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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】燃料タンクの圧力制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 37/08 20060101AFI20241106BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20241106BHJP
   F02M 25/08 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
F02M37/08 A
F02M37/00 301H
F02M25/08 H
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022021559
(22)【出願日】2022-02-15
(65)【公開番号】P2023118552
(43)【公開日】2023-08-25
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】須田 享
(72)【発明者】
【氏名】岩井 顕
(72)【発明者】
【氏名】上野 一夫
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-048730(JP,A)
【文献】国際公開第2012/098648(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0185115(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/08
F02M 37/00
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を貯留する燃料タンク内から吸入した前記燃料中のベーパを掃気するフィードポンプにより前記ベーパを掃気する速度であるポンプ掃気速度を推定するポンプ掃気速度推定部と、
前記燃料タンク内で前記ベーパが発生する速度であるベーパ発生速度を推定するベーパ発生速度推定部と、
前記ベーパ発生速度が前記ポンプ掃気速度よりも大きくなることを予測した場合、前記ベーパ発生速度が前記ポンプ掃気速度以下となるように、前記ベーパ発生速度と前記ポンプ掃気速度の少なくとも一方を制御する制御部と、
を有する燃料タンクの圧力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンクの圧力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に設けられた燃料タンクで発生するベーパ(蒸発燃料)が大気に放出されることを防ぐために、燃料タンクの内圧を制御する燃料タンクの圧力制御装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、内部に燃料ポンプが設けられた燃料タンクと、該燃料タンク内で発生する燃料のベーパをキャニスタに導出すべく、該燃料タンクとキャニスタとの間に設けられたベーパ導管と、該ベーパ導管の途中に設けられ、該ベーパ導管の流路を開閉制御する制御弁と、該制御弁と燃料タンクとの間に位置して前記ベーパ導管の途中に設けられ、前記燃料タンク内で発生したベーパを一時的に収容するサージタンクと、該サージタンク内の圧力を検出する圧力センサと、前記燃料タンク内の燃温を検出する温度センサと、高地走行時の高度を検出する高度センサと、常時は前記制御弁を開弁させ、該高度センサ、温度センサによる検出値が所定値以上で、前記圧力センサによる検出値が所定値以下のときに前記制御弁を閉弁させる弁開閉手段とから構成してなる燃料タンクの内圧制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-99755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、高地走行時、サージタンクの内圧が所定値より低くなる場合、サージタンクとキャニスタとの間の制御弁を閉弁して燃料タンクの内圧を上げる。