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特許7582219運転支援装置、方法、プログラム、及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】運転支援装置、方法、プログラム、及び車両
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20241106BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20241106BHJP
   G01C 21/36 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G08G1/16 C
G08G1/00 D
G01C21/36
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022009783
(22)【出願日】2022-01-26
(65)【公開番号】P2023108641
(43)【公開日】2023-08-07
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グエン ヴァン クイ フン
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祥司
(72)【発明者】
【氏名】服部 彰
【審査官】宮本 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-099465(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168467(WO,A1)
【文献】特開2015-153200(JP,A)
【文献】国際公開第2013/183117(WO,A1)
【文献】特開平08-132931(JP,A)
【文献】国際公開第2021/016035(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転支援装置であって、
前記車両の周辺に存在する物標に対する前記車両のドライバーのリスク回避に関するリスク感度指標を演算する演算部と、
前記演算部で演算される前記リスク感度指標の変化を診断する診断部と、
前記診断部で診断された前記リスク感度指標の変化に関する情報を前記ドライバーに通知する通知部と、を備え、
前記通知部は、
前記診断部によって前記リスク感度指標が減少したと診断された場合、前記リスク感度指標の変化に関する情報として、前記ドライバーが将来に遭遇する可能性が高い事故シーンである第1画像を前記車両のディスプレイに表示することによって、安全運転に対するドライバーの意識が低下していることを通知し、
前記診断部によって前記リスク感度指標が増加したと診断された場合、前記リスク感度指標の変化に関する情報として、前記ドライバーが将来に遭遇する可能性が高い事故シーンであって前記第1画像よりも数を少なくした第2画像を前記車両のディスプレイに表示することによって、安全運転に対するドライバーの意識が向上していることを通知する、運転支援装置。
【請求項2】
前記リスク感度指標は、前記車両の前記物標に対する車両前後方向の接近感及び前記車両の前記物標に対する車両横方向の接近感の少なくとも1つに基づく値である、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記演算部は、
前記車両の速度、前記車両と前記物標との相対速度、前記車両と前記物標との前後方向の距離、前記速度に関する前記ドライバーの感覚、及び前記前後方向の距離に関する前記ドライバーの感覚に基づいて、前記車両前後方向の接近感を演算し、
前記車両の速度、前記車両と前記物標との相対速度、前記車両と前記物標との横方向の距離、前記速度に関する前記ドライバーの感覚、及び前記横方向の距離に関する前記ドライバーの感覚に基づいて、前記車両横方向の接近感を演算する、請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記ドライバーの感覚に、前記車両の実際の走行において学習される値が用いられる、請求項3に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記リスク感度指標の変化に関する情報に基づいて運転支援を実行する実行部をさらに備え、
