(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】抵抗スポット溶接のナゲット径の推定方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/24 20060101AFI20241106BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20241106BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20241106BHJP
B23K 11/25 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B23K11/24 394
B23K31/00 Z
B23K11/11 540
B23K11/25 512
(21)【出願番号】P 2022109704
(22)【出願日】2022-07-07
【審査請求日】2024-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小倉 修平
(72)【発明者】
【氏名】関口 智彦
(72)【発明者】
【氏名】泉野 亨輔
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 知子
(72)【発明者】
【氏名】松木 優樹
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 瑞希
(72)【発明者】
【氏名】沖田 泰明
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-171942(JP,A)
【文献】特開2011-104628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/11
B23K 11/24
B23K 11/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗スポット溶接において形成されるナゲット径の大小に寄与する溶接パラメータを第1説明変数とし、前記ナゲット径の推定値を第1目的変数とする予め定められた推定式を用いて、前記ナゲット径を推定する推定方法であって、
溶接対象物を含む通電回路全体の電気抵抗値であり、推定対象となる前記ナゲット径に対応する溶接である対象溶接における通電期間の初期の前記電気抵抗値である実測初期抵抗値、を取得する実測初期抵抗値取得工程と、
前記ナゲット径の大小に影響を与え得る外乱がない状態での溶接であって前記推定式の作成の基準となる溶接であるマスタ溶接における通電期間の初期の前記電気抵抗値であるマスタ初期抵抗値と、前記実測初期抵抗値取得工程において取得された前記実測初期抵抗値と、の差分である実測抵抗値差分を算出する実測抵抗値差分算出工程と、
前記実測抵抗値差分と前記溶接パラメータの補正値との相関関係を示す補正式であって、前記実測抵抗値差分を第2説明変数とし、前記溶接パラメータの前記補正値を第2目的変数とする予め定められた前記補正式に、前記実測抵抗値差分算出工程において算出された前記実測抵抗値差分を代入して前記溶接パラメータの前記補正値を算出する補正値算出工程と、
前記対象溶接時に測定された前記溶接パラメータの値に、前記補正値算出工程において算出された前記補正値を適用することによって前記溶接パラメータの値を補正するパラメータ補正工程と、
補正後の前記溶接パラメータの値を、前記推定式に代入して前記ナゲット径を算出するナゲット径算出工程と、
を備える、ナゲット径の推定方法。
【請求項2】
前記補正式は、
(I)前記マスタ溶接を複数回実行して得られた、前記溶接パラメータの値と前記ナゲット径との相関を示すマスタパターンにおける、前記溶接パラメータの値と、
前記外乱がある状態での溶接である外乱有り溶接を実行して得られた、前記溶接パラメータの値と前記ナゲット径との相関を示す外乱有り相関データ、における前記溶接パラメータの値と、
の差分であるパラメータ差分を算出するパラメータ差分算出工程と、
(II)前記マスタ初期抵抗値と、
前記電気抵抗値であり、前記外乱有り溶接における通電期間の初期の前記電気抵抗値である外乱初期抵抗値と、
の差分である外乱抵抗値差分を算出する外乱抵抗値差分算出工程と、
(III)前記パラメータ差分と前記外乱抵抗値差分との相関関係を用いて、前記補正式を導出する導出工程と、
を含んで作成されている、請求項1に記載のナゲット径の推定方法。
【請求項3】
前記補正式は、
前記外乱抵抗値差分と前記パラメータ差分とが対応付けされたプロット点を線形回帰することによって算出される一次方程式である、請求項2に記載のナゲット径の推定方法。
【請求項4】
前記推定方法は、
前記対象溶接時における前記通電期間の前記電気抵抗値の特徴から、前記外乱の種類を判別する外乱判別工程、
をさらに備え、
前記補正値算出工程では、前記外乱の種類ごとに対応して作成された前記補正式のうち、前記外乱判別工程において判別された前記外乱に対応する前記補正式を用いて、前記溶接パラメータの前記補正値を取得する、請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のナゲット径の推定方法。
【請求項5】
前記外乱判別工程では、
