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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】金属帯コイルの吊り上げ装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 47/24 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
B21C47/24 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022052943
(22)【出願日】2022-03-29
(65)【公開番号】P2023145992
(43)【公開日】2023-10-12
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】大山 真之介
(72)【発明者】
【氏名】山口 誠
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-129380(JP,U)
【文献】特開2002-173107(JP,A)
【文献】実開昭63-113086(JP,U)
【文献】実開昭60-126478(JP,U)
【文献】実開昭50-033464(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 47/00-34
B66C 1/10-68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯コイルのコイル穴にコイルトングのフック部を挿入し当接させて吊り上げる金属帯コイルの吊り上げ装置において、
前記コイル穴の内面と当接する前記フック部の当接面の形状を変更する手段を有し、
前記当接面の形状を変更する手段が、前記コイルトングに着脱するアタッチメントであり、
前記アタッチメントは、前記当接面の曲率半径が前記金属帯コイルの内径に応じた複数の当接部材を備え、
前記複数の当接部材は、複数の曲率半径を1つずつ有する回転可能な複数の当接部材であることを特徴とする金属帯コイルの吊り上げ装置。
【請求項2】
前記複数の曲率半径は、前記当接面の接触面圧が許容応力以下となる曲率半径であることを特徴とする請求項に記載の金属帯コイルの吊り上げ装置。
【請求項3】
前記アタッチメントは、前記複数の当接部材を回転させるモーターを備えることを特徴とする請求項又はに記載の金属帯コイルの吊り上げ装置。
【請求項4】
前記金属帯コイルは、コイル重量15トン超の鋼帯コイルであることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の金属帯コイルの吊り上げ装置。
【請求項5】
金属帯コイルのコイル穴にコイルトングのフック部を挿入し当接させて吊り上げる金属帯コイルの吊り上げ方法において、
前記コイル穴の内面と当接する前記フック部の当接面の形状を変更する工程を有し、
前記当接面の形状を変更する工程が、前記コイルトングにアタッチメントを着脱するステップを含み、
前記当接面の形状を変更する工程が、前記アタッチメントにて前記当接面の曲率半径を前記金属帯コイルの内径に応じて変更するステップを含み、
前記当接面の曲率半径を前記金属帯コイルの内径に応じて変更するステップが、複数の曲率半径を1つずつ有する複数の当接部材を回転させる方法であることを特徴とする金属帯コイルの吊り上げ方法。
【請求項6】
前記複数の曲率半径は、前記当接面の接触面圧が許容応力以下となる曲率半径とすることを特徴とする請求項に記載の金属帯コイルの吊り上げ方法。
【請求項7】
前記複数の当接部材を回転させる方法はモーターによることを特徴とする請求項又はに記載の金属帯コイルの吊り上げ方法。
【請求項8】
前記金属帯コイルは、コイル重量15トン超の鋼帯コイルとすることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の金属帯コイルの吊り上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯コイルをクレーンで搬送する際に用いる、金属帯コイルの吊り上げ装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属帯コイルの搬送方法としては、コンベアによる搬送やクレーンによる搬送が広く知られており、中でもクレーンによる搬送は、移動の自由度が高く、輸送トラックへの積み込み・吊り降ろしに欠かせない手段である。
