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特許7582216シール部材、発電単位セル、燃料電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】シール部材、発電単位セル、燃料電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0286 20160101AFI20241106BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20241106BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20241106BHJP
   H01M 8/0276 20160101ALI20241106BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241106BHJP
【FI】
H01M8/0286
C09K3/10
F16J15/10 D
F16J15/10 Z
H01M8/0276
H01M8/10 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022005748
(22)【出願日】2022-01-18
(65)【公開番号】P2023104629
(43)【公開日】2023-07-28
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】野々山 順朗
(72)【発明者】
【氏名】服部 拓也
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-282708(JP,A)
【文献】特開2014-120213(JP,A)
【文献】特開2014-080006(JP,A)
【文献】特開2006-112526(JP,A)
【文献】特開2011-213767(JP,A)
【文献】特開2019-129124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0286
H01M 8/0276
F16J 15/10
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池における発電単位セルに備えられるカソードセパレータとアノードセパレータとの間に配置されて前記カソードセパレータと前記アノードセパレータとを接着してシールする部材であって、
基材と、前記基材の両面のそれぞれに配置された接着層と、を備え、
前記接着層には接着の状態で多数の気泡が含有されており、
前記接着層の接着の状態で前記気泡が占める割合が10%以上80%以下である、
シール部材。
【請求項2】
膜電極接合体を2枚のセパレータで挟む構造の燃料電池用の発電単位セルであって、
前記膜電極接合体の外周部において請求項1に記載のシール部材が配置され、前記接着層が前記セパレータに接着している、
発電単位セル。
【請求項3】
前記接着層の前記セパレータへの剥離接着強度が0.2N/mm以上である、請求項に記載の発電単位セル。
【請求項4】
燃料電池を製造する方法であって、
基材、及び、前記基材の両面のそれぞれに積層された接着層を含むシール部材を外周に配置した膜電極接合体を2枚のセパレータ間に配置する積層体形成工程と、
前記積層体形成工程により形成された積層体を加熱する加熱工程と、を含み、
前記加熱工程により前記シール部材に設けられた前記接着層を発泡させて前記セパレータに前記接着層を接着させる、
燃料電池の製造方法。
【請求項5】
前記積層体形成工程において前記接着層には水又は溶媒が含まれており、前記加熱工程で前記水又は前記溶媒が発泡することにより前記接着層が発泡する請求項に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項6】
前記セパレータには、前記加熱工程の後に前記接着層が接触する面に、前記積層体形成工程における前記接着層の厚さよりも高い凸部が備えられ、前記加熱工程における前記接着層の発泡により前記接着層が前記凸部の高さよりも厚くなる、請求項又はに記載の燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、加熱により膨張して弾性体となる独立気泡からなる熱可塑性樹脂多孔体を各部品間に介在させて重ね合わせ、積層体形成後に加熱処理することにより熱可塑性樹脂多孔体を膨張させて各部品間に密着させ流体をシールすることが開示されている。
特許文献2には、セパレータの表面にガスケットを接着剤により接着して一体化構造とするに際し、金属板の表面に発泡ゴム層を設けられたガスケットが開示されている。
