(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】動物用の生体情報計測用衣服および生体情報計測方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/256 20210101AFI20241106BHJP
A61B 5/352 20210101ALI20241106BHJP
【FI】
A61B5/256 210
A61B5/352
(21)【出願番号】P 2021527600
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2020022370
(87)【国際公開番号】W WO2020261943
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019119468
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 陽子
(72)【発明者】
【氏名】表 雄一郎
【審査官】鳥井 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/035420(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/047814(WO,A1)
【文献】特開2018-007648(JP,A)
【文献】特開2008-043369(JP,A)
【文献】特開2006-141467(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049470(WO,A1)
【文献】特開2019-050936(JP,A)
【文献】特開2019-047962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61D 13/00
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体接触型の電極を有する
四足歩行動物用の生体情報計測用衣服であって、
前記生体情報計測用衣服の前身頃、及び/又は、後身頃の縦方向の引張伸度EMTが5%以上、110%以下であり、横方向の引張伸度EMTが10%以上、130%以下であ
り、
横方向の引張伸度EMTの方が縦方向の引張伸度EMTよりも大きいことを特徴とする
四足歩行動物用の生体情報計測用衣服。
【請求項2】
前記生体情報計測用衣服の前身頃と後身頃とが伸縮性のある織編物からなる接続部にて接続されていることを特徴とする請求項1に記載の生体情報計測用衣服。
【請求項3】
前記織編物は、頭部から尾部の方向の伸び率が100%以上である請求項2に記載の生体情報計測用衣服。
【請求項4】
前記生体情報計測用衣服の少なくとも、肩、肩関節部、腕から選択されるひとつの部分に、前記織編物が形成されていることを特徴とする請求項
2または3に記載の生体情報計測用衣服。
【請求項5】
前記生体情報計測用衣服の後身頃の身体に接する側に、身体接触型の電極が位置することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の生体情報計測用衣服。
【請求項6】
四足歩行動物の胴回り方向に幅1cm以上、30cm以下の帯が取り付けられていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の生体情報計測用衣服。
【請求項7】
前記帯は、前記身体接触型の電極位置の衣服外側に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の生体情報計測用衣服。
【請求項8】
前記生体情報計測用衣服において、身体接触型の電極が胸郭に位置することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の生体情報計測用衣服。
【請求項9】
測定対象である生体情報が、心電図におけるR波とR波との間隔であるR-R間隔であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の生体情報計測用衣服。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の生体情報計測用衣服を
四足歩行動物に着用させて生体情報を計測する生体情報計測方法。
【請求項11】
前記身体接触型の電極に導電性基剤を塗布することを特徴とする請求項10に記載の生体情報計
