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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】精錬用ランス及び溶鉄の精錬方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/46 20060101AFI20241106BHJP
   C21C 7/068 20060101ALI20241106BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C21C5/46 101
C21C7/068
C21C7/072 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022188405
(22)【出願日】2022-11-25
(65)【公開番号】P2023081327
(43)【公開日】2023-06-09
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2021194455
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小関 新司
(72)【発明者】
【氏名】嘉村 諒
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 新吾
(72)【発明者】
【氏名】小澤 典子
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-505715(JP,A)
【文献】特開2015-098648(JP,A)
【文献】特開2000-234116(JP,A)
【文献】特開2007-077489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/46
C21C 7/064
C21C 7/068
C21C 7/072
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼の精錬プロセスに使用される精錬用ランスであって、
前記精錬用ランスの下端に形成される噴射孔と、
前記精錬用ランス内部に形成され、前記噴射孔に酸素ガスを含む主流ガスを供給する主流供給経路と、
前記精錬用ランスの周側面に形成される吸引と、
前記主流供給経路と前記吸引とにそれぞれ接続され、前記吸引から吸引された雰囲気ガスを、前記主流供給経路に供給する雰囲気ガス供給経路と、
前記吸引孔の開度を調整可能な開度調整機構と、
を備え、
前記噴射孔から、前記主流ガスと吸引した前記雰囲気ガスとが混合された上吹きガスを噴射する、精錬用ランス。
【請求項2】
前記雰囲気ガス供給経路は、前記主流供給経路と前記雰囲気ガス供給経路との接続部において、前記主流供給経路に対して周方向から均一に前記雰囲気ガスを供給する、請求項1に記載の精錬用ランス。
【請求項3】
前記主流供給経路と前記雰囲気ガス供給経路との接続部における、前記主流ガスの流動方向と前記雰囲気ガスの流動方向とのなす角が0°以上20°以下である、請求項1に記載の精錬用ランス。
【請求項4】
前記主流供給経路は、経路が複数に分かれる主流分岐経路を、前記精錬用ランスの下端側に有し、
前記雰囲気ガス供給経路は、複数の前記主流分岐経路に接続される、請求項1に記載の精錬用ランス。
【請求項5】
複数の前記雰囲気ガス供給経路を備え、
前記複数の前記主流分岐経路毎に、前記複数の雰囲気ガス供給経路が接続して設けられる、請求項4に記載の精錬用ランス。
【請求項6】
前記主流供給経路は、前記主流ガスの出側のノズルがラバール形状を有し、
前記主流供給経路と前記雰囲気ガス供給経路との接続部が、前記ラバール形状の出口に設けられる、請求項1に記載の精錬用ランス。
【請求項7】
溶鉄を酸化精錬処理する溶鉄の精錬方法であって、
請求項1に記載の精錬用ランスを用い
前記酸化精錬処理中に、前記酸化精錬処理の時期に応じて、前記開度を調整する、溶鉄の精錬方法。
【請求項8】
前記酸化精錬処理として、前記溶鉄の脱炭処理を行い、
脱炭末期における前記開度を、脱炭最盛期の前記開度よりも大きくする、請求項に記載の溶鉄の精錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精錬用ランス及び溶鉄の精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鉄の酸化精錬処理において、反応効率向上の観点から、精錬用ランス(上吹きランスともいう)から噴射される酸素含有ガス(上吹きガス)の溶鉄浴面での噴流流速とガス流量とを同時に制御できる実用的な送酸手段が求められている。
