(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】電動機の冷却装置
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
H02K9/19 A
(21)【出願番号】P 2022038437
(22)【出願日】2022-03-11
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】田渕 堅大
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-065384(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0038150(US,A1)
【文献】特開2021-125895(JP,A)
【文献】特開2014-107887(JP,A)
【文献】特開2001-032914(JP,A)
【文献】特開2019-050707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のステータ、前記ステータの内周側に配置されている筒状のロータ、および前記ロータの内周面に固定されているシャフトを有し、前記ステータは、筒状のステータコアと、前記ステータコアに巻き掛けているステータコイルと、を備え、前記ステータコイルの前記ステータコアから突き出した部位によってコイルエンドが形成され、前記シャフトは、モータケースに軸受を介して回転可能に支持されている電動機、の冷却装置であって、
前記冷却装置は、
前記電動機の上方から冷媒を供給する冷媒供給機構と、前記モータケースから前記コイルエンドの内周側に向かって突き出す冷媒ガイドと、を備え、
前記冷媒供給機構は、前記冷媒ガイドに冷媒を供給可能に構成され、
前記冷媒ガイドは、前記電動機の径方向から見たとき、前記コイルエンドと重なる位置まで前記電動機の回転軸線方向に伸びて
おり、
前記冷媒ガイドは、前記コイルエンドの内周側に配置され、
前記冷媒ガイドは、前記電動機の回転軸線方向から見たとき、前記コイルエンドの内周に沿って円弧状に形成された円弧部を含み、
前記円弧部は、少なくとも前記コイルエンドの鉛直方向の下端を含んで、前記コイルエンドの内周に沿って円弧状に形成されており、
前記円弧部の鉛直方向の下端から所定距離だけ周方向に離れた位置には、前記円弧部の内周壁から径方向内側に向かって伸びるリブが形成されている
ことを特徴とする電動機の冷却装置。
【請求項2】
前記冷媒供給機構は、鉛直方向で前記電動機の上方に配置されて前記冷媒が供給される冷媒通路と、前記冷媒通路を流れる冷媒が放出される冷媒放出穴と、を有し、
前記冷媒放出穴は、鉛直上方から見たときに前記コイルエンドと重ならない位置であって、前記軸受を保持する軸受保持部と重なる位置に形成されており、
前記冷媒ガイドは、前記軸受保持部から流下した冷媒を受けるように形成されている
ことを特徴とする請求項1の電動機の冷却装置。
【請求項3】
前記冷媒通路には、鉛直上方から見たときに前記コイルエンドと重なる位置に第2の冷媒放出穴が形成されている
ことを特徴とする請求項2の電動機の冷却装置。
【請求項4】
前記円弧部の周方向で前記リブに隣接する部位であって、前記円弧部の鉛直方向の下端に接近する側には、前記円弧部の前記電動機側に向かって突き出す先端が凹むようにして切り欠かれた切欠が形成されている
ことを特徴とする請求項
1の電動機の冷却装置。
【請求項5】
前記冷媒ガイドの前記回転軸線方向の先端には、第2の切欠が形成されている
ことを特徴とする請求項1の電動機の冷却装置。
【請求項6】
前記冷媒供給機構は、鉛直方向で前記電動機の上方に配置され、冷媒が放出される冷媒放出穴が形成された冷却パイプである
