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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】車両用操舵支援装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20241106BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20241106BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20241106BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021210661
(22)【出願日】2021-12-24
(65)【公開番号】P2023095016
(43)【公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】半田 聡
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/261530(WO,A1)
【文献】特開2017-052353(JP,A)
【文献】特開2009-241725(JP,A)
【文献】特開2010-280276(JP,A)
【文献】特開2003-063430(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0068424(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバーにより操舵操作される操舵入力部材と、前記操舵入力部材に与えられる操舵操作量に応じて転舵輪を転舵すると共に、前記操舵入力部材を中立位置へ付勢する復帰トルクを前記操舵入力部材に与え、前記復帰トルクは前記操舵操作量が大きくなるほど大きくなるよう構成された転舵装置と、前記復帰トルクを修正してドライバーの操舵操作を支援する制御トルクを発生する制御トルク発生装置と、前記制御トルク発生装置を制御することにより前記制御トルクを制御する制御ユニットと、少なくとも車両の前方の情報を検出する周囲情報検出装置と、を含み、
前記制御ユニットは、前記周囲情報検出装置により検出された車線の情報に基づいて前記車両を前記車線に沿って走行させるための目標操舵操作量を演算し、前記操舵操作量が前記目標操舵操作量よりも大きい領域については、前記操舵操作量の増大量に対する前記復帰トルクの増大量の比が増大するように前記制御トルクを制御し、前記操舵操作量が前記目標操舵操作量よりも小さい領域については、前記操舵操作量の減少量に対する前記復帰トルクの減少量の比が増大するように前記制御トルクを制御するよう構成された、車両用操舵支援装置において、
前記制御ユニットは、前記周囲情報検出装置により前記車両の前方に障害物が検出されたときには、前記車両が前記障害物に衝突することを回避するための回避操舵が必要であるか否かを判定し、前記回避操舵が必要であると判定したときには、前記目標操舵操作量からの前記操舵操作量の変化量に対する修正後の前記復帰トルクの変化量の比が、前記回避操舵が不要であると判定したときに比して小さくなるように、前記制御トルクを低減するよう構成された、車両用操舵支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用操舵支援装置において、前記制御ユニットは、前記回避操舵が必要であると判定したときには、現在の操舵操作量からの前記操舵操作量の変化量に対する修正後の前記復帰トルクの変化量の比が、前記回避操舵が不必要であると判定したときに比して小さくなるように、前記制御トルクを変更するよう構成された、車両用操舵支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両のための操舵支援装置に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両のための操舵支援装置として、車両が走行するための最適の操舵角を求め、操舵角が最適の操舵角になるよう操舵反力を制御することにより、操舵角が最適の操舵角になるよう促す操舵支援装置が知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、自車両の周囲に存在する他車両の相対位置及びその変化方向を求めると共に、自車両の車速、車線に対する位置関係などの走行状況を求め、これらの変化を推定して自車両の最適の軌跡を求め、自車両の軌跡を最適の軌跡にするための最適の操舵角を求めるよう構成された操舵支援装置が記載されている。
【0004】
上述のような操舵支援装置によれば、自車両が他車両などとの関係において適切に走行するための最適の軌跡及び最適の操舵角を求め、操舵角が最適の操舵角になり自車両の軌跡が最適の軌跡になるようにドライバーの操舵操作を促すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-063430号公報
【発明の概要】
【0006】
〔発明が解決しようとする課題〕
車両が走行する際には、車両の前方に停止車両のような障害物が存在したり、車両の前方に障害物が現れたりすることがある。そのような状況においては、車両が障害物に衝突しないよう回避操舵が行われる必要がある。そのため、上述のような従来の操舵支援装置による操舵支援が行われている場合には、ドライバーは操舵を促す操舵反力に抗して操舵角が最適の操舵角とは異なる操舵角になるよう操舵操作しなければならない。従って、操舵反力の制御によりドライバーの操舵操作を促す運転支援が行われない場合に比して、回避操舵を行うために必要な操舵力が高くなる。
