(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】車両用制御装置、車両、車両用制御方法、及び車両用制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/42 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
B60Q1/42 A
(21)【出願番号】P 2022086360
(22)【出願日】2022-05-26
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小杉 利彦
(72)【発明者】
【氏名】草間 航
【審査官】谷口 東虎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-088601(JP,A)
【文献】特開2007-235690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターンシグナルをキャンセルするためのタイヤの切れ角の推移条件を車速に基づいて設定する設定部と、
前記ターンシグナルが点灯状態においてステアリングが操舵されることにより、タイヤの切れ角が、前記設定部により設定された前記推移条件を満たす場合に、前記ターンシグナルを消灯状態に制御
し、かつタイヤの切れ角が、予め定めた異常時条件を満たす場合は、タイヤの切れ角の異常を報知してステアリングの予め定めた操舵角を閾値として前記ターンシグナルを消灯し、タイヤの切れ角が前記異常時条件を満たさなくなった場合に前記異常の報知を終了する制御部と、
を備える車両用制御装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記車速が低いほど大きい前記切れ角を含む前記推移条件に設定する請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
予め定めた第1切れ角を超えて予め定めた第2切れ角以下になることを前記推移条件とし、前記設定部は、前記第1切れ角、または前記第1切れ角及び前記第2切れ角を前記車速に基づいて設定する請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、ステアリングの操舵角と前記切れ角の関係が車速に基づいて変化する車両用操舵装置を搭載した車両の前記ターンシグナルを制御する請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
ターンシグナルをキャンセルするためのタイヤの切れ角の推移条件を車速に基づいて設定する設定部と、
前記ターンシグナルが点灯状態においてステアリングが操舵されることにより、タイヤの切れ角が、前記設定部により設定された前記推移条件を満たす場合に、前記ターンシグナルを消灯状態に制御
し、かつタイヤの切れ角が、予め定めた異常時条件を満たす場合は、タイヤの切れ角の異常を報知してステアリングの予め定めた操舵角を閾値として前記ターンシグナルを消灯し、タイヤの切れ角が前記異常時条件を満たさなくなった場合に前記異常の報知を終了する制御部と、
を備える車両用制御装置を搭載した車両。
【請求項6】
コンピュータが、
ターンシグナルをキャンセルするためのタイヤの切れ角の推移条件を車速に基づいて設定し、
前記ターンシグナルが点灯状態においてステアリングを操舵することにより、タイヤの切れ角が、設定された前記推移条件を満たす場合に、前記ターンシグナルを消灯状態に制御
し、かつタイヤの切れ角が、予め定めた異常時条件を満たす場合は、タイヤの切れ角の異常を報知してステアリングの予め定めた操舵角を閾値として前記ターンシグナルを消灯し、タイヤの切れ角が前記異常時条件を満たさなくなった場合に前記異常の報知を終了する処理を行う車両用制御方法。
【請求項7】
コンピュータに、
ターンシグナルをキャンセルするためのタイヤの切れ角の推移条件を車速に基づいて設定し、
前記ターンシグナルが点灯状態においてステアリングを操舵することにより、タイヤの切れ角が、設定された前記推移条件を満たす場合に、前記ターンシグナルを消灯状態に制御
