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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】電極層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20241106BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241106BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241106BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/139
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022113385
(22)【出願日】2022-07-14
(65)【公開番号】P2024011425
(43)【公開日】2024-01-25
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城戸崎 徹
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-077592(JP,A)
【文献】特表2016-526262(JP,A)
【文献】特開2010-251194(JP,A)
【文献】特開2019-169252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口径が0.25μm以下である開口部を表面に有し、かつ、空隙を内部に有する活物質と、
粒子径が0.15μm以下でありBET比表面積が25m/g以上である固体電解質と、を混練及び加熱して得られる電極層であって、
前記活物質に対する前記固体電解質の充填率が30体積%以上である電極層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極層に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一次粒子の内部に空隙を有し、前記空隙における前記活物質の表面が硫化物固体電解質に被覆されている、活物質及び当該活物質を含む電極層が提案されている。
特許文献2には、(i)シリコン含有多孔性粒子を500℃から1200℃の温度かつ無酸素雰囲気下で焼結するステップと、(ii)ステップ(i)より得た焼結シリコン含有粒子を集電体上に配置するステップと、を含む金属イオン電池用電極の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-080285号公報
【文献】特表2017-503308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電池の更なる低抵抗化が求められている。
本開示の課題は、電池の抵抗が低下する電極層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の手段が含まれる。
<1>開口径が0.25μm以下である開口部を表面に有し、かつ、空隙を内部に有する活物質と、粒子径が0.15μm以下でありBET比表面積が25m/g以上である固体電解質と、を混練及び加熱して得られる電極層であって、活物質に対する固体電解質の充填率が30体積%以上である電極層。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、電池の抵抗が低下する電極層が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
【0008】
<電極層>
本開示に係る電極層は、開口径が0.25μm以下である開口部を表面に有し、かつ、空隙を内部に有する活物質と、粒子径が0.15μm以下でありBET比表面積が25m/g以上である固体電解質と、を混練及び加熱して得られる電極層であって、活物質に対する固体電解質の充填率が30体積%以上である
【0009】
本開示に係る電極層は、上記構成により、電池の抵抗を低下する。その理由は、次の通り推測される。
開口径が0.25μm以下である開口部を表面に有し、かつ、空隙を内部に有する活物質と、粒子径が0.15μm以下でありBET比表面積が25m/g以上である固体電解質と、を混練及び加熱することで、活物質に対する固体電解質の充填率が30体積%以上となる。そうすることで、活物質と、固体電解質と、の接触面積が増加し、イオン伝導度が向上する。
そのため、本開示に係る電極層は、電池の抵抗を低下する。
【0010】
(活物質)
本開示に係る電極層は、開口径が0.25μm以下である開口部を表面に有し、かつ、空隙を内部に有する活物質を含む。
【0011】
活物質は、その表面に開口径が0.25μm以下である開口部を有する。ここで、開口部とは、活物質表面に開いた孔である。
開口径は、走査電子顕微鏡(SEM)により測定する。具体的には一定量の活物質をSEMにより観測し、その活物質の表面の開口部の直径(円相当直径)を測定し、その平均値を開口径とする。
【0012】
活物質の粒子径は20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが更に好ましい。
活物質の粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)により測定する。具体的には一定量の活物質の粒径を測定して、平均値を算出することにより求めることができる。
【0013】
活物質のBET比表面積は0.1m/g以上25m/g以下であることが好ましく、0.5m/g以上10m/g以下であることがより好ましく、0.8m/g以上5m/g以下であることが更に好ましい。
活物質のBET比表面積は、特開2021-166198号公報の[0036]に記載の方法により測定する。
【0014】
活物質を正極活物質として用いる場合、酸化物活物質が挙げられる。
酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO等のオリビン型活物質が挙げられる。また、正極活物の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていてもよい。
活物質を負極活物質として用いる場合、Si(ケイ素)系活物質が挙げられる。
Si系活物質としては、例えば、Si単体、Si合金、Si酸化物が挙げられる。
【0015】
(固体電解質)
本開示に係る電極層は、固体電解質を含む。
固体電解質の粒子径が0.15μm以下であり、0.13μm以下であることが好ましく、0.12μm以下であることがより好ましい。
固体電解質の粒子径の測定方法は、活物質の粒子径の測定方法と同一である。
【0016】
