(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】設計装置、設計方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20241106BHJP
【FI】
G06F30/20
(21)【出願番号】P 2021163130
(22)【出願日】2021-10-01
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【氏名又は名称】加藤 真司
(72)【発明者】
【氏名】松森 唯益
(72)【発明者】
【氏名】門脇 正史
(72)【発明者】
【氏名】滝 雅人
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-033633(JP,A)
【文献】特開2007-299099(JP,A)
【文献】特開2021-072100(JP,A)
【文献】特開2016-051350(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235568(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
G06N 3/00 -99/00
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を締結する締結点を複数の締結点候補位置から選択し、締結点の組合せとする設計装置(1)であって、
基板に作用する物理量の評価方法の指定を受け付ける入力部(10)と、
締結点の組合せに応じて基板に作用する物理量を求める物理量計算部(21)と、
締結点の組合せに対応する物理量のデータに基づいて、締結点の組合せと基板に作用する物理量の回帰モデルであって締結点の候補を2値変数で表した回帰モデルを生成する回帰モデル生成部(22)と、
前記評価方法に基づいて前記回帰モデルをイジングモデルに変換するイジングモデル変換部(23)と、
前記イジングモデルの評価値を最小化するように、イジングマシンを用いて複数の締結点候補位置から締結点を選択して締結点の組合せを決定する締結点選択部(24)と、
前記締結点の組合せのデータを出力する出力部(12)と、
を備え、
所定の終了条件を満たすまで、前記物理量計算部が前記締結点選択部にて選択された締結点の組合せに応じて基板に作用する物理量を計算し、計算によって求めたデータを追加した締結点の組合せに対応する物理量のデータに基づいて前記回帰モデル生成部が前記回帰モデルを生成し、前記イジングモデル変換部が前記回帰モデルをイジングモデルに変換し、前記締結点選択部が前記イジングモデルに基づいて締結点の組合せを選択する処理を繰り返し行う設計装置。
【請求項2】
前記イジングモデル変換部は、基板に作用する物理量に加えて締結点の個数を用いて前記イジングモデルを生成する請求項1に記載の設計装置。
【請求項3】
前記物理量は、基板の固有振動数である請求項1または2に記載の設計装置。
【請求項4】
前記回帰モデル生成部は、前記回帰モデルとして締結点の候補を2値変数で表した2次多項式で表された関数を生成する請求項1から3のいずれか1項に記載の設計装置。
【請求項5】
基板を締結する締結点を複数の締結点候補位置から選択し、締結点の組合せとする設計方法であって、
設計装置が基板に作用する物理量の評価方法の指定を受け付け、
前記設計装置が所定の終了条件を満たすまで、次のステップを繰り返し行って求めた締結点の組合せを最適値として出力する設計方法:
(1)締結点の組合せに応じて基板に作用する物理量を求めるステップ(S12);
(2)物理量を求めるステップにて求めたデータを追加した締結点の組合せに対応する物理量のデータに基づいて、締結点の組合せと基板に作用する物理量の回帰モデルであって締結点の候補を2値変数で表した回帰モデルを生成するステップ(S13);
(3)前記評価方法に基づいて前記回帰モデルをイジングモデルに変換するステップ(S14);
(4)前記イジングモデルの評価値を最小化するように、イジングマシンを用いて複数の締結点候補位置から締結点を選択して締結点の組合せを決定するステップ(S15)。
【請求項6】
基板を締結する締結点を複数の締結点候補位置から選択し、締結点の組合せとするためのプログラムであって、コンピュータに、
基板に作用する物理量の評価方法の指定を受け付けるステップを実行させ、