このことによって、気圧の低下に伴い燃料タンク内の燃料の沸点が低下して多量のベーパが発生することを防止するようにしている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、燃料タンクの内圧が一つの所定値より低いときに制御弁を閉弁する場合、高度や燃温にかかわらずベーパを抑制できるようにするために、所定値を十分に高い値に設定する必要がある。そのため、実際のベーパの発生量に対して必要以上に燃料タンクの内圧を上げてしまう場合がある。その結果、燃料タンクの信頼性を損ねる虞があるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、ベーパの発生を抑制しつつ燃料タンクの信頼性を確保することが可能な燃料タンクの圧力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態にかかる燃料タンクの圧力制御装置は、燃料を貯留する燃料タンク内から吸入した燃料中のベーパを掃気するフィードポンプによりベーパを掃気する速度であるポンプ掃気速度を推定するポンプ掃気速度推定部と、燃料タンク内でベーパが発生する速度であるベーパ発生速度を推定するベーパ発生速度推定部と、ベーパ発生速度がポンプ掃気速度よりも大きくなることを予測した場合、ベーパ発生速度がポンプ掃気速度以下となるように、ベーパ発生速度とポンプ掃気速度の少なくとも一方を制御する制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ベーパの発生を抑制しつつ燃料タンクの信頼性を確保することが可能な燃料タンクの圧力制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1にかかる圧力制御装置が搭載される車両の構成を示す図である。
図2】圧力制御装置によるタンク内ベーパ量制御の処理を説明するフローチャートである。
図3】登坂前後における燃料の蒸気圧特性を説明する図である。
図4】ベーパ発生速度を算出する処理を説明する図である。
図5】Vpump算出用マップを示す図である。
図6】フィード燃圧の経時変化を示すグラフである。
図7】ポンプ回転数の制御について説明する図である。
図8】タンク内圧の減圧制御について説明する図である。
図9】燃料の蒸気圧曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。図中に示したものは、全体の一部であり、図示しないその他の構成が実際には多く含まれる。さらに、以下の説明において同一又は同等の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
本実施形態にかかる燃料タンクの圧力制御装置の好適な実施形態の一つとして、密閉タンクシステムを構築可能な車両用燃料タンクの圧力制御装置に具体化して説明する。本実施形態にかかる圧力制御装置は、内燃機関22からの動力を用いて走行する各種車両や、内燃機関22に加えて回転電機を備えるハイブリッド車両又はプラグインハイブリッド車両等に搭載されるものである。
【0013】
まず、図1を参照して、本実施形態にかかる燃料タンクの圧力制御装置の構成を説明する。図1は、実施の形態1にかかる圧力制御装置が搭載される車両の構成を示す図である。なお、図1は、圧力制御装置に関連する車両の要部を示している。
【0014】
燃料Fを貯留する燃料タンク14は、密閉耐圧式のタンクであり、例えば金属製または樹脂製のタンクから構成される。給油時、ベーパの大気放出を防ぐため、燃料タンク14の内圧(タンク内圧)は事前に減圧される。燃料タンク14は、端部に給油口を備える給油パイプ35に接続される。また、燃料タンク14は、タンク内圧センサ34、フィードポンプ36、及び燃料ゲージ38を備える。
【0015】
フィードポンプ36は、燃料供給配管40を介して、燃料Fを噴射するためのインジェクタ42に燃料Fを圧送する。インジェクタ42に圧送された燃料Fは、インジェクタ42から内燃機関22に供給されるようになっている。フィードポンプ36は、燃料タンク14内の燃料F及び燃料F中のベーパを吸入する燃料吸入口、フィードポンプ36内に吸入した燃料Fを吐出する燃料吐出口、及びフィードポンプ36内に吸入したベーパを排出するベーパ排出口を有している。