ことを特徴とする請求項1の電動機の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の冷却装置の冷却性能を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機を冷却する冷却装置として様々な態様が提案されている。例えば特許文献1には、ケーシングのブラケットに冷媒案内部材を設け、回転軸よりも下方に位置するコイルエンドに冷媒(冷却油)を案内可能にすることで、コイルエンドの回転軸よりも下方に位置する部位に冷媒を適切に供給して電動機の冷却性能を向上させる構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の冷媒案内部材は、ケーシングとは別体の部材が当該ケーシングに取り付けられたものであるために部品点数が多くなり、また、ケーシングとの隙間から冷媒の漏れが生じる虞がある。従って、ケーシングと冷媒案内部材との隙間からの冷媒の漏れを防ぐ機構が必要になるため、コイルエンドの回転軸よりも下方に位置する部位に効率的に冷媒を供給するに当たって改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、コイルエンドの鉛直方向で下方に位置する部位に冷媒を適切に供給して電動機の冷却性能の向上できる、電動機の冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)筒状のステータ、前記ステータの内周側に配置されている筒状のロータ、および前記ロータの内周面に固定されているシャフトを有し、前記ステータは、筒状のステータコアと、前記ステータコアに巻き掛けているステータコイルと、を備え、前記ステータコイルの前記ステータコアから突き出した部位によってコイルエンドが形成され、前記シャフトは、モータケースに軸受を介して回転可能に支持されている電動機、の冷却装置であって、(b)前記冷却装置は、(c)前記電動機の上方から冷媒を供給する冷媒供給機構と、前記モータケースから前記コイルエンドの内周側に向かって突き出す冷媒ガイドと、を備え、(e)前記冷媒供給機構は、前記冷媒ガイドに冷媒を供給可能に構成され、(f)前記冷媒ガイドは、前記電動機の径方向から見たとき、前記コイルエンドと重なる位置まで前記電動機の回転軸線方向に伸びており、(g)前記冷媒ガイドは、前記コイルエンドの内周側に配置され、(h)前記冷媒ガイドは、前記電動機の回転軸線方向から見たとき、前記コイルエンドの内周に沿って円弧状に形成された円弧部を含み、(i)前記円弧部は、少なくとも前記コイルエンドの鉛直方向の下端を含んで、前記コイルエンドの内周に沿って円弧状に形成されており、(j)前記円弧部の鉛直方向の下端から所定距離だけ周方向に離れた位置には、前記円弧部の内周壁から径方向内側に向かって伸びるリブが形成されていることを特徴とする。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、(a)前記冷媒供給機構は、鉛直方向で前記電動機の上方に配置されて前記冷媒が供給される冷媒通路と、前記冷媒通路を流れる冷媒が放出される冷媒放出穴と、を有し、(b)前記冷媒放出穴は、鉛直上方から見たときに前記コイルエンドと重ならない位置であって、前記軸受を保持する軸受保持部と重なる位置に形成されており、(c)前記冷媒ガイドは、前記軸受保持部から流下した冷媒を受けるように形成されていることを特徴とする。
【0008】
第3発明の要旨とするところは、第2発明において、前記冷媒通路には、鉛直上方から見たときに前記コイルエンドと重なる位置に第2の冷媒放出穴が形成されていることを特徴とする。
【0011】
第4発明の要旨とするところは、第1発明において、前記円弧部の周方向で前記リブに隣接する部位であって、前記円弧部の鉛直方向の下端に接近する側には、前記円弧部の前記電動機側に向かって突き出す先端が凹むようにして切り欠かれた切欠が形成されていることを特徴とする。
【0012】
第5発明の要旨とするところは、第1発明において、前記冷媒ガイドの前記回転軸線方向の先端には、第2の切欠が形成されていることを特徴とする。
【0013】
第6発明の要旨とするところは、第1発明において、前記冷媒供給機構は、鉛直方向で前記電動機の上方に配置され、冷媒が放出される冷媒放出穴が形成された冷却パイプであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1発明によれば、冷媒供給機構は、冷媒ガイドに冷媒を供給可能に構成され、冷媒ガイドは、コイルエンドの内周側に向かって突き出し、且つ、電動機の径方向から見たときにコイルエンドと重なる位置まで電動機の回転軸線方向に伸びているため、冷媒供給機構から冷媒ガイドに供給された冷媒を、冷媒ガイドを伝わせてコイルエンドの鉛直方向で下方に位置する部位に供給することができる。その結果、コイルエンドの鉛直方向で下方に位置する部位を冷媒によって効率良く冷却することができるため、冷却装置の冷却性能が向上する。
