(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/18 20120101AFI20241106BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20241106BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20241106BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20241106BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241106BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20241106BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20241106BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20241106BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20241106BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B60W10/18 900
B60K6/48 ZHV
B60W10/02 900
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/26 900
B60W20/10
B60L50/16
B60L50/61
B60L7/14
(21)【出願番号】P 2022007886
(22)【出願日】2022-01-21
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩八
(72)【発明者】
【氏名】浅田 宗志
(72)【発明者】
【氏名】山口 満
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅人
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-094823(JP,A)
【文献】特開2000-118246(JP,A)
【文献】国際公開第2018/189907(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60L 50/16
B60L 50/61
B60L 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンから駆動輪までの動力伝達経路上に設けられたモータと、
前記動力伝達経路上の前記エンジンと前記モータとの間に設けられたクラッチと、
前記モータの回生電力を充電するバッテリと、
前記エンジン、モータ、及びクラッチを制御する制御装置と、を備えたハイブリッド車両であって、
前記制御装置は、
アクセルオフによる減速要求があった際に前記バッテリを充電可能か否か判定する充電判定部と、
前記充電判定部により否定判定がなされた場合に、前記クラッチが係合し前記モータが運転停止状態で燃料カット処理を実行した際の前記エンジンのフリクショントルクにより当該ハイブリッド車両を減速する第1減速処理を実行し、前記充電判定部により肯定判定がなされた場合に、前記クラッチが解放した状態で前記モータの回生トルクにより当該ハイブリッド車両を減速する第2減速処理を実行する減速制御部と、を含み、
前記減速制御部は、前記第2減速処理において、
前記第1減速処理と同様の減速感が得られるように、前記モータの回転数に対応した前記エンジンの回転数での前記フリクショントルクを前記回生トルクとして前記モータから
継続して出力させ
、
前記制御装置は、前記減速要求があった際に前記エンジンを間欠停止可能か否かを判定する停止判定部を含み、
前記減速制御部は、前記充電判定部及び停止判定部により共に肯定判定がなされた場合には前記第2減速処理を実行し、前記充電判定部により肯定判定がなされ前記停止判定部により否定判定がなされた場合には、前記クラッチが係合し前記エンジンがアイドルトルクを出力した状態で前記モータの回生トルクにより当該ハイブリッド車両を減速する第3減速処理を実行し、前記第3減速処理において、前記第1減速処理と同様の減速感が得られるように、前記アイドルトルクに相当する大きさの負トルクと前記フリクショントルクとの合計値を前記回生トルクとして前記モータから継続して出力させる、ハイブリッド車両。
【請求項2】
前記減速制御部は、外気圧が低いほど前記回生トルクの前記フリクショントルク分を低下させる、
請求項1のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記減速制御部は、前記エンジンの温度が高いほど前記回生トルクの前記フリクショントルク分を低下させる、請求項