【0003】
例えば、鉄鋼精錬における製鋼プロセスでは、溶鋼への酸素上吹きによる脱炭処理が行われる。この脱炭処理は精錬中の溶鋼の成分変化によって脱炭初期、脱炭最盛期及び脱炭末期に分けられる。そして、脱炭処理の各時期における操業条件については、好ましい条件が異なることが知られている。
【0004】
例えば、脱炭最盛期では炭素濃度が高い状態であることから、精錬用ランスから噴射された酸素ガスの噴流が溶鋼界面に衝突した際に炭素と反応しやすい。このため、精錬の処理速度は、酸素ガスの流量である酸素流量を増やせば増やすほど脱炭速度が上昇する酸素供給律速となる。このため、精錬の処理時間の短縮化を考慮すると、脱炭最盛期における操業条件としては、可能な限り酸素流量を増やすべきである。しかし、酸素流量を増加させると、溶鉄浴面での噴流の流速が高くなるとともに浴面動圧が上昇するため、ダストなどとして炉外に飛散する鉄分が増加したり、溶鋼やスラグがはね上げるスプラッシュが増大し、炉壁や炉口付近への溶鋼やスラグの付着・堆積が発生したりする。ダストやスプラッシュの発生量が多くなると、鉄歩留低下によるコストの増加を招く。また、スプラッシュがランスや転炉内壁に大量に付着すると、地金を除去する作業が発生するため、操業を阻害してしまう。つまり、酸素流量の増加と、ダスト及びスプラッシュの発生量とはトレードオフの関係にある。このため、脱炭最盛期においては、酸素流量を増加しても浴面流速(動圧)が上昇しないような操業条件が望ましいといえる。
【0005】
一方で、脱炭末期には、炭素濃度がある程度低下しており、精錬用ランスから噴射された酸素が浴面の火点で炭素と結びつく確率が低下するため、酸素流量を増加しても脱炭速度が上昇しにくい。さらに、脱炭末期に酸素流量を増加した場合、炭素の代わりに鉄が酸素と結びつき、酸化鉄が生成しやすくなる。酸化鉄は溶鋼中の炭素と反応して脱炭反応を生じる物質ではあるが、単に浴面近傍に蓄積するだけでは脱炭に寄与しないため、溶鋼を撹拌して酸化鉄と溶鋼中の炭素とが反応する確率を上げる必要がある。すなわち、脱炭末期においては、酸化鉄の生成量が増えすぎないようにした上で、溶湯の撹拌力を強化するような酸素の供給条件が求められることから、酸素流量を増加することなく上吹きガスの流速を上昇させて撹拌を強化するような操業条件が望ましい。
【0006】
一般に、酸素流量の調整とは独立して浴面での流速を調整する方法としては、ランス高さを調整する方法が用いられている。しかし、ランス高さを低くし過ぎると、飛散した溶鉄による溶損を受けてランス寿命が著しく低下する問題がある。また、ランス高さを高くし過ぎると、脱炭反応によって発生した一酸化炭素が燃焼する二次燃焼率の増大や二次燃焼着熱効率の低下によって炉内ガス温度が上昇し、耐火物寿命の低下を招く問題がある。つまり、ランス高さによる流速の調整範囲には限界がある。このため、酸素流量に拠らずに噴射速度を調整可能な精錬用ランスの実現が期待されていた。
【0007】
また、製鋼工程では、転炉での製鋼スラグ発生量の低減や製鋼工程でのトータルコストの削減を図るために、転炉で脱炭吹錬する前に、溶銑中に含有されるSiやPを予め酸化精錬することで除去する方法がとられている。その方法のひとつに、処理容器として転炉を用いた脱りん吹錬がある。
【0008】
この転炉を用いた脱りん吹錬は、一般的に、脱炭吹錬と同様に、溶銑の浴面上方から精錬用ランスを用いて酸素含有ガスを吹きつけながら、石灰等の精錬剤(以下、フラックスと称する)を溶銑に添加するものである。このときも、精錬用ランスから供給される酸素含有ガス噴流の流速を調節することによって、脱りん吹錬時に生成するスラグ中のT.Fe濃度(トータル鉄分濃度)を制御する手法がとられる。
【0009】
このように、精錬用ランスを用いた精錬処理では、処理の内容や時期に応じて求められる操業条件が異なるものとなる。例えば、脱炭処理の脱炭最盛期と脱炭末期とでは、操業条件として、脱炭最盛期では流速増加を抑えられるストレートノズルを有する精錬用ランスを使用し、脱炭末期では流速上昇が可能なラバールノズルを有する精錬用ランスを使用するべきである。しかしながら、精錬処理中にランスの取り換えを行うことは困難であるため、一本のランスで操業を行う必要がある。
【0010】
吹錬中に精錬用ランスのノズル形状を制御する技術として、例えば、特許文献1には、機械的にノズル形状を変える真空脱ガス槽内の精錬用ランスの技術が開示されている。