測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用している動物が激しく大きな動作を行った場合にも、電極部が身体からずれにくく、高精度に生体情報を計測可能な動物用の生体情報計測用衣服、生体情報計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペットの健康を重視する飼い主が増えてきており、ペットの生体情報を手軽に行うことへのニーズが高まっている。イヌやネコ、ウサギ、ヤギ、ミニブタ、ウマ等の被毛に覆われた動物の体に生体情報モニタ用センサ(電極)を密着させる場合、できる限り被毛をかき分けるか、毛刈りを行う必要がある。特許文献1では、生体情報モニタ用センサ(電極)部位を毛刈りせずとも、もしくは、毛刈りを行う必要があっても飼い主等の了解が得られる程度の最小限の大きさで済むように、電極を粘着パッドを利用して検出部位に接着するだけでなく、固定具により電極に外部から力を加えて、適度に圧迫することにより、イヌに不快感を与えず、長時間心電図計測を良好に行うことができるジャケットについて発明されている。
【0003】
特許文献2では、動物の腋窩に電極を押し付けて、長時間の生体情報の計測が可能な装着具を発明している。当該生体情報測定具は、当該動物の腋窩に測定部が密着するように、紐形状の引き上げバンドの長さを調節することができる。イヌの場合、腋窩は被毛の密度が低い場合が多いため、測定部が体に密着されやすいということが考えられる。しかしながら、いずれも電極の設置部位は腋窩といった胸部下部であるため、イヌが伏臥位となった場合に、電極やデバイスがイヌと床の間に挟まれて身体に強く押しつけられてしまうために、電極位置がずれやすく、また犬が不快感を示し、また強く接触する部位の皮膚に損傷を与えるなどの不都合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-141467
【文献】WO2017/026416
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、大きな動作においても、前身頃、後身頃の引張伸度が大きいことから伸びやすく、電極部が身体からずれにくく、高精度に生体情報を計測可能な動物用の生体情報計測用衣服、生体情報計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
[1]身体接触型の電極を有する動物用の生体情報計測用衣服であって、前記生体情報計測用衣服の前身頃、及び/又は、後身頃の縦方向の引張伸度EMTが5%以上、110%以下であり、横方向の引張伸度EMTが10%以上、130%以下であることを特徴とする生体情報計測用衣服。
[2]前記生体情報計測用衣服の前身頃と後身頃とが伸縮性のある織編物からなる接続部にて接続されていることを特徴とする[1]に記載の生体情報計測用衣服。
[3]前記織編物は、頭部から尾部の方向の伸び率が100%以上である[2]に記載の生体情報計測用衣服。
[4]前記生体情報計測用衣服の少なくとも、肩、肩関節部、腕から選択されるひとつの部分に、前記織編物が形成されていることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の生体情報計測用衣服。
[5]前記生体情報計測用衣服の後身頃の身体に接する側に、身体接触型の電極が位置することを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の生体情報計測用衣服。
[6]動物の胴回り方向に幅1cm以上、30cm以下の帯が取り付けられていることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の生体情報計測用衣服。
[7]前記帯は、前記身体接触型の電極位置の衣服外側に配置されていることを特徴とする[6]に記載の生体情報計測用衣服。
[8]前記生体情報計測用衣服において、身体接触型の電極が胸郭に位置することを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載の生体情報計測用衣服。
[9]測定対象である生体情報が、心電図におけるR波とR波との間隔であるR-R間隔であることを特徴とする[1]~[8]のいずれかに記載の生体情報計測用衣服。
[10]前記[1]~[9]のいずれかに記載の生体情報計測用衣服を動物に着用させて生体情報を計測する生体情報計測方法。
