(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】垂直共振器型面発光レーザ素子の製造方法、垂直共振器型面発光レーザ素子アレイの製造方法及び垂直共振器型面発光レーザモジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20241106BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20241106BHJP
H01S 5/42 20060101ALI20241106BHJP
H01S 5/042 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/343
H01S5/42
H01S5/042 610
(21)【出願番号】P 2021565487
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2020045570
(87)【国際公開番号】W WO2021124967
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019230751
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 知雅
(72)【発明者】
【氏名】幸田 倫太郎
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-530246(JP,A)
【文献】特開2009-188382(JP,A)
【文献】特開2005-093704(JP,A)
【文献】特開平11-243257(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037679(WO,A1)
【文献】特開2002-223034(JP,A)
【文献】国際公開第2019/124163(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/235413(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0173089(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0007531(US,A1)
【文献】Hiroto Kambe,Increase in the infield critical current density of MgB2 thin films by high-temperature post-anneali,APPLIED PHYSICS EXPRESS,日本,(公社)応用物理学会,2021年02月01日,V.14 N.2,025504-1~4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層を含む半導体層と第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層が設けられた第1の基板を形成し、
狭窄領域及び前記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有する狭窄層と、第2のDBR層が設けられた第2の基板を形成し、
前記第1の基板と前記第2の基板を、前記狭窄層が前記半導体層に隣接するように接合する
垂直共振器型面発光レーザ素子の製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の
垂直共振器型面発光レーザ素子の製造方法であって、
前記第2の基板を形成する工程では、フォトリソグラフィを用いて前記狭窄領域と前記注入領域を形成する
垂直共振器型面発光レーザ素子の製造方法。
【請求項3】
活性層を含む半導体層と第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層が設けられた第1の基板を形成し、
狭窄領域及び前記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有する狭窄層と、第2のDBR層が設けられた第2の基板を形成し、
前記第1の基板と前記第2の基板を、前記狭窄層が前記半導体層に隣接するように接合する
垂直共振器型面発光レーザ素子アレイの製造方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の垂直共振器型面発光レーザ素子アレイの製造方法であって、
前記第2の基板を形成する工程では、フォトリソグラフィを用いて前記狭窄領域と前記注入領域を形成する
垂直共振器型面発光レーザ素子アレイの製造方法。
【請求項5】
活性層を含む半導体層と第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層が設けられた第1の基板を形成し、
狭窄領域及び前記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有する狭窄層と、第2のDBR層が設けられた第2の基板を形成し、
前記第1の基板と前記第2の基板を、前記狭窄層が前記半導体層に隣接するように接合
して垂直共振器型面発光レーザ素子を形成し、
前記垂直共振器型面発光レーザ素子を回路基板に実装する
垂直共振器型面発光レーザモジュールの製造方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の
垂直共振器型面発光レーザモジュールの製造方法であって、
前記第2の基板を形成する工程では、フォトリソグラフィを用いて前記狭窄領域と前記注入領域を形成する
垂直共振器型面発光レーザモジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電流狭窄構造を有する垂直共振器型面発光レーザ素子、垂直共振器型面発光レーザ素子アレイ、垂直共振器型面発光レーザモジュール及び垂直共振器型面発光レーザ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:垂直共振器型面発光レーザ)素子は、発光が生じる活性層を、一対の分布ブラッグ反射鏡(Distributed Bragg Reflector:DBR)によって挟んだ構造を有する。VCSEL素子では、活性層を流れる電流や活性層において生じた光を所定の領域に集中させるため、狭窄構造が設けられる。
【0003】
例えばGaAs系VCSEL素子の狭窄構造は、活性層に近接するAlAs層の一部を水蒸気でAlOに酸化させた酸化狭窄構造が一般的である。この酸化狭窄構造は、回折損失が小さく、量産性に優れた構造であるが、メサ(台地状構造)形成時のプロセス品質レベルによっては、酸化制御が困難となる。酸化レートが局所的に変動するとOA(Optical Aperture)径がばらつき、ビーム特性が影響を受けてしまう。具体的には、VCSEL素子のピッチが14μmまでが現実的なデバイス設計となり、10μm以下の狭ピッチ化には限界があった。
【0004】
また、InP系VCSEL素子では酸化狭窄できる材料がないため、GaAs基板上に酸化狭窄構造を形成してウェーハ接合している構造が開発されている。この構造も、酸化狭窄プロセスを経ているので、従来構造と同様にメサ形成が必要となり、狭ピッチ化は困難である。
【0005】
