(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】車両用シート及びサイドエアバッグの折り畳み方法
(51)【国際特許分類】
B60R 21/237 20060101AFI20241106BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20241106BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B60R21/237
B60R21/207
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2021179710
(22)【出願日】2021-11-02
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 和浩
(72)【発明者】
【氏名】太田 悠登
(72)【発明者】
【氏名】荒井 佑太
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/149576(WO,A1)
【文献】特開2004-175247(JP,A)
【文献】特開2011-001051(JP,A)
【文献】特開2004-131072(JP,A)
【文献】特開2017-081313(JP,A)
【文献】米国特許第05730463(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102011016676(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 - 21/33
B60N 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックのアッパフレームに沿って収納され、側面衝突時にインフレータからのガスの供給を受けてショルダベルトと頭部との間に膨張展開する頭部チャンバを有するサイドエアバッグを備え、
前記頭部チャンバは、シート前後方向の前端部からロール折りの先端をシート外側に巻き込むようにしてロール状に巻く外ロール折りされ、中間部からロール折りの先端をシート内側に巻き込むようにしてロール状に巻く内ロール折りされた状態で収納さ
れ、
前記頭部チャンバの前記中間部は、膨張展開時に前記ショルダベルトと交差する位置の近傍とされている
車両用シート。
【請求項2】
前記頭部チャンバは、シート上下方向の上端部を乗員側に向かって下方に折返し、折り返された下端部を乗員側に向かって上方に折り返した後、シート前後方向の前端部からロール折りされた状態で収納されている、
請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記サイドエアバッグは、前記シートバックのサイドフレームの側方から肩口に沿って収納され、側面衝突時に胴部の側方に膨張展開する胴部チャンバを更に有し、
前記頭部チャンバ及び前記胴部チャンバは、単一のバッグで構成されると共に、シート前後方向の前端部からロール折りされた状態で収納されている、
請求項1又は請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
側面衝突時にインフレータからのガスの供給を受けてショルダベルトと頭部の間に膨張展開する頭部チャンバを有するサイドエアバッグの折り畳み方法であって、
前記頭部チャンバをシート前後方向の前端部から外ロール折りで折り畳んだ後、
膨張展開時に前記ショルダベルトと交差する位置の近傍に配置される中間部から内ロール折りで折り畳む、サイドエアバッグの折り畳み方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドエアバッグを搭載した車両用シート及びサイドエアバッグの折り畳み方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両用シートの背もたれの側部領域から膨張展開する胸部セクションと背もたれの上部領域から膨張展開する頭部セクションとが別々の袋体により構成され、管状の充填セクションを介して互いに接続されたサイドエアバッグが開示されている。