前記対象溶接時における前記電気抵抗値と、前記マスタ溶接時における前記電気抵抗値との比較により、前記外乱の種類を判別する、請求項4に記載のナゲット径の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抵抗スポット溶接のナゲット径の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の車体フレーム等を製造するに当たり、複数の金属板を互いに接合する手段として抵抗スポット溶接が利用されている。この抵抗スポット溶接は、一対の電極で被溶接材(複数の金属板)を挟持しながら通電を行い、被溶接材自身の電気抵抗等により発生するジュール熱を利用して金属板同士を溶融させて接合するものである。そして、金属板同士の溶接部の接合強度を高めるためには、この抵抗スポット溶接によって得られる溶接ナゲット径を十分に確保しておくことが必要である。このため、溶接ナゲット径が十分に確保できているか否かを推定する手法が求められている。
【0003】
特許文献1に記載の抵抗溶接方法では、ワークに投入された電力の積算値である電力量とナゲット径とを対応づけたデータベースを予め用意しておき、実際に積算した電力量からナゲット径を推定できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載のように、単に電力量との相関からナゲット径を推定する方法では、溶接現場における様々な外乱、例えば、鋼板間の隙間、鋼板の傾斜、鋼板に圧接される電極の先端部の摩耗などが存在する場合等には、ナゲット径の推定精度が悪いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本開示の一形態によれば、ナゲット径の推定方法が提供される。このナゲット径の推定方法は、抵抗スポット溶接において形成されるナゲット径の大小に寄与する溶接パラメータを第1説明変数とし、前記ナゲット径の推定値を第1目的変数とする予め定められた推定式を用いて、前記ナゲット径を推定する推定方法であって、溶接対象物を含む通電回路全体の電気抵抗値であり、推定対象となる前記ナゲット径に対応する溶接である対象溶接における通電期間の初期の前記電気抵抗値である実測初期抵抗値、を取得する実測初期抵抗値取得工程と、前記ナゲット径の大小に影響を与え得る外乱がない状態での溶接であって前記推定式の作成の基準となる溶接であるマスタ溶接における通電期間の初期の前記電気抵抗値であるマスタ初期抵抗値と、前記実測初期抵抗値取得工程において取得された前記実測初期抵抗値と、の差分である実測抵抗値差分を算出する実測抵抗値差分算出工程と、前記実測抵抗値差分と前記溶接パラメータの補正値との相関関係を示す補正式であって、前記実測抵抗値差分を第2説明変数とし、前記溶接パラメータの前記補正値を第2目的変数とする予め定められた前記補正式に、前記実測抵抗値差分算出工程において算出された前記実測抵抗値差分を代入して前記溶接パラメータの前記補正値を算出する補正値算出工程と、前記対象溶接時に測定された前記溶接パラメータの値に、前記補正値算出工程において算出された前記補正値を適用することによって前記溶接パラメータの値を補正するパラメータ補正工程と、補正後の前記溶接パラメータの値を、前記推定式に代入して前記ナゲット径を算出するナゲット径算出工程と、を備える。
この形態によれば、実測抵抗値差分と溶接パラメータの補正値との相関関係を示す予め定められた補正式に、実測抵抗値差分を代入して溶接パラメータの補正値が算出され、予め定められた推定式に、補正後の溶接パラメータの値を代入することによりナゲット径が算出される。
ナゲット径の大小に影響を与え得る外乱がない状態での溶接であって、推定式の作成の基準となるマスタ溶接に対して、ナゲット径の推定対象となる実際の溶接である対象溶接では、外乱が生じることもある。そして、実際に外乱が生じた場合に、予め定められた推定式に対して、補正なしの溶接パラメータの値を用いると、ナゲット径の推定精度が落ちる虞がある。本願発明者らは、溶接における外乱の有無と、マスタ初期抵抗値と実測初期抵抗値との差分である実測抵抗値差分と、は互いに相関があることを見い出した。そして、上記形態では、かかる実測抵抗値差分と補正式とを用いて溶接パラメータを補正しているので、かかる補正後の溶接パラメータの値を推定式に代入して算出されるナゲット径を、精度の高いナゲット径として求めることができ、ナゲット径の推定精度を向上させることができる。
(2)上記形態において、前記補正式は、(I)前記マスタ溶接を複数回実行して得られた、前記溶接パラメータの値と前記ナゲット径との相関を示すマスタパターンにおける、前記溶接パラメータの値と、前記外乱がある状態での溶接である外乱有り溶接を実行して得られた、前記溶接パラメータの値と前記ナゲット径との相関を示す外乱有り相関データ、における前記溶接パラメータの値と、の差分であるパラメータ差分を算出するパラメータ差分算出工程と、(II)前記マスタ初期抵抗値と、前記電気抵抗値であり、前記外乱有り溶接における通電期間の初期の前記電気抵抗値である外乱初期抵抗値と、の差分である外乱抵抗値差分を算出する外乱抵抗値差分算出工程と、(III)前記パラメータ差分と前記外乱抵抗値差分との相関関係を用いて、前記補正式を導出する導出工程と、を含んで作成されていてもよい。
この形態によれば、パラメータ差分と、外乱抵抗値差分との相関関係を用いて、補正式を容易に導出することができる。