し、かつタイヤの切れ角が、予め定めた異常時条件を満たす場合は、タイヤの切れ角の異常を報知してステアリングの予め定めた操舵角を閾値として前記ターンシグナルを消灯し、タイヤの切れ角が前記異常時条件を満たさなくなった場合に前記異常の報知を終了する処理を実行させるための車両用制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターンシグナルの点灯及び消灯を制御する車両用制御装置、車両、車両用制御方法、及び車両用制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、操舵角が車両の直進時の操舵角である基準角度を基準としてキャンセル準備角を越えた後のステアリングの操舵角の増大に応じて、キャンセル角を大きく設定することにより、右左折後の道路がカーブしていても適切なタイミングにてターンシグナルを自動消灯させるターンシグナル点灯制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
小舵角で大きな切れ角を得られる車両では、レーンチェンジ時や路肩への停車時などのシーンにおいて、運転者の意図しないタイミングでターンシグナルがキャンセルされてしまう可能性がある。特に、ステアリングと転舵輪の間に機械的な結合を持たないステアバイワイヤ式の車両などの、従来の車両に比べて小さな操舵角で大きなタイヤの切れ角を得られるシステムの場合は、より顕著に意図しないタイミングでターンシグナルがキャンセルされる可能性がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して成されたもので、運転者の意図しないタイミングでのターンシグナルのキャンセルを抑制可能な車両用制御装置、車両、車両用制御方法、及び車両用制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様に係る車両用制御装置は、ターンシグナルをキャンセルするためのタイヤの切れ角の推移条件を車速に基づいて設定する設定部と、前記ターンシグナルが点灯状態においてステアリングが操舵されることにより、タイヤの切れ角が、前記設定部により設定された前記推移条件を満たす場合に、前記ターンシグナルを消灯状態に制御し、かつタイヤの切れ角が、予め定めた異常時条件を満たす場合は、タイヤの切れ角の異常を報知してステアリングの予め定めた操舵角を閾値として前記ターンシグナルを消灯し、タイヤの切れ角が前記異常時条件を満たさなくなった場合に前記異常の報知を終了する制御部と、を備える。
【0007】
第1態様によれば、設定部では、ターンシグナルをキャンセルするためのタイヤの切れ角の推移条件が車速に基づいて設定される。
【0008】
制御部では、ターンシグナルが点灯状態においてステアリングが操舵されることにより、タイヤの切れ角が、設定部により設定された推移条件を満たす場合に、ターンシグナルが消灯状態に制御され、かつタイヤの切れ角が、予め定めた異常時条件を満たす場合は、タイヤの切れ角の異常が報知されてステアリングの予め定めた操舵角を閾値としてターンシグナルが消灯され、タイヤの切れ角が異常時条件を満たさなくなった場合に異常の報知が終了される。これにより、ステアバイワイヤ方式の車両などの、従来の車両に比べて小さな操舵角で大きなタイヤの切れ角を得られるシステムであっても運転者の意図しないタイミングでのターンシグナルのキャンセルを抑制できる。
【0009】
第2態様に係る車両用制御装置は、第1態様に係る車両用制御装置において、前記設定部は、前記車速が低いほど大きい前記切れ角を含む前記推移条件に設定する。
【0010】
第2態様によれば、車速が低いときにステアリングを切りすぎて修正操作を行うような場合であっても意図しないターンシグナルのキャンセルを抑制できる。
【0011】
第3態様に係る車両用制御装置は、第1態様又は第2態様に係る車両用制御装置において、予め定めた第1切れ角を超えて予め定めた第2切れ角以下になることを前記推移条件とし、前記設定部は、前記第1切れ角、または前記第1切れ角及び前記第2切れ角を前記車速に基づいて設定する。
【0012】
第3態様によれば、運転者の意図しないターンシグナルのキャンセルを抑制可能な推移条件を設定できる。
【0013】
第4態様に係る車両用制御装置は、第1態様~第3態様の何れか1の態様に係る車両用制御装置において、前記制御部は、ステアリングの操舵角と前記切れ角の関係が車速に基づいて変化する車両用操舵装置を搭載した車両の前記ターンシグナルを制御する。
