(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】金属皮膜の成膜装置
(51)【国際特許分類】
C25D 17/10 20060101AFI20241106BHJP
C25D 17/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C25D17/10 A
C25D17/00 H
(21)【出願番号】P 2021166257
(22)【出願日】2021-10-08
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 春樹
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 功二
(72)【発明者】
【氏名】黒田 圭児
(72)【発明者】
【氏名】岡本 和昭
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-111807(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0144781(US,A1)
【文献】特開2020-147831(JP,A)
【文献】特開昭54-130444(JP,A)
【文献】特開平10-275811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/10
C25D 17/00
C25D 21/00
C25D 5/02
C25D 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
前記陽極の下方に配置された固体電解質膜と、
前記固体電解質膜の下方に配置される基材を陰極として前記陽極と前記基材との間に電圧を印加する電源部と、
前記陽極と前記固体電解質膜との間に、金属イオンを含む電解液を収容する液収容部と、を備え、
前記固体電解質膜を上方から前記基材に接触させた状態で前記陽極と前記基材との間に電圧を印加して、前記固体電解質膜の内部に含有された金属イオンを還元することで金属皮膜を前記基材の表面に成膜する金属皮膜の成膜装置であって、
前記液収容部は、前記陽極が設置される天井壁部と、少なくとも部分的に前記陽極を包囲するように前記天井壁部から下方に延在する側壁部と、を含み、
前記側壁部において前記陽極を向く面である内側面と、前記内側面と対向する前記陽極の外側面との間の距離が10mm以上に設定されていることを特徴する成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に金属皮膜を成膜する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材の表面に金属イオンを析出させて金属皮膜を成膜することが行われている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、陽極と、陽極の下方に配置された固体電解質膜と、固体電解質膜の下方に配置される基材を陰極として陽極と基材との間に電圧を印加する電源部と、陽極と固体電解質膜との間に、金属イオンを含む電解液を収容するハウジングと、を備える金属皮膜の成膜装置が記載されている。この成膜装置は、固体電解質膜を上方から基材に接触した状態で、ハウジングの電解液を加圧し、陽極と基材との間に電圧を印加して、固体電解質膜の内部に含有された金属イオンを還元することで金属皮膜を基材の表面に成膜するものである。
【0003】
この成膜装置のハウジングには、陽極を収容する収容凹部が形成されている。当該収容凹部は、陽極が設置される天井壁部と、当該天井壁部から陽極を包囲するように延在する側壁部とにより形成されている。ハウジングの下方には開口部が設けられており、当該開口部は固体電解質膜によって封止されている。
【0004】
