(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/182 20200101AFI20241106BHJP
B60W 30/188 20120101ALI20241106BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20241106BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20241106BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B60W30/182
B60W30/188
B60W50/14
B60L15/20 J
B60L15/20 Y
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2021208028
(22)【出願日】2021-12-22
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】臼井 公二彦
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-291676(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137301(WO,A1)
【文献】特開2021-093873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
B60K 31/00
B60L 15/00-15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源から駆動輪に伝達される駆動力を、加減速操作の操作量に応じて制御する車両の制御装置であって、
車速を制御するコントローラを有し、
前記コントローラは、
前記車両が走行している走行環境が、最大車速を制限して走行する特異走行環境であることを判断する走行環境判断部と、
前記特異走行環境を走行する際の前記操作量と目標車速との関係である複数の車速制御モードと、
複数の前記車速制御モードのうちのいずれかを選択するモード選択部と、
選択された前記車速制御モードに基づいて実車速が目標車速となるように前記駆動力を制御する駆動力制御部と
を備え、
複数の前記車速制御モードは、
前記操作量の増大に応じて前記目標車速が所定の割合で増大する第1のモードと、
前記目標車速が少なくとも所定の車速以下の範囲では、前記操作量の増大に対する前記目標車速の増大の割合が前記第1のモードよりも小さい第2のモードとを
含み、
前記操作量の最大量に対応させた前記目標車速の最大車速が、前記第1のモードと前記第2のモードとで異なっており、かつ前記第1のモードでの前記最大車速が前記第2のモードでの前記最大車速より高車速である
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
前記車両は、前記駆動力源として前記駆動力を出力するモータを含む電動車両であることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両の制御装置であって、
前記特異走行環境は、乗り越える段差のある走行路と、前記駆動力が嵌まり込む凹部と凸部とが連続している走行路と、乾燥路面より摩擦係数の小さい低μ路とのいずれかであることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項の記載の車両の制御装置であって、
前記車両は障害物との距離に応じて警告を発する安全システムを備え、
前記特異走行環境は、前記警告が発せられている状態で走行する狭窄路である
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力を制御する装置に関し、特に路面摩擦係数が小さく、また走行抵抗が大きくあるいは走行抵抗の変化が大きいラフロードや、狭窄路などの特異な路面を走行する際の駆動力を制御する制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特異な走行路面の一例として段差のある路面を挙げることができ、その段差を乗り越えるときには、段差に応じた駆動力にいわゆる余裕駆動力を加えた駆動力を出力する必要がある。しかし、段差は一時的であるから、段差の頂点部に達した後はロード・ロード(走行抵抗)が、乗り越えた段差分、小さくなり、その結果、駆動力が過剰になって車両が大きく加速してしまう事態が生じる。
【0003】
