IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許-EGRクーラ及びEGRクーラシステム 図1
  • 特許-EGRクーラ及びEGRクーラシステム 図2
  • 特許-EGRクーラ及びEGRクーラシステム 図3
  • 特許-EGRクーラ及びEGRクーラシステム 図4
  • 特許-EGRクーラ及びEGRクーラシステム 図5
  • 特許-EGRクーラ及びEGRクーラシステム 図6
  • 特許-EGRクーラ及びEGRクーラシステム 図7
  • 特許-EGRクーラ及びEGRクーラシステム 図8
  • 特許-EGRクーラ及びEGRクーラシステム 図9
  • 特許-EGRクーラ及びEGRクーラシステム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】EGRクーラ及びEGRクーラシステム
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/29 20160101AFI20241106BHJP
   F02M 26/50 20160101ALI20241106BHJP
   F28D 11/04 20060101ALI20241106BHJP
   F28G 3/14 20060101ALI20241106BHJP
   F28F 1/22 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
F02M26/29 311
F02M26/50 301
F28D11/04
F28G3/14
F28F1/22 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021190971
(22)【出願日】2021-11-25
(65)【公開番号】P2023077627
(43)【公開日】2023-06-06
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒田 洋平
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-94545(JP,A)
【文献】特開2001-133196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/22 , 26/50
F28D 11/00
F28G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のEGRシステムにおけるEGR配管に接続され、前記EGR配管の上流側から流入したEGRガスを、温度を低下させて前記EGR配管の下流側へ吐出するEGRクーラであって、
前記EGRクーラは、
ケースと、
前記ケースに収容された熱交換器と、
電動モータと、
を有しており、
前記熱交換器は、
前記電動モータの回転によって回転する回転軸部材と、
前記回転軸部材から径方向外側に向かって延びるフィンと、
前記フィンにおける径方向外側の端部に設けられたストッパと、
前記フィンが貫通して前記フィンに沿って径方向外側と内側との間を往復移動可能とされた摺動部と、
を有する、
EGRクーラ。
【請求項2】
請求項1に記載のEGRクーラと、制御装置と、を有するEGRクーラシステムであって、
前記EGRクーラは、前記熱交換器の前記回転軸部材が略水平になるように前記EGR配管に接続され、
前記制御装置は、
前記電動モータを、前記内燃機関の停止後に所定期間回転させる、
EGRクーラシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のEGRクーラシステムであって、
前記制御装置は、前記電動モータを回転させる回転モードとして、回転の際に前記回転軸部材の上に達した前記フィンの前記摺動部に働く遠心力よりも前記摺動部に働く重力のほうが大きくなる低速回転モードを有する、
EGRクーラシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のEGRクーラシステムであって、
前記制御装置は、前記回転モードとして、回転の際に前記回転軸部材の上に達した前記フィンの前記摺動部に働く遠心力よりも前記摺動部に働く重力のほうが小さくなる高速回転モードを有する、
EGRクーラシステム。
【請求項5】
請求項4に記載のEGRクーラシステムであって、
前記フィンは、平板状であり、前記平板状の面が前記回転軸部材の中心軸線に対して平行となるように設けられており、
前記制御装置は、