【0014】
第4態様によれば、ステアリングと転舵輪の間に機械的な結合を持たないステアバイワイヤ式の車両用操舵装置を搭載した車両において、運転者の意図しないタイミングでのターンシグナルのキャンセルを抑制できる。
【0015】
なお、ターンシグナルをキャンセルするためのタイヤの切れ角の推移条件を車速に基づいて設定する設定部と、前記ターンシグナルが点灯状態においてステアリングが操舵されることにより、タイヤの切れ角が、前記設定部により設定された前記推移条件を満たす場合に、前記ターンシグナルを消灯状態に制御し、かつタイヤの切れ角が、予め定めた異常時条件を満たす場合は、タイヤの切れ角の異常を報知してステアリングの予め定めた操舵角を閾値として前記ターンシグナルを消灯し、タイヤの切れ角が前記異常時条件を満たさなくなった場合に前記異常の報知を終了する制御部と、を備える車両用制御装置を搭載した車両としてもよい。
【0016】
また、コンピュータが、ターンシグナルをキャンセルするためのタイヤの切れ角の推移条件を車速に基づいて設定し、前記ターンシグナルが点灯状態においてステアリングを操舵することにより、タイヤの切れ角が、設定された前記推移条件を満たす場合に、前記ターンシグナルを消灯状態に制御し、かつタイヤの切れ角が、予め定めた異常時条件を満たす場合は、タイヤの切れ角の異常を報知してステアリングの予め定めた操舵角を閾値として前記ターンシグナルを消灯し、タイヤの切れ角が前記異常時条件を満たさなくなった場合に前記異常の報知を終了する処理を行う車両用制御方法としてもよい。
【0017】
さらに、コンピュータに、ターンシグナルをキャンセルするためのタイヤの切れ角の推移条件を車速に基づいて設定し、前記ターンシグナルが点灯状態においてステアリングを操舵することにより、タイヤの切れ角が、設定された前記推移条件を満たす場合に、前記ターンシグナルを消灯状態に制御し、かつタイヤの切れ角が、予め定めた異常時条件を満たす場合は、タイヤの切れ角の異常を報知してステアリングの予め定めた操舵角を閾値として前記ターンシグナルを消灯し、タイヤの切れ角が前記異常時条件を満たさなくなった場合に前記異常の報知を終了する処理を実行させるための車両用制御プログラムとしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、運転者の意図しないタイミングでのターンシグナルのキャンセルを抑制可能な車両用制御装置、車両、車両用制御方法、及び車両用制御プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る車両用制御装置の制御対象の車両用操舵装置の概略構成を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る車両用制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態に係る車両用制御装置の制御ECUの概略構成を示すブロック図である。
【
図4】ステアリングの舵角とピニオン角との関係の一例を示す図である。
【
図5】ステアリングの舵角とピニオン角との関係の他の例を示す図である。
【
図6】ターンスイッチを操作した場合の状態遷移図である。
【
図8】状態遷移図の各状態を遷移する遷移条件を示す図である。
【
図9】遷移条件における定数の一例を示す図である。
【
図10】キャンセル準備開始角度及びキャンセル準備解除角度の車速に応じた変化と、従来のキャンセル角の一例を示す図である。
【
図11】本実施形態に係る車両用制御装置の制御ECUで行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図12】異常処理の流れの一例を表すフローチャートである。
【
図13】ステアリングが連結されたステアリングロッドをピニオンギヤに連結した車両用操舵装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る車両用制御装置の制御対象の車両用操舵装置の概略構成を示す図である。なお、本実施形態に係る車両用操舵装置10は、タイヤとハンドルを機械的につなぐことなく、電気信号でタイヤの切れ角を変える方式(所謂、ステアバイワイヤ式)のものを一例として説明する。すなわち、ステアリング42の操舵角を検出する舵角センサ44が設けられ、舵角センサ44の検出結果に基づいて、車両用操舵装置10のモータ12を駆動することでタイヤの切れ角を変える構成とされている。
