IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-インクジェット記録方法及び画像記録物 図1
  • 特許-インクジェット記録方法及び画像記録物 図2
  • 特許-インクジェット記録方法及び画像記録物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法及び画像記録物
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20241106BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20241106BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20241106BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20241106BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20241106BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20241106BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20241106BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20241106BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 120
B41M5/00 132
C09D5/00 D
C09D7/65
C09D7/63
C09D175/04
C09D167/00
C09D133/00
C09D11/30
B41J2/01 125
B41J2/01 123
B41J2/01 501
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021575684
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2021000986
(87)【国際公開番号】W WO2021157310
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2020016724
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新妻 直人
(72)【発明者】
【氏名】田郡 大隆
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-167486(JP,A)
【文献】特開2015-034277(JP,A)
【文献】特開2017-137461(JP,A)
【文献】特開2019-019315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00- 5/52
B41J 2/01
B41J 2/165-2/215
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、水性プレコート組成物を塗布する工程又は塗布、乾燥する工程、次いで水性インク組成物を塗布、乾燥する工程をこの順に有するインクジェット記録方法であって、
前記水性プレコート組成物が、少なくとも凝集剤を含有し、
前記水性インク組成物が、少なくとも顔料、高分子分散剤、前記高分子分散剤の中和剤及び樹脂微粒子を含有し、
前記凝集剤が、熱分解性を有するカチオン樹脂、有機酸又は多価金属塩から選択され、
前記高分子分散剤の中和剤が、有機アミンから選択され、かつ、
前記水性インク組成物を乾燥する温度を、前記凝集剤の熱分解温度以上とする工程を有すること特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記水性プレコート組成物を塗布する工程が、インクジェット法を用いる工程であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記凝集剤の含有量が、前記水性プレコート組成物に対して5質量%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記水性インク組成物を乾燥する温度が、220℃以下であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記水性インク組成物の樹脂微粒子の樹脂が、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂から選択されることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記水性プレコート組成物がさらに樹脂微粒子を含有し、当該樹脂微粒子の樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂から選択されることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
金属基材上に、少なくとも4層積層された画像記録物であって、
第1層及び第4層が、熱硬化性樹脂を含有し、
第2層が、少なくとも凝集剤の熱分解物を含有し、前記凝集剤が、熱分解性を有するカチオン樹脂、有機酸又は多価金属塩から選択され、
第3層が、少なくとも顔料、高分子分散剤、前記高分子分散剤の中和剤及び樹脂微粒子を含有し、前記高分子分散剤の中和剤が、有機アミンから選択されことを特徴とする画像記録物。
【請求項8】
前記凝集剤の熱分解物の含有量が、前記第2層に対して5質量%以下であることを特徴とする請求項7に記載の画像記録物。
【請求項9】
前記第3層に含有される樹脂微粒子の樹脂が、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂から選択されることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の画像記録物。
【請求項10】
前記第2層がさらに樹脂微粒子を含有し、当該樹脂微粒子の樹脂が、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂から選択されることを特徴とする請求項7から請求項9までのいずれか一項に記載の画像記録物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及び画像記録物に関し、より詳しくは、プレコート塗布膜上に画像形成する2液方式のインクジェット記録方法において、耐熱水性を向上したインクジェット記録方法、及びそれを用いた画像記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
高速印刷を目的としたインクジェット方式において、顔料凝集剤を含むプレコート塗布膜上に画像形成する2液方式のインクジェット記録方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。顔料分散体はアニオン性であることから、前記顔料凝集剤はカチオン性の樹脂、有機酸、又は多価金属塩等から選択されることが一般的である。
【0003】
一方で、画像記録物には耐熱水性が必要とされる場合がある。例えば、軟包装分野の中でも、ボイル・レトルト分野は、包装を高温殺菌する工程が必要であり、耐熱水性のより高いレベルの製品が必要とされる分野である。具体的には、高いインク定着性を有し、高温の水環境下でも記録媒体への定着性に優れたボイル・レトルト適性が要求される。
【0004】
例えば、前記プレコート液の樹脂種としてノニオン性樹脂の選択により、ラミネート強度、画像耐擦性の向上が提案されている(例えば、特許文献2参照。)が、耐熱水性が未だ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-202596号公報
【文献】特開2018-94902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、プレコート塗布膜上に画像形成する2液方式のインクジェット記録方法において、耐熱水性を向上したインクジェット記録方法、及びそれを用いた画像記録物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、顔料分散剤の中和剤として有機アミンを選択し、加熱によるアミン脱離を利用することによって顔料分散剤の耐熱水性を向上すること、さらに、耐熱水性の劣化原因でもある顔料凝集剤を乾燥時において加加熱分解することによって、画像記録物の耐熱水性を向上させることができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.基材上に、水性プレコート組成物を塗布する工程又は塗布、乾燥する工程、次いで水性インク組成物を塗布、乾燥する工程をこの順に有するインクジェット記録方法であって、
前記水性プレコート組成物が、少なくとも凝集剤を含有し、
前記水性インク組成物が、少なくとも顔料、高分子分散剤、前記高分子分散剤の中和剤及び樹脂微粒子を含有し、
前記凝集剤が、熱分解性を有するカチオン樹脂、有機酸又は多価金属塩から選択され、
前記高分子分散剤の中和剤が、有機アミンから選択され、かつ、
前記水性インク組成物を乾燥する温度を、前記凝集剤の熱分解温度以上とする工程を有すること特徴とするインクジェット記録方法。
【0010】
2.前記水性プレコート組成物を塗布する工程が、インクジェット法を用いる工程であることを特徴とする第1項に記載のインクジェット記録方法。
【0011】
3.前記凝集剤の含有量が、前記水性プレコート組成物に対して5質量%以下であることを特徴とする第1項又は第2項に記載のインクジェット記録方法。
【0012】
4.前記水性インク組成物を乾燥する温度が、220℃以下であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【0013】
5.前記水性インク組成物の樹脂微粒子の樹脂が、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂から選択されることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【0014】
6.前記水性プレコート組成物がさらに樹脂微粒子を含有し、当該樹脂微粒子の樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂から選択されることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【0015】
7.金属基材上に、少なくとも4層積層された画像記録物であって、
第1層及び第4層が、熱硬化性樹脂を含有し、
第2層が、少なくとも凝集剤の熱分解物を含有し、前記凝集剤が、熱分解性を有するカチオン樹脂、有機酸又は多価金属塩から選択され、
第3層が、少なくとも顔料、高分子分散剤、前記高分子分散剤の中和剤及び樹脂微粒子を含有し、前記高分子分散剤の中和剤が、有機アミンから選択されことを特徴とする画像記録物。
【0016】
8.前記凝集剤の熱分解物の含有量が、前記第2層に対して5質量%以下であることを特徴とする第7項に記載の画像記録物。
【0017】
