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特許7582188移動体制御装置、移動体制御方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】移動体制御装置、移動体制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/22 20100101AFI20241106BHJP
   G01S 19/30 20100101ALI20241106BHJP
   G01S 19/36 20100101ALI20241106BHJP
   G01C 21/20 20060101ALI20241106BHJP
   B64C 27/08 20230101ALI20241106BHJP
   B64C 13/20 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G01S19/22
G01S19/30
G01S19/36
G01C21/20
B64C27/08
B64C13/20 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021530640
(86)(22)【出願日】2020-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2020025784
(87)【国際公開番号】W WO2021006138
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019128092
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093241
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 正昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101801
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 英治
(74)【代理人】
【識別番号】100095496
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 榮二
(74)【代理人】
【識別番号】100086531
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】110000763
【氏名又は名称】弁理士法人大同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑允
(72)【発明者】
【氏名】豊浦 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 諒
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-101391(JP,A)
【文献】特開2001-289652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0166011(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0119951(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0142787(US,A1)
【文献】国際公開第2018/086140(WO,A1)
【文献】鈴木太郎,「第1章 GNSSの信号と測位のしくみ,測位誤差要因,測位精度向上の工夫,自動運転やドローンへの応用」,RFワールド,CQ出版株式会社,2019年02月01日,No. 45,pp. 8-23
【文献】久保信明,「8.マルチパス誤差および低減法」,杉本末雄・柴崎亮介編 GPSハンドブック,株式会社朝倉書店,2010年09月25日,pp. 208-221,ISBN: 978-4-254-20137-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00-5/14
G01S 19/00-19/55
B64C 13/20-13/22
B64C 27/08
G01C 21/00-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体が有する移動体制御装置であって、
衛星から送信される測位信号に基づく測位演算結果を用いて上記移動体の位置を自己位置として推定する自己位置推定部と、
上記自己位置に基づいて移動体の移動を制御する移動制御部と、
マルチパス環境にあるときマルチパス低減行動信号を出力するマルチパス低減行動信号出力部と、
上記移動体の周囲の障害物情報を出力する環境確認部を備え、
上記移動制御部は、所定の移動状態にある場合に上記マルチパス低減行動信号が出力されるとき、マルチパス低減行動をとるように制御し、