前記実行部は、前記診断部によって前記リスク感度指標が減少したと診断された場合、前記リスク感度指標が減少したと診断される前よりも前記車両が安全となる方向に運転支援を変更する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の運転支援装置。
【請求項6】
前記リスク感度指標の変化に関する情報に基づいて運転支援を実行する実行部をさらに備え、
前記実行部は、前記診断部によって前記リスク感度指標が増加したと診断された場合、前記リスク感度指標が増加したと診断されたときの運転支援を維持する、又は前記リスク感度指標が増加したと診断されたときよりも前記車両が安全となる方向の運転支援を提案する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の運転支援装置。
【請求項7】
前記実行部は、前記診断部によって前記リスク感度指標が増加したと診断された場合、前記リスク感度指標が増加したと診断されたときの運転支援を維持する、又は前記リスク感度指標が増加したと診断されたときよりも前記車両が安全となる方向の運転支援を提案する、請求項5に記載の運転支援装置。
【請求項8】
車両の運転支援装置のコンピューターが実行する方法であって、
前記車両の周辺に存在する物標に対する前記車両のドライバーのリスク回避に関するリスク感度指標を演算するステップと、
前記リスク感度指標の変化を診断するステップと、
前記リスク感度指標が減少したと診断された場合、前記ドライバーが将来に遭遇する可能性が高い事故シーンである第1画像を前記車両のディスプレイに表示することによって、安全運転に対するドライバーの意識が低下していることを前記ドライバーに通知するステップと、
前記リスク感度指標が増加したと診断された場合、前記ドライバーが将来に遭遇する可能性が高い事故シーンであって前記第1画像よりも数を少なくした第2画像を前記車両のディスプレイに表示することによって、安全運転に対するドライバーの意識が向上していることを前記ドライバーに通知するステップと、を含む、方法。
【請求項9】
車両の運転支援装置のコンピューターに実行させるプログラムであって、
前記車両の周辺に存在する物標に対する前記車両のドライバーのリスク回避に関するリスク感度指標を演算するステップと、
前記リスク感度指標の変化を診断するステップと、
前記リスク感度指標が減少したと診断された場合、前記ドライバーが将来に遭遇する可能性が高い事故シーンである第1画像を前記車両のディスプレイに表示することによって、安全運転に対するドライバーの意識が低下していることを前記ドライバーに通知するステップと、
前記リスク感度指標が増加したと診断された場合、前記ドライバーが将来に遭遇する可能性が高い事故シーンであって前記第1画像よりも数を少なくした第2画像を前記車両のディスプレイに表示することによって、安全運転に対するドライバーの意識が向上していることを前記ドライバーに通知するステップと、を含む、プログラム。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の運転支援装置を搭載した、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載され、車両と物標との衝突を回避するための運転支援を行う運転支援装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、車両のドライバーによる運転操作の傾向に基づいた側方距離と余裕間隔とに応じて、車両の前方に存在する物標と車両との衝突を回避するための支援を行うタイミングを決定する運転支援装置が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-130069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転支援技術が高度に発展して日常的な運転においてドライバーに違和感を与えることなく支援制御されるようになってくると、車両が安全に走行できている主な要因がドライバーの運転操作に基づくものなのか、運転支援機能の作動に基づくものなのかが、区別がつき難くなるおそれがある。
【0005】
しかしながら、車両が安全に走行できている主な要因がどちらであっても、ドライバーの安全運転の意識向上に役立てるという観点においては、ドライバー自身の運転操作の傾向である運転特性(安全運転がされている状況や運転傾向の変化など)をいつでもドライバーが把握できることが望ましい。