【0016】
フィードポンプ36に吸入されたベーパの少なくとも一部は、フィードポンプ36内で圧縮されることにより液相状態の燃料Fとなって燃料吐出口から吐出される。フィードポンプ36内で圧縮されないベーパは、気相状態であるベーパのままベーパ排出口から燃料タンク14内に排出される。このように、フィードポンプ36は、燃料タンク14内から吸入した燃料Fを内燃機関22に供給するとともに、燃料タンク14内から吸入したベーパを掃気する。例えば、フィードポンプ36は、円周流式等の容積型ポンプから構成される。フィードポンプ36の駆動(ポンプ回転数)は、制御部によって制御される。
【0017】
燃料ゲージ38は、燃料タンク14の燃料残容量を測定する。燃料ゲージ38は、例えばフロート式のセンダーゲージから構成される。
【0018】
燃料供給配管40には、フィードポンプ36から吐出される燃料Fの圧力(フィード燃圧)を検出するフィード燃圧センサ、及びフィードポンプ36の燃料吐出口から吐出される燃料Fの温度(燃温)を検出する燃温センサが設けられている。
【0019】
タンク内圧センサ34は、タンク内圧を測定するセンサであって、例えばダイアフラム型の圧力センサから構成される。タンク内圧センサ34を備えることで、タンク内圧が把握できるばかりでなく、燃料タンク14の一部破損によるベーパのリーク等も検知することが可能となる。
【0020】
ベーパ配管16は、燃料タンク14に一端が接続され、他端がキャニスタ44に接続されている。ベーパ配管16は、燃料タンク14の減圧制御の際に、燃料タンク14内のベーパの通り道として機能する。
【0021】
ベーパ配管16のうち、燃料タンク14側の端部にはORVRバルブ47(Onboard Refueling Vapor Recovery Valve)及びROバルブ49(Roll Over Valve)が設けられている。ORVRバルブ47及びROバルブ49は、例えばフロートバルブから構成される。両者とも通常は開弁状態であり、燃料タンク14の液面レベルが高くなったときに閉弁される。閉弁により、車両12の横転時等にベーパ配管16を介した燃料Fの大気放出が防止される。
【0022】
バルブユニット46は、ベーパ配管16に設けられ、ベーパ配管16を連通状態と遮断状態とに切り換える。バルブユニット46は、封鎖バルブ28及びリリーフバルブ48A、48Bを備える。
【0023】
封鎖バルブ28は、制御部の開弁指令/閉弁指令に応じて開閉動作される。封鎖バルブ28は、例えばソレノイドバルブ等の電磁弁から構成される。封鎖バルブ28を閉弁することにより、密閉タンクシステムを構築することができる。
【0024】
リリーフバルブ48A、48Bは、封鎖バルブ28の故障時であってベーパ配管16に圧力異常が生じたときに、当該圧力異常を強制的に解消するために設けられる。リリーフバルブ48A、48Bは、通常は閉弁状態であり、内蔵されたスプリングに所定値以上の圧力が加えられた際に開弁するようになっている。2つのリリーフバルブ48A、48Bのうち一方のバルブ48Aは、キャニスタ44側が燃料タンク14側よりも高圧になった場合に開弁されるように構成されている。他方のバルブ48Bは、燃料タンク14側がキャニスタ44側よりも高圧になった場合に開弁されるように構成されている。
【0025】
キャニスタ44の内部には、ベーパを吸着可能な吸着剤(例えば活性炭)が充填されている。キャニスタ44は、ベーパを吸着するための吸着手段である。キャニスタ44は、ベーパ配管16とベント配管20との分岐点に設けられている。キャニスタ44は、ベント配管20を介して大気に開放されている。
【0026】
例えば内燃機関22の停止時に燃料タンク14が高圧になると、封鎖バルブ28を開弁させてベント配管20と燃料タンク14とを連通させる。このとき、燃料タンク14から放出されるベーパがキャニスタ44に吸着される。また、内燃機関22の駆動時には、パージバルブ30を開弁させることでキャニスタ44に吸着されたベーパを脱離させて吸気通路に引き込ませる。これによりキャニスタ44の吸着能力が回復する。
【0027】