これに対し、狭窄構造を活性層近傍にウェーハボンディングで形成した構造も報告されている。特許文献1によると、透明基板を使い、活性層がヒート・シンクに近接するので熱性能がよく、しきい値電流、しきい値電圧、単一モード安定性、効率及び出力電力等において従来のVCSEL素子に比べて向上した性能を示すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の構成では、狭窄構造を形成した基板が、活性層が設けられた基板に貼り合わされているが、狭窄構造と活性層の間にもDBR層が設けられているため、層面方向の電流閉じ込めや積層方向の光閉じ込めが十分ではなく、狭ピッチ化にも限度がある。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、狭ピッチ化が可能な構造を有する垂直共振器型面発光レーザ素子、垂直共振器型面発光レーザ素子アレイ、垂直共振器型面発光レーザモジュール及び垂直共振器型面発光レーザ素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る垂直共振器型面発光レーザ素子は、第1の基板と、第2の基とを具備する。
上記第1の基板は、活性層を含む半導体層と第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層が設けられている。
上記第2の基板は、狭窄領域及び上記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有する狭窄層と、第2のDBR層が設けられ、上記狭窄層が上記半導体層に隣接するように上記第1の基板に接合されている。
【0010】
この構成によれば、垂直共振器型面発光レーザ素子は第1の基板と第2の基板が接合されている。このため、第2の基板において狭窄領域と注入領域を形成した後、第1の基板と接合することが可能であり、狭ピッチ化が可能な手法により狭窄領域と注入領域を形成することにより垂直共振器型面発光レーザ素子の狭ピッチ化が可能である。
【0011】
上記狭窄領域と上記注入領域は屈折率差を有してもよい。
【0012】
上記狭窄領域は、上記注入領域を囲む環状に形成されていてもよい。
【0013】
上記狭窄領域は、上記狭窄層に設けられた空隙であってもよい。
【0014】
上記注入領域は、導電性材料からなり、
上記狭窄領域は、上記導電性材料に非導電化処理を施した材料からなってもよい。
【0015】
上記注入領域は、GaAsからなり、
上記狭窄領域は、GaAsのフッ化物からなってもよい。
【0016】
上記第1の基板は、GaAsからなる基材上に結晶成長により形成された上記半導体層及び上記第1のDBR層を有し、
上記第2の基板は、GaAsからなる基材上に結晶成長により形成された上記狭窄層及び上記第2のDBR層を有してもよい。
【0017】
上記活性層は、GaAsからなる障壁層と、InGaAsからなる量子井戸層を交互に積層した量子井戸構造を有してもよい。
【0018】
上記第1の基板は、GaAsからなる基材上に結晶成長により形成された上記半導体層及び上記第1のDBR層を有し、
上記第2の基板は、InPからなる基材上に結晶成長により形成された上記狭窄層及び上記第2のDBR層を有してもよい。
【0019】
上記活性層は、InPからなる障壁層と、InGaAs、InGaAsP又はAlGaInAsからなる量子井戸層を交互に積層した量子井戸構造を有してもよい。
【0020】
上記第1のDBR層は半導体DBR又は誘電体DBRであり、
上記第2のDBR層は半導体DBR又は誘電体DBRであってもよい。
【0021】
上記垂直共振器型面発光レーザ素子は、
上記第2のDBR層側からレーザ光を出射してもよい。
【0022】
上記垂直共振器型面発光レーザ素子は、
上記第1のDBR層側からレーザ光を出射してもよい。
【0023】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る垂直共振器型面発光レーザ素子アレイは、活性層を含む半導体層と第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層が設けられた第1の基板と、狭窄領域及び上記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有する狭窄層と、第2のDBR層が設けられ、上記狭窄層が上記半導体層に隣接するように上記第1の基板に接合された第2の基板とを備える垂直共振器型面発光レーザ素子が複数配列されている。
【0024】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る垂直共振器型面発光レーザモジュールは、回路基板と、垂直共振器型面発光レーザ素子とを具備する。
上記垂直共振器型面発光レーザ素子は、活性層を含む半導体層と第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層が設けられた第1の基板と、狭窄領域及び上記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有する狭窄層と、第2のDBR層が設けられ、上記狭窄層が上記半導体層に隣接するように上記第1の基板に接合された第2の基板とを備え、上記回路基板に実装されている。
【0025】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る垂直共振器型面発光レーザモジュールの製造方法は、活性層を含む半導体層と第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層が設けられた第1の基板を形成し、
狭窄領域及び上記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有する狭窄層と、第2のDBR層が設けられた第2の基板を形成し、
上記第1の基板と上記第2の基板を、上記狭窄層が上記半導体層に隣接するように接合する。
【0026】
上記第2の基板を形成する工程では、フォトリソグラフィを用いて上記狭窄領域と上記注入領域を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本技術の第1の実施形態に係るVCSEL素子の断面図である。
【
図2】上記VCSEL素子の一部構成の断面図である。
【
図3】上記VCSEL素子が備える狭窄層の平面図である。
【
図4】上記VCSEL素子の製造方法を示す模式図である。
【
図5】上記VCSEL素子の製造方法を示す模式図である。
【
図6】上記VCSEL素子の製造方法を示す模式図である。
【
図7】上記VCSEL素子の製造方法を示す模式図である。
【
図8】上記VCSEL素子の製造方法を示す模式図である。
【
図9】上記VCSEL素子の製造方法を示す模式図である。
【
図10】本技術の第2の実施形態に係るVCSEL素子の断面図である。
【
図11】本技術の第3の実施形態に係るVCSEL素子の断面図である。
【
図12】本技術の第4の実施形態に係るVCSEL素子の断面図である。
【
図13】本技術の第5の実施形態に係るVCSEL素子の断面図である。
【
図14】本技術の第6の実施形態に係るVCSEL素子の断面図である。
【
図15】本技術の第7の実施形態に係るVCSEL素子アレイの断面図である。
【
図16】本技術の第8の実施形態に係るVCSELモジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本技術の実施形態に係るVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:垂直共振器型面発光レーザ)素子について説明する。
【0029】
[VCSEL素子の構造]
図1は本実施形態に係るVCSEL素子100の断面図である。同図に示すように、VCSEL素子100は、第1基板110と第2基板120から構成されている。また、第1基板110上には第1電極131が設けられ、第2基板120上には第2電極132が設けられている。
【0030】
図2は、第1基板110と第2基板120のみを示す断面図である。同図に示すように、第1基板110と第2基板120は、接合面Sにおいて接合されている。
【0031】
第1基板110は、基材111、第1DBR層112及び半導体層113を備える。基材111は、VCSEL素子100の各層を支持する。基材111は、例えばn-GaAsからなるものとすることができるが、他の材料からなるものであってもよい。