9.前記第3層に含有される樹脂微粒子の樹脂が、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂から選択されることを特徴とする第7項又は第8項に記載の画像記録物。
【0018】
10.前記第2層がさらに樹脂微粒子を含有し、当該樹脂微粒子の樹脂が、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂から選択されることを特徴とする第7項から第9項までのいずれか一項に記載の画像記録物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記手段により、プレコート塗布膜上に画像形成する2液方式のインクジェット記録方法において、耐熱水性を向上したインクジェット記録方法、及びそれを用いた画像記録物を提供することができる。
【0020】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、以下のように推察している。
【0021】
本発明のインクジェット記録方法は、基材上に、水性プレコート組成物を塗布する工程又は塗布、乾燥する工程、次いで水性インク組成物を塗布、乾燥する工程をこの順に有し、前記水性プレコート組成物が、少なくとも凝集剤を含有し、前記水性インク組成物が、少なくとも顔料、高分子分散剤、前記高分子分散剤の中和剤及び樹脂微粒子を含有し、前記凝集剤が、熱分解性を有するカチオン樹脂、有機酸又は多価金属塩から選択され、前記高分子分散剤の中和剤が、有機アミンから選択され、かつ、前記水性インク組成物を乾燥する温度を、前記凝集剤の熱分解温度以上とする工程を有すること特徴とする。
【0022】
すなわち、本発明では、顔料分散剤の中和剤として有機アミンを選択し、加熱によるアミン脱離を利用することによって顔料分散剤の耐熱水性を向上し、さらに、耐熱水性の劣化原因である顔料凝集剤を乾燥時において加熱分解することによって、画像記録物の耐熱水性を向上させることができたものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に好ましいプレコート/インクジェット記録装置の一例を示す模式図
図2】本発明の画像記録物の概略構成を示す断面図
図3】缶詰食品用包装材料の断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のインクジェット記録方法は、基材上に、水性プレコート組成物を塗布する工程又は塗布、乾燥する工程、次いで水性インク組成物を塗布、乾燥する工程をこの順に有するインクジェット記録方法であって、前記水性プレコート組成物が、少なくとも凝集剤を含有し、前記水性インク組成物が、少なくとも顔料、高分子分散剤、前記高分子分散剤の中和剤及び樹脂微粒子を含有し、前記凝集剤が、熱分解性を有するカチオン樹脂、有機酸又は多価金属塩から選択され、前記高分子分散剤の中和剤が、有機アミンから選択され、かつ、前記水性インク組成物を乾燥する温度を、前記凝集剤の熱分解温度以上とする工程を有すること特徴とする。この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0025】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記水性プレコート組成物を塗布する工程が、インクジェット法を用いる工程であることが、インク非塗布領域に凝集剤を塗布しなくてよくなるため、全体の耐熱水性を向上する観点から好ましい。
【0026】
また、前記凝集剤の含有量が、前記水性プレコート組成物に対して5質量%以下であることが、画像品質と耐熱水性とをバランスする観点から好ましい。前記凝集剤の含有量は、好ましくは0.1~3質量%の範囲である。
【0027】
前記水性インクを乾燥する温度が、220℃以下であることは、インク乾燥温度が高すぎると、インク中の樹脂の熱分解が始まり耐熱水性が劣化するため、熱分解を抑制する観点から好ましい温度範囲である。
【0028】
前記水性インク組成物の樹脂微粒子の樹脂が、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂から選択されることが、基材に対するインク画像の耐熱水性を向上させる観点から好ましい。
【0029】
前記水性プレコート組成物が、さらに樹脂微粒子を含有することが好ましく、当該樹脂微粒子の樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂から選択されることが、同様に基材に対するインク画像の耐熱水性を向上させる観点から、より好ましい。樹脂粒子の選択は、樹脂の酸価にも影響され、低酸価の方が良いが、ポリウレタン系樹脂、又はポリアクリル系樹脂は、樹脂自体の加水分解が進行しやすいポリエステル系樹脂に比較して、耐熱水性が高く好ましい。
【0030】
本発明の画像記録物は、金属基材上に、少なくとも4層積層された画像記録物であって、第1層及び第4層が、熱硬化性樹脂を含有し、第2層が、少なくとも凝集剤の熱分解物を含有し、前記凝集剤が、熱分解性を有するカチオン樹脂、有機酸又は多価金属塩から選択され、第3層が、少なくとも顔料、高分子分散剤、前記高分子分散剤の中和剤及び樹脂微粒子を含有し、前記高分子分散剤の中和剤が、有機アミンから選択されことを特徴とする。
【0031】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0032】
≪本発明のインクジェット記録方法の概要≫
本発明のインクジェット記録方法(以下、インクジェット法ともいう。)は、基材上に、水性プレコート組成物を塗布する工程又は塗布、乾燥する工程、次いで水性インク組成物を塗布、乾燥する工程をこの順に有するインクジェット記録方法であって、前記水性プレコート組成物が、少なくとも凝集剤を含有し、前記水性インク組成物が、少なくとも顔料、高分子分散剤、前記高分子分散剤の中和剤及び樹脂微粒子を含有し、前記凝集剤が、熱分解性を有するカチオン樹脂、有機酸又は多価金属塩から選択され、前記高分子分散剤の中和剤が、有機アミンから選択され、かつ、前記水性インク組成物を乾燥する温度を、前記凝集剤の熱分解温度以上とする工程を有すること特徴とする。
【0033】
なお、本発明のインクジェット記録方法は、水性プレコート組成物を塗布した後乾燥せずに、連続して水性インク組成物を塗布してもよく、その場合水性プレコート組成物は水性インク組成物と一括して乾燥するものである。
【0034】
本発明のインクジェット記録方法は、特にその用途は限定されるものではないが、非吸収性の基材上に、本発明に係る水性プレコート組成物を用いてプレコート層を形成し、その上に前記水性インク組成物を用いてインク画像の記録を行うことで、非吸収性の基材に高画質な画像を記録することができるものである。特に、耐熱水性に優れるため、缶詰食品やレトルト食品の包装材料に適する画像記録物を提供することができる。
【0035】
本発明でいう「水性プレコート組成物、水性インク組成物」とは、溶媒として少なくとも「水」を用いる「プレコート組成物並びにインク組成物」であることをいう。いずれも、用いる溶媒の60質量%以上が「水」である。
【0036】
「熱分解」とは、有機化合物などを、酸素やハロゲンなどを存在させずに加熱することによって行われる化学分解をいう。
【0037】
本発明に係る「凝集剤の熱分解温度」は、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)で測定することができ、「熱分解温度」は室温から昇温(昇温スピード:10℃/分)させたとき、熱分解による質量減少が始まる温度を意味する。ここで、質量減少が始まる温度は、縦軸に質量減少率、横軸に温度をプロットしたグラフを描き、最も大きく質量が減少する時の接線と質量減少前の接線との交点の温度である。具体的には、株式会社日立ハイテクサイエンス製 STA7200を用いて、前記定義により、各凝集剤の分解温度を測定する。
【0038】
〔1〕基材
本発明に用いることができる基材は、特に限定されるものではないが、非吸収性基材であることが好ましい。本発明では、非吸収性とは水に対する非吸収性を表す。
【0039】
非吸水性基材の例としては、公知のプラスチックのフィルムが使用できる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ナイロン等のポリアミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリ乳酸フィルム等の生分解性フィルム等が挙げられる。また、ガスバリアー性、防湿性、保香性などを付与するために、フィルムの片面又は両面にポリ塩化ビニリデンをコートしたものや、金属酸化物を蒸着したフィルムも好ましく用いることができる。非吸水性フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでも好ましく用いることができる。基材の厚さは、プラスチックのフィルムの場合は、好ましくは10~120μmの範囲、より好ましくは12~60μmの範囲である。
【0040】
また、非吸収性基材として、3ピース缶用途のブリキ板やティンフリースチール板(TFS板、厚さ0.1~0.6μm)等の金属基材も好ましく用いられ、例えば、熱硬化性樹脂を塗工層として設けた、缶詰食品用の包装材料などに好適に用いることができる。前記缶詰食品用の包装材料は、例えば、空気や水分、光を遮断し、内部の食品を密閉するため、食品側にはエポキシ-フェノール系塗料やポリエステル系ラミネート剤が使用され、外側は、ポリエステル系、アクリル系の熱硬化性塗料が使用されるのが一般的である。
【0041】
〔2〕水性プレコート組成物
本発明に係る水性プレコート組成物(以下、「プレコート液」ともいう。)を、基材にインクジェットプリント法によって画像を記録する際に、インクの画像形成を速めたり、プレコート層及びインク層の物理的性質を改善したり、画質を向上させる機能を付与することができる。具体的には、本発明においては、本発明に係るプレコート層をインクジェットプリントする面の基材上にあらかじめ塗布・乾燥し、次いで本発明に係る水性インク組成物(以下、「インクジェットインク」、「インク液」又は単に「インク」ともいう。)を印字することにより、基材が非吸収性であっても画質、耐水性、耐熱水性に優れ、非吸収性基材とプレコート層との密着性に優れた記録を可能とすることができる。
【0042】
本発明に係る水性プレコート組成物は、少なくとも凝集剤を含有し、溶媒として水を含有することを特徴とする。さらに、樹脂微粒子を含有することが耐熱水性の観点から好ましい。
【0043】
(凝集剤)
本発明に係るプレコート液には、顔料を含有するインクジェットインクと接触したときに、凝集物を生じさせる材料、すなわち凝集剤を含有することで、インクジェットインクとの相互作用が大きくなり、水性インク組成物のドットをより固定化することができる。
【0044】
凝集剤は、熱分解性を有するカチオン性樹脂、有機酸又は多価金属塩のいずれを含有することが好ましく、より好ましくは有機酸又は多価金属塩である。
「凝集剤の熱分解温度」は、前述のとおり、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)で測定することができ、「熱分解温度」は室温から昇温(昇温スピード:10℃/分)させたとき、熱分解による質量減少が始まる温度を意味する。ここで、質量減少が始まる温度は、縦軸に質量減少率、横軸に温度をプロットしたグラフを描き、最も大きく質量が減少する時の接線と質量減少前の接線との交点の温度である。具体的には、株式会社日立ハイテクサイエンス製 STA7200を用いて、前記定義により、各凝集剤の分解温度を測定する。
