(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】多層培養容器
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20241106BHJP
C12M 1/14 20060101ALI20241106BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20241106BHJP
C12M 3/04 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/00 C
C12M1/14
C12M3/00 A
C12M3/04 A
(21)【出願番号】P 2021530707
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2020026595
(87)【国際公開番号】W WO2021006278
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2019127121
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】吉川 義洋
(72)【発明者】
【氏名】竹内 誠亮
(72)【発明者】
【氏名】八尾 理文
(72)【発明者】
【氏名】山元 秀晃
(72)【発明者】
【氏名】我妻 裕介
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮介
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-253154(JP,A)
【文献】特表2011-528226(JP,A)
【文献】特表2009-502165(JP,A)
【文献】国際公開第2008/106012(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器部と、前記培養容器部に取り付けられたリザーバー部と、を備えた多層培養容器であって、
前記培養容器部が、積み重ねられている少なくとも2つの培養トレー
および前記少なくとも2つの培養トレーに積み重ねられているカバープレートを含み、
前記培養トレーが、底壁部及び前記底壁部を囲む周壁部を含み、
前記リザーバー部が、内部空間を画定する囲壁部及び前記内部空間と連通したポートを含み、
前記囲壁部が、前記ポートが設けられた第一の囲壁部及び前記第一の囲壁部と対向する第二の囲壁部を含み、
前記培養容器部が、前記少なくとも2つの培養トレーの各培養トレーと前記リザーバー部の前記内部空間とを連通する開口部を有し、及び、
前記培養容器部の前記開口部が、前記第一の囲壁部が前記培養容器部と当接する第一の当接部に向かって、前記第二の囲壁部が前記培養容器部と当接する第二の当接部から延在して
おり、前記開口部の下端が、前記周壁部の高さの2分の1以上の位置にある、多層培養容器。
【請求項2】
前記ポートが、その軸と、少なくとも2つの培養トレーが積み重ねられている積層方向とのなす角が70度以上90度以下となるように、前記リザーバー部に設けられている、請求項1に記載の多層培養容器。
【請求項3】
前記ポートが、前記少なくとも2つの培養トレーと前記リザーバー部とが対向する対向面と、前記ポートの軸とのなす角が0度以上50度以下となるように、前記リザーバー部に設けられている、請求項1又は2に記載の多層培養容器。
【請求項4】
前記培養容器部の前記開口部が、前記第一の当接部と前記第二の当接部との間の直線距離の3分の2以下の長さで、前記第一の当接部に向かって前記第二の当接部から延在している、請求項1~3のいずれか一項に記載の多層培養容器。
【請求項5】
前記積み重ねられている少なくとも2つの培養トレーの周壁部が、前記培養容器部の側壁部を構成し
ている、請求項1~4のいずれか一項に記載の多層培養容器。
【請求項6】
前記
カバープレートが、カバー壁部
を含み
、
前記各培養トレーの周壁部に形成された前記開口部が、前記各培養トレーの周壁部に設けられた切欠き部と前記各培養トレーに積み重ねられている前記培養トレーの前記底壁部とで形成された空間であるか、又は前記切欠き部と前記カバープレートの前記カバー壁部とで形成された空間である、請求項5に記載の多層培養容器。
【請求項7】
前記培養容器部が、前記第一の囲壁部と第二の囲壁部とが対向する第一の方向に沿って互いに対向する第一の側壁部及び第二の側壁部を有し、 前記ポートが、前記第一の方向において、第一の側壁部の前記第一の方向における位置と第二の側壁部の前記第一の方向における位置との間に位置する、請求項1~6のいずれか一項に記載の多層培養容器。
【請求項8】
前記第一の方向における、第一の側壁部と第二の側壁部との間の距離が140mm以下である、請求項7に記載の多層培養容器。
【請求項9】
前記リザーバー部が、
前記第一の囲壁部と第二の囲壁部とが対向する第一の方向及び少なくとも2つの培養トレーが積み重ねられている積層方向のいずれとも直交する第二の方向に沿って互いに対向する第三の囲壁部及び第四の囲壁部を有し、
前記ポートが、前記第二の方向において、第三の囲壁部の前記第二の方向における位置と第四の囲壁部の前記第二の方向における位置との間に位置する、請求項1~8のいずれか一項に記載の多層培養容器。
【請求項10】
培養容器部と、前記培養容器部に取り付けられたリザーバー部と、を備えた多層培養容器であって、
前記培養容器部が、積み重ねられている少なくとも2つの培養トレー
および前記少なくとも2つの培養トレーに積み重ねられているカバープレートを含み、
前記培養トレーが、底壁部及び前記底壁部を囲む周壁部を含み、
前記リザーバー部が、内部空間及び前記内部空間と連通したポートを含み、
前記培養容器部が、前記少なくとも2つの培養トレーの各培養トレーと前記リザーバー部の前記内部空間とを連通する開口部を有し、
前記開口部の下端が、前記周壁部の高さの2分の1以上の位置にあり、及び、
前記ポートが、そのポートの軸と、少なくとも2つの培養トレーが積み重ねられている積層方向とのなす角が70度以上90度以下となり、及び、前記ポートの軸と前記少なくとも2つの培養トレーと前記リザーバー部とが対向する対向面とのなす角が0度以上50度以下となるように、前記リザーバー部に設けられている、多層培養容器。
【請求項11】
前記リザーバー部が、その内部空間を画定し、前記ポートが設けられた囲壁部を含み、
前記囲壁部が、前記ポートが設けられた第一の囲壁部及び前記第一の囲壁部と対向する第二の囲壁部を含み、
前記培養容器部の前記開口部が、前記第一の囲壁部が前記培養容器部と当接する第一の当接部に向かって、前記第二の囲壁部が前記培養容器部と当接する第二の当接部から延在している、請求項10に記載の多層培養容器。
【請求項12】
医薬組成物の製造方法であって、
請求項1~11のいずれか一項に記載の多層培養容器を用いて細胞を培養する工程、
培養した細胞を、又は培養細胞から分泌された成分を含む培養培地を、前記多層培養容器から回収する工程、及び
回収した培養細胞又は回収した培養細胞から分離及び精製された成分、或いは回収した分泌成分を含有する医薬組成物を製造する工程、
を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を培養するための培養容器に関する。より具体的には、本発明は多層培養容器に関する。本発明はまた、前記多層培養容器を用いた医薬組成物の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
細胞医薬品などの医薬分野及び細胞科学などの研究分野を含む様々な技術分野で、細胞の培養が行われている。細胞培養では、一般に、滅菌処理済みの培養容器が用いられる。培養容器は、クリーンベンチ内などの無菌環境下で、そのポート部から細胞懸濁液が培養容器の内部空間に導入される。ポート部は内部空間の無菌状態を維持するために蓋がされ、培養容器は細胞を培養するために温度などが管理された培養装置に移される。細胞の状態に応じて、培養容器では、再びクリーンベンチ内で培養培地の交換及び細胞の回収などの操作が行われる。
【0003】