また、噴流制御のひとつとして、ランスノズルの主噴流とは別の制御流の利用が挙げられる。例えば、特許文献2には、流体噴出流路の側壁に制御ガス用の一対の開口部を設け、噴流方向を制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平8-260029号公報
【文献】特開2005-113200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来は、脱炭末期において攪拌強化のために動圧を上げる場合、精錬処理中は精錬用ランス先端のチップを変更することが困難であるため、酸素流量を上昇させることで動圧を上昇させていた。その結果、溶鋼への酸素供給が過剰になり、酸化鉄の増大による精錬効率の悪化を招いていた。
【0013】
特許文献1に記載の技術では、ランスの内径を機械的に変更する技術が提案されており、精錬処理中の動圧変更が可能である。しかし、脱炭末期ではランス内径を縮小して操業することになり、流路面積が狭くなるために、流量の低下によって撹拌力が不足してしまう。撹拌力を強化するためには酸素流量を増加することになるが、上述の通り、酸化鉄の増加を招いてしまう。
【0014】
また、特許文献2に記載の技術では、主噴流とは別の制御ガスを供給し、制御する設備を設ける必要があるため、導入やメンテナンスに要するコストの増大が問題となる。
【0015】
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、簡易な方法で、精錬処理中に酸素の供給条件を変更することができる、精錬用ランス及び溶鉄の精錬方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明の一態様によれば、鉄鋼の精錬プロセスに使用される精錬用ランスであって、上記精錬用ランスの下端に形成される噴射孔と、上記精錬用ランス内部に形成され、上記噴射孔に酸素ガスを含む主流ガスを供給する主流供給経路と、上記精錬用ランスの周側面に形成される吸引口と、上記主流供給経路と上記吸引口とにそれぞれ接続され、上記吸引口から吸引された雰囲気ガスを、上記主流供給経路に供給する雰囲気ガス供給経路と、を備え、上記噴射孔から、上記主流ガスと吸引した上記雰囲気ガスとが混合された上吹きガスを噴射する、精錬用ランスが提供される。
【0017】
(2)上記(1)の精錬用ランスにおいて、上記雰囲気ガス供給経路は、上記主流供給経路と上記雰囲気ガス供給経路との接続部において、上記主流供給経路に対して周方向から均一に上記雰囲気ガスを供給する。
【0018】
(3)上記(1)又は(2)の精錬用ランスにおいて、上記主流供給経路と上記雰囲気ガス供給経路との接続部における、上記主流ガスの流動方向と上記雰囲気ガスの流動方向とのなす角が0°以上20°以下である。
【0019】
(4)上記(1)~(3)のいずれか一つの精錬用ランスにおいて、上記主流供給経路は、経路が複数に分かれる主流分岐経路を、上記精錬用ランスの下端側に有し、上記雰囲気ガス供給経路は、複数の上記主流分岐経路に接続される。
【0020】
(5)上記(4)の精錬用ランスにおいて、複数の上記雰囲気ガス供給経路を備え、上記複数の上記主流分岐経路毎に、上記複数の雰囲気ガス供給経路が接続して設けられる。
【0021】
(6)上記(1)~(5)のいずれか一つの精錬用ランスにおいて、上記主流供給経路は、上記主流ガスの出側のノズルがラバール形状を有し、上記主流供給経路と上記雰囲気ガス供給経路との接続部が、上記ラバール形状の出口に設けられる。
【0022】
(7)上記(1)~(6)のいずれか一つの精錬用ランスにおいて、上記吸引孔の開度を調整可能な開度調整機構をさらに備える。
【0023】
(8)本発明の一態様によれば、溶鉄を酸化精錬処理する溶鉄の精錬方法であって、上記(1)の精錬用ランスを用いる、溶鉄の精錬方法が提供される。
【0024】
(9)上記(8)の溶鉄の精錬方法において、上記精錬用ランスとして、上記吸引孔の開度を調整可能な開度調整機構をさらに備える精錬用ランスを用い、上記酸化精錬処理中に、上記酸化精錬処理の時期に応じて、上記開度を調整する。
【0025】
(10)上記(8)又は(9)の溶鉄の精錬方法において、上記酸化精錬処理として、上記溶鉄の脱炭処理を行い、脱炭末期における上記開度を、脱炭最盛期の上記開度よりも大きくする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、簡易な方法で、精錬処理中に酸素の供給条件を変更することができる、精錬用ランス及び溶鉄の精錬方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態における転炉を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る精錬用ランスを示す底面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る精錬用ランスを示す断面図であり、図2のI-I線矢視である。