また、冷媒ガイドは、電動機の回転軸線方向から見たとき、少なくともコイルエンドの鉛直方向の下端を含んで、コイルエンドの内周に沿って円弧状に形成されている円弧部を含むため、上方から落下した冷媒を円弧部の円弧形状によって受けることができる。
また、円弧部の鉛直方向の下端から所定距離だけ周方向に離れた位置に、径方向内側に向かって伸びるリブが形成されているため、円弧部の内周壁に沿って下方に移動する冷媒がリブに衝突し、冷媒が電動機の回転軸線方向に移動する。また、電動機の回転軸線方向に移動した冷媒は、冷媒ガイドの先端からコイルエンドに向かって落下する。その結果、コイルエンドの鉛直方向の下端よりも上方に位置する部位から冷媒が供給されるため、コイルエンドを広範囲に亘って冷却することができる。
【0015】
第2発明によれば、冷媒供給機構は、冷媒通路を流れる冷媒が放出される冷媒放出穴を含み、冷媒放出穴は、鉛直上方から見たとき、コイルエンドに重ならない位置であって、軸受を保持する軸受保持部と重なる位置に形成されているため、冷媒放出穴から放出された冷媒は、コイルエンドに干渉されることなく軸受保持部に供給される。また、軸受保持部に供給された冷媒は、軸受保持部の周壁を伝って流下し、流下した冷媒が冷媒ガイドによって受けられる。その結果、冷媒放出穴から放出された冷媒が、コイルエンドを経由することなく冷媒ガイドに供給される。
【0016】
第3発明によれば、冷媒通路に形成されている第2の冷媒放出穴が、鉛直上方から見たときにコイルエンドと重なる位置に形成されているため、第2の冷媒放出穴から放出された冷媒がコイルエンドの鉛直方向で上方に位置する部位に供給される。従って、コイルエンドの鉛直方向で上方に位置する部位が、第2の冷媒放出穴から放出される冷媒によって適切に冷却される。
【0019】
第4発明によれば、円弧部の周方向でリブに隣接する部位であって、円弧部の鉛直方向の下端に接近する側には、円弧部の先端が凹むようにして切り欠かれた切欠が形成されているため、リブに衝突して電動機の回転軸線方向に移動した冷媒が、リブの先端を乗り越えた場合であっても、円弧部の切欠によって形成された空間から冷媒を強制的に落下させることができる。
【0020】
第5発明によれば、冷媒ガイドの回転軸線方向の先端には、第2の切欠が形成されているため、鋳造後には連続した曲線状に形成される冷媒ガイドの先端が、第2の切欠によって不連続な形状となり、冷媒が冷媒ガイドの先端を乗り越えることが抑制される。その結果、冷媒ガイドの先端から冷媒が効率良く落下し、コイルエンドに冷媒が適切に供給される。
【0021】
第6発明によれば、鉛直方向で電動機の上方に配置されている冷却パイプの冷媒放出穴から冷媒ガイドに冷媒を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明が適用された電動機および電動機を冷却する冷却装置の概要を示す断面図である。
【
図2】
図1を切断線Aで切断したA-A断面図である。
【
図3】オイルガイドの回転軸線方向の先端に切欠を形成することによる効果を説明するための概念図である。
【
図4】
図2の円弧部のうちリブが形成される部位の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0024】
図1は、本発明が適用された横置形式の電動機MGおよび電動機MGを冷却する冷却装置10の概要を示す断面図である。電動機MGは、例えば車両に備えられる走行用の駆動力源として使用される。電動機MGは、水平な回転軸線CLを中心にして配置されている。なお、
図1は、水平面上で組み付けられた組付状態が示されている。従って、
図1に示す組付状態では、紙面上方が鉛直上方に対応する。以下、水平面上で組み付けられた組付状態を前提にして説明する。
【0025】
電動機MGは、非回転部材である円筒状のステータ12と、ステータ12の内周側に配置されている円筒状のロータ14と、ロータ14の内周面に固定されているロータシャフト16と、を備えている。なお、ロータシャフト16が、本発明のシャフトに対応している。
【0026】
ステータ12は、円筒状に形成されているステータコア18と、ステータコア18に巻き掛けられているステータコイル20と、を備えている。
【0027】