(3)上記形態において、前記補正式は、前記外乱抵抗値差分と前記パラメータ差分とが対応付けされたプロット点を線形回帰することによって算出される一次方程式であってもよい。この形態によれば、外乱抵抗値差分とパラメータ差分との相関関係を一義的に表すことができる。また、外乱抵抗値差分とパラメータ差分とが対応付けされたプロット点を用いて、容易に推定式を作成することができる。
(4)上記形態において、前記推定方法は、前記対象溶接時における前記通電期間の前記電気抵抗値の特徴から、前記外乱の種類を判別する外乱判別工程、をさらに備え、前記補正値算出工程では、前記外乱の種類ごとに対応して作成された前記補正式のうち、前記外乱判別工程において判別された前記外乱に対応する前記補正式を用いて、前記溶接パラメータの前記補正値を取得してもよい。
この形態によれば、外乱判別工程において外乱の種類が判別され、外乱の種類に応じた補正式を用いて溶接パラメータが補正される。このため、外乱の種類に応じた適正な補正値を算出できるため、ナゲット径の推定精度をさらに向上させることができる。
(5)上記形態において、前記外乱判別工程では、前記対象溶接時における前記電気抵抗値と、前記マスタ溶接時における前記電気抵抗値との比較により、前記外乱の種類を判別してもよい。この形態によれば、電気抵抗値と、マスタ溶接時における電気抵抗値とを比較することにより、容易に外乱の種類を判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1実施形態としてのナゲット径推定システムを示す概略構成図である。
【
図2】第1実施形態における制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】ナゲット径の推定方法における手順を示すフローチャートである。
【
図5】補正式の作成方法における手順を示すフローチャートである。
【
図6】補正前の溶接パラメータとナゲット径との相関を示す図である。
【
図8】補正後の溶接パラメータとナゲット径との相関を示す図である。
【
図9】補正式を用いた補正の前後におけるナゲット径の推定誤差を比較するための図である。
【
図10】第2実施形態における制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図11】第2実施形態における、ナゲット径の推定方法における手順を示すフローチャートである。
【
図12】抵抗値の時間変化をグラフに示す図である。
【
図13】抵抗値の時間変化をグラフに示す図である。
【
図14】抵抗値の時間変化をグラフに示す図である。
【
図15】各外乱が生じた場合の抵抗値の波形の特徴を、表にまとめて示した図である。
【
図16】溶接パラメータとナゲット径との相関を示す図である。
【
図17】溶接パラメータとナゲット径との相関を示す図である。
【
図18】溶接パラメータとナゲット径との相関を示す図である。
【
図19】補正の前後におけるナゲット径の推定誤差を比較するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
A1.ナゲット径推定システム1の全体構成:
本開示の第1実施形態について、
図1~
図9を参照して説明する。本開示の第1実施形態におけるナゲット径の推定方法を説明するにあたり、まず、ナゲット径推定システム1(以下、単に「推定システム1」ともいう)の構成について説明する。
図1は、本開示の第1実施形態としてのナゲット径推定システム1を示す概略構成図である。推定システム1は、抵抗スポット溶接装置10によって実施される抵抗スポット溶接により、被溶接部材W上に形成される溶接部のナゲット径を推定するシステムである。推定システム1は、抵抗スポット溶接装置10と、制御装置100と、測定機構9と、を備える。
【0010】
抵抗スポット溶接装置10は、複数の金属板W1,W2を重ね合わせた被溶接部材Wを溶融して接合する装置である。抵抗スポット溶接装置10は、溶接ガンGと、ロボットアームRAとを備える。
【0011】
溶接ガンGは、ガン本体11と、一対の電極である上部電極2および下部電極3と、電極昇降装置4と、加圧装置5と、電流調整装置6と、を備える。ガン本体11は、ロボットアームRAに保持されている。下部電極3は、ガン本体11の下部11bに固定された状態で配置された固定電極である。上部電極2は、上部電極2と下部電極3との対向方向に沿った方向に移動可能な可動電極である。上部電極2は、ガン本体11の上部11aに電極昇降装置4を介して装着されている。上部電極2と下部電極3とはそれぞれ、内部に冷却水を流通させるための図示しない流路が形成されている。
【0012】
電極昇降装置4は、上部電極2を保持して昇降させる電動式の装置である。電極昇降装置4は、ガン本体11の上部11aの先端に装着されている。電極昇降装置4は、サーボモータ41と、サーボモータ41の駆動軸と結合している昇降部材42と、を備える。電極昇降装置4は、制御装置100からの昇降指令に従ってサーボモータ41を作動させることで、昇降部材42を昇降させる。
【0013】
加圧装置5は、上部電極2と下部電極3とが互いに近づく方向に向けて、上部電極2と下部電極3とをそれぞれ押圧する。具体的には、加圧装置5は、上部電極2と下部電極3とにより被溶接部材Wを挟持した状態において、被溶接部材Wを予め定められた加圧力で加圧するために、上部電極2と下部電極3とのそれぞれに力を付与する装置である。加圧装置5は、制御装置100からの加圧指令に応じて、上部電極2と下部電極3とのそれぞれに予め定められた力を付与する。
【0014】