[11]前記身体接触型の電極に導電性基剤を塗布することを特徴とする[10]に記載の生体情報計測方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明はウェアラブルな測定系により生体情報計測を行うために用いられる。本発明は、主に動物門の生体情報計測への適用を念頭に置き、好ましくは脊椎動物、さらに好ましくは陸上生活する脊椎動物への適用が好ましく。なお好ましくは哺乳類、爬虫類、両生類を含む四足歩行動物への適用が好ましい。本発明はハーネス、ベルト、衣服等(以下、総じて衣服という)を装着できる動物に適用される。
本発明者らは、動き回る動物門の生体情報を精度よく計測するためには、身体接触型の電極が動作により身体からずれないことが重要だと考えた。すなわち、本発明の生体情報計測用衣服は、引張伸度EMTの大きな前身頃、後身頃からなる生体情報計測用衣服であるため、動物が動作しても身体接触型の電極が身体からずれにくい。さらに、前記生体情報計測用衣服は胴回りに帯を有しているため、動作により前記電極が身体からずれることを防ぐことができる。また、前記生体情報計測用衣服の前身頃と後身頃の接続部が、頭部から尾部の方向に伸縮する織編物からなることから、大きな動作を行っても前記電極が身体からずれにくい。そのため、本発明の生体情報計測用衣服は、動作する動物の生体情報を精度よく計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は生体情報計測用衣服1の内側の面(身体に接する面)の展開図である。
【
図2】
図2は生体情報計測用衣服1の外側の面(身体に接していない面)の展開図である。
【
図3】
図3は生体情報計測用衣服1を着用したイヌの図である。
【
図4】
図4は測定精度が十分に高い場合に得られる心電信号のR-R間隔の時間推移を示したグラフである。(縦軸:R-R間隔[ms]、横軸:測定時刻[hr])
【
図5】
図5は測定精度が低い場合に得られる心電信号のR-R間隔の時間推移を示したグラフである。(縦軸:R-R間隔[ms]、横軸:測定時刻[hr])
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳述する。
以下本発明の構成の一例を図によって説明する。
図1は本発明における生体情報計測用衣服における、動物の身体に接する面、つまり、内側の面の展開図である。該生体情報計測用衣服において、前身頃800に面ファスナー700が形成されている。後身頃801に、電極部201、配線部202、着脱式の電子ユニットを接続するためのスナップホック部500が一体化したシート状の電極材101が形成されている。前身頃800と後身頃801の接続部に、伸縮する織編物802が形成されている。
前身頃は動物に着用させた場合に主に腹側を覆う部品、後身頃は背中側を覆う部品である。
【0010】
図2は本発明における生体情報計測用衣服の一例における動物の身体に接していない面、つまり、外側の面の展開図である。前記生体情報計測用衣服において、前身頃800に帯701が取り付けられている。後身頃801に面ファスナー700、着脱式の電子ユニットを接続するためのスナップホック部500が形成されている。前身頃800と後身頃801を連結する部分に、伸縮する織編物からなる接続部802が形成されている。
【0011】
図3は本発明における生体情報計測用衣服の一例をイヌが着用している図である。前身頃800と後身頃801を連結する部分に、伸縮する織編物からなる接続部802が形成されている。動物の胴回り方向に帯701が取り付けられている。なお本図は、太い帯を取り付けた場合に相当する。
【0012】
本発明の生体情報計測用衣服で使用している衣類は、縦方向の引張伸度EMTが5%以上、110%以下であり、横方向の引張伸度EMTが10%以上、130%以下である。好ましくは縦方向の引張伸度EMTが7%以上、105%以下であり、横方向の引張伸度EMTが12%以上、125%以下、さらに好ましくは縦方向の引張伸度EMTが10%以上、100%以下であり、横方向の引張伸度EMTが15%以上、120%以下である。該衣類の縦方向の引張伸度EMTが5%より小さく、横方向の引張伸度EMTが10%より小さいと、動物の動作により生体情報計測用衣服に形成された電極が身体からずれてしまい、生体情報が精度よく計測できない。また、電極が身体に常に接触するように、生体情報計測用衣服を身体に密着させて着用させているため、動物が動作しにくい、不快に感じる可能性が考えられる。該衣類の縦方向の引張伸度EMTが110%より大きく、横方向の引張伸度EMTが130%より大きいと、動物の動作に伴い、電極を身体と常に密着させることが難しく、電極が身体からからずれてしまう。