【0032】
第1DBR層112は、第1の反射鏡であり、基材111上に設けられ、波長λの光を反射するDBR(Distributed Bragg Reflector:分布ブラッグ反射鏡)として機能する。第1DBR層112は、低屈折率層と高屈折率層を交互に複数積層したものとすることができる。第1DBR層112は例えば半導体DBRであり、低屈折率層は例えばAlGaAsからなり、高屈折率層は例えばGaAsからなるものとすることができる。低屈折率層と高屈折率層の厚さはそれぞれλ/4が好適である。
【0033】
半導体層113は、第1クラッド層114、活性層115及び第2クラッド層116を含む。1クラッド層114は、第1DBR層112上に設けられ、光及び電流を活性層115に閉じ込める層である。第1クラッド層114は例えばGaAsからなる。
【0034】
活性層115は、第1クラッド層114上に設けられ、自然放出光の放出及び増幅を行う。活性層115は、量子井戸層と障壁層を交互に積層した多重量子井戸(MQW:multi quantum well)構造を有し、量子井戸層は例えばInGaAs又はInAsからなり、障壁層は例えばGaAsからなるものとすることができる。また、活性層115は量子井戸構造に限られず、量子ドット(quantum dot)構造等を有するものであってもよい。
【0035】
第2クラッド層116は、活性層115上に設けられ、光及び電流を活性層115に閉じ込める層である。第2クラッド層116は例えばGaAsからなる。なお、半導体層113の構成はここに示すものに限られず、第1クラッド層114及び第2クラッド層116の一方又は両方を有さず、少なくとも活性層115を有するものであればよい。
【0036】
第1DBR層112及び半導体層113は、GaAsからなる基材111上にエピタキシャル結晶成長により形成可能なものとすることができる。上記第1DBR層112及び半導体層113の各材料は、GaAsからなる基材111上にエピタキシャル結晶成長により形成可能である。
【0037】
第2基板120は、狭窄層121及び第2DBR層122を備える。第2基板120は、狭窄層121が第1基板110の半導体層113に隣接するように第1基板110に接合されている。
【0038】
狭窄層121は、半導体層113上に設けられ、電流に狭窄作用を付与する。
図1に示すように、狭窄層121は狭窄領域121a、注入領域121b及び外周領域121cを有する。
図3は狭窄層121を、層面に垂直な方向(Z方向)から見た図である。同図に示すように、注入領域121bは狭窄層121の中央部に設けられ、狭窄領域121aは注入領域121bを囲む環状に形成されている。外周領域121cは狭窄領域121aの外周に設けられている。
【0039】
狭窄領域121aは、注入領域121bより導電性が小さい領域である。狭窄領域121aは
図1に示すように、空隙とすることができる。
【0040】
注入領域121bは、狭窄領域121aより導電性が大きい領域である。また、注入領域121bは、狭窄領域121aより屈折率が大きい材料からなるものが好適である。注入領域121bは、例えばGaAsからなるものとすることができる。
図3に示すように、注入領域121bは、Z方向からみて円形形状を有するものとすることができる。また、注入領域121bの形状は円形に限られず、矩形その他の形状を有するものであってもよい。
【0041】
外周領域121cは、注入領域121bと同一の材料からなるものとすることができる。また、外周領域121cは設けられなくてもよく、狭窄領域121aが、注入領域121bの周縁からVCSEL素子100の端面にわたって形成されてもよい。
【0042】
第2DBR層122は、第2の反射鏡であり、狭窄層121上に設けられ、波長λの光を反射するDBRとして機能する。第2DBR層122は、低屈折率層と高屈折率層を交互に複数積層したものとすることができる。第2DBR層122は例えば半導体DBRであり、低屈折率層は例えばAlGaAsからなり、高屈折率層は例えばGaAsからなるものとすることができる。低屈折率層と高屈折率層の厚さはそれぞれλ/4が好適である。
【0043】
狭窄層121及び第2DBR層122は、製造プロセスにおいて用いる、GaAsからなる基材上にエピタキシャル結晶成長により形成可能なものとすることができる。上記狭窄層121及び第2DBR層122の各材料は、GaAsからなる基材上にエピタキシャル結晶成長により形成可能である。
【0044】
第1電極131は、導電性材料からなり、基材111上に設けられている。第1電極131は例えば基材111側から順に、AuGe層、Ni層及びAu層を積層したものとすることができる。
【0045】
第2電極132は、導電性材料からなり、第2DBR層122上に設けられている。第2電極132は、Z方向から見て、注入領域121bを中心とする円環状形状を有するものとすることができる。第2電極132は例えば第2DBR層122側から順に、Ti層、Pt層及びAu層を積層したものとすることができる。
【0046】
VCSEL素子100は以上のような構成を有する。なお、各層の材料は上述のものに限られず、VCSEL素子100が動作可能なものであればよい。各層の形状や厚みも適宜調整可能である。
【0047】
[VCSEL素子の動作]
第1電極131と第2電極132の間に電圧を印加すると、第1電極131と第2電極132の間で電流が流れる。電流は、狭窄層121において狭窄作用(電流閉じ込め作用)を受け、注入領域121bに注入される。
【0048】
この注入電流によって活性層115うち注入領域121bに近接する領域において自然放出光が生じる。自然放出光はVCSEL素子100の積層方向(Z方向)に進行し、第1DBR層112及び第2DBR層122によって反射される。
【0049】
第1DBR層112及び第2DBR層122は発振波長λを有する光を反射するように構成されている。自然放出光のうち発振波長λの成分は第1DBR層112及び第2DBR層122の間で定在波を形成し、活性層115によって増幅される。
【0050】
注入電流が閾値を超えると定在波を形成する光がレーザ発振し、第2クラッド層116、狭窄層121及び第2DBR層122を透過してレーザ光が出射される。
図1においてレーザ光が出射される面を光出射面Hとして示す。
【0051】
なお、活性層115において生じた光のうち注入領域121bと狭窄領域121aの界面に入射した光は、両領域の屈折率差により注入領域121b側に屈折され、レーザ発振に寄与する。即ち、狭窄層121は電流閉じ込め作用に加え、光閉じ込め作用も生じる。
【0052】
上記のように、電流は狭窄領域121aによる閉じ込め作用を受け、活性層115に注入される。このため、狭窄領域121aの形状は一定以上の精度が求められる。仮に狭窄領域121aの形状精度が小さいと、他のVCSEL素子100との間でOA(Optical Aperture)径(
図3中、径D)がばらつき、出射されるレーザ光のビーム特性が影響を受ける。
【0053】
ここで、VCSEL素子100では後述するように、高精度に狭窄領域121aを作製することが可能であり、OA径のばらつきを防止することが可能に構成されている。さらに、VCSEL素子100では、狭窄層121が第1DBR層112と第2DBR層122の間に設けられているため、狭窄層121による電流閉じ込め性が高くなっている。
【0054】
また、VCSEL素子100では、狭窄領域121aを空隙とすることが可能である。これにより、注入領域121bと狭窄領域121aの間で屈折率差が大きく、狭窄層121による光閉じ込め性も高いものとすることができる。
【0055】
[VCSEL素子の製造方法]
VCSEL素子100の製造方法について説明する。
図4乃至
図9は、VCSEL素子100の製造方法を示す模式図である。
