(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】電波透過性金属調部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/20 20060101AFI20241106BHJP
C23C 18/31 20060101ALI20241106BHJP
C23C 18/44 20060101ALI20241106BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
C23C18/31 A
C23C18/44
C23C28/00 A
(21)【出願番号】P 2022066684
(22)【出願日】2022-04-14
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保山 大貴
(72)【発明者】
【氏名】村井 盾哉
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 大貴
(72)【発明者】
【氏名】塩野谷 美和子
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-155844(JP,A)
【文献】特開2007-71667(JP,A)
【文献】特表2013-517375(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113445034(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/20
C23C 18/31
C23C 18/44
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体上に形成したイオン交換樹脂層と、前記イオン交換樹脂層上に形成した金属粒子層とを有する金属調部材であって、
前記金属粒子層において、金属粒子間には隙間があり、
前記金属調部材の断面において、前記金属粒子の水平方向の最大長さa(nm)、前記金属粒子の垂直方向の最大長さb(nm)及び前記金属粒子が前記イオン交換樹脂層に埋まっている部分の垂直方向の長さc(nm)が、1.5nm≦a≦200nm、b/a≧1.25及びc≧0を満たし、
前記金属粒子の前記イオン交換樹脂層の底面に対する傾きθ(°)が、60°≦θ≦90°を満たす、
金属調部材。
【請求項2】
前記金属粒子の金属が、Ag、Al、Au、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、In、Co及びSnから選択される1種以上の金属である、請求項1に記載の金属調部材。
【請求項3】
前記金属粒子の金属がAgである、請求項2に記載の金属調部材。
【請求項4】
前記イオン交換樹脂層のイオン交換樹脂が、カルボキシル基及び/又はスルホ基を有する樹脂である、請求項1に記載の金属調部材。
【請求項5】
前記イオン交換樹脂層のイオン交換樹脂がポリアミック酸である、請求項4に記載の金属調部材。
【請求項6】
前記金属粒子の表面の少なくとも一部が、金属表面に吸着する高分子で被覆されている、請求項1に記載の金属調部材。
【請求項7】
前記金属表面に吸着する高分子の重量平均分子量が1万~36万である、請求項6に記載の金属調部材。
【請求項8】
前記金属表面に吸着する高分子が、ポリビニル系ポリマー、ポリエチレングリコール系ポリマー及びポリアクリル酸系ポリマーから選択される少なくとも1種である、請求項6又は7に記載の金属調部材。
【請求項9】
請求項1に記載の金属調部材の製造方法であって、
基体の表面にイオン交換樹脂層を形成することと、
前記イオン交換樹脂層を金属イオンを含む溶液で処理して、前記イオン交換樹脂層に前記金属イオンを導入することと、
前記金属イオンが導入されたイオン交換樹脂層を、0.1mM~500mMの金属表面に吸着する高分子及び0.01mM~10mMの還元剤を含む溶液で処理して、前記金属イオンを還元して金属粒子を前記イオン交換樹脂層の表面に析出させること
を含む、金属調部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波透過性金属調部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属調部材は、製品の表面に高輝度の金属光沢を付与し、高級感を与えることができるため、様々な製品に使用されている。金属調部材には、優れた金属光沢を有することに加えて、使用される製品に応じて種々の特性が必要とされる。このような特性の一つとして、電波透過性がある。例えば、自動車等に搭載されるミリ波レーダーは、ミリ波帯(波長1~10mmの電波)の電波を照射して障害物反射して戻ってくる時間を計測し、障害物との距離を測定する装置である。このミリ波レーダーに金属調部材を用いる場合、金属調部材には、優れた金属光沢及びミリ波透過性を有することが求められる。
【0003】
電波透過性を有する金属調部材として、例えば、特許文献1には、基体上に金属をスパッタして不連続膜を形成することにより作製された電磁波透過性金属光沢部材が開示されている。しかし、スパッタリングは、真空バッチ処理であるため、コストが高くなる。
【0004】
また、特許文献2には、樹脂基材上に金属被膜を形成する工程と、形成された金属被膜の一部を除去して規則的な島状の金属領域を形成する工程を含む、電磁波透過性の金属複合材料の製造方法が開示されている。特許文献2には、金属被膜の形成をスパッタリングや真空蒸着法により行うこと、また、金属被膜の一部の除去を、金属被膜の金属領域に対応する部位をマスキングしてエッチングすることにより行うことが開示されている。しかし、この製造方法は、工程数が多く複雑であり、さらに、エッチングの管理が難しく、目的の構造を得るのが困難である。
【0005】