なお、ここに縦方向とは動物に着用させた場合に、頭部と尾部を結ぶ方向であり、横方向は縦方向の直角方向である。
【0013】
本発明の生体情報計測用衣服の衣服本体の形態は特に限定されるものではなく、動物に装着できる衣服の形態に適用される。該生体情報計測用衣服は本発明に適用しやすいように新たに設計されても良いが、既存の動物の衣服を流用することも出来る。既存の衣服を重ね着してもかまわない。前身頃、後身頃は生地を1枚で使用してもよく、重ねて使用してもかまわない。
【0014】
引張伸度EMTは、縦15cm、横15cmに試料を切り出し、カトーテック(株)製KES-FB1を用いて、最大荷重50gf/cmの一方向延伸力を加え、変形速度を0.2mm/secに設定して測定した。測定によって得られた引張特性曲線から、引張伸度EMT[%]を求めた。
【0015】
本発明の好ましい生体情報計測用衣服は胴回りに帯を有しているため、動作により前記電極が身体からずれることを防ぐことができる。帯は幅1cm以上、30cm以下であることが好ましく、前記衣服を着用する動物の大きさにより選択することができる。例えば、チワワのような小型犬の場合、帯の幅は好ましくは1cm以上、10cm以下であり、ゴールデンレトリバーのような大型犬の場合、帯の幅は好ましくは2cm以上、15cm以下であり、牛のような大型動物の場合、帯の幅は好ましくは5cm以上、30cm以下である。幅が1cmより小さいと、前記電極が身体からずれることを防ぐことができず、幅が大きいと、動物が動きにくく感じる可能性が考えられる。
帯は、その一部が衣服本体に縫い付けあるいは接着手段により取り付けられていることが好ましい。帯には長さ調整を行う機構が設けられてもよい。また必要に応じて適度に伸び率のある素材を用いれば良い。
【0016】
本発明の生体情報計測用衣服は、前身頃と後身頃の接続部が、頭部から尾部の方向に伸縮する織編物からなることが好ましい。本発明者らが、衣服を着用した動物を観察していると、動物の動きに伴い、肩、肩関節部、腕の部位の衣類が大きく変形していた。そのため、本発明の生体情報計測用衣服は、より好ましくは、肩、及び/又は、肩関節部、及び/又は、腕の部分に、前記織編物が形成されている。これにより、動物が大きな動作を行っても前記電極が身体からずれにくい。
【0017】
本発明の織編物は、頭部から尾部の方向の伸び率が100%以上であることが好ましい。前記織編物は、頭部から尾部の方向の伸び率が100%以上であることにより、動物の大きな動作により電前記電極が身体からずれることを防ぐことができる。上記伸び率は、より好ましくは120%以上、更に好ましくは150%以上である。上限は特に限定されないが、1000%以下であれば十分であり、800%以下でも差し支えない。
【0018】
上記伸び率は、JIS L1096(2010)に規定される伸び率を測定すればよい。伸び率は、定速伸長法で測定すればよい。
【0019】
上記織編物の形態は特に限定されず、織物でも編物でもよく、好ましくは編物である。例えば、編地、編地がアコーディオン状に収縮する形態、合成繊維を用いて得られた織編物を凹凸状にプリーツ加工した形態、リボン編み機で編まれた形態などが挙げられ、より好ましくは編地がアコーディオン状に収縮する形態である。編地がアコーディオン状に収縮する形態としては、例えば、表側に湾曲して突出する領域と裏側に湾曲して突出する領域が交互に複数列連続しており、長手方向に垂直な断面の形状が波状であることが好ましい。アコーディオン状に収縮する形態の編物の場合、身幅方向に応力が加わると、湾曲して突出する領域は、略平面状となり、身幅が大きくなり、応力が除かれると、略平面状となった領域は、元の湾曲形状に戻り、身幅が小さくなる。アコーディオン状に収縮する形態の編物は、例えば、井上リボン工業株式会社等から入手できる。
【0020】
上記織編物は、動物の動作に応じて伸縮するが、着用時にはたるまないものであることが好ましい。
【0021】
本発明の生体情報計測用衣服は、後身頃に身体接触型の電極が位置するものであることが好ましい。該電極部は、好ましくは体幹側部、より好ましくは胸郭に位置する。該電極が胸郭に位置することで、動物が動作しても、該電極が身体と常に接触しており、生体情報を安定して計測することができる。
【0022】