上記移動制御部は、上記障害物情報に基づいて、上記マルチパス低減行動における上記移動体の移動パターンを変化させ
移動体制御装置。
【請求項2】
上記移動制御部は、上記移動体の周囲に障害物がないときは上記マルチパス低減行動における上記移動体の移動パターンを旋回または螺旋とし、上記移動体の周囲に障害物があるときは上記マルチパス低減行動における上記移動体の移動パターンを上下とする
請求項1に記載の移動体制御装置。
【請求項3】
上記移動体は、ドローンであり、
上記所定の移動状態は、ホバリングである
請求項に記載の移動体制御装置。
【請求項4】
上記マルチパス環境にあるとき上記低減行動信号出力部が上記マルチパス低減行動信号を出力し得るモードに設定するモード設定部をさらに備える
請求項1に記載の移動体制御装置。
【請求項5】
上記マルチパス環境にあるとき上記低減行動信号出力部が上記マルチパス低減行動信号を出力することを、コントローラを用いて上記移動体の動作をコントロールするユーザに通知して確認するためのユーザ通知部をさらに備える
請求項1に記載の移動体制御装置。
【請求項6】
移動体が有する移動体制御装置における移動体制御方法であって、
衛星から送信される測位信号に基づく測位演算結果を用いて上記移動体の位置を自己位置として推定する手順と、
上記自己位置に基づいて移動体の移動を制御する手順と、
マルチパス環境にあるときマルチパス低減行動信号を出力する手順と、
上記移動体の周囲の障害物情報を出力する手順を有し、
上記移動体の移動を制御する手順では、所定の移動状態にある場合に上記マルチパス低減行動信号が出力されるとき、マルチパス低減行動をとるように制御し、
上記移動体の移動を制御する手順では、上記障害物情報に基づいて、上記マルチパス低減行動における上記移動体の移動パターンを変化させ
移動体制御方法。
【請求項7】
移動体が有するコンピュータを、
衛星から送信される測位信号に基づく測位演算結果を用いて上記移動体の位置を自己位置として推定する自己位置推定手段と、
上記自己位置に基づいて移動体の移動を制御する移動制御手段と、
マルチパス環境にあるときマルチパス低減行動信号を出力するマルチパス低減行動信号出力手段と
上記移動体の周囲の障害物情報を出力する環境確認手段として機能させ、
上記移動制御手段は、所定の移動状態にある場合に上記マルチパス低減行動信号が出力されるとき、マルチパス低減行動をとるように制御し、
上記移動制御手段は、上記障害物情報に基づいて、上記マルチパス低減行動における上記移動体の移動パターンを変化させ
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、移動体制御装置、移動体制御方法およびプログラムに関し、詳しくは、測位演算へのマルチパスの影響を低減させる移動体制御装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
GNSS(Global Navigation Satellite System)、例えばGPS(Global Positioning System)は、小型軽量かつ低消費電力で絶対位置を把握できるシステムとして、様々な自律移動体での利用が期待されている。自律移動体のプラットフォームの一つとして開発が進められているドローンは、小型で低ペイロードなものも多く、GPSは自己位置推定において必須のセンサであると言える。
【0003】
GPSは衛星からの信号を元に各衛星との距離を計測し、その距離を用いて三角測量の要領で自身の位置を計算するシステムである。そのため、信号を受信する際に、直接波だけではなく反射波や回折波が同時にアンテナに届くマルチパスという現象が起きた場合、衛星からの信号にノイズが乗った状態で測距処理を行うため、測距誤差が発生し、最終的な測位結果に誤差が生じてしまう。GPSの精度や安定性を向上させるためにはマルチパス誤差をいかに除くかが肝となる。
【0004】
従来技術ではマルチパス信号を受けた上でマルチパスの影響分を低減させる受動的な手法が多い。例えば、アンテナのハードウェア的な工夫でマルチパス信号を受けにくくするもの、測位に使用する衛星を信号強度等の指標に応じて選択するもの、相関処理の段階で相関波形におけるマルチパスを受信しにくくするものが挙げられる。それに対して能動的にマルチパスを受けにくくするようなマルチパス低減手法は見られない。
【0005】
例えば、特許文献1には、信号強度が高い場合はマルチパスに強いとされているナローコリレータを用いて相関処理を行うと共に、信号強度が低い場合はナローコリレータを使用すると信号捕捉できない場合があるのでワイドコリレータを用いて相関処理を行い、信号強度が高い環境においてマルチパス誤差を低減させつつ、測位率を向上させる技術が記載されている。この技術は、直接波に対してマルチパス信号が支配的な場合は効果がない
【0006】