医薬分野では特に、細胞を培養する施設内部も可能な限り、クリーンな状態とすることが要求され、そのような状態の管理及び維持に多大な労力及び費用が要されている。そのような施設内のスペースを有効に利用するために、効率的に細胞を培養可能な培養容器が利用されている。例えば、浮遊性の細胞や接着性の細胞を大量に培養する場合には、培養バッグ(特許文献1)や細胞培養フラスコ内で平坦で硬質な面を積み重ねて多層化した培養フラスコが利用されてきた(特許文献2及び特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-262876号公報
【文献】特表2011-528226号公報
【文献】特表2009-502165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞培養の状態は、培養トレーに播種する細胞数及び培養溶液の分量を含む培養条件によって変動する。多層培養容器では、各層で独立して培地交換及び細胞継代を行うことは容易ではない。各層で培養条件が異なると、1つの培養トレーで培養培地の交換が必要になった場合又は細胞の継代が必要になった場合には、その他の培養トレーではその必要がなくても、同様に培養培地の交換又は細胞継代を行う必要があり、試薬の浪費に繋がっていた。細胞培養には、比較的高価な試薬が用いられるため、試薬の浪費は比較的大きな経済的な不利益をもたらしていた。
【0006】
特許文献2のように、再封可能ポートがポートの軸と培養トレーのトレー面とが垂直となるように配置された多層培養容器では、一般に、細胞懸濁液を再封可能ポートから導入すると、底面の培養トレー付近に溜まることとなる。この導入操作の間に、細胞は懸濁液中で沈み始め、細胞懸濁液は不均一になる。全ての細胞懸濁液を導入した後に、底面の培養トレー付近に溜まった細胞懸濁液は、多層培養容器を傾けることによって各培養トレーに分配される。この分配操作で不均一となった細胞懸濁液を均一化したうえで各培養トレーに分配することは難しく、全ての培養トレーで培養条件を揃えることは難しかった。従って、本発明の1つの目的は、少なくとも2つの培養トレーを含む多層培養容器において、各培養トレーにおける細胞培養で培養条件を揃えることが容易な多層培養容器を提供することである。
【0007】
特許文献3は、フィルターで覆われた複数の培養チャンバーを、支持体を利用して前記培養チャンバーと気体管層とが交互に積層されるにした多層培養容器が開示されている。フィルターで覆われた培養チャンバーには、液体の供給を可能にし、培養チャンバー内の空気を排出させることを可能にするマニフォールドが設けられ、前記培養チャンバー内は培養溶液で満たされることとなる。特許文献3記載の多層培養容器は、構造が複雑であり、当該分野には、シンプルな多層培養容器に対する要求が存在した。
【0008】
細胞医薬品の製造は、クリーンベンチなどの装置中で扱われるため、操作しやすい形状であることが有利であり、当該分野には、操作しやすい形状の多層培養容器に対する要求が存在した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の多層培養容器、及び前記多層培養容器を用いた医薬組成物の製造方法に関する。
[項1] 培養容器部と、前記培養容器部に取り付けられたリザーバー部と、を備えた多層培養容器であって、前記培養容器部が、積み重ねられている少なくとも2つの培養トレーを含み、前記リザーバー部が、内部空間を画定する囲壁部及び前記内部空間と連通したポートを含み、前記囲壁部が、前記ポートが設けられた第一の囲壁部及び前記第一の囲壁部と対向する第二の囲壁部を含み、前記培養容器部が、前記少なくとも2つの培養トレーの各培養トレーと前記リザーバー部の前記内部空間とを連通する開口部を有し、及び、前記培養容器部の前記開口部が、前記第一の囲壁部が前記培養容器部と当接する第一の当接部に向かって、前記第二の囲壁部が前記培養容器部と当接する第二の当接部から延在している、多層培養容器。
[項2] 培養容器部と、前記培養容器部に取り付けられたリザーバー部と、を備えた多層培養容器であって、前記培養容器部が、積み重ねられている少なくとも2つの培養トレーを含み、前記リザーバー部が、内部空間及び前記内部空間と連通したポートを含み、前記培養容器部が、前記少なくとも2つの培養トレーの各培養トレーと前記リザーバー部の前記内部空間とを連通する開口部を有し、及び、前記ポートが、そのポートの軸と、少なくとも2つの培養トレーが積み重ねられている積層方向とのなす角が70度以上90度以下となり、及び、前記ポートの軸と前記少なくとも2つの培養トレーと前記リザーバー部とが対向する対向面とのなす角が0度以上50度以下となるように、前記リザーバー部に設けられている、多層培養容器。
[項3] 項1又は項2に記載の多層培養容器を用いて細胞を培養する工程、培養した細胞を、又は培養細胞から分泌された成分を含む培養培地を、前記多層培養容器から回収する工程、及び、回収した培養細胞又は回収した培養細胞から分離及び精製された成分、或いは回収した分泌成分を含有する医薬組成物を製造する工程を含む、医薬組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の1つの実施形態に係る多層培養容器によれば、少なくとも2つの培養トレーを含む多層培養容器において、各培養トレーで培養条件を揃えることが容易であり、その結果、試薬の浪費を抑制することができる。本発明の他の実施形態に係る多層培養容器によれば、シンプルな構造で及び/又は操作しやすい形状であり便利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は実施形態1に係る多層培養容器の分解斜視図である。
【
図2】
図2の(a)は実施形態1に係る多層培養容器の縮尺表示による正面図である。
図2の(b)は
図2の(a)中のA-Aの縮尺表示による断面図である。
図2の(c)は
図2の(b)中の破線で囲われた部分の拡大図である。
図2の(d)は
図2の(a)中のD-Dの縮尺表示による断面図である。
【
図3】
図3の(a)は第一姿勢の多層培養容器における
図2の(a)中のE-Eの縮尺表示による断面図である。
図3の(b)は第一姿勢の多層培養容器における
図2の(b)中のB-Bの縮尺表示による断面図である。
図3の(c)は第二姿勢の多層培養容器における
図2の(b)中のB-Bの縮尺表示による断面図である。
図3の(d)は第三姿勢の多層培養容器における
図2の(a)中のA-Aの縮尺表示による断面図である。
【
図4】
図4は実施形態2に係る多層培養容器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「多層培養容器」は、少なくとも2つの培養トレーを含む培養容器を意味する。多層培養容器は、限定するものではないが、透明、半透明又は非透明ガラス又はプラスチック材料で形成される。多層培養容器の材料としては、限定するものではないが、医薬分野又は研究分野で慣用されるプラスチック、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレートが挙げられる。多層培養容器は、限定するものではないが、複数の部材を組み立てて製造されてよい。多層培養容器は、公知の方法に従って製造することができる。一例において、多層培養容器は、それを構成する複数の部材を個別に射出成形により調製し、各部材を組み立てることにより製造することができる。
【0013】
多層培養容器を組み立てるための部材は、すべて同じ材料で形成されてもよく、少なくとも1つの部材が異なる材料で形成されてもよく、又は全ての部材が異なる材料で形成されてもよい。多層培養容器は、例えば透明又は半透明の全て同じ材料で形成される。各部材は、例えば、その厚みが1~5mmとなるように調製される。多層培養容器は、限定するものではないが、滅菌処理が施されてもよい。滅菌処理としては、例えば、放射線滅菌処理、エチレンオキサイドガス滅菌処理、γ線滅菌処理、高圧蒸気滅菌処理などが挙げられる。
【0014】