本発明の生体情報計測用衣服は、動物が前記衣服を着用したままで、電子ユニットを着脱できるよう、体と接触しない面に着脱式の電子ユニットを接続することができる。電子ユニットはむき出しでも構わないし、電子ユニットにカバーがついていてもかまわない。
【0023】
本発明の生体情報計測用衣服に形成されている帯は、前記身体接触型電極、及び/又は、前記電子ユニットの上部にかかるように、動物の胴回り方向に帯があることが好ましい。これにより、動物の動作により、電極が身体からずれることを防ぐことができる。さらに電子ユニットの上部にかかることで、動物の動作により、電子ユニットが脱落すること、電子ユニットが揺れず、安定した生体情報を計測することができる。
【0024】
本発明における生体情報とは、心電、心拍波形、筋電、体温、衣服内温度、呼吸数、呼吸状態、発汗量、発汗状態、関節角度、身体各部の変位量、身体各部の加速度、身体各部の位置情報等をさす。電極、電子ユニットは、計測対象となる生体情報により適宜選択される。
【0025】
本発明は少なくとも生体に接触、又は、導電性ペーストを介して生体に接触する複数の電極を有する事が好ましい態様であり、さらに生体情報として心拍波形や心電を計測可能な電極を備えることが好ましい様態である。
【0026】
本発明は、好ましくは、電極以外の計測機能、通信機能などを有する着脱可能な電子ユニットと組み合わせる事が好ましい。かかる着脱可能な電子ユニットは、衣服に設けられたコネクタを介して電極と接続される。なおコネクタと電極間には電気配線が設けられる。本発明が生体電位のうち主として心電測定を目的とする場合には、電子ユニットに電極から得られる体表面電位を心電図信号に変換するための信号処理手段と、信号処理手段で得られた心電図信号を標本化する標本化手段と、標本化した心電図信号を解析機に無線送信する送信手段を備える事が好ましい。この送信手段により、携帯端末やパーソナルコンピュータ(以下、PCという)等の解析機に心電図信号が送信され、送信されてきた心電図信号を解析機上で解析し表示することができる。例えば、信号処理手段としてアナログフィルタ、デジタルフィルタ、送信手段として電波、赤外線通信などの手段を用いてもよい。
【0027】
心電の計測結果は一般的には横軸に時間を、縦軸に電位差をプロットした心電図、心電波形として記録される。心拍1回ごとに心電図、心拍波形に現れる波形は、P波、Q波、R波、S波、T波の代表的な5つの波により主に構成され、この他にU波が存在し、また、Q波の始めからS波の終わりまでをQRS波と称する場合がある。本発明の電子ユニットは、これらの波のうちで、少なくともR波を検知可能な電極を備えることが好ましい。R波は左右両心室の興奮を示し、最も電位差の大きな波である。また、R波の頂点と次のR波の頂点までの時間を一般にRR時間(RRI)と称するが、(心拍数)=60/(RR時間(秒))の式を用いて、1分間当りの心拍数を計算することができる。つまり、R波を検知可能な電極を備えてR波を検知することにより、心拍数を知ることができる。本発明においては特に注釈のない限り、QRS波もR波に含まれるものである。
【0028】
本発明の生体情報計測用衣服は、衣類、導電性素材からなる単一の電極、単極のコネクタ部、前記電極と前記コネクタ部を電気的に接続する配線部を少なくとも備え、該電極と該配線は同じ材料で構成されている事が段差を減ずることと接続信頼性を確保する上で好ましい。特に制限されるものではないが、本発明の生体情報計測用衣服は、衣服本体のうち、生体に接する内側の面に電極を備え、生体に接していない外側の面にコネクタ部、電子ユニットを備え、該電極と該配線部を接続する配線部を備える。コネクタと電極間はできるだけ短くすることが好ましい。
【0029】
本発明において電極は、生体の電気的情報を検知可能な導電性層を含み、さらに絶縁層を含むことが好ましい。電極は、心電図等生体の電気的情報を検知するために必要な面積を有するものであり、各電極の面積はいずれも1cm2以上であることが好ましい。より好ましくは5cm2以上、さらに好ましくは10cm2以上である。上限値は特に限定されるものではないが、100cm2以下が好ましい。電極の形状は、四角形、三角形、五角形以上の多角形、円形、楕円形等の任意の形状をとることができる。
【0030】
本発明における電極およびまたは配線は、動物の運動動作に追従できるように伸縮性を有することが好ましい。
【0031】