【0045】
上記カチオン性樹脂及び多価金属塩は、塩析によって上記インクジェットインク中のアニオン性の成分(通常は色材、又は顔料等)を凝集させることができる。上記有機酸は、pH変動によって上記インクジェットインク中のアニオン性の成分を凝集させることができる。
【0046】
上記カチオン性樹脂の例には、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン及びポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどが含まれる。カチオン性樹脂の市販品の例としては、センカ社製KHE100L、FPA100L、ニットーボーメディカル社製PAS-92A、PAS-M-1A、PAS-21CLなどが挙げられる。
【0047】
上記有機酸は、インクジェットインク中に含まれる顔料を凝集し得るものであり、第一解離定数が3.5以下であることが好ましく、1.5~3.5の範囲が好ましい。当該範囲であると印字率が低い低濃度部における液寄りが更に防止され、印字率が高い高濃度部におけるビーディングが更に改善される。
【0048】
有機酸は、塩基により完全には中和されていないものを用いることが好ましい。塩基による中和とは、これらの酸の酸性基と、正に帯電した他の元素又は化合物(例えば、金属などの無機化合物)と、がイオン結合していることを意味する。また、完全には中和されていないとは、有機酸が有する酸性基のうち、上記イオン結合を形成していない酸性基が存在することを意味する。イオン結合を形成していない酸性基を有する有機酸を用いることで、プレコート液に含まれるポリウレタン構造を有する複合樹脂微粒子との相溶性が高く、透明なプレコート層を形成することができることから、多価金属塩などを用いる場合よりも、形成された画像の色調が鮮やかになると考えられる。また、有機酸を用いることでプレコート液の保存安定性を維持しやすく、プレコート液を塗布、乾燥した後にブロッキングが起きにくい。上記観点から好ましい有機酸は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、シュウ酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、安息香酸、2-ピロリドン-5-カルボン酸、乳酸、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体、又は、アクリルアミド及びその誘導体などを含むカルボキシ基を有する化合物、スルホン酸誘導体、又は、リン酸及びその誘導体などが含まれる。
【0049】
プレコート液における有機酸の含有量は、プレコート液のpHを前記有機酸の第一解離定数未満に調整する量であればよい。プレコート液のpHが前記有機酸の第一解離定数未満となる量の有機酸をプレコート液に含有させることにより、高速プリント時の滲みを効果的に抑制できる。
【0050】
上記多価金属塩の例には、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩及び亜鉛塩などの水溶性の塩が含まれる。
【0051】
凝集剤は、前記プレコート液に対して5質量%以下の範囲で含有することが好ましく、0.1~3質量%の範囲で含有することが、インクジェットインク中のアニオン性の成分を効果的に凝集させることができ、画像品質と耐熱水性をバランスする観点から好ましい。
【0052】
水溶液中の凝集剤の含有量は、公知の方法で測定することができる。例えば、凝集剤が多価金属塩であるときはICP発光分析で、凝集剤が酸であるときは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で含有量を測定することができる。
【0053】
なお、有機酸を用いる場合、有機酸の付量は、インクジェットインクに含まれるアニオン成分の中和当量以下にプレコート液のpHを調整する量であることが好ましい。また、上記アニオン成分がカルボキシ基を有する化合物である場合、画像の滲みをより生じにくくする観点からは、上記有機酸の第一解離定数は3.5以下であることが好ましい。
【0054】
本発明のプレコート液の付量は、特に限定されず、適宜調整することができる。例えば、上記凝集剤が多価金属塩である場合は、多価金属塩の付量が0.1~20g/m2の範囲とすることが好ましい。また、上記凝集剤が有機酸である場合は、有機酸の付量が水性インク組成物中のアニオン成分の中和当量以下とすることが好ましい。
【0055】
(樹脂微粒子)
本発明に係る前記水性プレコート組成物は、さらに樹脂微粒子を含有することが好ましい。当該樹脂微粒子は、水不溶性樹脂微粒子であることが好ましく、本発明で使用する水不溶性樹脂微粒子は、インクを受容でき、当該インクに対して溶解性又は親和性を示す水不溶性の樹脂微粒子である。
【0056】
水不溶性樹脂微粒子とは、本来水不溶性であるが、ミクロな微粒子として樹脂が水系媒体中に分散する形態を有するものであり、乳化剤等を用いて強制乳化させ水中に分散している非水溶性樹脂、又は、分子内に親水性の官能基を導入して、乳化剤や分散安定剤を使用することなくそれ自身で安定な水分散体を形成する自己乳化できる非水溶性樹脂である。これらの樹脂は通常、水又は水/アルコール混合溶媒中に乳化分散させた状態で用いられる。
【0057】
なお、本発明において、「水不溶性」とは、樹脂を105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下、好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である樹脂をいう。ただし、樹脂が塩生成基を有する場合、溶解量は、その種類に応じて、樹脂の塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで100%中和したときの溶解量である。
【0058】
また、水性プレコート組成物に用いる樹脂微粒子は、イオン性がカチオン又はノニオン性であることが好ましい。
【0059】
本発明に係る水不溶性樹脂微粒子は、少なくとも、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂微粒子であることが、好ましい。中でも、当該樹脂微粒子は、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂微粒子であることが、より好ましい。
【0060】
水不溶性樹脂微粒子は、プレコート液の全質量(100質量%)に対して、1~30質量%の範囲で含有されていることが好ましく、2~20質量%の範囲で含有されていることが、プレコート液としての保存安定性やブルーミング(画像表面に樹脂や凝集剤が析出・結晶化する現象)を抑制する観点からより好ましい。
【0061】
(ポリエステル系樹脂)
水不溶性樹脂微粒子としてのポリエステル骨格を有するポリエステル系樹脂は、多価アルコール成分と多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸エステル等の多価カルボン酸成分とを用いて得ることができる。
【0062】
前記多価アルコール成分としては、2価のアルコール(ジオール)、具体的には炭素数2~36の範囲のアルキレングリコール(エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール等)、炭素数4~36の範囲のアルキレンエーテルグリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等)、炭素数6~36の範囲の脂環式ジオール(1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等)、前記脂環式ジオールの炭素数2~4の範囲のアルキレンオキシド(エチレンオキシド(以下、EOと略記する。)、プロピレンオキシド(以下、POと略記する。)、ブチレンオキシド(以下、BOと略記する。))付加物(付加モル数1~30の範囲)又はビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等)の炭素数2~4の範囲のアルキレンオキシド(EO、PO、BO等)付加物(付加モル数2~30の範囲)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
前記多価カルボン酸成分としては、2価のカルボン酸(ジカルボン酸)、具体的には炭素数4~36の範囲のアルカンジカルボン酸(コハク酸、アピジン酸、セバシン酸等)、アルケニルコハク酸(ドデセニルコハク酸等)、炭素数4~36の範囲の脂環式ジカルボン酸(ダイマー酸(2量化リノール酸)等)、炭素数4~36の範囲のアルケンジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸等)、又は炭素数8~36の範囲の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸又はこれらの誘導体、ナフタレンジカルボン酸等)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
前記ポリエステル系樹脂の数平均分子量(Mn)としては、1000~50000の範囲が好ましく、2000~20000の範囲がより好ましい。
【0065】
前記ポリエステル系樹脂としては、市販品を使用してもよく、前記市販品としては、例えば、高松油脂社製ペスレジンA-110F、A-640、A-647GEX、東洋紡社製バイロナールMD-1100、MD-1200、MD-1335、MD-1480、MD-1930、MD-2000、互応化学社製Z-1100などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
(ポリウレタン系樹脂)
水不溶性樹脂微粒子としてのポリウレタン系樹脂としては、親水基を有するものを用いることができる。
【0067】
上記ポリウレタン系樹脂は、その分子内に水溶性官能基を有する自己乳化型ポリウレタンを分散させた水分散体、又は界面活性剤を併用して強力な機械剪断力の下で乳化した強制乳化型ポリウレタンの水分散体であることが好ましい。上記水分散体におけるポリウレタン系樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネート及び親水基含有化合物との反応により得ることができる。
【0068】
上記ポリウレタン系樹脂の水分散体の調製に使用し得るポリオールの例には、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリオレフィン系ポリオールなどが含まれる。
【0069】
ポリエステルポリオールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-及び1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の低分子ポリオール;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフラン酸、エンドメチンテトラヒドロフラン酸、及びヘキサヒドロフタル酸などの多価カルボン酸との縮合物が含まれる。
【0070】
ポリエーテルポリオールの例には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンポリテトレメチレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールなどが含まれる。