また、例えば、特許文献2には、GNSS受信機の移動速度に応じて相関処理を行う遅延ロックループ(DLL:Delay Lock Loop)の相関器幅を動的に調整し、ハードウェアを追加することなく、マルチパスを補償する技術が記載されている。この技術は、直接波に対して反射波や回折波は遅れてくるという特徴に着目したものである。この技術は、停止時は低仰角衛星をカットするだけなのでそれ以外のマルチパスの影響を受けた衛星信号に対して効果がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-220740号公報
【文献】特開2000-266836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本技術の目的は、衛星から送信される測位信号に基づく測位演算へのマルチパスの影響を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本技術の概念は、
衛星から送信される測位信号に基づく測位演算結果を用いて自己位置を推定する自己位置推定部と、
上記自己位置に基づいて移動体の移動を制御する移動制御部と、
マルチパス環境にあるときマルチパス低減行動信号を出力するマルチパス低減行動信号出力部を備え、
上記移動制御部は、所定の移動状態にある場合に上記マルチパス低減行動信号が出力されるとき、マルチパス低減行動をとるように制御する
移動体制御装置にある。
【0010】
本技術において、自己位置推定部により、衛星から送信される測位信号に基づく測位演算結果を用いて自己位置が推定される。移動制御部により、自己位置に基づいて移動体の移動が制御される。低減行動信号出力部により、マルチパス環境にあるときマルチパス低減行動信号が出力される。この場合、所定の移動状態にある場合にマルチパス低減行動信号が出力されるとき、マルチパス低減行動をとるように制御される。
【0011】
例えば、周囲の障害物情報を出力する環境確認部をさらに備え、移動制御部は、障害物情報に基づいてマルチパス低減行動を変化させてもよい。この場合、例えば、移動体はドローンであり、所定の移動状態はホバリングであり、マルチパス低減行動は旋回、螺旋または上下の移動のいずれかであってもよい。
【0012】
このように本技術においては、所定の移動状態にある場合にマルチパス低減行動信号が出力されるとき、マルチパス低減行動をとるように制御するものである。そのため、衛星から送信される測位信号に基づく測位演算へのマルチパスの影響を低減させることができ、自己位置推定が安定し、移動体の安定した移動を実現することが可能となる。
【0013】
なお、本技術において、例えば、マルチパス環境にあるとき低減行動信号出力部がマルチパス低減行動信号を出力し得るモードに設定するモード設定部をさらに備えてもよい。この場合、モード設定に応じて、マルチパス低減行動をとらせることが可能となる。また、本技術において、例えば、マルチパス環境にあるとき低減行動信号出力部がマルチパス低減行動信号を出力することをユーザに通知して確認するためのユーザ通知部をさらに備えてもよい。この場合、ユーザの確認のもと、マルチパス低減行動をとらせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】GNSS受信機の構成概要を示す図である。
図2】相関処理を説明するための図である。
図3】マルチパスがある場合の相関処理を説明するための図である。
図4】平均化処理による相関波形におけるマルチパス成分の低減を説明するための図である。
図5】本技術のベースアイディアイメージを示す図である。
図6】飛行体システムの構成例を示すブロック図である。
図7】飛行体(ドローン)の一例の外観を示す図である。
図8】飛行体制御装置の第1の構成例を示すブロック図である。
図9】行動計画部の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図10】飛行体制御装置の第2の構成例を示すブロック図である。
図11】モード確認部の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図12】飛行体制御装置の第3の構成例を示すブロック図である。
図13】ユーザ通知部の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態
2.変形例
【0016】
<1.実施の形態>
[前提技術]
本技術の前提となる技術について説明する。図1は、GNSS受信機の構成概要を示している。GNSS受信機が自身の位置を測位するまでに大きく分けて3つの処理がある。フロントエンド部では、衛星信号をアンテナで受信し増幅させる処理が行われる。信号処理部では、測位に必要な測距情報を求める信号処理が行われる。測位演算処理では、疑似距離を用いて自身の位置を計算する測位演算処理が行われる。
【0017】