そこで特許文献1に記載された装置は、段差乗り越えが終了したのを検知するときに駆動トルクを抑制するよう構成されている。すなわち、車両が段差に差し掛かって車速が低下し、これを感知した運転者がアクセル操作によって駆動トルクを増大させると、駆動トルクが段差の乗り越えに必要な駆動トルクを超えることにより車速が増大し、車両が段差を乗り越えていく。そして、車輪角加速度の移動平均が設定値以上になった時をもって段差の乗り越え終了の判定を行い、当該判定の成立によって駆動トルクを抑制することとしている。その駆動トルクの抑制は、特許文献1の記載によれば、図に示してある値に設定することにより行う、としている。
【0004】
また一方、特異な走行路面を走行する際の駆動力の制御を行う装置として、深雪路や砂地などの大抵抗スリップ路を走行する際に駆動輪に伝達する駆動力を制御する装置が特許文献2に記載されている。特許文献2に記載された装置は、深雪路や砂地などの大抵抗スリップ路を走行する場合に、トラクションコントロールに代えて、ドライブシャフトの回転数を所定の回転数にする回転数制御を行うように構成されている。より具体的には、大抵抗スリップ路でのアクセル開度とドライブシャフト回転数との関係を定めたテーブルを予め用意しておき、そのテーブルを利用して目標回転数を求め、その回転数を達成するように駆動力を制御する。したがって、特許文献2に記載の装置によれば、駆動輪が止まらないから、雪や砂などを掻き出すことができ、大抵抗スリップ路を走破できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-045230号公報
【文献】特開2007-085207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているように段差を乗り越える場合、段差に差し掛かった際にアクセル操作を行うなどのことによって駆動トルクを増大させることにより、いわゆる余裕駆動力に応じた加速度によって車速が増大して段差を登り、ついには乗り越えることになる。その場合、アクセルペダルを大きく踏み込むと、余裕駆動力が過剰になって、段差を急速に登り切ることができるものの段差の頂点に達した時点の車速が速くなってしまって運転者が慌てて減速操作を行うなどの事態が生じる。このような場合、特許文献1に記載された装置は段差を乗り越えた直後の駆動力を抑制するから、いわゆる車両が飛び出すなどのことを防止できるが、段差の頂点を越えた時点で急な減速が生じ、これが違和感となる可能性がある。また、反対に、アクセル操作量が少ないと、段差の乗り越えにいわゆるもたつき感が生じ、運転者が更にアクセル操作しなければならない事態が生じる。特許文献1に記載された装置は、段差を乗り越えた時点の駆動力を制御するものの、そこに到る過程での制御を行うようには構成されていないので、段差などのいわゆる特異路面をスムースに、あるいは違和感などを生じさせることなく走行するためには未だ改善の余地がある。
【0007】
また、特許文献2に記載された装置は、大抵抗スリップ路を走行する場合、ドライブシャフトの目標回転数を、アクセル開度とマップとから求め、ドライブシャフトの実回転数が目標回転数となるように駆動力を制御する。したがって、アクセル開度に対する駆動力が一義的に定まってしまうので、深雪路や砂地を走破できるとしても、段差の乗り越えや岩石などで凹凸が連続する登降坂路を走行する場合には、運転者がアクセル操作を行っても意図する駆動力を必ずも得られず、いわゆるラフロードなどでの駆動操作性が不十分になる可能性がある。
【0008】
上述した走行路上の段差や大抵抗スリップ路を走行する場合には、車両の駆動力を微妙に、また迅速に制御することが望ましく、このような状況は、車体を擦りやすい深い窪みのある走行路や、道路の周囲の構築物などのいわゆる障害物と車両との間隔が狭い狭窄路(車庫などの駐車スペースを含む)などにおいても同様であり、車両の過度な進行(前進および後進)を生じさせず、また安定かつ継続して車両を進行させることが望まれる。上述した特許文献1や特許文献2に記載されている装置では、これらの多様な特異走行環境のそれぞれに適した駆動力制御もしくは車速制御を必ずしも十分に行うことができず、新たな技術の開発が望まれるのが実情である。
【0009】