所定の終了条件を満たすまで、次のステップを繰り返し実行させて求めた締結点の組合せを最適値として出力するステップを実行させるプログラム:
(1)締結点の組合せに応じて基板に作用する物理量を求めるステップ;
(2)物理量を求めるステップにて求めたデータを追加した締結点の組合せに対応する物理量のデータに基づいて、締結点の組合せと基板に作用する物理量の回帰モデルであって締結点の候補を2値変数で表した回帰モデルを生成するステップ(S13);
(3)前記評価方法に基づいて前記回帰モデルをイジングモデルに変換するステップ(S14);
(4)前記イジングモデルの評価値を最小化するように、イジングマシンを用いて複数の締結点候補位置から締結点を選択して締結点の組合せを決定するステップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の締結点を設計する設計装置、設計方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のパワーコントロールユニット等で用いられる回路基板は、多数の電子部品が接続され、また、多数の電子部品とコネクタで接続されている。これらの接合や接続部分は、外部からの加振によって破壊されたり、接続が外れたりする可能性がある。
【0003】
特許文献1は、回路基板の振動抑制構造を開示している。この構造では、基準直線LB上にねじの締結位置を備えると共に、回路基板の実装部品を基準直線LBの近傍に配置している。特許文献2は、電源基板の耐振性を向上した電力変換装置を開示している。この装置では、隣接した電源基板用締結具同士の間隔を、隣接した制御基板用締結具同士の間隔より狭くすることで、電源基板の共振周波数を制御基板の共振周波数よりも高領域にシフトさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-239602号公報
【文献】特開2006-191765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した特許文献1に記載された構造は、基板の構造が対称でないと採用することができない。また、特許文献2に記載された構造は、常に採用し得る構造ではない。なぜなら、基板上には締結点を配置できない場所があるので、任意の距離で締結点が配置できるわけではないからである。
【0006】
また、複数の締結点位置の候補が与えられたときに所望の性能を有する締結点位置を設計する方法の一つは、すべての締結点位置候補のすべての組合せについて性能を評価することである。しかし、締結点位置の組み合わせ数は候補数の増加とともに指数関数的に増大するため、すべての組合せを評価する方法は締結点位置を決めるための時間が長くなるという課題がある。
【0007】
本発明は上記背景に鑑み、任意の基板の構造に対して複数の締結点位置の候補が与えられたときに、所望の性能を有する締結点位置を短時間で設計する装置であり、その手段として、イジングマシンを利用する装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために以下の技術的手段を採用する。特許請求の範囲及びこの項に記載した括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0009】
本発明の設計装置(1)は、基板を締結する締結点を複数の締結点候補位置から選択し、締結点の組合せとする設計装置であって、基板に作用する物理量の評価方法の指定を受け付ける入力部(10)と、締結点の組合せに応じて基板に作用する物理量を求める物理量計算部(21)と、締結点の組合せに対応する物理量のデータに基づいて、締結点の組合せと基板に作用する物理量の回帰モデルであって締結点の候補を2値変数で表した回帰モデルを生成する回帰モデル生成部(22)と、前記評価方法に基づいて前記回帰モデルをイジングモデルに変換するイジングモデル変換部(23)と、前記イジングモデルの評価値を最小化するように、イジングマシンを用いて複数の締結点候補位置から締結点を選択して締結点の組合せを決定する締結点選択部(24)と、前記締結点の組合せのデータを出力する出力部(12)とを備え、所定の終了条件を満たすまで、前記物理量計算部が前記締結点選択部にて選択された締結点の組合せに応じて基板に作用する物理量を計算し、計算により求めたデータを追加した締結点の組合せに対応する物理量のデータに基づいて、前記回帰モデル生成部が前記回帰モデルを生成し、前記イジングモデル変換部が前記回帰モデルをイジングモデルに変換し、前記締結点選択部が前記イジングモデルに基づいて締結点の組合せを選択する処理を繰り返し行う。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】設計装置が行う繰り返し処理を模式的に示す図である。