【0006】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、車両を運転するドライバーが自身の運転操作の傾向である運転特性を把握することができる運転支援装置などを、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、車両の運転支援装置であって、車両の周辺に存在する物標に対する車両のドライバーのリスク回避に関するリスク感度指標を演算する演算部と、演算部で演算されるリスク感度指標の変化を診断する診断部と、診断部で診断されたリスク感度指標の変化に関する情報をドライバーに通知する通知部と、を備える、運転支援装置である。
【発明の効果】
【0008】
上記本開示の運転支援装置などによれば、リスク感度指標の変化に関する情報を通して、車両を運転するドライバーが自身の運転操作の傾向である運転特性を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る運転支援装置を含む車両用システムの概略構成図
図2】運転支援装置が実行するデータ収集学習処理のフローチャート
図3A】自車両と先行車両とにおける距離及び速度の関係の一例を示した図
図3B】車両と歩行者とにおける距離及び速度の関係の一例を示した図
図4】リスク感度指標と安全傾向との相間イメージ図
図5】運転支援装置が実行する運転支援処理のフローチャート
図6】リスク感度指標に基づいた運転支援内容の一例
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の運転支援装置は、車両走行中において車両と物標に関する走行データを収集し、この収集したデータを用いて車両を運転するドライバー個人の運転感覚を学習する。そして、収集した走行データと学習したドライバー個人の運転感覚とに基づいて演算されるドライバーのリスク回避に関する運転特性の変化をドライバーにフィードバックする。これにより、車両のドライバーは安全運転に関する自身の運転操作の傾向を把握することができる。
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
<実施形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る運転支援装置20を含む車両用システム1の概略構成を示す図である。図1に例示した車両用システム1は、外界センサ11と、速度センサ12と、加速度センサ13と、舵角センサ14と、運転支援装置20と、HMI制御部31と、動力源制御部32と、ステアリング制御部33と、ブレーキ制御部34と、を備えている。この車両用システム1は、ハイブリッド自動車や電気自動車などの車両に搭載され得る。
【0012】
外界センサ11は、車両の外界に関する情報を検出/取得するためのセンサである。具体的には、外界センサ11は、車両前部や車両後部などに設置され、主に車両周辺の前方に存在する先行車両や二輪車などの物標を検出し、検出した物標の情報(種類、速度、距離など)を取得する。この外界センサ11には、例えば、レーザー、ミリ波、マイクロ波、又は超音波を利用したレーダーセンサや、CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を利用したカメラセンサなど、を用いることができる。外界センサ11で検出/取得された車両の外界に関する情報(物標の情報など)は、運転支援装置20に出力される。
【0013】
速度センサ12は、車両の速度を検出/取得するためのセンサである。この速度センサ12には、例えば、車両の各車輪に設置された車輪の回転速度(又は回転量)を検出するための車輪速センサを用いることができる。速度センサ12で検出/取得された車両の速度は、車両に関する情報として運転支援装置20に出力される。
【0014】
加速度センサ13は、車両に加わる加速度Gの大きさを検出/取得するためのセンサである。この加速度センサ13には、車両の所定の場所に設置され、例えば車両の前後方向、車幅方向、及び上下方向の加速度を検出する3軸加速度計を利用することができる。加速度センサ13で検出/取得された加速度の情報は、車両に関する情報として運転支援装置20に出力される。
【0015】
舵角センサ14は、車両のドライバーの操舵操作に応じたステアリングの操舵角を検出/取得するためのセンサである。この舵角センサ14は、例えば、車両のステアリング制御部33に設置されている。舵角センサ14で検出/取得されたステアリングの操舵角の情報は、車両に関する情報として運転支援装置20に出力される。
【0016】