特許文献3には、ガスケットがセパレータの少なくとも片面に、独立気泡のスポンジ層を接着層を介して接着される構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-211570号公報
【文献】特開2000-156234号公報
【文献】特開平9-97619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術に見られるシール部材は、多孔質弾性体が備えられているものの、これらは接触、押圧によりシールがなされている。このようなシールでは時間の経過に伴ってガス透過により多孔質内の気泡内の圧力が低下し、押圧力が低下することからシール性も低下してしまう問題がある。
【0005】
そこで、上記問題に鑑み、本開示は経時的なシール性の低下を抑制することができるシール部材を提供することを目的とする。また、このシール部材を用いた発電単位セル、燃料電池の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、燃料電池における発電単位セルに備えられるカソードセパレータとアノードセパレータとの間に配置されてカソードセパレータとアノードセパレータとを接着してシールする部材であって、基材と、基材の少なくとも一方の面に配置された接着層と、を備え、接着層には接着の状態で多数の気泡が含有されている、シール部材を開示する。
【0007】
接着層の接着の状態で気泡が占める割合が10%以上80%以下とすることができる。
【0008】
本願は膜電極接合体を2枚のセパレータで挟む構造の燃料電池用の発電単位セルであって、膜電極接合体の外周部において上記シール部材が配置され、接着層がセパレータに接着している、発電単位セルを開示する。
【0009】
接着層のセパレータへの剥離接着強度が0.2N/mm以上であるように構成できる。
【0010】
本願は燃料電池を製造する方法であって、接着層を含むシール部材を外周に配置した膜電極接合体を2枚のセパレータ間に配置する積層体形成工程と、積層体形成工程により形成された積層体を加熱する加熱工程と、を含み、加熱工程によりシール部材に設けられた接着層を発泡させてセパレータに接着層を接着させる、燃料電池の製造方法である。
【0011】
前記積層体形成工程において接着層又はセパレータには水又は溶媒が含まれており、加熱工程で水又は溶媒が発泡することにより接着層が発泡するように構成してもよい。
【0012】
セパレータには、積層体形成工程における接着層の厚さよりも高い凸部が備えられ、加熱工程における接着層の発泡により接着層が凸部の高さよりも厚くなるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、燃料電池において経時的なシール性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は発電単位セル10を平面視した図である。
図2図2は発電部11の断面でありその層構成を説明する図である。
図3図3は外周部21の断面でありその層構成を説明する図である。
図4図4図3の一部を拡大した図である。
図5図5図4のC-C断面を表す図である。
図6図6は他の例を示す、図5と同様の視点による図である。
図7図7は燃料電池スタック30を説明する図である。
図8図8は燃料電池の製造方法を説明する図である。
図9図9図8の一部を拡大して表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.発電単位セル
図1図3に1つの形態にかかる発電単位セル10を説明する図を示した。発電単位セル10は、水素と酸素(空気)を供給することにより発電するための単位要素であり、このような発電単位セル10が複数積層されて燃料電池スタックを構成している。
図1は発電単位セル10を平面視した図、図2は発電単位セル10のうち発電部11における層構成を説明する図、図3は発電単位セル10のうち外周部21における層構成を説明する図である。
【0016】
1.1.発電部
発電部11は、例えば図1に点線で囲った部分において発電に寄与する部分であり、図2に当該発電部11における層構成(A-A断面の一部)を表したように複数の層が積層されてなる。
発電単位セル10の発電部11では、電解質膜12を挟んで一方がカソード(酸素供給側)、他方がアノード(水素供給側)である。カソードは電解質膜12側からカソード触媒層13、カソード拡散層14、及び、カソードセパレータ15がこの順に積層されている。一方アノードは、電解質膜12側からアノード触媒層16、アノード拡散層17、及び、アノードセパレータ18をこの順に備えている。なお、電解質膜12、カソード触媒層13、カソード拡散層14、アノード触媒層16、アノード拡散層17による積層体を膜電極接合体と呼ぶことがある。膜電極接合体の厚さは0.4mm程度が典型的であり、発電部11における発電単位セル10の厚さは1.3mm程度が典型的である。