このサイドエアバッグでは、頭部セクションがショルダベルトと乗員の頭部との間で膨張展開されるため、側面衝突時に頭部を早期に拘束することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載された技術のように、ショルダベルトと頭部との間に頭部チャンバ(頭部セクション)を膨張展開させるには、頭部チャンバを内ロール折りして収納し、シート内側に向かって膨張展開させることが望ましい。しかしながら、頭部の側方では、頭部チャンバが頭部の側面に向かって展開するため、擦過傷を引き起こす可能性がある。上記先行技術は、この点について考慮されておらず、改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、サイドエアバッグを構成する頭部チャンバの展開性能を良好にすると共に、頭部保護性能を向上させることができるサイドエアバッグを搭載した車両用シート及びサイドエアバッグの折り畳み方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明に係る車両用シートは、シートバックのアッパフレームに沿って収納され、側面衝突時にインフレータからのガスの供給を受けてショルダベルトと頭部との間に膨張展開する頭部チャンバを有するサイドエアバッグを備え、前記頭部チャンバは、シート前後方向の前端部からロール折りの先端をシート外側に巻き込むようにしてロール状に巻く外ロール折りされ、中間部からロール折りの先端をシート内側に巻き込むようにしてロール状に巻く内ロール折りされた状態で収納され、前記頭部チャンバの前記中間部は、膨張展開時に前記ショルダベルトと交差する位置の近傍とされている。
【0007】
請求項1に記載の本発明に係る車両用シートでは、側面衝突時に、インフレータからガスの供給を受けてサイドエアバッグが膨張展開される。サイドエアバッグは、シートバックのアッパフレームに沿って収納された頭部チャンバを有する。この頭部チャンバは、ショルダベルトと頭部との間に膨張展開し、乗員の頭部を早期に拘束する。
【0008】
ここで、頭部チャンバは、シート前後方向の前端部から外ロール折りされ、中間部から内ロール折りされた状態で収納されている。このため、頭部チャンバの膨張展開初期には、ショルダベルトとヘッドレストとの間でシート内側に向かって内ロール折りが解除される。その結果、頭部チャンバのシート前方側への膨張展開がショルダベルトによって損なわれず、頭部チャンバの展開性能を良好にすることができる。その後、頭部チャンバの展開中期には、頭部の側方でシート外側に向かって外ロール折りが解除されるため、頭部チャンバによって頭部の側面が傷つけられることを回避することができ、頭部保護性能が向上する。
【0009】
なお、この場合において、「頭部チャンバをアッパフレームに沿って収納する」とは、頭部チャンバの全部がアッパフレームに沿って収納された場合の他に、頭部チャンバの一部がアッパフレームに沿って収納された場合も含む広い概念である。また、側面衝突時とは、車両に実際に側面衝突が生じたことが検知された場合の他に、車両に側面衝突が生じることが予知された場合も含まれる。
【0010】
さらに、請求項1に記載の本発明に係る車両用シートは、前記頭部チャンバの前記中間部は、膨張展開時に前記ショルダベルトと交差する位置の近傍とされている。
【0011】
請求項1に記載の本発明に係る車両用シートでは、頭部チャンバの中間部は、膨張展開時にショルダベルトと交差する位置の近傍とされている。従って、頭部チャンバでは、シート前方側への膨張展開時に、ショルダベルトを乗り越える位置までは内ロール折りが解除され、ショルダベルトを乗り越えた後に外ロール折りの解除が開始される。その結果、頭部チャンバは、ショルダベルトと干渉する可能性のある領域では、シート内側に向かって膨張展開することで展開スペースを確保できるため、ショルダベルトの乗り越えをより確実にすることができる。
【0012】
請求項2に記載の本発明に係る車両用シートは、請求項1に記載の構成において、前記頭部チャンバは、シート上下方向の上端部を乗員側に向かって下方に折返し、折り返された下端部を乗員側に向かって上方に折り返した後、シート前後方向の前端部からロール折りされた状態で収納されている。