【0056】
図4に示すように、第1基板110を作製する。第1基板110は、基材111上に第1DBR層112及び半導体層113を結晶成長により積層することで作製することができる。結晶成長は例えばエピタキシャル結晶成長とすることができる。
【0057】
続いて、第2基板120を作製する。第2基板120の作製プロセスでは、
図5に示ように、基材151上に第2DBR層122及び狭窄層121dを結晶成長により積層する。結晶成長は例えばエピタキシャル結晶成長とすることができる。基材151は、例えばn-GaAsからなるものとすることができるが、他の材料からなるものであってもよい。
【0058】
続いて、
図6に示すように、狭窄層121d上に所定の開口を有するエッチングマスクMを形成する。エッチングマスクMはフォトリソグラフィによりパターニングされるフォトマスクであってもよく、レーザ描画等により形成されるハードマスクあるいはメタルマスクであってもよい。
【0059】
続いて、
図7に示すように、エッチングマスクMを利用して狭窄層121dにエッチングを施し、狭窄層121dの一部を除去する。エッチング液は例えばクエン酸渦水溶液とするウェットエッチングとすることができる。また、この工程ではドライエッチングを用いてもよい。
【0060】
続いて、
図8に示すようにマスクMを除去する。このエッチング工程により狭窄領域121a、注入領域121b及び外周領域121cを有する狭窄層121が形成される。
【0061】
続いて、
図9に示すように、第1基板110と第2基板120を接合する。同図において第1基板110と第2基板120の接合面を接合面Sとして示す。この接合方法は特に限定されず、常温接合、プラズマ接合又は熱拡散接合等の任意の接合方法を用いることができる。
【0062】
続いて、基材151を除去し、
図2に示す構造を形成する。基材151は、研削やエッチングにより除去することができる。続いて、
図1に示すように、第1電極131及び第2電極132を形成する。これら電極は蒸着により形成することができる。さらに蒸着後にアニールを行い、オーミックコンタクトを生じさせる。
【0063】
VCSEL素子100は以上のようにして製造することが可能である。上述のように、VCSEL素子100では、エッチングにより狭窄領域121aを除去し、狭窄構造を形成している。エッチングでは、フォトリソグラフィ等の利用により高精度に狭窄構造を形成することが可能であり、10μm以下の狭ピッチ化も可能なVCSEL素子を実現することが可能である。また、VCSEL素子100は、従来の酸化狭窄プロセスのようにメサ(台地状構造)を形成する必要がなく、プレーナ型のVCSEL構造とすることができるため、メサ形成工程を不要とし、製造工程を簡略化することが可能である。
【0064】
(第2の実施形態)
本技術の第2の実施形態に係るVCSEL素子について説明する。
【0065】
[VCSEL素子の構造]
図10は本実施形態に係るVCSEL素子200の断面図である。同図に示すように、VCSEL素子200は、第1基板210と第2基板220から構成されている。また、第1基板210上には第1電極231が設けられ、第2基板220上には第2電極232が設けられている。
【0066】
第1基板210は、基材211、第1DBR層212及び半導体層213を備える。第1基板210は第1の実施形態に係る第1基板110と同一の構成を有する。即ち、基材211は基材111と同一の構成を有し、第1DBR層212は第1DBR層112と同一の構成を有する。また、半導体層213は半導体層113と同一の構成を有し、第1クラッド層214、活性層215及び第2クラッド層216はそれぞれ、第1クラッド層114、活性層115及び第2クラッド層116と同一の格子を有する。
【0067】
第2基板220は、狭窄層221及び第2DBR層222を備える。第2基板220は、狭窄層221が第1基板210の半導体層213に隣接するように第1基板210に接合されている。
図10において、第1基板210と第2基板220の接合面を接合面Sとして示す。
【0068】
狭窄層221は、半導体層213上に設けられ、電流に狭窄作用を付与する。
図10に示すように、狭窄層221は狭窄領域221a、注入領域221b及び外周領域221cを有する。注入領域221bは狭窄層221の中央部に設けられ、狭窄領域221aは注入領域221bを囲む環状に形成されている。外周領域221cは狭窄領域221aの外周に設けられている。
【0069】
狭窄領域221aは、注入領域221bより導電性が小さい領域である。例えば、注入領域221b及び外周領域221cは所定の導電性材料からなり、狭窄領域221aは、この導電性材料に非導電化処理を施した材料からなるものとすることができる。
【0070】
注入領域221bは、狭窄領域221aより導電性が大きい領域である。また、注入領域221bは、狭窄領域221aより屈折率が大きい材料からなるものが好適である。注入領域221bは、Z方向からみて円形形状を有するものとすることができる。また、注入領域221bの形状は円形に限られず、矩形その他の形状を有するものであてもよい。
【0071】
外周領域221cは、注入領域221bと同一の材料からなるものとすることができる。また、外周領域221cは設けられなくてもよく、狭窄領域221aが、注入領域221bの周縁からVCSEL素子200の端面にわたって形成されてもよい。
【0072】
具体的には、注入領域221b及び外周領域221cはGaAsからなる層であり、狭窄領域221aはGaAsにフッ化処理を施した材料からなる層とすることができる。狭窄領域221aの形成は、狭窄領域221aに対応する開口を設けたマスク(
図6参照)を用いることにより、高精度に行うことが可能である。
【0073】
また、狭窄領域221aは所定の非導電性材料からなり、注入領域221b及び外周領域221cはこの非導電性材料に導電化処理を施した材料からなるものとすることもできる。導電化処理は例えばドーピングである。注入領域221b及び外周領域221cの形成は、これらの領域に対応する開口を設けたマスクを用いることにより、高精度に行うことが可能である。
【0074】
第2DBR層222は、狭窄層221上に設けられ、波長λの光を反射するDBRとして機能する。第2DBR層222は、第1の実施形態に係る第2DBR層122と同一の構成を有する。
【0075】
第1電極231は、導電性材料からなり、基材211上に設けられている。第1電極231例えば基材211側から順に、AuGe層、Ni層及びAu層を積層したものとすることができる。
【0076】
第2電極232は、導電性材料からなり、第2DBR層222上に設けられている。第2電極232は、Z方向から見て、注入領域221bを中心とする円環状形状を有するものとすることができる。第2電極232は例えば、第2DBR層222側から順にTi層、Pt層及びAu層を積層したものとすることができる。
【0077】
VCSEL素子200は以上のような構成を有する。なお、各層の材料は上述のものに限られず、VCSEL素子200が動作可能なものであればよい。各層の形状や厚みも適宜調整可能である。
【0078】
[VCSEL素子の動作]
VCSEL素子200は第1の実施形態に係るVCSEL素子100と同様に動作する。VCSEL素子200では高精度に狭窄領域221aを作製することが可能であり、OA径のばらつきを防止することが可能である。さらに、VCSEL素子200は、狭窄領域221aを空隙ではなく、材料が存在する領域とすることにより狭窄層221が熱を伝達しやすく、放熱性を向上させることが可能である。
【0079】
[VCSEL素子の製造方法]
VCSEL素子200は第1の実施形態同様に、第1基板210と第2基板220を作製し、両基板を接合することにより作製することが可能である。狭窄層221は、フォトリソグラフィ等によって高精度に形成することが可能なマスクを用いて形成することが可能であり、VCSEL素子200の狭ピッチ化が実現可能である。