パージ配管18は、車両の内燃機関22に通じる吸気通路に接続される。パージ配管18は、一端がキャニスタ44付近のベーパ配管16に接続され、他端が吸気通路におけるスロットルバルブよりも内燃機関22側の部位に接続されている。
【0028】
パージ配管18には、パージバルブ30が設けられている。パージバルブ30は、パージ配管18を連通状態と遮断状態とに切り換える。パージバルブ30は、例えばソレノイドバルブ等の電磁弁から構成される。
【0029】
ベント配管20は、一端がキャニスタ44に接続され、他端が大気開放されている。ベント配管20及びベーパ配管16によって、一端が燃料タンク14に接続されるとともに他端が大気開放された大気導入通路54が形成される。
【0030】
ベント配管20には、エアフィルタ56及びOBDモジュール57が設けられている。エアフィルタ56は大気導入時に大気中の塵埃を吸着する。OBDモジュール57(車載式故障診断モジュール)は、モジュールケース内にキーオフポンプ及び切換バルブを収容して構成される。
【0031】
キーオフポンプは、ベント配管20、キャニスタ44、及びベーパ配管16を介してキャニスタ44に接続された燃料タンク14に内圧を付与する。ベント配管20には、切換バルブが設けられている。切換バルブは、ベント配管20を連通状態と遮断状態とに切り換える。切換バルブは、例えばソレノイドバルブ等の電磁弁から構成される。
【0032】
キーオフポンプを駆動することで、キャニスタ44及び燃料タンク14に内圧を付与し、キャニスタ44、燃料タンク14、及びその周囲の部品の異常検知(例えば、穴あき検知)を行うことができる。キーオフポンプにより燃料タンク14に付与される内圧は、正圧であってもよく、負圧であってもよい。
【0033】
圧力制御装置は、ベーパ発生速度推定部、ポンプ掃気速度推定部、状態検知部、目標値算出部、制御部等を含んで構成される。圧力制御装置は、例えばCPU(Central Processing Unit)、記憶装置、入出力ポート、及び通信ポート等を備えたいわゆるマイクロコンピュータを含んで構成される。記憶装置は、作業用メモリとしてのRAM(Random Access Memory)、保存用ストレージとしてのROM(Read Only Memory)、及び不揮発性のフラッシュメモリを含む。
【0034】
CPUは、ROMに記憶されたプログラム等を読み出してRAMに展開し、展開されたプログラムに従って各種処理を実行することにより圧力制御装置が行う各種制御を実行する。CPUには、タンク内圧センサ34、フィード燃圧センサ、及び燃温センサを含む各種センサからの信号が入力ポートを介して入力され、各種センサからの信号に基づく各種制御信号がCPUから出力ポートを介して出力される。記憶装置には、タンク内ベーパ量制御を実行するためのプロクラムを含む各種プログラム、当該タンク内ベーパ量制御を実行するための各種マップや各種パラメータ等が記憶されている。
【0035】
圧力制御装置は、燃料タンク14の負圧制御を行う。負圧制御は、減圧制御及び増圧制御が含まれる。減圧制御では、大気圧以上となったタンク内圧を所定の正常負圧まで減圧させる。増圧制御では、過負圧となったタンク内圧を正常負圧まで増圧させる。
【0036】
減圧制御は、内燃機関22が駆動中であり吸気通路が負圧のときに実行される。制御部の指令により、封鎖バルブ28及びパージバルブ30が開弁されると、燃料タンク14のベーパはベーパ配管16及びパージ配管18を経由して吸気通路まで引き込まれる。吸気通路に引き込まれたベーパは、インジェクタ42から噴射された燃料Fとともに、内燃機関22内で燃焼される。タンク内圧が所定の正常負圧になると封鎖バルブ28及びパージバルブ30が閉弁される。
【0037】
増圧制御では、制御部の指令により、封鎖バルブ28が開弁される。これにより、ベント配管20及びベーパ配管16を経由して燃料タンク14内に大気が引き込まれる。タンク内圧が所定の正常負圧になると封鎖バルブ28が閉弁される。
【0038】