ステータコア18は、絶縁された複数枚の電磁鋼板が回転軸線CL方向に積層されて構成されている。ステータコア18は、図示しないボルトによって非回転部材であるモータケース22に回転不能に固定されている。ステータコア18の内周面には、径方向に伸びる隙間である図示しないスロットが周方向で等角度間隔に形成されている。ステータコイル20は、各スロットを回転軸線CL方向に貫通しつつ、ステータコア18に巻き掛けられている。また、ステータコイル20のステータコア18から回転軸線CLに突き出した部位によって、一対のコイルエンド24a、24bが形成される。各コイルエンド24a、24bは、ステータコア18の周方向に沿って環状に配置されている。
【0028】
ロータ14は、円筒状に形成されたロータコア26を備えている。ロータコア26は、絶縁された複数枚の電磁鋼板が回転軸線CL方向に積層されて構成されている。ロータコア26の内周面には、ロータシャフト16が一体的に固定されている。ロータシャフト16は、円筒状に形成され、回転軸線CLを中心にして回転可能に支持されている。ロータシャフト16の回転軸線CL方向の一端が、モータケース22に形成されている収容穴28内に収容されるとともに、軸受30を介してモータケース22によって回転可能に支持されている。
【0029】
軸受30は、モータケース22の回転軸線CLに対して垂直な壁面から電動機MG側に向かって回転軸線CL方向に立設された円筒状の軸受保持部32によって保持されている。詳細には、軸受30の外輪30aが、円筒状の軸受保持部32の内周面32aに、例えば締まりばめ状態で嵌め着けられている。
【0030】
次に、電動機MGのコイルエンド24aに冷媒としてのオイルを供給することでコイルエンド24aを冷却する冷却装置10について説明する。冷却装置10は、電動機MGの上方からオイルを供給するための冷却パイプ38と、冷却パイプ38から放出されたオイルをコイルエンド24aの鉛直方向で回転軸線CLよりも下方に位置する部位に案内するオイルガイド34を、備えている。オイルガイド34は、アルミ鋳造によってモータケース22と一体成形されている。
【0031】
冷却パイプ38は、鉛直方向で電動機MGの上方に配置されるとともに、長手方向が電動機MGの回転軸線CLに対して平行に配置されている。冷却パイプ38には、図示しないオイルポンプによって汲み上げられたオイルが供給される。冷却パイプ38には、冷却パイプ38内を流れるオイルが放出される、第1オイル放出穴40および第2オイル放出穴42が形成されている。従って、冷却パイプ38に供給されたオイルは、第1オイル放出穴40および第2オイル放出穴42から鉛直方向で下方に向かって供給される。第1オイル放出穴40から放出されたオイルは、後述するように、コイルエンド24aの鉛直方向で回転軸線CLよりも上方に位置する部位に供給可能に構成されている。第2オイル放出穴42から放出されたオイルは、後述するように、オイルガイド34に供給可能に構成されている。なお、冷却パイプ38が本発明の冷媒通路に対応し、冷却パイプ38、第1オイル放出穴40、および第2オイル放出穴42を含んだ機構が、本発明の冷媒供給機構に対応する。
【0032】
オイルガイド34は、モータケース22の回転軸線CLに対して垂直な壁面からコイルエンド24aの内周側に向かって回転軸線CL方向に突き出すようにして形成されている。オイルガイド34は、回転軸線CL方向から見たとき、コイルエンド24aの内周側に配置されている。また、オイルガイド34は、軸受保持部32から流下したオイルを受けるように、鉛直方向で回転軸線CLよりも下方に位置する軸受保持部32の外周を覆うように形成されている。なお、オイルガイド34が、本発明の冷媒ガイドに対応している。
【0033】
オイルガイド34は、電動機MGの径方向から見たとき、コイルエンド24aと重なる位置まで回転軸線CL方向に伸びている。
図2は、
図1に示す切断線Aで切断したA-A断面図である。
図2において、紙面上方が鉛直上方に対応している。また、
図2において、斜線の施されている部位が、コイルエンド24aの断面に対応している。回転軸線CLを中心にして、径方向内側から順番に、ロータシャフト16、軸受30、軸受保持部32が配置されている。
【0034】
軸受30は、軸受保持部32の内周面32aに嵌め着けられている外輪30aと、ロータシャフト16の外周面に嵌め着けられている内輪30bと、外輪30aと内輪30bとの間に介挿されている複数個のボール30cと、を備えている。
【0035】