図4】主流分岐経路、雰囲気ガス供給経路及び吸引孔を示す模式図である。
図5】接続部における主流ガスの流動方向と雰囲気ガスの流動方向との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の詳細な説明では、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0029】
<精錬用ランス>
図1図3を参照して、本発明の一実施形態に係る精錬用ランス1について説明する。精錬用ランス1は、鉄鋼の精錬プロセスの一つである酸化精錬処理に使用される上吹きランスであり、例えば、図1に示す転炉2における精錬プロセスに用いられる。本実施形態では、一例として、転炉2における精錬プロセスとして、溶銑の脱炭処理が行われるものとする。転炉2における脱炭処理では、転炉2に装入された溶銑に精錬用ランス1から酸素ガスを含む上吹きガス3が噴射され、上吹きガス3に含まれる酸素ガスによって溶銑が酸化され脱炭することで、溶鋼が溶製される。なお、溶銑及び溶鋼を総称して、溶鉄5ともいう。また、脱炭処理では、溶鉄5中の燐等の不純物の除去のため、CaO等の造滓剤が転炉2内に添加される。造滓剤は、溶融してスラグ4となり、溶鉄5の上にスラグ層を形成する。
【0030】
精錬用ランス1は、下端に複数の噴射孔10を有する多孔構造を有する。図2に示す例では、一例として、精錬用ランス1は、4孔の噴射孔10を有する。また、精錬用ランス1は、図3に示すように、主流供給経路11と、複数の雰囲気ガス供給経路12と、複数の吸引孔13と、開度調整機構14と、を備える。
【0031】
主流供給経路11は、精錬用ランス1の内部に形成され、複数の噴射孔10に酸素ガスを含む主流ガスを供給する経路である。主流ガスは、少なくとも酸素ガスを含み、上吹きガス3の少なくとも大半を占めるガスである。主流ガスは、不図示の主流供給装置から精錬用ランス1の上端側に設けられる主流供給経路11の入り口へと供給される。主流供給経路11は、精錬用ランス1の下端側に、複数に分岐した経路である複数の主流分岐経路110を有する。主流分岐経路110の数は、噴射孔10の数と同じである。図2及び図3に示す例では、主流供給経路11は、4つの主流分岐経路110を有する。このような主流供給経路11では、主流供給装置から供給される主流ガスは、精錬用ランス1の上端側から下端側へと主流供給経路11内を流れ、複数の主流分岐経路110で分岐し、複数の噴射孔10から噴射される。
【0032】
また、主流供給経路11は、主流ガスの出側のノズル、つまり主流分岐経路110がラバール形状を有する。ラバール形状は、経路が収縮拡大する形状であり、経路を流れる流体が高い流速を得ることができる。図3では、主流分岐経路110のラバール形状の出口面積(ラバール出口面積)をA(mm)、及び主流分岐経路110の出口面積(ノズル出口面積)をA(mm)で示し、主流分岐経路110のラバール形状の出口径(ラバール出口径)をD(mm)、ノズル出口径をD(mm)、及びラバール形状の出口から主流分岐経路110の出口(ノズル出口)までの距離(出口距離)をD(mm)で示す。
【0033】
複数の雰囲気ガス供給経路12は、複数の主流分岐経路110に応じた数だけ設けられ、複数の主流分岐経路110を環状に囲んでそれぞれ形成される。雰囲気ガス供給経路12は、環状の径方向に直行する断面が方形であり、この断面で見て内側の一部が主流分岐経路110に接続される。雰囲気ガス供給経路12が主流分岐経路110に接続される箇所を接続部111といい、接続部111は、主流分岐経路110の周方向全周に形成される。
【0034】
また、雰囲気ガス供給経路12は、主流供給経路11と雰囲気ガス供給経路12との接続部111において、主流供給経路11に対して周方向から均一に雰囲気ガスを供給することが好ましい。接続部111から吐出する雰囲気ガスを周方向均一の流量とするためには、雰囲気ガス供給経路12の空間を広く確保することが必要である。供給経路12の空間があまりにも狭い場合、吸引孔13から吸引した雰囲気ガスが供給経路12の周方向全体に行きわたることなく接続部111から吐出されることとなるため、吸引孔13に近い側の流量が多いような偏った流速分布で吐出することとなる。それにより、主流ガスが流れる方向が変化するなどの問題が生じる。多孔ランスでは雰囲気ガスの吸引孔13はノズルの外側(精錬用ランス1の外壁面)にしか設定することができないことから、接続部111における周方向の流量が均一化にしにくい。このため、供給経路12の設定は特に重要である。単孔ランスでは供給経路12の設定は必須ではないが、設定した場合は周方向の流量をより均一化できると考えられる。