各層は公知のように構成することができるが例えば次の通りである。
【0017】
1.1a.電解質膜
電解質膜12は湿潤状態において良好なプロトン伝導性を示す固体高分子薄膜である。例えばフッ素系のイオン交換膜によって構成され、例えば、炭素-フッ素系高分子を用いることができ、具体的にはパーフルオロアルキルスルフォン酸系ポリマー(ナフィオン(登録商標))等が挙げられる。
電解質膜12の厚さは特に限定されることはないが、100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【0018】
1.1b.カソード触媒層
カソード触媒層13は、触媒金属が担体に担持されている形態で触媒金属が含まれる層である。例えば、触媒金属としてはPt、Pd、Rh、又はこれらを含む合金が挙げられる。担体としては、炭素担体、より詳しくはグラッシーカーボン、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、及び、人造黒鉛等からなる炭素粒子を挙げることができる。
【0019】
1.1c.アノード触媒層
アノード触媒層16も、カソード触媒層13と同様に、触媒金属が担体に担持されている形態で触媒金属が含まれる層である。例えば、触媒金属としてはPt、Pd、Rh、又はこれらを含む合金が挙げられる。担体としては、炭素担体、より詳しくはグラッシーカーボン、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、及び、人造黒鉛等からなる炭素粒子を挙げることができる。
【0020】
1.1d.カソード拡散層
カソード拡散層14は、例えば導電性を有する多孔質体で構成できる。より具体的な例としては、カーボン多孔体(カーボンペーパー、カーボンクロス、ガラス状カーボン等)、金属多孔体(金属メッシュ、発泡金属)等が挙げられる。
カソード拡散層には必要に応じてMPL(マイクロポーラス層)を設けてもよい。MPLは、カソード拡散層14のうちカソード触媒層13側に塗工された被覆状の薄膜である。MPLは必要に応じて撥水性や親水性を有して水分の調整をする機能を有する。MPLとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性樹脂とカーボンブラックなどの導電性材料を主成分とするものが典型的である。
【0021】
1.1e.アノード拡散層
アノード拡散層17は、例えば導電性を有する多孔質体で構成できる。より具体的な例としては、カーボン多孔体(カーボンペーパー、カーボンクロス、ガラス状カーボン等)、金属多孔体(金属メッシュ、発泡金属)等が挙げられる。
【0022】
1.1f.カソードセパレータ
カソードセパレータ15はカソード拡散層14に反応ガス(本形態では空気)を供給する部材であり、カソード拡散層14に対向する面に、複数の溝15aを有しており、この溝が反応ガス流路として機能する。溝の形状は反応ガスを適切にカソード拡散層14に供給することができれば特に限定されることはなく、本形態のように板状の部材を波状に形成したサーペンタイン型が挙げられる。そのとき、板厚は0.1mm~0.2mmが典型的であり、凹凸の高さは0.5mm程度が典型的である。
サーペンタイン型とした場合、隣り合う溝15aの間にはカソードセパレータ15を挟んで反対側に溝15bが形成され、これが冷却水流路として機能する。
【0023】
また、カソードセパレータ15には、図1からわかるように、発電部11から延長して外側となる位置で、溝15a、溝15bの一端側となる部位には空気入口孔Ain、冷却水入口孔Win、水素出口孔Houtが設けられ、溝15a、溝15bの他端側となる部位には空気出口孔Aout、冷却水出口孔Wout、水素入口孔Hinが設けられている。ここで溝15aは空気入口孔Ain、空気出口孔Aoutに連通し、溝15bは冷却水入口孔Win、冷却水出口孔Woutに連通している。
【0024】
カソードセパレータ15を構成する材料は、発電単位セルのセパレータとして用いることができる任意の材料であってよく、ガス不透過性の導電性材料であってよい。このような材料としては、例えばカーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、プレス成型した金属板等を挙げることができる。
【0025】
1.1g.アノードセパレータ