HMI(Human Machine Interface)制御部31は、運転支援装置20から出力される指示に従って、車両を運転するドライバーに対する運転支援の作動状態やドライバーによる運転操作の傾向である運転特性などの情報提示を制御することが可能な手段である。情報提示には、例えば、ヘッドアップディスプレイ(HUD)、ナビゲーションシステムのモニター、メーターパネル、及びスピーカーなどの各種のデバイス(図示せず)が用いられる。
【0017】
動力源制御部32は、運転支援装置20から出力される指示に従って、例えば内燃エンジンや走行モーターなどの車両の動力源となるアクチュエーター(図示せず)を制御して、これらの動力源でそれぞれ発生させる駆動力や制動力を制御することが可能な手段である。
【0018】
ステアリング制御部33は、運転支援装置20から出力される指示に従って、例えば電動パワーステアリング機構(図示せず)によって車両のステアリング操舵を補助する力を制御することが可能な手段である。
【0019】
ブレーキ制御部34は、運転支援装置20から出力される指示に従って、例えば電動ブレーキ機構(図示せず)によって車両のブレーキ装置を介して車輪に発生させる制動力を制御することが可能な手段である。
【0020】
運転支援装置20は、外界センサ11、速度センサ12、加速度センサ13、及び舵角センサ14などから得られる車両に関する情報や車両の外界に関する情報(物標の情報など)などに基づいて、HMI制御部31、動力源制御部32、ステアリング制御部33、及びブレーキ制御部34に対して制御指示を行い、車両を運転するドライバーに対して好適な運転支援を実施する。また、運転支援装置20は、車両を運転するドライバーの運転特性を、通知によってドライバーにフィードバック(F/B)することを行う。
【0021】
この運転支援装置20は、典型的にはプロセッサ、メモリ、及び入出力インターフェイスなどを含んだ電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)の一部又は全部として構成され得る。本実施形態の運転支援装置20は、メモリに格納されたプログラムをプロセッサが読み出して実行することによって、以下に説明する収集部21、演算部22、決定部23、実行部24、診断部25、及び通知部26の各機能を実現する。
【0022】
収集部21は、外界センサ11、速度センサ12、加速度センサ13、及び舵角センサ14などから、運転支援に必要な車両に関する情報及び車両の外界に関する情報(物標の情報など)を含んだ車両走行データを収集する。演算部22は、車両を運転するドライバーが行う運転操作の内容(運転傾向、運転感覚)を学習し、この学習の結果を反映させたドライバーのリスク回避に関するリスク感度指標(RSI:Risk Sensitivity Index)を演算する。決定部23は、演算部22によって演算されたリスク感度指標RSIに基づいて、車両を運転するドライバーに適切な運転支援の内容(運転支援方法)を決定する。決定した運転支援の内容は、ドライバーの感覚に適した内容となる。実行部24は、決定部23によって決定された運転支援の内容に従って、車両を運転するドライバーの運転操作を支援する。診断部25は、演算部22によって演算されたリスク感度指標RSIの変化を診断する。通知部26は、診断部25で診断されたリスク感度指標RSIの変化に関する情報をドライバーに通知する。上述した車両走行データ、リスク感度指標RSI、運転支援内容の決定方法、リスク感度指標RSIの変化の診断方法、及びリスク感度指標RSIの変化に関する情報の通知方法の詳細については、後述する。
【0023】
[制御]
次に、図2乃至図6をさらに参照して、本実施形態に係る運転支援装置20が実行する処理を説明する。運転支援装置20が実行する処理として、データ収集学習処理と運転支援処理とがある。
【0024】
(1)データ収集学習処理
図2は、運転支援装置20の収集部21及び演算部22が実行するデータ収集学習処理の手順を説明するフローチャートである。この図2に例示するデータ収集学習処理は、例えば、車両のイグニッションがオン(IG-ON)されてトリップが開始されることによって実行される。
【0025】
(ステップS201)
運転支援装置20の収集部21は、一例として、車両が先行車両などの物標に接近してドライバーが減速する行為を開始した時(物標接近時)における車両走行データや、車両が歩行者や自転車などの物標を追い越す行為を実行中(物標追い越し時)における車両走行データなどを収集する。この減速する行為とは、車両を運転するドライバーが先行車両との車間距離を短くすることを止める行為であり、ブレーキペダルを踏む行為や、アクセルペダルから足を離す行為や、ギア段を下げてエンジンブレーキを効かす行為などが含まれる。また、追い越す行為には、車両が、第1の距離まで物標に近づいてから、物標との間隔を第2の距離以上空けて物標を追い越した後、物標から第3の距離を離れるまでの行為を含むことができる。収集する車両走行データには、車両の速度Vs、車両から見た物標(先行車両、歩行者、自転車など)の相対速度Vr、車両から見た物標の相対加減速度Ar、車両と物標との前後方向の距離D、及び車両と物標との横方向の距離Dが、少なくとも含まれる。