【0035】
接続部111は、後述のエジェクタ効果を効率的に得るため、主流ガスの流速が高くなる(圧力が低くなる)主流分岐経路110の部位に形成されることが好ましく、例えば、図3に示すように主流分岐経路110のラバール形状の出口に形成されてもよい。また、接続部111は、求められるエジェクタ効果の度合いや主流ガスの流速等の条件に応じて、寸法や形状が適宜設定される。主流ガスと雰囲気ガスとの合流地点において、雰囲気ガスの流路の出口面積や隙間(例えば、図3における接続部の長さ)の大きさは噴射流速に大きな影響を及ぼす。雰囲気ガスの出口面積が小さすぎたり、隙間が狭すぎたりすると、雰囲気ガスの吸い込み量が十分でなくなるために流速が向上しない場合がある。一方、雰囲気ガスの出口面積が大きすぎたり、隙間が広すぎたりすると、解放された空間にランスが配置されている状況と同じとなるため、エジェクタ効果が生じない場合がある。しかし、主流ガスの流量によって変動する雰囲気ガス吸い込み量や精錬用ランス1のサイズ等によって接続部111の出口面積や隙間の最適値は異なるため、各々の精錬用ランス1の形状に応じて、接続部111の出口面積や隙間の最適値を決定するべきである。
【0036】
複数の吸引孔13は、複数の雰囲気ガス供給経路12にそれぞれ形成される開口部である。吸引孔13は、精錬用ランス1の外と雰囲気ガス供給経路12とを接続し、精錬用ランス1の外の雰囲気ガスを雰囲気ガス供給経路12に取り込む。なお、雰囲気ガスは、転炉2内のガス(炉内ガス)であり、酸化精錬処理中においては、主流ガスよりも酸素濃度が低いガスとなる。特に脱炭処理中においては、雰囲気ガスには酸素ガスがほぼ含まれないものとなる。また、吸引孔13は、図4に示すように、雰囲気ガス供給経路12の外周面の一部に形成される。吸引孔13の形状は特に限定されないが、後述する吸引量の調節を容易にするため、方形としてもよい。
【0037】
開度調整機構14は、吸引孔13に取り付けられる仕切り板を有し、この仕切り板が移動することで吸引孔13の開度を調整可能なように設けられる。例えば、開度調整機構14は、図3に示すように、仕切り板が主流分岐経路110の延在方向に移動可能に構成されてもよい。また、開度調整機構14は、仕切り板が他の方向への移動によって、吸引孔13の開度が調整されてもよい。さらに、開度調整機構14は、吸引孔13の開度が調整可能なものであれば、仕切り板を移動させる機構以外のものが用いられてもよい。
【0038】
なお、図示はしないが、精錬用ランス1には、冷却水が流れる冷却水流路が内部に形成される。
【0039】
本実施形態に係る精錬用ランス1では、上吹きガス3を噴射する際に、主流供給装置から主流供給経路11に主流ガスが供給される。供給された主流ガスは、主流供給経路11を精錬用ランス1の下端に向かって流れ、複数の主流分岐経路110へと流れる。その後、主流ガスは、主流分岐経路110内を流れ、噴射孔10から上吹きガス3として噴射される。
【0040】
この際、主流分岐経路110では、図4に示すように、エジェクタ効果によって、吸引孔13から雰囲気ガス供給経路12に雰囲気ガスが引き込まれる。そして、接続部111を通じて、雰囲気ガス供給経路12から主流分岐経路110へと雰囲気ガスが引き込まれる。その後、主流ガスと雰囲気ガスとが混合したガスが、上吹きガス3として噴射孔10より噴射される。本実施形態では真空を作り出すことは目的ではないが、エジェクタ効果によって引き込んだ周囲ガス、つまり雰囲気ガス供給経路12内の雰囲気ガスによって上吹きガス3の流量を上げ、流速を上昇させることができる。また、このエジェクタ効果によれば、主流ガスの流量を変えずに上吹きガスの流量を上げることができる。このため、酸素ガスの流量を変えなくとも、上吹きガスの流量を上げることができ、浴面における上吹きガスの動圧を高めることができる。
【0041】
エジェクタ効果を効率良く発生させるためには、精錬用ランス1周囲の雰囲気ガスの吸引における圧損を最小限にして、スムーズに吸引できる形状であることが望ましい。そのためには、雰囲気ガスが吸引されてから主流ガスと合流するまでの流路の面積を十分に大きく取り、さらに、流れ方向が急激に変化するような流路設計は避けるべきである。