【0003】
一般に、クレーンによる搬送の際は、金属帯コイル(以下、単にコイルともいう)の搬送移動手段としてクレーンに設置されたコイルトングが使用される。ここで、コイルトング11とは、例えば図4に示すように、垂直部8と水平部(フック部ともいう)9からなる一対のL字型部材7を所有し、前記フック部9をコイル穴10(コイル20の芯穴)に両側から挿入し、コイル穴10の内面と接触(当接ともいう)させてコイル20を吊り上げる吊具のことである。コイルトング11はコイル穴10の内面と当接するフック部9の面である当接面5を有する。また、コイルトング11は、一対のL字型部材7を間隔可変に支持する支持枠体30を有し、支持枠体30は、クレーン(図示せず)で吊持されて昇降及び水平面内での回転・移動が可能である。
【0004】
コイルの搬送移動において留意すべきは、コイルトングによるコイルの損傷発生を防止することであり、このコイルの損傷発生の防止技術に関して、以下の提案がなされている。
【0005】
特許文献1では、フック部の先端に設けた複数の光電センサで、コイル穴内で内側の端部が垂れ下がってなる遮蔽物の無い位置を検知し、フック部の適正挿入位置として選定する旨開示されている。これにより、フック部との接触によるコイルの内側の端部の損傷発生を防止している。
【0006】
特許文献2では、フック部の表面を回転自由とする旨開示されている。これにより、フック部がコイル中心を通る垂直線上にない状態でコイルを吊り上げようとする場合にコイル穴の内面沿いにフック部がコイル穴の上端位置まで移動する際、滑り摩擦から転がり摩擦に変換し、擦り傷が発生するのを防止している。
【0007】
特許文献3では、鋼板コイルのコイル穴内面上部に当接する合成樹脂製の内面保護部、該内面保護部の軸方向の一端よりコイル半径方向に延設された合成樹脂製の側面保護部及び該側面保護部をコイル側面に吸着させる磁石吸着部からなる旨の鋼板コイル搬送用保護具が開示されている。これにより、コイル穴内面及びコイル側面の傷や凹みの発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開昭62-71180号公報
【文献】特開平7-81868号公報
【文献】実開平6-14173号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】機械工学ポケットブック(JR版)、昭和32年発行、オーム社、第77頁、第2・23表
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、コイル搬送に関しても自動化が進められている一方、コイルの種類は多様化しており、コイル幅は500~2000mm程度、重量は5~45ton、内径(コイル穴の直径)は419mm、508mm、610mm、650mmと、幅広く存在する。
【0011】
クレーンによるコイル搬送には、これらコイルをいつでも同じように、かつ一定の品質を保持して運搬することが求められる。しかし、コイル内径及びコイル重量が大きい場合に、コイルトングのフック部をコイル穴に挿入してクレーンにより吊り上げると、コイル穴の端部からコイル幅方向にかけて、フック部と当接した箇所にコイル穴の軸心方向に延びた線状疵が発生する問題があった。
【0012】
このような線状疵は、コイル穴の内面に遮蔽物が存在しない場合でも発生し、特許文献1の技術ではこの疵の発生は防止できない。
【0013】
また、この線状疵は、コイルトングとコイル穴内面との線接触によるもので、フック部のコイル穴への挿入位置がコイル中心を通る垂直線上にあっても発生し、特許文献2の技術でも防止できない。
【0014】
従来のコイルトングでは、フック部の当接面の形状は固定されており、これを変更する手段は有していない。
【0015】
因みに、特許文献2では、回転自由とされる当接面の形状は、半径一定の円筒の表面形状に固定されており、回転しても不変である。
【0016】