【0007】
本発明の主要な課題は、ドライバーの操舵操作を支援すると共に、車両が障害物に衝突しないようドライバーが回避操舵を行う際に必要な操舵力が従来に比して低減されるよう改良された操舵支援装置を提供することである。
【0008】
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
本発明によれば、ドライバーにより操舵操作される操舵入力部材(ステアリングホイール14)と、操舵入力部材に与えられる操舵操作量(θ)に応じて転舵輪(16FL、16FR)を転舵すると共に、操舵入力部材を中立位置へ付勢する復帰トルク(Trea)を操舵入力部材に与え、復帰トルクは操舵操作量が大きくなるほど大きくなるよう構成された転舵装置(10)と、復帰トルクを修正してドライバーの操舵操作を支援する制御トルク(Tc)を発生する制御トルク発生装置(電動パワーステアリング装置12)と、制御トルク発生装置を制御することにより制御トルクを制御する制御ユニット(操舵支援ECU50)と、少なくとも車両の前方の情報を検出する周囲情報検出装置(カメラセンサ51、レーダーセンサ52)と、を含み、
制御ユニット(ECU14)は、周囲情報検出装置により検出された車線の情報に基づいて車両を車線に沿って走行させるための目標操舵操作量を演算し(S12~S18)、操舵操作量が目標操舵操作量よりも大きい領域については、操舵操作量の増大量に対する復帰トルクの増大量の比が増大するように制御トルクを制御し、操舵操作量が目標操舵操作量よりも小さい領域については、操舵操作量の減少量に対する復帰トルクの減少量の比が増大するように制御トルクを制御する(S10、S90、S100)よう構成された、車両用操舵支援装置(100)が提供される。
【0009】
制御ユニット(操舵支援ECU50)は、周囲情報検出装置により車両の前方に障害物が検出されたときには(S40)、車両が障害物に衝突することを回避するための回避操舵が必要であるか否かを判定し(S50)、回避操舵が必要であると判定したときには、目標操舵操作量からの操舵操作量の変化量に対する修正後の復帰トルクの変化量の比が、回避操舵が不要であると判定したときに比して小さくなるように、制御トルクを低減する(S80~S100)よう構成される。
【0013】
上記の構成によれば、操舵入力部材を中立位置へ付勢する復帰トルクを修正する制御トルクが、制御ユニットによって制御トルク発生装置を制御することにより制御される。操舵操作量が目標操舵操作量よりも大きい領域については、操舵操作量の増大量に対する復帰トルクの増大量の比が増大するように制御トルクが制御される。逆に、操舵操作量が目標操舵操作量よりも小さい領域については、操舵操作量の減少量に対する復帰トルクの減少量の比が増大するように制御トルクが制御される。
【0014】
よって、操舵操作量が目標操舵操作量よりも大きくなる(切り増しする)よう操舵される場合には、操舵操作量の増大量に対する修正後の復帰トルクの増大量の比が大きくなるので、操舵に対する抗力トルクを増大させることができる。逆に、操舵操作量が目標操舵操作量よりも小さくなる(切り戻しする)よう操舵される場合には、操舵操作量の減少量に対する修正後の復帰トルクの減少量の比が大きくなるので、復帰トルクによる切り戻し方向への操舵促進トルクを低減することができる。従って、操舵操作量が目標操舵操作量になり易くし、操舵操作量が目標操舵操作量になるようドライバーの操舵を支援することができる。
【0015】
更に、上記の構成によれば、車両が障害物に衝突することを回避するための回避操舵が必要であると判定されたときには、目標操舵操作量からの操舵操作量の変化量に対する修正後の復帰トルクの変化量の比が、回避操舵が不要であると判定したときに比して小さくなるように、制御トルクが低減される。
【0016】
よって、操舵操作量が目標操舵操作量から増大する(切り増しする)よう回避操舵が行われる場合には、操舵操作量の増大量に対する修正後の復帰トルクの増大量の比が減少するので、回避操舵に対する抗力トルクを低減することができる。逆に、操舵操作量が目標操舵操作量から減少する(切り戻しする)よう回避操舵が行われる場合には、操舵操作量の減少量に対する修正後の復帰トルクの減少量の比が減少するので、修正後の復帰トルクによる切り戻し方向への操舵促進トルクを増大させることができる。従って、回避操舵が目標操舵操作量からの切り増し操舵及び切り戻し操舵の何れの場合にも、回避操舵に必要な操舵力を低減することができる。
【0017】
本発明の一つの態様においては、制御ユニット(ECU14)は、回避操舵が必要であると判定したときには(S50)、現在の操舵操作量からの操舵操作量の変化量に対する修正後の復帰トルクの変化量の比が、回避操舵が不必要であると判定したときに比して小さくなるように、制御トルクを変更する(S80~S100)よう構成される。
【0018】
上記態様によれば、車両が障害物に衝突することを回避するための回避操舵が必要であると判定されたときには、現在の操舵操作量からの操舵操作量の変化量に対する修正後の復帰トルクの変化量の比が、回避操舵が不必要であると判定されたときに比して小さくなるように、制御トルクが変更される。
【0019】
よって、操舵操作量が現在の操舵操作量から増大する(切り増しする)よう回避操舵が行われる場合には、操舵操作量の増大量に対する修正後の復帰トルクの増大量の比が減少するので、復帰トルクが修正されない場合に比して、回避操舵に対する抗力トルクを低減することができる。逆に、操舵操作量が現在の操舵操作量から減少する(切り戻しする)よう回避操舵が行われる場合には、操舵操作量の減少量に対する修正後の復帰トルクの減少量の比が減少するので、復帰トルクが修正されない場合に比して、修正後の復帰トルクによる切り戻し方向への操舵促進トルクを増大させることができる。従って、回避操舵が現在の操舵操作量からの切り増し操舵及び切り戻し操舵の何れの場合にも、回避操舵に必要な操舵力を低減することができる。