本技術では、信号処理部における信号処理の特性に着目している。ここでは衛星信号(測位信号)を受信してから衛星との距離を求める処理概要を述べる。受信機は、受信したコードと自身が持っているサンプルコードを比較して、衛星が信号を発したタイミングと受信したタイミングの差を求め、その時刻差から衛星との距離を求める。
【0018】
図2(a)に示すように、受信したコードに対してサンプルコードを時間方向にずらしながら相関値を求め、相関がピークとなった時刻を求める。これにより衛星が信号を送信した時刻がわかるため、光速と掛け合わせることで衛星との距離を求めることができる。ここで求められた衛星との距離を疑似距離と呼び、疑似距離は後段の測位演算処理で利用される。受信機は、相関処理で求めたピークを遅延ロックループ(DLL:Delay Lock Loop)で捕捉し続けることで衛星信号を追尾し、連続的に測位をすることができる。
【0019】
相関波形はノイズを含んでいるため、相関処理を行う前に一定時間の相関波形を用いて平均化処理を行う。平均化処理を行うことで相関波形の中のノイズ成分の影響を低減させる。受信機は平均化処理後の相関波形を用いてピークを算出する。ピークを算出するときには相関器を用いる。
【0020】
相関器幅が広い相関器をワイドコリレータ、相関器幅が狭い相関器をナローコリレータ、と呼び、ナローコリレータはマルチパスに強いという特徴を持つ。ただし、遅延ロックループによる信号追尾が外れやすいため衛星の捕捉自体ができなくなることがある。そのため、マルチパスを低減させるためにナローコリレータを利用すればよいというものではない。
【0021】
相関器は、図2(b)に示すように、ピークより相関が小さい部分の位相進み部分と位相遅れ部分の2点を見つける。その2点の中心位置がピーク位置として測距に利用される。理想的な相関波形や、図3(a)に示すように、相関器幅の外側にマルチパス成分がある相関波形であれば、2点の中心はピークと一致する。
【0022】
しかし、図3(b)に示すように、相関波形におけるマルチパス成分が相関器幅の内側に存在する場合、2点間の中心は真の自己相関ピークとずれてしまい、そのずれ(マルチパス誤差)がマルチパスにおける測距誤差となる。本技術では、相関器が求める2点間の内側にマルチパス成分が入ることを抑制する手法を提案する。
【0023】
[ベースアイディア]
本技術のベースアイディアについて説明する。図4に示すように、平均化処理に使う、取得時刻が異なる相関波形のマルチパスの出方が異なれば、平均化処理によってマルチパスの影響は低減する。平均化処理によってマルチパス成分が平準化され、真の相関部分が強調されるためである。
【0024】
厳密に言うと、位相が半波長変化する時間よりも平均化時間が長ければ、マルチパスは平均化処理によって平準化され、マルチパスの影響は低減する。これは、直接波と反射波の相対位相の変化が速いとマルチパスの影響が小さくなると言い換えることができる。移動することにより相対位相の変化は速くなる。そのため、マルチパスが入りそうな環境(以下、適宜、「マルチパス環境」という)では、停止しているよりも移動している方がマルチパスの影響を受けにくい。本技術は、この考え方に基づいている。
【0025】
例えば、図5(a)に示すように、建物付近でドローンがホバリングする場合、静止しているよりは受信環境が変わるように移動している方が平均化処理によってマルチパスの影響を低減できる。静止していると同じ経路を通ったマルチパスを受け続けてしまうため、平均化処理を行っても相関波形にマルチパス成分が強く出てしまう。
【0026】
しかし、マルチパスの受信経路が変化し続けている場合、図5(b)に例えば地点A,Bの相関波形を示すように、各時刻におけるマルチパスの相関が弱くなることから、相関波形の平均化処理によってマルチパス成分が平準化され、相関波形におけるマルチパス成分の影響は弱くなる。つまり、相関器幅の内側におけるマルチパス成分も小さくなるため、ピーク位置の算出精度が高まり、疑似距離および測位精度の向上が期待できる。
【0027】
本技術では、マルチパスを低減させる移動行動をマルチパス低減行動と呼ぶ。マルチパス低減行動における移動のパターンは直線移動よりは旋回移動や螺旋移動の方が望ましい。直線移動の場合は周囲の建物の配置によって、マルチパスの経路の変化が少ない場合がある。そのため直線移動よりは直径1m程度の円内に収まるように、全方向に移動する旋回移動や螺旋移動の方が、効果があると考えられる。また移動速度も速い方が効果は高い。ただし、効果が出る最低速度は受信機の平均化時間によって異なる。
【0028】
効果の程度はあるが、移動してさえいればマルチパスの経路長は多少なりとも変化するため、ドローンにアクション飛行をさせるアプリケーションと組み合わせてもよい。静止時にアクション飛行を取らせることで、マルチパスの低減を図るといった応用も考えられる。
【0029】
[飛行体システムの構成例]
図6は、飛行体システム10の構成例を示している。この飛行体システム10は、飛行体(ドローン)100と、コントローラ200からなっている。ユーザは、コントローラ200を用いて、飛行体100の動作をコントロールする。