【0026】
図3Aは、道路を走行する自車両と、自車両と同じ方向に移動する先行車両(物標)との間における、距離及び速度の関係の一例を示した図である。車両走行データは、一例として、車両が減速を開始した瞬間値のデータであってもよいし、車両が減速を開始してから所定期間の平均値としてもよい。
【0027】
図3Bは、車道を走行する車両と路側帯を車両と同じ方向に移動する歩行者(物標)との間における、距離及び速度の関係の一例を示した図である。走行データを収集するタイミングや回数は、一例として、車両と物標とが第1の距離(前後方向の距離D又は相対距離D)に近づいてから、車両が物標を追い越した後、車両が物標から第3の距離(前後方向の距離D又は相対距離D)を離れるまでの期間において、所定の間隔(一定の時間間隔や一定の距離間隔など)で複数回とすることができる。
【0028】
収集部21によって物標接近時の車両走行データや物標追い越し時の車両走行データなどが収集されると、ステップS202に処理が進む。
【0029】
(ステップS202)
運転支援装置20の演算部22は、収集部21が収集した物標接近時や物標追い越し時の車両走行データを用いて、車両を運転するドライバーが行う運転操作の内容(運転傾向、運転感覚)を学習する。本実施形態の演算部22は、ドライバーの前後方向の動きに関する速度感覚h(又はα)、ドライバーの横方向の動きに関する速度感覚k、ドライバーの加減速度感覚β、前後方向距離の予測に対するドライバー感覚m、及び横方向距離の予測に対するドライバー感覚nを、それぞれ学習する。このドライバーの速度感覚h(又はα)は、車両の前後方向の速度に対してドライバーが抱く感覚と現実とのずれを表現したパラメータといえる。ドライバーの速度感覚kは、車両の横方向の速度に対してドライバーが抱く感覚と現実とのずれを表現したパラメータといえる。ドライバーの加減速度感覚βは、車両及び物標の相対加減速度に関してドライバーが抱く感覚と現実とのずれを表現したパラメータといえる。前後方向距離の予測に対するドライバー感覚mは、車両と物標との前後方向の距離に関してドライバーの推定と現実とのずれを表現したパラメータといえる。横方向距離の予測に対するドライバー感覚nは、車両と物標との横方向の距離に関してドライバーの推定と現実とのずれを表現したパラメータといえる。
【0030】
このドライバーの速度感覚h(又はα)、β、k、m、及びnの各パラメータは、車間距離と衝突余裕時間(TTC:Time To Collision)との相間関係や、車間距離と相対速度との相間関係や、車間距離及び速度とブレーキ開始のタイミングとの相間関係や、車両が物標に接近して側方を通過する際に車両が衝突するリスクがある対象となる物標との接触を避けるためにドライバーが取り得る運転操作の特性を数値化したリスク回避感度指標(iPRE)などに基づいて、車両を運転するドライバーの個人のパラメータとしてそれぞれ求められる。これらの相間関係は、例えば、テストドライバーなどの実験走行によって測定されたり、シミュレーションを行って推定されたり、することによって得ることができる。
【0031】
演算部22は、上記ステップS201において収集された物標接近時や物標追い越し時の車両走行データを用いて求めた新たなドライバーの速度感覚h(又はα)、β、k、m、及びnの各値を、学習した値として更新する。演算部22によってドライバーの運転操作内容であるドライバーの速度感覚h(又はα)、β、k、m、及びnの各値が学習されると、ステップS203に処理が進む。
【0032】
(ステップS203)
運転支援装置20の演算部22は、上記ステップS201において収集された物標接近時の車両走行データと、例えば上記ステップS202において学習して更新されたドライバーの速度感覚αの値、ドライバーの加減速度感覚βの値、及び前後方向距離の予測に対するドライバー感覚mの値とを用いて、下記の第1式に従って前後方向の接近感に基づいたリスク感度指標RSIを演算する。
【数1】
… [第1式]
【0033】
