(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】半導体基板の製造方法、半導体基板、複合半導体基板の製造方法、複合半導体基板、および半導体接合基板
(51)【国際特許分類】
C30B 29/04 20060101AFI20241106BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20241106BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20241106BHJP
C30B 29/48 20060101ALI20241106BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20241106BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20241106BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20241106BHJP
H01L 21/205 20060101ALN20241106BHJP
H01L 21/203 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C30B29/04 E
C30B29/36 A
C30B29/38 C
C30B29/38 D
C30B29/48
C23C16/27
H01L21/02 B
H01L21/02 C
H01L21/20
H01L21/205
H01L21/203 Z
(21)【出願番号】P 2022185070
(22)【出願日】2022-11-18
(62)【分割の表示】P 2020144805の分割
【原出願日】2016-01-15
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2015006903
(32)【優先日】2015-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西林 良樹
(72)【発明者】
【氏名】仲前 一男
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-026624(JP,A)
【文献】特開2007-112637(JP,A)
【文献】特開2005-219962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/04
C30B 29/36
C30B 29/38
C30B 29/48
C23C 16/27
H01L 21/02
H01L 21/20
H01L 21/205
H01L 21/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体材料からなる基板と、前記基板上に設けられた半導体層とからなる半導体基板であって、
前記半導体基板は第1の主面および第2の主面を含み、
前記第1の主面は、前記基板の外部に露出した主面であり、
前記第1の主面は、前記半導体基板を構成する主元素とは種類または結合状態が異なる第1元素を含み、
前記第1元素は、水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、
前記第1元素は、前記第1の主面において、複数の略円形の
窪みを形成するように存在し、
前記第1の主面のJIS B 0601-2013に規定される表面粗さRaは、10μm未満であり、
前記半導体層は、ダイヤモンド、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、セレン化亜鉛または炭化シリコンからなる、
半導体基板。
【請求項2】
半導体材料からなる基板と、前記基板の一方の主面上に設けられた半導体層と、前記半導体層の前記基板側の主面と反対側の主面上に設けられた第1の基板とを含む複合半導体基板であって、
前記複合半導体基板は第3の主面を含み、
前記第3の主面は、前記基板の外部に露出した主面であり、
前記第3の主面は、前記半導体層を構成する主元素とは種類または結合状態が異なる第1元素を含み、
前記第1元素は、水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、
前記第1元素は、前記第3の主面において、複数の略円形の模様をなすように存在し、
前記複合半導体基板は、前記第3の主面のJIS B 0601-2013に規定される表面粗さRaが、10μm未満であり、
前記半導体層は、厚みが0.1μm以上50μm以下であり、
前記半導体層は、ダイヤモンド、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、セレン化亜鉛または炭化シリコンからなる、
複合半導体基板。
【請求項3】
半導体材料からなる種基板と、前記種基板の主面上に前記種基板の主面に接して配置された半導体層とを含み、
前記種基板は、前記半導体材料を構成する主元素とは種類または結合状態が異なる第1元素を含むイオン注入層を有し、
前記第1元素は、水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、
前記イオン注入層は、厚さが50nm以上10μm以下であり、かつ、イオンのドーズ量が1×10
14cm
-2以上2×10
18cm
-2以下であり、
前記半導体層は、前記種基板の面方位を引き継いでいるヘテロエピタキシャル成長層またはホモエピタキシャル成長層である、
半導体接合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の製造方法、半導体基板、複合半導体基板の製造方法、複合半導体基板、および半導体接合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板は、あらゆるエレクトロニクスに内蔵され、幅広く利用されており、特にワイドバンドギャップ半導体基板は、省エネに寄与する高効率のデバイス、パワーデバイスなどの半導体基板として、今後期待されている材料である。中でもダイヤモンド基板は、半導体基板としてだけでなく、各種工具(ドリル、エンドミル、フライス、カッタ、バイトなどの切削工具や、ダイス、水やその他流体のジェットノズル、スティッチェルなどの耐磨工具など)、光学部品(窓、レンズなど)、電子部品の材料(放熱基板など)として幅広く用いられており、今後さらに重要性が増すものと考えられる。
【0003】
ほとんどの半導体は、気相合成法(以下、CVD法(Chemical Vapor Deposition)ともいう)によって、薄膜あるいは板状、バルク状のものを形成することができる。
【0004】
気相合成法では、種結晶である種基板上に半導体層を成長させる。半導体層は、種基板とともに利用することができる。また、半導体層を種基板から分離し、半導体層のみを製品に利用することができる。この場合は、種基板を再利用できるため、製造コストを低減することができる。
【0005】
特許文献1(特開平6-234595号公報)には、気相合成法により、光透過性の高い第1のダイヤモンド層と、光透過性の低い第2のダイヤモンド層とを交互に積層し、この積層体にレーザー光を照射して、第2のダイヤモンド層にレーザー光を吸収させ、第1のダイヤモンド層をダイヤモンド薄板として分離する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2(特開2007-112637号公報)には、気相合成法により、基板上に光透過性の低い第1のダイヤモンド層および光透過性の高い第2のダイヤモンド層を成長させて積層体を得て、前記積層体の上面または下面側からレーザー光を照射して第1のダイヤモンド層を変質させ、前記変質した第1のダイヤモンド層を加熱処理、電気化学的エッチングまたは酸エッチング等の処理によって剥離させて、第2のダイヤモンド層を分離する方法が開示されている。
【0007】
特許文献3(米国特許第5587210明細書)には、ダイヤモンド基板にイオン注入を行い、基板の内部に非ダイヤモンド炭素からなるダメージ層を形成した後、前記基板上に気相合成法によりダイヤモンドを成長させ、その後ダメージ層を電気化学的エッチングして、成長したダイヤモンドを基板から分離する方法が開示されている。
【0008】
また、製造コストを下げるためには、種基板を薄くスライスして用いることも有効である。
【0009】
特許文献4(特開2011-60860号公報)には、基板表面にレーザー光を照射することにより基板内部に改質層を形成した後、前記改質層をエッチングして、基板をスライスする方法が開示されている。
【0010】
特許文献5(特開2012-169363号公報)には、基板表面にレーザー光を照射することにより基板内部に改質層を形成した後、前記基板を改質層または改質層近傍において割断する基板の加工方法が開示されている。
【0011】
特許文献6(特開2011-60862号公報)には、基板表面にレーザー光を照射することにより基板内部に改質層を形成した後、前記改質層に溝を形成して前記溝を基点に基板を剥離する基板のスライス方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平6-234595号公報
【文献】特開2007-112637号公報
【文献】米国特許第5587210明細書
【文献】特開2011-60860号公報
【文献】特開2012-169363号公報
【文献】特開2011-60862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1の方法は、レーザー光を吸収する第2のダイヤモンド層をレーザー光により十分開裂するために、材料中最も硬いダイヤモンドの結合を切る必要がある。このような開裂のためにはレーザー光強度を十分強く保つ必要がある。この時、本来レーザー光を透過すべき第1のダイヤモンド層の表面において、表面のごみや凹凸の影響で、部分的にレーザー光強度が加工しきい値を超えて、第1のダイヤモンド層も加工される場合がある。また、第2のダイヤモンド層が急激に開裂するため、その開裂の勢いで第1のダイヤモンド層にも開裂の境界が及ぶこともあり、分離した表面が粗くなるという問題がある。また、加工時の衝撃でダイヤモンド全体が割れる場合もある。
【0014】
特許文献2~4では、エッチングされる層(以下、ダメージ層ともいう)の厚みが非常に薄いため、エッチング液のダメージ層の内部への浸透速度が非常に遅い。したがって、基板のサイズが大きくなると、ダイヤモンドの分離速度が非常に遅くなり、製造コストが上昇してしまうという問題がある。液がダメージ層の内部に浸透しなくなって、分離が不可能となる場合もある。
【0015】
特許文献5および6では、改質層に物理的な力を加えて基板を剥離するため、得られた基板の表面が粗くなりやすいという問題がある。また、基板の厚さがサイズに対して十分厚くない場合などは、基板が割れてしまうという問題がある。
【0016】
そこで、本発明の第1の目的は、短時間で半導体層を種基板の一部から分離でき、さらに、種基板が薄くても、または、種基板のサイズが大きくなっても分離でき、分離表面が平坦となる半導体基板の製造方法、前記半導体基板の製造方法から得られる半導体基板、ならびに前記半導体基板を分離できる半導体接合基板を提供することである。
【0017】
本発明の第2の目的は、短時間で、種基板を薄くスライスすることができ、スライス面が平坦となる複合半導体基板の製造方法、ならびに前記複合半導体基板の製造方法から得られる複合半導体基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様に係る半導体基板の製造方法は、半導体材料を含む種基板を準備する工程と、前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さに、イオン注入層(注入したイオンが留まる層)を形成する工程と、前記種基板の主面上に気相合成法により、半導体層を成長させる工程と、前記半導体層および前記種基板の少なくともいずれかの主面の表面から光を照射することにより、前記半導体層および前記種基板の一部を含む半導体基板を分離する工程とを含む、半導体基板の製造方法である。
【0019】
本方法は、光(レーザー光など)によって半導体元素の結合状態を直接切るというものではなく、あるいは光によって半導体中に改質層や変質層を形成しておくというものでもなく、イオン注入によって半導体中の元素の結合を緩めておき、レーザーは注入で内部に留まったイオン(原子あるいは分子)に直接的あるいは間接的にエネルギーを与え、注入したイオン(原子あるいは分子)の膨張エネルギーによって、半導体の結合を切るものである。イオン注入では、一つ一つの原子のエネルギーが高いにもかかわらず、原子一つは小さいので、エネルギー全体からすると小さいものであることに効果がある。すなわち、原子1個のエネルギーはダイヤモンドの結合を緩めたり、あるいは切るのに十分であるが、ダイヤモンド全体を割ってしまうエネルギーから比べるとはるかに小さいという効果を生じる。そのような状況で、イオン注入で内部に留まった原子に、光でエネルギーを与えて蒸発、膨張させ、あるいは単に膨張させて、弱くなった部分(注入界面)のみを切るというのが本発明の原理である。従来の光のみで切っていた方法よりも、はるかに小さい光のエネルギーで基板と成長した半導体を分離するという目的を達するものである。光によって半導体元素の結合状態を直接切るという方法では、集光したレーザーの1点で半導体結晶中に等方的に力が加わり、分離したい方向だけでなく、基板を割る方向にも力が加わり、基板が割れてしまう恐れがある。しかしながら、予め注入によってイオンが留まる部分を面状に形成すると、弱い部分が面状になり、光を1点に集光しても、切り取り線があるがごとく、割れる方向は等方的ではなく、イオン注入面を垂直に引き裂く方向に作用する。1点に光を集光しても走査すれば、きれいに分離できる。
【0020】
本発明の一態様に係る半導体基板は、上記の半導体基板の製造方法により得られる半導体基板である。
【0021】
本発明の一態様に係る半導体基板は、気相合成法により形成された半導体層を含む半導体基板であって、前記半導体基板は第1の主面および第2の主面を含み、前記第1の主面は、前記半導体基板を構成する主元素とは種類または結合状態が異なる第1元素を含み、前記第1元素は、水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、前記第1の主面の表面粗さは、10μm未満である、半導体基板である。ここで、半導体基板を構成する主元素とは、半導体基板の半導体格子を構成する元素であって、原子比率で1atm%以上含有されている元素を意味する。ここで異なる結合状態とは次のようなものを意味する。炭素の場合、sp3結合とsp2結合は異なる結合状態であり、金属が窒素と結合している場合は、酸素と結合している状態や金属結合をしている状態は異なる結合状態である。ここで、表面粗さとは、JIS B 0601-2013で規定するRaのことであり、表面凹凸の算術平均の値である。以下においても同様である。第1元素は、第1の主面において、例えば、複数の略円形の模様をなすように存在する。
