支援システムは、各メンバーP1~P4の現在状態値S1(t)~S4(t)と、集団G1内の2人のメンバーの複数の組み合わせのそれぞれに関する2人のメンバー間の過去のコミュニケーション量W12,W13,W14,W23,W24,W34に基づいて予測される状態伝播量とを取得する。状態伝播量の導出方法は第1の実施の形態と同様であり、現在のコミュニケーション量に替えて過去のコミュニケーション量を用いればよい。
【0077】
コミュニケーション支援システムは、各メンバーP1~P4に関して、当該メンバーの現在状態値S1(t)~S4(t)と、複数の他メンバーから当該メンバーへの状態伝播量とから、当該メンバーの未来の状態を示す未来状態値を予測する。コミュニケーション支援システムは、未来状態値S1(t+1)~S4(t+1)に基づいて、未来の集団状態値Smを予測する。図9の例では、未来の集団状態値Smは、しきい値Thより大きいことを想定する。この場合、メンバーP1~P4は適切ではないため、コミュニケーション支援システムは、別のメンバーを仮設定する。コミュニケーション支援システムは、未来の集団状態値Smがしきい値Th以下になるまで、メンバーの仮設定を繰り返す。
【0078】
図10は、図9に続く、コミュニケーション支援システムのメンバー決定機能を説明するための図である。コミュニケーション支援システムは、人P1~P7の中から集団G1を構成する候補となる4人のメンバーP1,P2,P5,P6を仮設定する。コミュニケーション支援システムにより新たに予測される各メンバーの未来状態値S1(t+1)~S4(t+1)は、図9の場合の値とは異なる。未来の集団状態値Smも図9の場合の値とは異なり、しきい値Thより小さくなるとする。そこで、コミュニケーション支援システムは、メンバーP1,P2,P5,P6を集団G1のメンバーとして正式に決定し、決定したメンバーP1,P2,P5,P6に通知する。通知を受けたメンバーP1,P2,P5,P6は、集まって打ち合わせを開始する。図9のメンバーP1~P4と比較して、打ち合わせ中に各メンバーP1,P2,P5,P6が良好な状態を保ちやすくなり、集団G1におけるコミュニケーションを円滑に進めることができる。打ち合わせの開始後、コミュニケーション支援システムは、第1の実施の形態の処理を実行する。
【0079】
図11は、第2の実施の形態のコミュニケーション支援システム1Aの構成を示す。コミュニケーション支援システム1Aは、メンバー決定システムとも呼べる。処理装置10Aは、図3の構成に加え、仮設定部30および決定部32をさらに備える。現在状態値と未来状態値はストレス状態値であり、コミュニケーション量は会話量である一例について説明する。
【0080】
仮設定部30は、集団G1を構成する候補となる複数の人を仮設定する。第1取得部16は、仮設定された複数の人のそれぞれに関して、当該人の現在のストレス状態値を取得する。
【0081】
第2取得部18は、仮設定された複数の人のそれぞれに関して、当該人と集団G1内の他者との過去の会話量を取得し、取得した過去の会話量に基づいて予測される当該他者から当該人に伝播する状態量を示す状態伝播量を取得する。記憶装置7には、2人の登録ユーザの複数の組み合わせのそれぞれに関する2人の登録ユーザ間の過去の会話量が記憶されている。第2取得部18は、記憶装置7から過去の会話量を取得する。
【0082】
個人状態予測部20は、仮設定された複数の人のそれぞれに関して、取得された当該人の現在のストレス状態値と、取得された当該人への状態伝播量とから、当該人の未来のストレス状態値を予測する。
【0083】
集団状態予測部22は、予測された複数の人のそれぞれの未来のストレス状態値に基づいて、未来の集団G1のストレス状態値Smを予測する。
【0084】
決定部32は、予測された未来の集団G1のストレス状態値Smが状態の良さに関する所定の条件を満たす場合、仮設定された複数の人を集団G1のメンバーとして決定し、決定されたメンバーを特定するための情報を出力装置8に出力させる。
【0085】
未来の集団G1のストレス状態値が状態の良さに関する所定の条件を満たさない場合、仮設定部30は、集団G1を構成する候補となる複数の人を新たに仮設定し、第1取得部16、第2取得部18、個人状態予測部20、集団状態予測部22、決定部32は、上記処理を再度行う。
【0086】
図12は、図11のコミュニケーション支援システム1Aのメンバー決定処理を示すフローチャートである。仮設定部30は、N人からk(k<N)人のメンバーを仮設定する(S60)。第2取得部18は、メンバー間の過去の会話量を取得し(S62)、第1分析部12は、各メンバーの現在のストレス状態値を検出する(S64)。個人状態予測部20は、過去の会話量と現在のストレス状態値から各メンバーの未来のストレス状態値を導出する(S68)。
【0087】
集団状態予測部22は、k人のメンバーの未来のストレス状態値の平均値Smを導出し(S70)、平均値Smがしきい値Thより大きい場合(S72のY)、S60に戻る。平均値Smがしきい値Th以下の場合(S72のN)、決定部32は、仮設定されたメンバーを打ち合せの正式なメンバーとして決定し(S74)、処理を終了する。
【0088】
なお、メンバー決定処理の間、kは予め定められた一定値でもよいし、平均値Smがしきい値Thより大きい場合(S72のY)、kが変更されてもよい。S72のYでkが変更される場合、仮設定部30は、kを所定数増やすか、または、kを所定数減らしてから、S10の処理を実行してもよい。
【0089】
本実施の形態によれば、複数の人の中から、コミュニケーションにより集団G1の未来の状態が相対的に良くなることが期待される複数のメンバーを決定できる。
【0090】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。実施の形態はあくまでも例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0091】
たとえば、導出部24と提案部26を設けず、コミュニケーション量の変更を提案しなくてもよい。この場合、第1取得部16は、個人の現在状態値を個人が特定できるように出力装置8に出力させ、個人状態予測部20は、当該個人の未来状態値を出力装置8に出力させる。出力装置8は、例えば図1等を画像として表示してもよい。出力された現在状態値と未来状態値をもとに、未来の当該個人の状態が悪化するか予測できるので、当該個人に対してコミュニケーションに関する何らかの対策を取る必要があるか特定できる。そのため、個人の未来の状態を良好な状態に保ちやすくなる。あるいは、個人状態予測部20は、個人の未来状態値がしきい値より大きい場合に限り、個人の未来状態値を個人が特定できるように出力装置8に出力させてもよい。さらに、集団状態予測部22は、未来の集団状態値を出力装置8に出力させてもよいし、未来の集団状態値がしきい値より大きい場合に限り、未来の集団状態値を出力装置8に出力させてもよい。未来の集団状態値をもとに、未来の集団G1の状態が悪化するか予測できるので、集団G1に対してコミュニケーションに関する何らかの対策を取る必要があるか特定できる。
【符号の説明】
【0092】
1,1A…コミュニケーション支援システム、10,10A…処理装置、12…第1分析部、14…第2分析部、16…第1取得部、18…第2取得部、20…個人状態予測部、22…集団状態予測部、24…導出部、26…提案部、30…仮設定部、32…決定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12