電流調整装置6は、制御装置100から送信される電流指令に応じて上部電極2と下部電極3との間に流す溶接電流の値(以下、電流値)を調整する。電流調整装置6は、例えば、可変抵抗器を備えた装置やコンバータを備えた装置である。
【0015】
図2は、制御装置100の概略構成を示すブロック図である。本実施形態では、制御装置100は、抵抗スポット溶接装置10の動作を制御する機能に加えて、抵抗スポット溶接におけるナゲット径を推定するための推定装置としての機能を併せ持つ。なお、推定装置は、制御装置100とは別体に構成され、有線や無線によってデータ通信する構成であってもよい。
【0016】
制御装置100は、通信部30と、ディスプレイ40と、入力操作部50と、記憶部60と、CPU20と、を備える。制御装置100は、例えば、各構成要素20~60を備えるコンピュータである。通信部30は、抵抗スポット溶接装置10および測定機構9と、制御装置100と、を通信可能に接続する。ディスプレイ40は、例えば、液晶ディスプレイであり、CPU20の指令に応じて、情報を表示する。入力操作部50は、例えば、キーボードやマウスを有し、ユーザからの指示を受け付ける。
【0017】
記憶部60は、抵抗スポット溶接装置10の動作を制御する各種プログラムと、補正式650と、推定式670と、を含む各種データを記憶する。記憶部60は、RAMやROM、書き換え可能な不揮発性メモリなどを含む。推定式670は、ナゲット径の推定値を算出するために予め準備された関係式である。具体的には、推定式670は、ナゲット径の大小に寄与する溶接パラメータを第1説明変数とし、ナゲット径の推定値を第1目的変数とする関係式である。
【0018】
補正式650は、推定式670に代入する溶接パラメータの補正値を算出するために作成される関係式である。補正式650は、後述する実測抵抗値差分と、溶接パラメータの補正値との相関関係を示す式であって、実測抵抗値差分を第2説明変数とし、溶接パラメータの補正値を第2目的変数とする予め定められた式である。ここで、推定式670と補正式650とにおいて、それぞれの説明変数と目的変数とを区別するために、便宜上「第1」および「第2」を付記した。
【0019】
補正式650は、以下の一次方程式の式(1)で示される。なお、a,bは、後述する抵抗値差分とパラメータ差分との組合せ値により定まる定数である。yは補正値であり、xは実測抵抗値差分である。補正式650の導出についての詳細は後述する。
y=ax+b 式(1)
【0020】
CPU20は、記憶部60に記憶された各種プログラムを展開することにより、動作制御部200と、取得部210と、差分算出部220と、補正式作成部230と、補正値算出部240と、推定部290として機能する。
【0021】
動作制御部200は、抵抗スポット溶接装置10の動作を制御する。抵抗スポット溶接装置10の動作は、溶接に際して予め設定されたパラメータ(以下、溶接パラメータ)に応じて制御される。つまり、溶接パラメータは、溶接を実行する際に予め設定される溶接条件である。溶接パラメータは、例えば、電流値、電圧値、抵抗値、電極間変位量、膨張量、電極2,3の加圧力である。動作制御部200は、これらの動作を統合的に制御する。動作制御部200は、例えば、入力操作部50を介してユーザが予め設定した溶接パラメータの設定値に応じて、抵抗スポット溶接装置10の動作を制御する。
【0022】
取得部210は、補正式650の作成、および推定式670への代入に用いられる各種データを取得する。例えば、取得部210は、実測抵抗値差分を算出する際に用いられる、後述する実測初期抵抗値を取得する。差分算出部220は、実測抵抗値差分を算出する。補正式作成部230は、補正式650を作成する。補正値算出部240は、補正式650を用いて、推定式670に代入する溶接パラメータの補正値を算出する。具体的には、補正値算出部240は、実測抵抗値差分を補正式650(上記式(1))に代入することにより、補正値を算出する。
【0023】
推定部290は、パラメータ補正部291と、推定値算出部292と、を備える。パラメータ補正部291は、溶接パラメータに補正値を反映させた補正後のパラメータを算出する。推定値算出部292は、補正後の溶接パラメータを用いて、対象溶接におけるナゲット径の推定値を算出する。各機能の詳細は、ナゲット径の推定方法と併せて後述する。なお、CPU20の少なくとも一部の機能は、ハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0024】
測定機構9は、抵抗スポット溶接装置10を用いた溶接に必要な物理量として、溶接パラメータの実測値を測定する機構である。ここで言う「溶接パラメータの実測値」とは、動作制御部200から送信される溶接条件に係る指令、つまり、予め設定された溶接パラメータの設定値に応じて溶接を実行した場合に、実際に観測される溶接パラメータの値である。測定機構9によって測定された溶接パラメータの実測値は、通信部30を介して、CPU20に送信される。
【0025】
本実施形態では、測定機構9は、電流値測定部91と、電圧値測定部92と、抵抗値算出部93と、加圧力測定部95と、電極間変位量測定部96と、電極間変位量算出部97と、を備える。なお、測定機構9の構成および機能は、これに限られるものではない。測定機構9は、例えば、他の溶接パラメータを測定するための機構をさらに備えてもよい。また、測定機構9における少なくとも一部の機能は、CPU20の一機能として実現されてもよい。