【0020】
上記説明においては、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態に対応する発明の構成に対し、その実施形態で用いられる名称及び/又は符号が括弧書きで添えられている。しかし、本発明の各構成要素は、括弧書きで添えられた名称及び/又は符号に対応する実施形態の構成要素に限定されるものではない。本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明による操舵支援装置の実施形態を示す概略構成図である。
図2】第一の実施形態における目標制御トルクTctの制御ルーチンを示すフローチャートである。
図3図2のステップS10において実行される目標基本制御トルクTctbのマップ決定のサブルーチンを示すフローチャートである。
図4】操舵角θ及び車速Vと復帰トルクTreとの関係を示す図である。
図5】操舵角θ及び車速Vに基づいて復帰トルクTreaを演算するためのマップである。
図6】撮影基準位置などを説明するための図である。
図7】操舵角θに基づいて目標基本制御トルクTctbを演算するためのマップである。
図8】車速Vに基づいて変換係数Kvを演算するためのマップである。
図9】車両が直進走行する状況について、操舵角θに基づいて復帰トルクTreを演算するためのマップである。
図10】直進走行している車両の前方に障害物が存在し、回避操舵が必要な状況を示す図である。
図11】車両が右へカーブ走行する状況について、操舵角θに基づいて復帰トルクTreを演算するためのマップである。
図12】右へカーブ走行している車両の前方に障害物が存在し、回避操舵が必要な状況を示す図である。
図13】第二の実施形態における目標制御トルクTctの制御ルーチンを示すフローチャートである。
図14】第一の実施形態において、操舵角θ及び車速Vに基づいて目標制御トルクTctを演算するためのマップである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第一の実施形態]
第一の実施形態にかかる操舵支援装置100は、図1に示されているように、操舵装置10、電動パワーステアリング・ECU40及び操舵支援ECU50を備えた車両60に適用されている。本明細書においては、電動パワーステアリングは必要に応じてEPS(Electric Power Steeringの略)と呼称される。
【0023】
電動パワーステアリング・ECU40及び操舵支援ECU50は、マイクロコンピュータを主要部として備える電子制御装置(Electronic Control Unit)であり、CAN(Controller Area Network)62を介して相互に情報を送受信可能に接続されている。各マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースなどを含んでいる。CPUは、ROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。これらのECUは、幾つか又は全部が一つのECUに統合されてもよい。
【0024】
図1に示されているように、操舵装置10はEPS装置12を含み、EPS装置12は、運転者によるステアリングホイール14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型の電動パワーステアリング装置として構成されている。EPS装置12のラックバー18は、タイロッド20L及び20Rを介して前輪16FL及び16FRのナックルアーム(図示せず)に連結されている。ステアリングホイール14はステアリングシャフト22及びユニバーサルジョイント24を介してEPS装置12のピニオンシャフト26に接続されている。
【0025】
車両60の旋回時には、転舵輪である前輪16FL及び16FRにはセルフアライニングトルクが作用し、セルフアライニングトルクは、操舵装置10を介してステアリングホイール14へ伝達される。従って、ステアリングホイール14には、それを中立位置、即ち車両の直進位置へ付勢する復帰トルクTre(後述の操舵アシストトルクTsaが発生していないときの復帰トルク)が作用する。セルフアライニングトルクは、前輪の転舵角が大きくなるにつれて大きくなると共に車速が高くなるにつれて大きくなる。
【0026】
ステアリングホイール14の回転角である操舵角θは、車両60の右旋回時に正になり、復帰トルクTreは、反時計回り方向に作用するときに正になるとすると、図4に示されているように、復帰トルクTreの大きさは、操舵角θの絶対値が大きくなるにつれて大きくなる。復帰トルクTreの増大率は、操舵角θの絶対値が大きくなるにつれて小さくなる。更に、復帰トルクTreの大きさは、車速Vが高いほど大きくなる。
【0027】
図示の実施形態においては、EPS装置12はラック同軸型の電動パワーステアリング装置であり、電動機28と、電動機28の回転トルクをラックバー18の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構30と、を有している。EPS装置12は、ハウジング32に対し相対的にラックバー18を駆動することにより、操舵アシストトルクTsaを発生する。よって、操舵アシストトルクTsaが発生しているときの復帰トルクTreaの大きさは、図5に示されているように、復帰トルクTreの大きさよりも小さい。