円筒状に形成された軸受保持部32の下側には、オイルガイド34が形成されている。オイルガイド34は、回転軸線CLを中心とする径方向において、軸受保持部32とコイルエンド24aとの間に形成されている。
【0036】
オイルガイド34は、回転軸線CL方向から見たとき、
図2に示すような所定の厚みを有し、回転軸線CLを中心とする円弧状(または半円状)に形成されている円弧部34aと、円弧部34aの内周壁36から径方向内側に向かって伸びる一対のリブ34bと、を備えている。
【0037】
円弧部34aは、所定の厚みを有し、回転軸線CL方向から見たとき、コイルエンド24aの内周に沿って円弧状に形成されている。円弧部34aは、円弧形状の一端から他端に亘る全ての部位において、円弧形状が連続して形成されている。本実施例の円弧部34aは、円弧の形状が半円形状よりも所定寸法だけ長く形成されている。
【0038】
円弧部34aは、鉛直方向で回転軸線CLよりも下方では、コイルエンド24aの周方向全体に亘って円弧状に形成されている。さらに、円弧部34aは、鉛直方向で回転軸線CLよりも上方では、回転軸線CLの高さから所定寸法だけコイルエンド24aの内周に沿って円弧状に伸びている。従って、円弧部34aは、少なくともコイルエンド24aの鉛直方向の下端を含んで、コイルエンド24aの内周に沿って円弧状に形成されている。また、円弧部34aは、回転軸線CLよりも下方に位置する軸受保持部32の外周を覆うようにして円弧状に形成されている。これより、軸受保持部32の外周壁面から下方に落下したオイルを円弧部34aによって受けることができる。
【0039】
一対のリブ34bは、回転軸線CLと冷却パイプ38の中心点CTとを結ぶ直線Mに対して左右対称に形成されている。一対のリブ34bは、円弧部34aの鉛直方向の下端から所定距離Kだけ周方向に離れた位置に形成されている。或いは、円弧部34aの鉛直方向の下端の位置を基準(ゼロ)としたとき、その位置から所定角度θ1だけ円弧部34aの周方向にずれた位置に形成されている。これより、一対のリブ34bは、回転軸線CLと冷却パイプ38の中心点CTとを結ぶ直線Mに対して離れた位置に形成されるとともに、円弧部34aの鉛直方向の下端よりも上方の位置に形成される。
【0040】
一対のリブ34bは、円弧部34aの内周壁36から回転軸線CL方向に向かって径方向内側に伸びている。リブ34bが形成されることで、円弧部34aとリブ34bとの間に、オイルが一時的に留められる第1オイル溜まり46が形成される。
【0041】
また、オイルガイド34の回転軸線CL方向の先端には、切欠50(
図3参照)が形成されいてる。
図3は、オイルガイド34の回転軸線CL方向の先端に切欠50を形成することによる効果を説明するための概念図である。なお、
図3では、電動機MGおよびオイルガイド34等が簡略化されており、実際の寸法とは異なっている。また、軸受30および軸受保持部32等については省略されている。なお、切欠50が、本発明の第2の切欠に対応している。
【0042】
モータケース22およびオイルガイド34は、アルミ鋳造によって一体成形される。従って、オイルガイド34には、鋳造過渡期の金型の抜きを許容するための勾配が形成されている。また、鋳造後では、オイルガイド34の回転軸線CL方向の先端が、破線で示すような連続した曲線形状に形成されている。この状態で、オイルガイド34にオイルが供給されると、破線の矢印で示すように、オイルがオイルガイド34の先端を乗り越えて下方に流れやすい。その結果、オイルがオイルガイド34の先端を伝って下方に移動し、オイルガイド34の先端からオイルが流下しにくくなる。これを防止するため、オイルガイド34の先端に切欠50が形成されている。
【0043】
オイルガイド34の先端に切欠50が形成されると、その先端の連続した曲線形状が切除されて不連続な形状になるため、実線の矢印で示すように、オイルがオイルガイド34の先端から落下しやすくなる。切欠50は、円弧部34aのうち先端からオイルが落下する部位にのみ形成されるのが好ましいが、円弧部34aの周方向の全体に亘って形成されても構わない。
【0044】
また、円弧部34aのリブ34bと周方向で隣接する部位には、切欠52が形成されている。
図4は、
図2の円弧部34aのうちリブ34bが形成される部位の拡大図であり、
図5は、
図4を矢印B方向から見た図、すなわち
図4を鉛直上方から見た図である。なお、
図4および