ところで、燃料タンク14が高温環境や低気圧環境に曝されると、燃料タンク14内において燃料Fの気化が促進されてベーパが生じ得る。例えば、新規の燃料Fが給油された車両では、夏季の登坂中に、燃料Fが減圧沸騰してベーパが生じる場合がある。特に、新規の燃料Fの場合、揮発性が高いためにベーパが生じやすい。その結果、フィードポンプ36内にベーパが取り込まれて蓄積すると、蓄積したベーパによりフィード燃圧が低下し、フィードポンプ36から内燃機関22に燃料Fが供給されないベーパロックが発生しやすくなる。
【0039】
ベーパロックが発生するメカニズムについては、ベーパロックの発生に関わる各種要素の定量的な関係性が不明であった。そこで、本発明者らは、燃料タンク14内のベーパ発生量Qvapに対して、フィードポンプ36の掃気能力が不足する場合にベーバロックが発生することを見出した。
【0040】
ここで、図9は、燃料の蒸気圧曲線図である。図9には、使用した燃料F(使用燃料)について燃温を横軸にとり、飽和蒸気圧を縦軸にとることにより、燃料Fの蒸気圧曲線Cを表している。この蒸気圧曲線図において、使用環境(燃温及びタンク内圧)が蒸気圧曲線Cよりも上方の領域である場合、燃料Fは液相状態に保たれる。一方、使用環境が蒸気圧曲線Cよりも下方の領域である場合、燃料Fは気相状態になるため、ベーパが発生する。つまり、蒸気圧曲線Cよりも上方の領域はベーパが発生しないベーパ未発生領域であり、蒸気圧曲線Cよりも下方の領域はベーパが発生するベーパ発生領域である。
【0041】
そして、ベーパ発生量Qvapは、蒸気圧曲線図を用いて下記式(1)により求めることができる。
Qvap=kS×ΔP・・・式(1)
kは燃温(℃)であり、Sはタンク液面積(cm)であり、ΔPはギャップ(kPa)である。すなわち、ベーパ発生量Qvapは、燃料Fの蒸気圧曲線Cと使用環境とのギャップに比例する。
【0042】
さらに、下記式(2)の通り、ベーパ発生量Qvapをベーパが発生した期間であるベーパ発生時間Tvapで除することによりベーパ発生速度Vvapを算出することが可能である。
Vvap=Qvap/Tvap・・・式(2)
【0043】
図9に示す例では、ベーパ発生領域に、燃温がk1(45℃)且つタンク内圧がP1(70kPa)である使用環境をプロットした点Eを示している。一方、図9に示す蒸気圧曲線C上には、燃温がk(45℃)の時に飽和蒸気圧がP2(100kPa)である点Sを示している。すなわち、下記式(3)の通り、ギャップΔPはP2からP1を減算した値となる。
ΔP=P2―P1・・・式(3)
【0044】
一方、フィードポンプ36の掃気能力は、フィードポンプ36によりベーパを掃気する速度であるポンプ掃気速度Vpumpで表すことができる。このポンプ掃気速度Vpumpは、ポンプ回転数、燃圧、及び燃温のそれぞれと相関するものである。
【0045】
本実施形態にかかる圧力制御装置は、内燃機関22の駆動時に、ベーパ発生速度Vvapがポンプ掃気速度Vpumpよりも大きくなること(Vvap>Vpump)を予測した場合、ベーパ発生速度Vvapがポンプ掃気速度Vpump以下(Vvap≦Vpump)となるように、ベーパ発生速度Vvapとポンプ掃気速度Vpumpの少なくとも一方を制御するタンク内ベーパ量制御を実行する。
【0046】
これにより、燃料タンク14内におけるベーパの発生を抑制できる。また、タンク内圧が必要以上に高くなる期間が短縮されるため、燃料タンク14の破損等を抑制し、燃料タンク14の信頼性を確保することができる。
【0047】
次に、図2を参照して、上記したタンク内ベーパ量制御にかかる一連の処理フローについて説明する。図2は、圧力制御装置によるタンク内ベーパ量制御の処理を説明するフローチャートである。
【0048】
タンク内ベーパ量制御にかかる一連の処理が開始されると、まずベーパ発生速度Vvap及びポンプ掃気速度Vpumpを推定(算出)する処理が行なわれる。
【0049】
ステップS10において、ベーパ発生速度推定部は、ベーパ発生速度Vvapを推定する処理を行なう。このステップでは、燃料Fの蒸気圧特性マップを参照し、現在の使用環境に対応するベーパ発生速度Vvapを推定する。燃料Fの蒸気圧特性マップは、使用燃料の燃温とタンク内圧(使用燃料の飽和蒸気圧)との関係として実験や解析により予め定められ、記憶装置に記憶されている。蒸気圧特性マップは、使用環境の履歴から推定することができる。
【0050】