本明細書において「培養トレー」は、培養層として利用され得る収容空間を有するトレーを意味する。培養トレーの収容空間は、底壁部と前記底壁部を囲む周壁部によって画定される。培養トレーの底壁部は、前記収容空間に面するトレー面を含む。前記トレー面は、細胞接着性を向上させる処理が施されていてもよい。細胞接着性を向上させる処理としては、例えば、プラズマ処理、酸化剤処理、親水性物質コーティング処理などが挙げられる。培養トレーの周壁部は、限定するものではないが、その底壁部と一体成形され、その外周から伸長した壁部であってもよく、又は、その底壁部に取り付けられた壁部であってもよく、或いはそれらの組合せであってもよい。
【0015】
本明細書において「積層方向」は、培養トレーの底壁部のトレー面が積み重ねられている方向を意味する。積層方向は、例えば、培養するのに適した多層培養容器の姿勢において、培養トレーに導入された流体試料の液面が積み重ねられている方向に相当する。培養するのに適した多層培養容器の姿勢は、限定するものではないが、培養トレーに導入された流体試料の液面の面積が最大となる姿勢である。
【0016】
本明細書において「ポートの軸」は、ポートの開口面の幾何中心から、前記開口面と垂直方向に延びる軸を意味する。ポートの開口面が円形である場合、ポートの軸は、ポートの開口面の中心を通って、前記開口面に垂直方向に延びる軸である。
【0017】
本明細書において「流体試料」は、溶媒及び溶液を意味する。流体試料は、例えば、培養培地、緩衝液、細胞懸濁液、水、トリプシンなどの生化学試薬を含む水溶液などが挙げられる。培養培地又は緩衝液は、公知の試薬から調製することができ、又は商業的に入手できる。細胞懸濁液は、細胞培地又は緩衝液中に細胞を含む液体である。トリプシンなどの生化学試薬は、公知の方法を用いて調製することができ、又は商業的に入手できる。
【0018】
本明細書において「医薬組成物」は、有効成分及び医薬上許容される担体を含む組成物を意味する。医薬上許容される担体は、公知のものを用いることができ、有効成分の種類、投与経路、剤形に応じて適宜設定することができる。医薬組成物は、公知の方法に従って製造することができる。有効成分は、限定するものではないが、細胞を培養することで分泌させる成分、又は細胞内に蓄積される成分、或いは、細胞そのものであってよい。
【0019】
本明細書において「細胞を培養する」又は「細胞培養」は、多層培養容器を用いて細胞を増殖させること又は細胞内で所望の成分を産生させることを意味する。細胞培養は、限定するものではないが、温度、湿度及び/又は二酸化炭素濃度などの条件が調整された環境下に、細胞を含む多層培養容器を置くことを含む。細胞培養は、さらに、細胞を培養した培地を交換すること、培養細胞を継代することを含んでもよい。細胞は、例えば、樹立された細胞株、遺伝子工学的に改変された細胞、生体から取得された細胞等を含む。
【0020】
本明細書において「回収」は、多層培養容器から流体試料を取り出すことを意味する。多層培養容器から回収される流体試料は、例えば、培養した細胞を含む細胞懸濁液、細胞を培養した培養培地などが挙げられる。多層培養容器からの回収は、公知の方法を用いて適宜実施することができる。例えば、ピペットなどの分注器具を用いて、多層培養容器から流体試料を取り出すことができる。培養した細胞を含む細胞懸濁液は、例えば、ピペットなどの分注器具を用いてトリプシンなどの試薬溶液を、接着性細胞を培養した多層培養容器に注入し、培養トレーに接着した細胞を剥離することで得ることができる。このようにして得られた細胞懸濁液は、上記と同様にして、多層培養容器から取り出すことができる。
【0021】
本明細書において「分離」は、所望の成分を、前記成分を含む状態から取り出すことを意味する。例えば、培養細胞中に産生された成分を分離する場合、フレンチプレス、超音波破砕などの物理的手法、又は界面活性剤などを含む破砕液を用いた化学的手法を含む公知の方法を用いることができる。
【0022】
本明細書において「精製」は、所望の成分の含有率を高める操作を意味する。精製方法は、公知の方法を特に制限なく用いることができる。公知の精製方法としては、限定するものではないが、液体クロマトグラフィー、遠心分離、磁気ビーズ、フローサイトメーターなどが挙げられる。
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の態様に係る実施形態について説明するが、これらの実施形態は本発明の例示であり、添付する特許請求の範囲に記載の発明をいかようにも限定するものではない。
【0024】
[実施形態1]
図1は、本発明の1つの実施形態(以下「実施形態1」)に係る多層培養容器の分解斜視図を示す。実施形態1に係る多層培養容器1は、培養容器部2と、前記培養容器部2に取り付けられたリザーバー部5とを備える。
【0025】
実施形態1に係る培養容器部2は、培養トレー3aと、前記培養トレー3aに積み重ねられた培養トレー3bと、前記培養トレー3bに積み重ねられた培養トレー3cと、前記培養トレー3cに積み重ねられた培養トレー3dと、前記培養トレー3dに積み重ねられた培養トレー3eと、前記培養トレー3eに積み重ねられたカバープレート4とで構成される。リザーバー部5は、培養容器部2と、前記培養トレー3及び前記カバープレート4に取り付けられ、内部空間及び前記内部空間と連通したネジ式ポート55を有する。培養トレー3とカバープレート4とリザーバー部5とは、後述する嵌合部又は当接部で、ヒートボンド、溶融ボンド、超音波融着又は接着剤等により液密に接着される。
【0026】
培養トレー3は、実質的に平坦な略長方形のトレー面を含む底壁部31、及び前記底壁部31と一体成形され、前記底壁部を囲む周壁部32を含む。培養トレーの周壁部32は、底壁部31の各周辺から実質的に垂直に上方に所定の長さで伸長された周壁を含む。培養トレー3は、前記底壁部31及び前記底壁部31を囲む周壁部32で画定される収容空間を含む。前記5つの培養トレー3a、3b、3c、3d及び3eは、互いに実質的に同じ形状を有する。
【0027】
培養トレー3aの周壁部32は、培養トレー3bとの適切な配置での積み重ねを容易にする凸部33を有する。培養トレー3bの底壁部31の外面は、培養トレー3aの周壁部32上の凸部33に嵌合する凹部34を有する。培養トレー3bは、培養トレー3bの凹部34と培養トレー3aの凸部33とを嵌合させることで、培養トレー3aに対して適切な配置での積み重ねが容易となる。培養トレー3c~3eの底壁部31の外面も、培養トレー3bと同様、培養トレーの凸部33に嵌合する凹部34を有する。培養トレー3c~3eも、前記した凸部33及び凹部34との嵌合により、適切な配置での積み重ねが容易となる。積み重ねられた培養トレー3の周壁部32が、培養容器部2の側壁部22を構成する。積み重ねられた培養トレー3aの底壁部31が、培養容器部2の底面部を構成する。なお、培養トレー3a~3eの各周壁部32に凹部を設け、培養トレー3b~3eの底壁部の外面及びカバープレート4のカバー壁部41の培養とレートに対向する面に凸部を設けてもよい。
【0028】
培養容器部2は、略直方体であり、培養トレー3aの底壁部31と、培養トレー3eに積み重ねられた、前記底壁部31に対向するカバー壁部41と、前記底壁部31と前記カバー壁部41とを接続する側壁部22とで画定される内部空間を有する。
図2で後述するように、側壁部22は、リザーバー部5が取り付けられる側壁部22dと、側壁部22dに対向する側壁部22bと、側壁部22bと側壁部22dとを接続する互いに対向する側壁部22a及び側壁部22cとを有する。培養容器部2の内部空間は、培養トレー3により区分けされている。各培養トレーは、区分けされた培養容器部2の内部空間を培養トレーの内部空間として有する。培養トレーの内部空間は、培養トレー3bが積み重ねられた培養トレー3aは、培養トレー3aの底壁部及び周壁部と、培養トレー3bの底壁部とで画定された空間である。培養トレー3b~3dも、それらの底壁部31及び周壁部32と積み重ねた培養トレー3c~3eの底壁部31とで画定された内部空間をそれぞれ有する。培養トレー3eは、その底壁部31及び周壁部32と積み重ねたカバープレート4の第一のカバー壁部41aとで画定された内部空間を有する。培養トレー3の内部空間は、培養層として利用され得る。実施形態1における培養トレー3の内部空間は、培養トレー3の底壁部31及び前記底壁部31を囲む周壁部32で画定される。
【0029】