【0030】
飛行体100は、カメラ101と、ロータ104a~104dと、モータ108a~108dと、制御部110と、通信部120と、IMU130と、位置情報取得部132と、アラート発生部140と、バッテリ150と、を含んで構成される。
【0031】
制御部110は、飛行体100の各部の動作を制御する。例えば制御部110は、モータ108a~108dの回転速度の調整によるロータ104a~104dの回転速度の調整、カメラ101による撮像処理、通信部120を介した他の装置(例えばコントローラ200)との間の情報の送受信処理、アラート発生部140に対するアラート発生処理等を制御し得る。
【0032】
カメラ101は、レンズやCCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ等の撮像素子等で構成されている。ロータ104a~104dは、回転により揚力を生じさせることで飛行体100を飛行させる。ロータ104a~104dの回転はモータ108a~108dの回転によりなされる。モータ108a~108dの回転は制御部110によって制御され得る。
【0033】
通信部120は、コントローラ200との間で無線通信による情報の送受信処理を行う。飛行体100は、カメラ101で撮像されている画像を通信部120からコントローラ200へ送信する。また飛行体100は、飛行に関する指示をコントローラ200から通信部120で受信する。
【0034】
IMU130は、各物理情報のセンサ(加速度センサ、回転角加速度センサ、ジャイロセンサーなど)をひとつのパッケージに統合したセンサユニットであり、各センサの情報であるIMU情報を、必要に応じて制御部110に提供し得る。位置情報取得部132は、例えばGPS受信機(図1参照)であり、飛行体100の現在位置の情報を取得する。位置情報取得部132は、測位結果やSNR等を含むGPS情報を、必要に応じて制御部110に提供し得る。
【0035】
アラート発生部140は、予め設定された飛行範囲を超えて飛行体100が飛行しようとする際に、制御部110の制御により、音や光等のアラートを発生させる。バッテリ150は、飛行体100を動作させるための電力を蓄える。バッテリ150は、放電のみが可能な一次電池であってもよく、充電も可能な二次電池であってもよい。
【0036】
飛行体100とコントローラ200との間では、例えばIEEE 802.11規格やIEEE 802.15.1規格その他の規格による、2.4GHz帯や5GHz帯その他の周波数帯域を使用した無線通信により、情報が送受信され得る。
【0037】
図7は、飛行体100の一例の外観を簡略的に示している。この図7において、図6と対応する部分には、同一符号を付して示している。
【0038】
[飛行体制御装置の第1の構成例]
図8は、飛行体(ドローン)100の制御部110に含まれる飛行体制御装置300の構成例を示している。この飛行体制御装置300における各部の処理の一部または全部は、コンピュータによるソフトウェア処理で行うことができる。飛行体制御装置300は、GPS品質確認部301と、自己位置推定部302と、環境認識部303と、行動計画部304と、経路計画部305と、機体制御部306を有している。
【0039】
GPS品質確認部301には、位置情報取得部132で取得される測位結果やSNR等を含むGPS情報が供給される。GPS品質確認部301は、GPS情報に含まれる測位結果(位置、速度、GPS時刻)を自己位置推定部302に送る。
【0040】
また、GPS品質確認部301は、マルチパス環境(マルチパスの影響を受けやすい環境)にあるか否かを判断する。GPS品質確認部301は、例えば、全ての衛星信号のSNR(信号対雑音比:Signal to Noise Ratio)が低い場合には、マルチパス環境であると判断する。なお、見えるはずの衛星が補足できない場合や、あるいは上向きのカメラを搭載し、空領域が閾値以下の割合になった場合に、マルチパス環境であると判断することも考えられる。GPS品質確認部301は、マルチパス環境であると判断した場合、マルチパス低減行動信号を出力して行動計画部304に送る。この意味で、GPS品質確認部301は、マルチパス低減行動信号出力部を構成している。
【0041】
自己位置推定部302には、GPS品質確認部301から測位結果が供給される他、内界センサ情報および外界センサ情報が供給される。例えば、内界センサ情報はIMU130からの加速度、角加速度の情報であり、外界センサ情報はカメラ101からの画像情報である。自己位置推定部302は、供給される各情報に基づいて自己位置を推定し、行動計画部304に送る。なお、外界センサとしては、カメラの他に、レーザスキャナ等も考えられる。
【0042】
環境認識部303には、外界センサ情報が供給される。環境認識部303は、外界センサ情報に基づいて、周辺に障害物があるか否かを判断し、その判断結果を障害物情報として出力して、行動計画部304および経路計画部305に送る。