前記高速回転モードと前記低速回転モードを含む1セットを一方方向の回転で少なくとも一回実行し、前記1セットを前記一方方向の回転とは逆方向の回転で少なくとも一回実行する、
EGRクーラシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動的に洗浄作業を行ってメンテナンスフリーを実現するEGRクーラ及びEGRクーラシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
EGRシステムにおいては、排気ガスをEGRクーラにより冷却したうえで吸気システムに戻すクールドEGRが知られている。クールドEGRでは、ホットEGRに比較して内燃機関の燃焼温度をより低下させ、更なるNOx低減が期待できる。その反面、使用時間とともにEGRクーラにおける熱交換器にデポジットが堆積して熱交換効率が低下するため、EGRクーラに対するメンテナンス(洗浄作業)が必要になる。
【0003】
EGRクーラに対するメンテナンスとしては、作業者が堆積してしまったデポジットを洗浄によって物理的に取り除くことがある。具体的には、EGR配管からEGRクーラを取り外したうえで洗浄し、洗浄後にEGRクーラを付け直すという作業が行われる。このような作業は多大な労力と時間を要し、従来、メンテナンスを容易にする技術が考案されている。
【0004】
例えば特許文献1では、排気ガスを吸気側へ再循環させる経路途中に洗浄器具の挿入口を設けたEGRクーラが開示されている。洗浄具挿入口から洗浄具を挿入することができるので、EGRクーラを取り付けた状態のまま洗浄作業を行うことを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-39019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引用文献1に記載の技術では、EGRクーラの着脱が不要となるのでメンテナンスが容易となり、その労力と時間が軽減されるものの、洗浄作業については作業者が実行しなければならない。洗浄作業自体が不要であり、EGRクーラをメンテナンスフリーとする技術が求められている。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、洗浄作業を不要としメンテナンスフリーを実現するEGRクーラを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本発明の第1の発明は、内燃機関のEGRシステムにおけるEGR配管に接続され、前記EGR配管の上流側から流入したEGRガスを、温度を低下させて前記EGR配管の下流側へ吐出するEGRクーラであって、前記EGRクーラは、ケースと、前記ケースに収容された熱交換器と、電動モータと、を有しており、前記熱交換器は、前記電動モータの回転によって回転する回転軸部材と、前記回転軸部材から径方向外側に向かって延びるフィンと、前記フィンにおける径方向外側の端部に設けられたストッパと、前記フィンが貫通して前記フィンに沿って径方向外側と内側との間を往復移動可能とされた摺動部と、を有する、EGRクーラである。
【0009】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係るEGRクーラと、制御装置と、を有するEGRクーラシステムであって、前記EGRクーラは、前記熱交換器の前記回転軸部材が略水平になるように前記EGR配管に接続され、前記制御装置は、前記電動モータを、内燃機関の停止後に所定期間回転させる、EGRクーラシステムである。
【0010】
次に、本発明の第3の発明は、上記第2の発明に係るEGRクーラシステムであって、前記制御装置は、前記電動モータを回転させる回転モードとして、回転の際に前記回転軸部材の上に達した前記フィンの前記摺動部に働く遠心力よりも前記摺動部に働く重力のほうが大きくなる低速回転モードを有する、EGRクーラシステムである。
【0011】
次に、本発明の第4の発明は、上記第3の発明に係るEGRクーラシステムであって、前記制御装置は、前記回転モードとして、回転の際に前記回転軸部材の上に達した前記フィンの前記摺動部に働く遠心力よりも前記摺動部に働く重力のほうが小さくなる高速回転モードを有する、EGRクーラシステムである。
【0012】