カバープレート4は、培養トレー3a~3eが積み重ねられている積層方向(D1)に沿って、培養トレー3eに積み重ねられている。カバープレート4は、実質的に平坦なカバー壁部41を含む。カバー壁部41は、培養トレー3eに積み重ねられた第一のカバー壁部41a及びリザーバー部5に取り付けられた第二のカバー壁部41bを含む。リザーバー部5を、カバープレート4において第一のカバー壁部41aと一体成形された第二のカバー壁部41bに取り付けることで、組み立て後の多層培養容器1の強度を高めることができる。積み重ねられている少なくとも培養トレー3a~3eに積み重ねられたカバープレートは、培養容器部2の上面部を構成する。
【0030】
第一のカバー壁部41aは、実質的に平坦で、培養トレー3のトレー面と実質的に同一形状の略長方形のカバー面を含む。第一のカバー壁部41aは、培養トレー3eの周壁部32上の凸部33に嵌合する凹部44aを、培養トレー3eに対向するカバー面に有する。カバープレート4は、第一のカバー壁部41aの凹部44aと培養トレー3eの凸部33とを嵌合させることで、培養トレー3eに対して適切な配置での積み重ねが容易となる。
【0031】
第二のカバー壁部41bは、実質的に平坦で、後述するリザーバー容器50の囲壁部52aの内面と実質的に同一形状の略長方形のカバー面を含む。第二のカバー壁部41bは、後述するリザーバー容器50の4つの囲壁部52b、52c、52d及び52e上の凸部53に嵌合する凹部44bを、リザーバー部5に対向するカバー面に有する。カバープレート4は、第二のカバー壁部41bの凹部44bとリザーバー容器50の凸部53とを嵌合させることで、リザーバー部5に対して適切な配置での取付けが容易となる。
【0032】
カバープレート4は、その縁を囲むようにリッジ43が形成されている。リッジ43は、多層培養容器1の積み重ねを容易にするために用いられる。多層培養容器1を、リッジ43を有するカバープレート4を含む多層培養容器1に積み重ねる場合、積み重ねる多層培養容器1の底面部を構成する培養トレー3の底壁部31は、リッジ43に係合する位置決め突起を有してもよい。リッジ43と前記位置決め突起とを係合することにより、積み重ねた多層培養容器1の位置ずれを防止することができる。
【0033】
リザーバー部5は、内部空間を有する略直方体のリザーバー容器50を含み、前記リザーバー容器50は、前記培養トレー3a~3e及びカバープレート4に取り付けられている。リザーバー容器50の内部空間は、カバープレート41の第二のカバー壁部41b及び囲壁部52により画定される。囲壁部52は、培養容器部2の底面部の一部を構成し、培養トレー3aの底壁部31のトレー面(内面)と平行な、略長方形の内面を有する囲壁部52aを含む。囲壁部52は、更に、囲壁部52aの各辺から実質的に垂直に上方に所定の長さで伸長された4つの囲壁部52b、52c、52d及び52eを更に含む。
【0034】
囲壁部52b~52eは、リザーバー部5とカバープレートと4との適切な配置での取付けを容易にする凸部53を有する。上記したように、リザーバー容器50の凸部53を第二のカバー壁部41bの凹部に嵌合させることで、リザーバー部5をカバープレート4に対して適切な配置で取付けることが容易となる。なお、リザーバー部5に凹部を設け、第二のカバー壁部41bに凸部53を設けてもよい。
【0035】
リザーバー容器50の囲壁部52eは、リザーバー部5と培養トレー3との適切な配置での取付けを容易にする受け口54を有する。リザーバー容器50と対向する培養トレー3の周壁部32の周壁は、受け口54に嵌る係止凸部35を有する。リザーバー容器50の受け口54と培養トレー3の係止凸部35とを嵌合させることで、リザーバー部5は培養トレー3に対して適切な配置での取付けが容易となる。
【0036】
リザーバー容器50の囲壁部52eは、それと対向する培養トレー3の周壁部32の周壁に設けられた当接部36と当接する。当接部36を、例えば、ヒートボンド、溶融ボンド、超音波融着又は接着剤を用いて接着することで、組み立て後の多層培養容器1の強度を高めることができる。
【0037】
ネジ式ポート55は、対応するネジ蓋56により開閉自在なポートを構成する。ネジ式ポート55は、そのポートの軸D2と積層方向D1とのなす角が約90度で前記リザーバー容器50の囲壁部52bに設けられている。ネジ式ポート55を備えた囲壁部52bを、第一の囲壁部52bとも称し、囲壁部52bに対向する囲壁部52dを、第二の囲壁部52dとも称する。また、ネジ式ポート55は、前記ポートの軸D2と培養トレー3とリザーバー容器50とが対向する対向面とが略平行となるように、前記リザーバー部5に設けられている。
【0038】
リザーバー部5の内部空間と培養トレー3の内部空間とを連通させる開口部が、培養トレー3の周壁部32に設けられている。培養トレー3aの開口部は、培養トレー3aの係止凸部35の、底壁部31から遠位に設けられた切欠き部38と、培養トレー3aに積み重ねられた培養トレー3bの底壁部31とで形成されたスリット状の空間である。培養トレー3b~3dの開口部は、各培養トレー3b~3dの係止凸部35に設けられた切欠き部38と積み重ねられた培養トレー3c~3eの底壁部31とで形成されたスリット状の空間である。また、培養トレー3eの開口部は、積み重ねられたカバープレート4の第一のカバー壁部41aとで形成されたスリット状の空間である。
【0039】
図2dで後述するように、ネジ式ポート55が設けられた囲壁部52bは、培養容器部2の側壁部22dと第一の当接部P1で当接している。前記囲壁部52bと対向する囲壁部52dは、培養容器部2の側壁部22dと第二の当接部P2で当接している。第一の当接部P1及び/又は第二の当接部P2を、例えば、ヒートボンド、溶融ボンド、超音波融着又は接着剤を用いて接着することにより、培養容器部2とリザーバー部5とを液密に接着することができる。
【0040】
図2を参照しつつ、培養トレー3の周壁部32に設けられた開口部を詳述する。
図2aは、
図1で示される各部品を組み立てた実施形態1に係る多層培養容器1を示す。多層培養容器1では、積み重ねられた5つの培養トレー3の周壁部32で構成される側壁部22が形成され、その1つの側壁部22dに、リザーバー部5が取り付けられている。培養容器部2は第一の囲壁部52bと第二の囲壁部52dとが対向する第一の方向に沿って互いに対向する第一の側壁部及び第二の側壁部を有する。
図2aにおいて、第一の側壁部は、側壁部22aであり、第二の側壁部は、側壁部22cである。ネジ式ポート50及びネジ蓋56を含むポートは、第一の方向において、側壁部22aの第一の方向における位置と側壁部22cの第一の方向における位置との間に位置する。即ち、前記ポートは、
図2aにおいて側壁部22aを下とした場合、側壁部22cを含む平面よりも下方にあり、側壁部22aを含む平面よりも上方にある。リザーバー部5は第一の方向及び積層方向D1のいずれとも直交する第二の方向に沿って互いに対向する囲壁部52c及び囲壁部52eを有し、前記ポートは、第二の方向において、囲壁部52cの第二の方向における位置と囲壁部52eの第二の方向における位置との間に位置する。即ち、前記ポートは、
図2aにおいて側壁部22bを左とした場合、囲壁部52cを含む平面よりも左側にあり、囲壁部52eを含む平面よりも右側にある。ポート部が前記した位置にある場合、ポート部は多層培養容器2及びリザーバー部5の外周面よりも内側に配置されるために効率的に輸送可能である。また、培養作業時に作業者の手又は作業器具が、ポートに触れるリスクを軽減でき、操作性が良好である。
【0041】
図2bは、
図2a中のA-Aの断面図を示す。
図2bに示されるように、多層培養容器1の培養容器部2の内部空間は、5つの培養トレー3a~3eにより5つに区分けされる。前記5つの内部空間はそれぞれ、培養トレー3の係止凸部35を含む培養容器部2の側壁部22dを介して、リザーバー部5のリザーバー容器50の内部空間と隣接している。A-A断面において、リザーバー容器50の内部空間は、第二のカバー壁部41bと囲壁部52a~52cと側壁部22dとに囲まれている。
【0042】
図2cは、
図2b中の破線で囲われた部分の拡大図である。