陽極は基材の成膜領域に応じた形状とすることができる。このため、陽極の形状によっては、陽極は、ハウジングの側壁部との間に所定の間隔を有して、ハウジングの天井壁部に設置されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ハウジングには金属イオンを含む電解液が収容されていることから、ハウジングの側壁部は電解液に常時接触しており、当該側壁部はプラスに帯電している。このため、当該成膜装置において、陽極と基材との間に電圧を印加して金属皮膜を基材の表面に成膜する場合、基材の表面には、陽極からの電気力線の影響を受けて成膜された部分と、陽極だけではなくハウジングの側壁部からの電気力線の影響を受けて成膜された部分とが混在することがある。この場合、基材の表面における膜厚の分布(以下、「面均性」ともいう。)が不均一になるおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、面均性を向上させて金属皮膜を成膜することができる金属皮膜の成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を鑑みて、本発明に係る金属皮膜の成膜装置は、陽極と、前記陽極の下方に配置された固体電解質膜と、前記固体電解質膜の下方に配置される基材を陰極として前記陽極と前記基材との間に電圧を印加する電源部と、前記陽極と前記固体電解質膜との間に、金属イオンを含む電解液を収容する液収容部と、を備え、前記固体電解質膜を上方から前記基材に接触させた状態で前記陽極と前記基材との間に電圧を印加して、前記固体電解質膜の内部に含有された金属イオンを還元することで金属皮膜を前記基材の表面に成膜する金属皮膜の成膜装置であって、前記液収容部は、前記陽極が設置される天井壁部と、少なくとも部分的に前記陽極を包囲するように前記天井壁部から下方に延在する側壁部と、を含み、前記側壁部において前記陽極を向く面である内側面と、前記内側面と対向する前記陽極の外側面との間の距離が10mm以上に設定されていることを特徴する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液収容部は、陽極が設置される天井壁部と、少なくとも部分的に陽極を包囲するように天井壁部から下方に延在する側壁部と、を含み、側壁部において陽極を向く面である内側面と、内側面と対向する陽極の外側面との間の距離が10mm以上に設定されている。このように、本発明の成膜装置では、陽極の下方に配置される基材の成膜領域と液収容部の側壁部との間に十分な距離が設けられている。このため、当該成膜装置を用いて金属皮膜を基材の表面に成膜するとき、基材の成膜領域に対するハウジングの側壁部からの電気力線の影響を低減することができる。したがって、当該成膜装置を用いて成膜する場合、基材の表面における、陽極からの電気力線の影響を受けて成膜された部分と、陽極だけではなくハウジングの側壁部からの電気力線の影響を受けて成膜された部分との混在が抑制される。よって、面均性が向上した金属皮膜を基材に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る金属皮膜の成膜装置の模式的断面図であり、この成膜装置に電解液を循環させるための機構を追加して示すものである。
【
図2】
図1に示す成膜装置の部分拡大断面図であり、
図1のA部を拡大して示すものである。
【
図3】
図1に示す成膜装置の部分拡大断面図であり、基材の成膜領域に対する電気力線の影響を可視化して示すものである。
【
図4】従来の成膜装置の部分拡大断面図であり、基材の成膜領域に対する電気力線の影響を可視化して示すものである。
【
図5】本発明の別の実施形態に係る金属皮膜の成膜装置の模式的断面図である。
【
図6】本発明の実施例における基材の膜厚測定位置を示す模式的平面図である。
【
図7】
図5の膜厚測定位置に基づいて算出された面均性と、陽極及び側壁部の間の距離との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る金属皮膜の成膜装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る金属皮膜の成膜装置1の模式的断面図であり、この成膜装置1に電解液Lを循環させるための機構を追加して示すものである。
図2は、
図1に示す成膜装置1の部分拡大断面図であり、
図1のA部を拡大して示すものである。
【0012】
図1に示すように、成膜装置1は、金属製の陽極11と、陽極11の下方に配置された固体電解質膜13と、固体電解質膜13の下方に配置される基材Bを陰極として陽極11と基材Bとの間に電圧を印加する電源部14と、陽極11と固体電解質膜13との間に、金属イオンを含む電解液Lを収容する上ケーシング(液収容部)15と、を備えている。
【0013】
成膜装置1は、固体電解質膜13を上方から基材Bに接触させた状態で陽極11と基材Bとの間に電圧を印加して、固体電解質膜13の内部に含有された金属イオンを還元することで金属を析出させて、析出した金属からなる金属皮膜Fを基材Bの表面に成膜する装置である。なお、