【0021】
具体的には、車両用操舵装置10は、車両に設けられた車輪(図示省略)のうち前輪の車輪間に設けられている。
【0022】
車両用操舵装置10は、モータ12、ラックバー14、変換部16、及びピニオン角検出センサ28を備えている。
【0023】
モータ12及びピニオン角検出センサ28の各々は、筐体11に固定され、変換部16及びラックバー14の各々は、筐体11内に設けられている。
【0024】
モータ12は、車幅方向一端側に車幅方向中心からオフセットした位置に設けられている。モータ12には、変換部16が連結されており、モータ12の回転が変換部16により転舵軸となるラックバー14の軸線方向の移動に変換されて、車幅方向に沿って配置されたラックバー14にモータ12の駆動力が付与される。ラックバー14には、図示しないタイロッド及びナックルアームを介して車輪が連結され、ラックバー14の車幅方向の移動により車輪が操舵される。
【0025】
変換部16は、例えば、大小一対のプーリ(小プーリ22及び大プーリ20)と、小プーリ22及び大プーリ20に巻きかけられたベルト24と、大プーリ20に連結された伝達ギヤ18と、を含む。小プーリ22は、モータ12の回転軸に連結されて、モータ12によって小プーリ22が回転される。小プーリ22の回転は、ベルト24を介して大プーリ20に伝達され、大プーリ20に連結された伝達ギヤ18が回転される。伝達ギヤ18は、ラックバー14に形成されたギヤと噛み合い、伝達ギヤ18の回転により、ラックバー14が車幅方向に移動するように構成されている。
【0026】
車両用操舵装置10の変換部16とは反対側の他端側に車幅方向中心からオフセットした位置には、ピニオン角検出センサ28が設けられている。ピニオン角検出センサ28は、ラックバー14のギヤに噛み合ったピニオンギヤ28Aを備えており、ピニオンギヤ28Aの回転角を磁気センサ等の各種センサにより検出する。本実施形態では、ラックバー14に噛み合ったピニオンギヤ28Aの回転角を検出することにより、ラックバー14の移動量(ラックストローク)を検出する。なお、ピニオン角検出センサ28の代わりに、ラックバー14の移動量を直接検出するタイプのセンサを適用して、移動量をピニオンギヤ28Aの回転角に変換してもよい。
【0027】
続いて、本実施形態に係る車両用制御装置の構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る車両用制御装置50の構成を示すブロック図であり、
図3は、本実施形態に係る車両用制御装置の制御ECU(Electronic Control Unit)30の概略構成を示すブロック図である。
【0028】
図2に示すように、車両用制御装置50は、車両13に搭載され、設定部及び制御部の一例としての制御ECU30を備えている。制御ECU30は、モータ12の駆動制御及びターンシグナルの点灯及び消灯の制御等を行う。
【0029】
制御ECU30は、
図3に示すように、CPU(Central Processing Unit)30A、ROM(Read Only Memory)30B、及びRAM(Random Access Memory)30C等を含むマイクロコンピュータで構成されている。
【0030】
CPU30Aは、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行することにより、装置の全体の動作を司る。ROM30Bは、車両用操舵装置10及びターンシグナル36の点灯状態を制御するための各種制御プログラムや各種パラメータ等が予め記憶される。RAM30Cは、CPU30Aによる各種プログラムの実行時のワークエリア等として用いられる。
【0031】
制御ECU30には、
図2に示すように、モータ12、ピニオン角検出センサ28、ウォーニングランプ32、ターンスイッチ34、ターンシグナル36、車速センサ38、及び舵角センサ44が接続されている。なお、モータ12、ピニオン角検出センサ28、ウォーニングランプ32、ターンスイッチ34、ターンシグナル36、車速センサ38、及び舵角センサ44と、制御ECU30との接続は、