図2cを参照しつつ、上記した培養トレー3で区分けされた内部空間が、培養容器部2の側壁部22dに形成された開口部39を通じて、リザーバー容器50の内部空間と連通されていることを説明する。上述したように、側壁部22dに形成される開口部39は、係止凸部35に底壁部31から遠位に形成された切欠き部38と、培養トレー3に積み重ねられたカバープレート4の第一のカバー壁部41aと又は積み重ねられた培養トレー3の底壁部31とで形成される空間である。
図2cで示されるように、培養トレー3で区分けされた各内部空間は、各培養トレー3に対して形成された開口部39を通じて、リザーバー容器50の内部空間と連通されている。
【0043】
図2dは、
図2a中のD-Dの断面図を示し、前記D-Dの断面は、多層培養容器1の培養容器部2の側壁部22dとリザーバー容器50とが対向する対向面に対応する。上述したように、培養容器部の側壁部22dに形成された開口部39は、培養容器部の側壁部22dと囲壁部52bが当接する第一の当接部P1と、囲壁部52dが当接する第二の当接部P2との間に形成される。
図2dにおいて、側壁部22dに形成された開口部39は、第一の当接部P1に向かって、第二の当接部P2から、P2とP1との直線距離の約3分の1の長さで延在している。前記した側壁部22dに形成された開口部39の長さは、実施形態1の多層培養容器1では、囲壁部52e(断面が示されている)の受け口の内壁54a、54bに嵌められた係止凸部35の幅の長さに相当する。開口部39の長さが、P2とP1との直線距離の3分の2以下の長さとすることで、培養容器部2とリザーバー容器50とを含む多層培養容器1の機械強度が強くなり好ましい。
【0044】
図2を参照しつつ、実施形態1の多層培養容器1のサイズを説明する。
図2aにおいて、多層培養容器1の短辺の長さL1を100~150mmとした場合、多層培養容器1の長辺の長さL2は、例えば200~300mmであり、培養容器部2の長辺の長さL8は、例えば180~210mmである。
図2aで示されるように、リザーバー容器50は、多層培養容器1の側壁部22aの水平位置から上方に段差が設けられて、側壁部22dに取り付けられている。その段差の距離L3は、多層培養容器1の短辺の長さL1を100~150mmとした場合、例えば8~13mmである。この段差により、
図3bの第一姿勢において側壁部22bを上方に持ち上げて、多層培養容器1をリザーバー部5の斜め下方向に傾けることが容易となり、使用者は、ポートを通じた流体試料の導入又は排出を容易に行うことができる。クリーンベンチ内での限られた作業空間において、比較的大きい多層培養容器を用いる場合、作業者の指などがポート部に接触するおそれが高くなり、その結果、多層培養容器内を汚染する危険が高まる。また、ピペットなどの比較的短い器具を用いて多層培養容器内の流体試料を回収する場合、多層培養容器が比較的大きいと、リザーバー部から試料を回収することが難しくなり、試料の無駄が生じやすくなる。多層培養容器の長さL1は、作業効率や試料の無駄を回避するために、140mm以下であることが好ましい。
【0045】
図2bにおいて、培養トレー3で区分けされた内部空間の高さL4は、多層培養容器1の短辺の長さL1を100~150mmとした場合、例えば5~10mmである。多層培養容器1の厚みL5は、多層培養容器1の短辺の長さL1を100~150mmとした場合、例えば45~55mmである。実施形態1の多層培養容器1において、培養トレー3の底壁部31及びカバープレート4のカバー壁部41の厚みは、例えばそれぞれ1.5~2.5mmである。
【0046】
図2dにおいて、培養容器部2とリザーバー容器50とが当接する当接部のうち、ネジ式ポート55が設けられている囲壁部52bと当接する上端の当接部(第一の当接部P1)と下端の当接部(第二の当接部P2)との間の距離を75~90mmとした場合、側壁部22dに形成された開口部39は、第一の当接部P1に向かって第二の当接部P2から、例えば25~35mm(L6)の長さで延在している。側壁部22dに形成された開口部39は、開口部39の長手方向の長さL6を25~35mmとした場合、その開口部39の幅L7は、例えば1~2mmである。開口部39は、培養容器部2の側壁部22aから、距離L10にて、第一の当接部P1に向かって第二の当接部P2から延在している。距離L10は、開口部39の短辺の開口端のうち第一の当接部P1側の開口端までの、培養容器部2の側壁部22aからの距離である。後述する実施形態2に係る多層培養容器では、リザーバー容器は第一の側壁部22a’と同じレベルとなるよう、培養容器部に取付けられているため、距離L6と距離L10とは同じ値となる。実施形態1に係る多層培養容器において、開口部39の長手方向の長さL6を25~35mmとした場合、距離L10は、例えば33~48mmである。
【0047】
図2cにおいて、開口部39の幅L7は、開口部の下端39aと上端39bとの間の距離である。開口部の上端39bは、積み重ねられたカバープレートのカバー壁部41又は培養トレーの底壁部31の外面に対応する。培養トレー3で区分けされた内部空間の高さL4を5~10mmとした場合、培養トレーの底壁部31から開口部の下端39aまでの距離L9は、例えば3~9mmである。
【0048】
図3を参照しつつ、流体試料(例えば培養培地)が導入された後の多層培養容器1の使用方法を説明する。
図3aは、
図2中のE-Eの断面図示し、流体試料が導入された後の第一姿勢の多層培養容器1を示す。多層培養容器1の第一姿勢は、培養容器部2の側壁部22aが底面となるように多層培養容器1を配置し、培養容器部2に取り付けられたリザーバー部5に備えられたポート55が上向きとなる姿勢である。第一姿勢の多層培養容器1は、使用者が、ポート55を通じて、培養容器部2の培養トレーで画定される内部空間に流体試料を導入又は排出を容易に行うことができる姿勢である。
【0049】
図3aに示されるように、第一姿勢におけるリザーバー容器50内の流体試料の液面は、側壁部22dに形成された各開口部39に対して揃っている。上述したように、側壁部22dに形成された開口部39を通じて、培養トレー3で区分けされた培養容器部2の各内部空間とリザーバー容器50の内部空間とは連通している。流体試料がポート55を通じてリザーバー容器50の内部空間に導入されると、その導入された流体試料は側壁部22dに形成された各開口部39を通じて、培養容器部2内の各内部空間に導入される。
【0050】
図3bは、第一姿勢における多層培養容器1における
図2b中のB-Bの断面を示す。
図3bに示されるように、培養容器部2の側壁部22dに設けられた開口部を通じて培養容器部2の各内部空間に流入した流体試料の液面は、リザーバー容器50内の流体試料の液面と同じになる。
図3a及び
図3bから理解されるように、多層培養容器1によれば、導入された流体試料は、導入作業を行うだけで、培養容器部2内の培養トレー3で区分けされた各内部空間に均等に配分される。
【0051】
図3cは、培養容器部2の側壁部22bが底面となるように置いた第二姿勢の多層培養容器1を示す。第二姿勢は、第一姿勢の多層培養容器1を
図3bの矢印Rの方向に90度回転させた姿勢である。第一姿勢から第二姿勢に移行させる間に、リザーバー容器50の内部空間に溜められていた流体試料は、側壁部22dに形成された開口部39を通じて、培養容器部2の培養トレー3で区分けされた各内部空間に流入することとなる。この結果、リザーバー容器50に導入された流体試料は基本的にすべて、培養容器部2の培養トレーで区分けされた前記内部空間に配分され、流体試料の無駄をなくすことが可能である。
【0052】
図3dは、
図3cで示す第2姿勢から、側壁部22bを軸にして奥方向に90度倒し、培養トレー3aの底壁部31が底面となるように置いた第三姿勢の多層培養容器1を示す。
図3a~dで示されるように、多層培養容器1を、第一姿勢から第二姿勢を経て第三姿勢とすることで、流体試料が、培養容器部2を構成する各培養トレー3a、3b、3c、3d及び3eに均一に配分された状態を容易に作り出すことができる。各培養トレーに配分された流体試料の液面は、各培養トレーの開口部39を形成する切欠き部よりも低い位置にある。上記したように、多層培養容器1によれば、第一姿勢にて流体試料を導入するだけで、培養容器部2の培養トレー3で区分けされた内部空間に流体試料が均等に配分されるため、培養条件を容易に揃えることができる。これにより、細胞の培養状態の不均一性から生じる、試薬の浪費を抑制し得る。