あるいは、運転支援装置20の演算部22は、上記ステップS201において収集された物標追い越し時の車両走行データと、上記ステップS202において学習して更新されたドライバーの速度感覚h及びkの値、前後方向距離の予測に対するドライバー感覚mの値、及び横方向距離の予測に対するドライバー感覚nの値とを用いて、個々のドライバーに予め設定される前後方向のリスク感度に対する重み付けパラメータθ及び横方向のリスク感度に対する重み付けパラメータθを考慮し、下記の第2式に従って前後方向及び横方向の接近感に基づいたリスク感度指標RSIを演算する。
【数2】
… [第2式]
【0034】
このリスク感度指標RSIは、車両のイグニッションオン(IG-ON)からイグニッションオフ(IG-OFF)までの1トリップ内において、随時演算される。そして、1トリップにおいて演算された複数のリスク感度指標RSIの統計値に基づいて、ドライバー個人の安全に関する運転操作の傾向(安全傾向)が学習される。図4に、1トリップ内において演算されたリスク感度指標RSIと安全傾向との相間イメージを示す。本実施形態におけるリスク感度指標RSIは、その数値が大きいほどドライバーの安全傾向が高くなっている。演算部22によってリスク感度指標RSIが演算及び学習されると、ステップS204に処理が進む。
【0035】
(ステップS204)
運転支援装置20の演算部22は、上記ステップS203において新たに演算及び学習したリスク感度指標RSIを、車両を運転するドライバーの情報と紐付けて、運転支援装置20が有する所定のメモリなどに記憶する。なお、車両を運転するドライバーが誰であるかについては、例えば、ドライバーが所持している電子キーの固有IDによる判定や、調整されたドライビング(シート)ポジションによる判定や、ドライバーカメラによる画像解析による判定など、周知の判定手法を用いることで個人を特定することが可能である。演算部22によってリスク感度指標RSIが個人の特定が可能であるドライバー情報と紐付けて記憶されると、本データ収集学習処理が終了する。
【0036】
(2)運転支援処理
図5は、運転支援装置20の決定部23、実行部24、診断部25、及び通知部26が実行する運転支援処理の手順を説明するフローチャートである。この図5に例示する運転支援処理は、例えば、車両のイグニッションがオン(IG-ON)されてトリップが開始されることによって実行される。
【0037】
(ステップS501)
運転支援装置20の診断部25は、所定のメモリなどから、車両を運転するドライバーの情報と紐付けて記憶されているリスク感度指標RSIを取得し、取得したこれまでに記憶されている複数のリスク感度指標RSIに基づいて、ドライバーのリスク感度指標RSIの変化を診断する。車両を運転するドライバー個人の特定については、上述した通りである。
【0038】
リスク感度指標RSIの変化としては、日単位、週単位、及び月単位などの変化を例示できる。例えば、日単位の変化は、一昨日のトリップにおいて演算及び学習されたリスク感度指標RSI(平均値、最大値、最小値など)に対する昨日のトリップにおいて演算及び学習されたリスク感度指標RSIの変化とすることができる。また、診断する変化は、ドライバー自身の過去のリスク感度指標RSIに基づく相対的な変化である以外にも、他のドライバー(全国平均など)のリスク感度指標RSIに対する絶対的な変化であってもよい。なお、変化の診断は、リスク感度指標RSIだけで総合的に行う方法以外にも、例えば、リスク感度指標RSIの演算に用いられる各パラメータに基づいて、車両前後方向(車間距離)感覚の変化、車両横方向感覚の変化、及び速度感覚の変化などを、それぞれ個別に診断することができる。また、各パラメータに基づいて、速度調整能力や反応能力などを診断してもよい。車両を運転するドライバーに紐付けられたリスク感度指標RSIの変化が診断されると、ステップS502に処理が進む。
【0039】
(ステップS502)
運転支援装置20の診断部25は、上記ステップS501において診断したリスク感度指標RSIの変化を判定する。具体的には、診断部25は、リスク感度指標RSIが減少方向に変化しているのか否かを判定する。リスク感度指標RSIが減少方向に変化している場合は(ステップS502、減少)、安全運転に対するドライバーの意識が低下していると見なして、ステップS503に処理が進む。一方、リスク感度指標RSIが減少方向に変化していない場合は(ステップS502、増加)、安全運転に対するドライバーの意識が向上していると見なして、ステップS505に処理が進む。
【0040】
(ステップS503)