【0080】
(第3の実施形態)
本技術の第3の実施形態に係るVCSEL素子について説明する。
【0081】
[VCSEL素子の構造]
図11は本実施形態に係るVCSEL素子300の断面図である。同図に示すように、VCSEL素子300は、第1基板310と第2基板320から構成されている。また、第1基板310上には第1電極331が設けられ、第2基板320上には第2電極332が設けられている。
【0082】
第1基板310は、基材311、第1DBR層312及び半導体層313を備える。基材311は、VCSEL素子300の各層を支持する。基材311は、例えばn-GaAsからなるものとすることができるが、他の材料からなるものであってもよい。基材311の、半導体層313とは反対側の表面にはレンズ形状を有する凸部311aが設けられている。凸部311aの形状は、球面レンズ状であってもよく、シリンドリカルレンズ状やその他のレンズ形状であってもよい。
【0083】
第1DBR層312は、凸部311a上に設けられ、波長λの光を反射するDBRとして機能する。第1DBR層312の各層は凸部311aの形状に沿って湾曲し、レンズを構成する。第1DBR層312は、低屈折率層と高屈折率層を交互に複数積層したものとすることができる。低屈折率層は例えばAlGaAsからなり、高屈折率層は例えばGaAsからなる。低屈折率層と高屈折率層の厚さはそれぞれλ/4が好適である。
【0084】
半導体層313は、第1クラッド層314、活性層315及び第2クラッド層316を含む。第1クラッド層314は、基材311上に設けられ、光及び電流を活性層315に閉じ込める層である。第1クラッド層314は例えばGaAsからなる。
【0085】
活性層315は、第1クラッド層314上に設けられ、自然放出光の放出及び増幅を行う。活性層315は、量子井戸層と障壁層を交互に積層した多重量子井戸構造を有し、量子井戸層は例えばInGaAsからなり、障壁層は例えばGaAsからなるものとすることができる。また、活性層315は量子井戸構造に限られず、量子ドット構造等を有するものであってもよい。
【0086】
第2クラッド層316は、活性層315上に設けられ、光及び電流を活性層315に閉じ込める層である。第2クラッド層316は例えばGaAsからなる。なお、半導体層313の構成はここに示すものに限られず、第1クラッド層314及び第2クラッド層316の一方又は両方を有さず、少なくとも活性層315を有するものであればよい。
【0087】
第2基板320は、狭窄層321及び第2DBR層322を備える。第2基板320は、狭窄層321が第1基板310の半導体層313に隣接するように第1基板310に接合されている。
図11において、第1基板310と第2基板320の接合面を接合面Sとして示す。
【0088】
第2基板320は第2の実施形態に係る第2基板220と同一の構成を有する。即ち、狭窄層321は狭窄領域321a、注入領域321b及び外周領域321cを有し、これらはそれぞれ狭窄領域221a、注入領域221b及び外周領域221cと同一の構成を有する。また、第2DBR層322は、第2DBR層222と同一の構成を有する。
【0089】
第1電極331は、導電性材料からなり、基材311及び第1DBR層312上に設けられている。第1電極331例えば基材311側から順に、AuGe層、Ni層及びAu層を積層したものとすることができる。
【0090】
第2電極332は、導電性材料からなり、第2DBR層322上に設けられている。第2電極332は、Z方向から見て、注入領域321bを中心とする円環状形状を有するものとすることができる。第2電極332は例えば、第2DBR層322側から順にTi層、Pt層及びAu層を積層したものとすることができる。
【0091】
VCSEL素子300は以上のような構成を有する。なお、各層の材料は上述のものに限られず、VCSEL素子300が動作可能なものであればよい。各層の形状や厚みも適宜調整可能である。
【0092】
[VCSEL素子の動作]
VCSEL素子300は第1の実施形態に係るVCSEL素子100と同様に動作する。VCSEL素子300では高精度に狭窄領域321aを作製することが可能であり、OA径のばらつきを防止することが可能である。さらに、VCSEL素子300は、狭窄領域321aを空隙ではなく、材料が存在する領域とすることにより狭窄層321が熱を伝達しやすく、放熱性を向上させることが可能である。
【0093】
また、VCSEL素子300では基材311上にレンズ構造を設けることにより、半導体層313側から基材311に入射する光はレンズ状の第1DBR層312によって注入領域321bに集光され、光閉じ込め性を向上させることができる。このため、狭窄領域321aと注入領域321bの屈折率差が小さい場合であっても、高い光閉じ込め性を実現することができる。
【0094】
[VCSEL素子の製造方法]
VCSEL素子300は第1の実施形態同様に、第1基板310と第2基板320を作製し、両基板を接合することにより作製することが可能である。狭窄層321は、フォトリソグラフィ等によって高精度に形成することが可能なマスクを用いて形成することが可能であり、VCSEL素子300の狭ピッチ化が実現可能である。
【0095】
(第4の実施形態)
本技術の第4の実施形態に係るVCSEL素子について説明する。
【0096】
[VCSEL素子の構造]
図12は本実施形態に係るVCSEL素子400の断面図である。同図に示すように、VCSEL素子400は、第1基板410と第2基板420から構成されている。また、第1基板410上には第1電極431が設けられ、第2基板420上には第2電極432が設けられている。
【0097】
第1基板410は、基材411、第1DBR層412及び半導体層413を備える。基材411は、VCSEL素子400の各層を支持する。基材411は、例えばn-GaAsからなるものとすることができるが、他の材料からなるものであってもよい。
図12に示すように、基材411は、注入領域421bに対応する位置に開口411aが設けられている。
【0098】
第1DBR層412は、開口411a内部に設けられ、波長λの光を反射するDBRとして機能する。第1DBR層412は、低屈折率層と高屈折率層を交互に複数積層したものとすることができる。第1DBR層412は例えば誘電体DBRであり、低屈折率層は例えばSiO2からなり、高屈折率層は例えばTa2O5からなるものとすることができる。低屈折率層と高屈折率層の厚さはそれぞれλ/4が好適である。
【0099】
半導体層413は、第1クラッド層414、活性層415及び第2クラッド層416を含む。第1クラッド層414は、基材411及び第1DBR層412上に設けられ、光及び電流を活性層415に閉じ込める層である。第1クラッド層414は例えばGaAsからなる。
【0100】
活性層415は、第1クラッド層414上に設けられ、自然放出光の放出及び増幅を行う。活性層415は、量子井戸層と障壁層を交互に積層した多重量子井戸構造を有し、量子井戸層は例えばInGaAsからなり、障壁層は例えばGaAsからなるものとすることができる。また、活性層415は量子井戸構造に限られず、量子ドット構造等を有するものであってもよい。
【0101】
第2クラッド層416は、活性層415上に設けられ、光及び電流を活性層415に閉じ込める層である。第2クラッド層416は例えばGaAsからなる。なお、半導体層413の構成はここに示すものに限られず、第1クラッド層414及び第2クラッド層416の一方又は両方を有さず、少なくとも活性層415を有するものであればよい。
【0102】
第2基板420は、狭窄層421及び第2DBR層422を備える。第2基板420は、狭窄層421が第1基板410の半導体層413に隣接するように第1基板410に接合されている。