【
図2】実施の形態の設計装置の構成を示す図である。
【
図3】締結点候補位置と選択された締結点の例を示す図である。
【
図4】実施の形態の設計方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施する場合の一例を示すものであって、本発明を以下に説明する具体的構成に限定するものではない。本発明の実施にあたっては、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてよい。
【0012】
本実施の形態の設計装置は、基板を締結する締結点を複数の締結点候補位置から選択し、締結点の組合せとする設計装置であって、基板に作用する物理量の評価方法の指定を受け付ける入力部と、締結点の組合せに応じて基板に作用する物理量を求める物理量計算部と、締結点の組合せに対応する物理量のデータに基づいて、締結点の組合せと基板に作用する物理量の回帰モデルであって締結点の候補を2値変数で表した回帰モデルを生成する回帰モデル生成部と、前記評価方法に基づいて前記回帰モデルをイジングモデルに変換するイジングモデル変換部と、前記イジングモデルの評価値を最小化するように、イジングマシンを用いて複数の締結点候補位置から締結点を選択して締結点の組合せを決定する締結点選択部と、前記締結点の組合せのデータを出力する出力部とを備え、所定の終了条件を満たすまで、前記物理量計算部が前記締結点選択部にて選択された締結点の組合せに応じて基板に作用する物理量を計算し、計算によって求めたデータを追加した締結点の組合せに対応する物理量のデータに基づいて前記回帰モデル生成部が前記回帰モデルを生成し、前記イジングモデル変換部が前記回帰モデルをイジングモデルに変換し、前記締結点選択部が前記イジングモデルに基づいて締結点の組合せを選択する処理を繰り返し行う構成を有する。
【0013】
このように締結点の組合せと物理量との関係を表す回帰モデルを生成し、指定された評価方法に基づいて回帰モデルをイジングモデルに変換し、変換されたイジングモデルの評価値を最小化するように、イジングマシンを用いて締結点の組合せを選択する処理を繰り返し行う構成により、複数の締結点候補位置から設計条件を満たす適切な締結点の組合せを求めることができる。
【0014】
本実施の形態の設計装置において、前記イジングモデル変換部は、基板に作用する物理量に加えて締結点の個数を用いて前記イジングモデルを生成してもよい。
【0015】
このように基板に作用する物理量に加えて締結点の個数も用いてイジングモデルを生成し、イジングモデルの評価値を最小化するように締結点の組合せを決定することにより、締結点の個数が少ない組合せを求めることができる。
【0016】
本実施の形態の設計装置において、前記物理量は、基板の固有振動数であってもよい。
【0017】
基板の固有振動数と同じ振動数の振動が外部から基板に加えられると、部品の接合や接続が破壊されたり外れたりするおそれがある。基板が外部からの振動と共振しないように、基板の固有振動数を所定の閾値以上に高く設定することにより、基板の共振を防止する耐振動性能が高い締結点の組合せを選択できる。この場合、評価方法の指定としては、固有振動数が所定の閾値以上であり、かつ、締結点の個数が少ないほどイジングモデルの評価値が低くなるような指定がなされる。
【0018】
本実施の形態の設計装置において、前記回帰モデル生成部は、前記回帰モデルとして締結点の候補を2値変数で表した2次多項式で表された関数を生成してもよい。
【0019】
本実施の形態の設計方法は、基板を締結する締結点を複数の締結点候補位置から選択し、締結点の組合せとする設計方法であって、設計装置が基板に作用する物理量の評価方法の指定を受け付け、前記設計装置が所定の終了条件を満たすまで、次のステップを繰り返し行って求めた締結点の組合せを最適値として出力する設計方法:
(1)締結点の組合せに応じて基板に作用する物理量を求めるステップ(S12);
(2)物理量を求めるステップにて求めたデータを追加した締結点の組合せに対応する物理量のデータに基づいて、締結点の組合せと基板に作用する物理量の回帰モデルであって締結点の候補を2値変数で表した回帰モデルを生成するステップ(S13);