次に、本発明の第5の発明は、上記第4の発明に係るEGRクーラシステムであって、前記フィンは、平板状であり、前記平板状の面が前記回転軸部材の中心軸線に対して平行となるように設けられており、前記制御装置は、前記高速回転モードと前記低速回転モードを含む1セットを一方方向の回転で少なくとも一回実行し、前記1セットを前記一方方向の回転とは逆方向の回転で少なくとも一回実行する、EGRクーラシステムである。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、EGRクーラを熱交換器の回転軸部材が略水平になるように配置し、熱交換器を電動モータによって回転させれば、摺動部に遠心力と重力が作用し、遠心力と重力のバランスにより摺動部をフィンに沿って往復移動させることができる。そして、摺動部が摺動するたびに、フィンの表面に付着したデポジットが削ぎ落とされる。したがって、フィンに対してデポジットが堆積することがなくなり、EGRクーラの洗浄作業を不要とすることが可能となる。
【0014】
第2の発明によれば、内燃機関の動作中は摺動部に対しEGRガスの風圧や車両の振動等が影響するが、停止中であれば摺動部に作用するのは遠心力と重力のみであり、これらのバランスだけ考慮すればよい。したがって、摺動部をフィンに沿って確実に往復移動させることができる。
【0015】
第3の発明によれば、重力を利用して、回転角度に応じて摺動部を往復移動させることができる。また、電動モータを高速に回転させる場合に比較して、低電力で摺動部を往復移動させることができる。また、電動モータを一定の速度で回転させ続ければ良く、電動モータの制御を簡易なものとすることができる。
【0016】
第4の発明によれば、より大きな遠心力を作用させることによって、自重で落ちるスピードよりも速いスピードで摺動部を動かすことができるので、自重で落ちるスピードでは削ぎ落とせないデポジットも削ぎ落すことができる。
【0017】
第5の発明によれば、一方方向の回転では平板状のフィンにおける両面のうち片方の面に付着したデポジットが、逆方向の回転ではもう一方の面に付着したデポジットがより削ぎ落される。その結果、フィンの両面について偏りなくデポジットを削ぎ落すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係るEGRクーラシステムを有する内燃機関システムの概略構成を示す図である。
図2】本実施形態に係るEGRクーラの概略構成を示す図である。
図3】本実施形態に係るEGRクーラにおける熱交換器の斜視図である。
図4図2に示すEGRクーラにおける冷却水経路を説明するための図であり、接続ノズルを接続した状態を示す図である。
図5図4に示すEGRクーラにおいて接続ノズルを分離した状態を示す図である。
図6】[全体処理]の処理手順の例を説明するフローチャートである。
図7】[洗浄処理]の処理手順の例を説明するフローチャートである。
図8】高速回転モードにおいて遠心力>重力となることによる摺動部の運動(径方向外側への移動)を説明するための図である。
図9】低速回転モードにおいて遠心力<重力となることによる摺動部の運動(径方向内側への移動)を説明するための図である。
図10】低速回転モードにおいて摺動部がストッパ側に落ちる運動(径方向外側への移動)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
●[内燃機関システムの概略構成の例(図1)]
以下に本発明を実施するための形態を、図面を用いて説明する。まず図1を用いて、本発明に係るEGRクーラシステム10を有する内燃機関システム20の概略構成の例について説明する。本実施の形態の説明では、圧縮自己着火式燃機関の例として、車両に搭載された内燃機関21(例えばディーゼルエンジン)を用いて説明する。
【0020】
内燃機関21には、吸気管22と排気管23が接続されている。吸気管22には、過給機24のコンプレッサ24aが配置されており、コンプレッサ24aにより吸気が圧縮され、内燃機関21に圧送される。排気管23には、過給機24のタービン24bや浄化装置25が配置されており、内燃機関21から排出された排気ガスは、タービン24bを回転駆動した後、浄化装置25によって浄化され外気へと排出される。内燃機関21には、回転センサ28が設けられており、内燃機関21のクランクシャフトの回転角度に応じた検出信号を制御装置30に出力する。なお、内燃機関システム20においては、その他種々の検出装置やアクチュエータが設けられているが、適宜省略している。
【0021】