【0026】
測定機構9に含まれる各構成要素91~97はそれぞれ、溶接時において、予め定められた測定時間ごとに溶接パラメータの実測値を測定する。電流値測定部91は、上部電極2と下部電極3との間に流れた電流値を測定する。電流値測定部91は、例えば、電流センサである。電圧値測定部92は、上部電極2と下部電極3との間における電圧値(電位差)を測定する。電圧値測定部92は、例えば、電圧センサである。
【0027】
抵抗値算出部93は、通電時において測定された電流値の実測値と電圧値の実測値とを用いて、電気抵抗の値(以下、抵抗値)を算出する。具体的には、抵抗値算出部93は、電圧値を電流値で除算することで、抵抗値を算出する。このとき、抵抗値の算出には、同じ測定時点における電流値と電圧値とが用いられる。
【0028】
加圧力測定部95は、被溶接部材Wに対する各電極2,3の加圧力を測定する。加圧力測定部95は、例えば、電極昇降装置4の内部に収容されたロードセルである。電極間変位量測定部96は、上部電極2の変位量(以下、第1変位量)を測定する第1変位量測定部961と、下部電極3の変位量(以下、第2変位量)を測定する第2変位量測定部962と、を備える。
【0029】
第1変位量測定部961は、例えば、第1測定時点における上部電極2の昇降位置と、第1測定時点から予め定められた測定時間だけ経過した第2測定時点における上部電極2の昇降位置と、を測定して、測定値の差分から第1変位量を算出する。第1変位量測定部961は、例えば、電極昇降装置4の内部に収容され、サーボモータ41の出力軸の回転角度位置を検出して上部電極2の昇降位置を測定するエンコーダである。
【0030】
第2変位量測定部962は、第2変位量を測定する。具体的には、ガン本体11の下部11bに固定されている。そのため、熱膨張により力が加わった場合に、下部電極3は、移動することなく歪む。よって、第2変位量測定部962は、下部電極3に加わる力(歪み値)を第2変位量として測定する。第2変位量測定部962は、例えば、下部電極3の歪み値を測定する歪みセンサである。
【0031】
電極間変位量算出部97は、第1変位量測定部961によって測定および算出された第1変位量と、第2変位量測定部962によって測定された第2変位量と、を用いて、上部電極2と下部電極3との間の変位量(以下、電極間変位量)を算出する。このとき、電極間変位量の算出には、同じ測定時点における値が用いられる。電極間変位量算出部97は、例えば、通電中期間における第1変位量と第2変位量とを合算することで、通電中における電極間変位量を算出する。なお、電極間変位量の算出方法は、これに限られるものではない。
【0032】
A2.ナゲット径の推定方法:
次に、上記詳述した推定システム1を用いた、本開示の第1実施形態におけるナゲット径の推定方法について説明する。
図3は、ナゲット径の推定方法における手順を示すフローチャートである。
図3に示すように、ナゲット径の推定方法は、実測初期抵抗値取得工程(S110)と、実測抵抗値差分算出工程(S120)と、補正値算出工程(S130)と、パラメータ補正工程(S140)と、ナゲット径算出工程(S150)と、を有し、各工程がこの順に実行される。
【0033】
実測抵抗値差分算出工程(S120)では、取得部210により、推定対象となるナゲット径に対応する溶接である対象溶接における通電期間の初期の実測初期抵抗値が取得される。ここで、「通電期間の初期」とは、本実施形態では、通電開始から、全通電期間の4分の1までの時間である。なお、4分の1に限らず、通電期間の前半における任意の期間であってもよい。以下、「抵抗値」とは、溶接対象物を含む通電回路全体の電気抵抗値である。
図4は、抵抗値の時間変化をグラフに示す図である。
図4において、マスタ溶接における抵抗値Rm(以下、マスタ抵抗値Rmともいう)を細実線で示し、対象溶接における例示として外乱あり溶接における抵抗値Ra(以下、実測抵抗値Raともいう)を破線で示している。
【0034】
ここで、マスタ溶接とは、ナゲット径の大小に影響を与え得る外乱がない状態での溶接であって、推定式670を作成する基準となる溶接である。そして、ナゲット径推定の際に実測抵抗値値との差分を取る際の基準となるマスタデータを取得するための溶接を意味する。外乱とは、例えば、鋼板間の隙間(以下、単に「板隙」ともいう)、鋼板の傾斜、鋼板に圧接される電極2,3の先端部の摩耗などである。また、「外乱がない」とは、上述の板隙、鋼板の傾斜、先端部の摩耗が全くない(ゼロ)である場合に限らず、微量であり全くないとほぼ見なせる量が存在する場合も含む広い意味を有する。例えば、板隙が0.1mm以下、傾斜角度が0.1°以下、摩耗が0.1%以下等であれば、「外乱がない」状態といえる。
図4において、電流値の変化を実線で示している。
図4において、通電開始が100msであり、通電終了が470msである。
【0035】
本実施形態では、「通電初期Ti」を、170ms~200msの間とした。これは、波形が安定しない通電開始直後は避けて、かつ、外乱の影響が読み取りやすい期間を考慮したものである。本願発明者の検討により、通電期間の前半の中でも、通電初期Tiにおける抵抗値は、外乱の特徴を捉えやすく、外乱が生じた場合、マスタ溶接における抵抗値よりも低くなることが分かった。実測初期抵抗値は、通電初期Tiにおける平均値を用いた。
【0036】