【0013】
請求項2に記載の本発明に係る車両用シートでは、頭部チャンバは、シート上下方向の上端部を乗員側に向かって下方に折返し、折り返された下端部を乗員側に向かって上方に折り返した後、シート前後方向の前端部からロール折りされている。このように、頭部チャンバの上端部を乗員側に向かって蛇腹状に二回折り返すことにより、頭部チャンバの膨張展開時には、ロール折りが解除されると同時にシート上方且つシート内側に向かって蛇腹折りが解除される。その結果、頭部チャンバがシート上方側に展開してショルダベルトを乗り越える際に、ショルダベルトとヘッドレストとの間に展開スペースを良好に確保することができるため、頭部チャンバのシート前方側への展開が容易になる。
【0014】
請求項3に記載の本発明に係る車両用シートは、請求項1又は請求項2に記載の構成において、前記サイドエアバッグは、前記シートバックのサイドフレームの側方から肩口に沿って収納され、側面衝突時に胴部の側方に膨張展開する胴部チャンバを更に有し、前記頭部チャンバ及び前記胴部チャンバは、単一のバッグで構成されると共に、シート前後方向の前端部からロール折りされた状態で収納されている。
【0015】
請求項3に記載の本発明に係る車両用シートでは、サイドエアバッグは、車両の側面衝突時に、乗員の胴部の側方に膨張展開して胴部を拘束する胴部チャンバを有している。この胴部チャンバは、頭部チャンバと共に単一のバッグで構成されることにより、シートバックのサイドフレームの側方から肩口に沿って収納されている。このように、サイドエアバッグは、頭部チャンバと胴部チャンバとを単一のバッグで構成することにより、サイドフレームの側部から肩口を経てアッパフレームに沿って収容可能となり、取り付けが容易である。また、頭部チャンバと胴部チャンバを含むサイドエアバッグ全体をシート前後方向の前端部からロール折りして折り畳むことができるため、収納時の形態に折り畳む際に必要な工程を少なくすることができ、製造が容易である。
【0016】
請求項4に記載の本発明に係るサイドエアバッグの折り畳み方法は、側面衝突時にインフレータからのガスの供給を受けてショルダベルトと頭部の間に膨張展開する頭部チャンバを有するサイドエアバッグの折り畳み方法であって、前記頭部チャンバをシート前後方向の前端部から外ロール折りで折り畳んだ後、膨張展開時に前記ショルダベルトと交差する位置の近傍に配置される中間部から内ロール折りで折り畳む。
【0017】
請求項4に記載の本発明に係るサイドエアバッグの折り畳み方法では、上述したように、サイドエアバッグを構成する頭部チャンバの展開性能を良好にすると共に、頭部保護性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明に係る車両用シート及びサイドエアバッグの折り畳み方法では、サイドエアバッグを構成する頭部チャンバの展開性能を良好にすると共に、頭部保護性能を向上させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る車両用シートを示す正面図であり、サイドエアバッグが膨張展開した状態を示す。
【
図2】本実施形態に係る車両用シートを一部切り欠いて示す正面図であり、サイドエアバッグが収納された状態を示す。
【
図3】本実施形態に係るサイドエアバッグが膨張展開した状態を拡大して示す側面図である。
【
図4】本実施形態に係るサイドエアバッグの折り畳み方法を説明するための頭部チャンバの拡大側面図であり、(A)には、頭部チャンバのシート上下方向の上端部を乗員側に向かって下方に折返す工程が示されており、(B)には、折り返された下端部を乗員側に向かって上方に折り返す工程が示されており、(C)には、
図4(A)及び
図4(B)の工程が完了した状態の頭部チャンバが示されている。
【
図5】本実施形態に係るサイドエアバッグの折り畳み方法を説明するための図であり、(A)には、頭部チャンバ及び胴部チャンバが、シート前後方向の前端部から外ロール折りされる工程の巻き始めが側面図で示されており、(B)には、頭部チャンバが、シート前後方向の前端部から外ロール折りされる工程が拡大断面図で示されており、(C)には、頭部チャンバが、シート前後方向の中間部から内ロール折りされる工程が拡大平断面図で示されており、(D)には、