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、段差やラフロードあるいは狭窄路などの特異な走行路環境下での走行を容易に、あるいは安定して行うことを可能にする車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の目的を達成するために、駆動力源から駆動輪に伝達される駆動力を、加減速操作の操作量に応じて制御する車両の制御装置であって、車速を制御するコントローラを有し、前記コントローラは、前記車両が走行している走行環境が、最大車速を制限して走行する特異走行環境であることを判断する走行環境判断部と、前記特異走行環境を走行する際の前記操作量と目標車速との関係である複数の車速制御モードと、複数の前記車速制御モードのうちのいずれかを選択するモード選択部と、選択された前記車速制御モードに基づいて実車速が目標車速となるように前記駆動力を制御する駆動力制御部とを備え、複数の前記車速制御モードは、前記操作量の増大に応じて前記目標車速が所定の割合で増大する第1のモードと、前記目標車速が少なくとも所定の車速以下の範囲では、前記操作量の増大に対する前記目標車速の増大の割合が前記第1のモードよりも小さい第2のモードとを含み、前記操作量の最大量に対応させた前記目標車速の最大車速が、前記第1のモードと前記第2のモードとで異なっており、かつ前記第1のモードでの前記最大車速が前記第2のモードでの前記最大車速より高車速であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、前記車両は、前記駆動力源として前記駆動力を出力するモータを含む電動車両であってよい。
【0012】
本発明においては、前記特異走行環境は、乗り越える段差のある走行路と、前記駆動力が嵌まり込む凹部と凸部とが連続している走行路と、乾燥路面より摩擦係数の小さい低μ路とのいずれかであってよい。
【0013】
本発明においては、前記車両は障害物との距離に応じて警告を発する安全システムを備え、前記特異走行環境は、前記警告が発せられている状態で走行する狭窄路であってよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車両が走行する路面の状態あるいは周囲の状態などで決まる走行環境が特異走行環境であるか否かが判断される。ここで特異走行環境とは、最大速度を制限することが必要もしくは好ましい路面状態あるいは周囲の状態であって、例えば、ある程度大きい段差を乗り越える路面状態、大きい岩石が覆っていたり路面がえぐられていたりすることによって大きい凹凸が連続している走行路もしくは登坂路や降坂路、構造物との間隔が狭いいわゆる狭窄路などである。特異走行環境であることが判断されると、複数の車速制御モードのうちのいずれか一つの車速制御モードが選択される。その車速制御モードには、前記操作量の増大に応じて前記目標車速が所定の割合で増大する第1のモードと、前記目標車速が少なくとも所定の車速以下の範囲では、前記操作量の増大に対する前記目標車速の増大の割合が前記第1のモードよりも小さい第2のモードとが含まれるから、走行環境に応じて第2のモードを選択することにより、より緻密な制御が可能になる。
【0017】
車速制御モードは、アクセルペダルやブレーキペダルによる加減速操作の操作量に対する目標車速を予め定めた車速制御のための様式もしくは規則であり、その加減速操作量と目標車速との関係が線形のモードや非線形のモード、最大操作量(ブレーキの場合は最小操作量)に対する目標車速の最大値がいわゆる低速に制限されるモード、最大操作量(ブレーキの場合は最小操作量)に対する目標車速の最大値がいわゆる微速に制限されるモードなどである。これらの車速制御モードの選択は、運転者の人為的操作で行ってもよく、あるいは地図上の車両の位置情報に基づく道路情報や、衛星通信や車車間通信あるいはサインポストからの通信などによって得た道路情報に基づいて自動的に行うこととしてもよい。
【0018】
駆動力制御部は、選択された車速制御モードに基づいて加減速操作量に応じた目標車速になるように駆動力を制御する。したがって、特異走行環境の下で、運転者が意図に基づく所定の操作量にアクセルペダルあるいはブレーキペダルを操作すると、車両の車速はその操作量で決まる車速を超えることがない。そのため、例えば段差を乗り越える場合、段差に乗り上げ始めた時点の加減速操作量を維持することにより、段差を所望の車速で乗り越えることができるとともに、乗り越えた後に車速が急に増大することを回避できる。これと同様に、大きい凹凸の連続する登降坂路を走行する場合、凸部を乗り越える都度、車速が増大するなどの事態を回避し、加減速操作量を一定に維持するという簡単な操作で、安定して走行することができる。さらに、狭窄路では車速を例えば微速に維持することが容易になるので、構造物に接触するなどのことなく安定して、また容易に走行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態における車両の駆動系統の一例を示す模式図である。
【
図2】その駆動力の制御系統の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図4】車速制御モードにおけるアクセル開度と目標車速との関係を規定しているマップの例を示す図である。
【