一方、特許文献3の技術では、コイルの内面と側面を合成樹脂製の保護具で保護するから、前記線状疵を含めた傷や凹みの発生を防止できる。しかし、前記保護具はコイルに装着されており、コイルの自動梱包時に取り外しに工数を要し、コイルの梱包作業効率を低下させる問題があった。
【0017】
また、従来のコイルトング11(図4参照)では、当接面5の形状は、特許文献2の場合も含め、コイル幅方向に垂直な断面が円弧になる形状であり、前記円弧の曲率半径は、複数の吊り上げ対象のコイル穴10の内面の曲率半径のうちの最小値未満の一定値に固定されている。
【0018】
上述の事情に鑑み、本発明は、コイルトングを用いる金属帯コイルの搬送において、コイルの梱包作業効率を低下させることなく、コイル穴の内面と、コイルトングのフック部との当接箇所に線状疵が発生することを防止できる金属帯コイルの吊り上げ装置及びこれを用いた方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記課題を解決するために、コイル穴の内面とフック部との当接箇所に発生する線状疵が、コイル内径及びコイル重量が大きい場合に発生する点に着目し、前記線状疵の発生原因を鋭意検討した。その結果、以下の知見を得るに至った。
(あ) 前記線状疵は、コイル搬送中に、コイル穴の内面とフック部との当接箇所の接触面圧が許容応力を超えた場合に発生する。ここで、許容応力とは、金属帯コイルの材料特性の一つである降伏応力を意味する。
(い) 吊り上げるコイルの内径に応じて、コイル穴の内面とフック部とが当接する箇所のフック部の形状を、前記当接箇所が線接触から面接触に移行して接触面積が拡大し、前記接触面圧が許容応力以下となるように調整変更することで、前記線状疵の発生を防止できる。
【0020】
本発明は、上述の知見に基き、さらに検討を加えてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1] 金属帯コイルのコイル穴にコイルトングのフック部を挿入し当接させて吊り上げる金属帯コイルの吊り上げ装置において、
前記コイル穴の内面と当接する前記フック部の当接面の形状を変更する手段を有することを特徴とする金属帯コイルの吊り上げ装置。
[2] 前記当接面の形状を変更する手段が、前記コイルトングに着脱するアタッチメントであることを特徴とする[1]に記載の金属帯コイルの吊り上げ装置。
[3] 前記アタッチメントは、前記当接面の曲率半径が前記金属帯コイルの内径に応じた複数の当接部材を備えることを特徴とする[2]に記載の金属帯コイルの吊り上げ装置。
[4] 前記複数の当接部材は、複数の曲率半径を1つずつ有する回転可能な複数の当接部材であることを特徴とする[3]に記載の金属帯コイルの吊り上げ装置。
[5] 前記複数の曲率半径は、前記当接面の接触面圧が許容応力以下となる曲率半径であることを特徴とする[4]に記載の金属帯コイルの吊り上げ装置。
[6] 前記アタッチメントは、前記複数の当接部材を回転させるモーターを備えることを特徴とする[4]又は[5]に記載の金属帯コイルの吊り上げ装置。
[7] 前記金属帯コイルは、コイル重量15トン超の鋼帯コイルであることを特徴とする[1]~[6]のいずれか1つに記載の金属帯コイルの吊り上げ装置。
[8] 金属帯コイルのコイル穴にコイルトングのフック部を挿入し当接させて吊り上げる金属帯コイルの吊り上げ方法において、
前記コイル穴の内面と当接する前記フック部の当接面の形状を変更する工程を有することを特徴とする金属帯コイルの吊り上げ方法。
[9] 前記当接面の形状を変更する工程が、前記コイルトングにアタッチメントを着脱するステップを含むことを特徴とする[8]に記載の金属帯コイルの吊り上げ方法。
[10] 前記当接面の形状を変更する工程が、前記アタッチメントにて前記当接面の曲率半径を前記金属帯コイルの内径に応じて変更するステップを含むことを特徴とする[9]に記載の金属帯コイルの吊り上げ方法。
[11] 前記当接面の曲率半径を前記金属帯コイルの内径に応じて変更するステップが、複数の曲率半径を1つずつ有する複数の当接部材を回転させる方法であることを特徴とする[10]に記載の金属帯コイルの吊り上げ方法。
[12] 前記複数の曲率半径は、前記当接面の接触面圧が許容応力以下となる曲率半径とすることを特徴とする[11]に記載の金属帯コイルの吊り上げ方法。