【0022】
本発明の一態様に係る複合半導体基板の製造方法は、半導体材料を含む種基板を準備する工程と、前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さに、イオン注入層を形成する工程と、前記種基板の主面上に気相合成法により、半導体層を成長させる工程と、前記半導体層上に第1の基板を貼り合せる工程と、前記第1の基板および前記種基板の少なくともいずれかの主面の表面から光を照射することにより、前記第1の基板、前記半導体層および前記種基板の一部を含む複合半導体基板を分離する工程とを含む、複合半導体基板の製造方法である。
【0023】
本発明の一態様に係る複合半導体基板の製造方法は、半導体材料を含む種基板を準備する工程と、前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さに、イオン注入層を形成する工程と、前記種基板の主面上に第1の基板を貼り合せる工程と、前記第1の基板および前記種基板の少なくともいずれかの主面の表面から光を照射することにより、前記第1の基板および前記種基板の一部を含む複合半導体基板を分離する工程とを含む、複合半導体基板の製造方法である。
【0024】
本発明の一態様に係る複合半導体基板は、上記の複合半導体基板の製造方法により得られる複合半導体基板である。
【0025】
本発明の一態様に係る複合半導体基板は、第1の基板と、前記第1の基板の主面上に積層された半導体層とを含む複合半導体基板であって、前記複合半導体基板は、前記半導体層側の主面が、前記半導体層を構成する主元素とは種類または結合状態が異なる第1元素を含み、前記第1元素は、水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、前記複合半導体基板は、前記半導体層側の主面の表面粗さが、10μm未満であり、前記半導体層は、厚みが0.1μm以上50μm以下である、複合半導体基板である。ここで、半導体層を構成する主元素とは、半導体層の半導体格子を構成する元素であって、原子比率で1atm%以上含有されている元素を意味する。ここで異なる結合状態とは次のようなものを意味する。炭素の場合、sp3結合とsp2結合は異なる結合状態であり、金属が窒素と結合している場合は、酸素と結合している状態や金属結合をしている状態は異なる結合状態である。
【0026】
本発明の一態様に係る半導体接合基板は、半導体材料を含む種基板と、前記種基板の主面上に配置された半導体層とを含み、前記種基板は、前記半導体材料を構成する主元素とは種類または結合状態が異なる第1元素を含むイオン注入層を有し、前記第1元素は、水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む、半導体接合基板である。ここで、半導体材料を構成する主元素とは、半導体材料の半導体格子を構成する元素であって、原子比率で1atm%以上含有されている元素を意味する。ここで異なる結合状態とは次のようなものを意味する。炭素の場合、sp3結合とsp2結合は異なる結合状態であり、金属が窒素と結合している場合は、酸素と結合している状態や金属結合をしている状態は異なる結合状態である。
【発明の効果】
【0027】
上記態様によれば、短時間で半導体層を種基板の一部から分離でき、さらに、種基板が薄くても、または、種基板のサイズが大きくなっても分離でき、分離表面が平坦となる半導体基板の製造方法、ならびに前記半導体基板の製造方法から得られる半導体基板を提供することができる。さらに、熱的な制約や、電気的な制約もないので、室温で分離できるなどの分離する時の自由度も高く、幅広い応用が可能である。例えば、AuSn系やSn系やIn系などで、はんだ付けした後に分離することができるなどの応用がある。
【0028】
上記態様によれば、短時間で、種基板を薄くスライスすることができ、スライス面が平坦となる複合半導体基板の製造方法、ならびに前記複合半導体基板の製造方法から得られる複合半導体基板を提供することができる。これは、通常のレーザーによる半導体の原子結合を切る原理を使った分離方法であると、割れを防いで結合を切るために極端に小さいエリアにエネルギーを集中させる必要がある。しかしながら、本発明では、大きいエリアへの照射での割れを気にせず、結合を切ることができる。1回の照射のエリアが大きいと、走査する光(レーザー光など)を照射する時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1(A)~
図1(E)は、本発明の一態様に係る半導体基板の製造方法を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一態様に係る半導体基板の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3(A)~
図3(F)は、本発明の一態様に係る複合半導体基板の製造方法を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一態様に係る複合半導体基板の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5(A)~
図5(E)は、本発明の一態様に係る複合半導体基板の製造方法を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一態様に係る半導体基板の製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7(A)~
図7(D)は、本発明の一態様に係る半導体基板の製造方法を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の一態様に係る半導体基板の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0031】
本発明の一態様に係る半導体基板の製造方法は、(1)半導体材料を含む種基板を準備する工程と、前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さにイオン注入層(注入されたイオンが留まる層)を形成する工程と、前記種基板の主面の表面から光を照射することにより、前記種基板の一部を含む半導体基板を分離する工程とを含む、半導体基板の製造方法、または、(2)半導体材料を含む種基板を準備する工程と、前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さに、イオン注入層(注入されたイオンが留まる層)を形成する工程と、前記種基板の主面上に気相合成法により、半導体層を成長させる工程と、前記半導体層および前記種基板の少なくともいずれかの主面の表面から光を照射することにより、前記半導体層および前記種基板の一部を含む半導体基板を分離する工程とを含む、半導体基板の製造方法である。
【0032】
上記イオン注入層は必ずしも光吸収の大きい層にならなくともよい。ダイヤモンドなどの炭素を含む半導体の場合は特定のイオンを特定の濃度以上でイオン注入をすると、炭素の結合が切れて、炭素のsp2結合が増え、黒くなり光の吸収層を形成することがあるが、特定の濃度未満でイオン注入したり、特定のイオン(主に水素イオン)を注入しても、炭素の結合を終端する能力があると、光の吸収係数が大きくならないことも多い。ダイヤモンド以外の半導体では、炭素のsp2結合が生じない場合は、特定の濃度以上でも光の吸収係数がほとんど増加しない場合もある。しかし、光の吸収係数が大きくならずとも、基板を形作っている元素の結合を切ったり、緩めたりしているので、レーザー照射で、周りの格子にエネルギーを与えたり、直接注入イオンにエネルギーを与えたりすると、最終的に膨張するイオンや分子にエネルギーを与え、気化、膨張させて、十分、基板を分離する強度が得られる。
【0033】
上記態様によれば、短時間で半導体基板を種基板の一部から分離することができる。さらに、種基板が薄くても、または、種基板のサイズが大きくなっても、半導体基板を種基板の一部から分離することができる。また、分離表面が平坦な半導体基板を得ることができる。
【0034】
上記態様では、種基板の中に、イオン注入により、種基板よりも結晶性の低いイオン注入層を形成する。すなわち、種基板中に、結合力の弱いイオン注入層をあらかじめ形成しておく。これにより、種基板の主面、または半導体層および種基板の少なくともいずれかの主面の表面から照射された光は、イオン注入層またはその近傍へ吸収される。吸収された光のエネルギーは、イオン注入層に存在するイオン(原子あるいは分子)をガス化して膨張させて、結合の弱くなったイオン注入層の部分を押し広げ、種基板の一部を含む半導体基板、または半導体層および種基板の一部を含む半導体基板を分離させる。すなわち、上記態様の半導体基板の製造方法は、光(レーザー光を含む)の照射による種基板を形成する半導体の直接的な変質や開裂といった作用を用いずに、半導体基板を分離することができる。したがって、光の照射によって種基板を形成する半導体を直接的に開裂する方法と比べると、より低パワーで、かつ、より大きな領域(ビームサイズ)で照射できるので、短時間で半導体基板を分離することができる。
【0035】
上記態様によれば、強固な半導体元素の結合を直接切る方法ではなく、照射光を、イオン注入層あるいはその近傍に照射し、そのエネルギーを注入層あるいはその近傍に作用させ、注入層に存在する注入元素を気化し、ガス圧で、イオン注入層の上下面を押し広げて、非常に低パワーで、半導体基板を種基板の大部分から分離できる。
【0036】
上記態様によれば、半導体基板の分離は室温で行うことができる。すなわち、注入した元素をガス化させるために必要な温度が、半導体を溶融する温度以上であっても、照射光のエネルギーは局所的な注入元素に作用し、所望のガス圧を発生させるだけであり、半導体基板全体を高温に晒す必要はない。このため、種基板や半導体層を構成する半導体は、熱による溶融、変質、表面原子の脱離や再構成、ドーピング原子の拡散などの影響をほとんど受けない。照射光のエネルギーは、イオン注入によって欠陥を導入した面(イオン注入層、つまり注入されたイオンが留まる層)に作用するが、欠陥の導入していない結晶部分には作用しないため、イオン注入層以外の場所では、ほとんどクラックなどは発生しない。そして、イオン注入層では、ミシン目の切り取り線を外してゆくように容易に剥離が進行する。
【0037】
半導体基板の分離は、所望の温度に上げて行うこともできる。この場合は、これまでの分離技術に比べると、温度的制約、イオンの注入量の制約、時間的制約、装置の制約などを格段に広い条件の中から選択し、設定することができる。
【0038】
上記態様によれば、照射光は、種基板がイオン注入された際に導入された元素や、イオン注入層あるいはその近傍へ作用すればよい。したがって、従来の半導体原子結合を直接開裂する際に用いられた光よりも、より低パワーの照射光を用いることができる。
【0039】
(3)前記イオン注入層は、厚さが50nm以上10μm以下であり、イオンのドーズ量が1×1014cm-2以上2×1018cm-2以下の範囲であることが好ましい。これによると、半導体基板を種基板の一部から分離する時間を短縮することができる。
【0040】
(4)前記イオン注入は、水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含むイオンを用いて行うことが好ましい。これらのイオンは光のエネルギーを間接的にまたは直接的に吸収するとガス化しやすい。したがって、光の照射エネルギーを効率的に用いることができるため、半導体基板を種基板の一部から分離する時間を短縮することができる。また、水素分子、酸素分子、窒素分子からなる群より選ばれる少なくとも1種の分子を含むイオンを用いて行うことが好ましい。これらの分子イオンは光のエネルギーを間接的にまたは直接的に吸収すると原子単体よりガス化しやすい。従って、より光の照射エネルギーを効率的に用いることができるため、半導体基板を種基板の一部から分離する時間をより短縮することができる。
【0041】
(5)前記光はパルス光であり、前記光を照射する前記主面の表面におけるパルス当たりの照射フルエンスが0.01J/mm2以上1500J/mm2以下であることが好ましい。これによると、光が半導体層および種基板の主面の表面を破壊せず、また、種基板および半導体層の内部にクラックを発生させることなく、イオン注入層のみを破壊することができる。
【0042】
(6)前記光はパルス光であり、前記光を照射する前記主面の表面におけるパルスエネルギーが0.05mJ以上1000mJ以下であることが好ましい。これによると、光を照射する主面の表面が光により破壊せず、また、種基板、および半導体層を有する場合には半導体層の内部にクラックを発生させることなく、イオン注入層のみを破壊することができる。
【0043】
(7)前記光はレーザー光であり、前記光を照射する前記主面の表面上を走査することが好ましい。レーザー光を用いると、1パルスで強力な光を発生でき、1パルスの強度やパルス幅などを容易に制御することができる。また、集光したり、広げたりすることも容易で、パワー密度を調整できる。さらに、レーザー光は波長を選択でき、結晶性のよい半導体が吸収し難く、結晶性の悪いイオン注入層や欠陥が吸収しやすい波長を選択することも可能となる。
【0044】
(8)前記半導体基板を分離する工程は、液体中で行うことが好ましい。これによると、光照射による種基板、および半導体層を有する場合には半導体層への衝撃を低減できるため、種基板または半導体層でのクラックや割れの発生を抑制することができる。
【0045】
(9)前記半導体層は、ダイヤモンド、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、炭化シリコン、セレン化亜鉛および硫化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの半導体を含む半導体層は、半導体デバイスの材料として好適に用いることができる。これらの半導体材料は多結晶であっても構わないし、光学用途に用いられるものであっても構わない。
【0046】
(10)本発明の一態様に係る半導体基板は、上述の(1)~(9)に記載の半導体基板の製造方法によって得られた半導体である。該半導体基板は、種基板の一部からの分離時間が短縮されているため、製造コストが低減されている。
【0047】