図2では直接接続しているが、詳細には、CAN(Controller Area Network)等の通信回線を介して接続される。
【0032】
モータ12は、駆動することにより、ラックバー14を車幅方向に移動することにより車輪を操舵する。
【0033】
ピニオン角検出センサ28は、上述したように、ピニオンギヤ28Aの回転角(ピニオン角)を磁気センサ等の各種センサにより検出する。
【0034】
ウォーニングランプ32は、コンビネーションメータ等に設けられ、点灯することで、車両用操舵装置10に異常の可能性があることを警告する。
【0035】
ターンスイッチ34は、ステアリング42の近傍に設けられており、右左折時にターンシグナルの点灯を指示するために操作される。
【0036】
ターンシグナル36は、車両13の前方、側方、及び後方等に設けられ、ターンスイッチ34によって指示された進行方向変更を点滅表示する。
【0037】
車速センサ38は、車両13の走行速度(以下、車速という。)を検出し、検出結果を制御ECU30に出力する。
【0038】
舵角センサ44は、ステアリング42の操舵角(以下、舵角という。)を検出し、検出結果を制御ECU30に出力する。
【0039】
制御ECU30は、モータ12の駆動制御、及びターンシグナル36の点灯状態の制御を行う。例えば、制御ECU30は、車速センサ38及び舵角センサ44の検出結果に基づいてモータ12の駆動を制御すると共に、ターンスイッチ34の操作状態、車速センサ38及びピニオン角検出センサ28の検出結果に基づいてターンシグナルの点灯状態を制御する。また、制御ECU30は、ピニオン角検出センサ28の検出結果に異常を検出した場合には、ウォーニングランプ32を点灯して、車両用操舵装置10の異常を乗員に報知する。
【0040】
続いて、本実施形態に係る車両用制御装置50の制御ECU30によるモータ12の駆動制御について説明する。
【0041】
本実施形態では、上述したように、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置10であるため、ステアリング42の舵角と、タイヤの切れ角に対応するピニオン角とが予め定めた関係となるように制御される。例えば、
図4に示すように、ステアリング42の舵角とピニオン角の関係が舵角の増加に伴ってピニオン角が増加する比例関係とされ、車速毎にステアリング42の舵角とピニオン角の関係が設定されている。
図4では、ステアリング42の舵角とピニオン角との関係は説明を簡略化するために比例関係として説明するが、ステアリング42舵角とピニオン角の関係は比例関係に限るものではない。例えば、
図5に示すように曲線的な関係としてもよい。ステアリング42の舵角とピニオン角の関係は、車速が低いほど、ステアリング42の舵角に対するピニオン角が大きく、車速が高いほどステアリング42の舵角に対するピニオン角が小さくなるように設定されている。例えば、
図4、5の例では、実線の関係、点線の関係、一点鎖線の関係の順に車速が高くなる。
【0042】
次に、ターンスイッチ34を操作した際に行われる制御ECU30の制御について説明する。
図6は、ターンスイッチ34を操作した場合の状態遷移図であり、
図7は、状態遷移図の各状態の説明を示す図である。また、
図8は、状態遷移図の各状態を遷移する遷移条件を示す図であり、
図9は、遷移条件における定数の一例を示す図である。
【0043】
まず、ターンスイッチ34が操作されると、
図6の(1)のキャンセル準備オフ状態へ遷移する。キャンセル準備オフ状態は、ピニオン角を用いたターンキャンセルを準備していない状態である。なお、ピニオン角を用いたターンキャンセルとは、ピニオン角検出センサ28の検出結果に基づいて、ターンシグナルをキャンセルする処理である。
【0044】
ターンキャンセル準備状態において、条件Aのキャンセル準備開始条件が成立した場合、
図6の(2)のキャンセル準備状態へ遷移する。キャンセル準備状態は、ピニオン角を用いたターンキャンセルを準備している状態であり、ターンシグナルの点灯方向にステアリングを操作している状態である。また、条件Aは、右ターン時は、EPSSA(ピニオン角の舵角信号)<右キャンセル準備開始角度CNPR、左ターン時は、EPSSA>左キャンセル準備開始角度CNPLとされ、一定角度以上のステアリングが切られた場合に成立する。なお、右キャンセル準備開始角度CNPR、左キャンセル準備開始角度CNPLは第1切れ角の一例に対応する。