[13] 前記複数の当接部材を回転させる方法はモーターによることを特徴とする[11]又は[12]に記載の金属帯コイルの吊り上げ方法。
[14] 前記金属帯コイルは、コイル重量15トン超の鋼帯コイルとすることを特徴とする[8]~[13]のいずれか1つに記載の金属帯コイルの吊り上げ方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、コイル穴の内面と接触するフック部の当接面の形状例えば該当接面の曲率半径を金属帯コイルの内径に応じて当接面の接触面積を増加変更し、前記当接面の接触面圧が許容応力以下となるように調整することにより、コイル穴の内面の線状疵の発生を防止できる。また、コイルトング側に関しても、接触面圧を低減することで、補修頻度を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に用いるコイルトングの1例を示す概略図である。
図2】本発明に用いるコイルトングの別の1例を示す概略図である。
図3】コイル穴に対するフック部の当接面の曲率半径と計算した接触面圧の関係の1例(コイル内径650mmの場合)を示す図である。
図4】従来のコイルトングの1例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図1図2を適宜参照して説明する。なお、以下では、本発明に係る金属帯コイルの吊り上げ装置を本発明装置ともいい、本発明に係る金属帯コイルの吊り上げ方法を本発明方法ともいう。
【0024】
[金属帯コイル]
吊り上げ対象であるコイル20は例えば鋼帯コイルであり、コイル幅は500~2000mm、コイル重量は5~60ton、コイル内径は419~650mmである。鋼帯の板厚は0.4~3.2mm、材質(鉄鋼材料記号)は、例えばSS400、SPCC、SPFC980Y等であり、降伏応力は100~600N/mm2である。
金属帯コイルが鋼帯コイルであり、L字型部材7及び当接部材6が鋼製である場合、コイル重量15トン以下では、従来(当接面の曲率半径を最小コイル内径に応じた固定値(200mm)とする)と、本発明(当接面の曲率半径をコイル内径に応じて変更する)とで、接触面圧は共に許容応力以下であり、前記線状疵の防止効果に両者の差が現れない。前記線状疵の防止効果に両者に差が現れるのは、コイル重量15トン超である。
よって、本発明では、前記線状疵の防止効果の顕現性の観点から、金属帯コイルは、コイル重量15トン超の鋼帯コイルで特に、本発明の効果が発揮される。
【0025】
[本発明装置]
本発明装置は、コイル(金属帯コイル)20のコイル穴10にコイルトング1のフック部(水平部)9を挿入し当接させて吊り上げる金属帯コイルの吊り上げ装置において、コイル穴10の内面と当接するフック部9の面である当接面5の形状を変更する手段2を有する(図1図2)。ただし、本発明において、フック部9の当接面5とは、図1図2に示すとおり、手段2を介した当接面5を含む。
【0026】
[コイルトング及びフック部]
本発明に係るコイルトング1は、垂直部8とフック部9からなる一対のL字型部材7を所有し、フック部9をコイル穴10に両側から挿入し、フック部9をコイル穴10の内面と当接させてコイル20を吊り上げる吊具であるという点、及び一対のL字型部材7を間隔可変に支持する支持枠体30を有し、支持枠体30は、クレーン(図示せず)で吊持されて昇降及び水平面内での回転・移動が可能である点では従来のコイルトング11(図4)と同様である。L字型部材7は、鋼製である。また、フック部長さL(当接面5のコイル幅方向長さ)は、100~200mmである。
【0027】
[フック部の当接面の形状を変更する手段]
本発明装置では、当接面5の形状を変更する手段2を有することを特徴とする。
これにより、上述の知見(い)における、吊り上げるコイルの内径に応じて、前記接触面圧が許容応力以下となるように、当接面の形状をより面接触とし当接面の面積を増大するために、調整変更することが実現でき、前記線状疵の発生防止を達成できる。
【0028】
[アタッチメント]
本発明では、当接面5を線接触から面接触へ移行させるように当接面5の形状を変更する手段2は、コイルトング1に着脱するアタッチメント3であることが好ましい。