運転支援装置20の通知部26は、車両を運転するドライバーに対して、安全運転に対するドライバーの意識が低下していることを通知する(オフラインF/Bによる支援)。この安全意識が低下している場合における通知の一例としては、ドライバーがこれまでに運転した様々なシーンにおいて特に数値が低いリスク感度指標RSIを、所定のディスプレイなどを介して提示する方法がある。リスク感度指標RSIは、そのシーンにおけるドライブレコーダーなどの撮影画像と共に提示してもよい。また、通知の他の一例としては、数値が低いリスク感度指標RSIから予測されるドライバーが将来に遭遇する可能性が高い事故シーンを、所定のディスプレイなどを介して提示する方法がある。この事故シーンには、予め用意された画像、テキスト、及び図形などを用いることができる。また、通知の他の一例としては、これまでのリスク感度指標RSIから判断されるドライバーの運転特性の変化を、所定のディスプレイなどを介して提示する方法がある。この運転特性の変化は、車両の前後方向及び横方向に対応するベクトル表示などを用いて、運転傾向やリスク認知性能がこれまでよりも低下したことを示してもよい。通知部26によって安全運転に対するドライバーの意識が低下していることが通知されると、ステップS504に処理が進む。
【0041】
(ステップS504)
運転支援装置20の決定部23及び実行部24は、車両を運転するドライバーに対して、安全運転に対するドライバーの意識が低下している場合における運転支援を実施する(オンラインF/Bによる支援)。この安全意識が低下している場合における運転支援の一例としては、所定のアプリケーションやデバイスを介して「今日は車間距離がちょっと短くない?」や「周りのドライバーよりも車間距離がちょっと短いかも?」といった情報を提供する方法がある。また、決定部23及び実行部24は、安全運転に対する意識が低下しているドライバーに対する制御/HMIによる運転支援を実施する。この安全意識が低下しているドライバーに対する制御/HMIによる運転支援の内容を、図6の左欄に例示する。
【0042】
本実施形態では、安全運転に対するドライバーの意識が低下している場合、車両を安全側に導くための制御を行う支援がいつもよりも安全を確保して実施される。より具体的には、例えば、標準(デフォルト)の設定に比べて、いつもよい早いタイミングから制御支援を開始したり、いつもより長い車間距離で追従制御を実施したりする。
【0043】
また、安全運転に対するドライバーの意識が低下している場合、安全運転を誘導するためのHMIによる支援がいつもよりも誘導を強調して実施される。この場合の典型的なHMIによる支援としては、例えば、HMI制御部31を用いてメーターパネルやヘッドアップディスプレイ(HUD)などを介した表示通知をONに制御し、スピーカーなどを介した音声通知をONに制御し、ステアリング制御部33を用いてステアリングを振動させることによるハプティク通知を強く制御し、及び作動タイミングを早く制御することなどによって、実現される。
【0044】
安全運転に対するドライバーの意識が低下している場合におけるドライバーに対する運転支援が実施されると、本運転支援処理が終了する。
【0045】
(ステップS505)
運転支援装置20の通知部26は、車両を運転するドライバーに対して、安全運転に対するドライバーの意識が向上していることを通知する(オフラインF/Bによる支援)。この安全意識が向上している場合における通知の一例としては、ドライバーがこれまでに運転した様々なシーンにおいて特に数値が高いリスク感度指標RSIを、所定のディスプレイなどを介して提示する方法がある。リスク感度指標RSIは、そのシーンにおけるドライブレコーダーなどの撮影画像と共に提示してもよい。また、通知の他の一例としては、数値が低いリスク感度指標RSIから予測されるドライバーが将来に遭遇する可能性が高い事故シーンを、所定のディスプレイなどを介して提示する方法がある。この事故シーンには、予め用意された画像、テキスト、及び図形などを用いることができる。安全意識が向上している場合には、安全意識が低下している場合と比べてドライバーに提示される事故シーンの数が少なくなることが望ましい。また、通知の他の一例としては、これまでのリスク感度指標RSIから判断されるドライバーの運転特性の変化を、所定のディスプレイなどを介して提示する方法がある。この運転特性の変化は、車両の前後方向及び横方向に対応するベクトル表示などを用いて、運転傾向やリスク認知性能がこれまでよりも向上したことを示してもよい。通知部26によって安全運転に対するドライバーの意識が向上していることが通知されると、ステップS506に処理が進む。
【0046】
(ステップS506)