本発明の生体情報計測用衣服における電極およびまたは電気配線の導体層としては、金属箔、導電性繊維ないし導電性糸、伸縮性導体層などを用いる事が出来る。金属箔としては銅箔、アルミニウム箔、ステンレススチール箔、金箔などを用いる事が可能である。また導電性繊維ないし導電性糸としては金属の細線、金属コーティングした天然繊維または合成繊維、金属微粒子やカーボンナノファイバーなどの導電性フィラーを含有する高分子材料からなる繊維、導電性高分子を被覆ないし含清させた繊維などを用いる事が出来る。また、これら導電性繊維ないし導電糸から構成されるフェルト、布地、編地、不織布などを電気配線の導体層として用いることもできる。
伸縮性は、導電性繊維、導電性糸からなるニット構造やジグザグ刺繍などにより実現できる。また織物であっても、縦糸/横糸のバイアス方向であれば伸縮性を有する。もちろん伸縮性のある糸で織物、編物、不織布などを構成すれば伸縮性を得ることができる。金属箔は波形形状に加工することにより擬似的に実現する事ができる。
【0032】
本発明では、導電性フィラーと伸縮性を含有する樹脂を含有する伸縮性導電性組成物から形成されたシート状電極およびまたは配線を用いる事により伸縮性を得ることが可能である。前記、伸縮性導電性組成物から形成されたシート状電極は、金属粉等の導電性が高い構成成分を用いることができるので、導電性高分子を使用する場合よりも低い電気抵抗値を得ることができ、微弱な電気信号を検知することができるので好ましい。電極表面の電気抵抗値はシート抵抗にて1000Ω□以下が好ましく、300Ω□以下がより好ましく、100Ω□以下がさらに好ましく、30Ω□以下が特に好ましい。前記導電性組成物から形成されたシート状電極においては、電極表面の電気抵抗値を300Ω□以下の範囲に抑えることができる。
【0033】
また、前記導電性組成物から形成された電極は低い電気抵抗値を有するので、配線と電極を同一材料とすることが可能であり、これは本発明の好ましい一様態である。配線と電極を同一材料とする場合には、配線幅は1mm以上あればよく、5mm以上、10mm以下とすることがより好ましい。
【0034】
本発明においては、少なくとも2個以上の電極を備えた衣服により生体情報を計測することが好ましい。特に制限されるものではないが、電極は2個以上、15個以下が好ましい。
【0035】
本発明で使用する電極は、さらに絶縁層を有することが好ましい。例えば第一絶縁層と導電層とを含むシート状の形態のものを用いることができる。また、本発明で使用する配線は、例えば第一絶縁層と導電層と第二絶縁層とを含むシート状のものを用いることができる。
【0036】
計測した情報を解析する機構としては、目的に応じた従来公知の分析装置(心拍計、心電計、筋電計等)を採用すればよく、外部の分析装置に情報を伝送する手段を含む。
【0037】
本発明の生体情報計測方法及び生体情報計測用衣服は、収集された生体情報をもとに、また本発明と異なる生体情報計測方法及び生体情報計測用衣服によって収集された生体情報と組み合わせて、動物の生理状態や心理状態を把握する技術への応用も可能である。例えばリラックスの度合いの計測による動物の精神神経状態の管理、心拍数の計測による健康状態の管理等が挙げられる。
【0038】
本発明の生体情報計測方法及び生体情報計測用衣服は、生体情報計測用衣服を動物に着用させ、前記電極に導電性基剤を塗布し、動物の体に密着させることで生体情報を計測することができる。導電性基剤とは、特に制限されないが、導電性のゲル、導電性のペースト、導電性のジェル、があり、例えば市販品として、シグナゲル(Parker Laboratories,INC)、Ten20(Weaver and Company)が挙げられる。本発明の電極には、生体との接触インピーダンスを低減するために保湿層を設けても良い。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
引張伸度:縦15cm、横15cmの試験片を採取し、カトーテック社製の引張りせん断試験機(KES-FB1-A)を用いて、縦方向、横方向における引張速度0.2mm/s、最大荷重50gf/cmの条件下における引張伸度(EMT)を求めた。詳細には、最大荷重を負荷したときの試験片の長さをB、もとの試験片の長さをAとしたとき((B-A)/A)×100の値を引張伸度(%)とした。
【0041】
伸び率:JIS L1096(2010)8.16.1 A法(定速伸長法)に規定される伸び率を測定した。
【0042】