【0053】
培養容器を用いた細胞培養での汚染は、一般に、培養容器内の内部空間と外部空間との連通をもたらすポート付近で生じやすい。このため、細胞培養操作では、ポート部分に触れた流体試料が培養容器内部に侵入しないように操作することが一般的である。実施形態1に係る多層培養容器1では、
図3で示されるように、ポート55から導入された流体試料を培養容器部2の培養トレー3で区分けされた各内部構造に分配するまでに、導入した流体試料がポート55と接触することは基本的になく、実施形態1に係る多層培養容器1は汚染のリスクの観点からも有利である。
【0054】
実施形態1では、培養容器部2の側壁部22は、積み重ねられた少なくとも2つの培養トレー3の周壁部32により構成されているが、これに限定されない。培養容器部の側壁部は、例えば、培養容器部を構成する容器の側壁部であってよい。この例において、多層培養容器の少なくとも2つの培養トレーは、培養容器部の容器の側壁部の内壁面と、培養トレーの底壁部の外周面又は周壁部の外壁面とを接着することにより積み重ねられていてよい。従って、本発明に係る実施形態1は、以下の変形例を含む。
【0055】
[変形例]
収容容器を含む培養容器部と、前記培養容器部に取り付けられたリザーバー部と、を備えた多層培養容器であって、前記収容容器が、積み重ねられている少なくとも2つの培養トレーを含み、前記リザーバー部が、内部空間を画定する囲壁部及び前記内部空間と連通したポートを含み、前記囲壁部が、前記ポートが設けられた第一の囲壁部及び前記第一の囲壁部と対向する第二の囲壁部を含み、前記培養容器部が、前記少なくとも2つの培養トレーの各培養トレーと前記リザーバー部の前記内部空間とを連通する開口部を有し、及び、前記培養容器部の前記開口部が、前記第一の囲壁部が前記培養容器部と当接する第一の当接部に向かって、前記第二の囲壁部が前記培養容器部と当接する第二の当接部から延在している、多層培養容器。
【0056】
実施形態1では、積み重ねられている少なくとも2つの培養トレー3は、1つの培養トレー3の周壁部32に、他の培養トレー3の底壁部を当接させて積み重ねられているが、これに限定されない。例えば、実施形態1の変形例のように、培養容器部を構成する収容容器の側壁部の内壁面と、培養トレーの底壁部の外周面とを接着することで又は周壁部の外壁面とを接着することで、1つの培養トレーの周壁部と他の培養トレーの底壁部とを当接させることなく、培養トレーの底壁部のトレー面を積み重ねることができる。
【0057】
実施形態1では、多層培養容器1は、積み重ねられている少なくとも2つの培養トレー3を培養トレー3aに培養トレー3b、3c、3d及び3eの順で積み重ねて組み立てられているが、これに限定されない。例えば、実施形態1の変形例のように、培養容器部を構成する収容容器の側壁部の内壁面と培養トレーの周壁部の外壁面とを接着する場合、培養トレーを積み重ねる順序、即ち、培養トレーの底壁部の外周面又は周壁部の外壁面と培養容器部を構成する容器の側壁部の内壁面とを接着する順序は、特に制限さない。
【0058】
実施形態1では、培養トレー3は、底壁部31の外周から前記底壁部31と一体成形され、前記底壁部の外周から伸長した周壁で構成される周壁部32を含んだが、これに限定されない。例えば、実施形態1の変形例では、培養トレーの底壁部の外周面が培養容器部を構成する収容容器の側壁部と接着され、前記培養トレーは、その底壁部及び前記底壁部の外周に取り付けられた壁を周壁部として含む。培養トレーの周壁部は、限定するものではないが、その底壁部から伸長した周壁で構成されるか、その底壁部に取り付けられた壁で構成されるか、又はその底壁部から伸長した周壁及び前記底壁部に取り付けられた壁を含んで構成される。
【0059】
実施形態1では、培養トレー3の周壁部32は、その底壁部の外周から実質的に垂直に上方に伸長された周壁を含んだが、これに限定されない。培養トレーの周壁部は、その底壁部の外周から斜め上方に伸長された周壁を含んでもよい。
【0060】
実施形態1では、培養トレー3の底壁部31は実質的に平坦な略長方形のトレー面を含んだが、これに限定されず、三角形、正方形、5角形、6角形、楕円形、円形のトレー面を含んでもよい。培養トレーの底壁部のトレー面は、限定するものではないが、多層培養容器を培養するのに適した姿勢に置いた場合に、培養層の底面を構成する。
【0061】
実施形態1では、積み重ねられている少なくとも培養トレー3は、5つの培養トレー3a~3eを含んだが、これに限定されない。積み重ねられている少なくとも培養トレーのトレー数は、目的に応じて当業者により適宜設定されてよく、限定するものではないが、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれ以上であってよい。
【0062】
実施形態1では、積み重ねられている少なくとも2つの培養トレー3は、互いに実質的に同じ形状を有しているが、これに限定されない。例えば、多層培養容器を培養するのに適した姿勢に置いた場合に、多層培養容器の底面を構成する培養トレーは、それに積み重ねられている他の培養トレーとは異なる形状であってよい。例えば、前記培養容器部の底面を構成する培養トレーは、培養装置内に置かれたときに、多層培養容器の底面部が培養装置に直接触れないようにするための突起が設けられていてよい。
【0063】
実施形態1では、カバープレート4は、実質的に平坦なカバー壁部41を含んだが、これに限定されない。実施形態1では、カバープレート4は、培養トレー3eに積み重ねられた第一のカバー壁部41a及びリザーバー部5に取り付けられた第二のカバー壁部41bを含んだが、これに限定されない。カバープレートは、培養トレーに積み重ねられる第一のカバー壁部から構成されてよい。
【0064】
実施形態1では、カバープレート4は、積み重ねられている少なくとも2つの培養トレー3の周壁部32に積み重ねられているがこれに限定されない。例えば、実施形態1の変形例のように、培養容器部がそれを構成する収容容器を含む場合、その収容容器の上面部がカバープレートに相当する。
【0065】
実施形態1では、リザーバー部5は、培養容器部の側壁部22d及びカバープレート4の第二のカバー壁部41bに取り付けられているが、これに限定されない。例えば、リザーバー部が、カバープレート4に代えて第二のカバー壁部41bに対応する囲壁部を有する場合、リザーバー部は、培養容器部の側壁部22dにだけ取り付けられていてもよい。他の例において、培養トレー3の底壁部31に、リザーバー部に代えて囲壁部52aに対応する更なる底壁部が一体形成されている場合、リザーバー部は、培養容器部の側壁部22d、カバープレート4の第二のカバー壁部41b及び培養トレー3の前記した更なる底壁部に取り付けられていてもよい。この例では、組み立て後の多層培養容器1は、その機械強度が比較的高くなり、好ましい。
【0066】
実施形態1では、リザーバー部5は、略直方体のリザーバー容器50を含んだが、これに限定されない。リザーバー部5の形状は、例えば、正六面体、円錐台、5角柱を含む多角柱などであってよい。
【0067】
実施形態1では、培養容器部2とリザーバー部5との取付けは、培養トレー3の周壁部32に形成された係止凸部35とリザーバー容器50に形成された受け口54とを嵌合させ、且つ、リザーバー容器50の囲壁部52eと培養トレーの周壁部32との当接部36とを接着させることによって行われたが、これに限定されない。前記取付けは、例えば、係止凸部と受け口との嵌合又は当接部での接着のいずれか一方であってよい。他の例では、培養容器部2とリザーバー部5とは一体成形されていてもよい。
【0068】
実施形態1では、リザーバー容器50を構成する囲壁部52のうち、ポート55が設けられた第一の囲壁部52bと、第一の囲壁部52bと対向する第二の囲壁部52dとは略平行、即ち、第一の囲壁部52bと対向する第二の囲壁部52dとがなす角は約0度であるが、これに限定されない。ポートが設けられた第一の囲壁部と、それと対向する第2の囲壁部とがなす角は、限定するものではないが、0度以上50度以下であってよく、例えば、0度以上45度以下、0度以上40度以下、0度以上35度以下、0度以上30度以下、0度以上20度以下、0度以上10度以下、又は0度以上5度以下であってよい。ポートが設けられた第一の囲壁部とそれと対向する第2の囲壁部とがなす角は、例えば、0度、10度、20度、30度、35度、40度、45度、又は50度であってよい。