図5に示す矢印は、何れもオイルの流れを示している。
【0045】
図4に示すように、円弧部34aの周方向でリブ34bと隣接する部位であって、円弧部34aの鉛直方向の下端に接近する側には、円弧部34aの回転軸線CL方向で電動機MG側に向かって突き出す先端が凹むようにして切り欠かれた切欠52が形成されている。なお、切欠52が、本発明の切欠に対応している。
【0046】
円弧部34aの内周壁36を伝って流下したオイルがリブ34bに衝突すると、回転軸線CL方向に移動する。また、円弧部34aの回転軸線CL方向の先端まで移動したオイルが、オイルの粘性によって円弧部34aの先端から落下せず、リブ34bの先端を乗り越えるようにして移動する虞がある。これに対して切欠52が形成されることで、オイルがリブ34bの回転軸線CL方向の先端を乗り越えた場合であっても、切欠52によって形成された空間から強制的に落下させられる。その結果、円弧部34aの回転軸線CL方向の先端に到達したオイルが、円弧部34aの先端から落下し、オイルがコイルエンド24aに適切に供給される。なお、第1オイル溜まり46に到達したオイルの一部は、破線の矢印で示すように、リブ34bを乗り越えて下方に移動する。
【0047】
ここで、
図4および
図5に示す一点鎖線は、切欠52が形成されない場合のオイルの流れを示している。切欠52が形成されない場合には、オイルがリブ34bの回転軸線CL方向の先端を乗り越えることで、オイルが円弧部34aの回転軸線CL方向の先端から落下せず、オイルが円弧部34aの外周壁側を伝って下方に移動することとなる。
【0048】
次に、冷却装置10によるオイルの流れについて説明する。
図1および
図2において、実線で示す矢印が、第1オイル放出穴40から放出されたオイルの流れを示している。第1オイル放出穴40は、回転軸線CL方向において、鉛直上方から見たときにコイルエンド24aと重なる位置に形成されている。また、第1オイル放出穴40は、冷却パイプ38の周方向における下端の位置をゼロとしたとき、所定角度θ2だけ周方向にずれた位置に形成されている。第1オイル放出穴40は、直線Mに対して左右対称に2箇所形成されている。なお、第1オイル放出穴40が、本発明の第2の冷媒放出穴に対応している。
【0049】
第1オイル放出穴40から放出されたオイルは、組付状態におけるコイルエンド24aの鉛直方向で回転軸線CLよりも上方に位置する部位に供給され、専らコイルエンド24aの回転軸線CLよりも上方に位置する部位を冷却する。コイルエンド24aの上方に供給されたオイルは、コイルエンド24aの上方を冷却しつつコイルエンド24aを伝って下方に移動する。
【0050】
図1および
図2において、破線で示す矢印が、第2オイル放出穴42から放出されたオイルの流れを示している。第2オイル放出穴42は、回転軸線CL方向において、鉛直上方から見たときにコイルエンド24aに重ならない位置であって、軸受30を保持する軸受保持部32と重なる位置に形成されている。また、第2オイル放出穴42は、組付状態における鉛直方向において、冷却パイプ38の下端の位置に形成されている。従って、第2オイル放出穴42から放出されたオイルは、
図1および
図2の破線で示すように、コイルエンド24aに供給されることなく下方に移動し、軸受保持部32の外周壁32bに到達する。なお、第2オイル放出穴42が、本発明の冷媒放出穴に対応している。
【0051】
軸受保持部32の外周壁32bに到達したオイルは、外周壁32bを伝って下方に移動する。また、オイルが回転軸線CLよりも下方まで移動すると、重力によってオイルがオイルガイド34に向かって流下する。外周壁32bから流下したオイルは、オイルガイド34の円弧部34aの内周壁36を伝って下方に移動し、リブ34bに衝突する。
【0052】
リブ34bに衝突したオイルは、円弧部34a(オイルガイド34)の先端に向かって回転軸線CL方向に移動し、オイルが円弧部34aの先端からコイルエンド24aの内周に向かって落下する。その結果、円弧部34aのリブ34bが形成される位置に対して鉛直下方に位置するコイルエンド24aにオイルが供給され、この部位からコイルエンド24aを伝って下方に移動するオイルによって、コイルエンド24aの