心拍計測の精度:下記実施例、比較例で得られた生体情報計測用衣服を犬に着用させ、お座り、待て、歩行、走行という動作を犬に行わせ、動作時のR-R間隔を計測した。動作による電極のズレによりノイズが混入すると、R-R間隔が2000msを超える現象が観察される。そのため、R-R間隔が2000msを超える時間帯が1時間あたり100秒以上あれば、測定精度が不十分であるとして×、1時間あたり20秒以上、100秒未満であれば測定精度が低いとして△、1時間あたり20秒未満であれば、測定精度があるとして○として評価した。
【0043】
[実施例1]
縦方向の引張伸度EMT15%、横方向の引張伸度EMT26%からなる前身頃、後身頃を使用して、生体情報計測用衣服を作製した。形態は
図1、
図2と同じだが、帯と伸縮する織編物は備えていない。電極にシグナゲル(Parker Laboratories,INC)を塗布し、チワワに
図3の様に着用させ、電子ユニットとしてWHS-1(ユニオンツール社製)を用いて日常生活におけるR-R間隔を測定した。表1に、生体情報計測用衣服の縦方向、横方向の引張伸度EMT、使用した帯幅、伸縮する織編物の有無、心拍計測の精度を示す。大きく動作しても、R-R間隔を安定に測定することができた。
図4にR-R間隔の測定結果を示す。
【0044】
[実施例2]
縦方向の引張伸度EMT36%、横方向の引張伸度EMT46%からなる前身頃、後身頃を使用して、生体情報計測用衣服を作製した。形態は
図1、
図2と同じで、該前身頃には幅5cmの帯を備えているが、伸縮する織編物は備えていない。電極にシグナゲル(Parker Laboratories,INC)を塗布し、マルチーズに
図3の様に着用させ、電子ユニットとしてWHS-1(ユニオンツール社製)を用いて日常生活におけるR-R間隔を測定した。表1に、生体情報計測用衣服の縦方向、横方向の引張伸度EMT、使用した帯幅、伸縮する織編物の有無、心拍計測の精度を示す。大きく動作しても、R-R間隔を安定に測定することができた。
【0045】
[実施例3]
縦方向の引張伸度EMT73%、横方向の引張伸度EMT94%からなる前身頃、後身頃を使用して、生体情報計測用衣服を作製した。形態は
図1、
図2と同じで、前身頃と後身頃の接続部として伸縮する織編物を備えているが、帯を備えていない。電極にシグナゲル(Parker Laboratories, INC)を塗布し、マルチーズに
図3の様に着用させ、電子ユニットとしてWHS-1(ユニオンツール社製)を用いて日常生活におけるR-R間隔を測定した。表1に、生体情報計測用衣服の縦方向、横方向の引張伸度EMT、使用した帯幅、伸縮する織編物の有無、心拍計測の精度を示す。大きく動作しても、R-R間隔を安定に測定することができた。
【0046】
[実施例4]
縦方向の引張伸度EMT15%、横方向の引張伸度EMT26%からなる前身頃、後身頃を使用して、生体情報計測用衣服を作製した。形態は
図1、
図2と同じで、該前身頃には幅8cmの帯を備え、前身頃と後身頃の接続部として伸縮する織編物を備えている。電極にシグナゲル(Parker Laboratories, INC)を塗布し、柴犬に
図3の様に着用させ、電子ユニットとしてWHS-1(ユニオンツール社製)を用いて日常生活におけるR-R間隔を測定した。表1に、生体情報計測用衣服の縦方向、横方向の引張伸度EMT、使用した帯幅、伸縮する織編物の有無、心拍計測の精度を示す。大きく動作しても、R-R間隔を安定に測定することができた。
【0047】
[実施例5]
縦方向の引張伸度EMT27%、横方向の引張伸度EMT34%からなる前身頃、後身頃を使用して、生体情報計測用衣服を作製した。形態は
図1、
図2と同じで、該前身頃には幅10cmの帯を備え、前身頃と後身頃の接続部として伸縮する織編物を備えている。電極にシグナゲル(Parker Laboratories, INC)を塗布し、ゴールデンレトリバーに
図3の様に着用させ、電子ユニットとしてWHS-1(ユニオンツール社製)を用いて日常生活におけるR-R間隔を測定した。表1に、生体情報計測用衣服の縦方向、横方向の引張伸度EMT、使用した帯幅、伸縮する織編物の有無、心拍計測の精度を示す。大きく動作しても、R-R間隔を安定に測定することができた。
【0048】
[実施例6]
縦方向の引張伸度EMT86%、横方向の引張伸度EMT105%からなる前身頃、後身頃を使用して、生体情報計測用衣服を作製した。形態は
図1、
図2と同じで、該前身頃には幅10cmの帯を備え、前身頃と後身頃の接続部として伸縮する織編物を備えている。電極にシグナゲル(Parker Laboratories, INC)を塗布し、ゴールデンレトリバーに