【0045】
また、ターンキャンセル準備状態において、条件Bのキャンセル準備解除条件が成立した場合、キャンセル準備オフ状態に戻る。条件Bは、右ターン時は、右ターンスイッチ操作中で、かつEPSSA≧右キャンセル準備解除角度CNPCR、左ターン時は、左ターンスイッチ操作中で、かつEPSSA≦左キャンセル準備解除角度CNPCLとされ、ターンスイッチ34が再操作又は操作継続状態で中立付近へステアリング42が操作された場合に成立する。
【0046】
また、ターンキャンセル準備状態において、条件Cのキャンセル成立条件が成立した場合、
図6の(3)のキャンセル状態へ遷移し、ターンシグナル36が消灯状態に制御される。キャンセル状態は、ピニオン角を用いたターンキャンセルが成立した状態であり、中立付近にステアリング42を戻す操作を行っている状態である。また、条件Cは、右ターン時は、右ターンスイッチ操作なしで、かつEPSSA≧右キャンセル角度CNR、左ターン時は、左ターンスイッチ操作なしで、かつEPSSA≦左キャンセル角度CNLとされ、ターンスイッチ34が再操作又は操作継続がない状態で中立付近へステアリング操作された場合に成立する。なお、右キャンセル角度CNR、左キャンセル角度CNLは第2切れ角の一例に対応する。
【0047】
また、キャンセル準備オフ状態、又はキャンセル準備状態において、条件Dのピニオン角異常時条件が成立した場合、
図6の(4)のピニオン角異常状態へ遷移する。ピニオン角異常状態は、ピニオン角が異常状態であり、ピニオン角によるキャンセル制御を中止している状態である。また、条件Dは、左右共通で、EPSTS1=1又はEPSSAINV=1とされ、ピニオン角異常時又はピニオン角無効時に成立する。
【0048】
また、ピニオン角異常状態において、条件Eのピニオン角正常条件が成立した場合、キャンセル準備オフ状態に戻る。条件Eは、左右共通で、EPSTS1=0、かつSPSSAINV=0とされ、ピニオン角正常時に成立する。
【0049】
ところで、小舵角で大きな切れ角を得られる車両13では、従来のように、一定のタイヤ切れ角を閾値としてターンシグナル36をキャンセルすると、運転者の意図しないタイミングでターンシグナル36がキャンセルされてしまう可能性がある。例えば、レーンチェンジ時や路肩への停車時などのシーンにおいて、小舵角で大きなタイヤ切れ角となるため、修正操作によりターンシグナル36がキャンセルされてしまう場合がある。特に、本実施形態のように、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置10では、車速に応じてステアリング42の舵角と、タイヤの切れ角の関係が変化するため、低速時に運転者が狙ったタイヤ切れ角より大きなタイヤ切れ角になってしまうことがあり、ステアリングを戻す操作でターンシグナル36がキャンセルされてしまう。
【0050】
そこで、本実施形態では、各状態へ遷移する条件の定数(CNPR、CNPL、CPPCR、PNCPL、CNR、CNL)を、車速に応じて設定するようになっている。すなわち、本実施形態では、ターンシグナル36を消灯させる舵角(ピニオン角)の閾値を低速時ほど大きい舵角に設定する。これにより、低速時に運転者が意図しないタイミングでのターンシグナル36のキャンセルが発生し難くなる。
【0051】
具体的には、各状態へ遷移する条件の定数を、
図9に示すように設定し、車速に応じて定数を変化させる。なお、
図9の定数は一例であって
図9に示す値に限定されるものではない。
【0052】
図9の例では、車速を、0≦車速<15、15≦車速<25、25≦車速の3つの車速域に分類し、車速域毎に定数を定めた例を示す。詳細には、条件Aのキャンセル準備開始条件で用いる定数の右キャンセル準備開始角度CNPRは、低車速域から順に、-97.5、-78、-55.5の舵角が設定され、左キャンセル準備開始角度CNPLは、97.5、78、55.5の舵角が設定されている。また、条件Bのキャンセル準備解除条件で用いる定数の右キャンセル準備解除角度CNPCRは、低車速域から順に-97.5、-78、-55.5の舵角が設定され、左キャンセル準備解除角度CNPCLは、97.5、78、55.5の舵角が設定されている。また、条件Cのキャンセル成立条件で用いる定数の右キャンセル角度CNRは、各車速域で-34.5の舵角が設定され、左キャンセル角度CNLは34.5の舵角が設定されている。なお、マイナス側が右方向、プラス側が左方向を表す。また、