コイルトング1に着脱するアタッチメント3とは、コイルトング1に着脱可能な部材を指す。
アタッチメントが好ましいのは、当接面5の形状を変更する手段2をコイルトングに固定設置とする場合と比べ、製作費が低減でき、また、メンテナンス負荷も軽減できるからである。
この好ましい形態において、フック部9は、コイルトング1に装着したアタッチメント3を介してコイル穴の内面と当接する。
【0029】
[複数の当接部材]
当接面5の形状を、従来同様、コイル幅方向に垂直な断面が円弧になる形状とする場合、当接面5の形状は、前記円弧の曲率半径によって一義的に決まる。そこで、当接面5の形状をコイル20の内径と対応させるために、アタッチメント3は、当接面5の曲率半径がコイル20の内径に応じた複数の当接部材6を備えることが好ましい。これにより、複数の当接部材6を、吊り上げるコイル20の内径に応じて変更し、コイルとアタッチメントとの接触面積を増加させ当接面5の接触面圧を許容応力以下とすることが可能となる。
【0030】
[複数の曲率半径を有し回転可能であること]
複数の当接部材6は、その各々が前記複数の曲率半径を1つずつ有することが好ましい。複数の当接部材6が1つずつ有する曲率半径は互いに異なっていることが、種々のコイルの内径に対応することができるので好ましい。
複数の当接部材6は、各々特定の当接面5の曲率半径に対応した外周面を有し、各当接部材の外周面の曲率半径は、各外周面が鉛直上向きに配向されてコイル穴10の内面に当接したときに当接面5の曲率半径となる。
これにより、1つのアタッチメント3が、複数の曲率半径を1つずつ有する複数の当接部材6を有するものとなる。
【0031】
また、複数の当接部材6は回転可能であることが好ましい。ここで、回転とは、フック部9の中心軸周りの回転を意味する。当接部材6が回転可能であることにより、アタッチメント3を装着したまま当接部材6を鉛直上向きとなるように回転させて当接面5の曲率半径を適宜変更できる。このように当接部材6が回転可能とした場合は、当接部材6が回転不能の場合と比べ、コイル搬送の作業効率が向上するため好ましい。回転ができない構造である場合には、当接部材6を鉛直上向きに変向するには必然的にアタッチメント3の離脱・再装着を要する。
【0032】
なお、図1図2の実施形態では、4つの曲率半径R1=200mm、R2=240mm、R3=285mm、R4=300mmを、それぞれ4つの当接部材6(61~64)の各外周面の曲率半径としている。アタッチメント3は、フック部9と着脱可能に嵌合する固定部12と、円筒コロ14を介して固定部12と結合し固定部12の周りを回転する回転部13とを具備しており、4つの当接部材6(61~64)は、回転部13の外面の円周方向の4箇所に固定されている。
【0033】
[接触面圧及び許容応力]
前記複数の当接部材6の各曲率半径とすることにより、当接面5の接触面圧が許容応力以下となる曲率半径を適宜選定することが好ましい。これにより、コイル20の内径に応じて当接部材6を回転させ、当接面5の接触面圧が許容応力以下となるようにして、前記線状疵の発生を防止することができる。
【0034】
当接面5の接触面圧は式(1)に示すヘルツの式(非特許文献1第77頁参照)でPmaxとして計算される。
【0035】
【数1】
【0036】
ここで、Pmax:接触面圧[N/mm2]、F:荷重(フック部単位長さ当たりのコイル重量)[N/mm]、d1:コイル内径(金属帯コイルの内径)[mm]、d2:2×当接面の曲率半径[mm]、E1:コイルのヤング率[N/mm2]、E2:当接部材のヤング率[N/mm2]である。ここで、荷重F[N/mm]は、コイル重量M[ton]及びフック部長さL[mm](図1参照)から、F=9800M/(2L)の式で計算される。なお、フック部長さLは、当接面5のコイル穴の軸心方向の長さである。
【0037】
一方、許容応力は前述のとおりコイルの材料特性の一つである降伏応力であり、既知である。そこで、コイル内径ごとに、当接面の曲率半径(=d2/2)と式(1)で求めた接触面圧Pmaxの関係を用い、接触面圧Pmaxが許容応力以下となる当接面の曲率半径の範囲から複数の当接部材6が有する複数の曲率半径を選定すればよい。
【0038】