図1では、固体電解質膜13が基材Bに接触する前の状態が示されている。
【0014】
基材Bの材料は、陰極(すなわち導電性を有した表面)として機能するものであれば、特に限定されるものではなく、アルミニウム、鉄等の金属材料からなってもよく、樹脂、セラミックス等の表面に、銅、ニッケル、銀、または鉄などの金属層が被覆されていてもよい。
【0015】
図1に示すように、成膜装置1は、基材Bが設置される下ケーシング21を備える。基材Bは、下ケーシング21内を延びる負極側導線14aを介して、電源部14の負極に電気的に接続されている。例えば、下ケーシング21は、非導通性の材料から形成されてよい。下ケーシング21が導通性の材料(例えば金属製)である場合、基材Bは、下ケーシング21及び負極側導線14aを介して電源部14の負極に電気的に接続されてもよい。
【0016】
陽極11は、基材Bの成膜領域に応じた形状となっている。つまり、基材Bの成膜領域とは、陽極11と対向する基材Bの表面の部分を意味する。陽極11は、金属皮膜Fの金属と同じ金属からなる非多孔質(たとえば無孔質)の陽極であり、ブロック状または平板状の陽極である。陽極11の材料としては、例えば、銅、ニッケル、銀、または、鉄などを挙げることができる。本実施形態では、電源部14を用いて電圧を印加することにより陽極11が溶解するが、たとえば、金属イオンを含む電解液Lのみで成膜するのであれば、陽極11は溶解しなくてもよい。陽極11は、多孔質体でもよいが、無孔質体であることがより好ましい。無孔質体の陽極11を用いることにより、基材Bに成膜される金属皮膜Fは、陽極11の表面の状態を受け難くなる。
【0017】
陽極11は、導通性の材料(例えば金属)から成る第1接続ピン18に接続され、第1接続ピン18は、同様に導通性の材料(例えば金属)から成る上ケーシング15に接続されている。また、電源部14の正極は、正極側導線14bを介して上ケーシング15に接続されている。これにより、陽極11は、第1接続ピン18、上ケーシング15、及び、正極側導線14bを介して、電源部14の正極に電気的に接続されている。
【0018】
電解液Lは、上述したように成膜すべき金属皮膜Fの金属をイオンの状態で含有している液であり、その金属としては、銅、ニッケル、銀、または鉄を挙げることができる。電解液Lは、これらの金属を、硝酸、リン酸、コハク酸、硫酸ニッケル、またはピロリン酸などの酸で溶解(イオン化)した水溶液である。たとえば、金属がニッケルの場合には、電解液Lとしては、たとえば、硝酸ニッケル、リン酸ニッケル、コハク酸ニッケル、硫酸ニッケル、またはピロリン酸ニッケルなどの水溶液を挙げることができる。
【0019】
固体電解質膜13は、上述した電解液Lに接触させることにより、金属イオンを内部に含浸(含有)する。固体電解質膜13は、電源部14により電圧を印加したときに基材Bにおいて金属イオンが還元され、金属イオン由来の金属が析出することができるのであれば、特に限定されるものではない。固体電解質膜13の材質としては、たとえばデュポン社製のナフィオン(登録商標)などのフッ素系樹脂、炭化水素系樹脂、ポリアミック酸樹脂、旭硝子社製のセレミオン(CMV、CMD、CMFシリーズ)などのイオン交換機能を有した樹脂を挙げることがで きる。
【0020】
図1及び
図2に示すように、上ケーシング15は、陽極11が設置される天井壁部15aと、少なくとも部分的に陽極11を包囲するように天井壁部15aから下方に延在する側壁部15bと、天井壁部15a及び側壁部15bにより形成される空間である収容凹部15cと、を含んで構成されている。
図1に示すように、陽極11は、第1接続ピン18を介して、天井壁部15aに設置されている。なお、陽極11は、天井壁部15aに直接設置されていてもよい。側壁部15bは、天井壁部15aの縁部から下方に延在しており、陽極11の外方を部分的に又は全周に亘って包囲している。これにより、
図2に示すように、側壁部15bにおいて陽極11を向く面である内側面15b1と、内側面15b1と対向する陽極11の外側面11aとの間には、距離Dを有する所定の隙間が形成されている。距離Dは、陽極11の外側面11aと側壁部15bの内側面15b1との間の最短距離(本実施形態では水平方向距離)であり、10mm以上に設定されている。
【0021】