アノードセパレータ18はアノード拡散層17に反応ガス(水素)を供給する部材であり、アノード拡散層17に対向する面に、複数の溝18aを有しており、この溝が反応ガス流路として機能する。溝の形状は反応ガスを適切にアノード拡散層17に供給することができれば特に限定されることはなく、本形態のようにサーペンタイン型が挙げられる。そのとき板厚は0.1mm~0.2mmが典型的であり、凹凸の高さは0.4mm程度が典型的である。
サーペンタイン型とした場合、隣り合う溝18aの間にはアノードセパレータ18を挟んで反対側に溝18bが形成され、これが冷却水流路として機能する。
【0026】
また、アノードセパレータ18には、図1からわかるように、発電部11から延長して外側となる位置で、溝18a、溝18bの一端側となる部位には空気入口孔Ain、冷却水入口孔Win、水素出口孔Houtが設けられ、溝18a、溝18bの他端側となる部位には空気出口孔Aout、冷却水出口孔Wout、水素入口孔Hinが設けられている。ここで溝18aは水素入口孔Hin、水素出口孔Houtに連通し、溝18bは冷却水入口孔Win、冷却水出口孔Woutに連通している。
【0027】
アノードセパレータ18を構成する材料は、発電単位セルのセパレータとして用いることができる任意の材料であってよく、ガス不透過性の導電性材料であってよい。このような材料としては、例えばカーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、プレス成型した金属板等を挙げることができる。
【0028】
1.1h.発電部による発電
公知の通りであるが、以上説明した発電単位セル10により次のように発電が行われる。
アノードセパレータ18の溝18aから水素が供給されると水素はアノード拡散層17を通りアノード触媒層16にてプロトン(H)と電子(e)に分解され、プロトンは電解質膜12を通り、電子は外部へつながる導電線を通り、それぞれがカソード触媒層13に達する。ここで、カソード触媒層13にはカソードセパレータ15の溝15aからカソード拡散層14を介して酸素(空気)供給されており、カソード触媒層13では、プロトン、電子、酸素により水(HO)が発生する。発生した水はカソード拡散層14を通りカソードセパレータ15の溝15aに達して排出される。
すなわち、発電単位セル10ではアノード触媒層16から外部へつながる導電線を通る電子の流れを電流として利用する。
【0029】
1.2.外周部
外周部21は図1に点線で囲った発電部11の外側で発電単位セル10の外周部であり、図3に当該外周部21における層構成(B-B断面)を表したように複数の層が積層されてなる。
【0030】
図3からわかるように本形態で外周部21は次のような構成を備えている。
電解質膜12、アノード触媒層16、アノード拡散層17の端面はカソード触媒層13の端面に対して突出した(進行した)位置であるとともに、概ね同じ位置となるように積層され、カソード拡散層14は、その端面がカソード触媒層13の端面よりも突出した(進行した)位置であるが、電解質膜12よりは後退した位置となる。
電解質膜12のカソード側面にはカソード触媒層13の端面から延びるように電解質膜12の端面側に向けてカバーシート22が延びるように配置されている。カバーシート22は、水素や酸素等の反応ガスを透過しない材料(例えばナイロン)により構成されたシートである。カバーシート22の一端側は電解質膜12とカソード拡散層14との間に配置されている。
【0031】
また、カバーシート22の他端側のカソード側の面には樹脂シート23が配置されている。図2からわかるように樹脂シート23はその一方の端面がカソード拡散層14の端面に間隙を挟んで対向するように配置され、他方の端面は図2では省略されているが、電解質膜12に対して大きく突出するように延びている。樹脂シート23については後でさらに説明する。
なお、この間隙により樹脂シート23、カソード拡散層14の線膨張による寸法変化を吸収することができ、膨張、収縮による破損の発生を抑制することができる。
【0032】
カソードセパレータ15、アノードセパレータ18は、その間に電極部11と同様に上記した各層を挟むように配置されている。従ってカソードセパレータ15とアノードセパレータ18との間隔はその間に挟まれる層によって変化するように曲げられており、図2からわかるように樹脂シート23のみが配置されている部位ではその一部で間隔が狭められており、カソードセパレータ15とアノードセパレータ18とで樹脂シート23を挟んで固定されている。
なお、外周部21ではカソードセパレータ15及びアノードセパレータ18とも流路は不要であるため溝15a、溝18aは形成されていない(ただし、図3からわかるように一部に溝が形成されていることを妨げるものではない。)。