1又は2のハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路上に設けられたモータと、動力伝達経路上のエンジンとモータとの間に設けられたクラッチと、モータの回生電力を充電するバッテリと、エンジン、モータ、及びクラッチを制御する制御装置とを備えたハイブリッド車両が知られている。このようなハイブリッド車両では、バッテリが充電不可能の場合には燃料カット処理を実行した際のエンジンのフリクショントルクにより減速し、バッテリが充電可能な場合にはモータの回生トルクにより減速する(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンのフリクショントルクによる減速感と、モータの回生トルクによる減速感とにばらつきがあると、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、減速感のばらつきを抑制したハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、エンジンと、前記エンジンから駆動輪までの動力伝達経路上に設けられたモータと、前記動力伝達経路上の前記エンジンと前記モータとの間に設けられたクラッチと、前記モータの回生電力を充電するバッテリと、前記エンジン、モータ、及びクラッチを制御する制御装置と、を備えたハイブリッド車両であって、前記制御装置は、アクセルオフによる減速要求があった際に前記バッテリを充電可能か否か判定する充電判定部と、前記充電判定部により否定判定がなされた場合に、前記クラッチが係合し前記モータが運転停止状態で燃料カット処理を実行した際の前記エンジンのフリクショントルクにより当該ハイブリッド車両を減速する第1減速処理を実行し、前記充電判定部により肯定判定がなされた場合に、前記クラッチが解放した状態で前記モータの回生トルクにより当該ハイブリッド車両を減速する第2減速処理を実行する減速制御部と、を含み、前記減速制御部は、前記第2減速処理において、前記第1減速処理と同様の減速感が得られるように、前記モータの回転数に対応した前記エンジンの回転数での前記フリクショントルクを前記回生トルクとして前記モータから継続して出力させ、前記制御装置は、前記減速要求があった際に前記エンジンを間欠停止可能か否かを判定する停止判定部を含み、前記減速制御部は、前記充電判定部及び停止判定部により共に肯定判定がなされた場合には前記第2減速処理を実行し、前記充電判定部により肯定判定がなされ前記停止判定部により否定判定がなされた場合には、前記クラッチが係合し前記エンジンがアイドルトルクを出力した状態で前記モータの回生トルクにより当該ハイブリッド車両を減速する第3減速処理を実行し、前記第3減速処理において、前記第1減速処理と同様の減速感が得られるように、前記アイドルトルクに相当する大きさの負トルクと前記フリクショントルクとの合計値を前記回生トルクとして前記モータから継続して出力させる、ハイブリッド車両によって達成できる。
【0008】
前記減速制御部は、外気圧が低いほど前記回生トルクの前記フリクショントルク分を低下させてもよい。
【0009】
前記減速制御部は、前記エンジンの温度が高いほど前記回生トルクの前記フリクショントルク分を低下させてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、減速感のばらつきを抑制したハイブリッド車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、ハイブリッド車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、ECUが実行する減速制御の一例を示したフローチャートである。
【
図3】
図3は、第1~第3減速処理での減速トルクの説明図である。
【
図4】
図4A及び
図4Bは、エンジン回転数とフリクショントルクとの関係を規定したマップである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ハイブリッド車両の概略構成]
図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1には、エンジン10から駆動輪13までの動力伝達経路に、K0クラッチ14、モータ15、トランスミッション18が順に設けられている。エンジン10及びモータ15は、ハイブリッド車両1の走行用駆動源として搭載されている。エンジン10は、例えばV型6気筒ガソリンエンジンであるが気筒数はこれに限定されず、直列型のガソリンエンジンであってもよいし、ディーゼルエンジンであってもよい。K0クラッチ14、モータ15、及びトランスミッション18は、変速ユニット11内に設けられている。変速ユニット11と左右の駆動輪13とは、ディファレンシャル12を介して駆動連結されている。トランスミッション18は、トルクコンバータ19、及び変速機20を備えている。
【0013】
K0クラッチ14は、同動力伝達経路上のエンジン10とモータ15との間に設けられている。K0クラッチ14は、解放状態から油圧の供給を受けて係合状態となって、エンジン10とモータ15との動力伝達を接続する。K0クラッチ14は、油圧供給の停止に応じて解放状態となって、エンジン10とモータ15との動力伝達を遮断する。係合状態とは、K0クラッチ14の両係合要素が連結しエンジン10とモータ15が同じ回転数となっている状態である。解放状態とは、K0クラッチ14の両係合要素が離れた状態である。