運転支援装置20の決定部23及び実行部24は、車両を運転するドライバーに対して、安全運転に対するドライバーの意識が向上している場合における運転支援を実施する(オンラインF/Bによる支援)。この安全意識が向上している場合における運転支援の一例としては、所定のアプリケーションやデバイスを介して「安全車間距離だね!」や「安全速度でいいね!」や「早め減速でいいね!」といった情報を提供する方法がある。また、決定部23及び実行部24は、安全運転に対する意識が向上しているドライバーに対する制御/HMIによる運転支援を実施する。この安全意識が向上しているドライバーに対する制御/HMIによる運転支援の内容を、図6の右欄に例示する。
【0047】
本実施形態では、安全運転に対するドライバーの意識が向上している場合、車両を安全側に導くための制御を行う支援をいまの安全レベルが維持されて実施されるか、又は今よりも安全レベルを上昇させた制御支援が実施される。より具体的には、例えば、車両をいつもより安全側に導くための支援量と支援タイミングは、車両を運転するドライバーに提案できるようにすることが可能である。
【0048】
また、安全運転に対するドライバーの意識が向上している場合には、安全運転を誘導するためのHMIによる支援の利用を、車両を運転するドライバーに提案できるようにすることが可能である。
【0049】
また、上述したHMIによる支援以外にも、この安全運転に対するドライバーの意識が向上している場合には、安全に関する様々な支援を車両のドライバーに対して積極的に提案するように制御してもよい。
【0050】
安全運転に対するドライバーの意識が向上している場合におけるドライバーに対する運転支援が実施されると、本運転支援処理が終了する。
【0051】
上述したデータ収集学習処理(ステップS201~S204)及び運転支援処理(ステップS501~S506)によって、車両を運転するドライバーに安全運転に対する意識を気づかせることができ、またドライバーの運転特性に応じた好適かつ安全を優先させた内容による運転支援の実施を実現することができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、リスク感度指標RSIの変化に基づいて、安全運転に対するドライバーの意識が低下している場合と安全運転に対するドライバーの意識が向上している場合との2通りに区分した例を説明した。しかしながら、この区分例以外にも、例えばドライバー感覚の学習などによって得られるドライバーの運転タイプの違いなどに基づいて、安全運転に対するドライバー意識を3通り以上に複数区分してもよい。
【0053】
<作用・効果>
以上のように、本開示の一実施形態に係る運転支援装置によれば、車両のトリップ中において車両と物標との前後方向及び横方向の距離、車両の速度、及び車両から見た物標の相対速度、車両から見た物標の相対加減速度を収集する。そして、この収集したデータを用いて、ドライバーの速度感覚、ドライバーの加減速度感覚、及び前後方向距離及び横方向距離の予測に対するドライバー感覚といった各パラメータを、学習する。そして、収集した車両走行データと学習で得られた各パラメータとに基づいて、車両を運転するドライバーのリスク回避に関するリスク感度指標を演算し、このリスク感度指標の変化をドライバーに通知する。
【0054】
この通知によって、車両を運転するドライバーは安全運転に対する意識が向上したのか低下したのかを容易に知ることができ、自身の運転操作の傾向である運転特性を把握することができる。
【0055】
以上、本開示の一実施形態を説明したが、本開示は、運転支援装置、プロセッサとメモリとを備えた運転支援装置が実行する方法、この方法を実行するための制御プログラム、制御プログラムを記憶したコンピューター読み取り可能な非一時的記憶媒体、及び運転支援装置を搭載した車両として捉えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本開示の運転支援装置などは、車両などに利用可能であり、車両を運転するドライバーの運転特性に応じた好適な運転支援を提供したい場合などに有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 車両用システム
11 外界センサ
12 速度センサ
13 加速度センサ
14 舵角センサ
20 運転支援装置
21 収集部
22 演算部
23 決定部
24 実行部
25 診断部
26 通知部
31 HMI制御部
32 動力源制御部
33 ステアリング制御部
34 ブレーキ制御部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6