実測抵抗値差分算出工程(S120)では、差分算出部220により実測抵抗値差分が算出される。実測抵抗値差分とは、マスタ初期抵抗値から実測初期抵抗値を引いた差分である。マスタ初期抵抗値は、マスタ溶接における初期の電気抵抗値であり、ここでは、実測初期抵抗値と同様に、通電初期Tiにおける平均値を用いた。なお、マスタ初期抵抗値は、対象溶接の実施以前に、予め実行されたマスタ溶接におけるデータから取得されており、例えば記憶部60に記憶される。
【0037】
補正値算出工程(S130)では、補正値算出部240により、実測抵抗値差分を補正式650に代入して溶接パラメータの補正値が算出される。パラメータ補正工程(S140)では、パラメータ補正部291により、溶接パラメータの値が補正される。具体的には、対象溶接時に測定された溶接パラメータの値に、補正値算出工程(S130)において算出された補正値を加えることによって補正される。つまり、補正後の溶接パラメータは、以下の式(2)に示す関係式によって規定される。
補正後の溶接パラメータ=補正前の溶接パラメータ+補正値 式(2)
【0038】
ナゲット径推定工程(S150)では、推定値算出部292により、ナゲット径が算出される。具体的には、補正後の溶接パラメータの値が、推定式に代入されてナゲット径が算出される。
【0039】
A3.補正式650の作成方法:
次に、補正式650の作成方法について説明する。
図5は、補正式作成部230により実行される補正式650の作成方法における手順を示すフローチャートである。なお、
図5に示すフローチャートは、
図3に示すフローチャートの前に実行されている。
図5に示すように、補正式650の作成方法は、パラメータ差分算出工程(S201)と、外乱抵抗値差分算出工程(S202)と、導出工程(S203)と、を有し、各工程がこの順に実行される。
【0040】
パラメータ差分算出工程(S201)では、マスタパターンにおける溶接パラメータの値と、外乱有り相関データにおける溶接パラメータの値と、の差分であるパラメータ差分が算出される。マスタパターンは、マスタ溶接を複数回実行して得られた、溶接パラメータの値とナゲット径との相関を示す。外乱有り相関データは、外乱がある状態での外乱有り溶接を複数回実行して得られた、溶接パラメータの値とナゲット径との相関を示す。
【0041】
図6は、補正前の溶接パラメータとナゲット径との相関を示す図である。
図6における縦軸は、溶接パラメータの値を表し、横軸は、ナゲット径を表している。
図6において、マスタパターンを、黒塗り潰しの丸形でプロットし、外乱有り相関データを、黒塗り潰しの正方形でプロットしている。本実施形態では、外乱は板隙の発生とし、溶接パラメータとしては、溶接期間の後半の抵抗値の平均値を用いた。
図6における直線は、マスタ溶接における、溶接パラメータの値と、ナゲット径とが対応付けされたプロット点を線形回帰することによって算出される一次方程式であり、推定式670に相当する。
図6に示すように、外乱がある場合には、プロット点が推定式から下方へずれている。この「ずれ」は、マスタパターンにおける溶接パラメータの値と、外乱有り相関データにおける溶接パラメータの値と、の差分Pdであり、すなわち、「パラメータ差分」である。
【0042】
外乱抵抗値差分算出工程(S202)では、マスタ初期抵抗値と、外乱有り溶接における通電期間の初期の外乱初期抵抗値と、の差分である外乱抵抗値差分が算出される。
図7は、補正式650の一例を示す図である。
図7において、横軸は、実測抵抗値差分を表し、縦軸は、補正値を表している。また、
図7において、横軸は、上記した外乱抵抗値差分に相当し、縦軸は、上記したパラメータ差分に相当する。
図7において、外乱なしのデータを、黒塗り潰しの丸形でプロットし、外乱有りのデータを、黒塗り潰しの正方形でプロットしている。
図7における直線は、これらの各プロット点を線形回帰することによって算出される近似線としての一次方程式であり、補正式650に相当する。
【0043】
すなわち、本実施形態では、パラメータ差分と、外乱抵抗値差分との相関関係を用いて補正式650が作成される。作成された補正式650(上記式(1))におけるxに、実測抵抗値差分を代入することにより、yとして補正値が算出される。
図8は、補正後の溶接パラメータとナゲット径との相関を示す図である。
図8における縦軸は、補正後の溶接パラメータの値を表し、横軸は、ナゲット径を表している。
図8において、マスタパターンを、黒塗り潰しの丸形でプロットし、外乱有り相関データを、黒塗り潰しの正方形でプロットしている。
図8に示すように、外乱有り相関データは、
図6と比較して、近似線に近い位置に補正された。すなわち、マスタパターンと同等に扱えるデータとして補正できた。
【0044】
図9は、補正式650を用いた補正の前後におけるナゲット径の推定誤差を比較するための図である。ここで言う「推定誤差」とは、ナゲット径の実測値と、推定式670により算出したナゲット径の推定値と、の乖離度合いを指す。
図9の左図は、推定式670に代入する溶接パラメータを補正することなく、ナゲット径を推定した場合におけるナゲット径の推定誤差を示している。
図9の右図は、補正式650を用いて補正した後の溶接パラメータを推定式670に代入してナゲット径を推定した場合におけるナゲット径の推定誤差を示している。
図9の左図および右図における横軸は、ナゲット径の推定誤差である。
図9の左図および右図における縦軸は、ナゲット径の実測径である。
【0045】
また、