使用環境が蒸気圧曲線よりも下方の領域である場合、燃料Fは気相状態になるため枯れる。より詳細には、燃料Fの蒸気圧は、燃料Fに含まれる成分中の最も低沸点成分で決まるため、使用環境が燃料F中の低沸点成分の蒸気圧曲線よりも下方の領域である場合、当該低沸点成分が気化した後、気化した低沸点成分の次に沸点が低い低沸点成分の蒸気圧曲線へと燃料Fの蒸気圧特性が順次変化する。
【0051】
このような燃料Fの蒸気圧特性の変化について、登坂時の具体例を挙げて説明する。図3は、登坂前後における燃料の蒸気圧特性を説明する図である。図3の左側には登坂時の条件を示しており、右側には、登坂前後における燃料Fの蒸気圧特性を示している。登坂時の条件に示すように、例えば高度0m(大気圧:100kPa)の地点から高度3000m(大気圧:70kPa)の地点まで坂を上る登坂時には、高度が高くなるにしたがって大気圧が低下する。
【0052】
そして、登坂前後における燃料Fの蒸気圧曲線C1、C2を右側に示すグラフで比較すると、登坂前の蒸気圧曲線C1から登坂後の蒸気圧曲線C2に変化していることがわかる。これは、登坂に伴う大気圧の低下により燃料F中の蒸気圧曲線C1と蒸気圧曲線C2との間に蒸気圧特性を有する低沸点成分が気化することに起因する変化である。したがって、使用環境の履歴の最高燃温、最低圧力に基づいて燃料Fの蒸気圧特性を定めることができる。
【0053】
ステップS10では、図4に示すフローにより燃料Fの蒸気圧特性を推定し、推定された蒸気圧特性と現在の使用環境とからベーパ発生速度Vvapを推定する。図4は、ベーパ発生速度を算出する処理を説明する図である。図4に示すように、ベーパ発生速度Vvapを算出するにあたっては、まず、使用環境の履歴から、前回までの使用環境をそれぞれプロットする(S10-1)。
【0054】
続いて、プロットされた点を通る蒸気圧曲線を前回までの使用環境毎に作成する。ここで作成される蒸気圧曲線は、Clausius-Clapeyronの式により与えられる。そして、前回までの使用環境毎の蒸気圧曲線の中から、最も下方にある蒸気圧曲線を抽出し、抽出した蒸気圧曲線を現在の燃料Fの蒸気圧曲線Cとして推定する(S10-2)。
【0055】
続いて、燃温センサ及びタンク内圧センサ34から現在の使用環境UEを取得し、取得された現在の使用環境UEと現在の燃料Fの蒸気圧曲線CとのギャップΔPに基づいて、図9で説明した式(1)及び式(2)によりベーパ発生速度Vvapを算出する(S10-3)。
【0056】
一方、ステップS20において、ポンプ掃気速度推定部は、ポンプ掃気速度Vpumpを推定する処理を行なう。ポンプ掃気速度Vpumpは、ポンプ回転数、燃圧、及び燃温の少なくとも1つに基づいて推定することができる。そこで、ポンプ回転数に基づいて推定する場合を例に挙げて、ポンプ掃気速度Vpumpを推定する方法について説明する。
【0057】
図5は、Vpump算出用マップを示す図である。図5に示すVpump算出用マップは、ポンプ回転数とポンプ掃気速度Vpumpとの関係として実験や解析により予め定められ、記憶装置に記憶されている。ポンプ掃気速度Vpumpを推定するにあたっては、予め作成されたVpump算出用マップを参照し、現在のポンプ回転数に対応するポンプ掃気速度Vpumpを求める。
【0058】
続いて、ステップS30において、状態検知部は、ベーパ発生速度-ポンプ掃気速度の状態(Vvap-Vpump状態)を検知する処理を行う。ここで、ベーパの発生に伴うフィード燃圧の変化傾向について、図6を参照して具体的に説明する。図6は、フィード燃圧の経時変化を示すグラフである。
【0059】
ベーパ発生速度Vvapがポンプ掃気速度Vpumpより大きく(Vvap>Vpump)なると、フィードポンプ36によって掃気しきれないベーパがフィードポンプ36内に蓄積される。フィードポンプ36内にベーパが蓄積すると、フィードポンプ36の吐出量が減少するため、フィード燃圧が低下する。
【0060】
図6に示す例では、Vvap>Vpump状態となる時刻t1からベーパが発生しはじめ、フィードポンプ36内に蓄積したベーパの蓄積量が徐々に増加することに伴って、フィード燃圧が徐々に低下する。その後、時刻t2においてベーパの蓄積量が一定以上になると、急激にフィード燃圧が低下する。さらに、時刻t3においてベーパの蓄積量が臨界点に達すると、フィードポンプ36が吐出不能となる。