図5】特異走行環境の一例として段差を乗り越える場合のアクセル開度、車速、駆動トルクの変化の一例を模式的に示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を具体化した場合の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0021】
本発明の実施形態における車両は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関を駆動力源としたいわゆるエンジン車両、内燃機関と電動機(モータやモータ・ジェネレータ)とを駆動力源とした(すなわち駆動力源としてモータを含む)いわゆるハイブリッド車両(HEV車両)、電動機のみを駆動力源とした電気車両(EV車両)、前後のいずれか二輪を駆動する二輪駆動車両(2WD車両)、前後の四輪全てを駆動する四輪駆動車両(4WD車両)もしくは全輪駆動車両(AWD車両)などのいずれであってもよい。なお、駆動力を迅速かつ微妙に制御できる点では、HEV車両やEV車両などの電動車両であることが好ましい。
図1には、HEV車両であって、後輪駆動車をベースにした四輪駆動車の例を模式的に示してある。
【0022】
図1に示す電動車両(以下、単に車両と記す)1は、エンジン2と第1モータ3とを駆動力源4として備えており、その駆動力源4の出力側に変速機5が連結されている。エンジン2は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関であり、また第1モータ3は、永久磁石式の同期電動機などの発電機能のあるモータ(モータ・ジェネレータ)がその一例である。変速機5は有段式あるいは無段式のいずれであってもよく、従来知られている車両の変速機であってよい。変速機5の出力側にトランスファ6が連結されている。
【0023】
トランスファ6は、駆動力源4が出力したトルクを後輪7側と前輪8側とに分配する公知の動力伝達装置であり、二輪駆動と四輪駆動とに切り替えることのできる構成、あるいは前後の差動を可能にする差動機構を内蔵した構成、その差動を制限する機構を更に備えた構成など、必要に応じて適宜の構成のトランスファを採用してよい。したがって、トランスファ6と後輪7側の終減速機であるリヤデファレンシャルギヤ9とがリヤプロペラシャフト10によって連結されている。また、トランスファ6と前輪8側の終減速機であるフロントデファレンシャルギヤ11とがフロントプロペラシャフト12によって連結されている。
【0024】
さらに、フロントプロペラシャフト12に連結された第2モータ13が設けられている。この第2モータ13は、上記の第1モータ3と同様に発電機能のあるモータ(モータ・ジェネレータ)であってよい。この第2モータ13と上記の第1モータ3とは、インバータやコンバータを含むモータコントローラ14を介して蓄電装置15に接続されており、第1モータ3で発電した電力で第2モータ13を駆動し、また各モータ3,13を蓄電装置15の電力で駆動し、さらには各モータ3,13が発電した電力を蓄電装置15に充電するように構成されている。なお、第2モータ13も前述した駆動力源4に含まれる。
【0025】
なお、車両1は一般的な車両と同様に、加減速操作を行うためのアクセルペダルPaや制動のためのブレーキペダルPbに加えて、
図1に特には図示していないが、ステアリングホイールなどの操舵装置、各車輪7,8の制動を行うブレーキ、変速操作のためのシフトレバーを含むシフト装置、自車両の位置や目的地までのルートを探索して地図上に表示し、また道路に関する情報を取得して表示するなどの機能を有するナビゲーションシステムなどを備えている。
【0026】
エンジン2や各モータ3,13が出力する駆動力を制御する電子制御装置(HV-ECU)16が設けられている。このHV-ECU16は、以下に挙げる各電子制御装置と同様に、演算装置(CPU)と記憶素子(ROM,RAM)を主体にして構成され、入力されたデータや予め記憶しているデータを使用して、プログラムされている演算を行うことにより指令信号を出力するように構成されている。
図2には、HV-ECU16を中心とした概略的な制御系統をブロック図で示してある。先ず、HV-ECU16への入力信号(検出されたデータ)を挙げると、アクセルペダル17の操作量(踏み込み量もしくは踏み込み角度)であるアクセル開度、蓄電装置15の充電残量であるSOC情報、選択スイッチ18からの車速制御モード信号がHV-ECU16に入力されている。この車速制御モード信号は、搭乗者Dが選択スイッチ18を手動操作することにより発せられる信号であり、目標車速制御開始信号を含む。なお、選択される車速制御モードは、
図4を参照して後述する。
【0027】