【0042】
また、主流分岐経路110の形状は、ラバール形状であることが好ましい。主流供給経路11の出側となる主流分岐経路110はシンプルな円筒形状であっても構わない。しかしながら、エジェクタ効果によるガス吸引量を上昇させるためには、主流ガスの流速が高い方が良いため、超音速を発生させることが可能なラバール形状の方が雰囲気ガスの吸引量を増加できるため好ましい。さらに、図3に示すようなラバール形状とする場合、ラバール出口面積Aに対するノズル出口面積Aの比(A/A)を1.1以上3.0以下とすることが好ましく、出口距離Dに対するノズル出口径Dの比(D/D)を0.5以上2.0以下とすることが好ましく、1以上1.5以下とすることが更に好ましい。各比をこの範囲とすることで、より高いエジェクタ効果を得ることができる。
【0043】
転炉2においては吸引孔13から吸引される雰囲気ガスは主にCOやCOであるが、このうちCOはノズル内で主流ガスの酸素と混合すると二次燃焼反応(2CO+O→2CO)を生じる。そして、二次燃焼により火炎が発生することとなるが、この火炎を利用することでコヒーレント・ジェットによる流速低下抑制効果を発生させ、湯面流速をさらに上昇させることができる。コヒーレント・ジェットとは、主流ガスの周囲を火炎が囲むことによって、主流ガスの流速減衰を抑制する技術である。主流ガスの減衰を抑制できる理由は、主流ガスと同じ方向に流れるガスが主流ガスの周囲に存在すると、周囲ガスが停止している場合に比べて主流による周囲ガスの巻き込み減衰が小さくなるためである。
【0044】
コヒーレント・ジェットを形成するためには、接続部111において雰囲気ガスが主流ガスを周方向均一に囲んで吐出される必要がある。雰囲気ガスが周囲方向均一に吐出されない場合、流速減衰効果が減少したり、噴流の進行方向が曲がる等の問題が生じる。
【0045】
コヒーレント・ジェットによる主流流速減衰効果を得るためには、二次燃焼で発生する火炎が主流の周囲を囲む必要があるが、図5に示すように、接続部111における雰囲気ガスの流動方向(吐出する方向)と主流ガスの流動方向とのなす角度θが重要となる。このなす角度θが大きい場合、主流ガスと雰囲気ガスとが衝突して混合するため、火炎が主流の内部で発生して、雰囲気ガスが主流ガスの周囲を囲んでいない状態となる。これを防ぐためには、なす角度θを小さくする必要があり、なす角度θは0°以上20°以下であることが好ましい。コヒーレント・ジェットによる主流流速減衰効果を最大限に得るためには、なす角度θが0°、つまり主流ガスと雰囲気ガスとが同じ方向に流れる状態となる必要がある。また、コヒーレント・ジェットによる主流流速減衰効果を十分に得るため、なす角度θは20°以下とすることが好ましい。
【0046】
二次燃焼で火炎を発生させた場合、主流ガスが加熱されるために、火炎が無い場合に比べて主流ガスが溶鉄5に衝突した位置の温度を上昇させることができる。これにより溶鉄5の温度を高く保つことができ、精錬反応速度の上昇による処理効率向上が期待できる。
【0047】
また、本実施形態に係る精錬用ランス1では、開度調整機構14によって吸引孔13の開度を調整することにより、雰囲気ガス供給経路12に取り込まれる雰囲気ガスの量を調整できるようになる。このため、吸引孔13の開度の調整によって、上吹きガス3の流速も調整することができ、精錬処理の内容や時期に応じて上吹きガスの流速を調整することができる。
【0048】
<溶鉄の精錬方法>
次に、本実施形態に係る溶鉄5の精錬方法について説明する。なお、本実施形態では、一例として、溶鉄5である溶銑を酸化精錬処理することで溶鋼を製造する精錬方法について説明する。このような精錬方法では、転炉2に装入された溶銑に精錬用ランス1から酸素ガスを含む上吹きガス3を噴射することで、酸化精錬処理として溶銑の脱炭処理が行われる。この際、造滓剤等の副原料を転炉2内に添加して、精錬処理が行われてもよい。また、転炉2の底に設けられた羽口から攪拌用の不活性ガスが吹き込まれてもよい。
【0049】
脱炭処理は、溶銑中の炭素濃度に応じて、脱炭初期、脱炭最盛期及び脱炭末期に分けられる。この時期は、例えば、脱炭処理中の酸素ガスの総噴射量、排ガス中のガス成分と排出量等によって推定される。
本実施形態では、脱炭処理の時期に応じて、開度調整機構14を用いて、吸引孔13の開度を調整する。具体的には、脱炭処理の時期のうち、脱炭最盛期及び脱炭末期について、脱炭末期における吸引孔13の開度が、脱炭最盛期の吸引孔13の開度よりも大きくなるようにする。この場合、各時期における開度を所望する雰囲気ガスの吸引量に応じて設定してもよく、脱炭最盛期では吸引孔13を閉じて、脱炭末期では吸引孔13を空けるといった制御を行ってもよい。