(11)本発明の一態様に係る半導体基板は、気相合成法により形成された半導体層を含む半導体基板であって、前記半導体基板は第1の主面および第2の主面を含み、前記第1の主面は、前記半導体基板を構成する主元素とは種類または結合状態が異なる第1元素を含み、前記第1元素は、水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、前記第1の主面の表面粗さは、10μm未満である。該半導体基板は、表面が平坦であり、各種用途への加工が容易である。ここで、半導体基板を構成する主元素とは、半導体基板の半導体格子を構成する元素であって、原子比率で1atm%以上含有されている元素を意味する。ここで異なる結合状態とは次のようなものを意味する。炭素の場合、sp3結合とsp2結合は異なる結合状態であり、金属が窒素と結合している場合は、酸素と結合している状態や金属結合をしている状態は異なる結合状態である。半導体基板の半導体格子を構成する元素は、半導体格子を構成する他の元素と結合している。第1の主面において、半導体基板の半導体格子を構成する元素が、半導体格子における結合状態とは異なる結合状態で存在する場合として、半導体格子を構成する他の元素と結合していない場合、半導体格子を構成する元素とは異なる元素と結合している場合などが挙げられる。元素の種類は、2次イオン質量分析法(SIMS)、X線光電子分光分析法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、電子線マイクロ分析法(EPMA)などで分析することができる。元素や結合状態は、X線光電子分光分析法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)などで分析することができる。元素の結合状態は、X線光電子分光分析法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)などで分析することができる。
【0048】
(12)前記第1元素は、前記第1の主面において、複数の略円形の模様をなすように存在する場合がある。このような場合として、前記第1元素が、前記第1の主面において、複数の略円形の窪みを形成するように存在することにより、前記した略円形の模様をなす場合も含まれる。元素が形成している模様は、X線光電子分光分析法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)などでマッピング分析することができる。
【0049】
(13)本発明の一態様に係る複合半導体基板の製造方法は、半導体材料を含む種基板を準備する工程と、前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さに、イオン注入層を形成する工程と、前記種基板の主面上に気相合成法により、半導体層を成長させる工程と、前記半導体層上に第1の基板を貼り合せる工程と、前記第1の基板および前記種基板の少なくともいずれかの主面の表面から光を照射することにより、前記第1の基板、前記半導体層および前記種基板の一部を含む複合半導体基板を分離する工程とを含む、複合半導体基板の製造方法である。
【0050】
上記態様によれば、短時間で、種基板を薄くスライスすることができる。さらに、種基板が薄くても、または、種基板のサイズが大きくなっても、種基板を薄くスライスすることができる。また、スライス面が平坦な複合半導体基板を得ることができる。
【0051】
(14)本発明の一態様に係る複合半導体基板の製造方法は、半導体材料を含む種基板を準備する工程と、前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さに、イオン注入層を形成する工程と、前記種基板の主面上に第1の基板を貼り合せる工程と、前記第1の基板および前記種基板の少なくともいずれかの主面の表面から光を照射することにより、前記第1の基板および前記種基板の一部を含む複合半導体基板を分離する工程とを含む、複合半導体基板の製造方法である。
【0052】
上記態様によれば、短時間で、種基板を薄くスライスすることができる。さらに、種基板が薄くても、または、種基板のサイズが大きくなっても、種基板を薄くスライスすることができる。また、スライス面が平坦な複合半導体基板を得ることができる。
【0053】
(15)本発明の一態様に係る複合半導体基板は、上記(13)または(14)に記載の複合半導体基板の製造方法により得られる複合半導体基板である。該複合半導体基板は、種基板の一部からの分離時間が短縮されているため、製造コストが低減されている。
【0054】
(16)本発明の一態様に係る複合半導体基板は、第1の基板と、前記第1の基板の主面上に積層された半導体層とを含む複合半導体基板であって、前記複合半導体基板は、前記半導体層側の主面が、前記半導体層を構成する主元素とは種類または結合状態が異なる第1元素を含み、前記第1元素は、水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、前記複合半導体基板は、前記半導体層側の主面の表面粗さが、10μm未満であり、前記半導体層は、厚みが0.1μm以上50μm以下である。該複合体半導体基板は、表面が平坦であり、各種用途への加工が容易である。ここで、半導体層を構成する主元素とは、半導体層の半導体格子を構成する元素であって、原子比率で1atm%以上含有されている元素を意味する。ここで異なる結合状態とは次のようなものを意味する。炭素の場合、sp3結合とsp2結合は異なる結合状態であり、金属が窒素と結合している場合は、酸素と結合している状態や金属結合をしている状態は異なる結合状態である。半導体層の半導体格子を構成する元素は、半導体格子を構成する他の元素と結合している。第1の主面において、半導体層の半導体格子を構成する元素が、半導体格子における結合状態とは異なる結合状態で存在する場合として、半導体格子を構成する他の元素と結合していない場合、半導体格子を構成する元素とは異なる元素と結合している場合などが挙げられる。元素の種類は、2次イオン質量分析法(SIMS)、X線光電子分光分析法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、電子線マイクロ分析法(EPMA)などで分析することができる。元素の結合状態は、X線光電子分光分析法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)などで分析することができる。
【0055】
(17)前記第1元素は、前記半導体層側の主面において、複数の略円形の模様をなすように存在する場合がある。元素が形成している模様は、X線光電子分光分析法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)などでマッピング分析することができる。
【0056】
(18)本発明の一態様に係る半導体接合基板は、半導体材料を含む種基板と、前記種基板の主面上に配置された半導体層とを含み、前記種基板は、前記半導体材料を構成する主元素とは種類または結合状態が異なる第1元素を含むイオン注入層を有し、前記第1元素は、水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。ここで、半導体材料を構成する主元素とは、半導体材料の半導体格子を構成する元素であって、原子比率で1atm%以上含有されている元素を意味する。ここで異なる結合状態とは次のようなものを意味する。炭素の場合、sp3結合とsp2結合は異なる結合状態であり、金属が窒素と結合している場合は、酸素と結合している状態や金属結合をしている状態は異なる結合状態である。半導体材料の半導体格子を構成する元素は、半導体格子を構成する他の元素と結合している。イオン注入層において、半導体材料の半導体格子を構成する元素が、半導体格子における結合状態とは異なる結合状態で存在する場合として、半導体格子を構成する他の元素と結合していない場合、半導体格子を構成する元素とは異なる元素と結合している場合などが挙げられる。元素の種類は、2次イオン質量分析法(SIMS)、X線光電子分光分析法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、電子線マイクロ分析法(EPMA)などで分析することができる。元素の結合状態は、X線光電子分光分析法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)などで分析することができる。
【0057】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法および半導体基板の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0058】
[実施の形態1]
<半導体基板の製造方法>
図1(A)~
図1(E)は、本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法を模式的に示す図である。
図2は、本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法を示すフローチャートである。
【0059】
本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法は、半導体材料を含む種基板を準備する工程(
図1(A)および
図2の基板準備工程(S1)で示される。)と、前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さに、イオン注入層を形成する工程(
図1(B)および
図2のイオン注入層形成工程(S2)で示される。)と、前記種基板の主面上に気相合成法により、半導体層を成長させる工程(
図1(C)および
図2の半導体層成長工程(S3)で示される。)と、前記半導体層および前記種基板の少なくともいずれかの主面の表面から光を照射することにより、前記半導体層および前記種基板の一部を含む半導体基板を分離する工程(
図1(D-1)、(D-2)、(E)および
図2の半導体分離工程(S4)で示される。)とを含む。
【0060】
(種基板を準備する工程)
はじめに、
図1(A)を参照して、半導体材料を含む種基板1を準備する。
【0061】
種基板1は、単結晶半導体基板であっても多結晶半導体基板であってもよい。一般に、単結晶素材の方が高価であり、本発明の実施形態の効果をより大きく発揮させるという観点から、単結晶半導体基板が好ましい。なお、半導体デバイスでは単結晶であることが多い。
【0062】
種基板1に含まれる半導体材料としては、ダイヤモンド、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ガリウム、酸化ガリウム、炭化シリコン、セレン化亜鉛、硫化亜鉛などのワイドバンドギャップ半導体、あるいはガリウムヒ素、インジウムリン、シリコンなどの半導体を用いることができる。これらの半導体材料は、各種半導体デバイスに好適に用いることができる。
【0063】
種基板1は高い結晶性を有することが好ましい。種基板1が高い結晶性を有することにより、種基板1上に形成される半導体層3も高い結晶性を有することができる。種基板1は、高い結晶性の半導体を合成できる方法であることが好ましい。ダイヤモンドであれば、高温高圧合成法によって製造された単結晶であることが好ましい。炭化シリコンであれば、昇華法であることが好ましい。シリコンであれば、引き上げ法であることが好ましい。窒化アルミニウムは昇華法、酸化アルミニウムはフラックス法あるいは引き上げ法、酸化マグネシウムはフラックス法、窒化ガリウムは気相成長法あるいはフラックス法、酸化ガリウムは融液成長法、セレン化亜鉛は昇華法あるいはヨウ素を輸送剤とした化学輸送法、硫化亜鉛は昇華法、ガリウムヒ素やインジウムリンは縦型ブリッジマン法であることが好ましい。ただし、気相合成法によって製造された単結晶半導体であっても構わない。また、本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法から得られる半導体基板を加工したものであってもよい。
【0064】
半導体層3の厚み(
図1(C)中、上下方向)を効率よく厚く形成するためには、種基板1の主面は特定の面方位であることが好ましい。例えば、シリコンやダイヤモンドでは、(001)面であることが好ましい。炭化シリコンや窒化ガリウムでは、c面であることが好ましい。セレン化亜鉛や硫化亜鉛では、(111)面であることが好ましい。半導体層3の結晶の均質性をより高めるためには、種基板1の主面は、特定の面方位に対するオフ角が0°以上15°以下であることが好ましく、1.5°以上10°以下であることがより好ましい。
【0065】
種基板1の厚さは、10μm以上1000μm以下が好ましく、100μm以上800μm以下がさらに好ましい。ここで、種基板1の厚さとは種基板1主面の中心近傍で測定した厚さとする。
【0066】
図1では、種基板1は、一種類の基板から形成されているが、後のプロセスに支障がなければ、種基板1は、非半導体基板上に種結晶を含む半導体層が接合された(貼り合わせた)構造であってもよい。これによると、種結晶を含む半導体層が薄い場合にも、割れを防止でき、ハンドリング性が向上する。
【0067】
種基板1の主面の形状は特に限定されないが、たとえば四角形、多角形および円形(オリエンテーションフラット付も含む)などが挙げられる。種基板1の主面の表面は平面であってもよいし、凹面レンズ状、凸面レンズ状、矩形、台形、ピラミッド形などの凹凸を有する面でもよい。
【0068】
(イオン注入層を形成する工程)
次に、
図1(B)を参照して、前記種基板1にイオン注入(図中、下方向矢印)を行うことにより、前記種基板1の主面の表面から一定深さに、イオン注入層2を形成する。イオン注入では、種基板1に種基板を形成する半導体原子と異なる原子を導入したり、欠陥を導入したり、半導体原子同士の結合を緩めたりする。イオン注入では、異なる原子や欠陥が種基板1の内部に侵入するため、種基板1の表面は半導体の結晶構造を維持している。したがって、イオン注入による層を形成した後に、種基板1上に半導体層を形成することができる。
【0069】
形成されるイオン注入層2の基板の表面からの深さや厚さは、主に使用するイオンの種類、注入エネルギー、照射量によって調整することができる。イオン注入層2の設計はTRIMのようなモンテカルロシミュレーションによってほぼ正確に計算して予測することができる。
【0070】
注入エネルギーは、50keV以上10000keV以下が好ましく、80keV以上800keV以下がさらに好ましい。照射量は、1×1014個/cm2以上2×1018個/cm2以下が好ましく、1×1015個/cm2以上8×1017個/cm2以下がさらに好ましい。注入エネルギーおよび照射量が前記範囲であると、種基板1の主面の結晶性を、気相合成法によるエピタキシャル成長が可能な程度に維持したまま、種基板1内部の結晶構造を破壊して、半導体原子間の結合力が低下したイオン注入層2を形成することができる。
【0071】
注入エネルギーが50keV以上という高エネルギーであると、イオン注入層2には、原子空孔が生じ、半導体を構成する原子同士の結合力が弱くなる。イオン注入層2では、原子同士の結合力が弱い部分が同一面上に並んでいるので、外部から光を照射して導入原子にエネルギーを吸収させて気化膨張させた場合、イオン注入層2の部分に等しく力がかかる。したがって、イオン注入層2を破壊した後の破壊面である分離表面が平坦となる。イオン注入層2が薄いほど、また、原子空孔の量が多いほど、平坦性は増すので好ましい。イオン注入層2中のイオンの量が少なすぎると、剥離の力が得られにくくなる。