(3)前記評価方法に基づいて前記回帰モデルをイジングモデルに変換するステップ(S14);
(4)前記イジングモデルの評価値を最小化するように、イジングマシンを用いて複数の締結点候補位置から締結点を選択して締結点の組合せを決定するステップ(S15)。
【0020】
本実施の形態のプログラムは、基板を締結する締結点を複数の締結点候補位置から選択し、締結点の組合せとするためのプログラムであって、コンピュータに、基板に作用する物理量の評価方法の指定を受け付けるステップを実行させ、所定の終了条件を満たすまで、次のステップを繰り返し実行させて求めた締結点の組合せを最適値として出力するステップを実行させるプログラム:
(1)締結点の組合せに応じて基板に作用する物理量を求めるステップ;
(2)物理量を求めるステップにて求めたデータを追加した締結点の組合せに対応する物理量のデータに基づいて、締結点の組合せと基板に作用する物理量の回帰モデルであって締結点の候補を2値変数で表した回帰モデルを生成するステップ(S13);
(3)前記評価方法に基づいて前記回帰モデルをイジングモデルに変換するステップ(S14);
(4)前記イジングモデルの評価値を最小化するように、イジングマシンを用いて複数の締結点候補位置から締結点を選択して締結点の組合せを決定するステップ。
【0021】
以下、図面を参照して実施の形態にかかる設計装置をさらに説明する。
図1は、本実施の形態の設計装置1が行う処理の概要を説明するための図である。
図1において記載されている「(S12)」等は後述する
図4のフローチャートで用いられている符号である。
【0022】
「締結点追加」のところから説明を始める。「締結点追加」は、基板の固有振動数の評価対象となる締結点の組合せを追加するステップである。最初は、初期値として与えられた締結点の組合せを追加し、イジングマシンで締結点の組合せが選択された後は選択された締結点の組合せを追加する。締結点が追加されると、「固有振動数計算」にて、追加された締結点の組合せを採用したときの基板の固有振動数を求める。
図1に示すグラフのイメージでは、締結点の組合せごとに、基板の固有振動数がプロットされている。
図1から明らかなように、締結点の組合せのデータが増えると回帰モデルの精度は高くなる。
【0023】
次に、「回帰モデル生成」にて、締結点の組合せと固有振動数との回帰モデルを生成する。続いて、「イジングモデル変換」にて、所定の閾値以上の固有振動数となる最少の締結点数を求めるためのイジングモデルを生成する。
【0024】
次に、「イジングマシンによる最適化」にて、イジングマシンを使ってイジングモデルの評価値を最小化するような締結点の組合せを求める。求めた締結点の組合せを次の評価対象の締結点として追加し、固有振動数の計算以降の処理を繰り返し行う。
図1に示すように、繰り返し処理により締結点の組合せに対応する固有振動数のデータが増えていくので、回帰モデルの精度が高くなり、イジングモデルに基づいて求められる締結点の組合せも最適値に近づいていく。最終的には、所定の終了条件を満たしたところで、イジングマシンにより求めた締結点の組合せを締結点の組合せの最適値として出力する。
【0025】
本実施の形態において、設計課題は、耐振動性能を確保しつつ、締結点をなるべく少なく抑えることである。すなわち、耐振動性能を確保することを制約条件とし、締結点の個数を少なくすることである。ここで制約条件について述べると、基板の固有振動数を所定の閾値以上とすることで基板の耐振動特性は確保されるが、固有振動数の計算には振動CAEが必要であるため、締結点配置が決まるごとに実行されなければならない。したがって、設計課題にかかる上記の制約条件を最適化問題として記述する場合、2つの制約条件として表現できる。一つは、基板の固有振動数を所定の閾値以上とすること、もう一つは固有振動数の計算には基板の振動CAEの計算が必要であることである。本実施の形態の設計装置1は、複数の締結点候補位置から、締結点を選択する組合せ最適化問題を効率的に解き、制約条件を満たす最適な締結点の組合せを求める。
【0026】
設計課題に対応する最適化問題は、目的関数F(x)と制約条件G
1(x)、G
2(x)を使って、次式(1a)~(1c)で表される。G
2(x)は基板の固有振動数fを求めるために必要な方程式であり、方程式を解いた結果得られるfの値に基づいてG
1(x)が評価されるため、最適化問題ではこれらが同時に計算される必要がある。
【数1】
【0027】