【0014】
モータ15は、インバータ17を介してバッテリ16に接続されている。モータ15は、バッテリ16からの給電に応じて車両の駆動力を発生するモータとして機能し、更にエンジン10や駆動輪13からの動力伝達に応じてバッテリ16に充電する回生電力を発電する発電機としても機能する。モータ15とバッテリ16との間で授受される電力は、インバータ17により調整されている。
【0015】
インバータ17は、後述するECU100によって制御され、バッテリ16からの直流電圧を交流電圧に変換し、またはモータ15からの交流電圧を直流電圧に変換する。モータ15がトルクを出力する力行運転の場合、インバータ17はバッテリ16の直流電圧を交流電圧に変換してモータ15に供給される電力を調整する。モータ15が発電する回生運転の場合、インバータ17はモータ15からの交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ16に供給される回生電力を調整する。
【0016】
トルクコンバータ19は、トルク増幅機能を有した流体継ぎ手である。変速機20は、ギア段の切替えにより変速比を多段階に切替える有段式の自動変速機であるが、これに限定されず無段式の自動変速機であってもよい。変速機20は、動力伝達経路上のモータ15と駆動輪13の間に設けられている。トルクコンバータ19を介して、モータ15と変速機20とが連結されている。トルクコンバータ19には、油圧の供給を受けて係合状態となってモータ15と変速機20とを直結するロックアップクラッチ19aが設けられている。
【0017】
変速ユニット11には、更にオイルポンプ21と油圧制御機構22とが設けられている。オイルポンプ21で発生した油圧は、油圧制御機構22を介して、K0クラッチ14、トルクコンバータ19、変速機20、及びロックアップクラッチ19aにそれぞれ供給されている。油圧制御機構22には、K0クラッチ14、トルクコンバータ19、変速機20、及びロックアップクラッチ19aのそれぞれの油圧回路と、それらの作動油圧を制御するための各種の油圧制御弁とが設けられている。
【0018】
ハイブリッド車両1には、同車両の制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)100が設けられている。ECU100は、車両の走行制御に係る各種演算処理を行う演算処理回路と、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリと、を備える電子制御ユニットである。ECU100は、制御装置の一例であり、詳しくは後述する、充電判定部、減速制御部、及び停止判定部を機能的に実現する。
【0019】
ECU100は、エンジン10及びモータ15の駆動を制御する。具体的にはECU100は、エンジン10のスロットル開度、点火時期、燃料噴射量を制御することにより、エンジン10のトルクや回転数を制御する。ECU100は、インバータ17を制御してモータ15とバッテリ16との間での電力の授受量を調整することで、モータ15の力行トルク、回生トルク、回転数を制御する。またECU100は、油圧制御機構22の制御を通じて、K0クラッチ14やロックアップクラッチ19a、変速機20の駆動制御を行う。尚、ロックアップクラッチ19aは、車速が所定値以上の場合に係合し、車速が所定値未満の場合に解放する。
【0020】
ECU100には、イグニッションスイッチ71、クランク角センサ72、モータ回転数センサ73、アクセル開度センサ74、車速センサ75、SOCセンサ76、水温センサ77、及び外気圧センサ78からの信号が入力される。クランク角センサ72は、エンジン10のクランクシャフトの回転速度、即ちエンジン回転数を検出する。モータ回転数センサ73は、モータ15の出力軸の回転速度、即ちモータ回転数を検出する。アクセル開度センサ74は、運転者のアクセルペダルの踏込量であるアクセルペダル開度を検出する。車速センサ75はハイブリッド車両1の走行速度を検出する。SOCセンサ76は、バッテリ16の充電量を示すSOC(State Of Charge)を検出する。水温センサ77は、エンジン10の冷却水の温度を検出する。外気圧センサ78は、外気の圧力を検出する。
【0021】
ECU100は、モータモード及びハイブリッドモードの何れかの走行モードでハイブリッド車両を走行させる。モータモードでは、ECU100はK0クラッチ14を解放し、モータ15の動力により走行する。ハイブリッドモードでは、ECU100はK0クラッチ14を係合状態に切り替えて少なくともエンジン10の動力により走行する。尚、ハイブリッドモードには、モータ15を力行運転させてエンジン10及びモータ15の双方を動力源として走行するモード、モータを回生運転させてエンジン10の動力のみで走行するモード、及びモータの運転を停止してエンジン10の動力のみで走行するモードを含む。
【0022】
走行モードの切り替えは、車速やアクセル開度から求められた車両の要求駆動力やバッテリ16のSOCなどに基づいて行われる。例えば、要求駆動力が比較的小さくSOCが比較的高い場合には、燃費を向上させるためにエンジン10を停止したモータモードが選択される。要求駆動力が比較的大きい場合やSOCが比較的低い場合には、エンジン10が駆動したハイブリッドモードが選択される。