【0072】
照射量が多すぎると、最表面の半導体の結晶構造が壊れて、注入後の種基板1の表面上に半導体層3を合成できなくなるおそれがある。また、半導体層3を合成できても、イオン注入層2が合成時の雰囲気の影響を受けて、部分的に消失し、分離し難くなるおそれがある。注入エネルギーが大きくなりすぎると、イオン注入層2が厚くなりすぎて、平坦な分離面を得にくくなる。照射量が少なすぎると、後の工程で行われる光照射により、半導体基板を分離することが困難となる。
【0073】
種基板1中に形成されるイオン注入層2は、種基板1と照射光の吸収率が異なることが好ましい。これによると、より短時間で半導体層を種基板の一部から分離することができる。なお、イオン注入層2と種基板1との光の吸収率は同一であっても、半導体層を種基板の一部から分離することができる。それは、光で半導体基板の結合力を直接切るのではなく、半導体結晶の格子、あるいは注入イオンに局部的にエネルギーを与え、注入原子あるいは注入分子にエネルギーを伝えて、原子や分子が膨張することによって、注入で弱くなった結合に作用して切るからである。
【0074】
イオン注入層2の光透過率は、種基板1の光透過率に対して1%以上低いと、照射光が効率よくイオン注入層2に吸収されるようになり、好ましい。イオン注入層2の光透過率は、種基板1の光透過率に対して5%以上低いことがさらに好ましく、20%以上低いことがさらに好ましい。なお、イオン注入層2の光透過率が種基板1の光透過率と同程度または高い場合であっても、光の照射条件を調整することにより、短時間で半導体層を種基板の一部から分離することができる。ここで、光透過率Taとは、多重内部反射を考慮し、下記の式(1)によって表わされる値である。
Ta=It/I0 式(1)
さらに、多重反射を考慮した反射率Raと単反射Rは、それぞれ以下の式(2)、(3)によって表される。
Ra=Ir/I0 式(2)
R=(n0-nf)2/(n0+nf)2 式(3)
(式(1)中、I0は入射光の強度、Itは媒質を通過した後の出射光の強度、Irは媒質を挿入した後の反射光の強度、n0は空気の屈折率、nfはダイヤの屈折率を示す。)
ただし、照射光のエネルギーが半導体のバンドギャップよりも大きい場合は、このような差は生じない。半導体自身の吸収が大きいので、この差が分からないほど小さいということである。また、イオン注入層に光を照射する場合に、半導体基板中を通過して届ける必要があるが、この場合、半導体基板中で光が吸収されない方がよい。従って、本実施の形態では、半導体のバンドギャップよりも小さなエネルギーの光を用いることが一般的で、効果がある。
【0075】
光透過率の測定は、通常の分光光度計によって行うことができる。イオン注入層2の透過率は光透過性の高い種基板1と比べての値であり、反射率は差し引かず、反射率込みの値として測定される。従って、100%の光透過性のものでも、反射率が半導体の屈折率で計算される値以上あるので、それを差し引いた透過率を超えることはない。イオン注入層の厚さが非常に薄いので、光透過率の変化が、たとえ1%であっても、吸収係数に大きな違いがあり、大きな効果がある。しかしながら、本発明では、イオン注入層があまりにも薄く、あるいは明確な吸収の準位を作らず、本発明の範囲の透過率にほとんど反映されない場合もある。本発明では、そのような場合においても、結晶中の原子結合をイオンにおいて切っていれば、効果が発揮される。
【0076】
後の半導体基板3を分離する工程で用いる照射光の波長において、イオン注入層2の吸収係数は、種基板1の吸収係数に対して、5倍以上大きいことが好ましく、さらに30倍以上大きいことがより好ましい。ここで、光吸収係数とは、多重内部反射を考慮した下記の式(4)によって表わされる値である。
μ=(loge((It/I0)/((Ir/I0)/R-1)))/x 式(4)
(式(4)中、μは平均の光吸収係数、I0は入射光の強度、Itは媒質を通過した後の出射光の強度、Irは媒質を挿入した後の反射光の強度、Rは式(3)で表される単反射R、xは媒質の厚さ(イオン注入層2の実効的な厚さ)を示す。)
光源として混合波長を含む光源を用いる場合は、光源が含む波長および波長域において、最大の吸収エネルギーを示す波長の光透過率および吸収係数を意味するものとする。
【0077】
種基板1とイオン注入層2との光透過率または光吸収係数の関係が前記の範囲であると、種基板1に光を照射した時、光が種基板1を透過してイオン注入層2に効率的に吸収される。したがって、イオン注入層2の破壊に要する時間を短縮することができる。ただし、イオン注入層2の光透過率が大きくなると光のエネルギーを吸収する効率が高くなって、イオン注入層2の時間短縮に好都合ではあるが、必須ではない。イオンの注入は、次に述べる原子結合力を弱くすることが主目的であるからである。その場合、結晶格子やイオンに自身に光を非線形的に吸収させるようにすればよい。この場合、結晶格子の結合を直接きることなく、注入原子を膨張させてその力で結合の弱い部分を切るということが重要である。したがって、イオン注入の後に熱アニールをするなどして、光で分離する工程の前までに、光の透過率を低減させておいても問題はない。また、吸収のある光の波長とは異なる光の波長を用いても問題はない。間接的にエネルギーを注入イオンに伝え、最終的に注入イオンが膨張して、分離するエネルギーとすればよいからである。
【0078】
注入するイオンの種類は、イオン注入層2の結晶性を低下させることができる元素のイオンであればよい。たとえば、炭素、ホウ素、窒素、酸素、リン、ネオン、水素、ヘリウム、アルミニウム、シリコン、硫黄、アルゴンなど、イオン注入可能なすべての元素のイオンが使用可能である。なかでも、水素イオン、水素分子イオン、酸素イオン、酸素分子イオン、窒素イオン、窒素分子イオン、ヘリウムイオン、ネオンイオンおよびアルゴンイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のイオンを用いることが好ましい。これらのイオンは光のエネルギーによってガス化しやすい。したがって、イオン注入層がこれらのイオンを含むと、イオン注入層2あるいはその近傍に光を吸収させた時に、これらのイオンがガス化して膨張することにより、弱い原子間結合を有するイオン注入層の破壊が促進される。
【0079】
また、これらのイオンは半導体と結合を起こさない不活性ガスイオンか、起こしてもマトリックスに組み込まれずに、終端するような水素イオンであることが、半導体を分離する容易さとなるので、さらに好ましい。
【0080】
ボロン、窒素、シリコンおよびリンは半導体中の原子と4配位の結合をすると、半導体原子の結合を切るのと同等のエネルギーが必要となるので効率的ではない。一方、4配位していない凝集した窒素はガス化しやすく有効である。マトリックス中の原子と置換されているかどうかは、置換型で検出されるESR(Electron Spin Resonance:電子スピン共鳴)の量とSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry:二次イオン質量分析法)による全窒素の量を比べることにより、算出することができる。
【0081】
イオン注入層2は、種基板1の主面からの深さが0.05μm以上10μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1μm以下であることがさらに好ましい。これによると、照射光により破壊される層の厚さが十分小さく、また、分離の失敗を防止することができる。ここで、種基板1の主面とは、イオン注入を行った面のことである。種基板1の主面からの深さとは、種基板1の主面と、前記種基板1の主面にもっとも近いイオン注入層2の中心(注入イオン濃度の一番大きな位置)との距離を意味する。
【0082】
イオン注入層2は、厚さが50nm以上10μm以下であることが好ましく、100nm以上1μm以下であることがさらに好ましい。これによると、照射光により破壊される層(分離に必要な層)の厚さが十分小さく、かつ、分離面の十分な平坦性を確保することができる。
【0083】
イオン注入層2は、イオンのドーズ量が1×1014cm-2以上2×1018cm-2以下の範囲であることが好ましく、1×1015cm-2以上8×1017cm-2以下の範囲がさらに好ましい。イオンのドーズ量が前記の範囲であると、イオン注入層2中に原子空孔が十分な量形成されている。原子空孔の位置には原子が存在しないため、周辺の原子の結合力が緩和される。したがって、イオン注入層2あるいはその近傍が光を吸収すると、原子空孔を基点としてイオン注入層が破壊される。イオンのドーズ量は、注入時のイオン電流と照射面積から算出されるイオン電流密度と注入時間より算出した値であり、設計通りの注入ができていることを二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)によって確認できる。
【0084】
イオン注入層の厚さやドーズ量は、照射される光(レーザー)の強度に対応して設計される。すなわち、集光された光(レーザー)の強度が大きいとイオン注入量は少なくても分離され、集光される光(レーザー)の強度が小さいときはイオン注入量は多めに設計される。注入される半導体の最表面の結晶が崩れない程度にイオン注入量を調整する必要がある。
【0085】
イオン注入層2は、原子空孔密度が最大ピーク値で0.001%以上100%以下の範囲であることが好ましく、0.01%以上100%以下の範囲であることがさらに好ましい。原子空孔密度が前記の範囲であると、イオン注入層2の破壊を促進することができる。最大ピーク値の原子空孔密度が0.001%未満であると、イオン注入層2の破壊の基点が少ないため、イオン注入層2の破壊に要するパワーや時間が増大する。そのような場合は、結晶性の高い半導体も損傷を受けてしまう。原子空孔密度は、可視あるいは近赤外透過率によって測定した値である。イオン注入のシミュレーションで得られる原子密度と、透過率の測定値の検量線によって算出できる。原子密度は、室温の理想の炭素原子密度に対する百分率で表している。従って、原子空孔密度は、イオン注入条件が決まれば、測定しなくとも、決定できる。
【0086】
イオン注入層2は、原子空孔の集合であってもよいし、非晶質相を含んでいてもよい。非晶質相は、ダングリングボンドが多く含まれている方が好ましい。この場合、イオン注入層2あるいはその近傍が光を吸収した時に、非晶質相のダングリングボンドが基点となってイオン注入層2が破壊される。一方、種基板1の最表面まで非晶質相層が形成されるため、分離がうまくいかない。イオン注入した種基板1の上面に半導体層3がエピタキシャル成長することが困難になるからである。従って、イオン注入量には上限がある。
【0087】
(半導体層を成長させる工程)
次に、
図1(C)を参照して、前記種基板1の主面上に気相合成法により、半導体層3を成長させる。半導体層3はヘテロエピタキシャル成長層や、ホモエピタキシャル成長層となることがより好ましい。
【0088】
まず、半導体層がダイヤモンドである場合の成長方法の一例を説明する。
気相合成法は特に限定されず、PVD法、CVD法、MOCVD法、VPE法、分子線エピタクシー法、昇華法などを用いることができる。具体的には、たとえば、ダイヤモンドのマイクロ波プラズマCVDの合成方法において、種基板1を真空チャンバ内に設置し、真空チャンバ内の圧力を2.66kPa~53.2kPa、チャンバ内の基板温度を800℃~1200℃に加熱した上で、メタンなどの炭化水素ガス、水素ガス、および、不活性ガス、窒素などの添加ガスを導入し、種基板1の主面上にダイヤモンドからなる半導体層3をエピタキシャル成長させる。添加ガスは、必要に応じて添加するが、添加しなくともよい。半導体層3の成長方向は
図1(C)中、上方向である。半導体層3の上面は、種基板1の主面の面方位を引き継いでいる。
【0089】
次に、半導体層が、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、セレン化亜鉛の場合の合成方法の一例を説明する。
【0090】
窒化ガリウムをMOCVD法で成長する方法では、種基板1(典型的には(0001)面のC面を主面とする基板)を炉内に設置し、炉内の基板温度を600℃~1300℃に加熱した上で、トリメチルガリウムなどの有機ガリウムガス、アンモニアガス、および、水素などのキャリアガスを導入し、種基板1の主面上に窒化ガリウムからなる半導体層3をエピタキシャル成長させる。原料ガス中のトリメチルガリウムガスとアンモニアガスの混合比は体積比で、1:2000などが好ましい。半導体層3の成長方向は
図1(C)中、上方向である。半導体層3の上面は、種基板1の主面の面方位を引き継いでいる。気相合成法は、前記のMOCVD法に限定されず、一般的に知られる他の気相合成法を利用することもできる。
【0091】
窒化アルミニウムを昇華法で成長する方法では、種基板1((0001)面や(0002)面の基板)を炉内に設置し、炉内の基板温度を2000℃に保持した上に、窒化アルミニウム原料を2400℃で昇華させ、種基板1の主面上に窒化アルミニウムからなる半導体層3をエピタキシャル成長させる。半導体層3の成長方向は
図1(C)中、上方向である。半導体層3の上面は、種基板1の主面の面方位を引き継いでいる。気相合成法は、前記の昇華法に限定されず、一般的に知られる他の気相合成法を利用することもできる。
【0092】
セレン化亜鉛を昇華法で合成する方法では、種基板1を炉内に設置し、炉内の基板温度を1000~1200℃に保持した上に、より高い温度に設置した原料の多結晶セレン化亜鉛から不活性ガスをキャリアガスとして原料のセレンと亜鉛を装置内に導入し、種基板1の主面上にセレン化亜鉛からなる半導体層3をエピタキシャル成長させる。半導体層3の成長方向は
図1(C)中、上方向である。半導体層3の上面は、種基板1の主面の面方位を引き継いでいる。気相合成法は、前記の昇華法に限定されず、一般的に知られる他の気相合成法を利用することもできる。
【0093】
次に、半導体層が、炭化シリコンの場合の合成方法の一例を説明する。
種基板1(典型的には(0001)面を主面として利用するが、0.05~10°の範囲でオフしている。)を炉内に設置し、炉内の基板温度を1400℃~1600℃に高周波で加熱した上で、モノシランガスなどのシリコン水素系ガス、プロパンガスなどの炭化水素系ガス、および、水素などのキャリアガスを導入し、種基板1の主面上に炭化シリコンからなる半導体層3をエピタキシャル成長させる。炉は、常圧横型コールドウォールCVD装置などである。原料ガス中のシリコン系と炭素系ガスとの混合比は、1.5:1などがよい。半導体層3の成長方向は
図1(C)中、上方向である。半導体層3の上面は、種基板1の主面の面方位を引き継いでいる。気相合成法は、前記の方法に限定されず、一般的に知られる他の気相合成法を利用することもできる。
【0094】
半導体層3とイオン注入層2との光透過性の関係は、イオン注入層2の光透過率が、半導体層3の光透過率に対して1%以上低いことが好ましく、5%以上低いことがさらに好ましい。ここで、光透過率とは、上記の式(1)によって表わされる値である。