【0043】
行動計画部304には、GPS品質確認部301から出力されるマルチパス低減行動信号、自己位置推定部302で推定される自己位置および環境認識部303からの障害物情報が供給される。行動計画部304は、供給される各情報に基づいて目標位置を出力して、経路計画部305に送る。
【0044】
図9のフローチャートは、行動計画部304の処理手順の一例を示している。行動計画部304は、このフローチャートの処理を繰り返し実行する。行動計画部304は、ステップST1において、例えばユーザがコントローラ200を操作することで飛行体100に送られてくるナビゲーション状況を取得する。
【0045】
次に、行動計画部304は、ステップST2において、ホバリング指示(停止指示)が出ているか判断する。なお、このホバリング指示は、ユーザからの指示の他に、自律飛行で必要となった場合に、内部処理で用いられる指示であってもよい。ホバリング指示が出ていないとき、行動計画部304は、ステップST3において、通常飛行用の目標位置を出力する。
【0046】
また、ステップST2でホバリング指示が出ているとき、行動計画部304は、ステップST4の処理に進む。このステップST4において、行動計画部304は、マルチパス低減行動信号が出力されているか否かを判断する。マルチパス低減行動信号が出力されていないとき、行動計画部304は、ステップST3において、通常飛行用の目標位置を出力する。
【0047】
また、ステップST4でマルチパス低減行動信号が出力されているとき、行動計画部304は、ステップST5の処理に進む。このステップST5において、行動計画部304は、障害物情報に基づいて周囲に障害物があるか否かを判断する。周囲に障害物がないとき、行動計画部304は、ステップST6において、旋回飛行用あるいは螺旋飛行用の目標位置を出力する。一方、周囲に障害物があるとき、行動計画部304は、ステップST7において、上下飛行用の目標位置を出力する。
【0048】
図8に戻って、経路計画部305には、行動計画部304から出力される目標位置および環境認識部303からの障害物情報が供給される。経路計画部305は、その目標位置に対して、飛行体100が沿う経路としてどのような経路を引くかを計算して、機体制御部306に送る。ここで、経路計画部305は、経路を引く際に、障害物情報に基づいて、突然の障害物にも対応し、その障害物を回避するように経路を引く。
【0049】
機体制御部306には、経路計画部305で計算された経路が供給される。機体制御部306は、その経路に従って飛行するように、飛行体100の飛行、具体的にはロータ104a~104dを回転させるモータ108a~108dの回転等を制御する。
【0050】
図8に示す飛行体制御装置300においては、ホバリング指示が出ているとき、マルチパス低減行動信号が出力されている場合には、飛行体100がマルチパス低減行動(マルチパスを低減させる移動行動)をとるように制御するものである。そのため、GPS受信機における疑似距離の計算、従って測位演算へのマルチパスの影響を低減させることができ、マルチパス環境にあっても自己位置推定が安定し、飛行体100の安定した移動を実現することができる。
【0051】
また、図8に示す飛行体制御装置300においては、周囲に障害物が無いときのマルチパス低減行動を旋回または螺旋の移動に制御し、周囲に障害物が有るときのマルチパス低減行動を上下の移動に制御するものである。そのため、周囲に障害物が有るときに、マルチパス低減行動をとることで飛行体100がその障害物に衝突あるいは接触する事故を回避することができる。
【0052】
なお、図8に示す飛行体制御装置300においては、周囲に障害物が無いときのマルチパス低減行動を旋回または螺旋の移動とし、周囲に障害物が有るときのマルチパス低減行動を上下の移動としたものであるが、移動の仕方はこれに限定されない。また、マルチパス低減行動における移動パターンを、周囲の障害物の有無によらずに、同一のパターンとすることも考えられる。
【0053】
[飛行体制御装置の第2の構成例]
図10は、飛行体(ドローン)100の制御部110に含まれる飛行体制御装置300Aの構成例を示している。この図10において、図8と対応する部分には同一符号を付し、適宜、その詳細説明は省略する。飛行体制御装置300Aは、GPS品質確認部301Aと、自己位置推定部302と、環境認識部303と、行動計画部304と、経路計画部305と、機体制御部306と、モード確認部311を有している。
【0054】
図8の飛行体制御装置300におけるGPS品質確認部301は、GPS受信状況(各衛星信号のSNR)からマルチパス環境であるか否かを判断し、マルチパス環境であるときは低減行動信号を出力して行動計画部304に送るものであった。これに対して、飛行体制御装置300AにおけるGPS品質確認部301Aは、GPS受信状況(各衛星信号のSNR)をモード確認部311に送る。
【0055】