【0061】
そこで、ステップS30では、フィード燃圧の変化からVvap-Vpump状態を検知する。つまり、フィード燃圧の変化からベーパの発生を検知する。具体的には、フィード燃圧センサから取得した現在のフィード燃圧が目標フィード燃圧(目標とするフィード燃圧)以下となる状態が所定時間以上継続した場合に、Vvap>Vpump状態であると判定する。
【0062】
また、Vvap-Vpump状態を検知する他の方法として、フィードポンプ36に対する駆動電流(又は駆動電圧)の指示量となる積分項の変化により検知する方法が挙げられる。図7は、ポンプ回転数の制御について説明する図である。図7には、目標フィード燃圧が得られるようにポンプ回転数を制御するデマンド制御の実行時におけるフィード燃圧、ポンプ回転数、及び指示量の挙動を示している。
【0063】
図7に示すように、Vvap>Vpump状態となってフィード燃圧が低下すると、ポンプ回転数を上昇させることによりポンプ掃気速度Vpumpを上昇させる制御が行なわれる。このような制御を通じて、フィード燃圧を目標フィード燃圧に保持することができる。この時のフィードポンプ36に対する駆動電流(又は駆動電圧)の指示量の増加傾向によってVvap-Vpump状態を検知することができる。なお、指示量は、ベーパ発生量Qvapに対してのフィードポンプ36の掃気能力の不足分に相当する。
【0064】
Vvap>Vpump状態であると判定した場合、ステップS40において、目標値算出部は、ベーパ発生速度Vvap及びポンプ掃気速度Vpumpの少なくとも一方の目標値を算出する処理を行なう。このステップでは、推定されたベーパ発生速度Vvapとポンプ掃気速度Vpumpとの差分に基づいて、ベーパ発生速度Vvapがポンプ掃気速度Vpump以下となる目標値を算出する。その後、算出された目標値が得られるように、ベーパ発生速度Vvap及びポンプ掃気速度Vpumpの少なくとも一方の制御が実行される。ベーパ発生速度Vvapを制御する場合、ステップS50に進み、ポンプ掃気速度Vpumpを制御する場合、ステップS60に進む。
【0065】
ステップS50において、制御部は、ベーパ発生速度Vvapを制御する処理を行なう。ここで、例えば密閉タンクシステムの場合、燃温が一定に保たれた車両の登坂時には、ベーパ発生速度Vvapはタンク内圧減圧速度に比例するものである。また、タンク内圧が一定に保たれた車両の暖機運転時には、ベーパ発生速度Vvapは内燃機関22の暖機速度に比例するものである。したがって、登坂時にはタンク内圧減圧速度を調整することにより、ベーパ発生速度Vvapを制御することができる。また、暖機運転時には、内燃機関22の暖機速度を調整することにより、ベーパ発生速度Vvapを制御することができる。
【0066】
ここでは、タンク内圧減圧速度を調整する場合を例に挙げて、ベーパ発生速度Vvapの制御について説明する。タンク内圧減圧速度は、例えば封鎖バルブ28の開閉動作によって調整する。このステップでは、減圧速度算出用マップを参照し、Vvap-Vpump状態に対応する目標タンク内圧減圧速度(目標とするタンク内圧減圧速度)を求める。
【0067】
図8は、タンク内圧の減圧制御について説明する図である。図8の左側は、燃料Fの蒸気圧曲線図を示している。図8に示す蒸気圧曲線図上には、燃温を一定とした場合にタンク内圧に応じたVvap-Vpump状態を点ST1~ST4として模式的に示している。点ST1~ST4のタンク内圧は、点ST1>点ST2>点ST3>点ST4である。そして、点ST1はベーパ未発生領域に、点ST2は蒸気圧曲線C上に、点ST3、ST4はベーパ発生領域に、それぞれ位置している。
【0068】
図8の右側は、減圧速度算出用マップを示している。図8に示す減圧速度算出用マップは、Vvap-Vpump状態とタンク内圧減圧速度との関係として実験や解析により予め定められ、記憶装置に記憶されている。図8に示す減圧速度算出用マップ中の実線は、Vvap=Vpump状態とするために必要なタンク内圧減圧速度を表している。
【0069】