【0023】
ECU100は、ハイブリッドモードにおいて所定の停止条件が成立した場合にエンジン10を間欠停止させ、所定の自動再始動条件が成立した場合にエンジン10を再始動させる間欠運転制御を実行する。
【0024】
[減速制御]
図2は、ECU100が実行する減速制御の一例を示したフローチャートである。本制御は、イグニッションがオンの状態で所定の周期ごとに繰り返し実行される。ECU100は、アクセル開度センサ74の検出値に基づいてアクセル開度がゼロとなるアクセルオフが検出されたか否かを判定する(ステップS1)。ステップS1でNoの場合には本制御は終了する。
【0025】
ステップS1でYesの場合には、ECU100は車速センサ75により検出された車速が、所定値以上であるか否かを判定する(ステップS2)。ここで所定値とは、上述したようにロックアップクラッチ19aが係合する車速の最小値である。ステップS2でNoの場合には本制御は終了する。
【0026】
ステップS2でYesの場合には、ECU100はバッテリ16が充電可能か否かを判定する(ステップS3)。具体的には、SOCセンサ76により検出されるバッテリ16のSOCが上限値未満の場合にはバッテリ16は充電可能であると判定され、SOCが上限値以上の場合にはバッテリ16は充電不可能と判定される。上限値とは、これ以上バッテリ16に充電できない満充電の状態でのSOCである。ステップS3は、充電判定部が実行する処理の一例である。
【0027】
ステップS3でNoの場合には、ECU100は第1減速処理を実行する(ステップS4)。第1減速処理は、K0クラッチ14及びロックアップクラッチ19aが係合しモータ15が運転停止状態で、エンジン10において燃料カットを実行することによりエンジン10のフリクショントルクによりハイブリッド車両1を減速させる処理である。このようにエンジン10のフリクショントルクが駆動輪13に伝達されて減速することができる。またモータ15の回生トルクによらずに減速することができるため、バッテリ16の過充電を抑制しつつ減速することができる。尚、モータ15の運転停止状態とは、モータ15とバッテリ16との間での電力の授受が遮断され、モータ15の出力トルク及び回生トルクが共にゼロの状態である。ステップS4は、減速制御部が実行する処理の一例である。
【0028】
ステップS3でYesの場合には、ECU100はエンジン10が間欠停止可能か否かを判定する(ステップS5)。例えばECU100は、水温センサ77により検出された冷却水の温度がエンジン10の暖機完了を示す暖機完了温度以上の場合には、エンジン10は間欠停止可能と判定し、暖機完了温度未満の場合にはエンジン10は間欠停止不可能と判定する。冷却水の温度が暖機完了温度未満の場合にエンジン10を間欠停止すると、エンジン10を再始動する際にはエンジン10の温度はさらに低下しており、排気エミッションに影響を与えるおそれがあるからである。ステップS5は、停止判定部が実行する処理の一例である。
【0029】
ステップS5でYesの場合には、ECU100は第2減速処理を実行する(ステップS6)。第2減速処理は、エンジン10が間欠停止しK0クラッチ14が解放しロックアップクラッチ19aが係合した状態でモータ15の回生トルクによりハイブリッド車両1を減速させる処理である。このようにモータ15の回生トルクが駆動輪13に伝達されて減速することができる。またエンジン10が間欠停止されるため、燃費の悪化を抑制できる。ステップS6は、減速制御部が実行する処理の一例である。
【0030】
ステップS5でNoの場合には、ECU100は第3減速処理を実行する(ステップS7)。第3減速処理は、K0クラッチ14及びロックアップクラッチ19aが係合しエンジン10がアイドルトルクを出力した状態でモータ15の回生トルクによりハイブリッド車両1を減速させる処理である。エンジン10がアイドルトルクを出力した状態とは、エンジン10がアイドル運転状態に制御されている状態である。エンジン10が間欠停止できない場合にアイドル運転状態に制御して、モータ15の回生トルクが駆動輪13に伝達されて減速することができる。ステップS7は、減速制御部が実行する処理の一例である。以上のように、アクセルオフによる減速要求がある場合には、ECU100は第1~第3減速処理の何れかを選択して実行する。
【0031】
[第1~第3減速処理での減速トルク]
次に第1~第3減速処理での減速トルクについて説明する。
図3は、第1~第3減速処理での減速トルクの説明図である。
図3の縦軸はトルクを示している。正の値のトルクは、エンジン10やモータ15に対してその回転方向に作用する正トルクを示す。負の値のトルクは、エンジン10やモータ15に対してその回転方向とは逆方向に作用する負トルクを示す。
図3では、モータ15の出力軸の回転数、即ちモータ回転数が同一の場合での第1~第3減速処理での減速トルクを示している。
【0032】