さらに、変速機5を操作するシフト装置19で選択したシフトポジションに対応したシフト信号が、変速機用電子制御装置(ECT-ECU)20を介してHV-ECU16に入力されている。車両1の目的地やルートなどは搭乗者Dによってナビゲーションシステム21に入力され、そのユーザー入力情報がナビゲーション用電子制御装置(ナビ-ECU)22を介してHV-ECU16に入力されている。車両1と周囲の構造物(障害物)などとの間隔を検出するクリアランスセンサ23からの接近信号がセーフティ用電子制御装置(S-ECU)24を介してHV-ECU16に入力されている。なお、このクリアランスセンサ23やセーフティ電子制御装置24が本発明における安全システムを構成しており、車両1と障害物との間の距離が予め定めた所定値以下になるなど、その距離に応じて搭乗者Dに対して警告を発するように構成されている。このような警告が発せられている状態で車両1を走行(移動)させる走行環境が、本発明における特異走行環境の一例としての狭窄路である。なお、上記の警告は、搭乗者Dの触覚、聴覚、視覚などのいずれかで感知できる信号であってよい。
【0028】
さらに、車両1は、二輪駆動と四輪駆動とを選択でき、また変速比の小さいハイ四輪駆動(H4)と変速比の大きいロー四輪駆動(L4)とを選択できるように構成され、これらの駆動状態を選択する選択スイッチ25からのL4信号が、四輪駆動用電子制御装置(4WD-ECU)26を介してHV-ECU16に入力されている。また、車両1は、泥濘路や車輪が嵌まり込む大きい凹部や凸部が連続する岩石路あるいは車体を擦り易い走行路、砂地などを走行する際に車速を低速に維持するとともにグリップ力のある車輪に駆動力を伝達する制御システムを備えている。この制御システムは、要は、駆動輪の回転数を一定数に維持するシステム(駆動輪速一定制御システム)であり、速度選択ダイヤル27からの速度信号が4WD-ECU26を介してHV-ECU16に入力されている。
【0029】
HV-ECU16は上記の各入力信号(入力データ)に基づいて、特異走行環境の下での車速維持のための駆動力や制動力を制御するように構成され、その制御のための指令信号の例を挙げると、以下のとおりである。各車輪7,8を制動するブレーキ28は一例として油圧によって制御され、その油圧指令を出力するブレーキ用電子制御装置(ブレーキECU)29が設けられている。このブレーキECU29は、駆動輪速一定制御での目標車速を維持するための油圧指令値を求めることができ、HV-ECU16はこのブレーキECU29に目標車速制御開始信号を出力する。
【0030】
各モータ3,13を制御するモータ用電子制御装置(MG-ECU)30が設けられており、このMG-ECU30は、特異走行環境の下での車速を目標車速に維持するために、例えば第1モータ3に対する電圧指令を出力し、また第2モータ13に対してトルクを出力させるための放電、回生制動力を発生させるための充電などの制御指令を出力するように構成されている。したがって、HV-ECU16はこのMG-ECU30に対して目標車速に相当する目標回転数に関する情報(データ)を出力している。なお、これらの制御を行うために、それぞれのモータ3,13に設けられているレゾルバ31からの回転数信号がMG-ECU30に入力されている。また、MG-ECU30は目標車速で走行するために必要とする実駆動力を求めており、その実駆動力となるように各モータ3,13を制御するとともに、その実駆動力に関するデータをブレーキECU29に伝送している。
【0031】
さらに、エンジン2の出力トルクを制御するエンジン用電子制御装置(EFI-ECU)32が設けられており、このEFI-ECU32は、目標車速を維持するために必要とするエンジントルクを求め、そのトルク指示をエンジン2に対して出力する。したがって、HV-ECU16はそのEFI-ECU32に対して目標駆動力を指示している。
【0032】
上記のHV-ECU16が本発明の実施形態におけるコントローラに相当し、特異走行環境の下で以下に説明する制御を実行するように構成されている。その制御を行うために、走行環境判断部16A、モード選択部16B、駆動力制御部16Cを備えている。
図3はその制御の一例を説明するためのフローチャートであって、先ず、車両1が特異走行環境の下に在るか否かが判断される(ステップS1)。ここで、特異走行環境とは、ある程度大きい段差を乗り越える路面状態、大きい岩石が覆っていたり路面がえぐられていたりすることによって車輪が嵌まり込むような大きい凹部と凸部とが連続している走行路もしくは登坂路や降坂路、構造物(障害物)との間隔が狭いいわゆる狭窄路などである。したがって例えば選択されている車速制御モードで決まる目標速度が岩石路を走行するのに適する車速であること、あるいは周囲の構造物(障害物)との間隔が前記警告が発せられる程度の限界値以下に狭くなっていることにより、S-ECU24の停止判断に基づいて車両1が停止している(ブレーキ28が動作している)ことなどの判断が成立すると、ステップS1で肯定的に判断される。このステップS1の判断を実行する機能的手段が本発明の実施形態における走行環境判断部16Aである。