モード確認部311には、GPS品質確認部301AからGPS受信状況(各衛星信号のSNR)が供給される。モード確認部301Aは、マルチパス低減行動信号を出力し得るモード(低減行動モード)にあるか否かを判断する。なお、ユーザは、コントローラ200を用いての設定操作、あるいは飛行体100に対する直接の設定操作により、マルチパス低減行動信号を出力し得るモードの設定、あるいはその解除を行うことが可能とされている(図6参照)。
【0056】
モード確認部311は、低減行動モードに設定されていると判断した場合、GPS受信状況(各衛星信号のSNR)に基づいて、マルチパス環境にあるか否かを判断する。そして、モード確認部311は、マルチパス環境にあると判断した場合、マルチパス低減行動信号を出力して行動計画部304に送る。この意味で、モード確認部311は、マルチパス低減行動信号出力部を構成している。
【0057】
図11のフローチャートは、モード確認部311の処理手順の一例を示している。モード確認部311は、このフローチャートの処理を繰り返し実行する。モード確認部311は、ステップST11において、モード設定情報を取得する。次に、モード確認部311は、ステップST12において、低減行動モードに設定されているか否かを判断する。低減行動モードに設定されていない場合、モード確認部311は、ステップST13において、マルチパス低減行動信号を出力しない。
【0058】
一方、低減行動モードに設定されている場合、モード確認部311は、ステップST14において、GPS品質確認部301Aから供給されるGPS受信状況を取得する。次に、モード確認部311は、ステップST15において、GPS受信状況(各衛星信号のSNR)に基づいて、マルチパス環境にあるか否かを判断する。マルチパス環境にないと判断した場合、モード確認部311は、ステップST13において、マルチパス低減行動信号を出力しない。一方、マルチパス環境にあると判断した場合、モード確認部311は、ステップST16において、マルチパス低減行動信号を出力する。
【0059】
図10に戻って、詳細説明は省略するが、飛行体制御装置300Aのその他は、図8の飛行体制御装置300と同様に構成され、同様に動作する。
【0060】
図10に示す飛行体制御装置300Aにおいては、図8に示す飛行体制御装置300と同様の効果を得ることができる。また、図10に示す飛行体制御装置300Aにおいては、低減行動モードに設定されている場合のみマルチパス低減行動信号を出力するものである。そのため、モード設定に応じてマルチパス低減行動をとらせることが可能となる。例えば、その場にとどまってホバリングをして欲しいというユースケースでは、低減行動モードの設定をオフにすればよい。
【0061】
[飛行体制御装置の第3の構成例]
図12は、飛行体(ドローン)100の制御部110に含まれる飛行体制御装置300Bの構成例を示している。この図12において、図8と対応する部分には同一符号を付し、適宜、その詳細説明は省略する。飛行体制御装置300Bは、GPS品質確認部301Bと、自己位置推定部302と、環境認識部303と、行動計画部304と、経路計画部305と、機体制御部306と、ユーザ通知部312を有している。
【0062】
図8の飛行体制御装置300におけるGPS品質確認部301は、GPS受信状況(各衛星信号のSNR)からマルチパス環境であるか否かを判断し、マルチパス環境であるときは低減行動信号を出力して行動計画部304に送るものであった。これに対して、飛行体制御装置300BにおけるGPS品質確認部301Bは、GPS受信状況(各衛星信号のSNR)をユーザ通知部312に送る。
【0063】
ユーザ通知部312は、GPS受信状況(各衛星信号のSNR)に基づいて、マルチパス環境にあるか否かを判断する。そして、ユーザ通知部312は、マルチパス環境にあると判断した場合、マルチパス低減行動をとるかユーザに通知して確認する。
【0064】
この場合、飛行体100の制御部110から通信部120を通じてコントローラ200に通知されることでユーザに通知され、ユーザはコントローラ200からマルチパス低減行動をとるか否かの指示を飛行体100の制御部110に送る(図6参照)。ユーザ通知部312は、ユーザからマルチパス低減行動をとることの指示があった場合、マルチパス低減行動信号を出力して行動計画部304に送る。この意味で、ユーザ通知部312は、マルチパス低減行動信号出力部を構成している。
【0065】
図13のフローチャートは、ユーザ通知部312の処理手順の一例を示している。ユーザ通知部312は、ステップST21において、GPS品質確認部301Aから供給されるGPS受信状況を取得する。次に、ユーザ通知部312は、ステップST22において、GPS受信状況(各衛星信号のSNR)に基づいて、マルチパス環境にあるか否かを判断する。マルチパス環境にないと判断した場合、ユーザ通知部312は、ステップST23において、マルチパス低減行動信号を出力しない。
【0066】