上記最適化問題(式(1a)~(1c))をイジングマシンで解くためには、2値変数xの2次多項式で表されるイジングモデル(式(2))に変換する必要がある。イジングマシンでは、H(ハミルトニアン)が最小となるような締結点の組合せを求める。Hがイジングモデルの評価値となる。
【数2】
【0028】
イジングモデル(式(2))は、2値変数のみを利用した制約関数がない2次多項式の最適化問題(quadratic unconstrained binary optimization(QUBO))と等価である。したがって、上記最適化問題をQUBOで表すことができれば、イジングソルバーで解くことができる。しかし、上記最適化問題には、制約関数があり、かつ、その制約関数には2値変数xの関数ではあるが2次多項式で表されていない固有振動数fが含まれる。そこで、固有振動数fを含む制約関数G
1、G
2を2値変数の2次多項式で表すこと、あるいは、目的関数Fと制約関数G
1、G
2を同時に扱ってQUBOで表すこと、を実現する手段として、2値変数xの2次多項式の回帰モデルS(x)を利用する。
【数3】
【0029】
最も単純な実施形態として、固有振動数に関する制約関数を2値変数で表すために、回帰モデルS(x)を利用する方法を示す。この方法では、固有振動数計算部21で予め計算した固有振動数fを使って、制約関数(式(1b)、式(1c))の評価値が回帰モデルS(x)で近似される。
【数4】
式(4)の回帰モデルS(x)と、元々締結点位置を表す変数xだけで表された目的関数F(x)、すなわち、締結点数を足し合わせた次式(5)は、全ての項が2値変数の2次多項式で表されており、QUBOである。
【数5】
w
1, w
2は設計対象ごとに設定される正のパラメータである。
【0030】
固有振動数に関する制約関数を回帰モデルS(x)で表す別の実施形態として、上記最適化問題を、締結点数の最小化と、固有振動数fの最大化を同時に行う多目的最適化として定式化する方法を示す。この方法では、固有振動数fが直接回帰モデルS(x)で近似される。
【数6】
式(5)と同様に、式(6)の回帰モデルS(x)と目的関数F(x)を足し合わせた次式(7)は、全ての項が2値変数の2次多項式で表されており、QUBOである。
【数7】
【0031】
式(4)や式(6)のように2値変数xで表されていない固有振動数だけを回帰モデルS(x)で表すのではなく、2値変数で表すことができる部分を含めて回帰モデルを構築してもよい。これは前記、「目的関数と制約関数を同時に扱ってQUBOで表すこと」に対応する。たとえば、式(5)のように、締結点数を表す目的関数F(x)と固有振動数fの制約関数の和L
1(式(8))を最小化することを考える。
【数8】
L
1を回帰モデルS(x)で近似することで、次式(9)のようなQUBOが得られる。
【数9】
回帰モデルS(x)は式(3)のとおり、2値変数の2次多項式であり、式(9)はQUBOである。
【0032】
また、式(7)のように、締結点数の最小化と、固有振動数fの最大化を同時に行う場合には、締結点数と固有振動数fの和L
2が評価される。
【数10】
L
2を回帰モデルS(x)で近似することで、式(9)のようなQUBOが得られる。
【0033】
式(10)は、多目的最適化としての定式化と回帰モデルを組み合わせる方法であり、ε制約法や重み付きlpノルム法などの他の多目的最適化の方法と組み合わせることも考えられる。
【0034】
図2は、実施の形態の設計装置1の構成を示す図である。設計装置1は、基板を締結する締結点を設計する装置であって複数の締結点候補位置から選択する装置である。なお、設計装置1による設計の対象となる基板は、何らかの機能を実現する部品を配置するための板であればよく、例えば回路基板、プリント基板であり、その一つが車載用のプリント基板である。
【0035】
設計装置1は、評価方法の指定等を受け付ける入力部10と、設計条件に合った締結点の組合せを求める演算部11と、演算結果を出力する出力部12と、種々のデータを記憶する記憶部13とを有している。演算部11は、固有振動数計算部21、回帰モデル生成部22、イジングモデル変換部23と、締結点選択部24の各機能を実行する。
【0036】
本実施の形態では、入力部10は、評価方法の指定を受け付ける。本実施の形態において、評価方法は、基板に作用する固有振動数が所定の閾値以上である上で、締結点が少ないほど望ましいというものである。閾値として与えられる基板の固有振動数を外部から加えられる振動数よりも大きい値とすることにより、基板の共振を防止できる。