【0071】
ポリカーボネートポリオールの例には、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート又はホスゲン等の炭酸誘導体と、ジオールとの反応により得ることができる。上記ジオールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-及び1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、及びシクロヘキサンジメタノールなどが含まれる。
【0072】
また、ポリウレタン系樹脂の水分散体の調製に使用し得る有機ポリイソシアネートの例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)などの脂肪族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI、H12MDI)などの脂環族イソシアネートが含まれる。これらは、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0073】
また、ポリウレタン系樹脂の水分散体の調製に使用し得る親水基含有化合物の例には、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、グリシンなどのカルボン酸含有化合物、及びそのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体;タウリン(すなわち、アミノエチルスルホン酸)、エトキシポリエチレングリコールスルホン酸などのスルホン酸含有化合物、及びそのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩等の誘導体が含まれる。
【0074】
ポリウレタン系樹脂は、公知の方法により得ることができる。例えば、上述したポリオールと有機ポリイソシアネートと、親水基含有化合物とを混合し、30~130℃の範囲で30分~50時間反応させることにより、ウレタンプレポリマーを得ることができる。
【0075】
上記ウレタンプレポリマーは、鎖伸長剤により伸長してポリマー化することで、親水基を有するポリウレタン系樹脂となる。鎖伸長剤としては、水及び/又はアミン化合物であることが好ましい。鎖伸長剤として水やアミン化合物を用いることにより、遊離イソシアネートと短時間で反応して、イソシアネート末端プレポリマーを効率よく伸長させることができる。
【0076】
鎖伸長剤としてのアミン化合物の例には、エチレンジアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン;メタキシレンジアミン、トルイレンジアミンなどの芳香族ポリアミン;ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド等のポリヒドラジノ化合物等が含まれる。上記アミン化合物には、上記ポリアミンとともに、ポリマー化を大きく阻害しない程度で、ジブチルアミンなどの1価のアミンやメチルエチルケトオキシム等を反応停止剤として含んでいてもよい。
【0077】
なお、ウレタンプレポリマーの合成においては、イソシアネートと不活性であり、ウレタンプレポリマーを溶解しうる溶媒を用いてもよい。これらの溶媒の例には、ジオキサン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が含まれる。反応段階で使用されるこれらの親水性有機溶媒は、最終的に除去されるのが好ましい。
【0078】
また、ウレタンプレポリマーの合成においては、反応を促進させるために、アミン触媒(例えば、トリエチルアミン、N-エチルモルフォリン、トリエチルジアミン等)、スズ系触媒(例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、オクチル酸スズ等)、及びチタン系触媒(例えば、テトラブチルチタネート等)などの触媒を添加してもよい。
【0079】
ウレタン樹脂の数平均分子量(Mn)は、分岐構造や内部架橋構造を導入して可能な限り大きくすることが好ましく、数平均分子量は50000~10000000の範囲であることが好ましい。分子量を上記範囲内にすることにより、ウレタン樹脂が溶媒に溶けにくくなるので、耐候性、耐水性に優れた塗膜が得られるからである。なお、数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される値であり、例えば、株式会社島津製作所製「RID-6A」(カラム:東ソー株式会社製「TSK-GEL」、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、カラム温度:40℃)を用いて、ポリスチレン標準試料で作成した検量線から求めることができる。
【0080】
また、上記ウレタン樹脂は市販品を用いてもよい。上記ウレタン樹脂の市販品の例には、WBR-016U(大成ファインケミカル社製)、スーパーフレックス620、スーパーフレックス650、スーパーフレックス500M、スーパーフレックスE-2000(いずれも第一工業製薬社製、「スーパーフレックス」は同社の登録商標)、パーマリンUC-20(三洋化成工業社製、「パーマリン」は同社の登録商標)、及びパラサーフUP-22(大原パラヂウム化学社製)などが含まれる。
【0081】
(ポリアクリル系樹脂)
水不溶性樹脂微粒子としてのポリアクリル系樹脂は、アクリル酸エステル成分、メタクリル酸エステル成分、またスチレン成分等との共重合体を用いて得ることができる。
【0082】
アクリル酸エステル成分、メタクリル酸エステル成分の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸、ジ(メタ)アクリル酸(ジ)エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオ-ル、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオ-ル、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロ-ルプロパン、ジ(メタ)アクリル酸グリセリン、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及びアクリルアミド等が含まれる。
【0083】
スチレン成分の例には、スチレン、4-メチルスチレン、4-ヒドロキシスチレン、4-アセトキシスチレン、4-アセチルスチレン及びスチレンスルホン酸などが含まれる。これらの成分は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0084】
上記ポリアクリル系樹脂の数平均分子量(Mn)は、1000~50000の範囲であることが好ましく、2000~20000の範囲であることがより好ましい。上記ポリアクリル系樹脂の数平均分子量(Mn)が1000以上であると、塗膜の凝集力が強くなり、密着性が向上し、50000以下であると、有機溶媒に対する溶解性が良く、乳化分散体の粒子径の微小化が促進されるからである。
【0085】
また、上記ポリアクリル系樹脂としては、市販品を用いてもよい。上記ポリアクリル系樹脂の市販品の例には、大成ファインケミカル社製RKW-620、UW-319SX、UW-600、UW-550CS、日信化学工業社製2682、2680、2684、2685、2687などのアクリル系エマルジョン等が含まれる。
【0086】
(複合樹脂微粒子)
プレコート液に含有しうる複合樹脂微粒子は、ポリアクリル系樹脂が、ポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂微粒子であることが好ましい。すなわち、ポリアクリル系樹脂から構成される内部層、及びポリウレタン系樹脂から構成される表面層を有する複合樹脂微粒子であることが好ましい。
【0087】
ここで、上記ポリウレタン系樹脂は、水不溶性樹脂微粒子としてのポリアクリル系樹脂と連続相である水との界面に存在して、水不溶性樹脂微粒子を保護する樹脂と異なる水不溶性樹脂微粒子層として機能する。
【0088】
このようにポリアクリル系樹脂をポリウレタン系樹脂により乳化させてなる複合樹脂微粒子とすることで、ポリアクリル系樹脂の単独での使用と異なり、ポリウレタン系樹脂や顔料凝集剤との相溶性の低下を抑制することができる。また、ポリアクリル系樹脂とポリウレタン系樹脂とをそれぞれ乳化させて混合するのと比べて、画像(塗膜)の物性を向上させることができるとともに、プレコート液の安定性も改善することができる。
【0089】
上記ポリアクリル系樹脂がポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂微粒子において、ポリウレタン系樹脂(U)とポリアクリル系樹脂(A)との質量比率の値(U/A)は、40/60~95/5の範囲であることが好ましい。ポリウレタン系樹脂(U)の存在割合が上記範囲内であると、分散剤との相溶性が向上し、耐溶媒性も向上する。また、ポリアクリル系樹脂(A)の存在割合が上記範囲であると、アクリル系フィルムに対する密着性に優れる。上記存在割合において、ポリウレタン系樹脂(U)とポリアクリル系樹脂(A)との質量比率の値(U/A)は、40/60~80/20の範囲であることが好ましい。
【0090】
複合樹脂微粒子中におけるポリアクリル系樹脂とポリウレタン系樹脂とを合わせた合計の樹脂濃度は、特に限定されないが、5.0質量%以上であることが好ましく、10.0~70.0質量%の範囲であることがより好ましい。上記樹脂濃度が上記範囲内であると、基材とインクとの定着性が良好となる。
【0091】
また、ポリウレタン系樹脂によるポリアクリル系樹脂の乳化においては、上記ポリウレタン系樹脂とともに、乳化剤として作用する界面活性剤を用いることができる。ここで、乳化剤を添加することにより、複合樹脂微粒子の貯蔵安定性を向上させることができる。
【0092】
上記乳化剤としては、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤を用いることができる。本発明においては、上記アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤はそのいずれか一方を用いることが好ましく、両方を用いることがより好ましい。ここで、上記アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤の合計配合量は、全樹脂質量100質量部に対して、1.0~20.0質量部の範囲であることが好ましい。また、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤の合計配合量を20.0質量部以下とすることにより、耐水性及び耐溶媒性を向上させることができる。
【0093】
また、アニオン界面活性剤(X)とノニオン界面活性剤(Y)との配合質量比(X/Y)の値は、100/0~50/50の範囲であることが好ましい。アニオン界面活性剤の配合量を上記範囲とすることにより、乳化性や貯蔵安定性をより向上させることができる。
【0094】
ここで、乳化に用いることができるアニオン界面活性剤の例には、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、N-アシルアミノ酸塩、カルボン酸塩、及びリン酸エステル等が含まれる。これらの中では、スルホコハク酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩であることが好ましい。
【0095】
また、塩の種類の例には、特に限定されないが、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、及びトリエタノールアミン塩などが含まれる。
【0096】
また、乳化に用いることができるノニオン界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が含まれる。これらの中では、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類であることが好ましい。
【0097】
また、上述した複合樹脂微粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、10~500nmであることが好ましく、10~300nmの範囲であることがより好ましく、10~200nmの範囲であることがさらに好ましい。平均粒子径の測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、かつ当該粒子径領域を精度よく測定できる。
【0098】
ポリアクリル系樹脂が、ポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂微粒子を用いることにより、低吸収性基材又は非吸収性基材に対する画像(塗膜)の定着性を向上させることができる。
【0099】
なお、上述した複合樹脂微粒子は、ポリアクリル系樹脂及びポリウレタン系樹脂を用いた複合樹脂微粒子の下記製造方法(I)、又は(II)により得られたものであることが好ましい。
【0100】
また、本発明に係るプレコート液には、他に酸化防止剤、耐光剤、可塑剤、発泡剤、増粘剤、着色剤、難燃剤、他の水不溶性樹脂微粒子、各種フィラーを添加することができる。
【0101】
また、本発明に係るプレコート液には、エポキシ系、カルボジイミド系、オキサゾリジン系、ブロックイソシアネート系、イソシアネート系等の各種架橋剤をより高い耐久性を付与するために添加してもよい。
【0102】
(複合樹脂微粒子の製造方法)
本発明に係る複合樹脂微粒子の製造方法について説明する。
【0103】
上述した複合樹脂微粒子は、以下に記載の製造方法(I)又は(II)により調製することができる。
【0104】
<製造方法(I)>
製造方法(I)は、ポリアクリル系樹脂を、親水基を有するウレタンプレポリマーにより水に乳化させ、鎖伸長剤としてのアミン化合物又はその水溶液を添加して、上記ウレタンプレポリマーを鎖伸長(高分子量化)する方法である。
【0105】
製造方法(I)では、まず、ポリアクリル系樹脂を溶媒に溶解して得られた樹脂溶液と、親水基を有するウレタンプレポリマーの溶液とを混合し、混合物に水を添加して撹拌することにより乳化させて、乳化液を得る。
【0106】
上記溶媒の例には、ヘキサン、イソヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、ベンゼンなどの有機溶媒、及び超臨界状態にある二酸化炭素などの水以外の溶媒が含まれる。これらの溶媒のうち、1種類のみを用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0107】
また、乳化方法としては、公知の方法、例えば、強制乳化法、転相乳化法、D相乳化法、ゲル乳化法を用いることができる。また、本方法で使用できる機器は、例えば、撹拌羽、ディスパー、ホモジナイザー等による単独撹拌、及びこれらを組み合わせた複合撹拌、サンドミル、多軸押出機などがある。また、乳化において、ウレタンプレポリマーとともに、上記界面活性剤を混合してもよい。
【0108】
次に、上記乳化液を水で希釈した後に、鎖伸長剤としてのアミン化合物を添加して、ウレタンプレポリマーの残存イソシアネート基を鎖伸長剤により架橋させ、ポリアクリル系樹脂を高分子量化する。その後、有機溶媒を留去することで、ポリウレタン系樹脂の内部にポリアクリル系樹脂を含有する複合樹脂微粒子分散体(水不溶性樹脂微粒子が分散された分散体)を得ることができる。
【0109】
<製造方法(II)>
製造方法(II)について説明する。製造方法(II)は、親水基を有するウレタンプレポリマーを水に乳化し、鎖伸長剤としてのアミン化合物又はその水溶液を添加してウレタンプレポリマーを鎖伸長させてポリウレタン系樹脂の水分散体を調製して、ポリアクリル系樹脂をポリウレタン系樹脂の水分散体で乳化する方法である。
【0110】
製造方法(II)は、親水基を有するウレタンプレポリマーの溶液に水を添加して乳化させ、得られた乳化液に、鎖伸長剤としてのアミン化合物を添加して、ウレタンプレポリマーの残存イソシアネート基を鎖伸長剤により架橋させ、高分子量化したポリウレタン系樹脂の水分散体を調製する。
【0111】
その後、ポリアクリル系樹脂を溶媒に溶解して得られた樹脂溶液と、上記親水基を有するポリウレタン系樹脂の水分散体とを混合して、親水基を有するポリウレタン系樹脂によりポリアクリル系樹脂を乳化させ、水で希釈した後に、有機溶媒を留去することで、ポリウレタン系樹脂の内部にポリアクリル系樹脂を含有する複合樹脂微粒子分散体(水不溶性樹脂微粒子が分散された分散体)を得ることができる。
【0112】
製造方法(II)において、使用できる溶媒は、製造方法(I)と同様の溶媒を選択することができる。また、乳化方法においても、製造方法(I)と同様の方法を用いることができる。
【0113】
複合樹脂微粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、10~500nmの範囲であることが好ましく、10~300nmの範囲であることがより好ましく、10~200nmの範囲であることがさらに好ましい。平均粒子径の測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができる。上記測定方法の中では、測定が簡便であり、粒子径領域を精度よく測定できる動的光散乱法が好ましい。
【0114】
これらの樹脂は他のモノマーを用いた共重合体でもよい。
【0115】
上記複合樹脂微粒子の重量平均分子量は10000~1000000の範囲であることが好ましい。上記水不溶性樹脂微粒子の重量平均分子量(Mw)が10000以上であると、低吸収性基材又は非吸収性基材表面に形成された画像(塗膜)の凝集力が強くなり、塗膜の密着性が向上するからである。また、重量平均分子量(Mw)が1000000以下であると、有機溶媒に対する溶解性が良く、乳化分散体の粒子径の微小化が促進されるからである。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される値であり、例えば、株式会社島津製作所製「RID-6A」(カラム:東ソー株式会社製「TSK-GEL」、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、カラム温度:40℃)を用いて、ポリスチレン標準試料で作成した検量線から求めることができる。
【0116】
また、水不溶性樹脂微粒子として、複合樹脂微粒子の製造方法を説明してきたが、本発明はこれに限定されず、市販の複合樹脂を用いてもよい。例えば、市販のウレタン・アクリル樹脂として、大成ファインケミカル社製WEM-506C、ジャパンコーティングレジン社製モビニール6910などが挙げられる。
【0117】
(水、その他の添加剤)
本発明に係るプレコート液に含まれる水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、又は純水であり得る。
【0118】
また、本発明に係るプレコート液の溶媒として、水の他に有機溶媒を含有することができる。溶媒は後段のプレコート液の乾燥時除去することができる。
【0119】
プレコート液は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他、界面活性剤、架橋剤、防黴剤、殺菌剤等、他の成分を適宜配合することができる。
【0120】
さらに、例えば特開昭57-74193号公報、同57-87988号公報及び同62-261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57-74192号公報、同57-87989号公報、同60-72785号公報、同61-146591号公報、特開平1-95091号公報及び同3-13376号公報等に記載の退色防止剤、アニオン、カチオン又は非イオンの各種界面活性剤、特開昭59-42993号公報、同59-52689号公報、同62-280069号公報、同61-242871号公報及び特開平4-219266号公報等に記載の蛍光増白剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、増粘剤、帯電防止剤等、公知の各種添加剤を含有させることもできる。
【0121】
本発明に係るプレコート液を塗工液として基材上に直接塗布・乾燥することによりプレコート層を作製することが好ましい。ここでプレコート液に好ましく用いられる添加剤は十分に分散してから、塗工液として用いることが好ましい。
【0122】
プレコート液の塗布方式としては、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、カーテン塗布方法、米国特許2681294号記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法、又はインクジェット法が好ましく用いられる。
【0123】
〔3〕水性インク組成物
本発明に係る水性インク組成物(以下、「インク液」又は単に「インク」と記載する。)は、少なくとも、顔料、顔料を分散するための高分子分散剤及び樹脂微粒子を含有することを特徴とし、さらに水を含有することが好ましい。
【0124】
(顔料)
本発明に係るインクに含有される顔料としては、アニオン性の分散顔料、例えば、アニオン性の自己分散性顔料や、アニオン性の高分子分散剤により顔料を分散したものを用いることができ、特に、アニオン性の高分子分散剤により顔料を分散したものが好適である。
【0125】
顔料としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、例えば、不溶性顔料、レーキ顔料等の有機顔料及び、酸化チタン等の無機顔料を好ましく用いることができる。
【0126】
なお、インク吐出安定性と密着性の確保が一般に困難な酸化チタンにおいて、本発明により特に好適に滲みを生じにくくし、かつ、密着性を高めることができる。
【0127】
酸化チタンには、アナターゼ型、ルチル型及びブルーカイト型の三つの結晶形態があるが、汎用なものとしてはアナターゼ型とルチル型に大別できる。特に限定するものではないが、屈折率が大きく隠蔽性が高いルチル型が好ましい。具体的には、富士チタン工業株式会社のTRシリーズ、テイカ株式会社のJRシリーズや石原産業株式会社のタイペークなどが挙げられる。
【0128】
不溶性顔料としては、特に限定するものではないが、例えば、アゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロール等が好ましい。
【0129】
好ましく用いることのできる具体的な有機顔料としては、以下の顔料が挙げられる。
【0130】