図5(A)~
図5(C)の工程が完了した状態の頭部チャンバが拡大平断面図で示されている。
【
図6】本実施形態に係るサイドエアバッグの膨張展開時の挙動を説明するための車両用シートの平面図であり、(A)には、膨張展開初期の挙動が示されており、(B)には、膨張展開中期の挙動が示されており、(C)には、膨張展開後期の挙動が示されている。
【
図7】本実施形態に係るサイドエアバッグの膨張展開時の挙動を説明するための車両用シートの部分背面図であり、(A)には、膨張展開初期の挙動を示されており、(B)には、膨張展開中期の挙動が示されており、(C)には、膨張展開後期の挙動が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1~
図7を参照して、本実施形態に係るサイドエアバッグ装置10を搭載した車両用シート14について説明する。なお、各図の矢印FR、矢印UP、矢印LH及び矢印RHはそれぞれ、サイドエアバッグ装置10が搭載された車両用シート14のシート前方側、シート上方側、シート左方側、シート右方側を示している。前後左右上下の方向を用いて説明する場合、特に断りのない限り、シート前後方向の前後、シート幅方向の左右、シート上下方向の上下を示すものとする。
【0021】
また、
図1及び
図7に示す車両用シート14には、実際の乗員の代わりに衝突試験用のダミーPが着座している。ダミーPは、一例として国際統一側面衝突ダミー(World Side Impact Dummy;WorldSID)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。以下の説明において、ダミーを「乗員P」と称する。
【0022】
(車両用シート)
図1及び
図2に示されるように、サイドエアバッグ装置10が搭載された車両用シート14は、シートクッション16、シートバック18及びヘッドレスト20を含んで構成されている。なお、車両用シート14は一例として、車両右側の運転席に配置されており、シート前方と車両前方とが一致した状態となっている。また、シート幅方向の左右と車両幅方向の左右とが一致した状態となっている。
【0023】
シートクッション16は、シート前後方向及びシート幅方向に延在されており、乗員Pの臀部及び大腿部を支持可能に構成されている。シートバック18は、シートクッション16の後端部に回動可能に連結されてシート上下方向に延在されており、乗員Pの背部を支持可能に構成されている。ヘッドレスト20は、シートバック18の上端部に設けられて乗員Pの頭部Hを支持可能に構成されている。
【0024】
(シートベルト装置)
乗員Pは、シートベルト装置24によって車両用シート14に拘束されている。シートベルト装置24は、乗員の上体及び腰部を拘束するウエビング26を含んで構成されている。
【0025】
ウエビング26は、長尺帯状に形成されており、装着された状態で乗員Pの上体をシートバック18に拘束するショルダベルト26Aと、乗員の腰部を拘束するラップベルト26Bとを備えている。ショルダベルト26Aは、乗員Pの右側の肩部から左側の腰部にかけて斜めに延在されている。そして、ショルダベルト26Aの下端部は、タングプレート28に通されている。
【0026】
タングプレート28は、シート左側に設けられたバックル(符号省略)に着脱可能に構成されている。そして、タングプレート28をバックルに装着することで、ウエビング26によって乗員Pが拘束された状態となる。
【0027】
ウエビング26は、タングプレート28に通されて折り返された一端がシート右側へ延在されており、このシート幅方向に延在された部分によってラップベルト26Bが構成されている。このため、ラップベルト26Bの左側端部は、ショルダベルト26Aの下端部に繋がっている。また、ラップベルト26Bの右側端部は、フロアパネル上に設けられた図示しないベルトアンカに固定されている。
【0028】
ショルダベルト26Aの上端部は、車体に設けられた図示しないショルダアンカに巻き掛けられている。また、ウエビング26の端部は、図示しないリトラクタに巻き取られている。