第1減速処理では、エンジン10のフリクショントルクFと負荷トルクLとによりハイブリッド車両1が減速する。フリクショントルクFは上述したようにエンジン10で燃料カットの実行中でのエンジン10の回転の抵抗となる負トルクである。負荷トルクLは、補機の電力消費の負荷分のトルクとトランスミッション18の負荷分のトルクとの合計値である。負荷トルクLは、エンジン10及びモータ15の運転状態やK0クラッチ14及びロックアップクラッチ19aの係合状態に関わらずに駆動輪13に作用する負トルクである。
【0033】
第2減速処理では、フリクショントルクFに相当する回生トルクRがモータ15から出力される。第2減速処理での減速トルクは(R+L)と表すことができ、(R+L)=(F+L)が成立する。これにより第2減速処理においても、第1減速処理と同様の減速感を確保することができる。尚、ECU100は詳しくは後述するがフリクショントルクFを算出して、この算出されたフリクショントルクFを回生トルクRとしてモータ15から出力させる。
【0034】
第3減速処理では、アイドルトルクAがエンジン10から出力され、回生トルクRAがモータ15から出力される。回生トルクRAは、上述したフリクショントルクFと、アイドルトルクAに相当する大きさの負トルクaとの合計に相当する。第3減速処理では、減速トルクは(-A+RA+L)で表すことができ、(-A+RA+L)=(-A+F+a+L)=(F+L)が成立する。これにより第3減速処理においても、第1減速処理と同様の減速感を確保することができる。尚、ECU100は、アイドル運転状態でのエンジン10に要求するトルクを、回生トルクRAを算出する際のアイドルトルクAとして用いる。このように第1~第3減速処理で減速トルクは略同一の値となり、減速感のばらつきが抑制され、運転者に違和感を与えることを回避できる。
【0035】
[フリクショントルクの算出方法]
次にフリクショントルクの算出方法の説明図である。
図4A及び
図4Bは、エンジン回転数とフリクショントルクとの関係を規定したマップである。
図4Aには、外気圧が高い場合と低い場合とでの両者の関係を示している。
図4Bには、冷却水の温度が高い場合と低い場合とでの両者の関係を示している。
図4A及び
図4Bに示すように、エンジン回転数が高いほどフリクショントルクは増大する。
【0036】
図4Aに示すように、外気圧が低い方がフリクショントルクは低下する。外気圧が低いほど、燃料カット時で気筒内に導入される空気量が低下し、圧縮行程での気筒内の空気によるエンジン10の回転への反発力も低下して、フリクショントルクも低下するからである。また
図4Bに示すように、冷却水の温度が高いほどフリクショントルクは低下する。冷却水温度が高いほど、エンジン10の潤滑油の温度が高く粘度が低いことを示し、これに応じてエンジン10の駆動部の摩擦力も低下するからである。
【0037】
図4A及び
図4Bのマップは予め実験により取得され、ECU100のメモリに記憶されている。ECU100はこれらのマップを参照して水温センサ77及び外気圧センサ78により検出された冷却水の温度及び外気圧に基づいて、モータ回転数に対応したエンジン回転数でのフリクショントルクを算出する。尚、フリクショントルクの算出はこのようなマップを参照することに限定されず、外気圧や冷却水の温度を引数とした演算式により算出してもよい。また、エンジン10の温度として冷却水の温度を用いたがこれに限定されず、エンジン10の潤滑油の温度を用いてもよい。
【0038】
このようにフリクショントルクを精度よく算出することにより、減速感のばらつきをより抑制することができる。但し、算出されたフリクショントルクが実際のフリクショントルクに対して完全に一致している必要はない。例えば算出されたフリクショントルクが実際のフリクショントルクの±25%の範囲内に含まれていれば、減速感のばらつきによる運転者への違和感を抑制できる。尚、好ましくは算出されたフリクショントルクが実際のフリクショントルクの±20%の範囲内に含まれていれば、減速感のばらつきをより抑制できる。
【0039】
上記実施例ではハイブリッド車両1はロックアップクラッチ19aを有したトルクコンバータ19を有していたが、このようなトルクコンバータが設けられていなくてもよい。この場合にはステップS2の処理は不要である。
【0040】
上記実施例ではステップS5でNoの場合には第3減速処理を実行したが、例えばステップS5の判定を実行せずに第3減速処理を実行することなく、第2減速処理を実行してもよい。即ち、エンジン10の運転を継続したままK0クラッチ14を解放してモータ15の回生トルクにより減速してもよい。この場合においても第1及び第2減速処理での減速トルクのばらつきを抑制できる。
【0041】
上記実施例では、単一のECU100によりハイブリッド車両を制御する場合を例示したが、これに限定されず、例えばエンジン10を制御するエンジンECU、モータ15を制御するモータECU、K0クラッチ14を制御するクラッチECU、トランスミッション18を制御するT/MECU等の複数のECUによって、上述した制御を実行してもよい。
【0042】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 エンジン
14 K0クラッチ
15 モータ
16 バッテリ
100 ECU(充電判定部、減速制御部、停止判定部)