図9において、外乱なし溶接を複数回実行した際のデータを、黒塗り潰しの丸形でプロットし、外乱有り溶接を複数回実行して得られた際のデータを、黒塗り潰しの正方形でプロットしている。
図9の左図に示すように、推定式670に代入する溶接パラメータを補正することなく、ナゲット径を推定した場合には、外乱ありの場合におけるナゲット径の推定誤差が10%以上となることが多い。一方、
図9の右図に示すように、補正式650により補正された後の溶接パラメータの値を推定式670に代入して、ナゲット径を推定した場合には、外乱ありの場合であっても、ナゲット径の推定誤差が10%内の範囲に収まっている。すなわち、上記第1実施形態によれば、ナゲット径の推定式670に代入する溶接パラメータを補正式650により補正することで、ナゲット径を精度良く推定できる。
【0046】
さらに、上記推定方法では、マスタ初期抵抗値と、補正式650とは、予め記憶部60に記憶されている。このため、ナゲット径の推定に際して、通電初期の実測初期抵抗値を取得した上で、登録されたマスタ初期抵抗値との差分である実測抵抗値差分を算出し、算出された実測抵抗値差分を補正式650に代入するという、簡単な処理によって補正値を算出できる。また、補正式650は、外乱の影響を加味して作成されており、マスタ溶接からのずれである外乱抵抗値差分と、パラメータ差分との相関を取っている。このため、補正式650を用いて得られた補正値により溶接パラメータの値を補正することで、外乱の影響を補正することができる。
【0047】
B.第2実施形態:
次に、本開示の第2実施形態について、
図10~
図19を参照して説明する。なお、第2実施形態において、ナゲット径推定システム1の全体構成(
図1)および制御装置100の概略構成(
図2)は、上記第1実施形態と略同様であるため、実質的に同一の部分については同一の符号を付すとともに説明は省略する。
図10は、制御装置100の概略構成を示すブロック図である。
図10に示すように、第2実施形態では、上記第1実施形態に対して、CPU20は、外乱判別部250をさらに有している点が異なっている。その他の構成については同様である。
【0048】
外乱判別部250は、対象溶接時における通電期間の電気抵抗値の特徴から、外乱の種類を判別する。第2実施形態では、外乱判別部250により、3種の外乱を判別する。3種の外乱の1つ目は「板隙」であり、2つ目は「押し上げ・押し下げ」であり、3つ目は「面直崩れ」である。「押し上げ・押し下げ」は、下部電極3のロボットによる位置制御の乱れや誤差、または電極2,3の先端部の摩耗等により、被溶接面を電極により押し上げる状態となったり、押し下げる状態となったりする現象である。「押し上げ」は、上部電極2は弱接触、下部電極3は強接触になる。「押し下げ」では、上部電極2は強接触、下部電極3は弱接触になる。「面直崩れ」は、下部電極3のロボットによる位置制御の乱れ等により、電極と被接触面との垂直関係が崩れてしまう現象である。
【0049】
第2実施形態において、補正式650は、各外乱についてそれぞれ作成されており、本実施形態では、3つの補正式650が記憶部60に記憶されている。補正式650の作成については、上記第1実施形態と同様であり、外乱の種類を異ならせて、データを取り、作成される。
【0050】
図11は、第2実施形態における、ナゲット径の推定方法における手順を示すフローチャートである。
図11に示すように、第2実施形態では、第1実施形態に対して、実測抵抗値差分算出工程(S120)と、補正値算出工程(S130)との間に、外乱判別工程(S121)を有する点が、異なっている。外乱判別工程(S121)では、外乱判別部250により、3種の外乱のうち、対象溶接において生じたと推測される外乱はいずれであるかが判別される。この判別は、対象溶接時における電気抵抗値の波形と、マスタ溶接時における電気抵抗値の波形との比較により行われる。
【0051】
図12~
図14は、抵抗値の時間変化をグラフに示す図である。各図において、マスタ溶接における抵抗値Rm(以下、単にマスタ抵抗値Rmという)を太実線で示し、外乱あり溶接における抵抗値Rg1、Rg2を破線および二点鎖線で示している。また、
図12において、電流値の変化を細実線で示している。各図において、通電開始が100msであり、通電終了が300msである。
【0052】
図12は、外乱として、板隙が生じた場合のデータである。
図12において、抵抗値Rg1は、1mmの板隙における抵抗値であり、抵抗値Rg2は、2mmの板隙における抵抗値である。
図13は、外乱として、押し上げ・押し下げが生じた場合のデータである。
図13において、抵抗値Rg1は、2mmの押し上げにおける抵抗値であり、抵抗値Rg2は、2mmの押し下げにおける抵抗値である。
図14は、外乱として、面直崩れが生じた場合のデータである。
図14において、抵抗値Rg1、Rg2は、3°の面直崩れが生じた場合を2回行ったそれぞれのデータを示している。
【0053】
図12~
図14の各図に示すように、外乱の種類に応じて、溶接期間における抵抗値の波形の特徴は異なっている。
図15は、各外乱が生じた場合の抵抗値の波形の特徴を、表にまとめて示した図である。ここで、「本通電初期T1」とは、
図12~
図14における140ms~160msとし、「本通電前半T2」とは、140ms~178msとし、「本通電後半T3」とは、270ms~300msとした。なお、便宜状、特徴量を取得する上では上記のように区分けしたが、「通電前半」とは、通電期間の開始から、通電期間の中間位置までの範囲を示す。また、ここでの「本通電初期」と、実測初期抵抗値を取得する際の「通電初期」とは異なって設定されることが可能である。