また、特許文献3には、スパッタリングや蒸着とは異なる方法で作製した金属調フィルムが開示されている。
【0006】
しかし、従来の製造方法により作製された金属調部材においては、表面プラズモン共鳴が起こり、金属膜が可視光領域の特定波長の光を強く吸収し、金属本来の色味や光沢が損なわれてしまうことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-69462号公報
【文献】特開2010-251899号公報
【文献】特開2021-155844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の通り、従来の電波透過性金属調部材においては、金属本来の色味や光沢が損なわれてしまうことがあった。それ故、本発明は、優れた金属光沢を有する電波透過性金属調部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、高アスペクト比の金属粒子を基体に対して縦に方向させることで、可視光領域に特異な吸収のない、優れた金属光沢及び電波透過性を両立した金属調部材を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)基体と、前記基体上に形成したイオン交換樹脂層と、前記イオン交換樹脂層上に形成した金属粒子層とを有する金属調部材であって、
前記金属粒子層において、金属粒子間には隙間があり、
前記金属調部材の断面において、前記金属粒子の水平方向の最大長さa(nm)、前記金属粒子の垂直方向の最大長さb(nm)及び前記金属粒子が前記イオン交換樹脂層に埋まっている部分の垂直方向の長さc(nm)が、1.5nm≦a≦200nm、b/a≧1.25及びc≧0を満たし、
前記金属粒子の前記イオン交換樹脂層の底面に対する傾きθ(°)が、60°≦θ≦90°を満たす、金属調部材。
(2)前記金属粒子の金属が、Ag、Al、Au、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、In、Co及びSnから選択される1種以上の金属である、前記(1)に記載の金属調部材。
(3)前記金属粒子の金属がAgである、前記(2)に記載の金属調部材。
(4)前記イオン交換樹脂層のイオン交換樹脂が、カルボキシル基及び/又はスルホ基を有する樹脂である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の金属調部材。
(5)前記イオン交換樹脂層のイオン交換樹脂がポリアミック酸である、前記(4)に記載の金属調部材。
(6)前記金属粒子の表面の少なくとも一部が、金属表面に吸着する高分子で被覆されている、前記(1)~(5)のいずれかに記載の金属調部材。
(7)前記金属表面に吸着する高分子の重量平均分子量が1万~36万である、前記(6)に記載の金属調部材。
(8)前記金属表面に吸着する高分子が、ポリビニル系ポリマー、ポリエチレングリコール系ポリマー及びポリアクリル酸系ポリマーから選択される少なくとも1種である、前記(6)又は(7)に記載の金属調部材。
(9)前記(1)~(8)のいずれかに記載の金属調部材の製造方法であって、
基体の表面にイオン交換樹脂層を形成することと、
前記イオン交換樹脂層を金属イオンを含む溶液で処理して、前記イオン交換樹脂層に前記金属イオンを導入することと、
前記金属イオンが導入されたイオン交換樹脂層を、0.1mM~500mMの金属表面に吸着する高分子及び0.01mM~10mMの還元剤を含む溶液で処理して、前記金属イオンを還元して金属粒子を前記イオン交換樹脂層の表面に析出させること
を含む、金属調部材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、優れた金属光沢を有する電波透過性金属調部材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aは、本発明の金属調部材の一実施形態の断面模式図を示す。
図1Bは、本発明の金属調部材の一実施形態の部分拡大断面模式図を示す。
【
図2】
図2Aは、実施例3の金属調部材の断面のTEM画像を示す。
図2Bは、比較例1の金属調部材の断面のTEM画像を示す。
【
図3】
図3は、実施例3の金属調部材の3D-TEM像を示す。
【
図4】
図4は、実施例2、3及び比較例1の金属調部材の吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明は、表面にイオン交換樹脂層を有する基体と、該基体のイオン交換樹脂層側に形成した金属粒子層とを有する金属調部材に関する。すなわち、本発明の金属調部材は、基体と、該基体上に形成したイオン交換樹脂層と、該イオン交換樹脂層上に形成した金属粒子層とを有する。
【0015】
図1Aに、本発明の金属調部材の一実施形態の断面模式図を示す。
図1Aに示されるように、金属調部材10は、基体11と、基体11の上に形成したイオン交換樹脂層12と、イオン交換樹脂層12の上に形成した金属粒子13の層を有する。すなわち、金属調部材10は、基体11と、イオン交換樹脂層12と、金属粒子13の層が下からこの順に積層している。好ましい実施形態において、金属調部材10は、基体11と、基体11の上に直接積層したイオン交換樹脂層12と、イオン交換樹脂層12の上に直接積層した金属粒子13の層からなる。金属粒子層において、金属粒子間には隙間がある。金属調部材は、基体の両面にイオン交換樹脂層及び金属粒子層を有していてもよい。
【0016】
基体としては、特に限定されずに、基材フィルム、樹脂成型物基材、ガラス基材及び金属光沢を付与すべき物品を用いることができる。
【0017】