EGRクーラシステム10は、EGRクーラ11と、制御装置30と、を有する。排気管23には、EGR配管26の流入側が接続されている。EGR配管26は、排気管23と吸気管22とを連通し、排気管23を流れる排気ガスの一部を吸気管22に還流させることが可能である。EGR配管26には、EGRクーラ11、EGR弁27が配置されている。吸気管22には、EGR配管26の流出側が接続されている。EGRクーラ11は、ケース12にてEGR配管26と接続されており、ケース12内に熱交換器1と電動モータ13が収容されている。熱交換器1には、冷却水配管14が接続されており、ポンプ15によって冷却水が供給される。電動モータ13は、制御装置30からの電動モータ制御信号に基づいて、熱交換器1の回転軸部材2(図2参照、回転軸部材2のもう一方の端部は回転軸部材軸受16で支持されている)に回転を伝える。EGR弁27は、制御装置30からの制御信号に基づいて、EGR配管26の開度を調整することで、EGR配管26内を流れるEGRガスの流量を調整する。着脱アクチュエータ17は、制御装置30からの着脱アクチュエータ制御信号に基づいて、冷却水配管14の接続ノズル14a(図4図5参照)を動かす。
【0022】
制御装置30は、CPU、RAM、ROM、タイマ等を有している。制御装置30は、イグニッションスイッチ29からの制御信号を受け取り、内燃機関21の始動や各種電気系統の制御を行う。制御装置30は、上述した種々の検出装置からの検出信号を取り込み、上述した種々のアクチュエータへの制御信号を出力する。なお、制御装置30の入出力は、上記の検出装置やアクチュエータに限定されるものではない。
【0023】
●[EGRクーラの概要(図2)]
図2は、本実施形態に係るEGRクーラの概略構成を示す図である。EGRクーラ11は、ケース12と、熱交換器1と、電動モータ13と、回転軸部材軸受16と、を有している。ケース12は、例えば大径円筒部12aと小径円筒部12b、12cからなり、大径円筒部12aの両端に対し小径円筒部12b、12cが接合された形状を有する。EGR配管26は、ケース12における小径円筒部12b、12cに接続されている。
【0024】
ケース12における大径円筒部12aには、熱交換器1が収容されている。冷却水配管14は、大径円筒部12aの内部まで延長され、接続ノズル14aを介して熱交換器1と接続されるように配置されている。ポンプ15によって冷却水配管14に吐出された冷却水は、熱交換器1の冷却水経路を形成する水路形成ユニット3(スリーブ部3a、パイプ部3b)に供給される。ケース12におけるEGRガス流出側の小径円筒部12cには、電動モータ13が配置されている。ケース12におけるEGRガス流入側の小径円筒部12bには、熱交換器1の回転軸部材軸受16が配置されている。熱交換器1は、回転軸部材2の一方の端部が電動モータ13に接続され、他方の端部が回転軸部材軸受16にて回転可能に支持されており、電動モータ13の回転によって回転する。EGRクーラ11は、熱交換器1の回転軸部材2(図3参照)が略水平になるようにEGR配管26(図1参照)に接続されている。
【0025】
●[熱交換器の構成(図3)]
図3は、本実施形態に係るEGRクーラにおける熱交換器の斜視図である。熱交換器1は、電動モータ13の回転によって回転する回転軸部材2を有する。回転軸部材2は、冷却水経路を形成する水路形成ユニット3に嵌合され固定されている。水路形成ユニット3は、スリーブ部3aと、パイプ部3bとを備える。なお、図3では、説明の便宜上、第1フィン4a内のパイプ部3bのみが現わされているが、他のフィン4b~4dの内部にもパイプ部3bがある。スリーブ部3aは、両端に供給口3cと排出口3eの空間が設けられ、供給口3cと排出口3eの間に嵌合穴3dが設けられている。回転軸部材2は、嵌合穴3dに嵌合され固定されている。供給口3cと排出口3eの径は嵌合穴3dの径よりも大きく設定されている。パイプ部3bは、スリーブ部3aにおける両端の供給口3cと排出口3eを連通するように設けられている。冷却水配管14の接続ノズル14a(図4図5参照)は、着脱アクチュエータ17によって作動し、スリーブ部3aの両端に対して接続されたり(図4参照)、分離されたりする(図5参照)。水路形成ユニット3は、接続ノズル14aがスリーブ部3aから分離された際、回転軸部材2と一体となって、クーラ回転軸線Lを回転軸として回転することができる。なお、内燃機関21の運転中は、接続ノズル14aを接続し冷却水を循環させるので、熱交換器1を回転させることはしない。
【0026】
熱交換器1は、回転軸部材2から径方向外側に向かって延びるフィン4a~4dを有する。フィン4a~4dは、平板状であり、平板状の面が回転軸部材2のクーラ回転軸線Lに対して平行となるように設けられている。フィン4a~4dは、水路形成ユニット3のパイプ部3bに接しつつ、パイプ部3bを取り囲むように形成されている。これにより、温度の高いEGRガスから温度の低い冷却水へ熱を移動させ、熱交換を実現することができる。フィン4a~4dは、水路形成ユニット3のスリーブ部3a周面に対し接合されており、例えば上下左右の4方向に向かって延びて4枚(上方向に延びる第1フィン4a、右方向に延びる第2フィン4b、下方向に延びる第3フィン4c、左方向に延びる第4フィン4d)形成されている。フィンの枚数はこれに限定されるものではない。例えばフィンをさらに4枚追加し、合計8枚のフィンが等間隔に形成されるようにしてもよい。フィン4a~4dにおける径方向外側の端部には、ストッパ5が設けられている。