図9では、右キャンセル角度CNR、左キャンセル角度CNLは、一定値を適用したが、車速毎に異なる値としてもよい。
【0053】
本実施形態では、キャンセル準備状態に移行する際のキャンセル準備開始角度(CNPR、CNPL)、及びキャンセル準備オフ状態へ移行する際のキャンセル準備解除角度(CNPCR、CNPCL)を
図10に示すように車速に応じて変化させる。すなわち、車速に応じてターンシグナルをキャンセルするピニオン角の推移条件を変化させる。これにより、従来技術のように、一定の角度(例えば、55.5°等)でキャンセルする場合に比べて、低速時に運転者が意図しないタイミングでのターンシグナル36のキャンセルが発生し難くなる。なお、
図10の実線が本実施形態のターンシグナルのキャンセル角を表し、実線が従来の一定のキャンセル角の一例を示す。
【0054】
続いて、上述のように構成された本実施形態に係る車両用制御装置50の制御ECU30で行われる具体的な処理について説明する。
図11は、本実施形態に係る車両用制御装置50の制御ECU30で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、
図11の処理は、例えば、運転者によってターンスイッチ34が操作されてキャンセル準備オフ状態へ移行した場合に開始する。
【0055】
ステップ100では、CPU30Aが、車速及びピニオン角の検出結果を取得してステップ102へ移行する。すなわち、車速センサ38及びピニオン角検出センサ28の検出結果を取得する。
【0056】
ステップ102では、CPU30Aが、検出した車速に対応するピニオン角の推移条件を設定してステップ104へ移行する。すなわち、キャンセル準備状態に移行する際のキャンセル準備開始角度(CNPR、CNPL)、及びキャンセル準備オフ状態へ移行する際のキャンセル準備解除角度(CNPCR、CNPCL)を検出した車速に対応する角度に設定する。
【0057】
ステップ104では、CPU30Aが、条件Dが成立したか否かを判定する。すなわち、ピニオン角異常時条件のEPSTS1=1又はEPSSAINV=1が成立したか否かを判定する。該判定が否定された場合にはステップ106へ移行し、肯定された場合にはステップ120へ移行する。
【0058】
ステップ106では、CPU30Aが、条件Aが成立したか否かを判定する。すなわち、EPSSA<右キャンセル準備開始角度CNPR、又はEPSSA>左キャンセル準備開始角度CNPLであるか否かを判定する。該判定が肯定された場合にはステップ108へ移行し、否定された場合にはステップ100に戻って上述の処理を繰り返す。
【0059】
ステップ108では、CPU30Aが、車速及びピニオン角の検出結果を取得してステップ110へ移行する。すなわち、車速センサ38及びピニオン角検出センサ28の検出結果を取得する。
【0060】
ステップ110では、CPU30Aが、検出した車速に対応するピニオン角の推移条件を設定してステップ112へ移行する。すなわち、キャンセル準備状態に移行する際のキャンセル準備開始角度(CNPR、CNPL)、及びキャンセル準備オフ状態へ移行する際のキャンセル準備解除角度(CNPCR、CNPCL)を検出した車速に対応する角度に設定する。
【0061】
ステップ112では、CPU30Aが、条件Bが成立したか否かを判定する。すなわち、右ターンスイッチ操作中で、かつEPSSA≧右キャンセル準備解除角度CNPCR、又は左ターンスイッチ操作中で、かつEPSSA≦左キャンセル準備解除角度CNPCLであるか否かを判定する。該判定が肯定された場合にはステップ114へ移行し、否定された場合にはステップ100に戻って上述の処理を繰り返す。
【0062】
ステップ114では、CPU30Aが、条件Dが成立したか否かを判定する。すなわち、ピニオン角異常時条件のEPSTS1=1又はEPSSAINV=1が成立したか否かを判定する。該判定が否定された場合にはステップ116へ移行し、肯定された場合にはステップ120へ移行する。
【0063】