【0095】
照射する光の波長における半導体層3とイオン注入層2の光の吸収係数の関係は、イオン注入層2の吸収係数が、半導体層3の吸収係数に対して、5倍以上大きいことが好ましく、30倍以上大きいことがより好ましい。ここで、光吸収係数とは、上記の式(4)によって表わされる値である。
【0096】
イオン注入層2と半導体層3との光透過率または光吸収係数の関係が前記の範囲であると、半導体層3に光を照射した時、光が照射された半導体層3を透過してイオン注入層2に効率的に吸収される。したがって、イオン注入層2の破壊に要する時間を短縮することができる。
【0097】
半導体層3の光透過性をイオン注入層2よりも高くするためには、結晶性のよい条件で合成することが有効である。イオン注入層2は注入により発生した原子空孔に由来する点欠陥によって光透過性が低下している。イオン注入された種基板1の最表面は、結晶格子の秩序がイオン注入層2よりもはるかに良好に保たれており、点欠陥のほとんどは後に成長された半導体層3に引き継ぐことがない。従って、半導体層3はイオン注入層2よりも結晶性が高い。
【0098】
半導体層3は、単結晶であっても多結晶であってもよい。単結晶の半導体は高価であり、製造コストを低減させるという効果をより大きく発揮できるため好ましい。半導体層3は、導電性であっても絶縁性であってもよい。半導体層3は絶縁性が好ましいが、ドーピング原子をイオン注入しているドーピング基板であっても構わない。ただし、金属的にドーピングを行う場合は、半導体層3側から光を照射した場合、光がイオン注入層2に届かないこともある。したがって、金属的なドーピングを行った場合は、種基板1の半導体層が形成されていない主面側から光を照射することによって、光がイオン注入層2に到達するようにする。
【0099】
図1(C)に示される、イオン注入層2を有する種基板1と、種基板1の主面上に配置された半導体層3とを含む積層体を、本明細書においては「半導体接合基板」ともいう。
図1(C)に示される半導体接合基板を用いて、以下で説明する分離する工程を経ることにより、半導体基板を作製することができる。
【0100】
(半導体層と基板とを分離する工程)
次に、
図1(D-1)および
図1(D-2)を参照して、前記半導体層3および前記種基板1の少なくともいずれかの主面の表面から光4を照射する。そして、
図1(E)を参照して、前記イオン注入層2あるいはその近傍に光4を吸収させて、光のエネルギーにより、イオン注入層に存在するイオンを気化膨張させて、半導体間の結合が弱いイオン注入層の部分を膨張圧で押し広げ、半導体層3および種基板の一部(種基板1a)を含む半導体基板5を、種基板の大部分(種基板1b)から分離させる。
【0101】
イオン注入層2はイオンの注入により形成されているため、層内にイオン、原子空孔、非晶質部、マトリックスを構成する半導体原子のダングリングボンドの少なくともいずれかを含む。イオン注入層2あるいはその近傍が光4を吸収すると、イオン注入層2の温度が上昇し、イオン注入層に存在するイオン原子あるいは半導体格子の原子に結合していない原子が気化して膨張し、イオン注入層2中の原子間結合の弱い部分である原子空孔やダングリングボンドを基点としてイオン注入層2が破壊される。このとき、半導体層3には影響を与えないように押し広げることができる。イオン注入層2は、イオン注入を行う種基板1の表面を、あらかじめ平滑または平らな面に形成しておき、その面を通してイオン注入することにより形成されているため、イオン注入層2と種基板1との界面の凹凸が少ない。したがって、イオン注入層2あるいはその近傍に光を吸収させて破壊した後の半導体基板5と種基板1bとの分離面は、表面粗さが小さくなる。分離面の粗さは、イオン注入層厚程度の表面粗さとなるので、10μmより小さく、さらには1μmより小さくできる。
【0102】
光4は、イオン注入層2に集光して、集光点を走査させることが好ましい。光4はイオン注入層2に集光していてもよいが、イオン注入層2から少しずれてもよい。イオン注入層2が光を吸収しやすい層となってエネルギーを吸収してもよいし、イオン注入層2近傍がエネルギーを吸収し、それが注入されたイオンにエネルギーを伝えてもよい。従って、集光の距離が多少ずれても、関係なく作用できる。
【0103】
光4は、
図1(D-1)のように、半導体層3の主面側から照射してもよい。また、
図1(D-2)のように、種基板1の半導体層3が形成されていない主面側から照射してもよい。照射する最表面は、多少荒れた表面でもよい。コンパクトディスク(CD)の表面が曇っていても、内部の情報を引き出せる原理と同じで、照射する最表面が多少荒れていても、イオン注入層あるいはその近傍にうまく光を吸収させることができるからである。
【0104】
照射する光の光源としては、パルスレーザー、CWレーザー(Continuous Wave Laser:連続波発信レーザー)、フラッシュランプ、パルス状ランプなどを用いることができる。中でも、パルスレーザー、フラッシュランプ、パルス状ランプなどのパルス光を発する光源を用いると、半導体全体の温度が上昇する前に光の照射を中止し、半導体がクールダウンした後に光の照射を再開することができるので、イオン注入層のみを温度上昇させることができるため好ましい。ここで、パルス状ランプとは、ランプ自体は連続照射型のランプでも、物理的に遮蔽版が、光をさえぎったり、光の進路を変更したりして、実質的にパルス状に照射されるランプのことを意味する。
【0105】
光源としてパルス光を用いる場合、光を照射する半導体層3および種基板1の少なくともいずれかの主面の表面におけるパルス当たりの照射フルエンスは0.01J/mm2以上1500J/mm2以下であることが好ましく、0.1J/mm2以上500J/mm2以下であることがさらに好ましい。これによると、光が半導体層および基板を昇温せずに、イオン注入層のみを昇温することができる。したがって、半導体層および種基板の主面の表面を破壊せず、また、種基板および半導体層の内部にクラックを発生させることなく、イオン注入層のみを破壊することができる。パルス光のパルス当たりの照射フルエンスが0.01J/mm2未満であると、イオン注入層の破壊に要するパルス数が増大したり、パルス光がイオン注入層を破壊できないおそれがある。一方、パルス光のパルス当たりの照射フルエンスが1500J/mm2を超えると種基板や半導体層の表面や内部の結晶構造にダメージを与えるおそれがある。
【0106】
パルス光のパルス幅は、0.01psecから10msecが好ましい。さらに、0.01nsec以上10msec以下が好ましく、0.1nsec以上1msec以下がさらに好ましい。パルス幅が0.01nsecより小さくなると、パルス光のエネルギーが、半導体の原子の結合を切るエネルギーレベルに入ってくるので、半導体層および種基板の主面の表面が粗くなったり、割れたりするおそれがある。また、パルス幅が0.01nsec未満であると、光照射装置でパルス幅を制御するのが困難である。一方、パルス幅が10msecを超えると、イオン注入層のみだけでなく、種基板および半導体を含む全体の温度の上昇に影響を与える。ただし、全体の温度の上昇は照射フルエンスにも依存するため、照射フルエンスが0.01J/mm2未満の場合は、100msecまで許容される。
【0107】
パルス光のパルス間隔は0.1nsecから100msecが好ましい。すなわち、下限が0.1nsec以上、好ましくは10nsec以上、より好ましくは1μsec以上、さらに好ましくは10μsec以上であり、上限が100msec以下、好ましくは10msec以下、さらに好ましくは1msec以下である。(繰り返し周波数は、下限としては1Hz以上が好ましく、10Hz以上がより好ましく、100Hz以上がさらに好ましく、1kHz以上がもっと好ましい。上限としては1000MHz以下が好ましく、1000kHz以下がより好ましく、100kHz以下がさらに好ましい。)パルス幅とパルス間隔の比は、間隔/幅の比で、10~109が好ましい。10~106がより好ましい。さらには、10~1000が好ましい。
【0108】
パルス光は、光を照射する半導体層3および種基板1の少なくともいずれかの主面の表面におけるパルスエネルギーが0.05mJ以上1000mJ以下であることが好ましい。これによると、光が半導体層3および種基板1の主面の表面を破壊せず、また、種基板1および半導体層3の内部にクラックを発生させることなく、イオン注入層2のみを破壊することができる。パルスエネルギーが0.05mJ未満であると、照射光がイオン注入層を破壊することができない。一方、パルスエネルギーが1000mJを超えると、照射光がイオン注入層以外の半導体層や基板を破壊する恐れがある。パルスエネルギーは、0.1mJ以上50mJ以下がさらに好ましく、0.3mJ以上30mJ以下がさらに好ましい。
【0109】
照射する光はレーザー光であることが好ましい。レーザー光を用いると、パルスの幅や強度を可変しやすいことに加え、吸収に適した波長を選べるという効果を得ることができる。レーザーは、イオン注入層の吸収波長に合わせて、固体レーザー、液体レーザー、気体レーザーなどを用いることができる。具体的には、ガラスレーザー、YAGレーザー(YAG:Yttrium Aluminum Garnet)、YLFレーザー(YLF:Yttrium Lithium Fluoride)、CO2レーザー、エキシマレーザー、Ybドープファイバーレーザーなどを用いることができる。また、これらの2倍波、3倍波などの波長をSHG(Second Harmonic Generation)などで得て用いてもよい。
【0110】
レーザー光の波長はイオン注入層2の吸収波長に合わせて、250nm~10.6μmの範囲で、適宜選択することができる。たとえば、250nm以上400nm以下が好ましく、450nm以上550nm以下がさらに好ましい。さらには、1μm以上2μm以下がより好ましい。すなわち、レーザー光の波長が長い方が、多格子吸収でマトリックスを形成する半導体原子結合を切る割合よりも、注入イオンを熱的にガス化して膨張のエネルギーとする割合が大きくなり、好ましい。
【0111】
レーザー光は半導体層3または種基板1の主面の表面上を走査することが好ましい。走査速度は、パルス間隔(周波数)と光のサイズ(レーザービームサイズ)で決まる。操作速度はパルス周波数×ビームサイズの2倍以上、パルス周波数×ビームサイズの30倍以下が好ましく、5倍以上20倍以下がさらに好ましい。これによると、表面をより平坦に加工でき、無駄なく効率よく短時間で分離できる。
【0112】
半導体基板5と種基板1bとを分離する工程は、液体中で行うことが好ましい。これによると、光照射による半導体基板5および種基板1bへの衝撃を低減できるため、種基板1a、1bおよび半導体層3でのクラックの発生を抑制することができる。液体はレーザー光の衝撃を低減できるものであれば特に制限はなく、たとえば、純水、各種水溶液、各種オイル、あるいは固体状ジェルなどのやわらかい固体などを用いることができる。
【0113】
半導体基板5と種基板1bとを分離する工程は、周囲の温度を冷却しながら行うことが好ましい。これによると、照射する光による種基板1a、1bや半導体層3の熱膨張を低減することができ、種基板1a、1bや半導体層3でのクラックの発生を抑制することができる。冷却は、たとえば、冷媒雰囲気の導入や、純水、各種水溶液、各種オイルなどの液体や、固体状ジェルなどを冷却したものを用いて行うことができる。
【0114】
図1(E)に示されるように、分離された種基板1bと、半導体基板5の分離面は、表面粗さが小さい。種基板1aおよび半導体層3を含む半導体基板5をデバイス用基板ほか応用製品として用いる場合には、表面を平坦化することが必要な場合がある。半導体基板5に含まれる種基板1aは分離面の表面粗さが小さいため、デバイス用基板など応用製品への加工を容易に行うことができる。また、分離された種基板1bを再度エピタキシャル成長の基板として用いるためには、表面を平坦化する必要がある。種基板1bは分離面の表面粗さが小さいため、種基板への加工を容易に行うことができる。究極的には、基板への再加工なしに同じプロセスを通して、イオン注入後、CVDエピ後のレーザー分離ができる。
【0115】
分離された種基板1bと、半導体基板5の分離面の表面粗さ(Ra)は、10μm未満が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.3μm未満がさらに好ましい。これによると、表面を平坦化する加工が容易である。ここで、表面粗さ(Ra)とは、JIS B 0601-2013の規定に準ずる算術平均粗さを意味し、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、以下の式(5)によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【0116】
【0117】
分離された種基板1bの平坦化は通常の機械研磨によって行うことができ、Raを0.1nmにすることができる。種基板1の表面からイオン注入して、イオン注入層2を形成し、光の照射によりイオン注入層2を破壊すると、分離面の平坦度は低下する。しかしながら、イオン注入層2の厚さを薄くする、光の走査速度を遅くする、低パワーを利用するなどの工夫によって、分離面の平坦度の向上を図ることができる。
【0118】
[実施の形態2]
本発明の実施形態に係る半導体基板は、実施の形態1の半導体基板の製造方法によって得られた半導体基板5である。前記半導体基板5は、種基板1bからの分離時間が短縮されているため、製造コストが低減されている。
【0119】
本発明の実施形態に係る半導体基板は、気相合成法により形成された半導体層3を含む半導体基板5であって、前記半導体基板5は第1の主面および第2の主面を含み、前記第1の主面は、前記半導体基板を構成する主元素とは種類または結合状態が異なる第1元素を含み、前記第1元素は、水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、前記第1の主面の表面粗さは、10μm未満である。該半導体基板は、表面が平坦であり、各種用途への加工が容易である。第1の主面の表面粗さは、1μm以下が好ましく、0.3μm未満がより好ましい。本実施形態の半導体基板は、実施の形態1の半導体基板の製造方法により作製することができる。この場合、本実施形態の半導体基板において、第1の主面の表面とは、種基板1aの表面に対応する。また、第1の主面に含まれる第1元素である水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素は、イオン注入で注入されたイオンに由来するものである。イオン注入で注入されたイオンは、半導体基板の分離時に大部分が除去されるが、イオン注入層の欠陥の少ない一部には残存する。イオン注入による元素分布は既知であり、半導体基板を構成する主元素とは種類または結合状態が異なるという特徴があるため、第1の主面に、イオン注入により注入されたイオンが存在することは、判別可能である。この表面は、半導体基板のデバイス形成表面として使用しない限りは問題がない。基板の裏面として使用する場合は、注入したイオンが残っていると炭素結合間に存在するので、最表面のみがそれほど硬くない層で形成されることとなり、異種基板などに接合する際にはクッションの役割をする利点がある。この層は、後にプラズマエッチングや化学エッチング(可能な場合)研磨や機械的に除去することもできるので、半導体のデバイス形成表面として利用することも可能である。しかし、エッチピットが生じる、機械的ひずみが蓄積する、余分なコストが発生する、などの欠点も併せ持つので、再度きれいなエピ膜を形成するなどの工程を経る必要がある。分離表面と対面の成長表面は、エピ形成された表面であるので、半導体デバイス形成表面として問題はない。