【0029】
(サイドエアバッグ装置)
図2及び
図3に示されるように、サイドエアバッグ装置10は、サイドエアバッグ12と、インフレータ42と、ソック44とを含んで構成されている。
【0030】
サイドエアバッグ12は、シートバック18の内部に収納されており、シートバック18の骨格を構成するシートバックフレーム30に固定されている。
図2においてその一部が示されるように、シートバックフレーム30は、シート前後方向から見て矩形枠状に形成されており、その左右両側部がシート上下方向に延びるサイドフレーム32で構成されている。また、シートバックフレーム30の上端部は、左右のサイドフレーム32の肩口(上端部)に架け渡されるようにして、シート幅方向に延在するアッパフレーム34で構成されている。サイドエアバッグ12は、細長い棒状に折り畳まれた状態で、シート右側に配置されたサイドフレーム32の側部から肩口を経て、アッパフレーム34に沿って収納されている。
【0031】
サイドエアバッグ12は、インフレータ42で発生したガスが供給されることで膨張する。また、サイドエアバッグ12は、膨張圧によってシートバック18のシート幅方向外側の表皮を破断することで乗員Pの身体と車室内の側面との間で膨張展開される。
【0032】
サイドエアバッグ12は、袋体を成す単一のバッグで構成されており、シート上方側の上部を構成する頭部チャンバ12Aと、シート下方側の下部を構成する胴部チャンバ12Bと、を有している。
【0033】
頭部チャンバ12Aは、インフレータ42からのガスの供給を受けてショルダベルト26Aと乗員Pの頭部Hとの間で膨張展開し、頭部Hの側方を覆う構成となっている(
図1参照。)。また、胴部チャンバ12Bは、インフレータ42からのガスの供給を受けて乗員Pの胴部T(肩部から胸部を経て腰部に亘る部位)の側方で膨張展開し、胴部Tの側方を覆う構成となっている。サイドエアバッグ12の詳細な構成については、後述する。
【0034】
インフレータ42は、略円筒形状に形成されたシリンダー型のガス発生装置であり、軸方向がシートバック18のサイドフレーム32に沿った方向とされている。また、インフレータ42の下端部には、ガス噴出部42Aが設けられており、車両の側面衝突が検知又は予知された場合にガス噴出部42Aからガスが発生してサイドエアバッグ12へガスを供給する。
【0035】
なお、
図3に示されるように、インフレータ42は、その一部がサイドエアバッグ12の内部に配置されている。インフレータ42は、サイドエアバッグ12の内部に配置された外面からシート幅方向内側へ延出されたスタッドボルト48を有しており、スタッドボルト48をサイドフレーム32の取付孔に挿通させ、ナットで締めることにより、サイドエアバッグ12の基布50と共にサイドフレーム32に固定されている。
【0036】
サイドエアバッグ12の内部には、更に、布材から成るソック44が設けられている。なお、ソック44は、ダクト、インナチューブ、整流布、ディフューザともいう。
【0037】
ソック44は、上下端部が開放された略筒状に形成されており、頭部チャンバ12Aから胴部チャンバ12Bまでシート上下方向に延在されている。ソック44の後端部には、袋状のインフレータ挿入部46が一体に設けられており、インフレータ挿入部46を介してインフレータ42のガス噴出部42Aとソック44の内部とが連通されている。このため、インフレータ42から供給されるガスは、ソック44を通じて頭部チャンバ12A及び胴部チャンバ12Bへ流れるように構成されている。
【0038】
(サイドエアバッグ)
以下、サイドエアバッグ12の詳細な構成について説明する。サイドエアバッグ12は、例えばナイロン系又はポリエステル系の布材から成る二枚の基布50をシート幅方向に配設し、外周部を縫製することによって袋状に形成されている。
図3には、基布50の外周部を縫製する縫製部が符号「S1」で示されている。
【0039】
サイドエアバッグ12の上部は、膨張展開時に乗員Pの頭部Hの側方を覆う頭部チャンバ12Aとなっている。この頭部チャンバ12Aは、シート幅方向から見て、シート下方側に向かって切れ目部分が配置された略C字状に形成されている。頭部チャンバ12Aの後端部には、帯状の支持ベルト52が縫製されている。この支持ベルト52の一端は、ヘッドレスト20の骨格を構成するステー36(