基材フィルムとしては、例えば、樹脂フィルムを用いることができる。樹脂フィルムとしては、透明のフィルムが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート及びアクリル等が挙げられ、ポリカーボネート及びアクリルが好ましい。また、樹脂フィルムとして、カルボキシル基及び/又はスルホ基等のイオン交換基に変換可能な基を有する樹脂を用いてもよい。このような樹脂としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリイミド及びポリスチレン等が挙げられ、官能基密度が高いポリイミドが好ましい。
【0018】
樹脂成型物基材としては、例えば、自動車のエンブレム用の樹脂等が挙げられる。金属光沢を付与すべき物品としては、例えば、スマートキーを設けた自動車のドアノブ、携帯電話筐体、パソコン筐体、冷蔵庫等が挙げられる。
【0019】
基体の厚さは、通常10μm~10mmであり、好ましくは10μm~5mmである。
【0020】
イオン交換樹脂層は、基体の表面に形成している。イオン交換樹脂は、金属イオンとイオン交換可能なイオン交換基を有するものであればよく、例えば、カルボキシル基及び/又はスルホ基を有する樹脂を用いることができる。イオン交換樹脂としては、ポリアミック酸、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体が好ましく、ポリアミック酸がより好ましい。イオン交換樹脂は、熱処理等によりイオン交換基が任意の形態に変換された形態であってもよい。例えば、ポリアミック酸は、熱処理により、脱水されてポリイミドに変換される。
【0021】
イオン交換樹脂層の厚さは、通常0.5μm~10μmであり、好ましくは0.7μm~1.5μmである。
【0022】
金属粒子層は、イオン交換樹脂層の表面に形成している。金属粒子の金属は、好ましくはAg、Al、Au、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、In、Co及びSnであり、高輝度を有するという観点から、より好ましくはAg、Al及びCrであり、特に好ましくはAgである。
【0023】
金属粒子層において、金属粒子は、例えば島状に形成しており、金属粒子間には隙間がある。すなわち、金属粒子層は金属粒子の不連続膜である。金属粒子間の隙間は、少なくとも一部の金属粒子間に存在していればよいが、好ましくは、各金属粒子間に隙間が存在する。金属粒子間の隙間は、通常1nm~1000nmであり、好ましくは1nm~100nmである。金属粒子間の隙間は、金属調部材の表面画像を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(5万倍)により取得した画像から、無作為に例えば100個抽出し、近接する粒子の中央部と中央部に直線を引き、直線状の隙間を画像解析ソフトImageJを用いて測定した平均の長さをいう。金属粒子間に隙間があることにより、金属調部材が優れた電波透過性を有する。
【0024】
本発明の金属調部材は、アスペクト比の高い金属粒子をイオン交換樹脂層及び基体に対して縦に配向させることを特徴とする。これにより、表面プラズモン共鳴による吸収ピークをシフトさせることができ、可視光領域に特異な吸収のない、金属本来の色味及び光沢を有する金属膜を得ることができる。
【0025】
図1Bに、本発明の金属調部材の一実施形態の部分拡大断面模式図を示す。
図1Bに示されるように、一実施形態において、金属粒子13は、イオン交換樹脂層12に埋まっている。金属粒子13はアスペクト比が高く、イオン交換樹脂層12及び基体(図示せず)に対して縦に配向している。一実施形態において、金属粒子13の表面の一部が、金属表面に吸着する高分子14で被覆されている。
図1Bにおいて、aは、金属粒子の水平方向の最大長さ(nm)を表し、bは、金属粒子の垂直方向の最大長さ(nm)を表し、cは、金属粒子がイオン交換樹脂層に埋まっている部分の垂直方向の長さ(nm)を表す。また、
図1Bにおいて、θは、金属粒子のイオン交換樹脂層の底面に対する傾き(°)を表す。
【0026】
本発明の金属調部材において、アスペクト比が高い金属粒子がイオン交換樹脂層及び基体に対して縦に配向していることは、金属粒子の垂直方向の最大長さb(nm)の水平方向の最大長さa(nm)に対する比b/a、及び金属粒子の傾きθ(°)を用いて表される。
【0027】
金属粒子の水平方向の最大長さaは、イオン交換樹脂層及び基体の表面に対して水平方向の最大の長さをいう。金属粒子の垂直方向の最大長さbは、イオン交換樹脂層及び基体の表面に対して垂直方向の最大の長さをいう。なお、金属粒子は、イオン交換樹脂層の底面に対して傾きθ(°)で傾いていてもよいため、垂直方向とは、イオン交換樹脂層及び基体の表面に対して90°の方向のみを意味するものではなく、傾きθ(°)に応じて60°~90°の方向であり得る。
【0028】
金属粒子の水平方向の最大長さa及び垂直方向の最大長さbは、金属調部材の断面画像を走査型透過電子顕微鏡(STEM)により取得し、5万倍の視野の中に存在する粒子を無作為に例えば100個抽出し、画像解析ソフトImageJを用いて長さを算出し、その平均値(数平均)を求めることにより決定することができる。また、金属粒子の水平方向の最大長さaについては、金属調部材の表面画像を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(5万倍)により取得し、粒子の最大直径の平均値(数平均)を求めることで決定することもできる。なお、金属粒子の水平方向の最大長さaは、STEM及びFE-SEMのいずれで測定しても同じ値になると考えられる。
【0029】
金属粒子の水平方向の最大長さa(nm)は、1.5nm≦a≦200nmである。長さaがこの範囲内であると、金属粒子が可視光を反射し、且つミリ波を透過することができ、電波透過性を有する。長さa(nm)は、好ましくは5nm≦a≦150nmであり、より好ましくは5nm≦a≦100nmであり、特に好ましくは5nm≦a<50nmである。