固体電解質のBET比表面積は25m/g以上であり、28m/g以上であることが好ましく、30m/g以上であることがより好ましい。
固体電解質のBET比表面積は、活物質のBET比表面積の測定方法と同一である。
【0017】
固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質を用いることができる。硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P系の硫化物固体電解質が挙げられる。
【0018】
(充填率)
本開示に係る電極層は、活物質に対する固体電解質の充填率が30体積%以上であり、35体積%以上90体積%以下であることが好ましい。
活物質に対する固体電解質の充填率は走査電子顕微鏡(SEM)により測定する。測定手順は以下の通りである。
電極層を切断し、電極層の切断面のうち任意の5箇所をSEMにより倍率5000倍で観測しSEM画像を得る。SEM画像を画像処理ソフトウェアImageJに取り込み、活物質の一次粒子の内部に含まれる空隙の面積に対する、活物質の一次粒子の空隙に存在する固体電解質の面積の割合を算出し、その値を活物質に対する固体電解質の充填率とする。
【0019】
(その他の成分)
本開示に係る電極層は、必要に応じて、活物質及び固体電解質以外にバインダー(例えば、ゴム系バインダー、フッ化物系バインダーなど)、導電助剤(例えば、繊維状炭素材料など)などのその他の成分を含んでもよい。
【0020】
(電極層の製造方法)
本開示に係る電極層は、開口径が0.25μm以下である開口部を表面に有し、かつ、空隙を内部に有する活物質と、粒子径が0.15μm以下でありBET比表面積が25m/g以上である固体電解質と、を混練及び加熱することで製造する。
具体的には、活物質、固体電解質、分散剤及び必要に応じてその他の成分を混練することで電極組成物を得た後、電極組成物を膜状に塗工し、膜状の電極組成物を加熱することで電極層を製造することが好ましい。
【0021】
<全固体電池>
本開示に係る全固体電池は、正極層、負極層、正極層と負極層との間に配置された固体電解質層を有することが好ましい。さらに、全固体電池は、正極層の集電を行う正極集電体及び負極層の集電を行う負極集電体を有することが好ましい。
ここで、本開示に係る電極層は、正極層及び負極層の少なくとも1つに適用される。本開示に係る全固体電池は、全固体リチウム電池であることが好ましい。
【実施例
【0022】
以下に実施例について説明するが、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0023】
<硫化物固体電解質の作製>
LiS及びPを、モル比で、LiS:P=75:25となる様に秤量し、原料組成物を得た。この原料組成物と、原料組成物に対して質量比で20倍のテトラヒドロフランと、をガラス製の容器に入れ25℃で72時間撹拌を行った後、沈殿物を硫化物固体電解質の前駆体として回収した。回収した前駆体を、アルゴン雰囲気下、25℃で乾燥させた後、大気圧下、100℃で1時間焼成を行った。得られた焼成体を石英管に真空封入し、この石英管をマッフル炉内に入れ、140℃で12時間焼成を行い、硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質を粉砕し粒子径を調整することで、硫化物固体電解質1~3を得た。
【0024】
<正極の作製>
正極活物質として表1に記載の開口径である開口部を表面に有し、かつ、空隙を内部に有する活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)80.0g、表1に記載の硫化物固体電解質9.51g、導電助剤としてVGCF(昭和電工社製)2.5gをフィルミックス容器に採取した。その後、バインダーであるスチレンブタジエンゴムを含む溶液(溶液中のバインダーの濃度は、溶液全体に対して5質量%)及び分散剤であるテトラリン32.21gをフィルミックス容器に添加し、固形分濃度が69質量%の正極用原料組成物を得た。混練装置としてフィルミックスを使用し、表1に示す周速で正極用原料組成物を混練し正極用の電極組成物を得た。フィルミックスには高剪断用PCホイールを使用した。正極集電体(アルミニウム箔)の表面に、アプリケーターを使用したブレードコート法で正極用の電極組成物を膜状に塗工し、膜状の電極組成物を100℃で30分間加熱することで正極集電体上に正極層を有する正極を得た。
【0025】
<負極の作製>
負極活物質としてSi単体18.6g、第1固体電解質(すなわち、上記<硫化物固体電解質の作製>において作製した硫化物固体電解質)0.09g、第2固体電解質(すなわち、上記<硫化物固体電解質の作製>において作製した硫化物固体電解質)8.6g、バインダーであるスチレンブタジエンゴムを含む溶液(溶液中のバインダーの濃度は、溶液全体に対して5質量%)及び分散剤であるジイソブチルケトンをフィルミックス容器に添加し、固形分濃度が43質量%の負極用原料組成物を得た。混練装置としてフィルミックスを使用し、周速5m/s~30m/sの範囲で負極用原料組成物を混練し負極用の電極組成物を得た。フィルミックスには高剪断用PCホイールを使用した。負極集電体(ニッケル箔)の表面に、アプリケーターを使用したブレードコート法で負極用の電極組成物を膜状に塗工し、膜状の電極組成物を100℃で30分間加熱することで負極集電体上に負極層を有する負極を得た。
【0026】
<固体電解質層の作製>
硫化物固体電解質(上記<硫化物固体電解質の作製>において作製した硫化物固体電解質であり、粉砕前のもの)40g、アクリレートブタジエンゴム及びヘキサンを含む溶液(溶液中のアクリレートブタジエンゴムの濃度は、溶液全体に対して5質量%)8.00g、ヘプタン25.62g及びジブチルエーテル8.00gを混合し、超音波ホモジナイザーで混練し、固体電解質層組成物を得た。アルミニウム箔の表面に、アプリケーターを使用したブレードコート法で固体電解質層組成物を膜状に塗工し、膜状の固体電解質層組成物を100℃で30分間加熱することで固体電解質層を作製した。
【0027】
<電池の作製>
上記手順で作製した正極、固体電解質層及び負極をこの順で積層した。具体的には負極の負極層上に固体電解質層を20kNで転写した後、固体電解質層上に正極を正極層が固体電解質層側に向くように20kNで積層した。
この積層体を4ton/cmで緻密化し、ラミネート封止をすることで全体を5MPaの力で拘束し、目的とする全固体電池を作製した。
【0028】
<電池抵抗評価>
作製した全固体電池を用いて、上限電圧4.55V、下限電圧2.5VのCCCV充放電を0.1Cで行った。全固体電池の設計容量は0.3Ahとした。得られた結果から電池抵抗を算出した。
【0029】
【表1】
【0030】
上記結果から、本実施例の全固体電池は、抵抗が低いことがわかる。
なお、表1中の「前記固体電解質の充填率」は活物質に対する固体電解質の充填率を意味する。