【0028】
EPS装置12は、復帰トルクTreaを修正する制御トルクTcを発生する制御トルク発生装置として機能する。制御トルクTcの大きさは、復帰トルクTreaの大きさの10分の1程度である。更に、EPS装置12は、運転者により操舵が行われるときには、運転者の操舵負担を軽減するよう、必要に応じて操舵トルクTs及び車速Vに基づいて操舵アシストトルクTsaを発生する。EPS・ECU40は、EPS装置12を制御することにより、操舵アシストトルクTsa及び制御トルクTcを制御する。EPS・ECU40には、車速センサ41により検出された車速Vを示す信号が入力される。
【0029】
なお、EPS装置10は、アシストトルクTsa及び制御トルクTcを発生することができる限り、当技術分野において公知の任意の構成のものであってよい。例えば、EPS装置12は、ラック同軸型ではないラックアシスト型又はコラムアシスト型の電動パワーステアリング装置であってもよい。
【0030】
ステアリングシャフト22には、操舵角θ、即ちステアリングシャフト22の回転角度を検出する操舵角センサ34と、操舵トルクTsを検出する操舵トルクセンサ36とが設けられている。操舵角センサ34により検出された操舵角θを示す信号及び操舵トルクセンサ36により検出された操舵トルクTsを示す信号も、EPS・ECU40へ入力される。なお、操舵角センサ34及び操舵トルクセンサ36は、車両60が右旋回する際に検出される値を正として、それぞれ操舵角θ及び操舵トルクTsを検出する。
【0031】
図1に示されているように、操舵支援ECU50には、カメラセンサ51、レーダーセンサ52、操舵制御スイッチ53及び警報装置54が接続されている。なお、車速センサ41、カメラセンサ51などの少なくとも一部が、CAN62又は他のECUに接続されていてもよい。
【0032】
カメラセンサ51は、車両60の前方の風景を撮影するカメラ部と、カメラ部によって撮影して得られた画像データを解析して道路の白線(車線境界)や障害物を認識する認識部とを備えている。カメラセンサ51の認識部は、認識した白線や障害物に関する情報を所定の演算周期が経過する毎に繰り返し操舵支援ECU50に供給する。
【0033】
レーダーセンサ52は、レーダ送受信部及び信号処理部(図示せず)を備えており、レーダ送受信部が、ミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」と称呼する)を放射し、放射範囲内に存在する立体物(例えば、他車両、自転車、ガードレール、路側の構造物など)によって反射されたミリ波(即ち、反射波)を受信する。信号処理部は、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベル及びミリ波を送信してから反射波を受信するまでの時間などに基づいて、自車両と立体物との距離、自車両と立体物との相対速度、自車両に対する立体物の相対位置(方向)などを表す情報(周辺情報)を所定時間の経過毎に取得して操舵支援ECU50に供給する。
【0034】
操舵制御スイッチ53は、運転者により操作され、オンであるか否かを示す信号を操舵支援ECU50に供給する。操舵制御スイッチ53がオンであることは、後述のように操舵のガイドが行われることを意味する。
【0035】
警報装置54は、操舵支援ECU50により車両60の前方に障害物があり、障害物に衝突しないよう回避操舵が行われる必要があると判定されたときに作動され、警報の発出を行う。警報装置54は、警報ランプのような視覚警報を発する警報装置、警報ブザーのような聴覚警報を発する警報装置、シートの振動のような体感警報を発する警報装置の何れであってもよく、それらの任意の組合せであってもよい。
【0036】
<目標制御トルクTctの演算>
第一の実施形態においては、操舵支援ECU50は、以下のように目標制御トルクTctを演算し、目標制御トルクTctを示す信号をEPS・ECU40へ出力する。EPS・ECU40は、制御トルクTcが目標制御トルクTctになるようにEPS装置10を制御する。
【0037】
なお、制御トルクTcは、実際の操舵角θが目標操舵角θtから離れるようドライバーが切り増し操舵する際には、操舵を抑制する方向に作用する。また、制御トルクTcは、実際の操舵角θが目標操舵角θtから離れるようドライバーが切り戻し操舵する際には、制御トルクTcが作用しない場合に比して、切り戻し操舵の容易性が低下するように作用する。よって、制御トルクTcは、実際の操舵角θが目標操舵角θtになるようドライバーの操舵をガイドする操舵ガイドトルクとして作用する。
【0038】
図6に示されているように、カメラセンサ51は、車両60のフロントガラス60aの内面の上方部に固定され、車両60の基準位置である重心60bから前方へ距離Lca(正の定数)の撮影基準位置Pcaを中心に車両60の前方の画像を撮影する。距離Lcaを必要に応じて撮影基準距離Lcaと呼ぶ。車両60の基準位置は、前輪16FL及び16FRの位置、前後輪の中間位置などであってもよい。
【0039】
操舵支援ECU50は、カメラセンサ51により取得された車両60の前方の車線の白線情報に基づいて、撮影基準位置Pcaを中心とする領域について走行路のカーブ曲率ρcaを演算し、RAMに保存する。よって、カメラセンサ51及び操舵支援ECU50は、撮影基準位置Pcaを中心とする領域について走行路のカーブ曲率ρcaを検出する検出装置として機能する。
【0040】