一方、マルチパス環境にあると判断した場合、ユーザ通知部312は、ステップST24において、マルチパス低減行動をとるかユーザに通知して確認する。次に、ユーザ通知部312は、ステップST25において、ユーザから送られてくる指示を取得する。そして、ユーザ通知部312は、ステップST26において、マルチパス低減行動をとる指示か否かを判断する。
【0067】
低減行動をとる指示でないと判断した場合、ユーザ通知部312は、ステップST23において、マルチパス低減行動信号を出力しない。一方、低減行動をとる指示であると判断した場合、ユーザ通知部312は、ステップST27において、マルチパス低減行動信号を出力する。
【0068】
図12に戻って、詳細説明は省略するが、飛行体制御装置300Bのその他は、図8の飛行体制御装置300と同様に構成され、同様に動作する。
【0069】
図12に示す飛行体制御装置300Bにおいては、図8に示す飛行体制御装置300と同様の効果を得ることができる。また、図12に示す飛行体制御装置300Bにおいては、ユーザに通知して確認した後にマルチパス低減行動信号を出力するものである。そのため、ユーザの意向に沿ってマルチパス低減行動をとらせることが可能となる。
【0070】
<2.変形例>
なお、上述実施の形態においては、移動体が飛行体(ドローン)100である例を示した。詳細説明は省略するが、本技術は、車両、ロボット等のその他の移動体である場合にも同様に適用できる。
【0071】
また、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0072】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、または上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0073】
また、本技術は、以下のような構成を取ることもできる。
(1)衛星から送信される測位信号に基づく測位演算結果を用いて自己位置を推定する自己位置推定部と、
上記自己位置に基づいて移動体の移動を制御する移動制御部と、
マルチパス環境にあるときマルチパス低減行動信号を出力するマルチパス低減行動信号出力部を備え、
上記移動制御部は、所定の移動状態にある場合に上記マルチパス低減行動信号が出力されるとき、マルチパス低減行動をとるように制御する
移動体制御装置。
(2)周囲の障害物情報を出力する環境確認部をさらに備え、
上記移動制御部は、上記障害物情報に基づいて上記マルチパス低減行動を変化させる
前記(1)に記載の移動体制御装置。
(3)上記移動体は、ドローンであり、
上記所定の移動状態は、ホバリングであり、
上記マルチパス低減行動は旋回、螺旋または上下の移動のいずれかである
前記(2)に記載の移動体制御装置。
(4)上記マルチパス環境にあるとき上記低減行動信号出力部が上記マルチパス低減行動信号を出力し得るモードに設定するモード設定部をさらに備える
前記(1)から(3)のいずれかに記載の移動体制御装置。
(5)上記マルチパス環境にあるとき上記低減行動信号出力部が上記マルチパス低減行動信号を出力することをユーザに通知して確認するためのユーザ通知部をさらに備える
前記(1)から(4)のいずれかに記載の移動体制御装置。
(6)衛星から送信される測位信号に基づく測位演算結果を用いて自己位置を推定する手順と、
上記自己位置に基づいて移動体の移動を制御する手順と、
マルチパス環境にあるときマルチパス低減行動信号を出力する手順を有し、
上記移動体の移動を制御する手順では、所定の移動状態にある場合に上記マルチパス低減行動信号が出力されるとき、マルチパス低減行動をとるように制御する
移動体制御方法。
(7)コンピュータを、
衛星から送信される測位信号に基づく測位演算結果を用いて自己位置を推定する自己位置推定手段と、
上記自己位置に基づいて移動体の移動を制御する移動制御手段と、
マルチパス環境にあるときマルチパス低減行動信号を出力するマルチパス低減行動信号出力手段として機能させ、
上記移動制御手段は、所定の移動状態にある場合に上記マルチパス低減行動信号が出力されるとき、マルチパス低減行動をとるように制御する
プログラム。
【符号の説明】
【0074】
10・・・飛行体システム
100・・・飛行体(ドローン)
101・・・カメラ
104a~104d・・・ロータ
108a~108d・・・モータ
110・・・制御部
120・・・通信部
130・・・IMU
132・・・位置情報取得部
140・・・アラート発生部
150・・・バッテリ
200・・・コントローラ
300,300A,300B・・・飛行体制御装置
301,301A,301B・・・GPS品質確認部
302・・・自己位置推定部
303・・・環境認識部
304・・・行動計画部
305・・・経路計画部
306・・・機体制御部
311・・・モード確認部
312・・・ユーザ通知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13