【0033】
ステップS1で肯定的に判断された場合、駆動輪速一定制御が判定される(ステップS2)。このステップS2で判定する駆動輪速一定制御は、アクセルペダル17の操作量(アクセル開度)に応じて目標車速を設定し、実車速がその目標車速になるように駆動力や制動力を自動的に増減する制御である。なお、ブレーキ28を併用する場合もある。この駆動輪速一定制御では運転者がアクセルペダルやブレーキペダルを積極的には制御する必要がないので、そのような走行制御の形態を変更することを運転者が認識できるようにすることが好ましい。そのため、例えば前述した選択スイッチ18もしくは速度選択ダイヤル27が操作されたことによって駆動輪速一定制御を実行することの判定が成立するよう構成されている。したがって、ステップS1の特異走行環境の判断を、選択スイッチ18もしくは速度選択ダイヤル27で目標速度(走行路面)が選択されたことにより行うように構成では、ステップS1で肯定的に判断された場合には、ステップS2の判断は肯定的になる。なお、速度選択ダイヤル27に代えて、他のスイッチを別に設け、当該他のスイッチのON・OFFによってステップS2の判断を行うように構成してもよい。
【0034】
ステップS2で肯定的に判断された場合、車速制御モードが選択されたか否かが判断される(ステップS3)。車速制御モードとは、アクセル開度に対する目標車速を予め定めた車速制御のための様式もしくは規則であり、例えばマップとして予め用意し、HV-ECU16に記憶させておくことができる。
図4に車速制御モードの例を、縦軸をアクセル開度、横軸を目標車速とした二次元座標で示してある。本発明の実施形態での車速制御モードは、最大車速を制限し、かつアクセル開度などの加減速操作量ごとの目標車速を規定している。
【0035】
図4の(A)に基本モードの例を示しており、アクセル開度が100%のときの最大車速を所定の低速度(例えば10km/h)に設定し、その範囲でアクセル開度の増大に比例して、もしくは比例に近いステップ状に目標車速を増大させてある。したがって、アクセル開度と目標車速とがほぼ一次関数で表される関係(線形の関係)となるようにそれぞれを定めてある。
【0036】
図4の(B)に示す車速制御モードは、低開度緻密制御モードと称することのできるモードであり、アクセル開度と目標車速とは
図4の(B)に破線で示す関係になっている。これを、
図4の(B)に実線で示してある基本モードと対比すると、最大車速は同じであるものの、低開度でのアクセル開度の変化量に対する目標車速の変化量が小さく、ある程度以上のアクセル開度の範囲ではアクセル開度の変化量に対する目標車速の変化量を大きくしてある。したがって、アクセル開度と目標車速とは、対数関数曲線もしくはこれに類似した曲線で表される関係(非線形の関係)になっている。この低開度緻密制御モードによれば、いわゆる低開度の範囲では、アクセルペダルを大きく踏み込んだり踏み戻したりしても目標車速の変化が小さいから、目標車速を緻密に変化させ、設定することができる。
【0037】
図4の(C)に示す車速制御モードは、車速範囲低減モードと称することのできるモードであり、アクセル開度が100%での最大車速が基本モードより低車速(例えば半分の車速)に設定され、その範囲でアクセル開度と目標車速とが比例関係となるようにそれぞれが決められている。この車速範囲低減モードは
図4の(C)に破線で示すとおりであり、実線で示す基本モードと比較すると、アクセル開度と目標車速との関係は勾配の大きい直線で表される。すなわち、線形の関係になっている。したがって、アクセル開度の変化量に対する目標車速の変化量が、基本モードにおけるよりも小さくなり、その点では、目標車速を基本モードによるよりも緻密に設定することが容易になる。
【0038】
図4の(D)に上述した低開度緻密制御モードの特性と車速範囲低減モードの特性とを併せ持たせたモードの例を示してある。これは、「低開度緻密制御+車速範囲低減」モードと称することのできるモードであり、
図4の(D)に破線で示してある。したがって、この車速制御モードによれば、例えばアクセルペダルを誤って大きく踏み込んでしまっても車速が意図した以上に増大することがなく、また低開度の範囲でのアクセル開度の変化量に対する目標車速の変化量が、更に小さくなるので、目標車速を更に緻密に設定することができる。
【0039】
上述した各車速制御モードの選択は、例えばナビゲーションシステムでの地図を表示するディスプレイ(もしくはモニタ)に、