【0069】
実施形態1では、ポート55の形状は、円柱状の凸管であるが、これに限定されない。ポートの形状は、限定するものではないが、ピペットなどの分注器具を用いて流体試料の導入及び排出を行うことができる形状であれば、特に制限されない。ポートの形状は、例えば、凸管、凹管又は孔であってよい。ポートは、限定するものではないが、円形、楕円形、又は多角形(例えば六角形)の開口面を有する。
【0070】
実施形態1では、ポート55は、ネジ式ポートであり、ネジ蓋56を用いて開閉することができる開口部であるが、これに限定されない。ポートは、例えば、ヒンジキャップを備えた開口部であってよい。ポートに用いられる蓋の材料は、限定するものではないが、医薬分野又は研究分野で慣用される金属又はプラスチック、例えばステンレススチール又はポリエチレンが挙げられる。蓋は、限定するものではないが、ガスの交換を可能にするために、細孔を有するフィルター又は疎水性メンブレンを備えたベントキャップであってよい。細孔は、限定するものではないが、細菌、ウイルスなどの汚染から容器内の細胞を保護することができるサイズであってよい。細孔は、例えば、0.65ミクロン未満、0.4ミクロン、又は0.22ミクロンであってよい。
【0071】
実施形態1では、ポート55の軸D2と積層方向D1とがなす角は約90度であるが、これに限定されない。ポートの軸D2と積層方向D1とがなす角は、限定するものではないが、70度以上90度以下、75度以上90度以下、80度以上90度以下、85度以上90度以下であってよい。ポートの軸D2と積層方向D1とがなす角は、例えば、90度、85度、80度、75度、又は70度であってよい。
【0072】
実施形態1では、ポート55は、その軸D2と、培養容器部2の側壁部22dとリザーバー容器50の囲壁部52eとが対向する対向面とが略平行、即ち、ポート55の軸D2と、培養容器部2の側壁部22dとリザーバー容器50の囲壁部52eとが対向する対向面とのなす角が約0度となるように、リザーバー容器50の囲壁部52bに設けられているが、これに限定されない。ポートの軸D2と、培養容器部の側壁部とリザーバー容器の囲壁部とが対向する対向面とがなす角は、限定するものではないが、0度以上50度以下であってよく、例えば、0度以上45度以下、0度以上40度以下、0度以上35度以下、0度以上30度以下、0度以上20度以下、0度以上10度以下、又は0度以上5度以下であってよい。ポートが設けられた第一の囲壁部とそれと対向する第2の囲壁部とがなす角は、例えば、0度、10度、20度、30度、35度、40度、45度、又は50度であってよい。
【0073】
培養容器部2の側壁部22dとリザーバー容器50の側壁部52eとが対向する対向面は、例えば、第二の当接部P2の両端の2点と、前記ポート55の軸D2と第一の当接部P1との最近傍点とを含む平面であってよい。
【0074】
実施形態1では、培養容器部2の開口部39は、培養トレー3の周壁部32に設けられた切欠き部38により形成されているが、これに限定されるものではない。培養容器部の開口部は、例えば、その底壁部から伸長された周壁に設けられた孔又は開口であってよい。他の例では、実施形態1の変形例においてに1つの培養トレーの周壁部と他の培養トレーの底壁部とを当接させずに培養トレーを積み重ねた場合に形成される、培養トレー間の空間を、培養容器部の開口部としてもよい。
【0075】
実施形態1では、培養容器部2の開口部39は、培養トレー3を、その周壁部32に形成された切欠き部38が培養容器部2の側壁部22dとリザーバー容器50の囲壁部55eとの対向面に整列するように積み重ねることで形成されているが、これに限定されない。培養トレーの開口部は、例えば、異なる突出長さの係止凸部を周壁部に有する培養トレーを、積層方向に進むにつれ突出長さが小さくなるように培養トレーを積み重ねることで、積層方向に開口面を有する開口部を形成させてもよい。
【0076】
実施形態1では、培養容器部2の開口部39は培養トレー3につき1つ設けられているが、これに限定されるものではなく、培養トレーの開口部は培養トレーにつき2つ以上設けられてもよい。
図3aで示されるように多層培養容器1が第一姿勢に置かれるとき、ポート55を通じて培養容器部2内部に流体試料を導入しようとしても、導入された流体試料の液面がリザーバー容器50の囲壁部52eを上回ると、流体試料は培養容器部2の培養トレーの内部空間に残存する空気のために培養容器部2内部に配分されなくなる。流体試料の液面がリザーバー容器50の囲壁部52eを上回っても培養容器部2内部に流体試料を配分させるために、培養容器部2は、その側壁部22dに残存する空気を逃がすための更なる開口部を含んでよい。そのような更なる開口部は、多層培養容器1の第一姿勢を示す
図3aにおいて、開口部39より上方に形成される。
【0077】
上記した培養容器部2に残存する空気を逃がすために更なる開口部を含まない場合、多層培養容器1のリザーバー容器50の囲壁部52eは、培養容器部2に配分される流体試料の量を制限して、培養トレー内に所定の比率で流体試料の容積と空間容積とが含まれるようにするための調節機構として機能し得る。
【0078】
実施形態1では、培養容器部2の開口部39は、培養トレー3の周壁部32に、その高さの約5分の4の位置が前記開口部の下端39aとなるように形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、培養容器部2の開口部は、培養トレーの周壁部に、その高さの2分の1以上、5分の3以上、3分の2以上、4分の3以上、5分の4以上の位置がその開口部の下端39aとなるように形成されてよい。
【0079】
図3dで示されるように、多層培養容器を培養するのに適した姿勢(第三姿勢)に置いた場合、培養容器部2の各培養トレー3の底壁部31のトレー面から、各培養トレー3の周壁部32に設けられた開口部の下端39aまでの距離L9が、その培養トレーに収容可能な流体試料の液面の上限を規定することとなる。例えば、培養容器部の開口部の下端39aが、培養トレーの周壁部32の高さの2分の1の位置に設けられている場合、培養トレーの内部空間に液面が2分の1を超える分量で流体試料が配分されると、その流体試料の一部は前記開口部から溢れだすことになる。従って、培養トレー3で区分けされた培養容器部2の内部空間のうち、培養トレー3の底壁部31のトレー面と開口部の下端39aまでの距離L9とで形成される空間が、培養層として利用され得る収容空間に相当する。多層培養容器1を第一姿勢から第二姿勢を経て第三姿勢とした場合に、流体試料の一部が培養トレーの内部空間から開口部39を通じてリザーバー容器50へと溢れだすこれを防止するため、多層培養容器1が第一姿勢における適切な流体試料の量を示す目印が、培養容器部2及び/又はリザーバー部5に付されていてもよい。そのような目印は、プリント、エンボス加工又はシールであってよい。
【0080】
多層培養容器1を第三姿勢に置いたときの培養容器部2が収容可能な最大容積は、例えば、培養トレーの底壁部31のトレー面の面積L1×L8(
図2a参照)に、底壁部31から開口部の下端39aまでの距離L9を乗じて得られる容積(1つの培養トレー3が収容可能な最大収容容積)に、培養容器部2を構成する培養トレー3のトレー数を乗じることによって算出することができる(L1×L8×L9×[培養トレーのトレー数])。上記した第一姿勢における適切な流体試料の量を示す目印は、例えば、培養容器部2が収容可能な最大容積以下となる位置に付すことができる。特に第三姿勢に置いたとき収納可能な最大容積まで液体試料を収納していた場合は、振動などにより液体試料が培養トレー3からリザーバー容器50(50’)へ溢れだす危険性がある。その為、好適にはL9の50%より下の容積になるよう、収納させる液体試料の量または培養トレー3のトレー面積を適宜設定すればよい。培養容器部に収容する適切な容積は、(L1×L8×L9×0.5×[培養トレーのトレー数])で表すことができる。
