(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】冷却システムのメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20230101AFI20241106BHJP
B01J 47/02 20170101ALI20241106BHJP
B01J 47/10 20170101ALI20241106BHJP
B01J 39/18 20170101ALI20241106BHJP
B01J 41/12 20170101ALI20241106BHJP
B01J 39/04 20170101ALI20241106BHJP
B01J 41/04 20170101ALI20241106BHJP
F28G 9/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C02F1/42 Z
B01J47/02
B01J47/10
B01J39/18
B01J41/12
B01J39/04
B01J41/04
F28G9/00 Z
(21)【出願番号】P 2022133528
(22)【出願日】2022-08-24
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 康朗
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-185838(JP,A)
【文献】特開2002-054894(JP,A)
【文献】特開2000-093752(JP,A)
【文献】特開2010-153195(JP,A)
【文献】特開2002-172391(JP,A)
【文献】特開2011-187313(JP,A)
【文献】特開2008-006369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42
B01J 39/00-49/90
H01M 8/04- 8/0668
F28G 1/00-15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却経路内にイオン交換樹脂を導入するステップと、
前記イオン交換樹脂により、前記冷却経路内の冷却液のイオン洗浄を行うステップと、
前記冷却経路から前記イオン交換樹脂を除去した後、前記冷却経路内に添加剤を添加するステップと、
を含む冷却システムのメンテナンス方法。
【請求項2】
前記イオン交換樹脂は、水素イオン型または水酸化物イオン型である請求項1に記載の冷却システムのメンテナンス方法。
【請求項3】
前記添加剤は、防錆剤および消泡剤を含有する請求項1に記載の冷却システムのメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷却システムのメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、冷却液の導電性を維持するイオン交換樹脂を備え、冷却液が添加剤を含有し、添加剤のイオン交換樹脂への吸着が飽和状態に調製された燃料電池システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で開示された技術では、例えば熱劣化生成物イオンや配管からの溶出イオンの吸着(除去)が十分ではないという問題がある。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、冷却液の防錆能力を維持しつつ、熱劣化生成物イオンや配管からの溶出イオンの吸着を十分に行うことができる冷却システムのメンテナンス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る冷却システムのメンテナンス方法は、冷却経路内にイオン交換樹脂を導入するステップと、前記イオン交換樹脂により、前記冷却経路内の冷却液のイオン洗浄を行うステップと、前記冷却経路から前記イオン交換樹脂を除去した後、前記冷却経路内に添加剤を添加するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、冷却液の防錆能力を維持しつつ、熱劣化生成物イオンや配管からの溶出イオンの吸着を十分に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る冷却システムの概略的な構成を示す正面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る冷却システムのメンテナンス方法の流れを示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る冷却システムのメンテナンス方法を実施する前後の冷却液の20℃導電率の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の実施形態に係る冷却システムのメンテナンス方法について、図面を参照しながら説明する。なお、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
ここで、冷却システムで用いられる冷却液は、有機酸等の熱劣化による生成物がイオン化したり、あるいは冷却系統の部品材料(例えばゴム、金属等)からイオンが溶出したりすることで、当該冷却液の導電性が高くなり、金属部品が腐食するおそれがある。
【0011】
そこで、従来から、イオン交換樹脂を用いて冷却液内のイオンを除去することが行われているが(特許文献1参照)、特許文献1で開示された技術では、例えば熱劣化生成物(例えばギ酸、酢酸等)イオンや配管からの溶出イオンの吸着(除去)が十分ではないという問題がある。その理由としては、以下が挙げられる。
【0012】
(1)冷却液の添加剤は単成分ではなく、多数の成分から構成される。そのため、事前に冷却液の全ての添加剤を飽和吸着させると、本来の目的であるイオン交換能力が著しく低下するため、吸着したいイオンを吸着することができない。
(2)熱劣化生成物イオンは弱酸であり、イオン化傾向が小さいため、添加剤イオンよりも吸着されづらい。そのため、予め添加剤を飽和吸着すると、弱酸を吸着することができない。
(3)更に電気自動車特有の課題として、バッテリが床下に設置されるため、冷却経路の位置が、エンジン車よりも下層に位置する。更に、車両の下面は路面干渉があるため、冷却液の排出口であるドレーンコックを設置することができない。その結果、高低差による液自重での系外排出性が著しく悪化する。そのため、冷却液の交換作業性が悪化し、冷却液の品質維持管理が困難となる。また、電気自動車では、イオン交換樹脂を常設搭載するスペースの確保が困難である。