【0054】
図12~
図14および
図15の各図に示すように、外乱が板隙の場合における抵抗値の波形は、本通電初期において、マスタ抵抗値Rmより小さく、本通電前半における傾きは、0より大きく、本通電後半において、マスタ抵抗値Rmより小さい。外乱が押し上げ・押し下げの場合における抵抗値の波形は、本通電初期において、マスタ抵抗値Rmより小さく、本通電前半における傾きは、ほぼ0であり、本通電後半において、マスタ抵抗値Rmとほぼ同値である。外乱が面直崩れの場合における抵抗値の波形は、本通電初期において、マスタ抵抗値Rmより小さく、本通電前半における傾きは、0より大きく、本通電後半において、マスタ抵抗値Rmより大きい。
【0055】
上記例では、本通電初期において、マスタ抵抗値Rmより小さい点はいずれの外乱においても同様であるが、本通電前半の傾き、および本通電後半のマスタ抵抗値Rmとの比較において、それぞれの外乱を区別することが可能である。具体的には、こうした特徴により外乱種別を判別するために、対象溶接における具体的な閾値を予め定めておき、敷値を超えているか否か等により判別できる。
【0056】
第2実施形態では、外乱の種類を判別した後、外乱の種類ごとに対応して作成された補正式650のうち、外乱判別工程(S121)において判別された外乱に対応する補正式650を用いて、溶接パラメータの補正値が算出される。
図16~
図18は、溶接パラメータとナゲット径との相関を示す図である。各図における縦軸は、溶接パラメータの値を表し、横軸は、ナゲット径を表している。各図において、マスタパターンを、白抜き四角形状でプロットし、外乱有りのデータであって、補正前のデータを三角形状でプロットし、外乱有りのデータであって、補正後のデータをバツ印でプロットしている。
【0057】
図16は、外乱として、板隙が生じた場合のデータである。
図17は、外乱として、押し上げ・押し下げが生じた場合のデータである。
図18は、外乱として、面直崩れが生じた場合のデータである。各図における直線は、溶接パラメータの値と、ナゲット径とが対応付けされたプロット点を線形回帰することによって算出される一次方程式であり、推定式670に相当する。各図に示すように、外乱がある場合には、補正前のデータでは、プロット点が推定式から下方へずれている。しかし、それぞれの補正式650を用いて補正することで、補正後のデータでは、プロット点がほぼ推定式に近い位置に補正された。
【0058】
図19は、補正式650を用いた補正の前後におけるナゲット径の推定誤差を比較するための図である。
図19の左図は、推定式670に代入する溶接パラメータを補正することなく、ナゲット径を推定した場合におけるナゲット径の推定誤差を示している。
図19の右図は、補正式650を用いて補正した後の溶接パラメータを推定式670に代入してナゲット径を推定した場合におけるナゲット径の推定誤差を示している。
図19の左図および右図における横軸は、ナゲット径の推定誤差である。
図19の左図および右図における縦軸は、ナゲット径の実測径である。
【0059】
図19に示すように、補正無しでは推定精度が±20%以上に大きく外れていたデータを、補正有りでは±20%以内でほぼ推定することができた。すなわち、上記第2実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、外乱の種類を判別して、外乱の種類に応じた補正式650を用いて溶接パラメータを補正するため、外乱の種類に応じた適正な補正値が算出されるため、ナゲット径の推定精度をより向上させることができる。
【0060】
C.他の実施形態:
(C1)上記各実施形態において、実測初期抵抗値およびマスタ初期抵抗値は、通電初期Tiにおける平均値を用いたが、通電初期Tiにおける任意の時刻での値を用いてもよい。
【0061】
(C2)上記各実施形態において、推定式670は、溶接パラメータを第1説明変数とし、ナゲット径の推定値を第1目的変数とする関係式である。ここで、第1説明変数として複数の溶接パラメータが含まれる場合には、全ての溶接パラメータについてそれぞれ補正式650を作成して、補正後の値を算出した上で、ナゲット径を推定してもよい。または、任意の溶接パラメータを選定して、選定した溶接パラメータについてのみ補正式650を作成してもよい。
【0062】
本開示は、上記各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…ナゲット径推定システム、2…上部電極、3…下部電極、4…電極昇降装置、5…加圧装置、6…電流調整装置、9…測定機構、10…抵抗スポット溶接装置、11…ガン本体、11a…上部、11b…下部、20…CPU、20…外乱判別部、30…通信部、40…ディスプレイ、41…サーボモータ、42…昇降部材、50…入力操作部、60…記憶部、91…電流値測定部、92…電圧値測定部、93…抵抗値算出部、95…加圧力測定部、96…電極間変位量測定部、97…電極間変位量算出部、100…制御装置、200…動作制御部、210…取得部、220…差分算出部、230…補正式作成部、240…補正値算出部、250…外乱判別部、290…推定部、291…パラメータ補正部、292…推定値算出部、961…第1変位量測定部、962…第2変位量測定部、G…溶接ガン、RA…ロボットアーム、W…被溶接部材、W1…金属板