図12において、第1基板410と第2基板420の接合面を接合面Sとして示す。
【0103】
第2基板420は第1の実施形態に係る第2基板120と同一の構成を有する。即ち、狭窄層421は狭窄領域421a、注入領域421b及び外周領域421cを有し、これらはそれぞれ狭窄領域121a、注入領域121b及び外周領域121cと同一の構成を有する。また、第2DBR層422は、第2DBR層122と同一の構成を有する。
【0104】
第1電極431は、導電性材料からなり、基材411及び第1DBR層412上に設けられている。第1電極431例えば基材311側から順に、AuGe層、Ni層及びAu層を積層したものとすることができる。
【0105】
第2電極432は、導電性材料からなり、第2DBR層422上に設けられている。第2電極432は、Z方向から見て、注入領域421bを中心とする円環状形状を有するものとすることができる。第2電極432は例えば、第2DBR層422側から順にTi層、Pt層及びAu層を積層したものとすることができる。
【0106】
VCSEL素子400は以上のような構成を有する。なお、各層の材料は上述のものに限られず、VCSEL素子400が動作可能なものであればよい。各層の形状や厚みも適宜調整可能である。例えば、VCSEL素子400において第1DBR層412は誘電体DBRであり、第2DBR層422は半導体DBRとしたが、第1DBR層412は半導体DBRであり、第2DBR層422は誘電体DBRであってもよく、両方が誘電体DBRであってもよい。
【0107】
[VCSEL素子の動作]
VCSEL素子400は第1の実施形態に係るVCSEL素子100と同様に動作する。VCSEL素子400では高精度に狭窄領域421aを作製することが可能であり、OA径のばらつきを防止することが可能である。
【0108】
[VCSEL素子の製造方法]
VCSEL素子400は第1の実施形態同様に、第1基板410と第2基板420を作製し、両基板を接合することにより作製することが可能である。狭窄層421は、フォトリソグラフィ等によって高精度に形成することが可能なマスクを用いて形成することが可能であり、VCSEL素子400の狭ピッチ化が実現可能である。
【0109】
(第5の実施形態)
本技術の第5の実施形態に係るVCSEL素子について説明する。
【0110】
[VCSEL素子の構造]
図13は本実施形態に係るVCSEL素子500の断面図である。同図に示すように、VCSEL素子500は、第1基板510と第2基板520から構成されている。また、第1基板510上には第1電極531が設けられ、第2基板520上には第2電極532が設けられている。
【0111】
第1基板510は、半導体層511及び第1DBR層512を備える。半導体層511は、第1クラッド層514、活性層515及び第2クラッド層516を含む。第1クラッド層514は、光及び電流を活性層515に閉じ込める層である。第1クラッド層514は例えばInPからなる。
【0112】
活性層515は、第1クラッド層514上に設けられ、自然放出光の放出及び増幅を行う。活性層515は、量子井戸層と障壁層を交互に積層した多重量子井戸(MQW:multi quantum well)構造を有し、量子井戸層は例えばInGaAs、InGaAsP又はAlGaInAsからなり、障壁層は例えばInPからなるものとすることができる。また、活性層515は量子井戸構造に限られず、量子ドット構造等を有するものであってもよい。
【0113】
第2クラッド層516は、活性層515上に設けられ、光及び電流を活性層515に閉じ込める層である。第2クラッド層516は例えばInPからなる。なお、半導体層511の構成はここに示すものに限られず、第1クラッド層514及び第2クラッド層516の一方又は両方を有さず、少なくとも活性層515を有するものであればよい。
【0114】
第1DBR層512は、半導体層511上に設けられ、波長λの光を反射するDBRとして機能する。第1DBR層512は、低屈折率層と高屈折率層を交互に複数積層したものとすることができる。第1DBR層512は例えば誘電体DBRであり、低屈折率層は例えばSiO2からなり、高屈折率層は例えばTa2O5からなるものとすることができる。低屈折率層と高屈折率層の厚さはそれぞれλ/4が好適である。
【0115】
第1DBR層512及び半導体層511は、製造プロセスにおいて用いる、InPからなる基材上にエピタキシャル結晶成長により形成可能なものとすることができる。上記第1DBR層512及び半導体層511の各材料は、InPからなる基材上にエピタキシャル結晶成長により形成可能である。
【0116】
第2基板520は、基材521、第2DBR層522及び狭窄層523を備える。第2基板520は、狭窄層523が第1基板510の半導体層511に隣接するように第1基板510に接合されている。
図13において、第1基板510と第2基板520の接合面を接合面Sとして示す。
【0117】
基材521は、VCSEL素子500の各層を支持する。基材521は、例えばn-GaAsからなるものとすることができるが、他の材料からなるものであってもよい。
【0118】
第2DBR層522は、基材521上に設けられ、波長λの光を反射するDBRとして機能する。第2DBR層522は、低屈折率層と高屈折率層を交互に複数積層したものとすることができる。第2DBR層522は例えば半導体DBRであり、低屈折率層は例えばAlGaAsからなり、高屈折率層は例えばGaAsからなるものとすることができる。低屈折率層と高屈折率層の厚さはそれぞれλ/4が好適である。
【0119】
狭窄層523は、第2DBR層522上に設けられ、電流に狭窄作用を付与する。
図13に示すように、狭窄層523は狭窄領域523a、注入領域523b及び外周領域523cを有する。注入領域523bは狭窄層523の中央部に設けられ、狭窄領域523aaは注入領域523bを囲む環状に形成されている。外周領域523cは狭窄領域523aの外周に設けられている。
【0120】
狭窄領域523aは、注入領域523bより導電性が小さい領域である。狭窄領域523aは
図13に示すように、空隙とすることができる。また、狭窄領域523aは、注入領域523bより導電性が小さい材料からなる領域であってもよい。
【0121】
注入領域523bは、狭窄領域523aより導電性が大きい領域である。また、注入領域523bは、狭窄領域523aより屈折率が大きい材料からなるものが好適である。注入領域523bは、例えばGaAsからなるものとすることができる。注入領域523bは、Z方向からみて円形形状を有するものとすることができる。また、注入領域523bの形状は円形に限られず、矩形その他の形状を有するものであてもよい。
【0122】
外周領域523cは、注入領域523bと同一の材料からなるものとすることができる。また、外周領域523cは設けられなくてもよく、狭窄領域523aが、注入領域523bの周縁からVCSEL素子500の端面にわたって形成されてもよい。
【0123】
第2DBR層522及び狭窄層523は、GaAsからなる基材521上にエピタキシャル結晶成長により形成可能なものとすることができる。上記第2DBR層522及び狭窄層523の各材料は、GaAsからなる基材521上にエピタキシャル結晶成長により形成可能である。
【0124】
第1電極531は、導電性材料からなり、半導体層511上に設けられている。第1電極531は、Z方向から見て、注入領域523bを中心とする円環状形状を有するものとすることができる。第1電極531例えば半導体層511側から順に、Ti層、Pt層及びAu層を積層したものとすることができる。
【0125】
第2電極532は、導電性材料からなり、基材521上に設けられている。第2電極532は例えば、基材521側から順にAuGe層、Ni層及びAu層を積層したものとすることができる。
【0126】