図2参照)に取り付けられており、これにより、頭部チャンバ12Aの膨張展開時の挙動を安定させている。
【0040】
サイドエアバッグ12の下部は、膨張展開時に乗員の胴部Tの側方を覆う胴部チャンバ12Bとなっている。この胴部チャンバ12Bは、シート幅方向から見て、下膨れした雫状に形成されており、シートバック18に沿って上下方向に延在している。
【0041】
(サイドエアバッグの折り畳み方)
上記構成のサイドエアバッグ12は、上述したように、細長い棒状に折り畳まれた状態で、シートバック18の骨格に沿って収納されている。以下、
図4及び
図5を参照して、サイドエアバッグ12の折り畳み方について説明する。なお、
図4及び
図5においては、サイドエアバッグ12の縫製部S1を省略して図示している。
【0042】
本実施形態に係るサイドエアバッグ12の折り畳み方は、大別して、頭部チャンバ12Aをシート上下方向に折り返す第1工程と、第1工程の完了後に、サイドエアバッグ12を、そのシート前後方向の前端部からロール折りする第2工程とを有している。
【0043】
図4(A)~
図4(C)を参照して、第1工程について説明する。なお、
図4(A)及び
図4(B)では、各工程における頭部チャンバ12Aの折返し線が二点鎖線で示されている。
【0044】
図4(A)に示されるように、第1工程では先ず、頭部チャンバ12Aのシート上下方向の上端部を乗員P側(シート内側)に向かって下方に折り返す。この工程により、折り返す前に頭部チャンバ12Aの上端部であった部位が、折り返されて下端部となる。
【0045】
次いで、
図4(B)に示されるように、折り返された下端部を乗員P側に向かって上方に折り返す。
【0046】
以上の工程によって、頭部チャンバ12Aはシート上下方向に複数回(本実施形態では二回)折り返されることで蛇腹折りされた状態となり、
図4(C)に示されるように、折り畳んだ状態の上下幅が小さくなる。これにより、第1工程が完了する。
【0047】
図5(A)~
図5(D)を参照して、第2工程について説明する。この第2工程では、細長い棒状の巻き軸棒40に基布50を巻き付けることによりサイドエアバッグ12をロール折りする。
【0048】
図5(A)に示されるように、第2工程では先ず、略シート上下方向を軸方向とする姿勢の巻き軸棒40をセットし、サイドエアバッグ12のシート前後方向の前端部から後端部に向かってサイドエアバッグ12の基布50を外ロール折りする。
【0049】
なお、外ロール折りとは、ロール折りの先端をシート外側(乗員Pと対向するシート内側に対し反対側)に巻き込むようにしてロール状に巻く折り畳み方法である。
【0050】
図5(B)には、頭部チャンバ12Aを、シート前後方向の前端部から外ロール折りする様子が拡大平面図で示されている。この工程では、頭部チャンバ12Aと胴部チャンバ12Bを含むサイドエアバッグ12全体が外ロール折りされる。
【0051】
次いで、頭部チャンバ12Aの外ロール折りがシート前後方向の中間部M1まで完了すると、
図5(C)に示されるように、頭部チャンバ12Aのみ、中間部M1から後端部に向かって内ロール折りされる。従って、胴部チャンバ12Bは、シート前後方向の前端部から後端部まで外ロール折りされている。この中間部M1は、一例として、膨張展開時に、頭部チャンバ12Aがショルダベルト26Aと交差する位置の近傍となっている。
【0052】
なお、内ロール折りとは、ロール折りの先端をシート内側に巻き込むようにしてロール状に巻く(ロール折りする)折り畳み方法である。また、「頭部チャンバ12Aがショルダベルト26Aと交差する位置の近傍」には、頭部チャンバ12Aがショルダベルト26Aと交差する位置の他に、頭部チャンバ12Aがショルダベルト26Aと交差する位置のシート前方側及びシート後方側の位置が含まれている。
【0053】
以上の工程によって、
図5(D)に示されるように、頭部チャンバ12Aは、巻き終わりとなるシート前後方向の後端部が内ロール折りされた状態となる。これにより、第2工程が完了する。