図4の(A)~(D)に示す二次元マップを表示し、運転者がいずれかの二次元マップにタッチすることにより行うこともできる。その場合、最初に表示する車速制御モード(初期車速制御モード)を予め決めておき、その表示された初期車速制御モードを最初に自動的に採用することとしてよい。それ以外の車速制御モードを選択するためには、表示を順次スクロールさせて他の車速制御モードを表示させ、その表示された車速制御モードを選択するためには画面上の「OK」ボタンにタッチすることとすればよい。このように構成した場合、タッチパネルが選択スイッチとして機能することになる。
【0040】
図3に示す制御例では、最初に表示された初期車速制御モードを採用することによりステップS3で否定的に判断され、また画面をスクロールさせるなどのことによって他の車速制御モードが選択された場合には、ステップS3で肯定的に判断される。すなわち、ステップS3で否定的に判断された場合には、特異走行環境下での車速あるいは駆動力の制御のための車速制御モードとして初期車速制御モードを読み込み、それに基づく制御を行う(ステップS4)。これとは反対にステップS3で肯定的に判断された場合には、搭乗者Dによる選択操作で選択された車速制御モードを読み込み、それに基づく制御を行う(ステップS5)。したがって、上述したステップS3~S5を実行する機能的手段が本発明の実施形態におけるモード選択部16Bである。
【0041】
こうして読み込まれた車速制御モードに基づいて、アクセル開度に対応した目標車速が設定され、上述したMG-ECU30やEFI-ECU32あるいはブレーキECU29などに制御指示が行われる(ステップS6)。そして、実車速が指示された目標車速に一致するように駆動力や制動力が制御される(ステップS7)。その制御は、例えば上述した車両1では、駆動力源4として第1モータ3を備え、また前輪8の駆動力を第2モータ13によって制御でき、これらのモータ3,13は制御応答性が優れているので、ステップS7では、実車速と目標車速との偏差に基づくフィードバック制御(F/B制御)によってこれらのモータ3,13のトルクを算出し、かつそのトルク指令値を出力することとしてよい。なお、これらのステップS6,S7を実行する機能的手段が本発明の実施形態における駆動力制御部16Cである。
【0042】
なお、
図3に示すフローチャートにおいて、ステップS1で否定的に判断された場合、およびステップS2で否定的に判断された場合には、通常の駆動力制御が実行される(ステップS8)。ここで通常の駆動力制御とは、運転者の要求を充足するように定められ、また燃費や電費が良好となるように定められた駆動力あるいは車速を達成する制御であり、通常の車両で実行されている制御である。
【0043】
特異走行環境の一例としての段差を、車速制御モードでの制御を実行して乗り越えた場合のアクセル開度、車速、駆動トルクの変化の一例を
図5に模式的なタイムチャートで示してある。
図5に示す例は、段差を乗り越えることの判断が成立していて、いずれかの車速制御モードが選択されている状態の例であり、段差を乗り越えるべく運転者がアクセルペダルを踏み込むと(t1時点)、そのアクセル開度に応じた目標車速となるように駆動トルクが増大し、実車速が目標車速に向けて増大する。その場合、車速は選択されている車速制御モードに応じて変化し、例えば前述した
図4の(B)に示す低開度緻密制御モードでは、車速の変化は、アクセル開度の増大に対して緩やかになり、また最大車速が制限される。
【0044】
アクセルペダルの踏み込みが止まってアクセル開度が所定開度に安定すると(t2時点)、目標車速はそのアクセル開度に対応した車速に維持される。このようにアクセルペダルを踏み込む過程では、アクセル開度の増大に伴う目標車速の増大に対して特には遅れを生じずに実車速が増大する。その目標車速すなわち実車速は、選択した車速制御モードで規定している変化量で変化し、アクセル開度の変化量に対する目標車速(この場合は実車速)の変化量が小さく、したがって微妙な車速制御が可能であり、しかも車速制御モードは、運転者が選択したものであるから、アクセルペダル操作に対する目標車速あるいは実車速の変化に違和感を生じることを回避もしくは抑制することができる。このようにして特異走行環境下での制御を開始した後、車両1が未だ段差Gに到達していない状態では、ロード・ロードが一定しているので、実車速が
図5に破線で示す目標車速にほぼ一致し、駆動トルクも従前のトルクに維持される。
【0045】
車両1が段差Gに差し掛かると(t3時点)、ロード・ロードの増大によって実車速が低下し、目標車速との間に偏差が生じる。その偏差を解消するように駆動トルクが増大し、こうして駆動トルクが、段差Gを乗り越えるのに要するトルクを超えると(t4時点)、車両1は段差Gの上に登り始める。ついで段差Gを登り始めるとロード・ロードが低下するので、段差Gを乗り上がるのに要したトルクが余剰トルクとなり、車速が増大しようとする。その結果、実車速と目標車速との偏差が小さくなるので、駆動トルクが車速の増大に応じて次第に低下する。