【0037】
固有振動数計算部21は、締結点の組合せに応じて基板の固有振動数をシミュレーションによって計算する。なお、基板の固有振動数は、部品が搭載された基板の固有振動数、すなわち基板と部品の両方を考慮した固有振動数である。
【0038】
回帰モデル生成部22は、締結点の組合せと固有振動数の回帰モデルを生成する。回帰モデルでは、締結点の候補を締結点として選択するかしないかの2値の変数で表す。
図3は、基板30の締結点候補位置と選択された締結点の例を示す図である。
図3において、白丸は締結点候補位置を示し、黒丸は締結点を配置できない位置、すなわち、候補とはならない位置を示す。締結点を配置できない位置は、あらかじめ配置が固定された電子部品が存在する場所31である。ハッチングをした丸は締結点候補位置の中から選択された締結点を示す図である。すなわち、ハッチングをした丸で示す複数の締結点が、選択された締結点の組合せである。2値変数は、締結点ありを「1」、締結点なしを「0」で表す。
【0039】
回帰モデル生成部22は、それまでに求めた締結点の組合せの全データを用いて回帰モデルを生成するので、締結点のデータが追加されるほど、回帰モデルの精度は高まっていく。回帰モデル生成部22は、記憶部13に記憶されている締結点の組合せに対応する固有振動数のデータに基づいて、式(3)の係数Qを決定し、回帰モデルS(x)を生成する。
【0040】
イジングモデル変換部23では、上記最適化問題をイジングマシンで計算できるイジングモデル(式(2))に変換する、すなわち、式(5)、式(7)、式(9)のように表される回帰モデルS(x)を使ったQUBOを構築する。各係数Jとhを構成する要素の値Jijとhiは、QUBOにおける2つの2値変数xi、xjの相互作用xixjの係数と、2値変数xiの係数に対応する。イジングマシンはイジングモデルの評価値Hにしたがって最適な締結点位置を求める。なお、2値変数の3次以上の相互作用を含む多項式が回帰モデル、あるいは、上記最適化問題の目的関数や制約関数に設定されても、2体の相互作用からなる2次の多項式に変換することが可能であり(「量子アニーリングの基礎」(西森秀稔、大関真之/共立出版)、p.13「2.4現実のデバイス上での表現」)、イジングモデルへ変換できる。
【0041】
締結点選択部24は、イジングマシンを用いてイジングモデルの評価値Hを最小化する締結点の組合せを選択する。評価値Hを最小化する締結点の組合せを求める最適化問題は、締結点の候補が多くなると既存のノイマン型コンピュータでは最適解を得るまでの計算時間が多大に必要となる。本実施の形態では、量子アニーリングに代表されるイジングマシンを用いて、締結点の組合せを計算する。イジングマシンとしては、量子アニーリングを実装した量子コンピュータや、組み合わせ最適化に特化したアルゴリズムを実装したFPGAやGPU等を使った計算機でもよい。
【0042】
設計装置1は、上記した演算部11の機能により、複数の締結点候補位置から設計条件を満たす締結点の組合せを設計する。
【0043】
図4は、実施の形態の設計装置1によって締結点の組合せを設計する処理を示すフローチャートである。設計装置1は、入力部10にて評価方法の指定を受け付ける(S10)。本実施の形態では、評価方法は、基板に作用する固有振動数が所定の閾値(例えば500Hz)以上であり、かつ、締結点が少ないほど望ましいというものである。この評価方法での設計条件は、基板に作用する固有振動数が所定の閾値以上であることである。なお、設計条件は、固有振動数ができるだけ高くなることとしても良い。また、設計装置1は、初期の締結点の組合せのデータの入力を受け付ける(S11)。ここでは、初期の締結点の組合せのデータの入力を受け付ける例を挙げているが、初期の締結点の組合せはランダムに決定してもよい。
【0044】
次に、設計装置1の固有振動数計算部21が、初期の締結点の組合せに応じて基板の固有振動数を求め(S12)。そして、固有振動数計算部21は、求めた固有振動数を締結点の組合せに関連付けて記憶部13に記憶する。
【0045】
続いて、設計装置1の回帰モデル生成部22が、記憶部13に記憶された締結点の組合せに対応する固有振動数の全データに基づいて、回帰モデルを生成する(S13)。イジングモデル変換部23は、回帰モデルと目的関数からイジングモデルを構築する。設計装置1の締結点選択部24は、イジングモデルの評価値を最小化するように、イジングマシンを用いて複数の締結点候補位置から締結点を選択して締結点の組合せを決定する(S15)。