【0033】
1.2a.樹脂シート
樹脂シート23は発電単位セル10の外周部21においてカソードセパレータ15とアノードセパレータ18との間を封止してシールするシール部材として機能する。図4には図3にIVで示した部位を拡大して表した。また、図5では図4のC-C断面の例を表した。
樹脂シート23は基材24、基材24のうち一方側の面(カソード側を向く面)に配置された接着層25、及び、基材24のうち他方側の面(アノード側を向く面)に配置された接着層26を備えている。接着層25がカソードセパレータ15に接着し、接着層26がアノードセパレータ18に接着されることにより発電部11内を封止してシールしている。
【0034】
基材24は、電気絶縁性及び気密性を有し、融点が比較的高い熱可塑性樹脂材料から形成される。このような材料としては、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド等を挙げることができる。融点が高いの樹脂材料を用いることで、後述するように接着層25、接着層26に気泡を発生させる際に加熱しても基材24が溶融することを防ぎ、寸法や形状の変動を小さく抑えることができる。
基材24の厚さは特に限定されることはないが0.05mm以上0.25mm以下であることが好ましい。
【0035】
接着層25、接着層26は、接着された状態において、接着性を有するとともに多数の気泡が含まれてなる層である。
接着層25、接着層26は、接着性を発現する材料が適用されていればよいが、例えば官能基(無水マレイン酸,エポキシなど)をポリオレフィンに導入して接着性を付与した変性ポリオレフィン等を挙げることができる。より具体的には三井化学株式会社のアドマー(登録商標)がある。
気泡は後述する製造方法により発生させるが、図5からわかるように、その形状や大きさは一様ではなく様々であり限定されることはない。目安としての気泡の大きさは図5の視点で直径0.6mm以下程度であることが好ましい。図6には他の3つの例にかかる図を列挙した。図6はいずれも図5と同じ視点による図である。
【0036】
また、接着層25、接着層26に占める気泡の割合(気泡率)は10%以上80%以下である。より好ましくは30%以上80%以下、さらに好ましくは50%以上80%以下である。
気泡率の測定は接着層の層厚方向中央において層面に平行な面の断面(C-C断面)をX線CT、又は光学顕微鏡で観察しその視野(直径2mmの円)内における気泡の面積割合で得る。これにより、接着層の接着強度を有しつつ接着層を発泡膨張させることでセパレータの凹凸に追随させることが可能となる。なお、気泡率が10%より小さくなると隙間を埋める体積が十分でなくシール性が不足する虞がある。また、気泡率が80%を超えると接着強度が低下する傾向にある。かかる観点から適度に気泡を含ませることにより接着性の向上と隙間埋め(シール性)の機能も得られる。
なお、接着層25、接着層26の接着強度はJIS K 6854-1:1999(ISO 8510-1:1990)に準拠する90°剥離による測定、又は、JIS K 6854-3:1999(ISO 11339:1993)に準拠するT形剥離による測定で0.2N/mmより大きくなるように構成されている。
【0037】
また、接着層25がカソードセパレータ15に接着される面、接着層26がアノードセパレータ18に接着される面には、接着時の発泡膨張(後述)によりそれぞれのセパレータの表面にある凹凸に対応する凹凸が形成されている。すなわちセパレータの表面にある凸部には接着層に凹部が形成され、セパレータの表面にある凹部には接着層に凸部が形成されており、凹凸に沿って基材とセパレータと間に接着剤が充填され接着層とされている。
このようなセパレータの表面にある凸部としてはシール性を高めるために意図的に設けられた凸部(高さ0.04mm程度)や、製造時に生じた意図しない凸部を挙げることができる。
一方、セパレータの表面にある凹部としては傷や欠陥を挙げることができる。
【0038】
なお、ここでは接着層25及び接着層26の両方とも上記説明した気泡が含まれる態様を説明したが、これに限らず接着層25又は接着層26のいずれかにおいて上記した形態の接着層であってもよい。
【0039】
2.燃料電池スタック
燃料電池スタック30は、上記した発電単位セル10が複数(50枚~400枚程度)重ねられてなる部材であり、複数の発電単位セル10から集電を行う。図7にその構成の概要を示した。燃料電池スタック30は、スタックケース31、エンドプレート32、複数の発電単位セル10、集電板34、及び、付勢部材35を備えている。
【0040】