図2の一点鎖線で示す部位が冷却される。ここで、コイルエンド24aの一点鎖線で示す部位は、コイルエンド24aの上方を伝って流下したオイルでは十分な冷却が困難な部位とされている。上述したリブ34bの位置を規定する円弧部34aの鉛直方向の下端からの所定距離Kおよび所定角度θ1は、コイルエンド24aの一点鎖線で示す部位にオイルが供給されるように、予め実験的または設計的に求められる。
【0053】
ここで、オイルガイド34の回転軸線CL方向の先端には、
図3で示した切欠50が形成されているため、オイルガイド34の先端から確実にオイルが下方に落下する。また、円弧部34aの周方向でリブ34bに隣接する位置に切欠52が形成されているため、オイルガイド34の回転軸線CL方向の先端に移動したオイルがリブ34bの回転軸線CL方向の先端を乗り越えて円弧部34aの外周壁側に移動することも抑制される。
【0054】
また、リブ34bに衝突したオイルの一部は、円弧部34aおよびリブ34bによって形成される第1オイル溜まり46からリブ34bの径方向の先端を乗り越えて円弧部34aの内周壁36を伝って下方に移動する。円弧部34aの鉛直方向の下端側には、円弧部34aの内周壁36を伝って下方に移動したオイルが一時的に留められる第2オイル溜まり48が形成されている。第2オイル溜まり48に到達したオイルは、回転軸線CL方向に移動し、鉛直方向で下端に位置する円弧部34aの先端からコイルエンド24aの下端に供給される。
【0055】
このように、第2オイル放出穴42から放出されたオイルは、軸受保持部32、オイルガイド34の円弧部34aおよびリブ34bを経由してコイルエンド24aの
図2の一点鎖線で示す部位に供給される。従って、コイルエンド24aの鉛直方向で回転軸線CLよりも下方に位置する部位が、オイルによって適切に冷却される。また、第1オイル放出穴40から放出されたオイルは、コイルエンド24aの鉛直方向で回転軸線CLよりも上方に位置する部位に供給され、コイルエンド24aの鉛直方向で回転軸線CLよりも上方に位置する部位が適切に冷却される。その結果、コイルエンド24aの鉛直方向の上方および下方に位置する部位が冷却パイプ38から放出されたオイルによって適切に冷却されることとなる。
【0056】
これより、コイルエンド24aの鉛直方向の下部に冷却されたオイルが供給されるため、コイルエンド24aとオイルとの間の温度差が高くなって熱伝達率が高くなり、さらにコイルエンド24aとオイルとの接触面積が増加することで、コイルエンド24aの下部の温度を効果的に低下させることができる。これに関連して、コイルエンド24aの温度が低下することで電動機MGに印加する電流を増加することが可能になり、電動機MGの小型化が可能になる。従って、電動機MGを製造するために必要な材料の使用量の低減が可能になる。また、コイルエンド24aの温度に伴う電動機MGの定格出力の制限が緩和され、さらなる加速性能の向上が可能になる。さらに、コイルエンド24aの温度の低下に伴って銅損が低減されることで燃費の向上にも繋がる。
【0057】
上述のように、本実施例によれば、冷却パイプ38の第2オイル放出穴42から放出されたオイルが、オイルガイド34に供給可能に構成され、オイルガイド34は、コイルエンド24aの内周側に向かって突き出し、且つ、電動機MGの径方向から見たときにコイルエンド24aと重なる位置まで電動機MGの回転軸線CL方向に伸びているため、冷却パイプ38の第2オイル放出穴42からオイルガイド34に供給されたオイルを、オイルガイド34を伝わせてコイルエンド24aの鉛直方向で回転軸線CLよりも下方に位置する部位に供給することができる。その結果、コイルエンド24aの鉛直方向で下方に位置する部位を効率良く冷却することができ、冷却装置10の冷却性能が向上する。また、オイルガイド34は、モータケース22と一体成形されているため、オイルガイド34とモータケース22との間からオイルが漏れることが防止される。
【0058】
また、本実施例によれば、冷却パイプ38を流れるオイルが放出される第2オイル放出穴42を備え、第2オイル放出穴42は、鉛直上方から見たとき、コイルエンド24aに重ならない位置であって、軸受30を保持する軸受保持部32と重なる位置に形成されているため、第2オイル放出穴42から放出されたオイルは、コイルエンド24aに干渉されることなく軸受保持部32に供給される。また、軸受保持部32に供給されたオイルは、軸受保持部32の周壁を伝って流下し、流下したオイルがオイルガイド34によって受けられる。その結果、第2オイル放出穴42から放出されたオイルが、コイルエンド24aを経由することなくオイルガイド34に供給される。