更に、操舵支援ECU50は、RAMから先読み時間Δtに対応するカーブ曲率ρcaを先読みのカーブ曲率ρpreとして読み出し、そのカーブ曲率ρpreに基づいて目標操舵角θtを演算する。目標操舵角θtは、実際の操舵角が車両60をカーブに沿って走行させるのに適した範囲内に留まり易くするための目標操舵角である。なお、第一の実施形態においては、車両60が右旋回する方向の曲率が正である。
【0041】
カーブ曲率ρca[1/m]は、下記の式(1)に従って演算される。なお、下記の式(1)において、Vは車速[m/s]であり、ρは車両60の重心60bにおける走行路のカーブ曲率[1/m]である。よって、ρは、車両60が図6に示された撮影基準距離Lcaを走行するに要する時間Lca/V前に演算されRAMに保存されたカーブ曲率ρcaである。Δρは、時間Lca/V前に演算されRAMに保存されたカーブ曲率ρcaの変化率[1/m/m]、即ちカーブ曲率の単位距離当りの変化量である。
ρca=ρ+VΔtΔρ …(1)
【0042】
図6に示されているように、車両60の重心60bと先読み位置Ppreとの間の距離(先読み距離)Lpreは、撮影基準距離Lcaよりも小さい。なお、先読み距離Lpreは一定でなくてもよい。以上の説明から解るように、カーブ曲率ρpreは、先読み位置Ppreにおけるカーブ曲率、即ち車両60の重心60bが先読み時間Δt後に到達する位置におけるカーブ曲率である。
【0043】
目標操舵角θt[deg]は、下記の式(2)に従って演算される。なお、下記の式(2)において、Rstは操舵装置10の操舵ギヤ比であり、Aは車両60のスタビリティファクタ[deg/(m2/s2)]であり、Lwは車両60のホイールベースである。操舵ギヤ比Rst、スタビリティファクタA及びホイールベースLwは、車両60の仕様により定まる既知の一定値である。
θt=Rst(1+AV)ρpreLw …(2)
【0044】
更に、操舵支援ECU50は、実際の操舵角θと目標操舵角θtとの偏差θ-θtである操舵角の偏差Δθに基づいて目標基本制御トルクTctbを演算する。また、操舵支援ECU50は、車速係数Kvと目標基本制御トルクTctbとの積KvTctbとして、目標制御トルクTctを演算する。
【0045】
なお、目標基本制御トルクTctbは、図7に示されているように、操舵角の偏差Δθの絶対値がθt+θc未満であるときには、操舵角の偏差Δθの絶対値が大きいほど大きくなり、操舵角の偏差Δθの絶対値がθt+θc以上であるときには、絶対値がTctbmaxの一定値に演算される。なお、θcは正の定数であってよい。車速係数Kvは、図8に示されているように、車速Vが低いほど小さくなる1以下で0以上の値である。
【0046】
<回避操舵の要否に基づく目制御トルクTctの修正>
第一の実施形態においては、車両60の前方に障害物が存在しないときには、目制御トルクTctは低減修正されない。しかし、車両60の前方に障害物が存在し、障害物と衝突しないよう回避操舵が必要であるときには、回避操舵を容易に行うことができるよう、目制御トルクTctが低減される。よって、復帰トルクTreaは、低減された目制御トルクTctにて修正される。
【0047】
操舵支援ECU50のROMは、図2及び図3に示されたフローチャートに対応する目標制御トルクTctの制御プログラムを記憶している。CPUは、ROMから制御プログラムをRAMに読み出し、後に詳細に説明するように、図2及び図3に示されたフローチャートに従って目標制御トルクTctの制御を実行する。また、ROMは、図5及び図6に示されたマップを記憶している。
【0048】
<目標制御トルクTctの制御ルーチン>
次に、図2に示されたフローチャートを参照して第一の実施形態における目標制御トルクTctの制御ルーチンについて説明する。なお、図2に示されたフローチャートによる目標制御トルクTctの制御は、図には示されていないイグニッションスイッチ及び操舵制御スイッチ53がオンであるときに、操舵支援ECU50のCPUにより所定の時間毎に繰返し実行される。また、以下の説明においては、図2に示されたフローチャートによる目標制御トルクTctの制御を単に制御と指称する。
【0049】
まず、ステップS10においては、CPUは、図3に示されたフローチャートに従って目標基本制御トルクTctbのマップを決定する。
【0050】
ステップS30においては、CPUは、車速Vに基づいて図8に示されたマップを参照することにより、車速係数Kvを演算する。なお、図8に示されたV1及びV2は、それぞれ例えば20km/h、60km/hであってよい。また、図8においては、車速係数Kvは車速Vが低い領域において0であるが、車速Vが低い領域においても正の値であってもよい。
【0051】
ステップS40においては、CPUは、カメラセンサ51及びレーダーセンサ52により検出された情報に基づいて、車両60の前方に停止車両のような障害物が存在するか否かを判別する。CPUは、否定判別をしたときには、制御をステップS60へ進め、肯定判別をしたときには、制御をステップS50へ進める。
【0052】
ステップS50においては、CPUは、障害物に衝突しないよう回避操舵が行われる必要があるか否かを判別する。CPUは、否定判別をしたときには、ステップS60において、補正係数Kaを1に設定し、肯定判別をしたときには、制御をステップS70へ進める。
【0053】
ステップS70においては、CPUは、警報装置54を作動させることにより、障害物に衝突しないよう回避操舵が行われる必要がある旨の警報を発出する。
【0054】
ステップS80においては、CPUは、補正係数Kaを0以上で1よりも小さいKaeに設定する。
【0055】
ステップS90においては、CPUは、下記の式(3)に従って目標制御トルクTctを演算することにより、図7に示された目標基本制御トルクTctbのマップに対応する目標制御トルクTctのマップを設定する。