【0120】
第1の主面の表面に含まれるクラックは長さが100μm以下であり、かつ、前記表面に含まれる変質層は最大径が100μm以下であることが好ましい。このクラックは、光学顕微鏡で観察でき、直線的な黒い影として観察され、局部的な、瞬時的な膨張が原因であるものであるが、微小で表面に留まるので、半導体基板のデバイス形成表面として使用しない限りは、特に問題はない。また変質層は非晶質層の部分を指し、RHEEDによってリングパターンの存在で確認できる。クラックは既にひずみが解放されており、変質層は非晶質なので、ここでは劈開が起こらないという特徴を有する。したがって、改めて異種基板などに接合される裏面として利用する場合は、新たなクラックの伸展を止める働きをして、割れに対する耐久性が発現するという利点がある。これらの層は、後にプラズマエッチングや化学エッチング(可能な場合)研磨や機械的に除去することもでき、半導体のデバイス形成表面として利用することも可能である。しかし、エッチピットが生じる、機械的ひずみが蓄積する、余分なコストが発生する、などの欠点も併せ持つので、再度きれいなエピ膜を形成するなどの工程を経る必要がある。分離表面と対面の成長表面は、エピ形成された表面であるので、半導体デバイス形成表面として問題はない。
【0121】
第1の主面の表面には、半導体基板を構成する主元素の少なくとも一つである第1元素が半導体基板の半導体格子とは異なる原子結合状態で存在していることが好ましい。結合状態が異なる元素が表面に存在することは、XPSやAESで観察することにより確認することができる。第1元素は、表面に留まるので、半導体基板のデバイス形成表面として使用しない限りは、特に基板の使用に問題はない。強固な表面に緩く留まっているので、異種基板などに接合する裏面として使用する場合は、割れを防ぎ、クッションの役割をする利点がある。この層は、後にプラズマエッチングや化学エッチング(可能な場合)研磨や機械的に除去することもでき、半導体のデバイス形成表面として利用することも可能である。しかし、エッチピットが生じる、機械的ひずみが蓄積する、余分なコストが発生する、などの欠点も併せ持つので、再度きれいなエピ膜を形成するなどの工程を経る必要がある。分離表面と対面の成長表面は、エピ形成された表面であるので、半導体デバイス形成表面として問題はない。
【0122】
第1の主面の表面には、半導体基板を構成する主元素の少なくとも一つである第1元素が半導体基板の半導体格子とは異なる原子結合状態であって、複数の略円形の模様をなして存在していることが好ましい。結合状態が異なる元素が表面に存在すること、またその模様は、XPSやAESでマッピングすることで観察することにより確認することができる。半導体基板5を、種基板1bから分離する際に印加される物理的なエネルギーによって、第1元素が瞬時的に膨張し、複数の略円形の模様を形成することがある。複数の略円形の模様が包絡線をなすこともある。本表面は、半導体基板のデバイス形成表面として使用しない限りは、特に基板の使用に問題はない。強固な表面に緩く、部分的に留まっているので、異種基板などに接合する際にはクッションの役割をする利点がある。この層は、後にプラズマエッチングや化学エッチング(可能な場合)研磨や機械的に除去することもでき、半導体のデバイス形成表面として利用することも可能である。しかし、エッチピットが生じる、機械的ひずみが蓄積する、余分なコストが発生する、などの欠点も併せ持つので、再度きれいなエピ膜を形成するなどの工程を経る必要がある。分離表面と対面の成長表面は、エピ形成された表面であるので、半導体デバイス形成表面として問題はない。
【0123】
本実施形態に係る半導体基板は、デバイス用基板やその他基板を適用する応用製品に用いることができる。前記デバイス用基板や応用製品は、前記半導体基板を備えているため、製造コストが低減されている。
【0124】
半導体層3がダイヤモンドの場合の応用製品としては、具体的には、ダイヤモンドバイト、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、切削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの切削工具が挙げられる。また、切削工具に限られず、研削工具、耐摩工具、部品などを挙げることができる。研削工具としては、ドレッサなどを挙げることができる。耐摩工具、部品としては、ダイス、スクライバー、水または粉末噴出ノズル、ワイヤなどのガイドを挙げることができる。さらに、熱的応用では、高出力レーザーダイオード(LD)や高出力半導体発光素子(LED)などの半導体デバイスのためのヒートシンクであるとか、光学的応用では、高出力用のレーザー用窓材料、X線ターゲットなどが挙げられる。
【0125】
半導体層3が窒化ガリウムの場合の応用製品としては、例えば、青色LED、白色LED用の基板や、高効率のスイッチングデバイスなどの基板が挙げられる。
【0126】
半導体3が炭化シリコンの場合の応用製品としては、例えば、電力制御用あるいは車載の高効率パワーデバイス用の基板が挙げられる。
【0127】
[実施の形態3]
<複合半導体基板の製造方法>
図3(A)~
図3(F)は、本発明の実施形態に係る複合半導体基板の製造方法を模式的に示す図である。
図4は、本発明の実施形態に係る複合半導体基板の製造方法を示すフローチャートである。
【0128】
本発明の実施形態に係る複合半導体基板の製造方法は、半導体材料を含む種基板を準備する工程(
図3(A)および
図4の基板準備工程(S21)で示される)と、前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さに、イオン注入層を形成する工程(
図3(B)および
図4のイオン注入層形成工程(S22)で示される)と、前記種基板の主面上に気相合成法により、半導体層を成長させる工程(
図3(C)および
図4の半導体層成長工程(S23)で示される)と、前記半導体層上に第1の基板を貼り合せる工程と(
図3(D)および
図4の第1の基板貼り合わせ工程(S24)で示される)と、前記第1の基板および前記種基板の少なくともいずれかの主面の表面から光を照射することにより、前記第1の基板、前記半導体層および前記種基板の一部を含む複合半導体基板を分離する工程(
図3(E-1)、(E-2)、(F)および
図4の複合半導体基板分離工程(S25)で示される)とを含む。
【0129】
実施の形態3に係る複合半導体基板の製造方法は、基板準備工程(S21)、イオン注入層形成工程(S22)、半導体層成長工程(S23)、複合半導体基板分離工程(S25)は、それぞれ、実施の形態1に係る半導体基板の製造方法の基板準備工程(S1)、イオン注入層形成工程(S2)、半導体層成長工程(S3)、半導体基板分離工程(S4)と同一の方法を採用することができる。したがって、以下では、実施の形態1とは異なる点である、第1の基板を貼り合わせる工程(S24)について説明する。
【0130】
(第1の基板を貼り合わせる工程)
図3(D)に示されるように、半導体層23の上に第1の基板25を貼り合わせる。これによると、半導体層23を自立しないほど薄く形成した場合でも、半導体層23および第1の基板25を含む複合半導体基板26は自立することができ、ハンドリング性が良好である。すなわち、実施の形態3では、実施の形態1よりも、高価な半導体層23を薄くできるため、複合半導体基板26の製造コストが低減される。
【0131】
第1の基板25としては、例えば酸化ケイ素(SiO2)基板を用いることができる。酸化ケイ素基板は、非常に平坦に研磨した半導体基板23上にSiO2層を形成し、該SiO2層上に貼り合せることができる。また、第1の基板25は複数枚を用いてもよい。例えば、第1の基板25上に、SiO2層を形成し、該SiO2層上にSiO2基板を複数枚貼り合せることができる。第1の基板の材料はSiO2に限定されず、表面に清浄な平坦な膜を形成できるものであれば、他の材料(金属など)を用いることもできる。他の材料としては、例えば金(Au)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)が挙げられる。半導体でも、セラミックスでも、単結晶でも、多結晶でも構わない。例えばシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、アルミナ(Al2O3)も挙げられる。いずれの組み合わせも、分離する半導体基板よりも低価格な基板であることが好ましい。
【0132】
第1の基板25としては、樹脂からなる基板を用いることができる。これは、本発明が室温で分離できる技術であることで初めて実現することである。半導体層23を高温プロセスに用いたい場合は、複合半導体基板26の種基板21の主面を、耐熱性のある別の基板に接着剤を用いて貼り合せた後に、樹脂からなる第1の基板25をアルコールなどの適正な液中で除去したり、第1の基板25と半導体層23の間の接着剤を除去し、第1の基板25を外すことができる。第1の基板25が樹脂からなる場合は、第1の基板25の表面は、第1の基板25がSiO2からなる場合よりも、表面の平坦性が多少劣っていても構わない。これは、第1の基板25と半導体層23との間に、柔らかく薄い接着剤からなる接着層を配置することができるからである。
【0133】
[実施の形態4]
<複合半導体基板の製造方法>
図5(A)~
図5(E)は、本発明の実施形態に係る複合半導体基板の製造方法を模式的に示す図である。
図6は、本発明の実施形態に係る複合半導体基板の製造方法を示すフローチャートである。
【0134】
本発明の実施形態に係る複合半導体基板の製造方法は、半導体材料を含む種基板を準備する工程(
図5(A)および
図6の基板準備工程(S31)で示される)と、前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さに、イオン注入層を形成する工程(
図5(B)および
図6のイオン注入層形成工程(S32)で示される)と、前記種基板の主面上に第1の基板を貼り合せる工程(
図5(C)および
図6の第1の基板貼り合せ工程(S33)で示される)と、前記第1の基板および前記種基板の少なくともいずれかの主面の表面から光を照射することにより、前記第1の基板および前記種基板の一部を含む複合半導体基板を分離する工程(
図5(D-1)、(D-2)、(E)および
図6の複合半導体基板分離工程(S34)で示される)とを含む。
【0135】
実施の形態4に係る複合半導体基板の製造方法は、実施の形態3の複合半導体基板の製造方法における半導体層成長工程(S23)を含まない点以外は、実施の形態3と同様の工程を含む。
【0136】
実施の形態4に係る複合半導体基板の製造方法では、種基板31の主面上に、直接第1の基板35を貼り合せる。得られる複合半導体基板36は、第1の基板35の表面に、種基板31aの層が薄く形成されている。種基板31aを自立しないほど薄くスライスした場合でも、複合半導体基板26は自立することができ、ハンドリング性が良好である。また、高価な半導体層を形成していないため、実施の形態4では、実施の形態3よりも、複合半導体基板36の製造コストが低減される。
【0137】
[実施の形態5]
本発明の実施形態に係る複合半導体基板は、実施の形態3または実施の形態4の複合半導体基板の製造方法によって得られた複合半導体基板26,36である。前記複合半導体基板26,36は、種基板21bまたは31bからの分離時間が短縮されているため、製造コストが低減されている。また、高価な半導体層23を薄くしたり、半導体層を作製せずに、複合半導体基板26,36を得ることができるため、製造コストが低減されている。
【0138】
本発明の一態様に係る複合半導体基板は、第1の基板と、前記第1の基板の主面上に積層された半導体層とを含む複合半導体基板であって、前記複合半導体基板は、前記半導体層側の主面が、半導体層を構成する主元素とは種類または結合状態が異なる第1元素を含み、前記第1元素は、水素、酸素、窒素、炭素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、前記複合半導体基板は、前記半導体層側の主面の表面粗さが、10μm未満であり、前記半導体層は、厚みが0.1μm以上50μm以下である、複合半導体基板である。該半導体基板は、表面が平坦であり、各種用途への加工が容易である。本複合半導体基板は、内部に第1元素を含むものであるが、透光性のある基板であることが好ましい。
【0139】
複合半導体基板26,36は、実施の形態2の半導体基板と同様の応用製品に用いることができる。
【0140】
[実施の形態6]
本発明の実施の形態6の半導体接合基板は以下のようにして作製することができる。実施の形態1で用いた製法の「種基板を準備する工程」と「イオン注入層を形成する工程」と「半導体層を成長させる工程」まで同様にして行う。次に、半導体基板の分離を行わず、成長面を平坦に研磨する。平坦性はRaが100nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましく、1nm以下がさらに好ましい。この平坦性は、接合時に、直接接合あるいはSOGを非常に薄く塗布した後に貼り合わせることができる平坦性である。また、その研磨表面はイオン注入層との平行度が1°以下が好ましく、0.1°以下がより好ましく、0.03°以下がさらに好ましい。平行度が高いほど、後に分離した時の半導体層の厚さ分布に影響するからである。半導体層の厚さが薄いほど大きな影響になるからである。厚さ分布が均一である方が半導体としての特性が良好となる。このように半導体接合基板はイオン注入層で種基板から半導体層の分離を行わない状態のものであるが、後に室温あるいは500℃以下の低温で分離して利用することができることが特徴である。イオン注入条件は、実施の形態1でも説明してる通りのものである。さらに、それに加えて、本半導体接合基板ではイオンのドーズ量が1×1015cm-2以上3×1016cm-2未満のものがよい。透明を確保して、かつ照射光のエネルギーで分離できる範囲であるからである。
【0141】
また、半導体接合基板は、半導体層が薄い場合、例えば半導体層の厚みが200μm以下の場合に有効に利用できる。半導体層が薄いと、分離して自立させると割れやすいからである。半導体接合基板における半導体層の厚さは140μm以下が好ましく、90μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。半導体層は、好ましくは1μm以上であり、この厚さであれば半導体層として機能させることができる。