例えば、コイル内径が小(最小419mm)と大(最大650mm)の場合、当接面の曲率半径を従来通り最小内径の半分未満の200mmとし、式(1)で接触面圧を計算した結果を、入力変数及び許容応力と共に表1に示す。また、コイル穴内面の前記線状疵の有無の調査結果も併せて表1に示す。なお、コイルは鉄鋼材料記号SS400の鋼帯コイル、当接部材は鋼製である。
【0039】
【表1】
【0040】
表1より、当接面の曲率半径が200mmの場合、コイル内径が419mmでは接触面圧が許容応力以下で、線状疵は発生しないが、コイル内径が650mmでは接触面圧が約3倍となり許容応力を超えて、線状疵が発生することがわかる。
一方、図3には、最大のコイル内径(650mm)に対し、当接面の曲率半径を変化させたときの接触面圧の変化を示す。図3より、コイル内径650mmに応じて当接面の曲率半径を200mmから300mmに増大変更することで、接触面積が増大し、接触面圧は100N/mm2程度と、最小のコイル内径(419mm)に応じた当接面の曲率半径(200mm)の場合と同レベル(表1参照)まで低減する。このように、当接面の曲率半径をコイル内径に応じて変更し、接触面積を増大させて接触面圧を許容応力以下とすることにより、コイル穴内面の線状疵の発生を防止できる。
【0041】
[当接部材を回転させるモーター]
当接面の曲率半径を変更するアタッチメント3は、図1の例では複数の当接部材6が手動で回転する形態であるが、作業性及び安全性の点で、複数の当接部材6が自動で回転する形態がより好ましい。このより好ましい形態のアタッチメント3は、図2に例示するとおり、複数の当接部材6を回転させるモーター15を備える。モーター15は、電動モーター、エアモーター、油圧モーターのいずれでもよいが、特に好ましくは、当接部材6を所定の回転角度で断続回転させるため、起動後モーター軸が所定の角度だけ回転したら自動停止する動作が可能なモーターであるサーボモーター又はステッピングモーターが好ましい。
【0042】
[本発明方法]
本発明方法は、金属帯コイルのコイル穴にコイルトングのフック部を挿入し当接させて吊り上げる金属帯コイルの吊り上げ方法において、前記コイル穴の内面と当接する前記フック部の当接面の形状を変更する工程を有することを特徴とする。
【0043】
本発明方法の実施には、本発明装置を用いることが好ましい。したがって、本発明方法では、コイルトング11(図4)ではなくコイルトング1(図1図2)のフック部の当接部材の当接面5の形状を変更する工程を有することが好ましい。
【0044】
また、当接面5の形状を変更する前記工程は、コイルトング1にアタッチメント3を着脱するステップを含むことが好ましい。アタッチメント3は、フック部9がアタッチメント3を介してコイル穴10の内面と当接できるように装着する。
【0045】
また、当接面5の形状を変更する前記工程は、アタッチメント3にて当接面5の曲率半径をコイル20の内径に応じて変更するステップを含むことが好ましい。このステップでは、複数の当接部材6を備えるアタッチメント3を用いる。
【0046】
また、当接面5の曲率半径をコイル20の内径に応じて変更する前記ステップは、複数の曲率半径を1つずつ有する複数の当接部材6を回転させる方法であることが好ましい。この方法では、前記部材4として複数の曲率半径を1つずつ有する回転可能な複数の当接部材6を備えるアタッチメント3を用いる。これら複数の当接部材6を回転させ、いずれか1つの当接部材6の外周面を鉛直上方に向けることで、当接面5の曲率半径を変更できる。
【0047】
また、前記複数の曲率半径は、当接面5の接触面圧が許容応力以下となる曲率半径とすることが好ましい。これには、前記回転可能な複数の当接部材6の有する曲率半径を、当接面5の接触面圧が許容応力以下となる曲率半径としたアタッチメント3を用いる。
【0048】
また、前記複数の当接部材6を回転させる前記方法はモーター15によることが好ましい。これには、前記複数の当接部材6を回転させるモーター15を有するアタッチメント3を用いる。
【0049】
また、前述のとおり、前記線状疵の防止効果の顕現性の観点から、前記金属帯コイル20は、コイル重量15トン超の鋼帯コイルとすることが好ましい。
【実施例
【0050】