【0054】
第1工程及び第2工程を経て折り畳まれたサイドエアバッグ12は、細長い棒状の形態となる。そして、
図2に示されるように、シートバック18に収納された状態では、頭部チャンバ12Aがシートバックフレーム30のアッパフレーム34に沿って収納されており、胴部チャンバ12Bが、サイドフレーム32の側部から肩口に沿って収納されている。
【0055】
なお、頭部チャンバ12Aは、上述した第1工程により、上下幅が小さく設定されているため、先端(上端部)がヘッドレスト20のステー36よりもシート外側に配置される。即ち、頭部チャンバ12Aは、ヘッドレスト20の骨格と重ならない位置に収納されている。
【0056】
(頭部チャンバの展開挙動)
以下、頭部チャンバ12Aの膨張展開時の挙動について詳細に説明する。先ず、
図6の平面図を参照して、頭部チャンバ12Aの挙動を説明する。
【0057】
サイドエアバッグ12にインフレータ42からのガスが供給されると、シートバック18の上端部の表皮を開裂させてシート前方側へ頭部チャンバ12Aが膨張展開する。この際、頭部チャンバ12Aは、アッパフレーム34に沿ってヘッドレスト20の骨格と重ならない位置に配置されているため、ヘッドレスト20の骨格との干渉を抑制してシート前方側へ展開することができる。
【0058】
図6(A)に示されるように、膨張展開の初期には、頭部チャンバ12Aの後端部に施された内ロール折りが解除される。この際、頭部チャンバ12Aの内ロール折りは、ショルダベルト26Aとヘッドレスト20との間でシート内側に向かって解除される。従って、頭部チャンバ12Aは、ショルダベルト26Aとの干渉を抑制してシート前方側へ展開することができる。
【0059】
図6(B)に示されるように、膨張展開の中期には、頭部チャンバ12Aがショルダベルト26Aを乗り越えると共に、頭部チャンバ12Aの中間部M1から前端部に施された外ロール折りが解除される(
図6(C))。この際、頭部チャンバ12Aは、乗員Pの頭部Hの側方で膨張展開するが、シート外側に向かって外ロール折りが解除されるため、頭部チャンバ12Aとの摩擦によって頭部Hの側面に擦過傷を生じさせることを回避することができる。
【0060】
次に、
図7の部分背面図を参照して、頭部チャンバ12Aの挙動を説明する。
図7(A)~
図7(C)に示されるように、頭部チャンバ12Aの膨張展開時には、ロール折りが解除されると同時に、頭部チャンバ12Aをシート上下方向に折り返して形成した蛇腹折りが解除される。この蛇腹折りが解除されると、頭部チャンバ12Aの上端部がシート上方側に展開し、ショルダベルト26Aを容易に乗り越えることができる。
【0061】
更に、本実施形態では、頭部チャンバ12Aが、乗員P側に向かってシート上下方向に折り返されているため、シート上方側且つシート内側に向かって蛇腹折りが解除される。従って、ショルダベルト26Aとヘッドレスト20との間に頭部チャンバ12Aの展開スペースを良好に確保することができる。
【0062】
なお、頭部チャンバ12Aの上端部をシート下方に一回折り返して収納した場合でも、頭部チャンバ12Aをシート上方側へ迅速に展開させる一定の効果を得ることはできる。但し、本実施形態のように二回折り畳むことにより、展開時における頭部チャンバ12Aのシート幅方向への揺動を少なくすることができるため、シート上方側への展開性を高めることができる。
【0063】
(作用並びに効果)
以上説明したように、本実施形態の車両用シート14では、側面衝突時に、インフレータ42からガスの供給を受けてサイドエアバッグ12が膨張展開される。このサイドエアバッグ12は、シートバック18のアッパフレーム34に沿って収納された頭部チャンバ12Aを有している。頭部チャンバ12Aは、ショルダベルト26Aと頭部Hとの間に膨張展開し、乗員Pの頭部Hを早期に拘束する。
【0064】