【0027】
摺動部6は、フィン4a~4dが貫通しており、フィン4a~4dに沿って径方向外側と内側との間を往復移動可能に装着されている。上述したように、熱交換器1の回転軸部材2は、略水平となるように配置されている。そのため、熱交換器1がクーラ回転軸線Lを回転軸として回転する際、フィン4a~4dの摺動部6には遠心力と重力が作用する。制御装置30は、電動モータ13を回転させる回転モードとして、熱交換器1が回転する際に回転軸部材2の上に達したフィン4a~4d(図3では第1フィン4a)の摺動部6に働く遠心力よりも摺動部6に働く重力のほうが大きくなる低速回転モードを有する。摺動部6は、遠心力と重力のバランスにより、フィン4a~4dに沿ってスリーブ部3a周面とストッパ5との間を往復移動する。このような摺動部6の運動により、フィン4a~4dの表面に付着したデポジットが削ぎ落される。また、制御装置30は、低速回転モードのほかに、熱交換器1が回転する際に摺動部6に働く重力よりも回転軸部材2の上に達したフィン4a~4d(図3では第1フィン4a)の摺動部6に働く遠心力のほうが大きくなる高速回転モードを有する。
【0028】
●[冷却水経路の概要(図4図5
図4は、EGRクーラ11において冷却水が流れる経路を説明するための図である。図4では、説明の便宜上、冷却水経路となる冷却水配管14、接続ノズル14a、スリーブ部3a、第1フィン4aと第3フィン4c第1フィン4aと第3フィン4c内のパイプ部3bの断面が示されている。図4に示すように、熱交換器1の冷却水経路は、冷却水配管14の接続ノズル14aが水路形成ユニット3のスリーブ部3aに接続されることで形成される。接続ノズル14aは、着脱アクチュエータ17によって作動する。冷却水は、ポンプ15から吐出された後、冷却水配管14、接続ノズル14aを経て供給口3cに到達する。冷却水は、供給口3cからパイプ部3bに入り込み、排出口3eまで到達すると、接続ノズル14a、冷却水配管14を経て冷却水タンクT(図1参照)に戻る。このような冷却水経路が形成されるのは、内燃機関21の動作中に限られる。制御装置30は、内燃機関21の動作中においては電動モータ13によって熱交換器1を回転させることはない。
【0029】
図5は、接続ノズル14aが分離された状態を示す図である。制御装置30は、着脱アクチュエータ17により接続ノズル14aを分離する前に、ポンプ15による冷却水の吐出を停止して冷却水の吸引(ポンプ15の逆回転)を開始する。このような冷却水経路の水抜きにより、熱交換器1は、電動モータ13による回転が可能な状態となる。
【0030】
●[本実施形態における制御装置30の処理手順(図6図7)]
【0031】
次に、図6に示すフローチャートを用いて、制御装置30の処理の流れを説明する。制御装置30(CPU)は、例えば所定時間間隔(数[ms]~数10[ms]間隔)にて、図6に示す[全体処理]を起動し、ステップS110に処理を進める。
【0032】
ステップS110にて制御装置30は、回転センサ28から取得した内燃機関21のクランクシャフトの回転状況に基づいて、内燃機関21が停止したか否かを判定する。制御装置30は、内燃機関21が停止している場合(Yes)はステップS115へ処理を進め、内燃機関21が停止していない場合(No)はステップS180へ処理を進める。
【0033】
ステップS115へ処理を進めた場合、制御装置30は、ポンプ15を停止して、ステップS120へ処理を進める。
【0034】
ステップS120にて制御装置30は、ポンプ15を逆回転させてポンプ15による吸引を行い、冷却水経路の水抜きをして、ステップS125へ処理を進める。
【0035】
ステップS125にて制御装置30は、着脱アクチュエータ17に制御信号を出力して、水路形成ユニット3のスリーブ部3aから接続ノズル14aを分離して、ステップS130へ処理を進める。
【0036】
ステップS130にて制御装置30は、カウンタを初期化して、ステップS135へ処理を進める。なお、カウンタ値の初期値は0である。
【0037】
ステップS135にて制御装置30は、[洗浄処理]を実行し、ステップS140へ処理を進める。なお、[洗浄処理](図7)の詳細については後述する。