Tct=KaKvTctb …(3)
【0056】
ステップS100においては、CPUは、目標制御トルクTctのマップを示す信号をEPS・ECU40へ出力する。EPS・ECU40は、目標制御トルクTctのマップにて復帰トルクTreaのマップ(図5)を修正し、修正後の復帰トルクTreaのマップに基づいて目標復帰トルクTretを演算し、復帰トルクが目標復帰トルクTretになるようにEPS装置12を制御する。図11の一点鎖線は、修正後の復帰トルクTreaのマップの一例を示している。
【0057】
図3に示されたフローチャートのステップS12においては、CPUは、カメラセンサ51により取得された車両60の前方の車線の白線情報に基づいて、撮影基準位置Pcaを中心とする領域についてカーブ曲率の変化率Δρを演算し、RAMに保存する。
【0058】
ステップS14においては、上記式(1)に従って、撮影基準位置Pcaを中心とする領域について走行路のカーブ曲率ρcaを演算し、RAMに保存する。なお、制御を開始してから時間Lca/Vが経過するまでの間は、カーブ曲率ρcaは0に設定されてよい。
【0059】
ステップS16においては、CPUは、先読み時間Δt前に演算されRAMに保存されたカーブ曲率ρcaを、先読み位置Ppreにおけるカーブ曲率ρpreとしてRAMから読み出す。
【0060】
ステップS18においては、CPUは、車速V及び先読み位置Ppreにおけるカーブ曲率ρpreに基づいて、上記式(2)に従って、車両60が走行路のカーブに沿って走行するための目標操舵操作量としての目標操舵角θtを演算する。
【0061】
ステップS20においては、CPUは、図7に示されているように、操舵角θが目標操舵角θtであるときに目標基本制御トルクTctbが0になるように、目標基本制御トルクTctbのマップを決定する。上述のように、目標基本制御トルクTctbの大きさは、操舵角θと目標操舵角θtとの偏差Δθ(=θ-θt)の絶対値がθt+θc未満であるときには、操舵角の偏差Δθの絶対値が大きいほど大きくなる。更に、目標基本制御トルクTctbの大きさは、操舵角の偏差Δθの絶対値がθt+θc以上であるときには、Tctbmaxの一定値になる。
【0062】
<第一の実施形態の作動>
次に、目標操舵角θtが0である場合(C1)、目標操舵角θtが正の値である場合(C2)及び目標操舵角θtが負の値である場合(C3)について、第一の実施形態の作動を説明する。
【0063】
<C1.目標操舵角θtが0である場合>
目標操舵角θtが0である場合とは、車両60が直線の車線に沿って走行する場合である。障害物に衝突しないようにするための回避操舵が不要であり、補正係数Kaが1であるときには、目標制御トルクTctの大きさは低減されないので、目標制御トルクTctにて修正された後の復帰トルクTreaのマップは、例えば図9において一点鎖線にて示されたマップになる。即ち、0からの操舵角θの変化量に対する修正後の復帰トルクTreaの変化量の比が、操舵角θの変化量に対する修正前の復帰トルクTrea(図9の実線)の変化量の比よりも大きくなる。
【0064】
よって、操舵角θが0以外の値に変化するときの反力トルクは、復帰トルクTreaが目標制御トルクTctにて修正されることにより大きくなるので、操舵角θは目標操舵角θt、即ち0に留まり易くなる。従って、操舵角θが目標操舵角θt(=0)になるよう操舵のガイドが行われる。
【0065】
図10は、道路70が直線であり、車両60が車線72内にて直進走行し、車両60の前方に停止車両74のような障害物が存在する状況を示している。この状況においては、車両60が障害物に衝突しないようにするための回避操舵が必要であるので、補正係数Kaが1よりも小さいKaeになり、目標制御トルクTctの大きさが低減される。よって、修正後の復帰トルクTreaのマップは、例えば図9において破線にて示されたマップになる。即ち、0からの操舵角θの変化量に対する修正後の復帰トルクTreaの変化量の比が、一点鎖線の場合よりも小さくなる。
【0066】
よって、操舵角θが0以外の値に変化するときの反力トルクは、一点鎖線の場合よりも小さくなる。従って、回避操舵による操舵角θの変化が0から正の値への変化(時計回り方向への操舵)及び0から負の値への変化(反時計回り方向への操舵)の何れの場合にも、操舵角θが回避操舵に必要な操舵角になり易くなる。換言すれば、回避操舵開始時の反力トルクが小さくなるので、運転者による回避操舵が容易になる。
【0067】
<C2.目標操舵角θtが正の値である場合>
目標操舵角θtが正の値である場合とは、車両60が右にカーブする車線に沿って走行する場合である。障害物に衝突しないようにするための回避操舵が不要であり、補正係数Kaが1であるときには、目標制御トルクTctの大きさは低減されないので、修正後の復帰トルクTreaのマップは、例えば図11において一点鎖線にて示されたマップになる。即ち、θt-θcからθt+θcまでの操舵角θの範囲において、目標操舵角θtからの操舵角θの変化量に対する修正後の復帰トルクTreaの変化量の比が、操舵角θの変化量に対する修正前の復帰トルクTrea(図11の実線)の変化量の比よりも大きくなる。
【0068】
よって、操舵角θが目標操舵角θtから増大するときの反力トルクは、復帰トルクTreaの大きさが目標制御トルクTctにて修正されることにより大きくなるので、操舵角θは目標操舵角θtに留まり易くなる。逆に、操舵角θが目標操舵角θtから減少するときの反力トルクは、復帰トルクTreaの大きさが目標制御トルクTctにて修正されることにより小さくなるので、復帰トルクTreaが修正されない場合(図11の実線)に比して、操舵角θの減少が容易ではなくなる。従って、操舵角θが目標操舵角θtになり易くなるよう操舵のガイドが行われる。