マゼンタ又はレッド用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0131】
オレンジ又はイエロー用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー155等が挙げられる。特に色調と耐光性のバランスにおいて、C.I.ピグメントイエロー155が好ましい。
【0132】
グリーン又はシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0133】
また、ブラック用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0134】
(顔料分散剤)
顔料を分散させるために用いる顔料分散剤は、格別限定されないがアニオン性基を有する高分子分散剤が好ましく、分子量が5000~200000の範囲のものを好適に用いることができる。
【0135】
高分子分散剤としては、例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体に由来する構造を有するブロック共重合体、ランダム共重合体及びこれらの塩、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0136】
高分子分散剤は、アクリロイル基を有することが好ましく中和塩基で中和して添加することが好ましい。ここで中和塩基は特に限定されないが、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等の有機塩基であることが好ましい。特に、顔料が酸化チタンであるとき、酸化チタンは、アクリロイル基を有する高分子分散剤で分散されていることが好ましい。
【0137】
また、高分子分散剤の添加量は、顔料に対して、10~100質量%の範囲であることが好ましく、10~40質量%の範囲がより好ましい。
【0138】
顔料は、顔料を上記高分子分散剤で被覆した、いわゆるカプセル顔料の形態を有することが特に好ましい。顔料を高分子分散剤で被覆する方法としては、公知の種々の方法を用いることができるが、例えば、転相乳化法、酸析法、又は、顔料を重合性界面活性剤により分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法などを好ましく例示できる。
【0139】
特に好ましい方法として、水不溶性樹脂を、メチルエチルケトンなどの有機溶媒に溶解し、さらに塩基にて樹脂中の酸性基を部分的、若しくは完全に中和後、顔料及びイオン交換水を添加し、分散したのち、有機溶媒を除去し、必要に応じて加水して調製する方法を挙げることができる。
【0140】
インク中における顔料の分散状態の平均粒子径は、50nm以上、200nm未満であることが好ましい。これにより、顔料の分散安定性を向上でき、インクの保存安定性を向上できる。顔料の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、且つ該粒子径領域を精度よく測定できる。
【0141】
顔料は、分散剤及びその他所望する諸目的に応じて必要な添加物とともに、分散機により分散して用いることができる。
【0142】
分散機としては、従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等を使用できる。中でもサンドミルによって顔料を分散させると、粒度分布がシャープとなるため好ましい。また、サンドミル分散に使用するビーズの材質は、格別限定されないが、ビーズ破片の生成やイオン成分のコンタミネーションを防止する観点から、ジルコニア又はジルコンであることが好ましい。さらに、このビーズ径は、0.3~3mmの範囲であることが好ましい。
【0143】
インクにおける顔料の含有量は格別限定されないが、酸化チタンについては、7~18質量%の範囲が好ましく、有機顔料については0.5~7質量%が好ましい範囲である。
【0144】
(樹脂微粒子)
本発明に係る水性インク組成物の樹脂微粒子は、水不溶性樹脂微粒子であることが好ましい。本発明で使用する水不溶性樹脂微粒子は、インクを受容でき、当該インクに対して溶解性又は親和性を示す水不溶性樹脂の微粒子分散液である。
【0145】
当該水不溶性樹脂微粒子とは、前述したように、本来水不溶性であるが、ミクロな微粒子として樹脂が水系媒体中に分散する形態を有するものであり、乳化剤等を用いて強制乳化させ水中に分散している非水溶性樹脂、又は、分子内に親水性の官能基を導入して、乳化剤や分散安定剤を使用することなくそれ自身で安定な水分散体を形成する自己乳化できる非水溶性樹脂である。これらの樹脂は通常、水又は水/アルコール混合溶媒中に乳化分散させた状態で用いられる。
【0146】
用いられる樹脂としては、少なくとも、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂微粒子であることが好ましい。
【0147】
上記ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂微粒子については、前述のプレコート液の項で詳述したものを適宜用いることが好ましいが、前記水性プレコート組成物に用いる樹脂微粒子は、イオン性がカチオン又はノニオン性が好ましいのに対して、水性インク組成物に用いる樹脂微粒子は、アニオン性であることが好ましい。
【0148】
中でも、水性インク組成物に用いられる樹脂微粒子は、酸構造を含有することが好ましく、界面活性剤の添加量が少なくても、水中に分散させることが可能となり、インク層の耐水性が向上する。これを、自己乳化型といい、界面活性剤を使用すること無く分子イオン性のみで、水中にウレタン系樹脂が分散安定化しうることを意味する。酸構造の例には、カルボキシ基(-COOH)、スルホン酸基(-SO3H)等の酸基等が含まれる。酸構造は、樹脂において側鎖に存在していてもよく、末端に存在していてもよい。
【0149】
上記酸構造の一部又は全部は、中和されていることが好ましい。酸構造を中和することにより、樹脂の水分散性を向上させることができる。酸構造を中和する中和剤の例には、有機アミン類が好ましく、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミンを用いることが好ましい。
【0150】
水性インク組成物に用いられる樹脂微粒子の市販品の例を以下に挙げる。
【0151】
(ポリエステル)
高松油脂社製ペスレジンA-110F、A-520、A-613D、A-615GE、A-640、A-645GH、A-647GEX、ユニチカ社製 エリーテルKA-5034、KA-5071S、KA-1449、KA-0134、KA-3556、KA-6137、KZA-6034、KT-8803、KT-8701、KT-9204、KT-8904、KT-0507、KT-9511
【0152】
(ウレタン系)
楠本化成社製NeoRez R-967、R-600、R-9671、三井化学社製W-6061、W-5661、WS-4000
【0153】
(アクリル系)
ジャパンコーティングレジン社製モビニール 6899D、6969D、6800、6810、トーヨーケム社製TOCRYL W-7146、W-7150、W-7152
【0154】
(有機溶媒)
インクに含有される有機溶媒としては、水溶性の有機溶媒を好適に用いることができる。水溶性の有機溶媒としては、例えば、アルコール類、多価アルコール類、アミン類、アミド類、グリコールエーテル類、炭素数が4以上である1,2-アルカンジオール類などが挙げられる。
【0155】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、t-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、n-ノニルアルコール、トリデシルアルコール、n-ウンデシルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコール等が挙げられる。
【0156】
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、エチレンオキサイド基の数が5以上のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、プロピレンオキサイド基の数が4以上のポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等が挙げられる。
【0157】
アミン類としては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等が挙げられる。
【0158】
アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0159】
グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0160】
炭素数が4以上である1,2-アルカンジオール類としては、例えば、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール等が挙げられる。
【0161】
特に好ましく用いられる有機溶媒は多価アルコール類であり、高速プリント時の滲みを好適に抑制することができる。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールが好ましい。
【0162】
インクには、これら有機溶媒から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて含有するこができる。
【0163】
インクにおける有機溶媒の含有量は、特に限定されないが、10~60質量%の範囲であることが好ましい。
【0164】
(水、その他の添加剤)
本発明に係るインクに含まれる水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、又は純水であり得る。
【0165】
本発明に係るインクは、必要に応じて、界面活性剤、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤を含有することができる。
【0166】
また、インクに、界面活性剤を含有させることもできる。これにより、インク出射安定性の向上や、記録媒体に着弾した液滴の広がり(ドット径)を制御することができる。
【0167】
本発明に係るインクで用いることができる界面活性剤は、特に制限なく用いることができるが、インクの他の構成成分にアニオン性の化合物を含有するときは、界面活性剤のイオン性はアニオン、ノニオン又はベタイン型が好ましい。
【0168】
本発明において、好ましくは静的な表面張力の低下能が高いフッ素系又はシリコーン系界面活性剤や、動的な表面張力の低減能が高いジオクチルスルホサクシネートなどのアニオン界面活性剤、比較的低分子量のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アセチレングリコール類、プルロニック(登録商標)型界面活性剤、ソルビタン誘導体などのノニオン界面活性剤が好ましく用いられる。フッ素系又はシリコーン系界面活性剤と、動的な表面張力の低減能が高い界面活性剤を併用して用いることも好ましい。
【0169】
インクにおける界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、0.1~5.0質量%の範囲であることが好ましい。
【0170】