半導体接合基板は、加熱処理することができない基板や回路に対しても、接合させて、その後、種基板を分離することができる。例えば、室温でこの接合基板を電子回路が形成されている回路基板にはんだを用いて接合し、その後、光を照射して種基板を分離し、薄い半導体層を回路基板に貼り付けた状態にすることができる。半導体層が、ダイヤモンド層の場合は、その上に、ベアのGaNチップ(レーザーダイオードチップ)を接合し、レーザーダイオードのヒートシンクを構成することができる。半導体層が、GaN層の場合は、内部に発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)を組み込んだものをマウントし、ハイブリッドデバイスを構成することができる。
【0142】
[実施の形態7]
<半導体基板の製造方法>
図7(A)~
図7(D)は、本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法を模式的に示す図である。
図8は、本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法を示すフローチャートである。
【0143】
本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法は、半導体材料を含む種基板を準備する工程(
図7(A)および
図8の基板準備工程(S41)で示される。)と、前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さに、イオン注入層を形成する工程(
図7(B)および
図8のイオン注入層形成工程(S42)で示される。)と、前記種基板の主面の表面から光を照射することにより、前記種基板の一部を含む半導体基板を分離する工程(
図7(C-1)、(C-2)、(D)および
図8の半導体分離工程(S43)で示される。)とを含む。
【0144】
実施の形態7に係る半導体基板の製造方法は、実施の形態1の半導体基板の製造方法における半導体層成長工程(S3)を含まない点以外は、実施の形態1と同様の工程を含む。
【実施例1】
【0145】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0146】
実施例1では、実施の形態1に係る半導体基板の製造方法について検討した。
[試料1-1、1-2]
(種基板の準備)
はじめに、サイズ6mm×6mmで厚さが1mmの高温高圧合成IIa型単結晶ダイヤモンド基板からなる種基板1を準備した。前記種基板1の表面を機械研磨した後、反応性イオンエッチングによって、種基板1の表面を1μm~2μmの厚さでエッチングした。
【0147】
(イオン注入層の形成)
次に、前記種基板1の主面から水素イオンを注入して、イオン注入層2を形成した。注入エネルギーは200keV、ドーズ量は1×1015個/cm2(試料1-1)および1×1016個/cm2(試料1-2)であった。イオン注入層2の種基板1の主面の表面からの深さは約0.34μmであり、厚さは約0.06μmであった。
【0148】
目視にて、イオン注入層2の光透過性を確認した。いずれの試料も透明であり、種基板1の光透過率と、イオン注入層2の光透過率との差は明確に確認できなかった。
【0149】
(ダイヤモンド層の形成)
次に、イオン注入層2を形成した種基板1を、イオン注入を行った面が露出するようにマイクロ波プラズマCVD装置の真空チャンバ内に配置した。そして、種基板1を800℃の温度に加熱し、真空チャンバ内の圧力を13.3kPaとした後、真空チャンバ内に水素ガス、メタンガス、窒素ガスを導入してマイクロ波プラズマCVD法を行い、種基板1上に500μmの厚みの単結晶ダイヤモンド層からなる半導体層3を形成した。この時の各ガスの配合割合(体積%)は水素ガス:メタンガス:窒素ガス=92:8:0.005とした。
【0150】
試料1-1および試料1-2のサンプルにおいて、種基板1の光透過率(T1)、イオン注入層2の光透過率(T2)およびダイヤモンド層(半導体層3)の光透過率(T3)を一般的な紫外可視近赤外領域の分光光度計で測定した。いずれの試料も、波長800nmの光の基板の光透過率(T1)とイオン注入層の光透過率(T2)との比(T2/T1)は99%以上であった。波長800nmの光のイオン注入層の光透過率(T2)およびダイヤモンド層の光透過率(T3)との比(T2/T3)は99%以上であった。
【0151】
(半導体基板の分離)
次に、ダイヤモンド層(半導体層3)の主面の表面から、波長1.06μmのYAGレーザー光を照射した。レーザー光はパルス間隔40μsec、パルス幅10nsec、主面表面で直径30μmになるように集光して照射した。この時、レーザー光の焦点は、イオン注入層内部に位置していた。レーザー光の走査速度は25mm/秒とした。レーザー光のパルスエネルギー(A)を0.01mJ以上10mJ以下の範囲で選択した。ダイヤモンド層(半導体層3)の主面表面におけるパルス当たりの照射フルエンスは1410mJ/mm2であった。レーザー光の照射は、室温空気中(25℃)、冷却空気中(-5℃)、純水中(25℃)、市販のエンジンオイル中(25℃)のいずれかを選択した。この結果、種基板1bと、ダイヤモンド層(半導体層3)および種基板1aを含む半導体基板5とが分離した。室温空気中での分離に要した時間は、試料1-1は11分、試料1-2は7分であった。
【0152】
【0153】
(評価)
得られた種基板1bならびに、種基板1aおよびダイヤモンド層(半導体層3)を含む半導体基板5について、以下の基準で評価を行った。
【0154】
A:種基板1a、1bおよびダイヤモンド層(半導体層3)のいずれにも通常の光学顕微鏡の20倍で観察して、クラックが発生せず、かつ、分離面の表面粗さ(Ra)が、Ra≦1μmであった。
【0155】
B:基板1a、1bおよびダイヤモンド層(半導体層3)のいずれにもクラックが発生せず、かつ、分離面の表面粗さ(Ra)が、1μm<Ra<10μmであった。
【0156】
C:基板1a、1bおよびダイヤモンド層(半導体層3)の少なくともいずれかにクラックが発生した、または、分離面の表面粗さ(Ra)が、Ra≧10μmであった。
【0157】
クラックの発生は通常の光学顕微鏡の20倍にて観察した。表面粗さは白色干渉法原理を用いた光学顕微鏡の3次元プロファイラ(機種名:NEW VIEW200、ZYGO社製)にて測定した。
【0158】
(結果)
レーザー照射を室温空気中で行ったものはB判定、冷却空気中、純水中およびオイル中で行ったものはA判定であった。結果をまとめて表2に示す。
【0159】
【0160】
A判定のサンプルの分離した表面をSIMSで観察すると、バルク中よりも明らかに多い量の水素元素が確認できた。B判定のサンプルの分離した表面をSIMSで観察すると、バルク中よりも明らかに多い量の水素元素が確認でき、かつ、さらに表面をXPS分析すると、sp3結合の炭素元素だけでなく、sp2結合の炭素元素が確認できた。
【0161】
試料1-1、試料1-2と同じ条件の試料を、レーザー光の照射条件について、パルス幅を0.02psec、1psec、10psec、パルス間隔はいずれも1msec(繰り返し周波数1kHz)で行い、それぞれパルスエネルギーは、0.01μJ、0.03μJ、0.06μJで、室温純水中で行った。判定は、試料1-1および試料1-2ともに同じ結果であり、0.02psecの条件と1psecの条件は、前述の評価判定でC判定であり、10psecの条件はB判定であった。結合を切るエネルギーが高くA判定は難しかったが、かかるレーザー光の照射条件であっても、ダイヤモンド層を種基板から分離することができた。
【0162】
[試料2~試料35]
試料2~試料35では、イオン注入の注入イオンの種類、イオン注入層のドーズ量、レーザー光照射条件を表1および表2に示す条件とした以外は、試料1-1と同様の方法を用いて半導体基板5と種基板1bとを分離した。なお、試料11、25、32は、レーザー光照射をダイヤモンド層(半導体層3)の主面側からではなく、種基板1の主面側から行った。室温空気中での分離に要した時間を表1に示す。
【0163】
得られた種基板1bならびに、種基板1aおよびダイヤモンド層(半導体層3)を含む半導体基板5について、試料1-1と同様の基準で評価した。
【0164】
レーザー照射を室温空気中で行ったものはB判定またはC判定であり、冷却空気中、水溶液中およびオイル中で行ったものは、試料19の冷却空気中で行なったものを除いて、A判定またはB判定であった。結果をまとめて表2に示す。
【0165】
A判定のサンプルの分離した表面をSIMSで観察すると、炭素イオンを注入した場合を除いて、バルク中よりも明らかに多い量の注入元素が確認できた。B判定のサンプルの分離表面でもSIMSで、炭素イオンを注入した場合を除いて、バルク中よりも多い量の注入元素が確認でき、かつ、さらに表面をXPS分析すると、炭素イオンを注入した場合も含めて、sp3結合の炭素元素だけでなく、sp2結合の炭素元素が確認できた。C判定のサンプルの分離表面では、SIMSでバルク中よりも多い量の注入元素が確認でき、かつ、XPS分析でsp2結合状態の炭素元素が存在し、それが少なくとも一つの直径30μm以上の略円形の模様を形成していることが確認できた。また、表面粗さを3次元プロファイラーで評価して、略円形の模様部分が窪んでいることが確認できた。それらいずれの略円形の模様について、少なくとも2つ以上確認できた場合は、線状に並んでいた。その線方向は分離の際のレーザーの走査方向と一致した。本願明細書でいう略円形の模様とは、完全な円を意味するものではなく、少なくとも輪郭が完全な円の1/5以上の弧を持っているものを指している。円は正円だけでなく、楕円形状も含んでいる。
【実施例2】
【0166】
実施例2では、実施の形態1に係る半導体基板の製造方法について検討した。
[試料36]
(種基板の準備、イオン注入層の形成、ダイヤモンド層の形成)
試料1-1と同様の種基板1を準備し、試料1-1と同様の方法でイオン注入層2およびダイヤモンド層(半導体層3)を形成した。試料36のサンプルにおいて、種基板1の光透過率(T1)、イオン注入層2の光透過率(T2)およびダイヤモンド層(半導体層3)の光透過率(T3)を一般的な紫外可視近赤外領域の分光光度計で測定した。波長800nmの光の基板の光透過率(T1)とイオン注入層の光透過率(T2)との比(T2/T1)は99%以上であった。波長800nmの光のイオン注入層の光透過率(T2)およびダイヤモンド層の光透過率(T3)との比(T2/T3)は99%以上であった。
【0167】
(ダイヤモンド層の分離)
次に、ダイヤモンド層(半導体層3)の主面の表面から、フラッシュランプ光を照射した。フラッシュランプ光は、キセノンのフラッシュランプ5mm径に集光して用い、波長500nm未満および1.25μmを超える光をカットして、波長500nm以上1.25μm以下の光を選択的に用いた。フラッシュランプ光はパルス間隔8msec、パルス幅1μsec、主面表面で直径1mmになるように物理的にカットし、さらに0.1mmに集光して照射した。この時、フラッシュランプ光の焦点は、イオン注入層2内部に位置していた。フラッシュランプ光の走査速度(実際はサンプルが移動)は10mm/秒とした。フラッシュランプ光のパルス出力(A)を3mJより大きく30mJ未満の範囲で変化させた。すなわち、ダイヤモンド層(半導体層3)の主面表面におけるパルス幅1msec当たりの放射フルエンスは1900mJ/mm2であった。フラッシュランプ光の照射は、室温空気中(25℃)、冷却空気中(-5℃)、純水中(25℃)、市販のエンジンオイル中(25℃)のいずれかを選択した。種基板1bと、ダイヤモンド層(半導体層3)および種基板1aを含む半導体基板5とが分離した。室温空気中での分離に要した時間は、14分であった。
【0168】
【0169】
(評価)
得られた種基板1bならびに、種基板1aおよびダイヤモンド層(半導体層3)を含む半導体基板5について、実施例1と同様の基準で評価した。
【0170】
(結果)
フラッシュランプ光照射を室温空気中で行ったものはB判定、冷却空気中、純水中およびオイル中で行ったものはA判定であった。結果を表4に示す。
【0171】
【0172】
A判定のサンプルの分離表面をSIMSで観察すると、バルク中よりも明らかに多い量の水素元素が確認できた。B判定のサンプルの分離した表面をSIMSで観察すると、バルク中よりも明らかに多い量の水素元素が確認でき、かつ、さらに表面をXPS分析すると、sp3結合の炭素元素だけでなく、sp2結合の炭素元素が確認できた。
【0173】
[試料37~試料49]
(試料の作製)
試料37~試料49では、イオン注入の注入イオンの種類、イオン注入層のドーズ量、フラッシュランプ光照射条件を表3に示す条件とした以外は、試料36と同様の方法を用いて半導体基板5と種基板1bとを分離した。室温空気中での分離に要した時間を表3に示す。
【0174】
(評価)
得られた基板およびダイヤモンド層について、実施例1と同様の基準で評価した。結果を表4にまとめて示す。
【0175】
(結果)
フラッシュランプ光照射を室温空気中で行ったものはB判定またはC判定であり、冷却空気中および純水中で行ったものは、A判定またはB判定であり、オイル中で行ったものはA判定であった。
【0176】
A判定のサンプルの分離した表面をSIMSで観察すると、炭素イオンを注入した場合を除いて、バルク中よりも多い量の注入元素が確認できた。B判定のサンプルの分離表面でもSIMSで、炭素イオンを注入した場合を除いて、バルク中よりも多い量の注入元素が確認でき、かつ、さらに表面をXPS分析で、sp3結合の炭素元素だけでなく、sp2結合の炭素元素が確認できた。C判定のサンプルの分離表面では、SIMSでバルク中よりも多い量の注入元素が確認でき、かつ、XPS分析でsp2結合状態の炭素元素が存在し、それが少なくとも一つの直径30μm以上の略円形の模様として確認できた。また、表面粗さを3次元プロファイラーで評価して、略円形の模様部分が窪んでいることが確認できた。それらいずれの略円形の模様について、少なくとも2つ以上確認できた場合は、線状に並んでいた。その線方向は分割の際のレーザーの走査方向と一致した。
【実施例3】
【0177】
実施例3では、実施の形態1に係る半導体基板の製造方法について検討した。
[試料101-1、101-2、201-1、201-2、301-1、301-2、401-1、401-2]
(種基板の準備)
はじめに、サイズ20mm×20mmで厚さが2mmの窒化ガリウム基板(試料101-1、101-2)、窒化アルミニウム基板(試料201-1、201-2)、セレン化亜鉛基板(試料301-1、301-2)、炭化シリコン基板(試料401-1、401-2)の各半導体基板からなる種基板1を準備した。前記種基板1の表面を機械研磨した後、それぞれの種基板1に合った熱もしくはプラズマもしくは化学処理によって、種基板1の表面を3~5μmの厚さでエッチングした。
【0178】
(イオン注入層の形成)