ここで、本実施形態では、頭部チャンバ12Aは、シート前後方向の前端部から外ロール折りされ、シート前後方向の中間部M1から内ロール折りされた状態で収納されている。このため、頭部チャンバ12Aの膨張展開初期には、ショルダベルト26Aとヘッドレスト20との間でシート内側に向かって内ロール折りが解除される。その結果、頭部チャンバ12Aのシート前方側への膨張展開がショルダベルト26Aによって損なわれず、頭部チャンバ12Aの展開性能を良好にすることができる。その後、頭部チャンバ12Aの展開中期には、頭部Hの側方でシート外側に向かって外ロール折りが解除される。これにより、頭部チャンバ12Aによって頭部Hの側面が傷つけられることを回避することができ、頭部保護性能が向上させることができる。
【0065】
更に、頭部チャンバ12Aの中間部M1は、膨張展開時にショルダベルト26Aと交差する位置の近傍とされている。従って、頭部チャンバ12Aでは、シート前方側への膨張展開時に、ショルダベルト26Aを乗り越える位置までは内ロール折りが解除され、ショルダベルトを乗り越えた後に外ロール折りの解除が開始される。その結果、ショルダベルト26Aと干渉する可能性のある領域では、頭部チャンバ12Aは、シート内側に向かって膨張展開することで展開スペースを確保でき、これにより、ショルダベルト26Aの乗り越えをより確実にすることができる。
【0066】
更にまた、頭部チャンバ12Aは、シート上下方向に折り返して上下幅を小さくした後、シート前後方向の前端部からロール折りされた状態で収納されている。従って、アッパフレーム34に沿って頭部チャンバ12Aを収納した際に、ヘッドレスト20の骨格と重ならない位置に収納することができる。その結果、頭部チャンバ12Aのシート前方側への膨張展開がヘッドレスト20によって損なわれず、頭部チャンバ12Aの展開性能が向上する。
【0067】
また、頭部チャンバ12Aは、シート上下方向の上端部を乗員P側に向かって下方に折返し、折り返された下端部を乗員P側に向かって上方に折り返されており、シート上下方向への折返しが蛇腹折りとなっている。従って、頭部チャンバ12Aの膨張展開時の初期には、シート上方側且つシート内側に向かって蛇腹折りが解除されるため、頭部チャンバ12Aがシート上方側に展開してショルダベルト26Aを乗り越えることができる。更に、シート内側に向かって展開することでショルダベルト26Aとヘッドレスト20との間に展開スペースを確保することができる。このようにして、頭部チャンバ12Aのシート前方側への膨張展開がショルダベルト26Aによって損なわれず、頭部チャンバ12Aの展開性能が向上する。
【0068】
また、本実施形態では、サイドエアバッグ12は、車両の側面衝突時に、乗員Pの胴部Tの側方に膨張展開する胴部チャンバ12Bを有している。この胴部チャンバ12Bは、頭部チャンバ12Aと共に単一のバッグで構成されることにより、シートバック18のサイドフレーム32の側方から肩口に沿って収納されている。このように、サイドエアバッグ12は、頭部チャンバ12Aと胴部チャンバ12Bとを単一のバッグで構成することにより、サイドフレーム32の側部から肩口を経てアッパフレーム34に沿って収容可能となり、取り付けが容易である。また、頭部チャンバ12Aと胴部チャンバ12Bを含むサイドエアバッグ12全体がシート前後方向の前端部からロール折りして折り畳まれているため、収納時の形態に折り畳む際に必要な工程を少なくすることができ、容易に製造できる。
[補足説明]
【0069】
以上、本発明の実施形態に係る車両用シート10について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0070】
また、上記実施形態では、サイドエアバッグ12が乗員Pの身体の車両幅方向外側の側方から膨張展開する構成としたが、これに限らない。サイドエアバッグ12が、乗員Pの身体の車両幅方向内側(車両中央側)の側方から膨張展開する構成としてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、サイドエアバッグ装置10を車両の前席に搭載したが、本発明はこれに限らず、車両の後席にサイドエアバッグ装置10を搭載してもよい。
【符号の説明】
【0072】
12 サイドエアバッグ
12A 頭部チャンバ
12B 胴部チャンバ
14 車両用シート
18 シートバック
26A ショルダベルト
32 サイドフレーム
34 アッパフレーム
42 インフレータ
M1 中間部(頭部チャンバのシート前方向の中間部)
P 乗員
H 頭部