本発明に用いられるインクでは、上記説明した以外に、必要に応じて、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防黴剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコーンオイル等の油滴微粒子、特開昭57-74193号公報、同57-87988号公報、同62-261476号公報等に記載の紫外線吸収剤、特開昭57-74192号公報、同57-87989号公報、同60-72785号公報、同61-146591号公報、特開平1-95091号公報、同3-13376号公報等に記載の退色防止剤、特開昭59-42993号公報、同59-52689号公報、同62-280069号公報、同61-242871号公報、特開平4-219266号公報等に記載の蛍光増白剤等を挙げることができる。
【0171】
上記構成からなる本発明に用いられるインクは、インクの粘度としては、25℃で1~40mPa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは2~10mPa・sの範囲である。
【0172】
〔4〕インクジェット記録方法
本発明のインクジェット記録方法は、上述した水性プレコート組成物と水性インク組成物を組み合わせて、インクジェット記録液セットとして使用することを特徴とする。このインクジェット記録液セットを用いる方法であれば、例えば、1台のインクジェットプリンターを用いて、非吸収性基材の表面に、前記本発明のインクジェット記録液セットを構成するプレコート液の塗布と、インクによる印刷とを連続して効率よく行うことができる。そして基材間のドット径のばらつきの少ない、画質の優れた文字や図柄等を印刷することが可能となる。
【0173】
具体的には、本発明のインクジェット記録方法は、上述したプレコート液を、低吸収性基材又は非吸収性基材の記録媒体上に付与するプレコート付与工程と、低吸収性基材又は非吸収性基材上に付与されたプレコート液を乾燥させてプレコート層を形成するプレコート液乾燥工程と、上記プレコート層上に、上述したインクを、インクジェット法により付与するインク付与工程と、プレコート層上に付与されたインクを乾燥させてインク層を形成するインク乾燥工程と、を有する画像形成方法である。
【0174】
〔4.1〕プレコート液付与工程
プレコート液付与工程では、低吸収性基材又は非吸収性基材の記録媒体上に、前述のプレコート液を付与する。
【0175】
低吸収性基材又は非吸収性基材の記録媒体上へのプレコート液の付与方法は、特に限定されないが、例えばローラー塗布法、カーテン塗布法、スプレー塗布法、インクジェット法などを好ましく挙げることができる。中でも、ローラー塗布機などをインクジェット装置に連結して用いることができ、粘度が比較的高い場合であっても効率よく付与できる観点などから、ローラー塗布法が好ましい。
また、プレコート液を塗布する工程として、インクジェット法を用いる工程であることが、インク非塗布領域に凝集剤を塗布しなくてもよくなるため全体の耐熱水性を向上する観点から好ましい。
その場合、後述するように、用いる基材が金属基材などの場合は、搬送ベルト上に金属基材を配置し、ベルトを搬送しながらプレコート層を塗布形成したり、基材を固定するフラットベッドタイプのプリンターをプレコート層の形成に用いたりすることも好ましい。
【0176】
〔4.2〕プレコート液乾燥工程
プレコート液乾燥工程は、低吸収性基材又は非吸収性基材の記録媒体上に付与されたプレコート液を乾燥させて、プレコート層を形成する工程である。但し、この工程は省略することができ、連続してインク液を塗布する工程を行ってもよい。その場合は、プレコート液の乾燥は、インク液の乾燥と一括して行うこともできる。
【0177】
プレコート液の乾燥は、プレコート液の溶媒成分である水や水溶性有機溶溶媒などを除去しつつ、プレコート液に含まれる樹脂粒子が完全には融着しないような条件で乾燥を行うことが好ましい。プレコート液の乾燥温度は、例えば、50~100℃の範囲が好ましい。プレコート液の乾燥時間は、例えば、3~30秒の範囲が好ましい。
【0178】
プレコート液の乾燥は、例えば、乾燥炉や熱風送風機などのような非接触加熱型の乾燥装置を用いて行ってもよいし、ホットプレートや熱ローラーなどのような接触加熱型の乾燥装置を用いて行ってもよい。
【0179】
乾燥温度は、(a)乾燥炉や熱風送風機等のような非接触加熱型の乾燥装置を用いる場合には、炉内温度又は熱風温度などのような雰囲気温度、(b)ホットプレートや熱ローラーなどのような接触加熱型の乾燥装置を用いる場合には、接触加熱部の温度、又は、(c)被乾燥面の表面温度から選ばれるいずれか1つをプレコート液の乾燥の全期間において測定することで得ることができ、測定場所としては(c)被乾燥面の表面温度を測定することがより好ましい。
【0180】
得られるプレコート層の厚さは、0.3~3.0μmの範囲であることが好ましく、プレコート層の厚さは、0.5~2.0μmの範囲であることがより好ましい。プレコート層の厚さが0.3μm以上であると、インクの滲みを抑制しつつ、画像の密着性やラミネート強度を高めやすい。プレコート層の厚さが3.0μm以下であると、水分や熱による変形応力を低減できるので、画像の密着性やラミネート強度が損なわれにくい。
【0181】
〔4.3〕インク付与工程
インク付与工程では、低吸収性基材又は非吸収性基材の記録媒体上にプレコート層を形成した後、前述のインクジェット記録液セットのインクを、インクジェット法により付与する工程である。
【0182】
インクジェット法は、特に制限されず、インクを装填したインクジェットヘッドを備えるプリンターを用いることができる。具体的には、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドのノズルからインクを液滴として吐出させ、これをフィルム基材のプレコート層上に着弾させて印字を行うことができる。
【0183】
上記インクジェットヘッドは、オンデマンド方式及びコンティニュアス方式のいずれのインクジェットヘッドでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドの例には、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型及びシェアードウォール型を含む電気-機械変換方式、ならびにサーマルインクジェット型及びバブルジェット(「バブルジェット」はキヤノン株式会社の登録商標)型を含む電気-熱変換方式等が含まれる。
【0184】
上記インクジェットヘッドの中では、電気-機械変換方式に用いられる電気-機械変換素子として圧電素子を用いたインクジェットヘッド(ピエゾ型インクジェットヘッドともいう)であることが好ましい。
【0185】
また、インクジェットヘッドは、スキャン式及びライン式のいずれのインクジェットヘッドでもよいが、ライン式であることが好ましい。
【0186】
ライン式のインクジェットヘッドとは、印字範囲の幅以上の長さを持つインクジェットヘッドのことをいう。ライン式のインクジェットヘッドとしては、一つのヘッドで印字範囲の幅以上であるものを用いてもよいし、複数のヘッドを組み合わせて印字範囲の幅以上となるように構成してもよい。
【0187】
また、複数のヘッドを、互いのノズルが千鳥配列となるように並設して、これらヘッド全体としての解像度を高くしてもよい。
【0188】
低吸収性基材又は非吸収性基材の記録媒体の搬送速度は、例えば、1~120m/minの範囲で設定することができる。搬送速度が速いほど画像形成速度が速まる。本発明によれば、シングルパスのインクジェット画像形成方法で適用可能な、線速50~120m/minの範囲という非常に速い線速でもインクの定着性の高い高精細な画像を得ることができる。
【0189】
上述した水不溶性樹脂微粒子をプレコート液に含有することにより、低吸収性基材又は非吸収性基材の記録媒体に対する画像(塗膜)の定着性を向上させることができる。特に、シリコーン系界面活性剤(例えば、KF351A(信越シリコーン社製)など)を用いることにより、PP、PETなどの低吸収性基材又は非吸収性基材に対して均一に濡れ広がりやすくすることができるので、低吸収性基材又は非吸収性基材の記録媒体に対する画像(塗膜)の定着性を向上させることができる。
【0190】
〔4.4〕インク乾燥工程
インク乾燥工程では、低吸収性基材又は非吸収性基材の記録媒体上に付与したインクを乾燥させる。
【0191】
インクの乾燥は、主にインクの溶媒成分である水や水溶性有機溶媒などを除去すると同時に、本発明に係る凝集剤を熱分解温度以上の温度で乾燥して熱分解する。乾燥温度の上限は、220℃以下の温度で行うことが、凝集剤の熱分解性とインク組成物の安定性を両立する観点から好ましい。インクの乾燥時間は、少なくとも前記凝集剤が熱分解する時間で制御される。分解時間は選択する凝集剤の種類によって適宜選択されるものであり、本発明の効果が得られる熱分解の程度や生産性の観点から、適宜決定されうる。
【0192】
インクの乾燥は、前述したプレコート液の乾燥と同様の方法で行うことができる。
【0193】
〔5〕インクジェット記録装置
図1は、本発明に好ましいプレコート/インクジェット記録装置の模式図である。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、図1に示すプレコート/インクジェット記録装置1において、第1乾燥部14は省略することも可能である。
【0194】
プレコート/インクジェット記録装置1は、主に、プレコート付与部10、インクジェットプリント部20から構成されている。プレコート付与部10において、基材F上にプレコート層Cが形成され、インクジェットプリント部20によってインク層Rが形成される。
【0195】
具体的には、送り出しローラー30から繰り出された基材F上に、ロールコーター11によってノズル12から吐出されたプレコート液滴13が塗布され、プレコート層Cが形成される。続けて、第1乾燥部14によってプレコート層Cが乾燥される。
【0196】
次いで、プレコート層C上に、インクジェットヘッド21からインク液滴22が吐出されて、インク層Rが形成され、第2乾燥部23によって、本発明に係る凝集剤の熱分解温度以上の温度で乾燥後、巻取りローラー40によってプレコート層Cとインク層Rとが形成された基材Fが巻き取られ画像記録物が得られる。
【0197】
なお、図1では、基材Fがフィルム基材である場合を示したが、金属基材などの場合は、搬送ベルト上に金属基材を配置し、ベルトを搬送しながらプレコート層C及びインク層Rをワンパスで塗布形成することができる。
【0198】
さらに、図1で示すプレコート/インクジェット記録装置以外の装置として、フラットベッドタイプのプリンターをプレコート液及びインク液の塗布に用いることも好ましい。フラットベッドタイプのプリンターは、基材が固定され、インクジェットヘッドを主走査方向と、主走査方向と交差する副走査方向に動かすことが可能で、基材を搬送せずに印刷を行うことが可能である。ブリキなどの金属基材では、樹脂フィルム機材のように、ロールtoロール搬送ができないために、基材を搬送する必要のない、フラットベッドタイプのプリンターを用いることが好ましい。
【0199】
このようなフラットベッドタイプのプリンターとしては、特開2015-74161号公報の図1や特開2017-177578号公報の図1に記載されているプリンターを一例として挙げることができる。
【0200】
〔6〕画像記録物
本発明の画像記録物は、基材と、基材上に前記インクジェット記録液セットのプレコート液を用いて形成されたプレコート層と、当該プレコート層上にインクを用いて形成されたインク層と、を有することを特徴とする。