【0069】
図12は、道路70が右へカーブしており、車両60が車線70内にて右へカーブ走行し、車両60の前方に停止車両72のような障害物が存在する状況を示している。この状況においては、障害物に衝突しないようにするための回避操舵が必要であるので、補正係数Kaが1よりも小さいKaeになり、目標制御トルクTctの大きさが低減される。よって、修正後の復帰トルクTreaのマップは、例えば図11において破線にて示されたマップになる。即ち、目標操舵角θtからの操舵角θの変化量に対する修正後の復帰トルクTreaの変化量の比が、一点鎖線の場合よりも小さくなる。
【0070】
よって、操舵角θが切り増しにより目標操舵角θtから増大するときの反力トルクは、一点鎖線の場合よりも小さくなる。従って、回避操舵による操舵角θの変化が増大変化である場合にも、即ち回避操舵が切り増し操舵である場合にも、操舵角θが回避操舵に必要な操舵角になり易くなる。換言すれば、切り増し方向へ回避操舵開始時の反力トルクが小さくなるので、運転者による回避操舵が容易になる。
【0071】
逆に、操舵角θが切り戻しにより目標操舵角θtから減少するときの復帰トルクは、一点鎖線の場合よりも大きくなるので、操舵角θは減少し易くなる。従って、回避操舵による操舵角θの変化が減少変化である場合にも、即ち回避操舵が切り戻し操舵である場合にも、回避操舵に必要な操舵角になり易くなる。換言すれば、切り戻し方向へ回避操舵開始時の復帰トルクが大きくなるので、運転者による回避操舵が容易になる。
【0072】
<C3.目標操舵角θtが負の値である場合>
目標操舵角θtが負の値である場合とは、車両60が左にカーブする車線に沿って走行する場合である。この場合には、操舵角θ、復帰トルクTreaなどが負の値である点を除き、上記C2の場合と同様に復帰トルクTreaが制御される。
【0073】
よって、回避操舵が不要である場合には、操舵角θが目標操舵角θtになり易くなるよう操舵のガイドが行われる。また、回避操舵が必要である場合には、復帰トルクTreaの大きさが目標制御トルクTctにて修正されることにより、操舵角θが回避操舵に必要な操舵角になり易くなる。従って、回避操舵が切り増し操舵及び切り戻し操舵の何れである場合にも、運転者による回避操舵が容易になる。
【0074】
[第二の実施形態]
図13は、第二の実施形態における目標制御トルクTctの制御ルーチを示すフローチャートである。なお、図13に示されたフローチャートによる目標制御トルクTctの制御は、図には示されていないイグニッションスイッチがオンであり操舵制御スイッチ53がオフであるときに、操舵支援ECU50のCPUにより所定の時間毎に繰返し実行される。また、以下の説明においては、図13に示されたフローチャートによる目標制御トルクTctの制御を単に制御と指称する。
【0075】
CPUは、それぞれ第一の実施形態のステップS40、S50及びS70と同様にステップS210乃至S230を実行する。但し、CPUは、ステップS210及びS220において否定判定をしたときには、制御を一旦終了する。
【0076】
ステップS240においては、CPUは、例えば操舵角θの絶対値が基準値以下であるか否かの判定により、車両60が直進しているか否かを判別する。CPUは、否定判別をしたときには、制御をステップS260へ進め、肯定判別をしたときには、制御をステップS250へ進める。
【0077】
ステップS250においては、CPUは、後述のステップS260における目標制御トルクTctのマップの設定に供される現在の操舵角θaを0に設定する。
【0078】
ステップS260においては、CPUは、図14に示された目標制御トルクTctのマップを設定する。図14に示されているように、目標制御トルクTctは、操舵角θが現在の操舵角θaよりも大きい領域においては負の値であり、操舵角θが現在の操舵角θaよりも小さい領域においては正の値である。目標制御トルクTctの大きさは、操舵角θと現在の操舵角θaとの偏差Δθa(=θ-θa)の絶対値がθ+θc未満であるときには、操舵角の偏差Δθaの絶対値が大きいほど大きくなる。また、目標制御トルクTctの大きさは、操舵角の偏差Δθaの絶対値がθ+θc以上であるときには、一定値になる。更に、目標制御トルクTctの大きさは、車速Vが高いほど大きい。なお、θcは第一の実施形態におけるθcと異なる値であってもよい。
【0079】
ステップS270においては、CPUは、上記ステップS100と同様に、目標制御トルクTctのマップを示す信号をEPS・ECU40へ出力する。EPS・ECU40は、目標制御トルクTctのマップにて復帰トルクTreaのマップ(図5)を修正し、修正後の復帰トルクTreaのマップに基づいて目標復帰トルクTretを演算し、復帰トルクが目標復帰トルクTretになるようにEPS装置12を制御する。図11の二点鎖線は、修正後の復帰トルクTreaのマップの一例である。
【0080】
<第二の実施形態の作動>
次に、現在の操舵角θaが0である場合(C4)、現在の操舵角θaが正の値である場合(C5)及び現在の操舵角θaが負の値である場合(C6)について、第二の実施形態の作動を説明する。
【0081】
<C4.現在の操舵角θaが0である場合>
現在の操舵角θaが0である場合とは、車両60が直線の車線に沿って走行する場合である。障害物に衝突しないようにするための回避操舵が不要であるときには、復帰トルクTreaのマップは目標制御トルクTctにて修正されない。よって、復帰トルクTreaのマップは、例えば図9において実線にて示されたマップになる。