収容凹部15cは下方に向かって開放している。陽極11及び電解液Lが収容凹部15cに収容された状態で当該収容凹部15cを封止するように、上ケーシング15には、例えばシール材(図示せず)を介して固体電解質膜13が取付けられている。陽極11と固体電解質膜13とは、互いに離間して配置されて非接触状態にあり、これらの間には電解液Lが充填されている。このように、上ケーシング15は、収容凹部15cに収容された電解液Lが陽極11および固体電解質膜13に直接的に接触する構造となっている。上ケーシング15は、電解液Lに対して不溶性の材料からなる。
【0022】
さらに、上ケーシング15には、電解液Lを収容凹部15cに供給する供給流路16と、電解液Lを収容凹部15cから排出する排出流路17とが形成されている。
図1に示すように、供給流路16及び排出流路17は、上ケーシング15の側壁部15bを左右方向に貫通する孔である。供給流路16は、後述する供給管路32に流体的に接続されており、排出流路17は、後述する排出管路34に流体的に接続されている。
【0023】
次いで、成膜装置1に電解液Lを循環させるための機構について説明する。
図1に示すように、成膜装置1の上流側において、上ケーシング15の供給流路16には、供給管路32の一端が流体接続されている。供給管路32の他端は、電解液Lが貯蔵されたタンク31に接続されている。供給管路32にはポンプPが介在されており、ポンプPの駆動により、タンク31から供給管路32内に電解液Lが汲み上げられ、その電解液Lが上ケーシング15の収容凹部15cに圧送される。また、成膜装置1の下流側において、上ケーシング15の排出流路17には、排出管路34の一端が流体接続されている。排出管路34の他端は、タンク31に接続されている。排出管路34には圧力調整弁35が介在されており、これにより、収容凹部15cに収容された電解液Lの圧力(液圧)が所定の圧力を超えることを防止するとともに、その圧力以下で、収容凹部15c内を密閉状態にすることができる。このような循環機構により、金属イオンの濃度が所定の濃度に調整された電解液Lを、供給流路16から収容凹部15cに供給するとともに、収容凹部15cで成膜時に使用された電解液Lを、排出流路17を介してタンク31へ戻すことができる。
【0024】
本実施形態では、成膜装置1は、上ケーシング15の上部に、図示しない昇降機構を備えている。昇降機構としては、油圧式または空気式のシリンダなどを挙げることができ、これにより、固体電解質膜13を基材Bに接離させることが可能になる。
【0025】
以下に本実施形態に係る成膜装置1を用いた成膜方法を説明する。まず、下ケーシング21に基材Bを設置し、陽極11に対して基材Bのアライメントを調整し、基材Bの温度調整を行う。次いで、図示しない昇降機構を用いて上ケーシング15を下降させることで、固体電解質膜13を上方から基材Bに接触させる。その後、ポンプPを用いて、タンク31から上ケーシング15の収容凹部15cに電解液Lを導入する。この際、ポンプP及び圧力調整弁35により、収容凹部15c内の電解液Lの液圧を所定の圧力まで増加させ、電解液Lの液圧により固体電解質膜13で基材Bを押圧する。
【0026】
このような状態で、電源部14を用いて、陽極11と基材Bとの間に電圧を印加する。これにより、固体電解質膜13に含有した金属イオンは、固体電解質膜13に接触した基材Bの表面に移動して基材Bの表面で還元される。この結果、基材Bの表面に金属が析出し、基材Bの表面に金属皮膜Fが成膜される。この際、収容凹部15cには、電解液Lが収容されているので、金属イオンを固体電解質膜13に常時供給することができる。金属皮膜Fの成膜が完了すると、電源部14による電圧の印加を解除し、その後、ポンプPによる電解液Lの圧送を停止して、昇降機構を用いて基材Bから固体電解質膜13を引き離す。
【0027】
次いで、本実施形態に係る成膜装置1の作用、効果について、従来の成膜装置1aと比較しながら説明する。
図3は、
図1に示す成膜装置1の部分拡大断面図であり、基材Bの成膜領域に対する電気力線Eの影響を可視化して示すものである。
図4は、従来の成膜装置1aの部分拡大断面図であり、基材Bの成膜領域に対する電気力線Eの影響を可視化して示すものである。
図3及び
図4に示すように、従来の成膜装置1aは、本実施形態に係る成膜装置1に対して、上ケーシング15の側壁部15bの幅が異なる。具体的には、従来の成膜装置1aは、本実施形態に係る成膜装置1に対して、側壁部15bが幅広に形成されており、これにより陽極11の外側面11aと側壁部15bの内側面15b1との間の距離が短い。本実施形態に係る成膜装置1及び従来の成膜装置1aにおいて同じ又は類似する機能を有する構成については、同一の符号を付している。