【0038】
ステップS140にて制御装置30は、カウンタ値をインクリメント(+1)し、ステップS145へ処理を進める。
【0039】
ステップS145にて制御装置30は、カウンタ値が3と等しいか否かを判定する。制御装置30は、カウンタ値が3と等しくない場合(No)はステップS135へ処理を進め、カウンタ値が3と等しい場合(Yes)はステップS150へ処理を進める。カウンタ値と比較する数値「3」は、洗浄処理を繰り返す回数を示す。洗浄処理の回数はこれに限定されるものではない。例えば「10」に設定して、より洗浄回数を増やすようにしてもよい。
【0040】
ステップS150にて制御装置30は、電動モータ13の電源をOFFにして、ステップS155へ処理を進める。
【0041】
ステップS155にて制御装置30は、着脱アクチュエータ17によって接続ノズル14aを制御し、接続ノズル14aを水路形成ユニット3のスリーブ部3aに接続して、図6に示す処理を終了する。
【0042】
ステップS180へ処理を進めた場合、制御装置30は、電動モータ13の電源をOFFにして、ステップS185へ処理を進める。
【0043】
ステップS185にて制御装置30は、着脱アクチュエータ17に制御信号を出力して、水路形成ユニット3のスリーブ部3aから接続ノズル14aを接続して、ステップS190へ処理を進める。
【0044】
ステップS190にて制御装置30は、ポンプ15を駆動して、図6に示す処理を終了する。
【0045】
●[洗浄処理(図7)]
次に図7を用いて、図6に示すフローチャートのステップS135の[洗浄処理]の詳細を説明する。制御装置30は、洗浄処理として、高速回転モードと低速回転モードを含む1セットを一方方向の回転で実行し、その1セットを一方方向の回転とは逆方向の回転で実行する。図6に示すフローチャートのステップS135の処理を実行する際、制御装置30は図7に示すステップS210へ処理を進める。
【0046】
ステップS210にて制御装置30は、タイマを初期化してスタートし、ステップS215へ処理を進める。
【0047】
ステップS215にて制御装置30は、電動モータ13を一方方向の回転にて高速回転モードで制御し、ステップS220へ処理を進める。なお、電動モータ13の回転は、熱交換器1の回転軸部材2に伝わり、熱交換器1がクーラ回転軸線Lを回転軸として回転する(図2参照)。制御装置30は、例えば一方方向の回転として、熱交換器1の第1フィン4aが第2フィン4bを追いかけるように電動モータ13を右回転させる。回転速度は、回転の際に回転軸部材2の上に達したフィン4a~4dの摺動部6に働く遠心力よりも摺動部6に働く重力のほうが小さくなる回転速度であり、例えば10回転/秒である。
【0048】
ステップS220にて制御装置30は、第1所定時間が経過したか否かを判定する。制御装置30は、例えば第1所定時間として5秒が経過したか否かを判定する。制御装置30は、第1所定時間が経過していない場合は(No)はステップS215へ処理を進め、引き続き電動モータ13を一方方向の回転(右回転)にて高速回転モードで制御する。第1所定時間が経過した場合(Yes)はステップS225へ処理を進める。
【0049】
ステップS225にて制御装置30は、電動モータ13を一方方向の回転(右回転)にて低速回転モードで制御し、ステップS225へ処理を進める。回転速度は、回転の際に回転軸部材2の上に達したフィン4a~4dの摺動部6に働く遠心力よりも摺動部6に働く重力のほうが大きくなる回転速度であり、例えば1回転/秒である。
【0050】
ステップS230にて制御装置30は、第2所定時間が経過したか否かを判定する。制御装置30は、例えば第2所定時間として30秒が経過したか否かを判定する。制御装置30は、第2所定時間が経過していない場合は(No)はステップS225へ処理を進め、引き続き電動モータ13を一方方向の回転(右回転)にて低速回転モードで制御する。第2所定時間が経過した場合(Yes)はステップS235へ処理を進める。
【0051】
ステップS235にて制御装置30は、電動モータ13を反対方向の回転にて高速回転モードで制御し、ステップS240へ処理を進める。制御装置30は、例えば反対方向の回転として、熱交換器1の第1フィン4aが第4フィン4dを追いかけるように電動モータ13を左回転させる。回転速度は、回転の際に回転軸部材2の上に達したフィン4a~4dの摺動部6に働く遠心力よりも摺動部6に働く重力のほうが小さくなる回転速度であり、例えば10回転/秒である。
【0052】