図3の様に着用させ、電子ユニットとしてWHS-1(ユニオンツール社製)を用いて日常生活におけるR-R間隔を測定した。表1に、生体情報計測用衣服の縦方向、横方向の引張伸度EMT、使用した帯幅、伸縮する織編物の有無、心拍計測の精度を示す。大きく動作しても、R-R間隔を安定に測定することができた。
【0049】
[実施例7]
縦方向の引張伸度EMT36%、横方向の引張伸度EMT46%からなる前身頃、縦方向の引張伸度EMT15%、横方向の引張伸度EMT26%からなる後身頃を使用して、生体情報計測用衣服を作製した。形態は
図1、
図2と同じで、該前身頃には幅10cmの帯を備え、前身頃と後身頃の接続部として伸縮する織編物を備えている。電極にシグナゲル(Parker Laboratories, INC)を塗布し、ゴールデンレトリバーに
図3の様に着用させ、電子ユニットとしてWHS-1(ユニオンツール社製)を用いて日常生活におけるR-R間隔を測定した。表1に、生体情報計測用衣服の縦方向、横方向の引張伸度EMT、使用した帯幅、伸縮する織編物の有無、心拍計測の精度を示す。大きく動作しても、R-R間隔を安定に測定することができた。
【0050】
[比較例1]
縦方向の引張伸度EMT2%、横方向の引張伸度EMT1%からなる前身頃、後身頃を使用して、生体情報計測用衣服を作製した。形態は
図1、
図2と同じで、該前身頃には幅5cmの帯を備え、前身頃と後身頃の接続部として伸縮する織編物を備えている。電極にシグナゲル(Parker Laboratories, INC)を塗布し、マルチーズに
図3の様に着用させ、電子ユニットとしてWHS-1(ユニオンツール社製)を用いて日常生活におけるR-R間隔を測定した。表1に、生体情報計測用衣服の縦方向、横方向の引張伸度EMT、使用した帯幅、伸縮する織編物の有無、心拍計測の精度を示す。図大きく動作すると多くのノイズが入り、R-R間隔を安定に測定することができなかった。
図5にR-R間隔の測定結果を示す。
【0051】
[比較例2]
縦方向の引張伸度EMT2%、横方向の引張伸度EMT1%からなる前身頃、後身頃を使用して、生体情報計測用衣服を作製した。形態は
図1、
図2と同じで、該前身頃には幅10cmの帯を備えていたが、織編物は備えていない。電極にシグナゲル(Parker Laboratories, INC)を塗布し、ゴールデンレトリバーに
図3の様に着用させ、電子ユニットとしてWHS-1(ユニオンツール社製)を用いて日常生活におけるR-R間隔を測定した。表1に、生体情報計測用衣服の縦方向、横方向の引張伸度EMT、使用した帯幅、伸縮する織編物の有無、心拍計測の精度を示す。大きく動作すると多くのノイズが入り、R-R間隔を安定に測定することができなかった。
【0052】
[比較例3]
縦方向の引張伸度EMT120%、横方向の引張伸度EMT135%からなる前身頃、後身頃を使用して、生体情報計測用衣服を作製した。形態は
図1、
図2と同じで、該前身頃には幅10cmの帯を備え、前身頃と後身頃の接続部として伸縮する織編物を備えている。電極にシグナゲル(Parker Laboratories, INC)を塗布し、マルチーズに
図3の様に着用させ、電子ユニットとしてWHS-1(ユニオンツール社製)を用いて日常生活におけるR-R間隔を測定した。表1に、生体情報計測用衣服の縦方向、横方向の引張伸度EMT、使用した帯幅、伸縮する織編物の有無、心拍計測の精度を示す。大きく動作すると多くのノイズが入り、R-R間隔を安定に測定することができなかった。
【0053】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、動物が大きな動作をしても、R-R間隔を安定に測定することができる生体情報計測用衣服、生体情報計測方法を提供することができる。動物のR-R間隔から、緊張の指標となる交感神経系活動、リラックスの指標となる副交感神経系活動が解析でき、動物のメンタルの推測が可能となることから、動物がリラックスできる衣類、敷材、ゲージ等の開発や、動物が好む餌、おやつ等の開発が容易となる。また、検疫探知犬や警察犬等は、異常を伝える手段として行動や鳴き声しかなかったが、R-R間隔の変化から異常を検知できるようになり、産業界に大きく寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0055】
101:シート状の電極部材
201:電極部
202:配線部
500:スナップホック部
700:面ファスナー
701:帯
800:前身頃
801:後身頃
802:伸縮する織編物