【0028】
上述したように、本実施形態に係る成膜装置1によれば、側壁部15bの内側面15b1と陽極11の外側面11aとの間の距離が10mm以上に設定されている。具体的には、陽極11の外側面11aと側壁部15bの内側面15b1との間の最短距離(本実施形態では水平方向距離)が10mm以上に設定されている。このように、本実施形態の成膜装置1では、陽極11の下方に配置される基材Bの成膜領域と上ケーシング15の側壁部15bとの間に十分な距離が設けられている。このため、成膜装置1を用いて金属皮膜Fを基材Bの表面に成膜するとき、基材Bの成膜領域に対する側壁部15bからの電気力線Eの影響を抑制することができる。したがって、成膜装置1を用いて金属皮膜Fを基材Bの表面に成膜する場合、基材Bの表面における、陽極11からの電気力線Eの影響を受けて成膜された部分と、陽極11だけではなく上ケーシング15の側壁部15bからの電気力線Eの影響を受けて成膜された部分との混在が抑制される。よって、面均性が向上した金属皮膜Fを基材Bに形成することができる。
【0029】
これに対し、従来の成膜装置1aでは、側壁部15bの内側面15b1と陽極11の外側面11aとの間の最短距離が短く、基材Bの成膜領域と上ケーシング15の側壁部15bとの間に十分な距離が設けられていない。この場合、
図4に示すように、基材Bの成膜領域に対する側壁部15bからの電気力線Eの影響が増加することがある。このため、成膜装置1aにおいて、陽極11と基材Bとの間に電圧を印加して金属皮膜Fを基材Bの表面に成膜する場合、基材Bの表面には、陽極11からの電気力線Eの影響を受けて成膜された部分と、陽極11だけではなく上ケーシング15の側壁部15bからの電気力線Eの影響を受けて成膜された部分とが混在することがある。この結果、面均性の低下した金属皮膜Fが基材Bに形成されることがある。特に、従来の成膜装置1aでは、成膜速度を高めようとして、陽極11から基材Bに流れる電流密度を4.8A/dm
2以上にすると、上ケーシング15の側壁部15bからの電気力線Eの影響により、面均性が低下しやすい。しかしながら、本実施形態では、基材Bの成膜領域と上ケーシング15の側壁部15bとの間に十分な距離が設けられているため、このような成膜条件であっても金属皮膜の面均性を確保することができる。
【0030】
次いで、本発明の別の実施の形態について説明する。
図5は、本発明の別の実施形態に係る金属皮膜の成膜装置100の模式的断面図である。成膜装置100は、上述した成膜装置1に対して、第1接続ピン18及び第2接続ピン19の構成、上ケーシング15及び下ケーシング21の材料、並びに、上ケーシング15の側壁部15bの構成のうち少なくとも一つが異なる。以下、上述の成膜装置1と同じ又は類似する機能を有する構成については、成膜装置1と同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分について説明する。
【0031】
別の実施形態に係る成膜装置100において、陽極11は、導通性の材料(例えば金属)から成る第1接続ピン18に接続され、第1接続ピン18は、同様に導通性の材料(例えば金属)から成る第2接続ピン19に接続されている。第2接続ピン19は、上ケーシング15の天井壁部15aを上下方向に貫通して延びている。また、電源部14の正極は、正極側導線14bを介して第2接続ピン19に接続されている。これにより、陽極11は、第1接続ピン18、第2接続ピン19、及び、正極側導線14bを介して、電源部14の正極に電気的に接続されている。そして、第1接続ピン18及び第2接続ピン19の各々は、その外周を絶縁処理されている。
【0032】
また、別の実施形態に係る成膜装置100において、上ケーシング15及び下ケーシング21の各々は、例えば樹脂等の非導通性の材料から形成されている。さらに、成膜装置100において、上ケーシング15の側壁部15bは、内側面15b1を絶縁セラミックスコーティング(例えば、コールドスプレー法、溶射、パシベート処理等)して形成されている。
【0033】