【0030】
金属粒子の垂直方向の最大長さb(nm)は、好ましくは1.9nm≦b≦500nmであり、より好ましくは10nm≦b≦100nmである。長さbがこの範囲内であると、金属本来の色味及び光沢を有する金属膜を得ることができる。
【0031】
金属粒子の垂直方向の最大長さbの水平方向の最大長さaに対する比b/a(アスペクト比とも記載する)は、b/a≧1.25であり、好ましくはb/a≧1.5であり、より好ましくはb/a≧2.0である。金属粒子のアスペクト比b/aが1.25以上であると、表面プラズモン共鳴による吸収ピークをシフトさせることで可視光領域の特定波長の吸収を抑制することができ、可視光領域に特異な吸収のない、金属本来の色味及び光沢を有する金属膜を得ることができる。
【0032】
金属粒子がイオン交換樹脂層に埋まっている部分の垂直方向の長さc(nm)はc≧0である。すなわち、金属粒子はイオン交換樹脂層の表面に接している(c=0)か、又はイオン交換樹脂層にその一部が埋まっている(c>0)。長さc(nm)は、高い耐久性を有するという観点から、好ましくはc>0である。長さc(nm)は、金属粒子の垂直方向の最大長さb(nm)より小さく(c<b)、好ましくはc<50nmであり、より好ましくはc<25nmであり、特に好ましくはc<10nmである。金属粒子の長さcは、長さa及び長さbと同様にして、金属調部材の断面画像を走査型透過電子顕微鏡(STEM)により取得し、5万倍の視野の中に存在する粒子を無作為に抽出し、画像解析ソフトImageJを用いて決定することができる。
図1Bに示されるように、金属粒子はその両端でイオン交換樹脂層の表面と接している。金属粒子の長さcは、断面画像において、イオン交換樹脂層中の粒子の底面を通る直線から、イオン交換樹脂層の表面と接する粒子の両端までの垂直方向(90°)の長さをそれぞれ算出し、例えば25個~50個の粒子についてその平均値(数平均)を求めることにより得られる。
【0033】
金属粒子のイオン交換樹脂層の底面(すなわち、基体側の面)に対する傾きθ(°)は、60°≦θ≦90°であり、好ましくは75°≦θ≦90°であり、より好ましくは80°≦θ≦90°である。金属粒子の傾きθをこの範囲内にすることにより、金属膜が金属本来の色味及び光沢を有することができる。
【0034】
金属粒子の傾きθは、金属粒子の長さの測定と同様にして、STEMにて取得したTEM画像をImageJで解析し、5万倍の視野の中に存在する粒子を無作為に例えば100個抽出し、金属粒子の垂直方向の中心軸がイオン交換樹脂層の底面となす角度を算出することにより求めることができる。金属粒子の垂直方向の中心軸は、金属粒子の垂直方向の最大長さbに相当する。
【0035】
アスペクト比の高い金属粒子が縦に配向した構造は、以下に説明する金属調部材の製造方法において、金属表面に吸着する高分子を用いることによって得ることができる。よって、好ましくは、金属粒子の表面の少なくとも一部は、金属表面に吸着する高分子で被覆されている。金属表面に吸着する高分子は金属の特定の結晶面に吸着するため、通常、金属粒子の表面の一部がこの高分子で被覆されている。
【0036】
金属表面に吸着する高分子の重量平均分子量は、金属表面への高い吸着性の観点から、好ましくは1万~36万であり、より好ましくは1万~10万である。
【0037】
金属表面に吸着する高分子としては、例えば、ポリマーの分子鎖構造中に窒素(N)、硫黄(S)又は酸素(O)の孤立電子対を有するポリマーを用いることができ、酸素の孤立電子対を有するポリマーが好ましい。金属の各結晶面では、原子の充填率が異なるため、結晶表面での電子状態が異なる。金属調部材の製造において、N、S又はOの孤立電子対を有するポリマーは、孤立電子対の電子を介して金属の特定の結晶面に吸着し、金属粒子のアスペクト比及び傾きを制御することができる。
【0038】
金属表面に吸着する高分子としては、特に限定されずに、例えば、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリビニルピロリドン等のポリビニル系ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリエピクロロヒドリン、ポリエピブロモヒドリン等のポリエチレングリコール系ポリマー、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸系ポリマー、及びエチレンジアミンとアクリル酸メチルの交互付加によって合成されるポリ(アミドアミン)デンドリマー等が挙げられるが、ポリビニル系ポリマー、ポリエチレングリコール系ポリマー及びポリアクリル酸系ポリマーが好ましく、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール及びポリアクリル酸ナトリウムがより好ましく、ポリビニルピロリドンが特に好ましい。
【0039】
金属調部材のL*値は、好ましくは75以上であり、高輝度を有する。金属調部材のL*値は、例えば、分光測色計を用いてSCI方式(正反射光込み)にて測定を行い、分光反射率R(λ)を、物体から反射する波長λの分光放射束と完全拡散反射面から反射する波長λの分光放射束との比(JIS Z 8722)によって求め、分光反射率R(λ)を用いて、国際照明委員会(CIE)が規定するCIE1976(L*、a*、b*)表色系の指標値L*を算出することにより決定することができる。
【0040】
金属調部材のa*値は、好ましくは-2~2であり、赤及び緑の色相に対する色味の変化が少ない。金属調部材のa*値は、L*値と同様にして測定することができる。
【0041】
金属調部材のb*値は、好ましくは-5~6であり、黄及び青の色相に対する色味の変化が少ない。金属調部材のb*値は、L*値と同様にして測定することができる。
【0042】