ステップ116では、CPU30Aが、条件Cが成立したか否かを判定する。すなわち、右ターンスイッチ操作なしで、かつEPSSA≧右キャンセル角度CNR、又は左ターンスイッチ操作なしで、かつEPSSA≦左キャンセル角度CNLであるか否かを判定する。該判定が肯定された場合にはステップ118へ移行し、否定された場合にはステップ108に戻って上述の処理を繰り返す。
【0064】
ステップ118では、CPU30Aが、ターンシグナル36を消灯状態に制御して一連の処理を終了する。
【0065】
一方、条件Dが成立してステップ120へ移行すると、ステップ120では、CPU30Aが異常処理を行って一連の処理を終了する。
【0066】
ここで、
図12を参照して異常処理の詳細な流れについて説明する。
図12は、異常処理の流れの一例を表すフローチャートである。
【0067】
ステップ200では、CPU30Aが、ウォーニングランプ32を点灯することによって、ピニオン角の異常を運転者に報知してステップ202へ移行する。
【0068】
ステップ202では、CPU30Aが、舵角の検出結果を取得してステップ204へ移行する。すなわち、舵角センサ44の検出結果を取得する。
【0069】
ステップ204では、CPU30Aが、予め定めた舵角に基づいてキャンセル処理を行ってステップ206へ移行する。すなわち、従来技術のように、予め定めた舵角を閾値としてターンシグナル36を消灯する。例えば、予め定めた舵角より大きな舵角までステアリング42が操作されて、予め定めた舵角以下の舵角までステアリング42が操作された場合に、ターンシグナル36を消灯する。これにより、ピニオン角が異常の場合のフェールセーフとして、舵角を用いたターンシグナルのキャンセル処理が可能となる。
【0070】
ステップ206では、CPU30Aが、ピニオン角の検出結果を取得してステップ208へ移行する。すなわち、ピニオン角検出センサ28の検出結果を取得する。
【0071】
ステップ208では、CPU30Aが、条件Eが成立したか否かを判定する。すなわち、EPSTS1=0、かつSPSSAINV=0であるか否かを判定する。該判定が否定された場合には、ステップ202に戻って上述の処理を繰り返し、肯定された場合にはステップ210へ移行する。
【0072】
ステップ210では、CPU30Aが、ウォーニングランプ32を消灯して一連の異常処理を終了する。
【0073】
なお、上記の実施形態では、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置10を一例として説明したが、これに限るものではない。例えば、
図13に示すように、ステアリング42が連結されたステアリングロッド40をピニオンギヤ28Aに連結した一般的な車両用操舵装置を適用してもよい。
【0074】
また、上記の実施形態では、1つの制御ECU30で制御する形態として説明したが複数のECUが連係する形態としてもよい。例えば、ウォーニングランプ等が接続されたメータECUと、車両用操舵装置を制御する操舵ECUとが連係する形態としてもよい。
【0075】
また、上記の実施形態では、キャンセル準備開始角度の定数と、キャンセル準備解除角度の定数を同一としたが、これに限定されるものではなく、それぞれ異なる定数としてもよい。例えば、車両13の特性に応じて異なる定数を設定してもよい。
【0076】
また、上記の各実施形態における制御ECU30で行われる処理は、プログラムを実行することにより行われるソフトウエア処理として説明したが、これに限るものではない。例えば、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びFPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウエアで行う処理としてもよい。或いは、ソフトウエア及びハードウエアの双方を組み合わせた処理としてもよい。また、ソフトウエアの処理とした場合には、プログラムを各種記憶媒体に記憶して流通させるようにしてもよい。
【0077】
さらに、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0078】
10 車両用操舵装置
12 モータ
13 車両
28 ピニオン角検出センサ
30 制御ECU(設定部及び制御部)
30A CPU
30B ROM
34 ターンスイッチ
36 ターンシグナル
38 車速センサ
42 ステアリング
44 舵角センサ
50 車両用制御装置