【0082】
これに対し、例えば図10に示された状況のように、車両60が障害物に衝突しないようにするための回避操舵が必要である場合には、復帰トルクTreaのマップは目標制御トルクTctにて修正される。よって、修正後の復帰トルクTreaのマップは、例えば図9において二点鎖線にて示されたマップになる。即ち、0からの操舵角θの変化量に対する修正後の復帰トルクTreaの変化量の比が、操舵角θの変化量に対する修正前の復帰トルクTrea(図9の実線)の変化量の比よりも小さくなる。
【0083】
よって、操舵角θが0以外の値に変化するときの反力トルクは、復帰トルクTreaが目標制御トルクTctにて修正されることにより小さくなる。従って、回避操舵による操舵角θの変化が正の値への変化(時計回り方向への操舵)及び負の値への変化(反時計回り方向への操舵)の何れの場合にも、操舵角θが回避操舵に必要な操舵角になり易くなる。換言すれば、回避操舵開始時の反力トルクが小さくなるので、運転者による回避操舵が容易になる。
【0084】
<C5.現在の操舵角θaが正の値である場合>
現在の操舵角θaが正の値である場合とは、車両60が右にカーブする車線に沿って走行する場合である。障害物に衝突しないようにするための回避操舵が不要であるときには、目標制御トルクTctのマップは目標制御トルクTctにて修正されない。よって、復帰トルクTreaのマップは、例えば図11において実線にて示されたマップになる。
【0085】
これに対し、例えば図12に示された状況のように、車両60が障害物に衝突しないようにするための回避操舵が必要である場合には、復帰トルクTreaのマップは目標制御トルクTctにて修正される。よって、復帰トルクTreaのマップは、例えば図11において二点鎖線にて示されたマップになる。即ち、θa-θcからθa+θcまでの操舵角θの範囲において、操舵角θaからの操舵角θの変化量に対する修正後の復帰トルクTreaの変化量の比が、操舵角θの変化量に対する修正前の復帰トルクTrea(図11の実線)の変化量の比よりも小さくなる。
【0086】
よって、操舵角θが操舵角θaから増大するときの反力トルクは、復帰トルクTreaの大きさが目標制御トルクTctにて修正されることにより小さくなる。即ち、操舵角θが切り増しにより操舵角θaから増大するときの反力トルクは、実線の場合よりも小さくなる。従って、回避操舵による操舵角θの変化が増大変化である場合にも、即ち回避操舵が切り増し操舵である場合にも、操舵角θが回避操舵に必要な操舵角になり易くなる。換言すれば、切り増し方向への回避操舵開始時の反力トルクが小さくなるので、運転者による回避操舵が容易になる。
【0087】
逆に、操舵角θが切り戻しにより操舵角θaから減少するときの復帰トルクは、実線の場合よりも大きくなるので、操舵角θは減少し易くなる。従って、回避操舵による操舵角θの変化が減少変化である場合にも、即ち回避操舵が切り戻し操舵である場合にも、回避操舵に必要な操舵角になり易くなる。換言すれば、切り戻し方向への回避操舵開始時の復帰トルクが大きくなるので、運転者による回避操舵が容易になる。
【0088】
<C6.現在の操舵角θaが負の値である場合>
現在の操舵角θaが負の値である場合とは、車両60が左にカーブする車線に沿って走行する場合である。この場合には、操舵角θ、復帰トルクTreaなどが負の値である点を除き、上記C5の場合と同様に復帰トルクTreaが制御される。
【0089】
よって、回避操舵が不要である場合には、目標制御トルクTctのマップは目標制御トルクTctにて修正されない。また、回避操舵が必要である場合には、復帰トルクTreaの大きさが目標制御トルクTctにて修正されることにより、操舵角θが回避操舵に必要な操舵角になり易くなる。従って、回避操舵が切り増し操舵及び切り戻し操舵の何れである場合にも、運転者による回避操舵が容易になる。
【0090】
以上においては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0091】
例えば、上述の第一及び第二実施形態においては、操舵装置10は、ステアリングホイール14と左右の前輪16FL、16FRとが機械的に接続され、電動パワーステアリング装置12を含む操舵装置である。しかし、本発明の車両用操舵支援装置は、操舵装置がステアバイワイヤ式の操舵装置である車両に適用されてもよい。操舵装置がステアバイワイヤ式の操舵装置である場合には、ステアリングホイールに操舵反力を付与するアクチュエータにより、修正後の復帰トルクTreaが発生されてよい。
【0092】
また、上述の第二の実施形態においては、図13に示されたフローチャートによる目標制御トルクTctの制御は、イグニッションスイッチがオンであり操舵制御スイッチ53がオフであるときに、実行される。しかし、第二の実施形態は、操舵制御スイッチ53が設けられておらず、操舵ガイドが行われない車両に適用されてもよい。
【0093】
更に、上述の第一及び第二実施形態においては、操舵入力部材は、回転操作されるステアリングホイール14であるが、例えば枢動操作されるジョイスティク型の操舵入力部材であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
10…操舵装置、12…EPS装置、14…ステアリングホイール、16FL,16FR…前輪、40…電動パワーステアリング・ECU、41…車速センサ、50…操舵支援ECU、51…カメラセンサ、52…レーダーセンサ、53…操舵制御スイッチ、60…車両、100…操舵支援装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14