VCSEL素子500は以上のような構成を有する。なお、各層の材料は上述のものに限られず、VCSEL素子500が動作可能なものであればよい。各層の形状や厚みも適宜調整可能である。
【0127】
ここでVCSEL素子500は、第1基板510と第2基板520が接合されて形成されているため、上記のように第1基板510と第2基板520で異なる材料からなるものとすることも可能である。例えば、第1基板510はInP系材料からなり、第2基板520はGaAs系材料からなるものとすることが可能である。
【0128】
[VCSEL素子の動作]
VCSEL素子500は第1の実施形態に係るVCSEL素子100と同様に動作する。VCSEL素子500では高精度に狭窄領域523aを作製することが可能であり、OA径のばらつきを防止することが可能である。
【0129】
[VCSEL素子の製造方法]
VCSEL素子500は第1の実施形態同様に、第1基板510と第2基板520を作製し、両基板を接合することにより作製することが可能である。狭窄層523は、フォトリソグラフィ等によって高精度に形成することが可能なマスクを用いて形成することが可能であり、VCSEL素子500の狭ピッチ化が実現可能である。
【0130】
(第6の実施形態)
本技術の第6の実施形態に係るVCSEL素子について説明する。
【0131】
図14は本実施形態に係るVCSEL素子600の断面図である。同図に示すように、VCSEL素子600は、第1基板610と第2基板620から構成されている。また、第1基板610上には第1電極631が設けられ、第2基板620上には第2電極632が設けられている。
【0132】
第1基板610は、第1DBR層611及び半導体層612を備える。第1DBR層611は、波長λの光を反射するDBRとして機能する。第1DBR層611は、低屈折率層と高屈折率層を交互に複数積層したものとすることができる。第1DBR層611は例えば半導体DBRであり、低屈折率層は例えばAlGaAsからなり、高屈折率層は例えばGaAsからなるものとすることができる。低屈折率層と高屈折率層の厚さはそれぞれλ/4が好適である。
【0133】
半導体層612は、第1クラッド層614、活性層615及び第2クラッド層616を含む。半導体層612は、第1の実施形態に係る半導体層113と同一の構成を有する。即ち、第1クラッド層614、活性層615及び第2クラッド層616はそれぞれ第1クラッド層114、活性層115及び第2クラッド層116と同一の構成を有する。
【0134】
第2基板620は、狭窄層621及び第2DBR層622を備える。第2基板620は、狭窄層621が第1基板610の半導体層612に隣接するように第1基板610に接合されている。
図14において、第1基板610と第2基板620の接合面を接合面Sとして示す。
【0135】
狭窄層621は、半導体層612上に設けられ、電流に狭窄作用を付与する。狭窄層621は、第1の実施形態に係る狭窄層121と同一の構成を有する。即ち、狭窄層621は、狭窄領域621a、注入領域621b及び外周領域621cを有し、これらはそれぞれ狭窄領域121a、注入領域121b及び外周領域121cと同一の構成を有する。
【0136】
第2DBR層622は、狭窄層621上に設けられ、波長λの光を反射するDBRとして機能する。第2DBR層622は、低屈折率層と高屈折率層を交互に複数積層したものとすることができる。第2DBR層622は例えば半導体DBRであり、低屈折率層は例えばAlGaAsからなり、高屈折率層は例えばGaAsからなるものとすることができる。低屈折率層と高屈折率層の厚さはそれぞれλ/4が好適である。
【0137】
ここで、第1DBR層611と第2DBR層622は、第1DBR層611側(図中、下方)にレーザ光を放出するように構成されている。
図14においてレーザ光が出射される面を光出射面Hとして示す。
【0138】
第1電極631は、導電性材料からなり、第1DBR層611上に設けられている。第1電極631は、Z方向から見て、注入領域621bを中心とする円環状形状を有するものとすることができる。第1電極631例えば第1DBR層611側から順に、AuGe層、Ni層及びAu層を積層したものとすることができる。
【0139】
第2電極632は、導電性材料からなり、第2DBR層622上に設けられている。第2電極632は例えば、第2DBR層622側から順にTi層、Pt層及びAu層を積層したものとすることができる。
【0140】
VCSEL素子600は以上のような構成を有する。なお、各層の材料は上述のものに限られず、VCSEL素子600が動作可能なものであればよい。各層の形状や厚みも適宜調整可能である。
【0141】
[VCSEL素子の動作]
VCSEL素子600は、レーザ光の出射方向を除き、第1の実施形態に係るVCSEL素子100と同様に動作する。VCSEL素子600では高精度に狭窄領域621aを作製することが可能であり、OA径のばらつきを防止することが可能である。
【0142】
[VCSEL素子の製造方法]
VCSEL素子600は第1の実施形態同様に、第1基板610と第2基板620を作製し、両基板を接合することにより作製することが可能である。狭窄層621は、フォトリソグラフィ等によって高精度に形成することが可能なマスクを用いて形成することが可能であり、VCSEL素子600の狭ピッチ化が実現可能である。
【0143】
(第7の実施形態)
本技術の第7の実施形態に係るVCSEL素子アレイについて説明する。
【0144】
図15は、本実施形態に係るVCSEL素子アレイ700の断面図である。同図に示すように、VCSEL素子アレイ700は、複数のVCSEL素子100が配列されたアレイである。
図15ではVCSEL素子アレイ700は3つのVCSEL素子100を含むが、VCSEL素子100の数は複数であればよく、3つに限られない。
【0145】
各VCSEL素子100は第1の実施形態において説明した構成を有し、狭窄層121及び第1電極132を除く各層は、複数のVCSEL素子100の間で連続した層である。
【0146】
VCSEL素子アレイ700は、第1基板110と第2基板120に、各VCSEL素子100に対応する構造を形成した後、第1基板110と第2基板120を接合することで形成することができる。狭窄層121は、第1の実施形態と同様にフォトリソグラフィ等を利用して高精度に形成することが可能であり、VCSEL素子100の狭ピッチ化が可能である。さらに、狭ピッチ化により、従来構造のエミッタ数と同じでもチップサイズが小さくなり、歩留まりを改善することができる。
【0147】
なお、ここでは第1の実施形態に係るVCSEL素子100のアレイについて示したが、第2乃至第6の実施形態に係るVCSEL素子も同様にアレイ化が可能である。
【0148】
(第8の実施形態)
本技術の第8の実施形態に係るVCSELモジュールについて説明する。
【0149】
図16は、本実施形態に係るVCSELモジュール800の断面図である。同図に示すように、VCSELモジュール800は、第1の実施形態に係るVCSEL素子100において、基材111に替えて回路基板801を備える。また、VCSEL素子100の表面は第2電極132を除き、誘電体膜802によって被覆されている。
【0150】
回路基板801は、例えば配線層や絶縁層が積層されたIC(integrated circuit)基板である。回路基板801には、フォトダイオード803が設けられており、VCSELモジュール800によってVCSEL素子100を発光素子、フォトダイオード803を受光素子とするTOF(Time Of Flight)モジュールが構成されている。
【0151】
VCSELモジュール800は、第1基板110と第2基板120を貼り合わせた後(
図9参照)、基材111及び基材151を除去し、回路基板801に接合することにより作製することが可能である。VCSEL素子100はシリコンフォトニクスとの親和性が高く、TOFモジュールやパッケージへの応用展開が容易である。