ステップS240にて制御装置30は、第3所定時間が経過したか否かを判定する。制御装置30は、例えば第1所定時間として5秒が経過したか否かを判定する。制御装置30は、第3所定時間が経過していない場合は(No)はステップS235へ処理を進め、引き続き電動モータ13を反対方向の回転(左回転)にて高速回転モードで制御する。第3所定時間が経過した場合(Yes)はステップS245へ処理を進める。
【0053】
ステップS245にて制御装置30は、電動モータ13を反対方向の回転(左回転)にて低速回転モードで制御し、ステップS250へ処理を進める。回転速度は、回転の際に回転軸部材2の上に達したフィン4a~4dの摺動部6に働く遠心力よりも摺動部6に働く重力のほうが大きくなる回転速度であり、例えば1回転/秒である。
【0054】
ステップS250にて制御装置30は、第4所定時間が経過したか否かを判定する。制御装置30は、例えば第4所定時間として30秒が経過したか否かを判定する。制御装置30は、第4所定時間が経過していない場合は(No)はステップS245へ処理を進め、引き続き電動モータ13を反対方向の回転(左回転)にて低速回転モードで制御する。第4所定時間が経過した場合(Yes)は、図7に示す処理を終了し、図6のステップS140へ処理を戻す。制御装置30は、上述した全体処理にて洗浄処理を3回繰り返している。このような高速回転モードと低速回転モードを含む1セットを右回転と左回転にて実行し、さらに複数回行うことによって、フィン4a~4dの両面について偏りなくデポジットを削ぎ落すことができる。
【0055】
●[摺動部の運動による効果(図8~10)]
図8は、高速回転モードにおいて遠心力>重力となることによる摺動部6の運動(径方向外側への移動)を説明するための図である。図8以降では、第1フィン4aのみに着目して説明する。図8に示すように、右回転で低速回転していた熱交換器1が、例えば第1フィン4aを回転軸部材2の右側に向けた時に、反対方向の左回転の高速回転に切り替わったとする。摺動部6は、自重により第1フィン4aに沿って滑り落ちた結果、回転軸部材2側に位置している(初期状態、回転角度0°)。初期状態から左回転にて熱交換器1が高速回転すると、摺動部6は、遠心力によって一気にストッパ5側(径方向外側への移動)へ移動する。例えば熱交換器1が回転角度90°に至った時、摺動部6は、ストッパ5側へ移動しており、摺動部6に働く重力よりも遠心力のほうが大きい。この際、第1フィン4aの各面に付着したデポジットが摺動部6によって削ぎ落される。このように、より大きな遠心力を作用させることによって、自重で落ちるスピードよりも速いスピードで摺動部6を動かし、摺動部6が自重で落ちるスピードでは削ぎ落とせないデポジットも削ぎ落すことができる。また、摺動部6は、第1フィン4aの左側の面に押さえ付けられながら移動するので、特に、第1フィン4aの左側の面に付着したデポジットが削ぎ落される(逆に、右回転での高速回転モードでは、特に、第1フィン4aの右側の面に付着したデポジットが削ぎ落される)。摺動部6は、それ以降、高速回転が続く限り、常にストッパ5側に張り付いている。
【0056】
図9は、低速回転モードにおいて遠心力<重力となることによる摺動部6の運動(径方向内側への移動)を説明するための図である。図9においても、第1フィン4aのみに着目して説明する。図9に示すように、左回転で高速回転している熱交換器1が、例えば第1フィン4aを再度回転軸部材2の右側に向けた時に、同じく左回転の低速回転に切り替わったとする。摺動部6は、遠心力によりストッパ5側に位置している。このタイミングを初期状態として説明する。この状態から熱交換器1が引き続き左回転にて低速回転を始めると、摺動部6は、自重によって回転軸部材2側へ移動し始める。例えば熱交換器1が第1フィン4aを回転軸部材2の上側に向けた時に(初期状態からの回転角度は90°)、摺動部6に働く遠心力よりも摺動部6に働く重力のほうが大きく、摺動部6は、回転軸部材2側まで滑り落ちる。このように運動する摺動部6によって、第1フィン4aの各面に付着したデポジットが削ぎ落される。その後、摺動部6は、熱交換器1が第1フィン4aを回転軸部材2の左側に向ける時まで(初期状態からの回転角度は180°)、回転軸部材2側の同位置に位置する。
【0057】