【0201】
図2に示すとおり、画像記録物Pは、基材F上に、本発明に係るプレコート液をロールコーターによる塗布、又はインクジェットヘッドから吐出して塗布し、プレコート層Cを形成する。当該プレコート層Cを定着した位置に、インク液をインクジェットヘッドから吐出、定着して画像記録層Rを形成するものである。
【0202】
上記構成は最小構成を示すものであり、基材とプレコート層との層間に他の機能性層を形成してもよく、また、インク層の上層に、例えばラミネート接着層を介して非吸収性のフィルム基材等を貼合してもよい。少なくとも、プレコート層とインク層とが接する構成は必須である。
【0203】
本発明の画像記録物の一例としては、少なくとも、本発明に係る水性プレコート組成物及び水性インク組成物を用いる画像記録物であって、金属基材上に、熱硬化性樹脂を含有する第1層、前記水性プレコート組成物を含有する第2層、前記水性インク組成物を含有する第3層、及び熱硬化性樹脂を含有する第4層が、この順に積層されたことが好ましい実施態様である。
【0204】
すなわち、金属基材上に、少なくとも4層積層された画像記録物であって、第1層及び第4層が、熱硬化性樹脂を含有し、第2層が、少なくとも凝集剤の熱分解物を含有し、前記凝集剤が、熱分解性を有するカチオン樹脂、有機酸又は多価金属塩から選択され、第3層が、少なくとも顔料、高分子分散剤、前記高分子分散剤の中和剤及び樹脂微粒子を含有し、前記高分子分散剤の中和剤が、有機アミンから選択されことを特徴とするものである。
【0205】
当該画像記録物としては、具体例として、缶詰食品、レトルト食品や飲料等を包装する包装用材料等を好ましく挙げることができる。
【0206】
図3に、本発明の画像記録物の一例である、缶詰食品用包装材料の断面図を示す。
【0207】
ブリキ基材51上に熱硬化性樹脂(例えば、TW-1407シリーズ T&K TOKA製)をローラー塗布して熱硬化性樹脂層(ベースコート)52を形成し、その上に、プレコート層53とインク層54によって画像を形成する。次いで、熱硬化性樹脂(例えば、AX-10シリーズ T&K TOKA製)をローラー塗布して熱硬化性樹脂層(トップコート)55を形成し、加熱硬化、乾燥して、缶詰食品用包装材料50を得ることができる。
【実施例
【0208】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0209】
水性プレコート組成物の調製に用いた材料は以下のとおりである。
【0210】
(凝集剤)
・カチオンポリマー:PAS-21CL(ニットーボーメディカル社)、熱分解温度:180℃
・多価金属塩1:酢酸カルシウム、熱分解温度:160℃
・有機酸:マロン酸、熱分解温度:140℃
・多価金属塩2(比較例):塩化カルシウム、沸点:1600℃
【0211】
(樹脂微粒子)
・ポリエステル:Z-1100(互応化学社)
・アクリル:RKW-620(大成ファインケミカル社)
・ウレタン:SF650(第一工業製薬社)
・ウレタン・アクリル:WEM-506C(大成ファインケミカル社)
【0212】
(界面活性剤):KF351A(信越シリコーン社)
【0213】
水性インク組成物の調製に用いた材料は以下のとおりである。
【0214】
(分散剤中和剤)
・中和剤1:N-メチルジエタノールアミン
・中和剤2(比較例):NaOH
【0215】
(樹脂微粒子)
・ポリエステル:ぺスレジンA-645GH(高松油脂社)
・ポリアクリル:NeoCryl A-1127(楠本化成社)
・ポリウレタン:W-6061(三井化学社)
・ウレタン・アクリル:WEM-041U(大成ファインケミカル社)
(顔料):ピグメントブルー15:3
【0216】
(分散樹脂):ジョンクリル819(BASF社)
【0217】
(インク溶剤):エチレングリコール
【0218】
(界面活性剤):KF351A(信越シリコーン社)
【0219】
<実施例1>
(プレコート組成物の調製)
樹脂微粒子としてポリエステル樹脂Z-1100(互応化学社)14質量%、凝集剤としてカチオンポリマーPAS-21CL(ニットーボーメディカル社、熱分解温度:180℃)5質量%、界面活性剤KF351A(信越シリコーン社)0.5質量%、イオン交換水(残量;全量が100質量%なる量)とを、撹拌しながら順次添加した後、5.0μmのフィルターにより濾過してプレコート組成物を得た。濾過前後で実質的な組成変化はなかった。
【0220】
(インク組成物の調製)
顔料(ピグメントブルー15:3)を18質量%に、顔料分散剤(水酸化ナトリウム中和されたカルボキシ基を有するアクリル系分散剤(BASF社製「ジョンクリル819」、酸価75mgKOH/g、固形分20質量%)を31.5質量%と、エチレングリコール20質量%と、イオン交換水(残量;全量が100質量%となる量)を加えた混合液をプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、顔料の含有量が18質量%の顔料分散液G-2を調製した。この顔料分散液に含まれる顔料粒子の平均粒径は110nmであった。なお、平均粒径の測定はマルバルーン社製「ゼータサイザ1000HS」により行った。
【0221】
上記顔料分散液27.8質量%(固形分として5質量%)に、樹脂微粒子ペスレジンA-645GH(高松油脂社)5質量%、分散剤中和剤N-メチルジエタノールアミン0.4質量%、エチレングリコール30質量%、界面活性剤KF351A(信越シリコーン社)0.5質量%及びイオン交換水(残量;全量が100質量%なる量)を撹拌しながら添加し、得られた混合液を1μmのフィルターにより濾過してインク組成物を得た。濾過前後で実質的な組成変化はなかった。
【0222】
<実施例2~17及び比較例1~3のプレコート組成物及びインク組成物の調製>
実施例1のプレコート組成物及びインク組成物を、表I~表IVに示すとおりに、上記プレコート組成物材料及びインク組成物材料をそれぞれ変化させた以外は同様にして、実施例2~17及び比較例1~3のプレコート組成物及びインク組成物を調製した。
【0223】
<プレコート層及びインク層の形成>
ローラー塗布法により、ブリキ基材に対して水性プレコート組成物を樹脂固形分付量1.5g/m2となるように湿潤膜厚9μmで塗布後、60℃の温風で5分乾燥して基材を準備した。なお、実施例4及び17は、水性プレコート組成物をインクジェット法にて塗布した。
【0224】
次いで、コニカミノルタ社製の独立駆動インクジェットヘッド(360dpi、吐出量14pL)2つを、ノズルが互い違いになるように並設して、720dpi×720dpiのベタ画像をシングルパス方式で印刷できるヘッドモジュールを作製した。かかるヘッドモジュールを2つ用意し、記録媒体を搬送する搬送ステージの搬送方向に沿って並設した。各ヘッドモジュールは、搬送方向(搬送ステージの移動軸)と交差するように設置した。このようにして、記録媒体を1回パスさせる際に、印字率200%、即ち2色分のインク付量(22.5cc/m2)を印刷できるようにした。
【0225】
搬送ステージ上に、水性プレコート組成物塗布面が上になるように記録媒体を設置し、60m/minの速度で搬送を行い、記録媒体がヘッド下を通過する際にシングルパス方式で水性インク組成物を印刷した。
【0226】
インクジェット法による印刷後に、記録媒体を乾燥機に投入し、表I~表IVに示す各設定温度で15分間乾燥し、プレコート層とインク層とを有する積層体を得た。
【0227】
なお、実施例16及び17では、ローラー塗布法により、ブリキ基材に対して熱硬化性樹脂からなるベースコート液(TW-1407シリーズ T&K TOKA製)を160mg/100cm2となるように塗布後、乾燥機で190℃、10分間乾燥した。次いで、プレコート層とインク層の形成は上記のとおりである。
【0228】
さらに、ローラー塗布法により、インク塗布面に対して、熱硬化性樹脂からなるトップコート液(AX-10シリーズ T&K TOKA製)を160mg/100cm2となるように塗布後、乾燥機で180℃、10分間乾燥した。
【0229】
≪評価≫
(1)凝集剤の熱分解温度の測定
凝集剤の熱分解温度は、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)で測定した。
【0230】
「熱分解温度」は室温から昇温(昇温スピード:10℃/分)させたとき、熱分解による質量減少が始まる温度を意味し、質量減少が始まる温度は、縦軸に質量減少率、横軸に温度をプロットしたグラフを描き、最も大きく質量が減少する時の接線と質量減少前の接線との交点の温度とした。測定機器は、株式会社日立ハイテクサイエンス製 STA7200を用いて、前記定義により、各凝集剤の分解温度を測定した。
【0231】
(2)耐熱水性
実施例1~17及び比較例1~3の評価用の上記形成したベタ画像を40℃で3日保管したのち、画像部分が切断端面となるようにして10cm×1cmの短冊状に切断して試験片とした。試験片を圧力鍋で30分煮沸し、煮沸後の試験片の様子を目視で確認し、各インクによる画像の耐熱水性を以下の基準で評価した。評価2以上が実用上許容内である。
【0232】
4:切断端面の画像、ベタ部の画像共に剥がれはない
3:切断端面の画像の一部に剥がれがあるが、ベタの画像に剥がれはない
2:切断端面の画像、ベタ部の画像の一部が剥がれている
1:切断端面の画像、ベタ部の画像の大部分が剥がれている
以上のプレコート層及びインク層の構成、並びに評価結果を、表I~表IVに示す。
【0233】
【表1】
【0234】
【表2】
【0235】
【表3】
【0236】
【表4】
【0237】
表I~表IVから、本発明のプレコート組成物及びインク組成物を用いた実施例1~17のインクジェット記録方法は、比較例1~3に対して、耐熱水性に優れていることが明らかである。
【0238】
実施例3に対して、実施例6~8では、乾燥温度を220℃以下にしたところ、耐熱水性が向上することが分かった。同様に、実施例3に対して、実施例9~11では、インク組成物の樹脂微粒子としてポリエステル系樹脂をポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂微粒子に変えたところ、耐熱水性が向上することが分かった。
【0239】
また、実施例16及び17では、金属基材を用いて、プレコート層及びインク層を熱硬化性樹脂層(ベースコート及びトップコート)で挟持した缶詰食品用包装材料の構成にて積層し、同様の評価を実施したところ、画像記録物は耐熱水性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0240】
本発明のインクジェット記録方法は、プレコート塗布膜上に画像形成する2液方式のインクジェット記録方法であり、耐熱水性を向上していることにより、缶詰食品、レトルト食品や飲料等を包装する包装用材料等へのインクジェット記録に用いるのに好適である。
【符号の説明】
【0241】
1 プレコート/インクジェット記録装置
10 プレコート付与部
11 ロールコーター
12 ノズル
13 プレコート液滴
14 第1乾燥部
20 IJプリント部
21 インクジェットヘッド
22 インク液滴
23 第2乾燥部
30 送り出しローラー
40 巻取りローラー
C プレコート層
F 基材
P 画像記録物
R インク層
50 缶詰食品用包装材料
51 ブリキ基材
52 熱硬化性樹脂層(ベースコート)
53 プレコート層
54 インク層
55 熱硬化性樹脂層(トップコート)
図1
図2
図3