このように、別の実施形態に係る成膜装置100では、第1接続ピン18及び第2接続ピン19の各々の外周が絶縁処理されており、上ケーシング15及び下ケーシング21の各々が樹脂等の非導通性の材料から形成されており、上ケーシング15の側壁部15bにおける内側面15b1が絶縁セラミックスコーティングされている。このため、上ケーシング15の側壁部15bがプラスに帯電することが抑制される。したがって、成膜装置100において、陽極11と基材Bとの間に電圧を印加して金属皮膜Fを基材Bの表面に成膜する場合、基材Bの表面に対する上ケーシング15の側壁部15bからの電気力線の影響が抑制される。よって、面均性が向上した金属皮膜Fを基材Bに形成することができる。
【実施例】
【0034】
本発明を以下の実施例により説明する。
表面に成膜する基材として、ガラス繊維製の布を重ねたものにエポキシ樹脂を含侵させて成るガラスエポキシ基板(FR-4)を10cm×10cmのサイズで準備した。このガラスエポキシ基板の表面には銅箔が形成されている。
【0035】
次に、
図1に示す本実施形態に係る成膜装置1を用いて銅皮膜を成膜した。電解液には、株式会社JCU製の硫酸銅水溶液(Cu-BRITE-SED)を用い、陽極にはCu板を使用した。成膜条件としては、陽極及び陰極となる基材の極間距離を2mm、電解液の温度を42℃として、厚さ8μmの固体電解質膜(ナフィオン(デュポン社製))を基材に密着させ、電解液の液圧0.6MPa、電流密度7A/dm
2、成膜面積100cm
2、累積成膜時間388秒で、銅皮膜を成膜した。なお、本実施例では、上述した成膜条件を維持しつつ、陽極の外側面と側壁部の内側面との間の距離Dを7.2mm、10mm、58mm、68mmに変更して銅皮膜を成膜した。
【0036】
<面均性の確認>
上述のようにして成膜された基材に対し、
図6に示すように9か所の膜厚を計測した。
図6は、本発明の実施例における基材Bの膜厚測定位置を示す模式的平面図であり、具体的には、
図6に示す9か所を各3回、膜厚計を用いて銅皮膜の膜厚を計測し、それぞれの基材の面均性を「(最大膜厚-最小膜厚)/平均値」の式によって求めた。なお、評価に関しては、PCBにて要求される面均性(±15%)を基準に判定した。この結果を表1に示す。
図7は、表1の距離Dを横軸に設定し、面均性を縦軸に設定したグラフであり、
図6の膜厚測定位置に基づいて算出された面均性と、陽極11及び側壁部15bの間の距離との関係を示したグラフである。
【0037】
【0038】
(結果および考察)
表1及び
図7から、距離Dが7.2mmの場合には、陽極の外側面と側壁部の内側面との間の最短距離が短く、基材の成膜領域と上ケーシングの側壁部との間に十分な距離が設けられていないことから、基材Bの成膜領域に対する側壁部15bからの電気力線Eの影響が増加していると考えられる。このため、陽極と基材との間に電圧を印加して金属皮膜を基材の表面に成膜する場合、基材の表面には、陽極からの電気力線の影響を受けて成膜された部分と、陽極だけではなく上ケーシングの側壁部からの電気力線の影響を受けて成膜された部分とが混在していると考えられる。この結果、基準(15%)を超える面均性の金属皮膜が基材に形成されたと考えられる。
【0039】
他方、距離Dが10mm以上、即ち10mm、58mm、及び、68mmの場合には、陽極の外側面と側壁部の内側面との間の最短距離が長く、基材の成膜領域と上ケーシングの側壁部との間に十分な距離が設けられていることから、基材の成膜領域に対する側壁部からの電気力線Eの影響が抑制されていると考えられる。このため、金属皮膜を基材の表面に成膜する場合、基材の表面における、陽極からの電気力線の影響を受けて成膜された部分と、陽極だけではなく上ケーシングの側壁部からの電気力線の影響を受けて成膜された部分との混在が抑制されると考えられる。よって、基準(15%)を充足する面均性の金属皮膜が基材に形成されたと考えられる。
【0040】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に係る成膜装置1、100に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせても良い。例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0041】
1,1a,100:成膜装置、11:陽極、11a:外側面、13:固体電解質膜、14:電源部、14a:負極側導線、14b:正極側導線、15:上ケーシング(液収容部)、15a:天井壁部、15b:側壁部、15b1:内側面、15c:収容凹部、16:供給流路、17:排出流路、18:第1接続ピン、19:第2接続ピン、21:下ケーシング、31:タンク、32:供給管路、34:排出管路、35:圧力調整弁、B:基材、F:金属皮膜、L:電解液、P:ポンプ