例えば、Vvap<Vpump状態である点ST1の場合、タンク内圧減圧速度を現状維持する。Vvap=Vpump状態である点ST2の場合、タンク内圧減圧速度を僅かに低下させることにより目標タンク内圧減圧速度に制御する。Vvap>Vpump状態である点ST3、ST4の場合、タンク内減圧速度を低下させることにより目標タンク内圧減圧速度に制御する。VvapとVpumpとの速度差が大きくなるほど、タンク内減圧速度の低下度合いは大きくなる。
【0070】
すなわち、Vvap>Vpump状態である場合は、タンク内圧の減圧速度を緩和するように封鎖バルブ28を開く方向に開度を制御することにより燃料タンク14内に大気を引き込み、目標値となるまでベーパ発生速度Vvapを低下させる。これにより、Vvap≦Vpump状態となるようにベーパ発生速度Vvapが制御される。ベーパ発生速度Vvapが目標値に達すると、封鎖バルブ28の開度の制御を終了してタンク内圧減圧速度を維持する。
【0071】
一方、ステップS60において、制御部は、ポンプ掃気速度Vpumpを制御する処理を行なう。ポンプ掃気速度Vpumpは、ポンプ回転数、燃圧、及び燃温の少なくとも1つを調整することにより、制御することができる。
【0072】
例えば、ポンプ回転数を調整することによりポンプ掃気速度Vpumpを制御する場合は、図7で説明した通りである。具体的には、Vvap>Vpump状態である場合は、ポンプ回転数を上昇させることにより、目標値となるまでポンプ掃気速度Vpumpを上昇させる。これにより、Vvap≦Vpump状態となるようにポンプ掃気速度Vpumpが制御される。ポンプ掃気速度Vpumpが目標値に達すると、ポンプ回転数を上昇させる制御を終了する。
【0073】
以上説明したステップS10~S60の一連の処理フローは、内燃機関22の駆動中に所定の制御周期で繰り返し実行される。このように、本実施形態にかかる圧力制御装置は、ベーパ発生速度Vvapがポンプ掃気速度Vpump以下となるように制御を行なうことにより、ベーパ発生量Qvapの変化に応じてタンク内圧を適切なレベルに上昇させることができる。これにより、実際のベーパの発生量に対して必要以上にタンク内圧が高圧となる期間を低減できる。
【0074】
したがって、本実施形態にかかる燃料タンクの圧力制御装置によれば、ベーパの発生を抑制しつつ燃料タンク14の信頼性を確保することが可能となる。
【0075】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上記実施形態では、燃料タンク14とキャニスタ44との間に封鎖バルブ28を含むバルブユニット46が設けられた密閉タンクシステムを構築可能な燃料タンクの圧力制御装置である場合を例に挙げて説明したが、これに限らない。例えば、燃料タンク14とキャニスタ44との間にバルブユニット46(封鎖バルブ28)が設けられていない非密閉タンクシステムを構築可能な燃料タンクの圧力制御装置として構成されてもよい。
【0076】
非密閉タンクシステムである場合、燃温が一定に保たれた車両の登坂時には、ベーパ発生速度Vvapは車速に比例するものである。また、タンク内圧が一定に保たれた車両の暖機運転時には、ベーパ発生速度Vvapは内燃機関22の暖機速度に比例するものである。したがって、登坂時には車速を調整することにより、ベーパ発生速度Vvapを制御することができる。また、暖機運転時には、内燃機関22の暖機速度を調整することにより、ベーパ発生速度Vvapを制御することができる。
【符号の説明】
【0077】
14 燃料タンク
16 ベーパ配管
18 パージ配管
20 ベント配管
22 内燃機関
28 封鎖バルブ
30 パージバルブ
34 タンク内圧センサ
35 給油パイプ
36 フィードポンプ
38 燃料ゲージ
40 燃料供給配管
42 インジェクタ
44 キャニスタ
46 バルブユニット
47 ORVRバルブ
48A、48B リリーフバルブ
49 ROバルブ
54 大気導入通路
56 エアフィルタ
57 OBDモジュール
C、C1、C2 蒸気圧曲線
F 燃料
UE 使用環境
Vpump ポンプ掃気速度
Vvap ベーパ発生速度
ΔP ギャップ
図1
図2
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図9