【0013】
そこで、本発明者らは、上記の課題(1)~(3)を解決すべく鋭意検討した結果、冷却液の防錆能力を維持しつつ、熱劣化生成物イオンや配管からの溶出イオンの吸着を十分に行うことができるメンテナンス方法を見出した。
【0014】
本実施形態に係る冷却システムのメンテナンス方法は、例えば電気自動車に搭載された冷却システムをメンテナンスするための方法である。本メンテナンス方法は、例えば車両のディーラ等で実施される定期メンテナンス等のタイミングで実施することができる。
【0015】
図1は、本メンテナンス方法が適用される冷却システム1の概略的な構成を示している。なお、同図は、冷却システム1のうち、本実施形態の実現に必要な構成のみを図示しており、その他の構成は図示を省略している。
【0016】
冷却システム1は、冷却経路11と、リザーブタンク12と、車載ポンプ13と、を備えている。冷却経路11内には冷却液が循環している。この冷却液は、例えばエチレングリコール水溶液を基材としており、所定の添加材が添加されている。この添加剤には、例えば防錆剤、金属防食剤(例えばカルボン酸、硝酸塩、亜硝酸塩、チアゾール、モリブデン酸塩、ホウ酸塩等)、消泡剤、pH調整剤、染料、苦味剤等が含まれる。
【0017】
リザーブタンク12は、冷却液を貯留するためのタンクである。車載ポンプ13は、冷却経路11内の冷却液を循環させるためのものである。なお、車載ポンプ13の代わりに別途ポンプを用意してもよい。
【0018】
本実施形態に係る冷却システムのメンテナンス方法の手順について、
図2を参照しながら説明する。本実施形態に係る冷却システムのメンテナンス方法では、導入ステップと、イオン洗浄ステップと、添加ステップと、をこの順で行う。
【0019】
<導入ステップ>
導入ステップでは、冷却経路11内に、イオン交換樹脂を導入する。このイオン交換樹脂は、例えば水素イオン型(H型)の交換樹脂(カチオン交換樹脂)、または水酸化物イオン型(OH型)の交換樹脂(アニオン交換樹脂)である。
【0020】
<イオン洗浄ステップ>
イオン洗浄ステップでは、イオン交換樹脂により、冷却経路11内の冷却液のイオン洗浄を行う。イオン交換樹脂によるイオン洗浄の方法としては、バッチ方式と、カラム方式とが挙げられる。
【0021】
バッチ方式は、イオン交換樹脂を冷却液に浸漬させる方式である。バッチ方式では、例えばイオン交換樹脂をリザーブタンク12内に所定時間浸漬させ、イオン洗浄が終わったら当該イオン交換樹脂を取り除く。バッチ方式は、冷却液の劣化度合いに応じた時間だけイオン交換樹脂を浸漬させればよいため、作業性がよいというメリットがある。
【0022】
カラム方式は、イオン交換樹脂を冷却経路11内で循環させる方式である。カラム方式では、例えばリザーブタンク12内にイオン交換樹脂を取り付け、車載ポンプ13によって冷却液を循環させ、イオン洗浄が終わったら当該イオン交換樹脂を取り除く。カラム方式は、冷却経路11内にイオン交換樹脂を設置した上で冷却液を循環させるため、イオン交換効率が高いというメリットがある。
【0023】
なお、例えば冷却液の劣化度合いが小さい場合はバッチ方式を用いてイオン洗浄を行い、冷却液の劣化度合いが大きい場合はカラム方式を用いてイオン洗浄を行ってもよい。この場合、例えば前回メンテナンスを行ってからの、車両の走行距離や走行時間から冷却液の劣化度合いを予測し、その予測結果に応じてバッチ方式またはカラム方式を使い分けてもよい。また、劣化度合いの予測結果に応じて、イオン交換樹脂の量、比率等を選択してもよい。
【0024】
このように、バッチ方式またはカラム方式によるイオン洗浄ステップを実施することにより、
図2の(a)、(b)に示すように、冷却液内の劣化物(熱劣化生成物イオン、配管からの溶出イオン)および添加剤が除去される。
【0025】
<添加ステップ>
添加ステップでは、
図2の(c)に示すように、冷却経路11からイオン交換樹脂を除去した後、当該冷却経路11内に添加剤を添加する。この添加剤には、例えば防錆剤、金属防食剤(例えばカルボン酸、硝酸塩、亜硝酸塩、チアゾール、モリブデン酸塩、ホウ酸塩等)、消泡剤、pH調整剤、染料、苦味剤等が含まれる。
【0026】
以上説明した実施形態に係る冷却システムのメンテナンス方法では、例えば車両の定期メンテナンス時等に、一時的にイオン交換樹脂を活用して、冷却液内の劣化物および添加物を除去する。そして、必要な防錆剤等の添加剤を後から添加する。これにより、冷却液の防錆能力を維持しつつ、熱劣化生成物イオンや配管からの溶出イオンの吸着を十分に行うことができる。
【0027】
(実施例)
実施形態に係る冷却システムのメンテナンス方法の実施例について、
図3を参照しながら説明する。本実施例では、走行によって冷却液が劣化した冷却システムに対して、実施形態に係るメンテナンス方法を実施し、導電率(20℃導電率)の変化を検証した。
【0028】
本実施例では、水素イオン型(H型)のカチオン交換樹脂と、水酸化物イオン型(OH型)のアニオン交換樹脂とを1:1で混合したイオン交換樹脂を1.5L用いた。また、イオン洗浄方式は、「バッチ方式」を実施した。
【0029】
表1および
図3に示すように、冷却液の初期の導電率は50[μS/cm]であったが、走行により劣化が進むと、1500[μS/cm]まで上昇した。そこで、イオン交換樹脂によって、冷却液のイオン洗浄を行ったところ、導電率は5[μS/cm]まで低下した。そして、添加剤を添加したところ、導電率は初期と同じ50[μS/cm]となった。
【0030】
【0031】
以上のように、実施形態に係る冷却システムのメンテナンス方法を実施することにより、劣化物を十分に除去することができ、冷却液の導電率を適切に維持することができる。
【0032】
更なる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、以上のように表わし、かつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。従って、添付のクレームおよびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 冷却システム
11 冷却経路
12 リザーブタンク
13 車載ポンプ