【0152】
なお、
図16では1つのVCSEL素子100を備えるVCSELモジュール800を示すが、第7の実施形態に示すようなVCSEL素子アレイを回路基板に実装してVCSELモジュールとすることも可能である。回路基板と組み合わせることにより、各VCSEL素子100を独立駆動させることができる。
【0153】
なお、ここでは第1の実施形態に係るVCSEL素子100のモジュールについて示したが、第2乃至第6の実施形態に係るVCSEL素子も同様にモジュール化が可能である。
【0154】
なお、本技術は以下のような構成もとることができる。
【0155】
(1)
活性層を含む半導体層と第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層が設けられた第1の基板と、
狭窄領域及び上記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有する狭窄層と、第2のDBR層が設けられ、上記狭窄層が上記半導体層に隣接するように上記第1の基板に接合された第2の基板と
を具備する垂直共振器型面発光レーザ素子。
(2)
上記(1)に記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
上記狭窄領域と上記注入領域は屈折率差を有する
垂直共振器型面発光レーザ素子。
(3)
上記(1)又は(2)に記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
上記狭窄領域は、上記注入領域を囲む環状に形成されている
垂直共振器型面発光レーザ素子。
(4)
上記(1)から(3)のうちいずれか一つに記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
上記狭窄領域は、上記狭窄層に設けられた空隙である
垂直共振器型面発光レーザ素子。
(5)
上記(1)から(4)のうちいずれか一つに記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
請求項1に記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
上記注入領域は、導電性材料からなり、
上記狭窄領域は、上記導電性材料に非導電化処理を施した材料からなる
垂直共振器型面発光レーザ素子。
(6)
上記(5)に記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
上記注入領域は、GaAsからなり、
上記狭窄領域は、GaAsのフッ化物からなる
垂直共振器型面発光レーザ素子。
(7)
上記(1)から(6)のうちいずれか一つに記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
上記第1の基板は、GaAsからなる基材上に結晶成長により形成された上記半導体層及び上記第1のDBR層を有し、
上記第2の基板は、GaAsからなる基材上に結晶成長により形成された上記狭窄層及び上記第2のDBR層を有する
垂直共振器型面発光レーザ素子。
(8)
上記(7)に記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
上記活性層は、GaAsからなる障壁層と、InGaAsからなる量子井戸層を交互に積層した量子井戸構造を有する
垂直共振器型面発光レーザ素子。
(9)
上記(1)から(6)のうちいずれか一つに記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
上記第1の基板は、GaAsからなる基材上に結晶成長により形成された上記半導体層及び上記第1のDBR層を有し、
上記第2の基板は、InPからなる基材上に結晶成長により形成された上記狭窄層及び上記第2のDBR層を有する
垂直共振器型面発光レーザ素子。
(10)
上記(9)に記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
上記活性層は、InPからなる障壁層と、InGaAs、InGaAsP又はAlGaInAsからなる量子井戸層を交互に積層した量子井戸構造を有する
垂直共振器型面発光レーザ素子。
(11)
上記(1)から(10)のうちいずれか一つに記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
上記第1のDBR層は半導体DBR又は誘電体DBRであり、
上記第2のDBR層は半導体DBR又は誘電体DBRである
垂直共振器型面発光レーザ素子。
(12)
上記(1)から(11)のうちいずれか一つに記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
請求項1に記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
上記第2のDBR層側からレーザ光を出射する
垂直共振器型面発光レーザ素子。
(13)
上記(1)から(11)のうちいずれか一つに記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
請求項1に記載の垂直共振器型面発光レーザ素子であって、
上記第1のDBR層側からレーザ光を出射する
垂直共振器型面発光レーザ素子。
(14)
活性層を含む半導体層と第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層が設けられた第1の基板と、狭窄領域及び上記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有する狭窄層と、第2のDBR層が設けられ、上記狭窄層が上記半導体層に隣接するように上記第1の基板に接合された第2の基板とを備える垂直共振器型面発光レーザ素子が複数配列された
垂直共振器型面発光レーザ素子アレイ。
(15)
回路基板と、
活性層を含む半導体層と第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層が設けられた第1の基板と、狭窄領域及び上記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有する狭窄層と、第2のDBR層が設けられ、上記狭窄層が上記半導体層に隣接するように上記第1の基板に接合された第2の基板とを備え、上記回路基板に実装された垂直共振器型面発光レーザ素子と
を具備する垂直共振器型面発光レーザモジュール。
(16)
活性層を含む半導体層と第1のDBR(Distributed Bragg Reflector)層が設けられた第1の基板を形成し、
狭窄領域及び上記狭窄領域より導電性が大きい注入領域を有する狭窄層と、第2のDBR層が設けられた第2の基板を形成し、
上記第1の基板と上記第2の基板を、上記狭窄層が上記半導体層に隣接するように接合する
垂直共振器型面発光レーザ素子アレイの製造方法。
(17)
上記(16)に記載の垂直共振器型面発光レーザ素子の製造方法であって
上記第2の基板を形成する工程では、フォトリソグラフィを用いて上記狭窄領域と上記注入領域を形成する
垂直共振器型面発光レーザ素子アレイの製造方法。
【符号の説明】
【0156】
100、200、300、400、500、600…VCSEL素子
110、210、310、410、510、610…第1基板
120、220、320、420、520、620…第2基板
112、212、312、412、512、611…第1DBR層
122、222、322、422、522、622…第2DBR層
113,213、313、413、511、612…半導体層
115、215、315、415、515、615…活性層
121、221、321、421、521、621…狭窄層
700…VCSEL素子アレイ
800…VCSELモジュール
801…回路基板