図10は、低速回転モードにおいて摺動部6がストッパ5側に落ちる運動を説明するための図である。図10においても、第1フィン4aのみに着目して説明する。図10に示すように、摺動部6は、第1フィン4aが回転軸部材2の左側に向いた以降、再び自重によって今度はストッパ5側へ移動し、例えば熱交換器1が第1フィン4aを回転軸部材2の下側に向けた時に(初期状態からの回転角度は270°)、ストッパ5側まで滑り落ちる。この際にも、第1フィン4aの各面に付着したデポジットが摺動部6によって削ぎ落される。その後、摺動部6は、熱交換器1が第1フィン4aを回転軸部材2の右側に向ける時まで(初期状態からの回転角度は360°)、回転軸部材2側の同位置に位置する。低速回転モードでは、電動モータ13を高速に回転させる場合に比較して、低電力で摺動部6を往復移動させることができる。また、電動モータ13を一定の速度で回転させ続ければ良く、電動モータ13の制御を簡易なものとすることができる。
【0058】
以上に説明したように、EGRクーラ11を熱交換器1の回転軸部材2が略水平になるように配置し、熱交換器1を電動モータ13によって回転させる。摺動部6は、遠心力と重力が作用し、遠心力と重力のバランスによりフィン4a~4dに沿って往復移動する。摺動部6が摺動するたびに、フィン4a~4dの表面に付着したデポジットが削ぎ落とされる。したがって、フィン4a~4dに対してデポジットが堆積することがなくなり、EGRクーラ11の洗浄作業を不要とすることが可能となる。
【0059】
また、EGRクーラシステム10では、内燃機関21の停止中に洗浄処理を行っている。内燃機関21の動作中は摺動部6に対しEGRガスの風圧や車両の振動等が影響するが、停止中であれば摺動部6に作用するのは遠心力と重力のみであり、これらのバランスだけ考慮すればよい。したがって、摺動部6をフィン4a~4dに沿って確実に往復移動させることができる。
【0060】
本発明のEGRクーラシステム10およびEGRクーラ11は、本実施の形態で説明した外観、構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば制御装置30による洗浄処理は、本実施の形態で説明したフローチャートに限定されるものではなく、例えば一方方向の回転として先に左回転を実施し、次に反対方向の回転として右回転を実施するようにしてもよい。
【0061】
また、EGRクーラ11用の冷却水タンクTを内燃機関21用の冷却水タンクと別に設けるものとして説明したが、これに限定されず、1つの冷却水タンクを用いて、内燃機関21を冷却した冷却水がEGRクーラ11に流れるようにしても良い。
【0062】
また、制御装置30による洗浄処理において、先に低速回転モードを実施し、次に高速回転モードを実施するようにしてもよい。さらには、低速回転モードのみを実施するようにしてもよい。
【0063】
また、制御装置30による洗浄処理において、第1所定時間、第3所定時間の例を5秒、第2所定時間、第4所定時間の例を30秒として説明したが、これに限定されることはなく、任意の時間を設定してよい。
【0064】
また、制御装置30による洗浄処理において、低速回転モードの回転速度の例を1回転/秒として説明した。しかし、回転の際に摺動部6に働く遠心力よりも回転軸部材2の上に達したフィン4a~4dの各摺動部6に働く重力のほうが大きくなる回転速度であれば、これに限定されることはない。
【0065】
また、制御装置30による洗浄処理において、高速回転モードの回転速度の例を10回転/秒として説明した。しかし、回転の際に摺動部6に働く重力よりも回転軸部材2の上に達したフィン4a~4dの各摺動部6に働く遠心力のほうが大きくなる回転速度であれば、これに限定されることはない。
【0066】
また、制御装置30による全体処理において、内燃機関21が停止したか否かの判定を回転センサ28の信号に基づいて行うものとして説明したが、イグニッションスイッチ29からのエンジン停止信号に基づいて判定してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 熱交換器
2 回転軸部材
3 水路形成ユニット
3a スリーブ部
3b パイプ部
3c 供給口
3d 嵌合穴
3e 排出口
4a~4d フィン
5 ストッパ
6 摺動部
10 EGRクーラシステム
11 EGRクーラ
12 ケース
12a 大径円筒部
12b、12c 小径円筒部
13 電動モータ
14 冷却水配管
14a 接続ノズル
15 ポンプ
16 回転軸部材軸受
17 着脱アクチュエータ
20 内燃機関システム
21 内燃機関
22 吸気管
23 排気管
24 過給機
24a コンプレッサ
24b タービン
25 浄化装置
26 EGR配管
27 EGR弁
28 回転センサ
29 イグニッションスイッチ
30 制御装置
L クーラ回転軸線
T 冷却水タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10