【0050】
上述のように、脱炭最盛期は、溶鉄5の酸化反応として脱炭反応が主として起き、脱炭速度が酸素供給律速となる時期である。また、脱炭最盛期における適した操業条件としては、酸素流量をなるべく増加させながらも、浴面動圧が上昇しないようにすることが好ましい。このため、精錬用ランス1の運用としては、吸引孔13の開度を小さくするか閉じることで、上吹きガス3に含まれる酸素ガス(つまり、主流ガス)の割合を多くしながら、上吹きガス3としての流量を少なくすることができる。これにより、脱炭最盛期において高い脱炭速度を維持しながらも、ダストやスプラッシュの発生量を低減することができる。
【0051】
一方、脱炭末期は、脱炭速度が撹拌律速となる時期である。また、脱炭末期においては、酸素ガスの流量を小さくしながらも、上吹きガスとしての流量は大きくして、溶鉄5の撹拌力を強化する必要がある。このため、精錬用ランス1の運用としては、吸引孔13の開度を大きくするか開けることで、上吹きガス3に含まれる雰囲気ガスの割合を多くすることができる。雰囲気ガスの割合が多くなることで、上吹きガス3に含まれる酸素ガスの流量を変えずに、上吹きガス3の流量を多くすることができる。これにより、脱炭末期において、高い脱炭速度を維持しながらも、酸化鉄の生成を抑えることができる。
【0052】
また、脱炭最盛期や脱炭末期において、吸引孔13の開度の調整に加えて、精錬用ランス1のランス高さを調整することで、上吹きガス3の浴面の動圧が調整されてもよい。
【0053】
なお、脱炭初期は、脱Si反応や脱Mn反応が優先的に進む期間であり、脱炭が進んで溶鉄温度が上昇する前の期間のため、脱炭反応速度も遅くなる。脱炭初期の酸素の供給条件は特に限定されないが、溶鉄の初期の成分組成などに応じて、脱Si反応や脱Mn反応の反応速度及びスプラッシュの発生量を考慮して設定されてもよい。例えば、脱炭初期の酸素の供給条件は、脱Si反応や脱Mn反応の反応速度が速くなるように設定されてもよい。
【0054】
本実施形態に係る精錬用ランス1や溶鉄の精錬方法によれば、特許文献1のように精錬用ランスを交換する必要や、特許文献2のように主流ガスと異なる制御用ガスを供給及び制御する設備の設ける必要がないため、より簡易な方法で、精錬処理中に酸素の供給条件を変更することができる。
【0055】
<変形例>
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
【0056】
例えば、上記実施形態では、雰囲気ガス供給経路12及び吸引孔13が複数の主流分岐経路110にそれぞれ個別に設けられるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、主流分岐経路110の数よりも少ない数の吸引孔13が設けられ、この少なくとも一つの吸引孔13から雰囲気ガス供給経路12を通じて主流分岐経路110に雰囲気ガスが供給される構成でもよい。また、雰囲気ガス供給経路12は、少なくとも一つの吸引孔13から吸引された雰囲気ガスを複数の主流分岐経路110に供給するものであればよく、雰囲気ガス供給経路12の形状や個数は上記実施形態に限定されるものではない。精錬用ランス1の金属肉の部分はスペースが限られているため、例えば、上記実施形態における複数の雰囲気ガス供給経路12が接続されても構わない。この場合、別々の吸引孔13から吸引された雰囲気ガス同士が主流ガスと合流する前に混合される。
【0057】
また、上記実施形態では、接続部111は、主流分岐経路110の周方向全周に形成されるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、接続部111は、主流分岐経路110の周方向に所定間隔離間して形成される複数の接続口であってもよい。なお、主流ガスと雰囲気ガスとを合流させる際には、主流ガスの周囲から均等に雰囲気ガスを供給して合流させることで、噴流の偏向や流速差の発生を避けることができる。このため、接続部111は、上記実施形態のように、主流分岐経路110の周方向全周に円形に形成されることが好ましい。
【0058】
さらに、上記実施形態では、精錬用ランス1が複数の噴射孔10を有するものとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、精錬用ランス1は、噴射孔10が一つの単孔ノズルのランスであってもよい。この場合、主流供給経路11の出側のノズルに対して、雰囲気ガス供給経路12や吸引孔13が設けられる。さらに、精錬用ランス1は、主流ガスとして酸素ガスとともに他のガスを用いる構成であってもよく、また、噴射孔10から粉状の副原料等を上吹きガス3と共に噴射する構成であってもよい。