金属調部材は、好ましくは、a*値が-2~2であり、且つb*値が-5~6である。金属調部材がこの範囲内のa*値及びb*値を有すると、金属膜が金属本来の色味や光沢を有し、優れた金属光沢を有する。
【0043】
本発明は、前記の金属調部材の製造方法にも関する。本発明の金属調部材の製造方法は、基体の表面にイオン交換樹脂層を形成すること(工程1)と、イオン交換樹脂層を金属イオンを含む溶液で処理して、イオン交換樹脂層に金属イオンを導入すること(工程2)と、金属イオンが導入されたイオン交換樹脂層を、金属表面に吸着する高分子及び還元剤を含む溶液で処理して、金属イオンを還元して金属粒子をイオン交換樹脂層の表面に析出させること(工程3)を含む。
【0044】
工程1では、基体の表面にイオン交換樹脂層を形成する。基体としては、金属調部材について前記のものを用いることができる。
【0045】
工程1において、イオン交換樹脂層は、例えば、イオン交換樹脂を含む溶液(以下、イオン交換樹脂溶液とも記載する)を基体表面に塗布し、乾燥して溶媒を除去することにより形成することができる。イオン交換樹脂溶液の基体表面への塗布は、特に限定されずに、公知の塗布方法により行うことができ、例えば、ノズルフロー法、スプレー法、ディップ法、ロール法及びスピン法等を用いることができる。一実施形態において、ロール法を用いる場合、マイクログラビアコーターやドクターナイフコーターを用いることができる。
【0046】
イオン交換樹脂溶液の基体表面への塗布は、所望の厚さのイオン交換樹脂層が形成されるような条件で行えばよい。
【0047】
基体表面に塗布したイオン交換樹脂溶液の乾燥は、溶媒が十分に除去されるような条件で行えばよく、通常、10℃~120℃で0.5時間~4時間で行う。
【0048】
別の一実施形態において、イオン交換樹脂層は、基体の表面を改質することにより形成することもできる。この実施形態において、基体として、イオン交換基に変換可能な基を有する樹脂フィルムを用いることができる。このような樹脂フィルムとしては、加水分解可能な官能基を有し、加水分解により、イオン交換基を樹脂フィルム中に導入することができるものを用いることができる。このような樹脂フィルムとしては、加水分解により、カルボキシル基及び/又はスルホ基に変換可能な基を有する樹脂を用いることができ、例えば、ポリカーボネート、アクリル、ポリイミド等が挙げられ、官能基密度が高いポリイミドが好ましい。ポリイミドを用いた場合、加水分解により、イオン交換基としてカルボキシル基を有するポリアミック酸(ポリアミド酸とも呼ばれる)層が表面に形成する。また、樹脂フィルムとしてポリスチレンを用いることもでき、例えば、濃硫酸で表面をスルホン化することにより、スルホ基を有する層を表面に形成することができる。
【0049】
工程2では、イオン交換樹脂層を、金属イオンを含む溶液(以下、金属イオン溶液とも記載する)で処理する。この処理により、イオン交換樹脂層のイオン交換基が、イオン交換により金属イオンで置換され、イオン交換樹脂層に金属イオンが導入される。なお、イオン交換基は、金属イオンで完全に置換されていなくてもよく、一部がイオン交換基のまま残存していてもよい。
【0050】
金属イオンは、特に限定されずに、金属調部材について前記の金属のイオンであり、例えば、Ag、Al、Au、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、In、Co及びSnのイオンであり、高輝度を有するという観点から、好ましくはAg、Al及びCrのイオンであり、より好ましくはAgイオンである。
【0051】
金属イオン溶液は、該金属イオンを含む溶液であればよい。金属イオン溶液としては、特に限定されずに、金属イオンの塩溶液を用いることができ、塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、酢酸塩及びリン酸塩等が挙げられる。
【0052】
金属イオン溶液の濃度は、通常1mM(mmol/l)~500mMであり、好ましくは50mM~150mMである。
【0053】
金属イオン溶液による処理は、例えば、イオン交換樹脂層が表面に形成した基体を金属イオン溶液に浸漬することによって行うことができる。金属イオン溶液による処理条件は、処理温度は、好ましくは10℃~50℃であり、より好ましくは20℃~30℃であり、処理時間は、好ましくは1分~60分であり、より好ましくは15分~45分である。
【0054】
工程3では、金属イオンが導入されたイオン交換樹脂層を、金属表面に吸着する高分子及び還元剤を含む溶液で処理する。この処理により、金属イオンが金属に還元されて、金属粒子がイオン交換樹脂層の表面に析出する。金属イオンは還元剤が存在するイオン交換樹脂層表面に拡散し、金属へと還元されるため、得られる金属調部材は、基体と、その上に形成したイオン交換樹脂層と、その上に形成した金属粒子層を有する。一実施形態において、金属粒子の表面の少なくとも一部が、金属表面に吸着する高分子で被覆されている。
【0055】
工程3において、金属表面に吸着する高分子を還元剤と共に用いることにより、アスペクト比の高い金属粒子をイオン交換樹脂層及び基体に対して縦に配向させることができる。また、金属表面に吸着する高分子を用いることにより、この高分子が金属粒子の表面の少なくとも一部を被覆するため、この高分子により金属粒子を保護することができる。このため、例えば、金属粒子を保護するための樹脂層等を設ける場合に、前処理の必要がなく、工程数を減らすことができる。
【0056】
金属表面に吸着する高分子については、金属調部材について前記の通りである。
【0057】
金属表面に吸着する高分子及び還元剤を含む溶液中の該高分子の濃度は、0.1mM~500mMであり、好ましくは0.1mM~30mMである。金属表面に吸着する高分子の濃度が、0.1mM以上であると、金属粒子のアスペクト比を本発明の特定の範囲に制御することができ、金属膜が優れた金属光沢を有し、500mM以下であると、金属イオンを金属粒子に確実に還元することができる。