コイル内径d1がd11=419mm、d12=508mm、d13=610mm、d14=650mm、コイル重量Mが15トン、30トン、45トン、60トン、鉄鋼材料記号がSS400の鋼帯コイル(板厚=0.4~3.2mm、コイル幅=500~1800mm)を対象として、本発明を実施し、本発明例とした。
【0051】
本発明例では、図2に示した装置を用い、その際、コイルトング1は鋼製、アタッチメント3の当接部材6は鋼製とし、アタッチメント3の未装着時のフック部9の上端部表面の曲率半径は従来(図4)と同様200mmとした。当接部材61~64の各外周面の曲率半径R1~R4は前述のとおり200mm、240mm、285mm、300mmとし、フック部長さLは170mmとし、モーター15はステッピングモーターとした。鋼帯及び当接部材6のヤング率は205000N/mm2である。また、SS400の許容応力(降伏応力)σmaxは、235N/mm2である。曲率半径R1~R4は、それぞれコイル内径d1がd11~d14である場合に式(1)による接触面圧Pmaxの計算値が許容応力σmax(235N/mm2)を大幅に下回る約100N/mm2あるいはそれ未満になる当接面の曲率半径(=d2/2)から選定したものである。そして、当接部材61~64をそれぞれコイル内径d11~d14と対応付けた。
【0052】
コイル吊り上げに際し、アタッチメント3をフック部9に装着し、フック部9をコイル穴10へ挿入する前に、コイル内径がd11~d14のいずれであるかに応じて、それぞれ対応する当接部材(61~64のいずれか)の外周面が鉛直上方に向くように、当接部材6をモーター15にて回転させることにより、当接面5の曲率半径を変更し、その後フック部9をコイル穴10に挿入してコイル20を吊り上げるようにした。
【0053】
一方、本発明例において、コイルトング1からアタッチメント3及びモーター15を除去した装置(図4)を用い、それ以外は本発明例と同様とし、従来例とした。従来例では、フック部9にアタッチメント3を装着することなくコイル20を吊り上げる。
【0054】
本発明例及び実施例に係るコイルについて、クレーン搬送後にコイル穴内面を目視観察し、前記線状疵の有無を調査した。その調査結果を表2に示す。表2には、式(1)による接触面圧の計算条件・計算結果及び接触面圧と許容応力との比較結果も併せて示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2より、本発明例1~16ではいずれも、接触面圧Pmaxが許容応力σmax以下となり、線状疵は認められなかった。
【0057】
これに対し、従来例では、コイル重量60tonの時のコイル内径を508mm、610mm、650mmとした従来例2、3、4、コイル重量45tonの時のコイル内径を610mm、650mmとした従来例7、8及びコイル重量30tonの時のコイル内径を650mmとした従来例12において、接触面圧Pmaxは許容応力σmaxを超えており、いずれも線状疵が認められた。
【0058】
なお、コイル重量が15tonの時のコイル内径を508mm、610mm、650mmとした従来例14、15、16では、本発明例と同様、接触面圧Pmaxが許容応力σmax以下となり、線状疵は認められなかった。そこで、コイル重量15ton以下の場合は、本発明例11~14においてコイル内径に対応する当接部材61~64のいずれかの回転角度位置をフック部9の上端部位置に変更する代わりに、当接部材61の回転角度位置をフック部9の上端部位置に固定したままとする、又はアタッチメント3をフック部9から離脱させることによっても同様の効果が得られる。
【0059】
このように、本発明により、吊り上げるコイルの内径に応じて当接面の曲率半径を変更することにより、接触面圧を許容応力以下として線状疵の発生を防止できることが実証できた。
【符号の説明】
【0060】
1 コイルトング(本発明)
2 当接面の形状を変更する手段
3 アタッチメント
5 当接面(コイル穴の内面と当接するフック部の当接面)
6 当接部材(添字1~4は個々を識別するために付した)
7 L字型部材
8 垂直部
9 フック部(水平部)
10 コイル穴
11 コイルトング(従来)
12 固定部
13 回転部
14 円筒コロ
15 モーター
20 コイル(金属帯コイル)
30 支持枠体
図1
図2
図3
図4