【0059】
さらに、上記実施形態では、溶鉄5の酸化精錬処理として、脱炭処理が行われるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、溶鉄5の酸化精錬処理として、脱りん処理が行われてもよい。脱りん処理では、撹拌力を大きくしながらも、スラグ中のT.Feの濃度が所定値以下となるように制御する手法が取られる。これに対して、上記実施形態に係る精錬用ランス1によれば、開度と主流ガスの流量とを調整することで、噴射ガスの流量を大きくとりながらも、噴射ガスに含まれる酸素ガスの割合を調整することができる。このため、脱りん処理中のスラグのT.Feの濃度を必要以上に増加させることなく、撹拌力を大きくすることができる。
【0060】
さらに、上記実施形態では、開度調整機構14として、吸引孔13に取り付けられ、吸引孔13の開度を機械的に調整する仕切り板を用いるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。開度調整機構14は、吸引孔13から主流ガスとの合流地点に至るまでの流路のどの地点に設定されても構わない。また、開度を調整する機構としては、仕切り板以外の機構が用いられてもよい。
【0061】
さらに、上記実施形態では、精錬用ランス1が、転炉2に用いられるものとしたが、本発明はかかる例に限定されない。精錬用ランス1は、精錬プロセスに用いられる上吹きランスであれば、転炉2以外の設備に用いられてもよい。例えば、精錬用ランス1は、電気炉や、RH真空脱ガス設備等で用いられる上吹きランスであってもよい。
【実施例
【0062】
本発明者らが実施した実施例について説明する。実施例では、上記実施形態に係る精錬用ランス1の効果を数値計算により検証した。具体的には、図2図4に示す精錬用ランス1である、転炉2で用いられる多孔ランスの各ノズル孔(主流分岐経路110)の周囲に雰囲気ガスを吸引する流路(雰囲気ガス供給経路12及び吸引孔13)を設けた解析モデルを作成した。雰囲気ガスの吸引の有無は、開度調整機構14である仕切りの開閉によって制御され、仕切りが開いているときはエジェクタ効果が有効、閉じているときは無効となる。ノズル形状はラバール形状であり、ラバール入り口径を55mm、ラバール出口径Dを70mm、ノズル出口径Dを100mmとした。噴射孔10の孔数は4孔とした。主流ガスには酸素ガスを用い、主流ガスの流量を20000Nm/Hr~40000Nm/Hr、主流ガスの流動方向と雰囲気ガスの流動方向とのなす角度θを0°とした。そして、エジェクタ効果のオンオフを切り替えた前後における溶鉄(溶鋼)浴面の流速(湯面流速)を比較した。
【0063】
表1に、溶鋼浴面位置(噴射孔10から2m離れた位置)での流速比較結果を示す。エジェクタ効果無しの場合に比べて、エジェクタ効果ありの場合は湯面流速が約10%向上していることが確認できた。
【0064】
【表1】
【0065】
次に、主流ガスの流量を40000Nm/Hrに固定した上で、開度調整機構14を用いて吸引孔13の開度を調節して湯面流速の変化を調べた結果を表2に示す。なお、吸引孔13の開度は、全開の状態を1とし、全閉の状態を0とした。また、表2には、開度が全開となる比較用の結果として、表1の水準番号6の結果も合わせて示す。表2に示すように、開度が1~0.5の条件では溶鋼の浴面流速はほぼ同等であった。しかし、開度を0.3、0.1と小さくすると、湯面流速は減少した。このことから、開度がある程度大きければ流速に変化がないような非線形的な挙動を示すことが確認できた。なお、この結果は本実施例のランス形状の傾向であり、異なる形状のランスでは異なる結果になると考えられる。
【0066】
【表2】
【0067】
次に、主流ガスの流量を40000Nm/Hrに、吸引孔13の開度を1に固定した上で、主流ガスと雰囲気ガスとの合流地点における雰囲気ガスの流動方向(主流ガスと雰囲気ガスとの流動方向のなす角度θ)を変更した場合の影響を調べた結果を表3に示す。なす角度θが0°以上20°以下では湯面流速の変化は小さいくなり、なす角度θが30°以上では流速が大幅に低下するという結果となった。
【0068】
【表3】
【符号の説明】
【0069】
1 精錬用ランス
10 噴射孔
11 主流供給経路
110 主流分岐経路
111 接続部
12 雰囲気ガス供給経路
13 吸引孔
14 開度調整機構
2 転炉
3 上吹きガス
4 スラグ
5 溶鉄
図1
図2
図3
図4
図5