スタックケース31は、重ねられた複数の発電単位セル10、集電板34、及び、付勢部材35をその内側に収納する筐体である。本形態でスタックケース31は四角形の筒状で一端が開口し、他端が閉じているとともに、開口の縁に沿って開口とは反対側に板状の片が張り出し、フランジ31aを形成している。
【0041】
エンドプレート32は板状の部材であり、スタックケース31の開口を塞ぐ。スタックケース31のフランジ31aとの重なり部分をボルト及びナット等によりスタックケース31にフタをするようにエンドプレート32がスタックケース31に固定される。
【0042】
発電単位セル10は上記の通りである。このような発電単位セル10が複数重ねられている。このとき、1つの発電単位セル10のカソードセパレータ15に隣接する発電単位セル10のアノードセパレータ18が重なるように配置する。そしてカソードセパレータ15の溝15bとアノードセパレータ18の溝18bとが重なることで冷却水流路が形成される。
【0043】
集電板34は、積層された発電単位セル10から集電を行う部材である。従って集電板34は発電単位セル10の積層体の積層方向一端及び他端のそれぞれに配置されており、一方が正極、他方が負極となる。この集電板34に不図示の端子が接続され、外部に電気的に接続できるように構成されている。
【0044】
付勢部材35は、スタックケース31の内側に収まり、発電単位セル10の積層体に対してその積層方向に押圧力を付与する。付勢部材として例えば皿バネ等を挙げることができる。
【0045】
3.発電単位セル、及び、燃料電池スタックの製造方法
本開示の発電単位セルは例えば次のように製造することができる。
3.1.積層体形成工程
カソードセパレータ15とアノードセパレータ18との間に上記した発電単位セル10の各層を上記に倣って配置する。ただし、この時点で樹脂シート23は、その接着層25、接着層26には気泡が含まれておらず(発泡しておらず)、薄い形態であるため、図8図9図9図8のIXで表した部位の拡大図)に表したように、カソードセパレータ15と樹脂シート23との間、アノードセパレータ18と樹脂シート23との間が接着層25、接着層26により埋められていない。このとき(発泡前)の接着層25、接着層26の厚さは特に限定されることはないが0.02mm以上0.06mm以下程度である。また、発泡前における気泡率は5%以下であることが好ましい。
カソードセパレータ15とアノードセパレータ18に意図的に凸部が設けられた場合、このときの接着層25、接着層26の厚さは当該凸部の突出量よりも薄くてもよい。
なお、この時点で接着層25、接着層26、カソードセパレータ15、及び、アノードセパレータ18の少なくとも1つに、発泡を促進するための溶剤(水や有機溶媒(トルエンなど))が含まれていてもよい。
【0046】
3.2.加熱工程
次に、上記のように各層を配置した後、これを金型等により拘束して加熱し、接着層25、接着層26を発泡させて図3図6のようにカソードセパレータ15と基材24との間、アノードセパレータ18と基材24との間に充填させる。これにより凹凸を含めてセパレータと基材との間が接着層で充填され、セパレータに接着層が接着される。
加熱の温度は、接着層の接着剤の融点以上(好ましくは融点+20℃)かつ溶媒の沸点以上(水:100℃以上、トルエン111℃以上)である。
【0047】
3.3.燃料電池スタックの作製
以上により発電単位セル10が作製され、これを複数準備して重ね、公知の方法で図7に示したように構成することで燃料電池スタック30を製造することができる。
【0048】
4.効果等
本開示によれば、接着層を接着時に熱で発泡させることで、接着と隙間埋めとを同時にできる。すなわち、セパレータに凸凹があっても、発泡した接着層により隙間を埋めることでシールをすることができる。これにより発泡のない接着層に比べ、接触面積が増えるために強く接着できる。
また、本開示による接着層は弾性反力ではなく、接着力によってシールしているので時系列によるシール性の低下を抑制することができ、耐久性がよい。
また、発泡により接着層の厚さを大きくするので、発泡前の接着層は薄くてもよく(セパレータの凸部の高さよりも薄くてもよい。)、生産性やコストの観点から効率よく接着層を形成することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 発電単位セル
11 発電部
12 電解質膜
13 カソード触媒層
14 カソード拡散層
15 カソードセパレータ
16 アノード触媒層
17 アノード拡散層
18 アノードセパレータ
21 外周部
22 カバーシート
23 樹脂シート
24 基材
25 接着層
26 接着層
30 燃料電池スタック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9