【0081】
流体試料中に気泡が形成されると、流体試料を回収する際に回収量が低下する。また、気泡が弾けた際に飛散する流体試料は汚染の原因ともなる。多層培養容器の内部構造によっても、流体試料中に気泡が形成されやすくなる。例えば、第三姿勢の多層培養容器に収容された培養培地を排出するために、多層培養容器1を第一姿勢としたときの流体試料の液面の位置が、各培養トレーの周壁部に設けられた開口部の、第一の当接部P1側の短辺の開口端の位置よりも高くなる場合、気泡が形成されやすくなる。気泡の形成を抑制するためには、多層培養容器が第一姿勢にあるときに、培養容器部2が収容する適切な容積が示す液面の位置よりも、各培養トレーの周壁部に設けられた開口部の、第一の当接部P1側の短辺の開口端の位置が高いことが好ましい。即ち、第一姿勢のときの多層培養容器の底面の面積に、第一の当接部P1側の開口端までの距離を乗じて得られる容積が、培養容器部2に収容する適切な容積よりも大きいことが好ましい。そのような多層培養容器は、例えば、以下の関係を有する:
[第一姿勢のときの多層培養容器の底面の面積に、第一の当接部P1側の開口端までの距離を乗じて得られる容積] ≧ [培養容器部に収容する適切な容積] (1)。
【0082】
不等式(1)において、左辺の容積は、第一の当接部P1側の開口端までの側壁部22aからの距離L10に(
図2d参照)、側壁部22aを底面とした多層培養容器の長辺の長さL2と厚みL5とを乗じた面積(
図2b参照)を掛け合わせることで得ることができる。即ち、左辺の容積は、L10×L2×L5で表せる。右辺の容積は、上記のとおり、L1×L8×L9×[培養トレーのトレー数]で表すことができる。これらを不等式(1)に代入することで、以下の式(2)が得られる:
L10×L2×L5 ≧ L1×L8×L9×[培養トレーのトレー数] (式2)。
【0083】
図2で示されるように、多層培養容器の厚みL5は、培養トレーの内部空間の高さL4に、多層培養容器を構成する培養トレーのトレー数を乗じた値にほぼ等しい。即ち、L5≒L4×[培養トレーのトレー数]と表すことができる。これを不等式(2)に代入すると、以下の式(3)が得られる:
L10×L2×L4×[培養トレーのトレー数] ≧ L1×L8×(L9×0.5)×[培養トレーのトレー数] (式3)。
【0084】
不等式3の両辺を、L1、L2、L4、及び[培養トレーのトレー数]で除すると、以下の式(4)が得られる:
L10/L1 ≧ (L9×0.5)/L4×L8/L2 (式4)。
[式中、L10/L1は、
図2dで示されるように、多層培養容器の短辺の長さL1に対する、第一の当接部P1側の開口端までの側壁部22aからの長さL10の比を示す。L9/L4は、
図2cで示されるように、培養層として利用される内部空間の高さL4に対する、培養トレーに収容可能な流体試料の液面の上限を規定する開口部の下端39aまでの距離L9の比を示す。L8/L2は、
図2aで示されるように、多層培養容器1の長辺の長さL2に対する、培養容器部2の長辺の長さL8の比を示す。
【0085】
実施形態1では、培養容器部2の開口部39は、培養トレー3の周壁部32に形成されているが、これに限定されない。例えば、実施形態1の変形例のように、培養容器部がそれを構成する収容容器を含む場合、培養容器部の開口部は、前記収容容器の側壁部に形成されていてもよい。他の例において、培養容器部とリザーバー部との取り付け面部において開口部が形成されている場合、その取付け面部が多層培養容器を組み立てる際に、リザーバー部の囲壁部に形成された開口部であったとしても、多層培養容器において、当該開口部は、培養容器部の開口部とみなされる。
【0086】
実施形態1では、培養トレー3の開口部39の形状は、スリット状の空間であるが、これに限定されるものではなく、培養トレーの開口部の形状は、例えば、三角形、楕円形などであってよい。前記開口部は、限定するものではないが、複数の空間が断続的に設けられていてもよい。
【0087】
[実施形態2]
図4は、本発明の他の実施形態(以下「実施形態2」)に係る多層培養容器の斜視図を示す。以下、
図4を参照して、実施形態2について説明するが、前述した実施形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
実施形態1に係る多層培養容器1の培養トレーは5個であったのに対して、実施形態2に係る多層培養容器1’は6つの培養トレー3a’~3f’を含む。
【0088】
実施形態1に係るリザーバー部5に備えられたポートは、ネジ式ポート55がネジ蓋56により開閉されるものであるが、実施形態2に係るリザーバー部5’に備えられたキャップ式ポート55’はヒンジキャップ56’により開閉される。ヒンジキャップ56’は、リザーバー部5’の前記内部空間と外部空間との連通をもたらす開口部を有するガス交換部を備え、前記開口部は細孔を有するフィルター又は疎水性メンブレンにより覆われている。
図4に示される実施形態2では、ヒンジキャップ56’は、例えば、8個のガス交換部を備える。前記8個のガス交換部は、ヒンジキャップ56’の厚さ方向から見た中心点の周りに間隔をあけて配置され、隣接するガス交換部の間でリブが放射状に中心点から延在している。ガス交換部は、ネジ蓋に設けられてもよい。蓋又はキャップに設けられるガス交換部は、1個であってもよく、複数個であってもよい。一例において、蓋又はキャップは、3個のガス交換部を備え、前記ガス交換部は前記蓋又はキャップの厚さ方向から見た中心点の周りに間隔をあけて、好ましくは等角度で配置されている。
【0089】
実施形態1に係る多層培養容器1のリザーバー部5は、リザーバー容器50の囲壁部52dが培養容器部2の側壁部22aの水平位置から上方の位置で側壁部22dに取り付けられていたのに対して、実施形態2に係る多層培養容器1’では、リザーバー部5’は、リザーバー容器50’の囲壁部52e’が培養容器部2’の側壁部22a’と同じレベルとなるよう、側壁部22d’に取付けられている。これにより、多層培養容器1’を、第一姿勢に配置した場合の安定性が向上する。また、リザーバー容器50’の囲壁部52e’と培養トレー3’の側壁部22d’との当接部から延在する培養トレー3’の開口部によって、第一姿勢にて流体試料を排出する場合、流体試料の取残しを少なくすることが可能である。
【0090】
実施形態2に係る多層培養容器1’は、リザーバー容器50’の囲壁部52c’及び囲壁部52d’に引出部58を有する。引出部58は、培養装置内で細胞培養した後に、多層培養容器1’を前記培養装置から取り出す際に、使用者が手指を入れて多層培養容器1’を引出すのに便利である。引出部58に手指を入れることができる空間を形成するために、リザーバー容器50’の囲壁部52b’は囲壁部52a'に対して傾斜が設けられている。
【0091】
実施形態1の多層培養容器の培養トレー、カバープレート、リザーバー容器、培養トレーの開口部などの構成に関する説明は、実施形態2の多層培養容器の各種の構成についても適用される。
【0092】
本発明の他の態様は、本発明の実施形態に係る多層培養容器を用いて、細胞を培養する工程;培養した細胞を又は培養細胞から分泌された成分を含む培養培地を、前記多層培養容器から回収する工程;及び回収した培養細胞又は回収した培養細胞から分離及び精製された成分、或いは回収した分泌成分を含有する医薬組成物を製造する工程、を含む医薬組成物の製造方法を提供する。
【符号の説明】
【0093】
1、1’ 多層培養容器
2、2’ 培養容器部
3、3’、3a~3e、3a’~3f’ 培養トレー
4、4’ カバープレート
5、5’ リザーバー部
22、22a~22d、22a’~22d’ 側壁部
31 底壁部
32 周壁部
33 凸部
34 凹部
35 係止凸部
36 当接部
38 切欠き部
39 開口部
39a、39b 開口部の下端、上端
41 カバー壁部
41a、41b 第一、第二のカバー壁部
43 リッジ
44a 凹部
44b 凹部
50、50’ リザーバー容器
52、52a~52e、52a’~52e’ 囲壁部
53 凸部
54 受け口
55 ネジ式ポート
55’ キャップ式ポート
56 ネジ蓋
56’ ヒンジキャップ
58 引出部
D1 積層方向
D2 ポート軸