【0058】
還元剤としては、特に限定されずに、リン酸系化合物、水素化ホウ素化合物及びヒドラジン誘導体等を挙げることができる。リン酸系化合物としては、次亜リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等が挙げられる。また、水素化ホウ素化合物としては、メチルヘキサボラン、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、モルホリンボラン、ピリジンアミンボラン、ピペリジンボラン、エチレンジアミンボラン、エチレンジアミンビスボラン、t-ブチルアミンボラン、イミダゾールボラン、メトキシエチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。また、ヒドラジン誘導体としては、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン等のヒドラジン塩や、ピラゾール類、トリアゾール類、ヒドラジド類等のヒドラジン誘導体等を用いることができる。これらの中で、ピラゾール類としては、ピラゾールの他に、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-ピラゾロン等のピラゾール誘導体を用いることができる。また、トリアゾール類としては、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール等を用いることができる。また、ヒドラジド類としては、アジピン酸ヒドラジド、マレイン酸ヒドラジド、カルボヒドラジド等を用いることができる。還元剤は、好ましくはジメチルアミンボラン(DMAB)である。
【0059】
金属表面に吸着する高分子及び還元剤を含む溶液中の還元剤の濃度は、0.01mM~10mMであり、好ましくは0.1mM~5mMである。還元剤の濃度が、0.01mM以上であると、金属粒子とイオン交換樹脂層との密着力が高くなり、耐久性及び耐摩耗性が高くなり、10mM以下であると、金属粒子層を、金属粒子間に隙間のある不連続膜とすることができるため、金属膜が優れた電波透過性を有する。
【0060】
金属表面に吸着する高分子及び還元剤を含む溶液中の還元剤と該高分子のモル濃度比(還元剤:高分子)は、通常1:0.01~1:50000であり、好ましくは1:0.05~1:500である。
【0061】
金属表面に吸着する高分子及び還元剤を含む溶液による処理は、例えば、イオン交換樹脂層を表面に有する基体をこの溶液に浸漬することによって行うことができる。処理条件は、処理温度は、通常10℃~60℃であり、好ましくは25℃~50℃であり、処理時間は、通常10秒~60分であり、好ましくは30秒~30分である。還元剤の還元力に応じて処理時間と処理温度を調整することにより、析出する金属粒子間に隙間があり、金属粒子が所定の長さを有する金属膜が得られる。
【0062】
金属表面に吸着する高分子及び還元剤を含む溶液による処理は、好ましくは、溶液を攪拌しながら行う。この処理において、溶液の攪拌速度を変更することにより、金属粒子の傾きθを調整することができる。具体的には、溶液の攪拌速度が速いと、流れに沿った方向に粒子が成長し、金属粒子の傾きθがより小さくなる傾向がある。よって、金属表面に吸着する高分子及び還元剤を含む溶液による処理は、この溶液を、金属粒子の傾きθが60°≦θ≦90°となるように攪拌しながら行うことができる。一実施形態において、高分子及び還元剤を含む溶液を攪拌子を用いて攪拌する場合、回転速度が0rpm~1250rpm(好ましくは0rpm~500rpm)であると、金属粒子の傾きθを60°≦θ≦90°とすることができる。好ましい実施形態において、高分子及び還元剤を含む溶液を攪拌子を用いて攪拌する場合、回転速度が0rpm~300rpmであると、金属粒子の傾きθを80°≦θ≦90°とすることができる。溶液の攪拌条件は、他の処理条件も考慮したうえで、目的の金属粒子の傾きθが達成されるように適宜選択できる。
【0063】
本発明の金属調部材の製造方法は、工程3の後に、熱処理する工程4をさらに含んでいてもよい。この処理により、イオン交換樹脂層を任意の形態に変換することができる。一実施形態において、イオン交換樹脂がカルボキシル基及び/又はスルホ基を含む場合、熱処理することにより、これらの基が脱水される。例えば、ポリアミック酸は、熱処理によりポリイミドに変換される。熱処理温度は、通常100℃~300℃である。
【0064】
本発明の金属調部材は、電波透過性及び優れた金属光沢を有するため、電波透過性が必要な製品用の金属調部材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
実施例1
ポリカーボネート(PC)製フィルム(厚さ400μm、住化アクリル販売社製、テクノロイ(登録商標)C000)の表面に、ポリアミック酸溶液(I.S.T社製、Pyre-M.L.(登録商標)RC-5019)250μLを、1000rpmで15秒の後、3000rpmで60秒の条件でスピンコートし、40℃で1時間真空乾燥して、ポリカーボネートフィルムの表面にポリアミック酸層を形成した。
【0067】
硝酸銀(AgNO3)(ナカライテスク社製、31018-14)を純水に溶解して、100mMのAgNO3溶液を調製した。フィルムの表面を水洗した後、フィルムをAgNO3溶液に室温で30分間浸漬して、イオン交換により、ポリアミック酸層にAgイオンを導入した。
【0068】
ジメチルアミンボラン(DMAB)(Wako製、028-08401)を純水に溶解させ、この溶液に、重量平均分子量10000のポリビニルピロリドン(PVP)を添加し、混合して、1.5mMのDMAB及び0.1mMのPVPの混合溶液を調製した。DMABとPVPの混合溶液中に攪拌子を入れて、混合溶液を200rpmの回転速度で攪拌しながら、フィルムを混合溶液に30℃で10分間浸漬して、Agイオンを還元して、Ag粒子をポリアミック酸層の表面に析出させた後、フィルムを水洗し、乾燥して、金属調部材を得た。