【0046】
こうして実車速が目標車速にまで復帰すると(t5時点)、駆動トルクは実車速を目標車速に維持するトルクに保持される。したがって、実車速が目標車速を超えることがなく、段差Gを乗り越えた時点に車速が意図せずに急に増大するなどの事態を未然に解消することができる。
【0047】
段差Gを乗り越えるなど、特異走行環境を通過した後、上述した車速制御モードによる車速ならびに駆動力の制御を終了する場合、車両1を一旦停止させ、その状態で前述した速度選択ダイヤル27を元に戻して車速の選択を解消するなど、クロール制御の終了操作を行う。こうして、通常のトルク制御に戻して新たに走行を開始する。
【0048】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されないのであって、
図3に示すフローチャートにおける各判断ステップや実行ステップは、全て、運転者のスイッチなどの操作に基づいて実行してもよく、あるいは車両1の駆動状態や位置情報さらには道路情報などの情報に基づいて自動的に実行することとしてもよい。また、車速を目標車速に一致させ、また維持する制御は、段差や登坂路などのロード・ロードが増大する特異走行環境下に限られず、降坂路などのロード・ロードが低下する場合に実行することとしてもよい。その場合には目標車速はブレーキ操作量に基づいて設定することになり、また制動力を制御することになるので、各車速制御モードで使用するマップは、
図4に示すものとは各線の傾きが反対になる。
【0049】
他の特異走行環境の下で走行する場合の例を簡単に説明すると、例えば凍結路面などの低μ路(乾燥路面より摩擦係数が小さい路面)を走行する場合、あるいは車輪が嵌まり込むような大きい凹部と凸部とが連続する岩石路や泥濘路もしくは積雪路(大抵抗スリップ路)、さらには狭窄路を走行する場合には、例えば
図4の(B)や(D)に示す低開度緻密制御モードを選択して設定する。車両1を前進させるべく搭乗者Dがアクセルペダル17を踏み込むと、その踏み込み量(操作量)であるアクセル開度に応じて目標車速が設定される。その目標車速は、選択されている車速制御モードで決まる車速であり、
図4の(B)や(D)に示す車速制御モードであれば、当初、アクセルペダルを大きく踏み込んでも、目標車速は大きくは増大しない。このような目標車速の変化は、アクセルペダルを踏み戻した場合も同様である。すなわち、目標車速を緻密に制御できる。言い換えれば、アクセルペダル(アクセル開度)を細かく操作することができないとしても、目標車速を細かく制御することができる。
【0050】
したがって、低μ路においては駆動輪が大きくはスリップしない程度に駆動力を維持できるので、コントロールを失うことなく低μ路を低速で走行し、ひいては低μ路から脱出することができる。同様に、泥濘路や積雪路においては、駆動輪が大きく空転して路面を掘り込んだりすることを回避もしくは抑制できるので、泥濘路や積雪路での走行を維持でき、また車両1がスタックすることを回避もしくは抑制することができる。さらに、狭窄路では、車速を低速もしくは微速にコントロールできるので、制動が遅れて障害物に接触するなどの事態を回避もしくは抑制することが容易になる。総じて、本発明の実施形態によれば、特異走行環境下での走行を安定して、また容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0051】
1 車両
2 エンジン
3 第1モータ
4 駆動力源
5 変速機
6 トランスファ
7 後輪
8 前輪
9 リヤデファレンシャルギヤ
10 リヤプロペラシャフト
11 フロントデファレンシャルギヤ
12 フロントプロペラシャフト
13 第2モータ
14 モータコントローラ
15 蓄電装置
16 電子制御装置(HV-ECU)
16A 走行環境判断部
16B モード選択部
16C 駆動力制御部
17 アクセルペダル
18 目標車速選択スイッチ
19 シフト装置
20 変速機用電子制御装置(ECT-ECU)
21 ナビゲーションシステム
22 ナビゲーション用電子制御装置(ナビ-ECU)
23 クリアランスセンサ
24 セーフティ用電子制御装置(S-ECU)
25 選択スイッチ
26 四輪駆動用電子制御装置(4WD-ECU)
27 速度選択ダイヤル
28 ブレーキ
29 ブレーキ用電子制御装置(ブレーキECU)
30 モータ用電子制御装置(MG-ECU)
31 レゾルバ
32 エンジン用電子制御装置(EFI-ECU)
D 搭乗者
G 段差
Pa アクセルペダル
Pb ブレーキペダル