【0046】
設計装置1は、締結点選択の終了条件を満たすか否かを判定する(S16)。ここで、終了条件は、例えば、締結点の組合せを追加する回数によって規定してもよいし、計算時間によって規定してもよい。締結点の組合せの追加回数で規定した場合は、追加回数が所定回数に達した時点で終了する。計算時間で規定した場合は、終了条件の判断時(S16)に、計算時間が所定時間を越えたときに終了する。終了条件を満たさない場合(S16でNO)、設計装置1は、締結点の追加を行って(S17)、追加された締結点の組合せについて基板の固有振動数を求める処理(S12)に戻る。ここで、締結点の追加(S17)とは、締結点選択部24で選択した締結点の組合せを固有振動数の計算で利用する締結点の組合せとして採用することである。
【0047】
設計装置1は、追加された締結点の組合せについて基板の固有振動数を求め(S12)、基板の固有振動数と新たな締結点の組合せの組を記憶部13に記憶し(S13)、記憶部13に記憶された締結点の組合せに対応する固有振動数の全データの関係を示す回帰モデルを決定し(S14)、決定された回帰モデルから構築されるイジングモデルの評価値を最小化する締結点の組合せを求める処理(S15)を繰り返し行う。
【0048】
設計装置1は、終了条件を満たすか否かの判定(S16)において、終了条件を満たすと判定された場合に(S16でYES)、任意に、求めた締結点の組合せが設計条件を満たすか否かを判定する(S18)。その結果、設計条件を満たすと判定された場合は(S18でYES)、求めた締結点のデータを出力し(S20)、処理は終了する。
【0049】
求めた締結点の組合せが設計条件を満たさないと判定された場合(S18でNO)、設計条件の変更および終了条件の緩和を行い(S19)、上述したフローと同様にして、締結点の組合せを設計する。ここで、終了条件の緩和とは、例えば、締結点の組合せを追加する回数を増やしたり、計算時間を長くしたりすることである。このように終了条件を緩和することで設計条件を満たす締結点の組合せが見つかる可能性が高くなる。なお、ここでは、設計条件の変更と終了条件の緩和の両方を行う例を挙げたが、いずれか一方を行うこととしてもよい。
【0050】
以上、本実施の形態の設計装置1の構成について説明したが、上記した設計装置1のハードウェアの例は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク、ディスプレイ、キーボード、マウス、通信インターフェース等を備えたコンピュータである。上記した各機能を実現するモジュールを有するプログラムをRAMまたはROMに格納しておき、CPUによって当該プログラムを実行することによって、上記した設計装置1が実現される。このようなプログラムも本発明の範囲に含まれる。また、イジングマシンとして量子コンピュータを用いる場合には、設計装置1は、ノイマン型コンピュータと量子コンピュータの組合せによって構成される。
【0051】
本実施の形態の設計装置1は、イジングマシンを用いて式(2)の形式で表された評価値を最小化する締結点の組合せを決定する構成により、複数の締結点候補位置から耐振動性能を満たす適切な締結点の組合せを求めることができる。イジングマシンを利用することで、複数の締結点候補位置のすべての組合せについて順次評価値を計算するよりも短時間で所望の締結点位置を決定することができる。
【0052】
上記した実施の形態では、基板の固有振動数を設計条件として設定する例を挙げたが、別の物理量を設計条件として設定することもできる。例えば、固有振動数に加えて基板に作用する変位や応力を設計条件としてもよい。この場合には、振動CAEで計算された固有振動数、変位、応力が記憶部に保存され、回帰モデルは、それらの値、または、他の2値変数で表される目的関数や制約関数などを含む値を使って回帰モデル生成部で作成される。その他は上記した実施の形態と同様に処理を行うことで、設計条件を満たす締結点の組合せを求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、基板の締結点を設計する装置として有用である。
【符号の説明】
【0054】
1・・・設計装置、10・・・入力部、11・・・演算部、12・・・出力部
13・・・記憶部、21・・・固有振動数計算部、22・・・回帰モデル生成部、
23・・・イジングモデル変換部、24・・・締結点選択部、30・・・基板。