【0069】
実施例2
DMABとPVPの混合溶液中のPVP濃度を1.0mMに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2の金属調部材を得た。
【0070】
実施例3
DMABとPVPの混合溶液中のPVP濃度を5.0mMに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例3の金属調部材を得た。
【0071】
実施例4
DMABとPVPの混合溶液中のPVP濃度を500mMに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例4の金属調部材を得た。
【0072】
実施例5
DMABとPVPの混合溶液中のDMAB濃度を0.01mMに変更した以外は実施例3と同様にして、実施例5の金属調部材を得た。
【0073】
実施例6
DMABとPVPの混合溶液中のDMAB濃度を0.05mMに変更した以外は実施例3と同様にして、実施例6の金属調部材を得た。
【0074】
実施例7
DMABとPVPの混合溶液中のDMAB濃度を10mMに変更した以外は実施例3と同様にして、実施例7の金属調部材を得た。
【0075】
実施例8
PVPの重量平均分子量を40000に変更した以外は実施例3と同様にして、実施例8の金属調部材を得た。
【0076】
実施例9
PVPの重量平均分子量を360000に変更した以外は実施例3と同様にして、実施例9の金属調部材を得た。
【0077】
実施例10
フィルムをDMABとPVPの混合溶液に浸漬させるときの混合溶液の回転速度を1000rpmに変更して、金属粒子の傾きθを75°に変更した以外は実施例3と同様にして、実施例10の金属調部材を得た。
【0078】
実施例11
フィルムをDMABとPVPの混合溶液に浸漬させるときの混合溶液の回転速度を1250rpmに変更して、金属粒子の傾きθを60°に変更した以外は実施例3と同様にして、実施例11の金属調部材を得た。
【0079】
比較例1
DMABとPVPの混合溶液をDMAB溶液に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例1の金属調部材を得た。
【0080】
比較例2
DMABとPVPの混合溶液中のPVP濃度を5000mMに変更した以外は実施例1と同様にして、比較例2の金属調部材を得た。
【0081】
比較例3
DMABとPVPの混合溶液中のDMAB濃度を100mMに変更した以外は実施例3と同様にして、比較例3の金属調部材を得た。
【0082】
比較例4
フィルムをDMABとPVPの混合溶液に浸漬させるときの混合溶液の回転速度を1500rpmに変更して、金属粒子の傾きθを55°に変更した以外は実施例3と同様にして、比較例4の金属調部材を得た。
【0083】
実施例1~11及び比較例1~4の金属調部材について、以下の測定を行った。
【0084】
色差測定
L*、a*及びb*を以下の通りにして測定した。分光反射率R(λ)を、物体から反射する波長λの分光放射束と完全拡散反射面から反射する波長λの分光放射束との比(JIS Z 8722)によって求めた。分光測色計として、村上色彩技術研究所社製のCMS-35SPを用い、SCI方式(正反射光込み)にて測定を行った。
【0085】
計算した分光反射率R(λ)を用いて、国際照明委員会(CIE)が規定するCIE1976(L*、a*、b*)表色系の各指標値L*、a*、b*を算出した。ここで、L*値は色の明度を記述する指標である。L*値が大きいほど色が明るいことを示す。a*値は色の赤と緑の色相に対する強度を記述する指標である。a*値が大きいほど(正の値)赤の色相を示し、a*値が小さいほど(負の値)緑の色相を示す。b*値は黄と青の色相に対する強度を記述する指標である。b*値が大きいほど(正の値)黄の色相を示し、b*値が小さいほど(負の値)青の色相を示す。
【0086】
吸収スペクトルの測定
式:吸収率(%)=100%-(透過率(%)+反射率(%))を用いて、380nm~780nmの可視光領域において吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトルは、分光光度計(島津製作所社製、UV-3600i Plus)を用いて、スペクトルバンド幅2nm、波長スキャン速度1000nm/分で測定した。なお、透過率は、分光光度計を光源と(サンプルを介して)反対側に設置して測定し、反射率は、分光光度計を光源側に設置して測定した。
【0087】
金属粒子の長さa、b
Ag粒子の水平方向の最大長さa(nm)及び垂直方向の最大長さb(nm)は、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて以下の通りにして測定した。具体的には、金属調部材断面を走査型透過電子顕微鏡(日本電子社製、JEM-ARM300F)にて画像取得を行い、5万倍の視野の中に存在する粒子を無作為に100個抽出し、各粒子の外縁を楕円形で囲み、画像解析ソフトImageJを用いて、水平方向の最大長さa(nm)及び垂直方向の最大長さb(nm)を算出し、その平均値を求めた。
【0088】
金属粒子が埋まっている部分の長さc