次に、前記種基板1の主面から水素イオンを注入して、イオン注入層2を形成した。注入エネルギーは200keV、ドーズ量は7×1015個/cm2(試料101-1,201-1,301-1,401-1)または7×1016個/cm2[試料101-2,201-2,301-2,401-2)であった。イオン注入層2の基板の主面の表面からの深さは、ほぼ正確にシミュレーション可能であり、それぞれ1μm以下であり、厚さは0.5μm以下であった。
【0179】
(半導体層の形成)
次に、イオン注入層2を形成した種基板1のイオン注入を行った面上に半導体層3を成長させた。半導体層3の形成について、半導体層3の種類ごと以下に記述する。
【0180】
半導体層3が窒化ガリウム層である場合は、窒化ガリウム層はMOCVD法で成長させた。まず、(0001)面を主面とする窒化ガリウムからなる種基板1を炉内に設置し、炉内の種基板1の温度を1030℃に加熱した上で、トリメチルガリウムとアンモニアガス、およびキャリアガスとして水素ガスを導入し、種基板1の主面上に窒化ガリウム層(半導体層3)をエピタキシャル成長させた。トリメチルガリウムガス:アンモニアガスの混合比は体積比で1:2000とした。その結果、窒化ガリウム基板からなる種基板1上に窒化ガリウム層(半導体層3)を0.8mmの厚さでエピタキシャル成長させることができた。
【0181】
半導体層3が窒化アルミニウム層である場合は、窒化アルミニウム層は昇華法で成長させた。まず、(0001)面を主面とする窒化アルミニウムからなる種基板1を炉内に設置し、炉内の種基板1の温度を2000℃に保持した上に、窒化アルミニウム原料を2380℃で昇華させ、種基板1の主面上に窒化アルミニウム層(半導体層3)を1mm厚さでエピタキシャル成長させた。
【0182】
半導体層3がセレン化亜鉛である場合は、セレン化亜鉛層は昇華法で合成させた。まず、(111)面を主面とするセレン化亜鉛からなる種基板1を炉内に設置し、炉内の種基板1の温度を1100℃に保持した上に、多結晶セレン化亜鉛原料を約1130℃で分解して得られたセレンと亜鉛を、不活性ガスをキャリアガスとして装置内に導入し、種基板1の主面上にセレン化亜鉛層3をエピタキシャル成長させた。
【0183】
半導体層3が炭化シリコンである場合は、常圧横型コールドウォールCVD装置を用いて炭化シリコン層を成長させた。まず、4C-SiC基板の(0001)面から2°オフした種基板1を炉内に設置し、炉内の種基板1の温度を高周波加熱で1500℃に設定した。モノシランガスとプロパンガス、およびキャリアガスとして水素ガスを導入し、種基板1の主面上に炭化珪素層3をエピタキシャル成長させた。モノシランガス:プロパンガスの混合比は体積比で1.5:1とした。
【0184】
種基板1の光透過率(T1)、イオン注入層2の光透過率(T2)および各半導体層3の光透過率(T3)を一般的な紫外可視近赤外領域の分光光度計で測定した。波長800nmの光の種基板1の光透過率(T1)とイオン注入層2の光透過率(T2)との比(T2/T1)は、いずれも90%を超えていた。波長800nmの光のイオン注入層の光透過率(T2)および半導体層の光透過率(T3)との比(T2/T3)は、いずれも90%を超えていた。
【0185】
(半導体基板の分離)
次に、半導体層3の主面の表面から、波長1.06μmのYAGレーザー光を照射した。レーザー光はパルス間隔40μsec、パルス幅10nsec、主面表面で直径30μmになるように集光して照射した。この時、レーザー光の焦点は、光吸収層内部に位置していた。レーザー光の走査速度は25mm/秒とした。レーザー光のパルスエネルギー(A)を0.01mJ以上10mJ以下の範囲で選択した。すなわち、半導体層の主面表面におけるパルス当たりの照射フルエンスは1410mJ/mm2であった。レーザー光の照射は、室温空気中(25℃)、冷却空気中(-5℃)、純水中(25℃)、市販のエンジンオイル中(25℃)のいずれかを選択した。この結果、基板と半導体層とが分離した。
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
(評価)
得られた種基板1bならびに、種基板1aおよび半導体層3を含む半導体基板5について、実施例1と同様の基準で評価を行った。
【0191】
(結果)
半導体層3が窒化ガリウムである試料101-1および101-2は、レーザー照射を室温空気中で行ったものはB判定、冷却空気中、純水中およびオイル中で行ったものはA判定であった。
【0192】
半導体層3が窒化アルミニウムである試料201-1および201-2は、レーザー照射を室温空気中で行ったものはB判定、冷却空気中、純水中およびオイル中で行ったものはA判定であった。
【0193】
半導体層3がセレン化亜鉛である試料301-1および301-2は、レーザー照射を室温空気中で行ったものはC判定、冷却空気中で行ったものはB判定、純水中およびオイル中で行ったものはA判定であった。
【0194】
半導体層3が炭化シリコンである試料401-1および401-2は、レーザー照射を室温空気中で行ったものはB判定、冷却空気中、純水中およびオイル中で行ったものはA判定であった。
【0195】
結果をまとめて表9~12に示す。
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
A判定のサンプルの分離した表面をSIMSで観察すると、バルク中よりも明らかに多い量の水素元素が確認できた。B判定のサンプルの分離表面ではSIMSで観察して、バルク中よりも多い量の水素元素が確認でき、かつ、さらに表面をXPS分析すると、半導体基板中とは異なる結合状態の主元素の存在を確認できた。具体的には、GaN基板の場合はGa元素、AlN基板の場合はAl元素、ZnSeの場合はZn元素、SiC基板の場合はSi元素について、それぞれ基板中とは異なる結合状態で確認できた。C判定のサンプルの分離表面では、SIMSでバルク中よりも多い量の水素元素が確認でき、かつ、XPS分析で半導体基板中とは異なる結合状態の主元素が確認でき、かつ表面粗さを3次元プロファイラーで評価して、直径30μm以上の窪みが略円形の模様になっていることも確認できた。
【0201】
試料101-1、試料101-2、試料201-1、試料201-2、試料301-1、試料301-2、試料401-1、試料401-2と同じ条件の試料を、レーザー光の照射条件について、パルス幅を0.02psec、1psec、10psec、パルス間隔はいずれも1msec(繰り返し周波数1kHz)で行い、それぞれパルスエネルギーは、0.008μJ、0.02μJ、0.05μJで、室温純水中で行った。判定は、いずれの試料ともに同じ結果であり、0.02psecの条件と1psecの条件は、前述の評価判定でC判定であり、10psecの条件はB判定であった。結合を切るエネルギーが高くA判定は難しかったが、かかるレーザー光の照射条件であっても、ダイヤモンド層を種基板から分離することができた。
【0202】
[試料102~試料120]
試料102~試料120では、イオン注入の注入イオンの種類、イオン注入層のドーズ量、レーザー光照射条件を表5に示す条件とした以外は、試料101-1と同様の方法を用いて基板と半導体層とを分離した。なお、試料111は、レーザー光照射を半導体層の主面側からではなく、基板の主面側から行った。
【0203】
[試料202~試料220]
(試料の作製)
試料202~試料220では、イオン注入の注入イオンの種類、イオン注入層のドーズ量、レーザー光照射条件を表6に示す条件とした以外は、試料201-1と同様の方法を用いて基板と半導体層とを分離した。なお、試料211は、レーザー光照射を半導体層の主面側からではなく、基板の主面側から行った。
【0204】
[試料302~試料320]
試料302~試料320では、イオン注入の注入イオンの種類、イオン注入層のドーズ量、レーザー光照射条件を表7に示す条件とした以外は、試料301-1と同様の方法を用いて基板と半導体層とを分離した。なお、試料311は、レーザー光照射を半導体層の主面側からではなく、基板の主面側から行った。
【0205】
[試料102~試料120]
試料402~試料420では、イオン注入の注入イオンの種類、イオン注入層のドーズ量、レーザー光照射条件を表8に示す条件とした以外は、試料401-1と同様の方法を用いて基板と半導体層とを分離した。なお、試料411は、レーザー光照射を半導体層の主面側からではなく、基板の主面側から行った。
【0206】
(評価)
得られた種基板1bならびに、種基板1aおよび半導体層3を含む半導体基板5について、実施例1と同様の基準で評価を行った。
【0207】
(結果)
半導体層3が窒化ガリウムである試料102~120は、レーザー照射を室温空気中または冷却空気中で行ったものはA判定またはB判定、純水中およびオイル中で行ったものはA判定であった。
【0208】
半導体層3が窒化アルミニウムである試料202~220は、レーザー照射を室温空気中または冷却空気中で行ったものはA判定またはB判定、純水中およびオイル中で行ったものはA判定であった。
【0209】
半導体層3がセレン化亜鉛である試料302~320は、レーザー照射を室温空気中で行ったものはB判定またはC判定、冷却空気中で行ったものはA判定またはB判定、純水中およびオイル中で行ったものはA判定であった。
【0210】
半導体層3が炭化シリコンである試料402~420は、レーザー照射を室温空気中で行ったものはA判定またはB判定、冷却空気中、純水中およびオイル中で行ったものはA判定であった。
【0211】
A判定のサンプルの分離した表面をSIMSで観察すると、バルク中よりも明らかに多い量の注入元素が確認できた。B判定のサンプルの分離表面ではSIMSで観察して、バルク中よりも多い量の注入元素が確認でき、かつ、さらに表面をXPS分析すると、半導体基板中とは異なる結合状態の主元素の存在を確認できた。具体的には、GaN基板の場合はGa元素、AlN基板の場合はAl元素、ZnSeの場合はZn元素、SiC基板の場合はSi元素について、それぞれ基板中とは異なる結合状態で確認できた。C判定のサンプルの分離表面では、SIMSでバルク中よりも多い量の注入元素が確認でき、かつ、XPS分析で半導体基板中とは異なる結合状態の主元素が確認でき、かつ表面粗さを3次元プロファイラーで評価して、直径30μm以上の窪みが略円形の模様になっていることも確認できた。
【実施例4】
【0212】
実施例4では、実施の形態4に係る半導体基板の製造方法について検討した。具体的には、本実施例では、実施例3の試料101~120の製造工程において、半導体層を形成する代わりに、種基板へのイオン注入後に、SiO2からなる第1の基板35を種基板31に貼り合わせる以外は、実施例3と同様の方法を用いて複合半導体基板36と種基板31bとを分離した。分離面に関する評価は、一部において、表面の荒れは若干大きくなったものの、ほぼ実施例3の表9と一致する傾向を示した。
【0213】
複合半導体基板36において、SiO2からなる第1の基板35は0.3mm以上の厚さを容易に形成できるので、半導体基板が薄くても、割れることがなく、持ち運びが容易な基板とすることができた。
【実施例5】
【0214】
実施例5では、実施の形態4に係る半導体基板の製造方法について検討した。具体的には、本実施例では、実施例1の試料1~試料35の製造工程において、ダイヤモンド層を形成する代わりに、種基板へのイオン注入後に、SiO2からなる第1の基板35を種基板31に貼り合わせる以外は、実施例1と同様の方法を用いて複合半導体基板36と種基板31bとを分離した。分離面に関する評価は、一部において、表面の荒れは若干大きくなったものの、ほぼ実施例1の表2と一致する傾向を示した。
【0215】
複合半導体基板36において、SiO2からなる第1の基板35は0.3mm以上の厚さを容易に形成できるので、半導体基板が薄くても、割れることがなく、持ち運びが容易な基板とすることができた。
【実施例6】
【0216】
実施例6では、実施の形態6の半導体接合基板を以下のようにして作製した。実施例1で用いた試料1-1と試料1-2と同じ製法で、種基板を準備し、イオン注入層を形成して、その後、ダイヤモンド層(半導体層)を形成した。次に、半導体基板の分離を行わず、成長面をRaが0.1μm以下となるように平坦に研磨し、半導体接合基板を得た。なお、Raが1μm以下の場合は、研磨は必要ない。この時、試料1-1と同じ条件で作製したものは、半導体層の厚さが150μmで、試料1-2と同じ条件で作製したものは、半導体層の厚さが50μmであった。この適切な条件のイオン注入層が設けられ、平坦に加工した基板が、半導体接合基板である。この半導体接合基板を電子回路が形成されている回路基板(半導体のベアの基板)にAuSnはんだを用いて接合した。その後、実施例1にあるような、冷却空気中で、レーザー光を照射して種基板から分離し、薄いダイヤモンド層を回路基板に貼り付けた。その後、薄いダイヤモンド層の上に、ベアのGaNチップ(レーザーダイオードチップ)を薄いSnを介して室温で、超音波振動を利用した摩擦の原理で貼り付けた後、レーザーダイオードに配線し、動作させた。ダイヤモンド層の有無によるレーザーダイオードの出力を比較すると、ダイヤモンド層がある場合の方が20~30%アップの大きな出力を出すことができた。
【実施例7】
【0217】
実施例7では、実施の形態6の半導体接合基板は以下のようにして作製した。実施例3で用いた試料101-1と試料101-2と同じ製法で、種基板を準備し、イオン注入層を形成して、その後、ダイヤモンド層(半導体層)を形成した。次に、半導体基板の分離を行わず、半導体基板としての平坦化処理を行い、半導体接合基板を得た。この半導体接合基板上に、必要なエピ層を形成したりして、LED素子を作製し、その上にキャップ層としてSiO2を形成し、その面をRaが10nm以下に平坦に研磨した。ここまでは2インチウェハ上で行った。この後3mm角に切り出し、このLED付の半導体接合基板を、平坦なSiO2層が設けられている回路基板(Si半導体のベアの基板)に貼り合わせて接合した。その後、実施例1と同様に、冷却空気中で、レーザー光を照射して種基板から分離し、薄い半導体層だけが載った回路基板を作製した。その後、レーザーダイオードに配線したところ、動作させることができた。本実施例においては、ハイブリッド型の電子回路を作製できた。
【0218】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0219】
本発明の半導体基板および複合半導体基板は、切削工具、研削工具、耐摩工具などの工具の他、光学部品、半導体、電子部品などの各種製品、青色LED、白色LED用の基板や高効率のスイッチングデバイスなどの基板、電力制御用あるいは車載の高効率パワーデバイス用の基板、光学用の基板や光学用のレンズなどに用いると有益である。
【符号の説明】
【0220】
1,21,31,41 種基板、1a,1b,21a,21b,31a,31b,41a,41b 種基板の一部、2,22,32 イオン注入層、3,23 半導体層、4,24,34,44 光、5 半導体基板、25,35 第1の基板、26,36 複合半導体基板。