【0059】
また、冷却パイプ38に形成されている第1オイル放出穴40が、鉛直上方から見たときにコイルエンド24aと重なる位置に形成されているため、第1オイル放出穴40から放出されたオイルがコイルエンド24aの鉛直方向で上方に位置する部位に供給される。従って、コイルエンド24aの鉛直方向で上方に位置する部位が、第1オイル放出穴40から放出されるオイルによって適切に冷却される。
【0060】
また、オイルガイドは、電動機MGの回転軸線CL方向から見たとき、少なくともコイルエンド24aの鉛直方向の下端を含んで、コイルエンド24aの内周に沿って円弧状に形成されている円弧部34aを含むため、軸受保持部32から落下したオイルを円弧部34aの円弧形状によって受けることができる。
【0061】
また、円弧部34aの鉛直方向の下端から所定距離Kだけ周方向に離れた位置に、径方向内側に向かって伸びるリブ34bが形成されているため、円弧部34aの内周壁36に沿って下方に移動するオイルがリブ34bに衝突し、オイルが回転軸線CL方向に移動する。また、回転軸線CL方向に移動したオイルは、オイルガイド34の先端からコイルエンド24aに向かって落下する。その結果、コイルエンド24aの鉛直方向の下端よりも上方に位置する部位からオイルが供給されるため、コイルエンド24aを広範囲に亘って冷却することができる。
【0062】
また、円弧部34aの周方向でリブ34bに隣接する部位であって、円弧部34aの鉛直方向の下端に接近する側には、円弧部34aの先端が凹むようにして切り欠かれた切欠52が形成されているため、リブ34bに衝突して電動機MGの回転軸線CL方向に移動したオイルが、リブ34bの先端を乗り越えた場合であっても、円弧部34aの切欠52によって形成された空間からオイルを強制的に落下させることができる。
【0063】
また、オイルガイド34の回転軸線CL方向の先端には、切欠50が形成されているため、鋳造後には連続した曲線状に形成されるオイルガイド34の先端が、切欠50によって不連続な形状となり、オイルがオイルガイド34の先端を乗り越えることが抑制される。その結果、オイルガイド34の先端からオイルが効率良く落下し、コイルエンド24aにオイルが適切に供給される。
【0064】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0065】
例えば、前述の実施例では、オイルガイド34は、冷却パイプ38の中心点CTと回転軸線CLとを結ぶ直線Mを中心にして左右対称に形成されていたが、必ずしも左右対称に形成する必要はなく、直線Mを中心にして左右非対称に形成されても構わない。
【0066】
また、前述の実施例では、オイルガイド34の円弧部34aは、回転軸線CL方向から見たとき、円弧の長さが半円よりも長く形成されていたが、必ずしもこれに限定されない。具体的には、円弧部34aの円弧の長さが半円よりも短く形成されていても構わない。
【0067】
また、前述の実施例では、鉛直方向で電動機MGの上方に配置された冷却パイプ38からオイルが放出されるように形成されていたが、本発明は、必ずしもこれに限定されない。例えば、電動機MGの上方に配置されているオイルケースに油路が形成され、その油路からオイルが放出されるように構成されていても構わない。要は、電動機MGの上方からオイルが供給される構造であれば、本発明に適用することができる。
【0068】
また、前述の実施例では、冷却装置10は、電動機MGの回転軸線CL方向の一方に形成されるコイルエンド24aを冷却するものであったが、電動機MGの回転軸線CL方向の他方に形成されるコイルエンド24bについても同様の構造で冷却されるものであっても構わない。
【0069】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
10:冷却装置
12:ステータ
14:ロータ
16:ロータシャフト(シャフト)
18:ステータコア
20:ステータコイル
22:モータケース
24a、24b:コイルエンド
30:軸受
32:軸受保持部
34:オイルガイド(冷媒ガイド)
34a:円弧部
34b:リブ
36:内周壁
38:冷却パイプ(冷媒通路、冷媒供給機構)
40:第1オイル放出穴(第2の冷媒放出穴)
42:第2オイル放出穴(冷媒放出穴)
50:切欠(第2の切欠)
52:切欠
MG:電動機