Ag粒子がポリアミック酸層に埋まっている部分の垂直方向の長さcは、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて以下の通りにして測定した。金属調部材の断面のTEM画像からポリアミック酸層の表面を確認し、ポリアミック酸層の表面と接する粒子の両端を通る直線を引いた。なお、TEM画像において、ポリアミック酸層とAg粒子はコントラストが異なるので、ポリアミック酸層の表面を視認可能であるが、表面が見つかりにくい場合には、画像処理でコントラストを調整するか、又はEDXにてN原子の検出をすることで境界を明確にすることができる。次に、ポリアミック酸層中のAg粒子の底面を通る直線を引き、この直線からポリアミック酸層の表面と接する粒子の一端に対して垂直(90°)に線を引き、その長さ(長さc)を計測し、粒子の他端に対しても同様にしてその長さを計測した。これを無作為に50~100箇所について行い、平均値を算出した。
【0089】
金属粒子の傾きθ
金属粒子(Ag粒子)がイオン交換樹脂層(ポリアミック酸層)の底面となす角度を、金属粒子の傾きθとして測定した。金属粒子の長さa、bと同様にして、STEMにて取得した金属調部材の断面のTEM画像をImageJで解析し、5万倍の視野の中に存在する粒子を無作為に100個抽出し、ポリアミック酸層の底面と、粒子の垂直方向の中心軸のなす角度を算出した。ここで、粒子の中心軸とは、粒子の上部の中心と下部の中心を通るように引いた軸のことをいい、金属粒子の垂直方向の最大長さbに相当する。
【0090】
3D-TEM
金属調部材の断面を走査型透過電子顕微鏡(Thermo Fisher Scientific社製、Talos F200X)にて1度ずつ回転させながら画像取得を行い、それらを合成することで像を得た。
【0091】
ミリ波減衰量
金属調部材のミリ波減衰量を測定して、ミリ波透過性を評価した。ミリ波減衰量は、ホーンアンテナを有するミリ波特性測定装置を用いて、一方向減衰量測定を行い、得られた測定値を2倍にすることで求めた。具体的には、送信側のホーンアンテナからミリ波を測定サンプルに照射し、サンプルを通過して受信側のホーンアンテナに入射するミリ波の強度を測定して、一方向の減衰量を決定した。送信側と受信側のホーンアンテナ間の距離は95cmとした。サンプルは、送信側のホーンアンテナに対する仰角を17°とし、サンプルと送信側のホーンアンテナ間の距離を約40mmとして設置した。測定は、車載用のミリ波レーダーの適用周波数である77GHzで行った。
【0092】
図2Aに、実施例3の金属調部材の断面のTEM画像を示し、
図2Bに、比較例1の金属調部材の断面のTEM画像を示す。また、
図3に、実施例3の金属調部材の3D-TEM像を示す。
図2A、
図2B及び
図3に示されるように、実施例3の金属調部材では、比較例1の金属調部材と比較して高アスペクト比のAg粒子が、ポリアミック酸層及びその下のPC製フィルムに対して縦に配向しており、各Ag粒子間には隙間があった。
【0093】
実施例1~11及び比較例1~4の金属調部材について、製造条件及び評価結果を表1に示す。表1において、ミリ波透過性は、ミリ波減衰量が往復0.2dB以下を良好(〇)とし、0.2dB超を不良(×)と判定した。また、表1において、判定は、ミリ波透過性が良好(〇)であり、且つ75≦L*、-2<a*<2及び-5<b*≦6の全てを満たし、色相の変化が十分に少ないときを良好(〇)と判定し、これらの少なくとも1つを満たさないときを不良(×)と判定した。なお、比較例2では、Ag粒子層が形成しなかったため、不良と判定した。
【0094】
【0095】
表1に示されるように、PVPを用いていない比較例1では、b/a<1.25であり、金属膜のa*値が6.5であり、b*値が8であり、赤み及び黄色みがかった色相となっており、金属膜が金属本来の色味や光沢を有していなかった。一方、PVPを用いた実施例1~11では、b/a≧1.25であり、金属膜の色相の変化が少なく、金属膜が金属本来の色味や光沢を有し、優れた金属光沢を有していた。比較例1及び実施例1~11より、色相の変化が少ない金属膜を得るためには、還元工程において、金属表面に吸着するPVPを用いて、金属粒子が、b/a≧1.25を満たす高アスペクト比を有することが必要であることが示された。
【0096】
実施例1~4及び比較例2より、DMABとPVPの混合溶液中のPVP濃度が0.1mM~500mMである(実施例1~4)と、AgイオンからAg粒子へと確実に還元されるが、PVPの濃度が5000mMである(比較例2)と、AgイオンからAg粒子へと還元されず、Ag粒子層が形成しないことが示された。実施例3、8及び9より、PVPの重量平均分子量10000~360000の範囲において、Ag粒子が高アスペクト比を有し、金属膜が優れた金属光沢を有することが示された。
【0097】
実施例3、5~7及び比較例3より、DMABとPVPの混合溶液中のDMAB濃度が0.01mM~10mMである(実施例3、5~7)と、還元剤の還元力が適切な範囲であるため、Ag粒子層が不連続膜となり、金属調部材が優れたミリ波透過性を有するが、DMAB濃度が100mMである(比較例3)と、還元剤の還元力が強すぎるため、Ag粒子層が連続膜となり、金属調部材のミリ波透過性が悪化することが示された。
【0098】
実施例3、10、11及び比較例4より、金属粒子の傾きθの範囲が60°~90°であると、金属膜のb*値が6以下であり、黄色みがより少ない色相となり、金属本来の色味や光沢を有することが示された。
【0099】
図4に、実施例2、3及び比較例1の金属調部材の吸収スペクトルを示す。
図4に示されるように、比較例1では、金属膜が可視光領域の特定波長(380nm~480nm)の光を強く吸収し、金属膜の色味に変化が生じるが、実施例2及び3の金属調部材は、可視光領域に特異な吸収がなく、金属膜の色味の変化が少なく、金属本来の色味や光沢を有していた。
【符号の説明】
【0100】
10:金属調部材、11:基体、12:イオン交換樹脂層、13:金属粒子、14:金属表面に吸着する高分子、a:金属粒子の水平方向の最大長さ(nm)、b:金属粒子の垂直方向の最大長さ(nm)、c:金属粒子がイオン交換樹脂層に埋まっている部分の垂直方向の長さ(nm)、θ:金属粒子のイオン交換樹脂層の底面に対する傾き(°)